しかしながら、上記特許文献1で開示された基板の塗布不要部分にマスキングテープを貼る方法では、テープを貼る装置およびテープを剥がす装置が必要となり、設置スペースが広く必要となりコスト増加の要因となる。また、テープを貼るおよび剥がす作業や塗布後に綿棒等を用いて塗布不要領域に塗布された塗布液を除去する作業を手作業で行う場合、スループットが低下して量産に不適であると同時に、テープ貼付作業や塗布除去作業の精度が製品精度に直結するために手作業の熟練が必要となり、個人差に応じたデバイス毎の個体差が発生してしまう。
また、塗布液の塗布後にマスキングテープを剥がした際にマスキングテープの接着剤やパーティクルが残る可能性がある。さらに、基板の塗布領域とマスキングテープを貼った領域との境では、塗布液がマスキングテープを貼った部分に回りこみ、塗布不要領域にも材料が塗布されてしまう可能性がある。このように、マスキングテープを用いる方法では、基板の塗布不要領域に付着物が残らないようにきれいに形成することが難しい。そのため、塗布された基板の四方端部を有機EL表示装置に封止する際に、塗布不要領域に残った付着物のために、封止剤の接着が不十分になるおそれがあった。また、マスキングテープを使用すること自体がコスト増加の要因となる。
さらに、塗布不要領域に塗布された塗布液にレーザ光を照射して当該塗布液を気体化させることによって、塗布液を除去する方法も考えられる。しかしながら、レーザ光を塗布不要領域に照射すると、除去対象となった塗布液の他に塗布不要領域の基板にもレーザ光が照射される。したがって、基板にレーザ光によるダメージを与えてしまうことが考えられる。例えば、塗布液の中には照射されるレーザ光に対してエネルギ吸収率が十分でないことがある。この場合、レーザ強度を大きくしたり、照射時間・回数を増やしたりする対応によって、塗布不要領域に塗布された塗布液を完全に除去しようとするので、除去対象の塗布液だけでなく基板に与えるダメージも大きくなってしまう。
それ故に、本発明の目的は、基板の塗布不要領域に付着物を残さずに基板にダメージを与えることなく塗布液を除去して、必要な領域のみに塗布液を塗布する塗布方法および塗布装置を提供することである。
上記目的を達成するために、本発明は、以下に述べるような特徴を有している。
第1の発明は、基板上に塗布液を塗布する塗布方法である。塗布方法は、液膜生成ステップ、塗布ステップ、および液膜除去ステップを含む。液膜生成ステップは、基板の塗布面の一部に設定された塗布不要領域上に塗布液が不溶となる不溶液を供給して、その塗布不要領域上にその不溶液の液膜を生成する。塗布ステップは、液膜が形成された後の基板の塗布面上に塗布液を塗布する。液膜除去ステップは、基板上に塗布液が塗布された後の基板上から、液膜と共にその液膜内に存在する塗布液を除去する。さらに、液膜除去ステップは、吸引ステップを含む。吸引ステップは、基板上に塗布液が塗布された後の基板上から、液膜と共にその液膜内に存在する塗布液を吸引する。
第2の発明は、基板上に塗布液を塗布する塗布方法である。塗布方法は、液膜生成ステップ、塗布ステップ、および液膜除去ステップを含む。液膜生成ステップは、基板の塗布面の一部に設定された塗布不要領域上に塗布液が不溶となる不溶液を供給して、その塗布不要領域上にその不溶液の液膜を生成する。塗布ステップは、液膜が形成された後の基板の塗布面上に塗布液を塗布する。液膜除去ステップは、基板上に塗布液が塗布された後の基板上から、液膜と共にその液膜内に存在する塗布液を除去する。さらに、塗布方法は、平行移動ステップを含む。平行移動ステップは、基板を塗布面に平行な第1方向へ相対的に移動する。液膜生成ステップは、第1方向へ相対的に移動する基板の塗布面上から不溶液を供給して第1方向に液膜を形成する。塗布ステップは、ノズル塗布ステップを含む。ノズル塗布ステップは、液膜が形成された後に第1方向へ相対的に移動する基板上の空間において、塗布面に平行でありかつ第1方向と異なる第2方向へ往復移動するノズルから塗布液を吐出してその塗布液を塗布する。液膜除去ステップは、塗布液が塗布された後に第1方向へ相対的に移動する基板上から、液膜と共にその液膜内に存在する塗布液を除去する。
第3の発明は、基板上に塗布液を塗布する塗布方法である。塗布方法は、液膜生成ステップ、塗布ステップ、および液膜除去ステップを含む。液膜生成ステップは、基板の塗布面の一部に設定された塗布不要領域上に塗布液が不溶となる不溶液を供給して、その塗布不要領域上にその不溶液の液膜を生成する。塗布ステップは、液膜が形成された後の基板の塗布面上に塗布液を塗布する。液膜除去ステップは、基板上に塗布液が塗布された後の基板上から、液膜と共にその液膜内に存在する塗布液を除去する。さらに、塗布液は、無機溶剤を主溶媒とする高分子系材料である。不溶液は、テトラヒドロナフタレン(テトラリン)、トリメチルベンゼン(メシチレン)、およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)からなる群から選ばれる1つである。
第4の発明は、上記第1の発明から第3の発明において、液膜生成ステップは、紫外線照射ステップおよび不溶液供給ステップを含む。紫外線照射ステップは、基板の塗布不要領域に対して紫外線を照射する。不溶液供給ステップは、紫外線が照射された塗布不要領域上に不溶液を所定量供給する。
第5の発明は、上記第1の発明から第2の発明において、塗布液は、有機溶剤を主溶媒とする高分子系材料である。不溶液は、水である。
第6の発明は、基板上に塗布液を塗布する塗布装置である。塗布装置は、ノズル、ステージ、相対移動機構、液膜生成機構、ノズル移動機構、および液膜除去機構を備える。ノズルは、その先端部から塗布液を吐出する。ステージは、基板を載置面に載置する。相対移動機構は、ノズルおよびステージの少なくとも一方を載置面に平行な第1方向に相対的に移動させる。液膜生成機構は、基板の塗布面の一部に設定された塗布不要領域上に塗布液が不溶となる不溶液を供給して、その塗布不要領域上にその不溶液の液膜を生成する。ノズル移動機構は、液膜が形成された後の基板を載置するステージ上の空間において、ステージの載置面に平行でありかつ第1方向と異なる第2方向にノズルを往復移動させる。液膜除去機構は、基板上に塗布液が塗布された後の基板上から、液膜と共にその液膜内に存在する塗布液を除去する。
上記第1の発明によれば、基板上の塗布不要領域に対して液膜を形成し、当該液膜内に吐出された塗布液を液膜と共に除去することによって、塗布液が塗布されない領域を形成する。したがって、被塗布体である基板にダメージを与えることなく塗布液を除去して、必要な領域のみに塗布液を塗布する塗布方法が実現できる。また、液膜を生成する位置を調整することによって、基板の端部以外の領域にも塗布されない領域を形成することができ、当該領域によって分けられた複数の領域にそれぞれ塗布液が塗布された基板を生成できる。さらに、吸引によって基板上の液膜および液膜内の塗布液を除去することによって、当該基板上に除去するべき液膜や塗布液等が飛び散ることなく除去することができる。
上記第2の発明によれば、基板上の塗布不要領域に対して液膜を形成し、当該液膜内に吐出された塗布液を液膜と共に除去することによって、塗布液が塗布されない領域を形成する。したがって、被塗布体である基板にダメージを与えることなく塗布液を除去して、必要な領域のみに塗布液を塗布する塗布方法が実現できる。また、液膜を生成する位置を調整することによって、基板の端部以外の領域にも塗布されない領域を形成することができ、当該領域によって分けられた複数の領域にそれぞれ塗布液が塗布された基板を生成できる。さらに、ノズル塗布する方向に対して異なる方向に塗布不要領域を形成することができる。また、塗布されない領域の形成にあたっては基板が直進移動する動作を利用しているため、各ステップを実現する機構を固定する位置を調整するのみで直線性に優れた除去領域を形成できる。このとき、基板から塗布液を除去するための基板の位置決め等が不要であり、高精度の除去のために新たに必要な機構を最小限に構成できる。さらに、塗布液を除去する動作が自動的に行われるため、製品精度の手作業による個人差やデバイス毎の個体差を低減することができる。
上記第3の発明によれば、基板上の塗布不要領域に対して液膜を形成し、当該液膜内に吐出された塗布液を液膜と共に除去することによって、塗布液が塗布されない領域を形成する。したがって、被塗布体である基板にダメージを与えることなく塗布液を除去して、必要な領域のみに塗布液を塗布する塗布方法が実現できる。また、液膜を生成する位置を調整することによって、基板の端部以外の領域にも塗布されない領域を形成することができ、当該領域によって分けられた複数の領域にそれぞれ塗布液が塗布された基板を生成できる。さらに、塗布液の主溶媒と異なる性質で沸点が相対的に高い液体を不溶液にすることによって、塗布液と液膜とが混ざり合うことなく、また除去されるまで液体状態を保つことができる。
上記第4の発明によれば、紫外線を照射した領域は親水性が高くなるため、照射された領域上に供給された不溶液は、当該領域内に留まる状態となる。つまり、基板の塗布不要領域に紫外線を照射すれば、所望の幅で形成された不溶液の液膜が塗布不要領域上に形成され、正確な塗布不要領域を形成することができる。
上記第5の発明によれば、塗布液の主溶媒と異なる性質で沸点が相対的に高い液体を不溶液にすることによって、塗布液と液膜とが混ざり合うことなく、また除去されるまで液体状態を保つことができる。
本発明の塗布装置によれば、上述した塗布方法と同様の効果を得ることができる。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る塗布装置について説明する。説明を具体的にするために、当該塗布装置が蛍光材料もしくは燐光材料である有機EL材料や正孔輸送材料等を塗布液として用いる有機EL表示装置を製造する装置に適用された例を用いて、以下の説明を行う。有機EL表示装置を製造する装置は、有機EL材料や正孔輸送材料等をステージ上に載置されたガラス基板上に所定のパターン形状に塗布して有機EL表示装置を製造するものである。図1は、有機EL表示装置の製造装置1の要部概略構成を示す平面図および正面図である。また、図2は、有機EL表示装置の製造装置1の要部概略構成を示す側面図である。
有機EL表示装置を製造する装置に用いられる塗布装置は、上述したように有機EL材料や正孔輸送材料等の複数の塗布液を塗布し、用いられる有機EL材料や正孔輸送材料は、有機溶剤または無機溶剤を主溶媒とする高分子系材料である。例えば、正孔輸送材料として用いられる高分子系材料はPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)であり、有機溶剤系の液体に対して不溶となる水溶性のものや水等の無機溶剤系の液体に対して不溶となる非水溶性のものが用いられる。
図1において、有機EL表示装置の製造装置1は、大略的に、基板載置装置2および有機EL塗布機構5を備えている。有機EL塗布機構5は、ノズル移動機構部51、ノズルユニット52、液受部53、液膜生成機構部55、および液膜除去機構部56を有している。ノズル移動機構部51は、ガイド部材511が図示X軸方向に延設されており、ノズルユニット52をガイド部材511に沿って図示X軸方向に移動させる。ノズルユニット52は、赤、緑、および青色の有機EL材料や正孔輸送材料をそれぞれ吐出するノズル521〜523を並設した状態で保持する。各ノズル521〜523へは、それぞれ供給部(図2参照)から赤、緑、および青色の有機EL材料や正孔輸送材料が供給される。
液膜生成機構部55は、スリットノズル551Lおよび551Rと、UV照射部552Lおよび552Rと、図示X軸方向に延設されたガイド部材553とを含んでいる。スリットノズル551Lおよび551Rと、UV照射部552Lおよび552Rとは、基板載置装置2に載置されて平行移動する基板Pの塗布不要領域(例えば、基板Pの両端の領域NLおよびNR;後述)の上方となるように、それぞれガイド部材553に沿って(図示a方向)位置調整されて固定される。UV照射部552Lおよび552Rは、基板載置装置2に載置された基板Pの塗布不要領域にUV(紫外線)を照射して当該の塗布不要領域における親水性を高める。スリットノズル551Lおよび551Rは、基板載置装置2に載置された基板Pの塗布不要領域に塗布液が不溶となる液体(以下、不溶液と記載する)を供給し、当該塗布不要領域に不溶液の液膜を生成する。なお、一対のスリットノズル551Lおよび551Rを総称して説明する場合、スリットノズル551と参照符号を付して説明を行う。また、一対のUV照射部552Lおよび552Rを総称して説明する場合、UV照射部552と参照符号を付して説明を行う。
液膜除去機構部56は、吸引ヘッド561Lおよび561Rと、図示X軸方向に延設されたガイド部材562とを含んでいる。吸引ヘッド561Lおよび561Rは、基板載置装置2に載置されて平行移動する基板Pの塗布不要領域の上方となるように、ガイド部材562に沿って(図示b方向)位置調整されて固定される。吸引ヘッド561Lおよび561Rは、基板載置装置2に載置された基板Pの塗布不要領域に形成された液膜および当該液膜に混在する塗布液を吸引して除去する。なお、一対の吸引ヘッド561Lおよび561Rを総称して説明する場合、吸引ヘッド561と参照符号を付して説明を行う。ここで、ノズル移動機構部51、液膜生成機構部55、および液膜除去機構部56は、塗布液を塗布する際に基板Pが平行移動する方向(図示Y軸正方向)に対して、液膜生成機構部55、ノズル移動機構部51、液膜除去機構部56の順に併設されている。
基板載置装置2は、ステージ21、旋回部22、平行移動テーブル23、ガイド受け部24、およびガイド部材25を有している。なお、平行移動テーブル23、ガイド受け部24、およびガイド部材25が、本発明の相対移動機構に相当する。ステージ21は、被塗布体となるガラス基板等の基板Pをそのステージ上面に載置する。ステージ21の下部は、旋回部22によって支持されており、旋回部22の回動動作によって図示θ方向にステージ21が回動可能に構成されている。
有機EL塗布機構5の下方を通るように、ガイド部材25が上記X軸方向と垂直の図示Y軸方向に延設されて固定される。平行移動テーブル23の下面にはガイド部材25と当接してガイド部材25上を滑動するガイド受け部24が固設されている。また、平行移動テーブル23の上面には、旋回部22が固設される。これによって、平行移動テーブル23が、例えばリニアモータ(図示せず)からの駆動力を受けてガイド部材25に沿った図示Y軸方向に移動可能になり、旋回部22に支持されたステージ21の移動も可能になる。
次に、図3を参照して、有機EL表示装置の製造装置1における制御機能の概略構成について説明する。なお、図3は、有機EL表示装置の製造装置1の制御機能を示すブロック図である。
図3において、有機EL表示装置の製造装置1は、上述した構成部の他に、制御部3、第1供給部54a、第2供給部54b、および第3供給部54cを備えている。例えば、第1〜第3供給部54a〜54cが赤、緑、および青色の有機EL材料を吐出する場合、第1供給部54aは、赤色の有機EL材料を赤色用のノズル521に供給する。第2供給部54bは、緑色の有機EL材料を緑色用のノズル522に供給する。第3供給部54cは、青色の有機EL材料を青色用のノズル523に供給する。第1供給部54aは、赤色の有機EL材料の供給源541aと、供給源541aから赤色の有機EL材料を取り出すためのポンプ542aと、赤色の有機EL材料の流量を検出する流量計543aと、赤色の有機EL材料中の異物を除去するためのフィルタ544aとを備えている。また、第2供給部54bは、緑色の有機EL材料の供給源541bと、供給源541bから緑色の有機EL材料を取り出すためのポンプ542bと、緑色の有機EL材料の流量を検出する流量計543bと、緑色の有機EL材料中の異物を除去するためのフィルタ544bとを備えている。さらに、第3供給部54cは、青色の有機EL材料の供給源541cと、供給源541cから青色の有機EL材料を取り出すためのポンプ542cと、青色の有機EL材料の流量を検出する流量計543cと、青色の有機EL材料中の異物を除去するためのフィルタ544cとを備えている。そして、制御部3は、第1〜第3供給部54a〜54c、旋回部22、平行移動テーブル23、ノズル移動機構部51、液膜生成機構部55、および液膜除去機構部56のそれぞれの動作を制御する。
ステージ21上に基板Pを載置して、図示Y軸正方向へ平行移動テーブル23が有機EL塗布機構5の下方まで移動したとき、UV照射部552から照射されるUV、スリットノズル551から供給される不溶液、ノズル521〜523から吐出される有機EL材料や正孔輸送材料、そして吸引ヘッド561からの吸引を、順に当該基板Pが受ける位置となる。以下、図4〜図11を参照して、各位置において基板Pに施される処理について説明する。
図4は、ステージ21上に基板Pを載置して、図示Y軸正方向へ平行移動テーブル23がUV照射部552の下方まで移動したときに、当該基板Pに施される処理を説明するための概略斜視図である。制御部3は、平行移動テーブル23が基板Pを載置した状態で基板PをY軸正方向へ平行移動させ、やがて基板Pの先端がUV照射部552の下方位置に到達する。このとき、制御部3は、UV照射部552から基板Pの上面に向かってUV照射を開始し、平行移動テーブル23のY軸正方向への平行移動を継続する。これによって、UV照射部552の下方領域となる基板Pの上面にはUVが照射され、平行移動テーブル23のY軸正方向への平行移動によって、照射領域Acが基板PのY軸方向に形成されていく。例えば、基板PのY軸方向に平行な両端周辺領域は、塗布不要領域に設定されている。そして、上述したようにUV照射部552は、基板載置装置2に載置されて平行移動する基板Pの塗布不要領域の上方となる位置に固定されており、UV照射領域Acが塗布不要領域と同一となるように位置調整される。これによって、基板PのY軸方向に平行な両端周辺領域(塗布不要領域)にUVが照射されていく。ここで、基板Pの表面は一般的に親水性が低い状態にあるが、UV照射部552によってUVが照射された基板Pの照射領域Acは、親水性が高くなる。つまり、Y軸方向に形成された基板Pの塗布不要領域にUVを照射することによって、塗布不要領域における基板Pの親水性が高くなる。
図5は、ステージ21上に基板Pを載置して、図示Y軸正方向へ平行移動テーブル23がスリットノズル551の下方まで移動したときに、当該基板Pに施される処理を説明するための概略斜視図である。制御部3は、平行移動テーブル23が基板Pを載置した状態で基板PをY軸正方向へ平行移動させ、やがて基板Pの先端がスリットノズル551の下方位置に到達する。このとき、制御部3は、スリットノズル551から基板Pの上面に向かって不溶液の塗布を開始し、平行移動テーブル23のY軸正方向への平行移動を継続する。また、上述したようにスリットノズル551は、基板載置装置2に載置されて平行移動する基板Pの塗布不要領域の上方となる位置に固定されている。これによって、UV照射部552がUVを照射した照射領域Ac(つまり、塗布不要領域)上にスリットノズル551から吐出した不溶液が塗布されて、所定膜厚の液膜Lwが形成されていく。
図6は、図5の断面c−cをd方向から見た液膜Lwの状態を示す概略断面図である。スリットノズル551から吐出される不溶液は、平行移動テーブル23の平行移動速度に応じて、所定の膜厚および幅で形成された液膜Lwとなるようにその吐出量が調整される。液膜Lwの膜厚は、塗布液の吐出圧に応じて厚い方が好ましいが、基板P上を通過するノズル521〜523の先端部が液膜Lwと接触しない厚さとする。また、液膜LwのX軸方向(図1参照)の幅は、照射領域Acの幅によって制御される。ここで、上述したように照射領域Acは親水性が高くなっており、他の基板Pの上面は親水性が低い状態にある。したがって、照射領域Ac上にスリットノズル551から吐出された不溶液は、液膜限界以上の量を吐出しない限り親水性の高い照射領域Ac内に留まる状態となる。つまり、基板Pの塗布不要領域に対して、照射領域Acを正確に形成し、スリットノズル551からの不溶液吐出量を制御すれば、所望の膜厚および幅で形成された不溶液の液膜Lwが塗布不要領域上に形成されることになる。
ここで、スリットノズル551から吐出されて液膜Lwを構成する不溶液は、ノズル521〜523から吐出される塗布液(正孔輸送材料や有機EL材料)が不溶となる沸点が相対的に高い液体である。例えば、塗布液として用いられる正孔輸送材料が水等の無機溶剤を主溶媒とする水溶性の高分子系材料である場合、当該高分子系材料が不溶となるテトラヒドロナフタレン(テトラリン)、トリメチルベンゼン(メシチレン)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が不溶液として用いられる。一方、塗布液として用いられる有機EL材料や正孔輸送材料が有機溶剤を主溶媒とする高分子系材料である場合、当該高分子系材料が不溶となる水等が不溶液として用いられる。
図7は、ステージ21上に基板Pを載置して、図示Y軸正方向へ平行移動テーブル23がノズルユニット52の下方まで移動したときに、当該基板Pに施される処理を説明するための概略斜視図である。ここで、正孔輸送材料や有機EL材料の塗布を受ける基板Pの表面には、正孔輸送材料や各色の有機EL材料を塗布すべき所定のパターン形状に応じたストライプ状の溝が複数本並設されるように形成されている。例えば、赤、緑、および青色の有機EL材料としては、基板P上の溝内に拡がるように流動する程度の粘性を有する有機性のEL材料が用いられ、具体的には各色毎の高分子タイプの有機EL材料が用いられる。ノズルユニット52は、所定の支持軸周りに回動自在に支持されており、制御部3の制御によって当該支持軸周りに回動させることで、塗布液の塗布ピッチ間隔を調整することができる。なお、ノズル521〜523における正孔輸送材料や有機EL材料を吐出するための穴径は、基板Pに形成された溝の幅より小さい数十μm程度であり、例えば、10〜70μmである。
ノズル521〜523から吐出される塗布液を基板P上面の塗布領域AA上に塗布する際、制御部3がノズルユニット52をX軸方向に往復移動させるようにノズル移動機構部51を制御し、ステージ21をY軸方向へ当該直線移動毎に所定ピッチだけ移動させるように平行移動テーブル23を制御し、ノズル521〜523から所定流量の塗布液を吐出する。なお、基板Pの平行移動方向前方の端部近傍領域には塗布不要領域NHが設定されているが、この塗布不要領域NH上ではノズル521〜523から塗布液を吐出しない。また、ノズル521〜523のX軸方向吐出位置において、ステージ21に載置された基板Pから逸脱する両サイド空間には、基板Pから外れて吐出された有機EL材料を受ける液受部53Lおよび53Rがそれぞれ固設されている。ノズル移動機構部51は、基板Pの一方サイド外側に配設されている液受部53の上部空間から、基板Pを横断して基板Pの他方サイド外側に配設されている液受部53の上部空間まで、ノズルユニット52を往復移動させる。また、平行移動テーブル23は、ノズルユニット52が液受部53の上部空間に配置されている際、ノズル往復移動方向とは垂直の所定方向(図示Y軸方向)に所定ピッチだけステージ21を移動させる。このようなノズル移動機構部51および平行移動テーブル23の動作と同時にノズル521〜523から塗布液を液柱状態で吐出することによって、正孔輸送材料や赤、緑、および青色の有機EL材料が基板Pに形成されたストライプ状の溝毎に赤、緑、青色の順に配列された、いわゆる、ストライプ配列が基板Pの塗布領域AA上に形成される。なお、基板P上のストライプ配列方向は、ステージ21の載置面と平行であり、ステージ21が基板Pを移動させる方向(Y軸方向)に対して垂直となる方向(X軸方向)となる。そして、ストライプ配列は、ステージ21が基板Pを移動させる方向に対して平行に位置する基板Pの2辺の端面間を渡すように形成される。つまり、塗布液は、Y軸方向に対して平行な基板Pの両端付近に形成された液膜Lwに対しても塗布される。
図8は、図7の断面e−eをf方向から見た液膜Lw内の塗布液Qの状態を示す概略断面図である。ここで、液膜Lwを構成する不溶液は、塗布液Qが不溶となる液体である。したがって、ノズル521〜523から液膜Lw上に吐出された塗布液Qは、液膜Lw内で不溶液と混ざり合うことがない。例えば、有機溶剤を主溶媒とするPEDOTが塗布液Qで不溶液が水である場合、塗布液Qは、液膜Lw内で浮いた状態で存在する。つまり、液膜Lw上に塗布された塗布液Qは、基板Pの塗布不要領域に塗布されることなく液膜Lw内の不溶液と混ざり合わずに混在した状態となる。
図9は、ステージ21上に基板Pを載置して、図示Y軸正方向へ平行移動テーブル23が吸引ヘッド561の下方まで移動したときに、当該基板Pに施される処理を説明するための概略斜視図である。制御部3は、平行移動テーブル23が基板Pを載置した状態で基板PをY軸正方向へ平行移動させ、やがて基板Pの先端が吸引ヘッド561の下方位置に到達する。このとき、制御部3は、吸引ヘッド561から基板Pの上面に向かって吸引を開始し、平行移動テーブル23のY軸正方向への平行移動を継続する。ここで、上述したように吸引ヘッド561は、基板載置装置2に載置されて平行移動する基板Pの塗布不要領域の上方となる位置に固定されている。これによって、基板Pの塗布不要領域上に形成された液膜Lwがその内部に混在する塗布液Qと共に吸引ヘッド561へ吸引されていく。
図10は、図9の断面g−gをh方向から見た基板P上の液膜Lwおよび塗布液Qの状態を示す概略断面図である。図8を用いて説明したように、液膜Lw上に塗布された塗布液Qは、基板Pの塗布不要領域に塗布されることなく液膜Lw内の不溶液と混ざり合わずに混在した状態となっている。このような状態で液膜Lwの上方から吸引ヘッド561によって所定圧力以上の吸引が行われると、液膜Lwおよび塗布液Qが基板P上から分離して吸引ヘッド561へ吸引される。したがって、基板Pの塗布不要領域上に形成された液膜Lwおよび塗布液Qが除去され、当該塗布不要領域上には何も塗布液が塗布されていない状態となる。
図11は、図4〜図10を用いて説明した動作を完了した後の基板Pの一例を示す図である。基板Pは、Y軸方向に基板Pの2辺が平行となるようにステージ21上に載置され、当該Y軸正方向に向かって基板載置装置2が平行移動させて塗布されたものである。そして、基板Pの四方端部を塗布不要領域とした領域AAに有機EL材料がストライプ配列で塗布されている。基板Pの四方端部に形成される塗布不要領域をそれぞれ区別するために、Y軸正方向に対して垂直となる基板Pの2辺の内、基板Pが移動する前方に位置する辺に形成される塗布不要領域を領域NHとし、基板Pが移動する後方に位置する辺に形成される塗布不要領域を領域NFとする。また、上記Y軸正方向に対して平行となる基板Pの2辺の内、基板Pが移動する方向の左側に位置する辺に形成される塗布不要領域を領域NLとし、基板Pが移動する方向の右側に位置する辺に形成される塗布不要領域を領域NRとする。このような塗布領域AAを基板P上に形成する場合、UV照射部552Lおよび552R(図1参照)は、それぞれ平行移動する基板Pの塗布不要領域NLおよびNRの上方となる位置に固定される。スリットノズル551Lおよび551R(図1参照)は、それぞれ平行移動する基板Pの塗布不要領域NLおよびNRの上方となる位置に固定される。そして、吸引ヘッド561Lおよび561R(図1参照)は、それぞれ平行移動する基板Pの塗布不要領域NLおよびNRの上方となる位置に固定される。また、Y軸方向に関して基板Pの前後端からそれぞれ所定長さまでの領域NHおよびNFには塗布液が塗布されない。つまり、ノズルユニット52が塗布液を塗布する対象領域は、前後端の塗布不要領域NHおよびNFを除いた基板P上の上面とする。これによって、基板Pの四方端部を塗布不要領域とした領域AAに有機EL材料がストライプ配列で塗布される。この場合、典型的には、1枚の基板Pから1枚の有機EL表示装置が得られる。
なお、有機EL表示装置の製造装置1は、基板Pの四方端部以外の領域を塗布不要領域とすることもできる。図12は、格子状の塗布不要領域を形成した基板Pの一例を示す図である。図12に示すように、基板Pに格子状の塗布不要領域を形成する場合、複数の領域AAに有機EL材料がストライプ配列で塗布される。この場合、基板Pは、Y軸方向に基板Pの2辺が平行となるようにステージ21上に載置され、当該Y軸正方向に向かって基板載置装置2が平行移動させて塗布され、1枚の基板Pから複数の有機EL表示装置が得られる。
ここで、上述した基板Pの四方端部以外に形成される塗布不要領域をそれぞれ区別するために、基板Pの上面内部のX軸方向に形成される2つの塗布不要領域を移動前方側からそれぞれ領域N12およびN23とする。また、Y軸方向に形成される基板Pの中央の塗布不要領域を領域NMとする。これらの塗布不要領域に囲まれて、有機EL材料が塗布される6つの領域AAが形成される。そして、塗布不要領域N12、N23、およびNMに含まれる図12に示す破線部で基板Pを切断することによって6つの基板P1〜P6が得られ、6枚の有機EL表示装置を作成する。具体的には、塗布不要領域NH、N12、NL、およびNMに囲まれて、有機EL材料が塗布される領域AA1Lが形成される。塗布不要領域N12、N23、NL、およびNMに囲まれて、有機EL材料が塗布される領域AA2Lが形成される。塗布不要領域N23、NF、NL、およびNMに囲まれて、有機EL材料が塗布される領域AA3Lが形成される。塗布不要領域NH、N12、NM、およびNRに囲まれて、有機EL材料が塗布される領域AA1Rが形成される。塗布不要領域N12、N23、NM、およびNRに囲まれて、有機EL材料が塗布される領域AA2Rが形成される。そして、塗布不要領域N23、NF、NM、およびNRに囲まれて、有機EL材料が塗布される領域AA3Rが形成される。このような塗布領域を基板P上に形成する場合、UV照射部552Lおよび552Rに加えて、それらの中間位置にさらにUV照射部552Mを設置し、それぞれ平行移動する基板Pの塗布不要領域NL、NM、およびNRの上方となる位置に固定される。また、スリットノズル551Lおよび551Rに加えて、それらの中間位置にさらにスリットノズル551Mを設置し、それぞれ平行移動する基板Pの塗布不要領域NL、NM、およびNRの上方となる位置に固定される。そして、吸引ヘッド561Lおよび561Rに加えて、それらの中間位置にさらに吸引ヘッド561Mを設置し、それぞれ平行移動する基板Pの塗布不要領域NL、NM、およびNRの上方となる位置に固定される。また、Y軸方向に関して基板Pの前後端からそれぞれ所定長さまでの領域NHおよびNFと、基板P内部の2箇所に設けられる塗布不要領域N12およびN23とには塗布液が塗布されない。つまり、ノズルユニット52が塗布液を塗布する対象領域は、前後端の塗布不要領域NH、N12、N23、およびNFを除いた基板P上の上面とする。これによって、基板Pの格子状の領域を塗布不要領域とした複数の領域に有機EL材料がストライプ配列で塗布される。
なお、上述した説明では、基板Pを載置する基板載置装置2をY軸正方向へ移動させながら塗布処理を行っているが、基板Pを固定して有機EL塗布機構5自体を上述とは逆のY軸負方向へ移動させてもかまわない。有機EL塗布機構5と基板Pとの少なくとも一方が相対的にY軸方向に移動すれば、同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、液膜除去機構部56は、基板P上の液膜Lwを吸引ヘッド561から吸引することによって除去しているが、他の方式で液膜Lwを基板P上から除去してもかまわない。例えば、液膜除去機構部56は、基板P上の液膜Lwに所定圧力のエアーを吹き付けることによって、基板P上から液膜Lwを吹き飛ばすことによって除去してもかまわない。また、液膜除去機構部56は、吸水性を有する拭き取り部材を基板Pの塗布不要領域に接触させることによって、基板P上の液膜Lwを吸い取ることによって除去してもかまわない。
また、本発明の塗布装置は、他の製造装置との間で基板Pを受け渡して一連の処理を行うことが一般的である。以下、当該塗布装置が構成された有機EL表示装置の製造システムについて説明する。なお、図13は、有機EL表示装置の製造システムの構成を示す図である。
図13において、破線矢印は、基板Pの搬入搬出経路を示している。この製造システムは、本塗布装置13を含み、インデクサ11、第1搬送路12、塗布装置13、ベーク装置14、第2搬送路16、第1搬送ロボット17、および第2搬送ロボット18を備えている。インデクサ11は、外部から搬入されてくる基板Pおよび外部へ搬出すべき処理済みの基板Pを収容する。なお、インデクサ11に搬入されてくる基板Pには、陽極またはその陽極に正孔輸送層がすでに形成されているものとする。インデクサ11に収容されている基板Pは、第1搬送路12内を移動する第1搬送ロボット17に搬出された後、第2搬送路16内を移動する第2搬送ロボット18に受け渡される。
基板Pを受け取った第2搬送ロボット18は、基板Pを塗布装置13に搬入する。塗布装置13は、搬入された基板Pに対して正孔輸送層や発光層(有機EL材料)の塗布を行う。具体的には、塗布装置13は、ノズルから塗布液を吐出することによって基板に正孔輸送層や発光層を塗布する。本実施形態では、塗布装置13によって基板Pに対する塗布処理が行われた後、塗布処理済みの基板Pが第2搬送ロボット18によってベーク装置14へ搬送される。ベーク装置14は、塗布処理済みの基板Pに対してベーク処理を行う。ベーク処理が行われた基板Pは、第2搬送ロボット18および第1搬送ロボット17によって製造システムの外部へ搬出される。なお、以上のように発光層が形成された基板Pには、陰極電極が真空蒸着法等により発光層上に形成されることによって、有機EL表示装置が製造される。
このように、本実施形態に係る塗布装置は、基板上の塗布不要領域に対して液膜を形成し、当該液膜内に吐出された塗布液を液膜と共に除去することによって、塗布液が塗布されない領域を形成する。したがって、被塗布体である基板にダメージを与えることなく塗布液を除去して、必要な領域のみに塗布液を塗布する塗布装置が実現できる。また、ステージ上に載置された基板へ塗布液を塗布する動作を利用して、当該基板から塗布液を除去したい領域に液膜を形成して吸引するだけで、塗布液が塗布されない領域を形成することができる。したがって、塗布液除去のためにスループットが大きく低下しない。また、液膜生成機構および液膜除去機構の固定位置を調整することによって、基板の端部以外の領域にも塗布されない領域を形成することができ、当該領域によって分けられた複数の領域にそれぞれ塗布液が塗布された基板を生成できる。このとき、基板から塗布液を除去するための基板の位置決め等が不要であり、高精度の除去のために新たに必要な機構を最小限に構成できる。また、塗布されない領域の形成にあたっては基板が直進移動する動作を利用しているため、液膜形成機構および液膜除去機構を固定する位置を調整するのみで直線性に優れた除去領域を形成できる。さらに、塗布液を除去する動作が自動的に行われるため、製品精度の手作業による個人差やデバイス毎の個体差を低減することができる。また、マスキングテープを用いる手法ではないため、マスキングテープを用いることによる課題を解決することができる。
また、液膜および塗布液の除去が塗布直後に行われるため、塗布液の状態が安定しており、特定の塗布液状態を狙った効率的な除去処理が行える。また、液膜を生成するため装置や液膜を除去するための装置を塗布装置内に設置することができるため、省スペースおよび低コストを実現することができる。さらに、基板端部等の基板搬送用のアームが当接する部位に対して、基板搬送前に塗布液の除去が行えるため、当該アームの汚損を防止することができ、当該汚損を原因とする搬送ミスやパーティクルの発生を抑えることができる。
なお、上述した実施形態では、有機EL表示装置の製造装置やシステムを一例にして説明したが、塗布液を基板に塗布する装置であれば、本発明は他の装置にも適用できる。例えば、レジスト液やSOG(Spin On Glass)液を基板に塗布する装置にも適用することができる。
また、上述した実施形態では、赤、緑、および青色用の3個1組のノズル521〜523で基板Pの各溝内に有機EL材料を流し込んでいるが、この3個1組のノズル521〜523を複数組設けて基板Pの各溝内に有機EL材料を流し込んでもかまわない。この場合、各ノズルの組がX軸方向へ動作する位置に対応する液受部53をそれぞれ設ければ、塗布処理にかかる時間を短縮しながら、本発明の効果を得ることができる。