JP4701732B2 - 複合成形品用熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、金属と熱可塑性樹脂とが一体化されてなる複合成形品の熱可塑性樹脂部の成形材料として用いられる複合成形品用熱可塑性樹脂組成物と、この複合成形品用熱可塑性樹脂組成物を用いた複合成形品に関する。
詳しくは、本発明は、鋼板シートなどの金属基材の表面に特定の熱可塑性エラストマーを熱融着させてなる複合成形品用の熱可塑性樹脂組成物とこの熱可塑性樹脂組成物を用いた複合成形品に関する。更に詳しくは、本発明は、加熱された金属基材の表面に熱融着という生産工学的にみて極めて効率的な手段により特定のブロック共重合体系の熱可塑性エラストマーを一体化させてなる、経済的かつ高付加価値の金属/熱可塑性エラストマー複合成形品用の熱可塑性樹脂組成物とこの熱可塑性樹脂組成物を用いた複合成形品に関するものである。
従来、金属製の各種製品(以下、この用語は、素材、中間製品、及び最終製品を含むものとして最広義に解釈されるべきである。また、本明細書において、「金属」とは合金を含む広義の金属を指す。)の表面の保護や装飾などの観点から、金属製品の表面に各種の被覆剤(コーティング剤)が適用されている。このコーティング剤には、高分子系の溶媒型のものと水性型のものとがある。そして、一般に、コーティング処理後の被覆膜はベーキング処理され、コーティング剤中の高分子(樹脂)成分が架橋されたり硬化され、表面層が形成される。
前記した溶媒型のコーティング剤(溶液タイプ、分散タイプ)は、各種の有機溶媒を使用するため環境面、労働衛生面などに対策を講じる分、コストがかかる。また、水性型のコーティング剤(水溶液タイプ、水分散液タイプ)は、塗膜の乾燥など省エネルギーなどの面において問題がある。
また、前記した溶媒型及び水性型のコーティング方式は、例えば塗膜の構成や色などを切替える場合、生産ラインの清掃作業などに労力を要するためコスト上昇を招来するという問題がある。更に、前記した溶媒型及び水性型のコーティング方式は、コーティング処理後、ベーキング処理がなされる場合、乾燥炉やベーキング炉などの運転のためのエネルギーコストがかかること、かつ、これら設備のほかに溶媒回収装置などが必要であるため高い設備投資が必要であることなど、高コスト要因をかかえている。
当業界において、前記した溶媒型及び水性型のコーティング方式のほかに、粉末コーティング方式も知られている。この粉末コーティング方式は、一般には粒状のコーティング剤を基材表面に静電吹付けし、次いでコーティング剤を溶融処理し、基材表面に連続した被覆層を形成するものである。
この粉末コーティング方式において、自動車用外装板などに適用されるコーティング剤は、一般には高い溶融粘度と高いガラス転移温度(Tg)を有する高分子材料、例えば熱硬化性ポリエステル樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、或いは架橋型アクリル樹脂などから構成されるものである。この粉末コーティング剤において、高いガラス転移温度(Tg)が望ましい理由は、ガラス転移温度(Tg)が高いほどコーティング被膜の硬度が高いこと、コーティング剤の製造や塗布作業が容易であること、などの理由によるものである。また、前記した粉末コーティング剤において、低いガラス転移温度(Tg)が避けられる理由は、ガラス転移温度(Tg)が低い場合、粘着性を示し、かつ貯蔵中に凝集する傾向があり、このためスプレーガンを目詰りさせ、吹付け塗装の作業性を低下させるためである。
また、当業界において、金属基材上に高分子系樹脂フィルムの被膜を形成するにあたり、その被膜密着強度を高めるために、接着剤層或いはプライマー層及び接着剤層を介して金属基材上に樹脂フィルム被膜を形成することは周知のことである。しかしながら、これらの方法は、樹脂フィルム被膜の形成に先立ち、金属基材への接着剤のコーティング処理或いはプライマー処理と接着剤のコーティング処理を行なわなければならず、経済的な被膜形成法であるとはいえない。
一方、特開平11−254584号公報には、特定の縮合系のブロック共重合体が、金属接着性に優れ、従って、加熱された金属基材の表面に熱融着という生産工学的にみて極めて効率的な手段により容易に一体化させることができるため、上記課題が解決されるとして提案されているが、このものは熱融着できる金属種が限定され、また接着力も不十分であるという欠点がある。
特開平11−254584号公報
本発明は、金属に対して熱可塑性エラストマーを一体化した複合成形品であって、熱可塑性エラストマーの良好な対金属接着性により、プライマー処理等の前処理を施すことなく、熱可塑性エラストマーを金属に対して直接熱融着して一体化させた複合成形品を提供することを目的とする。
本発明(請求項1)の複合成形品用熱可塑性樹脂組成物は、金属と熱可塑性樹脂部とが一体化されてなる複合成形品の該熱可塑性樹脂部の少なくとも前記金属との接触部を成形するための熱可塑性樹脂組成物であって、ポリエステル系熱可塑性エラストマーをα,β−エチレン性不飽和カルボン酸でグラフト変性して得られる変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーを含み、前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有する飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーであり、前記変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーのグラフト量が0.01〜10重量%であり、前記飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量が10〜80重量%であり、前記飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、1,4−ブタンジオール、テレフタル酸及びポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールから得られることを特徴とする。
本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、良好な対金属接着性を有し、プライマー処理などを施すことなく、熱融着等により金属の表面に強固に接合一体化することができ、従って、簡易な操作で金属表面に良好な表面保護層を効率的に形成することができる。しかも、本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、その他の熱可塑性樹脂とも良好な接着性能を有することから金属と熱可塑性樹脂との接着性樹脂としても使用することができる。
このような本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの金属に対する優れた接着性、更には他の熱可塑性樹脂に対する優れた接着性は、本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸によるグラフト変性で、ポリエステル系熱可塑性エラストマーに対してカルボキシル基(−COOH)が導入されており、このカルボキシル基により、金属や他の熱可塑性樹脂との親和性、密着性、結合性が強固なものとなることによるものと考えられる。
このため、本発明によれば、プライマー処理等の前処理を行うことなく、直接金属表面に熱融着等により変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーを一体化することが可能となり、複合化に係る工程の削減、前処理用有機溶剤の不使用といった効果を得ることができる。
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する各構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
[変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー]
まず、本発明の複合成形品用熱可塑性樹脂組成物に含まれる変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーについて説明する。
本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸を好ましくはラジカル発生剤の存在下にポリエステル系熱可塑性エラストマーにグラフト重合させることにより得られる。なお、本発明において、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸はα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の無水物であっても良い。
[1]ポリエステル系熱可塑性エラストマー
本発明で使用するポリエステル系熱可塑性エラストマーは、飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーであることが好ましく、特にポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有する飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ハードセグメントとして芳香族ポリエステルを含有し、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルグリコールや脂肪族ポリエステルを含有するものが好ましく、特に、ソフトセグメントとしてポリアルキレンエーテルグリコールを使用したポリエステルポリエーテルブロック共重合体が好ましい。
ポリエステルポリエーテルブロック共重合体中のポリアルキレンエーテルグリコール成分の含有量は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、更に好ましくは30重量%以上であり、また、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下、更に好ましくは70重量%以下である。ポリエステルポリエーテルブロック共重合体中のポリアルキレンエーテルグリコール成分の含有量が多過ぎる場合は、得られる成形体に十分な硬度が発現されず、機械強度が劣ることがあり、逆にこの含有量が少な過ぎる場合は、エラストマー性が低下し、柔軟性や耐衝撃性が不十分となることがある。ポリエステルポリエーテルブロック共重合体中のポリアルキレンエーテルグリコール成分の含有量は核磁気共鳴スペクトル法(NMR)を使用し、その水素原子の化学シフトとその含有量に基づいて算出することができる。
本発明に好適なポリエステルポリエーテルブロック共重合体としては、
(i)炭素原子数2〜12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールよりなるジオール成分と、
(ii)芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びこれらのアルキルエステルから選ばれるカルボン酸成分と、
(iii)ポリアルキレンエーテルグリコールと
を原料とし、エステル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させたものが挙げられる。
(i)の炭素原子数2〜12の脂肪族及び/又は脂環族ジオールとしては、ポリエステルの原料、特にポリエステル系熱可塑性エラストマーの原料として一般に用いられるものが使用できる。その具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの中では、1,4−ブタンジオール又はエチレングリコールが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。これらのジオール成分は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
(ii)の芳香族ジカルボン酸としては、ポリエステルの原料、特にポリエステル系熱可塑性エラストマーの原料として一般的に用いられているものが使用できる。その具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。これらの中では、テレフタル酸又は2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸が好ましい。
芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルとしては、上記の芳香族ジカルボン酸のジメチルエステルやジエチルエステル等のアルキルエステルが使用される。中でも、ジメチルテレフタレート及び2,6−ジメチルナフタレンジカルボキシレートが好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸が好ましく、そのアルキルエステルとしては、ジメチルエステルやジエチルエステル等のアルキルエステルが好ましい。
これらのカルボン酸成分は、1種を単独で用いても良く、或いは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
(iii)のポリアルキレンエーテルグリコールとしては、数平均分子量が、通常400以上、好ましくは500以上、更に好ましくは600以上で、通常6,000以下、好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,000以下のものが使用される。ポリアルキレンエーテルグリコールの数平均分子量が小さ過ぎる場合は、得られるポリエステルポリエーテルブロック共重合体のブロック性が不足し、大き過ぎる場合は、系内での相分離が起き易く、得られるポリマーの物性が低下する傾向がある。なお、ここで、数平均分子量とはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたものを言う。GPCのキャリブレーションには、英国POLYMER LABORATORIES社のPOLYTETRAHYDROFURANキャリブレーションキットを使用すればよい。
上記のポリアルキレンエーテルグリコールの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2−プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンエーテル)グリコール等が挙げられる。
これらのポリアルキレンエーテルグリコールは、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
なお、ポリエステルポリエーテルブロック共重合体には、上記(i)〜(iii)の成分以外に3官能のアルコールやトリカルボン酸及び/又はそのエステルの1種又は2種以上を少量共重合させてもよく、更に、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸やそのジアルキルエステルをも共重合成分として導入しても良い。
このような本発明に好適なポリエステルポリエーテルブロック共重合体よりなるポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては市販品を用いることもでき、例えば、三菱化学株式会社製「プリマロイ」、東洋紡績株式会社製「ペルプレン」、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」等が挙げられる。
[2]α,β−エチレン性不飽和カルボン酸
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸として、例えば、アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和カルボン酸;コハク酸2−オクテン−1−イル無水物、コハク酸2−ドデセン−1−イル無水物、コハク酸2−オクタデセン−1−イル無水物、マレイン酸無水物、2,3−ジメチルマレイン酸無水物、ブロモマレイン酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、1−ブテン−3,4−ジカルボン酸無水物、1−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物、exo−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、endo−ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸無水物等の不飽和カルボン酸無水物が挙げられる。
これらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸は、変性すべきポリエステル系熱可塑性エラストマーや変性条件に応じて適宜選択することができ、1種を単独で用いる場合に限らず、2種以上を併用しても良い。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸は有機溶剤などに溶解して使用することもできる。
[3]ラジカル発生剤
本発明で使用するラジカル発生剤としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルへキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルオキシ)ヘキサン、3,5,5−トリメチルへキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、過酸化カリウム、過酸化水素などの有機及び無機の過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(イソブチルアミド)ジハライド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、アゾジ−t−ブタン等のアゾ化合物;ジクミル等の炭素ラジカル発生剤などが挙げられる。
上記のラジカル発生剤は、変性反応に供するポリエステル系熱可塑性エラストマーの種類、変性剤としてのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の種類及び変性条件に応じて適宜選択することができ、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
ラジカル発生剤は有機溶剤などに溶解して使用することもできる。
[4]グラフト変性反応
本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーを得るための変性反応としては、溶融混練反応法、溶液反応法、懸濁分散反応法など公知の種々の反応方法を使用することができるが、通常は溶融混練反応法が好ましい。
溶融混練反応法よる場合は、前記の各成分を所定の配合比にて均一に混合した後に溶融混練すれば良い。混合には、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー等が使用され、溶融混練には、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、一軸又は二軸などの多軸混練押出機などが使用される。
溶融混練は、樹脂が熱劣化しないように、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上で、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、更に好ましくは250℃以下の範囲で行う。
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性剤としてのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸の配合量は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー100重量部に対し、通常0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、更に好ましくは0.1重量部以上、通常30重量部以下、好ましくは5重量部以下、更に好ましくは1重量部以下である。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の配合量がポリエステル系熱可塑性エラストマーに対して少な過ぎる場合は、十分な変性が行えず、多過ぎる場合は、配合量に応じた変性率が得られず不経済である。
また、ラジカル発生剤の配合量は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー100重量部に対し、通常0.001重量部以上、好ましくは0.005重量部以上、更に好ましくは0.01重量部以上で、通常3重量部以下、好ましくは0.5重量部以下、更に好ましくは0.2重量部以下、特に好ましくは0.1重量部以下である。ラジカル発生剤の配合量がポリエステル系熱可塑性エラストマーに対して少な過ぎる場合は、変性が十分に起こらず、多過ぎる場合は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性時の低分子量化(粘度低下)が大きく、材料強度が著しく低下してしまう。即ち、この変性反応においては、ポリエステル系熱可塑性エラストマーにα,β−エチレン性不飽和カルボン酸が付加するグラフト重合反応が主として起こるが、分解反応も起こり、分解により、得られる変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、分子量が低下して溶融粘度が低くなる。ラジカル発生剤の使用量が多過ぎると、グラフト重合反応も起こり易いが、同時にこのような溶融粘度低下につながる分解反応も起こり易くなるため、好ましくない。
[5]反応生成物
上述の如く、ラジカル発生剤存在下でのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸によるポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性処理では、ポリエステル系熱可塑性エラストマーにα,β−エチレン性不飽和カルボン酸が付加するグラフト重合反応の他、分解反応や、その他の反応として、エステル交換反応なども起こるものと考えられる。このため、得られる反応生成物は、一般的には、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーと共に未反応原料や反応副生物をも含む変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物である。反応生成物中の変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有率は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上であるが、反応生成物は変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー単独であっても良い。
この反応生成物は、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーとして、後述の如く、そのまま成形に供することができる。
本発明において、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性処理により得られる変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のJIS−D硬度(JIS−K6253に従い、デュロメータ タイプDによる硬度)は、通常10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは20以上で、通常80以下、好ましくは70以下、更に好ましくは60以下である。JIS−D硬度が低過ぎる場合は、この変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物を用いて得られる成形品の機械強度が劣る傾向となり、高過ぎる場合は、柔軟性、耐衝撃性が劣ることがある。
また、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性率(グラフト量)は、下限が通常0.01重量%、好ましくは0.03重量%、更に好ましくは0.05重量%で、上限が通常10重量%、好ましくは7重量%、更に好ましくは5重量%である。グラフト量が少な過ぎる場合は、官能基が少なすぎるために対金属接着性の向上が期待できず、多過ぎる場合は、変性の過程における分子劣化のため材料強度が低下してしまう。
なお、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性率(グラフト量)は、プロトン−核磁気共鳴スペクトル法(H−NMR)測定により得られるスペクトルから、下記の式に従って求めることができる。H−NMR測定に使用する機器としては、例えば日本電子社製「GSX−400」を用いることができる。
Figure 0004701732
(但し、式中のAは7.8〜8.4ppmの積分値、Bは1.2〜2.2ppmの積分値、Cは2.4〜2.9ppmの積分値である。)
[その他の成分]
熱可塑性樹脂部と金属との接触部を構成する本発明の複合成形品用熱可塑性樹脂組成物には、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、上記変性反応により得られた変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の樹脂成分やゴム成分、或いはフィラーや各種の添加剤等の他の成分が含有されていても良い。例えば、天然ゴム、合成ゴム(例えばポリイソプレンゴム)などのゴム成分やプロセスオイル等の軟化剤を配合しても良い。軟化剤はゴム成分の可塑化促進や得られる組成物の流動性を向上させる等の目的で添加される。これらはパラフィン系、ナフテン系、芳香族系のいずれであってもかまわない。
フィラーとしては炭酸カルシウム、タルク、シリカ、カオリン、クレー、ケイソウ土、珪酸カルシウム、雲母、アスベスト、アルミナ、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭素繊維、ガラス繊維、ガラス球、硫化モリブデン、グラファイト、シラスバルーン等を挙げることができる。
また、添加剤としては耐熱安定剤、耐候安定剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、核剤、滑剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤等が挙げられる。耐熱安定剤としてはフェノール系、リン系、硫黄系等の公知のものが使用可能である。また、耐候安定剤としてはヒンダードアミン系、トリアゾール系等の公知のものが使用可能である。着色剤としてはカーボンブラック、チタンホワイト、亜鉛華、べんがら、アゾ化合物、ニトロソ化合物、フタロシアニン化合物等が挙げられる。帯電防止剤、難燃剤、核剤、滑剤、スリップ剤、ブロッキング防止剤等についてもいずれも公知のものが使用可能である。
[金属基材]
次に、本発明の複合成形品の金属部を構成する金属基材について説明する。
本発明において、金属部を構成する金属基材としては、クロム、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、錫、銅、鉄、ニッケルなどの金属から選ばれた少なくとも1種の金属又はこれらの2種以上の合金で構成されるものが挙げられ、具体的には、熱圧延鋼板、冷延鋼板、ブリキ板、チンフリースチール板、ステンレス鋼板、アルミニウム鋼板などの各種の鋼板(シート)、或いは、亜鉛メッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板などの各種のメッキ鋼板(シート)などが挙げられる。
前記金属基材として、より具体的には、鋼板(冷間圧延軟鋼板/ブライト仕上げ/SPCC−S8)、純アルミニウム板(A1050P)、耐食アルミニウム板(ビール/ジュース缶用、A5052P)、ステンレス鋼板(Fe/Cr/Ni合金、SUS304)、純銅板(C1100P)、トタン板(亜鉛メッキ鋼板、SGCC)、ブリキ板(錫メッキ鋼板/0.5mm厚、SPTE)、クロムメッキ板(SPCC−S8にクロムメッキしたもの)、ニッケルメッキ板(SPCC−S8にニッケルメッキしたもの)などを例示することができる。
本発明において、前記金属基材は、通常表面を脱脂、洗浄処理した後熱可塑性樹脂との複合化に供されるが、更にその表面をシランカップリング剤で表面処理したものを使用してもよい。前記シランカップリング処理に適用されるシランカップリング剤としては、特に限定されるものではなく、通常のシランカップリング剤を使用することができる。例えば、この種のシランカップリング剤として、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどを挙げることができる。
また、本発明において、前記シランカップリング剤として、前記したシランカップリング剤とアルキルアルコキシシランとの部分縮合物、或いは重合性シランカップリング剤であるγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランと他の(メタ)アクリレートモノマーとの重合体なども使用することができる。
シランカップリング処理は、前記した各種のシランカップリング剤の1種又は2種以上を、有機溶剤、水混合溶剤などの溶液とし、これを各種金属基材に塗布、乾燥することにより行われる。
なお、本発明に係る金属基材の形状には特に制限はなく、板状(シート状を含む)、立方体、直方体、容器形状、その他、曲線形状等の異形形状であっても良い。
[複合成形品]
金属と熱可塑性樹脂部とが一体化されてなる本発明の複合成形品は、通常熱可塑性樹脂部の変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー部を熱溶融状態で上述の金属基材に接触させて熱融着させる方法で、効率的かつ経済的に製造される。
本発明の複合成形品の製造には、一般的な合成樹脂の成形法、より具体的には、Tダイラミネート成形法、インサート射出成形法、コアバック射出成形法、サンドイッチ射出成形法、インジェクションプレス成形法などの合成樹脂の成形法を採用することができる。
熱融着に際しては、予め変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーをシート状等に成形し、成形シートを金属基材に積層して熱プレスする方法等を採用しても良く、また、成形工程で金属基材への熱融着をも行っても良い。例えば、前述の変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む成形原料を押出し機から溶融押出し、予熱(例えば160℃に加熱)され走行している金属シートへ押し付けて熱融着被覆層を形成する方法が挙げられる。また、所望の形状に成形された金属基材を金型内に装着し、これにスクリュータイプの射出成形機により前述の変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーを含む成形原料を溶融射出し、複合射出成形体とする方法も採用し得る。
なお、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー部と金属基材とを熱融着する際の温度は、熱融着の時間や圧力などによっても異なるが、該変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点−10℃以上(融点より10℃低い温度以上)であることが好ましい。この熱融着温度は変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点よりも高いことがより好ましく、特に、該変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点+5℃以上(融点より50℃高い温度以上)であることが好ましい。即ち、熱融点温度が融点よりも高く、熱融着時に変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーが溶融することにより、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの官能基の挙動が活発になることにより、金属基材との界面で強固に接着するようになる。ただし、熱融着温度は過度に高いと変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーが劣化する傾向にあるため、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点+100℃以下(変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点より100℃高い温度以下)とすることが好ましい。また、熱融着圧力は高い程好ましいが、生産効率や用いる機械の性能等の面から通常0.05〜50MPa程度である。また、熱融着時間も長い程好ましいが、生産効率の面から、通常1秒〜5分程度である。
本発明の複合成形品が、板状等の各種形状の金属基材に対して、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー成形部よりなる被覆層を形成したものである場合、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー成形部よりなる被覆層の厚さは、その保護効果等の面において、1μm以上、特に5〜2000μm程度であることが好ましい。
ただし、本発明の複合成形品は、金属基材に対して、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーよりなる被覆層が形成されたものに何ら限定されず、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー成形部と金属部とが一体化されているものであれば、各部の形状及び全体形状に何ら制限はない。従って、板状以外の形状の金属基材に対して、層状以外の形状の変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー部が一体化されているものであっても良い。また、この変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー部の表面(金属基材と反対側の面)に、外観や意匠性、表面の物理的特性の改善のために、塗装による塗膜層が形成されたものであっても良く、この場合、本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、塗膜層との密着性にも優れるという利点を有する。
この場合、塗装に使用される塗料としては、一般に広く用いられる塗料、例えば、アクリル系塗料、エポキシ系塗料、ポリエステル系塗料、ウレタン系塗料、アルキッド系塗料、メラミン系塗料などを挙げることが出来る。これらの中では、アクリル系塗料、ポリエステル系塗料、ウレタン系塗料、特にウレタン系塗料が変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの官能基との親和性が高く、密着性がさらに良いため好適である。これらの塗料は2液型、1液型のいずれでも良い。
変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー成形部にこのような塗料を塗布する方法としては一般に行われている方法が採用可能であり、例えばスプレーガンを用いて塗布する方法、刷毛塗りによる方法、ロールコーター等を用いる方法がある。
塗膜の厚さは複合成形品の使用目的に応じて変化させることが可能であり特に制限はないが、通常乾燥後において1〜500μmの範囲である。
なお、上記塗料で形成した塗膜の上に、さらに塗料を塗布しても良い。この上塗り塗料としては例えば、アクリル系塗料、フッ素系塗料、シリコン系塗料、アルキド系塗料等が挙げられる。
塗装に当たり、本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、塗料に対して優れた密着性を有するため、プライマー処理やコロナ放電処理等の前処理を行うことなく、優れた塗膜密着性を得ることができる。従って、塗装を行う際に、これらの前処理を省いて塗装工程の削減や作業環境の改善を図ることができるが、本発明において、プライマー処理、コロナ放電処理等の前処理を排除するものではなく、これらの前処理を行うことにより、より一層優れた塗膜密着性を得ることができる。
また、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー成形部の金属基材と反対側の面には、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー以外の熱可塑性樹脂層が積層されていても良い。本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、金属のみならず、熱可塑性樹脂に対しても良好な接着性を有し、一体性に優れた積層複合成形品が得られる。この場合、積層される熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリカーボネート、グラフト変性前の前述のポリエステル系熱可塑性エラストマー等の1種又は2種以上の熱可塑性樹脂が挙げられ、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーと熱可塑性樹脂との積層体は、二層成形等による一体成形で、また、別々に成形されたものを接着又は融着により接合することにより形成することができる。
このような積層構造とされる場合、前述の被覆層と同様な理由から、金属基材と熱可塑性樹脂の積層部との間に介在する本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーよりなる成形部の厚さは5μm以上であることが好ましい。
[用途]
本発明の複合成形品は、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの金属に対する優れた接着性から、各種金属部材に、表面保護作用、緩衝作用、吸音作用、振動吸収作用、装飾作用等の機能性を有する変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー被覆層を形成して、種々の用途において機能性を改善することができる。また、本発明に係る変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの金属と熱可塑性樹脂との双方に対する優れた接着性を利用して、金属と金属との接着剤、金属と熱可塑性樹脂との接着剤としての応用も可能であり、従って、本発明の複合成形品は、金属/変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー/金属、或いは金属/変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー/他の熱可塑性樹脂の積層構造を有する複合成形品とすることもできる。
このように金属と熱可塑性樹脂とを一体化してなる本発明の複合成形品は、種々の目的に応じて構成することができる。以下、用途に応じて本発明の複合成形品の応用例について説明するが、その応用例は以下の説明に限定されないことはいうまでもないことである。
(1)各種のマグネシウム合金製の携帯電子機器分野における複合成形品。
例えば、薄厚のノート型パソコンの筺体は、最近においては軽量化というニーズに答えるために、射出成形機を利用したチクソモールディング法により軽量のマグネシウム合金の射出成形により、或いはダイキャスト法により製造されている。本発明の複合成形品は、前記した筺体や軽量化携帯電子機器へ応用することができる。
(2)モータなどから発生する振動を吸収するために、モータなどに適用される金属製固定板として、振動吸収性に優れた本発明の複合成形品を応用することができる。
(3)各種の金属製プロテクター(保護カバー)として、その表面の少なくとも一部、例えばコート部に弾性変形能や衝撃の吸収能を持たせるために本発明の複合成形品を応用することができる。
(4)消費電力の高いトランシーバーなど熱放射量の大きい各種機器の外装体(本体と蓋体とからなる。)は、プラスチック製にかわって金属製のものが使用されているが、表面に防水能を持たせたり、本体と蓋体との接触による音を消音するために本発明の複合成形品をこの種の外装体に応用することができる。
(5)ジョイント部などにおける金属同士の接触による音(騒音)を消音するために、本発明の消音効果に優れた複合成形品を応用することができる。なお、この種の応用面においては、防水性、浸水防止性などが同時に改善される。
(6)金属製のペーパーナイフ、スプーン、フォークなどの把持部にソフト感や高級感をもたせるために、本発明の複合成形品を応用することができる。
(7)飲料缶、食料缶などの缶類に本発明の複合成形品を応用することができる。即ち、これらの缶の内部又は外部に表面保護層として変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー層を形成することができる。
(8)金属と熱可塑性樹脂、或いは金属と金属とを接着してこれらの一体化物を製造する場合に本発明の複合成形品の一体化構造を採用することができる。
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において、使用原料及び各種測定方法は以下の通りである。
(1)ポリエステル系熱可塑性エラストマー:ハードセグメントがポリブチレンテレフタレート、ソフトセグメントが数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコールであり、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールの含有量が65重量%のポリエステルポリエーテルブロック共重合体(曲げ弾性率:35.5MPa、密度:1.09g/cm、示差走査熱量計による融解ピーク温度:185℃、JIS−D硬度:34)
(2)α,β−エチレン性不飽和カルボン酸:和光純薬工業株式会社製「無水マレイン酸試薬特級」
(3)ラジカル発生剤:m−トルオイルパーオキサイド/ベンゾイルパーオキサイド混合物(日本油脂株式会社製「ナイパーBMT−K40」)
(4)変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーのグラフト量:H−NMR(日本電子社製「GSX−400」)を使用し、HFIP(ヘキサフルオロイソプロパノール)とCDCl(重水素クロロホルム)の混合溶媒を用いて得られたスペクトルから前述の計算式により求めた。
(5)密着性評価:複合成形品の変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー層に、幅10mm×長さ100mmの短冊状の切れ目を入れ、変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー層を金属板に対して180°方向に引張速度20mm/分で引張試験を行ない、熱可塑性エラストマー層と金属板の融着界面の剥離強度を測定した。
実施例1
ポリエステル系熱可塑性エラストマー100重量部に対し、不飽和カルボン酸成分0.5重量部、ラジカル発生剤0.05重量部を混合し、これを株式会社池貝製「PCM−45型混練機」(径44mm、温度190〜220℃)中で溶融混練した後、ペレタイザーを通してペレット化することにより変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物を製造した。この変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のグラフト量は0.3重量%であった。また、得られた変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のJIS−D硬度は34であり、当該組成物中に含まれる変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーの含有量は45重量%であった。
得られた変性ポリエステル系熱可塑性エラストマー(融点:180℃)のペレットを、下記の手順でプレス成形して50mm×100mm×1.5mmのシート状に成形し、得られたシートとSUS304の板(50mm×100mm×0.6mm)を重ね合わせ、下記の手順でプレス接着を行った。
[プレス成形手順]
(1) 200×200×1.5mmのスペーサ(金型)に65gのペレットをのせる。
(2) 上記(1)を220℃に加温したプレス成形機の間に挿入し成形機を閉じる。
(3) 加圧せず、220℃で5分保持して加温する。
(4) その後、10MPaの圧力をかけ、2分間保持する。
(5) 圧力を開放し冷却プレス(10〜30℃、水温)に置き換え、2分以上冷却した後、取り出し、所定の形状に整える。
[プレス接着手順]
(1) 1.8mm厚さのスペーサの中で、SUS304板の上に先に成形した樹脂シートをのせる。
(2) 上記(1)を所定の温度(実施例1ではプレス接着温度:180℃)に加温したプレス成形機の間に挿入し成形機を閉じる。
(3) 圧力をかけずに5分間保持した後、1MPaの圧力を2分間かける。
(4) その後、取り出し、冷却プレスに置き換えて2分以上冷却した後取り出す。
このようにして得られた複合成形品について密着性の評価を行い、結果を表1に示した。
実施例2
プレス接着温度を200℃にしたこと以外は実施例1と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
実施例3
金属板をアルミニウム板(A1050P,50mm×100mm×0.6mm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
実施例4
プレス接着温度を200℃にしたこと以外は実施例3と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
実施例5
金属板を溶融亜鉛メッキ鋼板(SGCC:Z18,50mm×100mm×0.6mm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
実施例6
プレス接着温度を200℃にしたこと以外は実施例5と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
比較例1
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
比較例2
プレス接着温度を200℃にしたこと以外は比較例1と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
比較例3
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性を行わなかったこと以外は実施例3と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
比較例4
プレス接着温度を200℃にしたこと以外は比較例3と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
比較例5
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの変性を行わなかったこと以外は実施例5と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
比較例6
プレス接着温度を200℃にしたこと以外は比較例6と同様にして複合成形品を製造し、同様に密着性の評価を行って、結果を表1に示した。
Figure 0004701732
表1より、本発明によれば、ポリエステル系熱可塑性エラストマーをα,β−エチレン性不飽和カルボン酸でグラフト変性することにより、金属基材に対して密着性良くポリエステル系熱可塑性エラストマー層を一体化することができることが分かる。

Claims (3)

  1. 金属と熱可塑性樹脂部とが一体化されてなる複合成形品の該熱可塑性樹脂部の少なくとも前記金属との接触部を成形するための熱可塑性樹脂組成物であって、
    ポリエステル系熱可塑性エラストマーをα,β−エチレン性不飽和カルボン酸でグラフト変性して得られる変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーを含み、
    前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、ポリアルキレンエーテルグリコールセグメントを含有する飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーであり、
    前記変性ポリエステル系熱可塑性エラストマーのグラフト量が0.01〜10重量%であり、
    前記飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー中のポリアルキレンエーテルグリコールセグメントの含有量が10〜80重量%であり、
    前記飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、1,4−ブタンジオール、テレフタル酸及びポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールから得られることを特徴とする複合成形品用熱可塑性樹脂組成物。
  2. 請求項1において、前記グラフト変性が、飽和ポリエステル系熱可塑性エラストマー、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸、及びラジカル発生剤の溶融混練反応によることを特徴とする複合成形品用熱可塑性樹脂組成物。
  3. 請求項1又は2において、前記金属部を構成する金属基材が、ステンレス鋼板、アルミニウム板、及び溶融亜鉛メッキ鋼板から選択されることを特徴とする複合成形品用熱可塑性樹脂組成物。
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