JP4670486B2 - 液体吐出ヘッドの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ノズルから液体を吐出する液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
液体を吐出する液体吐出ヘッドとしては、例えば、インクを吐出する複数のノズルが形成されたインクジェットプリンタのインクジェットヘッドなどが知られている。このインクジェットヘッドでは、ノズルの周囲表面にインクの濡れができるとインク飛翔方向にズレが生じたり、さらに濡れがひどくなるとインクが飛ばないといった問題が起きる。そのため、インクジェットヘッドの表面(インク吐出面)に撥水膜を設けてノズル周辺に濡れが生じるのを抑える技術が知られている。
例えば、特許文献1には、ノズルに対応した段差部を有する金属板及び段差部から露出した基板の表面に撥水膜が形成されたインクジェット記録ヘッドについて記載されている。このような位置に撥水膜が形成されることで、ノズル周囲が濡れにくくなり、インクが付着しにくくなる。
また、特許文献2には、ノズルプレートにおいてノズルをエキシマレーザを用いて加工する方法について記載されている。この技術においては、基板となるポリイミド樹脂の表面に撥水膜を形成した後、基板の裏面からエキシマレーザを照射してノズルを加工している。通常、撥水膜としてはフッ素系やシリコン系の材料が利用されるため、紫外線用レーザである短波長のエキシマレーザは撥水膜を透過しやすい。そのため、実際には、撥水膜は、基板の分子の分解、飛散に伴って穿孔されるだけであるので加工形状がきれいに仕上がらず、基板の表面側に撥水膜を構成する素材からなるバリ(加工による副生成物も含む)が残される。このバリは、インク飛翔に悪影響を与えるため、特許文献2では、バリの発生後に基板を再加熱することで、バリを軟化させて平坦化している。これにより、撥水膜を有する基板をレーザ加工しても、インクジェットヘッドの吐出性能を悪化させることがない。
特許第3108771号公報 特許第3348744号公報
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、ノズルが形成された基板前面に金属板を接着した後に、金属板及び段差部から露出した基板の表面に撥水膜が形成されている。このため、ノズル内に撥水膜が形成される虞がある。ノズル内に撥水膜が形成されると、ノズルからのインク吐出方向にばらつきが生じる。なお、ノズル部分にマスクを施してから撥水膜を形成すれば、ノズル内に撥水膜が形成されるのを防ぐことが可能となるが、このような作業は非常に繁雑となる。一方、特許文献2に記載の技術においては、基板の板厚が薄い方が、加工時間の短縮などのために望ましい。しかし、板厚が薄いと強度が弱くなるため、基板を保持する際の作業性が悪くなる。
本発明の目的は、作業性、加工精度及び吐出性能に優れた液体吐出ヘッドの製造方法を提供することである。
課題を解決するための手段及び発明の効果
本発明の液体吐出ヘッドの製造方法は、ノズルプレートを含む複数のプレートが積層された液体吐出ヘッドの製造方法において、前記ノズルプレートの一方の面に撥水膜を形成する撥水膜形成工程と、前記ノズルプレートの他方の面に、貫通孔を有する補強プレートを固定する固定工程と、前記貫通孔を介して前記ノズルプレート及び前記撥水膜にレーザ光線を照射することによって、前記ノズルプレート及び前記撥水膜を貫通するノズルを形成するノズル形成工程とを備えている。そして、前記撥水膜形成工程前に、前記ノズルプレートの前記一方の面において前記ノズルに対応する領域を露出させつつ前記一方の面を部分的に被覆するパターンを有し且つ前記撥水膜よりも厚いカバープレートを前記一方の面に接着する接着工程をさらに備えている。
これによると、撥水膜が形成されたノズルプレートにノズルを形成するので、ノズル内に撥水膜が存在しないノズルプレートを容易に製造することができる。そのため、ノズルから吐出される液体の吐出方向が安定するヘッドを製造することができる。また、ノズルプレートに補強プレートを固定した状態でノズルプレートにノズルを形成するので、ノズルプレートの厚みが薄くても、ノズルプレートの強度を高めることができ作業性及び加工精度が向上する。また、ノズル近傍の撥水膜がその撥水膜よりも厚いカバープレートによって取り囲まれるため、ジャムなどが生じたときに記録媒体が撥水膜と接触しにくくなる。そのため、撥水膜の損傷を抑制することができる。したがって、ヘッドの吐出性能を長期間維持することができる。また、ノズルプレートにカバープレートを接着してからノズルに対応する領域に撥水膜を形成するので、ノズルプレートとカバープレートとの位置合わせが容易になる。また、ノズルプレートの一方の面において、予めカバープレートがノズルプレートに直接接着されることになるので、カバープレートとノズルプレートとが高い強度で接着される。
本発明において、前記ノズル形成工程後に、前記撥水膜を当該撥水膜に含まれる樹脂のガラス転移点以上の温度に加熱する加熱工程をさらに備えていることが好ましい。これにより、撥水膜が形成されたノズルプレートにノズルを形成したときに、バリがノズルの周縁に形成されても、加熱工程によってそのバリを平坦化することができる。そのため、バリに起因する液体吐出方向のばらつきを抑制することができ、ヘッドの吐出性能を向上させることができる。
また、このとき、前記固定工程において、前記ノズルプレートの前記他方の面に、接着剤によって前記補強プレートを固定し、前記加熱工程において、前記撥水膜を前記接着剤の分解開始温度よりも低い温度に加熱していてもよい。これにより、ノズルプレートと補強プレートとの接着強度が低下するのを防止することができる。そのため、ヘッドの耐久性及び製造歩留まりが向上する。
また、本発明においては、前記撥水膜形成工程前に、前記ノズルプレートの前記一方の面に、前記撥水膜の前記ノズルプレートに対する密着強度を上げるためのプライマ処理を施す前処理工程をさらに備えていることが好ましい。これにより、ノズルプレートから撥水膜が剥離しにくくなる。
また、本発明においては、前記撥水膜形成工程前に、前記撥水膜の前記ノズルプレートに対する密着強度を上げるための処理液に前記ノズルプレートを浸漬する前処理工程と、前記前処理工程前に、前記ノズルプレートの前記他方の面を保護膜で被覆する被覆工程と、前記前処理工程と前記固定工程との間に、前記保護膜を前記ノズルプレートの前記他方の面から除去する除去工程とをさらに備えていることが好ましい。これにより、前処理工程が、処理液にノズルプレートを浸漬するという容易な作業になる。しかも、前処理工程前に、ノズルプレートの他方の面に保護膜が被覆されているので、ノズルプレートの他方の面に、前処理工程(ここではプライマ処理)によるプライマ層が形成されない。そのため、ノズルプレートの他方の面にレーザ光線を照射してノズルプレートにノズルを形成するときに、プライマ層のようなコーティング層に起因する異物、加工くず等の付着といった加工不良を防止することができる。
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の第1実施形態によるインクジェットヘッドの製造方法によって製造されたインクジェットヘッド30が採用されたインクジェットプリンタの概略平面図である。インクジェットプリンタ1の内部には、図1に示すように、2本のガイド軸6,7が設けられている。これらガイド軸6,7には、キャリッジを兼用するヘッドユニット8が取り付けられている。ヘッドユニット8は、合成樹脂材料からなるヘッドホルダ9を含んでいる。ヘッドホルダ9には、印刷用紙Pへインクを吐出して印刷を行うインクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)30が保持されている。このインクジェットヘッド30の印刷用紙Pと対向する面がインク吐出面(図3参照)25aで、インクを吐出する複数のノズルが形成されている。ヘッドホルダ9は、キャリッジモータ12により回転する無端ベルト11に取り付けられており、キャリッジモータ12の駆動により、ガイド軸6,7に沿って主走査方向に往復移動する。
インクジェットプリンタ1には、イエローインクが収容されたインクカートリッジ5aと、マゼンタインクが収容されたインクカートリッジ5bと、シアンインクが収容されたインクカートリッジ5cと、ブラックインクが収容されたインクカートリッジ5dとが備えられている。各インクカートリッジ5a〜5dは、それぞれ可撓性のチューブ14a〜14dによってチューブジョイント20と接続されている。
また、インクジェットプリンタ1には、ヘッドホルダ9が左端に移動したときに対向するインク吸収部材3が設けられている。インク吸収部材3は、フラッシングのときにノズル28(図5参照)から吐出されたインクを吸収する。また、インクジェットプリンタ1には、ヘッドホルダ9が右端に移動したときに対向するパージ装置2が設けられている。パージ装置2は、インクジェットヘッド30の底面(カバープレート100の下面:図5参照)にキャップ2aを密着させて、キャップ2aとインクジェットヘッド30の底面とで囲まれた空間を減圧することで、インクジェットヘッド30の内部に溜まる気泡やゴミなどをインクとともに強制的にノズル28から吸引するためのものである。
パージ装置2の左方には、パージ装置2でインクを排出することでインクジェットヘッド30の底面に付着したインクを払拭するワイパー4が設けられている。本実施形態におけるワイパー4は、例えば、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、シリコンゴムなどの弾性体からなる。ワイパー4は、ヘッドユニット8が対向する位置に配置されたときに、インクジェットヘッド30の底面と接触し、その先端が撓む。ワイパー4の先端が撓んだ状態で、キャリッジモータ12の駆動により、ヘッドユニット8が主走査方向に平行に移動することで、インクジェットヘッド30の底面に付着したインクがワイパー4によって払拭される。なお、ワイパー4は可撓性を有するので、後述するカバープレート100の長孔115〜117内にワイパー4の撓んだ先端が侵入し、長孔115〜117内に存在する撥水膜112〜114上に付着したインク(ノズル28近傍に付着したインク)を払拭する。
次に、ヘッドユニット8の主要構造について以下に説明する。図2は、図1に示すヘッドユニット8の分解斜視図であり、ヘッドホルダ9からバッファタンク48及びヒートシンク60を取り外した状態を示している。図3は、図2に示すインクジェットヘッドユニットの縦断面図である。図2中のI−I線に沿って切断したときの断面であり、ここには、図2で省略したバッファタンク48の上方の制御基板84やカバー9aが示されている。
図2及び図3に示すように、ヘッドホルダ9は、上方に向かって開口した略箱状に形成されており、その底部にはインクジェットヘッド30を構成するヘッド本体25が固定されている。また、ヘッドホルダ9において、ヘッド本体25の上方には、ヘッド本体25へ供給するインクを一時的に貯溜するバッファタンク48が設置されている。ヘッド本体25は、そのインク吐出面25aがヘッドホルダ9の下方外側に露出するように設置されている。
バッファタンク48の端部には、図2に示すように、インクをこのバッファタンク48に供給するためのチューブジョイント20が接続されている。バッファタンク48の反対側端部の下面には、4つのインク流出口(不図示)が設けられており、ヘッド本体25に設けられた4つインク供給口30a(後述する)とシール部材90を介して接続されている。バッファタンク48の上方には、図3に示すように、コンデンサ83などの電子部品及びコネクタ85が実装された制御基板84が設けられている。制御基板84の上方は、ヘッドホルダ9の上方を覆うカバー9aにより覆われている。
ヘッドホルダ9には、図3に示すように、L字形状のヒートシンク60がバッファタンク48の左側側壁48aに隣接する位置に固定されている。バッファタンク48の右方には、バッファタンク48内に蓄積された空気を外部へ排気する排気装置49が設けられている。
次に、インクジェットヘッド30の主要構成について以下に説明する。図4は、インクジェットヘッド30を示す外観斜視図である。図3及び図4に示すように、インクジェットヘッド30は、ヘッド本体25と、ヘッド本体25の上面に接合されたフレキシブルプリント回路(FPC:Flexible Printed Circuit)70とを含んでいる。ヘッド本体25は、それぞれの色ごとに複数のインク流路が形成された流路ユニット27と、流路ユニット27の上面に熱硬化性接着剤によって接着された圧電アクチュエータ21とを含んでいる。流路ユニット27及び圧電アクチュエータ21はともに、長方形平面形状を有する複数の薄板を積層して構成されている。流路ユニット27の上面には、圧電アクチュエータ21を避けて平面形状が楕円形状の4つのインク供給口30a(図5参照)が形成されている。これら4つのインク供給口30aが形成された領域には、各インク供給口30aと対向する位置に複数の微小孔が形成されたフィルタ55が配置されている。こうして、バッファタンク48のインク流出口(不図示)から流出したインクがフィルタ55で濾過され、インク供給口30aから流路ユニット27内に流入する。
FPC70は、圧電アクチュエータ21の上面から主走査方向の一方に引き出され、図3に示すように、ヘッドホルダ9の底部に形成された孔17を通されてヒートシンク60とヘッドホルダ9の側壁との間に形成された隙間を介して上方に向かう。そして、FPC70は、制御基板84とバッファタンク48との隙間を介して制御基板84上に設けられたコネクタ85と接続されている。FPC70には、ドライバIC80が実装されている。FPC70には、FPC50の延在方向に沿って延設された複数の配線(図示せず)が形成されており、ドライバIC80と圧電アクチュエータ21と、及び、ドライバIC80と制御基板84とを電気的に接続している。
また、ドライバIC80は、FPC70の配設経路の途中で弾性部材18によりヒートシンク60に接触するように押圧されている。これにより、発熱したドライバIC80の過剰な熱を放熱することが可能になる。また、FPC70の圧電アクチュエータ21と対向する領域には、図3に示すように、アルミ板81が配置されている。アルミ板81は、圧電アクチュエータ21の上面とほぼ同じサイズの長方形平面形状を有しており、各個別電極37(後述する)の駆動による発熱が個別電極37毎でばらつかないように均熱する。
図5は、ヘッド本体25及びFPC70の分解斜視図である。図6は、図4に示すVI
−VI線における断面図である。図7は、流路ユニット27を下方(インク吐出面25a側)から見たときの平面図である。上述したように、ヘッド本体25は、圧電アクチュエータ21と流路ユニット27とを含んでいる。このうち、図5に示すように、流路ユニット27は、上から、キャビティプレート108、サプライプレート107、アパーチャプレート106、2枚のマニホールドプレート104,105、ダンパプレート103、補強プレート102、ノズルプレート101、カバープレート100の計9枚のシート材が積層された積層構造を有している。各プレート100〜108は、副走査方向に長手方向を有する長方形平面形状となっている。本実施の形態において、流路ユニット27を構成する9枚のプレート100〜108のうち、ノズルプレート101及びカバープレート100を除く7枚のプレート102〜108がステンレス鋼からなり、ノズルプレート101及びカバープレート100がポリイミド樹脂からなる。なお、プレート102〜108は、ステンレス鋼以外の金属材料から構成されていてもよい。また、ノズルプレート101及びカバープレート100は、インクに対する耐性が優れたポリイミド樹脂で構成されているが、これ以外の合成樹脂から構成されていてもよいし、プレート102〜108と同様な金属材料から構成されていてもよい。
圧電アクチュエータ21は、後で詳述するように、2枚の絶縁シート33,34と2枚の圧電シート35,36とが積層され、活性部となる部分を有する1つの活性層と活性部を有しない3つの非活性層とを有している。なお、活性層を有する層数は、要求される圧電アクチュエータ21の変位量に応じて適宜決められるものであり、本実施形態のように1層に限るものではない。すなわち、より大きな変位が必要であれば、活性層を有する層を増やせばよい。
ノズルプレート101には、図5〜図7に示すように、微小径のノズル28が副走査方向に沿って千鳥配列状で5列に配列されている。これら複数のノズル28は、互いに平行なノズル列110a〜110eを構成している。5列のノズル列110a〜110eのうち、ノズル列110bとノズル列110c、及び、ノズル列110dとノズル列110eが互いに近接配置されており、ノズル列組111a,111bを構成している。ノズルプレート101のインク吐出面(下面)25aには、ノズル列110a、ノズル列組111a及びノズル列組111b毎に対応する3つの撥水膜112〜114が形成されている。撥水膜112〜114は、ノズル列110a、ノズル列組111a及びノズル列組111bに属する複数のノズル28の周囲を覆っている。
図5に示すように、キャビティプレート108には、各ノズル28に対応する複数の圧力室10がキャビティプレート108の長手方向に沿って千鳥状配列で5列に穿設されている。各圧力室10の長手方向は、主走査方向に長くキャビティプレート108の長手方向に対して直交している。各圧力室10の一端部は、サプライプレート107、アパーチャプレート106、2枚のマニホールドプレート104,105、ダンパプレート103及び補強プレート102に千鳥状配列で穿設されている微小径の貫通孔29を介して、ノズルプレート101におけるノズル28に連通している。一方、各圧力室10の他端部は、サプライプレート107の連絡孔51とアパーチャプレート106のアパーチャ52とを介してマニホールドプレート105のインク室半部105a(共通インク室99)に連通している。また、キャビティプレート108の一端部側には、インク供給口30aとなる4つの孔108aがキャビティプレート108の短手方向(主走査方向)に沿って離隔して形成されている。
図5に示すように、2枚のマニホールドプレート104,105のうち、アパーチャプレート106に近い側のマニホールドプレート105には、5つのインク室半部105aが貫通状に形成されている。これら5つのインク室半部105aは、マニホールドプレート105の長手方向に沿って延在されつつ、マニホールドプレート105の短手方向に互いに離隔している。
一方、ダンパプレート103側のマニホールドプレート104にも、5つのインク室半部105aと同様の5つのインク室半部104aが貫通して形成されている。図6に示すように、この構成で2枚のマニホールドプレート104,105、アパーチャプレート106及びダンパプレート103の計4枚を積層すると、対向する2つのインク室半部104a,105aが相互に接合される。このときに形成される上下の開口が、上からのアパーチャプレート106と下からのダンパプレート103とにより覆われる。これにより、貫通孔29の列の間及び外側に計5つの共通インク室99が形成される。なお、共通インク室99の一端部がインク供給口30aとそれぞれ対向している。
サプライプレート107に貫通して形成された複数の連絡孔51は、各圧力室10に対応してサプライプレート107の長手方向に沿って千鳥状の5列に配列されている。また、サプライプレート107は、長手方向の一端部側に、図5に示すように、4つの孔107aを有している。これら孔107aは、それぞれキャビティプレート108の4つの孔108aと対向するように形成されている。
アパーチャプレート106には、複数の貫通孔29の他に、アパーチャプレート106の短手方向に沿って延在した略長方形平面形状のアパーチャ52が、アパーチャプレート106の長手方向に沿って千鳥状の5列に配列されている。アパーチャ52は、一端部において連絡孔51と連通し、他端部において共通インク室99と連通している。アパーチャ52は、インク流動方向と直交する方向の断面積が若干小さくなっており、インク吐出時に圧力室10から共通インク室99側に逆流しようとするインクの流れを制限するものである。また、アパーチャプレート106には、4つの孔107aとそれぞれ対向する位置に孔106aが形成されている。各孔106aは、一方の開口において孔107aとそれぞれ連通し、他方の開口において対応する共通インク室99とそれぞれ連通している。
なお、4つの孔106aのうち、図5中最も奥に位置する1つの孔106aは、図5中奥の2つの共通インク室99と連通しており、他の3つの孔106aは、図5中手前の3つの共通インク室99とそれぞれ連通している。つまり、5つの共通インク室99のうち、図5中奥に位置する2つの共通インク室99には、1つのインク供給口30aからのインクがそれぞれに供給され、他の3つの共通インク室99には、対応する1つのインク供給口30aからのインクがそれぞれに供給される。本実施の形態において、図5中奥の2つの共通インク室99には、ブラックのインクが供給される。さらに、図5中手前から奥に向かって配置する3つの共通インク室99には、イエロー、マゼンタ及びシアンの順にインクが供給されている。
ダンパプレート103には、複数の貫通孔29の他に、図5及び図6に示すように5列のダンパ溝103aが凹設されている。これらダンパ溝103aは、補強プレート102に向けてのみ開放するように形成され、その位置及び形状は共通インク室99と同形状となっている。したがって、マニホールドプレート104,105及びダンパプレート103を接合したときは、ダンパプレート103の共通インク室99と対向する部分には、ダンパ部53が位置する。ここで、ダンパ部53は、適宜弾性変形可能に形成された凹部の底面として構成されているので、共通インク室99側及びダンパ溝103a側に自由に振動することができる。このような構成により、インク吐出時に圧力室10で発生した圧力変動が共通インク室99に伝播しても、これに対応してダンパ部53が弾性変形することによって吸収減衰させることができる。
カバープレート100は、図6に示すように、撥水膜112〜114の膜厚よりも厚く形成されている。また、カバープレート100には、図5〜図7に示すように、副走査方向に沿って延在した略長方形平面形状の長孔115〜117が形成されている。いずれの長孔115〜117も、その角部が丸くなっている。長孔115〜117は、カバープレート100のノズル列110a、ノズル列組111a及びノズル列組111bのそれぞれに対向する領域に形成されている。つまり、ノズルプレート101のインク吐出面25aに対してカバープレート100が接着剤100aで接着されたときに、複数のノズル28がこれら長孔115〜117の底部にて露出する。また、各長孔115〜117の底部には、撥水膜112〜114の表面全域が長孔115〜117を介して露出するように配置されている。本実施形態における接着剤100aは、撥水膜112〜114とほぼ同じ厚みを有しており、撥水膜112〜114をそれぞれ取り囲んでいる。そのため、撥水膜112〜114に付着したインクがカバープレート100とノズルプレート101との間に侵入することがほとんどない。
このような複数のプレート100〜108が互いに接着され積層された流路ユニット27の構成により、流路ユニット27の内部には、インク供給口30aから順に共通インク室99、アパーチャ52、連絡孔51、圧力室10及び貫通孔29を通ってノズル28に至る複数の個別インク流路が構成されている。バッファタンク48からインク供給口30aを介して流路ユニット27内に流入したインクは、一旦共通インク室99に貯溜される。そして、アパーチャ52を経由して、各圧力室10に供給される。各圧力室10で、圧電アクチュエータ21により圧力が付与されたインクが、各貫通孔29を経由して、対応するノズル28から吐出される。
続いて、圧電アクチュエータ21について以下に説明する。図8は、図5に示す圧電アクチュエータ21の要部分解斜視図である。図8に示すように、圧電アクチュエータ21は、2枚の絶縁シート33,34と2枚の圧電シート35,36とが積層されて構成されている。圧電シート36の上面には、複数の個別電極37が流路ユニット27における各圧力室10に対向配置するように形成されている。これら個別電極37は、圧力室10の配列に対応して、圧電シート36の長手方向に沿って千鳥状の5列に配列されている。各個別電極37は、全体として圧電シート36の短手方向に細長く形成されている。また、各個別電極37は、いずれか一方の端部から圧電シート36の長手方向に延出された引き出し部37aを有している。なお、いずれの引き出し部37aも、各圧力室10を区画する隔壁と対向する位置まで引き出されている。
圧電シート35の上面には、複数の圧力室10に跨った共通電極38が設けられている。共通電極38には、圧電シート35の一部が露出した複数の非形成領域39が形成されており、各非形成領域39内に圧電シート35の厚み方向に貫通した孔40が形成されている。非形成領域39は、対応する個別電極37の引き出し部37aと対向する位置に形成されている。
最上層の絶縁シート33の上面(すなわち、圧電アクチュエータ21の上面)には、複数の個別電極37のそれぞれに対応する表面電極22と、共通電極38に対応する表面電極23とが設けられている。表面電極22は、圧力室10同士を区画する隔壁と対向する位置に配置されており、各個別電極37に対応して圧電アクチュエータ21の長手方向に沿って千鳥状の5列に配列されている。表面電極23は、絶縁シート33の一端部上において、圧電アクチュエータ21の短手方向に沿って延在している。
絶縁シート33,34には、表面電極22と引き出し部37aとに対向する領域であって各孔40に対向する位置に、絶縁シート33,34の厚み方向に貫通した複数の連続孔41が形成されている。この構成で、孔40と連続孔41とそれぞれ位置合わせした状態で、2枚の絶縁シート33,34と1枚の圧電シート35とを積層することで、圧電アクチュエータ21には、上方の3枚のシート33〜35を連続して貫通する複数のスルーホールが形成される。これらスルーホールには、圧電アクチュエータ21を製造するときに、表面電極22と個別電極37とを電気的に接続するために、導電性部材が充填されている。また、絶縁シート33,34には、表面電極23と共通電極38とが対向する領域に、絶縁シート33,34の厚み方向に貫通した3つの連続孔42が絶縁シート33,34の短手方向に沿って離隔して形成されている。これら連続孔42にも、圧電アクチュエータ21を製造するときに、表面電極23と共通電極38とが電気的に接続されるように、導電性部材が充填されている。
このような構成により、各個別電極37は、表面電極22及びFPC70を介してドライバIC80に接続されており、共通電極38がグランド電位に保たれる。また、任意の個別電極37に対しては、ドライバIC80からの駆動電圧(駆動信号)を選択的に印加することが可能になる。こうして、所望の個別電極37に対応する活性部に、積層方向の歪みを発生させ、対応する圧力室10内のインクに圧力を付与する。そして、当該圧力室10に対応するノズル8からインクを吐出させることで、用紙への所定の印字が行われる。
次に、上述したインクジェットヘッド30の製造方法について、以下に説明する。図9は、インクジェットヘッド30の製造工程図である。図10は、カバープレート100が固定されたノズルプレート101の製造工程図である。
インクジェットヘッド30を製造するには、流路ユニット27及び圧電アクチュエータ21などの部品を別々に作製し、それから各部品を組み付ける。まず、流路ユニット27の作製工程から説明する。ステップ1(S1)において、図10(a)に示すように、ノズルプレート101となるポリイミド樹脂からなる基板151の上面152に保護膜153を被覆する(被覆工程)。保護膜153には、剥離可能なシート状のマスキング材(日立化成工業(株)製、ヒタレックス)を用い、貼着することで基板151の上面152を被覆している。
次に、ステップ2(S2)において、図10(b)に示すように、基板151にプライマ処理を行い、プライマ層154を表裏両面に形成する(前処理工程)。このプライマ処理は、撥水膜112〜114の基板151に対する密着強度を上げるために行われるもので、本実施形態では、プライマ処理液に浸漬することで処理される。プライマ処理液としては、例えば、信越化学工業(株)製のシランカップリング剤KBE−903を純水で約2wt%に希釈したものが使用される。基板51上のプライマ処理液は、約100℃で乾燥される。基板151では、上面152がすでに保護膜153で被覆されているため、直接プライマ層154が形成されるのは下面(インク吐出面)25aのみであり、上面152においては、保護膜153上にプライマ層154が形成される。なお、プライマ処理に先立って、基板151の下面25aを酸素プラズマなどで表面処理し、プライマ層154の密着性を向上させていてもよい。このように、基板151に撥水膜112〜114が形成される前の工程において、基板151の下面25aにプライマ層154が形成されることで、撥水膜112〜114が基板151に形成されたときに基板151から剥離しにくくなる。また、前処理工程が、プライマ処理液に浸漬するという容易な作業となる。
次に、ステップ3(S3)において、図10(c)に示すように、基板151の上面152から保護膜153を剥離する(除去工程)。その結果、基板151においては、下面25aのみにプライマ層154が形成され、上面152は基板151が露出した状態となる。そのため、基板151の上面152にレーザ光線を照射してノズル28を形成するときに、プライマ層154のようなコーティング層に起因する異物、加工くずの付着、バリの発生といった加工不良を防止することができる。
次に、ステップ4(S4)において、図10(d)に示すように、基板151の下面25aに形成されたプライマ層154上にガラス転移温度が約52℃の樹脂を含んだ撥水膜112〜114を形成する(撥水膜形成工程)。なお、図10においては、ノズル列110aに属する1つのノズル28に関する断面部分を描いているため、3つの撥水膜112〜114のうち、撥水膜112だけが描かれている。本実施形態においては、プライマ層154上に所定パターン(撥水膜112〜114の形成領域以外の領域パターン)のマスク157を施した後、マスク157で被覆されていないプライマ層154の露出領域に対してフッ素系の素材からなる撥水膜材料をスプレーで塗布する。そして、プライマ層154を被覆するマスク157を除去した後、所定温度(例えば、約250℃)T1で所定時間加熱することで、撥水性を有する撥水膜112〜114を形成する。なお、撥水膜112〜114の形成が、浸漬法などによって行われる場合は、保護膜153の剥離を浸漬処理後に行う。また、撥水膜112〜114としては、3フッ化塩化エチレン樹脂(PCTFE樹脂)、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂などのフッ素系の樹脂、さらには、フッ素原子を含んだ表面改質剤やコーティング剤、例えば、KP801M(商品名:信越化学工場(株)製)、サイトップ(商品名:旭硝子(株)製)、AF1600(商品名:イー・アイ・デュポン・ドゥ・ヌムール・アンド・カンパニー製)、DEFENNSA77702(光ラジカル重合型樹脂:大日本インキ化学工業(株)製)、FS−116(商品名:ダイキン工業(株)製)、フロラード(商品名:住友スリーエム(株)製)等を使用することができる。なお、塗布された撥水膜材料に対し、上記の所定温度T1による熱処理を施すことにより、塗布膜の基板表面(この場合、プライマ層154)に対する密着性および塗布膜自体の平滑性が向上し、所望の機械的強度および撥水性を有した撥水膜が得られる。
次に、ステップ5(S5)において、図10(e)に示すように、ノズル28の形成位置毎に形成された複数の貫通孔29を有する補強プレート102を、基板151の上面152に接着剤155により固定する(固定工程)。このとき、使用する接着剤155としては、例えば、(株)スリーボンド製20X−343−12が使用され、その分解開始温度は約300℃である。
次に、ステップ6(S6)において、図10(f)に示すように、貫通孔29を介して基板151の上面152にレーザ光線を照射して、撥水膜112〜114を有する基板151にノズル28を穿設する(ノズル形成工程)。加工に用いるレーザ光線には、エキシマレーザ光線などが使用される。なお、撥水膜112〜114には、エキシマレーザで加工すると、レーザの照射方向に向かって延在した突起状のバリ158が発生することがある。
次に、ステップ7(S7)において、図10(g)に示すように、ノズル28が形成された基板151を所定温度T2に加熱する(加熱工程)。この加熱により、撥水膜112〜114に形成されたバリ158も溶融され、撥水膜112〜114が平坦化する。このときの所定温度T2は、約250℃である。本実施の形態では、撥水膜112〜114のガラス転移点の温度(約52℃)以上で、且つ、基板151と補強プレート102と接着する接着剤155の分解開始温度よりも低くすることができるように、予め接着剤155及び撥水膜112〜114が選択されている。なお、撥水膜112〜114の所定温度T2は、先の所定温度T1と同じ場合と異なる場合とがある。
次に、ステップ8(S8)において、図10(h)に示すように、ステップ4で施されたマスクと同様なパターンで且つ撥水膜112〜114の膜厚とほぼ同じ厚みの接着剤100aをプライマ層154上に形成する。なお、このときに使用される接着剤100aは、接着剤155と同じものであり、分解開始温度が約300℃である。その後、撥水膜112〜114の形成位置に対応して形成された長孔115〜117を有し撥水膜112〜114の膜厚よりも厚いカバープレート100を、接着剤100aによりプライマ層154上に接着する(接着工程)。このとき、カバープレート100の長孔115〜117から撥水膜112〜114及びノズル28が露出するように配置する。こうして、インク吐出面25aには、撥水膜112〜114とは逆のパターンを有するカバープレート100が固定される。カバープレート100は撥水膜112〜114の膜厚より厚いため、ノズル28近傍の撥水膜112〜114がカバープレート100によって取り囲まれる。そのため、ジャムなどが生じたときに記録媒体が撥水膜112〜114と接触しにくくなり、撥水膜112〜114の損傷を抑制することができる。したがって、インクジェットヘッド30の吐出性能を向上させることができる。また、カバープレート100とインク吐出面25aとの接着領域が長孔115〜117を取り囲んでいるので、パージ装置2によりノズル28から吸引パージが行われるときに、ノズルプレート101とカバープレート100との間からエアを吸い込まない。そのため、パージ装置2の吸引パージの効率が低下しない。以上のようにして、カバープレート100及び補強プレート102が接着されたノズルプレート101が製造される。
変形例として、ステップ4の後に、上述したステップ8をステップ5よりも先に行ってもよい。つまり、基板151の下面25aに形成されたプライマ層154上に撥水膜112〜114が形成された後、補強プレート102を基板151に固定する前に、カバープレート100を基板151に接着してもよい。その後、上述したステップ5〜7を行うことで、カバープレート100及び補強プレート102が接着されたノズルプレート101を製造してもよい。この場合、ステップ7において、カバープレート100を基板151に接着する接着剤100aも所定温度T2に加熱されるが、接着剤100aは接着剤155と同様なものであるため、分解することがない。
次に、ステップ9(S9)において、予め圧力室10、貫通孔29等の複数の孔及びダンパ溝38等が形成された6枚のプレート103〜108を接着剤を介して互いに位置合わせし、6枚のプレート103〜108を加熱して互いに固定した積層体を、補強プレート102の上面に接着剤を介して載置する。そして、この状態で加熱及び加圧して補強プレート102と積層体との間の接着剤を硬化させる。このとき、ノズルプレート101及びカバープレート100は、予め補強プレート102と固着された状態で、積層体とともに加圧及び加熱されているので、ノズルプレート101及びカバープレート100が他のプレート102〜108と形成材料が異なる(すなわち、熱膨張係数が相違している)にも拘わらず、他のプレート102〜108と同じように延びる。そのため、流路ユニット27に反りが発生しない。このようにして、カバープレート100を有する流路ユニット27の作製が完了する。
続いて、圧電アクチュエータ21の作製工程について説明する。まず、ステップ10(S10)において、圧電セラミックスのグリーンシートを複数用意する。グリーンシートは、予め焼成による収縮量を見込んで形成される。そのうちの一つのグリーンシート上に、導電性ペーストを個別電極37のパターンにスクリーン印刷するとともに、もう一つのグリーンシート上に導電性ペーストを共通電極38のパターンにスクリーン印刷する。そして、治具を用いてグリーンシート同士を位置合わせしつつ、個別電極37のパターンで導電性ペーストが印刷されたグリーンシート上に共通電極38のパターンで導電性ペーストが印刷されたグリーンシートを重ね合わせる。さらにその上に、導電性ペーストが印刷されていないグリーンシートを2枚重ね合わせる。
そして、ステップ11(S11)において、ステップ10で得られた積層体を公知のセラミックスと同様に脱脂し、さらに所定の温度で焼成する。これにより、4枚のグリーンシートが絶縁シート33,34及び圧電シート35,36となり、各導電性ペーストが個別電極37又は共通電極38となる。その後、最上層にある絶縁シート33上に、導電性ペーストを表面電極22,23のパターンにスクリーン印刷する。そして、この導電性ペーストを焼成して、絶縁シート33上に表面電極22,23を形成する。次に、表面電極22と個別電極37、及び、表面電極23と共通電極38とを電気的に接続するために、孔40を圧電シート35に、連続孔41,42を絶縁シート33,34に形成し内部に導電性部材を充填する。このようにして、図8に描かれたような圧電アクチュエータ21を作製することができる。
なお、ステップ1〜9の流路ユニット作製工程と、ステップ10〜11の圧電アクチュエータ作製工程は、独立に行われるため、いずれを先に行ってもよいし、並行して行ってもよい。
続いて、流路ユニット27と圧電アクチュエータ21とで構成されたヘッド本体25の作製工程について説明する。まず、ステップ12(S12)において、ステップ1〜9で得られた流路ユニット27の圧力室に相当する凹部が多数形成された面に、熱硬化性温度が80℃程度であるエポキシ系の熱硬化性接着剤を、バーコーターを用いて塗布する。熱硬化性接着剤としては、例えば二液混合タイプのものが用いられる。
次に、ステップ13(S13)において、流路ユニット27に塗布された熱硬化性接着剤層上に、圧電アクチュエータ21を載置する。このとき、圧電アクチュエータ21は、活性部と圧力室10とがそれぞれ対向するように流路ユニット27に対して位置決めされる。この位置決めは、予め作製工程(ステップ1〜11)において流路ユニット27及び圧電アクチュエータ21に形成された位置決めマーク(図示せず)に基づいて行われる。
次に、ステップ14(S14)において、このようにして得られた積層体を図示しない加熱・加圧装置で熱硬化性接着剤の硬化温度以上に加熱しながら加圧する。そして、ステップ15(S15)において、加熱・加圧装置から取り出された積層体を自然冷却する。こうして、流路ユニット27と圧電アクチュエータ21とで構成されたヘッド本体25が製造される。
しかる後、FPC70の複数の配線と表面電極22,23との接合を行う接合工程を経ることで、上述したインクジェットヘッド30が完成する。
以上のように、本実施の形態のインクジェットヘッド30の製造方法によると、撥水膜112〜114が形成されたノズルプレート101にノズル28を形成するので、ノズル28内に撥水膜112〜114が存在しないノズルプレートを容易に製造することができる。そのため、ノズル28から吐出されるインクの吐出方向が安定する(すなわち、インク吐出性能が向上した)ヘッドを製造することができる。また、撥水膜112〜114に形成されたバリ158をなくすときの加熱温度が、ノズルプレート101と補強プレート102とを接着する接着剤155の分解開始温度未満となっているので、ノズルプレート101と補強プレート102との接着強度が低下するのを防止することができる。そのため、ヘッドの耐久性及び製造歩留まりが向上する。また、ノズルプレート101に補強プレート102を固定した状態でノズルプレート101にノズル28を形成するので、ノズルプレート101の厚みが薄くても、ノズルプレート101の強度を高めることができる。そのため、作業性が向上する。さらに、ノズル形成時のレーザ光線の照射によって、ノズルプレート101及び補強プレート102がともに加熱された状態となっても、補強プレート102とノズルプレート101とが固着した状態であるため、両者の熱膨張係数の相違による反りが生じない。そのため、ノズル28の加工精度が向上する。また、撥水膜112〜114が形成されたノズルプレート101にノズル28を形成したときに、バリ158がノズル28の周縁に形成されても、加熱工程によってそのバリを平坦化しているので、バリに起因するインク吐出方向のばらつきを抑制することができる。そのため、インクジェットヘッド30の吐出性能をより向上させることができる。
続いて、本発明の第2実施形態によるインクジェットヘッドの製造方法で製造されたインクジェットヘッド230について、以下に説明する。図11は、本発明の第2実施形態によるインクジェットヘッドの製造方法によって製造されたインクジェットヘッド230の部分断面図である。図11に示すように、本実施形態におけるインクジェットヘッド230は、カバープレート100の下面(インクジェットヘッド230の底面)に撥水膜231が形成されているだけで、その他は第1実施形態のインクジェットヘッド30とほぼ同じ構成を有している。このように、インクジェットヘッド230の底面(カバープレート100の下面)に撥水膜231が形成されることで、インクジェットヘッド230の底面にインクが付着しにくくなる。しかも、ワイパー4でインクジェットヘッド230の底面を払拭したときに、その底面に付着したインクを容易に拭き取ることができる。なお、第1実施形態と同様なものについては、同符号で示し説明を省略する。
続いて、インクジェットヘッド230の製造方法について以下に説明する。図12は、インクジェットヘッド230の製造工程図である。図13は、カバープレート100が固定されたノズルプレート101の製造工程図である。
本実施形態におけるインクジェットヘッド230を製造するには、第1実施形態と同様に流路ユニット27´及び圧電アクチュエータ21などの部品を別々に作製し、それから各部品を組み付ける。まず、流路ユニット27´の作製工程から説明する。ステップ1(S1)〜ステップ3(S3)は、第1実施形態と同様である。ステップ1において、図13(a)に示すように、ノズルプレート101となる基板151の上面152に保護膜153を被覆する(被覆工程)。次に、ステップ2において、図13(b)に示すように、基板151にプライマ処理を行い、プライマ層154を表裏両面に形成する(前処理工程)。次に、ステップ3において、図13(c)に示すように、基板151の上面152から保護膜153を剥離する(除去工程)。
次に、ステップ4(S4´)において、図13(d)に示すように、ノズル28の形成位置に対応して形成された複数の貫通孔29を有する補強プレート102を、基板151の上面152に接着剤155により固定する(固定工程)。次に、ステップ5(S5´)において、図13(e)に示すように、プライマ層154上に所定パターン(撥水膜112〜114の形成領域以外の領域パターン)で且つ撥水膜112〜114の膜厚とほぼ同じ厚みの接着剤100aをプライマ層154上に形成する。その後、ノズル列110a及びノズル列組111a,111bの形成位置に対応して形成された長孔115〜117を有し撥水膜112〜114の膜厚よりも厚いカバープレート100を、接着剤100aによりプライマ層154上に接着する(接着工程)。このとき、カバープレート100の長孔115〜117から撥水膜112〜114及びノズル28の形成領域が露出するように配置する。こうして、インク吐出面25aに撥水膜112〜114の形成領域とは逆のパターンを有するカバープレート100が固定される。
次に、ステップ6(S6´)において、図13(f)に示すように、カバープレート100の表面及び基板151の下面25aに形成されたプライマ層154の長孔115〜117から露出した領域に、第1実施形態と同様の撥水膜材料をスプレーで塗布する。そして、所定温度(例えば、250℃)T1で所定温度加熱することで、撥水性を有する撥水膜112〜114,231を形成する(撥水膜形成工程)。
次に、ステップ7(S7´)において、図13(g)に示すように、貫通孔29側からエキシマレーザ光線を照射して、撥水膜112〜114を有する基板151にノズル28を穿設する(ノズル形成工程)。このときも、第1実施形態と同様に、撥水膜112〜114には、エキシマレーザ光線の加工による突起状のバリ158が発生することがある。
次に、ステップ8(S8´)において、図13(h)に示すように、ノズル28が形成された基板151を所定温度T2に加熱する(加熱工程)。この加熱により、撥水膜112〜114に形成されたバリ158が溶融され、撥水膜112〜114が平坦化する。このときも所定温度T2は、約250℃であり、第1実施形態と同様に、撥水膜112〜114のガラス転移点の温度(約52℃)以上で、且つ、基板151と補強プレート102と接着する接着剤155の分解開始温度よりも低くすることができるように、予め接着剤155及び撥水膜112〜114が選択されている。なお、撥水膜112〜114の所定温度T2は、先の所定温度T1と同じ場合と異なる場合とがある。以上のようにして、カバープレート100及び補強プレート102が接着されたノズルプレート101が製造される。
次に、ステップ9(S9)において、第1実施形態と同様に、予め圧力室10、貫通孔29等の複数の孔及びダンパ溝38等が形成された6枚のプレート103〜108を接着剤を介して互いに位置合わせし、6枚のプレート103〜108を加熱して互いに固定した積層体形成する。そして、積層体を補強プレート102の上面に接着剤を介して載置する。この状態で加熱して補強プレート102と積層体との間の接着剤を硬化させる。こうして、カバープレート100を有する流路ユニット27´の作製が完了する。
続いて、第1実施形態と同様のステップ10〜11を経ることで、圧電アクチュエータ21が作製される。そして、作製された流路ユニット27´と圧電アクチュエータ21とで構成されたヘッド本体25が、第1実施形態と同様のステップ12〜15を経ることで作製される。しかる後、FPC70の複数の配線と表面電極22,23との接合を行う接合工程を経ることで、上述したインクジェットヘッド230が完成する。
以上のように、本実施の形態のインクジェットヘッド230の製造方法によると、カバープレート100は撥水膜112〜114の膜厚より厚いため、ノズル28近傍の撥水膜112〜114がカバープレート100によって取り囲まれる。そのため、第1実施形態と同様に、ジャムなどが生じたときに記録媒体が撥水膜112〜114と接触しにくくなり、撥水膜112〜114の損傷を抑制することができる。したがって、インクジェットヘッド30の吐出性能を向上させることができる。また、第1実施形態では、先に形成された撥水膜112〜114が長孔115〜117の底部に存在するようにノズルプレート101とカバープレート100とを位置合わせする必要があるが、本実施形態においては、ノズルプレート101とカバープレート100とを接着した後に撥水膜112〜114,231を形成しているので、ノズルプレート101とカバープレート100との位置合わせが容易になる。なお、第1実施形態と同様な部分においては、本実施形態でも同じ効果を得ることができる。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能なものである。例えば、上述した各実施形態におけるインクジェットヘッド30,230の製造方法において、前処理工程、被覆工程及び除去工程がなくてもよい。加えて、撥水膜112〜114のバリをなくすための加熱工程がなくてもよい。また、接着剤が変質することで、その接着力が損なわれないのであれば、加熱工程における加熱温度が接着剤の分解開始温度以上であってもよい。さらに、撥水膜材料を塗布した後の加熱処理(所定温度T1:250℃)がなくてもよい。このときには、後に行われる加熱工程において、バリ158が溶融されてノズル開口端の形状が整えられると共に、塗布された撥水膜材料が所望の撥水性を発現するように加熱することが好適である。また、上述した各実施形態におけるインクジェットヘッド30,230は、シリアルタイプのものであるが、プリンタ本体に固定されラインタイプのものであってもよい。また、上述した各実施形態におけるインクジェットヘッド30,230は圧電方式の圧電アクチュエータによって駆動され、インクがノズルから吐出されるが、FPCから送られた駆動信号によって各圧力室内のインクを加熱し、圧力室内のインクに吐出エネルギーを付与するサーマル方式のインクジェットヘッドであってもよい。また、上述した各実施形態の製造方法は、インクを吐出するインクジェットヘッドに限られるものではなく、インク以外の水などの液体を吐出するヘッド全般に適用可能である。
本発明の第1実施形態によるインクジェットヘッドの製造方法によって製造されたインクジェットヘッドが採用されたインクジェットプリンタの概略平面図である。 図1に示すヘッドユニットの分解斜視図である。 図2に示すインクジェットヘッドユニットの縦断面図である。 インクジェットヘッドを示す外観斜視図である。 図4に示すヘッド本体及びFPCの分解斜視図である。 図4に示すVI−VI線における断面図である。 流路ユニットを下方から見たときの平面図である。 図5に示す圧電アクチュエータの要部分解斜視図である。 本発明の第1実施形態によるインクジェットヘッドの製造工程図である。 本発明の第1実施形態によるカバープレートが固定されたノズルプレートの製造工程図である。 本発明の第2実施形態によるインクジェットヘッドの製造方法によって製造されたインクジェットヘッドの部分断面図である。 本発明の第2実施形態によるインクジェットヘッドの製造工程図である。 本発明の第2実施形態によるカバープレートが固定されたノズルプレートの製造工程図である。
符号の説明
1 インクジェットプリンタ
25a インク吐出面、下面(一方の面)
28 ノズル
29 貫通孔
30,230 インクジェットヘッド
100 カバープレート
100a,155 接着剤
101 ノズルプレート
102 補強プレート
103 ダンパプレート
104,105 マニホールドプレート
106 アパーチャプレート
107 サプライプレート
108 キャビティプレート
112〜114,231 撥水膜
115〜117 孔
151 基板
152 上面(他方の面)
153 保護膜
154 プライマ層

Claims (5)

  1. ノズルプレートを含む複数のプレートが積層された液体吐出ヘッドの製造方法において、
    前記ノズルプレートの一方の面に撥水膜を形成する撥水膜形成工程と、
    前記ノズルプレートの他方の面に、貫通孔を有する補強プレートを固定する固定工程と、
    前記貫通孔を介して前記ノズルプレート及び前記撥水膜にレーザ光線を照射することによって、前記ノズルプレート及び前記撥水膜を貫通するノズルを形成するノズル形成工程とを備え
    前記撥水膜形成工程前に、前記ノズルプレートの前記一方の面において前記ノズルに対応する領域を露出させつつ前記一方の面を部分的に被覆するパターンを有し且つ前記撥水膜よりも厚いカバープレートを前記一方の面に接着する接着工程をさらに備えていることを特徴とする液体吐出ヘッドの製造方法。
  2. 前記ノズル形成工程後に、前記撥水膜を当該撥水膜に含まれる樹脂のガラス転移点以上の温度に加熱する加熱工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
  3. 前記固定工程において、前記ノズルプレートの前記他方の面に、接着剤によって前記補強プレートを固定し、
    前記加熱工程において、前記撥水膜を前記接着剤の分解開始温度よりも低い温度に加熱することを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
  4. 前記撥水膜形成工程前に、前記ノズルプレートの前記一方の面に、前記撥水膜の前記ノズルプレートに対する密着強度を上げるためのプライマ処理を施す前処理工程をさらに備えていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
  5. 前記撥水膜形成工程前に、前記撥水膜の前記ノズルプレートに対する密着強度を上げるための処理液に前記ノズルプレートを浸漬する前処理工程と、
    前記前処理工程前に、前記ノズルプレートの前記他方の面を保護膜で被覆する被覆工程と、
    前記前処理工程と前記固定工程との間に、前記保護膜を前記ノズルプレートの前記他方の面から除去する除去工程とをさらに備えていることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドの製造方法。
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