以下、本発明に係る電子放出素子、電子放出装置の実施形態及び実施例について、図1〜図16を参照して説明する。なお、以下に記述する実施の形態及び実施例は、本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
〔実施の形態1〕
図1は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置10の構成を示す模式図である。
図1に示すように、電子放出装置10は、本発明に係る一実施形態の電子放出素子1と電源7とを有する。電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極3と、その間に挟まれた電子加速層4とからなる。電極基板2と薄膜電極3の間に、電源7にて電圧が印加されるようになっている。
電極基板2と薄膜電極3との間に電圧が印加されると、電極基板2と薄膜電極3との間の電子加速層4に電流が流れ、その一部が、印加電圧の形成する強電界により弾道電子として電子加速層4から放出され、薄膜電極3側より素子外部へと放出される。
電子加速層4から放出された電子は、薄膜電極3を通過(透過)して、或いは、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4の表面に凹凸等の影響から生じる薄膜電極3の孔(隙間)からすり抜けて外部へと放出される。
前述したように、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4のあらゆる箇所から電子が放出される構成では、電子放出側に位置する薄膜電極3が、放出電子によって逆スパッタされ、薄膜電極3は、時間と共に消失し、最終的には上部電極としての機能を失うといった問題がある。また、薄膜電極3面内に偶発的に電子放出部を形成する構成では、薄膜電極3内での電子の放出位置、及び単位面積当たりの放出量等を制御することはできないといった問題がある。
このような問題を解決するために、本実施形態の電子放出素子1では、電子加速層4の全面から電子を放出させるのではなく、電子加速層4の任意の箇所に電子放出部を設け、電子加速層4の特定部分よりのみ電子を放出させる構成としている。
すなわち、電子加速層4は、絶縁体微粒子を含む微粒子層105を有し、該微粒子層105には、微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が、微粒子層105の上面よりみた場合の付与位置が離散的になるように付与されており、電子加速層4には、当該電子加速層4を厚み方向に通る導電経路であって、経路出口が電子を前記薄膜電極3へと与える電子放出部となる導電経路が予め形成され、かつ、微粒子層105の表面積に対する前記単独物質又は混合物質の付与部分の総表面積が5%以上90.6%以下、薄膜電極3の厚みが100nm以上500nm以下に設定されている。ここで、予め導電経路が形成されているとは、真空中で素子1に電圧印加を行い、駆動するよりも前であって、つまり、電子放出素子1の製造工程において形成しておくという意味である。
上記構成によれば、電子は、薄膜電極3側に任意の箇所から放出されるのではなく、薄膜電極3の下層に位置する電子加速層4に予め形成された電子放出部より放出される。電子放出部は、当該電子加速層4に形成されている、電子加速層4を厚み方向に通る予め形成されている導電経路の出口であって、薄膜電極3より放出される電子は、この導電経路を通って薄膜電極3へと与えられ放出される。
このように、上記電子放出素子1では、電子加速層4の任意の箇所から放出されるのではなく、放出する箇所が、予め形成されている導電経路の出口に相当する電子加速層4の電子放出部に特定される。したがって、薄膜電極3において、放出される電子によって逆スパッタされる部分は、電子放出部の真上に位置する部分や、電子放出部近傍に位置する部分に限定されることとなり、これ以外の部分では、電子に曝されることはなく、薄膜電極を構成する金属材料が放出電子により逆スパッタされ、時間と共に消失し、最終的には電極としての機能が失われることがない。
しかも、上記単独物質又は混合物質が、微粒子層105の上面よりみた場合の付与位置が離散的になるように付与されているので、電子放出部を薄膜電極面内に任意に配置することが可能となり、薄膜電極内での電子の放出位置や、単位面積当たりの放出量等の制御が可能になる。
さらに、微粒子層の表面積に対する前記単独物質又は混合物質の付与部分の総表面積が5%以上90.6%以下、薄膜電極の厚みが100nm以上500nm以下としている。これにより、連続駆動時に、電子加速層における電子放出部以外の部分が選択的に破壊されるといった問題を回避することができる、また、薄膜電極を通しての電子放出を阻害することなく、連続駆動時に、前記単独物質又は混合物質の付与部分或いはその上の薄膜電極との両方が破壊されるといった問題を回避することができる。以下、より具体的に説明する。
図1は、電子加速層4における微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質が、導電微粒子6である場合の電子放出素子1を示している。図2に示すように、導電微粒子6は、微粒子層105の表面に離散的に堆積されて部分的な堆積物107…を形成している。導電微粒子6の微粒子層105への付与は、微粒子層105の表面に導電微粒子6が堆積されて部分的な堆積物107…を形成することで実現されている。個々の堆積物107には、導電経路の形成にて、電子放出部となる物理的な欠陥が設けられている。図2は、電極基板2上に形成された電子加速層4の上面図である。
また、図3に、導電微粒子6の堆積物107…を有する構成の電子加速層4における断面の模式図を示す。導電微粒子6の堆積物107…は、絶縁体微粒子5を含む微粒子層105の上にドーム状に堆積されている。堆積物107…と微粒子層105との界面において、導電微粒子6は絶縁体微粒子5と混じり合うことなく、微粒子層105の表面(上面)に堆積されている。
導電微粒子6を微粒子層105に混じり合うことなくその表面に堆積させる手法としては、導電微粒子6と絶縁体微粒子5のサイズを同程度としたり、或いは、微粒子層105において、絶縁体微粒子5相互をバインダー樹脂を用いて結着させたりすることで実現できる。特に、微粒子層105をバインダー樹脂にて固める構成では、絶縁体微粒子5及び導電微粒子6の各粒子径を、導電微粒子6の微粒子層105への混じり込みを考慮することなく選択できるので材料選択の自由度が広がる。また、電子放出素子1自体の機械的強度が上がるといったメリットもある。
そして、各堆積物107には、物理的な欠陥よりなる電子放出部108が形成されている。電子放出部108の下には、図示してはいないが、導電経路が形成されている。ここで、電子放出部108及び導電経路は、大気中でのフォーミング処理にて形成される。
一般的にフォーミング処理とは、例えば、特許文献2に記載されているように、一般的にMIM型に構成された電子放出素子に、電界を加えて導電経路を形成する処理のことである。フォーミング処理は、通常の絶縁破壊とは決定的に異なり、a)電極材料の絶縁体層中への拡散、b)絶縁体物質の結晶化、c)フィラメントと呼ばれる導電経路の形成、d)絶縁体物質の化学量論的なズレ等、様々な説で説明される導電経路(電流経路)の偶発的な成長である。
このような大気中のフォーミング処理による導電経路(予め形成されている導電経路)の形成は、微粒子層105表面にある導電微粒子6の堆積物107…が、微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高めることで、大気中のフォーミング処理によって容易に形成できる。
電子加速層4に予め導電経路が形成されていることで、その後の真空中における電子放出操作に要する素子への電圧印加によって、新たに導電経路が形成されることはなく、素子内電流は、予め形成されている導電経路を通って流れる。これにより、電子放出時に、導電経路が安定して機能することとなる。これに対し、予め導電経路が形成されていない素子に対して真空中において電圧印加することは、導電経路の形成過程であり、かつ、電子放出過程である。つまり、導電経路を形成しながら、電子放出も行うこととなる。そして、このような条件で形成される導電経路の形成は、恒常的なものではなく、真空中において電圧を印加する度に、新たに形成されるものである。そのため、真空中において電圧を印加する度に、素子の導電状態が変わってしまい、安定した電子放出特性を得ることができない。
また、ここでは、導電微粒子6が微粒子層105の表面に離散的に堆積された、部分的な堆積物107…が離散的に配置された構成としているので、電子の放出位置を制御したり、単位面積当たりの放出量を制御したりすることができる。
大気中でのフォーミング処理工程では、電極基板2側から薄膜電極3側へと、導電微粒子6の堆積物107…における電流の流れ易い部分を目指して電流が流れ、導電経路(電流経路)が形成される。導電微粒子6の堆積物が面状のものであれば、電子放出部108は面状の堆積物の表面に偶発的に決定され、形成される位置も個数も定まらない。このように電子放出部108が、電子加速層4表面に偶発的に形成されるのでは、電子の放出位置を制御したり、単位面積当たりの放出量を制御したりすることができない。
なお、電子放出量は、電極基板2と薄膜電極3との間に印加する電圧を変化させることでも制御可能であり、低電圧では電子の放出量を小さく、高電圧では電子の放出量を大きく操作できる。しかしながら本明細で開示される素子は、低電圧印加時の電子放出量が極端に小さく、電子放出効率が著しく低下する。このため、電子放出量を極端に小さく絞り込みたい時には、印加電圧による電子放出量の制御は用いられない。
これに対し、導電微粒子6を離散的に堆積させ、部分的な堆積物107…が離散的に配置された図2のような構成では、大気中でのフォーミング処理により形成される導電経路は、電極基板2側から個々の堆積物107に対して形成されるようになり、個々の堆積物107に電子放出部108が形成されることとなる。したがって、堆積物107…の配置を制御することで、電子放出部を電子加速層4の表面の任意の位置に配置することが可能となり、電子放出素子1における面内での電子の放出位置や、単位面積当たりの放出量等の制御が可能になる。なお、堆積物107…の配置は、図2に示すように規則正しく配置されたものに限らず、ランダムに配置されたものであってもよいことはいうまでもない。
また、上記構成では、電子放出部が堆積物107の電子放出部108に特定されることで、薄膜電極3において、放出電子によって逆スパッタされ部分は、電子放出部108の真上に位置する部分や、電子放出部108近傍に位置する部分に限定され、薄膜電極3における電子放出部108の真上やその近傍に位置する部分以外では、放出電子に曝されることはない。したがって、長期間の駆動においても、薄膜電極3の上部電極としの機能を保持できる。
ところで、離散的に配置された各堆積物107の電子放出部108より電子を放出させる構成において、長時間に渡り安定に動作させるには、薄膜電極3表面積に対する電子放出部の個数、及び薄膜電極3の厚さが重要である。
つまり、薄膜電極3表面積に対する電子放出部の個数が少ない場合、連続駆動時(長時間駆動時)に、電子加速層における電子放出部以外の部分、つまり、表面に導電微粒子6の堆積物107が配置されていない微粒子層105部分及びその上の薄膜電極3が選択的に破壊され易くなり、連続駆動と共に表面の導通を失い、最終的に電子放出が途絶えてしまう。このような現象は、電子放出部以外の微粒子層105部分が破壊されて本来電流の流れない部分に極少量の電流が流れ込むようになり、連続駆動を重ねることで電荷が蓄積され、最終的に微粒子層105の絶縁破壊を生じたことによるものと考えられる。
また、薄膜電極3の表面積に対する電子放出部の個数が充分多くとも、長時間駆動(連続駆動)時に、薄膜電極3の厚さが充分でない場合、たとえ印加電圧が低くとも、堆積物107が破壊されてしまい、電子放出が途絶えてしまうことも判明した。
そこで、上記電子放出素子1においては、さらに、微粒子層105の表面積に対する堆積物107の総表面積が5%以上90.6%以下、薄膜電極3の厚みが100nm以上500nm以下としている。
微粒子層105の表面積に対する堆積物107の総表面積を5%以上とすることで、長時間駆動(連続駆動)時に、電子加速層4における電子放出部以外の部分が選択的に破壊されるといった問題を回避することができる。ここで、上限を90.6%としたのは、これを超えると、堆積物107同士が近接しあって繋がり合い、面状配置となってしまい、堆積物107を離散的に配置することが困難となるためである。堆積物107が面状に配置された電子放出素子では、エージング過程において電子放出部の異常増加が生じ、それに伴う素子内電流増加に素子が耐え切れず、素子破壊が生じ、短時間で電子放出が途絶えてしまうおそれがある。
また、薄膜電極3の厚みを100nm以上とすることで、連続駆動時に、堆積物107、或いは堆積物107とその上の薄膜電極3の両方が破壊されるといった問題を回避することができる。100nm未満では、連続駆動時に電極膜の破壊が生じやすく、導通不良となる虞がある。上限500nmとしたのは、これを超えると、大気中でのフォーミング処理時に、より高電圧を必要とし、制御性に欠ける虞があり、また、堆積物107と大気を隔てる薄膜電極3の、気体分子透過性が失われ、フォーミング処理が行えなくなる、すなわち、電子放出しなくなる虞があるためである。
また、ここで、微粒子層105の表面積に対する堆積物107の総表面積の下限は、10%以上とすることがより好ましい。これによれば、連続駆動時に、電子加速層における電子放出部以外の部分が選択的に破壊されるといった問題をより確実に回避することができる。
同様に、薄膜電極3の厚みの下限は、160nm以上とすることがより好ましい。これによれば、連続駆動時に、堆積物107…、或いは堆積物107…とその上の薄膜電極3の両方が破壊されるといった問題をより確実に回避することができる。
堆積物107の形成方法は、導電微粒子6の離散的な堆積を可能とする方法であれば、インクジェットヘッドを用いたインクジェット法以外に、マスクを用いたスプレー塗布法や、マスクレスで導電微粒子6の液滴を飛散可能な静電噴霧法等が利用可能である。しかしながら、塗布位置の制御性と塗布量の繰り返し再現性を考慮すると、インクジェット法による塗布が好ましい。
図4に、ある堆積物107の表面写真を示す。これは、インクジェット法で形成したものであるが、インクジェット法にてドーム状に形成した部分的な堆積物107は、乾燥過程で所謂コーヒーリング現象を起こし、円の中央部を窪ませ、外周部リングをやや盛り上がらせた状態で固化する。なお、図4は、フォーミング処理前の堆積物107を撮影したものであるので、電子放出部108は形成されておらず、堆積物107の表面は滑らかである。
なお、以上においては、電子加速層4における微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高める単独物質又は混合物質として、導電微粒子6を提示したが、他の例として、電子対を供与する電子供与体が置換基として導入されてなる塩基性分散剤を微粒子層105に付与する構成も考えられる。
微粒子層105に、塩基性分散剤を含む塩基性溶液を塗布することで、微粒子層105を構成する絶縁体微粒子5の粒子表面へ、塩基性溶液中に含まれる電子供与基に代表される特定の置換基(例えば、π電子系であるフェニル基やビニル基、そしてアルキル基、アミノ基、等)を付与することが可能となる。絶縁体微粒子5の表面に特定の置換基を付与することで、それらを通じた粒子表面の電気伝導が容易になるだけでなく、大気中という雰囲気条件から、大気中の水分子あるいは酸素分子の表面付着が、この電気伝導現象をさらに容易にする。この結果、導電微粒子6の堆積物107…と同様に、大気中のフォーミング処理にて、微粒子層105に、恒常的な導電経路を形成することができる。塩基性溶液の場合、導電微粒子6とは異なり、微粒子層105の表面に留まることはなく、微粒子層105内に拡散されていき、塩基性溶液が拡散された部分が離散的に存在することとなる。
本発明に適用できる塩基性分散剤の市販品を例示すると、アビシア社製の商品名:ソルスパース9000、13240、13940、20000、24000、24000GR、24000SC、26000、28000、32550、34750、31845等の各種ソルスパース分散剤、ビックケミー社製の商品名:ディスパービック106、112、116、142、161、162,163、164、165、166、181、182、183、184、185、191、2000、2001、味の素ファインテクノ社製の商品名:アジスパーPB711、PB411、PB111、PB821、PB822、エフカケミカルズ社製の商品名:EFKA−47、4050等を挙げることができる。
また、塩基性溶液の場合、微粒子層105の表面に留まることはなく、微粒子層105内に拡散されていくので、塩基性溶液を付与した微粒子層105では、大気中のフォーミング処理にて導電経路を形成した場合、導電微粒子6の堆積物107…に形成されるような、物理的な欠陥よりなる電子放出部は形成されず、導電経路の出口が電子放出部となるのみである。したがって、電子放出部を保護し、長期駆動を実現するといった観点から言えば、導電微粒子6の堆積物107…のように、電子放出部を硬く形成する必要から、電子放出部を固めるような固体物質を、塩基性溶液に混ぜて塗布し、導電微粒子6の堆積物107…のように、電子放出部を固体物質の堆積物中に形成する手法が好ましい。
次に、このような電子放出素子1における各部の材料について説明する。
電極基板2は、電極としての機能に付加して、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有する基板であれば、特に制限なく、用いることができる。具体的には、例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板を挙げることができる。また、ガラス基板やプラスティック基板等の絶縁体基板の表面(電子加速層4との界面)に、金属などの導電性物質を電極として付着させたものであってもよい。絶縁体基板の表面に付着させる上記導電性物質としては、導電性に優れ、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、特に問わないが、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよい。但し、これら材料及び数値に限定されることはない。
薄膜電極3は、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく、用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロスなく透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどを挙げることができる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物及び硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また、薄膜電極3の膜厚は、既に説明したように、本発明では、100nm以上500nm以下の範囲としている。
電子加速層4における微粒子層105を構成する絶縁体微粒子5の材料としては、SiO2、Al2O3、TiO2といったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒子径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、電子加速層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体微粒子5として、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよい。
絶縁体微粒子5としては、材質の異なる2種類以上の粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、さらには、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。但し、上述したように、微粒子層105の上には導電微粒子6の堆積物107…が形成される。堆積物107…と微粒子層105との界面においては、若干の相互混入は致し方ないとしても、両層は分離されている必要がある。そのため、絶縁体微粒子5の粒子径は、微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める上記単独物質又は混合物質が導電微粒子6である場合、導電微粒子6の粒子径に応じて、混合が起こらないように選択する必要がある。但し、絶縁体微粒子5相互を結着させるバインダー樹脂を使用する場合は、バインダー樹脂が導電微粒子6の入り込みを防止するため、バインダー樹脂を使用しない場合に比べて、絶縁体微粒子5の粒子径にある程度の余裕が見込める。
また、微粒子層105の層厚としては、導電微粒子6を塗布する時に用いた溶媒を吸収して、微粒子層105内に拡散させ得るに十分な厚さを有していることが好ましい。これは、詳細は後述するが、好適な製造のためには、微粒子層105の上に導電微粒子6を堆積させた電子加速層4の表面全体に、塩基性溶液を塗布する工程を付加するためである。電子加速層4における堆積物107…が完全に固化していない状態で、塩基性溶液を塗布すると、堆積物107…を構成している導電微粒子6が塩基性溶液中に流出してしまう。そのため、堆積物107…は、塩基性溶液を塗布するときには完全に固化されている必要がある。そして、堆積物107…を完全に固化させるためには、導電微粒子6を塗布するときに用いた溶媒を微粒子層105にて吸収、拡散させる必要がある。そのため、微粒子層105は溶媒を吸収できる程度に空隙を持つこと、及び溶媒を吸収、拡散するのに十分な層厚を持つことが必要条件となる。なお、このことは、微粒子層の厚み方向における電気の流れ易さを高める上記単独物質又は混合物質として、塩基性分散剤を含む塩基性溶液を用い、これに固体物質を混合した場合も同じである。
一方、導電微粒子6の材料としては、導電微粒子6が配置されている部分において、微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高めるものであれば、どのような導電体でも用いることができるが、抗酸化力が高い導電体であると大気圧動作させた時の酸化劣化を避けることができる。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。抗酸化力が高い導電体としては、貴金属、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。
このような導電微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。導電微粒子の粒子径は、堆積物が電気的に飛ばされない程度の粒子径であることが必要であり、実験では、平均粒径が5nmであれば逆スパッタ現象を防止できることを確認している。
また、導電微粒子6の周囲には、導電微粒子6の平均粒径より小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよく、この小絶縁体物質は、導電微粒子6の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、導電微粒子6の平均径より小さい形状の集合体として、導電微粒子6の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。小絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、導電微粒子6の大きさより小さい絶縁体物質が導電微粒子6を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を導電微粒子6の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
また、微粒子層105に使用されるバインダー樹脂としては、電極基板2との接着性がよく、絶縁体微粒子5を分散でき、絶縁性を有するものであればよい。このようなバインダー樹脂15として、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、などが挙げられる。これらの樹脂バインダーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
次に、微粒子層105の上に導電微粒子6を堆積させた電子放出素子1の製造方法の一実施形態について説明する。
まず、分散溶媒に、分散剤と、絶縁体微粒子5とを投入して、超音波分散器にかけて絶縁体微粒子5を分散させ、絶縁体微粒子分散溶液を得る。なお、分散法は、特に限定されず、超音波分散器以外の方法で分散させてもよい。絶縁体微粒子5を分散させる分散溶媒としては、絶縁体微粒子5を効果的に分散でき、かつ塗布後に蒸発するものであれば、特に制限なく、用いることができる。例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。分散剤も、分散溶媒との相性がよく、絶縁体微粒子5を分散させ得るものであればよい。
次に、上記のように作成した絶縁体微粒子分散溶液を、電極基板2上に塗布して、電子加速層4における微粒子層105を形成する。塗布方法として、例えば、スピンコート法を用いることができる。上記絶縁体微粒子分散溶液を電極基板2上に滴下し、スピンコート法を用いて、微粒子層105となる薄膜を形成する。電極基板2上への絶縁体微粒子分散溶液の滴下、スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。微粒子層105の成膜には、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法も用いることができる。
次に、分散溶媒に、分散剤と、導電微粒子6とを投入して、超音波分散器にかけて導電微粒子6を分散させ、導電微粒子分散溶液Bを得る。なお、分散法は、特に限定されず、超音波分散器以外の方法で分散させてもよい。導電微粒子6を分散させる分散溶媒としては、導電微粒子6を効果的に分散でき、かつ塗布後に蒸発するものであれば、特に制限なく、用いることができる。例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。分散剤も、分散溶媒との相性がよく、導電微粒子6を分散させ得るものであればよい。
また、導電微粒子分散溶液Bとしては、導電微粒子6が予め分散溶媒に分散されて市販されている導電微粒子分散溶液を用いてもよい。但し、塗布方法によって、塗布溶液には粘土の制限があるため、制限内であれば、市販されている導電微粒子分散溶液を使ってもよい。
上記導電微粒子分散溶液Bを微粒子層105の表面に離散的に塗布して、導電微粒子6を堆積させる。離散的に堆積させる塗布方法としては、インクジェット法が最も好ましいが、マスクを用いたスプレー塗布法や、マスクレスで導電微粒子6の液滴を飛散可能な静電噴霧法等でもよい。
微粒子層105上に離散的に配置された導電微粒子6の堆積物107が形成されると、さらに、その上に全面を覆うように薄膜電極3を成膜する。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いることができる。また、薄膜電極3の成膜には、マグネトロンスパッタ法以外に、例えば、インクジェット法や、スピンコート法、蒸着法等を用いることもできる。
次に、大気中において、電極基板2と薄膜電極3との間に直流電圧を印加して、導電微粒子6の堆積物107を物理的に部分破壊するフォーミング処理を行う。これにより、堆積物107に電子放出部108が形成される。
フォーミング処理を行うにあたり、電極基板2と薄膜電極3との間に印加する直流電圧は、段階的に上昇させていくことが好ましい。これは、電極基板2と薄膜電極3との間に、必要な電界を発生させる電圧を一気に印加すると、素子が絶縁破壊を起こす虞があるためである。電圧を段階的に上昇させていくことで、絶縁破壊を起こすことなく、フォーミング処理を行うことができる。
また、フォーミング処理において、電極基板2と薄膜電極3との間に印加する電圧は、電極基板2と薄膜電極3との間に発生する電界強度が、1.9×107〜4.1×107[V/m]となるように設定することが好ましい。これは、電界強度が1.9×107[V/m]未満となると、フォーミング処理ができないか、できた場合でも導電経路の形成が不十分であり、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流が電子放出を得るだけの十分な量とならない状態となり、また、電界強度が4.1×107[V/m]を超えると、大規模な絶縁破壊を生じ易く導電経路そのものが破壊されてしまう。一度このような経過を辿ると、電子放出に要する電圧を印加しても、素子内電流はまったく流れなくなるか、流れたとしても電子放出を得るだけの十分な量とならない状態となるためである。
そして、本発明の電子放出素子1を製造するにあたり、より好ましくは、微粒子層105上に堆積物107…が形成されてなる電子加速層4の表面全体に、電子加速層4における微粒子層105の厚み方向における電気の流れ易さを高める、導電微粒子6以外の単独物質又は混合物質として先に述べた塩基性分散剤を含む塩基性溶液を塗布し、その後、薄膜電極3を形成することである。
堆積物107…は、導電微粒子6が微粒子層105上部に堆積したもので、導電微粒子6の密度が高い状態にある。一方、微粒子層105は、一部の導電微粒子6が界面付近で浸透することはあっても、その存在割合は極めて低い状態にある。したがって、このような電子加速層4においては、フォーミング処理工程において直流電圧を印加しても、導電経路の形成は容易ではない。
ところが、上記のように、電子加速層4に上記塩基性溶液を塗布することで、フォーミング処理工程において、再現性よく、小さなエネルギーで、しかも穏やかな処理条件にて、電子放出部108を形成し、導電経路を形成できることを確認している。
表面に堆積物107…を有する微粒子層105に、塩基性溶液を塗布することで、既に説明したように、粒子表面の電気伝導が容易になると共に、大気中という雰囲気条件から、大気中の水分子あるいは酸素分子の表面付着が、この電気伝導現象をさらに容易にする。この結果、フォーミング処理が容易かつ、確実に実行可能となる。
ここで、塩基性溶液の塗布方法は、微粒子層105の表面の堆積物107…が配置されてなる電子加速層4を壊すことなく、ごく少量の溶液を均一にコートできる方法であればよく、スピンコート法、滴下法等が挙げられる。
また、塩基性溶液を塗布する手順であるが、導電微粒子6の堆積物107…を形成する前の微粒子層105に塗布することも可能であるが、本願出願人は、導電微粒子6の堆積物107…を配置した後に塩基性溶液を塗布する手順が、フォーミング処理における電流経路の形成を容易にすると考えている。
これは、以下の理由による。図5(a)〜図5(c)は、何れも、導電微粒子6が離散的に配置されたある堆積物107の表面を示す写真である。このうち、図5(a)は、塩基性溶液塗布前(フォーミング処理前)の堆積物107の表面状態を示す。エッジ部に、一周する黒い線が確認できる。図5(b)は、塩基性溶液塗布直後(フォーミング処理前)の堆積物107の表面状態を、エッジに焦点をあてて撮影したものである。図5(a)と比較するとわかるように、エッジ部より内側に、新たに、一周する2本目の黒い線ができていることがわかる。図5(c)は、塩基性溶液塗布直後(フォーミング処理前)の堆積物107の表面状態を、一番盛り上がっているリング部に焦点をあてて撮影したものである。図5(a)と比較するとわかるように、一番盛り上がっているリングの一部に傷つけられたような痕が確認でき、また中央の凹部には、青い物質の溜りが確認できる。
本願出願人は、このような観察の結果、堆積物107…を配置した後に塩基性溶液を塗布することで、堆積物107…の表面に傷を付けることが可能となり、後段のフォーミング処理においては、電流がこの表面の傷を目がけて流れ、その結果、導電経路の形成が容易になると考察している。
[実施例1]
10mLの試薬瓶にエタノール溶媒2.0gと、テトラメトキシシランKBM−04(信越化学工業株式会社製)0.5gを入れ、絶縁体物質として平均径12nmの球状シリカ粒子AEROSIL R8200(エボニックエグサジャパン株式会社製)を0.5g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、シリカ粒子分散溶液とした。
電極基板2となるITO薄膜を表面に有した25mm角のガラス基板上に、上記のシリカ粒子分散溶液を滴下後、スピンコート法を用いて8000rpm、10sの条件でシリカ粒子層を形成し、数時間室温乾燥することで微粒子層105に相当するシリカ粒子層が得られる。
このシリカ粒子層表面へ、導電微粒子6としての銀ナノ粒子を分散させたテトラデカン分散溶液(株式会社アルバック製、銀微粒子の平均粒径5.0nm、銀微粒子固形分濃度54%)を、所謂インクジェットヘッドを使用して離散的に吐出し、着弾径26μm、約20,400個/cm2の密度で、銀ナノ粒子の堆積物107である銀粒子ドームを形成した。この時のインクジェットヘッドの吐出条件は、吐出体積4pL、千鳥状に吐出し、着弾位置の最小距離が62μmとなる様にした。このとき、シリカ粒子層の表面積に対する銀粒子ドームの総表面積、つまり着弾密度は11%である。
この銀粒子ドームを多数有するシリカ粒子層に、塩基性溶液を、スピンコート法を用いて塗布する。塩基性溶液は、10mLの試薬瓶にトルエン溶媒を3mL入れ、塩基性分散剤(塩基性官能基含有共重合物)であるアジスパーPB821(味の素ファインテクノ株式会社製)を0.03g投入し、超音波分散器にかけて分散して得られる。この塩基性溶液を、上記シリカ粒子層に滴下後、スピンコート法を用いて1000rpm、10sの条件で塗布した。
最後に、銀粒子ドームが形成された上記シリア粒子層表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて膜厚160nmの薄膜電極3としての表面電極を成膜することにより、銀粒子ドームが密で、表面電極が厚膜のサンプルNo1の電子放出素子1が得られた。表面電極の成膜材料として金を使用し、電極面積は0.014cm2とした。この表面電極内に存在する銀粒子ドームの数は、約290個となる。
次に、これまでの製造条件で得られた電子放出素子を、大気中において直流電圧を印加し、銀粒子ドームに導電路(電流路)を形成した。この時の電圧の最大値は+20Vとし、0.1Vのステップで1Vの電圧上昇に3秒を要する条件で電圧上昇を行った。
このような電圧印加の間に、素子表面では銀粒子ドームに目視で判別可能な発光現象が生じており、その現象と引き換えに、銀粒子ドームの一部に、電子放出部108となる欠け、或いは割れが形成される。この銀粒子ドームに生じた欠陥は次に電圧を印加した時の電流路となることから、この大気中での電圧印加処理は、一般的なMIM型に構成された電子放出素子に、電界を加えて電流路を形成する所謂“フォーミング処理”と同様な電流路形成メカニズムを進展させると考えられる。
[比較例1]
一方、銀ナノ粒子を分散させたテトラデカン分散溶液をシリカ粒子層に、インクジェットヘッドを使用して離散的に吐出するにあたり、銀ナノ粒子の着弾密度が、シリカ粒子層表面の2〜3.5%を覆う様に塗布した以外、サンプルNo.1の電子放出素子1と同じ条件で、サンプルNo.2の電子放出素子を作成した。このサンプルNo.2の電子放出素子の場合、面積0.014cm2の表面電極内に存在する銀粒子ドームの数は、55〜100個程度となる。この条件を導電微粒子ドームの疎な電子放出素子の条件とする。サンプルNo.2の電子放出素子は、銀粒子ドームが疎で、表面電極が厚膜の電子放出素子である。
[比較例2]
銀粒子ドームが形成された上記シリア粒子層表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて膜厚40nmの薄膜電極3としての表面電極を成膜すること以外は、サンプルNo.1の電子放出素子1と同じ条件で、サンプルNo.3A,3Bの電子放出素子を作成した。このサンプルNo.3A,3Bの電子放出素子の場合、面積0.014cm2の表面電極内に存在する銀粒子ドームの数は、290個程度でなり、銀粒子ドームは密で、表面電極が薄膜の電子放出素子である。
[比較例3]
銀ナノ粒子を分散させたテトラデカン分散溶液をシリカ粒子層に、インクジェットヘッドを使用して離散的に吐出するにあたり、銀ナノ粒子の着弾密度が、シリカ粒子層表面の2〜3.5%を覆う様に塗布し、かつ、銀粒子ドームが形成された上記シリア粒子層表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて膜厚40nmの薄膜電極3としての表面電極を成膜した以外、サンプルNo.1の電子放出素子1と同じ条件で、サンプルNo.4の電子放出素子を作成した。このサンプルNo.4の電子放出素子は、銀粒子ドームが疎で、表面電極が薄膜の電子放出素子である。
[比較例4]
大気中でフォーミング処理を行っていない以外は、サンプルNo.1の電子放出素子1と同じ条件で、サンプルNo.5の電子放出素子を作成した。このサンプルNo.5の電子放出素子は、銀粒子ドームが密で、表面電極が厚膜であるが、電流路、電子放出部108が形成されていない電子放出素子である。
このように作成したサンプルNo.1〜5の各電子放出素子に対して、電子放出実験を行った。電子放出実験には、図6に示す測定系を用いて行った。
図6の測定系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ9(径:1mm)を挟んで対向電極8を配置させる。そして、電子放出素子1の電極基板2と薄膜電極3との間には、電源7AによりV1の電圧が印加され、対向電極8には電源7BによりV2の電圧がかかるようになっている。薄膜電極3と電源7Aとの間を流れる単位面積当たりの素子内電流(素子内電流密度)I1を、上記測定系を1×10−8ATMの真空中に配置して測定した。
図7に、実施例1のサンプルNo1の電子放出素子1に対し、真空中で電子放出特性を調べた結果を示す。表面電極への印加電圧17Vにて、単位面積当たりの電子放出電流は、1.24×10−4[A/cm2]の電子放出が得られた。
また、図8に、実施例1のサンプルNo1の電子放出素子1に対し、真空中にて+16V印加し、連続駆動したときの各電流の時間変化を調べた結果を示す。+16V印加して連続駆動すると、電圧印加開始から約30分後に、電流の急激な上昇とシリカ粒子層表面の銀粒子ドームでの断続的な発光が生じた。この時、銀微粒子ドームには目立った破壊痕は形成されていなかったが、一度ピークに達した後に各電流値は安定した状態を維持した。特に、電子放出量は高い値で、安定している。
また、図9に、実施例1のサンプルNo1の電子放出素子1に対し。真空中にて+16.5V印加して100時間、連続駆動したときの電子放出量の経時変化(各電流の時間変化)を調べた結果を示す。また、比較のために、銀粒子ドームが疎な状態にあり、表面電極の膜厚が40nmのサンプルNo.4の電子放出素子の電子放出量の経時変化を同時に掲載する。このサンプルNo.4の電子放出素子の駆動電圧は+18Vである。
連続駆動20時間経過後の電子放出量は、銀粒子ドームの疎密に関係なく同等な値であるが、密度の疎の比較例3のサンプルNo.4の電子放出素子では、連続駆動80時間経過後から電子放出量がパルス状になり、約84時間後には電子放出が途絶えてしまった。一方、密度の密なサンプルNo.1素子では、100時間まで安定した電子放出が可能であった。
一方、表面電極は厚いが、銀粒子ドームが疎な比較例1のサンプルNo.2の電子放出素子では、長時間に渡り連続駆動すると、銀粒子ドームの存在する以外の場所(シリカ粒子層およびその表面に堆積した表面電極)が、駆動途中で破壊されてしまった。この破壊は、時間と共に増加する傾向にあり、最終的には表面電極の導通性が失われ、素子からの電子放出が無くなってしまった。この破壊は、本来電流の流れないシリカ粒子層に、強電界に伴った極少量の電流の流れ込みとその蓄積が、シリカ粒子層の絶縁破壊を引き起こしたものと考えられる。
これに対し、表面電極が厚く、銀粒子ドームも密な、サンプルNo.1の電子放出素子1では、同様な破壊は生じなかった。これは、本来電流の流れないシリカ粒子層での電荷の蓄積は、銀粒子ドームが疎な素子と同様に発生するだろうが、電流の流れ易い銀粒子ドームが密に存在するため、蓄積した電荷がシリカ粒子層を破壊するだけの量に達する前に、その電荷の一部は逐次銀粒子ドームへ漏洩すると考えられる。この結果、シリカ粒子層を破壊する規模の絶縁破壊が、生じ難くなっていると推察される。
銀粒子ドームは密であるが、表面電極が薄膜の比較例2のサンプルNo.3Aの電子放出素子に対して、例えば+18Vの印加電圧で連続駆動したところ、駆動開始から数分後に、素子内を流れる電流および放出電流が、電源の供給能力を遥かに超える程度の値まで急上昇し、素子に電圧がかからなくなってしまった。
そして、この電流の急激な上昇過程では、素子表面の銀粒子ドームがパルス状の発光を断続的に繰り返し、一部のドームは破壊に至ることを確認した。
図10に、比較例2のサンプルNo.3Bの電子放出素子に対し、今度は、より低い+13Vの印加電圧で連続駆動した結果を示す。図9は、銀粒子ドームが密で、表面電極の膜厚が40nmと薄い電子放出素子の、印加電圧が+13Vの時の各電流の時間変化である。駆動開始から数分後に、素子内を流れる電流および放出電流が、電源の供給能力を遥かに超える程度の値まで急上昇し、素子に電圧がかからなくなってしまった。この条件では、電流の急激な増加が電圧の印加開始から約8時間後に発生し、この現象が生じた直後に、電子放出は途絶えてしまった。
これより、銀粒子ドームの密度を増加させるだけでは、素子の長時間に渡る安定な動作を実現できず、薄膜電極3に相当する表面電極が薄い場合、連続駆動すると、たとえ駆動電圧が低くとも、駆動開始から数分後に、素子内を流れる電流および放出電流が、電源の供給能力を遥かに超える程度の値まで急上昇し、素子に電圧がかからなくなってしまうことがわかった。
そして、この物理現象を明確に説明することはできないが、この現象は、実施例1のサンプルNo.1の電子放出素子1のように、表面電極の膜厚を増加し、駆動電圧を+18Vよりも低い電圧とすることで対処できた。
この様に、銀ナノの密度を高くし、薄膜電極の膜厚を厚くし、さらに駆動電圧を低く抑えることで、放出電流量が高い状態を維持したまま、長時間に渡り安定した電子放出を可能とする素子と成る。
また、図11は、大気中でのフォーミング処理を行っていない、比較例5のサンプルNo.5の電子放出素子の測定結果である。フォーミング処理を行っていない素子では、印加電圧+20Vでの素子内電流値は1.2×10−6A/cm2であった。銀粒子ドームが疎で表面電極の膜厚が薄い比較例3のサンプルNo.4の電子放出素子と比較すると素子内電流は大きくなったが、素子からの電子放出は起こらなかった。
また、図12に、実施例1のサンプルNo.1の電子放出素子1における、顕微鏡写真を示す。図12より、銀粒子ドーム(銀ドーム層)は、シリカ粒子層と同等かやや厚めの層厚であると考えられる。シリカ粒子層は塗布条件を変えても、1μm前後で成膜されており(スピン速度が遅いと1μmを多少超え、スピン速度が速いと1μmを多少下回る)、これより、銀ドームの高さも、約1μmではないかと、推察している。
〔実施の形態2〕
図13〜15に、実施の形態1で説明した本発明に係る一実施形態の電子放出素子1を用いた電子放出装置10にて自発光デバイスを構成した、本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
図13に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる電子放出装置10に加えて、発光部36を備えている。発光部36は、基材となるガラス基板34に、ITO膜33、蛍光体32が積層された構造を有する。発光部36は、電子放出素子1に対向した位置に、距離を隔てて配されている。
蛍光体32としては、赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適している。例えば、赤色ではY2O3:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、青色ではBaMgAl10O17:Eu2+等が使用可能である。蛍光体32は、ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に成膜されており、厚さ1μm程度が好ましい。ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体32へ向けて加速する必要がある。このような加速を実現するには、図13に示すように、電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33との間に、電源35を設け、電子を加速する電界を形成させるための電圧印加を可能にする構成が好ましい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
図14に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる電子放出装置10に加えて、蛍光体(発光体)32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
図15に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とからなる電子放出装置10に加えて、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体(発光体)32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子5に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子5として球状シリカ粒子(平均径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32に衝突させて発光させる。電子放出素子1は電子放出量が向上しているため、自発光デバイス31,31’,31”は、効果的に発光を行える。なお、自発光デバイス31,31’,31”は、真空封止することで電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
さらに、図16に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図16に示す画像表示装置140は、図15で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
また、本発明に係る画像表示装置として、図13に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。