JP4713802B2 - 多孔質材料の製造方法 - Google Patents
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Description
技術分野
本発明は、油中水型高分散相エマルション(Water in Oil type High Internal Phase Emulsion;以下、単にHIPEとも略す)を重合して、多孔質材料、好ましくは表面も内部も連通孔の形成されている連続気泡(open cell;以下、オープンセルとも称す)を有する多孔質材料を製造するに際して、HIPEを供給する段階からこれを重合する段階までを連続して行う多孔質材料の製造方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、HIPEを供給する段階からこれを重合する段階までを連続して行ない、その多孔質材料が、(1)例えば、▲1▼水、尿、及び他の排泄物を吸収するためのおむつのコア材などの、および▲2▼油、有機溶剤を吸収するために使用される廃油処理剤や廃溶剤処理剤などの、液体吸収材;(2)例えば、音や熱を吸収するための自動車や建築用の防音材や断熱材などの、エネルギー吸収材;ならびに(3)例えば、芳香剤、洗浄剤、つや出し剤、表面保護剤、難燃化剤などを含浸させたトイレタリー製品などの薬剤含浸基材に幅広く利用できる多孔質材料の製造方法に関するものである。
【0002】
背景技術
「HIPE」ということばは、約3/1以上のW/O比で、分散相(内相)である水相と、外相である油相の比率からなるエマルションを言う。HIPEから多孔質材料を製造すること(以下、単にHIPE法とも略す)は公知である。
【0003】
発泡剤を用いて製造される多孔質材料(以下、単にフォームとも略す)が比較的大孔径の独立気泡のフォームが得られ易いのに比べ、HIPE法は、孔径の微細な連続気泡の低密度フォームの製法として優れている。
【0004】
HIPEからフォームを製造する方法としては、例えば、US−A−4,522,953号公報、US−A−4,788,225号公報、US−A−5,252,619号公報およびUS−A−5,189,070号公報等に記載されている。
【0005】
US−A−4,522,953号公報およびUS−A−4,788,225号公報には、水溶性および/または油溶性開始剤を含んだHIPEを作製し、これを50℃或いは60℃で8時間から72時間加熱重合する方法が開示される。また、US−A−5,210,104号公報には、HIPEを作製後に重合開始剤を添加して4〜8時間重合する方法が開示されている。さらに、US−A−5,252,619号公報およびUS−A−5,189,070号公報には、開始剤を含んだHIPEを作製後100℃或いはそれに近い温度でHIPEを重合する事によって重合時間を3〜5時間に短縮する方法が開示されている。
【0006】
US−A−4,522,953号公報、US−A−4,788,225号公報に開示されている方法は、重合時間が長く生産効率が良くない。US−A−5,252,619号公報およびUS−A−5,189,070号公報に開示される方法は高い重合温度を用いると重合時間を短縮できるものの、なお数時間程度かけて重合する必要があり、しかもHIPEの安定性が損なわれ、水分が遊離し、所定の孔径の多孔質材料が得られない場合があった。
【0007】
US−A−5,210,104号公報に記載される方法によると、HIPEは重合開始剤を存在させずに作製し、HIPEの作製後に重合開始剤を添加しているので、HIPEの乳化安定性は改善されるものの、重合時間は数時間にわたる必要がある。
【0008】
本発明の目的は、HIPEの安定性を損なわずに、従来技術より短時間で重合を完結できる多孔質材料の製造方法を開発することにある。
【0009】
発明の開示
重合時間を短縮する為には、開始剤の分解速度を上げて重合系中のラジカル濃度を高くすればよい。酸化剤と還元剤を組合わせた開始剤(レドックス開始剤)は比較的低温でも速く分解するので、HIPEの重合にレドックス開始剤を用いれば、HIPEの安定性を損なわないような低い温度でも短時間で重合を完結できると期待できる。しかしながら、レドックス開始剤を含むHIPEを作製して従来法より短い時間、例えば、1時間以内に重合しようとする試みには、いくつかの課題のあることが判明した。
【0010】
HIPEは、室温〜80℃程度の温度で油相と水相を一定時間撹拌、乳化することによって得られるが、生成したHIPEの温度と重合温度の差が小さいほうが好ましい。すなわち、低温のHIPEをより高い重合温度に上げようとすると、昇温に要する時間が長くなって生産性が低下することがある。HIPEを短時間で急激に加熱しようとすると、HIPEの安定性が損なわれて、製造される多孔質材料の品質が低下することがある。一方、重合温度にほとんど近い温度でHIPEを乳化しようとすると、乳化操作中にHIPEの重合反応が起こって乳化機中で固化したり、HIPEを十分乳化できない。
【0011】
本発明者らは、レドックス開始剤を用いて、重合温度に近い温度で安定にHIPEを形成し、且つ、短時間で重合を実現することを目標に鋭意検討した結果、酸化剤として油溶性酸化剤を必須に使用し、酸化剤または還元剤のどちらか一方のみを含むHIPEを形成し、その後他方の還元剤または酸化剤を該HIPEに添加混合すれば、HIPEの安定性を損なう事なく、且つ、短時間で重合を完結できることを見出した。本発明は、上記知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0012】
レドックス系開始剤の酸化剤と還元剤を別々に添加することからなる多孔質架橋ポリマー材料の製造方法が特開平10−36,411号公報に開示される。この方法は、レドックス系開始剤を用いてHIPEを重合するに当って、予め水溶性酸化剤を加えてHIPEを調製し、ついでこの混合物に還元剤水溶液を添加して得られたHIPE混合物を重合する方法である。この方法は、重合前後のHIPEの体積収縮率が小さく、物性の良好な多孔質架橋ポリマー材料を得ることを主眼としたものである。本発明者らは、同時に本願の目的である、安定にHIPEを作製し、短時間でHIPEを重合する手段としても有効であることを見出した。しかしながら、より詳細に研究を進めたところ、この方法はまだ問題があることが判明した。即ち、特開平10−36,411号公報に記載されているような過硫酸ナトリウム(水溶性酸化剤として)を添加したHIPEを室温で乳化する場合や、室温より高い温度でも40℃程度までなら余り問題ないが、乳化温度が高い場合には乳化中にHIPEの一部が重合して乳化状態が不均一になる場合があることが分かった。一方、本発明者らは、油溶性酸化剤は、水溶性酸化剤に比べて重合速度を向上させやすいことをも見出し、かかる知見に基づき本発明の他の解決手段を完成するに至ったものである。上記知見に対する学術的・論理的な理由付けを与えるならば、水溶性開始剤はラジカルが水相から油相に移行する必要があるのに対して、油溶性開始剤はモノマー相に存在し、モノマー中でラジカルを発生すること、モノマー中に均一に分布し易いこと、等ではないかと推測される。
【0013】
すなわち、本発明の諸目的は、下記(1)〜(4)により達成されるものである。
【0014】
(1) 重合開始剤を含む油中水型高分散相エマルションを重合する工程を含む多孔質材料の製造方法において、該重合開始剤は油溶性酸化剤と還元剤を組み合わせて用いるレドックス系開始剤であり、予め、該油溶性酸化剤または該還元剤のいずれか一方を添加して該エマルションを形成し、ついで、該エマルションに該還元剤または該油溶性酸化剤の他方を添加して重合する多孔質材料の製造方法。
【0015】
(2) 予め、前記還元剤を添加して形成した前記エマルションに油溶性酸化剤を添加して重合する、上記(1)に記載の製造方法。
【0016】
(3) 前記エマルションの形成温度と重合温度の差が、20℃以下である、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
【0017】
(4) 前記重合する工程が、連続重合である、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の製造方法。
【0018】
発明を実施するための最良の形態
本発明は、重合開始剤を含む油中水型高分散相エマルションを重合する工程を含む多孔質材料の製造方法において、該重合開始剤は油溶性酸化剤と還元剤を組合わせて用いるレドックス系開始剤であり、予め、該油溶性酸化剤または該還元剤のいずれか一方を添加して該エマルションを形成し、ついで、該エマルションに該還元剤または該油溶性酸化剤の他方を添加して重合する多孔質材料の製造方法に関するものである。
【0019】
本発明の多孔質材料の製造方法について、以下にその工程順に説明する。
【0020】
[I]原料(HIPE)について
(1)HIPEの組成
本発明の多孔質材料の製造方法に用いることのできるHIPEの成分は、特に制限されるものではなく、生成物が使用されようとする目的に合わせて、従来既知のものの中から適宜選択することができる。HIPEの組成は、具体的には、(a)分子中に少なくとも1個の重合性不飽和基を有する重合性単量体成分、(b)界面活性剤、(c)水並びに(d)水溶性酸化剤と還元剤を組合わせて用いるレドックス系開始剤を必須成分として含むものであればよく、さらに、必要に応じて(d)塩類、(f)その他の添加剤を任意成分として含むものであってもよい。
【0021】
(a)重合性単量体成分
上記HIPEを構成する重合性単量体成分は、分子中に少なくとも1個の重合性不飽和基を有する化合物である。油中水型高分散相エマルションを形成し、該エマルション中で重合可能であれば特に制限されるものではないが、重合性単量体成分は、好ましくは(a−1)分子中に1個の重合性不飽和基を有する重合性単量体と、(a−2)分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する架橋性単量体の両方を含むものである。
【0022】
(a−1)分子中に1個の重合性不飽和基を有する重合性単量体
当該重合性単量体としては、特に制限されるものではないが、好ましくは少なくとも1部は(メタ)アクリル酸エステルを含むものであり、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステルを20質量%以上を含むものであり、特に好ましくは(メタ)アクリル酸エステルを35質量%以上を含むものである。分子内に1個の重合性不飽和基を有する重合性単量体として、(メタ)アクリル酸エステルを含有する重合性単量体が、エステルが柔軟性や強靭性に富む多孔質材料を製造することができるため望ましく使用される。
【0023】
上記(a−1)の重合性単量体としては、具体的には、スチレン等のアリレン単量体;エチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルエチルベンゼンなどのモノアルキレンアリレン単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどの(メタ)アクリル酸エステル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、クロロメチルスチレン等の塩素含有単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のアクリロニトリル化合物;その他、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−オクタデシルアクリルアミド、エチレン、プロピレン、ブテン等が例示できる。これらの重合性単量体は、1種を単独で使用する他、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記(a−1)の重合性単量体の含有量は、上記(a)の単量体成分全体の質量に対し、10〜99.9質量%の範囲であることが好ましい。この範囲で、微細な孔径の多孔質材料が得られるからである。より好ましくは30〜99質量%、特に好ましくは30〜70質量%の範囲である。上記(a−1)の重合性単量体の含有量が10質量%未満の場合には、得られる多孔質材料が脆くなったり吸水倍率が不充分となることがある。一方、上記(a−1)の重合性単量体の含有量が99.9質量%を超える場合には、得られる多孔質材料の強度、弾性回復力などが不足したり、充分な吸水量および吸水速度を確保できないことがある。
【0025】
(a−2)分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する架橋性単量体
上記(a)の重合性単量体成分の他の1種は、分子中に少なくとも2個の重合性不飽和基を有する架橋性単量体である。この架橋性単量体は、上記(a−1)の重合性単量体と同様に、油中水型高分散相エマルション中で重合可能であってエマルションを形成できれば特に制限されるものではない。
【0026】
上記(a−2)の架橋性単量体としては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、p−エチル−ビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルアルキルベンゼン類、ジビニルフェナンスレン、ジビニルビフェニル、ジビニルジフェニルメタン、ジビニルベンジル、ジビニルフェニルエーテル、ジビニルジフェニルスルフィド等の芳香族系単量体;ジビニルフラン等の酸素含有単量体;ジビニルスルフィド、ジビニルスルフォン等の硫黄含有単量体;ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン等の脂肪族単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、イソシアヌル酸トリアリル、トリアリルアミン、テトラアリロキシエタン、並びにヒドロキノン、カテコール、レゾルシノール、ソルビトールなどの多価アルコールとアクリル酸またはメタクリル酸とのエステル化合物などが例示できる。これらの架橋性単量体は、1種を単独で使用する他、2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記(a−2)の架橋性単量体の含有量は、上記(a)の単量体成分全体の質量に対し、0.1〜90質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜70質量%、特に好ましは30〜70質量%の範囲である。上記架橋性単量体の含有量が0.1質量%未満では、得られる多孔質材料の強度、弾性回復力などが不足したり、単位体積当たりまたは単位質量当たりの吸収量が不十分となり、充分な吸水量および吸水速度を確保できないことがある一方、上記架橋性単量体の含有量が90質量%を越えると、多孔質材料が脆くなったり吸水倍率が不充分となることがある。
【0028】
(b)界面活性剤
上記HIPEを構成する必須の界面活性剤としては、HIPEを構成する油相中で水相を乳化し得るものであれば特に制限はなく、従来公知のノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を使用することができる。
【0029】
これらの界面活性剤のうち、ノニオン性界面活性剤としては、ノニルフェノールポリエチレンオキサイド付加物;エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノミリスチレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンジステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル;グリセロールモノステアレート、グリセロールモノオレエート、ジグリセロールモノオレエート、自己乳化型グリセロールモノステアレート等のグリセリン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル; ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノミリスチレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンアルキルアミン;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。特にHLBが10以下、好ましくは2〜6のものが好ましい。これらのうちノニオン性界面活性剤は2種以上で併用してもよく、併用によりHIPEの安定性が改良される場合がある。
【0030】
カチオン性界面活性剤としては、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジタロウジメチルアンモニウムメチルサルフェート、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;ココナットアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩;ラウリルベタイン、ステアリルベタイン、ラウリルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のアルキルベタイン;ラウリルジメチルアミンオキサイド等のアミンオキサイドがある。カチオン性界面活性剤を用いることにより、得られる多孔質材料を吸水材等に利用する場合に優れた抗菌性等を付与することもできる。
【0031】
アニオン界面活性剤としては、アニオン部と油溶性部とを有するものが好ましく使用でき、例えば、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート、アンモニウムアルキルサルフェート等の如きアルキルサルフェート塩;ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート;ナトリウムスルホリシノエート;スルホン化パラフィン塩等の如きアルキルスルホネート;ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフェート等の如きアルキルスルホネート;高アルキルナフタレンスルホン酸塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ナトリウムラウレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアヒエート等の如き脂肪酸塩;ポリオキシアルキルエーテル硫酸エステル塩;ポリオキシエチレンカルボン酸エステル硫酸エステル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル硫酸エステル;コハク酸ジアルキルエステルスルホン酸塩;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩等の如き二重結合を持った反応性アニオン乳化剤等が使用できる。アニオン性界面活性剤にカチオン性界面活性剤を併用してHIPEを調製することができる。
【0032】
なお、ノニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤を併用するとHIPEの安定性が改良される場合がある。
【0033】
上記界面活性剤の含有量は、上記(a)の単量体成分全体の質量100質量部に対し、1〜30質量部であることが好ましく、より好ましくは3〜15質量部である。界面活性剤の含有量が1質量部未満の場合には、HIPEの高分散性が不安定化することがあったり、界面活性剤本来の作用効果が充分に発現できないことがある。一方、上記界面活性剤の含有量が30質量部を超える場合には、得られる多孔質材料が脆くなり過ぎることがあり、これを超える添加に見合うさらなる効果が期待できない。
【0034】
(c)水
上記HIPEを構成する必須成分の水は、純水、イオン交換水の他、廃水の再利用を図るべく、多孔質材料を製造して得た廃水をそのまままたは所定の処理を行ったものを使用することができる。
【0035】
上記水の含有量は、目的とする連続気泡を有する多孔質材料の使用目的(例えば、吸水材、吸油材、防音材、フィルターなど)等によって適宜選択することができる。例えば、HIPEが、後述する所望の水相/油相比(W/O)となるように決めればよい。
【0036】
(d)重合開始剤
上記HIPEを構成する必須成分の重合開始剤は、酸化剤と還元剤を組合わせたレドックス開始剤である。酸化剤として油溶性酸化剤を必須成分とする。必要であれば、油溶性酸化剤と水溶性酸化剤を併用しても良い。油溶性酸化剤は、上記単量体成分と相溶性の良い有機過酸化物を用いる。単量体成分中に均一に溶解し、重合開始剤として有効に作用し、短時間での重合完結を可能にする。油溶性酸化剤と水溶性酸化剤を併用すると一層重合速度が速くなったり、得られる多孔質材料の性能が改善される場合がある。
【0037】
このうち、本発明によるレドックス開始剤の必須の構成成分である油溶性酸化剤は、特に制限されるものではなく、HIPEの重合に従来使用される油溶性酸化剤が使用できる。具体的には、油溶性酸化剤としては、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジヒドロペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシドなどが挙げられる。また、本発明による油溶性酸化剤と併用できる水溶性酸化剤もまた、特に制限されるものではなく、HIPEの重合に従来使用される水溶性酸化剤が使用できる。具体的には、水溶性酸化剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸物;過酸化水素、過酢酸カリウム、過酢酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸ナトリウム、t−ブチルヒドロペルオキシド等の過酸化物が挙げられる。
【0038】
上記酸化剤の使用量は、上記(a)の単量体成分全体の量に対して、0.05〜15質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.0〜10質量%である。酸化剤の使用量が0.05質量%未満の場合には、未反応の単量体成分が多くなり、従って、得られる多孔質材料中の残存単量体量が増加するので好ましくない。一方、酸化剤の使用量が15質量%を超える場合には、重合の制御が困難となったり、得られる多孔質材料中の機械的性質が劣化するので好ましくない。
【0039】
また、上記還元剤は、特に制限されるものではなく、油溶性または水溶性還元剤のいずれであってもよい。このような還元剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カリウム、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、第1鉄塩、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、グルコース、デキストロース、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの水溶性還元剤;ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、ジメチルオルトトルイジン、ナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト、ナフテン酸ジルコニウム、ナフテン酸鉛、ナフテン酸亜鉛などの油溶性還元剤が挙げられる。
【0040】
上記還元剤の使用量は、上記(a)の単量体成分全体の量に対して、0.05〜15質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.0〜10質量%である。還元剤の使用量が0.05質量%未満の場合には、未反応の単量体成分が多くなり、従って、得られる多孔質材料中の残存単量体量が増加するので好ましくない。一方、還元剤の使用量が15質量%を超える場合には、重合の制御が困難となったり、得られる多孔質材料中の機械的性質が劣化するので好ましくない。
【0041】
上記酸化剤と上記還元剤の使用比率(質量比)は、酸化剤/還元剤=1/0.01〜1/10、好ましくは酸化剤/還元剤=1/0.05〜1/2の範囲である。上記酸化剤と上記還元剤の使用比率(質量比)が酸化剤/還元剤=1/0.01〜1/10の範囲外であると、重合開始効率が低下するので好ましくない。
【0042】
これらのレドックス開始剤は、上記酸化剤と還元剤を各1種づつ組み合わせて用いてもよく、また、上記酸化剤と還元剤の少なくともいずれか一方を2種類以上組み合わせて併用してもよい。
【0043】
また、本発明では、上記酸化剤と還元剤を組合わせたレドックス開始剤以外に、さらに必要に応じて他の重合開始剤を併用しても良い。
【0044】
(e)塩類
上記HIPEを構成する任意成分の1種である塩類は、HIPEの安定性を向上させるために必要であれば使用してもよい。
【0045】
かかる塩類としては、具体的には、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属のハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩などの水溶性塩が挙げられる。これらの塩類は、単独で用いてもよく、また、2種類以上を併用してもよい。これらの塩類は、水相中に添加することが好ましい。なかでも、重合時のHIPEの安定性の観点から多価金属塩が好ましい。
【0046】
このような塩類の使用量は、水に濃度が0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%となるように溶解して用いる。塩類の使用量が20質量%を超える場合には、HIPEから搾り出された廃水中に多量の塩類を含むことになり、廃水を処理するコストがかさみ、これを超える添加に見合うさらなる効果も期待できず不経済である。塩類の使用量が0.1質量%未満の場合には、塩類の添加による作用効果が十分に発現できないおそれがある。
【0047】
(f)その他添加剤
さらに、他の各種添加剤をこれらが有する性能・機能を付加することにより、製造条件や得られるHIPE特性や多孔質材料の性能の向上につながるものであれば適当に使用してもよい。例えば、pH調整のために、塩基および/または緩衝剤を加えてもよい。これらの他の添加剤の含有量については、それぞれの添加の目的に見合うだけの性能・機能、さらには経済性を十分に発揮できる範囲内で添加すればよい。また、添加時期に関しても、HIPE特性に影響を与えることなく、各種添加剤の性能・機能を有効に発現することができるものであればよい。予め水相および/または油相に添加してもよい。または、これら水相と油相を混合してHIPEを調製する際に添加しても良いし、調整後のHIPEに別途、添加するようにしてもよい。
【0048】
(2)HIPEの製造
(a)HIPEの形成工程(乳化工程)
まず、本発明のHIPEの組成としては、上記したように、油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)と還元剤を組合わせたレドックス開始剤を含有するのである。したがって、以後、特にことわらないかぎり、HIPEとするものには、▲1▼上記油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)と還元剤を組合わせたレドックス開始剤の両方成分が含有されているものと、▲2▼該レドックス開始剤のうち、油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)または還元剤のいずれか一方のみを予め添加して調製されたものが存在する。両者を特に区別する必要があるような場合、例えば、以下に説明する「W/O」などの対象を明確にする必要がある場合などにかぎり、上記▲1▼のものを「HIPE(完成品)」とし、上記▲2▼のものを「HIPE(中間品)」とする。
【0049】
本発明のHIPEの調製法としては、単量体成分、界面活性剤などの混合物である油相と、水、水溶性塩などの混合物である水相を合一し、撹拌・乳化してHIPEとする。
【0050】
本発明では、上記したように油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)と還元剤を組合わせたレドックス開始剤を併用するものであるが、このうちの油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)または還元剤のいずれか一方のみを予め油相および/または水相成分に添加混合して油相および水相を調製し、これらを合一し、撹拌・乳化してHIPE(中間品)とするものである。予め加える方の油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)または還元剤が油溶性の場合は油相に、水溶性の場合は水相に添加しておくのが簡便である。また、水相に油溶性酸化剤の乳化物または油溶性還元剤の乳化物を加える方法などもある。より詳しくは、まず、それぞれ上記に規定する使用量にて、上記単量体成分、予め加える方の油溶性酸化剤または油溶性還元剤(水相側に水溶性酸化剤若しくは水溶性還元剤、または油溶性酸化剤の乳化物または油溶性還元剤の乳化物を使用する場合には、これらと併用しても良いし、使用しなくとも良い)からなる油相を構成する成分を所定温度で撹拌することによって、均一の油相を調製する。一方、それぞれ上記に規定する使用量にて、水に予め加える方の水溶性酸化剤若しくは水溶性還元剤、または油溶性酸化剤の乳化物または油溶性還元剤の乳化物(油相側に油溶性酸化剤または油溶性還元剤を使用する場合には、これらと併用しても良いし、使用しなくとも良い)、さらに必要に応じて塩類からなる水相側の構成成分を加えながら撹拌し、30〜95℃の所定温度に加温することによって、均一の水相を調製する。これら水相および油相の至適温度は、20〜100℃の範囲であり、HIPEの安定性の点からは、好ましくは40〜95℃の範囲である。なお、油相および/または水相の温度を予め所定に調整しておいて混合するのが好ましい。HIPEの形成工程では、水相の量が多いため水相の温度を所定の温度に調整することが好ましい。次に、水相と油相を効率良く混合し、適度のせん断力をかけることによってHIPEを安定に調製することができる。
【0051】
油溶性酸化剤と還元剤を併用すると、ラジカルの発生速度が速いので、HIPEを短時間で硬化(重合)することが可能である。したがって、本発明に従って油溶性酸化剤及び水溶性酸化剤を乳化工程の前後に分けて添加することによって、油溶性酸化剤及び水溶性酸化剤双方が乳化中に同時に存在することはない。この添加によって、乳化中にHIPEの重合が開始して乳化状態が破壊されるなどのトラブルが回避することができる。ただし、酸化剤は、還元剤が存在しなくとも、熱分解してある程度のラジカルを発生するので、HIPEを高温で作製する場合には、還元剤を予め添加してHIPEを形成するのが乳化安定性を確保する上で好ましく、本発明のより好ましい実施態様である。
【0052】
(b)形成温度(乳化温度)
HIPEの形成温度(乳化温度)としては、常温〜100℃の範囲であり、HIPEの安定性の点から、好ましくは40〜90℃、より好ましくは50〜90℃、特に好ましくは55〜85℃の範囲である。
【0053】
乳化(HIPEの形成)中に単量体成分の重合が開始され、ポリマーである多孔質材料が生成すると、HIPEが不安定になることがある。したがって、油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)を予め含むHIPE(中間体)を作る場合は、HIPEの形成温度(乳化温度)は、油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)が実質的に熱分解を起こさない温度とするの良く、油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)の半減期が10時間である温度(10時間半減期温度)より低温で乳化するのが好ましい。
【0054】
還元剤を予め含むHIPE(中間体)を作る場合は、上記のような心配がないので、乳化(HIPEの形成)が速やかに安定に行え、かつ、重合工程へ移す時の昇温時間、所要エネルギーの少なくなる条件を自由に選ぶことができる。
【0055】
多孔質材料の生産性の良くするためには、重合時間を短くし、その上で、HIPEの形成温度(乳化温度)から所定重合への昇温時間もできるだけ短くするのが好ましい。特殊な加熱装置を用いず、例えば、温風や温水の恒温槽でHIPEを加熱するだけで短時間に昇温するには、HIPEの形成温度(乳化温度)と重合温度の差が小さい方が良い。したがって、HIPEの形成温度(乳化温度)と重合温度の差は20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることが特に好ましい。
【0056】
(c)還元剤または油溶性酸化剤の添加工程
HIPEへの還元剤または酸化剤の添加工程では、上記(a)の形成工程(乳化工程)にて得られたHIPE(中間品)に、上記(a)の形成工程で使用しなかった残りのもう一方の還元剤または油溶性酸化剤をここで添加、混合する。ここで使用する還元剤または油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)は、無希釈、または水や有機溶剤の希釈媒体で稀釈若しくは分散した溶液若しくは分散体などとしてHIPEに添加することができる。添加した還元剤または油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)は、すばやく均一にHIPEと混合することが重要である。更に、還元剤または油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)を混合したHIPEは、できるだけ速やかに重合器あるいは連続重合機に導入するのが望ましい。
【0057】
上記還元剤または油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)をHIPE(中間品)と混合する方法としては、該HIPEを形成するための撹拌機等(乳化器)から重合容器あるいは連続重合機への経路に還元剤または油溶性酸化剤(および、必要であれば、水溶性酸化剤)用の導入路を設け、該導入路より該経路を通過するHIPEに適時添加し(例えば、連続的でも、断続的でも、一時に全量でもよい)、ラインミキサーで混合するなどの方法が推奨される。
【0058】
上記還元剤または酸化剤の添加工程における系内温度は、上記(b)の乳化温度を保持するようにするのが好ましい。
【0059】
こうして得られるHIPE(完成品)は、通常、白色、高粘度のエマルションである。
【0060】
(d)製造装置
上記HIPEの製造装置としては、特に制限されるものではなく従来公知の製造装置を利用することができる。例えば、水相と油相とを混合撹拌するために使用する撹拌機(乳化器)としては、公知の撹拌機、混練機が使用できる。例えば、プロペラ型、櫂型、タービン型などの羽根を備えた撹拌機、ホモミキサー類、ラインミキサー、ピンミルなどが例示でき、これらの何れでもよい。さらに、上記形成工程(a)、即ち、還元剤または酸化剤の添加工程中に予め使用されなかった他方の還元剤及び酸化剤を、HIPEと混合するための撹拌機としては、公知の撹拌機が使用できる。例えば、ラインミキサー、スタティックミキサー、プロペラ型、櫂型、タービン型などの羽根を備えた撹拌機などが例示でき、これらの何れでもよい。
【0061】
(e)水相/油相の比率(質量比)
上記HIPE(完成品)の水相/油相の比率(質量比)(以下、単に「W/O比」とも略記する)は、3/1以上である。W/O比を変化させることによって多孔質材料の空孔比率が決定される。したがって、用途、目的に合致する空孔比率になるようにW/O比を選択する。例えば、製造される多孔質材料をオムツや衛生材料に使用する場合には、W/O比は、10/1〜100/1程度とするのが好ましい。
【0062】
[II]HIPEの重合について
(1)HIPEの重合法
次に、上記により得られたHIPEの重合法についても、特に制限されるものではなく、従来公知のHIPEの重合法を適宜利用することができる。例えば、HIPE中の油中に高分散してなる水滴構造が破壊されない条件下で静置重合法によって、重合することが好ましい。かかる静置重合法には、HIPEをバッチごとに重合するバッチ重合、HIPEを連続的にフィードしながら、キャスト重合する連続重合、さらにこれらを適当に組み合わせて重合する方法(例えば、HIPEを連続的にフィードしたのち、これを捲取り、バッチ重合するような、連続とバッチの併用重合など)などがあり、これらを適宜利用することができる。本発明の製法の特徴である短時間重合の効果をより良く生かすために、重合法はバッチ重合法より連続重合法の方が好ましい。例えば、走行するベルト(搬送支持体)上にHIPEを連続的にキャストして重合する連続重合法を採用するのが好ましい。以下に、その代表的な重合法について説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0063】
(2)重合温度
HIPEの重合温度としては、常温〜100℃である。HIPEの安定性、重合速度から、重合温度が、好ましくは40℃〜100℃、より好ましくは55〜95℃、特に好ましくは60〜85℃、最も好ましくは65〜85℃である。重合温度が常温未満では、重合に長時間を要し、新たに冷却手段を設ける必要があり不経済であり、経済的に好ましくない。他方、重合温度が100℃を越える場合には、得られる多孔質架橋重合体の孔径が不均一となることがあり、また多孔質架橋重合体の吸収容量が低下するため、好ましくない。
【0064】
(3)重合時間
本発明の方法は、1時間以内という短時間で重合を安定に実施する手段として有効である。特に30分以下で重合を完結させる場合に有効である。勿論、上記より長い重合時間を採用することを排除するものではない。
【0065】
(4)重合装置
本発明に用いることのできる重合装置としては、特に制限されるものではなく、従来公知の化学装置から、それぞれの重合法に適したものを利用ないし改良して使用することができる。例えば、バッチ重合では、使用目的に応じた形状の重合容器を利用することができる。また、連続重合法では、ベルトコンベアなどの連続重合機を利用することができる。さらにこれらには重合法に適した加熱昇温手段や制御手段等、例えば、放射エネルギー等を利用できるマイクロ波や近赤外線などの活性熱エネルギー線、あるいは熱水や熱風などが併設されてなるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
(5)重合後の多孔質材料の特性
重合後の多孔質材料の形状は、上記製造段階で所望の形状に設計することができるものであり、特に制限されるものではない。例えば、バッチ重合の場合には、重合容器の形状と同じ形状の多孔質材料の成形体を得ることができる。したがって、複雑な立体形状でも、単純な円柱形状(断面円形)や角柱形状(断面角型)でも、さらにシート形状でも、任意の形状の製品を製造することができる。すなわち、多孔質材料の製品を任意の形状にしようとすれば、これに適した形状の重合容器、例えば、雄雌の金型容器や注形金型容器などを選択すればよい。さらに、HIPEを適当な形状のブロックに重合してからシート状に切断ないしスライスするなど任意の形状に加工することもできる。連続重合の場合は、HIPEをベルトコンベア上で一定厚みのシート状とする他、断面形状が台形、半円形などとすることもできる。
【0067】
(6)多孔質材料形成後の後処理(製品化)工程
上記重合により得られる本発明の多孔質材料は、吸水材、吸油材、防音材、フィルターなどに利用されるが、これらの使用目的に応じて、重合終了後に、必要に応じて、脱水、洗浄、乾燥、切断、各種薬剤等の含浸加工処理をして製品化することができる。以下に、これらにつき簡単に説明する。
【0068】
(a)脱水
重合の完結により形成された多孔質材料は、通常、圧縮、減圧吸引およびこれらの組合せによって脱水する。一般に、こうした脱水により、使用した水の50〜98%の水が脱水され、残りは多孔質材料に付着して残る。
【0069】
脱水率は、多孔質材料の用途などによって適当に設定する。
【0070】
(b)圧縮
本発明の多孔質材料は、多孔質構造が破壊されない温度、圧力でプレスするなどの方法で元の厚みの数分の一に圧縮した形態にすることができる。圧縮したシート状などの形態は、元の多孔質材料に比べて容積が小さく、輸送や貯蔵のコストを低減できる。輸送や在庫スペースの節約、取扱いやすさの点から元の厚みの1/2以下に圧縮するのが効果的である。より好ましくは元の厚みの1/4以下に圧縮するのが良い。
【0071】
(c)洗浄
多孔質材料の表面状態を改良するなどの目的で、多孔質材料を純水や任意の添加物を含む水溶液、溶剤で洗浄しても良い。
【0072】
(d)乾燥
以上の工程で得られた多孔質材料は、必要であれば熱風、マイクロ波などで加熱乾燥しても良く、また加湿して水分を調整してもよい。
【0073】
(e)切断
以上の工程で得られた多孔質材料は、必要であれば、所望の形状、サイズに切断して各種用途に応じた製品に加工してもよい。
【0074】
(f)含浸加工
以上の工程で得られた多孔質材料は、必要であれば、洗浄剤、芳香剤、消臭剤、着色剤、湿潤剤、抗菌剤などの添加剤を含浸加工して機能性を付与することもできる。
【0075】
次に、本発明について実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例において、多孔質材料の性能は、以下のようにして測定した。また、特にことわりのない限り、「部」は、「質量部」を表すものとする。
【0076】
<ゲル分率および残存モノマーの測定法>
(1)ゲル分率
HIPEを重合して得られた多孔質材料を脱水し、数cm3の大きさの試料を2個切り取り、水分の付着した多孔質材料の質量を測定する。その後、一個の試料は乾燥機で乾燥させ乾燥ポリマー質量を求める。
【0077】
他の一個は、ソックスレー抽出機でアセトンを溶媒として24時間抽出する。抽出されずに残った多孔質材料(ゲル分)を乾燥させて乾燥ゲル質量を求める。
【0078】
【数1】
【0079】
(2)残存モノマー
ソックスレーの抽出液中の各単量体濃度をガスクロマトグラフィーにて測定し、各単量体合計抽出量を求める。
【0080】
【数2】
【0081】
実施例1
撹拌器を備えた円筒形容器に、スチレン0.7部、2−エチルヘキシルアクリレート2.7部、55%ジビニルベンゼン(他成分はp-エチル-ビニルベンゼン)1.4部からなる単量体成分、界面活性剤(乳化剤)としてソルビタンモノオレート0.25部および油溶性酸化剤としてt−ブチルヒドロペルオキシド0.15部を加え均一に溶解して油相混合物溶液(以下、油相とも略記する)を調製した。
【0082】
一方、塩化カルシウム3部を純水150部に溶解して水相水溶液(以下、水相とも略記する)を調製し、60℃に加温した。
【0083】
油相を60℃で撹拌しながらこれに60℃に調温した水相を5分間で添加し、添加終了後10分間撹拌を続けて、W/O=30/1の安定なHIPE(中間品)を得た。これに水溶性還元剤としてロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート2水塩)0.1部を10部の水に溶解して加え2分間撹拌した。
【0084】
次いで円筒形容器から撹拌機を取り外し、65℃の水浴に浸し45分間静置重合(バッチ重合)した。
【0085】
得られた多孔質材料のゲル分率および残存モノマーを測定した。実験の概要を表2に示すと共に、測定結果を表3に示す。
【0086】
実施例2
撹拌器を備えた円筒形容器に、スチレン0.7部、2−エチルヘキシルアクリレート2.7部、55%ジビニルベンゼン(他成分はp−エチル-ビニルベンゼン)1.4部からなる単量体成分、界面活性剤(乳化剤)としてソルビタンモノオレート0.25部を加え均一に溶解して油相を調製した。
【0087】
一方、塩化カルシウム3部および水溶性還元剤としてロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート2水塩)0.1部を純水150部に溶解して水相を調製し、70℃に加温した。
【0088】
油相を70℃で撹拌しながらこれに70℃に調温した水相を5分間で添加し、添加終了後10分間撹拌を続けて、W/O=30/1の安定なHIPE(中間品)を得た。これに油溶性酸化剤としてt−ブチルヒドロペルオキシド0.15部を加え2分間撹拌して安定なHIPE(完成品)とした。
【0089】
次いで円筒形容器から撹拌機を取り外し、70℃の水浴に浸し45分間静置重合(バッチ重合)した。
【0090】
得られた多孔質材料のゲル分率および残存モノマーを測定した。実験の概要を表2に示すと共に、測定結果を表3に示す。
【0091】
実施例3
スチレン0.8部、2−エチルヘキシルアクリレート2.8部、エチレングリコールジメタクリレート1.2部からなる単量体成分、界面活性剤(乳化剤)としてソルビタンモノオレート0.25部および油溶性酸化剤としてクメンヒドロペルオキシド0.15部を加え均一に溶解して油相を調製した。
【0092】
一方、塩化カルシウム2.4部を純水250.0部に溶解して水相を調製し、60℃に加温した。
【0093】
油相と水相をW/O=50/1の比率で撹拌器内に連続的に供給して混合・乳化し、形成したHIPE(中間品)を還元剤添加口を持つ経路から連続的に抜き出し、該還元剤添加口から水溶性還元剤としてトリエタノールアミンを該HIPE100部当り0.05部(上記単量体成分に対して2.7質量%とした。また、酸化剤/還元剤=1/0.85の使用比率(質量比)とした。)連続的に添加し、ラインミキサーを通して混合してHIPE(完成品)とし、これを水平に設置された一定速度で走行するベルト上に幅約50cm、厚み約1cmに連続的に供給した。
【0094】
約70℃に制御された重合ゾーンを約30分で通過させて重合(連続重合)した。重合物たる多孔質材料は、続いて減圧・圧縮ロールで減圧下で脱水・圧縮し、熱風乾燥機で乾燥して厚さ約2mmの多孔質材料の圧縮シートを得た。得られた多孔質材料のゲル分率および残存モノマーを測定した。実験の概要を表1〜2に示すと共に、測定結果を表3に示す。
【0095】
実施例4〜5
HIPE形成前およびHIPE形成後に添加するレドックス開始剤、および使用する単量体成分、HIPEの形成温度(乳化温度)、重合条件を表1に示した通りとする他は実施例3の方法にしたがって、多孔質材料を製造した。実験の概要を表2に示すと共に、測定結果を表3に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
比較例1
撹拌器を備えた円筒形容器に、スチレン0.7部、2−エチルヘキシルアクリレート2.7部、55%ジビニルベンゼン(他成分はp-エチル-ビニルベンゼン)1.4部からなる単量体成分、界面活性剤(乳化剤)としてソルビタンモノオレート0.25部、油溶性酸化剤としてt−ブチルヒドロペルオキシド0.15部を加え均一に溶解して油相を調製した。
【0098】
一方、塩化カルシウム3部および水溶性還元剤としてロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート2水塩)0.1部を純水150部に溶解して水相を調製し、60℃に加温した。
【0099】
油相を60℃で撹拌しながら60℃に調温した水相を5分間で添加し、撹拌を続けたところ増粘し、ゲル状物が発生し不均一な状態となったので操作を中止した。実験の概要を表2に示す。
【0100】
比較例2
実施例1において得られたHIPE(中間品)に、水溶性還元剤としてロンガリット(ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート2水塩)0.1部を加えないようにした以外は、実施例1と同じ操作を繰り返した。得られた多孔質材料のゲル分率および残存モノマーを測定した。実験の概要を表2に示すと共に、測定結果を表3に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
【表3】
【0103】
産業上の利用可能性
本発明の方法は、油溶性酸化剤を必須成分とするレドックス開始剤を用い、レドックス系を形成する酸化剤または還元剤のどちらか一方を予め含むHIPEを作製し、しかる後、他方の還元剤または酸化剤を該HIPEに添加して重合を行うので、HIPE作製中に乳化が不安定になる事がなく、1時間以内の短時間で重合を完結できるとする顕著な効果を奏するものである。本発明の方法は、特に連続重合で多孔質材料を製造する上で極めて有効かつ効果的な製造技術であるといえる。
Claims (4)
- 重合開始剤を含む油中水型高分散相エマルションを重合する工程を含む多孔質材料の製造方法において、該重合開始剤は油溶性酸化剤と還元剤を組合わせて用いるレドックス系開始剤であり、予め、該油溶性酸化剤または該還元剤のいずれか一方を添加して該エマルションを形成し、ついで、該エマルションに該還元剤または該油溶性酸化剤の他方を添加して重合する多孔質材料の製造方法。
- 予め、前記還元剤を添加して形成した前記エマルションに油溶性酸化剤を添加して重合する、請求項1に記載の製造方法。
- 前記エマルションの形成温度と重合温度の差が、20℃以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
- 前記重合する工程が、連続重合である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
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