JP4703015B2 - ディーゼル内燃機関の慣らし運転用潤滑油組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディーゼル内燃機関の慣らし運転時のシリンダ油として用いられる潤滑油組成物、およびその潤滑油組成物の調製に有利に用いられる添加剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より大型船舶の駆動機関として用いられている低速二サイクルクロスヘッドディーゼル内燃機関の運転に際しては、船舶用シリンダ潤滑油が使用されており、この潤滑油をシリンダライナーの一定箇所からシリンダ内に連続的にあるいは間欠的に一定量注入することにより、内燃機関の潤滑な運転が行なわれる。近年使用されている潤滑油には、潤滑油自体の性能を高め、かつ潤滑油の耐久性を高めるための各種の添加剤が配合されている。
【0003】
新しく建造された大型船舶では、実際に就航させる前に短時間の試運転(ならし運転)を行なっている。これは、ディーゼル内燃機関の真新しいピストンリングとシリンダライナーの表面を接触させて、なじみ効果を持たせ、製造時の切削研磨などによる傷が消滅する程度に、適度にその表面を摩耗させることを目的としている。シリンダライナー表面の研磨傷は、各種のトラブルを発生させる原因となるとともに、潤滑油の拡散速度を遅らせる。この慣らし運転の際に、シリンダライナー表面のスカッフィングを引き起こさないような適度の摩耗を達成するために、従来より、慣らし運転には就航時のシリンダ油とは多少異なる組成の潤滑油、いわゆる慣らし油(ブレークイン油)が使用されている。これまで慣らし油としては、各社で独自に開発したものが使用されているが、一般的には、全塩基価(TBN)が約20〜70mgKOH/gとなるような添加量のスルホネート系清浄剤およびジチオリン酸亜鉛などを含有する、全体として全塩基価が15mgKOH/g以下のものが使用されている例が多い。
【0004】
近年、船舶用ディーゼル内燃機関の低燃費化を目的としてその熱効率を高めるための開発が進んだ結果、内燃機関の熱負荷が高くなり、また回転速度が低いために燃焼ガスの高温滞留時間が長くなっている。特に、内燃機関の大口径シリンダライナー壁上部(ピストントップリング溝付近)は、従来よりも20%以上も高い温度(230℃〜260℃)にさらされる結果となっている。そのため、慣らし運転においても、上記従来の慣らし油では、焼き付きが生じやすいという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、船舶用ディーゼル内燃機関のシリンダライナー表面をスカッフィングを発生させることなく適度に摩耗させて、なじみ効果を持たせることができる慣らし運転用潤滑油組成物を提供することにある。特に、最近の高出力、高効率の低速二サイクルクロスヘッドディーゼル内燃機関の慣らし運転時のシリンダ油として適した潤滑油組成物を提供するものである。
本発明の目的はまた、上記の潤滑油組成物の製造に際して有利に用いることができる添加剤組成物を提供することにもある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述の問題について研究を重ねた結果、潤滑油に硫化オレフィンなどの硫黄化合物およびカルシウムスルホネートなどの金属系清浄剤を添加すると、これらの添加剤が高温で熱分解して硫黄分が金属と反応し、生成した硫黄化合物によって、慣らし運転の時間内でシリンダライナー表面が適度に摩耗されること、すなわち、優れたなじみ効果が得られることを見い出した。なお、硫化オレフィンは、これまで工業用油用の添加剤としては知られているが、一般には、腐食を起こし易いという理由もあることから、ディーゼルエンジン油には使用されていない。
【0007】
本発明は、鉱油および/または合成油からなる基油に、少なくとも下記の成分が溶解もしくは分散されてなり、全塩基価が20〜70mgKOH/gの範囲にあることを特徴とするディーゼル内燃機関の慣らし運転用潤滑油組成物にある。
(1)全塩基価が250〜500mgKOH/gの範囲にあるカルシウムスルホネート清浄剤5.0〜30.0重量%;および
(2)硫黄含量が5〜50重量%の硫化オレフィンを0.1〜5.0重量%。
本発明において、全塩基価(TBN)は、JIS−K2501による測定値であって、単位はmgKOH/gである。また、本発明において、カルシウムスルホネート清浄剤とは、通常のカルシウムスルホネート清浄剤の製造に際して反応溶媒として用いられた鉱油等の溶媒を含有する溶液もしくは分散液状態のものを意味し、従って、全塩基価および重量%は、その溶液もしくは分散液としてのカルシウムスルホネート清浄剤についての全塩基価および重量%を意味する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の潤滑油組成物に用いられる基油は、鉱油、合成油あるいはそれらの混合物である。好ましくは、40℃での動粘度が22〜350mm2/s、より好ましくは70〜300mm2/sのものである。鉱油としては、原油を常圧蒸留または減圧蒸留して得られた油留分に溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製などの処理を行って精製した油を用いることができる。
【0011】
本発明の潤滑油組成物には、全塩基価が約250〜500mgKOH/gのカルシウムスルホネート清浄剤を5.0〜30.0重量%、好ましくは10〜20重量%(潤滑油組成物全体量に対する割合であって、前述のように、カルシウムスルホネート清浄剤の製造時に反応溶媒として用いられ、その後に残留している鉱油などの炭化水素油を含む量である)の範囲の量で配合する。
【0012】
本発明で用いるカルシウムスルホネート清浄剤は、全塩基価が約250〜500mgKOH/g、好ましくは300〜400mgKOH/gの範囲の過塩基性のものである。
【0013】
カルシウムスルホネートは、分子量が約400〜6000の鉱油のスルホネート、あるいは炭素原子数(平均炭素原子数)が約8〜30のアルキル基を有する芳香族化合物のスルホネートのカルシウム塩である。例えば、特表平9−511015号公報に記載の方法によって製造されたアルキルオキシベンゼンスルホネートのカルシウム塩、およびアルキルベンゼンスルホン酸のカルシウム塩が有利に用いられる。
【0014】
潤滑油組成物中のカルシウムスルホネート清浄剤の配合量が5.0重量%に満たない場合には、その潤滑油に充分な全塩基価を付与できず、また潤滑油の粘度の上昇を充分に抑制できない。また配合量を30.0重量%を超える量としても、その配合量の増加に相応する添加効果の向上はなく、経済性を損なう。
【0015】
本発明の潤滑油組成物にはまた、硫黄含量が約5〜50重量%の硫化オレフィンを0.1〜5.0重量%、好ましくは、0.5〜3.0重量%(潤滑油組成物全体量に対する割合であって、硫化オレフィンの製造時に用いられ、その後に残留している炭化水素油を含む量である)の範囲の量で配合されている。
【0016】
硫化オレフィンは、硫黄含量が約5〜50重量%、好ましくは10〜40重量%の範囲にあるものである。硫化オレフィンとしては、炭素原子数2〜24個、好ましくは3〜12個のオレフィンの硫化物を挙げることができる。オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、特にイソブチレン、1−オクテン、および1−デセンを挙げることができる。
【0017】
潤滑油組成物中の硫化オレフィンの配合量が0.1重量%に満たない場合には、充分な摩耗を達成できない。また配合量が5.0重量%を超えると、逆に過大な摩耗が生じる場合もあり、経済性を損なう。
【0018】
上記の硫化オレフィンは、熱分解により硫黄分が金属と反応し、適度の腐食摩耗を起こさせる。これにより、ピストンリングおよびシリンダライナーの表面を滑らかにすることができる。
【0019】
本発明の潤滑剤組成物には更に、所望により無灰分散剤など他の添加剤が含有されていてもよい。
【0020】
上記添加剤を含有する本発明の潤滑剤組成物は、全塩基価が約20〜70mgKOH/g、好ましくは約30〜60mgKOH/gの範囲にある。これにより、高い清浄性を保持することができる。
【0021】
本発明の潤滑油組成物は、鉱油などの基油に各成分をそれぞれ別に、同時に、あるいは順次添加して製造することができる。あるいは、およそ5〜10倍濃度の添加剤組成物を予め調製し、この添加材組成物と基油とを混合して製造することもできる。
【0022】
【実施例】
[実施例1]
基油に下記の添加剤成分を添加して、SAE粘度グレードが50で、全塩基価(TBN:JIS−K2501による測定値)が40mgKOH/gの慣らし油用潤滑油組成物を製造した。
(1)カルシウムスルホネート清浄剤(TBN:320mgKOH/g、商品名:OLOA247Z、シェブロンオロナイト(株)製):12.7重量%
(2)硫黄系−1:硫化イソブチレン(硫黄含量:42重量%、商品名:Mobilad C−100、モービルケミカル社製):1.0重量%
【0023】
[実施例2]
実施例1において添加剤成分を下記の成分に変えたこと以外は実施例1と同様にして、慣らし油用潤滑油組成物を製造した。
(1)カルシウムスルホネート清浄剤:12.7重量%
(2)硫黄系−2:硫化オレフィン・リン系添加剤(硫黄含量:30重量%、商品名:Elco 7、エルコ社製):1重量%
【0024】
[比較例1]
実施例1において添加剤成分を下記の成分に変えたこと以外は実施例1と同様にして、慣らし油用潤滑油組成物を製造した。
(1)カルシウムスルホネート清浄剤:12.7重量%
【0025】
[比較例2]
実施例1において添加剤成分を下記の成分に変えたこと以外は実施例1と同様にして、慣らし油用潤滑油組成物を製造した。
(1)カルシウムスルホネート清浄剤:12.7重量%
(2)一級ジチオリン酸亜鉛(商品名:OLOA269R、シェブロンオロナイト(株)製):1重量%
【0026】
[比較例3]
実施例1において添加剤成分を下記の成分に変えたこと以外は実施例1と同様にして、慣らし油用潤滑油組成物を製造した。
(1)カルシウムスルホネート清浄剤:12.7重量%
(2)二級ジチオリン酸亜鉛(商品名:OLOA262、シェブロンオロナイト(株)製):1重量%
【0027】
[比較例4]
実施例1において添加剤成分を下記の成分に変えたこと以外は実施例1と同様にして、慣らし油用潤滑油組成物を製造した。
(1)カルシウムスルホネート清浄剤:12.7重量%
(2)芳香族系ジチオリン酸亜鉛(商品名:OLOA260、シェブロンオロナイト(株)製):1重量%
【0028】
[ディーゼル内燃機関の慣らし油用潤滑油組成物の評価]
実施例及び比較例のディーゼル内燃機関の慣らし油用潤滑油組成物について、その慣らし油としての性能を、本出願人が新たに開発したベンチ評価試験機(エンド−フェイス・スライディング・テスタ)を用いて評価した。このベンチ評価試験機は、二個の円筒の各端面を互いに接触させ、荷重を下方から掛けて上部円筒を回転させるものである。試験用のディーゼル内燃機関のシリンダライナと同じ材質の円筒を試験機に装填し、上記潤滑油組成物を注入しながら温度280℃で10時間回転運転した後、円筒の端面摺動部を光学顕微鏡写真に撮り、スカッフィングの発生状況、摩耗の程度、およびなじみ効果について観察および測定を行った。ここで、なじみ効果が良好であるとは、過大な摩耗や引っ掻き傷が見られず、逆に摩耗が不足すると残存しやすい当初の研磨傷がなく、適度の摩耗(10μm程度)によって表面が滑らかである状態を意味する。得られた結果をまとめて表1に示す。また、実施例1および比較例1、2についての円筒の端面摺動部の光学顕微鏡写真を図1〜4にそれぞれ示す。
【0029】
【表1】
Figure 0004703015
【0030】
図1は、試験前の研磨傷のある円筒の端面の光学顕微鏡写真(倍率:93倍)であり、図2は、実施例1についての試験後の円筒の端面摺動部の光学顕微鏡写真(倍率:93倍)であり、図3は、比較例1についての試験後の円筒の端面摺動部の光学顕微鏡写真(倍率:93倍)であり、そして図4は、比較例2についての試験後の円筒の端面摺動部の光学顕微鏡写真(倍率:93倍)である。
【0031】
表1から、本発明のディーゼル内燃機関の慣らし油用潤滑油組成物(実施例1および2)ではいずれも、スカッフィングが発生せず、摩耗が10μm程度で適切であり、良好ななじみ効果を示したことが分る。また、図1と図2の比較からも、実施例1の潤滑油組成物では、研磨傷が完全に消滅し、同時にスカッフィングが生じていないことが明らかである。
【0032】
一方、表1から、比較のための潤滑油組成物(比較例1〜4)のうちの比較例1、3、4では、スカッフィングが発生し、かつ過度に摩耗され、なじみ効果が不良であり、比較例2ではスカッフィングは発生しなかったが、摩耗が過小であり、結果としてなじみ効果が不良であったことが分る。また、図3から、比較例1ではスカッフィングが生じていることが明らかである。図4から、比較例2では研磨傷が相当残っていることが明らかである。
【0033】
【発明の効果】
本発明のディーゼル内燃機関の慣らし運転用潤滑油組成物は、ディーゼル内燃機関のシリンダライナ壁温度230℃〜260℃前後の高温下で使用しても、スカッフィングを発生させることなくシリンダライナ表面を適度に摩耗させて、なじみ効果を持たせることができる。従って、本発明の潤滑油組成物は、最近の高出力、高効率のディーゼル内燃機関、特に低速二サイクルクロスヘッドディーゼル内燃機関の慣らし運転時のシリンダ油として適したものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験前の研磨傷のある円筒端面表面の光学顕微鏡写真である。
【図2】実施例1についての試験後の円筒端面摺動部表面の光学顕微鏡写真である。
【図3】比較例1についての試験後の円筒端面摺動部表面の光学顕微鏡写真である。
【図4】比較例2についての試験後の円筒端面摺動部表面の光学顕微鏡写真である。

Claims (1)

  1. 鉱油および/または合成油からなる基油に、少なくとも下記の成分が溶解もしくは分散されてなり、全塩基価が20〜70mgKOH/gの範囲にあることを特徴とするディーゼル内燃機関の慣らし運転用潤滑油組成物:
    (1)全塩基価が250〜500mgKOH/gの範囲にあるカルシウムスルホネート清浄剤5.0〜30.0重量%;および
    (2)硫黄含量が5〜50重量%の硫化オレフィンを0.1〜5.0重量%。
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