本発明の電子放出素子は、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極の間に設けられた中間層とを有し、第1電極と第2電極の間に電圧を印加することにより、第2電極から電子を放出させる電子放出素子であって、中間層は、第2電極側に凹部を有する絶縁性微粒子層と、絶縁性微粒子層上に形成され、導電性微粒子を含有する導電性微粒子層と含み、凹部における導電性微粒子の含有量が凹部以外の部分に比べて多いことを特徴とするものである。
本発明の電子放出素子は、絶縁性微粒子層と導電性微粒子層とからなる中間層において電子の電流パスが形成されて加速されるものと考えており、電流パスの形成と電子の加速されるメカニズムは以下のように考えられる。
絶縁性微粒子を主にして構成される絶縁性微粒子層は半導電性を有し、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、絶縁性微粒子の内部は高抵抗であるため、電子は絶縁性微粒子の表面を移動して、絶縁性微粒子層に極弱い電流が流れて電流パスが形成される。絶縁性微粒子層の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。
ここで、本発明の電子放出素子は、絶縁性微粒子層の表面に凹部が設けられ、さらにその凹部を含む表面に導電性微粒子を含む導電性微粒子層が形成されることにより、導電性微粒子層中の導電性微粒子の含有量が、凹部に多く含有され、凹部以外の部分では少なく含有される。
このため、電圧印加の初期の段階において、凹部では導電性微粒子層の導電性微粒子が絶縁微粒子層に拡散(マイグレーション)することにより、凹部以外の部分よりも優先的に電流パスが形成される。一方、凹部以外の部分では、導電性微粒子の拡散がほとんど生じないため、電流パスが形成され易くなることはない。さらに、凹部で優先的に電流パスが形成されることから、凹部以外の部分では電流パスが形成されなくなる。
電流パスに従って移動する電子は、絶縁性微粒子の表面の不純物、絶縁性微粒子が酸化物である場合の酸素欠陥、あるいは絶縁性微粒子間の接点でトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。その結果、絶縁性微粒子層の凹部上では、印加電圧と、トラップされた電子が合わさって強電界が発生し、その電界によって電子が加速され、弾道電子となり、第2電極を透過して電子放出素子の外部へ放出される。なお、弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと推測される。
したがって、本発明の電子放出素子によれば、単に絶縁性微粒子層に凹部を設けただけの構成よりも、電子放出する凹部に優先的に電流パスを形成することができ、電子放出点をより制御することができる。同時に、電子放出させる必要のない凹部以外の部分では電流パスを形成させないことにより、素子内部電流による発熱を抑制することができる。さらに発熱を抑制することで、電子放出素子の特性劣化を抑制でき、長時間安定して電子放出することができる。
このように、本発明の電子放出素子は、凹部と凹部以外の部分で導電性微粒子の含有量を異ならせて、電子放出させるための望ましい電流パスを形成できるため、上記メカニズムに基づいて発熱を生じさせずに効率よく電子を放出することができる。
なお、電子放出素子に印加する電圧は、直流電圧又は交流電圧の何れでもよいが、電子放出量が比較的安定している交流電圧の方が好ましく、また、交流電圧に直流電圧を重畳したものでもよい。以下、本明細書において、単に「電圧」というときは「交流電圧」と「直流電圧」の両方を指すものとする。
また、本発明の電子放出素子は、他の観点によれば、電子放出装置に用いられてもよい。すなわち、この電子放出素子に加えて、少なくとも該電子放出素子の第1電極と第2電極の間に電圧を印加する電源部を備えることにより、適度な電圧(例えば10〜25V)の印加によって十分な電子放出量が得られると共に、発熱の心配がないため長時間でも安定して連続動作可能な電子放出装置が構成される。
さらに、この電子放出装置は、発光デバイス、その発光デバイスを備えた画像表示装置、被冷却体を冷却できるイオン風発生装置、帯電装置、その帯電装置を備えた画像形成装置等の主要部などに用いることができる。
ここで、上記発光デバイスによれば、安定で長寿命な面発光を実現することができる。
また、上記イオン風発生装置によれば、放電を伴わないのでオゾンやNOxの発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより、被冷却体表面を高効率で冷却することができる。
また、上記帯電装置によれば、放電を伴わず、オゾンやNOxを発生させることなく、長時間安定して被帯電体を帯電させることができる。
なお、電子放出装置を備えたこれらの装置は、複数の電子放出素子を含んでもよい。例えば、複数の電子放出素子が平面体上に配置されて、これらの装置に適用されてもよい。また、複数の電子放出素子において、第1電極を共通化してもよい。
以下、本発明の実施形態および実施例について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施形態および実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
〔実施形態1〕
図1は、本発明の実施形態1の電子放出素子9と、該電子放出素子9を備えた電子放出装置10を示す模式図である。
実施形態1の電子放出素子9は、図1に示すように、第1電極1と、第2電極2と、第1電極1と第2電極2の間に設けられた中間層3とを有している。また、電子放出装置10は、上記電子放出素子9と、電子放出素子9の第1電極1と第2電極2の間に電圧を印加する電源部8を備え、電源部8のマイナス極に第1電極1が電気的に接続され、電源部8のプラス極に第2電極2が電気的に接続されている。そして、第1電極1と第2電極2の間に電圧を印加することにより、第2電極2から電子e−を放出させるものである。
本発明の電子放出素子9は、中間層3が、第2電極2側に凹部4bを有する絶縁性微粒子層4と、絶縁性微粒子層4上に形成され、導電性微粒子5aを含有する導電性微粒子層5と含み、導電性微粒子層5において、凹部4bの導電性微粒子5aの含有量が凹部4b以外の部分に比べて多いことを特徴としている。これにより、凹部4bでは凹部4b以外の部分よりも優先的に電流パスが形成され易くなり、凹部4b以外の部分に不要な電流パスが形成されなくなるため、発熱を生じさせずに効率よく電子を放出することができる。
続いて、電子放出素子9の各構成について詳細に説明する。
〈第1電極〉
第1電極1は、基板の機能を兼ねる電極基板であり、導体で形成された板状体で構成されている。第1電極1は、電子放出素子の支持体として機能すると共に、電極として機能するため、ある程度の強度を有し、かつ適度な導電性を有するものであればよい。例えば、ステンレス(SUS)、Al、Ti、Cu等の金属で形成された基板、Si、Ge、GaAs等の半導体基板を用いることができる。
また、第1電極1は、導電性膜で形成された電極が、ガラス基板またはプラスティック基板等の絶縁体基板上に形成された構造体であってもよい。例えば、ガラス基板を用いる場合、中間層3との界面となるガラス基板の表面を、例えば、マグネトロンスパッタ等を用いて導電性膜で被覆し、導電性膜で被覆されたガラス基板を第1電極1として用いてもよい。
導電性膜の材料としては、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電性材料を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、導電性膜には、酸化物導電材料であり透明電極に広く利用されているITO(Indium Tin Oxide)も有用である。
また、第1電極1が絶縁体基板を被覆する導電性膜で構成される場合、導電性膜に強靭さが要求されるため、複数の導電性膜を積層してもよい。また、絶縁体基板の表面の導電性膜を、周知の半導体製造技術であるフォトリソグラフィやマスクを用いて方形等にパターニングして電極を形成してもよい。
〈絶縁性微粒子層〉
絶縁性微粒子層4は、強電界が形成される第2電極2側の表面に、絶縁性微粒子層4の層厚よりも小さい凹部4bが設けられている。また、凹部4bは、絶縁性微粒子層4の表面に複数設けられ、絶縁性微粒子層4の全体にわたり均一に分散して形成されている。
絶縁性微粒子層4は、凹部4bの最大径が5〜1000nmであることが好ましい。凹部4bの最大径が5nmより小さいと、絶縁性微粒子層4の凹部4bの部分における電気的な抵抗が小さくならず、局所的な強電界が生じにくく、また、凹部4bの幅が1000nmより大きいと、凹部4bの部分で絶縁性微粒子層4の電気抵抗の値が小さくなりすぎ、電流がリークしやすくなる。その結果、絶縁性微粒子層4にかかる電界が弱まり電子を放出しにくくなる。このため、上記範囲内の幅が好ましい。
また、絶縁性微粒子層4は、凹部4bが1〜100個/μm2の分布密度で形成されていることが好ましい。上記凹部4bの最大径と同様に、上記凹部4bの分布密度で形成されていることが好ましい。凹部4bの最大径と同様に、凹部4bの分布密度によっても、絶縁性微粒子層の電気抵抗を調整でき、電子放出素子の電子放出量を調整できる。このため、上記範囲内の分布密度であれば、適度な電圧で十分な電子を放出する電子放出素子が提供される。
また、絶縁性微粒子層4は、8〜3000nmの層厚で形成されていることが好ましい。さらに、30〜1000nmの層厚で形成されていることがより好ましい。これらの範囲内であれば、絶縁性微粒子層4の層厚よりも小さい凹部4bを備えるとともに、絶縁性微粒子層4の層厚が均一な電子放出素子9が提供される。また、絶縁性微粒子層4の層厚が均一となるため、絶縁性微粒子層4の電気抵抗の値が均一となる。このため、素子全体にわたって各々の凹部4bから一様に電子を放出する電子放出素子9が提供される。なお、電子放出素子9は、できるだけ低い電圧で強い電界を加えて電子を加速させることが好ましいので、絶縁性微粒子層4の層厚は、上記層厚の範囲のうちでもできるだけ薄いことが好ましい。
また、絶縁性微粒子層4に用いる絶縁性微粒子4aは、5〜1000nmの平均粒径であることが好ましい。絶縁性微粒子4aの平均粒径が5nmより小さいと、平均粒径のばらつきが小さくすることが難しいため均一な絶縁性微粒子層4を形成することが難しくなる。また、絶縁性微粒子4aの平均粒径が1000nmより大きいと、分散液を塗布して絶縁性微粒子層4を形成する場合に、絶縁性微粒子4aが沈降して分散性が悪くなる。このため、上記の範囲内の平均粒径であることが好ましい。
また、絶縁性微粒子4aが、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つの絶縁体で形成された粒子であってもよい。これらの絶縁体は絶縁性が高いので、これらの絶縁体の含有量を調整して、前記絶縁性微粒子層の電気抵抗の値を任意の範囲に調整できる。
〈導電性微粒子層〉
導電性微粒子層5は、導電性微粒子5aを含んだ分散液を絶縁性微粒子層4上に塗布して形成されたものである。
導電性微粒子5aとしては、特に限定されないが、導電性微粒子5aが大気中の酸素によって酸化される等の素子劣化を防止するため、貴金属を用いることが望ましく、例えば、銀、金、白金、パラジウム又はニッケルを主成分とする金属からなる導電性粒子を用いることができる。
導電微粒子5aの平均粒子径は、絶縁性微粒子4aの粒径より大きくすると中間層3に必要な適度な半導電性が得られないため、絶縁性微粒子4aの粒径よりも小さい、3〜20nmとすることが好ましい。導電微粒子5aの平均径を上記範囲内とすることにより、中間層3内で、導電性微粒子5aによる導電パスが形成されず、中間層3内での絶縁破壊が起こり難くなる。また、導電微粒子5aの粒子径を上記範囲内とすることで、原理的には不明確な点が多いが弾道電子が効率よく生成されている。
〈中間層〉
中間層3は、上記絶縁性微粒子層4と上記導電性微粒子層5とから構成されており、第1電極1から第2電極2へ電子が移動する電流パスの形成と、局所的な強電界部を形成し電子を加速させる機能を有すると推察されている。中間層3において、導電性微粒子層5となる分散液を絶縁性微粒子層4上に塗布する際に、絶縁性微粒子層4の凹部4bの部分に厚く形成されるため、分散液の塗布膜を乾燥させると、凹部4bの部分で導電性微粒子5aの含有量が多くなって形成される。このように導電性微粒子層5の導電性微粒子5aが、凹部4bの部分で多く含有され、凹部4b以外の部分で少なく含有されることにより、凹部4bで凹部4b以外の部分よりも優先的に電流パスを形成することができる。
〈第2電極〉
第2電極2は、第1電極1と対をなす電極を構成し、第1電極1と共に中間層3内に電圧を印加させるための電極である。このため、電極として機能する程度の導電性を有する材料で形成すればよい。また、第2電極2は、中間層3内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出することが好ましいため、仕事関数が低くかつ薄膜で形成することが可能な導電性材料で形成されることが好ましい。
このような材料としては、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、タングステン、チタン、アルミ、パラジウム、クロムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。
第2電極2の層厚は、電子放出素子9から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、この観点から10〜55nmが好ましい。第2電極2を平面電極として機能させるための最低層厚は10nmであり、これより薄い層厚では電気的導通を確保できない。
一方、電子放出素子9から外部へ電子を放出させるための最大層厚は55nmであり、これより厚い層厚では弾道電子の透過が起こらず、第2電極2で弾道電子の吸収あるいは反射による中間層3への再捕獲が生じてしまう。 このため、第2電極2の層厚は、好ましくは10〜55nmである。
なお、弾道電子は、絶縁性微粒子による絶縁性微粒子層の表面の微細な凹凸の影響から生じる第2電極2の隙間(微細孔)をすり抜けて外部へ放出される場合もある。
〈製造方法〉
次に、図1を参照しながら、実施形態1に係る電子放出素子9の製造方法について説明する。電子放出素子9の中間層3は、第1電極上1に、表面に凹部4bを有する絶縁性微粒子層4を形成する工程と、絶縁性微粒子層4の凹部4bを埋めるように、導電微粒子5aを含有する導電性微粒子層5を塗布する工程とを経て製造される。
縁性微粒子層4の凹部4bは、製法が特に限定されるものではないが、例えば、絶縁性微粒子と有機微粒子が分散された分散液を第1電極上に塗布することにより、絶縁性微粒子及び有機微粒子を含む層を形成して、形成された層を加熱処理することにより形成することができる。
上記製法によれば、絶縁性微粒子層にある有機微粒子を分解した、有機微粒子を鋳型とする凹部4bが設けられるので、所望の大きさの有機微粒子を選択することにより、凹部4bの大きさを容易に変更することができる。また、凹部4bの部分における電気抵抗の値を変更し、局所的な電界の大きさを調整できるので、電子放出量を任意の範囲に調整することができる。
具体的に説明すると、まず、水に絶縁性微粒子4aが分散された単分散の絶縁性微粒子分散液を用意する。分散液における絶縁性微粒子4aの濃度は、10wt%以上50wt%以下が好ましい。10wt%より低濃度であれば、第1電極1上に絶縁性微粒子4aを充填することができず、50wt%より高濃度であれば、粘度が上昇し、凝集が起こり薄膜化できない。単分散の絶縁性微粒子分散液の例としては、日産化学工業株式会社製の親水性シリカの分散液であるコロイダルシリカMP−4540(平均粒子径450nm、40wt%)、MP−3040(平均粒子径300nm、40wt%)、MP−1040(平均粒子径100nm、40wt%)、スノーテックス20(平均粒子径15nm、20wt%)、スノーテックスSX(平均粒子径5nm、20wt%)が挙げられる。
次に、水に有機微粒子が分散された単分散の有機微粒子分散液を用意する。分散液における有機微粒子の濃度は、10wt%以上50wt%以下が好ましい。10wt%より低濃度であれば、第1電極1上に絶縁性微粒子4aを充填することができず、50wt%より高濃度であれば、粘度が上昇し、凝集が起こり薄膜化できない。
有機微粒子は、平均粒径が5〜1000nmである微粒子を用いる。有機微粒子の形状は、特に制限されないが、例えば、真球状、楕円体状の粒子を用いるとよい。また、円柱状の形態の粒子を用いてもよい。これらの形状の有機微粒子から、作製する電子放出素子9における中間層3の層厚に応じて適切な粒径、形状を有する有機微粒子を市販品から選定すればよい。
材質は、アクリル樹脂やスチレン樹脂等の、上記絶縁性微粒子4aよりも低い温度で熱分解する有機材料を用いる。有機微粒子の例としては、日本ペイント株式会社製のアクリルまたはスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズ、FS-101(平均粒子径80nm、20wt%)、FS-102(平均粒子径80nm、20wt%)、MG-151(平均粒子径70nm、20wt%)、日本触媒製のメタクリル酸メチル系架橋物から成る樹脂球状微粒子エポスターMXシリーズ、JSR株式会社製のスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、ポリスチレンラテックス粒子のスタデックスシリーズなどが挙げられる。
次に、上記絶縁性微粒子分散液と上記有機微粒子分散液を混合し、絶縁性微粒子4aと有機微粒子が混合および分散された分散液を調製する。上記絶縁性微粒子分散液と上記有機微粒子分散液を所望の濃度となる比で混合し、絶縁性微粒子4a及び有機微粒子が凝集しないように攪拌する。なお、この分散液の調製は、有機微粒子の粉体を上記絶縁性微粒子4aの分散液に添加・分散して絶縁性微粒子及び有機微粒子が混合・分散された分散液を調製してもよい。
次に、調整された分散液を電極基板上にスピンコート法にて塗布し絶縁性微粒子4a及び有機微粒子を含む微粒子層を作製する。ここで、例えば、電極基板がアルミやステンレスで形成され、電極基板の表面が疎水性を示す場合、親水性のシリカ分散体を撥水するため、電極基板の表面に親水化処理を施す。親水化処理は特に限定されないが、例えば、UV処理であれば、真空度20Pa下で電極基板の表面にUV照射を10分間行う。
分散液のスピンコート条件は、特に限定されないが、電極基板に調整された分散液を塗布した後、例えば、スピン回転数500rpmで5秒間、電極基板を回転させた後、スピン回転数3000から4500rpmで10秒間、電極基板を回転させる。電極基板に対する塗布量は特に限定されないが、例えば、24mm角の電極基板に塗布する場合、0.2mL/cm2以上であればよい。スピンコート法を用いることで、上記絶縁性微粒子4aおよび有機微粒子を非常に簡便に広範囲に塗布することができる。よって、広範囲で電子放出する必要のあるデバイスに好適に用いることができる。
そして、スピンコート法による塗布を行った後、分散液が塗布された電極基板を乾燥させる。なお、塗布された分電極基板を加熱処理し、第1電極1上に形成された微粒子層における有機微粒子を熱分解することで、絶縁性微粒子4aだけを残して、この絶縁性微粒子層4の表面に複数の微小凹部4bを形成する。つまり、有機微粒子を熱分解することにより、有機微粒子を鋳型として微小凹部4bを作製する。
加熱処理における加熱温度は、有機微粒子が熱分解する温度以上で行うが、無機微粒子が結晶化しない温度範囲で行うのが好ましい。無機微粒子が溶解して結晶化すると、微粒子層が完全な絶縁物となり電子加速層として機能しなくなる。このため、例えば、無機微粒子材料としてSiO2、有機微粒子材料としてアクリルを用いた場合、400℃で5分間加熱処理を行うのがよい。この加熱処理により、微小凹部4bがその表面に形成された絶縁性微粒子層4の形成処理が完了する。
導電性微粒子層5の形成工程では、導電性微粒子5aとして粒径15nmの銀ナノ粒子を分散した銀コロイド溶液(株式会社巴製作所製、固形分濃度2wt%)をスピンコート法にて塗布する。スピンコート条件は、特に限定されないが、複数の凹部4bが形成された絶縁性微粒子層4の表面に上記銀コロイド溶液を滴下し、例えば、スピン回転数7500rpmで11秒間回転させる。銀コロイド溶液は、絶縁性微粒子層4の表面を沿うように広がり塗布されるが、絶縁性微粒子層4の凹部4bでは他の部分よりも厚く形成される。
続いて、絶縁性微粒子層4上の塗布膜を乾燥させることにより、導電性微粒子層5が形成される。銀コロイド溶液は、導電性微粒子層5が塗布される際に凹部4bの部分で厚く形成されているため、分散液の塗布膜を乾燥させると、凹部4bの部分で銀ナノ粒子(導電性微粒子5a)の含有量が多くなって形成される。このようにして、凹部4bにおける導電性微粒子5aの含有量が凹部4b以外の部分に比べて多い導電性微粒子層5を形成することができる。
さらに、第2電極2の形成工程において、例えば、マグネトロンスパッタ法、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等を用いて、炭素薄膜上に第2電極2を形成して、電子放出素子9が完成する。
最後に、この電子放出素子9の第1電極1と第2電極2に、リード線を介して電源部8の負極と正極を電気的に接続することにより、電子放出装置10が完成する。この電源部8としては、10〜25Vの電圧を印加可能な電源を用いることができる。
〔実施形態2〕
図2は、実施形態2の電子放出素子91を示す模式図である。なお、図2において、図1中の構成と同様の構成には同一の符号を付している。実施形態2の電子放出素子91において、図1の実施形態1で示した電子放出素子9との違いは、絶縁性微粒子層4の凹部4bを、第1電極1と絶縁性微粒子層4との間に設けた膜厚制御絶縁膜6を用いて形成していることである。膜厚制御絶縁膜6を除く、実施形態1と共通する構成については、詳細な説明を省略する。
〈膜厚制御絶縁膜〉
膜厚制御絶縁膜6は、第1電極1上に形成された絶縁膜であり、絶縁膜の材料としては、例えば、抵抗値、耐熱性、吸水率、機械的強度などの観点から、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコーン樹脂膜、アクリル樹脂膜又はポリイミド樹脂膜が好ましい。また、膜厚制御絶縁膜6の層厚は、絶縁性微粒子層4の層厚や凹部4bの深さによって異なるが、例えば、層厚0.1〜3μmとすることができる。また、膜厚制御絶縁膜6は、これら各種絶縁膜の単層膜であっても積層膜であってもよい。
膜厚制御絶縁膜6は、絶縁性微粒子層4の凹部4bに対応する位置に、複数の小孔6aが設けられている。隣接する互いの小孔6aのサイズ、形状、密度等は、凹部4bのサイズ、形状、密度等に影響するため、電子放出の均一性や制御性を考慮して決定することが望ましい。例えば、電子放出の均一性という観点からは、縦横整然とマトリックス状に配置されていることが好ましい。
一例を示すと、小孔6aのサイズは、一辺が10〜500μmの正方形内に収まるサイズであり、その内径が5〜300μmである。小孔6aは、絶縁性微粒子層4の層厚に対してその内径が小さすぎると、小孔内によって形成される凹部4bの電界が弱まり電子放出効率が低下しやすい傾向があり、また、逆にその内径が大きすぎると、電子放出の均一性が損なわれる傾向がある。このため、小孔6aの内径は、中間層の層厚の8.5〜300倍が好ましく、例えば、21〜140μmが好ましい。また、小孔6aは、5〜2000個/mm2の密度で配置される。
一方、小孔6aの形状は、特に限定されない。本発明の実施形態において、その平面視形状は、例えば、多角形、円形、楕円形等である。このとき、電子放出素子の第2電極2の外表面から垂直方向に電子が安定して放出できるように、小孔6aの層厚方向の断面形状は長方形または正方形であることが望ましい。
〈製造方法〉
膜厚制御絶縁膜6の形成工程について説明すると、まず、絶縁体材料としてのアクリル系樹脂を溶剤に溶かした塗液を第1電極1上にスピンコート法で塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を加熱乾燥し、その後、フォトリソグラフィによって、乾燥した塗布膜(絶縁膜)に複数の小孔6aを形成することにより、膜厚制御絶縁膜6を形成する。例えば、上記で説明したように、層厚0.1〜3μmの膜厚制御絶縁膜6に、内径が21.2〜141.4μmの小孔6aを形成する。
絶縁体材料としては、アクリル系樹脂以外にも、例えば、シリコーン樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂などの有機ポリマーが挙げられる。また、これらの有機ポリマーは、1種または2種以上を混合して用いてもよい。
また、絶縁体材料としては、有機ポリマー以外にも、シリコン酸化物やシリコン窒化物などの無機材料を用いて、例えば、スパッタ法、蒸着法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等によって膜厚制御絶縁膜6を形成してもよい。また、小孔6aの方法として、電子ビームリソグラフィ、プラズマエッチング、インクジェット等を用いてもよく、これらの方法に限定されるものではない。
次に、第1電極1及び膜厚制御絶縁膜6上に、絶縁性微粒子層4として粒径100nm、CV値0.22%の球状シリカ粒子が分散されたコロイルダルシリカ(日産化学工業株式会社製、MP1040、固形分濃度40wt%)を滴下し、500rpmで1秒間、続いて3000rpmで10秒間の条件で2段階のスピンコートを行って、絶縁性微粒子4aを含む塗布膜を形成し、この塗布膜をホットプレートにより150℃で60秒間乾燥することにより、膜厚制御絶縁膜6の複数の小孔6aに対応した複数の凹部4bを表面に有する絶縁性微粒子層4が形成される。
次に、図2に示すように、絶縁性微粒子層4と導電性微粒子層5との間にシリコーン樹脂層7を設ける。シリコーン樹脂層7の形成工程において、シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング株式会社性、SR2411)を絶縁性微粒子層4上にスピンコート法にて塗布する。スピンコート条件は、特に限定されないが、絶縁性微粒子層4まで形成した第1電極1を、例えば、スピン回転数500rpmで1秒間回転させた後、スピン回転数3000rpmで10秒間回転させる。
なお、このシリコーン樹脂層7は、中間層3の機械的強度の向上や、大気中の酸素および水分などによる素子劣化を防ぐことを目的とするものである。このため、シリコーン樹脂層7は、導電性微粒子層5上に形成してもよく、機械的強度等が確保されている場合にはシリコーン樹脂層7を省略してもよい。
さらに、シリコーン樹脂層7の上に、導電性微粒子5aとして粒径15nmの銀ナノ粒子が分散した銀コロイド溶液(株式会社巴製作所製、固形分濃度2wt%)を滴下し、7500rpmで11秒間スピンコートを行って、導電性微粒子5aを含む塗布膜を形成した。この塗布膜をホットプレートにより150℃で60秒間乾燥することにより、導電性微粒子層5を形成する。導電性微粒子層5は、絶縁性微粒子層の凹部で導電性微粒子5aが多く含有され、凹部以外の部分ではその含有量が少なくなる。
次に、例えば、蒸着法、マグネトロンスパッタ法等を用いて、絶縁性微粒子層4と導電微粒子層5とからなる中間層3上に、図示しない炭素薄膜と第2電極2を形成することで電子放出素子91が得られる。なお、炭素薄膜は、電子放出素子91にかかる局所的かつ連続的な電圧・電流ストレスを緩和させるためのものであるが、電子放出素子91において省略されてもよい。
実施形態2の電子放出素子91は、第1電極1と絶縁性微粒子層4との間に膜厚制御絶縁膜6を設けることにより、絶縁性微粒子層4の表面に凹部4bを精度よく容易に形成することができる。また、凹部4b以外の部分に高抵抗の膜厚制御絶縁膜6が介在することにより、実施形態1の場合と比較して、凹部4b以外の部分での層厚方向の電気抵抗がさらに大きくなり、素子内部電流がさらに減少して、電子放出素子91の発熱をほとんど抑制できるので、長時間安定した電子放出を行うことができる。
〔実施形態3〕
図3は、実施形態2の電子放出素子91を用いた帯電装置の一例を示す模式図である。なお、図3において、図1及び図2中の構成と同様の構成には同一の符号を付している。
この帯電装置90は、電子放出素子91と、これに電圧を印加する電源部8を有する電子放出装置10から成り、電子写真方式の画像形成装置に備えられた感光体Pを帯電させるものである。
帯電装置90を構成する電子放出素子91は、被帯電体である感光体Pに対向して設置され、電圧が印加されることにより電子を放出させ、感光体Pを帯電させる。なお、この実施形態で説明される画像形成装置において、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いることができる。
ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子91は、感光体Pから、例えば3〜5mm隔てて配置されることが好ましい。また、電子放出素子91への印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子91における中間層3は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cm2の電子が放出されるように構成されていればよい。
本発明の電子放出装置10は、帯電装置90として用いられた場合、大気中で動作しても放電を伴わず、従って帯電装置90からのオゾンの発生は無い。高濃度のオゾンは人体に有害な場合があり、環境に対する各種規格で規制されているほか、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば、感光体Pやベルトなどを酸化し劣化させてしまうが、実施形態2のような帯電装置90を画像形成装置が有することで、このような問題は生じない。
また、この電子放出素子91は電子放出量が向上しているため、帯電装置90によって感光体Pを効率よく帯電することができる。
さらに、この電子放出素子91が同一基板に複数形成された電子放出装置10を帯電装置90として用いることにより、帯電装置90は面電子源として構成されるので、感光体Pの回転方向へも幅を持って帯電することができ、感光体Pのある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
〔実施形態4〕
図4は実施形態2の電子放出素子91を用いた実施形態4−1の発光デバイスを示す模式図であり、図5は実施形態4−1の発光デバイス41を用いた実施形態4−2の画像表示装置を示す模式図である。なお、図4〜図5において、図1及び図2中の構成と同様の構成には同一の符号を付している。
図4(実施形態4−1)に示す発光デバイス41は、電子放出素子91および電子放出素子91に電圧を印加する電源部8を有する電子放出装置10と、電子放出素子91と離れて対向状に配置される発光部46とを備える。
発光部46は、基材となるガラス基板42上にITO膜43と蛍光体層44この順に積層された積層構造を有し、蛍光体層44が電子放出素子9の第2電極2と対面している。ITO膜43の層厚は、導電性を確保できる層厚であればよく、例えば、100〜300nmとすることができ、本実施形態では150nmとした。
蛍光体層44としては、赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの蛍光体材料が適しており、例えば、赤色ではY2O3:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、青色ではBaMgAl10O17:Eu2+等を用いることができる。蛍光体層44の厚さ1μm程度が好ましい。
蛍光体層44を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と蛍光体微粒子との混練物を用い、バーコーター法、滴下法、スピンコート法等の公知技術によって形成することができる。このとき、所望の発光色が得られるよう、赤、緑および青色の蛍光体微粒子の内から1色以上の蛍光体微粒子を適切な重量混合比で選択する。例えば、白い発光色が得られるようにするのであれば、赤、緑および青色の蛍光体微粒子を重量混合比1:1:1で混合した混練物を用いる。
ここで、蛍光体層44の発光輝度を上げるには、電子放出素子91から放出された電子を蛍光体層44へ向けて加速する必要があり、その場合は、電子放出素子91の第1電極1とITO膜43の間に、電子を加速する電界を形成するための直流電圧印加用の第2電源部45を設けることが好ましい。
このとき、蛍光体層44と電子放出素子9との距離が0.3〜1mm、電源部8からの印加電圧が18V、第2電源部45からの印加電圧が500〜2000Vに設定することが好ましい。
実施形態4−1の発光デバイス41の場合、電子放出素子91から外部へ放出した電子が、発光部46の蛍光体層44に衝突することにより、蛍光体層44が発光する。
なお、発光デバイス41は、大気中で動作可能であるが、真空封止することにより電子放出電流が上昇し、より効率よく発光することができる。
図5(実施形態4−2)に示す画像表示装置340は、図4で示した発光デバイス41と液晶パネル330を備えている。
この画像表示装置340において、発光デバイス41は、液晶パネル330の後方に配置されてバックライトとして用いられる。
この場合、発光デバイス41は白い発光色が得られるようになっている。つまり、中間層33中には、白色を合成するために光の三原色である赤、緑および青の蛍光体微粒子が重量混合比1:1:1で分散している。
また、この場合、例えば、発光デバイス41が単位時間当たり10μA/cm2の電子を放出するよう、発光デバイス41への印加電圧を20〜35Vに設定することが好ましく、発光デバイス41と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
なお、液晶パネル330は従来公知のもの、例えば、バックライト側から、偏光板、ガラス基板、透明電極、配向膜、液晶、配向膜、透明電極、保護膜、カラーフィルタ、ガラス基板および偏光板が積層されたパネル構造を用いることができる。
また、図示しない実施形態4−3の画像表示装置として、図4(実施形態4−1)で説明した発光デバイス41をマトリックス状に配置して、発光デバイス41そのものによる電界放出ディスプレイ(FED: Field Emission Display)として画像を表示させることもできる。
この場合、例えば、発光デバイス41が単位時間当たり10μA/cm2の電子を放出するよう、発光デバイス41への印加電圧を20〜35Vに設定することが好ましい。
〔実施形態5〕
図6は実施形態2の電子放出素子91を用いた実施形態5−1のイオン風発生装置を示す模式図であり、図7は実施形態2の電子放出素子91を用いた実施形態5−2のイオン風発生装置を示す模式図である。なお、図6および図7において、図1及び図2中の構成と同様の構成には同一の符号を付している。
図6(実施形態5−1)のイオン風発生装置150は、電子放出素子91およびこれに電圧を印加する電源部8を有する電子放出装置10からなる。このイオン風発生装置150は、その電子放出素子91が被冷却体Qに対して傾斜状に対向するように配置され、電子放出素子91が電気的に接地された被冷却体Qに向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体Qを冷却する。
つまり、従来、ファンのみで被冷却体Qの表面に風を送っても、その表面に最も近い空気分子は留まって動かないという所謂「ノースリップ効果」が発生するため、被冷却体Qの表面の冷却効果が低かった。
実施形態5−1のイオン風発生装置150によれば、電子放出素子91からの電子が空気分子と衝突してイオンを生じ、更にこのイオンが周りの空気分子に衝突することによって空気分子やイオンが移動する。このことで「イオン風」が発生する。このとき、イオンは電位差もしくは電界によって被冷却体Qの表面まで運ばれ、被冷却体Qとの間に働く電界(鏡像力)により、熱い分子と冷たいイオンが交換するため、被冷却体Qの表面が冷却される。
この場合、例えば、イオン風発生装置150が単位時間当たり1μA/cm2の電子を放出するように、電子放出素子91に印加する電圧を18V程度に設定することが好ましい。なお、被冷却体Qとしては、例えば、半導体、コンピュータのCPU(Central Processing Unit),LED(Light Emitting Diode)などの電子部品やそれらを搭載した装置等が挙げられる。
図7(実施形態5−2)のイオン風発生装置160は、電子放出素子91およびこれに電圧を印加する電源部8を有する電子放出装置10と、電子放出素子91の周囲に回転可能に設けられた送風ファン52を備えている。
このイオン風発生装置160も、その電子放出素子91が被冷却体Qに対して傾斜状に対向するように配置され、電子放出素子91が電気的に接地された被冷却体Qに向かって電子を放出し、さらに、送風ファン52が被冷却体Qに向かって送風することにより、イオン風および空気流を発生させて被冷却体Qを冷却する。
このとき、イオン風に加えて空気流が生じるため、被冷却体Qの表面近傍の雰囲気(空気)を効率よく入れ替えることができ、イオン風と空気流との相乗効果により冷却効率が格段に向上する。
この場合、例えば、イオン風発生装置160が単位時間当たり1μA/cm2の電子を放出するように、電子放出素子91に印加する電圧を18V程度に設定すると共に、送風ファン52による風量を0.9〜2L/分/cm2に設定することが好ましい。
以下の実施例では、本発明に係る電子放出素子を用いて電流測定した実験について説明する。なお、この実施例は一例であって、本発明の内容を制限するものではない。図8は、図2で説明した実施形態2の電子放出素子91を用いて電子放出電流Ieを測定するための実験系を示す模式図である。
まず、実施例1の電子放出素子および比較例1の電子放出素子を以下のように作製した。なお、実施例1と比較例1は、図2に示した電子放出素子91と基本となる構成は同じであるため、図2と図8を参照しながら説明する。実施例1は、図2と同様の構造を有する電子放出素子91であり、比較例1は図1における中間層3において導電性微粒子層5が省略され、絶縁性微粒子層4に導電性微粒子を面内方向で均一となるように含有させた電子放出素子である。
そして、作製した各電子放出素子について、図8に示す実験系を用いて単位面積あたりの電子放出電流の測定実験を行った。図8の実験系では、電子放出素子9の第2電極2側に、絶縁体スペーサー12を挟んで対向電極13を配置させる。そして、電子放出素子9には直流電源部8AからV1の電圧、対向電極13には直流電源部8BからV2の電圧が印加されるようになっている。
このような実験系を、温度25℃、湿度30%RHの大気中に配置して電子放出実験を行った。また、実験では、絶縁体スペーサー12を挟んで、電子放出素子9と対向電極13との距離は0.9mmとした。また、電子放出素子9への印加電圧V1=0〜25Vとし、500Hz、50%の矩形波で駆動し、対向電極13への印加電圧V2=500Vとした。
(実施例1)
第1電極1として24mm×24mm角のアルミ基板を用い、第1電極1上に60μm角(対角:84.9μm)の小孔6aが289個(=17個×17個)均一に配列されたアクリル系樹脂からなる膜厚制御絶縁膜6を作製した。なお、膜厚制御絶縁膜6の層厚は、2.5μmとした。また、小孔6aの総面積は0.01cm2とした。
次に、第1電極1及び膜厚制御絶縁膜6上に、絶縁性微粒子層4として粒径100nm、CV値0.22%の球状シリカ粒子が分散されたコロイルダルシリカ(日産化学工業株式会社製、MP1040、固形分濃度40wt%)を滴下し、500rpmで1秒間、続いて3000rpmで10秒間の条件で2段階のスピンコートを行って、絶縁性微粒子4aを含む塗布膜を形成し、この塗布膜をホットプレートにより150℃で60秒間乾燥することにより、膜厚制御絶縁膜6の複数の小孔6aに対応した複数の凹部4bを表面に有する絶縁性微粒子層4を形成した。
次に、複数の凹部4bを表面に有する絶縁性微粒子層4の上に、シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング株式会社製、SR2411)を滴下し、500rpmで1秒間、続いて3000rpmで10秒間の条件で2段階のスピンコートを行って、シリコーン樹脂の塗布膜を形成し、この塗布膜をホットプレートにより150℃で60秒間乾燥することによりシリコーン樹脂層7を形成した。
さらに、シリコーン樹脂層7の上に、導電性微粒子5aとして粒径15nmの銀ナノ粒子が分散した銀コロイド溶液(株式会社巴製作所製、固形分濃度2wt%)を滴下し、7500rpmで11秒間スピンコートを行って、導電性微粒子5aを含む塗布膜を形成した。この塗布膜をホットプレートにより150℃で60秒間乾燥することにより、導電性微粒子層5を形成した。導電性微粒子層5は、絶縁性微粒子層の凹部で導電性微粒子5aが多く含有されており、凹部以外の部分では含有量が少なくなっていた。
以上により、絶縁性微粒子層4と導電性微粒子層5を含む、合計層厚1.2μmの中間層3を形成した。
続いて、真空蒸着装置を用いて、中間層3上に、グラファイトを材料とする層厚10nmの炭素薄膜を成膜した。
その後、マグネトロンスパッタ装置を用いて、炭素薄膜上にAu−Pdを材料とする層厚50nm、同面積72.25mm2(8.5mm×8.5mm)の第2電極2を形成することにより、実施例1の電子放出素子9を得た。
図9は、実施例1の電子放出素子91を連続して駆動した際に、外部に放出される電子の放出量を表わす電子放出電流Ieと、放出されずに素子の内部に流れる素子内部電流Ipと、電子放出素子91が形成された基板の温度について、経過時間における変化を示すグラフである。実施例1では、電子放出素子91への印加電圧15Vにて、単位面積あたりの電子放出電流Ieが1.0×10−6A/cm2を示し、連続して300時間以上駆動しても安定して電子を放出できていることが確認された。
また、素子内電流Ipが1.0×10−1A/cm2と比較的低い値を示し、このため、基板温度は、300時間以上駆動しても室温とほぼ同じ27℃前後のまま安定しており、電子放出素子9で発熱が生じていないことが確認された。
(比較例1)
比較例1は、図2における中間層3において、絶縁性微粒子層4上の導電性微粒子層5が省略され、導電性微粒子5aを絶縁性微粒子層4中に含有したものである。このため、実施例1とは、導電性微粒子5aが凹部4bを含む絶縁性微粒子層4全体に均一に含有されている点で異なる。なお、他の構成については実施例1と同じであるため、以下では比較例1における絶縁性微粒子層4を主に説明する。
実施例1と同じ第1電極1および膜厚制御絶縁膜6の上に、絶縁性微粒子層4を形成するための分散液として、5mLの試薬瓶に、溶媒であるヘキサン2.5gと、絶縁性微粒子4aとして粒径50nmの球状シリカ粒子0.25gを投入し、超音波分散器を用いて試薬瓶中の微粒子を分散して絶縁性微粒子分散液を調製した。
そして、得られた絶縁性微粒子分散液に、導電性微粒子5aである銀ナノ粒子(応用ナノ粒子研究所製、銀微粒子の粒径10nm)0.06gを投入し、超音波分散器を用いて試薬瓶中の微粒子を分散して絶縁性微粒子4aと導電性微粒子5aの分散液を調製した。
得られた絶縁性微粒子4aと導電性微粒子5aの分散液に、シリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング株式会社製、SR2411)0.1gを投入し、超音波分散器を用いて試薬瓶中の微粒子を分散して、絶縁性微粒子4aと導電性微粒子5aとシリコーン樹脂の分散液Aを調製した。
次に、次に、アルミ基板および絶縁膜6上に、分散液Aを滴下し、500rpmで1秒間、続いて3000rpmで10秒間の条件で2段階のスピンコートを行って、絶縁性微粒子4aと導電性微粒子5aを含む塗布膜を形成し、ホットプレートを用いて、この塗布膜を150℃で60秒間乾燥することにより、層厚0.5μmの中間層3−1を形成した。そして、経時変化を起こさないため、直ぐに次の工程に移った。
中間層3−1上に分散液Aを滴下し、500rpmで1秒間、続いて3000rpmで10秒間の条件で2段階のスピンコートを行って、絶縁性微粒子4aとシリコーン樹脂を含む塗布膜を形成し、ホットプレートを用いてこの塗布膜を200℃で90秒間乾燥することにより、層厚0.4μmの中間層3−2を形成した。そして、経時変化を起こさないため、直ぐに次の工程に移った。
中間層3−2上に分散液Aを滴下し、500rpmで1秒間、続いて3000rpmで10秒間の条件で2段階のスピンコートを行って、絶縁性微粒子4aとシリコーン樹脂を含む塗布膜を形成し、ホットプレートを用いてこの塗布膜を200℃で90秒間乾燥することにより、層厚0.3μmの中間層3−3を形成し、それによって中間層3−1と中間層3−2と中間層3−3とが積層した層厚1.2μmの中間層3を形成した。このような3層からなる中間層3を形成することにより、最終的な凹部4bの深さや形状を実施例1と同等にして、導電性微粒子5aの面内分布の差を比較できるようにした。
上記3層からなる中間層3を形成した後、実施例1と同様に炭素薄膜と第2電極2を形成して、比較例1の電子放出素子を得た。図10は、実施例1と同様に、比較例1の電子放出電流Ie、素子内電流Ip、基板温度の変化を測定した結果を示すグラフである。
比較例1では、電子放出素子9への印加電圧15Vにて、単位面積あたりの電子放出電流Ieが、駆動を始めてから35時間程度までの間は1.0×10−6A/cm2を示すものの、40時間付近から不安定となり、電子放出量が急激に減少していることが確認された。
また、素子内電流Ipが1.0×100A/cm2と実施例1に比べて10倍程度大きくなっており、このため、基板温度が駆動開始とともに上昇し始めて、40時間経過した時点で80℃近くになっており、電子放出量の減少に基板温度が影響していることが確認された。
実施例1および比較例1の結果から、導電性微粒子4aを多く含有する導電性微粒子層4が設けられた電子放出素子9の凹部4bでは、単に絶縁性微粒子層4に凹部4bを設けただけの構成よりも凹部4bに電流パスを形成し易くなり、第2電極から放出される電子の放出効率を向上させることができる。同時に、凹部以外の部分では導電性微粒子の含有量が少ない導電性微粒子層4が介在するので電流パスが形成され難く、電子放出素子の内部電流による発熱を抑制することができ、電子放出素子が劣化することなく、長時間安定して電子放出できることが見出せた。