JP4742716B2 - アンチスキッド制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、アンチスキッド制御装置に関するものである。
従来から、アンチスキッド制御装置としては、車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段と、車輪のうち少なくとも左右の前輪のホイールシリンダ圧を独立に調整する液圧調整手段と、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいて液圧調整手段を制御してホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行するABS制御手段とを備えたものが知られている。
このようなアンチスキッド制御装置の一形式として、特許文献1「部分低μ路検出装置」に示されているものがある。特許文献1に記載のアンチスキッド制御装置においては、特許文献1の図3のフローチャートに示されているように、左前輪26の車輪速度,右前輪28の車輪速度,左右後輪36,38のうちの遅い方の車輪速度の順に読み込まれ、5ms毎に実行されるようになっている。アンチスキッド制御は、ブレーキペダルが踏み込まれ、かつ、車輪速度Vwが基準車輪速度Vsnより小さくなった場合に開始され、車輪速度Vwと車輪加速度Gwとの関係に基づいて制御が実行される。また、ブレーキペダルの踏み込みが解除され、あるいは、推定車体速度が5km/h以下になった場合にアンチスキッド制御が終了させられるようになっている。
また、アンチスキッド装置は部分低μ路検出装置を備えており、この部分低μ路検出装置においては、前輪に対してスリップが過大であるとされてから後輪に対してスリップが過大であるとされるまでの時間と、前輪の加速度の振動とに基づいて部分低μ路であることが判定されるため、部分低μ路であることを正確に検出することができる。
特許03168073号公報
一般的には、走行中の車両にブレーキが掛けられると、荷重移動が生じて前後輪の荷重配分が変化する。すなわち、前輪に加わる荷重(前輪荷重)が増大し後輪に加わる荷重(後輪荷重)が減少する。具体的には、前輪荷重WTfdおよび後輪荷重WTrdはそれぞれ下記数1および数2で示される。
(数1)
WTfd=WTf+WkαH/L
(数2)
WTrd=WTr−WkαH/L
ここで、WTfdおよびWTrdは制動時の前輪荷重および後輪荷重を示しており、WTfおよびWTrは非制動時の前輪荷重および後輪荷重を示しており、Wは全荷重(=WTf+WTr=WTfd+WTrd)を示している。αはブレーキの強さ(減速度)であり、HおよびLは車両の重心高およびホイールベース(ホイールベース長)である。kは、サスペンション特性などを考慮して設定された定数である。
上記数1からも明らかなように、車両の重心高Hが高くなるほど、ホイールベースLが短くなるほど、定数kが大きくなるほど、またはブレーキの強さ(減速度)αが大きくなるほど、前輪荷重WTfdが増大するすなわち荷重移動が大きくなる。また、これら車両の重心高H、ホイールベースLおよび定数kは車両固有の固定値である。一方、ブレーキの強さ(減速度)αは、制動時の制動状態を示す値であり、制動状態に応じて変動する値であるので、急ブレーキの場合には大きい値となり緩ブレーキの場合には小さい値となる。
したがって、急ブレーキ時の前輪荷重WTfdは緩ブレーキ時の前輪荷重WTfdまたは非制動時の前輪荷重WTfより大きい値となる。特に、重心の高い車両(例えばスポーツタイプ多目的車すなわちSUV(sport utility vehicle))の場合には、前輪荷重WTfdがより大きい値となるので、急ブレーキ時の前輪荷重WTfdと非制動時の前輪荷重WTfとの差はより大きくなる。
また、制動開始時点から荷重移動が完了するまでの間、前輪荷重は非制動時の前輪荷重WTfから制動時の前輪荷重WTfdへ所定の増加勾配にて変化する。そして、荷重移動の完了から制動が完了するまでの間、前輪荷重は制動時の前輪荷重WTfdのままである。
以上のことから、前輪荷重と比例関係にある前輪のタイヤ路面間摩擦力(=μ×前輪荷重、μは摩擦抵抗である。)も、制動開始時点から荷重移動が完了するまでの間、非制動時の前輪荷重WTfに対応するタイヤ路面間摩擦力から制動時の前輪荷重WTfdに対応するタイヤ路面間摩擦力へ所定の増加勾配にて変化する。そして、荷重移動の完了から制動が完了するまでの間、前輪荷重は制動時の前輪荷重WTfdに対応するタイヤ路面間摩擦力のままである。
ところで、アンチスキッド制御装置においては、制動初期の減速度を向上させることが望まれている。例えば、マスタシリンダからの油圧を各車輪のホイールシリンダに供給する油経路のうち増圧経路に設けた絞りの内径を大きくすることによりホイールシリンダへの油圧の供給量を多くして制動初期の減速度を向上させることが提案されている。このとき、高μ路を走行中の車両が急ブレーキを掛けると、制動開始時点から荷重移動が完了するまでの間、ホイールシリンダ圧の上昇速度が上述したタイヤ路面間摩擦力の増加勾配(変化速度)より大きくなる場合がある。これにより、制動開始時点から荷重移動が完了するまでの間(荷重移動中)において、車輪がロック傾向となり早期にABS制御が開始される。具体的には、タイヤ路面間摩擦力の増加中に1回目の減圧が開始されその後1回目の増圧が実行され、それ以降ABS制御が終了されるまで減圧・増圧が繰り返し実行される。
このように、制動初期の減速度を向上させる構成とした場合、荷重移動中にABS制御が開始するので、荷重移動完了後の制動時の前輪荷重WTfdに対応するタイヤ路面間摩擦力より小さいタイヤ路面間摩擦力に応じた制動力しか得ることができない。さらに、1回目の増圧の速度が遅い場合には、次回のロック傾向となるまでの時間が長くなり、その間そのときの前輪荷重WTfdに対応するタイヤ路面間摩擦力より小さい制動力しか得ることができない。また、1回目の増圧の速度が速い場合には、荷重移動中に再びABS制御が開始するおそれがあり、十分な制動力を得ることができない。すなわち、制動初期の減速度を向上させる構成としても、制動力を十分得ることができないという問題があった。
本発明は、上述した各問題を解消するためになされたもので、制動力の低下を招くことなく制動初期の減速度を向上するアンチスキッド制御装置を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の構成上の特徴は、車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段と、車輪のうち少なくとも左右の前輪のホイールシリンダ圧を独立に調整する液圧調整手段と、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいて液圧調整手段を制御してホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行するABS制御手段とを備えたアンチスキッド制御装置において、ABS制御手段によるABS制御の前のブレーキペダルの踏込操作状態の変化速度およびABS制御の前の車両の減速度に基づいて操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであるか否かを判定する高μ路急ブレーキ判定手段を備え、高μ路急ブレーキ判定手段は、ABS制御の前の踏込操作状態の変化速度が第1判定値より大きい場合には、ホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定するホイールシリンダ圧立上り速度判定手段と、ABS制御の前の車両の減速度が第2判定値より大きい場合には、車両が高μ路上で制動中であると判定する高μ路制動判定手段とを有し、ホイールシリンダ圧立上り速度判定手段がホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定し、かつ、高μ路制動判定手段が車両が高μ路上で制動中であると判定した場合、操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであると判定し、高μ路急ブレーキ判定手段が高μ路急ブレーキであると判定した場合、ABS制御手段は液圧調整手段を制御して、少なくとも第1回目の増圧が、車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧の高μ路急ブレーキに伴う増加特性に対応した増圧勾配とし、高μ路急ブレーキ手段が高μ路急ブレーキであると判定しなかった場合、通常の増圧勾配とすることである。
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1において、第1判定値は、車両の重心高およびホイールベース長、車両の停止時の前輪および後輪荷重、ならびにサスペンション特性に基づいて設定されることである。
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項1または請求項2において、ABS制御手段は、高μ路急ブレーキ判定手段が高μ路急ブレーキであると判定した場合に、その判定した時点から所定時間経過するまでは、増圧が前記増圧勾配となるように制御する補正増圧手段(ステップ330)と、所定時間経過後は、増圧が前記増圧勾配より緩やかな勾配となるように制御する通常増圧手段(ステップ328)とを備えたことである。
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項3において、補正増圧手段および通常増圧手段は、増圧状態と保持状態を所定時間ずつ交互に繰り返すことにより増圧制御するものであり、補正増圧手段は通常増圧手段より増圧状態の時間を長く設定するか、あるいは、通常増圧手段より保持状態の時間を短く設定することにより、前記増圧勾配に制御することである。
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4の何れか一項において、踏込操作状態の変化速度としてマスタシリンダ圧の変化速度を採用したことである。
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至請求項4の何れか一項において、踏込操作状態の変化速度としてブレーキペダルのストローク速度の変化速度を採用したことである。
上記のように構成した請求項1に係る発明においては、高μ路急ブレーキ判定手段(ステップ116)が、ABS制御手段によるABS制御の前のブレーキペダルの踏込操作状態の変化速度およびABS制御の前の車両の減速度に基づいて操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであるか否かを判定し、高μ路急ブレーキ判定手段が高μ路急ブレーキであると判定した場合、ABS制御手段は液圧調整手段を制御して、少なくとも第1回目の増圧が、車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧の高μ路急ブレーキに伴う増加特性に対応した増圧勾配とし、高μ路急ブレーキ手段が高μ路急ブレーキであると判定しなかった場合、通常の増圧勾配とする。これにより、高μ路急ブレーキ時において荷重移動中(タイヤ路面間摩擦力の増大中)にABS制御が開始してホイールシリンダ圧が減圧しても、少なくともホイールシリンダ圧の第1回目の増圧が車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧すなわち制動時の前輪荷重に対応するタイヤ路面間摩擦力の増加特性に対応した増圧勾配となるように制御される。したがって、第1回目の増圧による制動力を可能なかぎり十分に得ることができるので、制動力の低下を招くことなくアンチスキッド制御装置の制動初期の減速度を向上することができる。
さらに、高μ路急ブレーキ判定手段は、ABS制御の前の踏込操作状態の変化速度が第1判定値より大きい場合には、ホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定するホイールシリンダ圧立上り速度判定手段と、ABS制御の前の車両の減速度が第2判定値より大きい場合には、車両が高μ路上で制動中であると判定する高μ路制動判定手段とを有し、ホイールシリンダ圧立上り速度判定手段がホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定し、かつ、高μ路制動判定手段が車両が高μ路上で制動中であると判定した場合、操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであると判定するので、高μ路急ブレーキであると簡単に判定することができる。
上記のように構成した請求項2に係る発明においては、請求項1に係る発明において、第1判定値は、車両の重心高およびホイールベース長、車両の停止時の前輪および後輪荷重、ならびにサスペンション特性に基づいて設定されるので、高μ路急ブレーキであると確実に判定することができる。
上記のように構成した請求項3に係る発明においては、請求項1または請求項2に係る発明において、ABS制御手段は、高μ路急ブレーキ判定手段が高μ路急ブレーキであると判定した場合に、その判定した時点から所定時間経過するまでは、増圧が前記増圧勾配となるように制御する補正増圧手段(ステップ330)と、所定時間経過後は、増圧が増圧勾配より緩やかな勾配となるように制御する通常増圧手段(ステップ328)とを備えたので、状況に応じた適切な増圧制御を実行することができる。
上記のように構成した請求項4に係る発明においては、請求項3に係る発明において、補正増圧手段および通常増圧手段は、増圧状態と保持状態を所定時間ずつ交互に繰り返すことにより増圧制御するものであり、補正増圧手段は通常増圧手段より増圧状態の時間を長く設定するか、あるいは、通常増圧手段より保持状態の時間を短く設定することにより、前記増圧勾配に制御するので、正確かつ確実に所望の勾配に制御することができる。
上記のように構成した請求項5に係る発明においては、請求項1乃至請求項4の何れか一項に係る発明において、踏込操作状態の変化速度としてマスタシリンダ圧の変化速度を採用したので、確実に検出できるマスタシリンダ圧を利用して高μ路急ブレーキを確実に判定することができる。
上記のように構成した請求項6に係る発明においては、請求項1乃至請求項4の何れか一項に係る発明において、踏込操作状態の変化速度としてブレーキペダルのストローク速度の変化速度を採用したので、確実かつ直接的に検出できるブレーキペダルのストローク速度を利用して高μ路急ブレーキを確実に判定することができる。

以下、本発明に係るアンチスキッド制御装置の一実施形態を図面を参照して説明する。図1はアンチスキッド制御装置を示す概要図である。アンチスキッド制御装置Aは、ABS(アンチロックブレーキシステム)機能を有するものであり、ブレーキペダル11の踏込状態に応じた液圧のブレーキ液を生成して車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrの回転を規制するホイールシリンダWC1〜WC4に供給するマスタシリンダ10と、ブレーキ液を貯蔵するとともにマスタシリンダ10へ補給するリザーバタンク12と、ブレーキペダル11の踏み込み力を助勢する負圧式ブースタ13とを備えている。
本実施形態のアンチスキッド制御装置のブレーキ配管系はX配管方式にて構成されており、マスタシリンダ10の第1および第2出力ポート10a,10bは、第1および第2配管系La,Lbにそれぞれ接続されている。第1配管系Laは、マスタシリンダ10と左前輪Wfl,右後輪WrrのホイールシリンダWC1,WC2とをそれぞれ連通するものであり、第2配管系Lbは、マスタシリンダ10と左後輪Wrl,右前輪WfrのホイールシリンダWC3,WC4とをそれぞれ連通するものである。
第1配管系Laは、第1〜第6油路La1〜La6から構成されている。第1油路La1は一端がマスタシリンダ10の第1出力ポート10aに接続されている。第2油路La2は、一端が第1油路La1に接続され他端がホイールシリンダWC1に接続されている。第2油路La2上には、保持弁21が配設されている。第3油路La3は、一端が第1油路La1に接続され他端がホイールシリンダWC2に接続されている。第3油路La3上には、保持弁22が配設されている。第4油路La4は、一端が第1油路La1に接続され他端が内蔵リザーバタンク24に接続されている。第4油路La4上には、ポンプ23が配設されている。第2および第4油路La2,La4の間には、両油路La2,La4を接続する第5油路La5が設けられている。第5油路La5上には、減圧弁25が配設されている。第3および第4油路La3,La4の間には、両油路La3,La4を接続する第6油路La6が設けられている。第6油路La6には、減圧弁26が配設されている。
保持弁21は、マスタシリンダ10とホイールシリンダWC1を連通・遮断するノーマルオープン型の電磁開閉弁である。保持弁22は、マスタシリンダ10とホイールシリンダWC2を連通・遮断するノーマルオープン型の電磁開閉弁である。保持弁21,22は、ECU(制御装置)40の指令に応じて非通電されると連通状態(図示状態)にまた通電されると遮断状態に制御できる2位置弁として構成されている。保持弁21,22にはホイールシリンダWC1,WC2からマスタシリンダ10への流れを許容する逆止弁21a,22aがそれぞれ並列に設けられている。
ポンプ23は、吸い込み口がブレーキ液を貯蔵する内蔵リザーバタンク24に連通し、吐出口が逆止弁27を介してマスタシリンダ10およびホイールシリンダWC1,WC2に連通するものである。ポンプ23は、ECU40の指令に応じた電動モータ23aの作動によって駆動されている。ポンプ23は、ABS制御の減圧モード時においては、ホイールシリンダWC1,WC2内のブレーキ液または内蔵リザーバタンク24内に貯められているブレーキ液を吸い込んでマスタシリンダ10に戻している。なお、ポンプ23が吐出したブレーキ液の脈動を緩和するために、第4油路La4のポンプ23の上流側にはダンパ28が配設されている。
減圧弁25は、ホイールシリンダWC1と内蔵リザーバタンク24を連通・遮断するノーマルクローズ型の電磁開閉弁である。減圧弁26は、ホイールシリンダWC2と内蔵リザーバタンク24を連通・遮断するノーマルクローズ型の電磁開閉弁である。減圧弁25,26は、ECU40の指令に応じて非通電されると遮断状態(図示状態)にまた通電されると連通状態に制御できる2位置弁として構成されている。
また、第2および第3油路La2,La3の保持弁21,22の各上流には、マスタシリンダ10から左前輪WflのホイールシリンダWC1に供給する液圧(油圧)の供給量を規定するオリフィスLa2a、およびマスタシリンダ10から右後輪WrrのホイールシリンダWC2に供給する液圧(油圧)の供給量を規定するLa3aがそれぞれ設けられている。これらオリフィスLa2a,La3aの内径を大きくすることによりホイールシリンダへの油圧の供給量を多くして制動初期の減速度を向上させることができる。
さらに、第2配管系Lbは前述した第1配管系Laと同様な構成であり、第1〜第6油路Lb1〜Lb6を備えている。第1油路Lb1は一端がマスタシリンダ10の第2出力ポート10bに接続されている。第2油路Lb2は、一端が第1油路Lb1に接続され他端がホイールシリンダWC3に接続されている。第2油路Lb2上には、オリフィスLa2a、保持弁21および逆止弁21aと同様なオリフィスLb2a、保持弁31および逆止弁31aが配設されている。第3油路Lb3は、一端が第1油路Lb1に接続され他端がホイールシリンダWC4に接続されている。第3油路Lb3上には、オリフィスLa3a、保持弁22および逆止弁22aと同様なオリフィスLb3a、保持弁32および逆止弁32aが配設されている。第4油路Lb4は、一端が第1油路Lb1に接続され他端が内蔵リザーバタンク34に接続されている。第4油路Lb4上には、ダンパ28、逆止弁27およびポンプ23と同様なダンパ38、逆止弁37およびポンプ33が配設されている。第2および第4油路Lb2,Lb4を接続する第5油路Lb5には、減圧弁25と同様な減圧弁35が配設されている。第3および第4油路Lb3,Lb4を接続する第6油路Lb6には、減圧弁26と同様な減圧弁36が配設されている。
また、第2配管系Lbの第1油路Lb1には、マスタシリンダ10内のブレーキ液圧であるマスタシリンダ圧を検出する圧力センサPが設けられており、この検出信号はECU40に送信されるようになっている。マスタシリンダ圧はブレーキペダル11の踏込操作状態を示すものである。なお、圧力センサPは第1配管系Laの第1油路La1に設けるようにしてもよい。
また、アンチスキッド制御装置Aは、ブレーキペダル11の付近に設けられて、ブレーキペダル11が踏まれるとオンされ、踏み込みが解除されるとオフされるストップスイッチ14を備えている。このストップスイッチ14のオン・オフ信号はECU40に送信されるようになっている。さらに、アンチスキッド制御装置Aは、各車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrの付近に設けられて、それらの車輪速度をそれぞれ検出する車輪速度センサ41,42,43,44を備えている。それらの車輪速度を示す検出信号はECU40に送信されるようになっている。さらに、アンチスキッド制御装置Aは、車体に設けられて、車両の前後加速度を検出する前後加速度センサ45を備えている。前後加速度を示す検出信号はECU40に送信されるようになっている。
さらに、アンチスキッド制御装置Aは、上述した圧力センサP、ストップスイッチ14、電動モータ23a、各電磁弁21,22,25,26,31,32,35,36、各車輪速度センサ41,42,43,44および前後加速度センサ45に接続されたECU(電子制御ユニット)40を備えている。ECU40は、マスタシリンダ圧、車輪速度、ストップスイッチ14の状態および前後加速度に基づき、各電磁弁21,22,25,26,31,32,35,36の開閉を切り換え制御し電動モータ23aを必要に応じて作動してホイールシリンダWC1〜WC4に付与するブレーキ液圧すなわち各車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrに付与する制動力を調整するABS制御を実行する。
なお、液圧調整手段Bは、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいてホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行するものであり、保持弁21,22,31,32、減圧弁25,26,35,36、内蔵リザーバタンク24,34、ポンプ23,33、および電動モータ23aから構成されている。
次に、上記のように構成したアンチスキッド制御装置Aの作動を図2から図4のフローチャートに沿って説明する。ECU40は、車両のイグニションスイッチ(図示省略)がオン状態になると、上記フローチャートに対応したプログラムを実行する。ECU40が起動されると、ECU40は、メモリクリア、フラグリセット等の初期化処理を行い(ステップ102)、以降の処理を所定時間Ta(例えば5msec)毎に実行するために、所定時間Taが経過するのを待つ(ステップ104)。
そして、所定時間Taが経過したと判断すると(ステップ104にてYES)、上記各車輪速度センサ41〜44からの車輪速度信号に基づき、各車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrの車輪速度VW**(**は、各輪に対応する添え字であって、fl,rr,rl,frのいずれかである。以下の説明及び図面において同じである。)を演算し(ステップ106)、この車輪速度の微分値である各車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrの車輪加速度dVW**を演算する(ステップ108)。
ECU40は、ステップ106で求めた各車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrの車輪速度VW**の内の例えば最大速度VWmaxに基づき、車体速度VBを演算する(ステップ110)。この処理は、例えば、各車輪Wfl〜Wfrの車輪速度VWfl〜VWfrの内の最大速度VWmaxが、前回求めた車体速度VB(n−1)に所定値を加えた加速限界値Vαから、車体速度VB(n−1)から所定値を減じた減速限界値Vβまでの範囲内にあるか否かを判断する。最大速度VWmaxが加速限界値Vαから減速限界値Vβまでの範囲内にあれば、最大速度VWmaxをそのまま車体速度VBとして設定する。最大速度VWmaxが加速限界値Vαを越えていれば、この加速限界値Vαを車体速度VBとして設定する。最大速度VWmaxが減速限界値Vβを下回っていれば、その減速限界値Vβを車体速度VBとして設定する。
ECU40は、ステップ110で演算した車体速度VBと、各車輪Wfl〜Wfrの車輪速度VWfl〜VWfrとに基づき、各車輪Wfl〜Wfrのスリップ量ΔVW**を演算する(ステップ112)。さらに、前後加速度センサ45からの検出信号に基づいて車体減速度G(マイナスの加速度)を導出する(ステップ114)。
次に、ECU40は、ステップ116において、ブレーキペダル11の踏込操作状態の変化率および車両の減速度に基づいて操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであるか否かを判定する(高μ路急ブレーキ判定手段)。すなわち、ECU40は、図3に示すフローチャートに沿って高μ路急ブレーキ判定ルーチンを実施する。
ECU40は、ステップ202において、高μ路急ブレーキ判定を実行するかあるいはタイマカウンタCTHを減少するかを判定する。すなわち、タイマカウンタCTHが0である場合には、「NO」と判定してプログラムをステップ204以降に進めて高μ路急ブレーキ判定を実行する。また、タイマカウンタCTHが0でない場合には、「YES」と判定してプログラムをステップ222に進めてタイマカウンタCTHを1ずつ減少する。
ECU40は、ステップ204において、圧力センサPによってマスタシリンダ圧PMCを検出し、その検出したマスタシリンダ圧PMCが第1マスタシリンダ圧KPMCSより大きくなったか否かを判定する。マスタシリンダ圧PMCが第1マスタシリンダ圧KPMCS以下である場合には、「YES」と判定してプログラムをステップ206以降に進める。ECU40は、ステップ206において、ステップ204にて「YES」と判定する毎にその判定した時刻t(n)を第1時刻MTとして記憶する。その後、ステップ208において、タイマカウンタCTHを0に設定する。そして、プログラムをステップ210に進めて高μ路急ブレーキ判定ルーチンを一旦終了する。
一方、マスタシリンダ圧PMCが第1マスタシリンダ圧KPMCSより大きくなった場合には、「NO」と判定してプログラムをステップ212に進める。なお、マスタシリンダ圧PMCが第1マスタシリンダ圧KPMCSより大きくなる直前に実行されたステップ204、206による処理で記憶した最新の第1時刻MTはマスタシリンダ圧PMCが第1マスタシリンダ圧KPMCSより大きくなった時刻を示している。
ECU40は、ステップ212において、圧力センサPによってマスタシリンダ圧PMCを検出し、その検出したマスタシリンダ圧PMCが第1マスタシリンダ圧KPMCSより大きい値である第2マスタシリンダ圧KPMCE以上となったか否かを判定する。マスタシリンダ圧PMCが第2マスタシリンダ圧KPMCE未満である場合には、「NO」と判定してプログラムをステップ208に進める。一方、マスタシリンダ圧PMCが第2マスタシリンダ圧KPMCE以上である場合には、「YES」と判定してプログラムをステップ214以降に進める。
ECU40は、ステップ214において、ステップ212にて「YES」と判定した時刻すなわちマスタシリンダ圧PMCが第2マスタシリンダ圧KPMCE以上となった第2時刻t(n)から先のステップ206にて記憶した最新の第1時刻MTを減算してその減算結果を時間差ΔTとして演算する。そして、ECU40は、ステップ216において、ステップ214にて演算した時間差ΔTが所定値KT未満であるか否かを判定する。時間差ΔTは、マスタシリンダ圧PMCが第1マスタシリンダ圧KPMCSから第2マスタシリンダ圧KPMCEに到達するのにかかる時間である。したがって、この場合のマスタシリンダ圧PMCの変化率は、下記数3に示すように第2マスタシリンダ圧KPMCEと第1マスタシリンダ圧KPMCSとの差を時間差ΔTで除算して算出される。
Figure 0004742716
また、ホイールシリンダ圧の立上り速度が急であるか否かを判定するために使用される第1判定値は、下記数4に示すように、第2マスタシリンダ圧KPMCEと第1マスタシリンダ圧KPMCSとの差を所定値KTで除算して算出される。
Figure 0004742716
これにより、マスタシリンダ圧PMCの変化率が第1判定値より大きい場合には、ホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定し、マスタシリンダ圧PMCの変化率が第1判定値以下である場合には、ホイールシリンダ圧の立上り速度が急でないと判定する。換言すると、上述のように第2マスタシリンダ圧KPMCEと第1マスタシリンダ圧KPMCSとの差は一定であるので、時間差ΔTがKTより小さい場合には、ホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定し(ステップ216にて「YES」)、時間差ΔTがKT以上である場合には、ホイールシリンダ圧の立上り速度が急でないと判定する(ステップ216にて「NO」)。
第1判定値は、ホイールシリンダ圧の立上り速度と、高μ路急ブレーキに伴うタイヤ路面間摩擦力すなわち車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧の増加特性との関係から設定される値である。その増加特性について以下に説明する。一般的には、走行中の車両にブレーキが掛けられると、荷重移動が生じて前後輪の荷重配分が変化する。すなわち、前輪に加わる荷重(前輪荷重)が増大し後輪に加わる荷重(後輪荷重)が減少する。具体的には、前輪荷重WTfdおよび後輪荷重WTrdはそれぞれ上記数1および数2と同様な下記数5および数6で示される。
(数5)
WTfd=WTf+WkαH/L
(数6)
WTrd=WTr−WkαH/L
ここで、WTfdおよびWTrdは制動時の前輪荷重および後輪荷重を示しており、WTfおよびWTrは非制動時の前輪荷重および後輪荷重を示しており、Wは全荷重(=WTf+WTr=WTfd+WTrd)を示している。αはブレーキの強さ(減速度)であり、HおよびLは車両の重心高およびホイールベース(ホイールベース長)である。kは、サスペンション特性などを考慮して設定された定数である。
上記数5からも明らかなように、車両の重心高Hが高くなるほど、ホイールベースLが短くなるほど、定数kが大きくなるほど、またはブレーキの強さ(減速度)αが大きくなるほど、前輪荷重WTfdが増大するすなわち荷重移動が大きくなる。また、これら車両の重心高H、ホイールベースLおよび定数kは車両固有の固定値である。一方、ブレーキの強さ(減速度)αは、制動時の制動状態を示す値であり、制動状態に応じて変動する値であるので、急ブレーキの場合には大きい値となり緩ブレーキの場合には小さい値となる。
したがって、急ブレーキ時の前輪荷重WTfdは緩ブレーキ時の前輪荷重WTfdまたは非制動時の前輪荷重WTfより大きい値となる。特に、重心の高い車両(例えばスポーツタイプ多目的車すなわちSUV(sport utility vehicle))の場合には、前輪荷重WTfdがより大きい値となるので、急ブレーキ時の前輪荷重WTfdと非制動時の前輪荷重WTfとの差はより大きくなる。
また、制動開始時点から荷重移動が完了するまでの間、前輪荷重は非制動時の前輪荷重WTfから制動時の前輪荷重WTfdへ所定の増加勾配にて変化する。そして、荷重移動の完了から制動が完了するまでの間、前輪荷重は制動時の前輪荷重WTfdのままである。
以上のことから、前輪荷重と比例関係にある前輪のタイヤ路面間摩擦力(=μ×前輪荷重、μは摩擦抵抗である。)も、制動開始時点から荷重移動が完了するまでの間、非制動時の前輪荷重WTfに対応するタイヤ路面間摩擦力から制動時の前輪荷重WTfdに対応するタイヤ路面間摩擦力へ所定の増加勾配にて変化する。そして、荷重移動の完了から制動が完了するまでの間、前輪荷重は制動時の前輪荷重WTfdに対応するタイヤ路面間摩擦力のままである。
車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧は、このような増加特性を有するタイヤ路面間摩擦力と比例関係にあるので、図5に示す縦軸PWCで示したタイムチャートにて二点鎖線で示す増加特性を示す。すなわち、制動開始時点(時刻t1)から荷重移動が完了するまでの間、非制動時の前輪荷重WTfに対応する車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧から制動時の前輪荷重WTfdに対応する車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧へ所定の増加勾配にて変化する。そして、荷重移動の完了から制動が完了するまでの間、前輪荷重は制動時の前輪荷重WTfdに対応する車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧のままである。
したがって、第1判定値は、ホイールシリンダ圧の立上り速度が、車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧の増加速度(増加勾配)より大きくなる値に設定されている。この第1判定値は、車種または車両に固有の値であり、予め測定することにより得ることができる。また、この第1判定値は、車両の重心高およびホイールベース長、車両の停止時の前輪および後輪荷重、ならびにサスペンション特性に基づいて設定されている。
説明を制御に戻すと、ECU40は、ステップ216にて「NO」と判定すると、プログラムをステップ208に進める。一方、ステップ216にて「YES」と判定すると、プログラムをステップ218に進めて、車両が高μ路上で制動中であるか否かを判定する。これは、車両が低μ路上で制動してもホイールシリンダ圧の立上り速度が急である場合があるため、この場合を除外するために行っている。具体的には、ECU40は、ステップ218において、前後加速度センサ45によって上記第2時刻T(n)の車両の前後加速度Gを検出する。そして、その検出した車両の前後加速度Gが第2判定値KGより大きい場合には、車両が高μ路上で制動中であると判定し、車両の前後加速度Gが第2判定値KG未満である場合には、車両が高μ路上で制動中でない(例えば低μ路上での制動中である)と判定する(高μ路制動判定手段)。第2判定値KGは、ホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定される制動が高μ路を走行中の車両に実施された場合、実際にその車両に作用する減速度を実測し、その実測結果に基づいて決定されている。なお、高μ路は、例えばドライ状態のアスファルト路面である。
ECU40は、ステップ218にて「NO」と判定すると、プログラムをステップ208に進める。一方、ECU40は、ステップ218にて「YES」と判定すると、操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであると判定する。そして、プログラムをステップ220に進めて、ステップ220において、タイマカウンタCTHを所定値KTHHに設定する。そして、プログラムをステップ210に進めて高μ路急ブレーキ判定ルーチンを一旦終了する。所定値KTHHは、少なくとも第1回目の補正パルス増制御が完了するのに必要な時間に設定されている。
また、ECU40は、タイマカウンタCTHが0でない場合には、「YES」と判定してプログラムをステップ222に進めてタイマカウンタCTHを1ずつ減少する。そして、プログラムをステップ210に進めて高μ路急ブレーキ判定ルーチンを一旦終了して、図2に示すステップ118に進める。
次に、ECU40は、ステップ118において、車両の制動時に車輪速度センサ41〜44で検出された車輪速度VW**に基づいて液圧調整装置(液圧調整手段)Bを制御してホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行する(ABS制御手段)。すなわち、ECU40は、先にステップ112で演算した車輪スリップ量ΔVW**と、先にステップ108で演算した車輪加速度dVW**とに基づいて、液圧調整装置Bを増圧モード、減圧モード、パルス減モード、保持モード、通常パルス増モードおよび補正パルス増モードの何れに制御するかを設定し、その制御モードにて液圧調整装置Bの制御を実行する。具体的には、ECU40は、図4に示すフローチャートに沿ってABS制御ルーチンを実施する。
このルーチンは、各車輪Wfl,Wrr,Wrl,Wfrに対して計4回実行されるようになっている。まず、ECU40は、ストップスイッチ14がオンになったか否かを判定する(ステップ302)。そして、ストップスイッチ14がオンになるまでは、当該車輪の制御中フラグFをリセットしすなわち0に設定し(ステップ304)、当該車輪の制御モードを増圧モードにセットする(ステップ306)。その後、プログラムをステップ308に進めてABS制御ルーチンを一旦終了する。なお、制御中フラグFはABS制御が行われているか否かを示すフラグであり、0のときABS制御中でないことを示し、1のときABS制御中であることを示す。
一方、ECU40は、ストップスイッチ14がオンになったときは、車輪のスリップ量ΔVW**を所定スリップ量KSと大小比較する(ステップ310)。この比較の結果、ΔVW**>KSとなるまでは、プログラムをステップ312に進める。ステップ312においては、制御中フラグFが1であるか否かを判定する。ΔVW**>KSとなるまでは、ABS制御は開始されないため制御中フラグFは0のままであるので、ステップ312にて「NO」と判定し続けて、当該車輪の制御モードを増圧モードにセットする(ステップ306)。
そして、ECU40は、ΔVW**>KSとなると、ステップ310にて「YES」と判定し、ABS制御が開始されるので制御中フラグFを1に設定する(ステップ314)。その後、車輪加速度dVW**を所定車輪加速度KdVWと大小比較する(ステップ316)。この比較の結果、dVW**<KdVWである間は、当該車輪の制御モードを減圧モードにセットする(ステップ318)。その後、プログラムをステップ308に進める。一方、ステップ316の判定において、dVW**≧KdVWと判定されると、当該車輪の車輪加速度dVW**と加速度零(0G)とを比較し、当該車輪が減速方向に制御されている状態にあるか、それとも減速方向から加速方向に反転した状態にあるかを判定する(ステップ320)。そして、dVW**<0Gと判定された場合は、当該車輪の制御モードをパルス減モードにセットし(ステップ322)、dVW**≧0Gと判定された場合は保持モードにセットする(ステップ324)。
一方、ECU40は、ABS制御を開始した以降にΔVW**≦KSとなると、ステップ310、312にてそれぞれ「NO」、「YES」と判定し、ステップ326においてタイマカウンタCTHが0であるか否かを判定する。タイマカウンタCTHが0である場合には、当該車輪の制御モードを通常パルス増モードにセットし(ステップ328)、タイマカウンタCTHが0でない場合には、当該車輪の制御モードを補正パルス増モードにセットする(ステップ330)。これにより、ECU40は、高μ路急ブレーキ判定ルーチンにおいて高μ路急ブレーキであると判定した時点から所定値KTHHで規定される所定時間が経過するまでは、ホイールシリンダ圧がほぼ階段状に第1増圧速度で増圧される補正パルス増制御を実施する(補正増圧手段)。第1増圧速度は、上述した車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧の高μ路急ブレーキに伴う増加特性の増圧部の勾配に対応した値に設定されている。そして、所定時間経過後は、増圧が補正パルス増制御の増圧勾配より緩やかな勾配となるように制御する、すなわち、ホイールシリンダ圧が第1増圧速度より遅い第2増圧速度でほぼ階段状に増圧される通常パルス増制御を実施する(通常増圧手段)。
上述した各制御モードにおける作動について第1配管系Laを例に説明する。ABS制御が実質的に実施されない増圧モード(通常ブレーキ時)には、ECU40から増圧出力が指示され(ステップ306)、その指示に応じて、保持弁21,22は非通電されて連通状態となり、減圧弁25,26は非通電されて遮断状態となり、ポンプ23は非駆動状態となる。これにより、マスタシリンダ10からの液圧に応じたホイールシリンダ圧がホイールシリンダWC1,WC2にそれぞれ形成される。
減圧モード時には、ECU40から減圧出力が指示され(ステップ318)、その指示に応じて、保持弁21,22は通電されて遮断状態となり、減圧弁25,26は通電されて連通状態となり、ポンプ23は駆動状態となる。これにより、ホイールシリンダWC1,WC2の液圧(ブレーキ液)が第5および第6油路La5,La6を通って内蔵リザーバタンク24へ流入して、ホイールシリンダ圧がリニアに減圧される。一方、ホイールシリンダWC1,WC2の液圧(ブレーキ液)および内蔵リザーバタンク24に貯留されている液圧(ブレーキ液)が、ポンプ23の作動によってマスタシリンダ10へ戻されている。
パルス減モード時には、ECU40からパルス減出力が指示され(ステップ322)、その指示に応じて、保持弁21,22は通電されて遮断状態となり、減圧弁25,26は所定のデューティ比で通電・非通電を繰り返されて遮断状態・連通状態を交互に繰り返し、ポンプ23は駆動状態となる。これにより、ホイールシリンダ圧がほぼ階段状に所定の減圧速度で減圧される。この所定の減圧速度は減圧モード時の減速度より小さい値に設定されている。
保持モード時には、ECU40から保持出力が指示され(ステップ324)、その指示に応じて、保持弁21,22は通電されて遮断状態となり、減圧弁25,26は非通電されて遮断状態となり、ポンプ23は駆動状態となる。これにより、ホイールシリンダ圧が保持モード開始時点の圧力を維持したまま保持される。
通常パルス増圧モード時には、ECU40から通常パルス増出力が指示され(ステップ328)、その指示に応じて、保持弁21,22は所定時間の非通電、その後所定時間だけの通電を交互に繰り返されて連通状態(増圧状態)および遮断状態(保持状態)を交互に繰り返し、減圧弁25,26は非通電されて遮断状態となり、ポンプ23は駆動状態となる。これにより、ホイールシリンダ圧が、増圧状態と保持状態を所定時間ずつ交互に繰り返すことにより増圧制御されてほぼ階段状に第2増圧速度で増圧される。
補正パルス増圧モード時には、ECU40から補正パルス増出力が指示され(ステップ330)、その指示に応じて、保持弁21,22は所定時間の非通電、その後所定時間だけの通電を交互に繰り返されて連通状態(増圧状態)および遮断状態(保持状態)を交互に繰り返し、減圧弁25,26は非通電されて遮断状態となり、ポンプ23は駆動状態となる。本補正パルス増圧モード時においては、通常パルス増圧モード時より保持状態の時間を短く設定し、通常パルス増圧モード時と増圧状態の時間を同一に設定している。なお、通常パルス増圧モード時より増圧状態の時間を長く設定し、通常パルス増圧モード時と保持状態の時間を同一に設定するようにしてもよい。これにより、ホイールシリンダ圧が、増圧状態と保持状態を所定時間ずつ交互に繰り返すことにより増圧制御されて第2増圧速度より速い第1増圧速度でほぼ階段状に増圧される。
以上のように構成された結果、この実施形態では、図5のタイムチャートに示すような作用効果が発揮される。なお、図5中、左前輪Wfl(または右前輪Wfr)について、縦軸VWで示したタイムチャートが車輪速度VWfl(図示実線)および車体速度VB(図示破線)の時間変化の様子を示し、縦軸PMCで示したタイムチャートがマスタシリンダ圧PMCの時間変化の様子を示し、縦軸PWC で示したタイムチャートがホイールシリンダ圧PWC(図示実線)および車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧(図示二点鎖線)の時間変化の様子を示している。また、縦軸Gで示したタイムチャートが車両の前後加速度Gの時間的変化の様子を示し、縦軸CTHで示したタイムチャートがタイマカウンタCTHの時間的変化の様子を示している。
時刻t1にて、操作者によってブレーキペダル11が踏込操作されてストップスイッチ14がオンとなり、制動が開始されたとする。ブレーキペダルの踏込操作によってマスタシリンダ圧PMCが上昇しこれに伴ってホイールシリンダ圧PWCが上昇する。マスタシリンダ圧PMCは、時刻t2に第1マスタシリンダ圧KPMCSを越え時刻t3に第2マスタシリンダ圧KPMCEを越える。この時点(時刻t3)にて、時間差ΔT(=t3−t2)を算出し(ステップ214)、その時間差ΔTが所定値KTを越えているので、ECU40はホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定する(ステップ216)。これと同時に、前後加速度センサ45によって車両の前後加速度Gを検出し、その検出した車両の前後加速度Gが第2判定値KGを超えているので、車両が高μ路上で制動中であると判定する(ステップ218)。ECU40は、これら二つの判定から今回の制動が高μ路急ブレーキであると判定する。そして、タイマカウンタCTHを所定値KTHHに設定する(時刻t3)。
その後、マスタシリンダ圧PMCはさらに上昇し、これに伴ってホイールシリンダ圧PWCも上昇すると、車輪速度VWflがさらに減少する。時刻t4にて車輪のスリップ量ΔVWfl>所定スリップ量KSとなると、車輪のロック傾向が発生したと判定して、ABS制御が開始される(ステップ310,314,316,318)。すなわち減圧出力が指示されてホイールシリンダ圧がリニアに減圧される(ステップ318)。
この減圧制御によりホイールシリンダ圧が減少して、時刻t5にて車輪加速度dVWfl<所定車輪加速度KdVWとなると、パルス減出力が指示されてホイールシリンダ圧がほぼ階段状に所定の減圧速度で減圧される(ステップ322)。さらに、ホイールシリンダ圧が減少して、時刻t6にて車輪加速度dVWfl≧加速度零(0G)となると、保持出力が指示されてホイールシリンダ圧がその時点の圧力を維持したまま保持される(ステップ324)。
この保持制御によりホイールシリンダ圧が一定に維持されるなか、車輪速度VWflが増加する。時刻t7にて車輪のスリップ量ΔVWfl≦所定スリップ量KSとなると、この時点においてはタイマカウンタCTHが0でないので、補正パルス増出力が指示されてホイールシリンダ圧が増圧状態と保持状態を所定時間ずつ交互に繰り返すことにより増圧制御されて第2増圧速度より速い第1増圧速度でほぼ階段状に増圧される(ステップ330)。これにより、当該車輪Wflの制動力を早期に復活させ車両に十分な制動を付与することができる。
この補正パルス増出力による制動によって車輪速度VWflが減少する。時刻t8にて再び車輪のスリップ量ΔVWfl>所定スリップ量KSとなると、減圧出力が指示されてホイールシリンダ圧がリニアに減圧される(ステップ318)。この減圧制御によりホイールシリンダ圧が減少して、時刻t9にて車輪加速度dVWfl<所定車輪加速度KdVWとなると、パルス減出力が指示されてホイールシリンダ圧がほぼ階段状に所定の減圧速度で減圧される(ステップ322)。さらに、ホイールシリンダ圧が減少して、時刻t10にて車輪加速度dVWfl≧加速度零(0G)となると、保持出力が指示されてホイールシリンダ圧がその時点の圧力を維持したまま保持される(ステップ324)。この保持制御によりホイールシリンダ圧が一定に維持されるなか、車輪速度VWflが増加する。時刻t11にて車輪のスリップ量ΔVWfl≦所定スリップ量KSとなると、この時点においてはタイマカウンタCTHが0であるので、通常パルス増出力が指示されてホイールシリンダ圧が増圧状態と保持状態を所定時間ずつ交互に繰り返すことにより増圧制御されて第1増圧速度より遅い第2増圧速度でほぼ階段状に増圧される(ステップ328)。
上述した説明から明らかなように、本実施形態によれば、高μ路急ブレーキ判定手段(ステップ116)が、ブレーキペダル11の踏込操作状態の変化率であるマスタシリンダ圧PMCおよび車両の減速度である前後加速度Gに基づいて操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであるか否かを判定し、高μ路急ブレーキ判定手段が高μ路急ブレーキであると判定した場合、ABS制御手段(ステップ118)は液圧調整手段Bを制御して、少なくとも第1回目の増圧が、車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧の高μ路急ブレーキに伴う増加特性に対応した増圧勾配となる。これにより、高μ路急ブレーキ時において荷重移動中(タイヤ路面間摩擦力の増大中)にABS制御が開始してホイールシリンダ圧が減圧しても、少なくともホイールシリンダ圧の第1回目の増圧が車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧すなわち制動時の前輪荷重に対応するタイヤ路面間摩擦力の増加特性に対応した増圧勾配となるように制御される。したがって、第1回目の増圧による制動力を可能なかぎり十分に得ることができるので、制動力の低下を招くことなくアンチスキッド制御装置の制動初期の減速度を向上することができる。
また、高μ路急ブレーキ判定手段(ステップ116)は、踏込操作状態の変化率が第1判定値より大きい場合には、ホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定するホイールシリンダ圧立上り速度判定手段(ステップ204,206,212,214,216)と、車両の減速度が第2判定値より大きい場合には、車両が高μ路上で制動中であると判定する高μ路制動判定手段(ステップ218)とを有し、ホイールシリンダ圧立上り速度判定手段がホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定し、かつ、高μ路制動判定手段が車両が高μ路上で制動中であると判定した場合、操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであると判定するので、高μ路急ブレーキであると簡単に判定することができる。
また、第1判定値は、車両の重心高およびホイールベース長、車両の停止時の前輪および後輪荷重、ならびにサスペンション特性に基づいて設定されるので、高μ路急ブレーキであると確実に判定することができる。
また、ABS制御手段(ステップ118)は、高μ路急ブレーキ判定手段(ステップ116)が高μ路急ブレーキであると判定した場合に、その判定した時点から所定時間経過するまでは、増圧が前記増圧勾配(第1増圧速度)となるように制御する補正増圧手段(ステップ330)と、所定時間経過後は、増圧が増圧勾配より緩やかな勾配(第2増圧速度)となるように制御する通常増圧手段(ステップ328)とを備えたので、早い増圧が必要な第1回目の増圧は第1増圧速度で増圧し、それほど早い増圧が必要でない第2回目以降の増圧は第2増圧速度で増圧するため、状況に応じた適切な増圧制御を実行することができる。
また、補正増圧手段(ステップ330)および通常増圧手段(ステップ328)は、増圧状態と保持状態を所定時間ずつ交互に繰り返すことにより増圧制御するものであり、補正増圧手段は通常増圧手段より増圧状態の時間を長く設定するか、あるいは、通常増圧手段より保持状態の時間を短く設定することにより、前記増圧勾配に制御するので、正確かつ確実に所望の勾配に制御することができる。
また、踏込操作状態の変化率としてマスタシリンダ圧の変化率を採用したので、確実に検出できるマスタシリンダ圧を利用して高μ路急ブレーキを確実に判定することができる。
なお、上述した実施形態においては、踏込操作状態の変化率としてマスタシリンダ圧の変化率を採用したが、踏込操作状態の変化率としてブレーキペダル11のストローク速度の変化率を採用するようにしてもよい。この場合、ブレーキペダル11のストロークを検出するストロークセンサを設け、その検出信号をECU40に送信するようにすればよい。そして、検出信号に基づいてストローク速度を演算するようにすればよい。これによれば、確実かつ直接的に検出できるブレーキペダル11のストローク速度を利用して高μ路急ブレーキを確実に判定することができる。
また、上述した実施形態においては、前後加速度センサ45を設ける代わりに、ステップ110で演算した車体速度VBを時間で微分して車体減速度(マイナスの加速度)dVBを導出するようにしてもよい。
また、上述した実施形態において、補正パルス増制御時には、ホイールシリンダ圧が固定値に設定された第1増圧速度で増圧されているが、この第1増圧速度を時間差ΔTに応じて可変する値としてもよい。例えば、上述した時間差ΔTが小さいほど第1増圧速度が早くなるようにすればよい。
また、上述した実施形態において、補正パルス増制御は所定値KTHHで規定される所定時間内に実施されるようになっていたが、その所定時間ではなく減圧・増圧の繰り返し回数(本実施形態では1回)によって補正パルス増制御の実施期間を規定するようにしてもよい。
本発明によるアンチスキッド制御装置の一実施形態を示す概要図である。 図1に示すECUにて実行される制御プログラムのフローチャートである。 図1に示すECUにて実行される高μ路急ブレーキ判定ルーチンのフローチャートである。 図1に示すECUにて実行されるABS制御ルーチンのフローチャートである。 実施形態における作用効果を示すタイムチャートである。
符号の説明
11…ブレーキペダル、12…リザーバタンク、13…負圧式ブースタ、14…ストップスイッチ、21,22,31,32…保持弁、23,33…ポンプ、23a…電動モータ、24,34…内蔵リザーバタンク、25,26,35,36…減圧弁、40…ECU、41,42,43,44…車輪速度センサ、45…前後加速度センサ、A…アンチスキッド制御装置、B…調圧制御装置、Wfl,Wfr,Wrl,Wrr…車輪、La,Lb…第1および第2配管系、P…圧力センサ、WC1,WC2,WC3,WC4…ホイールシリンダ。

Claims (6)

  1. 車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段と、前記車輪のうち少なくとも左右の前輪のホイールシリンダ圧を独立に調整する液圧調整手段と、車両の制動時に車輪速検出手段で検出された車輪速に基づいて前記液圧調整手段を制御して前記ホイールシリンダ圧の減圧および増圧をこの順番で繰り返し実行するABS制御手段(ステップ118)とを備えたアンチスキッド制御装置において、
    前記ABS制御手段によるABS制御の前のブレーキペダルの踏込操作状態の変化速度および前記ABS制御の前の前記車両の減速度に基づいて操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであるか否かを判定する高μ路急ブレーキ判定手段(ステップ116)を備え、
    前記高μ路急ブレーキ判定手段は、
    前記ABS制御の前の前記踏込操作状態の変化速度が第1判定値より大きい場合には、前記ホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定するホイールシリンダ圧立上り速度判定手段(ステップ204,206,212,214,216)と、
    前記ABS制御の前の前記車両の減速度が第2判定値より大きい場合には、前記車両が高μ路上で制動中であると判定する高μ路制動判定手段(ステップ218)とを有し、
    前記ホイールシリンダ圧立上り速度判定手段が前記ホイールシリンダ圧の立上り速度が急であると判定し、かつ、前記高μ路制動判定手段が前記車両が高μ路上で制動中であると判定した場合、前記操作者のブレーキ操作による制動が高μ路急ブレーキであると判定し、
    前記高μ路急ブレーキ判定手段が高μ路急ブレーキであると判定した場合、前記ABS制御手段は前記液圧調整手段を制御して、少なくとも第1回目の増圧が、前記車輪がロックしない最大ホイールシリンダ圧の高μ路急ブレーキに伴う増加特性に対応した増圧勾配とし、前記高μ路急ブレーキ手段が高μ路急ブレーキであると判定しなかった場合、通常の増圧勾配とすることを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  2. 請求項1において、前記第1判定値は、前記車両の重心高およびホイールベース長、前記車両の停止時の前輪および後輪荷重、ならびにサスペンション特性に基づいて設定されることを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  3. 請求項1または請求項2において、前記ABS制御手段は、前記高μ路急ブレーキ判定手段が高μ路急ブレーキであると判定した場合に、その判定した時点から所定時間経過するまでは、前記増圧が前記増圧勾配となるように制御する補正増圧手段(ステップ330)と、前記所定時間経過後は、前記増圧が前記増圧勾配より緩やかな勾配となるように制御する通常増圧手段(ステップ328)とを備えたことを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  4. 請求項3において、前記補正増圧手段および通常増圧手段は、増圧状態と保持状態を所定時間ずつ交互に繰り返すことにより増圧制御するものであり、前記補正増圧手段は前記通常増圧手段より増圧状態の時間を長く設定するか、あるいは、前記通常増圧手段より保持状態の時間を短く設定することにより、前記増圧勾配に制御することを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  5. 請求項1乃至請求項4の何れか一項において、前記踏込操作状態の変化速度としてマスタシリンダ圧の変化速度を採用したことを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  6. 請求項1乃至請求項4の何れか一項において、前記踏込操作状態の変化速度として前記ブレーキペダルのストローク速度の変化速度を採用したことを特徴とするアンチスキッド制御装置。
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