しかし、特許文献1の電子放出素子では、微粒子を絶縁体コーティング液中に分散させ、電極基板上に塗布した後に焼成することで絶縁体膜を形成するため、焼成のための設備や時間コスト等が必要となる。また、絶縁体膜に分散される微粒子は平均粒径1000×10−10m以下のものを用いている。微粒子は、これを形成する材料によって融点は異なるが、粒子径が小さくなるほど溶融が早い。そのため、特許文献1の電子放出素子では、上記焼成工程において絶縁体膜が形成されるよりも早く微粒子が溶融し、凝集や偏析を起こして、想定されているような効果が望めない場合がある。
また、特許文献1の電子放出素子では、導電微粒子を分散させた絶縁体コーティング液を塗布するが、この塗布を、回転塗布やディッピング法にて行うと、電子放出部の場所や量を制御することや、薄膜を形成することは難しい。
そのため、焼成工程を無くし、電子放出素子中において微粒子を少量かつ均一に存在させる必要がある。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、簡易かつ低コストで、導電微粒子を少量かつ所望の領域に均一に存在させることができ、安定かつ良好な電子放出できる電子放出素子を製造する方法、および電子放出素子等を提供することである。
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記課題を解決するために、電極基板と、薄膜電極と、該電極基板および該薄膜電極に挟持され導電微粒子と絶縁体微粒子とを含む電子加速層と、を有し、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧が印加されると、上記電子加速層で電子を加速させて、上記薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子の製造方法であって、上記電子加速層の形成工程は、上記電極基板上に、上記絶縁体微粒子が分散溶媒に分散された絶縁体微粒子分散液を塗布して絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成する微粒子層形成工程と、上記微粒子層に、上記導電微粒子が分散溶媒に分散された導電微粒子分散液を、インクジェット法を用いて塗布する導電微粒子塗布工程とを含むことを特徴としている。
ここで、電子放出素子の電子放出量は、電子加速層中の導電微粒子の量に比例して電子放出量が増加するのではなく、電子加速層内が弾道電子となって電子が放出されるだけの半導電性になればよいのである。そのため、電子加速層中に必要な導電微粒子の量は少量である。一方、均一な性能の素子を得るためには、導電微粒子が導入される領域である電子放出部が偏在してはならない。そのため、素子製造には、微粒子ごとに分散性のよい分散媒を選択し、絶縁体微粒子を含む微粒子層上に少量の導電微粒子分散液を均一に塗布して、微粒子層の上部または内部、もしくは上部および内部の、導電微粒子が導入された領域において、導電微粒子を均一に存在させることが要求される。また、電子加速部のパターニングを行うには、微粒子層上における導電微粒子の有無を制御する必要がある。
上記方法によると、電子加速層の形成工程は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成し、この微粒子層上に導電微粒子分散液をインクジェット法を用いて塗布する。この方法により、微粒子層の上部または内部、もしくは上部および内部の、導電微粒子が導入された領域において、導電微粒子を少量かつ所望の領域に均一に存在させることができる。そのため、電子放出部が均一に存在し、安定かつ良好な電子放出ができる電子放出素子を製造することができる。
さらに、上記方法によると、絶縁体微粒子分散溶液と導電微粒子分散溶液とをそれぞれ用意し、別々に電極基板上に塗布するため、絶縁体微粒子分散溶液と導電微粒子分散溶液の混合時に凝集体が発生するといった不具合を防ぐことができる。
よって、電極基板上に絶縁体微粒子分散液を塗布して絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成した後に、導電微粒子分散液を塗布することで、微粒子の凝集体が少なく、導電性が制御された電子加速層を形成できる。かつ、微粒子の分散液を塗布するという簡易な製造プロセスにより、簡易かつ低コストで電子放出素子を得ることができる。
このように、本発明の方法によると、微粒子の凝集体が発生することを回避でき、均一に分散した絶縁体微粒子を含む微粒子層の上部または内部、もしくは上部および内部の、導電微粒子が導入された領域に、電子放出部が均一に存在した電子加速層を、簡易かつ低コストで形成でき、安定かつ良好な電子放出量を得ることができる電子放出素子を製造できる。また、微粒子層に導電微粒子を塗布する際、上記方法によると、インクジェット法を用いるので、導電微粒子の吐出量および吐出箇所を制御することができる。導電微粒子の吐出箇所を制御すると、少量の材料で、安定かつ良好な電子放出量をもつ電子放出部を電子加速層中に自在にパターニングすることができる。
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記絶縁体微粒子分散液と上記導電微粒子分散液とは、それぞれ異なる分散溶媒を含んでもよい。
ここで、絶縁体微粒子と導電微粒子とにおいて、それぞれ分散させやすい分散溶媒が異なる場合、次のような問題が発生する。絶縁体微粒子分散液と導電微粒子分散液とが異なる分散溶媒を含む場合には、両微粒子混合時に凝集体の発生が起こり易くなる。そこで、この両微粒子混合時の凝集体の発生を防ぐために、絶縁体微粒子と導電微粒子とでどちらか一方の分散性のよい分散溶媒に揃えると、他方の微粒子では分散性が低下し凝集体が発生する。よって、結局凝集体の発生の解決にはならない。
しかし、本発明に係る上記方法によると、絶縁体微粒子と導電微粒子とで分散させやすい分散溶媒とが異なっても、両者を混合せずに、絶縁体微粒子分散液を塗布して絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成した後に、導電微粒子分散液を塗布することにより、両微粒子の分散性を保ったまま電子加速層を形成できる。つまり、絶縁体微粒子と導電微粒子とで分散性の高い分散溶媒が異なっても、絶縁体微粒子の凝集体、導電微粒子の凝集体、および絶縁体微粒子と導電微粒子の凝集体を含まない均一な電子加速層を形成することができる。
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記絶縁体微粒子分散液は、バインダー成分が含有されていてもよい。
バインダー成分および絶縁体微粒子が含まれる微粒子層では絶縁体微粒子の分散状態が保持されているため、インクジェット法を用いて導電微粒子分散液を塗布しても、微粒子層中の絶縁体微粒子の分散状態が変化することはない。したがって、より一層、電子放出部を均一に制御した電子加速層を形成でき、安定かつ良好な電子放出が可能な電子放出素子を製造することができる。さらに、バインダー成分は電極基板との接着性が高く、素子の機械的強度を高めることができる。
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記導電微粒子分散液は、上記導電微粒子のナノコロイド液であってもよい。
上記方法によると、絶縁体微粒子を含む微粒子層に導電微粒子のナノコロイド液を塗布する。ここで、ナノコロイド液を液体の状態で使用しているため、導電微粒子が凝集することなく均一に分散した分散液を塗布することができる。よって、微粒子層上に、導電微粒子をより一層均一に存在させた電子加速層を形成して、安定かつ良好な電子放出が可能な電子放出素子を製造することができる。
本発明に係る電子放出素子は、上記課題を解決するために、上記いずれか1つの電子放出素子の製造方法によって製造されることを特徴としている。
本発明に係る方法で製造された電子放出素子では、電極基板と薄膜電極との間の電子加速層は、絶縁体微粒子と導電微粒子とを含む層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。この電子放出素子は、簡易かつ低コストで、導電微粒子を少量かつ均一に存在させて製造することができ、安定かつ良好な電子放出をすることができる。また、導電微粒子分散液をインクジェット法にて塗布することで、導電微粒子の配置(吐出箇所)を制御することができ、よって、電子放出部をパターニングすることができる。そのため、フラットパネルディスプレイ等の画像表示装置の応用に適している。
本発明に係る電子放出素子は、電極基板と薄膜電極と該電極基板および該薄膜電極に挟持された電子加速層とを有し、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧が印加されると、上記電子加速層で電子を加速させて、上記薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子であって、上記電子加速層は、絶縁体微粒子を含む微粒子層で構成され、かつ、少なくとも該微粒子層の表面には導電微粒子が離散配置されていることを特徴としている。
上記電子放出素子は、電子加速層が、絶縁体微粒子を含む微粒子層で構成され、かつ、少なくとも該微粒子層の表面には導電微粒子が離散配置されているいため、電子放出部の位置制御が可能となり、電子加速層の上に形成される薄膜電極の構成材料が放出される電子により消失する現象を防ぐことができる。また、単位面積当たりの電子放出量なども制御できるようになる。
また、本発明の電子放出素子では、上記微粒子層は、バインダー成分を含んでいることが好ましい。
ここで、少なくとも微粒子層の表面に導電微粒子が離散的に配置されている素子は、微粒子層を形成した後に、インクジェット法などを用いて導電微粒子分散液を塗布して作製する。しかしながら、バインダー成分が含まれる微粒子層では絶縁体微粒子の分散状態が保持されているため、後から導電微粒子分散液を塗布しても、微粒子層中の絶縁体微粒子の分散状態が変化することはない。したがって、電子放出位置の制御性が向上したされた電子加速層を形成でき、安定かつ良好な電子放出が可能な電子放出素子とすることができる。
また、本発明の電子放出素子では、上記導電微粒子の平均粒径は、3〜10nmであるのが好ましい。
導電微粒子の平均粒径を3〜10nmとすることにより、電子加速層内で、導電微粒子による導電パスが形成されず、電子加速層内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
また、本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記絶縁体微粒子の平均粒径は、上記導電微粒子の平均粒径よりも大きく、10〜500nmであるのが好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであってもよく、例えば平均粒径50nmの微粒子が、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。絶縁体微粒子の平均粒径が導電微粒子の平均粒径よりも大きいことで、絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さい導電微粒子の内部から外部へと効率よく熱を伝導させて、素子内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、電子加速層における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
ここで、導電微粒子の絶縁体微粒子を含む微粒子層中への浸透度合いは、絶縁体微粒子の種類および/または平均粒径、導電微粒子の種類および/または平均粒径、絶縁体微粒子および導電微粒子の組合せなどに依存する。すなわち、絶縁体微粒子の平均粒径が小さいと、塗布した導電微粒子の大部分が、絶縁体微粒子の層内部に浸透せず、上部に堆積する。他方、絶縁体微粒子の平均粒径が大きいと、微粒子層の粒子間の隙間が大きくなりすぎ、微粒子層内に留まる導電微粒子が少なくなる。よって、平均粒径3〜10nmの導電微粒子を用いる場合に導電微粒子の微粒子層中への浸透度合いを制御するためには、絶縁体微粒子の平均粒径は、10〜500nmであるのが好ましい。
なお、電子加速層にバインダー成分が含まれる場合には、絶縁体微粒子の平均粒径が200nmよりも大きいと、塗布した平均粒径3〜10nmの導電微粒子の大部分が、絶縁体微粒子を含むバインダー成分の層の上部に留まらない。よって、電子加速層にバインダー成分が含まれる場合、平均粒径3〜10nmの導電微粒子を用いる場合、絶縁体微粒子の平均粒径は、10〜200nmであるのが好ましい。
また、本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、抗酸化力が高い導電体であってもよい。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の平均粒径よりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。
上記構成によると、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、電子放出素子を大気圧中でもより安定して動作させることができる。よって、寿命を長くでき、大気中でも長時間連続動作をさせることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、貴金属であってもよい。このように、上記導電微粒子が、貴金属であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を図ることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記導電微粒子を成す導電体が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記絶縁体微粒子は、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいてもよい。または有機ポリマーを含んでいてもよい。上記絶縁体微粒子が、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いことにより、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。特に、絶縁体微粒子として酸化物(SiO2、Al2O3、及びTiO2の)を用い、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いる場合には、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化をより一層発生し難くなるため、大気圧中でも安定して動作させる効果をより顕著に発現させることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記電子加速層における上記導電微粒子の割合が、重量比で0.5〜30%が好ましい。0.5%より少ない場合は導電微粒子として素子内電流を増加させる効果を発揮せず、30%より多い場合は導電微粒子の凝集が発生する。中でも、1〜10%であるのがより好ましい。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記電子加速層の層厚は、12〜6000nmであるのが好ましく、300〜6000nmであるのがより好ましい。上記電子加速層の層厚を、好ましくは12〜6000nm、より好ましくは300〜6000nmとすることにより、電子加速層の層厚を均一化すること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となる。この結果、電子放出素子表面の全面から一様に電子を放出させることが可能となり、かつ素子外へ効率よく電子を放出させることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子の周囲に、該導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在してもよい。このように、上記導電微粒子の周囲に、該導電微粒子の大きさよりも小さい小絶縁体物質が存在することは、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献する他、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記小絶縁体物質は、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記小絶縁体物質が、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいることで、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体微粒子の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
ここで、本発明の電子放出素子では、上記小絶縁体物質は、上記導電微粒子表面に付着して付着物質として存在するものであり、該付着物質は、上記導電微粒子の平均粒径よりも小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していてもよい。このように、上記小絶縁体物質が、上記導電微粒子表面に付着あるいは、上記導電微粒子の平均粒径よりも小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していることで、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体微粒子の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、電子放出素子の長寿命化をさらに効果的に図ることができる。
本発明の電子放出装置は、上記いずれか1つの電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
上記構成によると、簡易かつ低コストで製造でき、安定かつ良好な電子放出することができる。
また、本発明の電子放出装置を、帯電装置、及びこの帯電装置を備えた画像形成装置に用いることにより、高効率で電子放出できるので、高効率で帯電することができる。さらに、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、長期間安定して、被帯電体を帯電させることができる。
また、本発明の電子放出装置を、電子線硬化装置に用いることにより、安定かつ良好に電子放出できるので、高安定かつ良好に電子線を照射することができる。また、面積的に電子線硬化でき、マスクレス化が図れ、低価格化・高スループット化を実現することができる。
さらに、本発明の電子放出装置を自発光デバイス、及びこの自発光デバイスを備えた画像表示装置に用いることにより、安定かつ良好に電子放出できるので、高効率で発光させることができる。また、安定で良好な面発光を実現する自発光デバイスを提供することができる。
また、本発明の電子放出装置を、送風装置あるいは冷却装置に用いることにより、安定かつ良好に電子放出できるので、安定かつ良好に冷却することができる。また、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質の発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより効率よく冷却することができる。
本発明の電子放出素子の製造方法では、上記のように、上記電子加速層の形成工程は、上記電極基板上に、上記絶縁体微粒子が分散溶媒に分散された絶縁体微粒子分散液を塗布して絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成する微粒子層形成工程と、上記微粒子層に、上記導電微粒子が分散溶媒に分散された導電微粒子分散液を、インクジェット法を用いて塗布する導電微粒子塗布工程とを含む。
上記方法によると、電子加速層の形成工程は、絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成し、この微粒子層上に導電微粒子分散液をインクジェット法を用いて塗布する。この方法により、微粒子層の上部または内部、もしくは上部および内部の、導電微粒子が導入された領域において、導電微粒子を少量かつ所望の領域に均一に存在させることができる。そのため、電子放出部が均一に存在し、安定かつ良好な電子放出ができる電子放出素子を製造することができる。
さらに、上記方法によると、絶縁体微粒子分散溶液と導電微粒子分散溶液とをそれぞれ用意し、別々に電極基板上に塗布するため、絶縁体微粒子分散溶液と導電微粒子分散溶液の混合時に凝集体が発生するといった不具合を防ぐことができる。
よって、電極基板上に絶縁体微粒子分散液を塗布して絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成した後に、導電微粒子分散液を塗布することで、微粒子の凝集体が少なく、導電性が制御された電子加速層を形成できる。かつ、微粒子の分散液を塗布するという簡易な製造プロセスにより、簡易かつ低コストで電子放出素子を得ることができる。
このように、本発明の方法によると、微粒子の凝集体が発生することを回避でき、均一に分散した絶縁体微粒子を含む微粒子層の上部または内部、もしくは上部および内部の、導電微粒子が導入された領域に、電子放出部が均一に存在した電子加速層を、簡易かつ低コストで形成でき、安定かつ良好な電子放出量を得ることができる電子放出素子を製造できる。また、微粒子層に導電微粒子を塗布する際、上記方法によると、インクジェット法を用いるので、導電微粒子の吐出量および吐出箇所を制御することができる。導電微粒子の吐出箇所を制御すると、少量の材料で、安定かつ良好な電子放出量をもつ電子放出部を電子加速層中に自在にパターニングすることができる。
以下、本発明の電子放出素子およびその製造方法の実施形態および実施例について、図1〜10を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施の形態および実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の製造方法によって製造される本発明の電子放出素子の一実施形態の構成を示す模式図である。図示すように、本実施形態の電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極3と、その間に挟まれて存在する電子加速層4とからなる。また、電極基板2と薄膜電極3とは電源7に繋がっており、互いに対向して配置された電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加できるようになっている。電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加することで、電極基板2と薄膜電極3との間、つまり、電子加速層4に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、薄膜電極3を透過および/あるいは薄膜電極3の隙間から放出させる。なお、電子放出素子1と電源7とから電子放出装置10が成る。
下部電極となる電極基板2は、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板、ガラス基板のような絶縁体基板、プラスティック基板等が挙げられる。例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子加速層4との界面に金属などの導電性物質を電極として付着させることによって、下部電極となる電極基板2として用いることができる。上記導電性物質としては、導電性に優れた材料を、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、その構成材料は特に問わない。ただし、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよいが、これら材料および数値に限定されることはない。
薄膜電極3は、電子加速層4内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また薄膜電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜100nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は100nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、薄膜電極3で弾道電子の吸収あるいは反射による電子加速層4への再捕獲が生じてしまう。
電子加速層4は、図1に示すように、導電微粒子6と絶縁体微粒子5とが分散されている。さらに、電子加速層4にバインダー成分15が含まれていてもよい。
また、電子加速層4は、絶縁体微粒子5を含む微粒子層で構成され、かつ、少なくとも該微粒子層の表面には導電微粒子6が離散配置されていてもよい。ここで、微粒子層は、絶縁体微粒子5の他に導電微粒子6を含んでいてもよい。微粒子層に導電微粒子6が含まれると、導電微粒子6によって絶縁体微粒子5の表面の電気伝導を変えることができるため、素子の導電性制御が容易になる。
絶縁体微粒子5は、その材料は絶縁性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層4を構成する微粒子全体における絶縁体微粒子5の重量割合は80〜95%であるのが好ましい。絶縁体微粒子5の材料はSiO2、Al2O3、TiO2といったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒子径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、電子加速層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体微粒子5の材料には、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよく、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、または日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。ここで、絶縁体微粒子5は、2種類以上の異なる粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、あるいは、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。
また絶縁体微粒子5の平均粒径は、導電微粒子6に対して優位な放熱効果を得るため、導電微粒子6の平均粒径よりも大きいことが好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであってもよく、例えば平均粒径50nmの微粒子が、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。絶縁体微粒子5が導電微粒子6の平均粒径よりも大きいと、絶縁体微粒子5の平均粒径よりも小さい導電微粒子6の内部から外部へと効率よく熱を伝導させて、素子内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、電子加速層4における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
さらに、電子加速層4を、後述のように絶縁体微粒子5を含む微粒子層上に導電微粒子6をインクジェット法を用いて塗布して作成する場合、導電微粒子6の微粒子層への浸透度合いは、絶縁体微粒子5の種類および/または平均粒径、導電微粒子6の種類および/または平均粒径、絶縁体微粒子5および導電微粒子6の組合せなどに依存する。すなわち、絶縁体微粒子5の平均粒径が小さいと、塗布した導電微粒子6の大部分が、微粒子層内部に浸透せず、上部に堆積する。他方、絶縁体微粒子5の平均粒径が大きいと、微粒子層の粒子間の隙間が大きくなりすぎ、微粒子層内に留まる導電微粒子6が少なくなる。よって、平均粒径3〜10nmの導電微粒子6を用いる場合に導電微粒子の微粒子層中への浸透度合いを制御するためには、絶縁体微粒子5の平均粒径は、10〜500nmであるのが好ましい。
また、後述のように、電子加速層4にバインダー成分が含まれる場合、絶縁体微粒子5の平均粒径が200nmよりも大きいと、塗布した平均粒径3〜10nmの導電微粒子の大部分が、絶縁体微粒子5を含むバインダー成分の層の上部に留まらない。よって、電子加速層4にバインダー成分が含まれ、平均粒径3〜10nmの導電微粒子6を用いる場合、絶縁体微粒子5の平均粒径は、10〜200nmであるのが好ましい。
導電微粒子6の材料としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような導電体でも用いることができる。ただし、抗酸化力が高い導電体であると、大気圧動作させた時の酸化劣化を避けることができる。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。抗酸化力が高い導電微粒子であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を図ることができる。
抗酸化力が高い導電微粒子としては、貴金属、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような導電微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。弾道電子の生成の原理については後段で記載する。
ここで、導電微粒子6の平均粒径は、3〜10nmであるのがより好ましい。このように、導電微粒子6の平均粒径を、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層4内で、導電微粒子6による導電パスが形成されず、電子加速層4内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子6を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
また、電子加速層4全体における導電微粒子6の割合は、0.5〜30重量%が好ましい。0.5重量%より少ない場合は導電微粒子として素子内電流を増加させる効果を発揮せず、30重量%より多い場合は導電微粒子の凝集が発生する。中でも、1〜10重量%であることがより好ましい。
なお、導電微粒子6の周囲には、導電微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよく、この小絶縁体物質は、導電微粒子6の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、導電微粒子6の平均粒径より小さい形状の集合体として、導電微粒子6の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。小絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、導電微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質が導電微粒子6を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を導電微粒子6の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
また、導電微粒子6は、後述の製造方法において導電微粒子の分散液を作成する際の分散性の向上のために、表面処理を施されているのが好ましく、その表面処理が上記の絶縁被膜物質を被膜することであってもよい。
また、電子加速層4は薄いほど強電界がかかるため低電圧印加で電子を加速させることができるが、層厚を均一化できること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となることなどから、電子加速層4の層厚は、12〜6000nmが好ましく、300〜6000nmがより好ましい。
また、電子加速層4がバインダー成を含んでいてもよい。この場合、絶縁体微粒子5および導電微粒子6は、バインダー成分に分散される。このようなバインダー成分として、例えば、電極基板2との接着性がよく、絶縁体微粒子5や導電微粒子6を分散でき、絶縁性を有するバインダー樹脂を用いればよい。このようなバインダー樹脂として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、などが挙げられる。これらのバインダー樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
バインダー成分が含まれる微粒子層では絶縁体微粒子5の分散状態が保持されているため、後述のようにインクジェット法を用いて導電微粒子分散液を塗布しても、微粒子層中の絶縁体微粒子5の分散状態が変化することはない。したがって、より一層、電子放出部を均一に制御した電子加速層4を形成でき、安定かつ良好な電子放出が可能な電子放出素子1を製造することができる。さらに、バインダー成分は電極基板との接着性が高く、素子の機械的強度を高めることができる。
ここで、電子加速層4が、絶縁体微粒子を含む微粒子層で構成され、かつ、少なくとも該微粒子層の表面には導電微粒子が離散配置されていると、その配置箇所が電子放出部となる。よって、電子放出素子1は、電子放出部がパターニングされた構造となる。そのため、電子放出部の位置制御が可能となり、電子加速層4の上に形成される薄膜電極3の構成材料が放出される電子により消失する現象を防ぐことができる。また、単位面積当たりの電子放出量なども制御できるようになる。
微粒子層の表面に導電微粒子が離散的に配置されている素子は、微粒子層を形成した後に、例えば、後述のように、インクジェット法を用いて導電微粒子分散液を塗布して作製する。その際、バインダー成分が含まれる微粒子層では絶縁体微粒子の分散状態が保持されているため、後から導電微粒子分散液を塗布しても、微粒子層中の絶縁体微粒子の分散状態が変化することはない。したがって、電子放出位置の制御性が向上したされた電子加速層を形成でき、安定かつ良好な電子放出が可能な電子放出素子とすることができる。
さらに、電子加速層4の内部にも導電微粒子が存在する場合、導電微粒子6は、微粒子層表面における導電微粒子の着地箇所の下方にのみ存在する、すなわち、電子加速層4の内部においても導電微粒子の離散状態が保持されることになる。
なお、導電微粒子を微粒子層の表面に離散配置させる際、微粒子層にバインダー成分が含まれると、導電微粒子の微粒子層中への浸透度合いを制御する一因子となるが、別の方法によって離散配置させてもよい。導電微粒子を微粒子層の表面に離散配置させるには、例えば、(1)径の小さい絶縁体微粒子を最密充填させた微粒子層の上から、絶縁体微粒子とあまり径の変わらない導電微粒子を塗布する、(2)比較的高粘度の絶縁体微粒子分散液を用いて微粒子層を形成し、その上から導電微粒子を塗布する、(3)導電微粒子分散液の乾燥速度を制御する、などの方法も考えられる。
次に、電子放出の原理について説明する。電子加速層4は、その大部分を絶縁体微粒子5を含む微粒子層で構成され、微粒子層の上部のみ、もしくは上部および内部に導電微粒子6が存在している。電子加速層4における絶縁体微粒子5および導電微粒子6の比率は、絶縁体微粒子5および導電微粒子6の総重量に対する絶縁体微粒子5の重量比率が80%に相当する状態であり、絶縁体微粒子5一粒子当たりに付着する導電微粒子6は六粒子程度となる。電子加速層4は絶縁体微粒子5と少数の導電微粒子6とを含む層であり、半導電性を有する。
また、電子加速層4にバインダー成分が含まれる場合には、その大部分を絶縁体微粒子5およびバインダー成分を含む微粒子層で構成され、微粒子層の上部のみ、もしくは上部および内部に導電微粒子6が存在している。電子加速層4は絶縁体微粒子5およびバインダー成分を含む微粒子層と少数の導電微粒子6とを含み、半導電性を有する。
よって電子加速層4へ電圧を印加すると、極弱い電流が流れる。電子加速層4の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層4内の強電界により弾道電子となり、薄膜電極3を透過および/あるいはその隙間を通過して電子放出素子1の外部へ放出される。弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと考えられるが、断定できていない。
また、電子加速層4において、導電微粒子6の全部が絶縁体微粒子で構成される微粒子層の表面に離散的に配置している場合、電子放出素子の電子放出メカニズムは、明確になっていなが、次のようなメカニズムでないかと考える。電極基板2と薄膜電極3との間に電圧が印加されると、電極基板2から絶縁体微粒子5の表面に電子が移る。絶縁体微粒子5の内部は高抵抗であることから電子は絶縁体微粒子5の表面を伝導していく。このとき、絶縁体微粒子5の表面の不純物や表面処理剤、あるいは絶縁体微粒子5間の接点において、電子がトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。その結果、電子加速層4の表面では印加電圧とトラップされた電子の作る電界が合わさって高電界となり、その高電界によって電子が加速され、離散的に配置された導電微粒子(電子放出部)を通って、薄膜電極3から該電子が放出される。
次に、本発明に係る電子放出素子1の製造方法について説明する。
まず、絶縁体微粒子5を分散溶媒に分散させた絶縁体微粒子分散液を得る。例えば、絶縁体微粒子5を分散溶媒に分散させることで得ることができる。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で超音波分散器にかけて分散すればよい。ここで用いられる分散溶媒としては、絶縁体微粒子5を分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができる。例えば、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、メタノール、エタノール等が挙げられる。ここで、絶縁体微粒子5の種類によっても分散に適している分散溶媒が異なり、例えば、絶縁体微粒子5がSiO2である場合、メタノールやエタノールが好ましい。また、分散溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
また、電子加速層4にバインダー成分を含む場合には、絶縁体微粒子5とバインダー成分と分散溶媒中に分散させた絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液を得る。ここで用いられる分散溶媒としては、絶縁体微粒子5とバインダー成分とを分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノールなどが挙げられる。これらの分散溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で超音波分散器にかけることで分散させることができる。絶縁体微粒子の含有率は、1〜50重量%が好ましい。1重量%より少ない場合は絶縁体として電子加速層4の抵抗を調整するという効果を発揮せず、50重量%より多い場合は絶縁体微粒子5の凝集が発生する。中でも、1〜20重量%であることがより好ましい。
次に、導電微粒子6を分散溶媒に分散させた導電微粒子分散液を得る。例えば、導電微粒子6を分散溶媒に分散させてもよいし、市販品を使用してもよい。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で超音波分散器を用いて分散すればよい。この分散溶媒としては、導電微粒子6を分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができる。ここで、分散性の向上のために、導電微粒子6が表面処理を施されている場合、その表面処理方法によって、分散に適した分散溶媒を用いるのがよい。例えば、表面をアルコラート処理された導電微粒子6には、トルエンもしくヘキサンが好ましい。
また、導電微粒子分散液は、導電微粒子6のナノコロイド液を液体の状態で用いてもよい。導電微粒子6のナノコロイド液を液体の状態で使用すると、導電微粒子6が凝集することなく均一に分散した分散液を塗布することができる。よって、微粒子層上に、導電微粒子6をより一層均一に存在させた電子加速層4を形成して、安定かつ良好な電子放出が可能な電子放出素子1を製造することができる。なお、導電微粒子6はコロイド状態での平均粒径が0.35μm以下となっているのが好ましい。コロイド状態での平均粒径が0.35μm以下の導電微粒子を用いることで、後述の実施例に記載のように電子加速層4での分散性を高めることができる。導電微粒子6のナノコロイド液の例としては、ハリマ化成株式会社が製造販売する金ナノ粒子コロイド液、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子、株式会社徳力化学研究所が製造販売する白金ナノ粒子コロイド液及びパラジウムナノ粒子コロイド液、株式会社イオックスの製造販売するニッケルナノ粒子ペーストなどが挙げられる。また、導電微粒子6のナノコロイド液の溶媒には、絶縁体微粒子5をコロイド分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。
そして、上記のように作成した絶縁体微粒子分散液または絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液を電極基板2上に塗布し、絶縁体微粒子5の層(微粒子層)を得る(微粒子層形成工程)。この塗布は例えば、スピンコート法を用いて行えばよい。微粒子層の形成にスピンコート法を用いる際の条件は特に限定されるものではないが、回転数は1000rpm以上10000rpm未満が好ましく、3000rpm以上8500rpm未満が特に好ましい。この条件で形成した、微粒子層の膜厚は適正で、電子加速層の層厚を均一化すること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となる。この結果、電子放出素子表面の全面から一様に電子を放出させることが可能となり、かつ素子外へ効率よく電子を放出させることができる。
続けて、微粒子層上に上記のように作成した導電微粒子分散液を塗布する(導電微粒子塗布工程)。ここで、微粒子層が常温で乾燥し、経時変化を起こさなければ、続けて導電微粒子分散液の塗布を行って構わない。
導電微粒子分散液の塗布は、インクジェット法を用いて行う。導電微粒子分散液の塗布にインクジェット法を用いる際の条件は特に限定されるものではないが、吐出体積0.1fL以上100pL未満が好ましく、1.0pL以上10pL未満が特に好ましい。ここで、導電微粒子の微粒子層中への浸透度合いは、絶縁体微粒子の種類および/または平均粒径、導電微粒子の種類および/または平均粒径、絶縁体微粒子および導電微粒子の組合せなどに加えて、導電微粒子分散液の吐出体積にも依存する。すなわち、吐出体積が少なすぎると、液滴が小さく、微粒子層に導電微粒子の染み込む量が少ないために、塗布した導電微粒子の大部分が、絶縁体微粒子5を含む微粒子層内部に浸透せず、上部に堆積する。反対に、微粒子層上に残存する導電微粒子が過度に多くなり、電子加速層と薄膜電極の間に金属層が形成され、加速した電子の散乱が起こり、電子放出量が減少する。また、絶縁体微粒子含有バインダー成分層に導電微粒子の染み込む量が多いために、導電パスが形成され易くなり、素子内に低電圧で大電流が流れ、電子放出量が減少する。
以上のように、絶縁体微粒子分散液と導電微粒子分散液とをそれぞれ作製し、絶縁体微粒子5を含む微粒子層上に、導電微粒子6の分散液をインクジェット法を用いて塗布することで電子加速層4を形成する。
以上により、電子加速層4が形成される。電子加速層4の形成後、電子加速層4上に薄膜電極3を成膜する。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。また、薄膜電極3は、例えば、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等を用いて成膜してもよい。
ここで、電子放出素子1の電子放出量は、電子加速層4中の導電微粒子6の量に比例して電子放出量が増加するのではなく、電子加速層4内が弾道電子となって電子が放出されるだけの半導電性になればよいのである。そのため、電子加速層4中に必要な導電微粒子の量は少量である。一方、均一な性能の素子を得るためには、導電微粒子が導入される領域である電子放出部が偏在してはならない。そのため、素子製造には、微粒子ごとに分散性のよい分散媒を選択し、絶縁体微粒子を含む微粒子層上に少量の導電微粒子分散液を均一に塗布して、微粒子層の上部または内部、もしくは上部および内部の、導電微粒子が導入された領域において、導電微粒子を均一に存在させることが要求される。また、電子加速部のパターニングを行うには、微粒子層上における導電微粒子の有無を制御する必要がある。
上記製造方法では、電子加速層4の形成工程は、絶縁体微粒子5を含む微粒子層を形成し、この微粒子層上に導電微粒子分散液をインクジェット法を用いて塗布する。この方法により、微粒子層の上部または内部、もしくは上部および内部の、導電微粒子が導入された領域において、導電微粒子6を少量かつ所望の領域に均一に存在させることができる。そのため、電子放出部が均一に存在し、安定かつ良好な電子放出ができる電子放出素子1を製造することができる。
さらに、上記製造方法によると、絶縁体微粒子分散溶液と導電微粒子分散溶液とをそれぞれ用意し、別々に電極基板上に塗布するため、絶縁体微粒子分散溶液と導電微粒子分散溶液の混合時の凝集体の発生や、絶縁体微粒子分散液に導電微粒子を加えた際に凝集体が発生するといった不具合を防ぐことができる。
よって、電極基板2上に絶縁体微粒子分散液を塗布して微粒子層を形成した後に、導電微粒子分散液を塗布することで、微粒子の凝集体が少なく、導電性が制御された電子加速層を形成できる。かつ、微粒子の分散液を塗布するという簡易な製造プロセスにより、簡易かつ低コストで電子放出素子1を得ることができる。
このように、本発明の方法によると、微粒子の凝集体が発生することを回避でき、均一に分散した絶縁体微粒子5を含む微粒子層の上部または内部、もしくは上部および内部の、導電微粒子6が導入された領域に、電子放出部が均一に存在した電子加速層を、簡易かつ低コストで形成でき、安定かつ良好な電子放出量を得ることができる電子放出素子1を製造できる。また、微粒子層に導電微粒子を塗布する際、上記方法によると、インクジェット法を用いるので、導電微粒子6の吐出量および吐出箇所を制御することができる。導電微粒子6の吐出箇所を制御すると、少量の材料で、安定かつ良好な電子放出量をもつ電子放出部を電子加速層4中に自在にパターニングすることができる。そのため、本発明の電子放出素子1は、フラットパネルディスプレイ等の画像表示装置の応用に適している。
また、絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液を用いてバインダー成分が含まれる微粒子層を形成後に、導電微粒子を塗布すると、バインダー成分が含まれる微粒子層では絶縁体微粒子の分散状態が保持されているため、インクジェット法を用いて導電微粒子分散液を塗布しても、微粒子層中の絶縁体微粒子の分散状態が変化することはない。したがって、より一層、電子放出部を均一に制御した電子加速層を形成でき、安定かつ良好な電子放出が可能な電子放出素子を製造することができる。
さらに、上記製造方法によると、絶縁体微粒子5と導電微粒子6とで分散させやすい分散溶媒とが異なっても、両者を混合せずに、絶縁体微粒子分散液を塗布して絶縁体微粒子を含む微粒子層を形成した後に、導電微粒子分散液を塗布することにより、両微粒子の分散性を保ったまま電子加速層を形成できる。つまり、絶縁体微粒子5と導電微粒子6とで分散性の高い分散溶媒が異なっても、絶縁体微粒子の凝集体、導電微粒子の凝集体、および絶縁体微粒子5と導電微粒子6の凝集体を含まない均一な電子加速層を形成することができる。
なお、インクジェット法では、導電微粒子6として、微細配線描画用導電性インクを用いることができ、それらに含有されている溶媒はテトラデカン、デカン、デカノール、トルエン、ヘキサン、キシレンなどである。
(実施例)
以下の実施例では、本発明に係る製造方法を用いて作製した電子放出素子を用いて電流測定した実験について説明する。なお、この実験は実施の一例であって、本発明の内容を制限するものではない。
まず実施例1、2の電子放出素子と比較例1、2の電子放出素子とを以下のように作製した。そして、作製した電子放出素子について、図2に示す実験系を用いて単位面積あたりの電子放出電流の測定実験を行った。図2の実験系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ9を挟んで対向電極8を配置させる。そして、電子放出素子1および対向電極8は、それぞれ、電源7に接続されており、電子放出素子1にはV1の電圧、対向電極8にはV2の電圧が印加されるようになっている。このような実験系を1×10−8ATMの真空中に配置して各電子放出実験を行った。また、各実験では、絶縁体スペーサ9を挟んで、電子放出素子と対向電極との距離は5mmとした。また、対抗電極への印加電圧V2=100Vにて測定した。
(実施例1)
10mLの試薬瓶に分散溶媒としてヘキサン2.4gと、絶縁体微粒子5として平均粒子径110nmを0.5gと投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子分散液Aを調製した。絶縁体微粒子分散液Aに占める絶縁体微粒子の含有率は重量比で17%であった。
次に、電極基板2上に、スピンコート法を用いて、上記絶縁体微粒子分散液Aを、3000rpm、10sで回転させ微粒子層Iを形成した。その後、常温で1時間乾燥させ、得られた微粒子層I上に、導電微粒子6が分散溶媒に分散された導電微粒子分散液として、金ナノ粒子含有ナフテン分散溶液(ハリマ化成株式会社製、金微粒子の平均粒径5.0nm、銀微粒子固形分濃度52%)を塗布した。この塗布にはインクジェット法を用い、つまり、インクジェットヘッドを使用して金ナノ粒子含有ナフテン分散溶液を吐出させて行った。吐出条件を、吐出体積4pL、吐出ピッチは140μm×240μmとしたところ、着弾径は30μmとなった。
微粒子層I上にインクジェット法で金ナノ粒子含有ナフテン分散溶液を塗布した後、24時間放置し自然乾燥させて金ナノ粒子を微粒子層Iに浸透させ、電子加速層4を形成した。
その後、電子加速層4の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極を成膜することにより、実施例1の電子放出素子を得た。成膜材料として金を使用し、薄膜電極の層厚は40nm、同面積は0.0707cm2とした。同面積中の導電微粒子着弾個数は210個、着弾面積の合計は1.5×10−3cm2であった。
この実施例1の電子放出素子は、1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極への印加電圧V1=39.9Vにて、単位面積当たりの電子放出電流0.869mA/cm2、素子内電流428mA/cm2、電子放出効率0.2%が確認された。
(実施例2)
10mLの試薬瓶に分散溶媒としてエタノール2.0gと、バインダー成分としてメチルトリメトキシシランKBM−13(信越化学工業株式会社製)0.5gを入れ、絶縁体微粒子として平均径40nmの球状シリカ粒子AEROSIL RX50(エボニックエグサジャパン株式会社製)を0.5g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液Bを調製した。絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液Bに占める絶縁体微粒子の含有率は重量比で17%であった。
次に、電極基板2上に、スピンコート法を用いて、上記絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液Bを、3000rpm、10sで回転させ微粒子層IIを形成した。その後、常温で24時間乾燥させ、得られた微粒子層II上に、導電微粒子6が分散溶媒に分散された導電微粒子分散液として、銀ナノ粒子含有テトラデカン分散溶液(株式会社アルバック製、銀微粒子の平均粒径5.0nm、銀微粒子固形分濃度54%)を塗布した。この塗布にはインクジェット法を用い、つまり、インクジェットヘッドを使用して銀ナノ粒子含有テトラデカン分散溶液を吐出させて行った。吐出条件を、吐出体積4pL、吐出ピッチは140μm×240μmとしたところ、着弾径30μmとなった。
微粒子層II上にインクジェット法で銀ナノ粒子含有ヘキサン分散溶液を塗布した後、1時間放置し自然乾燥させて銀ナノ粒子を微粒子層IIに浸透させ、電子加速層4を形成した。
その後、電子加速層4の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極を成膜することにより、実施例2の電子放出素子を得た。成膜材料として金を使用し、薄膜電極の層厚は40nm、同面積は0.0707cm2とした。同面積中の導電微粒子着弾個数は210個、着弾面積の合計は1.5×10−3cm2であった。
この実施例2の電子放出素子は、1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極への印加電圧V1=19.7Vにて、単位面積当たりの電子放出電流1.14mA/cm2、素子内電流734mA/cm2、電子放出効率0.2%が確認された。
(比較例1)
実施例2と同様にして得られたバインダー成分を含む微粒子層II上に、導電微粒子5が分散溶媒に分散された導電微粒子分散液として、銀ナノ粒子含有ヘキサン分散溶液(応用ナノ粒子研究所製、銀微粒子の平均粒径4.5nm、銀微粒子固形分濃度7%)を滴下後、スピンコート法を用いて3000rpm、10sで電子加速層を形成した。このスピンコート法で銀ナノ粒子含有ヘキサン分散溶液を塗布させた後、1時間放置し自然乾燥させて銀ナノ粒子を浸透させた。
その後、電子加速層の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極を成膜することにより、比較例1の電子放出素子を得た。成膜材料として金を使用し、薄膜電極の層厚は40nm、同面積は0.014cm2とした。
この比較例1の電子放出素子は1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極への印加電圧28.9Vにて、単位面積当たりの電子放出電流0.40mA/cm2、素子内電流38mA/cm2、電子放出効率1.1%が確認された。
上記実施例および比較例に記載している印加電圧の数値は、電子放出電流が最も多いときの値である。つまり、導電微粒子分散液の塗布にインクジェット法を用いた素子の方が、低電圧で電子放出が可能であることがわかる。
なお、導電微粒子分散液の塗布にインクジェット法を用いると、導電微粒子の拡散が少ない状態で、微粒子層内に染み込み、導電微粒子間距離が短く、素子内電流が流れ易いと考えられる。また、スピンコート法を用いると、導電微粒子が拡散がしながら、微粒子層内に染み込み、導電微粒子間距離が長く、絶縁体微粒子による抵抗が大きく、素子内電流が流れにくいと考えられる。
〔実施の形態2〕
図3に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を利用した本発明に係る帯電装置90の一例を示す。帯電装置90は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10から成り、感光体11を帯電させるものである。本発明に係る画像形成装置は、この帯電装置90を具備している。本発明に係る画像形成装置において、帯電装置90を成す電子放出素子1は、被帯電体である感光体11に対向して設置され、電圧を印加することにより、電子を放出させ、感光体11を帯電させる。なお、本発明に係る画像形成装置では、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いればよい。ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子1は、感光体11から、例えば3〜5mm隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子1への印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子1の電子加速層の構成は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、放電を伴わず、従って帯電装置90からのオゾンの発生は無い。オゾンは人体に有害であり環境に対する各種規格で規制されているほか、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば感光体11やベルトなどを酸化し劣化させてしまう。このような問題を、本発明に係る電子放出装置10を帯電装置90に用い、また、このような帯電装置90を画像形成装置が有することで、解決することができる。また、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、帯電装置90は、効率よく帯電できる。
さらに帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、面電子源として構成されるので、感光体11の回転方向へも幅を持って帯電を行え、感光体11のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
〔実施の形態3〕
図4に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る電子線硬化装置100の一例を示す。電子線硬化装置100は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10と、電子を加速させる加速電極21とを備えている。電子線硬化装置100では、電子放出素子1を電子源とし、放出された電子を加速電極21で加速してレジスト(被硬化物)22へと衝突させる。一般的なレジスト22を硬化させるために必要なエネルギーは10eV以下であるため、エネルギーだけに注目すれば加速電極は必要ない。しかし、電子線の浸透深さは電子のエネルギーの関数となるため、例えば厚さ1μmのレジスト22を全て硬化させるには約5kVの加速電圧が必要となる。
従来からある一般的な電子線硬化装置は、電子源を真空封止し、高電圧印加(50〜100kV)により電子を放出させ、電子窓を通して電子を取り出し、照射する。この電子放出の方法であれば、電子窓を透過させる際に大きなエネルギーロスが生じる。また、レジストに到達した電子も高エネルギーであるため、レジストの厚さを透過してしまい、エネルギー利用効率が低くなる。さらに、一度に照射できる範囲が狭く、点状で描画することになるため、スループットも低い。
これに対し、電子放出装置10を用いた本発明に係る電子線硬化装置は、電子放出素子1の電子放出効率が高いため、効率よく電子線を照射できる。また、電子透過窓を通さないのでエネルギーのロスも無く、印加電圧を下げることができる。さらに面電子源であるためスループットが格段に高くなる。また、パターンに従って電子を放出させれば、マスクレス露光も可能となる。
〔実施の形態4〕
図5〜7に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
図5に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置と、さらに、電子放出素子1と離れ、対向した位置に、基材となるガラス基板34、ITO膜33、および蛍光体32が積層構造を有する発光部36と、から成る。
蛍光体32としては赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適しており、例えば、赤色ではY2O3:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、青色ではBaMgAl10O17:Eu2+等が使用可能である。ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に、蛍光体32を成膜する。蛍光体32の厚さ1μm程度が好ましい。また、ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体へ向けて加速する必要があり、その場合は電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33の間に、電子を加速する電界を形成するための電圧印加するために、電源35を設けるとよい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
図6に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7、さらに、蛍光体32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に蛍光体32が配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
図7に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7を有する電子放出装置10を備え、さらに、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子5に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子5として球状シリカ粒子(平均粒径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均粒径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32に衝突させて発光させる。電子放出素子1は電子放出効率が高いため、自発光デバイス31,31’,31”は、効率よく発光を行える。なお、自発光デバイス31,31’,31”は、真空封止すれば電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
さらに、図8に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図8に示す画像表示装置140は、図7で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
また、本発明に係る画像表示装置として、図5に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
〔実施の形態5〕
図9及び図10に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る送風装置の例をそれぞれ示す。以下では、本願発明に係る送風装置を、冷却装置として用いた場合について説明する。しかし、送風装置の利用は冷却装置に限定されることはない。
図9に示す送風装置150は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10からなる。送風装置150において、電子放出素子1は、電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。冷却させる場合、電子放出素子1に印加する電圧は、18V程度が好ましく、この電圧で、雰囲気下に、例えば、単位時間当たり1μA/cm2の電子を放出することが好ましい。
図10に示す送風装置160は、図9に示す送風装置150に、さらに、送風ファン42が組み合わされている。図10に示す送風装置160は、電子放出素子1が電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出し、さらに、送風ファン42が被冷却体41に向かって送風することで電子放出素子から放出された電子を被冷却体41に向かって送り、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。この場合、送風ファン42による風量は、0.9〜2L/分/cm2とするのが好ましい。
ここで、送風によって被冷却体41を冷却させようとするとき、従来の送風装置あるいは冷却装置のようにファン等による送風だけでは、被冷却体41の表面の流速が0となり、最も熱を逃がしたい部分の空気は置換されず、冷却効率が悪い。しかし、送風される空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含まれていると、被冷却体41近傍に近づいたときに電気的な力によって被冷却体41表面に引き寄せられるため、表面近傍の雰囲気を入れ替えることができる。ここで、本発明に係る送風装置150,160では、送風する空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含んでいるので、冷却効率が格段に上がる。さらに、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、送風装置150,160は、より効率よく冷却することができる。
本発明は上述した各実施形態および各実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。