JP4728856B2 - A重油組成物 - Google Patents
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Description
A重油を用いる各種燃焼機器には、燃料油中の異物を除去する目的で、燃料系統に目開き5〜250μmのフィルターが設けられている。しかし、このような燃焼機器を冬季に使用すると、A重油から析出したワックスなどにより、フィルターの閉塞が起こりやすくなる。
一方、A重油には税法上10%残留炭素分が0.2質量%以上になるように残留炭素分付与基材を含有させている。しかしながら、従来より残留炭素付与基材に起因するスラッジにより燃料フィルターが閉塞し、燃料供給が不可能となる問題がしばしば生じており、特に近年の燃料フィルターの目開き微細化により、さらに大きな問題となっている。このため、スラッジにより燃料フィルターを閉塞させない、常温におけるフィルター通油性に優れるA重油の要望が高まっている。
しかし、上述の各方法で得られるA重油はそれぞれ次の点で改善の余地があり、いずれもA重油として実用に供し得るには未だ十分とは言えない。すなわち、重質油の増配合はワックス析出点(曇り点)の悪化につながり、残渣油の増量は燃焼ガス中の煤塵量の増加の原因となり得るばかりか、他基材との溶解性が悪化し、常温時のスラッジ生成に伴うフィルター通油性が懸念される。また、低温流動性向上剤の性能は、使用基材との相性によるところが多く、単に添加するだけではA重油として充分な低温性能を得ることは困難である。
すなわち、本発明は、FT合成で製造される沸点360℃以上のFTワックスまたは沸点360℃以上のFTワックスを水素化分解したボトム成分を残留炭素付与基材として0.1容量%以上10容量%以下含有することを特徴とするA重油組成物に関する。
また本発明は、熱重量−示差熱分析による燃えきり温度が600℃未満であることを特徴とする前記記載のA重油組成物に関する。
本発明でいうFT合成で製造されるFTワックスとは、水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガス(合成ガスと称する場合もある)に対してフィッシャートロプシュ(FT)反応を適用させて得られるパラフィンワックスのことを示す。
炭素を含有する物質としては、天然ガス、石油液化ガス、メタンガス等の常温で気体となっている炭化水素からなるガス成分や、石油アスファルト、バイオマス、石炭、建材やゴミ等の廃棄物、汚泥、及び通常の方法では処理しがたい重質な原油、非在来型石油資源等を高温に晒すことで得られる混合ガスが一般的であるが、水素及び一酸化炭素を主成分とする混合ガスが得られる限りにおいては、その原料を限定するものではない。
本発明でいう水素化分解では、触媒として固体酸性質を有する担体に水素化活性金属を担持したものが一般的であるが、同様の効果が得られる触媒であればその形態を何ら限定するものではない。
活性金属Aタイプとしては主に周期律表第6A族および第8族金属から選ばれる少なくとも1種類の金属である。好ましくはNi、Co、Mo、Pt、PdおよびWから選ばれる少なくとも1種類の金属である。これらの金属からなる貴金属系触媒を使う際には、水素気流下において予備還元処理を施した後に用いることができる。一般的には水素を含むガスを流通し、200℃以上の熱を所定の手順に従って与えることにより触媒上の活性金属が還元され、水素化活性を発現することになる。
また活性金属Bタイプとしてはこれらの金属を組み合わせたものでよく、例えば、Pt−Pd、Co−Mo、Ni−Mo、Ni−W、Ni−Co−Moなどが挙げられる。また、これらの金属からなる触媒を使う際には、予備硫化したのち使用するのが好ましい。
活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1以上2h−1以下であることが好ましく、0.2h−1以上1.7h―1以下であることがより好ましく、0.3h−1以上1.5h−1以下であることが更に好ましい。LHSVは低いほど反応に有利であるが、低すぎる場合には極めて大きな反応塔容積が必要となり過大な設備投資となるので経済的に好ましくない。
活性金属Bタイプからなる触媒を用いて水素化分解を行う場合の水素/油比は、150NL/L以上2000NL/L以下であることが好ましく、300NL/L以上1700NL/L以下であることがより好ましく、400NL/L以上1500NL/L以下であることが更に好ましい。水素/油比は高いほど水素化反応が促進されるが、一般には経済的に最適点が存在する。
水素化分解装置の反応形式は、固定床方式をとりうる。水素は原料油に対して、向流または並流のいずれの形式をとることもでき、また、複数の反応塔を有し向流、並流を組み合わせた形式のものでもよい。一般的な形式としてはダウンフローであり、気液双並流形式がある。反応塔の中段には反応熱の除去、あるいは水素分圧を上げる目的で水素ガスをクエンチとして注入してもよい。
なお、ここでいう熱重量−示差熱分析とは、試料を所定の温度条件で昇温し、気化・熱分解等に伴う重量減少と気化・酸化・熱分解等に伴う熱量の変化を同時に計測する分析方法である。具体的には、試料約5mgを内径5mmのアルミニウム製パンに量りとり、RIGAKU製Thermoflex TAS300にセットする。次に、試料を室温から1000℃まで100℃/分で昇温する。そして発熱が終わったところの温度を燃えきり温度と定義する。
好ましいA重油基材としては、直留軽油留分またはその脱硫軽油留分、直留灯油留分またはその脱硫灯油留分、水素化分解軽油、水素化分解灯油、残油脱硫軽油留分、水素化脱硫軽油留分または水素化精製軽油留分の抽出によりノルマルパラフィン分を除去した残分である脱ノルマルパラフィン軽油留分、重質軽油留分、減圧軽油を脱硫した軽油、流動接触分解軽油、流動接触分解灯油が挙げられる。これらの基材は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
低温流動性向上剤の含有量は、1000mg/L以下であることが好ましく、700mg/L以下であることがより好ましく、500mg/L以下であることがさらに好ましい。低温流動性向上剤の含有量を1000mg/Lより多くしても、含有量に見合う低温性能の更なる向上効果が得られない。
上述の添加剤(低温流動性向上剤を含む)は、常法に従い合成したものを用いてもよく、また市販の添加剤を用いてもよい。なお、市販されている添加剤は、その添加剤が目的としている効果に寄与する有効成分を適当な溶剤で希釈している場合もある。有効成分が希釈されている市販添加剤を使用する場合には、A重油組成物の燃えきり温度が600℃未満である条件を満たすように市販添加剤を添加することが好ましい。なお、低温流動性向上剤を除く添加量としては任意であるが、A重油組成物全量基準で0.5質量%以下、好ましくは0.2質量%以下であるのが通常である。
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」で測定される値である。
なお、本発明でいう引火点とは、JIS K 2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」のペンスキーマルテン密閉式で測定される値を意味する。
なお、本発明でいう50℃における動粘度とは、JIS K 2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法」で測定される値を意味する。
A重油組成物の10容量%留出温度(以下、「T10」という。)は、引火点低下による安全性への影響から、170℃以上であることが好ましく、173℃以上であることがより好ましく、175℃以上であることがさらに好ましい。一方、低温性能の点から、T10は、250℃以下であることが好ましく、245℃以下であることがより好ましい。
A重油組成物の50容量%留出温度(以下、「T50」という。)は、230℃以上であることが好ましく、235℃以上であることがより好ましい。T50が230℃未満の場合は発熱量が悪化する傾向にある。一方、燃焼性の点から、T50は、320℃以下であることが好ましく、315℃以下であることがより好ましい。
A重油組成物の90容量%留出温度(以下、「T90」という。)は、380℃以下であることが好ましく、375℃以下であることがより好ましく、370℃以下であることがさらに好ましい。終点が380℃を超える場合、気化が進みにくく、完全燃焼し難い傾向にある。また、ワックス含有量が多すぎて低温流動性向上剤の効果が現れにくい。一方、T90は、発熱量の点から、280℃以上であることが好ましく、285℃以上であることがより好ましく、290℃以上であることがさらに好ましい。
さらに、A重油組成物のその他の蒸留性状に関し、初留点は、引火点低下による安全性への影響から150℃以上であることが好ましい。また、95容量%留出温度(以下、「T95」という)は、燃焼性の点から、400℃以下であることが好ましく、390℃以下であることがより好ましい。
なお、本発明でいう初留点、T10、T50、T90及びT95は、それぞれJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法−常圧法」により測定される値を意味する。
なお、本発明でいうセタン指数は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」により測定される値を意味する。
なお、本発明でいう10%残留炭素分は、JIS K 2270「原油および石油製品−残留炭素分試験方法」により測定される値を意味する。
なお、本発明でいう硫黄分とは、JIS K 2541「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」により測定される値を意味する。
なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」により測定される値を意味する。
なお、本発明でいう水分とは、JIS K 2275「原油及び石油製品−水分試験方法」のカールフィッシャー式容量滴定法で測定される値を意味する。
なお、本発明でいう曇り点は、JIS K 2269「原油および石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される値を意味する。
なお、本発明でいう目詰まり点は、JIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」をA重油に適用して測定される値を意味する。
なお、本発明でいう流動点は、JIS K 2269「原油および石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定される値を意味する。
なお、本発明でいう修正目詰まり点は、石油学会規格 JPI−5S−47−96「A重油の低温流動性試験方法」の解説に記載の修正法4で測定される値を意味する。
実施例1〜4及び比較例1〜2においては、それぞれ表1、2に示す基材、並びに低温流動性向上剤(エチレン−酢酸ビニル共重合体)を用いて、表3に示す組成を有するA重油組成物を調製した。表1、2には基材の諸性状を、表3には各基材の配合割合とA重油組成物の諸性状を示す。
15℃における密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」により測定した。
引火点(COC、PM)は、それぞれJIS K 2265「原油及び石油製品−引火点試験方法」のクリーブランド開放式、ペンスキーマルテン密閉式により測定した。
30℃、50℃、100℃における動粘度は、JIS K2283「原油及び石油製品−動粘度試験方法」により測定した。
初留点、T10、T50、T90、T95は、それぞれJIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法−常圧法」により測定した。
セタン指数は、JIS K 2280「石油製品−燃料油−オクタン価及びセタン価試験方法並びにセタン指数算出方法」により測定した。
曇り点および流動点は、JIS K 2269「原油および石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法」により測定した。
目詰まり点は、JIS K 2288「軽油−目詰まり点試験方法」をA重油に適用して測定した。
修正目詰まり点は、石油学会規格 JPI−5S−47−96「A重油の低温流動性試験方法」の解説に記載の修正法4により測定した。
試料容器として、20Lペール缶を用意し、ペール缶の上面に試料吸引管を差し込む穴を設けた。穴の形成位置は、上面の中心と外周上の点とを結ぶ直線の中点とした。一方、試料吸引管として外径10mmの銅管を用意し、その一端をシリコンゴム管を介してフィルター(日本濾過器株式会社製フューエルフィルタ、型番276237、通油面積2.0±0.1cm2)の入口に接続した。また、フィルターの出口を銅管を介して吸引ポンプに接続した。吸引ポンプは、通油量を1〜10L/hrの範囲内で調節可能なものを用いた。
次に、温度が20〜25℃の試料(A重油組成物)約10Lを上記のペール缶に入れ、ペール缶の上面の穴に試料吸引管付き蓋をした後、ペール缶とフィルターとを低温恒温槽内に収容し、ポンプを駆動させ、通油量が5.0±0.2L/hrとなるようにポンプ圧力を調節した。低温恒温槽としては、プログラム温度調節機能を備え、温度精度±0.5℃以内で調節可能な恒温槽を用いた。
ペール缶とフィルターとを低温恒温槽に収容した後、低温恒温槽内を所定の温度プロファイルで冷却し、吸引ポンプを駆動させた。より具体的には、初期温度20℃で2時間保持した後、ポンプを駆動して開始する。圧力計で圧力を測定して通油限界を判定した。通油限界の判定は、保持温度で差圧が26.6kPa(200mmHg)に達する時間を測定した。
通油性が悪い場合は、フィルター目詰まりを起こし、短時間で差圧が上昇するのに対し、通油性の良好なA重油は差圧が上昇するまでの時間が長い。60分経過しても26.6kPaに達しない場合を良好(○)、60分未満で26.6kPaに達した場合を不良(×)と判断した。得られた結果を表4に示す。
試料容器として、20Lペール缶を用意し、ペール缶の上面に試料吸引管を差し込む穴を設けた。穴の形成位置は、上面の中心と外周上の点とを結ぶ直線の中点とした。一方、試料吸引管として外径10mmの銅管を用意し、その一端をシリコンゴム管を介してフィルター(ネポン株式会社製、コードNo.120267)の入口に接続した。また、フィルターの出口を銅管を介して吸引ポンプに接続した。吸引ポンプは、通油量を1〜10L/hrの範囲内で調節可能なものを用いた。
次に、温度が20〜25℃の試料(A重油組成物)約15Lを上記のペール缶に入れ、ペール缶の上面の穴に試料吸引管付き蓋をした後、ペール缶とフィルターとを低温恒温槽内に収容し、ポンプを駆動させ、通油量が9.5±0.2L/hrとなるようにポンプ圧力を調整した。低温恒温槽としては、プログラム温度調節機能を備え、温度制度±0.5℃以内で−30℃以下まで冷却可能な恒温槽を用いた。
ペール缶とフィルターとを低温恒温槽に収容した後、低温恒温槽内を所定の温度プロファイルで冷却し、吸引ポンプを駆動させた。より具体的には、試料の曇り点より8℃高い温度から冷却速度1℃/hrで所定の温度まで冷却した。その温度で3時間保持し、圧力計で圧力を測定して通油限界を判定した。通油限界の判定は、保持温度で60分間通油中に差圧が33kPa(250mmHg)以下である場合を合格、33kPaを超えた場合を不合格とし、不合格となるまで1℃間隔で保持温度を低くして試験を繰り返した。
判定が不合格となった最高温度(目詰まり温度)を低温性能の評価の指標とした。なお、試料は試験ごとに新油に取り替えた。目詰まり温度が−5℃以下を良好(○)、−4℃以上を不良(×)と判断した。得られた結果を表4に示す。
燃焼性は、熱重量−示差熱分析による燃えきり温度で評価を行った。
試料約5mgを内径5mmのアルミニウム製パンに量りとり、RIGAKU製Thermoflex TAS300にセットする。次に、試料を室温から1000℃まで100℃/分で昇温する。そして発熱が終わったところの温度を燃えきり温度とする。燃えきり温度が600℃未満を燃料性良好(○)、600℃以上を燃料性不良(×)と判断した。
一方、比較例1〜2のA重油組成物は常温通油性が劣り、燃えきり温度が高い結果が得られた。
Claims (2)
- FT合成で製造される沸点360℃以上のFTワックスまたは沸点360℃以上のFTワックスを水素化分解したボトム成分を残留炭素付与基材として0.1容量%以上10容量%以下含有することを特徴とするA重油組成物。
- 熱重量−示差熱分析による燃えきり温度が600℃未満であることを特徴とする請求項1に記載のA重油組成物。
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