JP4687845B2 - 塑性加工用潤滑油組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は塑性加工用潤滑油組成物に関し、詳しくは特に、鋼板、ステンレス鋼板、表面処理鋼板、アルミ合金板などに、プレス成形、曲げ成形、引き抜き成形、しごき成形などの塑性加工を施す際に、良好な潤滑性を発揮する塑性加工用潤滑油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
潤滑油基油に硫黄化合物、塩素化合物、リン酸エステル等を配合した組成物が、金属の塑性加工用潤滑剤として優れた適性を備えていることは従来から知られており、これらを要求性能に合わせて適宜組み合せたものが使用されている。
これらの中でも特に、ステンレス鋼板を難加工する際には、塩素化合物が最も効果的であることが知られているが、近年の地球環境への配慮の点から、塩素系化合物を使用しない塑性加工用潤滑剤(非塩素系塑性加工用潤滑剤)が求められてきている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このため、ステンレス鋼板の塑性加工用潤滑剤として、塩素系化合物以外の添加剤、例えば上記した硫黄化合物、リン酸エステルに加え、亜鉛ジチオフォスフェート等を含有するものが提案されているが、一部の難加工条件においては十分な性能が得られていなかった。
本発明は、従来の塩素系塑性加工油と同等の加工性が得られ、特に、鋼板、ステンレス鋼板、表面処理鋼板、アルミ合金板などに塑性加工を施すに際して、極めて高い性能を発揮する潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、(A)亜鉛ジチオフォスフェート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオフォスフェートおよびモリブデンジチオカーバメートからなる群から選ばれる1種または2種以上の有機金属化合物、(B)硫黄系極圧剤、および(C)ジアルキルジチオリン酸エステルを含有する塑性加工用潤滑油組成物を提供するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明で用いる(A)成分は、亜鉛ジチオフォスフェート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオフォスフェートおよびモリブデンジチオカーバメートからなる群から選ばれる1種または2種以上の有機金属化合物である。
【0006】
ここでいう亜鉛ジチオフォスフェートとは、具体的には例えば以下の一般式(1)で、亜鉛ジチオカーバメートとは、具体的には例えば以下の一般式(2)で、モリブデンジチオフォスフェートとは、具体的には例えば以下の一般式(3)で、またモリブデンジチオカーバメートとは、具体的には例えば以下の一般式(4)で表される化合物である。
【0007】
【化1】
Figure 0004687845
【0008】
【化2】
Figure 0004687845
【0009】
【化3】
Figure 0004687845
【0010】
【化4】
Figure 0004687845
【0011】
上記一般式(1)〜(4)式中、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 、R6 、R7およびR8 は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜24、好ましくは炭素数4〜18のアルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基を示している。またa、b、cおよびdは、a+b=4およびc+d=4である数をそれぞれ示しており、また特にa=1〜3、b=1〜3、c=1〜3およびd=1〜3の数が好ましい。
【0012】
1 、R2 、R3 、R4 、R5 、R6 、R7 およびR8 としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、プロピル基(すべての分枝異性体を含む)、ブチル基(すべての分技異性体を含む)、ペンチル基(すべての分技異性体を含む)、ヘキシル基(すべての分技異性体を含む)、ヘプチル基(すべての分技異性体を含む)、オクチル基(すべての分技異性体を含む)、ノニル基(すべての分技異性体を含む)、デシル基(すべての分技異性体を含む)、ウンデシル基(すべての分技異性体を含む)、ドデシル基(すべての分技異性体を含む)、トリデシル基(すべての分技異性体を含む)、テトラデシル基(すべての分技異性体を含む)、ペンタデシル基(すべての分技異性体を含む)、ヘキサデシル基(すべての分技異性体を含む)、ヘプタデシル基(すべての分技異性体を含む)、オクタデシル基(すべての分技異性体を含む)、ノナデシル基(すべての分技異性体を含む)、エイコシル基(すべての分技異性体を含む)、ヘンエイコシル基(すべての分技異性体を含む)、ドコシル基(すべての分技異性体を含む)、トリコシル基(すべての分技異性体を含む)、テトラコシル基(すべての分技異性体を含む)などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基などのシクロアルキル基;メチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロペンチル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロペンチル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロペンチル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロペンチル基(すべての置換異性体を含む)、メチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロヘキシル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロヘキシル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロヘキシル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロヘキシル基(すべての置換異性体を含む)、メチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、エチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルシクロヘプチル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルシクロヘプチル基(すべての分技異性体を含む)、トリメチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルシクロヘプチル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルシクロヘプチル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ジエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルシクロヘプチル基(すべての置換異性体を含む)などのアルキルシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;トリル基(すべての置換異性体を含む)、キシリル基(すべての置換異性体を含む)、エチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、プロピルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、メチルエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、トリメチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ブチルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、メチルプロピルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ジエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ジメチルエチルフェニル基(すべての置換異性体を含む)、ペンチルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ヘキシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ヘプチルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、オクチルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ノニルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、デシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ウンデシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ドデシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、トリデシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、テトラデシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ペンタデシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ヘキサデシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、ヘプタデシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)、オクタデシルフェニル基(すべての分技異性体、置換異性体を含む)などのアルキルアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基(すべての分技異性体を含む)、フェニルブチル基(すべての分技異性体を含む)などのアリールアルキル基などが挙げられる。
【0013】
本発明で用いる(A)成分としては、上述したような一般式(1)〜(4)で表される有機金属化合物およびこれらの混合物が用いられるが、加工性能により優れる点から、一般式(1)で表される亜鉛ジチオフォスフェートが好ましく用いられ、一般式(1)式におけるR1 およびR2 が炭素数4〜18のアルキル基である亜鉛ジアルキルジチオフォスフェートがより好ましく用いられる。
【0014】
本発明で用いる(A)成分として、一般式(1)〜(4)式で表される有機金属化合物である限りは、単一構造の有機金属化合物のみを用いてもよく、また異なる構造の2種類以上の有機金属化合物の混合物を用いてもよい。
【0015】
本発明において、(A)成分の含有量は、加工性の点から、組成物全量基準で10質量以上であることが必要であり、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、相対的にその他の成分の含有量が小さくなって加工性に悪影響を与える恐れがあることから、組成物全量基準で80質量%以下であることが必要であり、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
一方、本発明で用いる(B)成分は、硫黄系極圧剤である。
ここでいう硫黄系極圧剤としては、具体的には例えば、ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化エステル、硫化油等が挙げられる。
【0017】
上記ジハイドロカルビルポリサルファイドとは、一般的にポリサルファイド又は硫化オレフィンと呼ばれる硫黄系化合物であり、具体的には下記一般式(5):
【0018】
9 −Sx −R10 一般式(5)
[上記式(5)中、R9 及びR10は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数3〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリール基あるいは炭素数6〜20のアリールアルキル基を表し、xは2〜6、好ましくは2〜5の整数を表す]
で表される化合物を意味する。
【0019】
上記一般式(5)中のR9 及びR10としては、具体的には、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、直鎖又は分枝ペンチル基、直鎖又は分枝ヘキシル基、直鎖又は分枝ヘプチル基、直鎖又は分枝オクチル基、直鎖又は分枝ノニル基、直鎖又は分枝デシル基、直鎖又は分枝ウンデシル基、直鎖又は分枝ドデシル基、直鎖又は分枝トリデシル基、直鎖又は分枝テトラデシル基、直鎖又は分枝ペンタデシル基、直鎖又は分枝ヘキサデシル基、直鎖又は分枝ヘプタデシル基、直鎖又は分枝オクタデシル基、直鎖又は分枝ノナデシル基、直鎖又は分枝イコシル基などの直鎖状又は分枝状のアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;トリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝プロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ペンチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ヘキシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ヘプチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝オクチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ノニルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝デシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ウンデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ドデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、キシリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルメチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジエチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)プロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)ブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、メチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、エチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝プロピルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、直鎖又は分枝ブチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジメチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、エチルメチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジエチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)プロピルナフチル基(全ての構造異性体を含む)、ジ(直鎖又は分枝)ブチルナフチル基(全ての構造異性体を含む)などのアルキルアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基(全ての異性体を含む)、フェニルプロピル基(全ての異性体を含む)などのアリールアルキル基;などを挙げることができる。これらの中でも、一般式(5)式中のR9 及びR10としては、プロピレン、1−ブテン又はイソブチレンから誘導された炭素数3〜18のアルキル基、又は炭素数6〜8のアリール基、アルキルアリール基あるいはアリールアルキル基であることが好ましく、これらの基としては例えば、イソプロピル基、プロピレン2量体から誘導される分枝状ヘキシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン3量体から誘導される分枝状ノニル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン4量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン5量体から誘導される分枝状ペンタデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、プロピレン6量体から誘導される分枝状オクタデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1−ブテン2量体から誘導される分枝状オクチル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン2量体から誘導される分枝状オクチル基(全ての分枝状異性体を含む)、1−ブテン3量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン3量体から誘導される分枝状ドデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、1−ブテン4量体から誘導される分枝状ヘキサデシル基(全ての分枝状異性体を含む)、イソブチレン4量体から誘導される分枝状ヘキサデシル基(全ての分枝状異性体を含む)などのアルキル基;フェニル基、トリル基(全ての構造異性体を含む)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む)、キシリル基(全ての構造異性体を含む)などのアルキルアリール基;基;が挙げられる。
【0020】
さらに、上記一般式(5)中のR9 及びR10としては、その加工性の点から、別個に、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数3〜18の分枝状アルキル基であることがより好ましく、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数6〜15の分枝状アルキル基であることが特に好ましい。
また、本発明にかかるジハイドロカルビルポリサルファイドにおける硫黄含有量に特に制限はないが、通常、ジハイドロカルビルポリサルファイド全量を基準として好ましくは10〜50質量%であり、より好ましくは20〜45質量%である。
【0021】
また、上記硫化エステルとしては、具体的には例えば、牛脂、豚脂、魚脂、菜種油、大豆油などの動植物油脂;不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸又は上記の動植物油脂から抽出された脂肪酸類などを含む)と各種アルコールとを反応させて得られる不飽和脂肪酸エステル;及びこれらの混合物などを任意の方法で硫化することにより得られるものが挙げられる。
また、本発明にかかる硫化油脂における硫黄含有量に特に制限はないが、通常、硫化油脂全量を基準として好ましくは2〜25質量%であり、より好ましくは5〜20質量%である。
【0022】
本発明にかかる硫化油とは、鉱油、合成油および油脂の中から選ばれる少なくとも1種に単体硫黄を溶解させたものをいう。ここでいう鉱油としては特に制限されないが、具体的には、具体的には、原油に常圧蒸留及び減圧蒸留を施して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などが挙げられる。
また、合成油としては、ポリαオレフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル、ポリオールエステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0023】
また、油脂としては、牛脂、豚脂、魚脂、菜種油、大豆油などが挙げられる。
また、単体硫黄としては、塊状、粉末状、溶融液体状等いずれの形態のものを用いてもよいが、粉末状又は溶融液体状の単体硫黄を用いると油への溶解を効率よく行うことができるので好ましい。なお、溶融液体状の単体硫黄は液体同士を混合するので溶解作業を非常に短時間で行うことができるという利点を有しているが、単体硫黄の融点以上で取り扱わねばならず、加熱設備などの特別な装置を必要としたり、高温雰囲気下での取り扱いとなるため危険を伴うなど取り扱いが必ずしも容易ではない。これに対して、粉末状の単体硫黄は、安価で取り扱いが容易であり、しかも溶解に要する時間が十分に短いので特に好ましい。また、本発明にかかる硫化油における硫黄含有量に特に制限はないが、通常、硫化油全量を基準として好ましくは0.05〜1.0質量%であり、より好ましくは0.1〜0.5質量%である。
【0024】
本発明において(B)成分としては、上記の中から選ばれる1種のみを用いても良いし、2種以上の混合物を用いても良い。しかしながら、より加工性に優れる点から、ジハイドロカルビルポリサルファイド、硫化油脂、油脂に単体硫黄を溶解させたものまたはこれらの混合物が好ましく、ジハイドロカルビルポリサルファイドと硫化油脂を併用することがより好ましい。
【0025】
本発明で用いる(C)成分のジアルキルジチオリン酸エステルは、以下の一般式(6)で表される。
(R11O)2 −P(=S)−S−R12 一般式(6)
(上記一般式(6)中のR11、R12それぞれ同じでも異なっていてもよい炭素数1〜24のアルキル基である。)
【0026】
上記の一般式(6)中のR11、R12の具体例としては、前記一般式(1)中のR1 、R2 と同じものが挙げられる。これらの中でもアルキル基であることが好ましい。
【0027】
本発明において、(C)成分の含有量は加工性の点から、組成物全量基準で0.1質量以上であることが必要であり、0.5質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらにより好ましい。また、それ以上加えても効果の向上が期待できない場合があることから、組成物全量基準で10質量%以下であることが必要である
【0028】
本発明において、上記(A)〜(C)成分の合計量については、加工性の点から、組成物全量基準で75〜100質量%であることが必要であり、80〜100質量%であることが好ましく、85〜100質量%であることがより好ましい。
【0029】
本発明の潤滑油組成物は、上記の(A)〜(C)成分を含有するものであり、これら3成分のみで構成される場合であっても十分に高い加工性を示すものであるが、これら3成分に加えて(D)スルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフォネートの中から選ばれる少なくとも1種をさらに配合すると、より高い加工性が得られるので好ましい。
【0030】
本発明に用いられる(D)成分は、スルフォネート、フェネート、サリシレート、フォスフォネートの中から選ばれる少なくとも1種である。これらの中でも、スルフォネート、フェネート、サリシレートが好ましく、スルフォネートがより好ましい。
【0031】
また、これらの陽性成分としては、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属;マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属;アンモニア、炭素数1〜3のアルキル基を有するアルキルアミン(モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミンなど)、炭素数1〜3のアルカノール基を有するアルカノールアミン(モノメタノールアミン、ジメタノールアミン、トリメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンなど)などのアミン、亜鉛などが挙げられるが、これらの中でもより加工性が高いことからアルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましい。
【0032】
本発明において、(D)成分の全塩基価には制限は無いが、(D)成分による加工性向上効果により優れる点から、50mgKOH/g以上であることが好ましく、100mgKOH/g以上であることがより好ましい。また、入手性の点からは、600mgKOH/g以下のものが通常用いられ、より好ましくは550mgKOH/g以下のものが用いられる。
なお、ここでいう全塩基価とは、JIS K 2501「石油製品および潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価[mgKOH/g]をいう。
【0033】
また、本発明にかかる(D)成分の配合量は、組成物全量基準で好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは0.5〜25質量%であり、さらに好ましくは1〜20質量%である。(D)成分の配合量が前記下限値未満の場合、(D)成分の添加による潤滑性向上効果が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限値を超えると潤滑油組成物の安定性が低下して析出物が生じやすくなる傾向にある。
【0034】
本発明にかかるスルフォネートは、任意の方法によって製造されたものが使用可能である。例えば、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩およびこれらの混合物などが使用できる。ここでいうアルキル芳香族スルフォン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルフォン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸などの石油スルフォン酸や、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる直鎖状又は分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルフォン化したもの、あるいはジノニルナフタレンなどのアルキルナフタレンをスルフォン化したものなどの合成スルフォン酸などが挙げられる。また、上記のアルキル芳香族スルフォン酸と、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)又は上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させて得られるいわゆる中性(正塩)スルフォネート;中性(正塩)スルフォネートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られるいわゆる塩基性スルフォネート;炭酸ガスの存在下で中性(正塩)スルフォネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られるいわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネート;中性(正塩)スルフォネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンならびにホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、又は炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネートとホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造されるいわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルフォネート;およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0035】
また、本発明にかかるフェネートとしては、具体的には、元素硫黄の存在下又は不存在下で、炭素数4〜20のアルキル基を1〜2個有するアルキルフェノールと、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)又は上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させることにより得られる中性フェネート;中性フェネートと過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られる、いわゆる塩基性フェネート;炭酸ガスの存在下で中性フェネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られる、いわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)フェネート;中性フェネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンならびにホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、又は炭酸塩過塩基性(超塩基性)フェネートとホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造される、いわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)フェネート;およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0036】
さらに、本発明にかかるサリシレートとしては、具体的には、元素硫黄の存在下又は不存在下で、炭素数4〜20のアルキル基を1〜2個有するアルキルサリチル酸と、アルカリ金属の塩基(アルカリ金属の酸化物や水酸化物など)、アルカリ土類金属の塩基(アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物など)又は上述したアミン(アンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミンなど)とを反応させることにより得られる中性サリシレート;中性サリシレートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンを水の存在下で加熱することにより得られるいわゆる塩基性サリシレート;炭酸ガスの存在下で中性サリシレートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンと反応させることにより得られるいわゆる炭酸塩過塩基性(超塩基性)サリシレート;中性サリシレートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基又はアミンならびにホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物と反応させたり、又は炭酸塩過塩基性(超塩基性)金属サリシレートとホウ酸又は無水ホウ酸などのホウ酸化合物を反応させることによって製造されるいわゆるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)サリシレート;およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0037】
本発明において、上記(D)成分を用いる場合の(A)〜(D)成分の合計量については、特に制限は無いが、加工性の点から、組成物全量基準で85〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることがより好ましく、95〜100質量%であることがさらにより好ましい。
【0038】
本発明においては、潤滑油基油を含有していても良い。
本発明で用いる潤滑油基油としては、特に限定されるものではなく、通常潤滑油の基油として使用されているものであれば鉱油系、合成系を問わず使用することができる。
鉱油系潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系などの油が使用できる。
【0039】
また、合成系潤滑油基油としては、例えば、ポリα−オレフィン(ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマーなど)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ2−エチルヘキシルセバケートなど)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなど)、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテルなどが使用できる。
これらの基油は単独でも、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0040】
また本発明において使用する潤滑油基油の粘度は任意であるが、冷間鍛造の際の加工材料に対する冷却性能に優れる点から、通常、40℃における動粘度が5〜300mm2 /sのものが好ましく用いられ、50〜200mm2 /sのものがより好ましく用いられる。
【0041】
本発明において、潤滑油基油の含有量は任意であるが、加工性の点から、組成物全量基準で20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらにより好ましく、含有しないことが最も好ましい。
【0042】
本発明の潤滑油組成物は、またその各種性能をさらに高める目的で公知の潤滑油添加剤を単独で、または数種類組み合わせた形で使用することができる。
【0043】
これら添加剤としては、具体的には、例えば、トリクレジルフォスフェートなどのリン酸エステル、ラードオイルなどの油脂、アルコール、エステル、脂肪酸などに代表される潤滑性向上剤;ベンゾトリアゾール、チアジアゾールなどの金属不活性化剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリメタクリレート、ポリアクリレートなどの消泡剤、フェノール系、アミン系などの酸化防止剤;さび止め剤などが挙げられる。これら公知の添加剤の添加量は任意であるが、組成物全量基準で、潤滑性向上剤の含有量は通常1〜30質量%、金属不活性剤の含有量は通常0.005〜1質量%、酸化防止剤の含有量は通常0.005〜10質量%、さび止め剤の含有量は通常0.01〜10質量%、消泡剤の含有量は通常0.0001〜0.5質量%である。
【0044】
本発明の潤滑油組成物は、上記した組成を有するものであり、組成物中の硫黄含有量については特に制限はない。
しかしながら、より加工性を向上できることから、組成物中の硫黄含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらにより好ましい。また、それ以上高くても効果の向上が見られにくいことから、30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
なお、本発明でいう硫黄含有量とは、放射線式励起法(JIS−K−2541)で測定される硫黄原子換算での含有量を表す。
【0045】
本発明の潤滑油組成物の粘度は特に制限はないが、通常40℃の動粘度が20〜500mm2 /sの範囲のものが好ましく、50〜250mm2 /sの範囲のものがより好ましい。
【0046】
本発明の潤滑油組成物は、金属材料の塑性加工に用いられるものである。
特に、鋼板、ステンレス鋼板、表面処理鋼板、アルミ合金板、チタン合金などの難加工材料に好ましく用いられる。
また、プレス成形、曲げ成形、引き抜き成形、しごき成形、鍛造加工などの難加工条件の際に好ましく用いられる。
【0047】
【実施例】
以下、実施例および比較例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1〜7)
下記の(A)成分〜(E)成分を用いて表3に示す組成により、本発明に係る潤滑油組成物を調製した。この試料油に対して下記の円筒成形試験を行い試料油の潤滑性能を評価した。その結果も表3に示した。
【0049】
(参考例)および(比較例1〜5)
同様にして表4に示す組成により、潤滑油組成物を調製した。この試料油を用いて実施例1〜7と同様にして潤滑性能を評価した。その結果も表4に示した。
【0050】
(A)成分
A1:前記一般式(1)でR1 、R2 が炭素数4のアルキル基である亜鉛ジチオフォスフェート
A2:前記一般式(1)でR1 、R2 が炭素数12のアルキル基である亜鉛ジチオフォスフェート
【0051】
(B)成分
B1:硫化油脂(S分:17.5%)
B2:硫化油脂(S分:10%)
B3:ジハイドロカルビルポリサルファイド(S分:38%)
【0052】
(C)成分
C1:ジアルキルジチオリン酸エステル
【0053】
(D)成分
D1:Caスルホネート(塩基価:530mgKOH/g)
D2:Caスルホネート(塩基価:430mgKOH/g)
【0054】
その他成分
E1:塩素化パラフィン(Cl分:50%)
E2:トリクレジルホスフェート
E3:ナフテン系溶剤精製鉱油(動粘度400mm2/s(@40℃))
E4:ナフテン系溶剤精製鉱油(動粘度100mm2/s(@40℃))
【0055】
(円筒成形試験)
万能塑性加工試験機(油圧式プレス機)を用いて、表1、2に示す条件で絞り成形を行い、その際の絞り成形の可否およびポンチ荷重を測定した。ポンチ荷重線図には2つの荷重ピークが観察された。最初に出現する荷重ピーク(ピーク1)は板の絞り成形に要する力と,しわ押え部およびダイ肩部における板と工具間の摩擦力との合計を示すものであり、試料油およびしわ押え力条件による影響は比較的小さいものであり、成形の後半に現れる2番目のピーク(ピーク2)は試料油およびしわ押え力条件の違いによって大きく異なることからピーク2荷重を求めることにより試料油の潤滑性能を比較した。
【0056】
【表1】
Figure 0004687845
【0057】
【表2】
Figure 0004687845
【0058】
【表3】
Figure 0004687845
【0059】
【表4】
Figure 0004687845
【0060】
表3から、実施例1〜7の本発明に係る潤滑油組成物は潤滑性能に優れていることが判る。
それに対して表4から、比較例1〜5の潤滑油組成物は潤滑性能に劣ることが判る。
参考例の潤滑油組成物は潤滑性能に優れているが、塩素化合物E1を含有するものである。
【0061】
【発明の効果】
本発明の塑性加工用潤滑油組成物は、塩素化合物を含有しない地球環境に優しい潤滑油組成物であり、鋼板、ステンレス鋼板、表面処理鋼板、アルミ合金板などに、プレス成形、曲げ成形、引き抜き成形、しごき成形などの塑性加工を施す際に、良好な潤滑性を発揮するという顕著な効果を奏する。

Claims (1)

  1. (A)亜鉛ジチオフォスフェート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオフォスフェートおよびモリブデンジチオカーバメートからなる群から選ばれる1種または2種以上の有機金属化合物を組成物全量基準で10〜80質量%、(B)硫黄系極圧剤、および以下の一般式(6)で表される(C)ジアルキルジチオリン酸エステルを組成物全量基準で0.1〜10質量%含有し、且つ(A)、(B)および(C)の合計が組成物全量基準で75〜100質量%である塑性加工用潤滑油組成物。
    (R 11 O) −P(=S)−S−R 12 ・・・ 一般式(6)
    ここで、R 11 、R 12 は同じでも異なっていてもよい炭素数1〜24のアルキル基
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