(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る電子放出素子について、図面を参照して説明する。
図1Aは、本発明の第1実施形態に係る電子放出装置の概略側面図であって、図1Bは、図1Aに示す電子放出素子の上面図である。
本発明の第1実施形態に係る電子放出素子1は、互いに対向して配置された第1電極10と第2電極20と、第1電極10と第2電極20との間に設けられ、第1電極10から第2電極20へ向かう電子を加速させる電子加速層30とを備え、第1電極10と第2電極20との間に電圧を印加し、第2電極20から電子を放出させる。第1電極10と第2電極20との間の距離は、互いに対向する面内で非一様とされている。
また、電子放出装置100は、第1電極10と第2電極20との間に電圧を印加する第1電源2A(外部の電源の一例)を備えている。さらに、電子放出装置100は、電子放出素子1(特に、第2電極20)と対向して配置された第3電極3と、第3電極3に電圧を印加する第2電源2B(外部の電源の一例)を備えている。電子放出素子1から放出された電子は、第3電極3の電界によって引き寄せられて回収されたり、真空中においては加速エネルギーを与えられたりする。
具体的に、電子放出素子1は、基板となる第1電極10の上に、絶縁部50、電子加速層30、第2電極20、およびバスライン電極40が順に積層されている。以下では、説明の簡略化のため、第1電極10と第2電極20とが対向する方向を高さ方向Zと呼び、高さ方向Zに垂直な方向を、それぞれ横方向Xおよび縦方向Yと呼ぶ。
第1電極10は、基板の機能を兼ねる電極基板であって、導電性を有する板状体で構成されており、上面視(図1B参照)において矩形状とされている。第1電極10は、例えば、A4サイズの用紙への印字に対応した15mm×234mmのSUS基板を用いることができる。なお、第1電極10は、導電性が確保されていればよく、例えば、セラミックやガラスなどの絶縁性基板上に導電性薄膜を形成したものを用いてもよい。
絶縁部50は、絶縁性を有する材料で形成され、電子放出素子1の上面視における一部の領域に設けられており、第1電極10から第2電極20へ流れる電流を遮断する。本実施の形態では、絶縁部50は、上面視において、電子放出素子1の横方向Xで対向する2つの側辺に沿って第1電極10上に設けられている。なお、これに限定されず、絶縁部50は、さらに、上面視において、電子放出素子1の縦方向Yで対向する2つの側辺に沿って設けられていてもよい。つまり、第1電極10の上には、絶縁部50によって矩形状の開口部が形成されていてもよい。ところで、第2電極20が薄いために高抵抗であるときや、電子加速層30の抵抗が低いときには、第1電極10とバスライン電極40との間で電流がショート(短絡)することがあり、絶縁部50はこういった問題を防ぐために設けられている。そのため、第1電極10とバスライン電極40との間でのリーク電流が発生しなければ、絶縁部50を設けない構造としてもよい。
電子加速層30は、電子放出素子1全体に積層されている。従って、電子加速層30は、絶縁部50が設けられた領域では、絶縁部50の上に積層され、それ以外の領域では、第1電極10の上に積層されている。電子加速層30は、第1電極10の表面に沿った横方向Xで膜厚が連続的に変化した膜厚変化部31が設けられている。具体的に、膜厚変化部31は、一方の側辺に沿った絶縁部50近傍(図1Aでは、右側)を膜厚が薄く形成された薄膜領域31aとされ、他方の側辺に沿った絶縁部50近傍(図1Aでは、左側)を膜厚が厚く形成された厚膜領域31bとされており、薄膜領域31aから厚膜領域31bに向かうに従って、徐々に膜厚が厚くなるように形成されている。本実施の形態では、薄膜領域31a側の端部における膜厚が約0.8μmとされ、厚膜領域31b側の端部における膜厚が約2.5μmとされている。なお、膜厚については、電子放出素子1のサイズ(面積)や、電子加速層30の材料によって適宜設定すればよい。また、本実施の形態では、電子加速層30を電子放出素子1全体に積層したが、これに限定されず、絶縁部50を除く領域に電子加速層30を設けるなど、適宜変更してもよい。電子加速層30を設ける範囲は、電子加速層30の形成方法に基づいて決定すればよい。
本実施の形態において、電子加速層30は、樹脂と、樹脂中に分散された導電性微粒子とで構成されている。樹脂は、絶縁性の樹脂材料であって、例えば、シラノール(R3Si−OH)を縮合重合したシリコーン樹脂である。電子加速層30は、上述した材料に限定されず、導電性微粒子として、例えば、金、銀、白金、およびパラジウム等の導電性を有する金属粒子を用いてもよい。また、金属粒子以外の導電性材料としては、カーボン、導電性高分子、および半導電性材料などを用いてもよい。さらに、絶縁性材料としては、上述した絶縁性の樹脂に換えて、水ガラス、SiO2、TiO2、およびAl2O3等を用いてもよい。絶縁性材料に添加する導電性微粒子の含有量は、適宜設定すればよく、それによって、電子加速層30の抵抗値を調整することができる。電子加速層30の形成方法については、後述する図2を参照して、詳細に説明する。
また、本実施の形態では、樹脂と導電性微粒子とを混合して電子加速層30を形成したが、これに限定されず、電子加速層30の材料として絶縁性材料を用いてもよい。絶縁性材料は、例えば、酸化物、ハロゲン化物、硫化物、SP3結合性材料、およびn型シリコンなどである。電子加速層30を絶縁性材料で形成した場合、電子のすり抜けを利用したトンネル現象によって電子を放出させているため、電子加速層30の膜厚を数〜数十nmとすることが望ましいが、電子放出効率が向上する。また、電子加速層30は、薄膜とされており、導電性微粒子等を用いていないため、導電性が均一になる。つまり、導電性微粒子を用いた場合、導電性微粒子の凝集によって導電性に偏りを生じさせることがあるが、このことを考慮する必要がない。その結果、電子を放出する面内における放出性能の均一性を向上させることができる。なお、電子加速層30を絶縁性材料で形成する方法としては、CVD法やスパッタ法が挙げられる。
第2電極20は、既存の方法を用いて形成すればよく、本実施の形態では、スパッタ法を用いて電子放出素子1全体に形成されている。本実施の形態では、第2電極20の膜厚は、50nmとされている。なお、第2電極20は、薄くすると、電子放出効率が向上するのに対し、膜抵抗が大きくなって電圧降下が発生したり、熱や機械的磨耗によって破壊し易くなったりするため、材料等に応じて適宜膜厚を調整すればよい。
バスライン電極40は、第2電極20と同様の方法で形成され、膜厚を100nmとし、アルミニウムで形成されている。なお、バスライン電極40を厚膜とした場合、バスライン電極40が設けられた領域からの電子放出効率が低くなる。そのため、バスライン電極40と第1電極10との間には、絶縁部50を設けることで、電子加速層30を流れる電流を減らすことが望ましい。また、バスライン電極40と絶縁部50とは、設ける範囲(幅)を適宜設定することができ、バスライン電極40が絶縁部50より幅が小さい構成とされていれば、電子放出効率は低下しない。
具体的に、バスライン電極40は、電子放出素子1の上面視における一部の領域に設けられており、電子放出素子1の横方向Xで対向する2つの側辺に沿って第2電極20上に設けられている。さらに、バスライン電極40は、上面視において、電子放出素子1の縦方向Yで対向する2つの側辺に沿って設けられたバスライン側辺部41を備えている。つまり、電子放出素子1は、上面視において、側辺に沿った領域がバスライン電極40に覆われており、中央の矩形状の領域で第2電極20が露出している。そして、第2電極20が露出している領域は、大半の電子を放出する電子放出部として機能する。なお、絶縁部50が設けられた領域を除いて、バスライン電極40に覆われた領域からも一部の電子が放出される。また、上述した構成に限定されず、バスライン側辺部41を備えない構成としてもよい。
バスライン電極40には、第1電源2Aと接続された給電点KDが設けられている。つまり、第2電極20は、給電点KDにおいてバスライン電極40を介して第1電源2Aに接続されている。本実施の形態において、給電点KDは、厚膜領域31b側の端部(図1Aでは、左側)に設けられている。なお、給電点KDについては、1箇所に限定されず、複数設けることで、バスライン電極40上での電圧降下が生じにくい構成とすることができる。
次に、電子加速層30の作製方法について説明する。
図2は、電子加速層の作製方法を説明する概略側面図である。
本実施の形態では、電子加速層30をスプレー法で形成している。電子放出素子1は、電子加速層30を形成する前に、第1電極10の上に絶縁部50を形成した状態とされている。なお、絶縁部50の有無は、適宜選択することができ、絶縁部50を設けない構成としてもよい。図2に示すように、電子放出素子1は、電子加速層30の材料となる分散液を塗布する塗布装置201の下方に配置され、電子放出素子1と塗布装置201との間には、目隠し板202が配置されている。塗布装置201には、樹脂と導電性微粒子とを予め混合した分散液が充填されている。分散液の作製手順としては、先ず、樹脂であるシリコーン樹脂(室温硬化性樹脂、東レ・ダウコーニング株式会社製)と、導電性微粒子であるAgナノ粒子(平均径10nm)とを試薬瓶に入れて混合することで、混合液が作製される。そして、超音波振動器を用いて、試薬瓶に入れた混合液をさらに撹拌することで、分散液が作製される。このように、導電性微粒子(導電性材料)を均一に分散させることで、電子加速層30内での抵抗の偏りを抑制することができる。
塗布装置201からは、霧状された分散液が電子放出素子1に向かって塗布され、分散液を積層することで、電子加速層30が形成される。分散液を塗布する際、目隠し板202によって電子放出素子1を覆った目隠し領域MRには、分散液が塗布されず、電子放出素子1が露出している領域だけに分散液が塗布される。本実施の形態では、塗布装置201を用いて、膜厚が均一になるように、分散液を電子放出素子1の上に塗布して薄層を堆積させており、複数の薄層を重ねることで、所望の膜厚とされた電子加速層30を形成している。ここで、本実施の形態における電子加速層30を形成する際には、先ず、薄膜領域31a側の端部(図2では、右側)を目隠し領域MRとして、分散液を塗布する。その後、目隠し板202を厚膜領域31bの方向(矢符Aの方向、左方向)へ移動させてから、さらに、分散液を塗布する。このように、目隠し領域MRを徐々に広げながら、分散液を塗布することで、膜厚が連続的に変化した電子加速層30(膜厚変化部31)を形成している。
なお、本実施の形態では、1つの目隠し板202を用いて電子加速層30を形成したが、これに限定されず、複数の目隠し板202を用いて、複数の箇所に目隠し領域MRを設けることで、薄膜領域31aおよび厚膜領域31bを設ける範囲を適宜設定することができる。また、上述した分散液は、適切な溶媒で希釈されていてもよく、希釈して粘度等を調整することで、膜厚の制御性を向上させることができる。
上述したように、本実施の形態では、分散液の材料として室温硬化性シリコーン樹脂を用いており、大気中の湿気によってシリコーン樹脂が縮合重合して硬化する。なお、本発明はこれに限定されず、異なる硬化方法とされたシリコーン樹脂を用いてもよい。但し、熱硬化性シリコーン樹脂は、一般的に硬化温度が100〜150℃であって、熱応力による撓みが発生するため、第1電極10の材料や膜厚を考慮する必要がある。一方、UV硬化性シリコーン樹脂は、UV光の照射によって硬化し熱応力が発生しないため、第1電極10の材料や膜厚に影響されない。また、分散液の材料として、シリコーン樹脂以外を用いてもよく、例えば、ポリカーボネート(PC)、PVA、PEG、およびアクリル樹脂などを用いてもよい。
従来、MIM型等の電子放出素子では、印加電圧によって加速された電子は、表面電極を透過して電子放出素子外へ放出される。そのため、表面電極は、仕事関数が低い導電体を用いて形成され、数〜数十nm程度の膜厚とされていることが望ましい。つまり、表面電極を薄膜とすることで、表面電極による電子のトラップを低減し、電子放出素子外へ効率よく電子を放出することができる。しかしながら、電子放出素子に電流を流した際、電界が生じる電流通過層において、電界が集中している通電部は、ジュール熱によって局所的に加熱されることで、表面電極の劣化や熱応力による剥離などが生じる。これらの要因は、電子放出素子の経時劣化を生じさせる。上述した劣化に対しては、表面電極を厚膜にし、熱による耐性や熱の拡散性を向上させて緩和することができるが、電子放出効率とトレードオフの関係であるため、表面電極を厚膜にするといった対処には限界があった。ところで、上述した劣化は局所的であり、電子通過層の製造工程などによって劣化が開始する起点が偶発的に決まっていた。そのため、外部から電力が供給される給電点またはバスライン電極付近に劣化開始箇所が発生した場合には、給電点またはバスライン電極から離れており、且つ、劣化が進行していない部分への給電が困難となるため、電子放出素子全体での劣化の具合に拘わらず、特性が悪化することがあった。
本発明の第1実施形態に係る電子放出素子1では、第1電極10と第2電極20との間の距離(電極間距離)を互いに対向する面内で非一様とすることで、劣化の起点を所望の位置に設定している。つまり、電子放出素子1では、第1電極10と第2電極20との間の距離が近いほど、電子加速層30にかかる電界強度が大きくなるため、電子加速層30内で電子が得るエネルギーが大きくなり、第2電極20から電子放出素子1外へ放出される電子量が増加する。一方、電界強度が強く、通電が集中する部分は、ジュール熱などによって周囲より早く劣化が進行する。
本実施の形態では、第1電源2Aによって交流もしくは直流の電圧20Vを印加し、第2電源2Bによって直流の電圧500Vを印加して駆動させる。電子放出素子1において、電子加速層30は、薄膜領域31aから厚膜領域31bへ徐々に膜厚が増加するように形成されており(特に、図1A参照)、電極間距離は、電子加速層30の膜厚と同じように推移している。本実施の形態では、電子加速層30の膜厚が電極間距離と略等しく、薄膜領域31aにおける電極間距離(近接幅Wn)は、厚膜領域31bにおける電極間距離(遠隔幅Wf)より小さいため、近接幅Wnとされた領域に通電が集中する。その結果、電子放出素子1では、薄膜領域31aを起点として劣化が発生し、厚膜領域31bに向かう方向(図1Bに示す矢符S1の方向)で劣化が進行する。上述したように、電子放出素子1では、電極間距離を非一様にしており、電極間距離を近づけて通電が集中する領域を点在させている。そして、通電が集中して局所的な劣化が進行する領域を意図的に設けることで、他の領域での劣化を抑制し、長期に亘って安定した性能を維持することができる。
また、電子加速層30の膜厚を変化させることで、電極同士が近づき、通電が集中する領域を容易に設けることができる。電子加速層30の膜厚を連続的に変化させることで、劣化が進行していく領域を広範囲に設けることができる。つまり、部分的に劣化しても、通電が集中する領域が順次推移していくため、電子放出素子1全体での駆動を維持することができる。
また、厚膜領域31b側の端部に給電点KDおよびバスライン電極40が設けられていることから、給電点KD(およびバスライン電極40)付近では電子加速層30の膜厚が厚く、劣化が生じにくいため、電子放出素子1を長時間駆動させても性能を維持することが容易になる。
上述したように、第2電極20は、表面から電子を効率よく放出させるために、薄膜とされていることが望ましいが、薄くすると膜抵抗が大きくなって電圧降下などが発生する。ここで、バスライン電極40を設けていれば、バスライン電極40を通じて電流を流すことができ、第2電極20に起因する電圧降下を抑制することができる。
電子放出素子1を大気中で駆動させることによって、第2電極20の表面から放出される電子は、大気中の分子をイオン化する。そのため、本発明に係る電子放出素子1をイオン流発生装置に適用して、イオン流(イオン風)冷却装置や複写機内の帯電器などに用いることができる。
また、真空中では大気中と異なり、第2電極20から放出された電子を第3電極3によって加速させることができる。これによって、第3電極3側に蛍光体層を配置した場合、放出された電子を照射して蛍光体層を発光させる発光装置として用いることができる。さらに、電子放出素子1は、電子線源として殺菌や滅菌、EB硬化、SEMなどの分析装置などにも用いることができる。
図3は、本発明の第1実施形態に係る電子放出素子の変形例1を示す上面図である。
変形例1では、バスライン電極40を設けている領域が異なる。バスライン電極40は、電子放出素子1の側辺に加えて電子放出部に設けられたバスライン中央部42を備えている。つまり、第1実施形態では、上面視において、電子放出素子1の中央であってバスライン電極40で囲まれた矩形状の領域を、第2電極20が露出した領域としたが、変形例では、中央の露出した第2電極20の上にバスライン中央部42を形成している。具体的に、バスライン中央部42は、電子放出素子1の横方向Xで対向する一方の側辺から他方の側辺に向かって延伸されている。バスライン中央部42を設けることで、横方向Xに流れる電流の経路を増やして、電圧降下を抑制している。なお、電子放出素子1全体に対して、バスライン電極40が占める面積は、電子放出効率を考慮して適宜設定すればよい。
(第2実施形態)
図4Aは、本発明の第2実施形態に係る電子放出装置の概略側面図であって、図4Bは、図4Aに示す電子放出素子の上面図である。なお、第1実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
第1実施形態において、膜厚変化部31は、側辺近傍が最も薄くなるように形成されていたのに対し、第2実施形態では、電子放出素子1の中央が薄くなるように形成されている。つまり、厚膜領域31bは、横方向Xで対向する互いの側辺(図4Bでは、左辺および右辺)に沿って設けられており、薄膜領域31aは、両端の厚膜領域31bに挟まれるように配置されている。図4Bに示す補助線LN1は、薄膜領域31aのなかで、特に電子加速層30の膜厚が薄い部分を示している。電極間距離を比較すると、薄膜領域31aが近接幅Wnとされており、厚膜領域31bが遠隔幅Wfとされている。
バスライン電極40は、電子放出素子1の横方向Xで対向する2つの側辺に沿って第2電極20上に設けられており、縦方向Yで対向する2つの側辺には設けられていない。つまり、第2実施形態では、バスライン側辺部41を備えない構成とされており、対向する側辺に沿ったバスライン電極40は分離している。また、給電点KDは、横方向Xで対向する一方の側辺(図4Aでは、左側)に設けられているのに加えて、横方向Xで対向する他方の側辺(図4Aでは、右側)にも設けられている。従って、分離しているバスライン電極40のそれぞれに対して給電点が設けられている。なお、これに限定されず、バスライン側辺部41を設けた構成としてもよい。また、給電点KDの数も適宜設定すればよい。さらに、本実施形態では、第1実施形態と同様に、第2電源2Bおよび第3電極3を備えた構成としてもよい。
第2実施形態では、両端の給電点KDから離れた中央(特に、補助線LN1)を起点として、端部に向かう方向(図4Bの矢符S2の方向、左方向および右方向)で劣化が進行する。
(第3実施形態)
図5Aは、本発明の第3実施形態に係る電子放出装置の概略側面図であって、図5Bは、図5Aに示す電子放出素子の上面図である。なお、第1実施形態および第2実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
第3実施形態は、第2実施形態に対して、第1電極10上に形成された膜厚調整部61を備えている点が異なる。膜厚調整部61は、横方向Xで電子放出素子1の中央に2箇所設けられている。また、膜厚調整部61は、上面視において(図5B参照)、縦方向Yに平行な直線状とされており、縦方向Yの両端では、電子放出素子1の側辺に沿って設けられた調整側辺部62と一体にされている。電子加速層30は、第1電極10、膜厚調整部61、調整側辺部62、および絶縁部50を覆うように形成されている。
膜厚調整部61および調整側辺部62は、絶縁性材料で形成されており、直上の部分に流れる電流を遮断する。つまり、上面視において、膜厚調整部61および調整側辺部62が設けられた領域は、絶縁部50が設けられた領域と連結しており、電流が流れないため第2電極20の劣化が抑制され、第2電極20の導通路を確保することができる。なお、本発明は上述した構造に限定されず、調整側辺部62を備えない構造としてもよい。
次に、膜厚調整部61と電子加速層30の膜厚との関係について、図6Aおよび図6Bを参照して、詳細に説明する。
図6Aは、本発明の第3実施形態に係る電子放出素子において膜厚調整部を形成する工程を示す説明図である。
第3実施形態では、基板である第1電極10の上に絶縁部50および膜厚調整部61を形成する。膜厚調整部61と絶縁部50とは、それぞれ別にして形成してもよい。本実施の形態では、膜厚調整部61の調整膜厚Haは、絶縁部50の膜厚と同じとしたが、これに限定されず、膜厚調整部61と絶縁部50とが異なる膜厚とされていてもよい。また、図6Aでは、図面の見易さを考慮して、調整側辺部を省略したが、調整側辺部62は、膜厚調整部61と同時に形成すればよい。
図6Bは、本発明の第3実施形態に係る電子放出素子において電子加速層を形成する工程を示す説明図である。
図6Bは、図6Aに示す状態から電子加速層30を形成した状態を示している。電子加速層30は、電子放出素子1全体に上述した分散液を一様に塗布して形成されるが、膜厚調整部61の有無によって、形成される膜厚が異なる。具体的に、電子加速層30は、膜厚調整部61の上に形成された部分(突出膜厚Db)と、第1電極10の上に形成された部分(平坦膜厚Da)とで膜厚が異なり、突出膜厚Dbが平坦膜厚Daより薄くなる。つまり、膜厚調整部61の直上の部分では、膜厚調整部61によって周囲より分散液が突出するように塗布される。分散液の表面張力や粘度等によって異なるが、突出した部分は、高さが同じになるように周囲に広がる。そして、膜厚調整部61の近傍では、膜厚調整部61に近い程膜厚が厚くなるように分散液が堆積される。その結果、電子加速層30は、膜厚調整部61近傍の盛り上がった部分(厚膜領域31b)で、調整膜厚Haと突出膜厚Dbとを併せた膜厚となり、膜厚調整部61から離間した部分(薄膜領域31a)で平坦膜厚Daとなっている。調整膜厚Haと突出膜厚Dbとを併せた膜厚は、平坦膜厚Daより厚くなっており、電子加速層30(膜厚変化部31)は、厚膜領域31bから薄膜領域31aへ向かうに従って、徐々に膜厚が薄くなる。
上述したように、第3実施形態では、第1電極10上に突出して形成された膜厚調整部61によって、電子加速層30の膜厚が非一様となるように調整している。上述した図5Bに示す補助線LN2は、薄膜領域31aのなかで、特に電子加速層30の膜厚が薄い部分を示している。本実施の形態では、上面視において直線状とされた膜厚調整部61が2箇所設けられており、膜厚調整部61に平行な補助線LN2が3本示されている。第3実施形態でも、第1実施形態および第2実施形態と同様に、近接幅Wnとされた薄膜領域31a(特に、補助線LN2)を起点として、遠隔幅Wfとされた厚膜領域31bに向かう方向(図5Bの矢符S3の方向)で劣化が進行する。
なお、本実施の形態では、膜厚調整部61を上面視において、直線状としたが、これに限定されず、膜厚調整部61を設ける領域は適宜設定すればよい。つまり、上面視において、点状の膜厚調整部61を、電子放出部の各所に複数分散させて配置するなどしてもよい。
また、膜厚調整部61は絶縁性材料に限定されず、電子加速層30に用いられる材料などから適宜選択することができる。膜厚調整部61は、直上の領域に通電が集中しないように、周囲と同程度もしくはそれ以下の導電性とされていればよい。この場合、膜厚調整部61は、電子加速層30と同様の方法で形成すればよく、電子加速層30を形成する前に予め膜厚調整部61を形成しておけばよい。
(第4実施形態)
図7は、本発明の第4実施形態に係る電子放出装置の概略側面図である。なお、第1実施形態ないし第3実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
第4実施形態は、第2実施形態に対して、膜厚に段差を設けた電子加速層30とされている点が異なる。具体的に、電子加速層30は、平坦部32と平坦部32より膜厚が小さい薄層部33とで段差が設けられた構造とされており、第2電極20は、電子加速層30に設けられた段差に沿うように、電子加速層30に密着して形成されている。薄層部33は、電子放出素子1の中央に設けられており、平坦部32は、給電点KD(またはバスライン電極40)の近傍である電子放出素子1の両端部に設けられている。電子加速層30の形成方法は、一般的な方法で用いることができ、例えば、第1電極10上に一様な膜厚の電子加速層30(平坦部32)を形成した後、薄層部33に対応する領域をエッチングするなどして、薄層部33だけ膜厚が薄くなるようにすればよい。また、別な形成方法としては、薄層部33に応じた厚さで電子放出素子1全体に塗布した後、平坦部32に対応する領域に再度塗布して、厚さが異なる構造とすることが挙げられる。電極間距離は、薄層部33が近接幅Wnとされ、平坦部32が遠隔幅Wfとされており、近接幅Wnとされた部分に通電が集中する。本実施の形態では、平坦部32と薄層部33とを備える電子加速層30が膜厚変化部に相当する。
上述したように、薄層部33を設けることで、電極間距離が短く、通電が集中する領域を容易に設けることができる。また、電子加速層30に段差を設けることで電極間距離の差が顕著になり、薄層部33に確実に通電を集中させることができる。なお、薄層部33を設ける範囲については、適宜設定することができ、上述した膜厚調整部61のように、上面視において直線状に形成してもよいし、点状に形成してもよい。
(第5実施形態)
図8Aは、本発明の第5実施形態に係る電子放出装置の概略側面図である。なお、第1実施形態ないし第4実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
第5実施形態は、第4実施形態に対して、電極から延伸された電極延伸部を備えている点で異なる。第4実施形態において、電子加速層30は、平坦部32と薄層部33との段差によって膜厚差が設けられていた。これに対し、第5実施形態では、第1電極10の上に凸状とされた第1電極延伸部71(電極延伸部の一例)が設けられており、第1電極延伸部71によって電子加速層30の膜厚差が形成されている。
具体的に、本実施の形態では、第1電極10の上に第1電極延伸部71が突出して設けられている。電子加速層30は、第1電極10、第1電極延伸部71、および絶縁部50を覆うように形成されており、上面が第1電極10に対して平行にされている。第1電極延伸部71の上に電子加速層30を形成した際、電子加速層30の上面に凹凸ができた場合には、電子加速層30を平坦化すればよい。つまり、電子加速層30は、凹凸が設けられた下面に対して上面を平坦にすることで、段差を有する平坦部32および薄層部33が形成されている。また、電子加速層30は、第1電極延伸部71が設けられた領域に膜厚が周囲より薄い薄層部33が設けられている。
第1電極延伸部71は、導電性材料によって形成されており、第2電極20または第1電極10と同程度の導電性を有している。つまり、第1電極延伸部71は、第1電極10に接しており、電気的に第1電極10の一部とみなすことができる。第1電極延伸部71は、インクジェットや塗布など一般的な方法で形成すればよい。電極間距離を比較すると、薄層部33では、第1電極延伸部71から第2電極20までの距離が近接幅Wnとされ、平坦部32では、第2電極20から第1電極10までの距離が遠隔幅Wfとされており、遠隔幅Wfより小さい近接幅Wnとされた部分に通電が集中する。なお、第1電極延伸部71は、端部に設けた給電点KD(またはバスライン電極40)から離間した位置に設けることが望ましい。つまり、給電点KD近傍を平坦部32とすることで、給電点KD近傍での劣化を防ぐことができる。
図8Aでは、互いに離間した第1電極延伸部71を4箇所に設けた例を示したが、第1電極延伸部71を設ける範囲については、適宜設定することができ、上述した膜厚調整部61のように、上面視において直線状に形成してもよいし、点状に形成してもよい。
図8Bは、本発明の第5実施形態に係る電子放出装置の変形例2を示す概略側面図である。
変形例2では、第1電極延伸部71の換わりに第2電極延伸部72(電極延伸部の一例)を設けた構成とされている。図8Aに示す構造では、電子加速層30の下面に凹凸が設けられた構造とされていたが、変形例2では、電子加速層30の上面に凹凸が設けられた構造とされている。つまり、薄層部33によって凹み、溝となっている部分には、第2電極延伸部72が充填されている。第2電極延伸部72は、第2電極20から第1電極10に向かって延伸するように形成されている。
第2電極延伸部72は、第1電極延伸部71と同様の材料で形成すればよく、第2電極20に接しており、電気的に第2電極20の一部とみなすことができる。変形例2では、第2電極延伸部72から第1電極10までの距離が近接幅Wnとされ、第2電極20から第1電極10までの距離が遠隔幅Wfとされている。
(第6実施形態)
図9は、本発明の第6実施形態に係る電子放出装置の概略側面図である。なお、第1実施形態ないし第5実施形態と機能が実質的に等しい構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
第6実施形態は、第1実施形態に対して、電子放出素子1が湾曲した形状とされている点が異なる。つまり、第1実施形態では、平面状の第3電極3に向かって電子を放出していたが、第6実施形態では、曲面を有する被帯電物4に向かって電子を放出している。
具体的に、被帯電物4は、円柱状とされており、電子放出素子1側の表面4aが曲面とされている。被帯電物4としては、例えば、画像形成装置に用いられている感光体ドラムなどが挙げられる。電子放出素子1は、放出面Fm(第2電極20側の面)に対向して配置された被帯電物4の表面4aに向かって、電子を放出させる構成とされ、放出面Fmは、被帯電物4の表面4aに沿った形状とされている。つまり、電子放出素子1は、円弧状に形成されている。厚膜領域31b側の端部と被帯電物4との距離を第1距離W1とし、放出面Fmの中央と被帯電物4との距離を第2距離W2とし、薄膜領域31a側の端部と被帯電物4との距離を第3距離W3とすると、第1距離W1と第2距離W2と第3距離W3とは、それぞれ略等しくなるように設定されている。
なお、電子放出素子1では、薄膜領域31aから厚膜領域31bに向かうに従って、電子の放出量が低下することを考慮して、意図的に厚膜領域31b側を被帯電物4に近づけて、第3距離W3に比べて第1距離W1を小さくするなど、第1距離W1と第2距離W2と第3距離W3とがそれぞれ異なる設定としてもよい。
帯電効率は、電子放出素子1と被帯電物4との間の電界強度に比例し、距離が離れると低下する傾向であるため、電子放出素子1と被帯電物4との形状が異なっていると、距離に部分的な差が生じてしまう。上述した構成によると、被帯電物4に沿った形状とすることで、放出面Fmの全ての領域で電子放出素子1と被帯電物4とを一様な距離とすることができ、帯電効率の低下を回避することができる。
なお、図9では省略されているが、絶縁部50およびバスライン電極40を備えた構成としてもよい。また、第6実施形態では、第1実施形態に係る電子放出素子1が湾曲した構成としたが、これに限定されず、第2実施形態ないし第5実施形態に係る電子放出素子1が湾曲した構成としてもよい。
上述したように、いずれの実施形態においても、電子放出素子1は、近接幅Wnと遠隔幅Wfとのように、電子放出素子1の面内で電極間距離が異なる領域が設けられている。すなわち、電極間距離が周囲よりも近い領域を設けることで、通電が集中する領域を予め設定し、電子放出素子1の経時劣化を制御している。また、遠隔幅Wfとされた領域は、近接幅Wnとされた領域よりも給電点KD(またはバスライン電極40)に近い位置に設けられている。つまり、劣化の起点を給電点KDから離れた位置に設定することで、劣化によって給電が阻害されにくい構造としている。
なお、今回開示した実施の形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本発明の技術的範囲は、上記した実施の形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。