しかし、特許文献1の電子放出素子では、絶縁膜と電子放出部とが分かれた構成であり、絶縁膜をスペーサとして用いているため、電子放出部と電極との間の差が生じ、効率的に電子を放出できない。また、特許文献2の電子放出素子では、比較的厚い絶縁膜中に金属あるいは半導体の微粒子が含まれているため、電極近傍に存在する金属または半導体の微粒子が不足して、放電電流が少なくなり、効率的に電子を放出できない。つまり、従来のMIM型やMIS型の電子放出素子では、電子を効率よく放出できない。
ここで、電子放出効率を上げるためには、電子加速層を薄くすることが考えられる。しかし、薄くすると、電子加速層の均一性や機械的強度が低下する。
また、従来のMIM型やMIS型の電子放出素子を、大気中で動作させた場合、様々な気体分子が素子表面に吸着し、電子加速層の電気的特性などを変質させ、電子放出電流が減少するという問題も発生している。MIM型やMIS型の従来の電子放出素子の表面は、電子加速層に電界を印加する上部電極(薄膜電極)の役割を担っており、一般的に金属薄膜で構成されている。また、MIM型やMIS型の従来の電子放出素子の表面は、電子加速層で加速された電子を、金属薄膜をトンネルして真空中に放出させる役割をも担っており、金属薄膜の膜厚が薄いほど電子加速層で加速された電子のトンネル確率が高くなり、電子放出量が多くなる。そのため、金属薄膜の膜厚は薄い方が好ましいと言えるが、金属薄膜の膜厚が薄すぎると、緻密な膜を形成することが困難であるため、気体分子のバリア効果がほとんどない。従って、大気中で電子放出素子を動作させた場合、気体分子が内部の電子加速層に侵入し、電子加速層の電気的特性を変質させ、電子放出電流が減少する。
この結果、大気中において安定して電子を発生させることはできず、特に電子加速層に導電微粒子が含まれている場合では、大気中の酸素により導電微粒子の酸化が進み、電子加速層を劣化させ、電子放出が止まってしまう。
さらに、電子加速層に微粒子が含まれており、その分散性が悪く凝集体となっていると、素子の性能が均一にならず、安定した電子供給はできなくなる。また、特許文献1のように、電子加速層に絶縁物粒子が含まれていると、電子加速層表面の凹凸が大きくなり、その上の金属薄膜を薄く形成することが困難となる。よって、金属薄膜は上記したように薄い方が好ましいが、このように薄く形成することができなくなると、電子を効率よく放出させることができなくなる。
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、電子放出効率を向上させ、電子加速層の劣化を抑制でき、機械的強度の高い電子放出素子等の提供を目的とする。
本発明の電子放出素子は、上記課題を解決するために、電極基板と薄膜電極と該電極基板および該薄膜電極に挟持された電子加速層とを有し、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧が印加されると、上記電子加速層で電子を加速させて、上記薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子であって、上記電子加速層は、導電微粒子と該導電微粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径の絶縁体微粒子とが分散されたバインダー成分を含んでおり、かつ、上記電子加速層では、上記薄膜電極側に上記導電微粒子が多く分散されていることを特徴としている。
上記構成によると、電極基板と薄膜電極との間には、絶縁体微粒子および導電微粒子が分散されたバインダー成分を含む電子加速層が設けられている。この電子加速層は、絶縁体微粒子と導電微粒子とがバインダー成分に分散された薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
ここで、上記電子加速層では、薄膜電極側に導電微粒子が多く分散されていることで、薄膜電極近傍で電界が強化され、電子放出効率が高くなる。さらに、導電微粒子はバインダー成分に分散されており、つまり、導電微粒子の周囲にはバインダー成分が存在しているため、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難い。よって、真空中だけでなく大気圧中でも安定して動作させることができる。また、絶縁体微粒子および導電微粒子はバインダー成分に分散しているため、凝集が起こり難く、素子の性能が均一になり、安定した電子供給が可能である。また、バインダー成分は電極基板との接着性が高く、機械的強度が高い。さらに、バインダー成分により、電子加速層表面の平滑性をよくすることができ、その上の薄膜電極を薄く形成することができる。
このように、本発明の電子放出素子は、高効率で電子を放出でき、かつ、電子加速層の劣化を抑制でき、真空中だけでなく大気圧中でも効率よく安定した電子の放出が可能となる。さらに本発明の電子放出素子は、機械的強度を高められる。
また、本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、抗酸化力が高い導電体であってもよい。ここで言う抗酸化力が高いとは、酸化物形成反応の低いことを指す。一般的に熱力学計算より求めた、酸化物生成自由エネルギーの変化量ΔG[kJ/mol]値が負で大きい程、酸化物の生成反応が起こり易いことを表す。本発明ではΔG>−450[kJ/mol]以上に該当する金属元素が、抗酸化力の高い導電微粒子として該当する。また、該当する導電微粒子の周囲に、その導電微粒子の平均粒径よりも小さい絶縁体物質を付着、または被覆することで、酸化物の生成反応をより起こし難くした状態の導電微粒子も、抗酸化力が高い導電微粒子に含まれる。
上記構成によると、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いることから、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難いため、電子放出素子を大気圧中でもより安定して動作させることができる。よって、寿命を長くでき、大気中でも長時間連続動作をさせることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子は、貴金属であってもよい。このように、上記導電微粒子が、貴金属であることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化を図ることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子を成す導電体は、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記導電微粒子を成す導電体が、金、銀、白金、パラジウム、及びニッケルの少なくとも1つを含んでいることで、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
本発明の電子放出素子では、上記導電微粒子の平均粒径は、導電性を制御する必要から、上記絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さくなければならず、3〜10nmであるのが好ましい。このように、上記導電微粒子の平均粒径を、上記絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さく、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層内で、導電微粒子による導電パスが形成されず、電子加速層内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記絶縁体微粒子は、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいてもよい。または有機ポリマーを含んでいてもよい。上記絶縁体微粒子が、SiO2、Al2O3、及びTiO2の少なくとも1つを含んでいる、あるいは、有機ポリマーを含んでいると、これら物質の絶縁性が高いことにより、上記電子加速層の抵抗値を任意の範囲に調整することが可能となる。特に、絶縁体微粒子として酸化物(SiO2、Al2O3、及びTiO2の)を用い、導電微粒子として抗酸化力が高い導電体を用いる場合には、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化をより一層発生し難くなるため、大気圧中でも安定して動作させる効果をより顕著に発現させることができる。
ここで、上記絶縁体微粒子の平均粒径は10〜200nmであるのが好ましい。この場合、粒子径の分散状態は平均粒径に対してブロードであっても良く、例えば平均粒径50nmの微粒子は、20〜100nmの領域にその粒子径分布を有していても問題ない。上記絶縁体微粒子の平均粒径を好ましくは12〜110nmとすることにより、上記絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径の上記導電微粒子の内部から外部へと効率よく熱を伝導させて、素子内を電流が流れる際に発生するジュール熱を効率よく逃がすことができ、電子放出素子が熱で破壊されることを防ぐことができる。さらに、上記電子加速層における抵抗値の調整を行いやすくすることができる。
ここで、上記電子加速層を、絶縁体微粒子を含むバインダー成分の層上に導電微粒子を塗布して作成する場合、絶縁体微粒子の平均粒径が10nmよりも小さいと、塗布した平均粒径3〜10nmの導電微粒子の大部分が、絶縁体微粒子を含むバインダー成分の層内部に浸透せず、上部に堆積し、電子放出素子としての効果が発揮できない。他方、絶縁体微粒子の平均粒径が200nmよりも大きいと、塗布した平均粒径3〜10nmの導電微粒子の大部分が、絶縁体微粒子を含むバインダー成分の層の上部に留まらない。よって、平均粒径3〜10nmの導電微粒子を用いる場合、絶縁体微粒子の平均粒径は、10〜200nmであるのが好ましい。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記電子加速層の層厚は、10〜6000nmであるのが好ましく、300〜6000nmであるのがより好ましい。上記電子加速層の層厚を、好ましくは10〜6000nm、より好ましくは300〜6000nmとすることにより、電子加速層の層厚を均一化すること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となる。この結果、電子放出素子表面の全面から一様に電子を放出させることが可能となり、かつ素子外へ効率よく電子を放出させることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記薄膜電極は、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つを含んでいてもよい。上記薄膜電極に、金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、及びパラジウムの少なくとも1つが含まれることによって、これら物質の仕事関数の低さから、電子加速層で発生させた電子を効率よくトンネルさせ、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記導電微粒子の周囲に、該導電微粒子の大きさよりも小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在してもよい。このように、上記導電微粒子の周囲に、該導電微粒子の大きさよりも小さい小絶縁体物質が存在することは、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献する他、導電微粒子の、大気中の酸素による酸化などをはじめとする素子劣化を、より効果的に防ぐことができる。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
本発明の電子放出素子では、上記構成に加え、上記小絶縁体物質は、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいてもよい。このように、上記小絶縁体物質が、アルコラート、脂肪酸、及びアルカンチオールの少なくとも1つを含んでいることで、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体微粒子の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、電子放出素子の長寿命化をより効果的に図ることができる。
ここで、本発明の電子放出素子では、上記小絶縁体物質は、上記導電微粒子表面に付着して付着物質として存在するものであり、該付着物質は、上記導電微粒子の平均粒径よりも小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していてもよい。このように、上記小絶縁体物質が、上記導電微粒子表面に付着あるいは、上記導電微粒子の平均粒径よりも小さい形状の集合体として、上記導電微粒子表面を被膜していることで、素子作成時の導電微粒子の分散液中での分散性向上に貢献するため、導電微粒子の凝集体が元と成る電流の異常パス形成を生じ難くする他、絶縁体微粒子の周囲に存在する導電微粒子自身の酸化に伴う粒子の組成変化を生じないため、電子放出特性に影響を与えることがない。よって、電子放出素子の長寿命化をさらに効果的に図ることができる。
本発明の電子放出装置は、上記いずれか1つの電子放出素子と、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧を印加する電源部と、を備えたことを特徴としている。
上記構成によると、電気的導通を確保して十分な素子内電流を流し、薄膜電極から弾道電子を高効率で、安定して放出させることができる。
さらに、本発明の電子放出素子を自発光デバイス、及びこの自発光デバイスを備えた画像表示装置に用いることにより、電子放出効率が向上するので、高効率で発光させることができる。また、安定で長寿命な面発光を実現する自発光デバイスを提供することができる。
また、本発明の電子放出素子を、送風装置あるいは冷却装置に用いることにより、電子放出効率が向上しているので、高効率で冷却することができる。また、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質の発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより高効率で冷却することができる。
また、本発明の電子放出素子を、帯電装置、及びこの帯電装置を備えた画像形成装置に用いることにより、電子放出効率が向上するので、高効率で帯電することができる。さらに、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、長期間安定して、被帯電体を帯電させることができる。
また、本発明の電子放出素子を、電子線硬化装置に用いることにより、電子放出効率が向上するので、高効率で電子線を照射することができる。また、面積的に電子線硬化でき、マスクレス化が図れ、低価格化・高スループット化を実現することができる。
本発明の電子放出素子の製造方法は、上記課題を解決するために、電極基板と、薄膜電極と、該電極基板および該薄膜電極に挟持された電子加速層と、を有し、上記電極基板と上記薄膜電極との間に電圧が印加されると、上記電子加速層で電子を加速させて、上記薄膜電極から該電子を放出させる電子放出素子の製造方法であって、上記電子加速層の形成には、上記電極基板上に、絶縁体微粒子が分散されたバインダー成分の分散液を塗布してバインダー成分層を形成するバインダー成分層形成工程と、上記バインダー成分層上に、上記絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径の導電微粒子が溶媒に分散された分散液を塗布する導電微粒子分散液塗布工程とを含むことを特徴としている。
上記方法によると、電子加速層を、絶縁体微粒子が分散されたバインダー成分層上に、絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径の導電微粒子が溶媒に分散された分散液を塗布することで形成する。ここで、バインダー成分層上に塗布した導電微粒子が、絶縁体微粒子を含むバインダー成分層内部に浸透する。よって、電子加速層は、バインダー成分に絶縁体微粒子および導電微粒子が分散され、薄膜電極側に導電微粒子が多く分散されて形成される。
よって、上記方法によると、高効率で電子を放出でき、かつ、電子加速層の劣化を抑制でき、真空中だけでなく大気圧中でも効率よく安定した電子の放出が可能な、機械的強度の高い素子を製造することができる。
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記導電微粒子分散液塗布工程において、スピンコート法を用いて上記導電微粒子の分散液を塗布してもよい。
スピンコート法を用いることで、バインダー成分中に分散した絶縁体微粒子上部に導電微粒子を非常に簡便に広範囲に塗布することができる。よって、広範囲で電子放出する必要のあるデバイスに好適に用いることができる。また、スピンコート法は塗布する導電微粒子の種類を選ばない。
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記導電微粒子分散液塗布工程において、噴霧法を用いて上記導電微粒子の分散液を塗布してもよい。
噴霧法を用いることで、導電微粒子を非常に小さい液滴で吐出させることができ、バインダー成分中に分散した絶縁体微粒子上部に導電微粒子を薄く均一に塗布することができる。噴霧法としては、超音波霧化法、スプレー法、静電噴霧法などが挙げられるが、噴霧液滴の飛び散りを抑止できる点や、噴霧液滴の径を小さく制御し易いという点において、特に、静電噴霧法が好ましい。
また、本発明の電子放出素子の製造方法では、上記方法に加え、上記導電微粒子分散液塗布工程において、インクジェット法を用いて上記導電微粒子の分散液を塗布してもよい。
インクジェット法を用いることで、バインダー成分中に分散した絶縁体微粒子上部に導電微粒子を塗布する密度や箇所を制御することができる。パターニングの必要のあるデバイスや、スイッチング素子等に好適に用いられる。
本発明の電子放出素子は、上記のように、上記電子加速層は、導電微粒子および該導電微粒子の平均粒径よりも大きい平均粒径の絶縁体微粒子が分散されたバインダー成分を含んでおり、かつ、電子加速層では、上記薄膜電極側に上記導電微粒子が多く分散されている。
上記構成によると、電極基板と薄膜電極との間には、絶縁体微粒子および導電微粒子が分散されたバインダー成分を含む電子加速層が設けられている。この電子加速層は、絶縁体微粒子と導電微粒子とがバインダー成分に分散された薄膜の層であり、半導電性を有する。この半導電性の電子加速層に電圧を印加すると、電子加速層内に電流が流れ、その一部は印加電圧の形成する強電界により弾道電子となって放出される。
ここで、上記電子加速層では、薄膜電極側に導電微粒子が多く分散されていることで、薄膜電極近傍で電界が強化され、電子放出効率が高くなる。さらに、導電微粒子はバインダー成分に分散されており、つまり、導電微粒子の周囲にはバインダー成分が存在しているため、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難い。よって、真空中だけでなく大気圧中でも安定して動作させることができる。また、絶縁体微粒子および導電微粒子はバインダー成分に分散しているため、凝集が起こり難く、素子の性能が均一になり、安定した電子供給が可能である。また、バインダー成分は電極基板との接着性が高く、機械的強度が高い。さらに、バインダー成分により、電子加速層表面の平滑性をよくすることができ、その上の薄膜電極を薄く形成することができる。
このように、本発明の電子放出素子は、高効率で電子を放出でき、かつ、電子加速層の劣化を抑制でき、真空中だけでなく大気圧中でも効率よく安定した電子の放出が可能となる。さらに本発明の電子放出素子は、機械的強度を高められる。
以下、本発明の電子放出素子の実施形態および実施例について、図1〜11を参照しながら具体的に説明する。なお、以下に記述する実施の形態および実施例は本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらよって限定されるものではない。
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の電子放出素子を有する電子放出装置の一実施形態の構成を示す模式図である。図1に示すように、本実施形態の電子放出素子1は、下部電極となる電極基板2と、上部電極となる薄膜電極3と、その間に挟まれて存在する電子加速層4とからなる。また、電極基板2と薄膜電極3とは電源7に繋がっており、互いに対向して配置された電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加できるようになっている。電子放出素子1は、電極基板2と薄膜電極3との間に電圧を印加することで、電極基板2と薄膜電極3との間、つまり、電子加速層4に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、薄膜電極3を透過および/あるいは薄膜電極3の隙間から放出させる。なお、電子放出素子1と電源7とから電子放出装置10が成る。
下部電極となる電極基板2は、電子放出素子の支持体の役割を担う。そのため、ある程度の強度を有し、直に接する物質との接着性が良好で、適度な導電性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。例えばSUSやTi、Cu等の金属基板、SiやGe、GaAs等の半導体基板、ガラス基板のような絶縁体基板、プラスティック基板等が挙げられる。例えばガラス基板のような絶縁体基板を用いるのであれば、その電子加速層4との界面に金属などの導電性物質を電極として付着させることによって、下部電極となる電極基板2として用いることができる。上記導電性物質としては、導電性に優れた材料を、マグネトロンスパッタ等を用いて薄膜形成できれば、その構成材料は特に問わないが、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電体を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、酸化物導電材料として、透明電極に広く利用されているITO薄膜も有用である。また、強靭な薄膜を形成できるという点で、例えば、ガラス基板表面にTiを200nm成膜し、さらに重ねてCuを1000nm成膜した金属薄膜を用いてもよいが、これら材料および数値に限定されることはない。
薄膜電極3は、電子加速層4内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また薄膜電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、10〜55nmの範囲とすることが好ましい。薄膜電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では、電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子1から外部へ電子を放出させるための最大膜厚は55nmであり、これを超える膜厚では弾道電子の透過が起こらず、薄膜電極3で弾道電子の吸収あるいは反射による電子加速層4への再捕獲が生じてしまう。
電子加速層4は、図2に示すように、導電微粒子6と絶縁体微粒子5とが分散されたバインダー成分15を含んでいる。例えば、バインダー成分15がシリコーン樹脂であり、シリコーン樹脂を焼成してシリカ(絶縁物質)に変質させ、このシリカに絶縁体微粒子5および導電微粒子6が分散されている構造であってもよい。さらに、電子加速層4では、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散されている。
絶縁体微粒子5の材料はSiO2、Al2O3、TiO2といったものが実用的となる。ただし、表面処理が施された小粒径シリカ粒子を用いると、それよりも粒径の大きな球状シリカ粒子を用いるときと比べて、溶媒中に占めるシリカ粒子の表面積が増加し、溶液粘度が上昇するため、電子加速層4の膜厚が若干増加する傾向にある。また、絶縁体微粒子5の材料には、有機ポリマーから成る微粒子を用いてもよく、例えば、JSR株式会社の製造販売するスチレン/ジビニルベンゼンから成る高架橋微粒子(SX8743)、または日本ペイント株式会社の製造販売するスチレン・アクリル微粒子のファインスフェアシリーズが利用可能である。ここで、絶縁体微粒子5は、2種類以上の異なる粒子を用いてもよく、また、粒径のピークが異なる粒子を用いてもよく、あるいは、単一粒子で粒径がブロードな分布のものを用いてもよい。
また絶縁体微粒子5の大きさは、導電微粒子6に対して優位な放熱効果を得るため、導電微粒子6の平均粒径よりも大きいことが好ましい。さらに、電子加速層4を、絶縁体微粒子5を含むバインダー成分15の層上に導電微粒子6を塗布して作成する場合、絶縁体微粒子5の平均粒径が10nmよりも小さいと、塗布した平均粒径3〜10nmの導電微粒子6の大部分が、絶縁体微粒子5を含むバインダー成分15の層内部に浸透せず、上部に堆積し、電子放出素子としての効果が発揮できない。他方、絶縁体微粒子5の平均粒径が200nmよりも大きいと、塗布した平均粒径3〜10nmの導電微粒子6の大部分が、絶縁体微粒子5を含むバインダー成分15の上部に留まらない。よって、平均粒径3〜10nmの導電微粒子6を用いる場合、絶縁体微粒子5の平均粒径は、10〜200nmであるのが好ましい。
導電微粒子6の材料としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような導電体でも用いることができる。ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、抗酸化力が高い導電体である必要があり、貴金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような導電微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作成可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の金属微粒子粉体も利用可能である。弾道電子の生成の原理については後段で記載する。
ここで、導電微粒子6の平均粒径は、導電性を制御する必要から、絶縁体微粒子5の平均粒径よりも小さくなければならず、3〜10nmであるのがより好ましい。このように、導電微粒子6の平均粒径を、絶縁体微粒子5の平均粒径よりも小さく、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層4内で、導電微粒子6による導電パスが形成されず、電子加速層4内での絶縁破壊が起こり難くなる。また原理的には不明確な点が多いが、平均粒径が上記範囲内の導電微粒子6を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
また、電子加速層4全体における導電微粒子6の割合は、0.5〜30重量%が好ましい。0.5重量%より少ない場合は導電微粒子として素子内電流を増加させる効果を発揮せず、30重量%より多い場合は導電微粒子の凝集が発生する。中でも、1〜10重量%であることがより好ましい。
なお、導電微粒子6の周囲には、導電微粒子6の大きさよりも小さい絶縁体物質である小絶縁体物質が存在していてもよく、この小絶縁体物質は、導電微粒子6の表面に付着する付着物質であってもよく、付着物質は、導電微粒子6の平均粒径よりも小さい形状の集合体として、導電微粒子6の表面を被膜する絶縁被膜であってもよい。小絶縁体物質としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁体物質でも用いることができる。ただし、導電微粒子6の大きさよりも小さい絶縁体物質が導電微粒子6を被膜する絶縁被膜であり、絶縁被膜を導電微粒子6の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化皮膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまう恐れがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましく、例えば、アルコラート、脂肪酸、アルカンチオールといった材料が挙げられる。この絶縁被膜の厚さは薄い方が有利であることが言える。
バインダー成分15は、電極基板2との接着性がよく、絶縁体微粒子5および導電微粒子6を分散でき、絶縁性を有するものであればよい。このようなバインダー成分15として、樹脂が挙げられ、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、加水分解性基含有シロキサン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3、4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、などが挙げられる。これらのバインダー成分は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
電極基板2上の電子加速層4が導電微粒子6および絶縁体微粒子5で構成されていると、機会的強度が弱く、その上に薄膜電極3を設けてももろく、壊れやすいため、電子放出も不安定になる。しかし、導電微粒子6および絶縁体微粒子5がバインダー成分15に分散されていると、バインダー成分15が電極基板2との接着性が高く機械的強度が高いため、電子放出素子1の機械的強度が増す。また、導電微粒子6および絶縁体微粒子5がバインダー成分15に分散していると、凝集が起こり難くなる。よって、電子放出素子1の性能が均一になり、安定した電子供給が可能となる。また、バインダー成分15により、電子加速層4表面の平滑性をよくすることができ、その上の薄膜電極3を薄く形成することができる。また、電子加速層4にバインダー樹脂が含まれており、導電微粒子6の周囲にバインダー樹脂が存在するため、導電微粒子6の大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化が発生し難くなる。よって、電子放出素子1を真空中だけでなく大気圧中でも安定して動作させることができる。
ここで、電子加速層4では、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散されている。そのため、薄膜電極3近傍で電界が強化され、電子放出素子1の電子放出効率が高くなる。
また、電子加速層4は薄いほど強電界がかかるため低電圧印加で電子を加速させることができるが、層厚を均一化できること、また層厚方向における電子加速層の抵抗調整が可能となることなどから、電子加速層4の層厚は、12〜6000nmが好ましく、300〜6000nmがより好ましい。
次に、電子放出の原理について説明する。図2は、電子放出素子1の電子加速層4付近を拡大した模式図である。図2に示すように、電子加速層4は、その大部分を絶縁体微粒子5およびバインダー成分15で構成され、その隙間に導電微粒子6が点在している。電子加速層4は絶縁体微粒子5およびバインダー成分15と少数の導電微粒子6とで構成されるため、半導電性を有する。よって電子加速層4へ電圧を印加すると、極弱い電流が流れる。電子加速層4の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層4内の強電界により弾道電子となり、薄膜電極3を透過および/あるいはその隙間を通過して電子放出素子1の外部へ放出される。弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと考えられるが、断定できていない。
以上のように、電子放出素子1では、電子加速層4は、絶縁体微粒子5と導電微粒子6とがバインダー成分15に分散された薄膜の層である。そして、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散されていることで、薄膜電極3近傍で電界が強化され、電子放出素子1の電子放出効率が高くなる。さらに、導電微粒子6はバインダー成分15に分散されており、つまり、導電微粒子6の周囲にはバインダー成分15が存在しているため、大気中の酸素による酸化に伴う素子劣化を発生し難い。よって、電子放出素子1を、真空中だけでなく大気圧中でも安定して動作させることができる。また、絶縁体微粒子5および導電微粒子6はバインダー成分15に分散しているため、凝集が起こり難く、電子放出素子1の性能が均一になり、電子放出素子1は、安定した電子供給が可能である。また、バインダー成分15は電極基板2との接着性が高く、機械的強度が高い。さらに、バインダー成分15により、電子加速層4表面の凹凸を平坦にでき、その上の薄膜電極3を薄く形成することができる。
このように、電子放出素子1は、高効率で電子を放出でき、かつ、電子加速層4の劣化を抑制でき、真空中だけでなく大気圧中でも効率よく安定した電子の放出が可能となる。さらに、電子放出素子1は、機械的強度を高められる。
次に、電子放出素子1の製造方法の一実施形態について説明する。
まず、絶縁体微粒子5をバインダー成分15に分散させた絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液を得る。例えば、絶縁体微粒子5とバインダー成分15とを有機溶媒に分散させることで得ることができる。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で攪拌すればよい。ここで用いられる有機溶媒としては、絶縁体微粒子5とバインダー成分15とを分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−ブタノールなどが挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で超音波分散器にかけることで分散させることができる。絶縁体微粒子5の含有率は、1〜50重量%が好ましい。1重量%より少ない場合は絶縁体として電子加速層4の抵抗を調整するという効果を発揮せず、50重量%より多い場合は絶縁体微粒子5の凝集が発生する。なかでも、5〜20重量%であることがより好ましい。
次に、導電微粒子6を溶媒に分散させた導電微粒子分散液を得る。例えば、導電微粒子6を有機溶媒に分散させることで得ることができる。分散方法は特に限定されるものではなく、例えば、常温で攪拌すればよい。この有機溶媒としては、導電微粒子6を分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、ナフテン、ヘキサン、トルエンなどが挙げられる。
そして、上記のように作成した絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液を電極基板2上に塗布し、絶縁体微粒子含有バインダー成分層を得る(バインダー成分層形成工程)。この塗布は例えば、スピンコート法を用いて行えばよい。続けて、絶縁体微粒子含有バインダー成分層上に上記のように作成した導電微粒子分散液を塗布する(導電微粒子分散液塗布工程)。ここで、絶縁体微粒子含有バインダー成分層が常温で乾燥し、経時変化を起こさなければ、続けて導電微粒子分散液の塗布を行って構わない。
この導電微粒子分散液の塗布はどのように行ってもよいが、スピンコート法を用いると、バインダー成分中に分散した絶縁体微粒子の上部に導電微粒子を非常に簡便に広範囲に塗布することができる。よって、広範囲で電子放出する必要のあるデバイスに好適に用いることができる。また、スピンコート法は塗布する導電微粒子の種類を選ばない。
ここで、スピンコート法を用いる場合の条件は、特に限定されるものではないが、回転数は1000rpm以上8500rpm未満が好ましく、3000rpm以上6500rpm未満が特に好ましい。1000rpm未満では、絶縁体微粒子含有バインダー成分層上に残存する導電微粒子が過度に多くなり、電子加速層4と薄膜電極3の間に導電微粒子から成る金属層が形成され、加速した電子の散乱が起こり、電子放出量が減少する。さらに、絶縁体微粒子含有バインダー成分層に導電微粒子の染み込む量も多いために、導電パスが形成され易くなり、素子内に低電圧で大電流が流れ、電子放出量が減少する。他方、8500rpm以上では、縁体微粒子含有バインダー成分層に導電微粒子の染み込む量が少ないために、電子加速層における電子の加速を効果的に行えない。
また、導電微粒子分散液の塗布に、噴霧法を用いると、導電微粒子を非常に小さい液滴で吐出させることができ、バインダー成分中に分散した絶縁体微粒子の上部に導電微粒子を薄く均一に塗布することができる。噴霧法としては、超音波霧化法、スプレー法、静電噴霧法などが挙げられるが、噴霧液滴の飛び散りを抑止できる点や、噴霧液滴の径を小さく制御し易いという点において、特に、静電噴霧法が好ましい。
ここで、静電噴霧法を用いる場合の条件は、特に限定されるものではないが、用いるシリンジの内径0.11mm以上2.16mm未満が好ましく、0.21mm以上0.51mm未満が特に好ましい。0.11mm未満では、詰まりの発生が多く、2.16mm以上では導電微粒子分散液の着弾径が大きくなり、重なり合うため、絶縁体微粒子含有バインダー成分層上に残存する導電微粒子が過度に多くなり、上記と同様の現象により、電子放出量が減少する。さらに、絶縁体微粒子含有バインダー成分層に導電微粒子の染み込む量も多いために、上記と同様の現象により、電子放出量が減少する。液体の流量は0.2μL/min以上10mL/min未満が好ましく、1.0μL/min以上1.0mm/min未満が特に好ましい。0.2μL/min未満では、液滴が小さく、縁体微粒子含有バインダー成分層に導電微粒子の染み込む量が少ないために、電子加速層における電子の加速を効果的に行えない。他方、10mL/min以上では導電微粒子の着弾径が大きくなり、絶縁体微粒子含有バインダー成分層上に残存する導電微粒子が過度に多くなり、上記と同様の現象により、電子放出量が減少する。さらに、絶縁体微粒子含有バインダー成分層に導電微粒子の染み込む量も多いために、上記と同様の現象により、電子放出量が減少する。
また、導電微粒子分散液の塗布に、インクジェット法を用いると、バインダー成分中に分散した絶縁体微粒子上部に導電微粒子を塗布する密度や箇所を制御することができる。よって、パターニングの必要のあるデバイスや、スイッチング素子等に好適に用いられる。
ここで、インクジェット法を用いる場合の条件は、特に限定されるものではないが、吐出体積0.1fL以上100pL未満が好ましい。0.1fL未満では、液滴が小さく、縁体微粒子含有バインダー成分層に導電微粒子の染み込む量が少ないために、電子加速層における電子の加速を効果的に行えない。他方、100pL以上では、絶縁体微粒子含有バインダー成分層上に残存する導電微粒子が過度に多くなり、上記と同様の現象により、電子放出量が減少する。さらに、絶縁体微粒子含有バインダー成分層に導電微粒子の染み込む量も多いために、上記と同様の現象により、電子放出量が減少する。
以上により電子加速層4が形成される。このように、電子加速層4を、絶縁体微粒子が分散されたバインダー成分層上に、絶縁体微粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径の導電微粒子の分散液を塗布することで形成する。ここで、バインダー成分層上に塗布した導電微粒子が、絶縁体微粒子を含むバインダー成分層の内部に浸透する。よって、電子加速層4は、バインダー成分15に絶縁体微粒子5および導電微粒子6が分散され、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散されて形成される。
なお、電子加速層4が、バインダー成分15に絶縁体微粒子5および導電微粒子6が分散され、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散されて形成されれば、その形成方法は上記に限定されない。例えば、バインダー成分がシリコーン樹脂であり、電極基板上に絶縁体微粒子が分散されたシリコーン樹脂を塗布し、焼成後シリカ(絶縁物質)に変質させ、この縁体微粒子が分散されたシリカに導電微粒子の分散液を塗布して浸透させて、電子加速層4を形成してもよい。
電子加速層4の形成後、電子加速層4上に薄膜電極3を成膜する。薄膜電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。また、薄膜電極3は、例えば、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等を用いて成膜してもよい。
(実施例)
以下の実施例では、本発明に係る電子放出素子を用いて電流測定した実験について説明する。なお、この実験は実施の一例であって、本発明の内容を制限するものではない。
まず実施例1〜4の電子放出素子と比較例1の電子放出素子を以下のように作製した。そして、作製した実施例1〜4の電子放出素子について、図3に示す実験系を用いて単位面積あたりの電子放出電流の測定実験を行った。図3の実験系では、電子放出素子1の薄膜電極3側に、絶縁体スペーサ9を挟んで対向電極8を配置させる。そして、電子放出素子1および対向電極8は、それぞれ、電源7に接続されており、電子放出素子1にはV1の電圧、対向電極8にはV2の電圧が印加されるようになっている。このような実験系を1×10−8ATMの真空中に配置して電子放出実験を行った。また、実験では、絶縁体スペーサ9を挟んで、電子放出素子と対向電極との距離は5mmとした。また、対抗電極への印加電圧V2=100Vとした。
(実施例1)
まず、10mLの試薬瓶に溶媒であるエタノール4.0gと、メチルトリメトキシシランKBM−13(信越化学工業株式会社製)0.5gとを入れ、さらに、絶縁体微粒子5として平均粒径12nmの球状シリカ粒子AEROSIL R8200(エボニックエグサジャパン株式会社製)を0.5g投入し、試薬瓶を超音波分散器にかけ、絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液Aを調製した。この分散液Aに占める絶縁体微粒子の含有率は10重量%であった。
次に、電極基板2となる30mm角のSUS基板上に、上記で得られた分散液Aを滴下後、スピンコート法を用いて3000rpm、10sで絶縁体微粒子含有バインダー成分層Iを形成した。この絶縁体微粒子含有バインダー成分層Iは常温で乾燥し、経時変化を起こさないため、続けて次の工程に移った。
導電微粒子6が溶媒に分散された導電微粒子分散液として、金ナノ粒子含有ナフテン分散溶液(ハリマ化成株式会社製、金微粒子の平均粒径5.0nm、金微粒子固形分濃度52%)を、絶縁体微粒子含有バインダー成分層I上に滴下後、スピンコート法を用いて6000rpm、10sで電子加速層4を形成した。つまり、絶縁体微粒子含有バインダー成分層Iに絶縁微粒子が浸透していき、バインダー成分に絶縁体微粒子5と導電微粒子6が分散した電子加速層4が形成される。
このように形成した電子加速層4の表面には、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極を成膜することにより、実施例1の電子放出素子を得た。薄膜電極3の成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.014cm2とした。
この電子放出素子は1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極3への印加電圧V1=29.6Vにて、単位面積当たりの電子放出電流は、0.46mA/cm2、素子内電流は115mA/cm2、電子放出効率0.4%が確認された。また、実施例1の電子放出素子をTEM写真で確認したところ、電子加速層4では、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散されていることがわかった。
(実施例2)
実施例1と同様にして得られた絶縁体微粒子含有バインダー成分層I上に、導電微粒子6が溶媒に分散された導電微粒子分散液として、銀ナノ粒子含有ヘキサン分散溶液(応用ナノ粒子研究所製、銀微粒子の平均粒径4.5nm、銀微粒子固形分濃度7%)を滴下後、スピンコート法を用いて3000rpm、10sにて、電子加速層4を形成した。
その後、電子加速層の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、実施例2の電子放出素子を得た。成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.014cm2とした。
この実施例2の電子放出素子は1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極3への印加電圧V1=28.9Vにて、単位面積当たりの電子放出電流は、0.40mA/cm2、素子内電流は38mA/cm2、電子放出効率1.1%が確認された。また、実施例2の電子放出素子をTEM写真で確認したところ、電子加速層4では、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散されていることがわかった。
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた絶縁体微粒子含有バインダー成分層I上に、導電微粒子6が溶媒に分散された導電微粒子分散液として、銀ナノ粒子含有ヘキサン分散溶液(応用ナノ粒子研究所製、銀微粒子の平均粒径4.5nm、銀微粒子固形分濃度7%)を静電噴霧し、電子加速層4を形成した。静電噴霧条件は、液体の流量2μL/min、シリンジ内径0.41mm、針から基板間距離8cm、電圧力5Vとした。
その後、電子加速層4の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極を成膜することにより、実施例3の電子放出素子を得た。成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は40nm、同面積は0.014cm2とした。
この実施例3の電子放出素子は1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極3への印加電圧V1=23.4Vにて、単位面積当たりの電子放出電流は、0.10mA/cm2、素子内電流は25mA/cm2、電子放出効率0.4%が確認された。また、実施例3の電子放出素子をTEM写真で確認したところ、電子加速層4では、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散されていることがわかった。
(実施例4)
実施例1と同様にして得られた絶縁体微粒子含有バインダー成分層I上に、導電微粒子6が溶媒に分散された導電微粒子分散液として、銀ナノ粒子含有テトラデカン分散溶液(株式会社アルバック製、銀微粒子の平均粒径5.0nm、銀微粒子固形分濃度54%)を用い、インクジェットヘッドを使用して吐出させて塗布することで、電子加速層4を形成した。吐出条件は、吐出体積4pL、吐出ピッチは140μm×240μmとし、着弾径30μmとなった。
その後、電子加速層4の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、実施例4の電子放出素子を得た。成膜材料として金を使用し、薄膜電極の層厚は40nm、同面積は0.0707cm2とした。同面積中の導電微粒子着弾個数は210個、着弾面積の合計は1.5−3cm2であった。
この実施例4の電子放出素子は、1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極3への印加電圧V1=19.7Vにて、単位面積当たりの電子放出電流は、1.14mA/cm2、素子内電流は734mA/cm2、電子放出効率0.2%が確認された。また、実施例4の電子放出素子をTEM写真で確認したところ、電子加速層4では、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散されていることがわかった。
(比較例1)
実施例1と同様にして得られた絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液Aと、導電微粒子6が溶媒に分散された導電微粒子分散液と混合した。この導電微粒子分散液としては、銀ナノ粒子含有ヘキサン分散溶液(応用ナノ粒子研究所製、銀微粒子の平均粒径4.5nm、銀微粒子固形分濃度7%)を用いた。絶縁体微粒子含有バインダー成分分散液A1.0g中に銀ナノ粒子含有ヘキサン分散溶液1.0gを投入し、常温で攪拌し、絶縁体微粒子および導電微粒子混合溶液Bを得た。混合溶液Bに占める導電微粒子6の含有率は3.5重量%であった。
電極基板2として30mm角のSUS基板上に、上記で得られた混合溶液Bを滴下後、スピンコート法を用いて8000rpm、10sで絶縁体微粒子および導電微粒子含有バインダー成分を堆積させ、電子加速層4を得た。
その後、電子加速層4の表面に、マグネトロンスパッタ装置を用いて薄膜電極3を成膜することにより、比較例1の電子放出素子を得た。薄膜電極3の成膜材料として金を使用し、薄膜電極3の層厚は30nm、同面積は0.014cm2とした。
この比較例1の電子放出素子は1×10−8ATMの真空中において、薄膜電極3への印加電圧V1=27.1Vにて、単位面積当たりの電子放出電流は、0.063mA/cm2、素子内電流は118mA/cm2、電子放出効率0.05%が確認された。この比較例1の電子加速層4では、層内で導電微粒子は均等に分散されていた。
実施例2および比較例1からわかるように、バインダー成分層形成後に導電微粒子を添加すると、電子加速層4では、薄膜電極3側に導電微粒子6が多く分散され、電子放出素子の電子放出効率が向上することがわかる。
〔実施の形態2〕
図4に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を利用した本発明に係る帯電装置90の一例を示す。帯電装置90は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10から成り、感光体11を帯電させるものである。本発明に係る画像形成装置は、この帯電装置90を具備している。本発明に係る画像形成装置において、帯電装置90を成す電子放出素子1は、被帯電体である感光体11に対向して設置され、電圧を印加することにより、電子を放出させ、感光体11を帯電させる。なお、本発明に係る画像形成装置では、帯電装置90以外の構成部材は、従来公知のものを用いればよい。ここで、帯電装置90として用いる電子放出素子1は、感光体11から、例えば3〜5mm隔てて配置するのが好ましい。また、電子放出素子1への印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子1の電子加速層の構成は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、大気中で動作しても放電を伴わず、従って帯電装置90からのオゾンの発生は無い。オゾンは人体に有害であり環境に対する各種規格で規制されているほか、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば感光体11やベルトなどを酸化し劣化させてしまう。このような問題を、本発明に係る電子放出装置10を帯電装置90に用い、また、このような帯電装置90を画像形成装置が有することで、解決することができる。また、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、帯電装置90は、効率よく帯電できる。
さらに帯電装置90として用いられる電子放出装置10は、面電子源として構成されるので、感光体11の回転方向へも幅を持って帯電を行え、感光体11のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、帯電装置90は、線状で帯電するワイヤ帯電器などと比べ、均一な帯電が可能である。また、帯電装置90は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむというメリットもある。
〔実施の形態3〕
図5に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る電子線硬化装置100の一例を示す。電子線硬化装置100は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10と、電子を加速させる加速電極21とを備えている。電子線硬化装置100では、電子放出素子1を電子源とし、放出された電子を加速電極21で加速してレジスト(被硬化物)22へと衝突させる。一般的なレジスト22を硬化させるために必要なエネルギーは10eV以下であるため、エネルギーだけに注目すれば加速電極は必要ない。しかし、電子線の浸透深さは電子のエネルギーの関数となるため、例えば厚さ1μmのレジスト22を全て硬化させるには約5kVの加速電圧が必要となる。
従来からある一般的な電子線硬化装置は、電子源を真空封止し、高電圧印加(50〜100kV)により電子を放出させ、電子窓を通して電子を取り出し、照射する。この電子放出の方法であれば、電子窓を透過させる際に大きなエネルギーロスが生じる。また、レジストに到達した電子も高エネルギーであるため、レジストの厚さを透過してしまい、エネルギー利用効率が低くなる。さらに、一度に照射できる範囲が狭く、点状で描画することになるため、スループットも低い。
これに対し、電子放出装置10を用いた本発明に係る電子線硬化装置は、大気中動作可能であるため、真空封止の必要がない。また、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、電子線硬化装置は、効率よく電子線を照射できる。また、電子透過窓を通さないのでエネルギーのロスも無く、印加電圧を下げることができる。さらに面電子源であるためスループットが格段に高くなる。また、パターンに従って電子を放出させれば、マスクレス露光も可能となる。
〔実施の形態4〕
図6〜8に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る自発光デバイスの例をそれぞれ示す。
図6に示す自発光デバイス31は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置と、さらに、電子放出素子1と離れ、対向した位置に、基材となるガラス基板34、ITO膜33、および蛍光体32が積層構造を有する発光部36と、から成る。
蛍光体32としては赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの材料が適しており、例えば、赤色ではY2O3:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、青色ではBaMgAl10O17:Eu2+等が使用可能である。ITO膜33が成膜されたガラス基板34表面に、蛍光体32を成膜する。蛍光体32の厚さ1μm程度が好ましい。また、ITO膜33の膜厚は、導電性を確保できる膜厚であれば問題なく、本実施形態では150nmとした。
蛍光体32を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と微粒子化した蛍光体粒子との混練物として準備し、バーコーター法或いは滴下法等の公知な方法で成膜するとよい。
ここで、蛍光体32の発光輝度を上げるには、電子放出素子1から放出された電子を蛍光体へ向けて加速する必要があり、その場合は電子放出素子1の電極基板2と発光部36のITO膜33の間に、電子を加速する電界を形成するための電圧印加するために、電源35を設けるとよい。このとき、蛍光体32と電子放出素子1との距離は、0.3〜1mmで、電源7からの印加電圧は18V、電源35からの印加電圧は500〜2000Vにするのが好ましい。
図7に示す自発光デバイス31’は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7、さらに、蛍光体32を備えている。自発光デバイス31’では、蛍光体32は平面状であり、電子放出素子1の表面に蛍光体32が配置されている。ここで、電子放出素子1表面に成膜された蛍光体32の層は、前述のように微粒子化した蛍光体粒子との混練物から成る塗布液として準備し、電子放出素子1表面に成膜する。但し、電子放出素子1そのものは外力に対して弱い構造であるため、バーコーター法による成膜手段は利用すると素子が壊れる恐れがある。このため滴下法或いはスピンコート法等の方法を用いるとよい。
図8に示す自発光デバイス31”は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7を有する電子放出装置10を備え、さらに、電子放出素子1の電子加速層4に蛍光体32’として蛍光の微粒子が混入されている。この場合、蛍光体32’の微粒子を絶縁体微粒子5と兼用させてもよい。但し前述した蛍光体の微粒子は一般的に電気抵抗が低く、絶縁体微粒子5に比べると明らかに電気抵抗は低い。よって蛍光体の微粒子を絶縁体微粒子5に変えて混合する場合、その蛍光体の微粒子の混合量は少量に抑えなければ成らない。例えば、絶縁体微粒子5として球状シリカ粒子(平均粒径110nm)、蛍光体微粒子としてZnS:Mg(平均粒径500nm)を用いた場合、その重量混合比は3:1程度が適切となる。
上記自発光デバイス31,31’,31”では、電子放出素子1より放出させた電子を蛍光体32,32に衝突させて発光させる。電子放出素子1は電子放出効率が高いため、自発光デバイス31,31’,31”は、効率よく発光を行える。なお、自発光デバイス31,31’,31”は、電子放出装置10が大気中で電子を放出できるため、大気中動作可能であるが、真空封止すれば電子放出電流が上がり、より効率よく発光することができる。
さらに、図9に、本発明に係る自発光デバイスを備えた本発明に係る画像表示装置の一例を示す。図9に示す画像表示装置140は、図8で示した自発光デバイス31”と、液晶パネル330とを供えている。画像表示装置140では、自発光デバイス31”を液晶パネル330の後方に設置し、バックライトとして用いている。画像表示装置140に用いる場合、自発光デバイス31”への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。また、自発光デバイス31”と液晶パネル330との距離は、0.1mm程度が好ましい。
また、本発明に係る画像表示装置として、図6に示す自発光デバイス31を用いる場合、自発光デバイス31をマトリックス状に配置して、自発光デバイス31そのものによるFEDとして画像を形成させて表示する形状とすることもできる。この場合、自発光デバイス31への印加電圧は、20〜35Vが好ましく、この電圧にて、例えば、単位時間当たり10μA/cm2の電子が放出されるようになっていればよい。
〔実施の形態5〕
図10及び図11に、実施の形態1で説明した本発明に係る電子放出装置10を用いた本発明に係る送風装置の例をそれぞれ示す。以下では、本願発明に係る送風装置を、冷却装置として用いた場合について説明する。しかし、送風装置の利用は冷却装置に限定されることはない。
図10に示す送風装置150は、電子放出素子1とこれに電圧を印加する電源7とを有する電子放出装置10からなる。送風装置150において、電子放出素子1は、電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出することにより、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。冷却させる場合、電子放出素子1に印加する電圧は、18V程度が好ましく、この電圧で、雰囲気下に、例えば、単位時間当たり1μA/cm2の電子を放出することが好ましい。
図11に示す送風装置160は、図10に示す送風装置150に、さらに、送風ファン42が組み合わされている。図11に示す送風装置160は、電子放出素子1が電気的に接地された被冷却体41に向かって電子を放出し、さらに、送風ファン42が被冷却体41に向かって送風することで電子放出素子から放出された電子を被冷却体41に向かって送り、イオン風を発生させて被冷却体41を冷却する。この場合、送風ファン42による風量は、0.9〜2L/分/cm2とするのが好ましい。
ここで、送風によって被冷却体41を冷却させようとするとき、従来の送風装置あるいは冷却装置のようにファン等による送風だけでは、被冷却体41の表面の流速が0となり、最も熱を逃がしたい部分の空気は置換されず、冷却効率が悪い。しかし、送風される空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含まれていると、被冷却体41近傍に近づいたときに電気的な力によって被冷却体41表面に引き寄せられるため、表面近傍の雰囲気を入れ替えることができる。ここで、本発明に係る送風装置150,160では、送風する空気の中に電子やイオンといった荷電粒子を含んでいるので、冷却効率が格段に上がる。さらに、電子放出素子1は電子放出効率が高いため、送風装置150,160は、より効率よく冷却することができる。送風装置150および送風装置160は、大気中動作も可能である。
本発明は上述した各実施形態および実施例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。