JP4742958B2 - 熱電変換素子の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、2電極間の温度差を起電力に変換する熱電変換素子の製造方法に関する。
一般に、熱電変換素子は、半導体の両端に温度差を生じさせることで電気を発生させるゼーベック効果を利用したものとして知られている。このような熱電変換素子の構造は、例えば2枚の電極プレート間に複数の熱電変換材料が接続されたものになっている。
上記熱電変換素子の性能は、熱電変換の性能指数Zとして求めることができる。すなわち、熱電変換の性能指数Zは、Z=Sσ/κで表される。Sは熱電変換材料のゼーベック係数、σは熱電変換材料の電気伝導率、κは熱電変換材料の熱伝導率である。また、ゼーベック係数Sは近似的に、S=π T[∂D(ε)/∂ε]/3eD(ε)で表される。kはボルツマン定数、D(ε)は熱電変換材料の状態密度、eは素電荷である。εはエネルギーであり、εはフェルミエネルギーである。
上記ゼーベック係数Sは、フェルミエネルギー近傍の状態密度の変化(∂D(ε=ε)/∂ε)が急峻であるほど大きな値となる。また、ゼーベック係数Sの値が大きいほど、熱電変換の性能指数Zの値も大きくなる。一方、熱電変換材料をナノスケールのワイヤ形状にすることで状態密度に量子効果を発現させ、急峻な状態密度を実現できることが知られている。これにより、ゼーベック係数S、ひいては熱電変換の性能指数Zを高めることができると考えられる。
そこで、量子効果を発現させるため、ナノスケールのワイヤであるナノワイヤを作製する試みが発表されている(例えば、非特許文献1参照)。図6は、従来のナノワイヤ作製の様子を示した図である。
まず、図示しない加圧槽にヒータJ1が備えられた炉J2を用意し、この炉J2の中に液状Bi(ビスマス)の熱電材料J3を入れる。そして、ナノサイズ(4〜15nm)の孔が形成された厚さ数十μmの陽極酸化アルミナ層J4が設置された基板J5を、陽極酸化アルミナ層J4が炉J2側に向くように炉J2に設置する。
この後、ヒータJ1で炉J2を加熱して炉J2内に熱電材料J3の蒸気を発生させると共に、陽極酸化アルミナ層J4の下部(炉J2側;温度T1)と上部(基板J5側;温度T2)とに温度差を生じさせ、下部が高温となる条件(T1>T2)で順次、温度を低下させる。これにより、熱電材料J3の蒸気が陽極酸化アルミナ層J4の孔から基板J5側に向けて順次、凝縮・析出し、Biのナノワイヤが陽極酸化アルミナ層J4の孔の中に形成される。
Joseph P. Heremans、"Thermoelectric power, electrical and thermal resistance, and magnetoresistance of nanowire composites." Mat. Res. Soc. Symp. Pros.、Vol. 793、S1.1.1-S1.1.12
しかしながら、上記従来の技術では、陽極酸化アルミナ層J4に形成された孔のサイズがナノサイズであるので、蒸発したBiがこの孔に進入しない可能性がある。このため、陽極酸化アルミナ層J4に形成された多数の孔のうち、陽極酸化アルミナ層J4を貫通するナノワイヤが形成される数が極めて少なく、歩留まりが低下してしまう。
なお、各ワイヤの両端に電極を設置して熱電変換素子を形成しても、ワイヤの数が少ないため、両電極間の抵抗が高くなってしまう。
また、上記陽極酸化アルミナ層J4の厚みは数十μmであるため、形成されるワイヤの長さも数十μmとなる。このため、ナノワイヤの両端に設置される2電極間の温度差が得られず、熱電変換素子として電気を発生させられない可能性がある。さらに、ナノワイヤの母材となる陽極酸化アルミナ層J4の熱伝導率が良いため、熱の大部分は熱電変換能力を持たない陽極酸化アルミナ層J4を通過してしまい、熱損失を生じさせて熱電変換素子の性能を下げてしまう。
なお、Si基板上にAlとSi(あるいはGe)の混合膜をスパッタ成膜し、Alナノ柱を形成した後、濃硫酸でAlナノ柱をエッチングして多孔体を形成し、電着にて多孔体にBiTeを充填する方法が報告されている(特開2004−193526号公報)。しかしながら、この電着によってワイヤを形成する方法においても、上記と同様に、歩留まり良くワイヤを形成できない、薄膜の母材(混合膜)でしかワイヤを形成できない、そして母材の熱伝導率が高い、という問題がある。
本発明は、上記点に鑑み、ナノサイズのワイヤを確実に形成してなる熱電変換素子の製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の特徴では、多数の貫通孔(22)が形成されてなるガラスの母材(21)を用意し(図2(a))、多数の貫通孔に熱電変換材を充填する(図2(b))。そして、母材が軟化する温度以上、かつ、熱電変換材の融点以上の温度に母材を加熱した後、母材を貫通孔の軸方向に引き伸ばすことで、母材の中にナノワイヤ(10)を形成する(図2(c)、(d))。この後、引き伸ばした母材をチップ(23)状に切断する(図2(e))。
このようにすれば、ガラスの母材に設けられた多数の貫通孔の中に熱電変換材を充填して引き伸ばしているので、母材の中に確実にワイヤを形成することができる。さらに、母材を引き伸ばすだけで自発的にナノワイヤを形成することができるため、ナノワイヤを歩留まり良く、確実に形成することができる。そして、引き伸ばす母材の長さを制御することで、ナノワイヤの径を制御することができる。
また、母材として熱伝導率が低いガラス(約1W/mK)を用いているため、母材を通した熱損失による性能低下を抑制することができる。さらに、引き伸ばした母材をチップにする際、切断する長さを自由に決めることができるので、例えばmmオーダの長さのチップを容易に形成することができる。
上記のようにして母材の中にナノワイヤを形成する際、母材のうち貫通孔から熱電変換材が露出する面とその面とは反対側の面にそれぞれ固定部材(51、52)を固定し、固定部材に引っ張り部材(61、62)を固定する。そして、母材が軟化する温度以上、かつ、熱電変換材の融点以上に母材を加熱した後、引っ張り部材を移動させて母材を引き伸ばす。
このようにして、母材を引き伸ばすことで、固定部材が変形することで母材において熱電変換材を含有した部位を直線状に引き伸ばすことができる。また、母材のうち熱電変換材が充填された貫通孔を固定部材で密封しているので、母材を加熱したときに熱電変換材の蒸散を防止することができる。
また、固定部材を固定する際、固定部材として、母材と同一材質のものを用いることが好ましい。
このようにすれば、母材を引き伸ばす際、母材および固定部材は同じ熱膨張率で伸びるので、固定部材のみ引き伸ばされることを防止でき、母材を確実に引き伸ばすことができる。
そして、母材をチップ状に切断した後、チップにおいてナノワイヤの端面が露出する両端面に電極(31、32)を形成することができる。
このように、チップに電極を形成することで、この熱電変換素子を例えば半導体素子に容易に接続することができるようになる。
また、上記電極を形成した後、チップを熱電変換材の溶融温度以上、かつ、母材が軟化する温度以下まで加熱してその後徐冷する。
このようにして、チップをアニール処理することにより、母材中の熱電変換材の結晶性を向上させることができ、ひいては熱電変換素子の特性を高めることができる。
さらに、母材を引き伸ばした後、母材を貫通孔の軸方向に対して垂直に切断した断面が四角形状となるように、引き伸ばした後の母材の側面に成型部材(91〜94)を押し当てて成型することもできる。
このようにして、チップの断面が四角形状のものを形成することができる。このような成型によって、チップを横方向に多数並べてモジュールを作成する場合、断面が円形のチップよりも四角形のものの方がチップを高密度に配置することができ、熱電変換素子のモジュールとしての単位面積当たりのパワーを向上させることができる。
また、チップにおいてナノワイヤの端面が露出する両端面を溶解させるエッチング処理を行うこともできる。
これにより、チップの両端部からナノワイヤを露出させることができるので、このようにナノワイヤの端部が露出したチップに電極を形成すると、電極とナノワイヤとを確実に電気的に接続することができる。
さらに、加圧槽(40)内に加熱槽(41)を設置し、雰囲気圧力を大気圧から低下させた状態で加熱槽の中で熱電変換材を溶融させて融液(43)を用意する。続いて、多数の貫通孔が形成された母材を、多数の貫通孔が融液に覆われるように融液中に浸す。この後、加圧槽内を大気圧に戻すと共に、当該加圧槽内に不活性ガスを導入して加圧槽内を加圧状態とし、母材に形成された多数の貫通孔の中に融液を充填する。
このような方法により、圧力によって融液を孔の中に押し込むことができる。このようにして、母材に形成された多数の孔の中に熱電変換材を充填することができる。
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。本実施形態で示される熱電変換素子は、2電極間に温度差を生じさせることで電気を発生させるゼーベック効果を利用した素子として用いられるものである。
図1は、本発明の第1実施形態に係る熱電変換素子の概略斜視図である。図1に示されるように、熱電変換素子S1は、ナノワイヤ10と、ガラス部材20と、電極31、32と、を備えて構成されている。
ナノワイヤ10は、各電極31、32を電気的に接続する配線であり、熱電変換材として例えばBi(ビスマス)を含む金属で構成される。本実施形態では、熱電変換材としてBiにTe(テルル)を数%ドープした合金が用いられている。このようにBiにキャリアとして機能するTeをドープすることにより、ナノワイヤ10の熱電変換特性を調整することができる。このようなナノワイヤ10の径は例えば10nmになっており、長さは1mmである。
なお、Biを含む金属とは、上記のようにBiを含有した合金を指すだけでなく、Bi単体で構成される金属も指す。また、以下でBiというときには、BiにTeがドープされたものを指す。
ガラス部材20は、熱電変換素子S1の外形をなすものであり、多数のナノワイヤ10を内部に固定するものである。このようなガラス部材20は円柱形状になっており、ガラスで構成されている。また、ガラス部材20の熱伝導率は約1W/mKであり、ガラス部材20の径は例えば1mmである。上記ガラス部材20のうちナノワイヤ10の軸方向の断面において、ガラス部材20とナノワイヤ10との断面積比は例えば30%になっている。
電極31、32は、ナノワイヤ10の両端に電気的に接続されるものである。本実施形態では、各電極31、32はイオンプレーティングの方法によりガラス部材20の両端面、すなわちナノワイヤ10の両端に形成される。このような電極31、32として、例えばCu(銅)、Au(金)、Al(アルミニウム)等が採用される。以上が、熱電変換素子S1の構成である。
次に、図1に示される熱電変換素子S1の製造工程を、図を参照して説明する。図2は、図1に示される熱電変換素子S1の製造工程を示した図である。また、図3は、図2に続く製造工程を示した図である。
図2(a)に示す工程では、ガラステンプレート21を用意する。このガラステンプレート21は、図2(a)に示されるように、φ1μmの貫通孔22を多数有するφ100mm、厚さ1mmのサイズのものである。
このようなガラステンプレート21は、以下のようにして形成することができる。すなわち、酸に不溶と可溶の二重構造ガラス棒を加熱して引き伸ばし、これを横方向に並べて更に引き伸ばす。そして、引き伸ばしたものを引き伸ばした方向に対して垂直に切断し、切断後に酸で可溶ガラスを溶解する。このようにして、ミクロンサイズの貫通孔22が多数設けられたガラステンプレート21を形成することができる。
なお、ガラステンプレート21は本発明の母材に相当する。また、図2(a)では、ガラステンプレート21の貫通孔22を表現するため、ガラステンプレート21の一部をカットしたものを描いてあるが、実際にはカットされていない。
図2(b)に示す工程では、ガラステンプレート21の各貫通孔22内部に熱電変換材であるBiを充填する。まず、加圧槽40中に設置された加熱槽41中にBiの塊を設置し、このBiの塊の上にガラステンプレート21を設置する。次に、真空ポンプ42により加圧槽40の内部を真空排気しながら、加熱槽41をBiの融点(271.4℃)以上(例えば300℃まで)に加熱し、Biの塊を溶融させたBi融液43中にガラステンプレート21を浸漬する。
この後、真空排気バルブ44を閉じて加圧ポンプバルブ45を開け、加圧ポンプ46によって加圧槽40の内部にAr(アルゴン)等の不活性ガスを数百気圧まで加圧・導入することで貫通孔22中にBiを充填する。そして、加熱槽41の温度を室温まで下げた後、Biの塊からガラステンプレート21を切り出す。こうして、ガラステンプレート21の貫通孔22内にBiを充填したものを得る。
図2(c)に示す工程では、各貫通孔22にBiを充填したガラステンプレート21を加圧槽40から取り出し、図示しない引張機に取り付ける。具体的には、まず、Biを充填したガラステンプレート21の両端面にダミーガラス51、52を接着剤等で貼り付ける。さらに、各ダミーガラス51、52を引張機の各ワーク61、62に接着剤等により貼り付ける。
このダミーガラス51、52は、自分自身が変形することでガラステンプレート21の端面近傍を直線状に引き伸ばす役割を果たすものであり、ガラステンプレート21と同じ材質のガラス材が用いられる。また、ワーク61、62とダミーガラス51、52との接続部でダミーガラス51、52が変形することによって、ダミーガラス51、52は、ガラステンプレート21の各貫通孔22内の充填物の流出を防止する機能、各貫通孔22の内圧を維持することで貫通孔22の閉塞を維持する機能、充填物の蒸散防止の機能を果たす。
これら各機能のうち、蒸散防止機能について説明すると、Biの蒸気圧は、1021℃で133Pa、1136℃で1330Paであり、600℃ではそれほど高くないが、Teは600℃で758Paの蒸気圧を有することから、加熱によりドープ濃度が変化しないように上記のようにしてダミーガラス51、52にて各貫通孔22を封止することが必要となる。
そして、Biが溶融し、かつ、ガラステンプレート21が流動化する温度以上(例えば約600℃)にガラステンプレート21を加熱すると共に、ダミーガラス51、52を引き離させるように少なくとも一方のワーク61、62を移動させてガラステンプレート21を貫通孔22の軸方向に引き伸ばす。なお、ダミーガラス51、52は本発明の固定部材に相当し、ワーク61、62は本発明の引っ張り部材に相当する。
図2(d)に示す工程では、ガラステンプレート21を引き伸ばす。具体的には、ガラステンプレート21をBiが溶融し、ガラスが軟化する温度(例えば600℃)に加熱した状態で、引張機の各ワーク61、62を引き離させるように少なくとも一方のワーク61、62を移動させてガラステンプレート21を引き伸ばす。
このようにしてガラステンプレート21を引き伸ばすと、ガラステンプレート21の両面に貼り付けられたダミーガラス51、52において、ガラステンプレート21に接着された面がガラステンプレート21と共に引き伸ばされて変形する。これにより、ガラステンプレート21の端面付近の貫通孔22を直線的に引き伸ばすことができる。
上述のように、ガラステンプレート21の貫通孔22のサイズは1μmであるので、この貫通孔22のサイズを例えば10nmにするためには、ガラステンプレート21の径が1mmになるまでガラステンプレート21を引き伸ばすこととなる。こうしてガラステンプレート21を引き伸ばすと、ガラステンプレート21の長さは1mになる。この状態になると、ガラステンプレート21は円柱状になり、その内部には、多数のナノワイヤ10が形成された状態になる。
図2(e)に示す工程では、上記のようにして引き伸ばされたガラステンプレート21をチップ状に切断する。すなわち、引き伸ばされたガラステンプレート21をナノワイヤ10の軸方向に所望の長さ(例えば1mm)ごとに切断してナノワイヤアレイチップ23を形成する。
この後、図3(a)に示す工程では、ナノワイヤアレイチップ23の両端面に電極31、32を形成する。本実施形態では、イオンプレーティング装置71を用いて各チップ23の両端面に電極31、32となる金属膜を形成する。
まず、イオンプレーティング装置71について説明する。このイオンプレーティング装置71は、図3(a)に示されるように、チャンバ72内に金属ターゲット73や高周波放電用コイル74が設置されたものとして構成されている。チャンバ72内は、真空ポンプ75によりチャンバ72内のガスが吸引され、真空バルブ76によって真空状態が維持される。また、ナノワイヤアレイチップ23は、当該チップ23の径と同じ径の穴が設けられた固定プレート77にはめ込まれて固定された状態になっている。
本実施形態では、金属ターゲット73として、電極31、32の原料となるCu、Au、Al等を採用する。
このようなイオンプレーティング装置71では、真空ポンプ75にてチャンバ72内を真空状態とし、図示しない電子銃から放出した電子線を金属ターゲット73に照射することで金属ターゲット73を蒸気化する。そして、高周波放電用コイル74にてチャンバ72内にプラズマを発生させることで、蒸気化した金属材料をイオン化する。固定プレート77にバイアスを印加することにより、イオン化した金属ターゲット73を固定プレート77側に加速させて金属ターゲット73に対向するチップ23の端面に金属膜を堆積(蒸着)する。同様に、チップ23の反対側の端面にも金属膜を形成する。このようにして、電極31、32を形成する。
このような方法によると、イオン化した金属ターゲット73をエネルギーの高い状態でチップ23の端面に付着させることができるため、金属膜とチップ23の端面との高い密着性を得ることができる。
また、ナノワイヤアレイチップ23の両端面に金属膜である電極31、32を形成することにより、チップ23内のナノワイヤ10が各電極31、32によって密閉された状態となる。すなわち、電極31、32は、図3(b)に示す工程におけるナノワイヤの蒸散防止機能も果たす。
図3(b)に示す工程では、ナノワイヤ10の結晶性を向上させる加熱/徐冷処理を行う。すなわち、図2(d)に示される工程では、Biの溶融温度以上、かつ、ガラステンプレート21の軟化温度以上(ガラステンプレート21が流動化する温度以上)でガラステンプレート21を加熱しているため、重力によって変形等が起こりやすくなっている。したがって、図2(d)に示す工程では、ガラステンプレート21の加熱後、素早くガラステンプレート21を引き伸ばしたことによって、ナノワイヤ10がアモルファス状態になっている可能性がある。そこで、本工程により、チップ23を加熱して徐冷することにより、ナノワイヤ10の結晶性を向上させる。
具体的には、図3(b)に示されるように、加熱/徐冷装置81を用意する。この加熱/徐冷装置81は、ヒータ82を備え、このヒータ82によって各チップ23を加熱できるようになっている。すなわち、電極31、32を形成したナノワイヤアレイチップ23を加熱/徐冷装置81内に設置する。そして、Biの溶融温度以上、かつ、ガラス軟化温度以下(例えば300℃〜430℃)まで一旦加熱した後、例えば約24時間かけて室温まで徐冷する。これにより、ナノワイヤ10の結晶性を向上させることができる。以上により、図1に示される熱電変換素子S1が完成する。
続いて、上記のようにして得られた熱電変換素子S1の熱電材料としての性能について説明する。上述のように、熱電変換材料の性能は、無次元性能指数ZTで評価される。ここで、Tは絶対温度(K)、ZはSσ/κとして表され、Sはゼーベック係数(V/K)、σは電気伝導率(/Ωm)、そしてκは熱伝導率(W/mK)である。
ナノワイヤ10のゼーベック係数Sは、その径がナノサイズであることからバルク材料に比べて極めて高い値となり、φ10nmのものでバルク材料のものと比較して10倍以上のゼーベック係数が得られ、具体的にゼーベック係数として約700μV/K(バルクは約50μV/K)が得られる。
一方、Biの熱伝導率は7.87W/mK(室温付近)、ガラスの熱伝導率は約1W/mKであり、上述のように断面積比30%の場合を考えると、ナノワイヤアレイチップ23の全体的な熱伝導率κは約3.1W/mKである。また、Biの電気伝導率は0.84×10/Ωm(18℃)であるが、ガラスは絶縁体であり、断面積比30%の場合を考えると、ナノワイヤアレイチップ23の電気伝導率は0.25×10/Ωmである。これにより、Zは約0.04、300Kにおける無次元性能指数ZTは12となり、通常、1程度のZTしか得られないバルク熱電材料より高い値を得ることができる。
以上説明したように、本実施形態では、ガラステンプレート21の貫通孔22に熱電変換材であるBi;Teを充填し、このガラステンプレート21を加熱して引き伸ばすことにより、ガラステンプレート21内にナノワイヤ10を形成することが特徴となっている。
したがって、ガラステンプレート21に設けられたミクロンサイズの多数の貫通孔22の中にBiを充填して引き伸ばしているので、ガラステンプレート21の中に確実にナノサイズのワイヤを形成することができる。さらに、ガラステンプレート21を引き伸ばすだけで自発的にナノワイヤ10を形成することができるため、ナノワイヤ10を歩留まり良く、そして確実に形成することができる。このようにしてナノワイヤ10を形成する際、引き伸ばすガラステンプレート21の長さを制御することで、ナノワイヤ10の径を制御することもできる。
また、ガラステンプレート21がガラスであるので、形成されたチップ23のガラス部材20の熱伝導率が低く(約1W/mK)、ガラス部材20を通した熱損失による性能低下を抑制することができる。さらに、引き伸ばしたガラステンプレート21を切断する長さを自由に設定できるので、例えばmmオーダの長さのチップ23を容易に形成することができる。すなわち、電極31、32間の距離を大きくすることができ、温度差を大きくすることができるので、熱電変換特性を向上できる。
なお、上記のように、引き伸ばしてナノワイヤ10を形成する方法であるので、製造プロセスも簡便であり、低コストな熱電変換素子S1を提供することができる。
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。本実施形態では、図2(d)に示す工程の後、引き伸ばされた円柱状のガラステンプレート21を直方形状に整えることが特徴となっている。
図4は、本発明の第2実施形態に係る熱電変換素子S1の製造工程を示した図である。この図は、図2(d)の工程において引き伸ばしたガラステンプレート21を、貫通孔22の軸に対して垂直な断面を示している。さらに、図4(a)は変形前のガラステンプレート21の断面図、図4(b)は変形後のガラステンプレート21の断面図である。
すなわち、図2(d)の工程を終えた後、図4(a)に示される工程では、四角形状の各辺に対応した4つの金型91〜94(本発明の成型部材に相当)を用意し、それぞれをガラステンプレート21の側面に配置する。
そして、図4(b)に示す工程は、各金型91〜94をそれぞれ対向する側にそれぞれ移動させて各金型91〜94をガラステンプレート21の側面に押し当てる。これにより、ガラステンプレート21の断面が四角形状となるようにガラステンプレート21を成型することができる。
この後、図2(e)に示す工程以降の工程を行うことにより、断面が四角形状のナノワイヤアレイチップ23を形成することができる。
このようにして、断面を四角形状としたナノワイヤアレイチップ23を製造することにより、ナノワイヤアレイチップ23を横方向に多数並べてモジュールを作成する場合、断面が円形のチップ23よりも四角形のものの方が、チップ23を高密度に配置することができる。これにより、熱電変換素子S1を多数用いたモジュールとして得られる単位面積当たりのパワーを、断面が円形のものよりも大きくすることができる。
以上のように、引き伸ばしたガラステンプレート21の外形を金型91〜94にて押し込んで、断面が四角形状のナノワイヤアレイチップ23を製造することもできる。
(第3実施形態)
本実施形態では、上記各実施形態と異なる部分についてのみ説明する。本実施形態では、図2(e)に示す工程の後、ナノワイヤ10の両端をガラス部材20から露出させることが特徴となっている。
図5は、本発明の第3実施形態に係る熱電変換素子S1の製造工程を示した図である。本実施形態では、図2(e)に示す工程を終えた後、各チップ23に対してエッチング処理を施す。具体的には、各チップ23を緩衝フッ酸中に浸漬する。これにより、ガラス部材20であるガラスをわずかにエッチングし、ガラス部材20から突き出したナノワイヤ10を有するナノワイヤアレイチップ23を形成する。
このようにして、ガラス部材20からナノワイヤ10の両端10a、10bを露出させた後、ナノワイヤ10の両端10a、10bが露出したガラス部材20の両端面に各電極31、32を形成する(図3(a)参照)。これにより、各電極31、32とナノワイヤ10の両端10a、10bとの電気的接続特性をより高めることができる。
(他の実施形態)
上記各実施形態において、熱電変換素子S1に用いられる材質やサイズは、用いられる状況に合わせて変更しても構わない。同様に、ガラステンプレート21のサイズやガラス部材20中のナノワイヤ10の含有量等については、上記各実施形態に限定されるものではない。
上記実施形態では、電極31、32を形成する方法として、イオンプレーティング装置71を用いた方法が採用されているが、この方法に限らず、スパッタや蒸着の方法を採用しても構わない。
また、ダミーガラス51、52として、ガラステンプレート21と同じ材質のものを用いているが、他の材料で固定しても構わない。しかしながら、熱膨張率の異なる2つのものを引き伸ばしたとき、ガラステンプレート21側にストレス等が生じる場合が考えられるため、ダミーガラス51、52としてガラステンプレート21と同じ素材のものを採用することが好ましい。
本発明の第1実施形態に係る熱電変換素子の概略斜視図である。 図1に係る熱電変換素子の製造工程を示した図である。 図2に続く製造工程を示した図である。 本発明の第2実施形態に係る熱電変換素子の製造工程を示した図である。 本発明の第3実施形態に係る熱電変換素子の製造工程を示した図である。 従来のナノワイヤ作製の様子を示した図である。
符号の説明
10…ナノワイヤ、20…ガラス部材、21…母材としてのガラステンプレート、22…貫通孔、23…ナノワイヤアレイチップ、31、32…電極、40…加圧槽、41…加熱槽、43…Bi融液、51、52…固定部材としてのダミーガラス、61、62…引っ張り部材としてのワーク、91〜94…成型部材としての金型。

Claims (9)

  1. ガラスで構成されると共に、多数の貫通孔(22)が形成されてなる母材(21)を用意する工程と、
    前記多数の貫通孔に熱電変換材を充填する工程と、
    前記母材が軟化する温度以上、かつ、前記熱電変換材の融点以上に前記母材を加熱すると共に、前記母材を前記貫通孔の軸方向に引き伸ばすことで、前記母材の中にナノワイヤ(10)を形成する工程と、
    前記引き伸ばした母材を、前記貫通孔の軸方向に対して垂直方向に切断してチップ(23)を形成する工程と、を含むことを特徴とする熱電変換素子の製造方法。
  2. 前記母材の中に前記ナノワイヤを形成する工程では、
    前記母材において、前記貫通孔から前記熱電変換材が露出する面とその面とは反対側の面に、それぞれ固定部材(51、52)を固定する工程と、
    前記固定部材において前記母材が固定された面とは反対の面にそれぞれ引っ張り部材(61、62)を固定する工程と、
    前記母材が軟化する温度以上、かつ、前記熱電変換材の融点以上に前記母材を加熱すると共に、前記引っ張り部材を引き離させるように少なくとも一方の前記引っ張り部材を移動させて前記母材を引き伸ばす工程と、を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換素子の製造方法。
  3. 前記固定部材を固定する工程では、前記固定部材として、前記母材と同一材質のものを用いることを特徴とする請求項2に記載の熱電変換素子の製造方法。
  4. 前記チップを形成する工程では、前記母材を切断した後、前記チップにおいて前記ナノワイヤの端面が露出する両端面に電極(31、32)を形成する工程を含んでいることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の熱電変換素子の製造方法。
  5. 前記チップを形成する工程では、前記電極を形成した後、前記チップを、前記熱電変換材の溶融温度以上、かつ、前記母材が軟化する温度以下まで加熱し、その後徐冷することを特徴とする請求項4に記載の熱電変換素子の製造方法。
  6. 前記母材の中に前記ナノワイヤを形成する工程では、前記母材を前記貫通孔の軸方向に引き伸ばした後、前記母材を前記貫通孔の軸方向に対して垂直に切断した断面が四角形状となるように、前記引き伸ばした母材の側面に成型部材(91〜94)を押し当てて成型することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の熱電変換素子の製造方法。
  7. 前記チップを形成する工程では、前記チップにおいて前記ナノワイヤの端面が露出する両端面を溶解させるエッチング処理を行う工程を含んでいることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の熱電変換素子の製造方法。
  8. 前記多数の貫通孔に熱電変換材を充填する工程では、
    加圧槽(40)内に加熱槽(41)を設置し、雰囲気圧力を大気圧から低下させた状態で前記加熱槽の中で前記熱電変換材を溶融させて融液(43)を用意する工程と、
    前記多数の貫通孔が形成された前記母材を、前記多数の貫通孔が前記融液に覆われるように前記融液中に浸す工程と、
    前記加圧槽内を大気圧に戻すと共に、当該加圧槽内に不活性ガスを導入して前記加圧槽内を加圧状態とし、前記母材に形成された前記多数の貫通孔の中に前記融液を充填する工程と、を含んでいることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載の熱電変換素子の製造方法。
  9. 前記多数の貫通孔に前記熱電変換材を充填する工程では、前記熱電変換材としてBiを含む金属を用いることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の熱電変換素子の製造方法。
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