JP4758580B2 - ニトリラーゼの選択性を調整する方法、前記方法によって得られるニトリラーゼおよびその用途 - Google Patents
ニトリラーゼの選択性を調整する方法、前記方法によって得られるニトリラーゼおよびその用途 Download PDFInfo
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Description
本発明は選択性を高めた新しいニトリラーゼ、それらを得る方法および前記ニトリラーゼの用途に関する。
【0002】
ニトリラーゼ
ニトリル基を対応するカルボン酸とアンモニウムイオンにする加水分解を触媒するのがニトリラーゼである(Faber,Biotransformations in Organic Chemistry,Springer Verlag、Berlin Heidelberg、1992、ISBN3−540−55762−8)。しかしながら、最終結果がニトリル基の加水分解で構成される、ニトリル基の対応するカルボン酸へのこの生物学的変換は2段階で実施することも可能であり、最初のステップはニトリルヒドラターゼでニトリルを対応するアミドに生物学的に変換することで構成され、第2のステップは得られたアミドをアミダーゼで対応するカルボン酸に加水分解することで構成される。
【0003】
ニトリラーゼは最初に植物中で発見され(Thimann and Mahadevan、1964、Arch.Biochem.Biophys.105:133−141)、その後、多くの代表的な土壌微生物相で単離された(Kobayashi and Shimizu、1994、FEMS Microbiology Letters 120:217−224):Pseudomonas、Nocardia、Arthrobacter、Fusarium、Rhodoccocus、KlebsiellaおよびAlcaligenes。さらに最近になって、好熱性細菌中でニトリラーゼが特性分析された(Cramp et al.、Microbiology、143:2313−2320)。ニトリラーゼは多様な基質特異性を有するが、それらの特異性によって3つのグループに分類することができる。すなわち脂肪族ニトリルに特異的なニトリラーゼ、芳香族ニトリルに特異的なもの、またはアリルアセトニトリルに特異的なものである(Kobayashi et al.、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:247−251;Kobayashi and Shimizu、1994、前出;Levy−Schil et al.、1995、Gene 161:15−20;Layh et al.、1998、J.Mol.Catal B:Enzymatic 5:467−474)。
【0004】
ニトリラーゼは、多くの合成過程がニトリル基の加水分解を含むので生体触媒作用で価値がある(Yamamoto et al.、1991、Appl.Environ.Microb.57:3028−3032;Faber,Biotransformations in Organic Chemistry,2nd edn,Springer−Verlag、Berlin、1995;Levy−Scil et al.、1995、Gene 161:15−20;Cowan et al.、1998、Extremophiles 2:207−216):アジポニトリルのシアノ吉草酸塩またはアジピン酸塩への変換、ニコチン酸、アミノ安息香酸、トラネキサム酸の合成、マンデロニトリルのエナンチオ選択的加水分解。特に、Alcaligenes faecalis ATCC8750のニトリラーゼ(本出願ではNitBと呼ぶ)およびComamonas testosteroniのそれ(本出願ではNitAと呼ぶ)はメチオニンのヒドロキシ類似体を得るために使用することができる(FR9411301、WO9609403、FR9613077)。
【0005】
ニトリラーゼは、約30%から始まって様々な同一度でアラインする一次構造を有する。いくつかのニトリラーゼの配列をアラインすると、NitBニトリラーゼの配列の位置163のシステイン残基を含むいくつかの残基の保存が明らかになる。この残基はニトリラーゼの反応メカニズムに含まれる(Kobayashi et al.、1993、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:247−251)。
【0006】
本発明に関しては、基準配列はNitB配列であって、特定のアミノ酸位置の規定および表示はNitB一次配列に関して与えられる。添付の図1は当該技術の現状で述べられている14種のニトリラーゼの配列であって、NitBを基準にそれに関して並べられ、Arabidopsis thalianaのp_Athalia1から4まで(SwissProt受理番号P32961、P32962、P46010、P46011)、Nicotiana tabacumのp_Tobacco1と2(GeneBank受理番号D63331、D83078)、Rhodococcus rhodocrous J1のb_RhodocJ1(GeneBank受理番号D11425)、Rhodococcus rhodocrous PA34のb_RrhodocPA3(GeneBank受理番号E09026)、Gordona terraeのb_Gterrae(GeneBank受理番号E12616)、Rhodococcus rhodocrous K22のb_RrhodocK22(GeneBank受理番号D12583)、Klebsiella ozaenaeのb_Kozaenae(SwissProt受理番号P100450)、Comamonas testosteroni NI1のb_CtestosNI1またはNitA(GeneBank受理番号L32589)、およびAlcaligenes faecalis JM3のb_AfaecalisまたはNitB(SwissProt受理番号P20960)の配列を含む。NitB配列のアミノ酸の番号がこの図に付され(下部の番号)、その番号付け(上部の番号)と一致する配列である。本出願の慣行によって、他のニトリラーゼの残基はこのシステイン残基および基準配列とするNitBニトリラーゼの配列に関して番号付けされる。そのようなアラインメント、またはいずれかのアラインメントニトリラーゼ配列に基づいて、NitBアミノ酸の位置と性質により与えられる規定を使用して別のニトリラーゼ配列中の対応するアミノ酸の位置を識別することは当業者にとって容易である。
【0007】
選択性の問題
ニトリラーゼの選択性は、ニトリラーゼの触媒するニトリルの加水分解によって放出されるカルボキシル機能を持たない化合物のパーセンテージとして規定される。それは相対的に少ないと言われてきたが、一定数のニトリラーゼと基質については観察される。このように、2−メトキシマンデロニトリルを2−メトキシマンデル酸にする加水分解はPseudomonas fluorescens DSM7155のニトリラーゼによって触媒され、2−メトキシマンデルアミドの同時生成につながる(Layh et al.、1998、前出)。同様に、本出願の実施例で説明するComamonas testosteroni NI1のNitAニトリラーゼによって触媒される2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリル(HMTBN)の加水分解(Levy−Schil et al.、1995、前出)は2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチルアミド(HMTBM)の同時生成を伴なう。そのような酵素/−基質対を使用する生体触媒処理のケースでは、ニトリラーゼのその基質についての選択性の欠如はアミドの同時生成につながり、それは処理の収量が損失することを表わす。この収量損失はかなりの経済的衝撃を有し得る。加えて、この選択性欠如は反応産物を不純物汚染するアミドの存在につながる。その後にカルボン酸の精製が必要とされ、ここでもやはり処理に大きな経済的衝撃を与える。したがってニトリラーゼの所定の基質に関する選択性欠如はこのニトリラーゼとこの基質を使用する生体触媒処理の開発にとって障害となる。
【0008】
酵素の選択性の低減は、この低減が基質に対する酵素の触媒活性の増大を伴なう場合に必要とされることもある。特に、最大の特異的活性酵素で害毒となる分子を急速に分解することが必要となる汚染除去の方法におけるケースである。このケースでは、酵素によって触媒される反応に由来する生成物の性質は基質の分解速度に対してあまり重要でない。
【0009】
したがって、この選択性の向上の見地と低減の見地の両方で、ニトリラーゼの選択性を調整可能であることが特に大切である。
【0010】
酵素活性の亢進
方向付けられた酵素の増進は、増進された特性を有する変異種を繰り返し選択することによって酵素を特定の機能に適合させることで構成される(Arnold and Volkov、1999、Current Opinion in Chemical Biology 3:54−59;Kuchner and Arnold、1997、Tibtech 15:523−530)。これらの変異種は研究対象の酵素をコードする遺伝子に対する突然変異誘発(Skandalis et al.、1997、Chemistry & Biology 4:8889−898;Crameri et al.、1998、Nature 391:288−291):化学的突然変異誘発(Singer and Fraenkel−Conrat、1969、Prog.Nucl.Acid Res.Mol.Biol.9:1−29)、エラープローンPCR(Leung et al.、1989、Technique 1:11−15)、組み合わせPCR(Crameri et al.、1998、前出;Shao et al.、1998、Nucleic Acids Res.26:681−683)、指向性突然変異誘発(Directed Mutagenesis:A Practical Approach、1991、Edited by M.J.McPHERSON、IRL PRESS)、などによる突然変異誘発といったいくつかの技術によって作製することができる。
【0011】
HMTBN(2−アミノ−4−メチルチオブチロニトリル)に対するNitBニトリラーゼの活性を増進するちう背景で、NitBの位置162の活性部位でシステイン残基をアスパラガニン残基で置き換える一点置換が研究対象のニトリラーゼの選択性の調整につながることに考案者らは気付いた。他方で、NitAニトリラーゼの配列の位置162にシステイン残基を導入することがまた別のそれの基質、AMTBNに対する選択性を増進することにつながり、したがってニトリラーゼの活性部位の領域の位置162は前記ニトリラーゼの選択性に含まれるキーとなる位置であり、本来のアミノ酸を別のアミノ酸で置き換えることで構成されるこの位置でのアミノ酸残基の変更がニトリラーゼの選択性の調整につながることに気付いた。
【0012】
したがって本発明は、調整された選択性を備え、位置162に本来のアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基を含むことを特徴とする改変ニトリラーゼに関する。
【0013】
本発明によると、「改変ニトリラーゼ」という用語は本来のニトリラーゼに対して改変がなされたニトリラーゼを意味することを意図しており、その改変は位置162で本来のアミノ酸残基を別のアミノ酸で置き換えることで構成される。
【0014】
本発明によると、「選択性の調整」という表現は本来のニトリラーゼの選択性とは異なる選択性を意味することを意図しており、特定すると本来のニトリラーゼに対して少なくとも0.5%異なり、少なくとも1%異なるのが好都合である。
【0015】
都合がよければ残基162はシステイン、アラニン、バリン、アスパラギン、グルタミン、イソロイシンおよびセリンの中から選択されるアミノ酸で置き換えられるものであり、本来のニトリラーゼの残基162がシステイン、アラニン、バリン、アスパラギン、グルタミン、イソロイシンまたはセリンそれぞれと異なることは分かっている。
【0016】
残基162はシステイン残基で置き換えられることが好ましい。
【0017】
本発明の特定の実施形態によると、調整は選択性を増進させることから成る。
【0018】
本発明の第2の特定の実施形態によると、調整は選択性を低減させることから成る。
【0019】
本来の未調整ニトリラーゼは細菌、酵母、菌、植物または動物の起源の中から選択される。
【0020】
バクテリアを起源とするニトリラーゼの中で、特に以下のニトリラーゼを記載することができる。すなわち、Rhodococcus rhodocrous J1のb_RhodocJ1(GeneBank受理番号D11425)、Rhodococcus rhodocrous PA34のb_RrhodocPA3(GeneBank受理番号E09026)、Gordona terraeのb_Gterrae(GeneBank受理番号E12616)、Rhodococcus rhodocrous K22のb_RrhodocK22(GeneBank受理番号D12583)、Klebsiella ozaenaeのb_Kozaenae(SwissProt受理番号P100450)、Comamonas testosteroni NI1のb_CtestosNI1またはNitA(GeneBank受理番号L32589)、およびAlcaligenes faecalis JM3のb_AfaecalisまたはNitB(SwissProt受理番号P20960)である。植物を起源とするニトリラーゼの中で、特に記載できるものは、Arabidopsis thalianaのp_Athalia1から4まで(SwissProt受理番号P32961、P32962、P46010、P46011)、およびNicotiana tabacumのp_Tobacco1および2(GeneBank受理番号D63331、D83078)である。
【0021】
その他を起源とするニトリラーゼの中で、特に記載できるものは、Saccharomyces cerevisiaeのもの(SwissProt受理番号P40447およびP4044)、Caenorhabditis elegansのもの(GeneBank受理番号AF069986)、Drosophila melanogasterのもの(GeneBank受理番号AF069989)、Homo sapiensのもの(GeneBank受理番号AF069987)およびMus musculusのもの(GeneBank受理番号AF069988)である。
【0022】
本発明のまた別の実施形態によると、本来のニトリラーゼはDNAライブラリー、特にcDNAまたはゲノムDNAのスクリーニングによって得られるニトリラーゼであり、様々な供給源、特にニトリラーゼの無作為の突然変異と組換えを通じて、指向性の分子進化または土壌ないし他の生態系に由来するDNAライブラリーのスクリーニングによって得られるDNAライブラリーから得られる。
【0023】
本発明はまた、上記の改変ニトリラーゼをコードする核酸配列、特にDNA配列にも関する。
【0024】
本発明の第1の実施形態によると、本発明による核酸配列は本来のニトリラーゼの核酸配列で構成され、それに関して位置162で本来の残基のコドンが本来のものと異なる残基をコードするコドン、特にアラニン、バリン、アスパラギン、グルタミン、イソロイシンまたはセリン残基をコードするコドンで置き換えられている。
【0025】
本来の配列のコドンは前に規定した酵素の増進のために当業者が知っているあらゆる手段、特に指向性の突然変異誘発によって変更することができる。
【0026】
本発明はまた、キメラ遺伝子ないし発現カセットにも関し、転写の方向で、ホスト有機体の中で機能するプロモーター調節配列、本発明による改変ニトリラーゼをコードする核酸配列および同じホスト有機体の中で機能するターミネーター調節配列を含む。
【0027】
宿主微生物はすべての真核ないし原核生物を含み、それは分化していても未分化であってもよく、特定すると細菌、酵母、菌、植物細胞および植物体である。
【0028】
それらは特にバクテリア、例えばE.coli、特にSaccharomyces、KluyveromycesまたはPichia属の酵母、特にAspergillusまたはPenicillium属の菌、バキュロウィルス、または植物細胞および植物体である。
【0029】
本発明によると、「植物細胞」という用語は植物体に由来するあらゆる細胞を意味することを意図されており、カルスのような未分化組織、胚、植物体の一部、植物体または種子のような分化した組織から構成され得る。
【0030】
本発明によると、「植物体」という用語は光合成を行ない得るすべての多細胞微生物を意味するように意図されており、特に単子葉ないし双子葉、さらに特定するとトウモロコシ、コムギ、アブラナ、ダイズ、イネ、サトウキビ、ビートの根、タバコ、ワタなどのような動物またはヒトの食料用に意図されるかまたはされていない作物植物である。
【0031】
プロモーターおよびターミネーター調節要素は当業者にはよく知られており、宿主微生物によって決まる。
【0032】
バクテリア内でのプロモーターである調節配列として、バクテリア内で自然に発現される遺伝子のあらゆるプロモーター調節配列、例えばE.coliのトリプトファンオペロンのプロモーター(Denefle et al.、1987、Gene 56:61−70)が使用可能である。
【0033】
酵母内でのプロモーターである調節配列として、酵母内で自然に発現される遺伝子のあらゆるプロモーター調節配列、例えばS.cerevisiae Mfα1遺伝子またはKluyveromyces lactis遺伝子(van den Berg et al.、1990、Bio/Technology 8:135−139)のプロモーターが使用可能である。
【0034】
菌内でのプロモーターである調節配列として、菌内で自然に発現される遺伝子のあらゆるプロモーター調節配列、例えばPenicillium chrysogenum酸性ホスファターゼ遺伝子(Graessle et al.、1997、Appl.Environ.Microbiol.63:753−756)のプロモーター配列またはAspergillus nidulansアルコールデヒドロゲナーゼI遺伝子(Gwyne et al.、1989、Biochem.Soc.Trans.17:338−340)のプロモーター配列が使用可能である。
【0035】
植物細胞および植物体内でのプロモーターである調節配列として、植物内で自然に発現される遺伝子のあらゆるプロモーター調節配列、特にバクテリア、ウィルスまたは植物を起源とするプロモーターが使用可能であり、例えばリブロースビスカルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ(RuBisCO)小型サブユニット遺伝子のプロモーター、ヒストンプロモーター(EP0507698)、イネのアクチンプロモーター、または例えばカリフラワーモザイクウィルス(CAMV19Sないし35S)のプロモーターやタバコPR−Iaのような病原によって誘導可能なプロモーターといった植物ウィルス遺伝子のプロモーターである。
【0036】
細菌内でのターミネーターである調節配列として、細菌内で自然に発現されるあらゆるターミネーター調節配列、例えばE.coliリボソームのRNAオペロンのターミネーター調節配列(Denefle et al.、1987、Gene 56:61−70)が使用可能である。
【0037】
酵母内でのターミネーターである調節配列として、酵母内で自然に発現されるあらゆるターミネーター調節配列、例えばS.cerivisiaeのホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)のターミネーターまたはKluyveromyces lactisのラクターゼのターミネーター(van den Berg et al.、1990、Bio/Technology 8:135−139)が使用可能である。
【0038】
菌内でのターミネーターである調節配列として、菌内で自然に発現されるあらゆるターミネーター調節配列、例えばTrichoderma reeseiのピルビン酸キナーゼ遺伝子のターミネーター配列(Scindler et al.、1993、Gene 130:271−275)が使用可能である。
【0039】
植物細胞および植物体内でのターミネーターである調節配列として、植物内で自然に発現される遺伝子のあらゆるターミネーター調節配列、例えばAgrobacterium tumefaciens nosターミネーターを例としたバクテリア起源、CaMV 35Sターミネーターを例としたウィルス起源、ヒストンターミネーター(EP0633317)を例とした植物起源の遺伝子のターミネーターが使用可能である。
【0040】
本発明はまた、上記で規定したようなキメラ遺伝子を含む形質転換したホスト有機体にも関し、特にそのゲノムの中に本発明によるキメラ遺伝子が安定に一体化された上記で規定した微生物。
【0041】
本発明はまた、増進された選択性をもつ上記に規定の改変ニトリラーゼを生成する方法にも関し、前記方法は本発明による形質転換宿主微生物を培養し、適切なところで改変ニトリラーゼを混合物ないし精製された形で分離することで構成される。
【0042】
本発明はまた、化合物を合成ないし分解するのに使用する方法の中の生体触媒反応に本発明による改変ニトリラーゼを使用することにも関する。
【0043】
最後に、本発明はニトリラーゼの選択性を調整する方法に関し、前記方法は本来のニトリラーゼの残基162を本来のアミノ酸残基と異なるアミノ酸残基で置き換えることを含む。都合がよければ、残基162は、本来の未改変ニトリラーゼをコードする核酸配列内に位置162の残基をコードする、本来のニトリラーゼの残基をコードするコドンとは異なるコドンを導入することによって置き換えられる。
【0044】
前記調整方法を使用して得られるニトリラーゼは上記で規定したようなニトリラーゼであることが好ましい。
【0045】
以下の実施例は、本発明の範囲を限定しようとするものではないが本発明を具体的に説明することを可能にする。
【0046】
材料と方法
2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリルに対するニトリラーゼの活性は次のようにして測定する。
【0047】
660nmでの吸光度(OD660)が判っている培養試料を採取して100mMリン酸バッファ、pH7.0で洗浄する。OD660から試料の乾燥重量を見積もり(1OD660ユニットは乾燥細胞0.35mg/mlの乾燥重量に相当する)、約1mgのDCを1mlの100mMリン酸バッファ、pH7.0にとって密閉した2mlのチューブで35℃にて10分間インキュベートする。分析の開始時に反応混合液中で100mMの濃度となるよう、動力学は78%でHMTBN溶液17μlを加えることによって開始する。撹拌しながら35℃でインキュベートして反応させる。15分毎に100μlの懸濁液試料を引き抜き、900μlの100mM H3PO4、pH2.5を混合して反応を停止させる。遠心分離した後、以下に述べるようにしてHPLCによって上清を分析する。
【0048】
溶離液は50mM H3PO4に希釈したHPLC等級のアセトニトリル(0.9リットルの50mM H3PO4と0.1リットルのアセトニトリルを混合)で構成される。濾過されて脱ガスされたこの溶離液が流速1ml/分および140バールの圧力でカラムに浸透する。使用するカラムは5μm C18 Nucleosilカラム(INTERCHIM,Ref.N5CC18−25F)で長さ250mm、直径4.6mmである。注入する容量は5μlであり、検出は波長215nmにおける吸収を読み取ることによって実施される。これらの条件下で、HMTBM、HMTBS(2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタン酸)およびHMTBN(2−ヒドロキシ−4−メチルチオブタンアミド)のピークは9分、11分および15.8分というそれぞれの保持時間を有する。HMTBN、HMTBMおよびHMTBSの量はピークの面積測量および既知の組成の較正用混合液のピーク面積との比較から演繹される。
【0049】
2−アミノ−4−チオブチロニトリルに対するニトリラーゼの活性は次のようにして測定する。
【0050】
細胞ペレット(0.4から20mgの間のDC)を200mMホウ酸バッファ、pH9.2に懸濁し、密閉2mlチューブで30℃にて10分間インキュベートする。分析の開始時で反応混合液中の終濃度が50mMとなるようにAMTBNの溶液を添加することによって動力学が開始される。撹拌しながら30℃でインキュベートして反応させる。15分毎に50μlの懸濁液試料を引き抜き、950μlのHPLC溶離液(下記の組成参照)と混合して反応を停止させる。遠心分離した後、以下に述べるようにしてHPLCによって上清を分析する。
【0051】
溶離液は0.5%のH3PO4水溶液に希釈した1%のHPLC等級のアセトニトリルで構成される。濾過されて脱ガスされたこの溶離液が1ml/分の流速でカラムに浸透する。使用するカラムは5μm C18 Nucleosilカラム(INTERCHIM,Ref.N5CC18−25F)で長さ250mm、直径4.6mmであり、40℃の温度に維持される。注入される容量は20μlであり、検出は波長210nmにおける吸収を読み取ることによって実施される。これらの条件下で、AMTBM、AMTBS(2−アミノ−4−メチルチオブタン酸)およびAMTBN(2−アミノ−4−メチルチオブタンアミド)のピークは4.0分、4.5分および5.0分というそれぞれの保持時間を有する。AMTBN、AMTBMおよびAMTBSの量はピークの面積測量および既知の組成の較正用混合液のピーク面積との比較から演繹される。
【0052】
使用するその他の技術は当業者によく知られた分子生物学および微生物学の普遍的な技術であって、例えばAusubel et al.、1987(Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley and Sons、New York)、Maniatis et al.、1982(Molecular Cloning:a laboratory manual.Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor、New York)、Coligan et al.、1997(Current Protocols in Protein Science、John Wiley & Sons,Inc.)によって述べられている。
【0053】
実施例
実施例1:発現プラスミドpBCAT29およびpBCAT41の作製
図2はプラスミドpRPA−BCAT41のマップを表わす。カッコ内の部分はクローニングの間で除去された部分である。Ptrpはトリプトファンプロモーター、nitBはニトリラーゼ遺伝子、TrrnBは転写ターミネーター、end ROPはROPタンパク質をコードする遺伝子(Chambers et al.、1988、Gene 68:139−149)の末端、ORIは複製起点、RNAI/IIは複製に含まれるRNA(Chambers et al.、前出)、Tcはテトラサイクリン耐性遺伝子である。
【0054】
Ptrpプロモーターを含む1.27kb断片、λファージcII遺伝子(RBScII)のリボソーム結合部位、およびAlcaligenes faecalis ATCC8750のニトリラーゼ遺伝子(nitB)が、プラスミドpRPA6BCAT6(出願FR96/13077)からEcoRIとXbaI制限酵素を使用して、同じ制限酵素で開環したベクターpXL642(CIP出願番号08/194,588に記載)にクローン化させるために抽出された。結果として得られたプラスミド、pRPA−BCAT15を酵素StuIとBsmIで開環し、4.3kb断片をpRPA−BCAT4(出願FR96/13077)から精製した136bpのStuI−BsmI断片と連結してプラスミドpRPA−BCAT19を作製した。pRPA−BCAT19を部分的に配列分析してニトリラーゼのAsp279残基のコドンがAsn279残基のコドンで置き換えられていることを確認した。その後、Ptrp::RBScII::nitB融合体を含むpRPA−BCAT19の1.2kbのEcoRI−XbaI断片を同じ酵素で開環されたベクターpRPA−BCAT28内にクローン化して6.2kbプラスミドpRPA−BCAT29を作製した。ベクターpRPA−BCAT28は、アンピシリン耐性マーカーをテトラサイクリン耐性マーカーで置き換えるために、pXL642(CIP出願番号08/194,588)の3.9kbのSspI−ScaI断片をpHP45ΩTc(Fellay et al.、1987、Gene 52:147−154)の2.1kbのSmaI断片と連結することによって得た。プラスミドpRPA−BCAT29の複製起点に近いNdeI部位の部分的NdeI切断とE.coliポリメラーゼI(Klenow切断)の作用による破壊でプラスミドpRPA−BCAT41を作製した。そのマップは図1に表わされる。プラスミドpRPA−BCAT41をXcm1切断および連結処理して0.55bpのXcm1断片を除去することによってプラスミドpRPA−BCAT72を作製した。
【0055】
実施例2:NitBのシステイン162のアスパラギンとの置換
nitB遺伝子のシステイン162のコドンは、プライマーNitB162(CGCGTCGGTGCCCTGMASTGCTGGGAGC、ここでM=A/CおよびS=G/C)およびSR(CGGCAATGATCAGGCCTTCGGC)を使用した部位特異的突然変異誘発によって変更した。
【0056】
プライマーNitB162とSR、マトリックスpRPA−BCAT41、Pwoポリメラーゼ(Boehringer)および次のインキュベーションプログラムを使用してPCR反応によって内部の361断片を増幅した。すなわち95℃で5分、(95℃1分、58℃1分、72℃1分)5サイクル、(95℃45秒、58℃30秒、72℃30秒)35サイクル、72℃で5分である。
【0057】
増幅した断片をアガロースゲルに移し、「QiaEx」キット(Quiagen)を使用して断片を抽出することによって精製した後、制限酵素StuIとBanI(New England Biolabs)の存在下で37℃にて供給者の推奨するバッファ中で16時間DNAをインキュベートした。別の内部断片、498bpをプライマーPCRAF1(出願FR96/13072に記載)およびNitB1(GCAGCACAGGGCACCGACGC)を使用して同様の方式で増幅した。
【0058】
増幅した断片をアガロースゲルに移し、「QiaEx」キット(Quiagen)を使用して断片を抽出することによって精製した後、制限酵素NdeIとBanI(New England Biolabs)の存在下で37℃にて供給者の推奨するバッファ中で16時間DNAをインキュベートした。
【0059】
ベクターpRPA−BCAT72を酵素NdeIとStuIで開環し、5.43kpをアガロースゲルで精製してQiaExキットを使用して抽出した。
【0060】
その後、以上に述べた3つの断片を連結し、連結反応混合物をエレクトロポレーションによってE.coli DH5α株に導入した。1.26kbの挿入物を有するプラスミドを選別するために、得られたクローンを酵素EcoRIとXbaIで制限処理することによって分析した。ニトリラーゼ遺伝子のコドン162を含む領域の配列分析をした後、所望のコドン(TGCの代わりにAAC)を持っている2つのプラスミドを選別し、pRPA−BCAT75と命名した。
【0061】
これらのプラスミドをE.coli RPA−BIOCAT496株に導入して菌株RPA−BIOCAT526と527を得た。RPA−BIOCAT496株はW菌株(ATCC9637)に相当し、その中にプラスミドpRPA−BCAT34が前もって導入されている。プラスミドpRPA−BCAT34はプラスミドpXL2035(Levy−Schil et al.、1995、Gene 161:15−20)に相当し、その中にPtrpプロモーターの調節因子をコードするtrpR遺伝子を持つ475bp断片が、EcoRIとNotIの切断部位の間でクローン化されている。この断片をプラスミドpRPA−BCAT30から抽出し、ベクターpSL301(Brosius、1989、DNA 8:759−777)にクローニングすることによってプラスミドpRPG9(Gunsalus and Yanofsky、1980、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:7117−7121)から抽出されたtrpR遺伝子およびそのプロモーターを持つ434bpのAatII−StuI断片を作製した。
【0062】
実施例3:HMTBN加水分解の間でニトリラーゼの選択性に及ぼすNitBのシステイン162の影響
RPA−BIOCAT526、RPA−BIOCAT527およびRPA−BIOCAT497株(プラスミドpRPA−BCAT41が前もって導入されたRPA−BIOCAT496株に相当)を、出願FR96/13072の実施例5に述べた条件に次の変更を加えて培養した。その変更はすなわち、予備培養を8時間する点、0.4%のカサミン酸、12μg/mlのテトラサイクリンおよび50μg/mlのカナマイシンを含むM9グルコース培地に1:50で植菌する点である。
【0063】
HMTBNのニトリラーゼ活性は、1mlの反応液量に1mgのDCを使用し、100mMのリン酸カリウムバッファ、pH7で洗浄した細胞ペレットに対し、前述したようにして測定した。菌株の選択性は2時間の加水分解の後に形成されたアミドのピークの面積をアミドと酸のピーク面積の合計と関連させて測定した。それはパーセンテージにより表わされ、結果は表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
これらの結果は、システイン162のアスパラギンとの置換がHMTBNの加水分解に関するNitBの選択性を変えることを示している。
【0066】
実施例4:NitAのグルタミン162のシステインでの置換
NitAニトリラーゼのグルタミン162のコドンを、QuickChange(商標)部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene)を使用した部位特異的突然変異誘発によってシステインコドンに変えた。
【0067】
プライマーNitA163(GCATGTTCCCAGCAGCAGAGTCCCCCAAGATTCC)およびNitA162(GGAATCTTGGGGGACTCTGCTGCTGGGAACATGC)は供給者の推奨する条件下でプラスミドpXL2158のDNA(Levy−Schil et al.、1995、Gene 161:15−20)に対して使用した。
【0068】
PCR反応のインキュベーションプログラムは95℃で30秒、および16サイクルの95℃30秒−55℃1分−68℃12分を含む。DNAをDpnIで切断し、反応混合液1μlでE.coli XL1−Blueを感染させた後、得られたクローンを酵素BpmIを使用したプラスミド制限プロファイルによって分析した。導入した突然変異はBpmI切断部位を変えるので、3つのBpmI切断部位のうちの1つを消失した5つのクローンを選別した。それらが有するプラスミドを別々にRPA−BIOCAT496株に導入してRPA−BIOCAT570およびRPA−BIOCAT574を得た。
【0069】
実施例5:位置162でシステインによる置換をした後のHMTBNの加水分解に関するNitA C162の選択性増進
プラスミドpXL2158をRPA−BIOCAT496株に導入してRPA−BIOCAT575を得た。前述した発現条件下でテトラサイクリンをアンピシリン100μg/mlに置き換えて菌株RPA−BIOCAT570からRPA−BIOCAT575までを培養した。これらの菌株のニトリラーゼ活性は反応液量1mlに5mgの細胞(OD660から算定した乾燥重量)を使用して前述のようにして1時間について分析した。選択性はアミドに相当するピーク面積の酸に相当するピーク面積に対する比率を計算することによって測定した。それをパーセンテージとして表わし、結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
これらの結果は、NitAのグルタミン162をシステインで置き換えることがHMTBNの加水分解に関する選択性の4倍の利得を可能にすることを示している。
【0072】
実施例6:位置162でシステインによる置換をした後のAMTBNの加水分解に関するNitAの選択性増進
RPA−BIOCAT570およびRPA−BIOCAT575株を前述の発現条件下で培養した。これらの菌株のニトリラーゼ活性はホウ酸緩衝液、pH9.2中で2−アミノ−4−メチルチオブタンニトリルまたはAMTBN(C5H10N2S)を基質として50mMで使用して測定した。RPA−BIOCAT570細胞10mg(乾燥重量で表示)およびRPA−BIOCAT575細胞0.4mgmg(乾燥重量で表示)相当を反応液量1ml中で30℃、24時間で使用した。前述したようにHPLCによってAMTBSおよびAMTBAの生成を測定し、同様の方式で選択性を算出した。その結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
これらの結果は、NitAのグルタミン162のシステインによる置換がHMTBN以外の基質、このケースではAMTBN、に対する選択性に4倍の利得を可能にすることを示している。
【0075】
実施例8:NitBの位置162でのその他の置換およびHMTBNへの選択性の損失
実施例2に述べた突然変異誘発から得たクローンに含まれるnitB遺伝子のコドン162を含む領域を配列分析することによって、位置162にTGCの代わりにCAGコドンを持ったクローンを識別することが可能であった。対応するプラスミドはpRPA−BCAT78と命名され、NitB Q162をコードするnitB挿入を持っており、そこではシステイン162がグルタミンで置換されている。これらのプラスミドをE.coli RPA−BIOCAT496株に導入し、RPA−BIOCAT530および531株を得た。RPA−BIOCAT530、RPA−BIOCAT531およびRPA−BIOCAT497株を実施例3に述べた条件下で培養した。反応液量1mlに1mgのDCを使用し、出願FR96/13072の実施例4に述べたようにして、100mMリン酸カリウム緩衝液、pH7で洗浄した細胞ペレットについてHMTBNに対するニトリラーゼ活性を測定した。菌株の選択性は、2時間の加水分解の後に形成されたアミドと酸の合計のモル量に対する形成されたアミドのモル量の関係で測定した。それをパーセンテージで表わし、その結果を表5に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
これらの結果は、システイン162の置換がHMTBNの加水分解に関するNitBの選択性を変えることを示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、14種類のニトリラーゼのアラインメントを示す。
【図2】 図2は、プラスミドpRPA−BCAT41のマップを示す。
Claims (4)
- NitAの選択性を亢進する方法であって、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するNitAの第162残基をシステインで置換することを含む前記方法。
- 亢進された選択性を有する改変NitAを産生する方法であって、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するNitAの第162残基がシステインで置換されているNitAをコードする遺伝子で宿主微生物を形質転換すること、該形質転換宿主微生物を培養すること、および改変されたNitA産物を混合物あるいは精製形態で単離することから成る前記方法。
- NitAを用いてニトリル基を有する化合物を加水分解する方法であって、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するNitAの第162アミノ酸残基がシステインで置換されている、亢進された選択性を有する改変NitAを用いて加水分解を行うことを特徴とする前記方法。
- 選択性を有する改変NitAであって、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有するNitAの第162位にシステインアミノ酸残基を含むことを特徴とする前記改変NitA。
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