JP4700950B2 - 鉄筋コンクリート構造体の補修方法 - Google Patents

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Description

本発明は、かぶり厚不足の鉄筋コンクリート構造体の補修方法に関し、特に、コンクリートの中性化を抑制すると共に、鉄筋コンクリート構造体のかぶり厚の不足を補うモルタル組成物による補修方法に関する。
鉄筋コンクリートは、本来、不燃構造材として優れた強度と耐久性を有し、建造物に広く利用されている。コンクリート層は、経時的に収縮し、あるいは自然界における外力等により亀裂を発生し易く、そこに空気や湿気が浸入し、特に、屋外壁にあっては、雨水が浸入してアルカリ性のコンクリート層は容易に中性化される。コンクリート層の中性化は、ひび割れのない部分でも、経年数の平方根に比例して内部に進行するといわれている。コンクリートが中性化すると、鉄筋は酸化され腐食して、構造体の強度は著しく低下する。従って、このような中性化、特に、ひび割れの発生を抑制することは、鉄筋コンクリート構造物には極めて重要な課題である。
国内においては、度重なる建築基準の変更、あるいは建築費を低減する方策として、鉄筋コンクリート構造物のかぶり厚の薄い建造物が、これまで数多く建造されてきたが、かぶり厚が不足する鉄筋コンクリート構造物にとっては、上記課題は一層深刻な問題であって、その構造的欠陥を補修する技術の開発が要望されている。鉄筋コンクリートの中性化、特に、ひび割れの発生を抑制する保護層に関する先行技術として、特公平5−71550号公報(特許文献1)が知られている。
この特許文献1の技術は、鉄筋コンクリートのセメント素地面に、コンクリートの中性化を抑制し、難燃性を有する塗材の積層状薄層を形成させる施工方法に関し、特に、素地面のひび割れに対し、同様のひび割れを生ずることのない多量のアクリル系樹脂を含有する柔軟性の下塗材薄層と、難燃性を与える上塗材薄層との組合せに成る被覆遮蔽方法を開示している。しかし、それぞれの塗材は、ローラ塗布に好適な粘性に調整されて、多孔質ハンドローラによりコンクリート素地面に順次塗布されるので、形成される積層体は、上下各層とも1〜2mm程度の薄いシート状被覆層である。この被覆層は、コンクリート素地面のひび割れにも、その柔軟性によってひび割れることなく、鉄筋コンクリート構造体表面を安定に被覆遮蔽するが、薄層のため長期にわたる保護効果を期待することは難しく、構造体の補強には実質的に寄与しない。また、多孔質ハンドローラでの塗布施工は作業性に劣るので、特に、大型工事などには適切でなく、工業的に著しく不利である。
近年、鉄筋コンクリート造住宅の耐久性の向上が社会的に重要視されるようになり、コンクリートの中性化を長期にわたって抑制し得る安定な住宅の提供が大きな技術的課題となってきた。その中性化を抑制し、鉄筋コンクリート造住宅の耐用年数の延長に関して、特に、75〜90年もの長期にわたって安定性が確保される三世代の住居を目安とするコンクリートの劣化防止対策の基準が「住宅の品質確保の促進に関する法律」に纏められた。他方、建築基準法施行令第79条によれば、中性化を遅延させるために、鉄筋のかぶり厚は耐力壁,柱や梁では、3cm以上に規定された。
しかし、前記のようなかぶり厚が不足する既存の鉄筋コンクリート建造物の寿命を延長させるには、かぶり厚を増大させるコンクリートによる増し打ちが最適であるが、このコンクリートの増し打ちは、作業が厄介であるばかりでなく、経済的にも極めて不利であるから、実質的に採用できない。
本発明者らは、薄いかぶり厚、例えば、3cm未満の鉄筋コンクリートの中性化を抑制すると共に、コンクリートの増し打ちに匹敵する補修方法について、かぶり厚の不足を効果的に補修する方法を開発するべく検討を行なった。検討においては、第一に、鉄筋コンクリート構造体のコンクリート表面に適用する剥離落下の危険のない接着性の良好な中性化抑制層と、第二に、その層の上に形成させる構造的補修層とを組み合せる積層方式、特に、二種のモルタル組成物の組合せについて研究を重ねた。
特公平5−71550号公報(特に、特許請求の範囲)
従って、本発明の課題は、かぶり厚の不足する鉄筋コンクリートの中性化を効率的に抑制すると共に、コンクリートの増し打ちに対応し得る構造的補強も期待できる補修層を形成させる方法を提供することにある。また、他の課題は、その適用層がコンクリート構造体壁面から容易に剥離落下することのない接着強度の優れた厚手の積層補修層を提供することにある。本発明の更に他の課題は、鉄筋コンクリートの屋外壁への適用性に優れ、経済的にも望ましい鉄筋コンクリート補修層を提供することにある。本発明のその他の課題ないし技術的特徴は、以下の記載から一層明らかになるであろう。
上記課題を解決するため、本発明は、セメント、該セメント100質量部当たり、40〜300質量部の骨材及び20〜70質量部の0〜−45℃の範囲内のガラス転移点を有する合成樹脂を含有し、JASS15M-103に規定されるフロー値が10〜30cmの範囲内に調整された第一のポリマーモルタル組成物を鉄筋コンクリート構造体のコンクリート表面に適用して、厚さ2〜5mmの第一層を形成させ、固化した該第一層の上に、セメント、該セメント100質量部当たり、100〜400 質量部の骨材及び2〜30質量部の10〜−15℃の範囲内のガラス転移点を有する合成樹脂を含有して成る第二のモルタル組成物を、厚さ5〜50mmの第二層として積層形成させる、建築基準法施行令第79条に規定されるかぶり厚に対してかぶり厚不足の鉄筋コンクリート構造体の補修方法を提供する。
本発明の方法で鉄筋コンクリート構造体のコンクリート表面に形成させる下層用の第一のポリマーモルタル組成物は、セメントと該セメント100質量部当たり40〜300質量部の骨材及び20〜70質量部の0〜−45℃の範囲内のガラス転移点を有する合成樹脂を含有し、JASS15M-103に規定されるフロー値が10〜30cmの範囲内の組成物が鉄筋コンクリート構造体のコンクリート表面に適用される。この組成物のフロー値は,通常、水を加えて調製され、例えば,ローラーブラシ又は吹付けにより、層厚が2〜5mm、好ましくは、3〜4mmの第一モルタル層(下塗層)に形成される。この被覆層は、吹付け法,塗布法などの通常知られたいずれの方法を採用することもできる。
また、本発明の方法において上記下塗層の上に適用される第二のモルタル組成物は、セメントと、該セメント100 質量部当たり、100〜400 質量部の骨材及び2〜30質量部の10〜−15℃の範囲内のガラス転移点を有する合成樹脂を含有して成る組成物であって、吹付け又はこて塗りによって、下塗第一層の上に厚さ5〜50mmの第二上層(上塗層)に積層形成される。この層厚は、特に、補修しようとする鉄筋コンクリートのかぶり厚の不足程度によって選択され、かぶり厚の薄いものほど厚く形成させることが重要である。好ましくは、5〜30mmの範囲である。
本発明の方法によって形成されるモルタル積層補修層は、コンクリート素地面の経時的ひび割れにも、ひび割れることがなく、長期間にわたって優れた被覆遮蔽性を有するので、コンクリートの中性化を高度に且つ安定的に抑制することができる。また、本発明の方法は、既設の鉄筋コンクリート造の建物のかぶり厚さを増すために、コンクリートを増し打ちすることなく、簡単な方法で吹き付けあるいは塗り付けることができる極めて実用性の高い補修方法であって、三世代用鉄筋コンクリート造住宅への補修工事に適用することができる。
本発明の方法において、第一のポリマーモルタル組成物及び第二のモルタル組成物に用いられるセメントは、特に制限されないが、ポルトランドセメント,フライアッシュセメント,高炉セメント及びアルミナセメントが好ましく用いられる。これらは単独種でもよいし、二種以上を組合わせて混合使用することができる。実用的には、ポルトランドセメントが好適に用いられる。
本発明の方法において、第一のポリマーモルタル組成物に使用される骨材は、0.6mm以下の粒径に調整された細粒粉粒物であって、そのような骨材としては、例えば、硅砂,炭酸カルシウム,スラグ砕砂,パーライト及びエチレン・酢酸ビニル共重合体チップ等を挙げることができる。これらの骨材は、一種でもよいが、二種以上を組合せ使用することができる。その使用量は、第一のモルタル組成物においては、セメント100質量部に対し40〜300 質量部の範囲である。40質量部未満では、2〜5mmのモルタルの塗り厚さを確保し難い。また、300質量部を超えると層の強度及び柔軟性が低下するのみならず、硬化速度が遅くなり、作業効率が低下するので実用上不利である。その好ましい使用量範囲は、骨材の種類及び比重によって異なるが、120〜250質量部の範囲内である。更に好ましい範囲は150〜220質量部である。
上塗用の第二のモルタル組成物に使用される骨材は、セメント100質量部当たり、100〜400質量部の範囲量である。100質量部未満では、乾燥収縮率が大きくなり、厚塗りを確保することが難しいので好ましくない。また、400質量部を超えると水/セメント比が増加するため、中性化抑制能が低下すると共に、層の強度も低下するので不適切である。その好ましい使用量範囲は、骨材の種類及び比重によって異なるが、200〜400質量部である。
本発明の第一のポリマーモルタル組成物及び第二のモルタル組成物においては、上記骨材の一部を、粒子の更に細かい無機質系粉末状の混和材で置換え使用することができる。そのような混和材としては、例えば、フライアッシュ,炭酸カルシウム,高炉水碎スラグ及びタルク等を挙げることができる。それらは、第一のポリマーモルタル組成物においては、骨材の80重量%以下、また、第二のモルタル組成物では、50重量%以下の量が置換使用される。それらの割合を超えて使用すると、各塗材層の層厚を確保することが困難となるので好ましくない。望ましい置換量の上限は、第一のポリマーモルタル組成物では、60重量%、また、第二モルタル組成物では、30重量%である。
次に、第一のポリマーモルタル組成物に使用される合成樹脂は、0〜−45℃の範囲内のガラス転移点(Tg)を有する合成樹脂類であって、好適に使用される樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂,エチレン・酢酸ビニル系樹脂,酢酸ビニル・バーサチック酸エステル系樹脂及びスチレン・ブタジエンゴム(SBR)系樹脂類等が包含される。Tgが、0℃より高いと、コンクリート面に形成された下塗モルタル層の低温時における伸び,柔軟性が不足し、また、−45℃より低いと、モルタル層の軟化温度が低くなり、被覆層の硬度が不足して接着性も低下するので好ましくない。形成される被覆層の柔軟性を重視するときは、−10〜−40℃の範囲内のTgを有するものが好ましく使用される。
第一のポリマーモルタル組成物に加えられる合成樹脂の使用量は、セメント100質量部当たり20〜70質量部である。20質量部未満では、下塗モルタル層の柔軟性、すなわち伸び性能が不足するので不適切であり、また、70質量部を超えると層の物理的強度が低下し、経時的接着耐久性も低下させるので好ましくない。好適使用量範囲は、30〜60質量部であるが、伸び性能を重視するときは、40質量部以上が好ましい。これらの合成樹脂は、粉末で、好ましくは、再乳化型粉末で添加することができるが、エマルションとして加えることもできる。エマルションの場合には、含有樹脂固形分量が上記範囲内となるように調整される。
第二のモルタル組成物に使用される合成樹脂は、10〜−15℃の範囲内のTg を有することが重要である。そのような合成樹脂には、例えば、アクリル系樹脂,エチレン・酢酸ビニル樹脂系,酢酸・バーサチック酸エステル系樹脂及びスチレン・ブタジエンゴム(SBR)系樹脂等が包含される。Tgが10℃より高いと、モルタル層形成時における樹脂の造膜結合性が悪く、それゆえ、形成される上塗層自体が破断し易く、また、Tg が−15℃より低いと、モルタルの層の物理的強度が低下するので好ましくない。形成される被覆層の機能を考慮すれば、樹脂のTgは、5〜−15℃の範囲内のものが好ましく、特に、0〜−10℃の範囲内のTg を有する樹脂が好適に用いられる。
これらの合成樹脂類は、第二のモルタル組成物に、セメント100 質量部当たり2〜30質量部の範囲量が添加使用される。この上塗層は、可及的小さい経時的乾燥収縮率を有し、高い物理的強度を有することが望ましく、第一の下塗層の安全な被覆遮蔽性能の向上が期待できる。しかし、樹脂の使用量が2質量部未満では、積層被覆層の中性化抑制性能を向上させることが難しい。また、30質量部を超えると、施工性が劣り、且つコストアップとなるので工業的に不利である。好ましい使用量は5〜15質量部の範囲である。
セメント,骨材及び合成樹脂を含有する組成物は、水を加えて層形成用モルタル組成物に調整される。鉄筋コンクリートの表面に適用される第一のポリマーモルタル組成物は、鉄筋コンクリートの垂直面に適用して、2〜5mmの厚さの下塗層を形成させるのに好適な軟度(粘性度)に調整される。そのような下塗層の形成に好適な軟度は、建築工事標準仕様書・同解説(日本建築学会)に記載されるJASS15M-103(セルフレベリング材の品質基準)に規定される方法により測定されるフロー値が、10〜30cmの範囲内のものである。そのフロー値は、内径50mm,高さ51mmの塩化ビニル製パイプを厚さ5mmの磨き板ガラスの上に置き、練り混ぜたモルタルを充填してパイプを引き上げ、モルタルの広がりが静止した円形の最大直径とそれに直交する直径を計測し、その平均長さがcmで表示される。
第一のポリマーモルタル組成物のフロー値が、10cmより小さいと流動性が不足し、ローラ塗布及び吹付機による吹付け等の操作によって2〜5mmの厚さの層を形成させるには極めて不適切である。また、フロー値が30cmを超えると、粘度が低すぎて垂直壁面に2〜5mmの層厚の層を形成させることが困難で、垂直面に塗布された組成物が流下したり、場合によっては、水分が分離してブリーディング現象を生ずるので不都合である。好ましいフロー値の範囲は、15〜25cm、特に好ましい範囲は、18〜22cmである。そのフロー値の調整は、主として、水分量によって調整されるが、熟練者によれば、水を注入,混合しながら所望フロー値の組成物に容易に調整することができる。このフロー値のモルタル組成物は、こて塗りすることも、吹付機で吹付け塗布することもできるが、吹き付け塗布は、作業性に優れ、工業的に極めて有利である。
また、第二のモルタル組成物は、第一のポリマーモルタル組成物をコンクリート表面に塗布後、乾燥させ固化した下塗層の上に吹付機により吹き付けられるが、その第二のモルタル組成物も、通常、固形分組成物に水を加えて調整される。ここに下塗層の固化とは、第二モルタル組成物を吹付け等の塗布において、容易に変形するなどの影響を受けない程度に養生させた固化状態をいう。
第二のモルタル組成物は、吹き付け又はこて塗りによって、5〜50mmの層厚を形成させるのに好適な粘性ないし塑性に調整されるが、その所望積層厚に応じて変更調整される。その粘性は、例えば、日本工業規格
JIS R 5201に規定される方法で測定するときのフロー値が150〜250の範囲内、特に170〜220に調整されることが好ましい。フロー値が150未満では、流動性が乏しく、硬すぎて吹付機による吹付けができない。また、250より高いと、第一モルタル層の上に吹付けられた組成物が低い粘度のために流下し、所望の層厚を確保することができないので不適切である。この組成物の上記フロー値範囲は、5〜50mm 程度の比較的厚い上塗層を吹付け形成させるのに好適である。吹き付けによって形成される層厚は、塑性とも関連して、20〜25mm程度であるから、25mm以上の層厚を確保するには、通常、2回の吹き付けが必要である。
第一のポリマーモルタル組成物及び第二のモルタル組成物の調整に際し、その技術分野や塗料技術分野において、通常、使用される各種の調整剤を添加使用することができる。そのような調整剤としては、例えば、増粘剤,収縮低減剤,減水剤,消泡剤及び繊維等が包含される。それらの調整剤は、ぞれぞれの性能を利用して、吹付け等の塗布等に適切な組成物のフロー値や粘性の調整、その他、組成物の媒体水分の低減、ひいては塗布層の乾燥収縮の低減や脱泡等の望ましい状態の調整に利用される。また、繊維類は、層の物理的強度及び柔軟性の向上等に寄与する。そのような繊維素材としては、ビニロン、ポリエステル、アクリル等の経時安定性の優れた合成樹脂の繊維類及び耐アルカリガラス繊維が好適であり、比較的短い合成樹脂の繊維類が好適に配合使用される。また、だれ防止剤としては、シリカフューム、フライアッシュ等が挙げられる。
これらの繊維類は、例えば、1〜15mm程度の短繊維長に調整されて用いられる。それらの添加調整剤は、一般に汎用される程度の比較的少量が、熟練者によって適切に選択使用される。
第一の組成物を適用に際し、その適用前に、コンクリートの表面を湿らせることが望ましく、第一層の接着性の向上が期待できる。また、樹脂エマルションを噴霧して薄い樹脂アンダーコートのフィルム層を形成させる方法も有効である。そのようなアンダーコート用樹脂エマルションとしては、特に制限はないが、実用的に望ましいアンダーコート用エマルションとして、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)及びアクリル系樹脂のような樹脂類の安定なエマルションを挙げることができる。
本発明の方法によって形成された積層被覆層は、それ自体、長期安定な遮蔽防護層を提供するが、その上塗第二層の表面に、更に、耐候性のよいトップコートを設けることができる。このトップコートは、セメントの白華現象を防止し、コンクリートの耐汚染性の向上に有効であり、ひいては鉄筋コンクリートの中性化抑制効果の一層の向上が期待される。そのようなコート材としては、例えば、シリコーン樹脂やアクリル系樹脂類等が好適に用いられる。通常、これらは、希薄溶液や樹脂エマルションの形で噴霧適用され、薄い保護膜で提供される。
以下、具体例により、本発明を更に詳細に説明する。なお、具体例中の部数及び%は、特に、断りがない限り重量による。本発明の方法によって形成される鉄筋コンクリートのモルタル積層補修層の各種性能として、ゼロスパンテンション伸度(mm),中性化深さ(mm),標準時付着強さ(N/mm2)及び温冷繰返し後の接着強さ(N/mm2)及び耐ひび割れ性について試験し、それらの測定値を評価した。上記各種性能の測定法は下記の通りである。
ゼロスパンテンション伸度(mm):
独立行政法人都市再生機構(以下、都市機構と略称する)「無機質系塗膜防水材」の性能試験方法に準じた。JIS A 5430 に規定する厚さ5.0 mmのフレキシブル板を切断して50×75mmの長方形の板を二個作製し、その両板の短辺を突き合わせて裏側を粘着テープで固定して基盤を作製し、表面に第一のポリマーモルタル組成物を3mmの層厚に、その上に第二のモルタル組成物を7mmの厚さ塗布して積層を形成させ、これを20℃,65%相対湿度(RH)の条件で28日間養生した。この試験体を引張試験機に取付け、粘着テープを切断して5mm/minの引張速度で引張り、試験体破断時の保持チャック間距離の増加を測定してゼロスパンテンション伸度とした。このゼロスパンテンション伸度は、0.5mm程度の亀裂に対応し得るには、0.6mm以上(好ましくは0.8 mm以上)であれば有効と思われる。
中性化試験:
都市機構「初期補修用プレミックスポリマーセメントモルタル」の試験方法に準じて行った。まず、セメント:川砂(粒径 2.5mm以下)の1:3の質量比の混合物に、水・セメント比60%割合の水を加えて、組成調合物を練り混ぜ、100×100×400mmの型枠に打設し、この板を切断して、100×100×100mmのコンクリート片を作製した。そのコンクリート片の一面にモルタル組成物を塗布するが、その面に接する四面にエポキシ樹脂塗料を塗って被覆層を形成させて下地板を作製した。この下地板の上記一面にモルタル組成物を塗布形成させ、これを20℃,65%RHで14日間養生したものを試験体とした。これを更に、30℃,60%RH及びCO2濃度5%の雰囲気の中性化促進試験室内の棚に30日間保存して、中性化深さを調べた。養生試料のモルタル層を直角に割裂し、その割裂面にフェノールフタレイン1%溶液を噴霧して、赤色に呈色しない部分の深さを中性化浸入深さと判定した。
標準時接着強さ(N/mm2)及び温冷繰返し後の接着強さ(N/mm2):
都市機構「初期補修用プレミックスポリマーセメントモルタル」の試験方法に準じて測定試料を作製し、接着強さをJIS A 6909 の規定に準じて測定した。測定試料は、70×70×20mmのモルタル板を下地板とし、その板面に3mmの第一ポリマーモルタル下塗層及びこの上に7mmの第二モルタル層を形成させ、24時間養生後、これを20℃、65%RHの雰囲気(標準状態)下に28日間養生したものを標準時接着強さとして測定する。また、同様に作製し、同様に20℃、65%RHの標準状態に28日間養生した試料を、更に、20℃の水中に18時間浸漬し、これを取出して、直ちに温度−20℃の恒温槽中で3時間冷却し、温度50℃の恒温槽中に3時間保持する温冷処理サイクルを10回繰返したのち、標準状態に2日間放置して、温冷繰返し後の接着強さとして測定する。標準時及び温冷繰返し後の接着強さは0.6(N/mm2)以上で、界面破断率は、50%以下が望ましい。
耐ひび割れ性:
初期乾燥によるひび割れ性試験は、JIS A 6909に準じて行った。JIS A 5430に規定する厚さ4mmのフレキシブル板を300×150mmに切断したものを基盤とし、第一のポリマーモルタル組成物と第二のモルタル組成物をそれぞれ施工後、直ちに風速3m/秒に調整した風洞内に入れ、試験体を気流に平行になるように置き、6時間後に試験体を取り出し、表面のひび割れ発生の有無を調べる。この試験は、第二のモルタル層の中性化抑止性能及び耐久性の保持に重要である。
[各種第一層用ポリマーモルタル組成物(下塗材)の調製]
下掲表1に示す各種成分から成る下塗材を調製した。数字は質量割合である。なお、表1において、使用セメントはポルトランドセメント、骨材は、6号硅砂である。合成樹脂は、アクリル系樹脂では、Tgが0℃のものをA 0,−40℃のものをA‐40,−50℃のものをA-50,スチレン・アクリル系樹脂は、−20℃のものをSA-20で表示し、また、エチレン・酢酸ビニルは、Tgが0℃のものをE 0,−10℃をE-10,−20℃をE‐20,−25℃をE-25、及び10℃のものをE10 で表示した。そのあとに付記されたeはエマルションで加えたことを示しているが、数値はエマルション中の含有樹脂固形分である。なお、各組成物には、粘度調整剤としてメチルセルロース約0.2質量%が添加された。
また、硬化時間、接着強さ、伸び性能、塗り付け性については、以下のように評価した。
[硬化時間]
○…20℃で12時間後に硬化した。
×…20℃で12時間以内に硬化した。
[接着強さ]
○…0.6N/mm2 以上
×…0.6N/mm2 未満
[伸び性能]
○…第一層材単体におけるゼロスパンテンション伸度で0.8mm以上
×…第一層材単体におけるゼロスパンテンション伸度で0.8mm未満
[塗り付け性]
○…1〜2回のローラで上手に塗り付けが可能である
×…1〜2回のローラでは、塗り付けが不充分である
調整した第一層用ポリマーモルタル組成物17種の主要成分構成及び形成された層、それぞれの物性を表1に纏めた。表中の下1、下8、下9、下11〜13、下16及び下17は、本発明の範囲外の組成物である。
Figure 0004700950
[各種第二層用モルタル組成物(上塗材)の調製]
下掲表2に示す各種成分から成る上塗材を調製した。数字は質量割合である。
表中、使用セメントはポルトランドセメント、骨材は、4号,5号混合硅砂である。合成樹脂は、表1で示した表示と同様とした。
なお、この組成物の圧縮強さ、収縮率、厚塗り性については、以下のように測定し、その評価判断基準を付記した。
[圧縮強さ]
JIS A 6203に準拠して測定した。なお、この値が、20N/mm2 以上が良好である。
[収縮率]
JIS A 1141に準拠して測定した。
[厚塗り性]
優… 一度に20mmまで可能
可… 一度に15〜20mm未満まで可能
不可…一度に10mm未満まで可能
調整した第二層用モルタル組成物10種の主要成分構成及びそれらの層の物性を表2に纏めて示す。表中の上1、上5、上6、上9及び上10は、本発明の範囲外の組成物である。
Figure 0004700950
(実施例1〜8及び比較例1〜5)
上記下塗材と上塗材の各種組合せによる積層補修層の各種性能を前記試験方法により測定した。それらの結果及び評価を下掲表3に纏めて示す。なお、表中の下塗材及び上塗材の欄の上下材番号は、前記表1〜2に記載の各塗材である。また、測定される試験項目における耐ひび割れ性を耐ひび割,中性化深さ(mm)を中性化深,標準時接着強さ(N/mm2)を標準接着強,標準時界面破断率(%)を標準界面断,温冷繰返し後の接着強さ(N/mm2)を温冷接着強,温冷繰返し後の界面破断率(%)を温冷界面断,圧縮強さ(N/mm2)を圧縮強及びゼロスパンテンション伸度(mm)を伸度と略記した。なお、各具体例の物性の測定は、下塗材を3mmの厚さに塗布し、24時間養生後、その上に、上塗材を20mmの厚さに積層した補修層23mmを形成させた積層体について測定した。なお、各塗材の層厚(mm)を括弧内に記載した。
Figure 0004700950
総合評価は、標準時接着強さが、1.0 N/mm2 以上,標準時界面破断率が50%以下,温冷繰返し後の接着強さが0.7 N/mm2以上,温冷繰返し後の界面破断率が50%以下で、ゼロスパンテンション伸度が、0.6mm以上,ひび割れがないこと,塗り付け性不可がないこと、を合否の判定基準とした。
表3からも明らかなように、第一のポリマーモルタル組成物の下塗層の骨材量が少ないと、層厚の確保が困難で、耐ひび割れ性が劣る(比較例1)。また、多すぎると、強度が低下し、接着強さが極端に小さくなる(比較例2)。比較例3〜5より、本発明における下塗用第一ポリマーモルタル組成物と上塗用モルタル組成物のそれぞれの限定要件を逸脱するときは、鉄筋コンクリート構造体の長期安定な補修効果を期待できないことが理解されよう。
本発明の方法によって形成される積層モルタル補修層は、かぶり厚不足の鉄筋コンクリート構造体のコンクリート外表面を一層安定に遮蔽し、コンクリートの中性化を高度に抑制すると共に、第二のモルタル組成物の強固な表層によって、補修、補強されるので、構造体の寿命は、大幅に延長される。また、本発明方法に係る積層補修層は、接着強度,界面破断率及び耐層間剥離性等の物性に優れ、長期にわたって鉄筋コンクリート構造体を安定に防護補修し、満足し得る三世代用鉄筋コンクリート住宅を提供することができる。

Claims (1)

  1. セメント、該セメント100質量部当たり、40〜300質量部の骨材及び20〜70質量部の0〜−45℃の範囲内のガラス転移点を有する合成樹脂を含有し、JASS15M-103に規定されるフロー値が10〜30cmの範囲内に調整された第一のポリマーモルタル組成物を鉄筋コンクリート構造体のコンクリート表面に適用して、厚さ2〜5mmの第一層を形成させ、固化した該第一層の上に、セメント、該セメント100質量部当たり、100〜400 質量部の骨材及び2〜30質量部の10〜−15℃の範囲内のガラス転移点を有する合成樹脂を含有して成る第二のモルタル組成物を、厚さ5〜50mmの第二層として積層形成させることを特徴とする建築基準法施行令第79条に規定されるかぶり厚に対してかぶり厚不足の鉄筋コンクリート構造体の補修方法。
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