JP4703950B2 - 糖リン酸エステルの精製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、グルコース-1-リン酸(以下「G-1-P」と略称する)等の糖リン酸エステル又はその塩の低コストな精製法に関する。
【0002】
【従来の技術】
G-1-Pは、抗菌剤、抗腫瘍剤、心疾患治療薬等の医薬品や糖合成の基質として有用であり、更に近年では、体内への優れたカルシウム吸収作用に着目して、骨粗鬆症予防の新規食品素材としても精力的に研究が行われている。
【0003】
G-1-Pの製造は、糖類とリン酸を基質として、これにイオン交換樹脂に固定化したマルトデキストリンフォスフォリラーゼ(MDPase)を作用させる固定化酵素法(例えば特許文献1参照)など、主として酵素法によって行われている。また、G-1-Pは発酵法により製造することも可能であり、コリネバクテリウム属細菌を、糖及びリン酸又はその塩を含有する培地中で培養する発酵法によるG-1-Pの製造が提案されている(特許文献2参照)。
【0004】
酵素法による反応終了液は、G-1-P以外に、未反応物である糖類及びリン酸(塩)を含んでいる。そのため、反応終了液を限外濾過後、透析法又は電気透析法によりリン酸又はその塩を除去し(特許文献3及び4参照)、続いてアセトン、エタノール等の水溶性の溶剤を用いた晶析により糖類を除去し、G-1-Pを精製している。しかしながら、G-1-Pの晶析には多量の溶剤が必要であり、高コストとなる。また水溶性の溶剤を再利用するためには共沸蒸留プロセスや浸透気化法(パーベーパレーション)等の特別な装置を用いた工程が必要となり、設備的な負荷が高くなるという問題がある。更には、発酵法による反応終了液には、上記糖類及びリン酸(塩)以外に、タンパク質、ペプチド、色素等が残存しており、これらも除去する必要があるが、溶剤晶析では除去することができない。また、仮に発酵法の反応液を、限外濾過、透析法又は電気透析法、活性炭処理等に付した後、更に溶剤晶析法で精製したとしても、発酵由来の香気成分等の低沸点成分が溶剤に濃縮されてくるため、溶剤を再利用することはできない。
【0005】
【特許文献1】
特開平1-63589号公報
【特許文献2】
特開2002-300899号公報
【特許文献3】
特開昭61-129189号公報
【特許文献4】
特公平6-96585号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明は、酵素法、発酵法の双方の反応終了液に適用でき、しかも低コストで、リン酸又はその塩、糖類等の不純物を除去し、G-1-P等の糖リン酸エステル又はその塩を精製できる方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、発酵法又は酵素法による糖リン酸エステル製造の反応終了液に、1価イオン非選択性陰イオン交換膜を用いた電気透析を施せば、糖リン酸エステルイオンとリン酸のイオンは当該膜を通過するが、糖類、タンパク質等は通過しないため、糖類(及びタンパク質等)を低コストで分離することが可能であること、更に、これに1価イオン選択性陰イオン交換膜を用いた電気透析法による脱リン工程を組み合わせれば、糖類及びリン酸(塩)、更には発酵法による反応終了液に含まれるタンパク質(ペプチド)も除去することができ、低コストでG-1-Pの精製が可能となることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、第一に、糖リン酸エステル又はその塩及び糖類を含有する混合水溶液を、1価イオン非選択性陰イオン交換膜を用いた電気透析に付すことにより、糖類を除去する糖リン酸エステル又はその塩の精製法を提供するものである。
【0009】
更に本発明は、第二に、糖リン酸エステル又はその塩、糖類及びリン酸又はその塩を含有する混合水溶液を、1価イオン非選択性陰イオン交換膜を用いた電気透析、及び1価イオン選択性陰イオン交換膜を用いた電気透析に付すことにより、糖類及びリン酸又はその塩を除去する糖リン酸エステル又はその塩の精製法を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の第一の精製法において使用する、「糖リン酸エステル又はその塩及び糖類を含有する混合水溶液」としては、発酵法による反応終了液、酵素法による反応終了液のいずれでもよく、更にはこれらを電気透析等に付すことによりリン酸又はその塩を除去したものでもよい。また、本発明の第二の精製法において使用する、「糖リン酸エステル又はその塩、糖類及びリン酸又はその塩を含有する混合水溶液」としては、発酵法による反応終了液、酵素法による反応終了液のいずれでもよい。
【0011】
本発明で精製の対象とする糖リン酸エステル又はその塩としては、ヘキソース、ペントース等の単糖類若しくは二糖類等の多糖類のリン酸エステル、又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。より具体的には、G-1-P、グルコース-6-リン酸、マンノース-6-リン酸、ガラクトース-6-リン酸、フルクトース-6-リン酸、グルコース-1,6-二リン酸、フルクトース-1,6-二リン酸、又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられ、本発明は特にG-1-Pの精製に好適である。
【0012】
また、前記混合水溶液に含まれる糖類としては、未反応物としてのヘキソース、ペントース等の単糖類及び二糖類等の多糖類、例えばグルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マンノース、ガラクトース、フルクトース等が挙げられる。更に前記混合水溶液に含まれるリン酸又はその塩としては、オルトリン酸のほか、ピロリン酸等の縮合リン酸、又はそれらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0013】
本発明では、前記混合水溶液を一段階又は相異なる二段階の電気透析に付すことにより、糖リン酸エステルを精製するものであるが、電気透析に先立ち、限外ろ過等のろ過を施すことが好ましく、また、混合水溶液として発酵法による反応終了液を用いる場合は、発酵菌体分離のため、精密濾過処理を施すことが好ましい。また発酵液の種類によっては、電気透析脱糖工程での糖リン酸エステルの透過性を悪くする夾雑物質が存在する場合がある。そのような発酵液の場合には、上記ろ過に加え、更に、活性炭による処理を施すことが好ましい。
【0014】
糖類除去のための電気透析(脱糖工程)では、1価イオン非選択性陰イオン交換膜を使用する。1価イオン非選択性陰イオン交換膜とは、1価陰イオンの選択性のない陰イオン交換膜をいい、例えばセレミオンAMV(旭硝子社製)、A201(旭化成社製)、ACM(トクヤマ社製)等の市販品を使用することができる。一方、陽イオン交換膜は1価イオン非選択性である必要はないが、1価イオン非選択性であることが好ましい。これらは、電気透析装置において交互に配列され、糖リン酸エステル及び不純物を含む混合水溶液(反応終了液)を多室型透析槽の隔室(脱塩室)に、また隣り合う隔室(濃縮液室)には低濃度の塩(電解質)の水溶液を供給する。
【0015】
脱糖工程における混合水溶液(反応終了液)の濃度、電解質溶液の濃度、電気透析時間、通電電流量、膜面積等は、目的に応じて条件を設定すればよいが、通電電流量は限界電流密度を超えない範囲で操作するのが好ましい。この工程により、1価イオン非選択性陰イオン交換膜を、アニオンである糖リン酸エステルイオンとリン酸イオンだけが透過して隣の隔室へ移るため、糖類、更には発酵法の反応終了液に含まれるタンパク質、ペプチド、色素等を分離することができる。
【0016】
リン酸(塩)除去のための電気透析(脱リン工程)では、1価イオン選択性陰イオン交換膜を使用する。1価イオン選択性陰イオン交換膜とは、1価陰イオンのみを透過させる選択性を付与された陰イオン交換膜をいい、例えばセレミオンASV(旭硝子社製)、A192(旭化成社製)、ACS(トクヤマ社製)等の市販品を使用することができる。一方、陽イオン交換膜は1価イオン選択性である必要はないが、1価イオン選択性であることが好ましい。これらは、電気透析装置において交互に配列され、糖リン酸エステル及び不純物を含む混合水溶液(反応終了液)を多室型透析槽の隔室(脱塩室)に、また隣り合う隔室(濃縮液室)には水又は低濃度の塩(電解質)の水溶液を供給する。
【0017】
1価イオン選択性陰イオン交換膜は、糖リン酸エステルイオンやリン酸多価イオンは通過できず、リン酸1価イオン(H2PO4 -)のみが通過する。リン酸は溶液のpHによって荷電状態が異なり、pHを下げると1価イオンになる。従って、リン酸除去の効率の点及び糖リン酸エステルの安定性の点から、混合水溶液のpHは、2〜10、特に4〜7に調整することが好ましい。脱リン工程におけるその他の設定条件は、前記同様、目的に応じて条件を設定すればよく、通電電流量は限界電流密度を超えない範囲で操作するのが好ましい。
【0018】
以上の2種の電気透析を行う順番は、反応終了液が発酵法、酵素法のいずれによるものであるかを問わず、どちらを先に行うこともできるが、発酵法による反応終了液を精製する場合は、先に脱リン工程を行った場合、続く脱糖工程での糖リン酸エステルの透過性が低下する傾向にあるため、まず脱糖工程、次いで脱リン工程の順番で行うのが好ましい。
【0019】
電気透析終了液の溶液は、必要に応じて、蒸発等による濃縮し、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の添加により中和塩とし、更に噴霧乾燥等することにより、糖リン酸エステルを粉末状で得ることができる。この場合の蒸発濃縮と中和の順番は、高pHでの加熱による着色等を回避するため、蒸発濃縮を先に行うのが好ましい。
【0020】
【実施例】
参考例1
コリネバクテリウム・カルナエ(C. callunae)IFO15359を、酵母エキス0.3%、アミノ酸混合液1.0%、水あめ10%、塩化カルシウム0.01%、硫酸マグネシウム7水和物0.02%、塩化鉄(III)6水和物0.0025%、硫安0.5%、尿素1.0%、リン酸二水素カリウム・リン酸水素二カリウム緩衝液400mM(pH7.0)の条件下で、30℃、5日間培養し、7.1g/LのG-1-P含有発酵液を得た。発酵液を孔径0.25μmの精密濾過膜(旭化成社製PMP-102)にて菌体分離を行った。
得られた精密濾過液を、旭化成社製電気透析装置アシライザーG3を用いた電気透析処理に付した。1価陰イオン非選択透過膜としてA201(旭化成社製)、1価陽イオン非選択透過膜としてK501SB(旭化成社製)を使用したイオン交換膜カートリッジAC-220-400型を使用した。電気透析処理を2時間行ったところ、濃縮液室でのG-1-Pの回収率は85%、リン酸イオンの回収率は98%、糖の除去率は94%(フェノール硫酸法により測定。以下同じ)、タンパク質・ペプチドの除去率は93%(Lowry法により測定。以下同じ)であった。また、得られた濃縮液の色相ΔE(Lab)を色差計にて測定した。ΔE(Lab)は色差計を用いて試料溶液の水に対する明度(L)、色度−黄(a)、色度−青(b)の差を測定し、それらを2乗平均して得られる値であり、値が大きいほど色が濃いことを意味する。精密濾過液の色相がΔE(Lab)=34であったのに対し、濃縮液の色相はΔE(Lab)=3でありほぼ透明であった。
【0021】
参考例2
参考例1にて1価イオン非選択膜を用いた電気透析処理を行った液を、1価イオン選択膜を用いた電気透析処理に付した。1価陰イオン選択透過膜としてA192(旭化成社製)、1価陽イオン選択透過膜としてK192(旭化成社製)を使用したイオン交換膜カートリッジAC-110-400型を使用した。電気透析処理を2時間行ったところ、脱塩室でのG-1-Pの回収率は90%であり、リン酸イオンの除去率は99.9%であった。
その後、水酸化ナトリウムにて中和処理を行った後、噴霧乾燥して、G-1-P含有粉末を得た。得られたG-1-P含有粉末のG-1-P純度は、G-1-P・2Na・4H2Oとして68%であった。
【0022】
参考例3
コリネバクテリウム・グルタミカム(C. glutamicum)JCM1321を酵母エキス0.5%、アミノ酸混合液1.0%、水あめ10%、塩化カルシウム0.01%、硫酸マグネシウム7水和物0.02%、塩化鉄(III)6水和物0.0025%、硫安0.5%、リン酸二水素カリウム・リン酸水素二カリウム緩衝液400mM(pH7.0)の条件下で、30℃、5日間培養し、8.0g/LのG-1-P含有発酵液を得た。得られた発酵液を参考例1と同様に精密濾過膜処理により菌体分離を行い、参考例1と同様に1価イオン非選択透過膜にて電気透析処理を2時間行った。濃縮液室でのG-1-Pの回収率は63%、リン酸イオンの回収率は98%、糖の除去率は94%、タンパク質・ペプチドの除去率は88%であった。
【0023】
参考例4
参考例3にて1価イオン非選択膜を用いた電気透析処理を行った液を、参考例2と同様に1価イオン選択膜を用いた電気透析処理に2時間付したところ、脱塩室でのG-1-Pの回収率は92%であり、リン酸イオンの除去率は99.9%であった。
その後、水酸化ナトリウムにて中和処理を行った後、噴霧乾燥して、G-1-P含有粉末を得た。得られたG-1-P含有粉末のG-1-P純度は、G-1-P・2Na・4H2Oとして62%であった。
【0024】
参考例5
参考例3にて発酵液を精密濾過膜処理により菌体分離を行った後、粉末活性炭2%を添加し、濾過した。その後参考例1と同様に1価イオン非選択透過膜にて電気透析処理を2時間行った。濃縮液室でのG−1−Pの回収率は93%、リン酸イオンの回収率は99%、糖の除去率は94%、タンパク質・ペプチドの除去率は96%であった。
【0025】
実施例6
参考例5にて1価イオン非選択膜を用いた電気透析処理を行った液を、参考例2と同様に1価イオン選択膜を用いた電気透析処理に2時間付したところ、脱塩室でのG−1−Pの回収率は92%であり、リン酸イオンの除去率は99.9%であった。その後、水酸化ナトリウムにて中和処理を行った後、噴霧乾燥して、G−1−P含有粉末を得た。得られたG−1−P含有粉末のG−1−P純度は、G−1−P・2Na・4H2Oとして74%であった。
【0026】
比較例1
参考例3で得られた精密濾過した液を限外濾過(旭化成社製AIP-1010)により除タンパクを行った。その後、参考例2、4及び実施例6と同様に1価イオン選択透過膜にて電気透析処理を2時間行った。脱塩室でのG-1-Pの回収率は92%であり、リン酸イオンの除去率は99.9%であった。更に逆浸透膜(日東電工社製NTR-7450)にて約10倍に液を濃縮し、活性炭10%を添加・濾過し脱色を行った。逆浸透濃縮液の色相がΔE(Lab)=166であったのに対し、活性炭処理によりΔE(Lab)=2となった。得られた活性炭処理液を水酸化ナトリウムで中和し、エタノールを元液に対して230%添加し、沈殿・ろ別し、減圧乾燥機にて40℃一昼夜乾燥を行った。エタノール晶析でのG-1-P回収率は96%、全工程における糖及びタンパク質・ペプチドの除去率はそれぞれ92%、89%であった。得られたG-1-P含有粉末のG-1-P純度は、G-1-P・2Na・4H2Oとして64%であった。
【0027】
以上の結果を表1に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
以上の結果、1価イオン非選択透過膜と1価イオン選択透過膜を組み合わせることにより効率的にG-1-Pを精製することができた。
【0030】
【発明の効果】
本発明の精製法は、酵素法、発酵法の双方の反応終了液に適用でき、しかも低コストで、リン酸又はその塩、糖類等の不純物を除去し、G-1-P等の糖リン酸エステル又はその塩を精製することができる。
Claims (1)
- 発酵法により得られる、糖リン酸エステル又はその塩、糖類及びリン酸又はその塩を含有する混合水溶液を、活性炭による処理を施した後、1価イオン非選択性陰イオン交換膜を用いた電気透析を行い、次いで1価イオン選択性陰イオン交換膜を用いた電気透析に付すことにより、糖類及びリン酸又はその塩を除去する、糖リン酸エステル又はその塩の精製法。
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