JP4695291B2 - 低伸度糸 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低伸度糸条、より詳しくは、延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントを含み、伸度が約3%程度以下である糸条に関する。
【0002】
【従来の技術】
超高分子量ポリエチレンフィラメントは、伸度が約4%程度、強度が約30〜35g/d程度と、低伸度かつ高強力であり、例えば、釣糸、漁網や延縄などの水産資材、各種ロープ、ミシン糸、防護衣料、スポーツ衣料、幕材またはゴルフネットなど各種分野で使用されている。
しかし、それぞれの分野において近年種々の進歩が見られ、上記のような超高分子量ポリエチレンフィラメントを用いた製品に対しても、より一層の高性能化が求められている。かかる高性能化の一つとして、低伸度化が挙げられる。例えば、釣糸に関しては、伸度が小さいほど魚信をより的確にとられることができ、それは直接釣果に反映するため、釣りの漁法が高度化するにつれてより低伸度の糸条が求められるようになってきている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、伸度が3%以下の低伸度糸条およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記目的を達成せんものと、多種類のフィラメントについて鋭意検討を重ねた結果、従来公知の市販の超高分子量ポリエチレンフィラメントを選択した場合、これを再延伸することにより再延伸する前より伸度がさらに低い糸条を得ることができるという知見を得た。ここで、再延伸とは延伸処理を経て製造されたフィラメントに、再び延伸処理を施すことをいう。
すなわち、従来公知の市販の超高分子量ポリエチレンフィラメントの伸度は上記のように約4%であった。しかし、下記する条件でかかる超高分子量ポリエチレンフィラメントを再延伸すると、再延伸する前のフィラメントに比し伸度がさらに低くなり、約3%以下の伸度を示した。また、かかる再延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントは、伸度だけでなく結節強度も向上するという思いがけない知見を得た。
本発明者は、さらに検討を重ね、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は、
(1) 複数の延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントを構成フィラメントとして含み、各超高分子量ポリエチレンフィラメントは個別に延伸されたのち、撚り合わせまたは製紐により、互いに融着することなく複合されており、伸度が3%以下であることを特徴とする糸条、
(2) さらに、他の延伸されたフィラメントを構成フィラメントとして含み、この他のフィラメントは上記の超高分子量ポリエチレンフィラメントと個別に延伸されたのち、複合されていることを特徴とする前記(1)に記載の糸条、
(3) 他の延伸されたフィラメントに金属粒子が含有されていることを特徴とする前記(2)に記載の糸条、
(4) さらに、金属線を構成フィラメントとして含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の糸条、
に関する。
【0006】
また、本発明は、
(5) 釣糸である、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の糸条、
に関する。
【0007】
また、本発明は、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかに記載の糸条の製造方法であって、超高分子量ポリエチレンフィラメントを個別に延伸し、ついで、延伸された複数の前記超高分子量ポリエチレンフィラメントを、撚り合わせまたは製紐により、互いに融着することなく複合することを特徴とする、糸条の製造方法、
(7) 金属粒子が含有されていてもよい延伸可能なフィラメントを上記の超高分子量ポリエチレンフィラメントと個別に延伸し、ついで、該延伸された前記フィラメントを複合することを特徴とする前記(6)に記載の糸条の製造方法、
に関する。
【0008】
また、本発明は、
(8) 複数の延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントを構成フィラメントとして含む、伸度が3%以下であることを特徴とする糸条の製造方法であって、上記の超高分子量ポリエチレンフィラメントの複合と延伸を同時に行うことを特徴とする糸条の製造方法、
(9) さらに、金属粒子が含有されていてもよい延伸可能なフィラメントを複合することを特徴とする前記(8)に記載の糸条の製造方法、
に関する。
【0009】
さらに、本発明は、
(10) さらに金属線を複合することを特徴とする前記(6)〜(9)のいずれかに記載の糸条の製造方法、
(11) 上記の延伸される超高分子量ポリエチレンフィラメントが未延伸フィラメントであることを特徴とする前記(6)〜(10)のいずれかに記載の糸条の製造方法、
に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明に係る糸条は、延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントを構成フィラメントとして含み、かつ伸度が約3%程度以下、好ましくは約2.7%程度以下、より好ましくは約2.5%程度以下、さらに好ましくは約2%程度以下であることが特長である。なお、伸度は公知の測定機、例えば、万能試験機 オートグラフAG−100kNI(商品名 島津製作所製)を用いて容易に測定することができる。
【0011】
本発明に係る糸条の一態様としては、複数本の延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントからなる糸条が挙げられる。
かかる態様の糸条は、複数本の超高分子量ポリエチレンフィラメントを複合し、ついで該複合糸を延伸することにより製造することができる。また、かかる態様の糸条は、超高分子量ポリエチレンフィラメントを延伸し、ついで該延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントを複数本複合することにより製造することもできる。
ここで、複合とは、複数本のフィラメントが互いにばらばらにならないように一体化させることを言う。以下も同様である。複合には公知の手段を用いてよく、例えば複数本のフィラメントを撚り合わせたり、製紐したり、後述する熱接着性樹脂で融着させたりすることなどが挙げられる。また、上記製造方法において延伸する際の延伸倍率は、約1.01〜5程度、好ましくは約1.01〜3程度、より好ましくは約2.2〜3程度である。
【0012】
本発明に係る上記態様の糸条は、超高分子量ポリエチレンフィラメントの代わりに、超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメントを用いて、上記と同様にして製造することもできる。但し、延伸する際の延伸倍率が、約1.01〜15程度、好ましくは約2〜10程度、より好ましくは約4〜8程度である点において上記製造方法とは異なる。
【0013】
ここで、超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメントとは、最大延伸倍率で延伸されていない超高分子量ポリエチレンフィラメントをいう。最大延伸倍率とは、フィラメントの製造工程におけるフィラメントの破断が製造上問題ならない程度の延伸倍率をいう。すなわち、紡糸工程中の延伸倍率が増大するにつれて、フィラメントの引張り強さおよび剛性が増大する。しかし、延伸倍率が増大するにつれて、製造工程中のフィラメントの破断がますます頻繁に生じるため、延伸倍率は非制限に増大できない。どの程度の延伸倍率であれば、延伸工程を中断しなければならない破断が発生し、その発生頻度が許容できる程度であるかということは、実験的に容易に決定することができる。この延伸倍率を最大延伸倍率という。
【0014】
本発明で用いる超高分子量ポリエチレンフィラメントを構成する超高分子量ポリエチレンとしては、分子量が20万程度以上、好ましくは60万程度以上のものが好適に用いられる。かかる超高分子量ポリエチレンは、ホモポリマーであってもよいし、炭素数3〜10程度の低級α−オレフィン類、例えばプロピレン、ブテン、ペンテン、へキセン等との共重合体であってもよい。該エチレンとα−オレフィンとの共重合体としては、後者の割合が炭素数1000個当たり平均0.1〜20個程度、好ましくは平均0.5〜10個程度である共重合体を用いるのが好ましく、かかる共重合体は高強度などの優れた機械的性質を示す。
【0015】
超高分子量ポリエチレンフィラメントの製造方法は、例えば特開昭55−5228、特開昭55−107506などに開示されており、これら自体公知の方法を用いてよい。また、超高分子量ポリエチレンフィラメントとして、ダイニーマ(商品名 東洋紡株式会社製)やスペクトラ(商品名 アライドシグナル社製)等の市販品を用いてもよい。
【0016】
本発明に係る糸条の他の態様としては、延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントと他の延伸されたフィラメントとを含む糸条が挙げられる。ここで、「他の延伸されたフィラメント」とは、延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントを含まない概念である。
かかる態様の糸条は、超高分子量ポリエチレンフィラメントと、延伸可能なフィラメントとを複合し、ついで該複合糸を延伸することにより製造することができる。また、かかる態様の糸条は、超高分子量ポリエチレンフィラメントと、他の延伸可能なフィラメントとを個別に延伸し、ついで該延伸されたフィラメントを複合することにより製造することもできる。ここで、「延伸可能なフィラメント」は、超高分子量ポリエチレンフィラメントを含まない概念である。
【0017】
ここで、超高分子量ポリエチレンフィラメントと延伸可能なフィラメントとを複合させるには、自体公知の手段を用いてよく、例えば2種のフィラメントを撚り合わせたり、製紐したり、後述する熱接着性樹脂で融着させたりすることなどが挙げられる。また、いずれかのフィラメントを芯糸とし、他方のフィラメントを芯糸の周りに製紐させたり、芯糸の周りを囲むように配置して融着させたりしてもよい。また、上記製造方法において延伸する際の延伸倍率は、約1.01〜5程度、好ましくは約1.01〜3程度、より好ましくは約2.2〜3程度である。
【0018】
本発明に係る上記態様の糸条は、超高分子量ポリエチレンフィラメントの代わりに超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメントを用い、延伸可能なフィラメントの代わりに未延伸フィラメントを用いて、上記と同様にして製造することもできる。但し、延伸する際の延伸倍率が、約1.01〜15程度、好ましくは約2〜10程度、より好ましくは約4〜8程度である点において上記製造方法とは異なる。ここで、「未延伸フィラメント」は、超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメントを含まない概念である。
【0019】
上記記載より明らかなように、本発明における「他の延伸されたフィラメント」とは、延伸可能なフィラメントを約1.01〜5程度、好ましくは約1.01〜3程度、より好ましくは約2.2〜3程度の延伸倍率で延伸させたフィラメント、または未延伸フィラメントを約1.01〜15程度、好ましくは約2〜10程度、より好ましくは約4〜8程度の延伸倍率で延伸させたフィラメントのことである。
【0020】
ここで、延伸可能なフィラメントとは、その製造工程において延伸処理が行われ得るフィラメントであって、延伸工程において最大延伸倍率で延伸されているフィラメントのことである。一方、未延伸フィラメントとは、その製造工程において延伸処理が行われ得るフィラメントであって、延伸工程において最大延伸倍率に満たない延伸倍率で延伸されているか、または全く延伸処理されていないフィラメントのことである。
【0021】
上記「その製造工程において延伸処理が行われ得るフィラメント」としては、具体的に、例えば、ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリエステル系、フッ素系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系、ポリアセタール系などの合成樹脂からなるフィラメントが挙げられる。
【0022】
より具体的には、ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレン等が挙げられ、中でも、重合平均分子量が約400,000以上のものが好ましい。上記ポリエチレンまたはポリプロピレンは、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。コポリマーとして具体的には、エチレンと共重合できる1以上のアルケン類を少量、好ましくは約5重量%程度以下の割合で含有し、100炭素原子当り1〜10個程度、好ましくは2〜6個程度のメチル基またはエチル基を有する共重合体が挙げられる。上記エチレンと共重合できるアルケン類としては、例えば、プロペン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテンまたは4−メチルペンテン等が挙げられる。また、コポリマーとしては、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)なども挙げられる。
【0023】
ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6,10などの脂肪族ポリアミドもしくはその共重合体、または芳香族ジアミンとジカルボン酸により形成される半芳香族ポリアミドもしくはその共重合体などが挙げられる。
【0024】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン2,6ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボキシフェニル)エタン、4,4’−ジカルボキシフェニルもしくは5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸もしくはセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル類と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコールまたはテトラメチレングリコールなどのジオール化合物とから重縮合されるポリエステルもしくはその共重合体などが挙げられる。
【0025】
フッ素系樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリモノクロロトリフルオロエチレンもしくはポリヘキサフルオロプロピレンまたはその共重合体などが挙げられる。
【0026】
ポリアクリロニトリル系樹脂としては、アクリロニトリルと、他のポリマーとのコポリマーであるポリアクリロニトリル系樹脂が挙げられる。上記他のポリマーとしては、例えばメタクリレート、アクリレートまたは酢酸ビニル等が挙げられ、該他のポリマーは約5重量%程度以下の割合で含有されていることが好ましい。
【0027】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ビニルアルコールと、他のポリマーとのコポリマーであるポリビニルアルコール系樹脂が挙げられる。上記他のポリマーとしては、例えば酢酸ビニル、エテンまたは他のアルケン類等が挙げられ、該他のポリマーは約5重量%程度以下の割合で含有されていることが好ましい。
【0028】
本発明に係る糸条の上記態様においては、他の延伸されたフィラメントが高クリープ性フィラメントであることが好ましい。また、他の延伸されたフィラメントは、上述のように延伸可能なフィラメントまたは未延伸フィラメントを延伸させたフィラメントであることから、延伸可能なフィラメントまたは未延伸フィラメントも高クリープ性フィラメントであることが好ましい。
【0029】
上記高クリープ性フィラメントとは、延伸後、その形状を保ちつづけるようなフィラメントをいう。より具体的には、フィラメントを構成する繊維の破断強度の半分の荷重を100時間加えつづけ、その後かかる荷重を取り除いたときの永久伸びが、約1%以上、好ましくは約5%以上、より好ましくは約10%以上であるフィラメントが高クリープ性フィラメントとして好適である。なお、上記永久伸びは、伸度を公知の測定機、具体的には、万能試験機 オートグラフAG−100kNI(商品名 島津製作所製)を用いて測定することができる。
【0030】
上記高クリープ性フィラメントとして、具体的には、例えば、ポリアセタール系フィラメントなどが挙げられる。
上記ポリアセタール系フィラメントは、例えばポリオキシメチレンなどアセタール結合を主鎖に有するポリアセタール系樹脂を溶融紡糸するなど自体公知の方法で製造できる。ポリアセタール系フィラメントは、引張強度が約4g/d程度以上、伸度が約20%程度以下の物性を有するものが好ましい。なお、引張強度および破断伸度は、公知の測定機、例えば万能試験機 オートグラフAG−100kNI(商品名 島津製作所製)を用いて容易に測定することができる。
【0031】
本発明において用いる他の延伸されたフィラメントには、金属粒子が含有されていてもよい。また、他の延伸されたフィラメントは、上述のように延伸可能なフィラメントまたは未延伸フィラメントを延伸させたフィラメントであることから、延伸可能なフィラメントまたは未延伸フィラメントに金属粒子が含有されていてもよい。
このように金属粒子を含有させることにより、フィラメントを構成する素材が有する固有の比重に関係なく、任意の比重を有するフィラメント、特に比重の大きいフィラメントを製造できるという利点がある。
【0032】
ここで用いられる金属粒子としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、錫、ニッケル、タングステン等を単独で又は混合もしくは合金としたものが挙げられる。中でも糸条に重さを与えやすく、従って、強度の低下を極力抑えて、比重を高くする効果が少量の添加により現れるタングステンが好ましい。
【0033】
これら金属粒子は粉末状であると、粒状であるとを問わず本願発明に適用することができる。その平均粒径は約20μm程度以下、好ましくは約10μm以下が好適である。金属粒子の粒径が大きすぎると、混合後の全体的均一性が乏しくなるので上記範囲が好ましい。更にその添加量は、熱可塑性樹脂100重量部に対して約1〜90重量部程度、好ましくは約5〜70重量部程度添加するのがよい。
【0034】
本発明に係る糸条のさらに他の態様としては、延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントと金属線とを構成フィラメントとして含む糸条が挙げられる。金属は延性を有しているため任意の延伸倍率で延伸することができ、また延伸することにより径が細くなる。また、上記のように超高分子量ポリエチレンフィラメントは再延伸が可能である。したがって、該フィラメントと金属線と組み合わせれば、径が小さいにもかかわらず、重さのある糸を作製することが可能になる。
【0035】
本発明で用いる金属線としては特に限定されず、自体公知の金属線を用いてもよい。具体的には、例えば、銅線、ステンレス線、鉛線または各種合金の軟線などが挙げられる。中でも、安価であることから鉛線を用いるのが好ましい。
【0036】
本発明に係る上記態様の糸条は、超高分子量ポリエチレンフィラメントと金属線とを複合し、ついで該複合糸を延伸することにより製造することができる。また、かかる態様の糸条は、超高分子量ポリエチレンフィラメントと金属線とを個別に延伸し、ついで該延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントと金属線とを複合することにより製造することもできる。中でも、前者の製造方法が好ましい。
【0037】
ここで、超高分子量ポリエチレンフィラメントと金属線とを複合させるには、自体公知の手段を用いてよく、例えばフィラメントと金属線とを撚り合わせたり、製紐したり、後述する熱接着性樹脂で融着させたりすることなどが挙げられる。また、金属線を芯糸とし、フィラメントを芯糸の周りに製紐させたり、芯糸の周りを囲むように配置して融着させたりしてもよい。中でも、本発明の糸条は金属線を芯とする芯鞘構造を有する場合が好ましい。
また、延伸する際の延伸倍率は、約1.01〜5程度、好ましくは約1.01〜3程度、より好ましくは約2.2〜3程度である。
【0038】
本発明に係る上記態様の糸条は、超高分子量ポリエチレンフィラメントの代わりに超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメントを用い、上記と同様にして製造することもできる。但し、延伸する際の延伸倍率が、約1.01〜15程度、好ましくは約2〜10程度、より好ましくは約4〜8程度である点において、上記製造方法とは異なる。このように、超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメントを用いることにより、延伸処理における延伸倍率を高くすることができることから、金属線の径をより小さくすることができるという利点がある。
【0039】
本発明に係る糸条のさらに他の態様としては、延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントと、金属粒子が含有されていてもよい他の延伸されたフィラメントと、金属線とを含む糸条が挙げられる。
かかる態様の糸条の製造方法は、金属粒子が含有されていてもよい他の延伸されたフィラメントをさらに複合させる以外は、上記態様の糸条の製造方法と全く同様である。
【0040】
以下に、本発明に係る糸条の製造における主な工程について詳細に述べる。
本発明において、フィラメントまたは複合糸を延伸させる方法は特に限定されず、液体または気体中で加熱しながら延伸する等自体公知の方法が採用され得る。延伸時の温度は外糸部を構成する糸条の種類または糸条の径の大きさによって異なるので一概には言えない。例えば、直径が約1mm以上の太い糸条の場合、外糸部を構成する糸条の融点以上の温度で延伸処理を行うのが好ましい。また、直径が約1mm以下の細い糸条の場合、外糸部を構成する糸条の融点以上の温度で延伸処理を行っても、融点以下の温度で延伸処理を行ってもよいが、融点以上の温度で行うのが好ましい。より具体的には、延伸時の温度は、約120〜300℃程度、好ましくは約130〜250度程度、より好ましくは約130〜200℃程度、さらに好ましくは約130〜170℃程度である。
また、延伸は、1段で行ってもよいし、2段以上で行ってもよい。
【0041】
本発明において、複数本のフィラメント、所望により金属線を製紐する方法としては、特に限定されないが、通常は組紐機(製紐機)を用いて行われる。例えば4本のフィラメントを準備し、右側または左側の糸を交互に真中に配置させてくみ上げていく。製紐に用いるフィラメントの数は、4本に限らず、8本、12本または16本の場合などがある。
【0042】
本発明において、複数本の構成フィラメント、所望により金属線を融着する方法としては特に限定されないが、下記2つの方法が挙げられる。すなわち、(a)構成フィラメントを、バスの中に充填した熱接着性樹脂に浸漬するなど公知方法により樹脂を含浸させ、または公知方法により樹脂を塗布し、かかる構成フィラメントを引き揃えて、さらに所望によりこれに撚りをかけたり、製紐したりして、熱をかけることにより融着糸とする方法が挙げられる。また、(b)糸条となっている熱接着性樹脂(以下、単に「熱接着性樹脂糸条」という。)を用い、すべての構成フィラメントが該熱接着性樹脂糸条に接触するように配置して、さらに所望によりこれに撚りをかけたり、製紐したりして、その後熱をかけることにより融着させる方法が挙げられる。
【0043】
上記熱接着性樹脂糸条としては、熱接着性樹脂から糸条を作ってもよいし、中心糸に熱接着性樹脂をコーティングした糸条であってもよい。
後者の場合、中心糸としては、上述した超高分子量ポリエチレンフィラメント、延伸可能なフィラメント、超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメントまたは未延伸フィラメントが好適に用いられる。中心糸は、10〜50μmの太さのものを用いるのが好ましい。
コーティング方法は、特に問わず自体公知の方法を用いてよいが、例えば、熱接着性樹脂の入ったバスに、中心糸を含浸させ、余剰分を縛りとって、乾燥させて行うことができる。コーティングにより製造した熱接着性樹脂糸条は、中心糸の約1.3〜3倍の太さを有するものが好ましい。
【0044】
熱接着性樹脂により構成フィラメントを融着させる際の温度は、通常は熱接着性樹脂の融点以上で、かつ構成フィラメントの融点以下の温度、好ましくは約50〜160℃程度、より好ましくは約60〜130℃程度の温度が好適である。
【0045】
上記構成フィラメントの融着に用いる熱熱接着樹脂は、上記構成フィラメントの融点よりも低融点であることが好ましい。該熱接着樹脂としては、具体的には、融点が約50〜160℃程度の樹脂、好ましくは融点が約60〜135℃程度の樹脂、特に好ましいくは融点が100℃前後の樹脂である。融点は、例えば、JIS L 1013「化学フィラメント試験方法」に従った方法にて、公知の測定器、例えばパーキンエルマー社製「DSC7」で容易に測定できる。
【0046】
かかる熱接着性樹脂としては、上記融点を有するものであれば公知のものを用いてよいが、具体的には、例えばポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂またはポリアミド系樹脂などを用いることができる。
中でも、かかる熱接着性樹脂としては、例えばポリエチレンやポリプロピレン等を主体とするポリオレフィン共重合体からなるポリオレフィン系樹脂であって、約50℃程度の温度による約10秒程度の加熱でも軟化し得る軟質の樹脂が好ましい。また、融点が100℃前後で、溶融時には低粘度であるポリオレフィン系樹脂も好ましい。かかるポリオレフィン系樹脂は、短時間の加熱であっても容易に流動性を示し、速やかに繊維表面のみならず中心まで拡散浸透していくことができるので、優れた接着機能を果たすことができる。
【0047】
熱接着性樹脂と構成フィラメントとの重量割合は1:1〜100程度であることが望ましい。十分な接着力を得る一方で、熱接着性樹脂が本発明に係る糸条表面にはみ出し凹凸が生じて滑かさが失わないようにするため、上記範囲が好ましい。
【0048】
本発明の糸条は、さらにその表面に樹脂層をコーティングしても良い。このように樹脂層を設けると糸条の表面が滑らかになり、また、耐吸水性や耐摩擦性をより向上できるという利点がある。
被覆に使用する樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、塩化ビニル、アクリル、ウレタン、ナイロン、ポリエステル、エポキシ、酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニルなどの合成樹脂などが挙げられ、エマルジョン型もしくは溶剤型のいずれでも良い。さらには天然ゴムやSBRなどの合成ゴム系統も用いることができる。中でも、ポリプロピレンを用いるのが好ましい。
【0049】
合成樹脂で被覆されている本発明に係る糸条は、延伸される前の複合糸を上記のような合成樹脂で被覆した後、延伸することによって製造することができる。また、(a)複合糸を延伸させることにより、または(b)構成フィラメントを個別に延伸し複合することにより得られる本発明に係る糸条を上記のような合成樹脂で被覆することによっても製造することができる。上記2種の製造方法において、被覆方法は自体公知の方法を用いてよく、例えば、溶融押出し被覆などが挙げられる。
【0050】
本発明に係る釣糸は着色してもよい。着色方法は、公知方法を用いてよく、例えば、本発明の釣糸を着色剤溶液が入っている浴に室温、例えば約20〜25℃程度の温度下に通過させるという方法が挙げられる。この後、こうして被覆された糸を乾燥し、この被覆糸を約100〜130℃程度の温度に保たれた炉に通し、通過させることによって着色された糸条を製造できる。
着色剤としては、無機顔料、有機顔料または有機染料が知られているが、好適なものとしては、例えば、酸化チタン、カドミウム化合物、カーボンブラック、アゾ化合物、シアニン染料または多環顔料などが挙げられる。
【0051】
以上のようにして製造される本発明にかかる糸条は、伸度が低いことが要求される用途であればいかなる用途に用いてもよいが、具体的には、例えば各種レジャーや漁業用釣糸、その他マグロ漁のはえなわなどの水産用資材、ロープ、ガット、凧糸、“雑草除去(weedeater)”糸、または手術用縫合糸等に好適に用いることができる。
【0052】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を挙げるが、本発明がこれに限られないことはいうまでもない。また、実施例中の伸度は、万能試験機 オートグラフAG−100kNI(商品名 島津製作所製)を用いて測定した。
【0053】
〔実施例1〕
側糸としてダイニーマ 150d/140F(東洋紡績株式会社製)4本を用い、芯糸としてサーモラックスPO105 300d(ルクシロン社製)1本を用いて、これらを製紐機で丸打ちにて製紐して、原料糸条を製造した。これを送り込みローラー100m/分の速度で、170℃に加熱した加熱炉に送り込み、巻き取りローラー250m/分の速度で巻き取り、本発明に係る糸条を製造した。該低伸度糸の伸度は、2.5%であった。
【0054】
〔実施例2〕
超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメント(商品名ダイニーマ、東洋紡株式会社製)8本を用いて、丸打ちにて製紐した。なお、超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメントは、最大延伸倍率で延伸した場合には100dとなる原フィラメントを、最大延伸倍率の25%の延伸倍率で延伸させて得られた400dのフィラメントを用いた。かかる原料糸条を、170℃の加熱炉中で4倍に延伸し、本発明に係る低伸度糸を得た。該低伸度糸の伸度は、2.5%であった。
【0055】
【発明の効果】
本発明は、すでに最大延伸倍率で延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントまたは超高分子量ポリエチレン未延伸フィラメントを再延伸することによって、伸度が約3%以下と低伸度の糸条を提供できる。また、他の延伸されたフィラメントを組み合わせることにより、超高分子量ポリエチレンフィラメントだけでは得られない種々の物性を有する糸条を提供できる。さらに、他の延伸されたフィラメントに金属粒子を含有させたり、金属線をさらに組み合わせたりすることにより、超高分子量ポリエチレンが有する固有の比重に関係なく、糸条を作製する際に比重を任意に設定できるという利点を有する。
Claims (11)
- 複数の延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントを構成フィラメントとして含み、各超高分子量ポリエチレンフィラメントは個別に延伸されたのち、撚り合わせまたは製紐により、互いに融着することなく複合されており、伸度が3%以下であることを特徴とする糸条。
- さらに、他の延伸されたフィラメントを構成フィラメントとして含み、この他のフィラメントは上記の超高分子量ポリエチレンフィラメントと個別に延伸されたのち、複合されていることを特徴とする請求項1に記載の糸条。
- 他の延伸されたフィラメントに金属粒子が含有されていることを特徴とする請求項2に記載の糸条。
- さらに、金属線を構成フィラメントとして含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の糸条。
- 釣糸である、請求項1〜4のいずれかに記載の糸条。
- 請求項1から5のいずれかに記載の糸条の製造方法であって、超高分子量ポリエチレンフィラメントを個別に延伸し、ついで、延伸された複数の前記超高分子量ポリエチレンフィラメントを、撚り合わせまたは製紐により、互いに融着することなく複合することを特徴とする、糸条の製造方法。
- 金属粒子が含有されていてもよい延伸可能なフィラメントを上記の超高分子量ポリエチレンフィラメントと個別に延伸し、ついで、該延伸された前記フィラメントを複合することを特徴とする請求項6に記載の糸条の製造方法。
- 複数の延伸された超高分子量ポリエチレンフィラメントを構成フィラメントとして含み、伸度が3%以下であることを特徴とする糸条の製造方法であって、
上記の超高分子量ポリエチレンフィラメントの複合と延伸を同時に行うことを特徴とする糸条の製造方法。 - さらに、金属粒子が含有されていてもよい延伸可能なフィラメントを複合することを特徴とする請求項8に記載の糸条の製造方法。
- さらに金属線を複合することを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の糸条の製造方法。
- 上記の延伸される超高分子量ポリエチレンフィラメントが未延伸フィラメントであることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の糸条の製造方法。
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