以下、本発明の実施形態について説明する。
[第1実施形態]
本実施形態による加熱部材は、基板加熱装置の構成部品であり、被処理物を加熱する加熱面を有し、セラミックスからなる板状に形成されている。そして、前記基体の径方向中央部に、径方向中心に向けて常温状態で圧縮残留応力が作用しており、前記加熱部材の径方向中央部における熱膨張係数を、径方向外側部(外周部)における熱膨張係数よりも小さく設定している。また、この基体は、径方向中央部が外周部よりも低い温度状態で加熱される、いわゆるセンタークールにて使用される。
図1は、第1実施形態による加熱部材を示す断面図である。
図1に示すように、この加熱部材1は、円盤状の基体3と、該基体3の裏面側に取り付けられた円筒状の給電部材5とから構成され、これらの基体3及び給電部材5は共に、窒化アルミニウムから形成されている。
前記基体3は、円盤状に形成されており、表面はウエハが載置される基板加熱面7に設定されている。また、厚さ方向の中間部分に抵抗発熱体9が埋設されている。
この抵抗発熱体9は、モリブデン(Mo)からなる平面視略同心円状のコイルであり、1本のコイルを途中部分で複数回折り返すことにより、交差することなく全体が1本に連続して繋がっている。コイルの径又は隣り合うコイル部分の間隔を変化させることにより、径方向中央部11と径方向外側部13とで発熱密度を変えている。これにより、加熱部材9の径方向で異なった加熱温度分布を形成することができる。また、コイルの径、ピッチ又は隣り合うコイル部分の間隔を、径方向中心から外周側に向かって徐々に変えることにより、加熱温度分布をなだらかに可変させることができる。
なお、抵抗発熱体9は、前述したコイルに限定されず、メッシュ状(網状)に形成しても良い。このメッシュの場合は、幅を部位によって変えることで、発熱密度を適宜変化させることができる。
そして、基体3の裏面の中央部に、平面視略円形状で、断面略矩形状の給電部材用取付溝15が形成されている。この取付溝15の内面には、接合層17が形成され、該接合層17を介して給電部材5が固定されている。
また、基体3は、径方向中央部11と径方向外側部13とから一体に形成されているが、常温状態において径方向中央部11に径方向中心に向けて圧縮残留応力が作用しており、径方向中央部11と径方向外側部13とでそれぞれの熱膨張係数が異なっている。具体的には、径方向中央部11の熱膨張係数は、径方向外側部13の熱膨張係数よりも小さく設定されている。
このように、熱膨張係数を径方向中央部11と径方向外側部13とで変えるには、基体3を焼結によって製造する際に添加する焼結助材の量を適宜変える方法を好適に採用することができる。
例えば、窒化アルミニウム(AlN)では、前記焼結助材は、Y2O3、MgO、CaO、Sm2O3等のうちの少なくともいずれかの焼結助材の添加量を変化させることで、熱膨張係数を変えることができる。また、窒化アルミニウムの抵抗率を大きく下げない範囲で、TiO2、ZrO2、SiO2等の熱膨張係数を変えることができる焼結助剤や二次成分を添加しても良い。抵抗率が大きく下がると、埋設された抵抗発熱体から窒化アルミニウム材料を通じて電流の一部が漏れ始め、均熱性に影響が生じるため好ましくない。また、酸化物だけでなく、炭化物、窒化物でも二次成分として添加しても良い。
焼結助材酸化物の熱膨張係数が窒化アルミニウムよりも大きい場合は、焼結助材の含有量を多くすることで、窒化アルミニウム焼結体の熱膨張係数を大きくすることができる。炭化物、窒化物は窒化アルミニウムよりも熱膨張係数が小さいものが多いため、これらを含有させることにより、窒化アルミニウム焼結体の熱膨張係数を小さくすることができる。アルミナではSiO2を含有させることにより、熱膨張係数を小さくすることができる。
なお、前記基体3のセラミックスは、窒化アルミニウム、アルミナ、炭化ケイ素、及び窒化ホウ素のうち、少なくともいずれかであることが好ましい。
本実施形態による加熱部材1は、いわゆるセンタークールの温度分布にて使用されることが好ましい。このセンタークールとは、円盤状の加熱部材1における径方向中央部11が、径方向外側部13よりも低い温度分布に設定された状態をいう。
径方向中央部11に残留応力がない加熱部材1の場合は、加熱部材1をセンタークールにて加熱したときに、径方向外側部13が熱膨張して径方向中央部11を外周方向に引っ張る。このため、径方向中央部11に引張応力が発生して、径方向中央部11が変形や破損を起こしやすくなる。
以下、本発明の実施の形態に係る加熱部材の製造方法について具体的に説明する。
まず、基体3の作製工程では、抵抗発熱体9を埋設した、セラミックスからなる基体3の成形体を作製する。
具体的には、同心円状に形成された大小2つの円筒状の型枠を成形型上に設置し、小さい方の型枠中、及び、小さい型枠と大きい型枠との間にそれぞれ原料粉を投入する。これらの原料粉は、AlN、SiC、SiNx、サイアロン等の主原料にY2O3等の希土類酸化物を焼結助材として添加したものである。そして、小さい型枠内に投入する原料粉における焼結助材の量は、小さい型枠と大きい型枠との間に収容する原料粉中の助材量よりも少ない。
次いで、前記型枠を取り外し、一軸プレスを行うことによって予備成形体を作製する。そして、この予備成形体上に抵抗発熱体を載置したのち、再び、型枠を設置し、前記原料粉をそれぞれの型枠中に投入する。こののち、一軸プレスを行い、基体用成形体を作製したのち、1700℃以上の高温でホットプレスを行い焼結体を作製し、研削加工して基体3を作製する。
なお、抵抗発熱体9の材質としては、モリブデン、タングステン、タングステン/モリブデン化合物等を使用できる。使用する抵抗発熱体9は、線状のものに限らず、メッシュ状、コイルスプリング状、シート状、膜状等種々の形態を採用することができる。
次に、基体3の焼成工程では、前記基体3の作製工程で得られた基体用成形体を、例えばホットプレス法又は常圧焼結法を用いて焼成する。
原料粉として窒化アルミニウム粉を使用した場合は、窒素中で1700℃〜2000℃の温度で約1時間〜10時間焼成する。
ホットプレス時の圧力は、20Kg/cm2〜1000Kg/cm2以上、より好ましく100Kg/cm2〜400Kg/cm2とする。ホットプレス法を用いた場合は焼結時に一軸方向に圧力がかかるため、抵抗発熱体9と周囲のセラミックス基体3との密着性を良好にできる。また、抵抗発熱体9として金属バルク体電極を使用した場合は、ホットプレス焼成時にかかる圧力で変形することがない。
基体3の加工工程では、X線撮影等を用いて抵抗発熱体9の中心を割り出した後、角部の面取り加工や焼成後の基体3に電極端子引き出し用の孔を開口する加工を行う。
また、基体3の表面に、サンドブラスト法等を用いてエンボスを形成したり、基板3を載置するための溝を形成したり、基板加熱面7へ流すパージガス用の孔や溝、又はリフトピン等の孔を必要に応じて形成する。
なお、この基体加工工程は、完全に焼成した後に行うのでなく、最終的な焼成温度よりやや低い温度で焼成するか、短時間焼成することにより得た仮焼成体を用いて行ってもよい。完全に焼成が終了する前に加工を行うことで、加工をより容易にすることができる。仮焼成体に加工を施した場合は、加工後再び焼成を行う。
さらに、給電部材5を取付溝15に挿入し、抵抗発熱体9の電極端子に挿入した給電部材5とを接合し、端子の接合を行う。
なお、給電部材5としては、Ni等の導電材料をロッド形状、ワイヤ形状等に加工したものを使用できる。
給電部材5と抵抗発熱体9との接合は、ろう付けのほか、給電ロッド外周にネジ溝を切り、セラミックス基体にもネジ溝を切り、給電棒をネジ込みにより電極端子との接合を行ってもよく、さらに、かしめ、嵌合、溶接、共晶等を利用した固相接合を採用してもよい。
こうして、抵抗発熱体9の端子と給電部材5との接合を行うことにより、予備完成体が得られたら、抵抗発熱体9に給電を行い抵抗発熱体9を加熱する。
実際の作動条件のもと、セラミックス基体3の基板加熱面7の温度分布を赤外放射温度計を用いて測定する。
また、前記第1の領域11における熱膨張係数は、隣接する第2の円環領域13における熱膨張係数よりも小さく設定されており、その差違は0.2ppm/K以上かつ1.0ppm/K未満となっている。
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
(1)焼結時の高温状態において、異なる熱膨張係数を有する部分(第1の領域11及び第2の円環領域13)から構成される基体3は十分なる可塑性を有しているため、径方向に沿って作用する内部応力がほぼゼロになる。この状態から温度を下げてゆくと、次第に可塑性が失われ、基体3の各部分がその部分固有の熱膨張係数に応じて収縮していく。その際に、熱膨張係数が大きい部分はより大きく収縮しようとするが、熱膨張係数の小さい部分に固着しているため、熱膨張係数通りに収縮できない。一方、熱膨張係数が小さい部分はより少なく収縮しようとするが、熱膨張係数の大きい部分に固着しているので、本来の収縮量よりも収縮が大きくなる。すなわち、温度低下に伴う収縮の際に熱膨張係数の大きな部分は熱膨張係数の小さな部分に引っ張られるので、残留引張応力が発生する。一方、熱膨張係数の小さな部分は熱膨張係数の大きな部分に押されるので残留圧縮応力が発生する。本発明では、径方向中央部11に熱膨張係数が小さい材料が用いられているので、径方向中央部11に残留圧縮応力が常温で発生している。
このように、前記加熱部材1の基体3の径方向中央部11に、径方向中心に向けて常温状態で圧縮残留応力が作用しているため、基体3における基板加熱面7の径方向中央部11が、外周部13よりも低温の温度分布に設定された状態で使用される場合においても、径方向中央部11に変形や破損が生じるおそれがない。
即ち、基体3の径方向中央部11が外周部13よりも低い温度の温度分布で加熱されると、外周部13が熱膨張を起こし、径方向中央部11を引っ張るように外周方向に広がろうとする。しかし、径方向中央部11には、常温状態で圧縮残留応力が作用しているため、加熱されて外周方向に広がったときに生じる引張応力が、前記圧縮残留応力と相殺される。これによって、加熱部材1を加熱した場合でも、径方向中央部11には引張応力が生じなくなるため、径方向中央部11における変形や破損のおそれがなくなる。
(2)また、隣接する部分同士(第1の領域11及び第2の円環領域13)の熱膨張係数の差は0.2ppm/K以上かつ1.0ppm/K未満が好ましい。この熱膨張係数の差が0.2ppm/K未満の場合は、前述した(1)の効果が十分に発生しない。また、1.0ppm/K以上になると、常温で発生する残留応力が過度に大きくなり、十分な強度を有する加熱部材を得ることができなくなる。
[第2実施形態]
次いで、第2の実施形態について説明する。ただし、前述した第1の実施形態と同一内容については、同一符号を付してその説明を省略する。
本実施形態においては、基体の径方向外側から径方向中心に向かうにつれて、熱膨張係数を徐々に低減させている。この熱膨張係数を変えるため、原料粉に添加する焼結助材の量を変えている。また、前記第1の領域23における熱膨張係数は、隣接する第2の円環領域25における熱膨張係数よりも小さく設定されており、その差違は0.2ppm/K以上かつ1.0ppm/K未満となっている。
図2は、第2の実施形態による加熱部材を示す断面図である。この加熱部材21の外形は、円盤状に形成されており、加熱部材21は、径方向に沿って、複数の同心円状の円環領域に分かれている。最も径方向内側には、第1の領域23が配置され、該第1の領域23の外周側には、第2の円環領域25が配置され、最も外周側には、第3の円環領域27が配置されている。そして、第1の領域23と第2の円環領域25には、径方向内側に向かう圧縮残留応力が作用し、第1の領域23における圧縮残留応力は、第2の円環領域25における圧縮残留応力よりも大きくなっている。
本実施形態による加熱部材の製造方法を、前記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
まず、円盤状の基体29を作製する。
同心円状に形成された径の異なる3つの円筒状型枠を成形型上に配置する。そして、それぞれの型枠の中に原料粉と焼結助材との混合粉を収容する。そして、混合粉中の焼結助材量を、径方向中心から外周に向かうにつれて徐々に増やしている。例えば、最も径の小さい型枠内の混合粉中の焼結助材量を0.1wt%、最も小さい型枠と2番目に小さい型枠との間に収容する混合粉中の焼結助材量を2.0wt%、最も外側に収容する混合粉中の焼結助材量を5.0wt%とする。
この工程以降は、前記第1の実施形態と同様の手順で成形を進めることによって、本実施形態による加熱部材21を作製することができる。
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
(1)前記加熱部材21の基体3の熱膨張係数を、径方向外側から径方向中心に向かうにつれて徐々に低減させているため、常温で発生している残留応力が径方向に沿ってなだらかに(徐々に)分布させることができると同時に、径方向中心部と外周部の最も周縁とにおける熱膨張係数の差異を大きくすることができるので、より径方向中心部の残留圧縮応力を高めることができる。このような加熱部材21がセンタークール状態で高温に加熱されることによって外周方向に膨張する場合、径方向中央部となる第1の領域23が外周方向に引っ張られる際の引張応力が径方向に沿ってなだらかに変化する。従って、加熱部材21の基体29が加熱される際に、常温状態で基体29に生じている残留圧縮応力が前記引張応力によってなだらかに相殺されると共に、より大きなセンタークールにも耐えることが可能となる。
(2)前記基体29を円盤状に形成し、この基体29に複数の同心円状の円環領域23,25,27を設定し、所定の円環領域とこれに隣接する円環領域との熱膨張係数の差違を0.2ppm/K以上かつ1.0ppm/K未満としたため、径方向中心部と最外周部の熱膨張係数の差異を0.4ppm/K以上2.0ppm/Kとすることができる。この場合は、径方向中心部にさらに大きな残留圧縮応力を発生させることが可能となる。
[第3実施形態]
次いで、本発明の第3の実施形態を説明する。ただし、前述した第1の実施形態及び第2の実施形態と同一内容については、同一符号を付してその説明を省略する。
本実施形態においては、加熱部材31を構成する基体33を、表面層35、裏面層37、及び中間層39から構成し、表面層35及び裏面層37の表面に常温状態で圧縮残留応力が作用している。
図3は、本実施形態による加熱部材を示す断面図である。
基体33は、外形が円盤状に形成されており、表面側に配置した表面層35と、裏面側に配置した裏面層37と、これらの表面層35及び裏面層37の間に挟持した中間層39とから構成している。
そして、中間層39における熱膨張係数を、表面層35及び裏面層37の熱膨張係数よりも小さく設定しているので、表面層35の表面(上面)、及び裏面層37の裏面(下面)に、常温状態で圧縮残留応力が作用している。
本実施形態による加熱部材の製造方法を、前記第1実施形態及び第2実施形態と異なる点を中心に説明する。
まず、基体33の作製工程では、抵抗発熱体9を埋設した、セラミックスからなる基体33の成形体を作製する。
具体的には、円筒状の型枠を成形型上に設置し、該型枠の中に裏面側用の原料粉を投入する。次に、この裏面側用の原料粉よりも焼結助材の添加量の少ない中間側用の原料粉を投入する。さらに、中間側用の原料粉の上に表面側用の原料粉を投入する。前記裏面側用の原料粉と表面側用の原料粉とは、添加する焼結助材の量を同等にすると共に、中間側用の原料粉中の焼結助剤の量を、裏面側用の原料粉と表面側用の原料粉よりも多くしている。
この工程以降は、前記第1及び第2の実施形態と同様の手順で成形を進めることによって、本実施形態による加熱部材を作製することができる。
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
(1)前記表面層35の表面及び裏面層37の裏面に、基体33の径方向中心に向けて常温状態で圧縮残留応力が作用しているため、基体33を加熱した場合に、基体33に変形や破損が生じることがなくなる。
即ち、基体33がセンタークールとなるように加熱されると、径方向中心部に引張応力が発生しようとする。しかし、基体33の表面には、常温状態で圧縮残留応力が作用しているため、前記圧縮残留応力と相殺される。これによって、基体33が破損する場合に破壊起点となる表面や裏面には引張応力が生じなくなるため、基体33における変形や破損のおそれがなくなる。
(2)前記中間層39における熱膨張係数を、表面層35及び裏面層37における熱膨張係数よりも大きく設定しているため、焼結後の基体33の表面及び裏面に圧縮残留応力が発生する。すなわち、焼結時の高温状態では基体33に可塑性があるため、内部には応力はほとんど発生していない。焼結時の高温状態から常温まで温度を下げる際に、可塑性は失われ、中間層は表面層及び裏面層よりも大きく収縮しようとする。中間層に径中心方向に引っ張られることで、表面層および裏面層には圧縮残留応力が発生する。このようにして、前述した(1)の作用効果を有することとなり、基体33をセンタークールに加熱した場合に、基体33の表面及び裏面に引張応力が発生しないため、基体33における変形や破損のおそれが少なくなる。
[第4実施形態]
次いで、本発明の第4の実施形態を説明する。ただし、前述した第1〜第3の実施形態と同一内容については、同一符号を付してその説明を省略する。
本実施形態に係る基板加熱装置は、前記第1実施形態に係る加熱部材に略円筒状の管状部材(シャフト)を接合したものである。
図4は、本発明の第4実施形態による基板加熱装置の断面図である。
この基板加熱装置41は、円盤状に形成された基体3と、該基体3の裏面側に接合した円筒状の給電部材5と、該給電部材5の外周側に配置されて、前記基体3の裏面側に接合された管状部材(シャフト)43とから構成され、前記基体3及び管状部材43は共に、セラミックスの焼結体から形成されている。
基体3は、第1実施形態と同様に、径方向中央部11と径方向外側部13とから一体に形成されているが、常温状態において径方向中央部11に径方向中心に向けて圧縮残留応力が作用しており、径方向中央部11と径方向外側部13とでそれぞれの熱膨張係数が異なっている。具体的には、径方向中央部11の熱膨張係数は、径方向外側部13の熱膨張係数よりも小さく設定されている。
このように、熱膨張係数を径方向中央部11と径方向外側部13とで変えるには、基体3を焼結によって製造する際に添加する焼結助材の量を適宜変える方法を好適に採用することができる。
また、管状部材43は、上部が大径部45に形成され、下部は、大径部45よりも径の小さい小径部47に形成されている。そして、大径部45の上端が基体3の径方向外側部13の裏面に接合されている。この管状部材43の熱膨張係数は、前記基体3の径方向中央部11における熱膨張係数よりも大きく設定することが好ましい。
更に好ましくは、管状部材43の熱膨張係数は、前記基体3の径方向外側部13の熱膨張係数と同一か又はほぼ同一の値に設定することが好ましい。具体的には、管状部材43の熱膨張係数と前記基体3の径方向外側部13の熱膨張係数との差を0.1ppm/K以下に設定することが好ましい。
以下に、本実施形態による基板加熱装置の製造方法について簡単に説明する。
まず、前記第1実施形態で説明した方法によって、加熱部材を製造する。
一方、管状部材43の作製工程では、まず原料粉を用いて管状部材43の成形体を作製する。
次いで、得られた成形体を焼結し、この焼結により得られた焼結体を加工する。管状部材作製工程では、基体と良好な接合を得るため、原料粉として、前記基体3の径方向外側部13と同質の原料粉を使用することが望ましい。
成形方法としては、種々の方法を使用できるが、比較的複雑な形状の成形に適した、CIP(Cold Isostatic Pressing)法やスリップキャスト等を使用することが好ましい。
管状部材焼成工程では、前述の管状部材作製工程で得られた焼結体を焼成するが、焼結体の形状が複雑なため、常圧焼成法を用いて焼成することが望ましい。
セラミックス原料としてAlNを使用する場合は、窒素中で1700℃〜2000℃の温度で、約1時間〜10時間焼成する。
管状部材加工工程では、焼結体表面及び接合面のラッピング加工等を行う。
次に、管状部材接合工程では、前述した基体と管状部材との接合を行う。
この管状部材接合工程では、接合面のいずれか一方もしくは両方に、接合剤として希土類化合物を塗布した後、互いに接合面を貼り合わせ、窒素雰囲気中で1700℃〜1900℃の温度で熱処理を行う。
必要に応じて接合面と垂直な方向から一軸加圧し、所定の圧力を加えてもよい。こうして、基体及び管状部材との固相接合を行う。
なお、基体と管状部材の接合は、前述した固相接合以外にもろう付けやOリング、メタルパッキング等を用いたシール材を挟んだ機械的接合を行ってもよい。
さらに、管状部材43内に給電部材5を挿入し、抵抗発熱体9の電極端子とシャフト内に挿入した給電部材5とを接合し、端子の接合を行う。
なお、給電部材5としては、Ni等の導電材料をロッド形状、ワイヤ形状等に加工したものを使用できる。
給電部材5と抵抗発熱体9との接合は、ろう付けのほか、給電ロッド外周にネジ溝を切り、セラミックス基体にもネジ溝を切り、給電棒をネジ込みにより電極端子との接合を行ってもよく、さらに、かしめ、嵌合、溶接、共晶等を利用した固相接合を採用してもよい。
本実施形態による作用効果を説明する。
本実施形態においては、管状部材43の熱膨張係数と前記基体3の径方向外側部13の熱膨張係数との差を0.1ppm/K以下に設定しているため、基板加熱装置41における加熱部材1を加熱した場合、基体3の径方向外側部13における膨張度合いと管状部材43の膨張度合いがほぼ一致する。従って、加熱時において、管状部材43の基体3に対する接合強度を高く保持することができる。さらに、基体3の径方向中央部の熱膨張係数よりも管状部材43の熱膨張係数の方が大きいため、高温で接合した後の冷却中に管状部材43が基体3の中央部よりもより大きく収縮しようとして、基体3の径方向外側部とともに基体3の径方向中央部を圧縮する。このことで、管状部材43を接合しない場合に比較して、より大きな圧縮残留応力を基体3の径方向中央部に発生させることが可能になる。従って、管状部材43を取り付けることで、より大きいセンタークール加熱を行っても、加熱部材が破損するおそれがなくなる。
以下に、本発明を実施例によって更に具体的に説明する。
本実施例においては、窒化アルミニウムからなる基体と該基体に接合した管状部材(シャフト)とからなる加熱部材を作製し、該加熱部材をセンタークールに加熱した場合の破損状態を調べた。
まず、前述した実施形態における製造方法に沿って基板を作製した。
[実施例1]
最初に、大小2つの円筒状の型枠を成形型上に設置し、焼結助材を含む原料粉を前記型枠内に投入した。その後、型枠を取り除き、一軸プレスを行うことによって、成形体を作製した。
成形体上にヒーターエレメントを載せた後、再び、円筒状の型枠を設置して、各々の原料粉を所定の位置に流し込み、再び一軸プレスを行い、基体用成形体を作製した。この基体用成形体を1700℃以上の温度でホットプレスして焼結体を作製し、研削加工することにより、基体を作製した。
なお、基体の外周の径は325mm、径方向中央部の径は62mm、及び厚さは15mmとした。また、前記原料粉は、AlNからなる主原料にY2O3を焼結助材として添加したものであり、径方向中央部の助剤量は0.1wt%、径方向外側部の助剤量は5.0wt%とした。
この基体の中心部に、基体内部に埋設された抵抗発熱体の二つの端部が露出するように座繰り孔を設け、抵抗発熱体に給電部材をロウ付けによって接合した。なお、必要に応じて、基体内部にRF電極となる円盤型のメッシュ電極を埋設し、該メッシュ電極に給電部材を接合しても良い。さらには、温度を測定するための熱電対を挿入するための孔を設けても良い。
なお、加熱部材は、埋設するヒーターエレメントの形状等のデザインを適宜変えることで、後述するように加熱部材の温度分布を変えることができる。ここでは、センタークールの温度分布を目的としているので、中心部の発熱密度が外周部の発熱密度よりも小さくなるように種々のヒーターエレメントを作成し、それぞれのヒーターエレメントを埋設した、各々3個の加熱部材を作製した。
次いで、この作製した基体を、水冷された真空容器中に設置した。
その後、圧力が50Torrの窒素雰囲気の真空容器内に加熱部材を収容し、給電部材に電圧を印加し、基体の孔に挿入された熱電対の温度をモニタリングしながら、印加電圧を制御し、基体を470℃に昇温して保持した。
なお、ヒーターエレメントを変えて各基体は3個作製し、これら3個のうちいくつが昇温して破損するかどうかを確認した。
[実施例2]
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様の内容については、省略又は簡略化する。
最初に、大小3つの円筒状の型枠を成形型上に設置し、焼結助材を含む原料粉を前記型枠内に投入した。その後、型枠を取り除き、一軸プレスを行うことによって、成形体を作製した。
成形体上にヒーターエレメントを載せた後、再び、円筒状の型枠を設置して、各々の原料粉を所定の位置に流し込み、再び一軸プレスを行い、基体用成形体を作製した。この基体用成形体を1700℃以上の温度でホットプレスして焼結体を作製し、研削加工することにより、基体を作製した。
なお、基体の外周の径は325mm、径方向中央部の径は62mm、径方向中央部の外周側の中間部の径は105mm、及び厚さは15mmとした。また、前記原料粉は、AlNからなる主原料にY2O3を焼結助材として添加したものであり、径方向中央部の助剤量は0.1wt%、中間部の助剤量は2.0wt%、径方向外側部の助剤量は5.0wt%とした。
この基体の抵抗発熱体に給電部材をロウ付けによって接合した。
次いで、この作製した基体を、水冷された真空容器中に設置した。
その後、圧力が50Torrの窒素雰囲気の真空容器内に加熱部材を収容し、給電部材に電圧を印加し、基体の孔に挿入された熱電対の温度をモニタリングしながら、印加電圧を制御し、基体を470℃に昇温して保持した。
なお、ヒーターエレメントを変えて各基体は3個作製し、これら3個のうちいくつが昇温して破損するかどうかを確認した。
[実施例3]
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1,2と同様の内容については、省略又は簡略化する。
最初に、焼結助材を含む原料粉を前記成形型内に投入した。その後、一軸プレスを行うことによって、裏面層を作製した。
この裏面層上にヒーターエレメントを載せた後、原料粉を流し込み、再び一軸プレスを行い、中間層を裏面層上に形成した。この中間層上に原料粉を流し込んだ後、再び一軸プレスを行い、表面層を形成した。成形した積層体を、1700℃以上の温度でホットプレスして焼結体を作製し、研削加工することにより、3層からなる基体を作製した。
なお、基体の外周の径は325mm及び厚さは15mmとした。また、前記原料粉は、AlNからなる主原料にY2O3を焼結助材として添加したものであり、表面層及び裏面層の助剤量は0.1wt%、中間層の助剤量は5.0wt%とした。
この基体の抵抗発熱体に給電部材をロウ付けによって接合した。
作製した基体を、水冷された真空容器中に設置した。
その後、圧力が50Torrの窒素雰囲気の真空容器内に加熱部材を収容し、給電部材に電圧を印加し、基体の孔に挿入された熱電対の温度をモニタリングしながら、印加電圧を制御し、基体を470℃に昇温して保持した。
なお、各基体は3個作製し、これら3個のうちいくつが昇温して破損するかどうかを確認した。
[実施例4]
次に、実施例4について説明するが、前記実施例1〜3と同様の内容については、簡略化する。
最初に、加熱部材の基体を前述した実施例1と同一の方法で作製した。
次いで、焼結助材を含む原料粉を用いて、略円筒状からなる管状部材(シャフト)をCIP成形、常圧焼結法にて作成し、所定の形状に研削加工した。前記原料粉は、AlNからなる主原料にY2O3を焼結助材として添加したものであり、助剤量は、基体の径方向外側部と同じ5.0wt%とした。この管状部材を基体中心部の給電部材用取付部に1700℃で固相接合し、その後、前述のように給電部材を接合した。管状部材の形状は、図4に示すように、長さが150mmで下端にフランジを有し、該フランジの端面は、確実にシールできるように研磨してある。
[比較例1]
比較例1に係る加熱部材においては、基体全体が一様の窒化アルミニウム焼結体から形成した。原料粉は、AlNからなる主原料にY2O3を焼結助材として添加したものであり、助剤量は5.0wt%とした。
[比較例2]
比較例2に係る基板加熱装置においては、前記比較例1の基体の裏面に、この基体と同一の熱膨張係数を有する管状部材を接合した。即ち、原料粉は、AlNからなる主原料にY2O3を焼結助材として添加したものであり、助剤量は5.0wt%とした。
[評価]
前記実施例1〜比較例2で得られた加熱部材及び基板加熱装置について、基板表面の温度測定及び加熱による破損率を調べた。その結果を表1に示す。なお、表1において、「センタークール狙い」とは、基体の径方向中心と外周とにおける温度の差の目標値を示し、(外周温度−中心温度)で表される。Aはセンタークール狙いを0℃、Bはセンタークール狙いを50℃、Cはセンタークール狙いを80℃としている。そして、基体の径方向中心と外周とにおける温度の差を実際に計測した値をセンタークール度合いとして示している。
前記実施例1〜比較例2で得られた加熱部材及び基板加熱装置を、水冷された真空容器中に設置した。3本の点接触となるアルミナピンを200mm間隔の正三角形の頂点部分に配置し、これらのアルミナピンの上に、加熱部材及び基板加熱装置の基板を載置した。
その後、圧力が50Torrの窒素雰囲気の真空容器内に加熱部材及び基板加熱装置を収容し、給電部材に電圧を印加し、基体の孔に挿入された熱電対の温度をモニタリングしながら、印加電圧を制御し、基体を470℃に昇温して保持した。
なお、各基体は、実施例1〜4については3個作製し、比較例1,2については2個作製し、これらのうちいくつが昇温して破損するかどうかを確認した。
真空容器の上部には石英製の窓があり、その外部にIRカメラが設置され、真空容器内の基体の表面における放射温度分布を測定した。この温度分布の測定結果より、基体の中心から直径300mmの円部分内における最大温度と最小温度を読み取った。センタークールとなる抵抗発熱体設計により、中心付近が最小温度となり、直径300mmの円部分における外周近傍が最大温度となった。最大温度と最小温度の差をセンタークール度合いとして算出した。
ホットプレス時に焼結した基体は、その高温状態では内部応力がほぼゼロの状態となっている。しかし、冷却に伴う基体の収縮時には、熱膨張係数の大きな部分が熱膨張係数の小さな部分よりもより大きく収縮しようとするので、室温まで温度が低下した状態で、熱膨張係数の小さな部分には圧縮応力が残留応力として発生する。即ち、実施例1,2においては、焼結した基体の中心部に圧縮応力が発生し、径方向外側部に引張応力が発生している。実施例3では、焼結した基体の中間層に引張応力が発生し、表面層及び裏面層には圧縮応力が発生している。
ここで、本発明の実施例によれば、基板の外周近傍の最大温度と中心近傍の最低温度との差であるセンタークール度合いが、80℃近傍となっても、基板は破損せず、十分な信頼性があることが判明した。さらには、実施例4の基板加熱装置の場合は、センタークール度合いを100℃にしても破損しなかった。比較例1では、センタークール度合いが46℃の場合では、3個中2個が破損した。
本実施例1,2では、端子等の孔が形成されている径方向中央部に、常温状態において圧縮残留応力が発生しているため、加熱部材を高温状態に加熱させたときに径方向中央部に発生する引張応力を、前記圧縮残留応力が打ち消し、孔の近傍に圧縮応力が作用したままとなる。さらには、いわゆるセンタークール状態の温度分布においては、径方向外側部が径方向中央部より温度が高いため、径方向外側部に発生する圧縮残留応力は、加熱によって生じる引張応力と打ち消しあい、加熱部材全体の応力が均一になるため、加熱部材の信頼性が向上する。そのため、従来品では破損するおそれがあるセンタークールの温度分布でも、本発明品は破損することがない。
また、本発明の実施例3では、破損を起こす場合に破壊起点となるセラミックス表面に圧縮応力がかかっているので、実施例1,2と同様の理由で破損が生じることがない。
実施例4では、管状部材が、基体の径方向外側部と同じ高い熱膨張係数に設定されており、この管状部材が基体の径方向外側部に接合されているため、基体の径方向中央部により大きな残留圧縮応力が発生し、より大きなセンタークールにしても破損しない。
本発明では、加熱部材や管状部材における熱膨張係数を、添加する焼結助材の量によって制御するので、熱膨張係数の異なる領域の間では、ホットプレス時に焼結助剤が短い範囲で拡散してバッファー領域となって一体化しており、領域の境界付近に発生する急峻な残留応力を低減し、境界でのはがれ等が起き難く、信頼性の高い構造となっている。
なお、実施例2のように熱膨張の異なる領域を3つ以上とすると、径方向中央部と最外周部との熱膨張係数の差が大きくなるので、径方向中央部に発生する圧縮残留応力はさらに大きくなるとともに、隣り合う領域の熱膨張係数の差は小さくできるので、これらの境界に発生する熱膨張差に起因する残留応力分布が急峻とならず、より信頼性が高くなる。即ち、このような構成とすることで、より大きなセンタークール温度分布を実現することが可能となる。さらには、中心から外周に向かってなだらかに熱膨張係数が徐々に変化させるようにしても良い。
実施例1と同様にして、径方向中央部に0.1wt%のY2O3,外周側に30wt%のY2O3を添加した窒化アルミニウムを用いた時は、加熱部材の焼成後に、加熱部材が破損した。この破損片から切り出した30wt%の窒化アルミニウムの熱膨張係数を測定したところ、6.3ppm/Kであった。AlNの焼結助剤にY2O3を用いた場合は、Y2O35wt%で熱膨張係数は5.7ppm/Kとなり、0.1wt%で5.3ppm/Kとなった。
一方、実施例4と同様にして径方向中央部に0.1wt%のY2O3、径方向外側部及び管状部材に1wt%のY2O3の窒化アルミを用いた場合は、センタークール度合いが76℃で1個/3個が破損した。1wt%のY2O3の部分における窒化アルミニウムの熱膨張係数は5.4ppm/Kであった。このことから、隣り合う領域の熱膨張係数の差異が0.1ppm/Kと小さいときは、本発明の効果が少ないことがわかる。
これらから、基体における隣り合う領域の熱膨張係数の差異は、0.2ppm/K以上1.0ppm/K未満がより好ましいことがわかる。
[他の実施例]
基体の材料として、窒化アルミニウムの代わりにアルミナを用い、焼結助剤としてSiO2を用い、実施例1と同様にして加熱部材を作製した。すなわち、径方向中央部にSiO2を7wt%添加し、径方向外側部をSiO2を1wt%添加した。この場合、SiO2はアルミナより熱膨張係数が小さいので中心部の熱膨張係数を小さく、外周部の熱膨張係数を大きくすることができる。別途、作成したテストピースで熱膨張係数を測定したところ、SiO2を7wt%含有したアルミナは6.6ppm/K、SiO2を1wt%含有したアルミナは7.2ppm/Kであった。
このようにして作成した加熱部材を前記と同様にして300℃で評価したところ、45℃のセンタークールでも破損することがなかった。
一方、比較例としてSiO2を1wt%含有したアルミナのみで基体全体を作製した加熱部材は12℃のセンタークール度合いで破壊した。このようにアルミナにおいても本発明によれば、センタークール加熱できる加熱部材を得ることが可能となることが判明した。