JP4698806B2 - 義歯床用樹脂組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として義歯床の裏装(改床)に使用する義歯床用樹脂組成物であり、特に、操作性に優れ、使用時に二液を混合するのみの簡便な操作で使用可能な二液混合型の義歯床用樹脂組成物である。
【0002】
【従来の技術】
従来、義歯床の裏装(改床)は、間接法により、粘膜面を一層削除した義歯床をトレーとして用い、これに印象材を盛り付けて機能印象を採得し、そのまま埋没材を用いてフラスコ内に埋没し、その後に印象材を撤去することで埋没材中に空洞を形成し、その後、義歯床の作製と同様の手順により、義歯床用樹脂材料の液と粉とを必要量計量し、スパチュラ等で混合・練和して餅状としたものをフラスコ内の埋没材中の空洞に充填し、フラスコごと加熱して重合・硬化後、冷却して掘り出し、形態修正・研磨を行う手順で行われている。
【0003】
しかし、この間接法での裏装には時間がかかるため、常温重合型や光重合型の義歯床用樹脂材料を用いた直接法もかなり行われるようになってきている。この直接法は、義歯床の粘膜面側を一層削除した後、義歯床用樹脂材料の液と粉とを必要量計量し、混合・練和して餅状にしたものを義歯床の粘膜面側に直接盛り付け、口腔内に挿入して患者の口腔内で試適を何度か繰り返して形態を付与し、その後、口腔外に放置して重合させたり、光を照射して重合させたりして義歯床の裏装を行う方法である。
【0004】
このような義歯床の裏装(改床)に使用されている義歯床用樹脂材料は、従来メチルメタクリレートを主成分とする液と、ポリメチルメタクリレートやポリエチルメタクリレートを主成分としこれに重合触媒が加えられた粉とから構成されており、使用時に、液と粉との必要量を計量し、均一に混合・練和し、一定時間放置させて餅状となった状態で使用することが必要である。しかし、この方法では粉と液とを別々に計量して混合・練和することが必要があって煩雑であり、また混練物もモノマーの揮発性が高いことから餅状状態を維持している時間が短く、義歯床粘膜面への盛り付けのタイミングを計るのが難しいばかりでなく、その臭気や刺激性により術者や患者に不快感を与えたり、場合によってはそれらの健康を害する虞もあった。
【0005】
また、従来の義歯床用樹脂材料は、液と粉とを混合・練和して使用することが必須であるが、混合・練和の際に空気を巻き込んでしまう欠点があり、この混練物中に巻き込まれた空気は気泡となり、強度等の物性の低下を招いたり、硬化後の表面に微少な凸凹が形成されて、経時的に義歯床の汚れや変色,臭気を引き起こす原因となっていた。また最近、これらの欠点を補うために混和・練和を必要としないシート状の光重合型義歯床用樹脂材料も開発・提供されているが、硬化前の材料が塑性変形を起こしてしまうため、口腔内からの撤去時等に頬粘膜等の圧迫やアンダーカットにより変形を起こし、正確な口腔内状態を材料へ印記することができないという欠点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、混合・練和しても空気の巻き込みが少なく、混練物中に気泡の混入の虞が少なく、口腔内からの撤去時にも適度な弾性を示して変形を生じることがなく、口腔内状態を正確に印記できる義歯床用樹脂組成物を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、二液混合型の液状とすることにより、混合・練和の空気の巻き込みを少なくすることができ、且つ特定性能のモノマーを使い分けることが有用であることを究明し、本発明を完成した。
即ち、一方の液は、高分子重合体の溶解性の高いモノマーに高分子重合体を溶解した溶液とし、他方の液は、高分子重合体を溶解しないか又は溶解性の低いモノマーに高分子重合体を分散した溶液とし、この二液を混合する組合せの義歯床用樹脂組成物が前記課題を解決できることを究明し、本発明を完成したのである。
【0008】
【発明の実施の形態】
即ち、本発明の義歯床用樹脂組成物は、下記の(a),(b)及び(c)成分で構成される二液型の義歯床用樹脂組成物であり、
(a)少なくとも1個の不飽和二重結合を持つメタクリレート又はアクリレートのモノマー、
(b)メタクリレート重合体,アクリレート重合体,メタクリレート・アクリレート共重合体,メタクリレート・スチレン共重合体,アクリレート・スチレン共重合体の群から選ばれた1種又は2種以上の組合せから成る高分子重合体、
(c)重合開始剤、
A液が、高分子重合体(b)とこの高分子重合体(b)の溶解度が20重量%以上であるモノマー(a)と重合開始剤(c)とから成り、B液が、高分子重合体(b)とこの高分子重合体(b)の溶解度が20重量%未満であるモノマー(a)とから成り、A液とB液とを混合することにより、A液中のモノマー(a)がB液中の高分子重合体(b)を膨潤又は溶解して粘度が上昇し、重合硬化すること特徴とする義歯床用樹脂組成物である。
【0009】
より詳しくは、本発明に係る義歯床用樹脂組成物は、高分子重合体の溶解性の異なる2種類のモノマーを用いたことに特徴があり、一方の液成分には高分子重合体の溶解度が20重量%以上の溶解性の高いモノマーを用い、他方の液成分には高分子重合体の溶解度が20重量%未満の溶解性の低いモノマーを用いたことに特徴がある。
具体的には、A液は、高分子重合体の溶解性の高いモノマーを用い、このモノマーに高分子重合体を溶解して粘度を調整したものであり、後にB液と混和した際には急激に粘度が上昇する性能を有する。更にA液には重合開始剤を添加することにより、後に熱,光等外部からのエネルギーにより重合可能なものとする。一方、B液は、高分子重合体を溶解しないか又は溶解性の低いモノマーを用い、これにA液と同様な高分子重合体を分散したもので構成する。なお、このような高分子重合体としては、常温で溶解性が高く、ガラス転移点の低い高分子重合体が好ましく使用される。
【0010】
このような二液から成る義歯床用樹脂組成物は、混合・練和が極めて容易となり、混練物に気泡を巻き込むことが少なくなるのである。特に、自動混練可能なカートリッジ内に充填して供給することにより、無気泡状態での混練が可能となり、また混練物は、A液に配合された高分子重合体の溶解性の高いモノマーによってB液に配合された高分子重合体が膨潤又は溶解され、高粘度な餅状の状態となって適度な弾性性質を示し、多少のアンダーカット等があっても口腔内の形状を精密に印記することができるものであり、その後、口腔内より取り出し、熱,光等の外部からのエネルギー照射によってモノマーの重合を促し、義歯床用材料として機能させることができるものである。
【0011】
以下、本発明に係る義歯床用樹脂組成物の各成分について詳しく説明を行う。
(a)少なくとも一個の不飽和二重結合を持つメタクリレート又はアクリレートのモノマーとしては、具体的には以下の物質を挙げることができる。
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート又はこれらのアクリレート、2,2−ビス(メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、また分子中にウレタン結合を有するメタクリレート又はアクリレートとして、ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート又はこれのアクリレート、その他、ウレタン結合を含むメタクリレート又はアクリレートなどで不飽和二重結合を多く含むものも使用可能である。これらのメタクリレート又はアクリレートは、単独又は混合して使用することができる。なお配合量としては、A液に対しては20〜80重量%、B液に対しては50〜90重量%であることが好ましく、義歯床用樹脂組成物全体では20〜90重量%であることが好ましい。
【0012】
なお、A液に使用するモノマーとしては、後述する高分子重合体(b)を少なくとも20重量%以上溶解できることが必要があり、特に、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレートなどの高分子重合体(b)の溶解度が50重量%以上の大きいモノマーが好適に使用される。一方、B液に使用するモノマーは、後述する高分子重合体(b)の溶解度が20重量%未満のモノマーであることが必要であり、特に、ポリオキテシトラメチレングリコールジメタクリレートのような高分子重合体(b)をほとんど溶解しないモノマーが好適に使用される。
【0013】
また、(b)成分であるメタクリレート重合体、アクリレート重合体、メタクリレート・アクリレート共重合体、メタクリレート・スチレン共重合体、アクリレート・スチレン共重合体の群から選ばれた1種又は2種以上の高分子量重合体としては、具体的に以下のポリマーを挙げることができる。
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、ターシャリーブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、イソボニルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート又はこれらのアクリレートの単独重合体又は共重合体、その他これらのメタクリレート又はアクリレートとスチレンとの共重合体から選ばれた少なくとも1種の重合体を使用することができる。なお、これらの高分子重合体(b)において、ポリマー作製の際にアゾビスイソブチロ二トリルを重合開始剤として用いた高分子重合体が好ましい。
これらの高分子重合体(b)の中でも、A液中のモノマー(a)に対する溶解度が20重量%以上であるメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート又はこれらのアクリレートの単独重合体、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート・エチルアクリレート共重合体、メチルアクリレート・エチルメタクリレート共重合体又はメチルアクリレート・エチルアクリレート共重合体、メチルメタクリレート・ブチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート・ブチルアクリレート共重合体、メチルアクリレート・ブチルメタクリレート共重合体又はメチルアクリレート・ブチルアクリレート共重合体、メチルメタクリレート・イソブチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート・イソブチルアクリレート共重合体、メチルアクリレート・イソブチルメタクリレート共重合体又はメチルアクリレート・イソブチルアクリレート共重合体、メチルメタクリレート・スチレン共重合体から選ばれた少なくとも1種の重合体を用いることが好ましい。なお、このような高分子量重合体の配合量はA液に対しては20〜80重量%、B液に対しては10〜50重量%であることが好ましく、義歯床用樹脂組成物全体では5〜80重量%であることが好ましい。
【0014】
(c)成分である重合開始剤は、使用される重合形態により適宜選択して添加される。加熱重合型としては、主に有機過酸化物やアゾ化合物等が用いられる。有機過酸化物としては、芳香族を有するジアシルパーオキシド類や過安息香酸のエステルと見なされるようなパーオキシエステル類が好ましく、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、m−トリルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ{(o−ベンゾイル)ベンゾイルパーオキシ}ヘキサン等が効果的である。また、アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル等、他にもトリブチルホウ素等のような有機金属化合物等も使用される。その添加量としては、A液100重量部に対して0.01〜5重量部が適当である。
【0015】
常温重合型としては、有機過酸化物と芳香族第3級アミンとの組合せが挙げられる。この場合には、一方の液に有機過酸化物、他方の液に芳香族第3級アミンを配合するようにして使用する。有機過酸化物としては、前述の加熱重合型に用いる有機過酸化物と同種の物質が使用される。
第3級アミンとしては、芳香族基に直接窒素原子が置換した第3級アミンが好ましく、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチル−N−β−ヒドロキシアニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−アニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキプロピル)−アニリン、N,N−ジ(β−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等が効果的である。
このような常温重合型の重合開始剤の添加量としては、有機過酸化物と芳香族第3級アミンとがそれぞれ各液100重量部に対して0.01〜5重量部であることが適当である。
【0016】
また、光重合機能も付与することも可能で、その場合には、光重合開始剤としては増感剤と還元剤との組合せが一般に用いられる。増感剤には、カンファーキノン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2−メトキシエチル)ケタール、4,4´−ジメチルベンジル−ジメチルケタール、アントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−クロロアントラキノン、1,2−ベンズアントラキノン、1−ヒドロキシアントラキノン、1−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、1−ブロモアントラキノン、チオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−ニトロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン、2−クロロ−7−トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン−10,10−ジオキサイド、チオキサントン−10−オキサイド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、アシルフォスフィンオキサイドの誘導体、アジド基を含む化合物などがあり、単独若しくは混合しても使用できる。
還元剤としては3級アミン等が一般に使用される。3級アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルが好ましい。また他の還元剤として、ベンゾイルパーオキサイド、スルフィン酸ソーダ誘導体、有機金属化合物等が挙げられる。
このような光重合型の重合開始剤の添加量としては、A液100重量部に対して0.01〜5重量部であることが適当である。
【0017】
光重合型の義歯床用樹脂組成物の場合は、紫外線又は可視光線などの活性光線を照射することにより重合反応が達せられる。光源としては、超高圧,高圧,中圧又は低圧の各種水銀灯、ケミカルランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光ランプ、タングステンランプ、キセノンランプ、アルゴンイオンレーザーなどを使用することもできる。
【0018】
なお、本発明に係る義歯床用樹脂組成物には、必要に応じて(d)成分として充填材を加えて液の安定性を向上させたり、硬化体の強度を向上させることができる。この(d)成分としての充填材には、通常、無機質充填材が使用され、具体的には、二酸化ケイ素、バリウムガラス、アルミナガラス、カリウムガラス等のガラス類、合成ゼオライト、リン酸カルシウム、長石、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、石英などの粉末がある。これらの無機質充填材は、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シランなどで表面処理されていても良い。また、前記の無機質充填材を予め重合性モノマーと混合して硬化させた後、粉砕して作製した所謂有機無機複合充填材や、重合性モノマーへ溶解性のない架橋されたポリマー粉末の充填材として使用することができる。このような充填材の配合量はA液100重量部及び/又はB液100重量部に対して1〜50重量部であることが適当であり、1重量部未満では添加効果が認められず、50重量部を超えるとペーストが固くなり操作性が低下する。
その他必要に応じて、公知の紫外線吸収剤、着色剤、重合禁止剤、変色防止剤、抗菌剤、可塑剤、界面活性剤等が微量使用される。
【0019】
本発明に係る義歯床用樹脂組成物は、A液とB液とを混合・練和して使用するものであり、従来の粉・液を混合・練和するものと比べて、格段に練和操作性が向上したものであるが、自動混練可能なカートリッジ内に充填され供給されることにより計量・混和の必要が無くカートリッジで自動混和された材料は直ぐに口腔内へ挿入できる粘度とすることができ、更に操作性が向上する。また、口腔内においては粘度が上昇して適度な弾性を有する餅状となるため、口腔内からの撤去時にも変形を生ずることがなく、口腔内を正確に印記することができるものである。
【0020】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
Figure 0004698806
をそれぞれ秤量し、充分に混合してA液とB液とから成る義歯床用樹脂組成物を作製した。なお、A液において、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体は1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートに全て溶解しており、またB液において、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体はポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレートにほとんど溶解していなかった。
得られた義歯床用樹脂組成物のA液とB液とを等量採取し、以下の方法により曲げ強度、弾性ひずみ、弾性エネルギーの測定を行った。曲げ強度は40MPa、弾性ひずみは30%、弾性エネルギーは3.05MPaであった。
また、この混和された義歯床用材料組成物をフラスコ内の埋没材中に形成された空洞内に充填し、70℃の湯中で90分間加熱し、その後100℃で30分間加熱して重合を行い、義歯床のリベースを行った。この義歯床用樹脂組成物は、混合・練和が極めて容易であり、気泡の混入や臭気や刺激性も無かった。完成した義歯床を1ヶ月装着しても、気泡発生に起因する変色や汚れ等は観察されなかった。
【0022】
<曲げ強度、弾性ひずみ、弾性エネルギーの測定>
熱重合触媒を用いた場合はフラスコごと70℃の湯中で90分、その後100℃の湯中で30分間それぞれ加熱して重合・硬化させ、光重合触媒を用いた場合は金属製の型に充填した後、歯科用可視光線照射器(商品名:ラボライトLV−II、ジーシー社製)にて可視光線を5分間照射して重合・硬化を行い、2mm×2mm×25mmの直方体形状の試験片を作製した。
この試験片を37℃の蒸留水中に24時間浸漬した後、万能試験機(商品名:オートグラフ、島津製作所社製)にてスパン20mm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件にて3点曲げ試験を行い、曲げ強度、弾性歪み、弾性エネルギーを測定した。
【0023】
Figure 0004698806
をそれぞれ秤量し、充分に混合してA液とB液とから成る義歯床用樹脂組成物を作製した。なお、A液において、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体は1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートに全て溶解しており、またB液において、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体はポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレートにほとんど溶解していなかった。
得られた義歯床用樹脂組成物について、実施例1と同様にして曲げ強度、弾性ひずみ、弾性エネルギーの測定を行った。曲げ強度は38MPa、弾性ひずみは30%、弾性エネルギーは2.95MPaであった。
また、粘膜面を一層除去した義歯床に接着剤(商品名:デンチャープライマー、ジーシー社製)を塗布した後、A液,B液を等量割合で混合・練和して盛り、口腔内に挿入して粘膜面の形態を印象して口腔内より撤去した。次いでエアーバリアー材(商品名:マイルドリベロンエアーバリヤー材、ジーシー社製)を塗布し歯科用可視光線重合器(商品名:ラボライトLV−II、ジーシー社製)にて可視光線を5分間照射して重合・硬化を行い、義歯床の裏装を行った。この裏装の作業は、従来の液と粉とを混合する必要のある義歯床用樹脂材料と比較すると、計量・混和の一連の作業が非常に簡便であった。また気泡の混入もなかった。そして、口腔内への装着の際にモノマー臭もなく、口腔内に試適した際にも刺激は生じなかった。裏装が完成した義歯床を1ヶ月装着しても変色や臭い、汚れ等は観察されなかった。
【0024】
Figure 0004698806
をそれぞれ秤量し、充分に混合してA液とB液とから成る義歯床用樹脂組成物を作製した。なお、A液において、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体はトリメチロールプロパントリメタクリレートに全て溶解しており、またB液において、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体はポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレートにほとんど溶解していなかった。
得られた義歯床用樹脂組成物について、実施例1と同様にして曲げ強度、弾性ひずみ、弾性エネルギーの測定を行った。曲げ強度は41MPa、弾性ひずみは25%、弾性エネルギーは2.80MPaであった。
また、実施例2と同様にして義歯床の裏装を行った結果、気泡の混入もなく、口腔内への装着の際にモノマー臭もなく、口腔内に試適した際にも刺激は生じなかった。裏装が完成した義歯床を1ヶ月装着しても変色や臭い、汚れ等は観察されなかった。
【0025】
Figure 0004698806
をそれぞれ秤量し、充分に混合してA液とB液とから成る義歯床用樹脂組成物を作製した。なお、A液において、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体はエチレングリコールジメタクリレートに全て溶解しており、またB液において、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体はポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレートにほとんど溶解していなかった。
得られた義歯床用樹脂組成物について、実施例1と同様にして曲げ強度、弾性ひずみ、弾性エネルギーの測定を行った。曲げ強度は40MPa、弾性ひずみは25%、弾性エネルギーは2.70MPaであった。
また、実施例2と同様にして義歯床の裏装を行った結果、気泡の混入もなく、口腔内への装着の際にモノマー臭もなく、口腔内に試適した際にも刺激は生じなかった。裏装が完成した義歯床を1ヶ月装着しても変色や臭い、汚れ等は観察されなかった。
【0026】
Figure 0004698806
をそれぞれ秤量し、充分に混合してA液とB液とから成る義歯床用樹脂組成物を作製した。なお、A液において、エチルメタクリレート重合体は1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートとブトキシエチルメタクリレートに全て溶解しており、またB液において、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体はポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレートにほとんど溶解していなかった。
得られた義歯床用樹脂組成物について、実施例1と同様にして曲げ強度、弾性ひずみ、弾性エネルギーの測定を行った。曲げ強度は35MPa、弾性ひずみは35%、弾性エネルギーは3.25MPaであった。
また、実施例2と同様にして義歯床の裏装を行った結果、気泡の混入もなく、口腔内への装着の際にモノマー臭もなく、口腔内に試適した際にも刺激は生じなかった。裏装が完成した義歯床を1ヶ月装着しても変色や臭い、汚れ等は観察されなかった。
【0027】
Figure 0004698806
をそれぞれ秤量し、充分に混合してA液とB液とから成る義歯床用樹脂組成物を作製した。なお、A液において、エチルメタクリレート重合体は1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートとブトキシエチルメタクリレートに全て溶解しており、またB液において、メチルメタクリレート重合体はポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレートにほとんど溶解していなかった。
得られた義歯床用樹脂組成物について、実施例1と同様にして曲げ強度、弾性ひずみ、弾性エネルギーの測定を行った。曲げ強度は45MPa、弾性ひずみは28%、弾性エネルギーは3.50MPaであった。
また、実施例2と同様にして義歯床の裏装を行った結果、気泡の混入もなく、口腔内への装着の際にモノマー臭もなく、口腔内に試適した際にも刺激は生じなかった。裏装が完成した義歯床を1ヶ月装着しても変色や臭い、汚れ等は観察されなかった。
【0028】
(比較例1)
従来の粉・液タイプの義歯床用樹脂材料として、義歯床用リライニング材(商品名:ジーシーリベロンLC、ジーシー社製)を使用し、説明書の指示に従って液・粉を計量して混合・混和して、曲げ強度、弾性歪み、弾性エネルギーの測定を行った。曲げ強度は65MPa、弾性歪みは5%、弾性エネルギーは0.88MPaであった。
また実施例2と同様にして義歯床の裏装を行った結果、計量・混和等の操作が煩雑で、その間モノマー臭があり不快であった。完成した義歯を1ヶ月装着した処、表面に気泡による微細な凸凹が観察され、その部位に汚染が観察された。
【0029】
【発明の効果】
以上に詳述した如く、本発明に係る義歯床用樹脂組成物は、モノマーとポリマーの新規な組合せにより従来ではなしえなかった二液混合型の義歯床用樹脂組成物であり、混練・練和作業が極めて容易で、混和練和物への気泡の混入が少なく、このために物理的性質や審美的にも優れたものとなり、長期間使用しても汚染、臭い等を生じることのない義歯床の裏装を可能とするものであり、歯科医療に貢献する価値の極めて大なるものである。

Claims (7)

  1. A液とB液とから成る義歯床用樹脂組成物が、
    (a)少なくとも1個の不飽和二重結合を持つメタクリレート又はアクリレートのモノマー、
    (b)メタクリレート重合体,アクリレート重合体,メタクリレート・アクリレート共重合体,メタクリレート・スチレン共重合体,アクリレート・スチレン共重合体の群から選ばれた1種又は2種以上の組合せから成る高分子重合体、
    (c)重合開始剤、
    で構成され、A液が、高分子重合体(b)とこの高分子重合体(b)の溶解度が20重量%以上であるモノマー(a)と重合開始剤(c)とから成り、B液が、高分子重合体(b)とこの高分子重合体(b)の溶解度が20重量%未満であるモノマー(a)とから成り、A液とB液とを混合することにより、A液中のモノマー(a)がB液中の高分子重合体(b)を膨潤又は溶解して粘度が上昇し、重合硬化すること特徴とする義歯床用樹脂組成物。
  2. A液中のモノマー(a)が、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレートの群から選ばれた1種又は2種以上の重合性モノマー及び/又はオリゴマーである請求項1に記載の義歯床用樹脂組成物。
  3. B液において、モノマー(a)がポリオキシテトラメチレングリコールジメタクリレートであり、高分子重合体(b)がエチルメタクリレート重合体、メチルメタクリレート・エチルメタクリレート共重合体のいずれか1種又は2種である請求項1又は2に記載の義歯床用樹脂組成物。
  4. 重合開始剤(c)が、加熱重合型重合開始剤である請求項1から3までのいずれか1項に記載の義歯床用樹脂組成物。
  5. 重合開始剤(c)が、常温重合型重合開始剤である請求項1から3までのいずれか1項に記載の義歯床用樹脂組成物。
  6. 重合開始剤(c)が、光重合開始剤と還元剤の組合せである請求項1から3までのいずれか1項に記載の義歯床用樹脂組成物。
  7. A液100重量部及び/又はB液100重量部に対して、モノマー(a)に溶解しない充填材(d)が1〜50重量部添加されている請求項1から6までのいずれか1項に記載の義歯床用樹脂組成物。
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