JP4721597B2 - Mg系水素吸蔵合金の製造方法 - Google Patents

Mg系水素吸蔵合金の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、Mg若しくはMg合金を主体とするMg系水素吸蔵合金の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題やエネルギー問題に対する関心の高まりを背景に、クリーンで且つ枯渇の心配のないエネルギーとして水素エネルギーが注目されている。この水素エネルギーの実用化を図るに際して、容易に水素を貯蔵し輸送できる手段の一つとして水素吸蔵合金が考えられている。この水素吸蔵合金に要求される重要な特性としては、一般的に、水素吸蔵量が多いこと、並びに使いやすい適度な温度で水素の吸蔵および放出が可能であることが挙げられる。
【0003】
水素吸蔵量の多い水素吸蔵合金としてMg系水素吸蔵合金が知られている。一般的なMg系水素吸蔵合金はMg若しくはMg合金(ニッケルや銅との合金)を主体とする組成をもつ。Mg系水素吸蔵合金は高い水素吸蔵能力をもつことが知られており魅力的な材料である。
【0004】
しかしながら、従来のMg系水素吸蔵合金は、理論的に求められる水素吸蔵量は多いものの、水素の吸蔵および放出が達成できる温度が高く、この点において実用性に欠けるという難点があった。また、水素の吸蔵及び放出を行うための反応速度が遅い、使用前における活性化が必要であるといった不都合もあった。
【0005】
この問題を解決する従来技術としては、特開昭56−37202号公報に開示されたように、組成式Mg2Ni1-xx(式中、MはV,Cr,Mn,Fe及びCoからなる群から選ばれた金属、xは0.1≦x≦0.5の範囲の数)で表される水素貯蔵用金属材料が開示されている。
【0006】
また、特開昭63−72849号公報では、Mg−Ni系合金において、Ni超微粒子を混在させることにより、水素の吸蔵および放出速度を高めるようにしたものが開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来技術のMg系水素吸蔵合金では水素の反応速度の向上効果が充分とはいえなかった。また、従来技術のMg系水素吸蔵合金では活性化が必要であるという問題も充分に解決できなかった。
【0008】
そこで、本発明では水素吸蔵における反応速度が高いMg系水素吸蔵合金の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する目的で本発明者等は鋭意研究を行った結果、従来のMg系水素吸蔵合金に対して、水素親和性が高い元素及び/又は水素解離・拡散性に優れた元素を含有させることで活性化の必要性が少なく、高い水素吸蔵能力を発揮することができるMg系水素吸蔵合金が得られることを見出し、以下の発明を行った。
【0010】
すなわち、従来のMg系水素吸蔵合金がその理論的な吸蔵能力の高さを充分に発揮できない原因としては界面に何らかの水素吸蔵を阻害する要因があるものと考え、分散質として水素の解離や拡散に触媒的な作用を発揮するNi,Pdを含有させた結果、Mg系水素吸蔵合金の水素吸蔵能力を向上できることを見出した。
【0011】
つまり、従来のMg系水素吸蔵合金の表面に存在すると考えられる水素吸蔵を阻害する要因は分散質体との界面には存在しないと共に、分散質体の特性として水素の解離・拡散性に優れているものを採用したために、水素がMg系水素吸蔵合金の外部から水素を吸蔵するマトリックス部にまで容易に拡散できるためにMg系水素吸蔵合金本来の高い水素吸蔵能力が発揮できるものと考えられる。
【0012】
また、水素吸蔵・放出に伴う微粉化が進行しやすく新生面が生成しやすいことも水素拡散のエネルギー障壁を小さくし、水素吸蔵・放出が速やかに達成できる理由と考えられる。
【0013】
このようなMg系水素吸蔵合金を好適に製造できる方法を得る目的で本発明者等が鋭意研究を行った結果、マグネシウムを含む第1微粉末体と、Ni及びPdからなる金属元素ある第2微粉末体とを混合し、MgとNiとPdとからなり、Mg:Ni:Pdの原子数比がa:(100−a−b):bになる混合物とする混合工程と、
該混合物を不活性雰囲気下及び/又は水素雰囲気下において460℃以上、506℃以下の温度で加熱する加熱工程とを有することを特徴とし、
前記加熱工程は前記混合物を30分以上、120分以下の時間加熱する工程であり、
前記a及びbは、85≦a≦95、2≦b≦3であり、
前記第1微粉末体の粒子径は2μm以上、500μm以下であり、
前記第2微粉末体の粒子径は0.2μm以上、20μm以下であり、
記第1微粉末体由来のマトリックス部をもつMg系水素吸蔵合金の製造方法を完成した(請求項1)。
【0014】
つまり、前述の本発明のMg系水素吸蔵合金を製造するために好適な方法として本発明者等が検討した結果、前述の分散質体に相当する第2微粉末体が、前述のマトリックス部に相当する第1微粉末体と完全に金属間化合物化乃至は合金化しない温度且つ充分に焼結が進行する温度で、適正な時間加熱を行う加熱工程を有することで水素親和能及び水素解離・拡散性にすぐれた前述の分散質体をもつMg系水素吸蔵合金とすることができることに想到したものである。なお、第2微粉末体は一部であれば第1微粉末体と金属間化合物化乃至は合金化してもよい。
【0015】
そして、第1微粉末体の粒子径の第2微粉末体の粒子径に対する比は10以上、1000以下であることが好ましい(請求項)。
【0016】
【発明の実施の形態】
(Mg系水素吸蔵合金:参考)
【0017】
本実施形態のMg系水素吸蔵合金の製造方法にて製造しうるMg系水素吸蔵合金について参考までに説明を行う。このMg系水素吸蔵合金はMg元素を主体とするマトリックス部とそのマトリックス部の結晶粒界乃至は粒内に分散された所定の組成をもつ分散質体とからなる。本Mg系水素吸蔵合金の形態はマトリックス部の形態に依存する。マトリックス部の形態は粉末状、フレーク状、線状、薄膜状、インゴット状等どのような形態であっても良い。分散質体はマトリックス部内の結晶粒界乃至は粒内に分散質として分散されている。マトリックス部と分散質体との存在比としては原子数比で95:5〜93:7であることが好ましい。
【0018】
マトリックス部は従来のMg系水素吸蔵合金に類するものであり、分散質体はそのマトリックス部が水素吸蔵能力を充分に発揮できるように触媒的に作用するものである。したがって、分散質体とマトリックス部とはその界面の面積が大きい方が好ましいと考えられる。また、分散質体は所定の組成がある程度の大きさをもって存在することで触媒的な作用を発揮するものと考えられる。
【0019】
つまり、両者のバランスを考慮すると、分散質体の大きさは0.2μm以上、8μm以下、さらには1μm以上、4μm以下であることが好ましい。なお、分散質体の形態は特に本発明の効果に大きな影響を与えず特に限定されるものでない。
【0020】
マトリックス部は従来のマグネシウム元素を主体とするMg系水素吸蔵合金に相当する組成をもつものであれば特に限定されない。マトリックス部は単相系であっても多相系であっても良く、具体的な組成としてはMg単体、Mg2Ni、MgNi2、Mg2Cu、MgCu2等からなる単相系組織や、これらの2以上の組み合わせからなる多相系組織が挙げられる。つまり、前述した所定の組成をもつ分散質体以外にも他の組成をもつ分散質を結晶粒界乃至は粒内にもつものであっても良い。
【0021】
分散質体は、所定の組成として、Nb,Ti,Zr,Hf,Ni,Pd及びPtからなる群から選択される1以上の金属元素及び/又はR23(Rは希土類元素)からなる群から選択される1以上の酸化物を含む。これらの金属元素及び酸化物はマトリックス部中に独立した相として存在することが必要である。なお、これらの金属元素及び酸化物は一部、前述のマトリックス部にMgとの金属間化合物又は合金として含有されていても良い。これらが独立して存在するか否かはたとえばXRDの測定により、それら金属元素若しくはそれら酸化物が単体で存在するピークの存在や、本Mg系水素吸蔵合金の断面を観察して確認することができる。
【0022】
これらの金属元素及び酸化物のうち、好ましいものとしてはZr、Hf、Ptを挙げることができ、さらに好ましいものとしてNi,Pd,Ti,Nb及びY23を挙げることができる。
【0023】
分散質体は、マトリックス部よりも水素親和性が高いものであるか水素分子を解離・拡散させる能力に優れた材料であれば、これらの金属元素若しくは酸化物を単体で含むものであっても良いし、これらの金属元素及び酸化物のうちの任意の2以上を合金乃至は金属間化合物としたものであっても良い。分散質体はマトリックス部内に複数個分散されるものであり、その組成はすべて同一であっても良いし、異なるものであっても良い。なお、分散質体は上述した金属元素及び酸化物の他、不可避の不純物を含んでも良いことはいうまでもない。
【0024】
具体的な本Mg系水素吸蔵合金の組成としては、組成式、MgaNi100-a-bb(XはNb,Ti,Zr,Hf,Pd及びPtからなる群から選択される1以上の金属元素及び/又はR23(Rは希土類元素)からなる群から選択される1以上の酸化物;85≦a≦95;0<b≦3)で表されるものが好ましい例として例示できる。本組成式中のニッケル及びXはマトリックス部に存在しても良いし、分散質体に存在しても良く、その一部が独立した相(分散質体)として存在すれば足りる。
【0025】
なお、本Mg系水素吸蔵合金を製造する方法としては後述するMg系水素吸蔵合金の製造方法の説明の欄で行うのでここでの説明は省略する。
【0026】
(Mg系水素吸蔵合金の製造方法)
本実施形態のMg系水素吸蔵合金の製造方法は、マグネシウムを含む第1微粉末体とNi及びPdからなる金属元素である第2微粉末体とを混合して混合物とする混合工程と、その混合物を所定条件で加熱する加熱工程とを有する。マトリックス部は前記した第1微粉末体に由来する。
混合工程は、Mg:Ni:Pdの原子数比がa:(100−a−b):bになるように混合する工程である。そして85≦a≦95且つ≦b≦3である。
【0027】
混合工程で第1及び第2微粉末体とを混合する方法は特に限定しない。第1微粉末体の粒子径の第2微粉末体の粒子径に対する比は10以上、1000以下、さらには100以上、300以下とすることが好ましい。また、第1微粉末体の粒子径は2μm以上、500μm以下であり、100μm以上、300μm以下とすることが好ましい。そして、第2微粉末体の粒子径は0.2μm以上、20μm以下であり、1μm以上、4μm以下とすることが好ましい
【0028】
第1微粉末体としてはMg単体の粉末、Mgとニッケル等との合金、それら粉末の組み合わせ等からなるものが例示できる。第2微粉末体としてはNb,Ti,Zr,Hf,Pd及びPtからなる群から選択される1以上の金属元素及び/又はR23(Rは希土類元素)からなる群から選択される1以上の酸化物を含む。第3微粉末体としてはニッケルを含む粉末であり、Nb,Ti,Zr,Hf,Pd、Pt等との合金であっても良い。これら第1〜第3微粉末体としてはアトマイズ法、粉砕法等の汎用されている微粉末製造方法により製造できる。
【0029】
これらの第2微粉末体としての金属元素及び酸化物のうち、好ましいものとしてはZr、Hf、Ptを挙げることができ、さらに好ましいものとしてPd,Ti,Nb及びY23を挙げることができる。第2微粉末体の組成としてはこれらの金属元素及び酸化物の単体であっても良いし、これらの金属元素及び酸化物のうちの任意の2以上の合金等であっても良い。
【0030】
加熱工程は不活性雰囲気又は水素雰囲気下において行う。加熱工程における所定条件とは、460℃以上、506℃以下の温度で加熱する
【0031】
なお、本加熱工程では第1微粉末体と、第2微粉末体とがその一部が金属間化合物化乃至は合金化することもあり得ることである。その場合には製造されたMg系水素吸蔵合金のマトリックス部中には第1微粉末体に含まれる元素以外に第2微粉末体に由来する元素が混合してもよい。
【0032】
加熱工程を採用することで、温度管理及び時間管理ともに簡便である。また、加熱工程としては第2微粉末体の少なくとも一部が残存する条件を採用することができる。製造されたMg系水素吸蔵合金中でマトリックス部と分散質体とが密着した構造をもつことが好ましい。
【0033】
なお、加熱工程における好ましい温度範囲の決定は詳細は示さないが、後述する実施例の欄のようにXRDの測定により行った。すなわち、混合した第1微粉末体と第2微粉末体とが金属間化合物を形成した結晶のピークが観測されたのみであり、第2微粉末体の単体のピークは検出できなかった場合には、加熱工程における加熱温度が高すぎて、第2微粉末体がそのまま残存できず、第1微粉末体と第2微粉末体とが完全に混合したものと判断した。また、混合した第1微粉末体と第2微粉末体との金属間化合物等に由来するピークが観測されない場合には、加熱工程における加熱温度が低く、第1微粉末体と第2微粉末体とは単に混合、接触しているのみであると判断した。
【0034】
混合工程及び加熱工程の他に必要に応じた工程を適宜行うことができる。たとえば、加熱工程の後に、製造されたMg系水素吸蔵合金を粉砕等行い必要な粒子径の微粒子を調製したりする工程を挙げられる。
【0035】
【実施例】
〔水素吸蔵量の測定〕
(参考例1)
(試験試料の製造方法)
粒子径が約180μmであるMg粉末(第1微粉末体)と、粒子径が約3μmであるNi粉末(第3微粉末体)とを原子数比で98:2の割合で湿式混合し混合物とする(混合工程)。この混合物を500℃で2時間加熱を行った(加熱工程)。加熱雰囲気として水素ガス雰囲気を選択した。製造されたMg系水素吸蔵合金をそのまま参考例1の試験試料とした。製造された本試験試料はMgとNiとの水素化物からなるマトリックス部にNiからなる分散質体が分散されたMg系水素吸蔵合金であると考えられる。
【0036】
(水素吸蔵量の測定)
製造したMg系水素吸蔵合金を加圧容器中で活性化処理(300℃、2時間真空引きした後に水素3MPa、300℃の条件下で2時間放置する操作を水素吸蔵量が定常化するまで行う)を行った後に、水素3MPa、150℃の条件下に5分間放置した後の水素吸蔵量を測定した。水素吸蔵量は加圧容器中の水素圧力を測定し水素の減少量から試験試料が吸蔵した水素の質量を算出した。
【0037】
(初期活性度の測定)
製造したMg系水素吸蔵合金を加圧容器中で300℃、2時間真空引きした後に、水素3MPa、300℃の条件下で5分放置した後の水素吸蔵量を測定し、理論水素吸蔵量に対するこの水素吸蔵量の割合を初期活性度とした。理論吸蔵量はMg−Ni状態図からMgH2、Mg2NiH4の生成割合を求めることにより算出した。
【0038】
参考例A〜C及び参考例2、3)
原子数比でMg粉末とNi粉末とを原子数比で94:6(参考例A)、88.7:11.3(参考例B)、65:35(参考例2)、60:40(参考例3)、87:13(参考例C)となるように混合した以外は参考例1と同様の方法でMg系水素吸蔵合金を製造し各参考例の試験試料とした。各試験試料について参考例1と同様の方法で水素吸蔵量及び初期活性度を測定した。製造された本試験試料はMgとNiとからなるマトリックス部にNiからなる分散質体が分散されたMg系水素吸蔵合金であると考えられる。
【0039】
(実施例及び参考例4〜6)
参考例1の製造方法における混合工程において、さらに粒子径が約1μmであるPd粉末(第2微粉末体)を混合した他は同様の方法でMg系水素吸蔵合金を製造し各実施例及び参考例の試験試料とした。各試験試料について参考例1と同様の方法で水素吸蔵量及び初期活性度を測定した。Mg粉末とNi粉末(第3微粉末体)とPd粉末との混合比は原子数比で64:32:4(参考例4)、65:33:2(参考例5)、94.4:2.6:3(実施例)、86:11:3(実施例)、64.7:32.3:3(参考例6)とした。製造された本試験試料はMgとNiとからなるマトリックス部に対して、Pd単独、場合によってはPd及びNiをそれぞれ単独乃至は合金として含む分散質体が分散されたMg系水素吸蔵合金であると考えられる。
【0040】
(参考例7〜9)
参考例6の製造方法において、Pd粉末に代えて、粒子径が約10μmのTi粉末(参考例7)、粒子径が約20μmのNb粉末(参考例8)、粒子径が約2μmのY23粉末(参考例9)とした以外は同様の方法でMg系水素吸蔵合金を製造し各参考例の試験試料とした。各試験試料について参考例1と同様の方法で水素吸蔵量及び初期活性度を測定した。製造された本試験試料はMgとNiとからなるマトリックス部にそれぞれTi、Nb及びY23場合によってはさらにNiの単体乃至は合金を含む分散質体が分散されたMg系水素吸蔵合金であると考えられる。
【0041】
(参考例10、11)
参考例2の製造方法における加熱工程において、加熱温度を480℃(参考例10)及び460℃(参考例11)とした以外は同様の方法でMg系水素吸蔵合金を製造し各参考例の試験試料とした。各試験試料について参考例1と同様の方法で水素吸蔵量及び初期活性度を測定した。製造された本試験試料はMgとNiとからなるマトリックス部に対して、Ni単独の分散質体が分散されたMg系水素吸蔵合金であると考えられる。
【0042】
(実施例
実施例の製造方法における加熱工程において、加熱温度を450℃とした以外は同様の方法でMg系水素吸蔵合金を製造し本実施例の試験試料とした。各試験試料について参考例1と同様の方法で水素吸蔵量及び初期活性度を測定した。製造された本試験試料はMgとNiとからなるマトリックス部に対して、Pd単独又はPd及びNiをそれぞれ単独乃至は合金として含む分散質体が分散されたMg系水素吸蔵合金であると考えられる。
【0043】
(比較例1)
Mgとニッケルとのインゴットを原子数比65:35で混合し、不活性雰囲気下、800℃で1時間加熱した。製造されたMg系水素吸蔵合金を粉砕して比較例の試験試料とした。この試験試料について参考例1と同様の方法で水素吸蔵量を測定し参考例1で示した式により理論吸蔵量に対する初期活性度を算出した。さらに、300℃で水素吸蔵量が定常化するまで活性化処理を行った後に、再度、参考例1と同様の方法で水素吸蔵量を測定した。
【0044】
(比較例2、4)
参考例2の製造方法における加熱工程において、加熱温度を600℃(比較例2)及び350℃(比較例4)とした以外は同様の方法でMg系水素吸蔵合金を製造し各比較例の試験試料とした。各試験試料について参考例1と同様の方法で水素吸蔵量及び初期活性度を測定した。製造された比較例2の試験試料はMgとNiとが金属間化合物となったMg系水素吸蔵合金であると考えられ、比較例4の試験試料はMg粉末とNi粉末とが残存し、密着度の低いMg系水素吸蔵合金であると考えらる。
【0045】
(比較例3、5)
実施例の製造方法における加熱工程において、加熱温度を600℃(比較例3)及び350℃(比較例5)とした以外は同様の方法でMg系水素吸蔵合金を製造し各比較例の試験試料とした。各試験試料について参考例1と同様の方法で水素吸蔵量及び初期活性度を測定した。製造された比較例3の試験試料はMgとNiとPdとが金属間化合物となったMg系水素吸蔵合金であると考えられ、比較例5の試験試料はMg粉末とNi粉末とPd粉末とが残存し、密着度の低いMg系水素吸蔵合金であると考えらる。
【0046】
(水素吸蔵量の測定結果)
結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から明らかなように、各実施例及び参考例の試験試料は対応する組成の比較例の試験試料と比較すると、比較的低温である150℃における水素吸蔵量が大きいことが明らかとなった。また、各実施例及び参考例の試験試料は初期活性度も高く、安定した水素吸蔵を実現するために活性化処理を行う必要がなかった。
【0049】
それに対して、比較例1、2、3の試験試料の水素吸蔵量及び初期活性度が低い理由としては、後述するように第1微粉末体と第2微粉末体とが完全に金属間化合物化したために、第2微粉末体に由来する分散質体の水素解離・拡散に対する触媒的な作用が発揮されなかったものと考えられる。
【0050】
また、比較例4、5の試験試料の試験試料の水素吸蔵量及び初期活性度が低い理由としては、後述するように、第1微粉末体と第2微粉末体との一体化が充分でなく第2微粉末体による水素の解離乃至は拡散という触媒的効果が水素を吸蔵する作用をもつマトリックス部に直接的に作用できないために充分な効果を発揮できないものと考えられる。
【0051】
したがって、充分な効果を発揮するためには第1微粉末体と第2微粉末体との混合物を加熱する加熱工程では、第1微粉末体と第2微粉末体とが単に接触するだけではなく、ある程度相互作用を行って一部は反応乃至は合金化するものの第2微粉末体として一部で残存する部分である分散質体が存在することが求められることが明らかとなった。
【0052】
(活性化処理について)
参考例2及び比較例1の試験試料について活性化処理による水素吸蔵量の変動を検討するために、時間−水素吸蔵量曲線の水素吸蔵処理回数依存性について検討した。各試験試料について、加圧容器中300℃、水素圧力3MPaの条件で水素吸蔵を120分間行い、その後、温度を300℃、水素圧力10-4MPaで120分間放置し水素を放出させた。これを1サイクルとしてサイクル中の水素吸蔵時における水素圧から経時的な水素吸蔵量を算出し時間−水素吸蔵量曲線を求めた。時間−水素吸蔵量曲線が安定するか若しくは理論吸蔵量に到達するまでこの水素吸蔵−放出のサイクルを繰り返した。
【0053】
結果を図1(参考例2)及び2(比較例1)に示す。参考例2の試験試料は水素吸蔵量が1サイクル目から完全に理論吸蔵量にまで到達できた。比較例1の試験試料では6サイクルを経て理論吸蔵量に到達できた。最終的な水素吸蔵量はほぼ同じであったが僅かに参考例2の試験試料の方が水素吸蔵速度が速いことが明らかとなった。
【0054】
(水素吸蔵特性の温度依存性について)
参考例2及び前述の活性化処理を行った比較例1の試験試料について、加圧容器中水素圧力を3MPaとし、雰囲気温度を303K、423K、473K及び523Kの各条件下で水素吸蔵させ、水素圧力の変化から時間−水素吸蔵量曲線を求めた。
【0055】
結果を図3に示す。図1及び2に基づいて説明したように、300℃(573K)での水素吸蔵特性はほぼ同じとなるものの、それ以下の温度ではいずれの温度においても参考例2の試験試料の方が比較例1の試験試料よりも水素吸蔵速度及び最終的に到達する水素吸蔵量が大きいことが明らかとなった。特に室温程度の303K及び423Kという低温においては参考例2の試験試料が比較例1の試験試料の倍程度の水素を吸蔵することが可能であった。
【0056】
〔合金の性状について〕
(金属顕微鏡観察)
参考例3及び比較例1の試験試料について、結晶断面を金属顕微鏡を用いて観察した。金属顕微鏡撮影は各試験試料粉末を樹脂(ポリエステル)中に分散させた後に、切断し、断面を研磨処理した後に観察を行った。
【0057】
図4に参考例3の試験試料の断面写真を示す。図4に示すように、Mg2Niからなるマトリックス中にNiの微粉末が分散されていることが明らかとなった。つまり第1微粉末体として加えたMg粉末と第2微粉末体として加えたNi粉末の一部とが合金化しマトリックス部を形成すると共に、第2微粉末体としてのNi粉末が分散質体としてそのマトリックス部中に分散された構造をもつことが判明した。比較例1の試験試料の断面写真は特に示さないが、試験試料粉末の断面は一様となっており分散質の存在は確認できなかった。なお、断面部分の組成の決定はEPMAにより行った。
【0058】
(XRDの測定)
各実施例、参考例、及び比較例の試験試料について、それぞれXRDの測定を行った。各実施例及び参考例の試験試料ではそれぞれ第2微粉末体として添加した金属元素若しくは酸化物が単体で存在するとともに、第1微粉末体と、第2微粉末体との金属間化合物乃至は合金のピークの存在が確認できた。それに対して比較例2、3の試験試料は第1微粉末体と、第2微粉末体とが金属間化合物を形成した結晶のピークが観測されたのみであり、第2微粉末体単体のピークは検出できなかった。これは加熱工程における加熱温度が高いので、第2微粉末体がそのまま残存できず、第1微粉末体と第2微粉末体とが完全に混合したものと考えられる。
【0059】
また、比較例4、5では第1微粉末体と第2微粉末体との金属間化合物に由来するピークが観測されず、第1微粉末体と第2微粉末体とは単に混合、接触しているのみであることが明らかとなった。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のMg系水素吸蔵合金は従来のMg系水素吸蔵合金よりも水素との反応性が高く、活性化処理を行うことなく水素吸蔵を行うことができるばかりか、低温においてはより高速・多量に水素を吸蔵することができるという効果を有する。
【0061】
また、本発明のMg系水素吸蔵合金の製造方法は、上述した好ましい特性を有するMg系水素吸蔵合金を好適に製造することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】300℃における参考例2の試験試料の水素吸蔵挙動のサイクル数依存性を示したグラフである。
【図2】300℃における比較例1の試験試料の水素吸蔵挙動のサイクル数依存性を示したグラフである。
【図3】参考例2及び比較例1の試験試料の水素吸蔵挙動の温度依存性を示したグラフである。
【図4】参考例3の試験試料の断面写真である。

Claims (2)

  1. マグネシウムを含む第1微粉末体と、Ni及びPdからなる金属元素ある第2微粉末体とを混合し、MgとNiとPdとからなり、Mg:Ni:Pdの原子数比がa:(100−a−b):bになる混合物とする混合工程と、
    該混合物を不活性雰囲気下及び/又は水素雰囲気下において460℃以上、506℃以下の温度で加熱する加熱工程とを有することを特徴とし、
    前記加熱工程は前記混合物を30分以上、120分以下の時間加熱する工程であり、
    前記a及びbは、85≦a≦95、2≦b≦3であり、
    前記第1微粉末体の粒子径は2μm以上、500μm以下であり、
    前記第2微粉末体の粒子径は0.2μm以上、20μm以下であり、
    記第1微粉末体由来のマトリックス部をもつMg系水素吸蔵合金の製造方法。
  2. 前記第1微粉末体の粒子径の前記第2微粉末体の粒子径に対する比は10以上、1000以下である請求項1に記載のMg系水素吸蔵合金の製造方法。
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