JP4689346B2 - 水性エマルジョン - Google Patents

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Description

本発明は水性エマルジョンに関する。
塗料・コーティング剤などの分野では、従来、有機溶剤に樹脂材料などを溶解して混合液を形成し、これを被塗装体に塗布後、乾燥して塗膜を形成させるのが一般的であった。しかしながら、近年、乾燥時の有機溶剤の大気中への飛散による環境汚染が問題となっており、当該分野においては、かかる有機溶剤を使用しない形態、いわゆる「無溶剤化」が促進されている。
無溶剤化の具体策としては樹脂材料を水系のエマルジョンにすることが一般的である。樹脂材料を水系エマルジョン化するために、界面活性剤や保護コロイドが用いられている(特許文献1及び特許文献2参照)。
特開平8−120025号公報 特開2004−22504号公報
塗料・コーティング剤などの使用目的としては、被塗装体の表面に、耐傷付性、耐磨耗性、力学的特性、耐候性、耐食性、耐熱性、耐加水分解性などを有する樹脂材料などからなる膜(塗膜)を形成させて覆うことにより、被塗装体の劣化を保護することが挙げられる。このような樹脂材料の一例として、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBから構成されるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体(以下、水添ブロック共重合体:HSBCということがある)が知られている。
本発明は、当該樹脂を含有する材料の膜を得、無溶剤化の要請に沿って、当該樹脂を含有する水性エマルジョンを提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、かかる水性エマルジョンを用いた膜(塗膜)を提供することにある。
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、保護コロイドを用いると水添ブロック共重合体の安定な水性エマルジョンが得られることを見出し、かかる水性エマルジョンから得られる膜(塗膜)は水添ブロック共重合体の性質をそのまま発揮することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
〔1〕ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBから構成されるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体(I)100質量部に対し、保護コロイド(II)を3〜30質量部の範囲、および水を含んでなる水性エマルジョンである。
〔2〕ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBから構成されるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体(I)100質量部に対し非芳香族系ゴム用軟化剤を250質量部以下の範囲で含有し、その合計量100質量部に対して保護コロイド(II)を3〜30質量部の範囲、および水を含んでなる水性エマルジョン。
〔3〕保護コロイド(II)が(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩である〔1〕または〔2〕の水性エマルジョンである。
〔4〕保護コロイド(II)として用いる(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩が、アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、メタクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、スチレン−アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、及びスチレン−メタクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩の1種又は2種以上の混合体のいずれかからなる〔3〕の水性エマルジョンである。
〔5〕〔3〕又は〔4〕の水性エマルジョンにより被塗装体に塗膜を形成するステップと、該塗膜を乾燥するステップとを、有することを特徴とする膜の製造方法である。
〔6〕塗膜を熱処理するステップが更に含まれる〔5〕の製造方法である。
〔7〕前記保護コロイド(II)がポリビニルアルコールである〔1〕または〔2〕に記載の水性エマルジョン。
〔8〕〔7〕に記載の水性エマルジョンにより被塗装体に塗膜を形成するステップと、該塗膜を乾燥するステップと、前記塗膜を熱処理するステップとを有することを特徴とする膜の製造方法。
本発明のように、好ましくは(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩の保護コロイドを用いることにより、水添ブロック共重合体(I)の安定な水性エマルジョンを得ることができる。そして、この水性エマルジョンを被塗装体に塗布し、乾燥させて得られる膜(塗膜)は、水添ブロック共重合体の性質をそのまま発揮すると共に、高い耐食性を有している。
本発明に使用される水添ブロック共重合体(I)は、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBから構成されるブロック共重合体を水素添加して得られるものである。重合体ブロックAと重合体ブロックBの結合形式は、重合体ブロックAをAで、重合体ブロックBをBで表した時に、例えば(A−B)n、A−(B−A)n、B−(A−B)n、(A−B)nX(nは1以上の整数を表し、Xはカップリング剤残基を表す)などで表すことができる。これらは1種または2種以上の混合物であってもよい。これらの中でも、製造の容易性および取り扱いの容易性などの観点から、A−B、A−B−A、A−B−A−Bなどで表されるブロック共重合体(I)が好ましい。
水添ブロック共重合体(I)の数平均分子量(Mn)に厳密な意味での制限は特にないが、通常は5000〜1000000の範囲であり、10000〜500000の範囲であるのがより好ましい。また、分子量分布(Mw/Mn、Mw:質量平均分子量)には特に制限はない。
重合体ブロックAを構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられる。これらの中でもスチレンやα−メチルスチレンが好ましく用いられる。重合体ブロックAは、前記したビニル芳香族化合物の1種単独で構成されていても、または2種以上から構成されていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲、好ましくは重合体ブロックAに対して10質量%以下でビニル芳香族化合物以外の共重合可能な単量体からなる構造単位を含んでいてもよい。共重合可能な単量体としては、例えばイソプレン、ブタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられ、それらの結合形態はランダム、テーパードまたはそれらの2種以上の組み合わせからなることができる。
重合体ブロックAの数平均分子量は、通常、1000〜100000の範囲であり、好ましくは3000〜50000の範囲である。
重合体ブロックBを構成する共役ジエン化合物としては、例えばイソプレン、ブタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどが挙げられる。これらの中でもイソプレンやブタジエンが好ましく用いられる。重合体ブロックBは、前記した共役ジエン化合物の1種単独で構成されていても、または2種以上から構成されていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲、好ましくは重合体ブロックBに対して10質量%以下で共役ジエン化合物以外の共重合可能な単量体からなる構造単位を含んでいてもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられ、それらの結合形態はランダム、テーパードまたはそれらの2種以上の組み合わせからなることができる。
一方、ブロック共重合体(I)における共役ジエン化合物単位を主体とする重合体ブロックBを構成する共役ジエン化合物としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンなどが挙げられる。重合体ブロックBはこれらの化合物の1種類のみから構成されていてもよいし、2種以上から構成されていてもよく、中でもブタジエン、イソプレン、またはブタジエンとイソプレンの混合物から構成されているのが好ましい。なお、2種以上の共役ジエン化合物から構成される場合、その構成量比に特に制限はない。
重合体ブロックBが共役ジエン化合物から構成される場合において、共役ジエン化合物に由来する構造単位のミクロ構造は特に制限されないが、例えば重合体ブロックBがブタジエンから構成されている場合は、その1,2−結合単位の割合が5〜90モル%であることが好ましく、20〜70モル%であるのがより好ましい。また、重合体ブロックBがイソプレンから構成されているか、またはブタジエンとイソプレンの混合物から構成されている場合は、その1,2−結合単位および3,4−結合単位の合計が5〜80モル%であることが好ましく、10〜60モル%であるのがより好ましい。
また、重合体ブロックBが2種以上の共役ジエン化合物(例えばブタジエンとイソプレン)から構成されている場合は、それらの結合形態には特に制限はなく、ランダム、ブロック、テーパードまたはそれらの2種以上の組み合わせからなることができる。
重合体ブロックBの数平均分子量は、通常、5000〜800000の範囲であり、好ましくは10000〜400000の範囲である。
なお、本明細書でいう数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によって求めたポリスチレン換算の分子量である。
本発明で用いられる水添ブロック共重合体(I)は、例えば、公知のアニオン重合方法を適用することによって容易に製造することができる。すなわち、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム化合物を開始剤として、n−ヘキサンやシクロヘキサンなどの重合反応に不活性な有機溶媒中で、ビニル芳香族化合物、共役ジエン化合物を逐次重合させてブロック共重合体を合形成する。得られた該ブロック共重合体は、次に水素添加される。かかる水素添加反応は、例えば、上記で得られた該ブロック共重合体をシクロヘキサンなどの飽和炭化水素溶媒中で、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Ni等の金属をカーボン、アルミナ、硅藻土などの担体に担持させた不均一触媒;コバルト、ニッケルなどの第8〜10族の金属からなる有機金属化合物とトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物または有機リチウム化合物などの組み合わせからなるチーグラー系の触媒;チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの遷移金属のビス(シクロペンタジエニル)化合物とリチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウム、亜鉛またはマグネシウムなどからなる有機金属化合物の組み合わせからなるメタロセン系触媒などの水素添加触媒の存在下で、通常、反応温度として20〜150℃の範囲で、水素圧力0.1〜15MPaの範囲の条件下で行なうことができ、該ブロック共重合体の水素添加物、すなわち水添ブロック共重合体(I)を得ることができる。
水素添加率は、本発明の水性エマルジョンに要求される物性に応じて適宜調整することができるが、耐熱性、耐候性および耐オゾン性を重視する場合、かかるブロック共重合体を構成する重合体ブロックBの共役ジエン化合物に由来する炭素−炭素二重結合の70%以上が水素添加されていることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、95%以上が水素添加されていることがさらに好ましい。
なお、重合体ブロックBの共役ジエン化合物に由来する炭素−炭素二重結合の水素添加率は、ヨウ素価滴定、赤外分光光度計、核磁気共鳴などの測定手段により水素添加反応前後における重合体ブロックB中の炭素−炭素二重結合の量を測定し、その測定値から算出することができる。
水添ブロック共重合体(I)は、工業的に製造され、市販されているものを用いることもできる。本発明の水性エマルジョンを製造するにおいて極めて好ましい水添ブロック共重合体(I)の市販品としては、例えば株式会社クラレ製の「セプトン」シリーズ(セプトン2002、セプトン2063、セプトン4033など、いずれも商品名)などが挙げられる
本発明の水性エマルジョンには、必要に応じて、水添ブロック共重合体(I)の柔軟性を調節する観点から、非芳香族系ゴム用軟化剤をさらに含有させることができる。非芳香族系ゴム用軟化剤としては、従来から公知の非芳香族系のゴム用軟化剤が使用でき、そのなかでも非芳香族系の鉱物油または液状もしくは低分子量の合成軟化剤が適している。非芳香族系ゴム用軟化剤は、1種のみを使用しても、または2種以上を併用してもよい。
一般に、ゴムの軟化、増容、加工性向上などのために用いられるプロセスオイルまたはエクステンダーオイルと呼ばれる鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族環、ナフテン環およびパラフィン鎖の3者が組み合わさった混合物であって、全炭素数中で、パラフィン鎖の炭素数が50%以上を占めるものがパラフィン系と呼ばれ、ナフテン環の炭素数が30〜45%のものがナフテン系、また芳香族炭素数が30%より多いものが芳香族系と称されている。本発明では、上記したプロセスオイルのうち、非芳香族系ゴム用軟化剤として、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルを用いることができる。そして、それら以外にも、流動パラフィン;落花生油、ロジンなどの植物油系軟化剤;エチレン−α−オレフィンオリゴマー、液状ポリブテン、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレンなどの合成軟化剤などが挙げられる。非芳香族系ゴム用軟化剤としては、特に40℃における動粘度が20〜800mm/sである軟化剤、中でもパラフィン系およびナフテン系プロセスオイルであることが望ましい。
非芳香族系ゴム用軟化剤をさらに含有させる場合、その配合量は、水添ブロック共重合体(I)100質量部に対して250質量部以下であることが好ましく、200質量部以下であることがより好ましい。250質量部を越えると、得られる水性エマルジョンを被塗装体に塗布し、乾燥させて得られる膜(塗膜)からの非芳香族系ゴム用軟化剤のブリードアウトが生じやすく、膜にべとつきが生じる傾向となる上、力学的特性も低下する傾向となる。
本発明において用いる保護コロイド(II)とは、疎水コロイドを電解質に対して安定化する目的で加えられる親水コロイドをいう。この安定化作用は親水コロイド粒子が疎水コロイド粒子を包んで全体として親水コロイドの性質が表れる為と考えられる。エマルジョン化の場合、機械力により微粒化分散された水添ブロック共重合体(I)の粒子に保護コロイドが効果的に吸着し、安定化する。
保護コロイド(II)として、例えばポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの水溶性セルロース誘導体;(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩;スチレン−無水マレイン酸共重合体塩、マレイン化ポリブタジエン塩、ナフタレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩などが挙げられる。これらの保護コロイド(II)は1種、または2種以上を用いることもできる。これらの中でも、本発明においては、保護コロイド(II)として、(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩及び/又はポリビニルアルコールを用いるのが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩を用いることが極めて好ましい。
上記した(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩を構成する単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸エステルとしてアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸エステルが挙げられ、不飽和カルボン酸としてアクリル酸、メタクリル酸、モノメチルイタコン酸などが挙げられる。また、これらの単量体の他に、スチレンなどがさらに共重合されていてもよい。
(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩の具体例としては、例えばアクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、メタクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、スチレン−アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、およびスチレン−メタクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩から選ばれる1種又は2種以上の混合体を挙げることができる。
これらの(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩の、水溶化処理をする前の共重合体としての質量平均分子量は3000〜50000であるのが好ましく、より好ましくは3000〜25000である。また、酸価は50〜300mg−KOH/gであるのが好ましく、より好ましくは70〜250mg‐KOH/gである。これらの共重合体は、カルボン酸のアルカリ金属塩またはアミン塩、又はアンモニウム塩で水溶化される。
保護コロイドとして用いられるポリビニルアルコールは、重合度300〜2600でケン化度が70〜92モル%の範囲のものが挙げられる(質量平均分子量としては1500〜130000の範囲となる)。好ましくは重合度300〜1500、ケン化度78〜92モル%である。また、これらのポリビニルアルコールがカルボキシル基やスルホン酸基、或いはアセトアセチル基及びカチオン基で変性されたものも適する。
保護コロイド(II)の配合割合は、水添ブロック共重合体(I)100質量部、または非芳香族系ゴム用軟化剤をさらに含有させる場合には水添ブロック共重合体(I)と非芳香族系ゴム用軟化剤の合計質量100質量部に対して3〜30質量%とすることが好ましい。保護コロイド(II)の配合割合が3質量%未満であると、乳化不良となりエマルジョンが得られない、またその配合割合が30質量%を超えると、塗膜の耐水性および耐蝕性が劣り、それぞれ好ましくない。
保護コロイドとして、(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩を用いる場合、その配合割合は水添ブロック共重合体(I)100質量部、または非芳香族系ゴム用軟化剤をさらに含有させる場合には水添ブロック共重合体(I)と非芳香族系ゴム用軟化剤の合計質量100質量部に対して3〜30質量%とすることが好ましい。より好ましくは 3〜25質量%であり、更に好ましくは3〜15質量%である。
保護コロイドとして、ポリビニルアルコールを用いる場合、その配合割合は水添ブロック共重合体(I)100質量部、または非芳香族系ゴム用軟化剤をさらに含有させる場合には水添ブロック共重合体(I)と非芳香族系ゴム用軟化剤の合計質量100質量部に対して3〜30質量%とすることが好ましい。より好ましくは3〜20質量%であり、更に好ましくは5〜15質量%である。
また、保護コロイド(II)と共に、本発明の効果を損なわない範囲で、一般の陰イオン界面活性剤や陽イオン界面活性剤、または非イオン系界面活性剤を併用してもよい。ただし、界面活性剤は入れ過ぎると塗膜の耐性を損なうので、必要最小量に留める必要がある。
本発明の水性エマルジョンには、用途に応じて本発明の効果を損なわない範囲でさらに各種の添加剤を加えてもよく、添加剤としては、例えば充填剤、改質剤、顔料などが挙げられる。
本発明の水性エマルジョンは、例えば次のような方法により調製することができる。ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック(A)と、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)から構成されるブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体(I)をトルエン、キシレンなどの有機溶剤に溶かし、水、保護コロイド(II)および必要に応じて界面活性剤とともにホモミキサーなどの攪拌機に入れ、攪拌を室温〜85℃で行い、水添ブロック共重合体(I)の分散液体を得る。この分散液を、必要に応じて高圧ホモジナイザーによりさらに微粒子化することも可能である。得られた分散液を減圧−加温下にて有機溶剤を留去させ、水性エマルジョンを得ることが出来る。または、有機溶剤を使用せず、オートクレーブ型攪拌機中で、水添ブロック共重合体(I)、保護コロイド(II)、水および必要に応じて非芳香族系ゴム用軟化剤、添加剤を加え、温度100℃〜200℃条件下で攪拌を行い、水性エマルジョンを得る事が出来る。得られた水性エマルジョンを、必要に応じて高圧ホモジナイザーによりさらに微粒子化することも可能である。乳化方法はここに例示する乳化法に限らず、反転乳化法、転相温度乳化法、D相乳化法、ゲル乳化法などの化学的乳化方法も適応できる。
水性エマルジョン中の水添ブロック共重合体(I)の含有量は当該水性エマルジョンを用いて形成する膜の厚さや乾燥工程に要する時間などを考慮して任意に選択できる。なお、エマルジョンの形態(液体)をとるためには該水性エマルジョン全量に対して水添ブロック共重合体(I)を60質量%以下とすることが好ましい。水性エマルジョン全量に対する水添ブロック共重合体(I)の下限は特に限定されない。エマルジョンを任意に水で希釈できるからである。
当該水性エマルジョンを塗料として用いるときには、水性エマルジョンに対する水添ブロック共重合体(I)の量を2〜60質量%の範囲とすることが好ましい。勿論、塗料の流通・運搬・準備過程では水性エマルジョンを濃縮し、これを使用時に希釈して上記範囲とすることができる。
このようにして得られた水性エマルジョンを塗布等して被塗装体にその塗膜を形成する。この塗膜に必要な処理を施すと、この膜は水添ブロック共重合体(I)が有する耐傷付性、耐磨耗性、力学的特性、耐候性、耐食性、耐熱性、耐加水分解性などの特性をそのまま発揮し、被塗装体を保護する役割を果たす。
塗膜には各種の要求があるので当該要求に対応すべく、水性エマルジョンに含まれる保護コロイドの種類に応じて、処理方法が任意に選択される。
保護コロイドとして(メタ)アクリル酸エステル―不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩を用いたときには、水性エマルジョンを乾燥させるのみで耐水性と耐酸性が得られる。また、水性エマルジョンの塗膜を熱処理することにより耐アルカリ性も発現される。これは、アクリル酸系の保護コロイドを用いた場合には、水添ブロック共重合体と当該保護コロイドとの相溶性が良く、常温乾燥でも水添ブロック共重合体の粒子同士が結合し、耐水性や耐酸性が得られることとなる。但し、当該塗膜をアルカリ溶液に接触させると、アクリル酸がアルカリ溶液により溶解されるので、たとえ水添ブロック共重合体の粒子同士が常温乾燥により結合していたとしても、不十分である。そこで、水添ブロック共重合体の粒子同士の結合をより強固なものとするため、これを熱処理することとした。
換言すれば当該熱処理は水添ブロック共重合の粒子同士の結合、即ち融着をより促進させるものであり、その温度、加熱時間は当該作用を生じさせるように任意に選択することができる。例えば、加熱温度の範囲として100〜150℃、加熱時間の範囲として1〜10分を選択することが出来る。また、水添ブロック共重合の粒子同士の融着を促進する見地から、当該加熱処理は膜を乾燥させた後に行うことが好ましい。
保護コロイドとしてポリビニルアルコールを選択したときには、水性エマルジョンの塗膜を加熱処理することが好ましい。
これは、ポリビニルアルコールと水添ブロック共重合体との間に充分な相溶性が無いので、常温で乾燥した状態において水添ブロック共重合体はポリビニルアルコールで隔離されており、粒子間同士はほとんど融着していない。よって、塗膜を加熱処理することにより、水添ブロック共重合体同士の融着を図る。これにより、耐水性、耐酸性及び耐アルカリ性等の耐久性が向上する。当該加熱処理の加熱条件は当該作用を生じさせるように任意に選択することができる。例えば、加熱温度の範囲として100〜150℃、加熱時間の範囲として1〜10分を選択することが出来る。水添ブロック共重合の粒子同士の融着を促進する見地から、当該加熱処理は膜を乾燥させた後に行うことが好ましい。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において得られた水性エマルジョンの平均粒子径測定は、試料を水により所定の濃度にまで希釈して市販の粒度分布測定機(堀場製作所製、LA−920)を用いてレーザ回折・散乱法により測定した。
また、実施例および比較例で用いた水添ブロック共重合体(I)、保護コロイド(II)、非芳香族系ゴム用軟化剤は以下のとおりである。
〈1〉水添ブロック共重合体(I)
(1−1)セプトン2002(商品名、株式会社クラレ製、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体の水素添加物、スチレン含量 30%)
(1−2)セプトン4033(商品名、株式会社クラレ製、スチレン−(イソプレン/ブタジエン)−スチレントリブロック共重合体の水素添加物、スチレン含量 30%)
(1−3)セプトン2063(商品名、株式会社クラレ製、スチレン−イソプレン−スチレントリブロック共重合体の水素添加物、スチレン含量 13%)
〈2〉保護コロイド(II)
(2−1)アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体のアンモニウム塩(アクリル酸:メタクリル酸:メタクリル酸メチル:アクリル酸ブチル:メタクリル酸ブチル=16:16:22:22:22(質量比)、質量平均分子量5000)
(2−2)スチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体のモルホリン塩(アクリル酸:アクリル酸ブチル:スチレン=30:60:10(質量比)、質量平均分子量15000)
(2−3)ポリビニルアルコール(商品名、株式会社クラレ製、ポバール405(重合度500、ケン化度81.5%))
〈3〉非芳香族系ゴム用軟化剤
(3−1)パラフィン系プロセスオイル:ダイアナプロセスPW−380(商品名、出光興産社製)
実施例1
1L容量のホモミキサー付き攪拌槽に(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩からなる保護コロイド(2−1)15g、トルエン280gに溶解させた水添ブロック共重合体(1−1)120g、水400gを順次加え、室温にて10000r.p.m.×10分攪拌し、さらに加圧式ホモジナイザーに移して、乳化を行った。得られた分散溶液を、ロータリーエバポレーターを用い、減圧−加温(60℃)下にて、トルエン及び水を留去して、平均粒子径0.5μmの水性エマルジョンを得た。実施例1の水性エマルジョンの質量比を表1に示す。この水性エマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過した後も沈降を生じず安定であった。
実施例1−2
実施例1において、水添ブロック共重合体(1−1)120gを水添ブロック共重合体(1−2)60gと非芳香族系ゴム用軟化剤(3−1)60gに変えた以外は、全て実施例1と同じ条件で実験を行い、平均粒子径0.3μmの水性エマルジョンを得た。このエマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過後も沈降を生じず安定であった。常温乾燥塗膜は指触でヘ゛タツキが無く非芳香族系ゴム用軟化剤のブリードがなかった。
実施例1−2
実施例1において、水添ブロック共重合体(1−1)120gを水添ブロック共重合体(1−3)80gと非芳香族系ゴム用軟化剤(3−1)40gに変えた以外は、全て実施例1と同じ条件で実験を行い、平均粒子径0.3μmの水性エマルジョンを得た。このエマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過後も沈降を生じず安定であった。常温乾燥塗膜は指触でヘ゛タツキが無く非芳香族系ゴム用軟化剤のブリードがなかった。
比較例1
実施例1において、保護コロイド(2−1)15gを3gに変えた以外は、全て実施例1と同じ条件で実験を行なったが、水性エマルジョンを得られなかった(固液分離)。
比較例2
実施例1において、保護コロイド(2−1)15gを42gにかえた以外は、全て実施例1と同じ条件で実験を行い、平均粒子径0.3μmの水性エマルジョンを得た。この水性エマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過した後も沈降を生じず安定であった。
比較例3
実施例1−1において、水添ブロック共重合体(1−2)60gと非芳香族系ゴム用軟化剤(3−1)60gを水添ブロック共重合体(1−2)40gと非芳香族系ゴム用軟化剤(3−1)80gに変えた以外は、全て実施例1と同じ条件で実験を行い、平均粒子径0.5μmの水性エマルジョンを得た。このエマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過後も沈降を生じず安定であった。常温乾燥塗膜は指触でヘ゛タツキがあり、非芳香族系ゴム用軟化剤のブリードが見られた。
実施例2
実施例1において、保護コロイド(2−1)15gをポリビニルアルコールからなる保護コロイド(2−3)15gに変えた以外は全て実施例1と同じ条件で実験を行い、平均粒子径0.8μmの水性エマルジョンを得た。この水性エマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過した後も沈降を生じず安定であった。
比較例4
実施例2において、保護コロイド(2−3)を3gに変えた以外は、全て実施例1と同じ条件で実験を行なったが、水性エマルジョンを得られなかった(固液分離)。
比較例5
実施例2において、保護コロイド(2−3)を42gにかえた以外は、全て実施例1と同じ条件で実験を行い、平均粒子径0.3μmの水性エマルジョンを得た。この水性エマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過した後も沈降を生じず安定であった。
実施例1及び比較例1、2、3並びに実施例2及び比較例4、5の結果より、水添ブロック共重合体に対する保護コロイドの配合量は3〜30質量%が好ましいことがわかる。
実施例3
1L容量の耐圧ホモミキサー付き攪拌槽に(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩からなる保護コロイド(2−2)9g、ドデシルシルベンゼンスルホン酸のモルホリン塩10g、非芳香族系ゴム用軟化剤(3−1)80gと水添ブロック共重合体(1−1)290gを溶融混合させたもの、水400gを順次加え、180℃で、加圧下にて10000r.p.m.×30分攪拌し、平均粒子径0.6μmの水性エマルジョンを得た(質量比を表1に示す)。この水性エマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過した後も沈降を生じず安定であった。
比較例6
実施例3において、保護コロイド(2−2)を1g、水添ブロック共重合体(1−1)を300gに変えた以外は、全て実施例3と同じ条件で実験を行なったが、水性エマルジョンを得られなかった(固液分離)。
比較例7
実施例3において、保護コロイド(2−2)を100g、水添ブロック共重合体(1−1)を210gにかえた以外は、全て実施例3と同じ条件で実験を行い、平均粒子径0.3μmの水性エマルジョンを得た(質量比を表1に示す)。この水性エマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過した後も沈降を生じず安定であった。
実施例3及び比較例6、7の結果から、水添ブロック共重合体及び非芳香族系ゴム用軟化剤の合計量に対する保護コロイドの配合量は3〜30質量%が好ましいことがわかる。
比較例8
実施例1において、保護コロイド(2−1)15gをドデシルベンゼンスルホン酸のモルホリン塩40gに変えた以外は、全て実施例1と同じ条件で実験を行い、平均粒子径.3μmの水性エマルジョンを得た。この水性エマルジョンは、室温の状態で静置して3ヶ月経過後沈降を生じ不安定であった。
実施例1〜3、比較例1〜8につき、各構成成分の配合割合を表1に纏めた。
Figure 0004689346
実施例及び比較例で得られた水性エマルジョンをガラス板に浸漬塗布し、室温にて1日乾燥処理した。また、室温乾燥処理物を更に乾燥器にて、80℃で5分、さらに引き続いて120℃で5分加熱処理した。
夫々を耐蝕性試験の室温処理物および加熱処理物の試料とした。この試料を蒸留水に室温×3日間浸漬させ(耐水性試験)、状態変化を目視にて観察した。同様に30%硫酸水溶液に室温×3日間浸漬させ(耐酸性試験)、30%KOH水溶液に室温×3日間浸漬させ(耐アルカリ性試験)状態変化を目視にて観察した。結果を表2に示す。
Figure 0004689346
表2の結果から次のことがわかる。
保護コロイドとして(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩を配合したときには、室温処理、即ち乾燥をさせるのみで得られる塗膜に耐水性および耐酸性が得られる。また、熱処理を行うことにより耐アルカリ性も得られることとなる。
他方、保護コロイドとしてポリビニルアルコールを配合したときに、乾燥後加熱処理をすることによりはじめて耐水性、耐酸性、耐アルカリ性が発現されることがわかる。
この発明の水性エマルジョンには塗膜のほかに、以下の用途がある。
即ち、平均粒子径19μmの天然黒鉛95質量部に実施例1で得られた水添ブロック共重合体(1−1)の水性エマルジョン4.5質量部(固形分1.8質量部)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)3.2質量部、水115質量部を混合しスラリーを調製した。これを圧延銅箔にギャップ200μmのドクターブレードを用いて塗布し、120℃で10分間乾燥した後、ロールプレス処理を行い、1.5g/cmの密度の塗膜を得た。この塗膜上に幅18mmのセロハンテープ(商品名、株式会社ニチバン製)を貼り、2kg荷重で圧着後、テープの一端から一定速度で引き剥がし、塗膜の剥離状態を観察した。剥離面は良好な状態で高い密着性が確認できた。水性エマルジョン単体より得られる膜の良好な物性結果と併せ、電極用塗膜の結着剤として有効であることがわかる。
この発明は上記発明の実施の態様及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。

Claims (4)

  1. (ア) ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBから構成されるブロック共重合体を70%以上水素添加してなる水添ブロック共重合体(I)100質量部に対し、保護コロイド(II)を3〜30質量部の範囲、および水を含んでなる水性エマルジョン、又は、
    ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBから構成されるブロック共重合体を70%以上水素添加してなる水添ブロック共重合体(I)100質量部に対し非芳香族系ゴム用軟化剤を250質量部以下の範囲で含有し、その合計量100質量部に対して保護コロイド(II)を3〜30質量部の範囲、および水を含んでなる水性エマルジョン、であって、
    前記保護コロイド(II)が(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩又はポリビニルアルコールである、水性エマルジョンを準備するステップと、
    (イ) 前記水性エマルジョンにより被塗装体に塗膜を形成するステップと、
    (ウ) 該塗膜を乾燥するステップと、
    (エ) 前記塗膜を熱処理して該塗膜に耐アルカリ性を付与するステップと、
    を含む膜の製造方法。
  2. 前記保護コロイド(II)として用いる(メタ)アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸系共重合体の水溶性塩が、スチレン−アクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩、及びスチレン−メタクリル酸エステル−不飽和カルボン酸共重合体の水溶性塩の1種又は2種以上の混合体のいずれかからなることを特徴とする請求項1に記載の膜の製造方法。
  3. 前記保護コロイド(II)がアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体のアンモニウム塩、又はスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体のモルホリン塩である、ことを特徴とする請求項1に記載の膜の製造方法。
  4. 前記保護コロイド(II)がアクリル酸−アクリル酸エステル共重合体のアンモニウム塩である、ことを特徴とする請求項1に記載の膜の製造方法。
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