JP4744115B2 - 乳酸の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリ乳酸等を製造する際の材料となる乳酸を、高光学純度で製造することができる乳酸の製造方法に関する。
ポリ乳酸は、生体内で分解されるポリマーであり機械的特性等にも優れていることから医療分野で利用されてきたが、自然環境下においても分解されるので環境保護の観点から種々の用途に利用されることが期待されている。
ポリ乳酸の製造方法としては、原料である乳酸を直接脱水縮合させる方法、乳酸エステルを脱アルコール縮合させる方法、及びラクチドを開環重合させる方法が挙げられる。いずれの方法においても、光学純度の高い乳酸を使用することによって優れた物性のポリ乳酸を製造することができる。
ところで、乳酸を製造する方法としては、乳酸生合成系を有する微生物、或いは乳酸生合成系を付与した微生物を用いた発酵法を挙げることができる。発酵法によれば、遺伝子の構造上、L-乳酸又はD-乳酸のいずれか一方のみを生産する菌株を使用することによって、上述したように、光学純度の高い乳酸を原料としたポリ乳酸の製造を達成することができると考えられている。
しかしながら、ポリ乳酸に対して、より優れた物性が求められる場合、従来の発酵法においてL-乳酸又はD-乳酸のいずれか一方のみを生産する菌株を使用したとしても、十分な光学純度の乳酸を準備することが困難であった。
そこで、本発明は、上述したような実状に鑑み、例えば、優れた物性を持つポリ乳酸の原料としても利用可能な高光学純度で乳酸を製造できる乳酸の製造方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、乳酸とグリセロールとが併存した場合に乳酸のラセミ化反応が進行する結果、乳酸の光学純度が低下していることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
(1)グリセロール量を減少させた溶液で、当該溶液中の乳酸を加熱濃縮する工程を含む乳酸の製造方法。
(2)グリセロール生産能を低下させた微生物を使用した乳酸発酵によって上記溶液を調製する工程を更に含むことを特徴とする(1)記載の乳酸の製造方法。
(3)上記微生物は、グリセロール生産に関連する遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子の発現を抑制した変異体であることを特徴とする(2)記載の乳酸の製造方法。
(4)上記変異体は、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を破壊した乳酸生産菌であることを特徴とする(3)記載の乳酸の製造方法。
(5)上記乳酸生産菌は、サッカロマイセス属に属する微生物であることを特徴とする(4)記載の乳酸の製造方法。
(6)上記溶液は、乳酸量に対するグリセロール量が3.5重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下であることを特徴とする(1)記載の乳酸の製造方法
(7)微生物を使用した乳酸発酵によって上記溶液を調製する工程と、上記溶液からグリセロールを除去する工程とを更に含むことを特徴とする(1)記載の乳酸の製造方法。
(8)上記グリセロールを除去する工程では、上記溶液中の乳酸量に対するグリセロール量を3.5重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下とすることを特徴とする(7)記載の乳酸の製造方法。
(9)乳酸生産菌に対してグリセロール生産量が低減するような変異を導入してなる変異体。
(10)上記乳酸生産菌がサッカロマイセス属に属する微生物であることを特徴とする(9)記載の変異体。
(11)グリセロール-3-リン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を破壊することでグリセロール生産量を低減させたことを特徴とする(9)記載の変異体。
(12)乳酸生産菌に対して、乳酸量に対するグリセロール生産量を3.5重量%以下、より好ましくは0.1重量%以下に低減するような変異を導入してなる(9)記載の変異体。
また、本発明者は、乳酸発酵においてグリセロール生産能を低下させた微生物を使用することによって、乳酸の生産効率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下を包含する。
(13)グリセロール生産能を低下させた微生物を使用した乳酸発酵によって、乳酸を製造する工程を含む乳酸の製造方法。
(14)上記微生物は、グリセロール生産に関連する遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子の発現を抑制した変異体であることを特徴とする(13)記載の乳酸の製造方法。
(15)上記変異体は、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素を破壊した乳酸生産菌であることを特徴とする(14)記載の乳酸の製造方法。
(16)上記乳酸生産菌は、サッカロマイセス属に属する微生物であることを特徴とする(15)記載の乳酸の製造方法。
(17)上記乳酸生産菌は、乳酸量に対するグリセロール生産量を3.5重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上低減するような変異が導入されたものであることを特徴とする(15)記載の乳酸の製造方法。
以下、図面を参照して本発明をより詳細に説明する。
本発明に係る乳酸の製造方法は、グリセロールを低減させた溶液で乳酸を加熱濃縮する工程を含むものである。特に本発明は、発酵法による乳酸の製造に適用される。発酵法とは、培地中の糖質が微生物の作用を受けて乳酸を生成する現象を意味する。以下の説明において、乳酸を生成する能力を有する微生物及び乳酸を生成する能力が付与された微生物を併せて「乳酸生産菌」と称する。
また、本発明において、「グリセロールを低減させる」とは、発酵法による乳酸生産菌のグリセロール生産能を低下させること、乳酸生産菌が生産したグリセロールを除去及び/又は分解することのいずれか一方及び両方を意味する。乳酸とグリセロールとが共存する場合には、以下の反応によって、乳酸のラセミ化が進行することが判明した。
Figure 0004744115
また、上記反応は、生成した乳酸を加熱濃縮する工程や加熱エステル化する工程及び生成した乳酸を加熱蒸留する工程において加えられる熱エネルギによって進行し、光学純度が低下してしまう。よって、生成した乳酸を加熱する工程に先立って、グリセロールを低減させることにより高光学純度の乳酸を得ることができる。
以下、グリセロールを低減させる方法として、発酵法による乳酸生産菌のグリセロール生産能を低下させる方法(方法1)及び乳酸生産菌が生産したグリセロールを除去及び/又は分解する方法(方法2)を順に説明する。
方法1
乳酸生産菌のグリセロール生産能を低下させる場合、
1)乳酸生産菌が有するグリセロール生産に関連する遺伝子を破壊する
2)グリセロール生産に関連する遺伝子の発現を抑制する
3)グリセロール生産に関連する遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を阻害する
4)グリセロールの代謝分解能力を向上させる
5)グリセロールの細胞膜外への排出を抑える
6)グリセロールの細胞膜内への取り込みを促進させる
7)グリセロールの生産量が低下した突然変異株を取得する
8)グリセロールの生産量が低下する化合物を培養培地に添加する
といった1)〜8)の方法を挙げることができる。これら1)〜8)のいずれか1つの方法で乳酸生産菌のグリセロール生産能を低下させても良いし、1)〜8)のうち複数の方法を組み合わせた方法で乳酸生産菌のグリセロール生産能を低下させても良い。
ここで、本発明に係る乳酸の製造方法に使用可能な乳酸生産菌としては、乳酸を生成する能力を有する微生物である細菌、酵母、カビが挙げられる。細菌としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、バチルス(Bacillus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属のものを例示できる。酵母としては、クルベルマイセス(Kluyveromyces)属のものを例示できる。カビとしては、リゾプス(Rhyzopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属のものを例示できる。この乳酸発酵微生物としては、特に、ホモ乳酸発酵能を有する微生物を使用するのが好ましい。
また、乳酸を生成する能力を付与した微生物とは、本来的に乳酸生成能を有しないが、遺伝子工学的手法によって乳酸を生成する能力を有するように改変された微生物を意味する。例えば、サッカロマイセス・セレビシエに対して、乳酸生成に関連する遺伝子を導入した変異酵母を挙げることができる。また、変異酵母以外にも、乳酸生成能を持たない細菌、酵母、カビに乳酸生成に関連する遺伝子を導入することで、使用可能である。具体的にはサッカロマイセス(Saccharomyces)、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)、クルベルマイセス(Kluyveromyces)、ピキア(Pichia)、ハンゼヌラ(Hansenula)、カンジダ(Candida)、トリクスポロン(Trichosporon)、またはヤマダジマ(Yamadazyma)属のものを例示できる。また細菌では大腸菌(Escherichia coli)、ザイモモナス属(Zymomonas)やコリネ型細菌を例示できる。カビではリゾプス(Rhyzopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属などを例示できる。
乳酸生成に関連する遺伝子としては、乳酸脱水素酵素活性を有するたんぱく質をコードする遺伝子(LDH遺伝子)が挙げられる。乳酸脱水素酵素(LDH)としては、生物の種類に応じてあるいは生体内において各種同族体が存在する。本発明において使用する乳酸脱水素酵素としては天然由来のLDHの他、化学合成的あるいは遺伝子工学的に人工的に合成されたLDHも包含している。LDHとしては、好ましくは、ラクトバチルス・ヘルベティクス、ラクトバチルス・カゼイ、クルベルマイセス・サーモトレランス、トルラスポラ・デルブルッキ、シゾサッカロマイセス・ポンベ、リゾプス・オリゼなどの原核生物もしくはカビなどの真核生物由来であり,より好ましくは、植物、動物、昆虫などの高等真核生物由来である。例えば、ウシ由来のLDH(L-LDH)である。これら遺伝子を、上述した酵母を始めとする本来的に乳酸生成能を有しない微生物に導入することによって、当該微生物に乳酸生成能を付与することができる。本発明に係る乳酸の製造方法では、このようにして得られた乳酸を生成する能力を付与した微生物を広く使用することができる。
1)乳酸生産菌が有するグリセロール生産に関連する遺伝子を破壊する方法
グリセロール生産とは、微生物における解糖経路で生成するアセトアルデヒドをアルコール脱水素酵素の反応系外におくことで、NADHの酸化がグリセロール-3-リン酸脱水素酵素で行われるように発酵変換を誘導し、その結果、グリセロールが生成、蓄積されることを意味する。グリセロール生産に関連する遺伝子とは、上述したグリセロール生産の各反応に寄与する酵素をコードする遺伝子を意味する。
グリセロール生産に関連する遺伝子としては、例えば、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素遺伝子、グリセロール-1-リン酸脱リン酸化酵素遺伝子、グリセロールキナーゼ遺伝子を挙げることができる。より具体的には、サッカロマイセス・セレビシエにおいては、GPD1遺伝子及びGPD2遺伝子(グリセロール-3-リン酸脱水素酵素遺伝子)、RHR2遺伝子及びHOR2遺伝子(グリセロール-1-リン酸脱リン酸化酵素遺伝子)を挙げることができる。
なお、サッカロマイセス・セレビシエにおけるGPD1遺伝子及びGPD2遺伝子については、それぞれの遺伝子を単独で破壊した株及び両遺伝子を破壊した株において、グリセロール生産を低減することができる(Nissen, T. L.,ら、Yeast 16, 463-474 (2000))。サッカロマイセス・セレビシエにおけるRHR2遺伝子及びHOR2遺伝子については、両遺伝子を破壊した株において、グリセロール生産を低減することができる(Pahlman, A. K.,ら、J. Biol. Chem. 276, 3555-3563 (2001))。
乳酸生産菌において、上述した遺伝子を破壊する方法としては、特に限定されないが、当該遺伝子をゲノムから欠失させる方法、当該遺伝子に外来DNA断片を挿入する方法等を挙げることができる。
以上のようにして、グリセロール生産に関連する遺伝子を破壊することによって、乳酸生産菌におけるグリセロールの生産を抑制することができる。
2)グリセロール生産に関連する遺伝子の発現を抑制する方法
グリセロール生産に関連する遺伝子の発現を抑制する方法とは、上述した遺伝子を破壊する方法を除く方法であって、当該遺伝子の発現を抑制する方法を意味する。遺伝子の発現を抑制する方法としては、上述した遺伝子の転写を抑制する方法、上述した遺伝子の転写後において当該遺伝子の翻訳を阻害する方法、当該遺伝子のmRNAを選択的に分解する方法等を挙げることができる。
より具体的に、上述した遺伝子の転写を抑制する方法としては、上述した遺伝子の転写制御領域をゲノムから欠失させる方法、当該遺伝子の転写制御領域に外来DNA断片を挿入する方法を挙げることができる。また、RNAデコイをコードする核酸を細胞内に導入することによって、上述した遺伝子の発現を転写レベルで抑制することができる。当該RNAデコイとは、転写因子の結合タンパク質をコードする遺伝子あるいは転写因子の結合部位の配列又は類似の配列を有するRNAを指し、これらを「おとり」として細胞内に導入することによって転写因子の作用を抑制するものをいう。
一方、上述した遺伝子の翻訳を阻害する方法としては、アンチセンスRNA法を挙げることができる。アンチセンスRNA法とは、mRNAの一部又は全部にハイブリダイズするアンチセンスRNAを導入するか、当該アンチセンスRNAをコードするDNA断片を宿主ゲノムに導入する方法を意味する。アンチセンスRNAとは、対象となるmRNAに相補的な塩基配列を有し、これと2本鎖を形成することによって該mRNAにコードされる遺伝子の発現を翻訳レベルで抑制するものをいう。なお、アンチセンスRNAの代わりに、アンチセンスDNAを使用することによって、新規遺伝子の発現を転写レベルで抑制することもできる。何れの場合であってもアンチセンス配列は、遺伝子の翻訳又は転写をブロックする限り任意の核酸物質を使用することができる。例えば、DNA、RNA、又は任意の核酸擬似物が挙げられる。従って、発現を抑制させようとする新規遺伝子の一部の配列に相補的となるようにアンチセンス核酸(オリゴヌクレオチド)配列を設計すればよい。なお、アンチセンスオリゴヌクレオチドの分子類似体も使用することができる。分子類似体は、高安定性、分布特異性などを有するものである。分子類似体には、化学的に反応性である基、例えば鉄結合エチレンジアミン四酢酸をアンチセンスオリゴヌクレオチドに結合させたものが挙げられる。
さらにまた、リボザイムを使用することによって、上述した遺伝子の発現を翻訳レベルで抑制することができる。リボザイムとは、特定のタンパク質のmRNAを切断するものをいい、これら特定のタンパク質の翻訳を阻害するものをいう。リボザイムは特定のタンパク質をコードする遺伝子配列より設計することができ、例えば、ハンマーヘッド型リボザイムとしては、FEBS Letter, 228; 228-230(1988)に記載の方法を用いることができる。また、ハンマーヘッド型リボザイムだけではなく、ヘアピン型リボザイム、デルタ型リボザイムなどの、特定のタンパク質のmRNAを切断するものであって、これら特定のタンパク質の翻訳を阻害するものであれば本発明において使用しうる。
上述した遺伝子のmRNAを選択的に分解する方法としては、RNA干渉を利用する方法を挙げることができる。RNA干渉とは、二本鎖を形成しているRNA(以下、「二本鎖RNA」又は「dsRNA」ともいう)が細胞内に存在する場合に、そのRNAの塩基配列に相同的な内在性のmRNAが分解される結果、当該mRNAからの遺伝子発現が特異的に抑制される現象である。RNA干渉は、RNAインターフェアランス、RNAiとも称される。RNA干渉の原理を利用するための遺伝子としては、ヘアピン型dsRNA等の宿主内で二本鎖RNAを形成するように、発現を抑制したい遺伝子の塩基配列に基づいて設計される。
以上のようにして、グリセロール生産に関連する遺伝子の発現を抑制することによって、乳酸生産菌におけるグリセロールの生産を抑制することができる。
3)グリセロール生産に関連する遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を阻害する方法
上述したグリセロール生産に関連する遺伝子によりコードされる酵素の活性を阻害することによって、乳酸生産菌におけるグリセロールの生産を抑制することができる。具体的には、前記酵素に対する抗体を使用したり、前記酵素に特異的に作用する物質を使用することができる。
抗体は、従来公知の手法を適用して取得することができ、前記酵素の活性を阻害するものであれば、その由来、種類(モノクローナル、ポリクローナル)および形状を問うものではない。例えば、前記酵素を抗原とし、当該抗原に結合する限り、前記抗体としては特に制限はなく、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヒツジ抗体等を適宜用いることができる。抗体は、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよいが、均質な抗体を安定に生産できる点でモノクローナル抗体が好ましい。ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体は当業者に周知の方法により作製することができる。
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、所望の抗原や所望の抗原を発現する細胞を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)をスクリーニングすることによって作製できる。ハイブリドーマの作製は、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C., Methods Enzymol. (1981) 73: 3-46 )等に準じて行うことができる。
一方、阻害剤としては、上述したグリセロール生産に関連する遺伝子によりコードされる酵素の活性を特異的に阻害する機能を有する物質を使用することができる。
以上のようにして、グリセロール生産に関連する遺伝子によりコードされる酵素の活性を阻害することによって、乳酸生産菌におけるグリセロールの生産を抑制することができる。
4)グリセロールの代謝分解能力を向上させる
グリセロールの代謝分解能力を向上させる場合、グリセロールの代謝に関連する遺伝子を過剰発現する方法を挙げることができる。グリセロールの代謝に関連する遺伝子としては、例えば、グリセロールリン酸化酵素遺伝子、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素遺伝子を挙げることができる。また、サッカロマイセス・セレビシエにおいては、GUT1遺伝子(グリセロールリン酸化酵素)、GUT2(グリセロール-3-リン酸脱水素酵素遺伝子)、GCY1(グリセロール脱水素酵素)、DAK1(ジヒドロアセトンリン酸化酵素)を挙げることができる。
乳酸生産菌において、上述した遺伝子を導入する方法は特に限定されないが、当該遺伝子を組み込んだ線状等のDNA断片、プラスミド(DNA)、ウイルス(DNA)、レトロトランスポゾン(DNA)、人工染色体(YAC)を、外来遺伝子の導入形態(染色体外あるいは染色体内)等に応じて選択して組換えベクターを作成し、乳酸生産菌に導入させることができる。
以上のようにして、グリセロールの代謝分解能力を向上させることによって、乳酸生産菌におけるグリセロールの生産を抑制することができる。
5)グリセロールの細胞膜外への排出を抑える
グリセロールの細胞膜外への排出を抑える場合、グリセロールの細胞膜外への排出チャンネルをコードする遺伝子を破壊する方法を挙げることができる。グリセロールの細胞膜外への排出チャンネルをコードする遺伝子としては、サッカロマイセス・セレビシエにおいて、FPS1遺伝子を挙げることができる。
乳酸生産菌において、上述した遺伝子を破壊する方法としては特に限定されないが、当該遺伝子をゲノムから欠失させる方法、当該遺伝子に外来DNA断片を挿入する方法、当該遺伝子の発現タンパクの活性を低下させる変異を導入する方法等を挙げることができる。
また、上記「2)グリセロール生産に関連する遺伝子の発現を抑制する方法」で説明した方法に準じて、グリセロールの細胞膜外への排出チャンネルをコードする遺伝子の発現を抑制する方法を採用することもできる。同様に、上記「3)グリセロール生産に関連する遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を阻害する方法」で説明した方法に準じて、グリセロールの細胞膜外への排出チャンネルをコードする遺伝子によりコードされるタンパク質の活性を阻害する方法を採用することもできる。
以上のようにして、グリセロールの細胞膜外への排出を抑えることによって、乳酸生産菌におけるグリセロールの生産を抑制することができる。
6)グリセロールの細胞膜内への取り込みを促進させる
グリセロールの細胞膜内への取り込みを促進させる場合、グリセロールの取り込みポンプをコードする遺伝子を過剰発現する方法を挙げることができる。グリセロールの取り込みポンプをコードする遺伝子としては、サッカロマイセス・セレビシエにおいて、GUP1、GUP2遺伝子を挙げることができる。
以上のようにして、グリセロールの細胞膜内への取り込みを促進させることによって、乳酸生産菌におけるグリセロールの生産を抑制することができる。
7)グリセロールの生産量が低下した突然変異株を取得する
グリセロールの生産量が低下した突然変異株を取得する場合、変異酵母を得るための変異方法は、いかなる方法でも良い。変異の物理的方法としては、紫外線照射、放射線照射などがあり、化学的方法としては、変異剤、例えば、エチルメタンスルホネート、N −メチル−N −ニトログアニジン、亜硝酸、アクリジン系色素などの溶液に懸濁させる変異方法がある。また、取得頻度は低くなるが、自然変異においても目的とする変異酵母を取得することができる。
以上のようにして取得されたグリセロールの生産量が低下した突然変異株においては、グリセロールの生産が抑制されたものとなる。ここで、突然変異株としては、グリセロール生合成に関与する遺伝子に対する変異の結果としてグリセロール生産量が低下した株であっても良いし、グリセロール代謝に関与する遺伝子、グリセロールの細胞外への排出に関与する遺伝子、グリセロールの細胞膜内への取り込みに関与する遺伝子煮たい汁変異の結果としてグリセロール生産量が低下した株であっても良く、変異の導入部位について何ら限定されるものではない。
8)グリセロールの生産量が低下する化合物を培養培地に添加する
グリセロールの生産量が低下する化合物を培養培地に添加する場合、サッカロマイセス・セレビシエにおいては、イノシトール、カテキン、二亜硫酸ナトリウム、抗酸化剤等を培養培地に添加することで、グリセロール生産量が低下することが知られている(Caridi, A. (2002). Protective agents used to reverse the metabolic changes induced in wine yeasts by concomitant osmotic and thermal stress. Lett Appl Microbiol 35, 98-101)。また、これら以外のグリセロールの生産量が低下する化合物を添加しても良い。
以上のようにして、グリセロールの生産量が低下する化合物を培養培地に添加することによって、乳酸生産菌におけるグリセロールの生産を抑制することができる。
なお、上述した1)〜8)の方法において、乳酸生産菌の培養条件及び培地組成は、特に限定されず、通常の培養条件及び培地組成を適用することができる。例えば、乳酸生産菌の一例として、乳酸生産能を付与したサッカロマイセス・セレビシエTC38株(GPD1遺伝子、GPD2遺伝子破壊株)を用いた場合、培養条件としては、通常、震盪培養または通気攪拌培養等の好気条件下、25〜38℃で12〜80時間行う。培養期間中、pHは2.0〜7.0に保持することが好ましい。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は必要に応じてハイグロマイシン、G418などの抗生物質を培地に添加することができる。
また、培地組成としては、微生物が資化可能な炭素源、窒素源、無機塩類を含有している培地であれば、天然培地、合成培地のいずれも使用することができる。炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、デンプン、セルロース等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコールの他、糖蜜、木質バイオマスの加水分解物等を用いることができる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機塩もしくは有機酸のアンモニウム塩またはその他の含窒素化合物の他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、酵母エキス等を用いることができる。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム、などを用いることができる。また、チアミン、ビオチン、葉酸、ナイアシン、リボフラビン、ピリドキシン、パントテン酸等のビタミン類も培地に添加することができる。
また、他の菌を用いる場合の培養条件は、細菌発酵 に関しては、通常、約30℃〜約60℃、酵母発酵 に関しては、通常、約20℃〜約45℃の温度範囲で行われる。菌類発酵 に関しては、その温度範囲は広範であるが、約25℃〜約50℃の範囲内であることが多い。なお、培養期間中、pHは2.0〜7.0に保持することが好ましい。培地組成は上記記載の培地を用いることができる。
一方、上述した1)〜8)の方法によって乳酸生産菌のグリセロール生産能を低下させる場合、生成した乳酸を含む溶液(例えば、乳酸生産菌を培養した培地)に含まれるグリセロール量は、当該溶液に含まれる乳酸量に対して3.5重量%以下であることが好ましく、0.4重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることが最も好ましい。
また、上述した1)〜8)の方法によって乳酸生産菌のグリセロール生産能を低下させる場合、生成した乳酸を含む溶液(例えば、乳酸生産菌を培養した培地)に含まれる、乳酸量に対するグリセロール量は、グリセロール生産能を低下させていない乳酸生産菌が生成する、乳酸量に対するグリセロール量と比較して有意に低下していることが必須であるが、35%以上低下していることが好ましく、90%以上低下していることがより好ましく、95%以上低下していることが最も好ましい。
方法2
乳酸生産菌が生産したグリセロールを除去する方法とは、上記化学反応式に示す化学反応の進行を阻止すべく、乳酸生産菌を用いた発酵法によって生産されたグリセロールを除去する工程を含む方法である。なお、以下の説明において、乳酸生産菌の培養液から菌体を除いた溶液を粗乳酸水溶液と称する。
この工程は、乳酸生産菌を用いた発酵法によって得られた粗乳酸水溶液に含まれるグリセロールを除去するものであっても良いし、乳酸生産菌の培養液に含まれるグリセロールを除去するものであっても良い。これらの工程は、上記化学反応式に示す化学反応が進行する前に行うことが望ましい。具体的に、当該化学反応は、反応に必要な熱エネルギーが、グリセロールと乳酸とが共存する系に加えられることによって進行する。例えば、乳酸の製造工程において、乳酸生産菌を用いた発酵法によって得られた粗乳酸水溶液を加熱濃縮する場合には、加熱濃縮する前に粗乳酸水溶液中のグリセロールを除去することが好ましい。
このとき、グリセロールを除去する工程によって、乳酸量に対してグリセロール量が3.5重量%以下であることが好ましく、0.4重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることが最も好ましい。乳酸量に対してグリセロール量が3.5重量%以下である場合には、上記化学反応の進行を確実に阻害することができ、その結果、最終的に得られる乳酸の光学純度を非常に高くすることができる。一方、乳酸量に対してグリセロール量が3.5重量%を超える場合には、上記化学反応が進行する結果、最終的に得られる乳酸の光学純度が低下する虞が生じる。
より具体的に、粗乳酸水溶液又は培養液に含まれるグリセロールを除去する手法としては、例えば、電気透析法、イオン交換法、クロマトグラフ法、抽出法(溶媒抽出法)、遠心分離法及び沈殿しやすい物質に変化させて分離する方法を挙げることができる。但し、粗乳酸水溶液又は培養液に含まれるグリセロールを除去する手法としては、これらの方法に限定されるものではない。例えば、粗乳酸水溶液又は培養液に含まれるグリセロールを除去する手法としては、グリセロールを化学反応させて他の物質とする方法を挙げることができる。
ここで、電気透析法とは、粗乳酸水溶液又は培養液中に一対の電極を配設し、直流電圧を印加することによって乳酸とグリセロールとを異なる電極近傍に分離する方法である。電気透析法を適用する場合には、粗乳酸水溶液又は培養液中に含まれる乳酸を分離しやすくするため、アルカリによって当該乳酸を乳酸塩としておくことが望ましい。イオン交換法とは、粗乳酸水溶液又は培養液をイオン交換樹脂にアプライし、イオン性物質を当該イオン交換樹脂に吸着させる作用を利用して、グリセロールと乳酸とを分離する方法である。クロマトグラフ法は、展開液とともに粗乳酸水溶液又は培養液をカラムにアプライし、グリセロール及び乳酸の移動速度の差を利用してこれらグリセロール及び乳酸を分離する方法である。抽出法とは、溶媒を用いて、粗乳酸水溶液又は培養液に含まれる成分物質を溶解させる分離する方法である。遠心分離法とは、粗乳酸水溶液又は培養液に遠心力を与え、グリセロール及び乳酸の比重差を利用してこれらグリセロール及び乳酸を分離する方法である。沈殿しやすい物質に変化させて分離する方法とは、例えば、粗乳酸水溶液又は培養液に濃硫酸又は発煙硫酸を加えることによってグリセロールをスルホン化し、スルホン化したグリセロールを沈殿させた後、粗乳酸水溶液又は培養液をろ過することによって乳酸とグリセロールとを分離する方法を挙げることができる。或いは、沈殿しやすい物質に変化させて分離する方法としては、粗乳酸水溶液又は培養液に水酸化カルシウム又は炭酸カルシウムを加えて乳酸を中和した後、冷却することにより乳酸を乳酸カルシウムとして沈殿させ、粗乳酸水溶液又は培養液をろ過することによって乳酸とグリセロールとを分離する方法を挙げることができる。
一方、グリセロールを化学反応させて他の物質とする方法としては、例えば、酸性条件下でグリセロール分子内での脱水反応を進行させる方法やグリセロールとカルボニル化合物(アルデヒド化合物、ケトン化合物)を反応させてアセタールを生成する方法を挙げることができる。
以上で説明した方法1及び2によれば粗乳酸水溶液や培養液等の溶液に含まれるグリセロール量を低減させることができる。本発明に係る乳酸の製造方法において、溶液中の乳酸を加熱濃縮する工程では、例えば、上記方法1によって得られた培養液から菌体を除去した溶液或いは上記方法2によってグリセロールを除去した溶液を、当該溶液に含まれる乳酸を特に限定されないが約60〜70質量%の濃度となるまで減圧下で加熱濃縮する。本方法においては、溶液中のグリセロール量が低減しているため、上記化学反応式に示す化学反応が生じず、加熱濃縮を行っても高光学純度の乳酸を製造することができる。
特に、本方法において、L-乳酸生産能を有する乳酸生産菌を用いた発酵法によって乳酸を製造する場合、最終的な乳酸の光学純度を99%以上にすることができる。既存の方法によって高光学純度の乳酸を製造したとしても、光学純度が99%以上の乳酸を製造することは不可能であり、本発明において目的とする高光学純度を達成することはできなかった。このように、99%以上の光学純度の乳酸は、優れた生分解性をもつポリ乳酸の原料として、また優れた物性を示すポリ乳酸の原料として好適である。
また、以上で説明した方法1及び2によれば粗乳酸水溶液や培養液等の溶液に含まれるグリセロール量を低減させることによって、高光学純度の乳酸を製造できるだけでなく、乳酸の生産性を向上させることができる。例えば、乳酸脱水素酵素遺伝子を導入した酵母(乳酸生産菌の一例)においては、酵母本来のエタノール発酵が存在するため必ずしも乳酸収率は高くなく、乳酸収率を向上させる目的でアルコール発酵を抑制する試みがなされてきた。しかしながら、アルコール発酵を抑制した乳酸生産酵母においては、乳酸収率に加え、発酵速度や培養速度等の面で十分に満足できる菌株を取得できていなかった。
これに対して、以上で説明した方法1及び2によれば、粗乳酸水溶液や培養液等の溶液に含まれるグリセロール量を低減させることでエタノール生産を低減させることができ、その結果、乳酸収率を向上させることができる。従って、本発明に係る乳酸の製造方法によれば、高生産性、高収率で光学純度に優れた乳酸を製造することができる。
なお、本発明に係る乳酸の製造方法では、乳酸生産菌を用いた発酵法によって乳酸を製造する既知の方法と同様の処理工程を含んでいてもよい。例えば、発酵法では、培養液及び粗乳酸水溶液に含まれる乳酸成分をアンモニアで中和して乳酸アンモニウムとしているが、本発明に係る乳酸の製造方法においても、培養液及び粗乳酸水溶液に含まれる乳酸成分をアンモニアで中和して乳酸アンモニウムとしてもよい。培養液及び粗乳酸水溶液に乳酸アンモニウムを含む場合には、上述した加熱濃縮の後、ブタノール等のアルコールによってエステル化し、乳酸ブチル等の乳酸エステルの形で蒸留して乳酸成分を分離する。その後、分離した乳酸エステルを加水分解し、更に、濃縮することによって乳酸を製造する。なお、乳酸成分をアンモニアで中和せずに、乳酸のかたちで培養液及び粗乳酸水溶液に含まれる場合には、当該培養液及び粗乳酸水溶液から直接蒸留することで乳酸を製造することもできる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
(実験例)
本発明を適用した実施例を説明するに先立って、上記化学反応式が実際に起こることを検証する。本実験例では、グリセロールと乳酸の間の化学反応、及び、エチレングリコールと乳酸との間の化学反応が実際に起こりうることを検証した。
先ず、L-乳酸とグリセロール若しくはエチレングリコールとを1対2の割合(モル比)で混合した溶液を調製した。次に、当該溶液にp-トルエンスルホン酸を添加して常圧で水をとばしながら加熱(150℃で15時間)した。
反応終了後、溶液をクロロホルムに溶解し(1〜10質量%)GC−MSで分析を行った。GC−MS分析では、日本電子社製の四極子型質量分析装置(JMS-AM SUN200)及びJ & W Scientific社製のカラムDB-1を使用し、インジェクション温度を300℃、カラム温度を50〜300℃とし、昇温速度を5℃/minとし、ヘリウム流量を1ml/minとした。
上記化学反応式に示したグリセロールと乳酸の間の化学反応が進行している場合、上記化学反応式における環状化合物を検出することができる。また、エチレングリコールと乳酸の間には、下記の化学反応式に示す化学反応が進行していると考えられ、下記化学反応式における環状化合物を検出することができる。下記化学反応式における環状化合物の生成に至る反応が進行する程、L-乳酸の光学純度がより低下することとなる。
Figure 0004744115
グリセロールと乳酸の間の化学反応による環状化合物は、分子イオンピークとして146及び115を同時に検出できるものとして観測されることとなる。これは、上記環状化合物と構造が類似するグリセロール2量対のMSスペクトルにおいて、側鎖のヒドロキシメチル基が取れた分子イオンピークが観測されることに基づいている。また、参考として検証したエチレングリコールと乳酸との間の化学反応による環状化合物は、分子イオンピークとして116及び73が同時に検出できるものとして観測されることとなる(Macromolecules, 2001, 34, 8641)。
L-乳酸とグリセロールを含む溶液を用いた実験の結果、分子イオンピークとして146と115に同時に存在する化合物が、保持時間14.5分に観測することができた(図1及び2参照)。また、L-乳酸とエチレングリコールを含む溶液を用いた実験の結果、分子イオンピークとして73と116に同時に存在する化合物が、保持時間7分に観測することができ(図3及び4参照)、ピーク強度比も文献値(116の分子イオンピークと73の分子イオンピークとの強度比が23:100(Macromolecules, 2001, 34, 8641))とほぼ同じであることを確認した。
これらの結果より、乳酸とグリセロール又はエチレングリコールとが共存した系に対して熱エネルギーを与えることによって、上記化学反応式に示す化学反応が進行することが確認できた。本実験例より、溶液中の乳酸を加熱濃縮する前に、当該溶液中のグリセロール量を減少させることで高光学純度の乳酸を製造できることが示唆された。
〔実施例1〕
上述した実験例では、溶液中の乳酸を加熱濃縮するに前に、当該溶液中のグリセロール量を減少させることで高光学純度の乳酸を製造できることが示唆された。そこで、本実施例では、グリセロール生産に関連する遺伝子を破壊した乳酸生産菌を用いた発酵法により、高光学純度の乳酸を製造できることを実証した。
遺伝子破壊株の作出
GPD1破壊株の作製
特開2003-259878号公報(特願2002-65879)で作製した乳酸生産能を持つ酵母を胞子形成培地(1% リン酸カリウム、0.1% イーストエキストラクト、0.05% ブドウ糖、2% 寒天)で胞子を形成させ、ホモタリック性を利用して2倍化を行い、2倍体である染色体両方にLDH遺伝子が導入されている株を取得し、これをKCB-27-7株とした。
大腸菌K12株をテンプレートとして、ハイグロマイシン耐性遺伝子(以下、HPH遺伝子)のDNA断片をPCRで増幅した。HPH遺伝子のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにV01499で登録されており、HPH遺伝子の両末端のプライマーHPH-U(5’-ATG AAA AAG CCT GAA CTC ACC-3’(配列番号1))とHPH-D(5’-CTA TTC CTT TGC CCT CGG ACG-3’(配列番号2))を使用した。
酵母IFO2260株(社団法人発酵研究所に登録されている菌株)のゲノムDNAをテンプレートとして、TDH3プロモーター領域のDNA断片をPCRで増幅した。TDH3遺伝子のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにZ72977で登録されており、プライマーTDH3P-U(5’-ATA TAT GGA TCC TAG CGT TGA ATG TTA GCG TCA AC-3’; TDH3プロモーター配列にBamHIサイトを付加(配列番号3))、TDH-3P-D(5’-ATA TAT CCC GGG TTT GTT TGT TTA TGT GTG TTT ATT CG-3’ ; TDH3プロモーター配列にSmaIサイトを付加(配列番号4))を使用した。
酵母IFO2260株のゲノムDNAをテンプレートとして、CYC1ターミネーター領域のDNA断片をPCRで増幅した。CYC1ターミネーター領域のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにZ49548で登録されており、プライマーCYCT-U(5’-ATA TAT AAG CTT ACA GGC CCC TTT TCC TTT G-3’ CYC1ターミネーター配列にHindIIIサイトを付加(配列番号5))、TDH-3P-D(5’-ATA TAT GTC GAC GTT ACA TGC GTA CAC GCG-3’ ; CYC1ターミネーター配列にSalIサイトを付加(配列番号5))を使用した。
HPH遺伝子断片を大腸菌プラスミドpBluescriptII(プロメガ製)のEcoRV部位に挿入した。このプラスミドをpBhphと命名した。本プラスミドをBamHIとSmaI部位で切断後、TDH3プロモーター断片を挿入し、このプラスミドをpBhph-Pと命名した。さらに本プラスミドをHindIIIとSalI部位で切断後、CYC1ターミネーター断片を挿入し、このプラスミドをpBhph-PTと命名した。pPBhph-PTをテンプレートとしてTDH3プロモーター領域、CYC1ターミネーター領域を付加したHPH遺伝子カセットの両末端にGPD1遺伝子の一部(77bp)が付加したDNA断片をPCRで増幅した。付加したGPD1遺伝子のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにZ24454で登録されており、プライマーはHPH遺伝子の外側にGPD1遺伝子の-127〜-51領域を付加したGPD1-CYC1-R(5’-TTA CGT TAC CTT AAA TTC TTT CTC CCT TTA ATT TTC TTT TAT CTT ACT CTC CTA CAT AAG ACA TCA AGA AAC AAT TGg tta cat gcg tac acg cgt ttg t-3’;大文字はGPD1遺伝子配列部分、小文字はHPH遺伝子配列部分(配列番号6))と、同じくGPD1遺伝子の+1100〜+1176領域を付加したGPD1-TDH3-F(5’-CTA ATC TTC ATG TAG ATC TAA TTC TTC AAT CAT GTC CGG CAG GTT CTT CAT TGG GTA GTT GTT GTA AAC GAT TTG Gta gcg ttg aat gtt agc gtc aac a-3’ ;大文字はGPD1遺伝子配列部分、小文字はHPH遺伝子配列部分(配列番号7))を使用した。このPCR産物を用いて、KCB27-7株を酢酸リチウム法(Ito et al., J.Bacteriol., 153, 163-168 (1983))にて形質転換した。形質転換後、200μg/ml ハイグロマイシンを含むYPD培地のプレートにまいて、30℃で2日間培養し、形質転換体を得た。形質転換体よりゲノムDNAを調製し、PCR法により挿入DNA断片の外側のプライマーであるGPD1-295F(5’-TGC TTC TCT CCC CTT CTT-3’(配列番号8))、GPD1+1472R(5’-CAG CCT CTG AAT GAG TGG T-3’(配列番号9))を用いて、HPH遺伝子がGPD1遺伝子領域の染色体に組込まれていることを確認した。
この株を胞子形成培地で胞子を形成させ、ホモタリック性を利用して2倍化を行った。2倍体である染色体のGPD1遺伝子領域の両方にHPH遺伝子が組み込まれGPD1遺伝子が破壊されている株を取得した。これをTC20株とした。
GPD2破壊株の作製
pCAT 3-Basic Vector (プロメガ製)をテンプレートとして、クロラムフェニコール耐性遺伝子(以下、CAT遺伝子)のDNA断片をPCRで増幅した。CAT遺伝子のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにM16323で登録されており、CAT遺伝子の両末端のプライマーCAT-U(5’-ATA TAT CCC GGG ATG GAG AAA AAA ATC ACT GGA TAT AC-3’(配列番号10))、CAT-D(5’-ATA TAT AAG CTT TTA CGC CCC GCC CTG CCA CTC ATC-3’(配列番号11))を使用した。
CAT遺伝子断片を大腸菌プラスミドpBluescriptII(プロメガ社製)のEcoRV部位に挿入した。このプラスミドをpBCATと命名した。本プラスミドをBamHIとSmaI部位で切断後、TDH3プロモーター断片を挿入し、このプラスミドをpBCAT-Pと命名した。さらに本プラスミドをHindIIIとSalI部位で切断後、CYC1ターミネーター断片を挿入し、このプラスミドをpBCAT-PTと命名した。
pPBCAT-PTをテンプレートとしてTDH3プロモーター領域、CYC1ターミネーター領域を付加したCAT遺伝子カセットの両末端にGPD2遺伝子の一部が付加したDNA断片をPCRで増幅した。付加したGPD2遺伝子のDNA塩基配列はGENBANKデータベースにZ74801で登録されており、プライマーはCAT遺伝子の外側にGPD2遺伝子の-127〜-51領域を付加したGPD2-CYC1-R(5’-ATT TAT CCT TGG GTT CTT CTT TCT ACT CCT TTA GAT TTT TTT TTT ATA TAT TAA TTT TTA AGT TTA TGT ATT TTG GTg tta cat gcg tac acg cgt ttg t-3’ ;大文字はGPD2遺伝子配列部分、小文字はCAT遺伝子配列部分(配列番号12))と、同じくGPD2遺伝子の+1247〜+1323領域を付加したGPD2-TDH3-F(5’-CTA TTC GTC ATC GAT GTC TAG CTC TTC AAT CAT CTC CGG TAG GTC TTC CAT GCG GAC GTT GTT GTA GAC TAT CTG Gta gcg ttg aat gtt agc gtc aac a-3’ ;大文字はGPD2遺伝子配列部分、小文字はCAT遺伝子配列部分(配列番号13))を使用した。このPCR産物を用いて、KCB27-7株とTC20株を酢酸リチウム法にて形質転換した。形質転換後、6mg/ml クロラムフェニコールを含むYPD培地のプレートにまいて、30℃で2日間培養し、形質転換体を得た。形質転換体よりゲノムDNAを調製し、PCR法により挿入DNA断片の外側のプライマーであるGPD2-262F(5’-GTT CAG CAG CTC TTC TCT AC-3’(配列番号14))、GPD2+1873R(5’-CGC AGT CAT CAA TCT GAT CC-3’(配列番号15))を用いて、CAT遺伝子がGPD2領域の染色体に組込まれていることを確認した。
この株を胞子形成培地で胞子を形成させ、ホモタリック性を利用して2倍化を行った。2倍体である染色体のGPD2遺伝子領域の両方にCAT遺伝子が組み込まれGPD2遺伝子が破壊されている株を取得した。このうち、KCB27-7株由来のGPD2破壊株をTC21株、TC20株由来の同遺伝子破壊株をTC38株と命名した。
発酵試験1
上記で得られた形質転換体について、発酵培地(スクロース14.4%、糖蜜0.6%)500mlに菌体濃度が0.3%になるように接種し、34℃、pH5.0(アンモニアで中和)、通気量0.6vvm、3日間発酵を行い、L-乳酸とグリセロールの生産量を検討した。L-乳酸、エタノール、グリセロール濃度は王子計測機器株式会社製バイオセンサーBF-4により測定した。L-乳酸の対糖収率はL-乳酸生産量を醗酵前の糖含量で割ることにより計算した。結果を表1に示す。
Figure 0004744115
表1に示すように、発酵終了時の培養液におけるL-乳酸濃度及びグリセロール濃度は、それぞれ9.1重量%(乳酸アンモニウムで10.8重量%)及び0.0082重量%であった。このグリセロール濃度は、L-乳酸に対して0.1%以下であった。また、D-乳酸の濃度をロッシュ社製F-キットを用いて測定し、L-乳酸の光学純度を下記式に従って算出した。なお、下記式において、D-乳酸の濃度を「D」と表記し、L-乳酸の濃度を「L」と表記する。
Figure 0004744115
その結果、L-乳酸の光学純度は99.93%であった。
発酵試験2
上記で得られた形質転換体について、発酵培地(グルコース4%、イーストエキストラクト1%)50mlを入れた100ml三角フラスコに菌体濃度が0.3%になるように接種し、32℃で震盪(回転数80rpm;震盪幅70mm)、2〜3日間発酵を行い、L-乳酸とエタノールとグリセロールの生産量を検討した。その結果を表2に示す。
Figure 0004744115
その結果、GPD1破壊株及びGPD2破壊株は、KCB27-7株と比較してL-乳酸生産量が増加、エタノール及びグリセロール生産量が低減し、L-乳酸の対糖収率が向上したことを見出した。GPD1、GPD2の2重破壊株は、単独破壊株よりさらにエタノール及びグリセロール生産量が低下し、対糖収率が向上した。
詳細には、KCB27-7株による乳酸量に対するグリセロール量(5.3重量%)と比較すると、TC20株においては乳酸量に対するグリセロール量(0.37重量%)が93.0%低下しており、TC21株においては乳酸量に対するグリセロール量(3.2重量%)が39.6%低下しており、TC38株においては乳酸量に対するグリセロール量(0.065重量%)が98.8%低下していた。
以上のことから、GPD1破壊株及び/又はGPD2破壊株におけるグリセロール生産量低減は、エタノール生産性の低減と乳酸生産性の向上にも寄与することも確認できた。そして、L-乳酸の対糖収率も5%以上、好ましくは10%以上向上することが示された。
L-乳酸の精製
先ず、上述した発酵法によって得られた培養液からフィルター(旭化成ケミカルズ社製、商品名microza)を用いて菌体を分離して粗乳酸水溶液を調製した。次に、得られた粗乳酸水溶液を、大気圧、124℃(熱源温度160℃)になるまで加熱濃縮した。この加熱濃縮によって、粗乳酸水溶液に含まれるL-乳酸濃度を約70%とした。
次に、加熱濃縮された粗乳酸水溶液に対して乳酸比でブタノールを3倍モル添加した後、大気圧、110〜120℃(熱源温度160℃)にて12時間反応させた。これにより、粗乳酸水溶液に含まれる乳酸アンモニウムをエステル化した。次に、乳酸ブチルを含む反応液を、圧力20torr、120℃(熱源温度160℃)の条件下で蒸留することによって、乳酸ブチルを分離精製した。
次に、分離精製した乳酸ブチルに対して、乳酸ブチル比で水を16倍モル添加した後、大気圧、100℃(熱源温度160℃)にて8時間反応させた。これにより、乳酸ブチルを加水分解した。最後に、反応液を大気圧、128℃(熱源温度160℃)になるまで加熱濃縮した。この加熱濃縮によって、精製乳酸水溶液に含まれるL-乳酸濃度を約90%とした。
以上の工程を経て得られたL-乳酸を最終製品とした。得られた最終製品におけるL-乳酸の光学純度は、99.51%であった。また、以上の工程における乳酸の回収率は76.0%であった。
〔実施例2〕
本実施例では、乳酸生産菌が生産したグリセロールを除去した後、乳酸を加熱濃縮することで高光学純度の乳酸を製造できることを実証した。
乳酸生産菌及び発酵法
本実施例において乳酸生産菌としては、GPD1遺伝子及びGPD2遺伝子を破壊していない以外は実施例1で使用した乳酸産生能力を付与されたサッカロマイセス・セルビシエを使用した。また、本実施例において発酵法は、実施例1と同様の条件で行った。
発酵終了時の培養液におけるL-乳酸濃度及びグリセロール濃度は、それぞれ8.6重量%(乳酸アンモニウムで10.2重量%)及び0.7重量%であった。また、L-乳酸の光学純度は99.71%であった。
グリセロール除去
本例では、先ず、上述した発酵法によって得られた培養液からフィルター(旭化成ケミカルズ社製、商品名microza)を用いて菌体を分離して粗乳酸水溶液を調製した。次に、得られた粗乳酸水溶液を電気透析にかけ、溶液中のグリセロールを分離して除去した。具体的には、旭化成ケミカルズ社製、電気透析装置MICRO ACILYZER S3、カートリッジAC-110-550を用い、希釈側に粗乳酸水溶液、濃縮側に蒸留水を仕込み、印可電圧15Vにて電気透析を実施した。電気透析は、希釈側の電導度が0.5mSになるまで実施した。これにより、濃縮側に乳酸を移動させた。さらに、電導度の低下した希釈側の粗乳酸水溶液を廃棄し、再度、希釈側に粗乳酸水溶液を仕込み、繰り返し透析を実施した。
電気透析後の粗乳酸水溶液に含まれるL-乳酸濃度及びグリセロール濃度を測定したところ、それぞれ21.6重量%及び0.02重量%であった。このグリセロール濃度は、L-乳酸に対して0.1%以下であった。
L-乳酸の精製
上述したようにグリセロールを除去した粗乳酸水溶液を、Buchi社製Rotavapor R-220を用いて、大気圧、124℃(熱源温度160℃)になるまで加熱濃縮した。この加熱濃縮によって、粗乳酸水溶液に含まれるL-乳酸濃度を約65%とした。
次に、加熱濃縮された粗乳酸水溶液に対して乳酸比でブタノールを3倍モル添加した後、大気圧、110〜120℃(熱源温度160℃)にて12時間反応させた。これにより、粗乳酸水溶液に含まれる乳酸アンモニウムをエステル化した。次に、乳酸ブチルを含む反応液を、圧力20torr、120℃(熱源温度160℃)の条件下で蒸留することによって、乳酸ブチルを分離精製した。
次に、分離精製した乳酸ブチルに対して、乳酸ブチル比で水を16倍モル添加した後、大気圧、100℃(熱源温度160℃)にて8時間反応させた。これにより、乳酸ブチルを加水分解した。最後に、反応液を大気圧、128℃(熱源温度160℃)になるまで加熱濃縮した。この加熱濃縮によって、精製乳酸水溶液に含まれるL-乳酸濃度を約90%とした。
以上の工程を経て得られたL-乳酸を最終製品とした。得られた最終製品におけるL-乳酸の光学純度は、99.16%であった。また、以上の工程における乳酸の回収率は64.8%であった。
〔比較例〕
比較のために、実施例2で使用した乳酸生産菌を用いて、実施例2と同様に発酵法を実施した。本比較例では、粗乳酸水溶液に含まれるグリセロールを除去せずに、その後のL-乳酸の精製を実施した。その結果、発酵終了後の培養液に含まれるL-乳酸の光学純度は99.71%であった。培養液に含まれるグリセロール濃度は、L-乳酸に対して1%であった。L-乳酸の精製後、L-乳酸の光学純度は98.40%であった。また、L-乳酸の回収率は70.4%であった。
〔結果〕
以上、実施例1及び実施例2の結果から分かるように、L-乳酸を加熱濃縮する前に、グリセロール量を低減させることによって、高光学純度のL-乳酸を製造できることが実証された。より具体的には、グリセロールが1%存在する系においてL-乳酸を加熱濃縮する場合(比較例1)にはL-乳酸の光学純度が98.40%であったのに対して、グリセロールが0.1%以下の系においてL-乳酸を加熱濃縮する場合(実施例1及び2)にはL-乳酸の光学純度が99%以上となっていた。このように、実施例1及び2によって、99%以上といった高光学純度でL-乳酸を製造できる方法を確立することができた。
配列番号1〜15は合成DNAである。
L-乳酸とグリセロールとを含む溶液を用いてGC-MS分析を行った結果として得られたクロマトグラムである。 L-乳酸とグリセロールとを含む溶液を用いてGC-MS分析を行った結果として得られたMSスペクトルである。 L-乳酸とエチレングリコールとを含む溶液を用いてGC-MS分析を行った結果として得られたクロマトグラムである。 L-乳酸とエチレングリコールとを含む溶液を用いてGC-MS分析を行った結果として得られたMSスペクトルである。

Claims (13)

  1. 乳酸量に対するグリセロール量を3.5重量%以下とした溶液で、当該溶液中の乳酸を加熱濃縮する工程を含む乳酸の製造方法。
  2. 乳酸生産菌に対してグリセロール生産に関連する、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素遺伝子、グリセロール-1-リン酸脱リン酸化酵素遺伝子及びグリセロールキナーゼ遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子の発現を抑制した変異体を使用した乳酸発酵によって上記溶液を調製する工程を更に含むことを特徴とする請求項1記載の乳酸の製造方法。
  3. 上記変異体は、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を破壊した乳酸生産菌であることを特徴とする請求項2記載の乳酸の製造方法。
  4. 上記変異体は、サッカロマイセス属に属する微生物であることを特徴とする請求項2記載の乳酸の製造方法。
  5. 上記溶液は、乳酸量に対するグリセロール量が0.1重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の乳酸の製造方法。
  6. 微生物を使用した乳酸発酵によって上記溶液を調製する工程と、上記溶液からグリセロールを除去する工程とを更に含み、上記グリセロールを除去する工程では、乳酸量に対するグリセロール量を3.5重量%以下とすることを特徴とする請求項1記載の乳酸の製造方法。
  7. 上記グリセロールを除去する工程では、上記溶液中の乳酸量に対するグリセロール量を0.1重量%以下とすることを特徴とする請求項6記載の乳酸の製造方法。
  8. 乳酸生産菌に対してグリセロール生産量が低減するよう、グリセロール生産に関連する、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素遺伝子、グリセロール-1-リン酸脱リン酸化酵素遺伝子及びグリセロールキナーゼ遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子に変異を導入してなる変異体。
  9. 上記乳酸生産菌がサッカロマイセス属に属する微生物であることを特徴とする請求項8記載の変異体。
  10. 上記グリセロール-3-リン酸脱水素酵素をコードする遺伝子を破壊することでグリセロール生産量を低減させたことを特徴とする請求項8記載の変異体。
  11. 乳酸生産菌に対してグリセロール生産に関連する、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素遺伝子、グリセロール-1-リン酸脱リン酸化酵素遺伝子及びグリセロールキナーゼ遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子の発現を抑制した変異体を使用した乳酸発酵によって、乳酸を製造する工程を含む乳酸の製造方法。
  12. 上記変異体は、グリセロール-3-リン酸脱水素酵素を破壊した乳酸生産菌であることを特徴とする請求項11記載の乳酸の製造方法。
  13. 上記乳酸生産菌は、サッカロマイセス属に属する微生物であることを特徴とする請求項11記載の乳酸の製造方法。
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