JP4750950B2 - アルカリマンガン電池正極缶用Niメッキ鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルカリマンガン電池の正極缶に用いられるメッキ鋼板素材に関し、更に詳しくは、アルカリマンガン電池の電池特性および耐食性を改善しうる、メッキ鋼板素材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般にアルカリマンガン電池では、正極物質、負極物質、電解液等を内填し、かつ自身が正極の端子を兼ねる容器(正極缶)用の素材として、Niメッキされた鋼板が使用される。従来Niメッキは、缶に加工した後のいわゆるバレルメッキによって行われてきたが、缶内面へのNiメッキの付着が十分ではなく品質上の不安定性の問題があることから、先メッキ鋼板を缶に加工する方法に置き換わりつつある。先メッキ鋼板の場合、Niメッキ層が硬く延展性に乏しいことから、プレス加工性に劣り、また加工時にメッキが剥離して耐食性が劣化しやすい等の問題があった。この問題に対し、Niメッキ後熱処理することでメッキと地鉄の界面にFe−Ni拡散層を形成して密着性を向上させると同時に、Niを再結晶、軟質化してメッキ層の延展性を向上させる方法が知られており、プレス加工性や耐食性は大幅に改善される。
【0003】
ところで、アルカリマンガン電池において、高容量化を達成するためには、正極合剤中の二酸化マンガン含有率を増加させる必要があり、二酸化マンガン自身は導電性が低いことから接触抵抗の増大を招いている。この対策として正極缶の内面に導電性皮膜を形成させることが行われているが、このようなアルカリマンガン電池は初期の接触抵抗は低いものの、高温で長期間保存すると急激に接触抵抗が増大し、電池特性が悪化するという問題がある。
【0004】
前述の電池特性について、鋼板素材側からの改善方法に言及したものとして、以下のような先行例を上げることが出来る。特開平5−21044号公報では、DI絞り加工用の素材として、加工の際にNiメッキ層に割れを生じるような硬質なメッキを施すことが有効であって、この加工の際に生じたメッキ層の割れが正極物質との接触面積を増大し、電池特性も改善されるとしている。硬質なメッキとしては、有機添加物を含んだNiメッキや、またFe−Ni拡散層を介して前記メッキを施したもの等種々が例示されている。特開平7−122246、特開平7−300695号公報、WO95/11527等では、正極缶内面に相当する面の最表層に非常に硬質なNi−Sn合金メッキ層(例えばNi3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4等)を形成することで、プレス加工の際にメッキ層に割れを形成し、正極物質との接触を確保するすることが開示されている。また、特開平8−138636号公報においては、鋼板にSnとNiをこの順で二重にメッキし、更に熱処理で合金化したメッキ層を正極缶内面に持ってくることで、プレス加工の際にNiを主体とするメッキ上層とSnを含んだメッキ下層との伸びの差から表面に割れが生じ、これによって正極物質との接触面積が増加し電池特性が改善されることが開示されている。特開平9−306439号公報では、メッキ硬度に違いを持たせたNi合金メッキを、缶内面になる面の硬度が高くなるように施し、プレス加工の際に缶内面の粗度を増加させて正極物質との密着を改善することが開示されている。合金メッキで硬度に差を持たせる方法としては、Niとの合金金属種類、量、また有機添加物量を相違させることが例示されている。特開平10−172521、特開平10−152522号公報では、正極缶内面になる面に、Ni−Co合金メッキ、またはNiメッキを介してNi−Co合金メッキを施すことが開示されている。Ni−Co合金メッキが非常に硬いため、プレス加工の際に非常に細かい割れを発生し、非常に細かい凹凸が形成されて正極物質との接触が改善され、性能を改善できるとしている。特開平11−102671号公報においては、正極缶内面になる面に、Niメッキを介してNi−Ag合金メッキまたはNi−Cr合金メッキを施すことが開示されている。Ni−Ag合金メッキ、Ni−Cr合金メッキとも非常に硬いため、プレス加工の際に非常に細かい割れを発生し、非常に細かい凹凸が形成されて正極物質との接触が改善され、性能を改善できるとしている。特開平11−329377、11−329378号公報では、先のNi−Sn系合金メッキの弱点である耐アルカリ性の改善により電池性能のいっそうの改善を目的として、それぞれNi−Bi合金メッキ、Ni−In合金メッキを利用することが開示されている。
【0005】
以上述べた各種従来技術は、プレス加工によって缶内面に微小な凹凸を形成させることを意図したものであり、このための鋼板としては、プレス加工時にメッキ層に割れが生じるような硬質なメッキを施したものが主に採用されている。しかしながら、このようなプレス加工の際にメッキ層に割れを形成する、という考えでは、プレス加工条件のバラツキによってメッキ層の割れ状況がバラツキ、安定した電池特性を得難いという問題が発生する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明では、以上の問題点を回避しつつ、電池特性が良好なメッキ鋼板素材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、アルカリマンガン電池正極缶用のメッキ鋼板であって、缶内面になる面の表層に0.1〜1μmのFe−Ni合金メッキ層を有することを特徴とするものである。前記Fe−Ni合金メッキ層の下層にFe−Ni拡散メッキ層、またはFe−Ni拡散メッキ層とNiメッキ層とを有することも好適である。また缶外面になる面には Fe−Ni拡散メッキ層とその上に再結晶軟質化したNiメッキ層とを有することが望ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
まず本発明における、アルカリマンガン電池正極缶内面に相当する面の構成要件について説明する。内面になる面の表層には、0.1〜1μmのFe−Ni合金メッキ層を有することが必要である。また、前記Fe−Ni合金メッキ層の下層には、Fe−Ni拡散メッキ層、またはFe−Ni拡散メッキ層とNiメッキ層が形成されていることが、電池性能上より好ましい。ここで、Fe−Ni合金メッキ層とは、NiイオンとFeイオンとが共存するメッキ浴から電解析出して形成された合金メッキ層であり、一方、Fe−Ni拡散メッキ層とは、Niメッキ後熱処理によってFe,Niの相互拡散によって形成したメッキ層のことを指す。詳細原因は不明であるが、所定厚みのFe−Ni合金メッキ層が最表層に存在することによって電池特性が顕著に改善される。Fe−Ni合金メッキ層の厚みを0.1〜1μmに規定したのは、下限未満では、電池特性改善効果なく、また上限を超えると硬質なFe−Ni合金メッキ層起因で深くて大きなクラックが発生しやすく、耐食性や、また貯蔵後の電池特性も悪化する傾向があるからである。
【0009】
メッキ鋼板においてFe−Ni合金メッキ層とFe−Ni拡散メッキ層とを識別する方法について説明する。Fe−Ni合金メッキ層は、メッキ層深さ方向のFe、Ni比率が略一定なのに対し、Fe−Ni拡散メッキ層は、メッキ層深さ方向のFe、Ni比率が連続的に変化(表層から地鉄に向かって、Feが増加)していることで見分けることができる。具体的には、GDS(グロー放電発光分析)、AES(オージェ電子発光分析)等の分析手法で確認が可能である。
【0010】
次に、正極缶外面に相当する面の構成要件について説明する。本発明の問題とする電池特性に対しては、正極缶外面の影響は少ないため、電池特性にのみ考慮するのであれば、以下限定は特に不要である。ただし、外面には通常、より厳しい耐食性が要求されるため、この要求に見合ったメッキ構成について説明する。外面になる面には、Fe−Ni拡散メッキ層とその上にNiメッキ層とを有することが望ましく、これによって特に厳しい加工を受ける正極端子部の耐食性が良好になる。前記Niメッキ層は、再結晶軟質化されたものであれば、耐食性上、より好ましい。前記複層のメッキ層は、Niメッキの後熱処理により、Niメッキ層の一部にFe−Ni拡散層を形成し、最表層は純Niを残存させることで形成する方法が採用できる。
【0011】
【実施例】
以下に実施例によって本発明を詳細に説明する。
(実施例1のサンプル調整)
板厚0.3mmのNb−Ti−Sulc鋼未焼鈍材を原板とし、脱脂、酸洗の後、無光沢ワット浴を用いて、両面に2μmのNiメッキを施した。その後、無酸化雰囲気中で、790℃×20secの熱処理を行った。更に調質圧延を行い、再度、脱脂、酸洗処理の後、一方の面(缶内面に相当する面)にのみ、Ni/Fe(モル比)が10/2の硫酸Ni浴を使用し、1μmのFe−Ni合金メッキを施して実施例1のサンプルを完成した。
【0012】
(実施例2のサンプル調整)
板厚0.3mmのNb−Ti−Sulc鋼未焼鈍材を原板とし、脱脂、酸洗の後、無光沢ワット浴を用いて、両面に2μmのNiメッキを施した。その後、無酸化雰囲気中で、790℃×20secの熱処理を行った。更に調質圧延を行い、再度、脱脂、酸洗処理の後、一方の面(缶内面に相当する面)にのみ、Ni/Fe(モル比)が10/2の硫酸Ni浴を使用し、0.1μmのFe−Ni合金メッキを施して実施例2のサンプルを完成した。
【0013】
(実施例3のサンプル調整)
板厚0.3mmのNb−Ti−Sulc鋼未焼鈍材を原板とし、脱脂、酸洗の後、無光沢ワット浴を用いて、一方の面(缶内面に相当する面)に1μmのNiメッキを、他方の面に2μmのNiメッキを施した。その後、無酸化雰囲気中で、790℃×20secの熱処理を行った。更に調質圧延を行い、再度、脱脂、酸洗処理の後、一方の面(缶内面に相当する面)にのみ、Ni/Fe(モル比)が10/2の硫酸Ni浴を使用し、0.1μmのFe−Ni合金メッキを施して実施例3のサンプルを完成した。
【0014】
(比較例1のサンプル調整)
板厚0.3mmのNb−Ti−Sulc鋼未焼鈍材を原板とし、脱脂、酸洗の後、無光沢ワット浴を用いて、両面に2μmのNiメッキを施した。その後、無酸化雰囲気中で、790℃×20secの熱処理を行った。更に調質圧延を行い、比較例1のサンプルを完成した。
【0015】
(比較例2のサンプル調整)
板厚0.3mmのNb−Ti−Sulc鋼未焼鈍材を原板とし、脱脂、酸洗の後、無光沢ワット浴を用いて、両面に2μmのNiメッキを施した。その後、無酸化雰囲気中で、790℃×20secの熱処理を行った。更に調質圧延を行い、再度、脱脂、酸洗処理の後、一方の面(缶内面に相当する面)にのみ、Ni/Fe(モル比)が10/2の硫酸Ni浴を使用し、2μmのFe−Ni合金メッキを施して比較例2のサンプルを完成した。
【0016】
(電池性能評価方法)
前記鋼板サンプルをプレス加工した正極缶を用い、通常のLR6型アルカリマンガン電池を製造し、60℃70%RHで40日間貯蔵した。1kHzの交流抵抗計で内部抵抗を計測した。内部抵抗が120mΩ以下を◎、121〜150mΩを○、151〜200mΩを△、201mΩ〜を×、と評価した。
【0017】
(缶内面耐食性評価方法)
前記鋼板サンプルをプレス加工した正極缶を脱脂し、端面を蜜鑞シールした後、60℃×90%RH雰囲気下に3日間放置した。その後内面をルーペ(×10)で子細に観察し錆発生有無を観察した。錆なしを「○」、錆ありを「×」とした。
【0018】
(缶外面耐食性評価方法)
耐食性;前記鋼板サンプルをプレス加工した正極缶を脱脂し、端面を蜜鑞シールした後、正極凸端子部外面を上に向けて、塩水噴霧(JIS−Z−2371準拠)試験機に投入した。3時間試験を行った後取り出し水洗乾燥して、赤錆発生有無を観察した。錆なしを「○」、錆ありを「×」とした。
【0019】
表1に示すように、本発明の実施例では良好な電池特性と耐食性が得られた。比較例1は缶内面側表層にFe−Ni合金メッキ層が存在せず、比較例2はFe−Ni合金メッキ層の厚みが本発明の上限を超えており、いずれも電池性能の改善が十分に得られなかった。
【0020】
【表1】
【0021】
【発明の効果】
本発明は、アルカリマンガン電池正極缶用のメッキ鋼板において、缶内面になる面の表層に0.1〜1μmのFe−Ni合金メッキ層を有することにより、従来の問題点を回避しつつ、電池を高温で長時間保存後においても接触抵抗が増大しない、電池特性が良好なメッキ鋼板素材を提供することができる。
Claims (3)
- アルカリマンガン電池正極缶用のメッキ鋼板であって、缶内面になる面の表層に0.1μmの厚みのFe−Ni合金メッキ層を有し、Fe−Ni合金メッキ層の下層にFe−Ni拡散メッキ層、またはFe−Ni拡散メッキ層とNiメッキ層とを有することを特徴とするNiメッキ鋼板。
- 缶外面になる面にFe−Ni拡散メッキ層とNiメッキ層とを有することを特徴とする請求項1に記載のNiメッキ鋼板。
- 缶外面になる面のNiメッキ層が再結晶軟質化されたものであることを特徴とする請求項2に記載のNiメッキ鋼板。
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