JP4677109B2 - 基準テンプレートの製造方法及び当該方法によって製造された基準テンプレート - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、電子顕微鏡により得られたステレオ画像を偏位修正したり、レンズ歪を修正する場合に必要なパラメータを得るのに用いる基準テンプレート及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
透過型電子顕微鏡(TEM)の場合には試料を傾斜させ、異なる傾斜角度の透過画像を得て、これを左右画像としてステレオ観察が行われている。また、走査型電子顕微鏡(SEM)の場合には試料を傾斜させたり、電子線を傾斜させたりして、異なる傾斜角度の反射画像を得て、これを左右画像としてステレオ観察が行われている(「医学・生物学電子顕微鏡観察法」第278頁〜第299頁、1982年刊行参照)。そして、肉眼においてステレオ観察をする場合のように、試料の概括的な凸凹形状を観察する用途には十分な画像が得られている。
【0003】
他方、傾斜角の異なった画像を立体視可能な画像に偏位修正し、立体観察を行うと同時に三次元計測を行う測定原理が空中写真測量などで知られている。図10は3本の同じ長さの直線パターンが等間隔に存在している被写体に対して所定の傾斜角度で撮影したステレオ画像の説明図で、図10(A)は0度(平行)、図10(B)は10度傾斜している場合を示している。平行の場合、図10(A)に示すように、等間隔dで同じ長さlの直線パターンが映っていた場合、10度に傾いた画像では、図10(B)に示されるように異なる間隔d12,d23で、異なる長さl1、l2、l3となる。
【0004】
図10(A)と図10(B)の画像をステレオメーター(視差測定かん)で立体視しようとしても、立体視ができないばかりでなく、視差差の測定に基づく比高の正確な計測もできないという課題がある。さらに三次元計測するために画像相関処理によるステレオマッチングを行おうとしても、左右画像の傾斜角度が異なるために旨くいかないという課題がある。
【0005】
図11は図10(A)、(B)の傾斜画像を偏位修正画像に修正したステレオ画像の説明図で、図11(A)、(B)共に平行状態に偏位修正している場合を示している。偏位修正された結果、傾いて撮影された図10(A)、(B)の傾斜画像は対象物に対して平行となり、縮尺も等しくなって縦視差が除去されて、図11(A)、(B)に示されるように立体視が可能となる。立体視可能なステレオ画像は、同一エピポーラライン上にある左右画像の対応点を求めることにより正確な三次元座標が求めることができるようになる。偏位修正画像を作成するためには、2枚の画像上で最低3点以上の既知の基準点座標が画像上に必要である。また、それら基準点から、二つの画像の傾き、位置(これらを外部標定要素と呼ぶ)等を算出することができる。これら外部標定要素が最初から判っていれば偏位修正処理を行うことができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、空中写真測量の原理を用いて、異なる傾斜角度の画像から左右画像を得てステレオ観察を行って、試料の正確な三次元形状の計測を行う場合には、電子顕微鏡の電子レンズ系における収差の影響や試料の傾斜角度、或いは電子線の傾斜角度を数秒程度の非常に正確な角度で制御する必要がある。しかしながら、従来の傾斜角度は数度若しくは数分程度の概括的な制御しか行われておらず、左右画像の立体視から正確な三次元形状の計測を行うには不十分であるという課題があった。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決したもので、電子顕微鏡から得られたステレオの検出データを適切に処理して、試料像を正確に精度よく立体観察すると共に、試料の三次元形状計測を行う為に、偏位修正画像を作成するために基準点となる基準マークを有する基準テンプレート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成する本発明の基準テンプレートの製造方法は、図3に示すように、電子線7を放射する電子線源1、電子線7を試料9に照射する電子光学系2、試料9を保持する試料ホルダ3、試料9から出射される電子線を検出する電子線検出部4とを有する電子線装置10を用いる。
【0009】
本発明の基準テンプレートの製造方法は、図2に示すように、試料ホルダ3に基準テンプレートとなる基準テンプレート基板40bを装着し(S100)、電子線7を基準テンプレート基板40bの基準マーク作成位置に移動して照射し(S104、S106、S108)、電子線検出部4で検出された電子線7に基づいて、基準テンプレート基板40bの基準マークを作成する(S110)工程を有している。
【0010】
好ましくは、基準マークは、少なくとも3点のコンタミネーション若しくは欠陥により形成されると、偏位修正画像を作成するために基準点となる基準マークとして好ましい。また、基準マークは、電子線検出部4で検出された電子線の検出信号が所定レベルとなったとき、作成が完了したと判定する工程とすると、基準マークの作成終了時点が客観的に把握でき、基準点の形状が均一になる。また、基準マークを作成する電子線は、電子線装置10が試料9の検出像を電子線検出部4で検出する場合の電子線に比較して、ビーム径を変更する工程とすると、基準マークの画像認識が円滑に行える。また、基準マークを作成する電子線は、基準テンプレート基板40bを移動している間の電子線に比較して、電子線密度を大きくする制御を行うと、基準マークの作成に付随して基準テンプレート基板40bの基準面の変形が少なくてすむ。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面により説明する。図1は基準テンプレートに形成される基準マークの説明図で、(A)は四隅に基準マークを有する平面図、(B)は格子状に基準マークを有する平面図、(C)はレンズ歪補正用の基準テンプレートの断面図である。基準テンプレート40は、ステレオ画像を形成する基準面となる平坦面を有するもので、好ましくはステレオ画像の撮影を行う試料を構成する材料と同一の組成成分を有し、凸凹のない平坦なものがよい。基準テンプレート40の四隅に基準マーク40aを形成すると、後で説明するようにデータ修正部31による偏位修正が行いやすい。基準マーク40aは基準テンプレート40のなるべく広い範囲に3点以上形成すると、外部標定要素として使用しやすい。基準マーク40aとは、外部標定要素に必要とされる三次元位置が既知の基準点である。また、基準テンプレート基板40bは基準マーク40aを作成して基準テンプレート40とする基板である。
【0012】
基準テンプレート40の場合は、基準マーク40aを基準テンプレート基板40bの任意の位置に形成できるので、例えば格子状に基準マークを形成する。格子状に基準マークを設けると、外部標定要素に加えて電子線のレンズ歪まで補正するのに用いることができる。電子線のレンズ歪を補正する場合は、平坦な基準テンプレートの場合には複数方向から撮影する必要がある。図1(C)のように基準テンプレート基板40bに段差を付けて、且つこの段差方向の縁に格子状に基準マーク40aを設けると、基準マーク40aに高さ成分が含まれる為、電子顕微鏡における電子線のレンズ歪が正確に補正できる。なお、レンズ歪にはザイデル収差である球面収差、コマ収差、湾曲収差、非点収差、歪み収差等があり、色収差として軸上収差、倍率色収差、回転色収差等がある。
【0013】
続いて、基準テンプレート基板に基準マークを作成する方法について説明する。基準テンプレート基板40bの場合には、後で説明する基準マークパターン発生器23を用いて電子線7を位置決めして照射することでコンタミネーション、欠陥等を試料9面上に形成して基準マークとすることができる。電子線7を用いることで、基準マークは非常に精密な位置決め精度で基準テンプレート基板40bに形成される。
【0014】
コンタミネーションは試料上の炭化水素の分子が電子線照射により焼き付く現象で、その大きさは、電子線のプローブ径に依存するが、電子線密度、照射時間が大きいほど、コンタミ量は多くなり、ほぼ裾野を持つ円錐状に育つ。従ってプローブをゆっくり走査させると、コンタミネーションはその走査の形状に沿って付くようになる。コンタミネーションを任意の形状や任意の分布をさせるには、その形状に従って電子線プローブを走査して一定時間保持する。コンタミネーションを作成する場合、その大きさをビーム径、電流値等で電子線密度、照射時間を制御する。画像処理しやすくするために、基準マークは、画像上で10画素以上とするのが望ましく、照射するビーム径を画素以上にする。好ましくは、基準マークパターン発生器23に電子線照射制御の最適値を設定しておく。
【0015】
コンタミネーションが付きやすい時は、照射系の一部に電子線7をカットするビームブランキングを設けて、電子線の走査に伴う移動の時は、電子線7が試料9に当たらなくするとよい。また、検出器4から得られる二次電子信号のレベルを基準マークパターン発生器23に帰還して、電子線7の照射時間を調整することによりコンタミネーションの量を制御することができる。
【0016】
図2は基準テンプレート基板に基準マークを作成する手順を示す流れ図である。まず、基準マークを作成する基準テンプレート基板40bを試料ホルダ3に収容し、基準マークパターン発生器23に基準マークを作成する位置を読み込ませる(S100)。そして、電子線源1から電子線7を照射しつつ、走査レンズ2cにより電子線7を基準テンプレート基板40bの面上でスキャンさせる(S102)。次に、電子線7の照射位置が、予めプログラムされた基準マークの作成位置か確認する(S104)。基準マークの作成位置であれば、電子線7をその位置で停止させ(S106)、電子線7を照射させる(S108)。ここで検出器4によって得られた信号が予め設定された閾値以上か判定し、閾値以上となるまで基準マークの作成位置にて照射し続ける(S110)。閾値以上となると、基準マークを所定数作成したか確認する(S112)。仮に所定数に達していなければ、S102に戻り、再び電子線7をスキャンさせ、所定数の基準マークを作成していれば終了する(S114)。
【0017】
なお、図1(C)のように基準テンプレート基板に段差の形状があって、コンタミネーションを段差上に付ける場合は次のように行う。まず、基準テンプレート基板の段差の作製は、レジストの露光、エッチングを繰り返すことにより任意の形状で段差を作ることが可能である。電子顕微鏡は焦点深度が高いため段差の任意の場所に電子線プローブをとどめることにより、電子線プローブが止まったところにコンタミネーションの基準マークを作ることが可能である。
【0018】
図3は基準テンプレート基板に基準マークを作成する電子線装置の一例を説明する構成ブロック図で、走査型顕微鏡の電子線を偏向させてステレオ画像を得ることのできる電子線装置を示している。図において、走査型顕微鏡としての電子線装置10は、電子線7を放射する電子線源1、電子線7を試料9に照射する電子光学系2、試料9を傾斜可能に保持する試料ホルダ3、電子光学系2の倍率を変える倍率変更部6、倍率変更部6に電力を供給する走査電源6a、電子線7を検出する検出器4、電子線7を傾斜制御する傾斜制御部5としてのビーム傾斜制御部5a、試料9から出射される二次電子のエネルギを減衰させて検出器4に反射させる2次電子変換ターゲット8を備えている。なお、試料ホルダ3を傾斜制御する傾斜制御部5として、ホルダ傾斜制御部5bを用いても良い。
【0019】
電子光学系2は、電子線源1から放射された電子線7の電子流密度、開き角、照射面積等を変えるコンデンサレンズ2a、電子線7の試料面上の入射角度を制御する偏向レンズ2b、細かく絞られた電子線7を偏向して試料面上を二次元的に走査させる走査レンズ2c、最終段縮小レンズの働きと共に試料面上での入射プローブの焦点合わせを行う対物レンズ2dを備えている。倍率変更部6の倍率変更信号に従って、走査レンズ2cにより電子線7を走査する試料面上の領域が定まる。ビーム傾斜制御部5aは偏向レンズ2bに傾斜制御信号を送り、試料ホルダ3と照射電子線7とが第1の相対的傾斜角度をなす電子線7Rと、第2の相対的傾斜角度をなす電子線7Lとで切替えている。なお、ビーム傾斜制御部5aによる試料ホルダ3と照射電子線7の相対的傾斜角度は、2個に限らず多段に設定してよいが、ステレオの検出データを得る為には最小2個必要である。
【0020】
試料9は、例えばシリコン半導体やガリウム・ヒ素半導体のような半導体のチップであるが、電力用トランジスタ、ダイオード、サイリスタのような電子部品でもよく、また液晶パネルや有機ELパネルのようなガラスを用いた表示装置用部品でもよい。典型的な走査型顕微鏡の観察条件では、電子線源1は−3kV、試料9は−2.4kVに印加されている。試料9から放出された二次電子は、2次電子変換ターゲット8に衝突して、エネルギが弱められて検出器4で検出される。なお、試料9をマースポテンシャルにした場合には、二次電子は霧のように振る舞いエネルギが弱く、検出器4で直接検出することができ、2次電子変換ターゲット8は不要である。
【0021】
データ処理装置20は、画像作成処理部21、表示装置22、基準マークパターン発生器23、測定条件判別部25、データ修正部31、形状測定部32、立体画像観察部33、並びにステレオ画像記憶部34を有している。画像作成処理部21は、走査レンズ2cにより電子線7が試料面上の領域を走査する際に、検出器4で検出される二次電子線を用いて、試料面上の画像を作成する。表示装置22は画像作成処理部21で作成された画像をオペレータが観察できるように表示するもので、例えばCRTや液晶パネルが用いられる。表示装置22は通常の一画面モニタでもよく、ステレオ表示可能なモニタでもよく、或いは両方備えていてもよい。
【0022】
基準マークパターン発生器23は、電子線7を制御して基準テンプレート基板40bに基準マーク40aを作成するものである。好ましくは、基準マークパターン発生器23に基準マークの作成数と作成位置を記憶させておくとよい。
【0023】
測定条件判別部25は、電子線装置10の種類、並びに電子光学系2の倍率のの情報を用いて測定条件の判別を行う。電子線装置10の種類としては、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡の別があるが、基準テンプレート基板40bに基準マーク40aを作成するには検出器4を有する走査型電子顕微鏡が適している。電子光学系2の倍率としては、低倍率と高倍率の区別があり、例えばデータ修正部31において複数傾斜角度での検出データを矯正する演算形態として、中心投影と平行投影のどちらを選択するかの要素として用いる。
【0024】
データ修正部31は、画像作成処理部21で作成した画像を偏位修正画像に修正して立体視可能なステレオ画像とするもので、リアルタイムで偏位修正画像に修正する場合は直接、画像作成処理部21から電子顕微鏡10での測定条件を受け取っている。なお、電子顕微鏡10での測定条件は、一旦ステレオ画像記憶部34に画像を記憶させている場合は、測定条件判別部25から受取っても良く、またステレオ画像記憶部34に画像と共に記憶された電子顕微鏡10での測定条件を用いても良い。
【0025】
形状測定部32は、データ修正部31により修正されたステレオ画像に基づき試料9の三次元形状を測定する。立体画像観察部33は、データ修正部31により修正されたステレオ画像に基づき試料9の立体的な画像を形成する。ステレオ画像記憶部34は、画像作成処理部21で作成した画像を記憶すると共に、データ修正部31により修正されたステレオ画像を記憶するもので、例えば磁気ハードディスク、CR−ROM、フロッピーディスク、光磁気ディスクのような情報記憶媒体に画像データを記憶している。なお、ステレオ画像記憶部34が、画像作成処理部21で作成した偏位修正されていない画像を記憶する場合は電子顕微鏡10での測定条件も記憶しておくと良い。
【0026】
データ修正部31は、基準マーク40aを有する基準テンプレート40を用いて試料9のデータ修正をするもので、偏位修正パラメータ取得手段31aと画像データ偏位修正手段31bとを有している。偏位修正パラメータ取得手段31aは、基準テンプレート40の基準マーク40aを用いて、ステレオの検出データを得る試料ホルダ3と照射電子線7との相対的傾斜角度における偏位修正パラメータを取得する。ここで、ステレオの検出データとは、試料ホルダ3と照射電子線7とが第1及び第2の相対的傾斜角度をなす状態において、電子線検出部4で試料9に対する第1及び第2の検出データを検出することを言う。画像データ偏位修正手段31bは、取得した偏位修正パラメータを用いて、試料9のステレオの検出データを偏位修正データに修正する。
【0027】
このように作成された基準テンプレートを用いて偏位修正パラメータを取得する処理手順について説明する。図4は基準テンプレートを用いて偏位修正パラメータを取得する処理の流れ図である。まず、電子顕微鏡の倍率を決定する(S202)。これによって中心投影か平行投影かを決定する。なお、中心投影と平行投影については後で説明する。次に、基準マークを有する基準テンプレート40を試料ホルダ3にセットする(S204)。外部標定要素を補正する場合は、基準マークが3点以上の基準テンプレート40を用い、レンズ歪補正まで行う場合は基準マークが多数作成されている方の基準テンプレート40を使用する。ただし、外部標定要素のみであっても、基準マークが多数作成されている基準テンプレート40を使用することもできる。また、レンズ歪補正を正確に行う場合は、段差付きの基準テンプレート40が望ましい。
【0028】
試料ホルダ3と照射電子線7とが第1及び第2の相対的傾斜角度をなす状態において、電子線検出部4で基準テンプレート40に対する第1及び第2の検出データを検出する(S206)。外部標定要素の補正であれば、この第1及び第2の相対的傾斜角度は試料9を計測するのと同じ角度とし、少なくとも2方向以上の傾斜角度にて撮影する。レンズ歪補正を行う場合は、試料9を計測するのと同じ2方向の傾斜角度に加えて、第3の傾斜角度(例えばプラス3方向)から撮影する。次に、撮影された画像から画像相関処理等を用いて基準マークを抽出して、計測する(S208)。
【0029】
図5は画像相関処理の説明図である。図中、探索画像Tは縦N1、横N1で左上座標が(a,b)となっている小さな矩形図である。対象画像Iは縦M、横Mの大きな矩形図である。画像相関処理は、正規化相関法や残差逐次検定法(SSDA法)など、どれを用いてもよい。残差逐次検定法を使用すれば処理が高速化できる。残差逐次検定法は次式を用いる。
【数1】
ここで、T(m1,n1)は探索画像、I(a,b)(m1,n1)は対象画像の部分画像、(a,b)は探索画像の左上座標、R(a,b)は残差である。残差R(a,b)が最小になる点が求める画像の位置である。処理の高速化をはかるため、式(1)の加算において、R(a,b)の値が過去の残差の最小値を越えたら加算を打ち切り、次のR(a,b)に移るよう計算処理を行う。
【0030】
再び図4に戻り、基準マークを外部標定要素として用いて、ステレオの検出データを得る試料ホルダ3と照射電子線7との相対的傾斜角度における偏位修正パラメータの計算を行う(S210)。計測された基準マークの画像座標と実際の座標から、中心投影の場合は後述する式(2)〜(4)を使って偏位修正パラメータを算出する。平行投影の場合は式(5)、(6)を使って偏位修正パラメータを算出する。レンズ歪補正まで行う場合は、式(7)を使って偏位修正パラメータを算出する。そして、試料ホルダ3から基準テンプレート40を取り出して、偏位修正パラメータの取得が完了する(S212)。
【0031】
[平行投影と中心投影]
電子顕微鏡では倍率が低倍率〜高倍率(ex.数倍〜数百万倍)までレンジが幅広いため、電子光学系2が低倍率では中心投影、高倍率では平行投影とみなせる。中心投影と平行投影とを切替える倍率は、偏位修正パラメータの算出精度を基準にして定めるのがよく、例えば1000倍乃至10000倍から適宜選択される。図6は中心投影の説明図である。中心投影の場合、投影中心点Ocを基準にして試料9の置かれる対象座標系50と、検出器4の置かれる画像座標系52が図6のような位置関係にある。対象座標系50における基準マークのような対象物の座標を(X,Y,Z)、投影中心点Ocの座標を(Xo,Yo,Zo)とする。画像座標系52における座標を(x,y)、投影中心点Ocから画像座標系52までの画面距離をCとする。このとき、中心投影式として次式が成立する。
【0032】
【数2】
ここで、kは係数、ai,j:(i=1,2,3;j=1,2,3)は回転行列の要素である。式(2)を画像座標系52の座標(x,y)について解くと次式が成立する。
【数3】
また、回転行列の要素ai,jは画像座標系52の対象座標系50を構成する3軸X,Y,Zに対する傾きω、φ、κを用いて次のように表せる。
【数4】
【0033】
図7は平行投影の説明図である。平行投影の場合は、中心投影の投影中心点Ocに相当する点がない。そこで、対象座標系54として回転を考慮した座標系(XR,YR,ZR)を用い、縮尺係数としてK1、K2を選定すると次式が成立する。
【数5】
すると、対象座標系54で選択した原点(Xo,Yo,Zo)とオリエンテーション行列Aを用いて、次のように表せる。
【数6】
ここで、オリエンテーション行列Aの要素ai,jに関しては式(4)に相当する関係が成立している。
【0034】
偏位修正パラメータの算出においては、式(2)〜(4)又は式(5)、(6)に含まれる6つの外部標定要素ω、φ、κ、Xo、Yo、Zoを求める。即ち、S210において、これらの式を、最低3点以上の基準マークにより観測方程式をたて、逐次近似解法によってこれら6つの外部標定要素を算出する。具体的には、未知変量の近似値を与え、近似値のまわりにテーラー展開して線形化し、最小二乗法により補正量を求めて近似値を補正し、同様の操作を繰り返し収束解を求める逐次近似解法によってこれら6つの外部標定要素を求めることができる。また、式(2)〜(4)又は式(5)、(6)に代えて、単写真標定や相互標定、その他空中三角測量で外部標定として用いられている各種の演算式のうちから適宜採択して演算を行うとよい。
【0035】
[レンズ歪補正]
電子光学系2を構成する電子レンズの歪曲収差まで求める場合は、図1(b)、図1(C)に示すように、複数の基準マーク40aを備える基準テンプレート40を用意し、複数方向からの画像を得ることにより式(7)、(8)によって補正することが可能となる。即ち、式(2)〜(4)又は式(5)、(6)でさらにレンズ歪を補正したx、y座標をx'、y'とすれば、次式が成立する。
x'=x+Δx ・・・…(7)
y'=y+Δy
ここで、k1、k2を放射方向レンズ歪み係数とすると、Δx、Δyは次式により表される。
【数7】
【0036】
電子レンズの歪曲収差の計算は、画像座標と対象座標を計測することにより、上式にあてはめ逐次近似解法によって算出される。また、レンズ歪係数は、式(8)では放射方向レンズ歪みとしているが、さらにタンジェンシャルレンズ歪みやスパイラルレンズ歪み、その他電子レンズの歪曲収差の修正に必要な要素を式(8)に加えてレンズ歪係数を求めれば、それらの較正(キャリブレーション)が可能となる。
【0037】
続いて、偏位修正パラメータを取得した後で、試料のステレオ画像を処理する処理手順について説明する。図8は偏位修正パラメータを用いて試料のステレオ画像を処理する手順の流れ図である。まず、観察・計測したい試料9を試料ホルダ3にセットする(S252)。続いて、ビーム傾斜制御部5aにより、電子線7の試料ホルダ3に対する傾斜角を2つ以上にして、電子線検出部4で試料9に対する第1及び第2の検出データを検出し、ステレオ撮影を行って画像を取り込む(S254)。この2つ以上の傾斜角は、S206において偏位修正パラメータを取得するのに用いた、試料ホルダ3と照射電子線7とがなす第1及び第2の相対的傾斜角度と同じ角度とする。
【0038】
次に、倍率変更部6の設定倍率により、試料9の撮影は中心投影か平行投影かを判別する(S256)。中心投影の場合には、偏位修正パラメータとしての6つの外部標定要素ω、φ、κ、Xo、Yo、Zoを用いて、対象座標に該当する画像座標を式(2)〜(4)に代入して求め、それをステレオ表示したい立体画像観察部33の座標系に変換して、再配列を行えば、データ修正部31により検出器4で検出するステレオ画像の偏位修正画像を作成することができる(S258)。平行投影の場合には、6つの外部標定要素ω、φ、κ、Xo、Yo、Zoを用いて、対象座標に該当する画像座標を式(5)、(6)に代入して求め、それをステレオ表示したい立体画像観察部33の座標系に変換して、再配列を行えば、データ修正部31により検出器4で検出するステレオ画像の偏位修正画像を作成することができる(S260)。
【0039】
そして、偏位修正パラメータによって偏位修正されたステレオ画像は一旦ステレオ画像記憶部34に記録されると共に、立体画像観察部33で立体表示する(S262)。なお、立体画像観察部33のような立体モニタがない場合は、代替手段として表示部22の1画面上に2画像表示すると、オペレータ側の対処で立体視が可能となる。
【0040】
次に、形状測定部32により、データ修正部31により修正されたステレオ画像に基づき試料9の三次元計測したい箇所を計測する(S264)。三次元計測は立体表示させた左右画像を計測することにより(横視差を求める)、三角測量の原理により算出される。左右画像の計測はマニュアル、或いは画像相関処理等を用いて行うことができる。
【0041】
そして、測定終了であるか判断し(S266)、測定を継続するのであれば既に求めてある偏位修正パラメータが利用できるか判断する(S267)。同じ倍率で別試料を測定する場合と、違う倍率で測定を行う場合であっても電子顕微鏡の倍率再現性があるときは、既に求めてある偏位修正パラメータを利用して、S252に戻って計測を繰り返す。電子顕微鏡に倍率再現性がない場合、或いは経時変化がある場合は、既に求めてある偏位修正パラメータが利用できないので、図4のS202に戻り、最初から基準テンプレート40を使用して倍率に応じた偏位修正パラメータを算出する。測定終了の場合は試料9を試料ホルダ3から抜いて終了する(S268)。
【0042】
[第2の実施の形態]
図9は本発明の第2の実施の形態を説明する構成ブロック図で、試料ホルダの傾斜角度を変えて走査型顕微鏡のステレオ画像を得る場合を示している。第2の実施の形態では、試料ホルダ3を傾斜制御する傾斜制御部5としてホルダ傾斜制御部5bを用いており、ビーム傾斜制御部5aは作動させない。ホルダ傾斜制御部5bによる試料ホルダ3と照射電子線7の相対的傾斜角度は、ここでは右側上がりRと左側上がりLの二通りに切替えて設定する場合を図示しているが、2段に限らず多段に設定してよいが、ステレオの検出データを得る為には最小2段必要である。試料9を所定角度(±θ)傾けて検出器4で撮影することは、試料9を固定して電子線7を所定角度(±θ)傾けて照射し、検出器4で撮像することと等価となる。
【0043】
このように構成された装置においても、第1の実施の形態と同様に基準テンプレート40に基準マーク40aを作成することができると共に、試料9について検出した生の画像を偏位修正画像に修正して立体視できるようにできる。この場合には、図4、図8に示す流れ図のように、基準テンプレートを用いて偏位修正パラメータを取得し、その後試料のステレオ画像を偏位修正画像に修正する。
【0044】
なお、上記の実施の形態においては、基準テンプレートに基準マークを作成する場合を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、試料に基準マークを形成して試料自体を基準テンプレートとして用いても良い。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の基準テンプレートの製造方法によれば、電子線を放射する電子線源、電子線を試料に照射する電子光学系、試料を保持する試料ホルダ、試料から出射される電子線を検出する電子線検出部とを有する電子線装置を用いて、試料ホルダに基準テンプレートとなる基準テンプレート基板を装着し、電子線を基準テンプレート基板の基準マーク作成位置に移動して照射し、電子線検出部で検出された電子線に基づいて、基準テンプレート基板の基準マークを作成する工程を有している。そこで、非常に正確な作成位置に基準マークを基準テンプレートが有しており、試料の三次元形状計測を行う為の偏位修正画像を作成するのに必要な偏位修正パラメータが正確に得られる。
【0046】
また、本発明の実施の形態のように、試料ホルダと照射電子線とを相対的に傾斜させる試料傾斜部と、試料の撮影画像を用いてステレオ画像を作成するデータ処理装置を有する電子線装置を用いて、基準テンプレート基板に基準マークを作成する場合には、基準テンプレートと試料とが同一の電子線装置を用いて撮影できるので、基準テンプレート基板に基準マークを作成する電子線装置と試料を撮影する電子線装置とが異なる場合に生ずる電子線源と電子光学系の微妙な相違に起因する誤差を心配する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【図1】 基準テンプレートに形成される基準マークの説明図である。
【図2】 基準テンプレート基板に基準マークを作成する手順を示す流れ図である。
【図3】 基準テンプレート基板に基準マークを作成する電子線装置の一例を説明する構成ブロック図である。
【図4】 基準テンプレートを用いて偏位修正パラメータを取得する処理の流れ図である。
【図5】 画像相関処理の説明図である。
【図6】 中心投影の説明図である。
【図7】 平行投影の説明図である。
【図8】 偏位修正パラメータを用いて試料のステレオ画像を処理する手順の流れ図である。
【図9】 本発明の第2の実施の形態を説明する構成ブロック図で、試料ホルダの傾斜角度を変えて走査型顕微鏡のステレオ画像を得る場合を示している。
【図10】 3本の同じ長さの直線パターンが等間隔に存在している被写体に対して所定の傾斜角度で撮影した画像の説明図である。
【図11】 図10(A)、(B)の傾斜画像を偏位修正画像に修正したステレオ画像の説明図である。
【符号の説明】
1 電子線源
2 電子光学系
3 試料ホルダ
4 電子線検出部
7 電子線
9 試料
10 電子線装置
20 データ処理装置
23 基準マークパターン発生器
40 基準テンプレート
40a 基準マーク
40b 基準テンプレート基板
Claims (6)
- 電子線を放射する電子線源、前記電子線を試料に照射する電子光学系、前記試料を保持する試料ホルダ、前記試料から出射される電子線を検出する電子線検出部とを有する電子線装置を用いて基準テンプレートを製造する方法であって;
前記試料ホルダに前記基準テンプレートとなる基準テンプレート基板を装着し;
前記電子線を前記基準テンプレート基板の基準マーク作成位置に移動して照射し;
前記電子線検出部で検出された電子線に基づいて、前記基準テンプレート基板の基準マークを作成する;
基準テンプレートの製造方法。 - 前記基準マークは、少なくとも3点のコンタミネーション若しくは欠陥により形成される;
請求項1に記載の基準テンプレートの製造方法。 - 前記基準マークは、前記電子線検出部で検出された電子線の検出信号が所定レベルとなったとき、作成が完了したと判定する;
請求項1又は請求項2に記載の基準テンプレートの製造方法。 - 前記基準マークを作成する電子線は、前記電子線装置が前記試料の検出像を前記電子線検出部で検出する場合の電子線に比較して、ビーム径を変更する;
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の基準テンプレートの製造方法。 - 前記基準マークを作成する電子線は、前記基準テンプレートを移動している間の電子線に比較して、電子線密度を大きくする制御を行う;
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の基準テンプレートの製造方法。 - 請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の基準テンプレートの製造方法によって製造された基準テンプレート。
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