図1に本発明の第1の実施形態に係る中継放送装置1の構成を示す。中継放送装置1は、受信アンテナ90、分配器94、第1の送受信機42、第2の送受信機43、スイッチ98、送信アンテナ92を備えて構成される。また、第1の送受信機42は、受信機12a、フィルタ型回り込み低減器50a、送信機14aを備えて構成され、第2の送受信機43は、受信機12b、フィルタ型回り込み低減器50b、送信機14bを備えて構成される。
受信アンテナ90を介して受信された信号は、分配器94によって第1の送受信機42および第2の送受信機43へと分配される。
分配器94から第1の送受信機42に入力された信号は、受信機12aで中間周波数帯への変換、中間周波数帯での増幅が行われた後、ディジタル信号に変換されてフィルタ型回り込み低減器50aに入力される。フィルタ型回り込み低減器50aは直接波信号以外の信号を低減し、送信機14aに入力する。送信機14aは、入力された信号をアナログ信号に変換し、さらに無線周波数帯の信号に変換し、アンテナ送信に必要な電力まで増幅を行って第1の送受信機42から出力する。また、同様に分配器94から第2の送受信機43に入力された信号は、受信機12bで中間周波数帯への変換、中間周波数帯での増幅が行われた後、ディジタル信号に変換されてフィルタ型回り込み低減器50bに入力される。フィルタ型回り込み低減器50bは直接波信号以外の信号を低減し、送信機14bに入力する。送信機14bは、入力された信号をアナログ信号に変換し、さらに無線周波数帯の信号に変換し、アンテナ送信に必要な電力まで増幅を行って第2の送受信機43から出力する。
スイッチ98は、第1の送受信機42が出力する信号と第2の送受信機43が出力する信号のいずれかを選択し、選択した信号を送信アンテナ92に入力する。送信アンテナ92は、スイッチ98から入力された信号を電磁波として送信する。
なお、本実施形態においては、受信機12aおよび12bがアナログ信号をディジタル信号に変換する手段を備え、送信機14aおよび14bがディジタル信号をアナログ信号に変換する手段を備える構成としている。これは、フィルタ型回り込み低減器50aおよび50bが直接波信号以外の信号を低減する処理をディジタル信号処理によって行うことに基づくものである。しかし、アナログ信号をディジタル信号に変換する手段は、必ずしも受信機12aおよび12bに設ける必要はなく、フィルタ型回り込み低減器50aおよび50bがその入力側にアナログ信号をディジタル信号に変換する手段を備える構成も可能である。また、同様に、フィルタ型回り込み低減器50aおよび50bがその出力側にディジタル信号をアナログ信号に変換する手段を備える構成も可能である。
また、本実施形態においては、送信機14aおよび14bがアンテナ送信に必要な電力まで増幅を行うこととしているが、送信機14aおよび14bの増幅利得配分を低減し、スイッチ98と送信アンテナ92との間にパワーアンプを挿入する構成とすることも可能である。アンテナ送信に必要な電力まで増幅を行う増幅器には消費電力が大きい、大型であるため設置するための広い空間を要する、設計製造コストが高い等の問題がある。そこで、第1の送受信機42と第2の送受信機43とでパワーアンプを共用することで、このような問題を回避することができる。
フィルタ型回り込み低減器50aは、加算器54a、FIRフィルタ(Finite Impulse Response Filter)52aを備えて構成される。加算器54aでは、フィルタ型回り込み低減器50aに入力された入力信号IaとFIRフィルタ52aが出力する低減信号Raが加算され、その出力はフィルタ型回り込み低減器50aから出力信号Oaとして出力される。出力信号Oaは、送信機14aおよびFIRフィルタ52aに入力される。
FIRフィルタ52aは、タップ係数と出力信号Oaとの畳み込み演算をディジタル信号処理によって行うものである。ここでは、1回の回り込み信号と逆極性の関係にある低減信号RaがFIRフィルタ52aから出力されるようタップ係数が決定される。このタップ係数は、タップ係数算出部20aから入力される。
タップ係数算出部20aは、フィルタ型回り込み低減器50aが出力する出力信号Oaに基づいて、周波数領域における回り込み伝達関数(中継放送装置1の受信アンテナ90から中継放送装置1の内部回路を経て中継放送装置1の送信アンテナ92へ至り、さらに送信アンテナ92から中継放送装置1の外部の空間を経て受信アンテナ90へ至るまでの伝搬路の伝達関数)を算出する。そして、周波数領域における回り込み伝達関数を時間領域に変換して離散化することにより、タップ係数を算出する。
タップ係数は、特開2002−271295号公報および特開2002−290370号公報に記載されている処理に従って算出することが好適である。この処理では、回り込み信号によって干渉を受けた中継放送装置の出力信号を周波数解析し、当該周波数解析によって求めた周波数スペクトラムの逆数から回り込み伝達関数を算出する。その具体的な処理の例について次に説明する。
いま、低減信号Raはその値が零であるものとする。このときフィルタ型回り込み低減器50aからタップ係数算出部20aに入力される出力信号Oaは、周波数領域において次の(1)式のように表される。
ここに、C(ω)は周波数領域における回り込み伝達関数を示す。Hは振幅係数であり、フィルタ型回り込み低減器50aの出力信号Oaの振幅に比例する定数である。中央の式は、1回の回り込みにつきC(ω)が1回だけ掛け合わされることにより、多重回り込み信号が重畳された信号が公比をC(ω)とする等比級数の和で表されることを意味する。右辺はそれをシグマ記号を用いない形で表現したものであり数学公式から導かれる。
FIRフィルタ52aから出力される低減信号Raをフィルタ型回り込み低減器50aに入力される入力信号Iaに加算することで、多重回り込み信号を相殺するためには、FIRフィルタ52aが1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性の関係にある低減信号Raを出力すればよい。すなわち、回り込み伝達関数C(ω)に基づいて、FIRフィルタ52aの周波数特性が−C(ω)となるようなタップ係数を算出し、これをFIRフィルタ52aに入力すればよい。
タップ係数算出部20aは、フィルタ型回り込み低減器50aの出力信号Oaの周波数スペクトラムが(1)式のようにC(ω)を含む式で表されることに基づいてタップ係数を算出する。タップ係数算出部20aは、(1)式で表される信号の平均値からHの値を算出し、(1)式の逆数にHを乗じて次の(2)式で表される信号S2を算出する。
タップ係数算出部20aは、(2)式で表される信号S2に逆フーリエ変換を施し、次の(3)式で表される信号S3を算出する。逆フーリエ変換の方法としては、逆高速フーリエ変換(IFFT)等を適用することが好適である。
ここで、δ(t)は時間tについてのδ関数であり、t=0にインパルスが現れる関数である。c(t)は周波数領域における回り込み関数C(ω)を、時間領域の関数に変換したものである。
タップ係数算出部20aは、(3)式におけるt=0の値を除外し、所定の離散化時間間隔dで−c(t)の値を離散化した値、すなわち、次の(4)式に従ってタップ係数を算出し、FIRフィルタ52aに入力する。
ここで、iは0からm−1までの整数である。mはFIRフィルタ52aが演算に用いる離散化された値の数、iはFIRフィルタ52aのi−1番目の係数であることを示す。
図2にFIRフィルタ52aの具体的な構成例を示す。FIRフィルタ52aは、乗算器52e1〜52em、遅延器52f1〜52fm−1、加算合計器52gを備えて構成される。FIRフィルタ52aに入力される信号I(1)は、乗算器52e1および遅延器52f1に入力される。遅延器52f1〜52fm−1は、それぞれ入力される信号I(1)〜I(m−1)を遅延時間dだけ遅延させて、それぞれ信号I(2)〜I(m)として出力する。乗算器52e1〜52emには、それぞれ信号I(1)〜I(m)およびタップ係数−c(0)〜−c((m−1)d)が入力される。乗算器52e1〜52emは、信号I(1)〜I(m)にそれぞれタップ係数−c(0)〜−c((m−1)d)を乗じて加算合計器52gに入力する。加算合計器52gは、乗算器52e1〜52emから出力された信号を加算合計して低減信号Raとして出力する。
このような処理によって、FIRフィルタ52aは、(4)式によって規定されるタップ係数と、フィルタ型回り込み低減器50aが出力する出力信号Oaとの畳み込み演算によって低減信号Raを生成して出力する。ここではこれを低減信号Ra1とする。(1)式〜(4)式に基づく処理に従えば、理論的には1回の処理によって、1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性の関係にある低減信号Ra1がFIRフィルタ52aから出力される。しかしながら、実際には演算誤差が生じるため、1回の処理によって1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性の関係にある低減信号Ra1を出力するためのタップ係数を算出することは困難である。
そこで、タップ係数算出部20aは、(4)式で表されるタップ係数を算出してから所定時間経過後、フィルタ型回り込み低減器50aに入力された入力信号Iaと低減信号Ra1とが加算器54aにおいて加算された出力信号Oa1に基づいて、(4)式のタップ係数に対して修正を加えるための修正タップ係数を算出する。
出力信号Oa1は、(1)式と同様、周波数領域において次の(5)式のように表される。
ここで、ΔC(ω)は低減信号Ra1によって低減しきれず残留した回り込み信号の係数である修正回り込み関数(周波数領域での表現)である。H1は振幅係数であり、フィルタ型回り込み低減器50aの出力信号Oa1の振幅に比例する定数である。
タップ係数算出部20aは、(5)式に基づいて修正回り込み伝達関数ΔC(ω)を算出し、これを時間領域に変換して離散化し、修正タップ係数−Δc(id)を算出する。そして、修正タップ係数−Δc(id)を(4)式に基づいて算出されたタップ係数−c(id)に加算し、新たなタップ係数を算出する。すなわち、新たに算出されるタップ係数は、次の(6)式にようになる。
タップ係数算出部20aは、(6)式に基づいて算出されたタップ係数をFIRフィルタ52aに入力する。タップ係数算出部20aは、(6)式によって規定されるフィルタ特性によって、フィルタ型回り込み低減器50aが出力する出力信号Oa1から、低減信号Ra2を生成して出力する。
タップ係数算出部20aは、さらに、入力信号Iaと低減信号Ra2とが加算器54aにおいて加算され出力された出力信号Oa2に基づいて、修正タップ係数を算出し、(6)式によって算出されたタップ係数に加算する。
このようにして、タップ係数算出部20aは、所定時間間隔で修正タップ係数を算出し、先に算出されたタップ係数に加算する。すなわち、先に算出されたタップ係数を−cj(id)、これに対する修正タップ係数を−Δcj(id)とすれば、新たなタップ係数cj+1(id)は次の(7)式のようになる。
jは修正タップ係数を算出する処理のステップを示す整数である。このような処理を繰り返すことにより修正タップ係数は零に収束し、1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性の関係にある低減信号RaがFIRフィルタ52aから出力される状態に収束する。
なお、ここで説明したタップ係数を算出する処理は一つの例であり、その他様々な処理が考えられる。すなわち、(1)式を回り込みのない値Hに収束させるような処理であれば適用可能である。例えば、回り込みに基づく出力信号Oaの干渉波形を観測し、干渉波形が観測されなくなるようタップ係数を更新していく処理が考えられる。
第1の送受信機42が現用送受信機として動作しているときにおける、フィルタ型回り込み低減器50aに入力される入力信号Ia、FIRフィルタ52aが加算器54aに出力する低減信号Ra、およびフィルタ型回り込み低減器50aから出力される出力信号Oaの相互の関係について図3を参照して説明する。
受信アンテナ90で受信される信号は、OFDM変調信号等の時間的に連続した信号である。このような時間連続信号は、時間領域におけるインパルス波形信号の集合と考えることができるため、中継放送装置1の時間連続信号に対する動作は、複数のインパルス波形信号に対する動作の重ね合わせとして考えることができる。このことは、一般に、ある電気回路のインパルス応答と入力信号との畳み込み積分によって、当該電気回路の時間領域における動作が把握できることからも明らかである。
そこで、ここでは図3に示すように、入力信号Iaとして、時刻t=0においてインパルス波形信号の直接波信号Aが入力されているものとする。直接波信号Aが入力された時から時間τ経過後には、1回の回り込み信号A1が入力信号Iaとして入力される。低減信号Raとしては、時刻t=τに入力信号Iaの1回の回り込み信号A1と大きさが同一で極性が異なる信号Bが加算器54aに出力される。出力信号Oaは、入力信号Iaと低減信号Raとが加算された信号である。したがって、1回の回り込み信号A1は信号Bによって相殺され、出力信号Oaとしては1回の回り込み信号A1が相殺された信号が出力される。これによって、多重回り込みによる発振現象が回避される。
本実施形態に係る中継放送装置1では、第1の送受信機42が現用送受信機として動作しているときにおいては、第2の送受信機43はタップ係数算出部20bが値が零であるタップ係数をFIRフィルタ52bに出力した状態で待機する。すなわち、第2の送受信機43はFIRフィルタ52bから加算器54bへ信号を出力しない状態で待機する。
この状態は、FIRフィルタ52bがフィルタ型回り込み低減器50bから出力される出力信号Obに基づいて生成された低減信号Rbを出力して待機しているという従来の構成における状態とは異なる。
次に、スイッチ98が第1の送受信機42の出力側に接続され第1の送受信機42が現用送受信機として動作している状態において、スイッチ98を第2の送受信機43の出力側に接続した場合の動作について説明する。スイッチ98が第2の送受信機43の出力側に接続されることにより、第2の送受信機43が出力する信号は、送信アンテナ92を介して送信される。
タップ係数算出部20bは、タップ係数の初期値を零として、フィルタ型回り込み低減器50bから出力される出力信号Obに基づくタップ係数の算出を開始する。ここで、タップ係数算出部20bがタップ係数を順次算出し、FIRフィルタ52bに入力するタップ係数を順次更新していく過程における、フィルタ型回り込み低減器50bに入力される入力信号Ib、FIRフィルタ52bが加算器54bに出力する低減信号Rb、およびフィルタ型回り込み低減器50bから出力される出力信号Obの相互の関係について説明する。
ここでは、説明の便宜上、図4(a)に示すように時間間隔Tで到来するインパルス波形信号P1〜Pnが、受信アンテナ90で受信されるものとする。実際の動作は、インパルス波形信号P1〜Pnのそれぞれに対する動作を重ね合わせたものとなるが、説明の容易化のためそれぞれに対する動作を別個独立に説明する。また、説明の便宜上、時間間隔Tは、タップ係数が更新される時間間隔より長いものとする。タップ係数の更新は上記(5)式〜(7)式に従って行われることが好適である。
インパルス波形信号P1が受信されてから、インパルス波形信号P2が受信される直前までの間、スイッチ98が第1の送受信機42の出力側に接続されており、インパルス波形信号P2が時刻t0+Tに受信されると同時にスイッチ98が第2の送受信機43の出力側に接続されるものとする。このとき、インパルス波形信号P2が受信された以後の入力信号Ib、低減信号Rb、および出力信号Obは図4(b)のようになる。入力信号Ibとしては、インパルス波形信号P2が受信されると共に、インパルス波形信号P2の直接波信号Xが入力される。それ以後、時間間隔τで、1回の回り込み信号X1、2回の回り込み信号X2、3回の回り込み信号X3・・・というように回り込みによるインパルス波形信号が入力される。スイッチ98が第2の送受信機43の出力側に接続された当初においては、タップ係数算出部20bがタップ係数の初期値を零としていることから低減信号Rbの値は零となる。出力信号Obは、入力信号Ibと低減信号Rbとが加算された信号である。したがって、出力信号Obは、入力信号Ibと同一の信号となる。
タップ係数算出部20bは、図4(b)の出力信号Obに基づいて、先に算出されたタップ係数に修正タップ係数を加算し、新たなタップ係数をFIRフィルタ52bに入力する。この処理は、上記(5)式および(6)式に従って行われることが好適である。このようにしてタップ係数が算出された後、インパルス波形信号P3が時刻t0+2Tに受信された以後の入力信号Ib、低減信号Rb、および出力信号Obは図4(c)のようになる。FIRフィルタ52bは、当該タップ係数に従う特性によって、直接波信号Yに基づいて、直接波信号Yが入力されてから時間τだけ経過した後に加算器54bに出力される信号Qを生成し、低減信号Rbとして出力する。図4(c)における2回の回り込み信号Y2は、低減信号Rbとしての信号Qによってその値の大きさが低減されたものである。入力信号Ibとしては、それ以後、時間間隔τで、3回の回り込み信号Y3、4回の回り込み信号Y4・・・というように回り込みによるインパルス波形信号が入力される。1回の回り込み信号が低減信号Rbによって既に低減されたものであることにより、2回以降の回り込み信号は、低減信号Rbによって低減されたものとなる。
タップ係数算出部20bは、図4(c)の出力信号Obに基づいて、先に算出されたタップ係数に修正タップ係数を加算し、新たなタップ係数をFIRフィルタ52bに入力する。この処理は、上記(5)式〜(7)式に従って行われることが好適である。このようなタップ係数の更新を繰り返し、インパルス波形信号P2が受信されてから充分時間が経過して到来するインパルス波形信号Pnが受信された以後には、入力信号Ib、低減信号Rb、および出力信号Obは図4(d)のようになる。この状態では、直接波信号Zが入力された時間からτ経過後に、1回の回り込み信号Z1が入力信号Ibとして入力される。低減信号Rbとしては、直接波信号Zが入力された時間からτ経過後に、1回の回り込み信号Z1と大きさが同一で極性が異なる信号Qが加算器54bに出力される。出力信号Obは、入力信号Ibと低減信号Rbとが加算された信号であるため、1回の回り込み信号Z1は信号Qによって相殺され、出力信号Obとしては1回の回り込み信号Z1が相殺された信号が出力される。
従来の構成において行われていた処理に従えば、第1の送受信機42が現用送受信機として動作しているときにおいては、FIRフィルタ52bがフィルタ型回り込み低減器50bから出力される出力信号Obに基づいて生成された低減信号Rbを出力して待機する。そのため、スイッチ98が第2の送受信機43の出力側に接続された当初では、スイッチ98が第2の送受信機43の出力側に接続される前の状態で生成された低減信号Rbが加算器54bに出力される。この場合、低減信号Rbは、収束の過程で1回の回り込み信号と同一の極性の信号となることがあり、低減信号Rbが1回の回り込み信号を増大させるように作用し、第2の送受信機43が発振現象を惹き起こすことがあった。
一方、本実施形態に係るタップ係数算出部20bは、タップ係数の初期値を零とし、スイッチ98が第2の送受信機43の出力側に接続された後の出力信号Obに基づいてタップ係数を更新する。これによって、低減信号Rbは、1回の回り込み信号と逆極性の信号となる。したがって、低減信号Rbが零である図4(b)に示す状態から、低減信号Rbとして1回の回り込み信号Z1と大きさが同一で極性が異なる信号Qが出力される図4(d)に示す状態となるまでの間、出力信号Obが増大する過程は存在しない。そのため、第2の送受信機43が発振現象を惹き起こすことはない。
図5の線wは、従来の構成と同様の処理を採用した場合において、スイッチ98が第2の送受信機43の出力側に接続された時刻以降における、1回の回り込み信号と同時に加算器54bに低減信号Rbとして入力される信号Wの様子を概念的に示したものである。信号Wは離散的に算出されるが、図5では離散的に得られた値を線で結んで連続的に表現している。縦軸は信号の値を表し、横軸はタップ係数を算出する処理のステップを表す番号j((7)式と同様の定義である。)を表す。図5の縦軸は1回の回り込み信号と同一の極性を正とする。発振閾値Oscは、信号Wの値がこの値を超えると第2の送受信機43が発振するおそれがあることを意味する。
図5が示すように、信号Wは、番号jの増加と共に一旦正方向に振れながら1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性の値−Convに収束していく。信号Wが、図5の発振閾値Oscを超えるj=1〜4の間では、第2の送受信機43が発振するおそれがある。線wは説明のために概念的に示したものであるため、実際には様々な態様をとりうるが、番号jの増加と共に振動する現象は従来の構成における処理に見られる一般的な傾向である。
一方、図5の線qは、本実施形態において、スイッチ98が第2の送受信機43の出力側に接続された時刻以降における、1回の回り込み信号と同時に加算器54bに低減信号Rbとして入力される信号Qの様子を概念的に示したものである。図5に示されるように、信号Qは、番号jの増加と共に単調に1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性の値−Convに収束していく。図5に示されるように信号Qは発振閾値Oscを超えることがないため第2の送受信機43が発振するおそれはない。
なお、ここでは、第1の送受信機42が現用送受信機として動作しているときにおいては、第2の送受信機43はタップ係数算出部20bが値が零であるタップ係数をFIRフィルタ52bに出力した状態で待機する場合について説明した。しかし、このような待機状態においてタップ係数算出部20bは必ずしも値が零であるタップ係数を出力する必要はなく、信号Qが発振閾値Oscを超えることなく1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性の値−Convに収束していくことが保証される零でない定数をタップ係数として出力して待機すればよい。
次に、本発明の第1の応用例に係る中継放送装置2について、図6を参照して説明する。中継放送装置1と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。中継放送装置2では、タップ係数算出部20aとFIRフィルタ52aとの間、およびタップ係数算出部20bとFIRフィルタ52bとの間に、それぞれタップ係数抑圧部22aおよび22bを挿入している。
タップ係数算出部20aおよび20bは、算出したタップ係数を、それぞれタップ係数抑圧部22aおよび22bに出力する。タップ係数抑圧部22aおよび22bは、タップ係数に抑圧関数Supp(j)を乗じて出力する。抑圧関数Supp(j)は、j≧0において定義される関数である。抑圧関数Supp(j)は、j=0において0以上1未満の値を示し、jが増加するに従って1に収束する関数であればどのようなものであってもよい。例えば、抑圧関数Supp(j)としては次の(8)式が考えられる。
ここでeは、自然対数の底である。Const1およびConst2は、主に1に収束する速さを決定する正の数、μは主にj=0における抑圧関数Supp(j)の値を決定する定数である。図7に示すように、抑圧関数Supp(j)は第1の送受信機42または第2の送受信機43が現用送受信機として動作を開始するj=0以降において、jが増加するに従って1に漸近していく。ただし、μは1に比して充分小さい値であるものとしている。
第1の送受信機42または第2の送受信機43が予備送受信機として動作しているときは、タップ係数抑圧部22aまたは22bが抑圧関数Supp(j)に代えてタップ係数に乗じる値は任意である。
本応用例に係る中継放送装置2では、第1の送受信機42が現用送受信機として動作を開始してから充分な時間が経過しているときにおいては、タップ係数抑圧部22aは、1に収束した抑圧関数Supp(j)をタップ係数算出部20aが出力するタップ係数に乗じてFIRフィルタ52aに出力する。また、第1の送受信機42が現用送受信機として動作しているときにおいては、第2の送受信機43のタップ係数算出部20bはタップ係数算出部20aと同様の処理を行って算出したタップ係数をタップ係数抑圧部22bに出力する。タップ係数抑圧部22bは抑圧関数Supp(j)に代えて任意の値をタップ係数算出部20bが出力するタップ係数に乗じてFIRフィルタ52bに出力する。
そして、第2の送受信機43を現用送受信機として動作させるために、スイッチ98を第2の送受信機43の出力側に接続したとき以降は、タップ係数抑圧部22bは抑圧関数Supp(j)をタップ係数算出部20bが出力するタップ係数に乗じてFIRフィルタ52bに出力する。
このような構成によれば、第2の送受信機43を現用送受信機として動作させるために、スイッチ98を第2の送受信機43の出力側に接続したとき以降は、タップ係数算出部20bが出力するタップ係数に抑圧関数Supp(j)が乗ぜられる。そのため、低減信号Rbとして加算器54bに入力される信号Wの値が発振閾値Oscを超えないようにすることができ、第2の送受信機43が発振現象を惹き起こすことを回避することができる。
第1の応用例に係る中継放送装置2では、第2の送受信機43が予備送受信機として動作しているときにおいては、タップ係数算出部20bは従来の構成における処理と同様の処理を行う。そして、第2の送受信機43が現用送受信機としての動作を開始した以降は、タップ係数算出部20bが出力するタップ係数の値の調整により、1回の回り込み信号と同時に加算器54bに低減信号Rbとして入力される信号Wの値を抑圧する。この調整は、タップ係数抑圧部22bが行う処理によって可能となる。このような構成に代えて、タップ係数算出部20bにおける(7)式に従う処理を変更することで信号Wの値を抑圧する構成としたものが次に説明する本発明の第2の応用例に係る中継放送装置3である。
図8に中継放送装置3の構成を示す。中継放送装置1と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。中継放送装置3では、抑圧関数生成部24aおよび24bを設けている点が中継放送装置1と異なる。また、タップ係数算出部20aおよび20bに代えて、それぞれタップ係数算出部20aSおよび20bSを備える。
抑圧関数生成部24aおよび24bは、それぞれ抑圧関数Supp(j)の値を生成し、タップ係数算出部20aSおよび20bSに出力する。タップ係数算出部20aSまたは20bSは、上記(7)式に代えて、次の(9)式に基づいてタップ係数を更新する。
なお、第1の送受信機42または第2の送受信機43が予備送受信機として動作しているときは、タップ係数算出部20aSおよび20bSが抑圧関数Supp(j)の値に代えて任意の値を適用する。
すなわち、本応用例に係る中継放送装置3では、第1の送受信機42が現用送受信機として動作を開始してから充分な時間が経過しているときにおいては、タップ係数算出部20aSは、1に収束した抑圧関数Supp(j)を(9)式に適用する。また、第1の送受信機42が現用送受信機として動作しているときにおいては、第2の送受信機43のタップ係数算出部20bSは抑圧関数Supp(j)の値に代えて任意の値を(9)式に適用する。
そして、第2の送受信機43を現用送受信機として動作させるために、スイッチ98を第2の送受信機43の出力側に接続したとき以降は、タップ係数算出部20aSは、抑圧関数Supp(j)の値に代えて任意の値を(9)式に適用し、タップ係数算出部20bSは抑圧関数Supp(j)を(9)式に適用する。
さらに、上記(7)式に代えて、次の(10)式に基づいてタップ係数を更新することも可能である。
なお、(9)式を適用する場合と同様、第1の送受信機42または第2の送受信機43が予備送受信機として動作しているときは、タップ係数算出部20aSおよび20bSが抑圧関数Supp(j)の値に代えて任意の値を適用することとする。
すなわち、本応用例に係る中継放送装置3では、第1の送受信機42が現用送受信機として動作を開始してから充分な時間が経過しているときにおいては、タップ係数算出部20aSは、1に収束した抑圧関数Supp(j)を(10)式に適用する。また、第1の送受信機42が現用送受信機として動作しているときにおいては、第2の送受信機43のタップ係数算出部20bSは抑圧関数Supp(j)の値に代えて任意の値を(10)式に適用する。
そして、第2の送受信機43を現用送受信機として動作させるために、スイッチ98を第2の送受信機43の出力側に接続したとき以降は、タップ係数算出部20aSは、抑圧関数Supp(j)の値に代えて任意の値を(10)式に適用し、タップ係数算出部20bSは抑圧関数Supp(j)を(10)式に適用する。
(9)式または(10)式に従う処理によれば、第2の送受信機43を現用送受信機として動作させるために、スイッチ98を第2の送受信機43の出力側にしたとき以降は、タップ係数算出部20bSが出力するタップ係数に抑圧関数Supp(j)が乗ぜられる。そのため、低減信号Rbとして加算器54bに入力される信号Wの値が発振閾値Oscを超えないようにすることができ、第2の送受信機43が発振現象を惹き起こすことを回避することができる。
次に、本発明の第2の実施形態に係る中継放送装置4について、図9を参照して説明する。図1の中継放送装置1と同一の構成部については同一の符号を付してその説明を省略する。第1の送受信機44は、受信機12a、伝送パラメータ制御型回り込み低減器60a、送信機14aを備えて構成され、図1の第1の送受信機42におけるフィルタ型回り込み低減器50aを伝送パラメータ制御型回り込み低減器60aに置き換えた構成となっている。伝送パラメータ制御型回り込み低減器60aは、加算器54a、可変遅延器62a、可変位相器64a、可変減衰器66aを備えて構成される。また、第2の送受信機45の構成は、第1の送受信機44と同一である。第2の送受信機45が備える構成部であって第1の送受信機44が備える構成部と同一のものについては末尾の符号aをbに変更した符号を付し、説明を簡略に行う。なお、本実施形態についても、第1の実施形態と同様、送信機14aおよび14bの増幅利得配分を低減し、スイッチ98と送信アンテナ92との間にパワーアンプを挿入する構成とすることが可能である。
制御部80は、制御信号Coによって可変遅延器62aおよび62bの遅延時間、可変位相器64aおよび64bの位相推移量、可変減衰器66aおよび66bの減衰量を制御する。ここで、位相推移量とは変調信号の搬送波に対する位相推移量をいい、遅延時間とは変調信号の情報伝送にもたらされる伝送遅延時間をいう。
本実施形態に係る中継放送装置4は、第1の送受信機44については、第1の実施形態においてFIRフィルタ52aを用いて低減信号Raを生成していたのに代えて、可変遅延器62a、可変位相器64a、可変減衰器66aによって低減信号Raを生成する。可変遅延器62aは、伝送パラメータ制御型回り込み低減器60aの出力信号Oaの遅延時間を調整して可変位相器64aに入力する。可変位相器64aは、可変遅延器62aから入力された信号の搬送波の位相を調整して可変減衰器66aに入力する。可変減衰器66aは、可変位相器64aから入力された信号の振幅を調整して低減信号Raとして加算器54aに入力する。可変遅延器62aの遅延時間、可変位相器64aの位相推移量、および可変減衰器66aでの減衰量は、制御部80から出力される制御信号Coに従って調整される。
制御部80から出力される制御信号Coに従って、可変遅延器62aの遅延時間、可変位相器64aの位相推移量、および可変減衰器66aでの減衰量がそれぞれ調整されることによって、加算器54aには1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性(同振幅逆位相)の関係にある低減信号Raが入力される。遅延時間、位相推移量、および減衰量の調整は、可変遅延器62a、可変位相器64a、および可変減衰器66aが縦続接続されることによる伝送特性が周波数領域の回り込み伝達関数の逆位相値−Cp(ω)と一致するよう行われる。すなわち、制御部80は、伝送パラメータ制御型回り込み低減器60aの出力信号Oaに基づき、修正回り込み伝達関数によって修正された周波数領域の回り込み伝達関数Cp(ω)を算出する。この処理は、上記(1)式、(2)式、および(5)に従って行うことが好適である。そして、可変遅延器62a、可変位相器64a、および可変減衰器66aが縦続接続されることによる伝送特性が周波数領域の回り込み伝達関数の逆位相値−Cp(ω)と一致するよう、可変遅延器62a、可変位相器64a、および可変減衰器66aを制御する。これによって、受信機12aから入力された入力信号Iaに含まれる1回の回り込み信号は、加算器54aにおいて低減信号Raが加算されることによって低減される。
本実施形態に係る中継放送装置4では、第1の送受信機44が現用送受信機として動作しているときにおいては、第2の送受信機45は、可変遅延器62bの遅延時間が零、可変位相器64bの位相推移量が零、および可変減衰器66bでの減衰量が無限大である状態で待機する。すなわち、制御部80は、可変遅延器62bの遅延時間が零、可変位相器64bの位相推移量が零、および可変減衰器66bでの減衰量が無限大となる状態に、可変遅延器62b、可変位相器64b、および可変減衰器66bを制御して待機する。
スイッチ98が第1の送受信機44の出力側に接続され第1の送受信機44が現用送受信機として動作している状態において、スイッチ98を第2の送受信機45の出力側に接続した場合の動作は、第1の実施形態に係る中継装置1と同様にして説明することができる。
まず、スイッチ98が第2の送受信機45の出力側に接続された当初においては、制御部80が可変減衰器66bの減衰量を無限大としていることから低減信号Rbの値は零となる。制御部80は、伝送パラメータ制御型回り込み低減器60bの出力信号Obに基づいて、1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性の関係にある信号に低減信号Rbが漸近していくよう、可変遅延器62b、可変位相器64b、および可変減衰器66bを制御する。
すなわち、制御部80は、上記(1)式および(2)式に従う処理等に基づいて回り込み伝達関数C(ω)を算出する。そして、修正回り込み伝達関数ΔC(ω)を算出し、先に算出した回り込み伝達関数に加算するという処理を所定時間間隔で繰り返す。修正回り込み伝達関数ΔC(ω)の算出は上記(5)式に従うことが好適である。すなわち、先に算出された回り込み伝達関数をCj(ω)、これに対する修正回り込み伝達関数をΔCj(ω)とすれば、新たな回り込み伝達関数Cj+1(ω)は次の(11)式のようになる。
このように回り込み伝達関数を更新し、可変遅延器62b、可変位相器64b、および可変減衰器66bが縦続接続されることによる伝送特性を、更新された回り込み伝達関数の逆位相値と一致させる処理を繰り返すことにより、1回の回り込み信号と大きさが同一で逆極性の関係にある低減信号Rbが加算器54bに入力される状態に収束する。
このような処理によれば、低減信号Rbが零である状態から、低減信号Rbとして1回の回り込み信号と大きさが同一で極性が異なる信号が出力されるまでの間、出力信号Obが増大する過程は存在しない。そのため、第2の送受信機45が発振現象を惹き起こすことはない。
なお、(11)式に代えて、上記(8)式に定義した抑圧関数Supp(j)を適用した次の(12)式または(13)式に従って新たな回り込み伝達関数Cj+1(ω)を算出する構成とすることも可能である。この場合、中継放送装置4には、中継放送装置3に適用されているものと同一の抑圧関数生成部24aおよび24bをさらに設ける。そして、抑圧関数生成部24aおよび24bが、制御部80に抑圧関数Supp(j)の値を出力する構成とする。
(12)式または(13)式に従って新たな回り込み伝達関数Cj+1(ω)を算出する場合、第1の送受信機44が現用送受信機として動作を開始してから充分な時間が経過しているときにおいては、制御部80は、1に収束した抑圧関数Supp(j)を(12)式または(13)式に適用し、可変遅延器62a、可変位相器64a、および可変減衰器66aを制御する。また、制御部80は、抑圧関数Supp(j)の値に代えて任意の値を(12)式または(13)式に適用し、可変遅延器62b、可変位相器64b、および可変減衰器66bを制御する。
そして、第2の送受信機45を現用送受信機として動作させるために、スイッチ98を第2の送受信機45の出力側に接続したとき以降は、制御部80は、抑圧関数Supp(j)の値に代えて任意の値を(12)式または(13)式に適用し、可変遅延器62a、可変位相器64a、および可変減衰器66aを制御する。また、制御部80は、抑圧関数Supp(j)を(12)式または(13)式に適用し、可変遅延器62b、可変位相器64b、および可変減衰器66bを制御する。
(12)式または(13)式に従う処理によれば、第2の送受信機45を現用送受信機として動作させるために、スイッチ98を第2の送受信機45の出力側に接続したとき以降は、制御部80が算出する回り込み伝達関数に抑圧関数Supp(j)が乗ぜられる。そのため、低減信号Rbとして加算器54bに入力される信号Wの値が、発振閾値Oscを超えないようにすることができ、第2の送受信機43が発振現象を惹き起こすことを回避することができる。
以上では、第1の送受信機42または44を現用送受信機とし、第2の送受信機43または45を予備送受信機とした場合の動作について説明したが、第2の送受信機43または45を現用送受信機とし、第1の送受信機42または44を予備送受信機とした場合についても全く同様の動作を行うことは明らかである。
1,2,3,4 中継放送装置、 12a,12b 受信機、14a,14b 送信機、20a,20b,20aS,20bS タップ係数算出部、22a,22b タップ係数抑圧部、24a,24b 抑圧関数生成部、50a,50b フィルタ型回り込み低減器、52a,52b FIRフィルタ、52e1〜52em 乗算器、52f1〜52fm−1 遅延器、52g 加算合計器、54a,54b,70a−2,70b−2 加算器、60a,60b 伝送パラメータ制御型回り込み低減器、62a,62b 可変遅延器、40,44 第1の送受信機、41,45 第2の送受信機、64a,64b 可変位相器、66a,66b 可変減衰器、70a,70b 回り込み低減器、70a−1,70b−1 低減信号生成部、80 制御部、90 受信アンテナ、92 送信アンテナ、94 分配器、98 スイッチ。