JP4686906B2 - 波長多重用光伝送装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、波長の異なる複数の光信号を一本の光ファイバを用いて伝送する波長多重用光伝送装置および波長多重信号の光増幅方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光伝送システムの大容量化の手段として、波長の異なる複数の光信号を一本の光ファイバを用いて伝送する波長多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)伝送システムが実用化されている。また、エルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)等の光ファイバアンプ(以下、光アンプ)は広い波長範囲に対して一括に増幅し得る特性を持つ。このため、WDMと光アンプとを組み合わせることにより、波長の異なる複数の光信号を一括して増幅するので、簡素な構成で、経済的、大容量かつ長距離伝送が実現可能である。
【0003】
しかしながら、このようなWDM光増幅伝送方式ではファイバへの光入力レベルが高くなるため、非線型効果という伝送特性を劣化させる問題が顕在化することとなった。そのような非線形効果の一つに誘導ラマン散乱(SRS:Stimulated Raman Scattering)による過剰損失、過剰利得の問題がある。
【0004】
SRSは非線型光学過程であり、光ファイバへの入力信号の一部が励起光として作用し、ファイバ中のより低周波数側の信号光と相互作用することにより、高周波数側の信号光から低周波数側の信号光へとエネルギーが移動する。SRSは全ての光ファイバで発生し、その強さは光ファイバの種類や、前述のエネルギーが移動する光信号間の周波数差にのみ依存する。
【0005】
また、エネルギーの移動は、全光出力強度の和に比例して大きいものとなるので、WDM装置に収容される波長数が多く、収容される帯域が広いほど、移動するエネルギーが増加するため、影響が顕著に現れる。さらに、伝送距離が長くなるほど、現れる影響は一層顕著になる。
【0006】
このため、異なる波長の信号を収容するWDM装置においては、受信端において波長毎に光出力強度が異なり、この結果、光信号対雑音比(OSNR)が波長毎に異なるといった問題が生じる。また、ファイバ伝送中の光出力強度も波長毎に異なるため、受信波形は、自己位相変調や波長分散、周波数チャープと結合することにより波長毎に異なった波形歪みや伝送エラーを生じ、波長毎に伝送距離が異なるといった問題が生じる。
【0007】
従来のWDM装置運用状態では、収容される光信号の波長数や帯域が比較的少なかったため、SRSによる影響もそれほど大きくなかった。しかし、近年の通信トラヒックの増大に従い、WDM装置に対しても収容波長数の増加、および収容帯域の拡大が要求されるようになった。このため、SRSによる影響が軽視できないようになり、WDM装置において設計当初の想定収容波長を全て収容するとSRSによる影響が増大し、伝送不可能な状態になることが近年学会等で報告されるようになってきた。
【0008】
従来、WDM装置を用いた伝送システムでは、搭載される光アンプの利得偏差(ゲインチルト)や伝送路の損失波長依存性などによる影響については考慮されているものもあった。例えば、特開平8−223136に記載されている光アンプで発生する利得偏差を抑圧し最小のOSNRを得る方法や、特開平11−55182に記載されている受信端での光信号レベルの偏差とOSNRを最小にする方法などである。
【0009】
これらの発明は、光アンプに入力される光信号が、常に一定の光出力強度となる場合、つまり波長数増加や減少に伴って、伝送損失や光アンプ利得偏差などが変動しない場合は有効である。しかし、収容される波長数および波長帯域によって、光出力強度が異なる場合については考慮されていない。
【0010】
また、特開2000−183818では、送信側の各光波長信号強度を調整すること(プリエンファシス)によって、受信側でのOSNRを一定にする方法が提案されている。しかし、収容する波長数や帯域によっては、発生する信号レベル偏差は極めて大きくなり、プリエンファシスで補償しうるレベル偏差を超過することも考えられる。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、光信号の受信端における信号対雑音比の信号間偏差を補償することができる波長分割多重用伝送装置を提供することにある。このような偏差の発生要因としては、幾つかの要因が考えられるが、本発明では、特に光信号がファイバ伝送中に受ける誘導ラマン散乱によるものを補償することを目的とする。
【0012】
また、このような誘導ラマン散乱によって生ずる信号対雑音比の信号間偏差を補償するため、予めその偏差量を光アンプの出力強度特性から算出する方法を提供することを目的とする。
【0013】
そして、このようにして算出した信号対雑音比の信号間偏差に基づき、それを補償するような光アンプの出力特性を得る、具体的な装置構成方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、波長分割多重伝送を行う光伝送装置において、光信号の受信端における信号対雑音比の信号間偏差を補償するため、特に光信号がファイバ伝送中に受ける誘導ラマン散乱による光出力強度の偏差に起因するものに着目して、これを補償するようにした。このため、光信号の入力端における出力強度を調整するようにした。
【0015】
また、このような誘導ラマン散乱によって生ずる信号対雑音比の信号間偏差を見積もるため、光信号の入力端における出力強度と、ファイバの断面積と、誘導ラマン散乱等の非線形効果が実際に発生する有効距離と、ラマン利得係数とから、光信号の受信端における光出力強度の偏差を算出し、さらにその出力強度偏差を用いて信号対雑音比の信号間偏差を算出するようにした。
【0016】
そして、このようにして算出した信号対雑音比の信号間偏差から、それを補償するような光信号の入力端における出力強度を逆算して、光伝送装置の各スパンにおける増幅帯域別のアンプの出力強度が格納されている偏差テーブルに反映させるようにした。
【0017】
さらに、この偏差テーブルに設定された特性を実現するため、各光アンプにはその増幅帯域の平均出力強度と、増幅帯域内の出力強度の波長に対する偏差とを同時に可変制御可能である機能を持たせた。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1は、前述のSRSによる影響を説明するための図である。横軸は周波数、縦軸は波長多重されている光信号強度のスペクトル(出力レベル)を示している。ここで、B、R、L1、L2で示すそれぞれの波長帯は例えば、 1530nm〜1545nm、1545nm〜1560nm、1560nm〜1575nm、1575nm〜1590nmである。
図1(a)に示すように、WDM伝送時にファイバ入力端において、全ての波長帯(B、R、L1、L2)に渡って一定の光出力強度を維持したとしても、ファイバ出力端での光出力強度は波長毎に異なり、図1(b)に示すように短波長側ほど低く、かつ長波長側ほど高くなる。これは前述のように、短波長側の信号から長波長側の信号へとエネルギーが移動するためである。
【0019】
図2は本発明の実施例における波長分割多重光伝送システムの基本的な装置構成である。図2において100は送信端局、200は中継局、300は受信端局を、また400は光ファイバ伝送路を示す。500はシステム全体の監視や制御を行うため、別途設けられた監視制御装置である。本構成では、前述した4つの波長帯域毎(B、R、L1、L2)に別個の光アンプで増幅する。また、各光アンプには、いずれもn個の別波長の光信号が多重されて入力するものとする。
【0020】
送信端局100の光送信器101(1)〜101(n)は、それぞれBバンド内の異なる波長にて光信号を送出する。送出された光信号は波長合波器102(1)にて波長多重された後、プリアンプ103(1)にて増幅され、波長合波器104へ入力される。同様にして、Rバンドの波長信号光、L1バンドの波長信号光、L2バンドの波長信号光が波長合波器104へ入力される。波長合波器104では各プリアンプ103(1)〜(4)から送出された光信号を波長多重して、光ファイバ伝送路400(1)へ送出する。
【0021】
中継局200では、入力した波長多重光を波長分波器205にて、前記の4つの帯域(B、R、L1、L2)へ分波し、各ラインアンプ203(1)〜(4)で、帯域毎に光ファイバ400(1)における伝送損失を補償すべく光増幅する。増幅後の光信号は波長合波器204にて再度波長多重され、光ファイバ伝送路400(2)へ送出される。図2では省略してあるが、この後、複数の中継局にて同様に光増幅された後、最終スパンの光ファイバ400(k−1)を経て、多重光信号は受信端局300へ到達する。
【0022】
受信端局300では、入力した波長多重光を波長分波器305にて前記の4つの帯域(B、R、L1、L2)へ分波した後、各ポストアンプ303(1)〜(4)でそれらの帯域毎に光増幅する。増幅された光信号は、各光分波器306(1)〜(4)にて個々の光波長信号へ分波された後、各々光受信器307にて受信される。
【0023】
本発明の第1の実施例として、図2における各アンプ(プリアンプ103、ラインアンプ203、ポストアンプ303)のトータルの出力強度が帯域間(B、R、L1、L2)で同一となるように制御(平均利得等価)する構成を説明する。図7は、第1の実施例に用いる前記光アンプの構成を示したものである。
【0024】
図7において、光アンプ700は、光入力信号705を増幅して光出力信号706として出力するアンプ701と、アンプ701の出力強度を制御する出力レベル制御部703と、外部から設定された光信号の出力強度707を記憶する出力レベル設定部704と、光出力信号706と目標出力レベル設定部704の両者の光出力強度を比較する比較器702とからなる。
【0025】
出力レベル制御部703は、比較器702からの比較結果に基づき、光出力信号706の光出力強度が出力レベル設定部704の値に比べて小さいときは、アンプ701の出力強度をより大きくなるよう制御する。また、前記比較結果が逆の場合、アンプ701の出力強度をより小さくなるように制御する。
【0026】
図4は第1の実施例での各観測ポイントにおける、信号および雑音の出力スペクトルを示しており、図3に示すように、縦線が信号成分、黒塗り部分が雑音成分を示す。また、図4において各スペクトルの左上の数字(120(1)〜(4)、220(1)〜(4)、230(1)〜(4)、330(1)〜(4))は、図2に同一の符号と矢印にて示す観測ポイントに対応している。プリアンプ103(1)〜(4)から出力された段階でのスペクトルは、120(1)〜(4)のように各帯域のアンプ毎に同じ特性を示す。
【0027】
しかし、伝送路400(1)を伝搬中にSRSによる影響が現れるため、伝送後のスペクトルは220(1)〜220(4)のように、帯域内あるいは帯域間いずれにおいても長波長側の帯域ほどスペクトルが大きくなる。この後、ラインアンプ203にて平均利得等価した結果、230(1)〜(4)に示すように平均的な出力強度、すなわち各帯域内の信号分および雑音分を合わせたトータルの光出力強度については各帯域間で同一となっている。しかし各帯域内のレベル偏差は利得等価機能では補償できないため残存している。さらに、数段の伝送路400および中継局200を通過した後の各帯域毎のスペクトルは、330(1)〜(4)に示すように偏差が一層大きくなっている。
【0028】
以上説明した本発明の第1の実施例によれば、プリアンプ103出力後の特性120(1)〜(4)は、SRSの影響がないため、OSNRに波長依存性は見られない。また、分割した帯域毎にトータルの光出力強度が一定となるようにアンプを制御しているので、ある程度の伝送距離まではSRSの影響を補償することができる。
【0029】
しかし、より後段の光ファイバやラインアンプ、ポストアンプ出力後では、帯域内あるいは帯域間いずれにおいても短波長側ほどOSNRの劣化が大きい。このため、光受信器307では、同一帯域の短波長ほど伝送特性が劣化する。また、この程度は帯域間でも短波長側ほど顕著である。これは、各光アンプでは信号成分も雑音成分も一括して増幅されるため、SRSの影響で出力強度が低下した低波長側では、アンプの出力強度等価機能によって、相対的に雑音成分が増加するからである。
【0030】
なお、本実施例では簡単のため、各帯域の波長数は全てnとし、トータルの出力強度が帯域間で一定とした。波長数が異なる場合には、波長あたりの出力強度を一定とすればよい。これは以下に説明する第2の実施例でも同様である。
【0031】
次に、本発明の第2の実施例として、図2のプリアンプ103、ラインアンプ203、ポストアンプ303に対して入力レベルの波長依存性を補償し、出力強度が各々の帯域内で均一になるような特性を持つようにした場合(利得偏差補償)を説明する。利得偏差を補償する方法としては、光アンプの後段に波長依存性を有する光フィルタを設け、その対波長透過特性を個々のアンプ毎にチューニングすることで実現可能である。
【0032】
図5は本発明の第2の実施例における出力スペクトルである。ここでは、220(1)〜(4)に見られるSRSによって発生した利得偏差が、ラインアンプ203出力後では230(1)〜(4)に示すように補償され、平坦なスペクトルが得られる。また、ポストアンプ330出力後の特性においても、同様に平坦なスペクトルが得られている。
【0033】
以上説明した本発明の第二の実施例によれば、分割した帯域毎に波長間の光出力強度が一定となるようにアンプを制御しているので、やはり、ある程度の伝送距離まではSRSの影響を補償することができる。しかし、第一の実施例と同様に信号成分と雑音成分とを一括して増幅する結果、SRSの影響で出力強度が低下した低波長側については、相対的に雑音成分が増加し、OSNRが劣化する。
【0034】
次に、本発明の第三の実施例について説明する。
図6は、第1の実施例および第2の実施例において発生する、OSNRの帯域内および帯域間の偏差を示したものである。ここでは横軸に光多重信号の波長および周波数、縦軸にSRSによるOSNRの偏差量(ΔOSNR)を示している(ただし横軸は、右方向が波長の増加する向きを示し、左方向が周波数の増加する向きを示す)。ΔOSNRは、SRSの影響があるときのOSNRと、その影響がないときのOSNR’の比率(差分)である。
【0035】
また、ΔOSNRは、ファイバへ収容している全光信号の中心波長fmid630におけるOSNRを基準としたときの(ΔOSNR=0)、他の周波数の光信号のOSNRとの差分でもある。これは、SRSは前述のように全収容帯域の高周波数側から低周波数側に向かってエネルギーが移動することに基づくものであり、バンドの中心(fmid630)ではOSNRに対して影響がないからである。
【0036】
図6において、例えばBバンドでは、その収容信号の最大周波数fBmax611と最低周波数fBmin610の間で帯域内偏差DiB601が発生している。同様に、R、L1、L2の各バンドでは、それぞれDiR602、DiL1603、DiL2604の帯域内偏差が発生している。また、各バンドの中心波長、すなわちfBmid620、fRmid621、fL1mid622、fL2mid623を各バンドの基準の周波数と考えれば、それぞれの周波数におけるΔOSNRすなわち605、606、607、608が帯域間の偏差となる。本実施例では、このようなOSNRの帯域内偏差および帯域間偏差を補償することを目的とする。
【0037】
図8は、本発明の第3の実施例における光アンプの構成を示すものである。光増幅器800は図2の各アンプ103(1)〜(4)、203(1)〜(4)、303(1)〜(4)に適用するものである。本光アンプは、多重化された光信号を一括増幅すべく、所定の増幅帯域を有しており、外部からの設定により、収容している光信号の平均的なの光出力強度と、その帯域内の光出力強度の波長間の偏差を調整する機能を有している。
【0038】
入力端子801から入力する光多重信号は、アンプ807にて増幅される。増幅された信号811は比較器809にて、予め出力レベル設定部810に設定されている光出力レベルと比較され、両者が一致するように出力レベル制御部808にて、アンプ807の増幅率が制御される。光出力強度が設定値に制御された光多重信号811は、利得傾斜制御部805へ入力され、予め利得傾斜設定部806へ設定された利得傾斜の特性をもって出力される。利得傾斜制御部805は、例えば光の透過特性において波長依存性を有する光フィルタを用い、光の入射角度を可変制御することで、図9に示すように利得傾斜特性を制御できる。
【0039】
すなわち、図9において900は利得傾斜特性を信号波長(1/周波数)に対してフラットにした場合であり、901、902は長波長側(低周波数側)の光出力強度を短波長側(高周波数側)に比べて大きくしたものである。また、903はその逆の特性に設定した場合である。
【0040】
図10は、本実施例における監視制御装置の構成を示すものである。監視制御装置500は制御部501と偏差テーブル502とから構成される。ここで偏差テーブル502には、各光アンプに設定する光出力強度と利得傾斜とが格納される。すなわち、SRSによって発生するOSNRの偏差を補償できるような、各アンプの光出力強度と利得傾斜を予め算出し、偏差テーブル502に登録しておけば、図2の各アンプ103、203、303はそのような特性の光信号を出力することができる。
【0041】
次に、偏差テーブル502に格納する、各光アンプに設定すべき光出力強度と利得傾斜の算出方法を図11を用いて説明する。図11は図2の光アンプと光ファイバ、並びに光送信器、光受信器を簡略化して示したものであり、図2で帯域毎に分けて示した送受信器や光アンプを1つにまとめて示している。
【0042】
まず、スパンK(K=1〜k−1)における光ファイバの出力端において、SRSによって発生する光多重信号の出力強度の波長(周波数)に対する傾きΔKを、光ファイバの入力端における全光波長信号の出力強度の総和から、[数1]式に従って算出する。
【0043】
【数1】
【0044】
ここで、logは常用対数である。eは自然対数の底(2.718…)を表す。gはラマン利得係数と呼ばれ、光ファイバの材質、長さ等によって一意に決まる量である。また、ΣPiは各スパンにおいてファイバに入力される光多重信号の入力端における光出力強度の総和であり、iは1〜多重波長数(N)である。Aはファイバの断面積を示す。Leffは有効距離であり、実際にSRS等の非線形効果が発生する距離を表し、[数2]式で与えられる。
【0045】
【数2】
【0046】
ここでZKはスパンKにおけるファイバ長(伝送距離)であり、αはファイバの損失率で0.22dB/km程度の値である。ΔKは図1の各スパンの光ファイバの出力端において、単位波長あたりの光出力強度の増分、すなわち傾きを示しており、[数1]式から明らかなように、ファイバに収容(多重)している光信号波長の数とファイバ長に比例し、ファイバの断面積に反比例する。
【0047】
ただし、実際の光伝送システムにおいては、ファイバ長(伝送距離)は50km乃至100km以上となることもあるので、そのような場合、Leffは実距離にかかわらず概ね20km程度の値となる。
【0048】
次に、スパンjの受信端における周波数fhなる光信号の、SRSに基づく出力強度の変化量ΔGj、fhは、[数1]式から求めたΔjを用いて[数3]式から算出できる。
【0049】
【数3】
【0050】
ここで、Gjは当該スパンの入力端側のアンプの出力強度であり、SRSによる影響がない場合における、当該スパンのファイバへ入力される光信号の出力強度に相当する。
【0051】
[数3]式において、fgは光ファイバへ波長多重している光信号の重心となる周波数であり、例えば波長換算で1.55μm〜1.65μmまで0.01μm刻みで11波が多重されているとすると、fgはその中心となる1.60μmに相当する周波数である。また、[数3]式でfh =fgのときはΔGj、fh=1となってSRSに基づく出力強度偏差が存在しない。これは、図1で説明したように、短波長側の信号から長波長側の信号へエネルギーが移動するため、バンドの中心(重心)波長ではその影響がないからである。
【0052】
以上求めたSRSに基づく出力強度の変化量ΔGから、SRSによる影響がないときのOSNRと、影響があるときのOSNR’との比であるΔOSNR(=OSNR’/OSNR)は、光信号の周波数fh毎に、[数4]式を用いて算出できる。
【0053】
【数4】
【0054】
この[数4]式は、各スパンにおけるファイバの受信端において発生する、SRSによる光出力強度の偏差を、各々のファイバの送信端における光出力強度の総和から求め、それらが重畳されて最終段の光アンプの出力部でOSNRの偏差となって現れたものとして定式化したものである。
【0055】
以上の[数1]式〜[数4]式から判るように、ΔOSNRは着目している光信号の周波数fと各スパン(1〜k−1)における光出力強度に依存する。逆にいえば、各スパンの周波数別の光信号の出力強度を適当に選べば、ΔOSNRをゼロにすることができる。このような光出力強度の組合せの算出方法としては、例えば、各光強度の値を暫定値から順次微小量変化させてΔOSNRを計算しながら更新しつつ、それがゼロとなるまで繰り返すことによって、最終的に所望の光出力強度の組合せ求めることが可能である。
【0056】
この方法は、最初に想定する光強度の暫定値や、1ステップあたりの更新量に対して、過去の経験値等、適当な値を選べば、少ない更新回数で所望の出力強度組合せを得ることができる。また、ΔOSNRの算出はさほど複雑な演算ではないので、監視制御装置に設けられた計算機等を用いることによって、極めて短時間で収束して解を得ることができる。
【0057】
今、このようにして求めた光強度の組合せを[数5]で表す。
【0058】
【数5】
【0059】
ここで、P(K,F)はスパンKの周波数Fなる信号の光出力強度を示す。また、fBmin、fBmid、fBmaxはそれぞれBバンドに収容される信号波長の最小周波数、中心周波数、最大周波数を示す。同様にして、fXmax、fXmid、fXmin、は、それぞれXバンドに収容される信号波長の最小、中心、最大周波数を示す。
【0060】
上記のP(K,F)の組合せは、各帯域内において、周波数に対してほぼ一定の傾きを有するものとすれば、スパン1のBバンド用アンプに設定する利得傾斜PDi(1,B)は、Bバンドの光出力強度の周波数に対する傾きを打ち消すものであるから、
【0061】
【数6】
【0062】
となる。また、同じくスパン1のBバンド用アンプに設定する光出力強度PDb(1、B)は、Bバンドの中心波長における光出力強度と考えて、
【0063】
【数7】
【0064】
となる。
【0065】
他のアンプに設定する値についても同様に求めることができる。すなわち、スパンK(K=1〜k−1)のFバンド用アンプに設定する利得傾斜PDi(K,F)および光出力強度PDb(K,F)は、
【0066】
【数8】
【0067】
【数9】
【0068】
となる。ここに、Fmax、Fmid、Fminはそれぞれ帯域Fにおける収容信号の最大周波数、中心周波数、最低周波数である。
【0069】
なお、本実施例においては、光受信器のポストアンプの光出力強度が、ΔOSNRに与える影響はほぼ無視できるため、光受信器における最終的な光出力強度は、ポストアンプに所望の光出力を設定することで実現できる。
【0070】
本実施例では全てのスパン(K=1〜k−1)に対して光出力を算出するように説明したが、必ずしもその必要はない。すなわち、補償すべきΔOSNRの偏差量がさほど多くなければ、ある特定のスパンにおける光アンプの出力強度調整のみでΔOSNRを補償可能であるため、残りの他のスパンの光アンプについては、例えば暫定的に設定した値をそのまま用いることも可能である。
【0071】
また、ひとつのスパンにおいて補償可能なΔOSNRの偏差量から閾値レベルを設定し、算出したΔOSNRとその閾値レベルから設定変更対象のスパンの個数を決定することもできる。これは、特にシステム運用中に、光ファイバへ収容する多重信号の数に若干の増減があった場合などは、必ずしも全てのスパンの全アンプを再設定しなくとも、特定のアンプについてのみの再設定で充分にΔOSNRを補償することができるので、計算時間と設定時間が全スパンのアンプへの再設定の場合に比べて少なくなり、迅速な設定変更が可能である。
【0072】
また、伝送距離が極めて長くなると、それに比例して中継局の数も増加するが、各中継局における光アンプとしては、コストの関係から必ずしも本実施例で示したような帯域内および帯域間の光出力強度をリアルタイムで可変制御できるタイプが設置されるとは限らない。このような場合は、必然的に光出力強度が可変制御できないアンプを有するスパンは設定対象外であるが、前述のように、ΔOSNRの偏差量がさほど大きくなければ、他のスパンの光アンプの出力強度のみで、それを補償することは可能である。
なお、本実施例においても、各帯域の波長数は必ずしも同一である必要はない。また、WDM装置に収容される波長帯域毎に、別々の光アンプで増幅するシステムについて説明したが、収容される波長がすべて同じ光アンプで増幅されるシステムにおいても、収容される波長数、波長に応じて、全ての光アンプ、もしくはある一定間隔毎の光アンプに対して、SRSによる影響を考慮した波長間利得偏差を設けることで、波長間の光レベル偏差、OSNR偏差を低減することが出来る。
【0073】
図12に、各P(K,F)の値を暫定値から順次微調整して更新しつつΔOSNRを計算し、帯域内偏差および帯域間偏差がゼロとなるまで繰り返して最終的なP(K,F)を求め、偏差テーブルに目標値を設定するフローの一例を示す。すなわち、まず各スパンにおける光信号の出力強度を暫定値とする(S100)。なお、これら暫定値としては、後に求める最終的な設定値からかけ離れないようにすべきである。例えば、経験値等から類推した値などを用いることが望ましい。次に、その暫定値から、式(1)〜(4)を用いてΔOSNRを算出する(S101)。さらに、そのΔOSNRから、式(5)〜(8)、式(13)〜(16)を用いて帯域内偏差(Di)および帯域間偏差(Db)を算出する(S102)。その帯域内偏差および帯域間偏差がゼロであれば(S103)、先に設定した暫定値から、式(20)および式(21)からDi、Dbを補償する出力強度偏差PDi、PDbを求め(S104)、それらを偏差テーブルに登録する(S105)。また、ΔOSNRから算出したDiおよびDbがゼロでなければ(S103)、先に想定した光信号の出力強度を暫定値から微小量δ変化させる(S106)。以下同様のステップにてDi、Dbを計算して、最終的にそれらがゼロになるまで繰り返し、そのときの出力強度からPDi、PDbを求めて偏差テーブルに設定する。なお、S106における変化量δも、経験値等から最適な値を選ぶべきである。
図13は本実施例で説明したSRS偏差等化方法の効果を説明するものであり、図2の各観測ポイントにおける出力強度のスペクトルの一例を示したものである。最終のポストアンプの出力において光SNRが各帯域間で同一となるよう、途中の出力強度に偏差を設けている。その結果、光SNRの帯域内偏差や帯域間偏差が補償され、目的が達成されていることが分かる。
【0074】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば誘導ラマン散乱に起因する光SNRの帯域内偏差や帯域間偏差を補償することができる波長分割多重用光伝送装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】WDMシステムにおけるSRSによる影響を説明する図である。
【図2】本発明の装置構成示すブロック図である。
【図3】スペクトルを説明する図である。
【図4】SRSの影響を受けた光出力強度のスペクトルを説明する図である。
【図5】SRSの影響を受けた光出力強度のスペクトルを説明する図である。
【図6】本発明にて解決する光SNRの帯域内偏差および帯域間偏差を説明する図である。
【図7】本発明で用いる出力強度調整機能付光アンプの構成を示す図である。
【図8】本発明で用いる帯域内偏差補償機能および出力強度調整機能付光アンプの構成を示す図である。
【図9】利得制御部の機能を説明する図である。
【図10】本発明の実施例における監視制御装置の構成を示す図である。
【図11】本発明の実施例における光SNR偏差の算出方法を説明する図である。
【図12】本発明の実施例における光SNR偏差の算出方法を説明するフローチャートである。
【図13】本発明により改善された光出力強度のスペクトルを説明する図である。
【符号の説明】
100…送信装置、101…光送信器、102…波長合波器、
103…プリアンプ、104…波長合波器、110…装置制御部、
200…中継装置、203…ラインアンプ、204…波長合波器、
205…波長分波器、210…装置制御部、300…受信装置、
303…ポストアンプ、305…波長分波器、306…波長分波器、
307…光受信器、310…装置制御部、400…光ファイバ、
500…監視制御装置
Claims (9)
- 第一の伝送路から伝送されてきた波長多重信号を増幅し第二の伝送路へ送出する光伝送装置であって、
前記波長多重信号を、複数の波長帯域の波長多重信号に分離する波長分離器と、
光出力強度情報に基づいて光出力強度を制御する出力制御部と、利得傾斜情報に基づいて利得傾斜特性を可変に制御する利得傾斜制御部とを備えて、前記複数の波長帯域の波長多重信号毎に一括増幅する複数の光増幅器とを有し、
前記光出力強度情報と前記利得傾斜情報とは、
前記伝送路の光ファイバの有効距離L eff を、eを自然対数の底とし、αを前記光ファイバの損失率とし、Z K をスパンK(K=1〜k−1)における前記光ファイバの光ファイバ長とするとき、
とし、
前記スパンのうちのスパンKの前記光ファイバの出力端における、誘導ラマン散乱によって発生する光多重信号の出力強度の波長に対する傾きΔ K を、gをラマン利得係数とし、ΣP i を前記スパンにおいて前記光ファイバに入力される光多重信号の入力端におけるiを1〜多重波長数(N)とするときの光出力強度の総和とし、Aをファイバの断面積とするとき、
とし、
前記スパンのうちのスパンjの受信端における周波数f h の光信号の前記誘導ラマン散乱に基づく出力強度の変化量ΔG j、fh を
とするときに、
と規定される、前記誘導ラマン散乱による波長間の光信号対雑音比偏差に基づいて設定されることを特徴とする光伝送装置。 - 請求項1記載の光伝送装置であって、
前記複数の光増幅器は、それぞれの増幅帯域内の光出力をほぼ同一となるように制御することによって、前記第一の伝送路で生じた誘導ラマン散乱による前記波長多重信号の波長間光強度偏差を抑圧することを特徴とする光伝送装置。 - 伝送路から伝送されてきた波長多重信号を増幅する光伝送装置であって、
前記波長多重信号を複数の異なる波長帯域の波長多重信号に分離する波長分離器と、
前記複数の波長多重信号を各々一括増幅する複数の光増幅器とからなり、
前記複数の光増幅器は、光出力強度情報に基づいて光出力強度を制御する出力制御部と
、利得傾斜情報に基づいて利得傾斜特性を可変に制御する利得傾斜制御部とを備え、
前記光出力強度情報と前記利得傾斜情報とは、
前記伝送路の光ファイバの有効距離L eff を、eを自然対数の底とし、αを前記光ファイバの損失率とし、Z K をスパンK(K=1〜k−1)における前記光ファイバの光ファイバ長とするとき、
とし、
前記スパンのうちのスパンKの前記光ファイバの出力端における、誘導ラマン散乱によって発生する光多重信号の出力強度の波長に対する傾きΔ K を、gをラマン利得係数とし、ΣP i を前記スパンにおいて前記光ファイバに入力される光多重信号の入力端におけるiを1〜多重波長数(N)とするときの光出力強度の総和とし、Aをファイバの断面積とするとき、
とし、
前記スパンのうちのスパンjの受信端における周波数f h の光信号の前記誘導ラマン散乱に基づく出力強度の変化量ΔG j、fh を
とするときに、
と規定される、前記誘導ラマン散乱による波長間の光信号対雑音比偏差に基づいて設定されることを特徴とする光伝送装置。 - 請求項3記載の光伝送装置であって、
前記複数の光増幅器は、それぞれの増幅帯域内の光出力をほぼ同一となるように制御することによって、前記伝送路で生じた誘導ラマン散乱による前記波長多重信号の波長間光強度偏差を抑圧することを特徴とする光伝送装置。 - 請求項3記載の光伝送装置であって、
前記複数の光増幅器は、前記伝送路で生じる誘導ラマン散乱による受信端における波長間の光信号対雑音比偏差を抑圧することを特徴とする光伝送装置。 - 伝送路から伝送されてきた波長多重信号を増幅する光伝送装置であって、
前記波長多重信号を短波長多重信号と長波長多重信号に分離する第一の波長分離器と、
前記短波長多重信号を一括増幅する第一の光増幅器と、
前記長波長多重信号を一括増幅する第二の光増幅器と、
前記第一の光増幅器にて増幅された短波長多重光を個別の波長光信号に分離する第二の波長分離器と、
前記第二の光増幅器にて増幅された長波長多重光を個別の波長光信号に分離する第三の波長分離器とからなり、
前記第一の光増幅器と前記第二の光増幅器とは、光出力強度情報に基づいて光出力強度を制御する出力制御部と、利得傾斜情報に基づいて利得傾斜特性を可変に制御する利得傾斜制御部とを備え、
前記光出力強度情報と前記利得傾斜情報とは、
前記伝送路の光ファイバの有効距離L eff を、eを自然対数の底とし、αを前記光ファイバの損失率とし、Z K をスパンK(K=1〜k−1)における前記光ファイバの光ファイバ長とするとき、
とし、
前記スパンのうちのスパンKの前記光ファイバの出力端における、誘導ラマン散乱によって発生する光多重信号の出力強度の波長に対する傾きΔ K を、gをラマン利得係数とし、ΣP i を前記スパンにおいて前記光ファイバに入力される光多重信号の入力端におけるiを1〜多重波長数(N)とするときの光出力強度の総和とし、Aをファイバの断面積とするとき、
とし、
前記スパンのうちのスパンjの受信端における周波数f h の光信号の前記誘導ラマン散乱に基づく出力強度の変化量ΔG j、fh を
とするときに、
と規定される、前記誘導ラマン散乱による波長間の光信号対雑音比偏差に基づいて設定されることを特徴とする光伝送装置。 - 請求項6記載の光伝送装置であって、
前記第一の光増幅器と前記第二の光増幅器とは、それぞれの増幅帯域内の光出力をほぼ同一となるように制御することによって、前記伝送路で生じた誘導ラマン散乱による前記波長多重信号の波長間光強度偏差を抑圧することを特徴とする光伝送装置。 - 請求項6記載の光伝送装置であって、
前記第一の光増幅器と前記第二の光増幅器とは、前記伝送路で生じる誘導ラマン散乱による受信端における波長間の光信号対雑音比偏差を抑圧することを特徴とする光伝送装置。 - 伝送路へ送出する波長多重信号を増幅する光伝送装置であって、
それぞれ異なる波長の光信号を送出する複数の光送信器と、
前記光送信器から出力された信号のうち短波長の信号を合波して短波長多重信号を出力する第一の波長号波器と、
前記光送信器から出力された信号のうち長波長の信号を合波して長波長多重信号を出力する第二の波長号波器と、
短波長多重信号を一括増幅する第一の光増幅器と、
長波長多重信号を一括増幅する第二の光増幅器と、
前記短波長多重信号と前記長波長多重信号を波長多重信号に合波する第三の波長合波器とからなり、
前記第一の光増幅器と前記第二の光増幅器とは、光出力強度情報に基づいて光出力強度を制御する出力制御部と、利得傾斜情報に基づいて利得傾斜特性を可変に制御する利得傾斜制御部とを備え、
前記光出力強度情報と前記利得傾斜情報とは、
前記伝送路の光ファイバの有効距離L eff を、eを自然対数の底とし、αを前記光ファイバの損失率とし、Z K をスパンK(K=1〜k−1)における前記光ファイバの光ファイバ長とするとき、
とし、
前記スパンのうちのスパンKの前記光ファイバの出力端における、誘導ラマン散乱によって発生する光多重信号の出力強度の波長に対する傾きΔ K を、gをラマン利得係数とし、ΣP i を前記スパンにおいて前記光ファイバに入力される光多重信号の入力端におけるiを1〜多重波長数(N)とするときの光出力強度の総和とし、Aをファイバの断面積とするとき、
とし、
前記スパンのうちのスパンjの受信端における周波数f h の光信号の前記誘導ラマン散乱に基づく出力強度の変化量ΔG j、fh を
とするときに、
と規定される、前記誘導ラマン散乱による波長間の光信号対雑音比偏差に基づいて設定されることを特徴とする光伝送装置。
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