以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付し、重複する記載は省略する。また、図面は模式的なものであり、各部の寸法等は現実のものと異なる。
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るインクジェット記録装置10は、図2や図3等に詳細を示すインクジェットヘッド20を備えており、液体を保持する保持手段(インク室21)と、保持手段に保持された液体24の液面24aに対して液体24を介して対向して設けられ、液体24に複数の音響波を個別に発する音響波発生手段(圧電体32)と、各音響波を、音響波発生手段からの距離が異なる複数の位置に集束させる音響波集束手段(音響レンズ31)と、音響波の複数の集束位置ごとに対応した駆動信号S1、S2を音響波発生手段に供給して複数の集束位置に対応した各音響波を個別に発生させる駆動手段(駆動回路35)と、液面24aに対して液面上の空間を介して対向して設けられ、音響波の集束により液面24aから飛翔する液滴24cを着弾させる塗布対象(シート12)を支持する支持手段(プラテンローラ11)と、液体24の保持手段と塗布対象とを相対的に移動させる移動手段(駆動部13、22)とを備える。
すなわち、図1に示すように、インクジェット記録装置10において、ゴムローラ等からなるプラテンローラ11は、回転軸11aを回転中心として回転可能に軸支されており、液滴の塗布対象であるカット紙、ロール紙又は樹脂フィルム等からなるシート12の一部を巻き付けるようになされ、駆動部13によって回転駆動される。駆動部13は、モータ等の駆動源を有し、制御部15からの駆動信号によって駆動源を駆動させることにより、プラテンローラ11を回転させる。これにより、プラテンローラ11に巻き付けられたシート12を矢印aで示す方向に移動させることができる。
一方、インクジェットヘッド20は、インク液滴の吐出方向がプラテンローラ11に向くように配置されており、ヘッド全体が駆動部22によって移動可能となっている。駆動部22は、モータ等の駆動源を有し、制御部15からの駆動信号によって駆動源を駆動させることにより、インクジェットヘッド20をプラテンローラ11の回転軸に沿った方向に移動させる。これにより、プラテンローラ11の回転によって移動するシート12の移動方向aに直交する方向bにインクジェットヘッド20を移動させることができる。
これらにより、プラテンローラ11に巻き付けられたシート12に対して、その表面の所望の位置に対向するようにインクジェットヘッド20を位置決めすることができる。なお、この実施の形態の場合、インクジェットヘッド20をプラテンローラ11の下方に配置し、インクの液滴を上方に吐出させる構成とするが、本発明はこれに限られるものではなく、インクジェットヘッド20の位置(すなわち液滴の吐出方向)は種々の形態を適用することができる。
制御部15は、ネットワーク回線、メモリ又は外部機器等から送られてくる画像データD11を画像処理部23に供給する。画像処理部23は、画像データD11を、インクジェットヘッド20によりシート12にインク液滴を塗布して画像を記録するための画像記録データD12に変換し、これをインクジェットヘッド20の駆動回路(後述)に出力する。
インクジェットヘッド20は、音波発生源(圧電体)において発生する音波によってインク液を飛翔させるヘッドと、音波発生源に対してその駆動信号を供給する駆動回路とを有している。駆動回路は、画像処理部23から出力される画像記録データD12に基づいて駆動信号を生成し、これを音波発生源に供給することにより、音波発生源から音波を発生させる。
図2に示すように、インクジェットヘッド20において、インク保持手段であるインク室21は、内部にインク24を貯留するための筐体25によって形成され、その筐体25の一部に筐体内部と外部とを連通させる開口部26が形成されている。
インク室21において、開口部26に対向する内側面部には、音波発生部30が設けられている。この音波発生部30は、平凹形状の音響レンズ31と、この音響レンズ31の平面部側に設けられた音波発生源である圧電体32及びその電極(後述)と、画像処理部23(図1)から供給される画像記録データD12に基づいて圧電体32の電極に駆動信号を供給する駆動回路(後述)とを備えている。
音響レンズ31は、その凹形状部が筐体25の開口部26に対向するように配置されており、圧電体32から発生される音波を凹形状部によって開口部26付近に集束させるようになされている。この集束された音波ビームの圧力により、開口部26のインク24の液面24aを盛り上げてメニスカス24bを形成し、その先端から液滴24cを分離させて、開口部26から外部に飛翔させるようになされている。開口部26に対向する位置には、上述したプラテンローラ11に巻き付けられたシート12が配置されることにより、開口部26から飛翔した液滴24cを、シート12の表面に着弾させることができる。なお、インクジェットヘッド20の開口部26が設けられた部分(インク吐出部と呼ぶ)とシート12との間隙は、圧電体32に加える電力を少なく抑えるために3mm以下とすることが望ましい。但し、3mm以下に限られるものではない。
音響レンズ31は、例えばガラス等の無機系材料やエポキシ樹脂等を用いることができ、使用するインク液に対する耐久性を重視した材料を用いることが望ましい。また、ガラスや樹脂の表面に、金属膜や金属系酸化膜、窒化膜、ポリオレフィン系樹脂膜等の表面処理を施してインク液に対する耐久性を向上させてもよい。
図3は音響レンズ31の構成を示す断面図である。この図3においては、音響レンズ31の凹形状部を単純な曲率を有した曲面として図示しているが、実際には屈折による球面収差を補正して所定の位置に音波が集束するように設計された非球面レンズを使用する。
この音響レンズ31は、その凹形状部の中心領域31aとその周辺領域31bとでは、それぞれの曲率が異なるように形成されている。すなわち、中心領域31aによる焦点F1は、周辺領域31bによる焦点F2よりも音響レンズ31から離れた位置(すなわち、インクの液滴24cの吐出に際して形成されるメニスカス24bの盛り上がり方向に沿って音響レンズ31から離れた位置)に設定されている。なお、本実施の形態の場合、インクの液滴24cを上方に吐出する構成となっていることにより、焦点F1は焦点F2よりも上方に設定されるが、例えば、図2に示したインクジェットヘッド20を上下逆に設けて液滴24cを下方に吐出するようにした他の実施の形態に係る構成においては、焦点F1は焦点F2よりも下方に設定されることになる。
ここで、液滴24cを上方に吐出する本実施の形態に係る構成においては、音響レンズ31の中心領域31aによる焦点F1は、メニスカス24bが形成される前のフラットな液面24aに対して、該液面24aよりも上方に位置するように設定されており、また周辺領域31bによる焦点F2は、メニスカス24bが形成される前のフラットな液面24aよりも下方に位置するように設定されている。通常、レンズの中心から周辺に向かうほど音波の屈折が大きくなり焦点位置は近焦点側にシフトする。そのため、本実施の形態に用いられる音響レンズ31は、その特性も利用して音響レンズ31の凹部の曲率を部分的に補正している。なお、音響レンズ31の中心領域31aとその周辺領域31bとの境界部分では、音波の集束位置が滑らかに変化するようなレンズ形状としてもよい。
因みに、本実施の形態に係る音響レンズ31の場合、焦点F1とF2との間の距離が10〜20μmとなっているが、本発明はこれに限られるものではない。
なお、音響レンズ31の音響インピーダンスは、圧電体32の音響インピーダンス(ZP)とインク液の音響インピーダンス(ZL)の中間値であり、その幾何平均(ZP・ZL)1/2に近いことが音波の効率的な伝播のために望ましい。
音響レンズ31の平面部側には、この音響レンズ31の凹部(凹レンズ部)の形成領域に対応する円形の領域に円形の圧電体32が設けられている。この圧電体32は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸鉛、チタン酸バリウム等の圧電セラミックスや、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等の圧電単結晶や、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の高分子圧電体や、酸化亜鉛等の圧電半導体等を使用することができる。
圧電体32の一方の面には、円形形状でなり圧電体32を含み圧電体32とほぼ同じ大きさの共通電極33が形成され、他方の面には、主電極34a及び副電極34bが形成されている。主電極34a及び副電極34bは、共通電極33に対して、圧電体32を挟んで対向する位置に形成されている。図4に示すように、主電極34aは、音響レンズ31の凹部の中心領域31a(図3)と同様の円形形状で形成され、中心領域31aに対向する領域に設けられている。また副電極34bは、音響レンズ31の凹部の周辺領域31b(図3)と同様のリング形状で形成され、周辺領域31bに対向する領域に設けられている。主電極34a及び副電極34bは、同心円状に形成され、それぞれの中心位置が音響レンズ31の凹部の中心位置に対向するように設けられている。
図3において、駆動回路35は、画像処理部23から供給される画像記録データD12に基づいて、共通電極33、主電極34a及び副電極34bに駆動信号を供給する。この場合、駆動回路35は、共通電極33と主電極34aとの間に対する駆動電圧の印加、及び共通電極33と副電極34bとの間に対する駆動電圧の印加を個別に行うことにより、主電極34aに対向する圧電体32の中心領域32a(すなわち、音響レンズ31の中心領域31aに対向する領域)及び副電極34bに対向する圧電体32の周辺領域32b(すなわち、音響レンズ31の周辺領域31bに対向する領域)をそれぞれ個別に駆動することができる。
かくして、主電極34aを介して該主電極34aに対向する圧電体32の中心領域32aを駆動させることにより、この中心領域32aにおいて発生した音波を音響レンズ31の中心領域31aを介してその焦点F1に集束させることができ、またこれに対して、副電極34bを介して該副電極34bに対向する圧電体32の周辺領域32bを駆動させることにより、この周辺領域32bにおいて発生した音波を音響レンズ31の周辺領域31bを介してその焦点F2に集束させることができる。
すなわち、主電極34aに駆動信号を供給することにより、インクの液面24a(図3)の上方に音波を集束させることができ、また、副電極34bに駆動信号を供給することにより、インクの液面24aの下方に音波を集束させることができる。なお、主電極34a及び副電極34bに対して同時に駆動信号を供給して、圧電体32の中心領域32a及び周辺領域32bを同時に駆動するようにしてもよい。
かかる構成のインクジェットヘッド20を備えたインクジェット記録装置10において、制御部15(図1)は、駆動部13を介してプラテンローラ11を回転制御することにより、該プラテンローラ11に巻き付けられたシート12を位置決めすると共に、駆動部22を介してインクジェットヘッド20を移動制御することにより、シート12の所定位置にインクジェットヘッド20を対向させることができる。
この状態において、制御部15は、駆動回路35を介してインクジェットヘッド20に駆動信号を供給することにより、インクジェットヘッド20からインクの液滴24cを吐出させてシート12の表面に着弾させるようになされている。この場合、インクジェットヘッド20の駆動回路35は、図3について上述した主電極34a及び副電極34bに対する駆動信号の出力タイミングを種々設定することにより、これらの電極に対応した圧電体32の駆動領域(中心領域32a及び周辺領域32b)をそれぞれ個別に任意のタイミングで駆動させることができる。すなわち、駆動回路35によるこれらの制御により、圧電体32から発せられる音波の集束位置を焦点F1及びF2に切り換えることができる。
以下、駆動回路35の詳細について説明する。図5に示すように、駆動回路35において、ラインメモリ37は、画像処理部23から供給される画像記録データD12を1ライン分ずつ格納する。ラインメモリ37に格納された画像記録データは、インク液滴の1回の吐出(1つの液滴)に同期させるためにタイミング発生部38から出力されるクロックCKに同期して読み出される。ラッチ回路39は、クロックCKに同期したクロックLDのタイミングにより、ラインメモリ37からの画像記録データを格納する。クロックLDの出力周期は、インクジェットヘッド20からのインクの吐出周期と同期している。なお、制御部15(図1)は、プラテンローラ11の回転やインクジェットヘッド20の移動に応じてインクの液滴24cを吐出させるべく、制御信号(図示せず)を駆動回路35に出力するようになされており、駆動回路35のタイミング発生部38は、制御部15からの制御信号に基づいて、クロックCK、LDや後述するイネーブル信号EN1、EN2を出力するようになされている。
この実施の形態の場合、ラッチ回路39に格納された1回の吐出分の画像記録データが「1」の場合には、吐出タイミングでインクを吐出し、「0」の場合には吐出タイミングでインクを吐出しないものとする。因みに、吐出タイミングとは、画像記録データの内容(「1」又は「0」)に関わらず、一定の時間間隔で設定されたタイミングであり、この吐出タイミングごとに画像記録データの内容に応じて、「1」の場合には実際に液滴24cを吐出させ、「0」の場合には吐出させないような制御を行うものである。
実際に液滴24cを吐出させる場合、タイミング発生部38から出力される第1のイネーブル信号EN1が「1」のときに第1の論理積回路41を介してドライバ素子43が駆動され、これにより信号源36から50MHz程度の高周波信号RFが駆動信号S1として副電極34b(図3)に出力される。この駆動信号S1により副電極34bを介して圧電体32の周辺領域32bが駆動される。また同様にして、タイミング発生部38から出力される第2のイネーブル信号EN2が「1」のときに第2の論理積回路42を介してドライバ素子44が駆動され、これにより信号源36から50MHz程度の高周波信号RFが駆動信号S2として主電極34a(図3)に出力される。この駆動信号S2により主電極34aを介して圧電体32の中心領域32aが駆動される。
図6は、駆動回路35の動作を説明する信号波形図であり、時点t1においてクロックLD(図6(A))がタイミング発生部38から出力されると、これに応じてラッチ回路39に格納されている吐出1回分の画像記録データDATA(図6(B))が読み出されると共に、時点t2において第1のイネーブル信号EN1(図6(C))が出力されることにより、この時点t2において、高周波信号RFが(図6(E))がバースト状の駆動信号S1としてドライバ素子43から出力される(図6(F))。この駆動信号S1は、第1のイネーブル信号EN1が出力される間(時点t2〜t3)において出力される。ここで、タイミング発生部38において、第2のイネーブル信号EN2は、第1のイネーブル信号EN1に対して出力タイミングがずれるように設定されている。すなわち、第1のイネーブル信号EN1の出力が完了する時点t3において、この第1のイネーブル信号EN1に続いて第2のイネーブル信号EN2(図6(D))が出力されることにより、この時点t3において、高周波信号RF(図6(E))がバースト状の駆動信号S2としてドライバ素子44から出力される(図6(F))。この駆動信号S2は、第2のイネーブル信号EN2が出力される間(時点t3〜t4)において出力される。かかる駆動信号S1及びS2の一連の出力動作(時点t2〜t4)により、1つの液滴24cが吐出されることになる。このように、駆動回路35においては、インク液滴の1回の吐出に際して、バースト状の駆動信号S1及びS2をタイミングをずらして連続して出力することにより、メニスカス24bが形成される前のフラットな液面24aに対して、駆動信号S1によって該液面24aの下方(液面24aに対して音響レンズ31側)の焦点F2に音波が集束した後、これに続いて、駆動信号S1に代わる駆動信号S2により焦点F2よりも上方の焦点F1に音波が集束することになる。
このような制御により、図7(A)に示すように、まず第1のイネーブル信号EN1に基づいて出力される駆動信号S1によって焦点F2に音波が集束する。このように液面24aの下方の焦点F2に音波が集束すると、図7(B)に示すように、その音波の圧力によって、インクの液面24aにメニスカス24bが形成される。
そして、図8(A)に示すように、第1のイネーブル信号EN1に代えて第2のイネーブル信号EN2を出力することにより、該第2のイネーブル信号EN2に基づく駆動信号S2によって上方の焦点F1に音波を集束させる。ここで、焦点F1は、メニスカス24bの形成によって上昇した液面24aの下方であって該液面24aから大きく離れない位置となる。すなわち、はじめの焦点F2に音波が集束することにより液面24aが上昇することに応じて、焦点F2から焦点F1に音波の集束位置を変化させることで、液面24aとその下方の焦点位置との間隔を適切な間隔に保つことができる。
この結果、メニスカス24bが形成された場合において、その先端部の液面24aと焦点位置との間隔が大きくなることを回避することができ、この結果、図8(B)に示すように、メニスカス24bの先端部分から液滴24cを安定に飛翔させることができる。なお、本実施の形態においては、インク液滴の吐出周期を100マイクロ秒とすると、第1のイネーブル信号EN1の出力時間幅(t2〜t3)は2マイクロ秒程度であり、また第2のイネーブル信号EN2の出力時間幅(t3〜t4)は6マイクロ秒程度である。但し、これらの時間幅は、使用するインクの物性やインクの液滴を吐出させる周期等によって種々の時間幅を適用するものである。
図9は、駆動回路35による液滴の吐出処理手順を示し、駆動回路35は、制御部15(図1)からプリント開始の指示が入力されると、ステップST1においてインクの液滴を吐出させるか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、例えばプラテンローラ11(図1)とインクジェットヘッド20との相対位置が未だ吐出位置に位置決めされていない等により、吐出タイミングではないことを意味しており、駆動回路35はこのステップST1において肯定結果が得られるまで判断を繰り返す。
これに対してステップST1において肯定結果が得られると、インクの液滴を吐出するタイミングであることを意味しており、駆動回路35は、ステップST1からステップST2に移って、第1のイネーブル信号EN1によって駆動信号S1を出力することにより、焦点F2に音波を集束させてメニスカス24b(図2)を形成することにより液面24aを上昇させる(図7(A)、(B))。
そして、駆動回路35は、ステップST3において、第2のイネーブル信号EN2によって駆動信号S2を出力することにより、焦点F1に音波を集束させてメニスカス24bの先端から液滴24cを飛翔させる。これによりインクジェットヘッド20からインクの液滴24cを吐出させてシート12(図1)の所定位置に着弾させることができる。
液滴24cの1回の吐出が終了すると、駆動回路35はステップST4に移って、シート12に対するインクの塗布が終了したか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、シート12に対する全ての塗布が終了していないことを意味しており、駆動回路35は、ステップST4から上述のステップST1に戻って、次の塗布位置での液滴24cの吐出を実行する。
これに対してステップST4において肯定結果が得られると、このことは、シート12に対する全ての塗布が終了したことを意味しており、駆動回路35はこの吐出処理手順を終了する。
このように本実施の形態のインクジェット記録装置10は、インクジェットヘッド20において、第1の駆動信号S1によって液面を所定の高さまで盛り上げた後、第2の駆動信号S2によってインクの液滴24cを吐出させることにより、液滴24cを安定に飛翔させることができる。
(第2の実施の形態)
図10に示すように、本発明の第2の実施の形態にかかるインクジェット記録装置40は、図1について上述したインクジェット記録装置10と比べて、インクジェットヘッド20に設けられる駆動回路の構成及びインクの液滴の吐出方法が異なる。従って第1の実施の形態のインクジェット記録装置10と同一の部分には同一符号を付して、重複する説明は省略する。
インクジェットヘッド20においては、音波発生部30の駆動回路55によって圧電体を駆動することにより、インクの液滴24cを吐出させてシート12に着弾させるようになされている。
図5との対応部分に同一符号を付して示す図11において、駆動回路55は、ラッチ回路39に加えてラッチ回路59を備えている。このラッチ回路59には、クロックLDによってラッチ回路39から読み出されたデータが格納される。すなわち、ラッチ回路59には、前回のクロックLDのタイミングでの吐出の有無を「1」又は「0」で表すデータ(画像記録データDATA)が格納される。そして、このラッチ回路59に格納された画像記録データDATAは、次のタイミングのクロックLDによって前回の画像記録データDATA´として読み出され、反転回路56を介して第1の論理積回路41に入力される。
これにより、あるタイミングのクロックLDによってラッチ回路39から読み出される画像記録データDATAが「1」であって、このときラッチ回路59から読み出される前回の画像記録データDATA´が「0」の場合に、第1及び第2のイネーブル信号EN1、EN2のタイミングで第1及び第2の論理積回路41、42を介してドライブ素子43、44から順次駆動信号S1、S2が出力される。すなわち、前回吐出がなかった場合には、第1及び第2の駆動信号S1、S2が順次出力されることにより、音響レンズ31に近い焦点F2及び遠い焦点F1の順に音波を集束させるようになされている。これにより、前回吐出がなかった場合には、液面24aが初期のフラットな状態に戻ることになるが、この場合には、焦点F2に音波を集束させることで液面24aを盛り上げてメニスカス24bを形成した後、焦点F1に音波を集束させることで液滴24cを飛翔させることにより、安定に液滴24cを吐出させることができる。
これに対して、あるタイミングのクロックLDによってラッチ回路39から読み出される画像記録データDATAが「1」であって、このときラッチ回路59から読み出される前回の画像記録データDATA´が「1」の場合には、第1の論理積回路41へは反転回路56を介してデータ「0」が入力されるので第1の論理積回路41を介したドライブ素子43からは駆動信号が出力されず、第2の論理積回路42にはラッチ回路39からデータ「1」が入力されているので、該第2の論理積回路42を介して第2のドライブ素子44からの駆動信号S2のみが出力される。すなわち、前回吐出があった場合には、第2の駆動信号S2のみが出力されることにより、音響レンズ31から遠い焦点F1に音波が集束される。すなわち、前回吐出があった場合には、液面24aが盛り上がった状態となっており、これに応じて音響レンズ31から遠い焦点F1に音波を集束させることにより、盛り上がった液面24aとの間の距離が適切な焦点F1への音波の集束により、液滴24cを安定に飛翔させることができる。
図12は、以上説明した駆動回路55における吐出制御を示し、現在の吐出タイミングにおいて画像記録データDATAが「1」である場合(現在吐出ON)であって、前回(直前)の吐出タイミングにおいて画像記録データDATA´が「0」であった場合(前回吐出OFF)、上述したように音響レンズ31に近い焦点F2に音波を集束させた後、遠い焦点F1に集束位置を移動させる(近→遠:2段階駆動)。これに対して、現在の吐出タイミングにおいて画像記録データDATAが「1」である場合(現在吐出ON)であって、前回の吐出タイミングにおいて画像記録データDATA´が「1」であった場合(前回吐出ON)、上述したように音響レンズ31から遠い焦点F1のみで音波を集束させる(遠焦点駆動)。因みに、現在の吐出タイミングにおいて画像記録データDATAが「0」である場合(現在吐出OFF)には、前回の吐出タイミングにおける画像記録データDATA´が「1」、「0」のいずれであっても、駆動信号S1、S2は出力しないことになる(非駆動)。
駆動回路55においては、このような制御により、図13に示すようなタイミングで駆動信号S1、S2が出力される。すなわち、現在の画像記録データDATAが「1」であって、前回の画像記録データDATA´が「0」である場合、時点t2〜t3においてイネーブル信号EN1によって駆動信号S1が第1のドライブ素子41から出力され、さらに時点t3〜t4においてイネーブル信号EN2によって駆動信号S2が第2のドライブ素子42から出力される。これにより、駆動信号S1によってフラットな液面24aにメニスカス24bを形成した後、このメニスカス24bの形成によって盛り上がった液面24aに対応して焦点位置を変化させるべく駆動信号S2を出力することができる。
これに対して、現在の画像記録データDATAが「1」であって、前回の画像記録データDATA´が「1」である場合、時点t6〜t7においてイネーブル信号EN1が出力されても第1の論理積回路41の入力段に「0」入力があることにより第1のドライブ素子43から駆動信号S1は出力されず、時点t7〜t8においてイネーブル信号EN2によって駆動信号S2が第2のドライブ素子42から出力される。
さらに、現在の画像記録データDATAが「0」である場合には、前回の画像記録データDATA´が「1」、「0」のいずれであっても論理積回路41、42の各入力段に少なくとも1つの「0」入力があることにより、第1及び第2のドライブ素子43、44のいずれからも駆動信号は出力されない。
このように、本実施の形態においては、駆動回路55の構成により、液面24aの高さに応じて音波の集束位置を焦点F2(近焦点)又はF1(遠焦点)に切り換えることができ、液滴24cの安定した吐出を実現することができる。
ここで、図14は、上述した液滴24cの吐出処理をソフトウエアにより処理する場合の処理手順を示すフローチャートである。この場合、図11に示した駆動回路55に代えて、例えば、画像記録データDATAの内容(吐出の有無)に応じて駆動信号S1、S2を制御可能な駆動回路を用いる。
図14に示すように、この駆動回路は、制御部15(図10)からプリント開始の指示が入力されると、ステップST11において初期状態を表す「Flag=Off」とした後、ステップST12においてインクの液滴を吐出させるか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、例えばプラテンローラ11(図10)とインクジェットヘッド20との相対位置が未だ吐出位置に位置決めされていないことにより、吐出タイミングではないことを意味しており、駆動回路はこのステップST12において否定結果を得ることにより、ステップST13に移って、「Flag=Off」を維持した後、ステップS12を繰り返す。
これに対してステップST12において肯定結果が得られると、このことは、インクの液滴を吐出するタイミングであることを意味しており、駆動回路は、ステップST12からステップST14に移って、「Flag=Off」であるか否かを判断する。このステップST14において肯定結果が得られると、このことは、直前の吐出タイミングで吐出が行われていない状態であり、液面24aがフラットな状態にあることを意味しており、駆動回路は、ステップST14からステップST15に移って、第1の駆動信号S1(図3)を副電極34bに出力することにより、焦点F2(図3)に音波を集束させて近焦点駆動を行う。そして、続くステップST16において、駆動信号S1に代えて駆動信号S2を主電極34aに出力することにより、焦点F1に音波を集束させて遠焦点駆動を行う。
一方、ステップST14において否定結果が得られると、このことは、「Flag=Off」ではないこと、すなわち、直前の吐出タイミングで液滴24cが吐出されて液面24aが音響レンズ31から離れた方向に上昇している状態であることを意味しており、駆動回路は、このステップST14からステップST16に移って、近焦点駆動を行うことなく、駆動信号S2による遠焦点駆動を実行する。これにより、液面24aが上昇している状態においては、近焦点駆動によって液面24aを盛り上げる必要がないことを考慮して、直接遠焦点駆動を行うことで、液滴24cを安定に飛翔させることができる。
そしてステップST16における遠焦点駆動が終了すると、駆動回路は、ステップST17に移って、液滴24cの吐出処理をフラグに反映させるべく、「Flag=On」とした後、ステップST18に移って、インクの塗布が終了したか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、シート12(図10)に対する全ての塗布が終了していないことを意味しており、駆動回路は、ステップST18から上述のステップST12に戻って、次の塗布位置での液滴24cの吐出処理を実行する。
これに対してステップST18において肯定結果が得られると、このことは、シート12に対する全ての塗布が終了したことを意味しており、駆動回路はこの吐出処理手順を終了する。
このように、本処理手順によれば、初期状態又は直前の吐出タイミングで液滴24cを吐出しなかった場合を、液面24aがフラットな状態とみなして、この場合には近焦点駆動を行った後、遠焦点駆動を行うことにより、液面24aを盛り上げた後、その盛り上がった液面24aに対して適切な焦点位置(焦点F1)に音波を集束させることにより、液滴24cを安定に飛翔させることができる。また、初期状態ではなく、直前の吐出タイミングで液滴24cを吐出した場合を、液面24cが盛り上がっている状態とみなして、この場合には液面24aを盛り上げる必要がないことにより、近焦点駆動を行うことなく、直接遠焦点駆動を行うことにより、安定に液滴24cを飛翔させることができる。
以上説明した液滴24cの吐出処理においては、液面24aの位置を前回の吐出タイミングで吐出を行ったか否かによって判断する場合について述べたが、本発明はこれに限られるものではなく、液面24aの高さに基づいて近焦点駆動及び遠焦点駆動を使い分けるようにしてもよい。
この場合、図15に示すように、現在の吐出タイミングにおいて画像記録データDATAが「1」である場合(現在吐出ON)であって、液面高さが低い(音響レンズ31に近い)場合、音響レンズ31に近い焦点F2に音波を集束させた後、遠い焦点F1に集束位置を移動させる(近→遠:2段階駆動)。これに対して、現在の吐出タイミングにおいて画像記録データDATAが「1」である場合(現在吐出ON)であって、液面高さが高い(音響レンズ31から遠い)場合、音響レンズ31から遠い焦点F1のみで音波を集束させる(遠焦点駆動)。因みに、現在の吐出タイミングにおいて画像記録データDATAが「0」である場合(現在吐出OFF)には、液面高さによらず、駆動信号S1、S2は出力しないことになる(非駆動)。
図16は、液面24aの変位のモデルを示し、ある時刻で吐出を行うと液面24aの高さがHupだけ上昇し、吐出がない場合には液面24aの高さがHdownだけ減少するモデルである。この図では、液面24aの高さが4段階に変位するものとしている。液面上昇に比べて液面下降は緩やかな場合を想定している。液面24aの高さには上限があるため、高さの上限Hmaxよりも液面24aは高くならない。なお、かかる液面変位のモデルから、所定の閾値Hthよりも液面24aが下の場合には、液面24aが初期位置H0であるとし、一方、所定の閾値Hthよりも液面24aが上の場合には、液面24aが上限位置Hmaxにあるとして簡略化した場合、すなわち、Hmax=1、H0=0、Hup=1、Hdown=1、Hth=0.5として仮定した場合は、図14に示した処理手順となる。
なお、このモデルは、使用するインクの物性やインク室の形状あるいはインクの吐出周期や圧電体の駆動電圧等によって変化するものである。
図17は、液面24aの高さに基づいて液滴24cの吐出制御を行うためのフローチャートである。
図17に示すように、駆動回路は、制御部15(図10)からプリント開始の指示が入力されると、ステップST21において液面24aの初期状態を表す「H=H0」とした後、ステップST22においてインクの液滴を吐出させるか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、例えばプラテンローラ11(図10)とインクジェットヘッド20との相対位置が未だ吐出位置に位置決めされていない等により、吐出タイミングではないことを意味しており、駆動回路はこのステップST22において否定結果を得ることにより、ステップST23に移って、吐出しない場合の液面24aの下降分Hdownを用いて「H=H−Hdown」とする。但し、H<H0の場合には、H=H0とする。そしてステップST22に戻る。
これに対してステップST22において肯定結果が得られると、このことは、インクの液滴を吐出するタイミングであることを意味しており、駆動回路は、ステップST22からステップST24に移って、「H<Hth」であるか否かを判断する。このステップST24において肯定結果が得られると、このことは、液面24aが閾値Hthよりも低いことを意味している。従ってこの場合、駆動回路は、ステップST24からステップST25に移って、第1の駆動信号S1(図3)を副電極34bに出力することにより、焦点F2(図3)に音波を集束させて近焦点駆動を行う。そして、続くステップST26において、駆動信号S1に代えて駆動信号S2を主電極34aに出力することにより、焦点F1に音波を集束させて遠焦点駆動を行う。
一方、ステップST24において否定結果が得られると、このことは、「H<Hth」ではないこと、すなわち、液面24aが閾値Hthよりも高いことを意味しており、駆動回路は、このステップST24からステップST26に移って、近焦点駆動を行うことなく、駆動信号S2による遠焦点駆動を実行する。これにより、液面24aが上昇している状態においては、近焦点駆動によって液面24aを盛り上げる必要がないことを考慮して、直接遠焦点駆動を行うことで、液滴24cを安定に飛翔させることができる。
そしてステップST26における遠焦点駆動が終了すると、駆動回路は、ステップST27に移って、液滴24cが吐出されたことに応じて、吐出による液面24aの上昇分Hupを加えるべく、「H=H+Hup」とする。但し、H>Hmaxならば、H=Hmaxとする。
そして、駆動回路は、ステップST28に移って、インクの塗布が終了したか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、シート12(図10)に対する全ての塗布が終了していないことを意味しており、駆動回路は、ステップST28から上述のステップST22に戻って、次の塗布位置での液滴24cの吐出処理を実行する。
これに対してステップST28において肯定結果が得られると、このことは、シート12に対する全ての塗布が終了したことを意味しており、駆動回路はこの吐出処理手順を終了する。
このように、本処理手順によれば、液面24aの高さに応じて近焦点駆動及び遠焦点駆動を使い分けることにより、液面24aの高さに応じた適切な位置に音波を集束させることができ、液滴24cを安定に飛翔させることができる。
なお、図17に示す処理においては、液滴24cを吐出させた場合の液面24aの上昇分Hup及び、吐出しない場合の液面24aの下降分Hdownを予め設定しているが、これに代えて、液面24aの高さを直接測定し、この測定結果に基づいて上述のステップST24における判定を行うようにしてもよい。この場合には、例えば、圧電体32から発せられた音波が液面24aで反射して戻ってくることを利用して、この反射波を圧電体32によって受け取って電気信号に変換するようにすればよい。
(第3の実施の形態)
図18に示すように、本発明の第3の実施の形態にかかるインクジェット記録装置60は、図10について上述したインクジェット記録装置40と比べて、インクジェットヘッド20に設けられる駆動回路の構成及びインクの液滴の吐出方法が異なる。従って第2の実施の形態のインクジェット記録装置40と同一の部分には同一符号を付して、重複する説明は省略する。
インクジェットヘッド20においては、音波発生部30の駆動回路75によって圧電体を駆動することにより、インクの液滴24cを吐出させてシート12に着弾させるようになされている。
本実施の形態の駆動回路75は、図19に示すように、図11について上述した駆動回路55に対して、ラッチ回路59からの出力が論理積回路42にも入力されている点が異なるとともに、タイミング発生部78による第1及び第2のイネーブル信号EN1及びEN2の出力制御が異なり、それ以外の構成は同様となっている。
すなわち、図20に示すように、タイミング発生部78は、例えば時点t2(t6、t10)において第1のイネーブル信号EN1を出力した後、時点t3(t7、t11)において、第1のイネーブル信号EN1を出力したまま、第2のイネーブル信号EN2を出力する。これにより、前回の画像記録データDATA´が「0」であり、今回の画像記録データDATAが「1」である場合には、第1の論理積回路41の入力段には前回の画像記録データDATA´である「0」が反転回路56によって反転された「1」が入力されるのに対して、第2の論理積回路42の入力段には、前回の画像記録データDATA´である「0」がそのまま入力されることにより、第1のイネーブル信号EN1に対応して駆動信号S1のみが時点t2〜t4の間に出力されることになる。
これに対して、前回の画像記録データDATA´が「1」であり、今回の画像記録データDATAも同様に「1」である場合には、第1の論理積回路41の入力段には前回の画像記録データDATA´である「1」が反転回路56によって反転された「0」が入力されるのに対して、第2の論理積回路42の入力段には、前回の画像記録データDATA´である「1」がそのまま入力されることにより、第2のイネーブル信号EN2に対応して駆動信号S2のみが時点t7〜t8の間に出力されることになる。
これにより図21に示すように、駆動回路75における吐出制御では、現在の吐出タイミングにおいて画像記録データDATAが「1」である場合(現在吐出ON)であって、前回(直前)の吐出タイミングにおいて画像記録データDATA´が「0」であった場合(前回吐出OFF)、上述したように近焦点駆動のみを行う。これに対して、現在の吐出タイミングにおいて画像記録データDATAが「1」である場合(現在吐出ON)であって、前回の吐出タイミングにおいて画像記録データDATA´が「1」であった場合(前回吐出ON)、上述したように遠焦点駆動のみを行う。因みに、現在の吐出タイミングにおいて画像記録データDATAが「0」である場合(現在吐出OFF)には、前回の吐出タイミングにおける画像記録データDATA´が「1」、「0」のいずれであっても、駆動信号S1、S2は出力しないことになる(非駆動)。
このように駆動回路75では、前回の吐出タイミングにおける吐出の有無に応じて、遠焦点駆動又は近焦点駆動のいずれかを選択することにより、前回の吐出がなかった場合には、液面24a(図3)がフラットな状態であることに応じて、音波を近焦点(焦点F2)に集束させることができ、フラットな液面24aに対して適切な位置から液面24aを盛り上げて液滴24cを飛翔させることができる。これに対して、前回の吐出があった場合には、液面24aが盛り上がった状態であることに応じて、この盛り上がった液面24aに対して適切な位置(遠焦点(焦点F1))に音波を集束させることができ、液滴24cを安定に飛翔させることができる。
なお、本実施の形態にかかる駆動回路75のタイミング発生部78においては、図20に示すように、第1のイネーブル信号EN1を第2のイネーブル信号EN2よりも長い時間出力するようになされている。このような出力制御を行うことにより、図20に示すように、近焦点駆動のみを行う場合(時点t2〜t4)には、遠焦点駆動のみを行う場合(時点t7〜t8)に比べて、長い時間駆動する駆動信号S1を出力することができる。これにより、前回の吐出タイミングで吐出が行われなかった場合には、液面24aがフラットな状態に応じてこの液面24aを盛り上げた後にさらに液滴24cを確実に飛翔させることができる。
このように、本実施の形態においては、駆動回路75の構成により、液面24aの高さに応じて音波の集束位置を焦点F2(近焦点)又はF1(遠焦点)に切り換えることができ、液滴24cの安定した吐出を実現することができる。
なお、図20においては、第1のイネーブル信号EN1を第2のイネーブル信号EN2よりも長い時間出力する場合について述べたが、これらの出力時間を同じにしてもよい。このようにすれば、1つのイネーブル信号を生成するだけでよく、この分ハード構成を簡単にすることができる。
また、第1及び第2のイネーブル信号EN1、EN2の出力時間の長さが異なるようにする場合には、液滴24cの吐出タイミングを一致させるために、図20に示したように第1及び第2のイネーブル信号EN1、EN2の終了時刻を一致させることが望ましい。
ここで、図22は、上述した液滴24cの吐出処理をソフトウエアにより処理する場合の処理手順を示すフローチャートである。この場合、図19に示した駆動回路75に代えて、例えば、画像記録データDATAの内容(吐出の有無)に応じて駆動信号S1、S2を制御可能な駆動回路を用いる。
図22に示すように、この駆動回路は、制御部15(図18)からプリント開始の指示が入力されると、ステップST31において初期状態を表す「Flag=Off」とした後、ステップST32においてインクの液滴を吐出させるか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、例えばプラテンローラ11(図18)とインクジェットヘッド20との相対位置が未だ吐出位置に位置決めされていない等により、吐出タイミングではないことを意味しており、駆動回路はこのステップST32において否定結果を得ることにより、ステップST33に移って、「Flag=Off」を維持した後、ステップST32を繰り返す。
これに対してステップST32において肯定結果が得られると、このことは、インクの液滴を吐出するタイミングであることを意味しており、駆動回路は、ステップST32からステップST34に移って、「Flag=Off」であるか否かを判断する。このステップST34において肯定結果が得られると、このことは、直前の吐出タイミングで吐出が行われていない状態であり、液面24aがフラットな状態にあることを意味しており、駆動回路は、ステップST34からステップST35に移って、第1の駆動信号S1(図3)を副電極34bに出力することにより、焦点F2(図3)に音波を集束させて近焦点駆動を行う。
一方、ステップST34において否定結果が得られると、このことは、「Flag=Off」ではないこと、すなわち、直前の吐出タイミングで液滴24cが吐出されて液面24aが音響レンズ31から離れた方向に上昇している状態であることを意味しており、駆動回路は、このステップST34からステップST36に移って、駆動信号S2による遠焦点駆動を実行する。これにより、液面24aが上昇している状態においては、近焦点駆動によって液面24aを盛り上げる必要がないことを考慮して、直接遠焦点駆動を行うことで、液滴24cを安定に飛翔させることができる。
そして、ステップST35における近焦点駆動又はステップST36における遠焦点駆動が終了すると、駆動回路は、ステップST37に移って、液滴24cの吐出処理をフラグに反映させるべく、「Flag=On」とした後、ステップST38に移って、インクの塗布が終了したか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、シート12(図18)に対する全ての塗布が終了していないことを意味しており、駆動回路は、ステップST38から上述のステップST32に戻って、次の塗布位置での液滴24cの吐出処理を実行する。
これに対してステップST38において肯定結果が得られると、このことは、シート12に対する全ての塗布が終了したことを意味しており、駆動回路はこの吐出処理手順を終了する。
このように、本処理手順によれば、初期状態又は直前の吐出タイミングで液滴24cを吐出しなかった場合を、液面24aがフラットな状態とみなして、この場合には近焦点駆動を行うことにより、液面24aを盛り上げた後、液滴24cを飛翔させることができる。また、初期状態ではなく、直前の吐出タイミングで液滴24cを吐出した場合を、液面24cが盛り上がっている状態とみなして、この場合には液面24aを盛り上げる必要がないことにより、近焦点駆動を行うことなく、遠焦点駆動を行うことにより、安定に液滴24cを飛翔させることができる。
以上説明した液滴24cの吐出処理においては、液面24aの位置を前回の吐出タイミングで吐出を行ったか否かによって判断する場合について述べたが、本発明はこれに限られるものではなく、液面24aの高さに基づいて近焦点駆動及び遠焦点駆動を使い分けるようにしてもよい。
すなわち、図23に示すように、駆動回路は、制御部15(図18)からプリント開始の指示が入力されると、ステップST41において液面24aの初期状態を表す「H=H0」とした後、ステップST42においてインクの液滴を吐出させるか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、例えばプラテンローラ11(図18)とインクジェットヘッド20との相対位置が未だ吐出位置に位置決めされていない等により、吐出タイミングではないことを意味しており、駆動回路はこのステップST42において否定結果を得ることにより、ステップST43に移って、吐出しない場合の液面24aの下降分Hdownを用いて「H=H−Hdown」とする。但し、H<H0の場合には、H=H0とする。そしてステップST42に戻る。
これに対してステップST42において肯定結果が得られると、このことは、インクの液滴を吐出するタイミングであることを意味しており、駆動回路は、ステップST42からステップST44に移って、「H<Hth」であるか否かを判断する。このステップST44において肯定結果が得られると、このことは、液面24aが閾値Hthよりも低いことを意味している。従ってこの場合、駆動回路は、ステップST44からステップST45に移って、第1の駆動信号S1(図3)を副電極34bに出力することにより、焦点F2(図3)に音波を集束させて近焦点駆動を行う。
一方、ステップST44において否定結果が得られると、このことは、「H<Hth」ではないこと、すなわち、液面24aが閾値Hthよりも高いことを意味しており、駆動回路は、このステップST44からステップST46に移って、駆動信号S2による遠焦点駆動を実行する。これにより、液面24aが上昇している状態においては、近焦点駆動によって液面24aを盛り上げる必要がないことを考慮して、遠焦点駆動を行うことで、液滴24cを安定に飛翔させることができる。
そしてステップST45における近焦点駆動又はステップST46における遠焦点駆動が終了すると、駆動回路は、ステップST47に移って、液滴24cが吐出されたことに応じて、吐出による液面24aの上昇分Hupを加えるべく、「H=H+Hup」とする。但し、H>Hmaxならば、H=Hmaxとする。
そして、駆動回路は、ステップST48に移って、インクの塗布が終了したか否かを判断する。ここで否定結果が得られると、このことは、シート12(図18)に対する全ての塗布が終了していないことを意味しており、駆動回路は、ステップST48から上述のステップST42に戻って、次の塗布位置での液滴24cの吐出処理を実行する。
これに対してステップST48において肯定結果が得られると、このことは、シート12に対する全ての塗布が終了したことを意味しており、駆動回路はこの吐出処理手順を終了する。
このように、本処理手順によれば、液面24aの高さに応じて近焦点駆動及び遠焦点駆動を使い分けることにより、液面24aの高さに応じた適切な位置に音波を集束させることができ、液滴24cを安定に飛翔させることができる。
なお、図23に示す処理においては、液滴24cを吐出させた場合の液面24aの上昇分Hup及び、吐出しない場合の液面24aの下降分Hdownを予め設定しているが、これに代えて、液面24aの高さを直接測定し、この測定結果に基づいて上述のステップST44における判定を行うようにしてもよい。この場合には、例えば、圧電体32から発せられた音波が液面24aで反射して戻ってくることを利用して、この反射波を圧電体32によって受け取って電気信号に変換するようにすればよい。
(他の実施の形態)
なお上述の各実施の形態においては、1種類の高周波信号RFを用いる場合について述べたが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば図11との対応部分に同一符号を付して示す図24において、駆動回路95は、50MHz程度の高周波信号RF1、RF2を出力する第1及び第2の信号源36a及び36bを設け、第1及び第2のイネーブル信号EN1、EN2によってそれぞれの信号源36a、36bからの高周波信号RF1、RF2を出力制御するようになされている。このように信号源36a、36bを別個に設けることにより、例えば、第1の信号源36aの電圧を低くし、第2の信号源36bの電圧を高くすることで、近焦点駆動を低い電圧で行い、遠焦点駆動を高い電圧で行うようにすることができ、焦点位置に応じて駆動信号にかかる種々の設定を行うことができる。
また、上述の各実施の形態においては、一体の音響レンズ31の中心領域31aと周辺領域31bとで曲率を変化させて焦点位置を変える場合について述べたが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、図25に示すように、音響レンズ131として、中心領域131aと周辺領域131bとを別体で構成するようにしてもよい。この場合、中心領域131aと周辺領域131bの材質によって焦点位置を変えるようにすることもできる。
また、上述の各実施の形態においては、一体の圧電体32の中心領域32aと周辺領域32bとを個別に駆動する場合について述べたが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば、図26に示すように、圧電体32として、中心領域32a及び周辺領域32bを別体で形成するようにしてもよい。このようにすれば、一方の領域の振動が他方の領域に伝わることが回避して、一段と安定に液滴24cを飛翔させることができる。
また、上述の各実施の形態においては、液面下の液体側に音響波を集束させる場合について述べたが、本発明はこれに限られるものではなく、液面上の空間に音響波の集束位置を設定するようにしてもよい。このようにすれば、図27(A)、(B)、(C)に示すように、音響波の焦点位置F3を変化させずに液面24aを盛り上げてメニスカス24bを形成しながら、その先端部から液滴24cを飛翔させることができる。このようにすれば、高速で液滴を吐出させる場合に、常に液面24aが盛り上がることに応じた位置(焦点F3)に音響波が集束することになるので、液滴24cの安定した吐出を実現することができる。また、音響レンズ231としては、単一の焦点F3を有する構成とすると共に、圧電体232においても、音響レンズ231全体に対して共通の電極を持つだけの簡単な構成でインクジェットヘッドを実現することが可能となる。
また、上述の各実施の形態においては、音響レンズ31、131として凹レンズを用いる場合について述べたが、本発明はこれに限られるものではなく、例えばフレネル輪帯理論に基づいたフレネルレンズを用いるようにしてもよい。
また、上述の各実施の形態においては、インクの液滴24cを上方に向かって吐出させる場合について述べたが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば図1との対応部分に同一符号を付した図28に示すように、液滴24cを下方に向けて吐出するようにしてもよい。このインクジェット記録装置300は、ステージ302上にインクの塗布対象である基板303を載せ、この基板303の表面にインクの液滴24cを吐出させることにより、パターン305を形成する。ステージ302は、X−Y平面内を移動自在に支持されており、駆動部13からの駆動信号によって移動される。またインクジェットヘッド20は、駆動部22からの駆動信号によってX−Y平面内を移動し得るようになされている。かくして、基板303とインクジェットヘッド20との相対位置を変えながら、画像処理部23から出力される画像記録データD12によってインクの液滴24cを下方に吐出させることにより、基板303の表面の所定位置に目的とするパターン305を形成することができる。このように、ステージ302を用いることにより、図1、図10、図18のプラテンローラ11を用いた場合では扱いにくい、硬さや厚みのある基板やカード等への記録に対応することができる。