本発明の第1の実施形態に係る点火プラグを、図1から図9を用いて説明する。本実施形態の点火プラグ10は、例えば、自動車のレシプロ式ガソリンエンジン20に用いられる。エンジン20は、多気筒エンジンである。また、エンジン20は、筒内直噴式エンジンである。
図1は、エンジン20の1つの燃焼室30の近傍の断面図を示している。図1に示すように、エンジン20は、シリンダブロック21と、シリンダヘッド22と、などを備えている。
シリンダブロック21には、複数のシリンダ23が形成されている。シリンダ23には、ピストン24が収容されている。ピストン24は、図示しないコンロッドを介してクランクシャフトに連結されている。ピストン24は、シリンダ23内を往復動する。クランクシャフトは、ピストン24の往復動によって、回転する。
シリンダブロック21においてシリンダ23の近傍には、ウォータージャケット25が形成されている。ウォータージャケット25内には、冷却水が流動している。
シリンダヘッド22は、シリンダブロック21の上端面21aに固定されている。シリンダヘッド22においてシリンダ23と重なる部位には、燃焼凹部22bが形成されている。燃焼凹部22bは、例えば屋根型である。燃焼凹部22bは、上端面21aに開口するシリンダ23の開口を覆っている。
燃焼凹部22bと、ピストン24の外面と、シリンダ23の内面とによって規定される空間は、燃焼室30となっている。
シリンダヘッド22には、吸気通路26と排気通路27とが形成されている。吸気通路26の一端は、燃焼凹部22b内に開口している。吸気通路26において燃焼凹部22b側の開口端は、吸気口26aになっている。吸気口26aには、吸気バルブ28が設けられている。
排気通路27の一端は、燃焼凹部22b内に開口している。排気通路27において燃焼凹部22b側の開口端は、排気口27aになっている。排気口27aには、排気バルブ29が設けられている。
また、シリンダヘッド22には、燃料F(図4に示す)を噴射するインジェクタ40と、点火プラグ10とが設けられている。エンジン20は、インジェクタ40から噴射された燃料Fに点火プラグ10が直接点火するスプレーガイド式である。
インジェクタ40は、噴射口41を有している。インジェクタ40は、噴射口41が燃焼凹部22bの頂点部分22cの近傍から燃焼凹部22b内に臨むように、シリンダヘッド22の頂点部分22cの近傍に取り付けられている。
点火プラグ10は、燃焼凹部22bの頂点部分22cの近傍においてインジェクタ40を避けた位置に取り付けられている。本実施形態では、点火プラグ10は、インジェクタ40に対して、図中右にずれた位置に配置されている。
図2は、点火プラグ10を先端から見た状態を示す斜視図である。図3は、点火プラグ10の先端の内部を示す断面図である。図2,3に示すように、点火プラグ10は、中心電極52と、碍子55と、プラグハウジング54と、接地電極53と、複数の噴霧制御側柱と、を備えている。
中心電極52は、碍子55によって保持されている。中心電極52の先端部52aは、碍子55から露出している。プラグハウジング54は、碍子55を内側に収容する。図3に示すように、プラグハウジング54は、碍子55を内側に収容した状態において、中心電極52の先端部52a側が開口するとともに、碍子55の周囲との間にプラグポケットSが規定される筒状である。プラグポケットSは、本発明で言う隙間である。
プラグハウジング54は、ねじ部56とシュラウド部57とを有している。ねじ部56の外周面には、雄ねじが形成されている。シリンダヘッド22には、ねじ部56と螺合するように、雌ねじ部22dが形成されている。雌ねじ部22dの内周面には、雌ねじが形成されている。シュラウド部57は、点火プラグ10がシリンダヘッド22に固定された状態において、燃焼凹部22b内に露出する。シュラウド部57の先端面57aは、中心電極52の先端部52aの近傍まで延びており、平坦である。シュラウド部57には、連通孔57bが形成されている。連通孔57bは、後に詳細に説明される。
接地電極53は、シュラウド部57の先端面57aに設けられている。接地電極53は、中心電極52の周囲に設置されている。接地電極53の先端部53aは、中心電極52の軸心線Cに沿って中心電極52と向かい合うように、プラグハウジング54の内側に向かって折れ曲がっている。接地電極53の先端部53aは、本発明で言う、対向部である。接地電極53の先端部53aと中心電極52との間で、火花放電が行われる。
図2に示すように、本実施形態では、複数の噴霧制御側柱の一例として、第1の噴霧制御側柱61と第2の噴霧制御側柱62と第3の噴霧制御側柱63とを備えている。
第1の噴霧制御側柱61は、接地電極53に対して図中時計回り方向O1に進んだ位置に配置されている。第2の噴霧制御側柱62は、接地電極53に対して図中反時計回り方向O2に進んだ位置に配置されており、第1の噴霧制御側柱61に向き合っている。第3の噴霧制御側柱63は、第1の噴霧制御側柱61に対して図中時計回り方向O1に進んだ位置に配置されており、接地電極53に向き合っている。
接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とは、中心電極52の周方向に、互いに等間隔離間して配置されている。つまり、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とは、中心電極52まわりに90度の間隔で離間して配置されている。
第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の形状は、同じであってよいので、第3の噴霧制御側柱63を代表して説明する。図3に示すように、第3の噴霧制御側柱63は、プラグハウジング54の内側に向かって折れ曲がっている。第3の噴霧制御側柱63の先端部60は、接地電極53の先端部53aに接触しないように考慮されている。
第1,2の噴霧制御側柱61,62の先端部60も、第3の噴霧制御側柱63の先端部60と同様に折れ曲がっている。
図2に示すように、中心電極52の周方向に沿う第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の幅W1と、中心電極52の周方向に沿う接地電極53の幅W2とは、略同じである。また、図3に示すように、中心電極52の軸心線Cに沿う接地電極53の長さL2と、軸心線Cに沿う第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の長さL1とは、略同じである。すなわち、噴霧制御側柱61〜63の形状は、接地電極53の対向部つまり先端部53aを除いた形状と略同形状となる。
それゆえ、接地電極53の先端53bと、第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の先端60aとは、中心電極52の軸心線Cを垂直に横切る第1の仮想平面71内に略位置する。ここで、連通孔57bについて説明する。連通孔57bは、シュラウド部57において接地電極53および第1〜3の噴霧制御側柱61〜63から軸心線Cと平行となる位置に1つずつ形成されている。
つぎに、点火プラグ10の姿勢について、具体的に説明する。図4は、シリンダ23側からインジェクタ40と点火プラグ10とを見た斜視図である。なお、図4中では、吸気バルブ28や排気バルブ29などの部品は、省略されている。
図4に示すように、第2の仮想平面72と第3の仮想平面73とを設定する。第2の仮想平面72は、インジェクタ40の噴射口41の中心と中心電極52の軸心線Cとを通る。第3の仮想平面73は、軸心線Cを通って第2の仮想平面72と垂直な面である。
第2の仮想平面72と第3の仮想平面73とによって区画される第1の仮想領域81と第2の仮想領域82と第3の仮想領域83と第4の仮想領域84とを設定する。
第1の仮想領域81は、図中、左上の領域である。第2の仮想領域82は、図中、左下の領域である。第3の仮想領域83は、図中、右上の領域である。第4の仮想領域84は、図中、右下の領域である。
点火プラグ10は、ねじ部56が雌ねじ部22dに螺合することによって、シリンダヘッド22に固定されている。
それゆえ、インジェクタ40に対する接地電極53と各噴霧制御側柱61〜63との姿勢は、点火プラグ10の取り付け具合、つまりシリンダヘッド22に対する点火プラグ10の回転具合によって変化する。
インジェクタ40に対する点火プラグ10の姿勢には、以下に説明する第1の姿勢と、第2の姿勢とがある。
第1の姿勢について説明する。ここで、第1〜4の仮想線91,92,93,94を設定する。
第1の仮想線91は、中心電極52の周方向に沿う接地電極53の幅の中心から、第1の仮想平面71と軸心線Cとの交点Pに向かう線である。第2の仮想線92は、中心電極52の周方向に沿う第1の噴霧制御側柱61の幅の中心から、交点Pに向かう線である。第3の仮想線93は、中心電極52の周方向に沿う第2の噴霧制御側柱62の幅の中心から交点Pに向かう線である。第4の仮想線94は、中心電極52の周方向に沿う第3の噴霧制御側柱63の幅の中心から交点Pに向かう線である。
それゆえ、第1の仮想線91と第4の仮想線94とは、同一直線上にある。第2の仮想線92と第3の仮想線93とは、同一直線上にある。
第1の姿勢とは、第1〜4の仮想線91,92,93,94が、第2,3の仮想平面72,73上にある状態である。
それゆえ、第1の姿勢の一例としては、図4に示すように、第1の仮想線91と第4の仮想線94とが、第2の仮想平面72と重なり、第2の仮想線92と第3の仮想線93とが第3の仮想平面73と重なる。
または、図示していないが、第1の姿勢としては、点火プラグ10が、図4の状態から軸心線C回りに90度ずつ回転した状態がある。その一例として、第2の仮想線92と第3の仮想線93とが第2の仮想平面72上に位置し、第1の仮想線91と第4の仮想線94とが第3の仮想平面73上に位置する場合などがある。
図4は、上記に説明された第1の姿勢のうち、接地電極53に対して第3の噴霧制御側柱63がインジェクタ40側に位置しており、かつ第1,4の仮想線91,94が第2の仮想平面72上に位置している状態である。
第2の姿勢とは、第1〜4の仮想線91,92,93,94が、第1〜4の仮想領域81,82,83,84内に1つずつ配置される状態である。
図5は、シリンダ23側からインジェクタ40と点火プラグ10とを見た斜視図であって、第2の姿勢の一例を示している。図5では、吸気バルブ28や排気バルブ29などの部品は、省略されている。
図5では、第1の仮想線91が第3の仮想領域83内に位置し、第2の仮想線92が第4の仮想領域84内に位置し、第3の仮想線93が第1の仮想領域81内に位置し、第4の仮想線94が第2の仮想領域82内に位置している。
第2の姿勢の他の例としては、第1の仮想線91が第1の仮想領域81内に位置し、第3の仮想線93が第2の仮想領域82内に位置し、第4の仮想線94が第4の仮想領域84内に位置し、第2の仮想線92が第3の仮想領域83内に位置するような状態である。
図5に示された第2の姿勢は、第2の仮想平面72と第3の仮想線93とのなす角度αは、略45度である。第2の仮想平面72と第4の仮想線94とのなす角度βは、略45度である。第2の仮想平面72と第1の仮想線91とのなす角度θは、略45度である。第2の仮想平面72と第2の仮想線92とのなす角度γは、略45度である。
なお、第1〜4の仮想線91,92,93,94において隣り合うどうしは、互いに直交する。それゆえ、第2の姿勢では、第1,2の仮想領域81,82内において、第1〜4の仮想線91,92,93,94のうちいずれか1つと第2の仮想平面72とのなす角度は、45度以内となる。
例えば、図5において、第3の仮想線93と第2の仮想平面72とのなす角度αが例えば50度となると、第4の仮想線94と第2の仮想平面72とのなす角度βは、40度となる。同様に、第3の仮想線93と第2の仮想平面72とのなす角度αが例えば80度となる場合は、第4の仮想線94と第2の仮想平面72とのなす角度βは、10度となる。
このように、第2の姿勢では、第1,2の仮想領域81,82内において、第1〜4の仮想線91,92,93,94のうちいずれか1つと第2の仮想平面72とのなす角度は、45度以内となる。
図5に示すように、第2の姿勢において各仮想線91,92,93,94と第2の仮想平面72とのなす角度が45度である状態を、第3の姿勢とする。
第2の姿勢は、第1〜4の仮想線91,92,93,94が、それぞれ1つずつ、第1〜4の仮想領域81,82,83,84のいずれかに配置される状態である。
それゆえ、第2,3の姿勢では、接地電極53の一部または第1〜3の噴霧制御側柱61〜63のうちいずれかの一部は、中心電極52よりもインジェクタ40側に位置する。つまり、第1,2の仮想領域81,82内に接地電極53または第1〜3の噴霧制御側柱61〜63いずれかの一部が位置することによって、これら一部は、点火プラグ10よりもインジェクタ40側に位置することになる。
つぎに、点火プラグ10の動作を説明する。図6は、インジェクタ40に対する点火プラグ10の姿勢が図4に示された第1の姿勢であるときに、インジェクタ40から燃料Fが噴射された状態を示す平面図である。図6は、点火プラグ10の先端を軸心線C方向から見ている。図6では、吸気バルブ28や排気バルブ29などの部品は、省略されている。
図4と図6とに示すように、インジェクタ40は、点火プラグ10に向かって燃料Fを噴射する。図6に示すように、インジェクタ40から噴射された燃料Fのうち燃料F1は、主に第1,2の噴霧制御側柱61,62に当たることによって拡散して空気との混合が促進された後、運動エネルギを失って中心電極52の周辺に滞留する。
なお、図中、Xは、燃料F1と空気とが混合された混合気が滞留している状態を示している。
インジェクタ40の噴射口41は、噴射された燃料Fが主に接地電極53の先端部53aまたは第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の先端部60に当たるように設定されている。それゆえ、混合気Xは、図3に示すように、中心電極52の先端部52aと接地電極53の先端部53aとの間に位置するようになる。中心電極52と接地電極53の先端部53aとの間で火花放電が飛ばされることによって、燃料Fと空気との混合気Xは、着火する。
図3に示すように、噴射された燃料Fが主に接地電極53の先端部53aまたは第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の先端部60に当たるように設定されていることによって、燃料F(燃料F1を含む)の流れによって負圧が生じ、燃焼室30内の空気などの気体Gが連通孔57bからプラグポケットSのシュラウド部57側に入り込み、中心電極52、接地電極53、噴霧制御側柱61〜63側へ流れる。このときの気体Gの流れによって、混合気XがプラグポケットSのシュラウド部57側に滞留することや、プラグポケットSのねじ部56側に入り込むことが抑制される。
図7は、燃料Fの安定燃焼領域を示すグラフである。安定燃焼領域とは、燃料Fが安定して燃焼するための点火時期の範囲である。つまり、インジェクタ40の噴射時期に対する点火プラグ10の点火時期が、安定燃焼領域によって囲まれる範囲内であれば、燃料Fを安定して燃焼する。
上記のように、混合気Xは、第2,3の噴霧制御側柱62,63当たることによって空気との混合が促進されて中心電極52の周囲に滞留するので、第1の姿勢では、燃料Fが噴射されてから点火するまでの期間を比較的広くすることができる。したがって、図7に示すように、第1の姿勢の安定燃焼領域101は、比較的広くなる。
図8は、インジェクタ40に対する点火プラグ10の姿勢が図5に示された第3の姿勢であるときに、インジェクタ40から燃料Fが噴射された状態を示す平面図である。図8は、点火プラグ10の先端を軸心線C方向から見ている。
図8に示すように、図5に示された第3の姿勢では、インジェクタ40から噴射された燃料Fのうち燃料F1は、主に、第2,3の噴霧制御側柱62,63に当たることによって、拡散して空気との混合が促進される。そして、噴射された燃料Fは、第2,3の噴霧制御側柱62,63に当たることによって運動エネルギを失って、中心電極52の周囲に滞留する。
それゆえ、第3の姿勢では、燃料Fが中心電極52の周囲に滞留するので、燃料Fが噴射されてから点火するまでの期間を比較的広くすることができる。それゆえ、図7に示すように、第3の姿勢の安定燃焼領域103は、比較的広くなる。この場合、第3の姿勢では、燃料Fを安定して燃焼するための点火時期は、第1の姿勢の安定燃焼領域101よりも広い。
図9は、インジェクタ40に対する点火プラグ10の姿勢が、第2の姿勢であってかつ第3の仮想線93と第2の仮想平面72とがなす角度αが例えば50度である場合において、インジェクタ40から燃料Fが噴射された状態を、点火プラグ10の軸心線C方向から見た平面図である。
図9に示すように、第3の姿勢を除く第2の姿勢であっても、インジェクタ40から噴射された燃料Fの内燃料F1は、第2,3の噴霧制御側柱62,63に当たることによって、拡散されて空気との混合が促進される。そして、運動エネルギを失った燃料Fは、中心電極52の周囲に滞留する。
それゆえ、図7に示すように、インジェクタ40に対する点火プラグ10の姿勢が第3の姿勢を除く第2の姿勢である場合の安定燃焼領域102の境界は、第1の姿勢の安定燃焼領域101の境界と第3の姿勢の安定燃焼領域103の境界との間に位置する。それゆえ、この状態の安定燃焼領域102は、比較的広い。
上記のように、本実施形態では、第1の姿勢の安定燃焼領域101が最も狭くなる。それゆえ、インジェクタ40に対する各点火プラグ10の姿勢が各気筒で異なる場合、例えば1つの点火プラグ10が第1の姿勢であって、他の1つの点火プラグ10の姿勢が第3の姿勢であって、さらに他の1つの点火プラグ10の姿勢が第3の姿勢を除く第2の姿勢である場合であっても、第1の姿勢の安定燃焼領域101は、各点火プラグ10に共通な安定燃焼領域となる。
一方、各点火プラグ10の姿勢がどのような姿勢であっても、噴射された燃料Fは、接地電極53または第1〜3の噴霧制御側柱61〜63に当たることによって拡散して中心電極52の周囲に滞留するので、噴霧制御側柱が存在しない1つの接地電極を備えるプラグに比べて非常に大きい安定燃焼領域を備え、第1〜3の姿勢の安定燃焼領域101,102,103は、互いにそれほど大きく異なることはない。
つまり、第1〜3の状態では、多少の違いはあるものの安定燃焼領域に大きな違いはないので、インジェクタ40に対する点火プラグ10の姿勢がどのような状態であっても、安定燃焼領域、すなわち燃焼条件は、大きく異ならない。
このように構成される点火プラグ10は、第1〜3の噴霧制御側柱61〜63を備えている。接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とは、互いに等間隔離間して配置されている。
それゆえ、インジェクタ40から噴射された燃料Fは、中心電極52に直接当たることなく接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とのいずれかに当たることによって、拡散して空気との混合が促進される。そして、燃料Fは、運動エネルギを失って中心電極52の周囲に滞留する。
つまり、点火プラグ10が噴霧制御側柱を備えていない場合、噴射された燃料Fは、接地電極53に当たることによって拡散するが、インジェクタ40に対する点火プラグ10の姿勢によっては、接地電極53に当たって拡散された燃料Fが中心電極52の周囲に滞留しないことがありえる。燃料Fが中心電極52の周囲に滞留したとしても滞留する量が少なく安定燃焼領域が非常に小さくなる。
しかし、上記のような場合であっても、点火プラグ10が第1〜3の噴霧制御側柱61〜63を備えることによって、燃料Fは、第1〜3の噴霧制御側柱61〜63に当たって拡散されて、中心電極52の周囲に滞留するようになる。
それゆえ、燃料Fの着火性が向上するとともに、安定燃焼領域が広くなる。さらに、燃料の拡散状態や安定燃焼領域は、インジェクタ40に対する点火プラグ10の姿勢の変化に関わらず大きく変化しなくなるので、燃料Fは、安定して燃焼される。
さらに、燃料Fの流れによって負圧が生じ、プラグポケットSのシュラウド部57側に連通孔57bを通って空気などの気体Gが流入するとともに、当該気体Gの流れによって混合気XがプラグポケットSのねじ部56側に入り込むことが抑制される。また、万が一、プラグポケットS内に混合気が入り込んでも、入り込んだ混合気は連通孔57bから排出されるのでプラグポケットS内に滞留しにくくなる。または、連通孔57bを通して空気が供給されることによって混合気は十分に酸素がある状態でプラグポケットS内で燃焼されるので、点火プラグ10はくすぶりにくくなる。この結果、燃料Fは、安定して燃焼されるようになる。
また、点火プラグ10が第1〜3の噴霧制御側柱61〜63(3つの噴霧制御側柱)を備えている。そして、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とは、互いに90度離間して中心電極52の周方向に配置されている。
それゆえ、インジェクタ40に対する点火プラグ10の姿勢は、第1の姿勢または第2の姿勢のどちらかになり、点火プラグ10の姿勢による燃焼条件の変化に大きな違いが生じなくなる。そして、各点火プラグ10の共通する安定燃焼領域は、例えば第1の姿勢の安定燃焼領域101と同じになる。第1の姿勢の安定燃焼領域101は、広い。したがって、多気筒を有するエンジン20であっても、共通する安定燃焼領域を広くすることができるので、燃料Fは、安定して燃焼される。さらに、先端部53aを除いた接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とは、略同じ形状であるので、燃料Fはより一層安定して燃焼される。
また、接地電極53の先端部53aは、軸心線C方向に中心電極52と対向するように、プラグハウジング54の内側に折り曲がっている。そして、中心電極52は、接地電極53の先端部53aとので軸心線C方向に火花放電を行う。
それゆえ、中心電極52の先端と接地電極53の先端部53aとの間に混合気Xが滞留すればよいので、点火プラグ10の軸心線C方向の取り付け誤差は、中心電極52の先端と接地電極53の先端部53aとの間に規定される空間によって吸収される。さらに、接地電極53の先端と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の先端とが隔離しているため、中心電極52の先端と接地電極53の先端部53aとの間に規定される空間の調整が容易に行える。また、接地電極53の先端である火花放電面積が大きくなると冷却損失が大となり、着火性が悪化するが、接地電極53の先端と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の先端とが隔離しているため、火花放電面積が大きくなることなく着火性の悪化を招くことがない。
また、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の先端53b,60aは、中心電極52の軸心線Cを横切る第1の仮想平面71内に位置するので、燃料が安定して燃焼されるようになる。この点について具体的に説明する。第1の姿勢には4つのパターンがある。これは、中心電極52の軸心線C回りに90度ずつ回転しても同じだからである。これは、第2,3の姿勢でも同じである。
先端53b,60aが中心電極52の軸心線Cを横切る第1の仮想平面71内に配置されることによって、第1の姿勢の4パターンの各々の障害物(接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63を含む概念)のインジェクタ40に対する作用が略同じになる。このことは、第2,3の姿勢であっても同じである。この結果、燃料Fが安定して燃焼されるようになる。
また、連通孔57bが、中心電極52の軸心線Cに平行方向に沿って接地電極53と向き合う位置と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63と向き合う位置とに形成されている。つまり、本実施形態では、連通孔57bは、4個形成されている。このことによって、連通孔57bのうち少なくとも1つがインジェクタ40側に面することになる。
この結果、インジェクタ40から噴霧された燃料Fによって誘起される気体Gの流れが効率よくプラグポケットSのシュラウド部57側に流入するようになる。
つぎに、本発明の第2の実施形態に係る点火プラグ10を、図10,11とを用いて説明する。なお、第1の実施形態と同様な機能を有する構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の形状が、第1の実施形態と異なる。他の構造は、第1の実施形態と同様であってよい。
上記異なる点について、具体的に説明する。図10は、本実施形態の点火プラグ10の先端側を示す斜視図である。図11は、本実施形態の点火プラグ10の先端部10aの一部を切り欠いて示す断面図である。
図10と図11とに示すように、本実施形態の第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の先端部60は、プラグハウジング54の内側に折れ曲がることなく、中心電極52の軸心線Cに沿って延びている。
本実施形態であっても、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
つぎに、本発明の第3の実施形態に係る点火プラグ10を、図12を用いて説明する。なお、第1の実施形態と同様な機能を有する構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、接地電極53および第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の形状が第1の実施形態と異なる。上記異なる点について、具体的に説明する。
図12は、本実施形態の点火プラグ10の先端部10aの一部を切り欠いて示す断面図である。図12に示すように、本実施形態の接地電極53および第1〜3の噴霧制御側柱61〜63は、プラグハウジング54の内側に向かって傾いて延びている。それゆえ、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とは、中心電極52の軸心線Cに対して所定の傾きを有している。
なお、図1に示すように、点火プラグ10は、インジェクタ40に対して図中右側に配置されている。そして、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とは、噴射口41よりも図中下側に位置している。
それゆえ、燃料Fは、図12中に矢印で示すように、噴霧制御側柱63側から接地電極53に向かって斜めに噴射される。
上記のように接地電極53および第1〜3の噴霧制御側柱61〜63が軸心線Cに対して傾きを有することによって、噴射された燃料Fのうち、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とに当たる量は、少なくなる。
言い換えると、軸心線Cに対する接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63との傾きを調整することによって、燃料Fのうち、これら接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とに当たる量を調整することができる。
つまり、軸心線Cに対する接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の傾きを調整することによって、燃料Fの流れる方向内での、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の姿勢が変改する。この姿勢の変化によって、燃料Fのうち接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63に当たる量が調整される。
例えば、中心電極52の周辺に滞留する燃料Fが多い場合、軸心線Cに対する接地電極53および第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の傾きを調整することによって、これら接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63に当たる燃料Fの量を調整する。
具体的には、図12に示されるように、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63をプラグハウジング54の内側に向かって傾かせる。このようにすると、燃料Fのうち接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とに当たる量は、少なくなる。
燃料Fのうち、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63とに当たる量が少なくなると、中心電極52に周囲に滞留する燃料の量が少なくなる。
本実施形態では、第1の実施形態と同様な効果を得ることができる。さらに、軸心線Cに対する接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の傾きを調整することによって、中心電極52の周囲に滞留する燃料の量を調整することができる。それゆえ、燃料Fの燃焼状態をより向上することができる。
つぎに、本発明の第4の実施形態に係る点火プラグ10を、図13を用いて説明する。なお、第3の実施形態と同様な機能を有する構成は、同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態では、接地電極53および第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の形状が第3の実施形態と異なる。上記異なる点について、具体的に説明する。
図13は、本実施形態の点火プラグ10の先端部10aの一部を切り欠いて示す断面図である。図13に示すように、接地電極53および第1〜3の噴霧制御側柱61〜63は、中心電極52の先端部52aよりも先に向かって、狭まるようになだらかに突出するように湾曲している。
上記のように、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63の湾曲状態によって、燃料Fのうち、接地電極53と第1〜3の噴霧制御側柱61〜63に当たる量が調整される。
本実施形態では、第3の実施形態と同様な効果を得ることができる。
なお、第1〜4の実施形態では、噴霧制御側柱は、3つ用いられているが、これに限定されない。例えば、3つや5つであってもよい。
なお、第1〜4の実施形態では、燃料Fは、第1〜3の噴霧制御側柱61〜63に当たることによって拡散されたが、これに限定されない。例えば、第1〜3の姿勢であっても、軸心線C回りに90度回転することによって、接地電極53の位置は、4パターン存在する。それゆえ、例えば、接地電極53が第1,2の仮想領域81,82に位置してもよい。この場合は、噴射された燃料Fは、接地電極53に当たって拡散されるようになる。
また、第1〜4の実施形態では、1つの接地電極53が用いられたが、これに限定されない。例えば複数の接地電極53が用いられてもよい。また、第1〜3の噴霧制御側柱61〜63と接地電極53とには、燃料Fのうち燃料F1がぶつかるとしたが、実際には、燃料Fのうち噴射後から第1〜3の噴霧制御側柱61〜63と接地電極53とにぶつかるまでの間に気化して混合気となったものも第1〜3の噴霧制御側柱61〜63と接地電極53とにぶつかる。