JP4754737B2 - 鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法および接合構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法および接合構造に係り、更に詳しくは、鋼板コンクリートによって構成された鋼板コンクリート壁に鉄骨梁を接合するための接合方法の改良、およびこの接合方法によって接合された鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼板コンクリート壁に鉄骨梁を固定する場合について従来なされてきた接合方法およびその接合方法によって接合された接合構造を図5を用いて説明する。
【0003】
すなわち、鋼板コンクリートブロックに鉄骨梁2を固定する場合には、以下に示す(S11)〜(S18)の工程にしたがって行われる。なお、鋼板コンクリートブロックとは、周囲が表面鋼板5によって囲まれてなるものであって、この内部にコンクリートを打設することによって鋼板コンクリート壁1となる。
【0004】
(S11)定着板3を取り付けた鉄骨梁2およびアンカボルト4用の孔13を開けられた表面鋼板5が予め準備される。
(S12)定着板3が表面鋼板5にあてられ、孔13にアンカボルト4が鋼板コンクリートブロックの外側から内側へと挿入される。
(S13)鋼板コンクリートブロックの内部に作業員が入り込み、アンカボルト4にアンカボルト固定用ナット7が取り付けられる。
(S14)鋼板コンクリートブロックの内部に作業員が入り込み、アンカレッジ8を固定するためのアンカレッジ固定用ナット9がアンカボルト4に取り付けられる。
(S15)アンカレッジ8が設置される。
(S16)アンカレッジ固定用ナット9が設置される。
(S17)必要に応じて壁厚方向の補強材10(例えば棒鋼が用いられる)が設置される。
(S18)以降、工程S11〜工程S17にて製作された鋼板コンクリートブロックが現地に据え付けられ、しかる後に鋼板コンクリートブロック内にコンクリートが打設充填されることによって、鋼板コンクリート壁1が形成されるとともに、この鋼板コンクリート壁1に鉄骨梁2が固定される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような接合方法に従って接合された鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造では、以下のような問題がある。
【0006】
すなわち、従来の鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2との接合構造では、図6に示すように、鉄骨梁2に鉛直荷重Qが作用すると、定着板3が表面鋼板5に固定されている部位である定着部分の耐荷機構として、アンカボルト4の引張力Fと、定着板3による鋼板コンクリート壁1への圧縮力Pとで強度負担することになる。この場合の定着部分の剛性は、アンカボルト4の軸剛性および定着板3の面外曲げ剛性に依存し、剛結合の状態ではなくなる。このため、鋼板コンクリート壁1に固定されている鉄骨梁2の安定性が低下し、図7に示すように、アンカボルト4の局部的な引き抜け等によって鋼板コンクリート壁1の破壊をもたらす可能性があるという問題がある。
【0007】
この場合、鉄骨梁2が鉄骨柱6に溶接固定されている場合には上述したような問題は生じないので、例えば、一端が上述したような接合方法によって鋼板コンクリート壁1に固定され、他端が鉄骨柱6に溶接固定された鉄骨梁2に生じる、鉄骨梁2の曲げモーメントは、図8に示すように偏った分布となる。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、鉄骨梁を鋼板コンクリート壁に埋め込み固定し、鉄骨梁の荷重を鋼板コンクリート壁に伝達することによって鋼板コンクリート壁自体の曲げ剛性を利用し、もって、鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合部分の剛性を向上し、鋼板コンクリート壁に固定された鉄骨梁の安定性を高めることが可能な鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法および接合構造を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0010】
すなわち、本発明の鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造は、以下に示すような接合方法にしたがって接合する。
【0011】
まず、周囲を表面鋼板によって囲まれてなる鋼板ブロックの内部に、鉄骨梁を埋め込むための埋込部(埋込空間)を設ける一方、表面鋼板に、鉄骨梁を挿入して埋込部に導くための開口部を設ける。そして、鉄骨梁の先端側である埋込部分を、開口部から鋼板ブロックの内部に挿入して埋込部に埋め込んだ後に、埋め込んだ埋込部分の鋼板ブロックの内側に裏当金を設置し、裏当金が設けられた鋼板ブロックの表側である溶接部を溶接することによって、鉄骨梁を鋼板ブロックに仮固定する。
【0012】
その後、鋼板ブロックの内部にコンクリートを打設することによって鋼板コンクリート壁を形成するとともに、打設したコンクリートによって鋼板コンクリート壁に鉄骨梁を固定する。
【0013】
従って、本発明の鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法および接合構造においては、以上のような手段を講じることにより、鉄骨梁の荷重を鋼板コンクリート壁に伝達して鋼板コンクリート壁自体の曲げ剛性を利用することができる。その結果、鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合部分の固定安定性を高めることが可能となる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態に係る鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法および、この接合方法によって接合した鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造について図面を参照しながら説明する。
【0015】
なお、本発明の実施の形態の説明に用いる図中の符号は、図5から図8と同一部分については同一符号を付して示すことにする。
【0016】
本発明の実施の形態を図1から図4を用いて説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係る鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法を説明するための図であって、鋼板コンクリート壁の表面鋼板に鉄骨梁を接合する状態の一例を示す正面図、図2は、鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造の一例を示す正面図である。
【0018】
すなわち、本発明の実施の形態に係る鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法によって鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2とを接合する場合には、以下に示す(S1)から(S5)の工程にしたがって行う。
(S1)鋼板ブロックに、鉄骨梁2を埋め込むための埋込部を設ける。また、表面鋼板5に、鉄骨梁2を鋼板ブロック内に挿入し埋込部に埋め込むための開口部11を設ける。
(S2)鉄骨梁2の先端側である埋込部分15を、開口部11を介して鋼板ブロックの埋込部に挿入する。
(S3)鋼板ブロック内部に作業員が入り込み、裏当金12を設置(鋼板ブロックの内部側のみ)する。
(S4)裏当金12が設けられた表面鋼板5の表側である溶接部14を溶接することによって鉄骨梁2を表面鋼板5に仮固定する。
(S5)以降、現地にて鋼板ブロックを据え付け、しかる後に鋼板ブロック内にコンクリートを打設充填することによって、鋼板コンクリートブロックからなる鋼板コンクリート壁1を形成するとともに、この鋼板コンクリート壁1に鉄骨梁2を固定する。
【0019】
次に、以上のような接合方法にしたがって接合した本発明の実施の形態に係る鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2との接合構造の作用について説明する。
【0020】
すなわち、本発明の実施の形態に係る鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2との接合方法にしたがって接合した鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2との接合構造は、従来技術で必要としていたアンカボルト4および定着板3をともに不要とし、鉄骨梁2の荷重が、鋼板コンクリート壁1に直接伝達される。したがって、鋼板コンクリート壁1自体の曲げ剛性が利用可能となり、鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2との接合部分の剛性の向上が図られる。
【0021】
このように、アンカボルト4を用いず、かつ鉄骨梁2の剛性が向上することから、図7に示すように従来技術にて懸念されていたアンカボルト4の局部的な引き抜け等による鋼板コンクリート壁1の破壊は生じない。
【0022】
このとき、鉄骨梁2に生じる曲げモーメントは図3に示す如くとなり、図7に示す曲げモーメントと比較して、その偏りが改善される。たとえば、原子力施設に適用されている鋼板コンクリート壁1のように、その剛性が鉄骨梁2の剛性に比べて十分に大きい場合について、従来技術と本発明の実施の形態とにおける曲げモーメントの比較例を図4を用いて説明する。なお、ここでは、極端な例として、図4(b)に示す従来技術における鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2との固定状態をピン状態と仮定し、鉄骨梁2が表面鋼板5に固定されている部位である固定部分、およびそれ以外の部分のそれぞれにおいて発生する曲げモーメントについて、従来技術(図4(b))と本発明の実施の形態(図4(c))とにおいて比較している。
【0023】
すなわち、図4(a)に示すように、鉄骨梁2は、長さがLであって、長さL方向に亘って一定の分布荷重wをもつものとする。このような鉄骨梁2の左端を鋼板コンクリート壁1の表面鋼板5に、従来技術による接合方法によって固定し、右端を鉄骨柱6に溶接固定した場合、鉄骨梁2の曲げモーメント分布は図4(b)に示す如くとなる。この場合、固定部分における曲げモーメントM1は下記(1)式の通り、また固定部分以外の部分における曲げモーメントM2は下記(2)式の通りそれぞれ示される。
M1=(1/8)wL2 ・・・(1)
M2=(9/128)wL2 ・・・(2)
一方、このような鉄骨梁2の左端を鋼板コンクリート壁1の表面鋼板5に本発明の実施の形態による接合方法によって接合し、右端を鉄骨柱6に溶接固定した場合、鉄骨梁2の曲げモーメント分布は図4(c)に示す如くとなる。この場合、固定部分における曲げモーメントM1’は下記(3)式の通り、また固定部分以外の部分における曲げモーメントM2’は下記(4)式の通りそれぞれ示される。
M1’=(1/12)wL2 ・・・(3)
M2’=(1/24)wL2 ・・・(4)
したがって、従来技術によって接合された鉄骨梁2の曲げモーメントに対する本発明の実施の形態の接合方法によって接合された鉄骨梁2の曲げモーメントの比率は、固定部分およびそれ以外の部分において、上記(1)式から(4)式を用いて、下記(5)式および下記(6)式の通りとなる。
【0024】
M1’/M1=(1/12)/(1/8) =2/3 ・・・(5)
M2’/M2=(1/24)/(9/128)=16/27 ・・・(6)
このように、本発明の実施の形態に係る接合方法によれば、従来技術によって接合された鉄骨梁2よりも曲げモーメントを7割程度に低減することができるので、安定性を向上するとともに、鉄骨梁2の物量を削減することが可能となる。
【0025】
また、本発明の実施の形態に係る鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2との接合方法は、従来技術による接合方法と比較して、工程が簡素化される。すなわち、従来技術による接合方法は、鋼板コンクリートブロック内部の作業が主体であって、上述した工程S11から工程S18までのうちの工程S13から工程S18が鋼板コンクリートブロック内部での作業であるために、作業性が困難であるのに加え、多くの部品を伴う。これに対して、本発明の実施の形態に係る鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2との接合方法は、鋼板コンクリートブロック内部の作業は少なく、上述した工程S1から工程S5までのうち、工程S3のみが鋼板コンクリートブロック内部の作業である。また、この鋼板コンクリートブロック内部の作業にはほとんど部品を必要としない。
【0026】
上述したように、本発明の実施の形態に係る鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法は、上記のような作用により、鋼板コンクリートブロック内部での作業が少なく、かつ部品点数も少ないので作業性を改善することが可能となる。
【0027】
更に、このような接合方法によって接合された鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造は、鉄骨梁2の荷重を鋼板コンクリート壁1に伝達して鋼板コンクリート壁1自体の曲げ剛性を利用することによって、鋼板コンクリート壁1と鉄骨梁2との接合部分の剛性を向上することができる。これによって、鋼板コンクリート壁1に固定された鉄骨梁2の曲げモーメントの偏在を改善し、安定性を高めることが可能となる。
【0028】
以上、本発明の好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0029】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、鉄骨梁を鋼板コンクリート壁に埋め込み固定し、鉄骨梁の荷重を鋼板コンクリート壁に伝達することによって鋼板コンクリート壁自体の曲げ剛性を利用することができる。
【0030】
以上により、鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合部分の剛性の向上を図ることができ、もって、鋼板コンクリート壁に固定された鉄骨梁の安定性を高めることが可能な鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法および接合構造を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法を説明するための図
【図2】同実施の形態に係る鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造の一例を示す正面図
【図3】同実施の形態に係る接合方法によって接合された鉄骨梁に生じる曲げモーメントの一例を示す図
【図4】従来技術によって接合された鉄骨梁に生じる曲げモーメントと、本発明の実施の形態に係る接合方法によって接合された鉄骨梁に生じる曲げモーメントとの比較例を示す図
【図5】従来技術による鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造の一例を示す正面図
【図6】従来技術による鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造における力の作用分布を示す図
【図7】アンカボルトの引き抜けによって破壊した状態の鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造の一例を示す正面図
【図8】一端が鋼板コンクリート壁に固定され、他端が鉄骨柱に固定された鉄骨梁に生じる曲げモーメントの一例を示す図
【符号の説明】
1…鋼板コンクリート壁
2…鉄骨梁
3…定着板
4…アンカボルト
5…表面鋼板
6…鉄骨柱
7…アンカボルト固定用ナット
8…アンカレッジ
9…アンカレッジ固定用ナット
10…補強材
11…開口部
12…裏当金
13…孔
14…溶接部
15…埋込部分
Claims (2)
- 周囲を表面鋼板によって囲まれてなる鋼板ブロックの内部に、鉄骨梁を埋め込むための埋込部を設ける一方、前記表面鋼板に、前記鉄骨梁を挿入して前記埋込部に導くための開口部を設け、前記鉄骨梁の先端側である埋込部分を、前記開口部から前記鋼板ブロックの内部に挿入して前記埋込部に埋め込んだ後に、前記埋め込んだ埋込部分の前記鋼板ブロックの内側に裏当金を設置し、前記裏当金が設けられた前記鋼板ブロックの表側である溶接部を溶接して前記鉄骨梁を前記鋼板ブロックに仮固定し、前記鋼板ブロックの内部にコンクリートを打設することによって鋼板コンクリート壁を形成するとともに、前記打設したコンクリートによって前記鋼板コンクリート壁に前記鉄骨梁を固定するようにしたことを特徴とする鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合方法。
- 周囲を表面鋼板によって囲まれてなる鋼板ブロックの内部に、鉄骨梁を埋め込むための埋込部を設ける一方、前記表面鋼板に、前記鉄骨梁を挿入して前記埋込部に導くための開口部を設け、前記鉄骨梁の先端側である埋込部分を、前記開口部から前記鋼板ブロックの内部に挿入して前記埋込部に埋め込んだ後に、前記埋め込んだ埋込部分の前記鋼板ブロックの内側に裏当金を設置し、前記裏当金が設けられた前記鋼板ブロックの表側である溶接部を溶接して前記鉄骨梁を前記鋼板ブロックに仮固定し、しかる後に前記鋼板ブロックの内部にコンクリートを打設することによって鋼板コンクリート壁を形成するとともに、前記打設したコンクリートによって前記鋼板コンクリート壁に前記鉄骨梁を固定したことを特徴とする鋼板コンクリート壁と鉄骨梁との接合構造。
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