JP4701494B2 - 炭化硼素焼結体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は粉体の湿式成形方法、およびそれにより得られた成形体を焼結して得られる焼結体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
セラミックス、粉末冶金素材、水硬性材料等の各種素材から食料品・医薬品等の製品の多くは、その製造過程で原材料、中間生成物に粉体を用いている。これらの粉体は所望の形状に成形されて製品又は次の焼成工程等に進む前段階の半製品となる。これ等の粉体成形体の物性に影響を及ぼす重要な特性として粉体の充填特性が挙げられるが、この充填特性には均一性と充填率の2つの側面がある。例外的に、例えば傾斜機能性材料を作りたい場合のように不均一な方が、又、成形品の多孔性を利用したい場合のように充填率が小さい方が好ましい場合もあるが、多くの場合は均一かつ高充填の成形体が好ましいとされている。これは均一な充填は均一な物性を意味するためであり、又高充填の成形体は機械的強度が強いためである。又、セラミックス粉体成形品のように成形工程の後に焼成工程をもち、焼成体の充填率が1に近くなるものについては、成形体の気孔率がそのまま焼成収縮率となるため、高充填の成形体は焼成収縮が小さく、寸法安定性に優れた複雑な形状の製品の製造が可能となる。さらには難焼結性のセラミックについては、高充填の成形品を作ることにより焼成温度を低くすることもできる。このような粉体の成形には粉体をそのまま型に充填して高圧をかける乾式法と、粉体と溶媒とを混合し、この混合物を所望の形状に成形し、成形中及び/または成形後に溶媒を除去する湿式法とがあるが、本発明はこの内の湿式法を対象とする。
【0003】
粉体の湿式成形方法には鋳込成形、押し出し成形、湿式プレス成形、振動成形、テープ成形などがあるが、この様な湿式成形法においては成形体に可塑性や強度が要求されるためバインダーや可塑性付与剤などの成形助剤が添加される場合が多い。この様なバインダーや可塑性付与剤には主として高分子有機物が用いられるが、これらのバインダーや可塑性付与剤は粉体と溶媒の混合物中に均一に分散していることが好ましい。この様な粉体と溶媒の混合物中に高分子有機物が均一に分散している状態を作り出すためには、該高分子有機物として溶媒に可溶もしくはエマルジョンのような形で分散可能であるものを用いるのが従来の技術であり、例えば特開平7−267741、特開平10−1366などに開示されている。
【0004】
また粉体表面にあらかじめ有機高分子をコーティングしてから粉体の成形を行う技術としては、耐水性の低い粉体を水系溶媒で成形する場合に粉体に耐水性を付与するために水不溶の樹脂で粉体をコーティングする技術が知られているが、これは成形体に可塑性や強度を付与するものではなく、別途水溶性の可塑剤やバインダー等の成形助剤を添加する必要がある。また特開2000−264696には粉体表面を樹脂でコーティングしてから有機溶媒を用いて成形する技術が開示されているが、ここでコーティングされた樹脂は有機溶媒に可溶であり可溶であることを利用して可塑性を付与するものである。
【0005】
また難焼結性・難成形性のセラミックス材料としては例えば炭化硼素が挙げられ、特開平7−97264にはその常圧焼結法が開示されているが、この方法においては複雑大型形状の製品を作ることは不可能であり、焼結度も96%程度がその最大である。
【0006】
また窒化珪素や炭化珪素などのセラミックスはアルミナ等に比べると難焼結体であると共に難成形体でもあり、大型品を経済的に成形・焼結することは難しい。特に従来の製造方法においては、小型のテストピースではない実用に供される大型の製品をこれらの難焼結製セラミックで製造するためには加圧焼結(ホットプレス)が必要であり、この加圧焼結を用いるためその製造コストは莫大なものとなっており、また複雑形状のものを製造することはできない。またリブ構造や中空構造を採用することが好ましい製品もありうるが、このような構造をとることはますますその成形・焼成が難しくなる結果を招いてしまう。その中でも炭化硼素は最もその焼結が難しいセラミックスであり、経済的に成形・焼結させることは不可能であるため、大型品・複雑形状品は上市されていない。
【0007】
また通常の粉末冶金はその成形法として粉末プレスや射出成形法が採用されているが、金属粉末はセラミックス粉末以上に難成形性であり、この様な成形方法では少しでも大型複雑形状が要求されるようになると全く対応することができない。また粉末冶金用の粉末を製造する工程においては、溶融から急冷などの複雑なプロセスが必要であり、そのプロセスに起因する制約のため組成のコントロールを充分に行うことが難しく、大型複雑形状の粉末冶金製品は上市されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の技術においては次のような問題点があった。すなわち、成形方法として例えば鋳込成形を行う場合においては溶媒に可溶の助剤は型材の目詰まりを引き起こすことが多い。また溶媒の可溶の成形助剤は成形体からの溶媒の乾燥工程において成形体中に偏析を引き起こすことがあり、そのため乾燥後の成形体は不均一になってしまう。また例えば非可塑性坏土を用いる成形においては、いかに従来の方法により可塑性を付与する成形助剤を加えようと、粘土素地などの可塑性坏土に比べるとその可塑性は劣ったものであり、成形体の大きさ・形状には限界がある。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、溶媒を用いた粉体の湿式成形方法において、成形体の均質性を保ち、工程中に不具合が生じないようにしながら、成形体に優れた可塑性及び/または強度を付与し、また成形工程に続いて焼結工程があるものについては、その焼結特性を向上させることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明では上記課題を解決すべく、炭化硼素焼結体の製造方法において、炭化硼素粉体の表面を実質的に非水溶性の高分子有機物でコーティングする工程と、該コーティングされた炭化硼素粉体と水を混合してスラリーを製造する工程と、該スラリーを用いて成形体を製造する工程と、該成形体を焼成する工程を備えるようにした。また、前記スラリー中の炭化硼素粉体と高分子有機物の体積分率が、炭化硼素粉体を100体積部として高分子有機物が1〜40体積部としたり、前記スラリーを用いて成形体を製造する工程が、該スラリーを多孔質型に鋳込み、該多孔質型に前記スラリー中の水の一部を吸収させる鋳込成形としたり、前記高分子有機物が成形体に可塑性と強度を付与したり、焼成工程の全部または一部を非酸化性雰囲気とすることにより、前記高分子有機物を該高分子有機物の炭素分の炭素分を骨格成分とする物質に変換し、該炭素分を骨格として含む物質が前記炭化硼素粉体の焼結助剤としての作用を示すようにすることも考えられる。
【0011】
【発明の実施の態様】
まず以下に本発明の構成要素について説明する。本発明が適用できる粉体の成形工程には特に制限はないが、特に好適に応用できるものとしては成形工程の後に焼結工程が行なわれる場合があげられ、特にセラミックス粉体の成形工程に用いるのが最も好適であるが、その他の分野として粉末冶金用の金属粉体の成形工程に用いる事もできる。
【0012】
本発明における溶媒としては、水系及び有機溶媒系のどちらも適用可能であるが、可塑性や成形工程の簡便さ・安全性を考慮すれば水のほうがより取り扱い易いといえる。
【0013】
本発明における成形工程における好ましい成形方法としては鋳込成形を挙げることができる。鋳込成形とは例えばセラミックスの鋳込成形を例にとるとセラミックス粉末を主成分とし成形助剤及び焼結助剤と共に溶媒中に分散させたスラリーを多孔質型に注型し、多孔質型に溶媒の一部を型の毛管吸引力やスラリーへの直接加圧等により吸収させることにより該スラリーを固化させてから脱型・乾燥させる成形方法である。溶媒としては水や各種有機溶媒が用いられるが、最も汎用性があるのは水を主成分とする溶媒である。なお、本発明で特に大型・肉圧の製品を鋳込成形する場合においては、長時間の着肉を行うとスラリーの沈降やいわゆるすわりなどの現象により均一な成形体が得られない場合がある。この場合短時間で着肉を達成する方法のひとつとして、着肉中のスラリーに加圧する加圧成形の手段をあげることができる。加圧のための圧力には特に制限はなく、高圧にするほど着肉速度が大きくなるが、工業的には0.3MPa〜10MPa程度の圧力が適当である。
【0014】
この鋳込成形過程においては、粉体と溶媒の混合物であるスラリーより溶媒が型に吸収されて成形体になり、該成形体の型内乾燥時や脱型時や脱型直後の湿潤状態での加工時などにクラックの発生を防ぐなどのために可塑性や強度が要求され、さらに溶媒が乾燥などによって除かれた時に、ハンドリング時の衝撃などに耐えるために強度が要求されるようになるため、本発明の応用により該混合物より溶媒が除かれていく各工程において該混合物に可塑性及び/または強度を与える湿式成形方法を好適に適用することができる。
【0015】
またここで用いられる成形助剤とはスラリーの流動特性やスラリー中の粉体の分散特性を向上させると共に成形体のバインダーや可塑性付与剤として機能して成形体強度を向上させるものであることが好ましく、好ましい成形助剤としてはアルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸トリエタノールアミン等のアルギン酸塩、ポリカルボン酸アンモニウム、ジブタルフタール、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、カルボキシルメチルセルロースアンモニウム、メチルセルロース、メチルセルロースナトリウム、ヒドロキシルエチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロースナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム、アクリル酸またはそのアンモニウム塩のオリゴマー、モノエチルアミンなどの各種アミン、ピリジン、ピペリジン、水酸化テトラメチルアンモニウム、デキストリン、ペプトン、溶性デンプン、各種ポリマー、各種エマルジョン等の有機物や粘土類を挙げることができる。
【0016】
なおここでいうスラリーの流動特性を向上させるとは増粘または解膠作用によりスラリーの粘性を最適値に調節することやスラリーの流動特性にチクソトロピー性を付与することをさしており、特に焼結特性のみを考慮してセラミック粉体の粒度分布幅を狭くした場合スラリーはダイラタンシー性を示すようになるため、この成形助剤の添加により流動特性をチクソトロピックに改質することは重要である。
【0017】
この焼結特性と流動特性を両立させるための好ましい粉体の粒度分布としては、平均粒径の1/2より小さな粒径を持つ粉体の体積分率が10%以上を占めるようにすることが好ましい。この体積分率が好ましい下限未満になると、成形助剤の添加によっては好ましいスラリーの流動特性が得られない場合がある。この体積分率には好ましい上限はなく、例えば成形に続いて焼結を行う場合においては各粉体の焼結特性により、焼結度が悪化しない範囲で粒度分布を広くすることが好ましい。
【0018】
本発明における好ましい粉体の成形方法としてはさらに押し出し成形、湿式プレス成形、振動成形、テープ成形などをあげることができる。また前記可塑性が発現した混合物を用いて、該可塑性を利用して成形する成形方法をあげることもできる。可塑性を利用して成形するとは、その成形工程において成形体または押し出し成形における練り土などの成形体の前駆体に力を加え、該成形体または成形体の前駆体の可塑変形を利用して成形する成形法をさし、前記押し出し成形などはその例である。これらの成形方法においては成形過程そのものに可塑性を利用しているとともに、成形後のハンドリングにはやはり成形体の強度が要求されるため、本発明を好適に応用することができる。
【0019】
なお別の粉体の成形方法としては粉体と可塑性を有する樹脂の混合物であるコンパウンドを高せん断応力・高圧・高温下で型内に射出していく射出成形法が知られている。この射出成形法は溶媒を実質的に使用しないため本発明の技術範囲には属さないが、この射出成形の簡易版として、本発明を応用して高分子有機物をコーティングした粉体と溶媒の混合物を型内に射出する成形方法は、溶媒の存在により本来の射出成形ほど高せん断応力・高温・高圧を必要としないため装置が簡易的なもので済み有力な成形法である。
【0020】
本発明が適用できる分野としては成形工程に続いて焼結工程がある材料が好ましく、例えばセラミックス粉体を成形・焼結したセラミックス焼結体を挙げることができる。その中でも特に好適に応用できる材料としては、非可塑性の無機坏土を用いて成形し続いて焼結する場合をあげることができる。その中でも好適に応用できるセラミックス焼結体としては、炭化硼素焼結体を挙げることができる。炭化硼素焼結体は常圧焼結により製造されるものであって、その気孔率が10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であればさらに好ましい。なおここでいう気孔率とは開気孔と閉気孔の両方を含む気孔率であるが、本発明においては開気孔率は実質的に0に近いため、気孔率は閉気孔率と実質的に同等である。なお、炭化硼素焼結体は常圧焼結後、さらにHIP処理を行うことにより、さらに気孔率を低下させて高剛性にすることもできる。このHIP処理を行う場合の好ましい気孔率は5体積%以下、さらに好ましくは2.5体積%以下である。気孔率が好ましい上限を超えると物性が不十分であったり、焼結後の加工時にチッピングを起こし易くなる等の不具合が発生する場合がある。なお気孔率には特に好ましい下限はなく、所望の物性に到達するまで気孔率を小さくすれば良い。
【0021】
この炭化硼素の常圧焼結においては焼結雰囲気はアルゴン、窒素、真空などの非酸化雰囲気で、最高温度を2000〜2400℃とすることが好ましい。この焼成条件で焼結させるためには焼結助剤が必要である。その焼結助剤の主成分としては有機物が好ましく、例えばフェノール樹脂、フラン樹脂、ピッチ、タール、カーボンブラック、ポリカルボンシラン、炭化タングステンなどを適宜組合せて用いることができる。
【0022】
また、本発明におけるセラミック焼結体のもう一つの好ましい例として炭化珪素焼結体を挙げることができる。炭化珪素焼結体は前記炭化硼素焼結体に比較するとその比剛性率においては劣るものの、価格が安い点や、焼結後の加工性が優れているという利点がある。炭化珪素焼結体は常圧焼結により製造されるものであって、その気孔率が5体積%以下であることが好ましく、2.5体積%以下であればさらに好ましい。なお、炭化珪素焼結体は常圧焼結後、さらにHIP処理を行うことにより、さらに気孔率を低下させて高剛性にすることもできる。このHIP処理を行う場合の好ましい気孔率は2.5体積%以下、さらに好ましくは1.5体積%以下である。気孔率が好ましい上限を超えると物性が不十分であったり、焼結後の加工時にチッピングを起こし易くなる等の不具合が発生する場合がある。なお気孔率には特に好ましい下限はなく、所望の物性に到達するまで気孔率を小さくすれば良い。
【0023】
この炭化珪素の常圧焼結においては焼結雰囲気はアルゴン、窒素、真空などの非酸化雰囲気で、最高温度を1800〜2400℃とすることが好ましい。この焼成条件で焼結させるためには焼結助剤が必要である。その焼結助剤の主成分としては炭素原子を含む化合物、硼素原子を含む化合物、アルミニウム原子を含む化合物からなる群より選択された化合物が好ましく、例えば炭化硼素、アルミニウム、アルミナ、窒化アルミニウム、フェノール樹脂、フラン樹脂、ピッチ、タール、カーボンブラック等を適宜組合せて用いることができる。
【0024】
以上本発明の応用分野としてセラミックス焼結体成形方法及び焼結方法に関して述べてきたが、それぞれの工程に用いられる成形助剤、焼結助剤として共通のものを用いる手段を優れた物性の焼結体を得る手段としてあげることができる。これは例えば成形助剤が焼結に関与しないものである場合、その成形助剤を焼結工程中で加熱により取り除く必要があり、その取り除かれた焼結助剤の分だけ充填が低くなって焼結が妨げられてしまうことを防ぐためである。
【0025】
この成形助剤として働くと共に焼結助剤としての働きを呈する好適な成分としては、高分子有機物があげられる。
【0026】
成形助剤及び焼結助剤として両方の働きをする高分子有機物としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、弗素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、糖類などをあげることができる。高分子有機物の場合、焼結助剤として働くのは主として炭素分であるため、焼結助剤としての効率を上げるためには炭素分の含有量が多い有機物が好ましく、例えばフェノール樹脂やフラン樹脂をあげることができる。
【0027】
上述のような成形助剤または焼結助剤として作用させるために用いられる高分子有機物は成形工程及び/または焼結工程において均一に粉体周辺に存在することが好ましい。そのために通常考えられる方法としては溶媒中に高分子有機物を溶解させた状態で成形し、成形工程の進行に伴って溶媒分が減少し、ついには溶媒分が完全になくなるにつれて溶解していた高分子有機物が粉体の間隙に存在せしめるという方法があげられる。
【0028】
しかしながらこの方法には前述のように、例えば鋳込成形を行う場合には鋳込成形型が高分子有機物を吸い込むことによって目詰まりを起こすことや、また成形体の乾燥工程において高分子有機物の成形体中の部分的な偏析が発生することのような欠点があり、成形体またはその焼結体に充分な物性を発現させることはできない。
【0029】
そこで本発明においては高分子有機物を成形工程中、またその後焼結工程を有するものについては焼結工程中に均一に粉体周辺に存在せしめる手段として、使用する溶媒に実質的に溶解しない高分子有機物をあらかじめコーティングした粉体を用いて成形する方法をとる。例えば溶媒として水を用いて鋳込成形を行う場合においては、まず有機溶媒に溶解するが水には実質的に溶解しない高分子有機物を有機溶媒中に溶解させ、該溶液とセラミックス粉体を混合した後に該混合物から有機溶剤を蒸発などの手段により実質的に取り除いた、高分子有機物がコーティングされた粉体を製造する。次に高分子有機物がコーティングされた粉と水を混合してスラリーを製造し、そのスラリーを用いて鋳込成形を行う。有機溶媒を用いて鋳込成形を行う場合においては全く逆に水溶性であるが該有機溶媒には実質的に溶解しない高分子有機物を用いて、セラミックス粉体表面をあらかじめコーティングしておけばよい。その他にもスプレードライ法や、高分子有機物の直接吹き付けや練り混ぜなどの方法により、粉体表面に高分子有機物をコーティングする事が可能である。これは従来の湿式成形法の常識となっている使用する溶媒に可溶の成形助剤を用いるという概念の全く反対である。なおこの場合の各溶媒に対しての水溶性、油溶性というのは水性または油性のエマルジョンを形成するものも含んで応用することができる。また水や有機溶媒に溶解しないという意味は、全く溶解しないというわけではなく仮にごく微量溶解するにせよ実質的な意味でそれは無視することができるという意味である。例えば高分子有機物としてフェノール樹脂を用いる場合においては、フェノール樹脂には油溶性のものが多いノボラック型と水溶性のものが多いレゾルシン型があり、溶媒として水を用いて鋳込成形を行う場合は油溶性のノボラック型を用い、溶媒として有機溶媒を用いて鋳込成形を行う場合は水溶性のレゾルシン型を用いると好適である。
【0030】
この粉体にあらかじめ高分子有機物をコーティングしておく場合の好ましい粉体と高分子有機物の比率は、粉体100体積部に対して高分子有機物1−40体積部であり、高分子有機物の量が好ましい範囲の下限以下であると助剤としての効果が充分に発揮できない場合があり、高分子有機物の量が好ましい上限以上であると、焼結が充分に進まなかったり鋳込成形を行う場合スラリーの粘性が高すぎて鋳込みに適さなくなるなどの場合がある。
【0031】
なお、このような樹脂などの成形助剤及び焼結助剤としての両方の働きを示す成分が発現する成形助剤としての機能としては、例えば成形工程において成形体に可塑性及び/または強度を付与するものである。この可塑性とは成形体にしなやかさを与えることにより、工程中に成形体に何らかの応力がかかった場合においても変形によるクラックが発生するのを抑える働きをするものである。また強度とは文字通り成形体の強度を向上させることにより、成形体に衝撃などの外力が加えられた場合にも破損などが生じないようにすることを意味している。可塑性は主として成形体中に溶媒が比較的に多い場合に重要なファクターであり、成形体の乾燥が進み溶媒が比較的少なくなってからは強度が重要なファクターとなる。
【0032】
なお、上記のように樹脂などの成形助剤及び焼結助剤の両方の働きを示す成分が発現する成形助剤としての機能は主として可塑性及び/または強度であるため、その他の機能を示す成形助剤として例えば解膠剤や分散剤は別途加える必要がある場合が多い。また可塑性や強度を向上させる成形助剤を更に別途組み合せて用いることもできる。焼結助剤に関しても同様に、成形助剤及び焼結助剤の両方の機能を呈する成分以外に、別の焼結助剤と組み合せることも可能である。
【0033】
本発明を炭化硼素の鋳込成形に応用する場合の焼結性が好ましい炭化硼素の平均粒径は0.3μm〜1.5μmであり、これは通常の鋳込成形に比べると非常に微粒であるため成形体の充填があがりにくく、成形体の可塑性や強度も発現しにくい粒度構成である。この様な成形体の物性を向上させるためには前述の成形助剤としても焼結助剤としても作用する助剤を用いることが好ましく、特に好ましい助剤はフェノール樹脂、フラン樹脂などの樹脂分である。焼結助剤としては上記樹脂分を単独で用いても良く、硼化チタン、ポリカルボシラン、炭化タングステン、炭化鉄、炭化タリウム、弗化アルミニウム、炭化ジルコニウムなどと組み合せることもできる。
【0034】
助剤として用いられる樹脂分等は非酸化性雰囲気下の焼結工程中の昇温過程において、蒸し焼きにされて炭素分を骨格成分とする物質に変換され、この物質が炭化硼素の粒成長を抑制して焼結助剤としての働きを示す。この炭素分の焼結助剤としての作用は常圧焼結に特有のものであり、焼成体中の炭化硼素結晶の平均粒径を好ましい範囲である10μm以下におさえることができる。なお、粒成長が進み、結晶粒子径が好ましい範囲を超えると強度などの物性に悪影響が及ぶ場合がある。なお、焼結前の炭化硼素はB4Cに比べて硼素分が多い結晶を多量に含んでいる場合が多いが、それらの結晶中に焼結助剤の炭素が取り込まれて、焼結体中の炭化硼素はB4Cがその主成分となる。なお、焼結助剤としての炭素分の一部は黒鉛結晶としても焼結体中に存在する。
【0035】
この様な有機高分子が非酸化性焼結過程において該有機高分子の炭素分を骨格成分として含む物質に変換し、該炭素分を骨格成分として含む物質が該粉体の焼結助剤としても働く現象は炭化硼素の焼結以外にも応用することができ、特に炭素分を焼結体中に必須成分として含む炭化物セラミックスや炭素鋼などの炭素分を含む粉末冶金分野などに好適に応用することが可能である。
【0036】
【実施例】
以下の方法によって、種々のセラミックス焼結体を作成した。
(実施例1)
炭化硼素粉末(平均粒径0.74μm、比重2.5、エレクトロシュメルツベルクケンプテン社製)に、所定量のノボラック型フェノール樹脂(比重1.18、昭和高分子(株)製)をアセトン溶液として加え、混合攪拌し、アセトンを十分蒸発させた後粉砕して、フェノール樹脂をコーティングした炭化硼素粉末を得た。この炭化硼素粉末を25体積部、水75体積部となるように各原料を調合し、混合攪拌してスラリーとした。なお分散剤として、ポリカルボン酸アンモニウム塩(花王(株)製)を炭化硼素粉末100重量部に対して1重量部添加した。攪拌方法は、凝集粒子をできるだけ均一に分散させることを目的に10000rpmの高速せん断応力を加えた。その後300rpmで真空攪拌を行い脱泡した。このようにして得られた鋳込み成形用炭化硼素粉末スラリーを35mmΦの石膏型に流し込み、排泥鋳込成形を行った。5mm着肉させた後に排泥し、5分間放置した後に離型、乾燥して成形体を得た。離型時と乾燥後の重量変化から成形体の充填率を算出した。また前記乾燥後の成形体から試験片を切り出し、アルキメデス法により乾燥体の充填率を測定した。さらに前記試験片を次のヒートカーブで焼成した。
20〜1200℃(真空下):1時間
1200〜2250℃(Arガス雰囲気下):1時間40分
2250℃に保持(Arガス雰囲気下):30分
得られた焼結体の相対密度をアルキメデス法により測定した。これらの結果を表1に示す。なおフェノール樹脂添加量は、炭化硼素粉末に対する体積部で表記した。
【0037】
(実施例2)
炭化硼素粉末(平均粒径0.74μm、比重2.5、エレクトロシュメルツベルクケンプテン社製)に、ノボラック型フェノール樹脂(比重1.18、昭和高分子(株)製)のアセトン溶液とポリカルボシランのヘキサン溶液との混合溶液を加え、混合攪拌し、有機溶剤を十分蒸発させた後粉砕して、出発原料である炭化硼素粉末とした。この粉末を用いて実施例1と同一の方法、条件により成形・焼成を行った。なおフェノール樹脂及びポリカルボシランの添加量は炭化硼素粉末に対する体積部で表記した。
【0038】
(比較例1)
炭化硼素粉末(平均粒径0.74μm、比重2.5、エレクトロシュメルツベルクケンプテン社製)約200gに、炭化硼素の焼結助剤としてTiC、ZrC、Fe3C、TiB2、AlF3粉末をそれぞれ所定の添加量になるように配合した混合粉体に、水約1000gを加えてポットミルで24時間混合し、炭化硼素粉末と焼結助剤粉末を水中で均一に分散させた後、この混合物を乾燥、粉砕して出発原料の炭化硼素質混合粉末を得た。この粉末を用いて実施例1と同一の方法、条件により成形・焼成を行った。なお各粉末焼結助剤の添加量は、炭化硼素粉末に対する体積部で表記した。
【0039】
(実施例3)
比較例1で作製した炭化硼素と各種粉末系焼結助剤との混合粉末に、実施例1と同一の方法でフェノール樹脂をコーティングさせた。この炭化硼素粉末、粉末焼結助剤及びフェノール樹脂との混合粉末を用いて、実施例1と同一の方法、条件により成形・焼成を行った。
【0040】
(比較例2)
炭化硼素粉末を30体積部、水70体積部を調合し、実施例1と同一の方法により成形体を作製し、炭化硼素焼結体を製造し、得られた焼結体の相対密度を測定した。なお分散剤として、ポリカルボンアンモニウム塩を炭化硼素粉末に対して1重量部添加した。
【0041】
(比較例3)
比較例2の材料に加えレゾルシン型フェノール樹脂水溶液(昭和高分子(株)製)を炭化硼素粉末100体積部に対し5−50体積部加えてスラリーを作成し、石膏型に鋳込成形を行った。その結果はほとんど着肉現象が発生せず、成形体を得る事はできなかった。
【0042】
実施例1−3、比較例1、2の各物性の測定結果を表1に示す。なお表中の空欄は未測定であることを示し、比較例3については成形体を得る事ができなかったため当然ながら結果は表示していない。なお実施例1,2,3の成形体は脱型時に高い可塑性を示し脱型時の成形体を曲げたりひねったりしてもクラックが発生しなかったのに対し、比較例1、2の成形体に関しては脱型時に成形体を少し曲げたりひねったりしただけでクラックが発生した。また乾燥後の成形体に関しては実施例1,2,3の成形体は高強度で10cmほどの高さから落下させても破損しないのに対し、比較例1、2の成形体は5cm程度の高さから落下させると大きく破損した。
【0043】
【表1】
【0044】
(実施例4)実施例1のフェノール樹脂添加率18.9体積部の組成にて、石膏成形による固形鋳込成形、及び1.8MPaの加圧成形による排泥鋳込成形の手段により成形体を作成した。なお、石膏成形においては着肉予想時間の2倍の土締め時間を設定し、加圧成形においては排泥終了後0.3MPaの圧力で10分間の土締めを実施した。得られた成形体を乾燥して乾燥体充填率を測定した後に、後述の焼成パターンI、IIに従い焼結したサンプルをJISR1601の手法による3点曲げ強度、JISR1602の手段による共振法によるヤング率および3点曲げによるヤング率、アルキメデス法による焼成体相対密度及びかさ比重を測定した。その測定結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
(実施例5)実施例4のスラリーにさらに炭化硼素100体積部に対しTiB2を2.8体積部加えたスラリーを実施例4と同様に成形・焼成して同様の物性測定を行った。その測定結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
なお、上記焼成パターンI、IIは以下の通りである。
I 20〜1200℃(真空下):1時間
1200〜2000℃(Arガス雰囲気下):1時間10分
2000〜2250℃(Arガス雰囲気下):30分
2250℃に保持(Arガス雰囲気下):30分
加熱OFF(自然冷却、Arガス雰囲気下)
II 20〜1200℃(真空下):3時間
1200〜2000℃(Arガス雰囲気下):2時間10分
2000〜2250℃(Arガス雰囲気下):30分
2250℃に保持(Arガス雰囲気下):30分
2250〜1200℃:(Arガス雰囲気下)2時間30分
1200〜200℃:(Arガス雰囲気下)2時間40分
加熱OFF(自然冷却、Arガス雰囲気下)
【0049】
【発明の効果】
上述のように本発明によれば溶媒を用いた粉体の湿式成形方法において、成形体の均質性を保ち、工程中に不具合が生じないようにしながら、成形体に優れた可塑性及び/または強度を付与し、また成形工程に続いて焼結工程があるものについては、その焼結特性を向上させることができる。
Claims (2)
- 炭化硼素粉体の表面を実質的に非水溶性の高分子有機物でコーティングする工程と、該コーティングされた炭化硼素粉体と水を混合してスラリーを製造する工程と、該スラリーを用いて成形体を製造する工程と、該成形体を焼成する工程を備えた炭化硼素焼結体の製造方法であって、前記高分子有機物は成形体に可塑性と強度を付与するものであり、且つ前記高分子有機物はエポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、弗素樹脂、ポリプロピレン樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、スチロール樹脂、アクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、糖類からなる群から選ばれるものであって、焼成工程の全部または一部を非酸化性雰囲気とすることにより、前記高分子有機物を該高分子有機物の炭素分の炭素分を骨格成分とする物質に変換し、該炭素分を骨格として含む物質が前記炭化硼素粉体の焼結助剤としての作用を示し、前記スラリー中の炭化硼素粉体と高分子有機物の体積分率が、炭化硼素粉体を100体積部として高分子有機物が1体積部より大きく40体積部より小さいことを特徴とする炭化硼素焼結体の製造方法。
- 前記スラリーを用いて成形体を製造する工程が、該スラリーを多孔質型に鋳込み、該多孔質型に前記スラリー中の水の一部を吸収させる鋳込成形であることを特徴とする請求項1に記載の炭化硼素焼結体の製造方法。
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