JP4750920B2 - 電子放出素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディスプレイ、電子銃、蛍光管、及び真空管等に適用可能な電子放出素子に関し、特に、電子放出量の多い電子放出素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、電子放出素子として、高融点金属のフィラメントや高融点金属をベースとしたBa系含有の金属を加熱して電子を引き出すものや、尖鋭化した高融点金属プローブの先端から高電界で電子を引き出すものが知られている。また、Siの加工プロセスを応用するようになってからは、SiやMoを尖鋭化して電界放出で電子を引き出すものが開発されている。
【0003】
ところが、これらの電子放出素子には高電界を印加しなければならないという問題があったため、高電界を印加することなく電子を放出し得る電子放出素子の開発が望まれていた。そこで着目されたのが、ダイヤモンド、AlN、SiC、GaN等の材料の利用である。特に、ダイヤモンドは特定の表面では電子親和力が負となるため、このような材料特性を応用すれば、従来ほどの高電界を印加することなく電子を放出できることが見出された。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ダイヤモンドを利用した電子放出素子には、次のような問題があった。すなわち、電子放出するダイヤモンド表面に対向するダイヤモンド裏面に電子供給部を形成した場合、ダイヤモンドは絶縁体であるため、内部に多量の電流を流すことが困難で、電子放出量を増加させることに限界があった。また、ダイヤモンドの表面導電層を利用して電子放出を行う技術も着目されているが、この技術では表面導電層が抵抗として働いてしまうため、電子放出量の大幅な向上が図れなかった。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、電子放出量の多い電子放出素子を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、ダイヤモンドの表面の電子放出部から電子を放出する電子放出素子において、電子放出部に電子を供給するための電子供給部が、ダイヤモンドの表面に設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る電子放出素子によれば、電気抵抗の小さい電子供給部がダイヤモンドの表面に設けられていることから、ダイヤモンド表面の電子放出部の近傍まで効率的に電子を運ぶことができ、これにより、ダイヤモンド表面に電子が効率的に供給され、電子放出量を増加させることができる。
【0008】
また、本発明に係る他の電子放出素子は、ダイヤモンドの表面の電子放出部から電子を放出する電子放出素子において、電子放出部に電子を供給するための電子供給部がダイヤモンドの内部又は表面に設けられており、電子供給部は、金属層とされていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の電子放出素子は、ダイヤモンドの表面の電子放出部から電子を放出する電子放出素子において、電子放出部に電子を供給するための電子供給部がダイヤモンドの内部又は表面に設けられており、電子供給部は、黒鉛層又は導電性非晶質炭素層を含んでいることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る電子放出素子によれば、電気抵抗の小さな金属層、黒鉛層、又は導電性非晶質炭素層が電子供給部としてダイヤモンドの内部又は表面に設けられているため、この電子供給部を介してダイヤモンド表面の電子放出部に多量の電子を供給することができ、電子放出量を増加させることができる。
【0011】
本発明に係る他の電子放出素子は、ダイヤモンドの表面の電子放出部から電子を放出する電子放出素子において、電子放出部に電子を供給するための電子供給部がダイヤモンドの内部に設けられており、電子供給部は、高濃度ボロンドーピング層とされていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る電子放出素子によれば、電気抵抗の小さな高濃度ボロンドーピング層が電子供給部としてダイヤモンドの内部に設けられているため、この電子供給部を介してダイヤモンド表面の電子放出部に多量の電子を供給することができ、電子放出量を増加させることができる。ここで、高濃度ボロンドーピング層とは、ボロンのドーピング濃度が1019/cm3以上の層をいう。
【0013】
また、本発明の電子放出素子において、電子供給部は、ダイヤモンドの内部において電子放出部と対向するように設けられていることが好ましい。このような構成を採用した場合、電子供給部から引き出される電子を電子放出部に容易に導入させることができ、電子放出部からの電子放出量を増加させることができる。
【0014】
また、本発明の電子放出素子において、電子放出部は、ダイヤモンドの表面に成長させたダイヤモンド突起を有することが好ましい。このような構成を採用した場合、電子放出部と対向して配される電極とダイヤモンド突起との間隔は突出していない部分と比較して狭いため、電界がダイヤモンド突起に集中し、ダイヤモンド突起から電子が放出されやすくなる。このため、電子放出位置の制御が容易になる。
【0015】
また、電子供給部は、ダイヤモンドの内部において、電子放出部に向けて突出した突出部を含んでいることが好ましい。このような構成を採用した場合、突出部に電界が集中し、突出部から電子放出部に電子が供給されやすくなる。このため、電子放出位置の制御が容易になる。
【0016】
また、電子供給部は、イオン注入によって形成することが好ましい。例えば金属層は、金属イオンを注入するイオン注入によって形成することが好ましい。また、黒鉛又は導電性非晶質炭素層は、イオン注入によってダイヤモンドに照射損傷を与えて、導電性の非晶質炭素層に変化させたり、イオン注入後に熱処理を施して、ダイヤモンドを黒鉛化して導電性の黒鉛層を形成することが好ましい。このようにイオン注入技術を用いれば、マスク等を使用することによって、電子供給部のパターニングを容易に行うことができる。また、電子供給部の深さを容易に変えることができる。
【0017】
また、イオン注入は、1MeV以上のエネルギで金属イオンを注入することによって行われていることが好ましい。この程度のエネルギで金属イオンを打ち込めば、ダイヤモンドの内部に金属層を形成することができる。
【0018】
また、イオン注入は、1016cm-2以上のドーズ量で金属イオンを注入することによって行われていることが好ましい。この程度のドーズ量で金属イオンを注入すれば、イオン注入層を金属的にすることができる。これにより、電子供給部が低抵抗になり、電子放出量を増加させることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る電子放出素子の好適な実施形態について詳細に説明する。尚、同一要素には同一符号を用いるものとし、重複する説明は省略する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の電子放出素子1を示す断面図である。同図に示すように、電子放出素子1は、内部に金属層からなる電子供給部2を有すると共に表層部に電子放出部4を有するダイヤモンド基板10と、このダイヤモンド基板10の電子放出部4と対向して配置された電子入射板20と、上記電子供給部2及び電子入射板20との間に電圧を印加する電源30と、ダイヤモンド基板10及び電子入射板20を収容する真空容器40と、を備えている。また、ダイヤモンド基板10は、真空容器40内で絶縁性の基台50上に載置されている。
【0021】
また、電子入射板20は、電源30によって電子供給部2よりも高電位とされている。このため、電子供給部2から電子放出部4に電子が供給され、さらに、電子放出部4から電子が放出されて当該電子が電子入射板20に入射する。すなわち、金属層は、電子放出部4に電子を供給するための電子供給部2としての役割を果たしている。このように、本実施形態の電子放出素子1によれば、ダイヤモンドと比較して電気抵抗が大幅に小さい金属層が電子供給部2としてダイヤモンド基板10の内部に設けられているため、この金属層を介して電子放出部4に多量の電子を供給することができ、電子放出量を増加させることができる。
【0022】
本実施形態の金属層からなる電子供給部2は、いわゆるイオン注入法によって形成されている。詳しくは、ダイヤモンド基板10に金属イオンを高ドーズ量注入することで注入層のイオン密度を高めて金属原子密度に相当する値にし、一種の金属層を形成している。このように金属層を形成するには、金属イオンのドーズ量を、1×1016cm-2以上にすることが好ましく、さらには1×1017cm-2以上であることが好ましい。また、イオン注入は、1MeV以上のエネルギで行うことが好ましい。この程度のエネルギで金属イオンを打ち込めば、ダイヤモンド基板10の内部に金属層からなる電子供給部2を形成することができる。また、ダイヤモンド基板10に注入する金属イオンは、ダイヤモンドと反応しにくく電気抵抗の低いCu、Au、Pt、Pd等であることが好ましい。また、Al、Mg等の軽元素、低抵抗金属元素であってもよい。
【0023】
本実施形態の電子供給部2は、金属層とされているが、金属層の代わりに黒鉛層又は導電性の非晶質炭素層としてもよい。この場合、黒鉛層又は導電性の非晶質炭素層はイオン注入法により形成されるが、注入するイオンは上記金属イオンに限られず、不活性ガス、炭素、窒素等のイオンでも、ダイヤモンド結晶にイオン注入による損傷を与えられるイオン種であればよい。これらの照射損傷導入イオンのドーズ量は上記ドーズ量と同様に1×1016cm-2以上にすることが好ましく、さらには1×1017cm-2以上であることが好ましい。注入エネルギに関しても、上記と同様に1MeV以上にすることが好ましい。さらに、照射損傷層を黒鉛化するには、不活性ガス雰囲気中で1000℃以上の熱処理を施すことが好ましい。この際、5分間以上1000℃以上の温度に保持すればさらに好適である。また、熱処理の温度降下時に水素を導入することで、表面の電子放出部を水素化することができる。
【0024】
また、電子供給部2としての金属層は、ダイヤモンド基板10の内部において電子放出部4と対向するように、換言すれば平面視において電子放出部4と重なるように形成されているため、金属層から引き出される電子を電子放出部4に容易に導入させることができ、電子放出部4からの電子放出量を増加させることができる。なお、金属層は、ダイヤモンド基板10の深さ10μm以内に形成することが好ましく、3μmにするとさらに好適である。
【0025】
また、ダイヤモンド基板10は、ノンドープの絶縁体であっても電子をダイヤモンドの伝導帯に注入するため有効であり、さらに、n型でもp型でもよく、電子放出部4の表面は酸素終端でも水素終端でもよい。なお、電子放出部4から電子を放出しやすくするためには、電子親和力が小さい水素終端にすることが好ましい。また、ダイヤモンド基板10は、いわゆる高圧合成法や気相合成法で形成することができるが、面積を大きくしたり、不純物の含有率を低下させる観点からは、気相合成法によって形成することが好ましい。
【0026】
また、電子放出部4は、放出電流値を安定させるという観点からは、一つの電子放出素子において複数個設けることが好ましい。さらに、電子放出部4をn型にドーピングすれば、電子の放出量を向上させることができる。
【0027】
また、電子放出部4に電子を供給する電子供給部2として、金属層の代わりに高濃度ボロンドーピング層をダイヤモンド基板10の内部に形成してもよい。ここで、高濃度ボロンドーピング層とは、ボロンのドーピング濃度が1019/cm3以上の層をいう。このような構成とした場合も、電気抵抗の小さな高濃度ボロンドーピング層がダイヤモンド基板10の内部に設けられているため、この高濃度ボロンドーピング層を介してダイヤモンド基板10の電子放出部4に多量の電子を供給することができ、電子放出量を増加させることができる。
【0028】
[第2実施形態]
図2は、本発明に係る電子放出素子の第2実施形態を示す断面図である。同図に示すように、電子放出素子1は、ダイヤモンド基板10の表面に電子放出部4を有し、良導電性の電子供給部2も同様にダイヤモンド基板10の表面すなわち電子入射板20と対向する面に形成されている。電子放出部4の開口部は円形であり、その直径は50μm以下とされている。なお、電子放出部4の開口部の形状は、方形にしてもよい。
【0029】
電子放出部4の表面から電子放出が起こるが、ダイヤモンド基板10の表面を良導電性の電子供給部2で覆うことにより、電子入射板20とダイヤモンド基板10の表面との間の電界が安定する。つまり、ダイヤモンド基板10表面の殆どの部分は良導電性の電子供給部2で覆われており、この2電極間の電位差で決まる電界が与えられる。例えばダイヤモンド基板10の裏面に電子供給部2の電極を設置した場合は、絶縁性のダイヤモンド基板10が2電極間に挟まれており、この部分の不均一性によって電界の集中が起こり、その部分から電子放出が起こり制御性が悪い。本実施形態のように、ダイヤモンド基板10の表面に電極としての電子放出部4を設けることにより、上記ダイヤモンド基板10の不均一性による電界集中は起こらず、一様な安定な電界が形成される。この場合、電子供給部2の開口部である電子放出部4の部分において電子放出に伴って電界集中が起こることになり、ダイヤモンド基板の裏面に電子供給部2を設けた場合に比べて、一様で安定な電子放出特性を得ることができる。
【0030】
さらに、本実施形態によれば、絶縁性のダイヤモンド基板10の内部を電子伝導させることなく、電子放出部4まで電子を移動させることができる。また、ダイヤモンド基板10の表面は水素終端により導電性を示しNEA特性を示すが、本実施形態の電子供給部2により、このNEA表面導電層に表面から直接電子を供給し、効率的に電子放出させることができる。この場合、上記良導電性の電子供給部2は、例えば金属薄膜を蒸着することによって形成できる。金属は電気抵抗の低いCu,Au,Pt,Pd等さらにはAl,Mg等の軽元素、低抵抗金属元素であってもよい。マスク・フォトリソ技術などを使用することにより、任意の電子放出部4を形成することができる。
【0031】
[第3実施形態]
図3は、本発明に係る電子放出素子の第3実施形態を示す図である。同図に示すように、本実施形態では、ダイヤモンド基板10の電子放出部4の表面に、四角錐状のダイヤモンド突起12が複数形成されている。このダイヤモンド突起12は、反応性イオンエッチング法によって円柱状の隆起部分を形成した後に、当該隆起部分を表面の結晶性を利用して尖鋭化するという公知の技術によって得ることができる。本実施形態の電子放出素子1によれば、電子放出部4に対向する電子入射板20とダイヤモンド突起12との間隔は突出していない部分と比較して狭いため、電界がダイヤモンド突起12に集中し、ダイヤモンド突起12から電子が放出されやすくなる。このため、電子放出位置の制御が容易になる。また、電子入射板20とダイヤモンド基板10との傾きに多少の変動が生じた場合でも、電界印加量が最大になる点はダイヤモンド突起12付近になり、電子放出を安定して行うことができる。
【0032】
[第4実施形態]
次に、図4を参照して、本発明に係る電子放出素子の第4実施形態を説明する。本実施形態の電子放出素子1は、ダイヤモンド基板10の電子放出部4の表面に四角錐状のダイヤモンド突起12が複数形成されている。ダイヤモンド突起12の底面の一辺は50μm以下に形成されている。電子供給部2は、ダイヤモンド表面の上記各ダイヤモンド突起12の間を覆うようにダイヤモンド基板10の表面に形成されている。このように電子供給部2を配置することにより、上記第2実施形態で説明したように、一様で安定な電子放出を実現することができる。電気伝導性の電子供給部2が電子放出部4の電子放出が実際に起こるダイヤモンド突起12の近傍に配置されているため、電界集中により、電子供給部2からダイヤモンド基板10の表面への電子供給が効率的となり、ダイヤモンド基板10の表面に供給された電子は、電子放出部4から効率的に放出される。
【0033】
この場合、上記良導電性の電子供給部2は、例えば金属薄膜を蒸着することによって形成できる。金属は電気抵抗の低いCu,Au,Pt,Pd等さらにはAl,Mg等の軽元素、低抵抗金属元素であってもよい。マスク・フォトリソ技術などを使用することにより、任意の電子放出部4を形成することができる。
【0034】
[第5実施形態]
次に、図5を参照して、本発明に係る電子放出素子の第5実施形態を説明する。本実施形態の電子放出素子1は、電子供給部2が、電子放出部4に向けて突出した突出部14を含んでいる点に特徴がある。突出部14を形成するには、まず、ダイヤモンド基板10に第3実施形態のようなダイヤモンド突起12を形成し、次いで、ダイヤモンド基板10に金属イオンを注入する。これにより、ダイヤモンド突起12に倣った形状の突出部14が形成される。本実施形態では突出部14を形成した後に、ダイヤモンド突起をエッチングあるいは成長で除去しているが、ダイヤモンド突起を残しておいてもよい。そして、本実施形態の電子放出素子1によれば、電子入射板20と突出部14との間隔は突出していない部分と比較して狭いため、突出部14に電界が集中し、突出部14から電子放出部4に電子が供給されやすくなる。このため、電子放出位置の制御が容易になる。また、電子入射板20とダイヤモンド基板10との傾きに多少の変動が生じた場合でも、電界印加量が最大になる点は突出部14付近になり、電子放出を安定して行うことができる。
【0035】
なお、このような突出部14を用いる技術は、ダイヤモンド基板10の内部に電子供給部として金属層を形成する場合に限られず、黒鉛層、導電性非晶質炭素層、又は高濃度ボロンドーピング層を形成する場合にも適用することができる。高濃度ボロンドーピング層を形成する場合に適用するにあたっては、まず、ボロンドーピング層の表面の結晶性を利用し、当該表面を尖鋭化して突出部14を形成した後に、当該ドーピング層の上にダイヤモンドのノンドーピング層を積層する。
【0036】
次に、第1実施形態の電子放出素子1の特性をシミュレートした結果について説明する。図6(a)〜図6(c)は、第1実施形態の電子放出素子1と特性を対比させるために作製した比較例である。図6(a)の比較例は、ボロンが低濃度(5ppm)ドーピングされたダイヤモンド基板10の下面(外部)に電極72を設けたものであり、図6(b)の比較例は、ダイヤモンド基板10の領域10aにボロンを低濃度(10ppm)ドーピングしたものであり、図6(c)の比較例は、ダイヤモンド基板10の表面導電層74を電子の供給路として利用したものである。なお、上記第2実施形態の電子放出素子は、図6(c)の表面導電層を電子供給路として利用するものとは異なり、この表面導電層の上部又はこれに重ねるように電子供給部を形成したものである。
【0037】
図7は、第1実施形態の電子放出素子1及び上記各比較例について、印加電圧(横軸)と、電源30と電子入射板20の間を流れた電流(縦軸)との関係を示したグラフである。図中、黒丸は電子放出素子の理想的な特性を示し、白抜きの丸は第1実施形態の電子放出素子1の特性を示し、黒三角は図6(a)の比較例の特性を示し、白抜きの三角は図6(b)の比較例の特性を示し、白抜きの四角は図6(c)の比較例の特性を示している。このグラフから分かるように、第1実施形態の電子放出素子1は、他の例と比較して電圧−電流特性が理想値に最も近い。このため、電子放出部4から放出される電子の量も、他の例と比較して最も多くなると予想される。なお、上記第2実施形態の表面導電層の上部又はこれと重なるようにして電子供給部を形成した電子放出素子の特性は、図7の白抜きの丸の特性とほぼ同じであった。
【0038】
次に、図8及び図9を参照して、ダイヤモンド基板にCu及びAlの2種類の金属イオンを注入するにあたって、注入エネルギ及びドーズ量を種々変更した場合の実験結果について説明する。図8は、ダイヤモンド基板中の金属イオンの分布を示すグラフである。なお、Alイオンは3MeVでダイヤモンド基板に注入し、Cuイオンは8MeVで注入した。このグラフより、1×1021cm-3を超える濃度でAl及びCu原子がダイヤモンド中に分布しており、一種の金属層が形成されていることが分かった。
【0039】
図9は、金属イオンの注入量とシート抵抗との関係を示す表である。この表の上2欄から分かるように、注入量が1×1016cm-2以上であれば、シート抵抗値は1.0kΩ〜20kΩと低い値を示す。これに対し、表の下2欄から分かるように、注入量が1014cm-2オーダーの場合は、シート抵抗値が2桁程増加して金属層の導電率が低くなる。以上より、金属イオンの注入量を1×1016cm-2以上にすれば、電子放出素子の電子放出量を増加できることが分かる。
【0040】
次に、図10及び図11を参照して、上記第5実施形態に係る電子放出素子における最大電界位置の安定性について説明する。図10のように、幅2mmのダイヤモンド基板10内に一つの突出部14を有する電子供給部2を形成した。また、突出部14は、電子供給部2の中心から幅方向に約0.3mmずらした位置に形成した。図11は、図10に示す電子入射板20を角度θだけ傾けた場合の最大電界位置を示すシミュレーション結果である。角度θが0゜の場合、すなわち電子供給部2と電子入射板20とが平行な場合は、最大電界は突出部14のある位置に生じる。また、角度θを−2゜〜+2゜の範囲で変化させた場合も、最大電界は突出部14のある位置に生じた。このように、電子入射板20とダイヤモンド基板10との傾きに多少の変動が生じた場合でも、最大電界は突出部14付近になり、このような突出部14を備えた電子放出素子によれば、電子放出を安定して行えることが予想される。
【0041】
以上、本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではない。例えば、ダイヤモンド突起の形状は四角錐に限られず、四角錐台等の他の形状にしてもよい。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る電子放出素子によれば、電気抵抗の小さい電子供給部がダイヤモンドの表面に設けられていることから、ダイヤモンド表面の電子放出部の近傍まで効率的に電子を運ぶことができ、これにより、ダイヤモンド表面に電子が効率的に供給され、電子放出量を増加させることができる。
【0043】
また、本発明に係る他の電子放出素子によれば、電気抵抗の小さな金属層、高濃度ボロンドーピング層、黒鉛層、又は導電性非晶質炭素層が電子供給部としてダイヤモンドの内部又は表面に設けられているため、この電子供給部を介してダイヤモンド表面の電子放出部に多量の電子を供給することができ、電子放出量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る電子放出素子の第1実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る電子放出素子の第2実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明に係る電子放出素子の第3実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明に係る電子放出素子の第4実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明に係る電子放出素子の第5実施形態を示す断面図である。
【図6】図6(a)〜図6(c)は、第1実施形態の電子放出素子と特性を対比させるために作製した比較例を示す図である。
【図7】第1実施形態の電子放出素子及び図6に示した比較例について、印加電圧と、電源と電子入射板の間を流れた電流との関係を示すグラフである。
【図8】ダイヤモンド基板にCu及びAlの2種類の金属イオンを注入した場合の金属イオンの分布を示す実験結果である。
【図9】金属イオンの注入量とシート抵抗との関係を示すチャートである。
【図10】第5実施形態の電子放出素子の最大電界位置の安定性を示すために用いた素子を示す図である。
【図11】図10に示す電子入射板を角度θだけ傾けた場合の最大電界位置を示すシミュレーション結果である。
【符号の説明】
1…電子放出素子、2…電子供給部(金属層)、4…電子放出部、10…ダイヤモンド基板、12…ダイヤモンド突起、14…突出部、20…電子入射板、40…真空容器。
Claims (6)
- ダイヤモンドの表面の電子放出部から電子を放出する電子放出素子において、
前記電子放出部に電子を供給するための電子供給部が前記ダイヤモンドの内部に設けられており、
前記電子供給部は、金属イオンを注入するイオン注入によって形成された金属層とされていることを特徴とする電子放出素子。 - 前記電子供給部は、前記ダイヤモンドの内部において前記電子放出部と対向するように設けられていることを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
- 前記電子放出部は、前記ダイヤモンドの表面に形成されたダイヤモンド突起を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の電子放出素子。
- 前記電子供給部は、前記ダイヤモンドの内部において、前記電子放出部に向けて突出した突出部を含んでいることを特徴とする請求項1〜請求項3のうち何れか一項記載の電子放出素子。
- 前記イオン注入は、1MeV以上のエネルギで前記金属イオンを注入することによって行われていることを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
- 前記イオン注入は、1016cm−2以上のドーズ量で前記金属イオンを注入することによって行われていることを特徴とする請求項1記載の電子放出素子。
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