JP4674956B2 - 薄膜太陽電池およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ドープ層の膜厚方向の微視構造を制御した光電変換効率の高い薄膜太陽電池に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
将来の需給が懸念され、かつ地球温暖化現象の原因となる二酸化炭素排出の問題がある石油等の化石燃料の代替エネルギー源として太陽電池が注目されている。太陽電池は光エネルギーを電力に変換する光電変換層にpn接合を用いており、該pn接合を構成する半導体として一般的にはシリコンが最もよく用いられている。光電変換効率の点からは単結晶シリコンを用いることが好ましいが、原料供給、大面積化や低コスト化への問題がある。
【0003】
一方、大面積化および低コスト化を実現するのに有利な材料としてアモルファスシリコンを光電変換層とした薄膜太陽電池も実用化されているが、その光電変換効率は単結晶シリコン太陽電池に劣る。さらにアモルファスシリコンには、光を照射するにつれて膜中の欠陥密度が増加するStaebler-Wronski効果と呼ばれる現象が生じるため、アモルファスシリコン太陽電池には光電変換効率の経時劣化という問題が避けられない。
【0004】
そこで近年、単結晶シリコン太陽電池レベルの安定した高い光電変換効率と、アモルファスシリコン太陽電池レベルの大面積化および低コスト化とを兼ね備えた太陽電池を実現するために、光電変換層に多結晶シリコンを使用することが検討されている。特に、アモルファスシリコンの製法と同様の化学的気相成長法(CVD法)による薄膜形成技術を用いて薄膜多結晶シリコンを形成した薄膜多結晶太陽電池が注目されている。
【0005】
ところで、これらアモルファスシリコンや薄膜多結晶シリコンを用いた薄膜太陽電池に結晶成分を含むシリコン系薄膜のドープ層を用いることは以前より行われている。その利点として、アモルファスシリコンと比べて光透過率が高いこと、抵抗が小さいこと、フェルミ準位を価電子帯および伝導帯に近づけることで内部電位を高められること等が挙げられる。特に、Appl.Phys.Lett.,Vol.65,1994,p.860に記載されているように、真性光電変換層に結晶成分を含む薄膜を用いるときには、ドープ層に結晶成分を含む薄膜を用いる方が材料の近似性の上からも好ましい。しかしながら、上述した文献には、ドープ層の結晶性については考慮されていない。
【0006】
なお、本明細書において「結晶成分を含むシリコン系薄膜」とは、ラマン散乱分光法による測定の結果、結晶シリコンに対応する520cm-1付近のスペクトルが確認され、水素原子もしくはハロゲン原子を含んだシリコン薄膜、またはシリコンゲルマニウム薄膜もしくはシリコンカーボン薄膜を意味するものとする。
【0007】
ドープ層の結晶性が考慮された例として、特開平11−145498号公報に開示されている方法がある。特徴としては、下地層となる結晶成分を含むドープ層の結晶化率を制御することで、真性型光電変換層の結晶核生成密度を適度に抑制して、結晶粒界や粒内欠陥が少ない良質の光電変換層を得ることにある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
pin型薄膜シリコン太陽電池においては、電気導電率測定や光の透過・反射率測定などの通常用いられる特性評価方法で得られた単膜の特性値により、ドープ層が決定される。しかしながら、太陽電池の特性は単膜評価から期待される値より良くないことが多い。これはプラズマCVD法のような化学的気相成長法により形成した多結晶シリコン薄膜は、厚み方向に不均一な微視構造をもつ場合が多いことに起因している。
【0009】
pin型薄膜多結晶シリコン太陽電池においては、光電変換に寄与しないドープ層における光吸収を低減すること、および太陽電池の直列抵抗成分を低減する目的から、ドープ層の厚さは通常数十nm以内となるように形成される。ところが一般的には、ドープ層の形成条件は数百〜千nmの厚さを有する単膜特性を評価することで決定される。膜厚が数百〜千nm程度というのは、種々の光学的あるいは電気的手法による特性評価装置における測定値の信頼性を確保するために必要な厚さであるが、こうした手法で得られる特性値は膜全体に平均化された情報でしかないため、膜厚方向に不均一な微視構造を有するドープ層の状態を正確に予測することはできない。そのため単膜特性から期待される太陽電池が得られないのである。
【0010】
とりわけ、膜厚方向に電流を流す構造となる太陽電池では、膜厚方向での電気的特性が重要であり、結晶成分を含む膜においては、その結晶性が電気的特性を大きく左右する。従って、ドープ層の膜厚方向における微視構造の変化を正しく把握できる評価方法を用い、膜厚方向でのドープ層の結晶構造を最適なものに設計することが重要である。
【0011】
また、特開平11−145498号公報に開示されている方法においても、ドープ層の結晶化率は、膜厚方向の微視構造に関し何ら評価されていない。従って、該微視構造に関し適切な制御および改良がなされておらず、薄膜太陽電池のドープ層として十分な結晶構造を得るには至っていない。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑み、ドープ層単層での膜厚方向の微視構造を制御した光電変換効率の高い薄膜太陽電池を提供することを目的とする。また、本発明は、前記薄膜太陽電池の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明に係る薄膜太陽電池においては、基板上に形成された少なくとも1つの光電変換ユニットを含み、前記光電変換ユニットは、p、i、n層、またはn、i、p層の順に堆積した部分を含み、前記i層上のpまたはn層が結晶成分を含むシリコン系薄膜である太陽電池であって、前記i層上のpまたはn層の結晶化率が、i層から遠い側よりi層に近い側の方が大きい構成とする。
【0014】
また他の構成としては、前記i層上のpまたはn層の結晶化率が、i層に近い側から漸次i層から遠い側へ小さくなっている構成とする。
【0015】
好ましくは、前記i層が、結晶成分を含むシリコン系薄膜である構成とする。
【0016】
さらに好ましくは、前記i層上のpまたはn層側から光を入射する構成とする。
【0017】
そして、前記i層上のpまたはn層の導電型決定不純物密度が1017cm-3以上、1021cm-3以下である構成とすることができる。
【0018】
また、前記i層上のpまたはn層の比抵抗が0.01Ω・cm以上、10Ω・cm以下である構成とすることができる。
【0019】
前記薄膜太陽電池の製造方法としては、前記i層上のpまたはn層は、13.56MHzより大きく300MHzより小さいVHF周波数帯を用いたプラズマCVD法により形成することができる。
【0020】
さらに、前記薄膜太陽電池の製造方法としては、i層上のpまたはn層は、希釈ガスの希釈率を変化させながら形成することにより、結晶化率を制御することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
まず、ドープ層の微視構造を膜厚方向に測定可能な評価方法について説明する。Journal of Applied Physics,Vol.64,1988のS.J.Changらの論文に記載の単結晶シリコンウエハー上に形成したGexSi1-x膜の応力評価に用いられているラマン散乱分光法を利用した方法(以後、斜め研磨ラマン散乱分光法と記す)を本発明の評価方法に応用した。
【0022】
図1は、斜め研磨ラマン散乱分光法による測定に用いる試料の断面図である。ガラス基板8上に形成した結晶成分を含むシリコン系薄膜9に対して、微小な傾斜角αを形成するように機械研磨し、傾斜面10がガラス基板8と結晶成分を含むシリコン系薄膜9とを有するようにする。そして、傾斜面10の平滑性を表面粗さ計により測定し、斜面10上に形成される、ガラス基板8と結晶成分を含むシリコン系薄膜9との境界11を求める。ここで、境界11は結晶成分を含むシリコン系薄膜9とガラス基板8との硬度の違いにより、境界11で傾斜角度が異なることから求められる。
【0023】
また、境界11を原点とし、ガラス基板8と結晶成分を含むシリコン系薄膜9との界面12上の任意の位置をx、その位置における結晶成分を含むシリコン系薄膜9の厚みをdとすると、d=x・tanαとなる。傾斜面10上の複数点においてラマン散乱分光法により測定することで、連続的な膜厚変化に対する微視構造の評価が可能となる。
【0024】
微視構造の評価には、結晶成分とアモルファス成分との比率、すなわち結晶化率を用いる。結晶シリコンに対応する約520cm-1のラマン散乱スペクトルのピーク高さIcとアモルファスシリコンに対応する約480cm-1のラマン散乱スペクトルのピーク高さIaとのガウス分布の重ね合わせにより、ドープ層中の結晶シリコンの比率Ic/(Ic+Ia)を結晶化率の評価指標とすることができる。なお、この値は体積分率には一致しない。
【0025】
次に、斜め研磨ラマン散乱分光法の測定値の信頼度について説明する。図2に、斜め研磨試料13と無加工試料14とのラマン散乱分光法による結晶化率の評価結果を示す。斜め研磨試料13は、一般的な平行平板電極型のプラズマCVD装置を用いてガラス基板上に形成した厚さ約1000nmの多結晶シリコン薄膜試料であり、斜め研磨ラマン散乱分光法により結晶化率が測定される。一方、無加工試料14は、斜め研磨試料13と同様の条件で多結晶シリコンの厚さを種々に変化させた数種類の平板状の試料であり、それぞれ通常のラマン散乱分光法により結晶化率が測定される。図2において、研磨試料13と無加工試料14とは良い一致を示しているので、機械研磨による研磨試料13のダメージは測定に影響しない程小さく、斜め研磨ラマン散乱分光法は十分信頼できる手法であることを意味している。
【0026】
このようにして、膜厚方向の微視構造を評価することができるため、ドープ層の微視構造が太陽電池の特性に及ぼす影響をみることができる。
【0027】
次に、本発明の薄膜太陽電池の設計について説明する。薄膜太陽電池において光電変換効率を高めるには、適切なドープ層の設計が必要となる。ここで、適切なドープ層とは、発電に寄与しない光吸収を少なくするための薄膜化と、十分な内蔵電位を得るための活性化エネルギーの低下、つまり低抵抗化とを備えたものである。
【0028】
そこで、ドープ層を薄膜化するために重要な膜の被覆性について説明する。該膜の被覆性の評価方法としては、ガラス等の基板上にスパッタでZnOを約500nm堆積させ、更に様々な結晶化率のドープ層を堆積させて、オージェ電子分光法(AES)により、前記ZnOに由来するオージェ電子が検出されなくなった点で前記ドープ層の膜が全面を覆ったとみなし、被覆膜厚とする。したがって、該被覆膜厚が小さい膜ほど被覆性がよい膜であり、薄膜化が可能となる。
【0029】
図3に、ドープ層の結晶化率に対するドープ層の被覆膜厚の測定結果を示す。結晶化率の増大とともに全面を覆うための被覆膜厚は大きくなっている。これは、結晶化率の増大により、膜が島状に成長しやすくなり、結果として被覆膜厚が大きくなると考えられる。したがって、ドープ層を薄膜化するためには、結晶化率の小さい被覆性のよい膜を用いることが適している。
【0030】
次に、ドープ層を低抵抗化するために重要な膜の比抵抗について説明する。図4に、ドープ層の結晶化率に対するドープ層の比抵抗率の測定結果を示す。ここで、測定に用いた試料の膜厚は、図3の結果より任意の結晶化率で被覆膜厚となる80nmとした。図4より、結晶化率の増大とともに比抵抗は小さくなっている。これは、結晶化が進むことで、ドーパントの活性化率が大きくなり、フェルミ準位がより導電帯および荷電子帯に近づき、活性化エネルギーが小さくなることで、ドープ層を低抵抗化していると考えられる。
【0031】
以上より、結晶化率が大きいドープ層は、低抵抗化には有利であるが、膜の被覆性が悪く薄膜化には適していない。また、結晶化率が低いドープ層は、膜の被覆性がよく薄膜化には有利であるが、高抵抗である。そこで、光電変換効率の高い薄膜太陽電池を得るには、i層上のドープ層において、i層と接する側で結晶化率を大きくし、それによってドープ層の活性化エネルギーを小さくして高い内蔵電位を得て、さらに、膜厚方向に結晶化率を小さくし、それによって膜の被覆性をよくして薄膜化するとよい。このようにドープ層の結晶化率を制御することで、ドープ層の薄膜化により光吸収が少なく短絡電流が大きくでき、また高い内蔵電位により開放電圧も大きい薄膜太陽電池を作製できる。
【0032】
以下に、薄膜太陽電池の実施形態を示す。図5は、実施形態の一例の薄膜太陽電池を示す模式的な側断面図である。基板1は薄膜太陽電池15全体を支持し、補強するものであり、その材料としては耐熱性を有すればよく、例えば、ガラス基板、耐熱性の高分子フィルム、SUS基板等が使用できる。
【0033】
基板1上には、単層または複層の金属膜である裏面電極2が、スパッタ法や真空蒸着法により数百〜千nmの膜厚で形成される。裏面電極2の材料としては、Ag、Cu、Au、Ni、Cr、W、Ti、Pt、Fe、Mo等が使用できる。なお、裏面電極2と基板1との間に、SnO2、InO2、ZnO、ITO等の透明導電膜(不図示)を介在させてもよい。
【0034】
裏面電極2上には、結晶成分を含むシリコン系薄膜である第1のドープ層3が、プラズマCVD法により数十nmの膜厚で堆積される。第1のドープ層3の堆積には、SiH4、Si2H6、SiF4等のシリコン系のガスと、B2H6等のp型ドーパントガスまたはPH3等のn型ドーパントガスとの混合気体に、希釈ガスとしてH2またはAr等の希ガスを用いる。
【0035】
第1のドープ層3上には、i層4がプラズマCVD法により約千nmの膜厚で堆積される。i層4の材料としては、結晶成分を含むシリコン系薄膜が好ましい。i層4の堆積には、SiH4、Si2H6、SiF4等のシリコン系のガスに、希釈ガスとしてH2またはAr等の希ガスを用いる。
【0036】
i層4上にはドープ層として、第1のドープ層3と逆導電型の結晶成分を含むシリコン系薄膜である第2のドープ層5が、プラズマCVD法により数十nmの膜厚で堆積される。第2のドープ層5の堆積には、SiH4、Si2H6、SiF4等のシリコン系のガスと、PH3等のn型ドーパントガスまたはB2H6等のp型ドーパントガスとの混合気体に、希釈ガスとしてH2またはAr等の希ガスを用いる。そして、前記希釈ガスの流量を漸次下げることで、結晶化率を漸次低下させながら第2のドープ層5を堆積させる。
【0037】
第2のドープ層5上には、透明導電膜6がスパッタ法や真空蒸着法により約百nmの膜厚で堆積される。透明導電膜6の材料としては、SnO2、InO2、ZnO、ITO等が使用できる。
【0038】
透明導電膜6上には、集電極である櫛形状の金属電極7が、スパッタ法や真空蒸着法により数百nmの膜厚で堆積される。金属電極7の材料としては、Ag、Al、Cu、Au、Ni、Cr、W、Ti、Pt、Fe、Mo等が使用できる。
【0039】
このような層構成により、i層4上の第2のドープ層5の結晶化率が、i層4と接する側で大きく膜厚方向に漸次小さくなっていることで、薄膜であっても被覆性がよく低抵抗なドープ層となり、高効率な薄膜太陽電池15を得ることができる。特に、i層4を結晶成分を含むシリコン系薄膜とすることで、効果を増大させている。これは、第2のドープ層5とi層4の接合においてバンドギャップの不連続が起きず、第2のドープ層5の低抵抗化および活性化エネルギーの低下によりpinまたはnip接合の内蔵電位を高め、薄膜太陽電池15の特性のうち、短絡電流密度および開放端電圧を向上させていることによる。
【0040】
なお、第2のドープ層5の結晶化率を変化させる他の方法としては、プラズマ発生装置のパワーを変化させる方法、基板温度を変化させる方法などがある。
【0041】
さらに、第2のドープ層5側から光を入射することで、第2のドープ層5の薄膜化により発電に寄与しない光吸収を減少できるため、薄膜太陽電池15は、より高効率となる。
【0042】
また、薄膜太陽電池の他の実施形態として、基板側から光を入射する薄膜太陽電池や、上述の実施形態の第2のドープ層を少なくとも1つ含み複数の光電変換ユニットを積層したタンデム型薄膜太陽電池も可能である。
【0043】
以下に、実施例について比較例とともに説明する。
≪実施例1≫
図6に、異なる周波数で堆積したn層の斜め研磨ラマン散乱分光法の測定結果を示す。平行平板電極型のプラズマCVD装置において、ドーパントガスとしてPH3を用い、13.56MHzと81.36MHzの異なる周波数でそれぞれ結晶成分を含むシリコン系薄膜のn層を基板上に堆積させている。なお、周波数以外の製膜条件は固定している。
【0044】
ここで、13.56MHzで堆積したn層は膜形成開始から約10nmまでは結晶成分が存在せず、その後膜厚が増加するにつれて結晶成分が増加していくのに対して、81.36MHzで堆積したn層は膜形成開始直後から結晶成分が存在しており、約100nmの膜厚で飽和値に達する。このように、n層は81.36MHzで十分に結晶成分を含む膜が形成できることを示している。
【0045】
≪実施例2≫
図7に、異なる周波数で堆積したp層の斜め研磨ラマン散乱分光法の測定結果を示す。平行平板電極型のプラズマCVD装置において、ドーパントガスとしてB2H6を用い、13.56MHzと81.36MHzの異なる周波数でそれぞれ結晶成分を含むシリコン系薄膜のp層を基板上に堆積させている。なお、周波数以外の製膜条件は固定している。ここで、13.56MHzで堆積したp層は膜厚全体にわたり結晶成分が存在しないのに対して、81.36MHzで堆積したp層は膜形成開始直後から結晶成分が存在しており、約10nmの膜厚で飽和値に達する。このように、p層は81.36MHzで十分に結晶成分を含む膜が形成できることを示している。
【0046】
また、実施例1および実施例2の結果より、一般にp層はn層と比較して結晶化しにくいことがわかる。このことは、p層の製膜において、B2H6から生成されるBH3等のラジカルが膜表面を終端している水素原子を引き抜くことで、堆積前駆体のSiH3ラジカルの表面拡散距離を短くしてしまい、結晶化を妨げるためだと考えられる。しかしながら、p層の製膜でも81.36MHzのVHF周波数帯を用いることにより膜形成初期から十分に結晶化させることが可能である。このように、ドープ層としてはn型またはp型に制限されることなく、13.56MHzを越えるVHF周波数帯を用いることが、ドープ層の結晶化率の制御に有利であることがわかる。ただし、300MHz以上の周波数を用いると電極面に有効に電力が供給できず、製膜が困難となる。
【0047】
≪実施例3≫
図8は、実施例3の薄膜太陽電池を示す模式的な側断面図である。厚さ3mmのガラスである基板1上に、Agをスパッタ法により400nm堆積させて裏面電極2を形成し、裏面電極2上に、ZnOをスパッタ法により100nm堆積させて透明導電膜16を形成している。そして、透明導電膜16上に、結晶成分を含むシリコン系薄膜のn層17を13.56MHzのRFプラズマCVD法により、ガス流量SiH45sccm、PH30.01sccm、H2100sccm、基板温度200℃、内圧0.25Toorの条件で40nm堆積させる。
【0048】
次に、n層上に、結晶成分を含むシリコン系薄膜のi層4を13.56MHzのVHF帯プラズマCVD法により、ガス流量SiH45sccm、H290sccm、基板温度200℃、内圧0.3Toorの条件で1000nm堆積させる。
【0049】
さらに、i層4上に、結晶成分を含むシリコン系薄膜のp層18を81.36MHzのVHF帯プラズマCVD法により、ガス流量SiH44sccm、B2H60.15sccmとし、H2流量を90sccmから漸次30sccmまで下げながら20nm堆積させる。これら順次積層されたnip接合の光電変換ユニット上に、ITOをスパッタ法により100nm堆積させて透明導電膜6を形成している。透明導電膜6上には、電流取り出しのため、Agを真空蒸着法により櫛形状に300nm堆積させて金属電極7を形成している。
【0050】
ここで、p層18の結晶化率を測定した。図9に、p層18の膜厚方向における結晶化率の変化を斜め研磨ラマン散乱分光法により測定した結果を示す。膜厚が小さいとき、つまりi層4側で結晶化率が大きく、膜厚が大きくなるにつれて結晶化率は小さくなっている。これにより、高い内蔵電位を有する薄膜化したドープ層であるp層18が得られていることがわかる。
【0051】
≪比較例1、2≫
比較例1および比較例2では、実施例3のp層18の形成条件でH2流量を80sccmで一定とし、比較例1では完全に被覆できる60nmの膜厚とし、比較例2では実施例3と同様に20nmの膜厚とした。その他の条件は実施例3に準じて薄膜太陽電池を作製した。比較例1および比較例2におけるi層上に堆積されたp層の膜厚方向の結晶化率は、図7に示される81.36MHzの膜と同様に、i層と接する側で小さくなっている。
【0052】
≪比較例3≫
比較例3では、実施例3のp層18の形成条件でH2流量を30sccmで一定とし、実施例3と同様に20nmの膜厚とした。その他の条件は実施例3に準じて薄膜太陽電池を作製した。比較例2におけるi層上に堆積されたp層の膜厚方向の結晶化率は、比較例1および比較例2と同様に、i層と接する側で小さくなっている。
【0053】
実施例3および比較例1〜3の薄膜太陽電池の特性を表1にまとめる。特性評価は比較例1の結果により規格化している。なお、変換効率の測定は、AM1.5、100mW/cm2の疑似太陽光を照射した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1より、実施例3は比較例1より薄膜化されており、短絡電流密度の向上がみられる。また、実施例3ではp層がi層と接する側で結晶化率が大きく活性化エネルギーが小さくなっているため、内蔵電位を高くでき、開放電圧を下げることなく、変換効率を向上させている。一方、比較例2ではドープ層であるp層の結晶化率が高いため、20nmの膜厚では完全に被覆することができず、リーク電流により変換効率が低下している。また、比較例3ではドープ層であるp層の結晶化率が低く、活性化エネルギーが大きいため、内蔵電位の低下による開放電圧の低下と、短絡電流密度の低下がみられ、変換効率は低下している。
【0056】
≪実施例4≫
実施例4では、実施例3のi層4の形成条件でH2流量を変え、i層がアモルファスとなるようにし、実施例3と同様に20nmの膜厚とした。その他の条件は実施例3に準じて薄膜太陽電池を作製した。
【0057】
≪比較例4≫
比較例4では、比較例1のi層の形成条件でH2流量を変え、i層がアモルファスとなるようにした。その他の条件は比較例1に準じて薄膜太陽電池を作製した。すなわち、比較例4は実施例4と比較して、i層上のドープ層であるp層の結晶化率が高い膜を60nm堆積したものとなっている。
【0058】
実施例4および比較例4の薄膜太陽電池の特性を表2にまとめる。特性評価は比較例4の結果により規格化している。なお、変換効率の測定は、AM1.5、100mW/cm2の疑似太陽光を照射した。
【0059】
【表2】
【0060】
表2より、i層がアモルファスである場合は、i層に結晶成分を含むシリコン系薄膜を用いる場合と比較して、材料の整合性がとれないため本発明の効果は小さい。
【0061】
≪実施例5〜7≫
実施例5および実施例6では、実施例3のp層18の形成条件でドーパントガスであるB2H6の流量を変化させて導電型決定不純物密度、つまりドープ層不純物密度を変化させ、実施例7では、十分な結晶性が得られる範囲でドーパントガス濃度を大きくし、比抵抗を最大限小さくしたドープ層であるp層を得ている。その他の条件は実施例3に準じて薄膜太陽電池を作製した。
【0062】
≪比較例5≫
比較例5では、比較例1のp層の形成条件でドーパントガスであるB2H6の流量を減らしてドープ層不純物密度小さくした。その他の条件は比較例1に準じて薄膜太陽電池を作製した。すなわち、比較例5は実施例5と比較して、i層上のドープ層であるp層の結晶化率が高い膜を60nm堆積したものとなっている。
【0063】
実施例3,5〜7および比較例1、5の薄膜太陽電池の特性を表3にまとめる。特性評価は比較例1の結果により規格化している。なお、変換効率の測定は、AM1.5、100mW/cm2の疑似太陽光を照射した。
【0064】
【表3】
【0065】
表3より、比較例5は比較例1よりドープ層不純物密度が小さいため、比抵抗が大きく短絡電流密度が小さくなっている。また、活性化エネルギーも大きくなるため、内蔵電位が低下して開放電圧が低下し、変換効率は低下している。そして、実施例5は比較例5よりも変換効率は向上しているが、ドープ層不純物密度が小さいため、比較例1よりも変換効率が低下しているので太陽電池特性としては望ましくない。
【0066】
また、実施例6は比較例1よりもドープ層不純物密度が小さく、比抵抗は大きいが、変換効率は向上している。よって、十分な太陽電池特性を得るためには実施例6のドープ層不純物密度1×1017cm-3が最小値となり、比抵抗10Ω・cmが最大値となる。また、実施例7は比較例1よりも変換効率が向上しており、十分な太陽電池特性を有している。デバイスレベルの十分な結晶性を有するドープ層を得るためには、実施例7のドープ層不純物密度1021cm-3が最大値となり、比抵抗0.01Ω・cmが最小値となる。
【0067】
なお、以上の実施例および比較例においては、i層上のドープ層をp層とし、光入射側としたが、薄膜太陽電池の構造としては他に、i層上のドープ層をn層としても同様の効果が得られる。また、光入射方向を反対にした場合でも効果は得られるが、ドープ層を薄膜化することによる光吸収の減少効果は小さくなる。さらに、pinまたはnip接合の光電変換ユニットを複数積層した積層型太陽電池の場合でも同様の効果が得られるのは言うまでもない。
【0068】
【発明の効果】
本発明により、ドープ層単層での膜厚方向の微視構造を斜め研磨ラマン散乱分光法を用いて解析し、結晶成分を含むシリコン系薄膜を用いたドープ層の最適な結晶構造として、薄膜化と低抵抗化を両立したドープ層を設計し、i層と接する側でドープ層の結晶化率を大きくすることで活性化エネルギーを小さくして太陽電池デバイスとしての高い内蔵電位を得て、膜厚方向にドープ層の結晶化率を小さくすることで膜の被覆性をよくして薄膜化して大きな短絡電流密度を得て、光電変換効率の高い薄膜太陽電池が作製できる。
【0069】
また本発明により、i層に結晶成分を含むシリコン系薄膜を用いることで、ドープ層とi層との接合においてバンドギャップの不連続が起きず、より光電変換効率の高い薄膜太陽電池が作製できる。
【0070】
また本発明により、i層上のドープ層側から光を入射することで、薄膜化されたドープ層により、発電に寄与しない光吸収を減少できるため、薄膜太陽電池の光電変換効率はより高くできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 斜め研磨ラマン散乱分光法による測定に用いる本発明の試料の断面図である。
【図2】 斜め研磨試料と無加工試料とのラマン散乱分光法による結晶化率の評価結果である。
【図3】 本発明のドープ層の結晶化率に対するドープ層の被覆膜厚の測定結果である。
【図4】 本発明のドープ層の結晶化率に対するドープ層の比抵抗率の測定結果である。
【図5】 本発明の実施形態の一例の薄膜太陽電池を示す模式的な側断面図である。
【図6】 異なる周波数で堆積した本発明のn層の斜め研磨ラマン散乱分光法の測定結果である。
【図7】 異なる周波数で堆積した本発明のp層の斜め研磨ラマン散乱分光法の測定結果である。
【図8】 本発明の実施例3の薄膜太陽電池を示す模式的な側断面図である。
【図9】 本発明のp層の膜厚方向における結晶化率の変化を斜め研磨ラマン散乱分光法により測定した結果である。
【符号の説明】
1 基板
4 i層
9 結晶成分を含むシリコン系薄膜
15 薄膜太陽電池
17 n層
18 p層
Claims (8)
- 基板上に形成された少なくとも1つの光電変換ユニットを含み、前記光電変換ユニットは、p、i、n層、またはn、i、p層の順に堆積した部分を含み、前記i層上のpまたはn層が結晶成分を含むシリコン系薄膜である太陽電池において、
前記i層上のpまたはn層の結晶化率が、i層から遠い側よりi層に近い側の方が大きいことを特徴とする薄膜太陽電池。 - 前記i層上のpまたはn層の結晶化率が、i層に近い側から漸次i層から遠い側へ小さくなっていることを特徴とする請求項1記載の薄膜太陽電池。
- 前記i層が、結晶成分を含むシリコン系薄膜であることを特徴とする請求項1または2記載の薄膜太陽電池。
- 前記i層上のpまたはn層側から光を入射することを特徴とする請求項1〜3何れかに記載の薄膜太陽電池。
- 前記i層上のpまたはn層の導電型決定不純物密度が1017cm-3以上、1021cm-3以下であることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載の薄膜太陽電池。
- 前記i層上のpまたはn層の比抵抗が0.01Ω・cm以上、10Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜5何れかに記載の薄膜太陽電池。
- 請求項1記載のi層上のpまたはn層は、13.56MHzより大きく300MHzより小さいVHF周波数帯を用いたプラズマCVD法により形成することを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
- 請求項1記載のi層上のpまたはn層は、希釈ガスの希釈率を変化させながら形成することにより、結晶化率を制御することを特徴とする薄膜太陽電池の製造方法。
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