JP4677138B2 - 植物の根域制限剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、イネ、野菜、花卉、果樹、緑化木などの植物の育苗および栽培における根域を制限して、根巻きを防止し、分岐した細根の発生、生育を促進し、定植作業の効率向上および定植後の生育速度を向上させ、作物収量の増加または作物の出荷までの生育期間を短縮することができるようにした根域制限剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、多数の農作物、園芸植物、植木、植林などにおいて、栽培の効率化を図るため、いったん、別の容器に種を撒き、芽を出した苗をある程度まで育成させてから、田畑、庭、山地などの別の土地に植え替えて栽培することが行われている。
しかしながら、セルトレー、育苗箱、ポットなどの苗育成用容器で苗を育成すると苗の根が無制限に伸長することによる植え替え操作上あるいは植え替え後の苗の生育上の不都合が発生するおそれがあった。
【0003】
たとえば、レタス、ハクサイ、キャベツ、花卉などは、いったん、格子状に分割されたセルトレーに播種し、苗を育成するセル成形育苗が増加してきている。このような育苗では、苗の根が無制限に伸長し、苗育成用容器の中で容器壁の内面に沿ってコイル状に根巻き(ルーピング)を起こす。そのため、培土内部の養分吸収が不十分になったり、植え替え時のセルトレーから苗を引き抜く作業が困難となる。また、植え替え後の新しい根の発根が抑制されるため、苗の活着が悪くなったり、苗の生育速度が遅くなり栽培期間が長くなる障害が発生するおそれがあった。
【0004】
また、たとえば、苗箱を用いたイネ育苗では、根が苗箱の底から外に伸びて絡み付き、田植え時に苗箱から苗を取り出すことを困難にし、作業上の支障が生じるおそれがあった。
さらに、農作物、花卉、果樹、緑化木などの苗木および成木の容器栽培においては、容器内壁に沿って根が根巻きを起こすため根腐れを起こし、栽培効率を著しく害したりするおそれがあった。
その他、上記の各種例示した問題点以外に、建物の屋上などで樹木などの植物を育成する場合、植物の根がコンクリートやアスファルト構造物の隙間から入り込み、ひび割れを拡大することにより雨漏りを発生させたり、建物を劣化させたりするおそれがある。また、地中に埋設した排水管のすきまから植物根が侵入し、排水管を詰まらせたり、破損させたりするおそれがある。これらを未然に防止するため、簡便、安価で、しかも高い根域制限効果が持続する対策が求められている。
【0005】
このような問題点を解決するため、苗などの育成の際に、太い根の先端の生長を一定の範囲で停止し、その根元から分岐する細根の成長を促進する方法が、既にいくつか知られている。すなわち、塩化ビニル化合物に硫酸銅やナフテン酸銅を混合し、栽培容器の表面に塗布したり(California Agriculture,26,12,10〜11,1972)、水酸化第二銅を栽培容器(特許第2561206号公報)、シート(特許第2561207号公報)、または育苗用ポットトレー(特許第2561208号公報)の表面または内部に含有させる方法などが知られている。
しかしながら、これら公知の方法に用いられる無機銅化合物をセルトレーなどに処理して苗を栽培すると、処理しない場合に比べて地上部の生育が劣ったり、移植後の活着が悪くなったり、生育が遅れることがある。また、水酸化第二銅を用いた場合、製品の価格が高価であることなどから、幅広い用途に使用し難いなどの問題点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような事情の下で、育苗および栽培に際し、植物の生育を阻害することなく根の伸長する範囲を制限して根巻き状態を回避しながら、分岐根の発生を促し、定植または移植後には根域制限効果が速やかに除去されて、移植後の苗の活着および生育をより良好にする優れた効果を発揮し、作物や人畜に安全性が高く、環境適合性があり、より安価に製造し得る根域制限剤を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的に合致した根域制限剤を提供するために種々の脂肪酸銅化合物について根域制限効果を検討した。その結果、ステアリン酸銅など炭素数16以上の長鎖脂肪酸銅化合物では根域制限効果が弱く、炭素数4以下の脂肪酸銅化合物では、水溶性が高く、植物に対して薬害が強く現れた。ところが、炭素数6〜14(Rとしては炭素数5〜13)の中程度の鎖長の脂肪酸の銅塩(脂肪酸銅化合物)、特にカプリン酸銅およびラウリン酸銅は、苗の根の先端の生長を脂肪酸銅化合物を処理した面と接触した所でのみ停止する作用を有し、その他の根の生長には全く影響を与えず、分岐した細根の発生、生育を促進し、同時に、地上部の生育に対する影響も全く認められないことも見い出した。また、植え替え後、根域制限効果は速やかに除去され細根が十分発達していることより苗の活着がよく、旺盛な根生育のために、苗の生育も良好となることを見出し、本発明に想到した。
【0008】
一方、これまで公知の方法で用いられている無機銅化合物は、水および有機溶剤にはほとんどか、もしくは全く溶けないため、微粉末の分散液で処理するしかなかった。しかし、本発明で用いる脂肪酸銅化合物は、同様に、水には全く溶けず、ほとんどの有機溶剤に対しても全くあるいは極僅かしか溶けないものの、テトラヒドロフラン、ジオキサンなど一部の有機溶剤には良好に溶解し、育苗ポット、栽培ポット、セルトレー、コンテナ(角形、円筒形などの大型栽培容器)、不織布容器、シートなどの表面に噴霧処理したり、ローラーなどで塗布することにより、より均一で、より薄い被膜としてコーティングすることが可能となることをも見出した。
また、本発明の脂肪酸銅化合物は、滑沢性粉末であるため、プラスチック成型時の離型剤として用いたり、プラスチックシートに表面処理し、金型で成型する際に成型時の加熱により熔融し、プラスチック製品の表面にコーティングすることも可能である。
【0009】
このようにして、本発明者らは、脂肪酸銅化合物を主成分とし、育苗ポット、栽培ポット、セルトレー、コンテナ、不織布容器、シートなどの農園芸用資材の内面あるいは材質の内部に含有させたり、または、シートの表面あるいは材質の内部に含有させることにより、これらを用いて生育させた植物の根域を制御できる根域制限剤の発明を完成するに至った。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る根域制限剤の実施の形態について、さらに具体的に説明する。
本発明者らは、公知の根域制限剤では得られない効果を有する化合物を広範に探索した結果、水に不溶性で、本化合物と接触した根の生長先端の生長のみを選択的に停止させ、根の分岐と細根の発生を促進し、植物体地上部の生育は抑制しない性質を有し、しかも人畜に対する安全性が高く、環境適合性のある化合物を、上記したように見出した。
【0011】
本発明に係る根域制限剤は、一般式(I)
(RCOO)2 Cu (I)
(式中Rは炭素数5〜13の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、または直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基を表す。)にて示される少なくとも一種の脂肪酸銅塩を有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
上記一般式の表記において、RCOO−の置換基が由来する脂肪酸の例としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、2−エチルへキサン酸、ネオデカン酸、イソラウリン酸などの飽和脂肪酸および2−ヘキセン酸、ソルビン酸、トウハク酸、ウンデシレン酸、ツズ酸などの不飽和脂肪酸が挙げられる。その他、カプリン酸、ラウリン酸などの上記脂肪酸を主成分とするヤシ油脂肪酸、パーム核油脂肪酸などの植物あるいは動物油脂の脂肪酸混合物でもよい。
【0013】
このような脂肪酸銅化合物としては、具体的には、例えば、表1にまとめて示すように、カプロン酸銅(化合物番号1)、エナント酸銅(化合物番号2)、カプリル酸銅(化合物番号3)、ペラルゴン酸銅(化合物番号4)、カプリン酸銅(化合物番号5)、ウンデシル酸銅(化合物番号6)、ラウリン酸銅(化合物番号7)、ミリスチン酸銅(化合物番号8)、2−エチルへキサン酸銅(化合物番号9)、ソルビン酸銅(化合物番号10)、ウンデシレン酸銅(化合物番号11)、ヤシ油脂肪酸銅(化合物番号12)、パーム核油脂肪酸銅(化合物番号13)などが挙げられる。
このような脂肪酸銅化合物は、本発明の根域制限剤中に1種または2種以上含まれていてもよい。
上記に例示した脂肪酸銅化合物を表1にまとめて示す。
【0014】
【表1】
【0015】
上記表1の中で化合物番号3〜7および9〜12が根域制限効果がさらに優れるため好ましい。特に、作用効果の点、表面処理あるいは材質に含有させる操作の容易性の点、製造操作の容易性、および製造価格の点から化合物番号5(カプリン酸銅)、化合物番号7(ラウリン酸銅)および化合物番号12(ヤシ油脂肪酸銅)が適している。
上記化合物番号は、後述する実施例、試験例でも参照される。
【0016】
脂肪酸銅の製造
脂肪酸銅化合物は、文献などに記載の従来より公知の方法にて製造できる(金属せっけんの性質と応用、11頁〜24頁、1988年)。
例えば、下記反応式で示すように、各種脂肪酸ナトリウムの水溶液に、塩化銅水溶液を脂肪酸に対して銅として1/2当量になるように加えて、必要に応じて加熱して反応させることにより好適に製造できる(複分解法)。
2RCOONa+CuCl2 →(RCOO)2Cu+2NaCl
なお、上記塩化銅に代えて、硫酸銅あるいは酢酸銅などを用いてもよい。
また、下記反応式で示すように、各種脂肪酸と酸化銅を2:1の当量比で混合し、無溶媒あるいはキシレンなどの溶媒存在下で加熱反応させることによっても好適に製造できる(溶融法)。
2RCOOH + CuO → (RCOO)2Cu + H2O
なお、上記酸化銅に代えて、亜酸化銅あるいは水酸化銅などを用いてもよい。
【0017】
根域制限剤の適用方法
これらの脂肪酸銅化合物は、水に不溶性であるため、使用中に水に溶解して効力が低下することはない。また、これらの脂肪酸銅化合物は、微粉末の化合物のままか、あるいはこの微粉末と水溶性高分子を混合した懸濁分散状または脂肪酸銅化合物を適当な溶剤に溶かした溶液状あるいは懸濁分散状で使用し、農園芸用資材に対して少量の添加で均一に根域制限活性を付与することができる。農園芸用資材としては、具体的には、育苗ポット、栽培ポット、セルトレー、コンテナ、不織布容器、植木鉢、プランターあるいはシートを挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、また大きさ、形状も制限されない。
本発明の根域制限剤は使用する担体の表面あるいは内部全体に脂肪酸銅化合物を保持させるものであるが、その保持の方法は大別して5通りある。
【0018】
その第1の方法は、容器またはシートの材質内に脂肪酸銅化合物を含有させる方法で、例えば、容器またはシートがプラスチック製品などの場合、そのプラスチック製品を成形する樹脂組成物中に脂肪酸銅化合物の微粉末を混合し、加熱成形時の熱により脂肪酸銅を熔融させるか、脂肪酸銅を可塑剤等に溶かし、プラスチック原料の樹脂組成物と混合し、加熱成形することにより、脂肪酸銅が材質全体に均一に混合されたプラスチック製品を製造するものである。
【0019】
第2の方法は、第1の方法のプラスチック製品と同様の原料から成るプラスチック製の容器またはシートを加熱成型して製造する際に、脂肪酸銅粉末あるいは溶液として容器の金型に処理し、加熱成形時の熱で熔融させ離型剤として機能させると共に、プラスチック表面に脂肪酸銅のコーティング層を設けるものである。
第3の方法は、プラスチックシートに、脂肪酸銅の粉末あるいは溶液を表面処理し、金型で成形する際に成形時の加熱により熔融させ、プラスチック製品の表面に均一でなめらかに脂肪酸銅のコーティング層を設けるものである。
第4の方法は、脂肪酸銅化合物の溶液あるいは懸濁液を容器またはシートの表面に直接塗布するか、あるいは、浸漬して表面に脂肪酸銅化合物のコーティング層を設けるものである。
第5の方法は、可塑性シートに脂肪酸銅化合物を含有させて、これを容器内面に貼り付けるものである。
【0020】
上記第1、第2または第3の方法に用いるプラスチック製品のプラスチック成形材料としては、熱可塑性樹脂材料、熱硬化性樹脂材料のうちのいずれでもよい。本発明の脂肪酸銅は、プラスチック成形時の離型剤としても作用する。離型剤は、成形時の加熱により熔融し、成形材料と成形型の接触面に高濃度に分散するという特徴があり、成形品表面の脂肪酸銅濃度が高くなる。そこで、根域制限活性、離型性を良好に発現させるためには、成形時に熔融するものが望ましいが、成形後に根域制限活性および離型性を発揮できる程度に分散されるものでもよい。
【0021】
上記第4または第5の方法について、本発明に用いる容器あるいはシートは、脂肪酸銅化合物を内部または表面に保持できるものであれば特に制限はないが、例えば、プラスチック、木材、天然紙、天然繊維、合成繊維、無機繊維、合成ゴム、素焼きおよび陶磁器製などの容器あるいはシートを用いることができる。
上記第4または第5の方法について、本発明の根域制限剤を育苗用の容器あるいはシートの表面に処理する方法としては、浸漬法、吹き付け法、または印刷方式で連続的にコーティング塗布して処理する方法がある。
浸漬法では、脂肪酸銅化合物微粉末を澱粉などの糊剤および分散剤として作用する水溶性高分子水溶液に懸濁させた分散液を調製し、これに容器などを浸漬するか、表面に塗布し、乾燥することにより処理することができる。
【0022】
また、吸水性の容器やシートの場合、まず、塩化銅などの水溶性銅化合物と脂肪酸ナトリウムなどの脂肪酸塩のうちのどちらか一方を先に吸収させ、乾燥後、他方の溶液を添加することにより素材中に脂肪酸銅化合物を析出させる方法によっても処理することができる。
吹き付け法では、脂肪酸銅化合物を水溶性高分子溶液への懸濁分散液、あるいは、有機溶剤溶液を調製し、これを適当なスプレーを用いて、吹き付け処理し乾燥する。
印刷方式では、脂肪酸銅化合物の懸濁分散液、あるいは、溶液を調製し、これをローラなどに付着させて印刷方式でシートなどの表面に連続的にコーティング塗布して乾燥する。コーティング処理はシートの両面あるいは片面に処理することができる。
本発明に係る根域制限剤は、上記の脂肪酸銅化合物を有効成分として含有する限り、その剤型は特に限定されず、その使用目的等に応じて従来公知の処方により種々の剤型のものを調製し使用することができる。
これらの方法で根域制限剤を処理した容器もしくはシートは、次のようにして用いられる。
まず、薬剤を処理した容器は、大きさ、形状、材質等は特定の大きさ等に限られず、植物の栽培用として広く用いられているものが使用され、育苗または栽培しようとする植物の一般的な栽培方法にしたがって用いられる。すなわち、容器に培土を入れ、播種後、稚苗から成苗になるまでの育苗・栽培期間中、あるいは必要によりより大きな育苗・栽培用容器に移植し、栽培するときに有効に利用される。この方法で植物の根が成長し容器の壁面に到達すると薬剤の作用により根の成長が抑制され根巻きが防止される。
また、薬剤処理したシートの場合は、その大きさ、形状、材質等は特定のものに限られない。その使用方法は、上記の容器に代わるもので、植物の根の伸長を抑制するようにシートが使用されればよい。すなわち、シートを容器状に加工したり、栽培容器の表面に貼り付けて作物を栽培したり、作土の下にシートを敷設して作物の根が下層土に到達しないようにした根域制限栽培、あるいは地中および地表の構造物(例えばコンクリート構造物の割れ目や排水管など)などを保護するため地中に埋設し防護壁(バリヤー)としての使用等種々の使用方法が考えられる。
上記保護壁(バリヤー)として用いる場合は、バリヤーシート(根域制限シート)となる。この場合、上記したように浸漬法、吹き付け法、印刷法を用いることができるが、本発明に係る植物の根域制限剤を含浸させたペレットを固着した不織布等のシートとしても構成することができる。バリヤーシートは、透水性、通気性を備え、折り曲げ自在とすることが好適である。このバリヤーシートによって、垂直、水平方向等に埋設して侵入する根を制御することができ、植物の根による構築物への影響を防止できる。
【0023】
脂肪酸銅化合物の分散液
脂肪酸銅化合物の分散液は、水溶性高分子、可溶化剤の水溶液に脂肪酸銅化合物の微粉末を分散、懸濁させて調製することができる。分散液に用いる水性高分子は、例えば、アラビアゴム、トラガカントゴム、キサンタンガム、デキストリン、カゼイン、セラック、水飴など脂肪酸銅化合物を水中に分散させる作用を有する高分子化合物を使用することができる。
さらに詳しくは、本発明の脂肪酸銅化合物を懸濁分散させる水溶性高分子は、水溶性天然高分子、水溶性半合成高分子、水溶性合成樹脂、コロイダルディスパージョン型樹脂およびエマルジョン型樹脂に分類することができる。
水溶性天然高分子としては、例えば、澱粉、アラビアゴム、トラガカントゴム、キサンタンガム、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、にかわ、ゼラチン、カゼインなど、水溶性半合成高分子としては、セルロース、エチルセルロース、ハイドロエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなど、水溶性合成樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンオキシドなどが挙げられる。
コロイダルディスパージョン型樹脂としては、例えば、セラック、スチレンマレイン酸樹脂、カゼイン、アクリル共重合体などが挙げられる。
エマルジョン型樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、合成ゴムラテックスなどの乳化重合樹脂、およびポリウレタン、ポリエステル、エポキシエステルなどの乳化性樹脂が挙げられる。
【0024】
本発明で使用する脂肪酸銅化合物の分散液には、水性高分子の可溶化剤として、酸性基を有する水性高分子の場合には、アンモニアまたはモルフォリン、モノエタノールアミンなどの有機アミンを添加することができる。
また、必要により、アルコール、アセトンなどの水溶性有機溶剤、ワックス、消泡剤を添加することができる。
本発明に用いる水分散液は、脂肪酸銅化合物を2〜50重量%、水溶性高分子0.2〜15重量%を含有するものを好適に使用することができる。必要により、可溶化剤として、例えば、有機アミン、アンモニアなどを0.1〜5重量%、または、助溶剤としてエタノールなどを1〜30重量%含有させることができる。
【0025】
脂肪酸銅化合物溶液
本発明で用いることのできる脂肪酸銅化合物は、前述のごとくのテトラヒドロフランやジオキサンなどの溶剤にしか溶けないが、これらの溶剤を含む混合溶媒には溶ける。その例としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリルなどの二トリル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルコールエーテル類、ペンタン、へキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素類、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ソルベントナフサなどの工業用ガソリンなどの単独あるいは2種以上との混合溶媒を挙げることができる。
これらの中に適宜塗料用樹脂、PGM、プロピレングリコールなどを添加することが出来る。
本発明に用いる脂肪酸銅化合物溶液は、有機溶剤に脂肪酸銅化合物を2〜50重量%溶解したものを好適に使用することができる。
【0026】
本発明の根域制限剤である脂肪酸銅化合物は、栽培用容器あるいはシートに対して、0.1〜50g/m2、好ましくは0.5〜30g/m2付着させて使用することができる。
【0027】
【実施例】
次に本発明の脂肪酸銅化合物の製造例および根域制限剤の組成を例示する実施例を示す。ただし、本発明の脂肪酸銅化合物の製造方法および本発明の根域制限剤に含有される有効成分の添加量、担体および補助剤の種類ならびにその添加量などは、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例中、(部)とあるのはすべて重量部であり、また%は重量%である。
【0028】
脂肪酸銅化合物の製造例
製造例1 (カプリン酸銅化合物、化合物No.5)
カプリン酸、6.891g(40mmol)と水酸化ナトリウム1.600g(40mmol)を400mlの蒸留水に溶解し、オイルバス中で温度を95℃に保つ。塩化銅3.410g(20mmol)を400mlの熱水に溶解し、攪拌下カプリン酸ナトリウム溶液中に滴下する。滴下後、温度を95℃に保ちながらさらに30分間攪拌する。析出した固体粉末を吸引濾過し、熱水で十分洗浄する。こうして得られた固体粉末を減圧下、60℃で乾燥することにより7.86gのカプリン酸銅が得られた(収率96.8%)。
IR(KBr拡散反射法):2953,2916,2849,1583,1445,1423,1315,721cm-1
【0029】
製造例2 (ラウリン酸銅化合物、化合物No.7)
ラウリン酸ナトリウム、8.892g(40mmol)を400mlの蒸留水に溶解し、オイルバス中で温度を95℃に保つ。塩化銅3.410g(20mmol)を400mlの熱水に溶解し、攪拌下ラウリン酸ナトリウム溶液中に滴下する。滴下後、温度を95℃に保ちながらさらに30分間攪拌する。析出した固体粉末を吸引濾過し、熱水で十分洗浄する。こうして得られた固体粉末を減圧下、60℃で乾燥することにより6.41gのラウリン酸銅が得られた(収率69.3%)。
IR(KBr拡散反射法):2955,2916,2849,1583,1437,1423,1315,721cm-1
製造例3(ラウリン酸銅化合物、化合物No.7)
ラウリン酸、8.015g(40mmol)と酸化銅(II)、1.594g(20mmol)を100ml容のナス型フラスコに取り、キシレン40mlと蒸留水2mlを加える。これをオイルバス中で温度を120℃に保ちながら激しく攪拌し、8時間反応させる。得られた深緑青色の溶液をろ紙にてろ過し、ろ紙上に残ったラウリン酸銅はテトラヒドロフランにて洗い取る。ろ液の溶媒を留去後、減圧下60℃で乾燥することにより8.68gのラウリン酸銅が得られた(収率94%)。
IR(KBr拡散反射法):2953,2914,2848,1701,1585,1441,1423,1317,721cm-1
【0030】
根域制限剤
以下の実施例1〜3に示すように根域制限剤を調製した。なお、部とあるのは重量部のことである。
【0031】
実施例1(水性分散液)
カプリン酸銅(化合物No.5)2部、キサンタンガム0.3部および水97.7部を均一に混合して、有効成分を2%含有する水性分散液を得た。
実施例2(油性分散液)
ヤシ油脂肪酸銅(化合物No.12)5部、トルエン45部および酢酸エチル50部を均一に混合して有効成分を5%含有する油性分散液を得た。
実施例3(油性溶液)
ラウリン酸銅(化合物No.7)20部およびテトラヒドロフラン80部を均一に混合溶解して、有効成分を20%含有する油性溶液を得た。
【0032】
効能の試験例
次に、本発明の根域制限剤の植物に対する根域制限活性の試験例を示すが、本発明の技術的範囲は、これらの試験例に限定されることはない。
【0033】
試験例1 (ハクサイ苗に対する根域制限処理による根巻防止効果試験)
供試作物としては、ハクサイ(品種:優黄)を用いた。実施例1に準じて調製した薬液を絵筆を用いセルトレー(株式会社コバヤシ製セルトレー:苗作くんKB-200)のセル内側壁面に均一に塗布した。塗布量は流れ落ちない程度の量(0.4ml/セル)とした。これを1昼夜乾燥させた後、市販のセル成型苗用培土(タキイたねまき培土)を充填した。その上にハクサイ種子を播種し、温室内で栽培管理した。
播種して25日栽培した後、供試作物をセルトレーから抜き取り、下記の調査基準に従い、根巻き(ルーピング)の程度を調査した。
【0034】
根巻き程度の調査基準(根巻度)
5:無処理と同等の根巻きが認められる。
4:根巻きが認められるが、無処理と比べると少ない。
3:無処理に比べ明らかに根巻きが少ない。
2:著しく根巻きが少ない。
1:根巻きは認められないが、プラグ表面に根の先端が出ている。
0:根巻きは認められず、プラグ表面にもほとんど根が出ていない。
【0035】
本試験は、1区10連制で行い、その平均根巻き度を算出し、その結果を表2に示した。
また、ハクサイに対する薬害については地上部の生育抑制程度およびプラグの形成抑制程度(根の密度)について観察し、下記の薬害調査指標の基準で表示した。その試験結果を表2に要約して示した。
【0036】
薬害の調査指標
地上部の生育抑制程度調査基準(薬害1)
5:激
4:重
3:中
2:軽
1:微
0:なし
プラグの形成抑制程度(薬害2)
5:甚(プラグをセルから引き抜くと崩壊する)
3:中(プラグをセルから引き抜くとちぎれる)
1:微(プラグが無処理より僅かに柔らかい)
0:無
【0037】
【表2】
【0038】
試験例2(根域制限処理したハクサイ苗の圃場定植後の生育試験)
試験例1と同様に各種脂肪酸銅および比較対照として水酸化第二銅で根域制限処理した播種後25日のハクサイ苗(4葉期)を圃場に定植し、7日後および14日後に苗の草丈と発根状況を調査した。
発根程度の調査基準
5:プラグからの発根10cm以上
4:プラグからの発根5cm〜10cm未満
3:プラグからの発根1cm〜5cm未満
2:プラグからの発根0.5cm〜1cm未満
1:プラグからの発根0.5cm未満
0:プラグからの発根なし
本試験は、1区10連制で行い、その平均草丈および発根程度を算出し、その結果を表3に示した。
【0039】
【表3】
【0040】
試験例3(レタス苗に対する根巻き防止および定植後の生育に対する効果試験)
試験例1と同様に薬液を処理したセルトレーに育苗培土を充填した。その上にレタス種子(品種:スリーレイク)を播種し、温室内で栽培管理した。25日栽培した後、供試作物をセルトレーから抜き取り、試験例1と同じ調査基準に従い、根域制限処理による根巻き(ルーピング)の抑制程度および薬害を調査した。薬害については地上部の生育抑制程度およびプラグの形成抑制程度(根の密度)について観察し、試験例1と同じ薬害調査指標の基準で表示した。
また、根巻き防止効果試験に用いた調査後の苗を圃場に定植し、14日後に試験例2と同じ調査基準に従い苗の発根状況および草丈を調査した。
本試験は、1区10連制で行い、その平均根巻き程度、薬害、定植後の発根程度および草丈を算出し、その結果を表4に示した。
【0041】
【表4】
【0042】
試験例4(トマト苗に対する根巻き防止および定植後の生育に対する効果試験)
試験例1と同様に薬液を処理したセルトレーに育苗培土を充填した。その上にトマト種子(品種:桃太郎)を播種し、温室内で栽培管理した。25日栽培した後、供試作物をセルトレーから抜き取り、試験例1と同じ調査基準に従い、根域制限処理による根巻き(ルーピング)の抑制程度および薬害を調査した。薬害については地上部の生育抑制程度およびプラグの形成抑制程度(根の密度)について観察し、試験例1と同じ薬害調査指標の基準で表示した。
また、根巻き防止効果試験に用いた調査後の苗を圃場に定植し、14日後に苗の発根状況を試験例2と同じ調査基準に従い調査した。生育程度については地上部の生体重を調査し、それを定植時の生体重を100とする成長指数で表した。
本試験は、1区10連制で行い、その平均根巻き程度、薬害、定植後の発根程度および茎葉重を算出し、その結果を表5に示した。
【0043】
【表5】
【0044】
試験例5(ナス苗に対する根巻き防止および定植後の生育に対する効果試験)
試験例1と同様に薬液を処理したセルトレーに育苗培土を充填した。その上にナス種子(品種:千両2号)を播種し、温室内で栽培管理した。25日栽培した後、供試作物をセルトレーから抜き取り、試験例1と同じ調査基準に従い、根域制限処理による根巻き(ルーピング)の抑制程度および薬害を調査した。薬害については地上部の生育抑制程度およびプラグの形成抑制程度(根の密度)について観察し、試験例1と同じ薬害調査指標の基準で表示した。
また、根巻き防止効果試験に用いた調査後の苗を圃場に定植し、14日後に苗の発根状況を試験例2と同じ調査基準に従い調査した。生育程度については地上部の生体重を調査し、それを定植時の生体重を100とする成長指数で表した。
本試験は、1区10連制で行い、その平均根巻き程度、薬害、定植後の発根程度および茎葉重を算出し、その結果を表6に示した。
【0045】
【表6】
【0046】
試験例6(ブロッコリー苗に対する根巻き防止および定植後の生育に対する効果試験)
試験例1と同様に薬液を処理したセルトレーに育苗培土を充填した。その上にブロッコリー種子(品種:磯緑)を播種し、温室内で栽培管理した。25日栽培した後、供試作物をセルトレーから抜き取り、試験例1と同じ調査基準に従い、根域制限処理による根巻き(ルーピング)の抑制程度および薬害を調査した。薬害については地上部の生育抑制程度およびプラグの形成抑制程度(根の密度)について観察し、試験例1と同じ薬害調査指標の基準で表示した。
また、根巻き防止効果試験に用いた調査後の苗を圃場に定植し、14日後に苗の発根状況を試験例2と同じ調査基準に従い調査した。生育程度については地上部の生体重を調査し、それを定植時の生体重を100とする成長指数で表した。
本試験は、1区10連制で行い、その平均根巻き程度、薬害、定植後の発根程度および成長指数を算出し、その結果を表7に示した。
【0047】
【表7】
【0048】
試験例7 (マリーゴールド苗に対する根巻き防止および定植後の生育に対する効果試験)
試験例1と同様に薬液を処理したセルトレーに育苗培土を充填した。その上にマリーゴールド種子(フレンチマリーゴールド、品種:ボレロ)を播種し、温室内で栽培管理した。25日栽培した後、供試作物をセルトレーから抜き取り、試験例1と同じ調査基準に従い、根域制限処理による根巻き(ルーピング)の抑制程度および薬害を調査した。薬害については地上部の生育抑制程度およびプラグの形成抑制程度(根の密度)について観察し、試験例1と同じ薬害調査指標の基準で表示した。
また、根巻き防止効果試験に用いた調査後の苗を圃場に定植し、14日後に苗の発根状況と草丈を試験例2と同じ調査基準に従い調査した。
本試験は、1区10連制で行い、その平均根巻き程度、薬害、定植後の発根程度および草丈を算出し、その結果を表8に示した。
【0049】
【表8】
【0050】
試験例8 (トルコキキョウ苗に対する根巻き防止および定植後の生育に対する効果試験)
試験例1と同様に薬液を処理したセルトレーに育苗培土を充填した。その上にトルコキキョウ種子(品種:早稲あずまの桜)を播種し、温室内で栽培管理した。45日栽培した後、供試作物をセルトレーから抜き取り、試験例1と同じ調査基準に従い、根域制限処理による根巻き(ルーピング)の抑制程度および薬害を調査した。薬害については地上部の生育抑制程度およびプラグの形成抑制程度(根の密度)について観察し、試験例1と同じ薬害調査指標の基準で表示した。
また、根巻き防止効果試験に用いた調査後の苗を圃場に定植し、14日後に苗の発根状況と草丈を試験例2と同じ調査基準に従い調査した。
本試験は、1区10連制で行い、その平均根巻き程度、薬害、定植後の発根程度および草丈を算出し、その結果を表9に示した。
【0051】
【表9】
【0052】
試験例9 (トマト栽培に対する根域制限処理効果試験)
実施例1に準じて調製した薬液を刷毛を用いプラスチック製栽培ポット(サイズ:φ27cm、深さ30cm)のポット内側壁面に均一に塗布した。塗布量は流れ落ちない程度の量(30ml/ポット)とした。これを1昼夜乾燥させた後、市販の栽培用培土(園芸培土)を充填した。その上にトマト苗(品種:桃太郎)を定植し、温室内で栽培管理した。
定植して60日栽培した後、草丈および着果したトマト果実の個数および重量を調査した。
本試験は、1区5連制で行い、その平均着果個数および果実の重量を算出し、その結果を第10表に示した。
また薬害については茎葉の黄化程度について観察し、下記の薬害調査指標の基準で表示した。その試験結果を表10に要約して示した。
【0053】
【表10】
【0054】
試験例10 (パンジー栽培に対する根域制限処理効果試験)
実施例1に準じて調製した薬液を刷毛を用いプラスチック製栽培用プランター(サイズ:60×20×20cm)のプランター内側壁面に均一に塗布した。塗布量は流れ落ちない程度の量(40ml/プランター)とした。これを1昼夜乾燥させた後、市販の栽培用培土(園芸培土)を充填した。その上にパンジー苗(品種:F1ウルトラ)を定植し、温室内で栽培管理した。
定植して60日栽培した後、草丈および着花した花の個数を調査した。
本試験は、1区5連制で行い、その平均株径および着花した花の個数を算出し、その結果を第11表に示した。
また薬害については地上部の生育抑制程度について観察し、試験例9に示した薬害調査指標の基準で表示した。その試験結果を表11に要約して示した。
【0055】
【表11】
【0056】
【発明の効果】
上記したところから明らかなように、本発明によれば、育苗および栽培に際し、植物の生育を阻害することなく根の伸長する範囲を制限するより優れた効果を発揮し、定植または移植後には根域制限効果が速やかに除去されて苗の活着および移植後の苗の生育をより良好にする優れた効果を発揮し、作物や人畜にも安全性が高く、環境適合性があり、より安価に製造し得る根域制限剤が提供される。
Claims (6)
- 一般式
(RCOO)2 Cu
(式中Rは炭素数5〜13の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、または直鎖状もしくは分岐鎖状のアルケニル基を表す。)にて示される少なくとも一種の脂肪酸銅塩を有効成分として含有することを特徴とする植物の根域制限剤。 - カプリン酸銅を有効成分として含有することを特徴とする請求項1記載の植物の根域制限剤。
- ラウリン酸銅を有効成分として含有することを特徴とする請求項1記載の植物の根域制限剤。
- ヤシ油脂肪酸銅を有効成分として含有することを特徴とする請求項1記載の植物の根域制限剤。
- 請求項1〜4のいずれかの根域制限剤を植物の育苗用、栽培用資材の表面または内部に保持させたことを特徴とする農園芸用資材。
- 請求項1〜4のいずれかに記載された植物の根域制限剤を適用してなるバリヤーシート。
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