以下、図面を参照して本発明の記録装置に係る実施形態を説明する。
なお、以下に説明する実施形態では、インクジェット記録方式を用いた記録装置としてのプリンタを例に挙げ説明する。
なお、以下に説明する実施形態では、インクジェット記録方式を用いた記録装置としてプリンタを例に挙げ説明する。
そして、本明細書において、「プリント」(「記録」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広くプリント媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も言うものとする。
ここで、「プリント媒体」または「記録シート」とは、一般的なプリント装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板等、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能な物も言うものとするが、以下では単に「紙」という場合もある。
さらに、「インク」(「液体」という場合もある)とは、上記「プリント」の定義と同様広く解釈されるべきもので、プリント媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成またはプリント媒体の加工、或いはインクの処理(例えばプリント媒体に付与されるインク中の色材の凝固または不溶化)に供され得る液体を言うものとする。
1.装置本体
図1及び図2にインクジェット記録方式を用いたプリンタの概略構成を示す。図1において、この実施形態におけるプリンタの装置本体M1000の外殻は、下ケースM1001、上ケースM1002、アクセスカバーM1003及び排出トレイM1004を含む外装部材と、その外装部材内に収納されたシャーシM3019(図2参照)とから構成される。
シャーシM3019は、所定の剛性を有する複数の板状金属部材によって構成され、記録装置の骨格をなし、後述の各記録動作機構を保持するものとなっている。
また、前記下ケースM1001は装置本体M1000の外装の略下半部を、上ケースM1002は装置本体M1000の外装の略上半部をそれぞれ形成しており、両ケースの組合せによって内部に後述の各機構を収納する収納空間を有する中空体構造をなしている。装置本体M1000の上面部及び前面部には、それぞれ、開口部が形成されている。
さらに、排出トレイM1004は、その一端部が下ケースM1001に回転自在に保持され、その回転によって下ケースM1001の前面部に形成される前記開口部を開閉させ得るようになっている。このため、記録動作を実行させる際には、排出トレイM1004を前面側へと回転させて開口部を開成させることにより、ここから記録シートが排出可能となると共に排出された記録シートPを順次積載し得るようになっている。また、排紙トレイM1004には、2枚の補助トレイM1004a,M1004bが収納されており、必要に応じて各トレイを手前に引き出すことにより、用紙の支持面積を3段階に拡大、縮小させ得るようになっている。
アクセスカバーM1003は、その一端部が上ケースM1002に回転自在に保持され、上面に形成される開口部を開閉し得るようになっており、このアクセスカバーM1003を開くことによって本体内部に収納されている記録ヘッドカートリッジH1000あるいはインクタンクH1900等の交換が可能となる。なお、ここでは特に図示しないが、アクセスカバーM1003を開閉させると、その裏面に形成された突起がカバー開閉レバーを回転させるようになっており、そのレバーの回転位置をマイクロスイッチなどで検出することにより、アクセスカバーの開閉状態を検出し得るようになっている。
また、上ケースM1002の後部上面には、電源キーE0018及びレジュームキーE0019が押下可能に設けられると共に、LED E0020が設けられており、電源キーE0018を押下すると、LED E0020が点灯し記録可能であることをオペレータに知らせるものとなっている。また、LED E0020は点滅の仕方や色の変化をさせたり、プリンタのトラブル等をオペレータに知らせる等種々の表示機能を有する。さらに、ブザーE0021(図7)をならすこともできる。なお、トラブル等が解決した場合には、レジュームキーE0019を押下することによって記録が再開されるようになっている。
2.記録動作機構
次に、プリンタの装置本体M1000に収納、保持される本実施形態における記録動作機構について説明する。
本実施形態における記録動作機構としては、記録シートPを装置本体内へと自動的に給送する自動給送部M3022と、自動給送部から1枚ずつ送出される記録シートPを所定の記録位置へと導くと共に、記録位置から排出部M3030へと記録シートPを導く搬送部M3029と、記録位置に搬送された記録シートPに所望の記録を行なう記録部と、前記記録部等に対する回復処理を行う回復部(M5000)とから構成されている。
ここで、記録部について説明するに、その記録部は、キャリッジ軸M4021によって移動可能に支持されたキャリッジM4001と、このキャリッジM4001に着脱可能に搭載される記録ヘッドカートリッジH1000とからなる。
2.1 記録ヘッドカートリッジ
まず、記録部に用いられる記録ヘッドカートリッジについて図3〜5に基づき説明する。
この実施形態における記録ヘッドカートリッジH1000は、図3に示すようにインクを貯留するインクタンクH1900と、このインクタンクH1900から供給されるインクを記録情報に応じてノズルから吐出させる記録ヘッドH1001とを有する。記録ヘッドH1001は、後述するキャリッジM4001に対して着脱可能に搭載される、いわゆるカートリッジ方式を採るものとなっている。
ここに示す記録ヘッドカートリッジH1000では、写真調の高画質なカラー記録を可能とするため、インクタンクとして、例えば、ブラック、ライトシアン、ライトマゼンタ、シアン、マゼンタ及びイエローの各色独立のインクタンクH1900が用意されており、図4に示すように、それぞれが記録ヘッドH1001に対して着脱自在となっている。
そして,記録ヘッドH1001は、図5の分解斜視図に示すように、記録素子基板H1100、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300、第2のプレートH1400、タンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700、シールゴムH1800から構成されている。
記録素子基板H1100には、Si基板の片面にインクを吐出するための複数の記録素子と、各記録素子に電力を供給するAl等の電気配線とが成膜技術により形成され、この記録素子に対応した複数のインク流路と複数の吐出口H1100Tとがフォトリソグラフィ技術により形成されると共に、複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。また、記録素子基板H1100は第1のプレートH1200に接着固定されており、ここには、前記記録素子基板H1100にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。さらに、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されており、この第2のプレートH1400を介して、電気配線基板H1300が記録素子基板H1100に対して電気的に接続されるよう保持されている。この電気配線基板H1300は、記録素子基板H1100にインクを吐出するための電気信号を印加するものであり、記録素子基板H1100に対応する電気配線と、この電気配線端部に位置し本体からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有しており、外部信号入力端子H1301は、後述のタンクホルダーH1500の背面側に位置決め固定されている。
一方、インクタンクH1900を着脱可能に保持するタンクホルダーH1500には、流路形成部材H1600が例えば、超音波溶着により固定され、インクタンクH1900から第1のプレートH1200に亘るインク流路H1501を形成している。また、インクタンクH1900と係合するインク流路H1501のインクタンク側端部には、フィルターH1700が設けられており、外部からの塵埃の侵入を防止し得るようになっている。また、インクタンクH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、係合部からのインクの蒸発を防止し得るようになっている。
さらに、前述のようにタンクホルダーH1500、流路形成部材H1600、フィルターH1700及びシールゴムH1800から構成されるタンクホルダー部と、前記記録素子基板H1100、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400から構成される記録素子部とを、接着等で結合することにより、記録ヘッドH1001を構成している。
2.2 キャリッジ
次に、図2を参照して記録ヘッドカートリッジH1000を搭載するキャリッジM4001を説明する。
図2に示すように、キャリッジM4001には、キャリッジM4001と係合し記録ヘッドH1001をキャリッジM4001上の所定の装着位置に案内するためのキャリッジカバーM4002と、記録ヘッドH1001のタンクホルダーH1500と係合し記録ヘッドH1001を所定の装着位置にセットさせるよう押圧するヘッドセットレバーM4007とが設けられている。
すなわち、ヘッドセットレバーM4007はキャリッジM4001の上部にヘッドセットレバー軸に対して回動可能に設けられると共に、記録ヘッドH1001との係合部には、ばね付勢されるヘッドセットプレート(不図示)が備えられ、このばね力によって記録ヘッドH1001を押圧しながらキャリッジM4001に装着する構成となっている。
また、キャリッジM4001の記録ヘッドH1001との別の係合部にはコンタクトフレキシブルプリントケーブル(図7参照、以下、コンタクトFPCと称す)E0011が設けられ、コンタクトFPC E0011上のコンタクト部と記録ヘッドH1001に設けられたコンタクト部(外部信号入力端子)H1301とが電気的に接触し、記録のための各種情報の授受や記録ヘッドH1001への電力の供給などを行い得るようになっている。
ここでコンタクトFPC E0011のコンタクト部とキャリッジM4001との間には不図示のゴムなどの弾性部材が設けられ、この弾性部材の弾性力とヘッドセットレバーばねによる押圧力とによってコンタクト部とキャリッジM4001との確実な接触を可能とするようになっている。さらに前記コンタクトFPC E0011はキャリッジM4001の背面に搭載されたキャリッジ基板E0013に接続されている(図7参照)。
3.スキャナ
この実施形態におけるプリンタは、上述した記録ヘッドカートリッジH1000の代わりにキャリッジM4001にスキャナを装着することで読取装置としても使用することができる。
このスキャナは、プリンタ側のキャリッジM4001と共に主走査方向に移動し、記録媒体に代えて給送された原稿画像をその主走査方向への移動の過程で読み取るようになっており、その主走査方向の読み取り動作と原稿の副走査方向の給送動作とを交互に行うことにより、1枚の原稿画像情報を読み取ることができる。
図6(a)および(b)は、このスキャナM6000の概略構成を説明するために、スキャナM6000を上下逆にして示す図である。
図示のように、スキャナホルダM6001は、略箱型の形状であり、その内部には読み取りに必要な光学系・処理回路などが収納されている。また、このスキャナM6000をキャリッジM4001へと装着した時に、原稿面と対面する部分には読取部レンズM6006が設けられており、このレンズM6006により原稿面からの反射光を内部の読取部に収束することで原稿画像を読み取るようになっている。一方、照明部レンズM6005は内部に不図示の光源を有し、その光源から発せられた光がレンズM6005を介して原稿へと照射される。
スキャナホルダM6001の底部に固定されたスキャナカバーM6003は、スキャナホルダM6001内部を遮光するように嵌合し、側面に設けられたルーバー状の把持部によってキャリッジM4001への着脱操作性の向上を図っている。スキャナホルダM6001の外形形状は記録ヘッドH1001と略同形状であり、キャリッジM4001へは記録ヘッドカートリッジH1000と同様の操作で着脱することができる。
また、スキャナホルダM6001には、読取り処理回路を有する基板が収納される一方、この基板に接続されたスキャナコンタクトPCBが外部に露出するよう設けられており、キャリッジM4001へとスキャナM6000を装着した際、スキャナコンタクトPCB M6004がキャリッジM4001側のコンタクトFPC E0011に接触し、基板を、キャリッジM4001を介して本体側の制御系に電気的に接続させるようになっている。
4.プリンタの電気回路の構成
次に、本発明の実施形態における電気的回路構成を説明する。
図7は、この実施形態における電気的回路の全体構成例を概略的に示す図である。
この実施形態における電気的回路は、主にキャリッジ基板(CRPCB)E0013、メインPCB(Printed Circuit Board)E0014、電源ユニットE0015等によって構成されている。
ここで、電源ユニットE0015は、メインPCB E0014と接続され、各種駆動電源を供給するものとなっている。
また、キャリッジ基板E0013は、キャリッジM4001(図2)に搭載されたプリント基板ユニットであり、コンタクトFPC E0011を通じて記録ヘッドとの信号の授受を行うインターフェースとして機能する他、キャリッジM4001の移動に伴ってエンコーダセンサE0004から出力されるパルス信号に基づき、エンコーダスケールE0005とエンコーダセンサE0004との位置関係の変化を検出し、その出力信号をフレキシブルフラットケーブル(CRFFC)E0012を通じてメインPCB E0014へと出力する。
さらに、メインPCB E0014はこの実施形態におけるインクジェット記録装置の各部の駆動制御を司るプリント基板ユニットであり、紙端検出センサ(PEセンサ)E0007、ASF(自動給紙装置)センサE0009、カバーセンサE0022、パラレルインターフェース(パラレルI/F)E0016、シリアルインターフェース(シリアルI/F)E0017、リジュームキーE0019、LED E0020、電源キーE0018、ブザーE0021等に対するI/Oポートを基板上に有する。またさらに、キャリッジM1400を主走査させるための駆動源をなすモータ(CRモータ)E0001、記録媒体を搬送するための駆動源をなすモータ(LFモータ)E0002、記録ヘッドの回動動作と記録媒体の給紙動作に兼用されるモータ(PGモータ)E0003と接続されてこれらの駆動を制御する他、インクエンプティセンサE0006、GAPセンサE0008、PGセンサE0010、CRFFC E0012、電源ユニットE0015との接続インターフェイスを有する。
図8(A)および(B)は、メインPCB E0014の内部構成を示すブロック図である。図において、E1001はCPUであり、このCPU E1001は内部に発振回路E1005に接続されたクロックジェネレータ(CG) E1002を有し、その出力信号E1019によりシステムクロックを発生する。また、制御バスE1014を通じてROM E1004およびASIC(Application Specific Integrated Circuit) E1006に接続され、ROMに格納されたプログラムに従って、ASIC E1006の制御、電源キーからの入力信号E1017、及びリジュームキーからの入力信号E1016、カバー検出信号E1042、ヘッド検出信号(HSENS)E1013の状態の検知を行ない、さらにブザー信号(BUZ)E1018によりブザーE0021を駆動し、内蔵されるA/DコンバータE1003に接続されるインクエンプティ検出信号(INKS)E1011及びサーミスタによる温度検出信号(TH)E1012の状態の検知を行う一方、その他各種論理演算・条件判断等を行ない、インクジェット記録装置の駆動制御を司る。
ここで、ヘッド検出信号E1013は、記録ヘッドカートリッジH1000からフレキシブルフラットケーブルE0012、キャリッジ基板E0013及びコンタクトフレキシブルプリントケーブルE0011を介して入力されるヘッド搭載検出信号であり、インクエンプティ検出信号E1011はインクエンプティセンサE0006から出力されるアナログ信号、温度検出信号E1012はキャリッジ基板E0013上に設けられたサーミスタ(図示せず)からのアナログ信号である。
E1008はCRモータドライバであって、モータ電源(VM)E1040を駆動源とし、ASIC E1006からのCRモータ制御信号E1036に従って、CRモータ駆動信号E1037を生成し、CRモータE0001を駆動する。E1009はLF/PGモータドライバであって、モータ電源E1040を駆動源とし、ASIC E1006からのパルスモータ制御信号(PM制御信号)E1033に従ってLFモータ駆動信号E1035を生成し、これによってLFモータを駆動すると共に、PGモータ駆動信号E1034を生成してPGモータを駆動する。
E1010は電源制御回路であり、ASIC E1006からの電源制御信号E1024に従って発光素子を有する各センサ等への電源供給を制御する。パラレルI/F E0016は、ASIC E1006からのパラレルI/F信号E1030を、外部に接続されるパラレルI/FケーブルE1031に伝達し、またパラレルI/FケーブルE1031の信号をASIC E1006に伝達する。シリアルI/F E0017は、ASIC E1006からのシリアルI/F信号E1028を、外部に接続されるシリアルI/FケーブルE1029に伝達し、また同ケーブルE1029からの信号をASIC E1006に伝達する。
一方、電源ユニットE0015からは、ヘッド電源(VH)E1039及びモータ電源(VM)E1040、ロジック電源(VDD)E1041が供給される。また、ASIC E1006からのヘッド電源ON信号(VHON)E1022及びモータ電源ON信号(VMOM)E1023が電源ユニットE0015に入力され、それぞれヘッド電源E1039及びモータ電源E1040のON/OFFを制御する。電源ユニットE0015から供給されたロジック電源(VDD)E1041は、必要に応じて電圧変換された上で、メインPCB E0014内外の各部へ供給される。
またヘッド電源信号E1039は、メインPCB E0014上で平滑化された後にフレキシブルフラットケーブルE0011へと送出され、記録ヘッドカートリッジH1000の駆動に用いられる。
E1007はリセット回路で、ロジック電源電圧E1041の低下を検出して、CPU E1001及びASIC E1006にリセット信号(RESET)E1015を供給し、初期化を行なう。
このASIC E1006は1チップの半導体集積回路であり、制御バスE1014を通じてCPU E1001によって制御され、前述したCRモータ制御信号E1036、PM制御信号E1033、電源制御信号E1024、ヘッド電源ON信号E1022、及びモータ電源ON信号E1023等を出力し、パラレルI/F E0016およびシリアルI/F E0017との信号の授受を行なう他、PEセンサE0007からのPE検出信号(PES)E1025、ASFセンサE0009からのASF検出信号(ASFS)E1026、記録ヘッドと記録媒体とのギャップを検出するためのセンサ(GAP)センサE0008からのGAP検出信号(GAPS)E1027、PGセンサE0010からのPG検出信号(PGS)E1032の状態を検知して、その状態を表すデータを制御バスE1014を通じてCPU E1001に伝達し、入力されたデータに基づきCPU E1001はLED駆動信号E1038の駆動を制御してLEDE0020の点滅を行なう。
さらに、エンコーダ信号(ENC)E1020の状態を検知してタイミング信号を生成し、ヘッド制御信号E1021で記録ヘッドカートリッジH1000とのインターフェイスをとり記録動作を制御する。ここにおいて、エンコーダ信号(ENC)E1020はフレキシブルフラットケーブルE0012を通じて入力されるCRエンコーダセンサE0004の出力信号である。また、ヘッド制御信号E1021は、フレキシブルフラットケーブルE0012、キャリッジ基板E0013、及びコンタクトFPC E0011を経て記録ヘッドH1000に供給される。
図9(A)および(B)は、ASIC E1006の内部構成例を示すブロック図である。
なお、同図において、各ブロック間の接続については、記録データやモータ制御データ等、ヘッドや各部機構部品の制御にかかわるデータの流れのみを示しており、各ブロックに内蔵されるレジスタの読み書きに係わる制御信号やクロック、DMA制御にかかわる制御信号などは図面上の記載の煩雑化を避けるため省略している。
図中、E2002はPLLコントローラであり、図9に示すようにCPU E1001から出力されるクロック信号(CLK)E2031及びPLL制御信号(PLLON)E2033により、ASIC E1006内の大部分へと供給するクロック(図示しない)を発生する。
また、E2001はCPUインターフェース(CPUI/F)であり、リセット信号E1015、CPU E1001から出力されるソフトリセット信号(PDWN)E2032、クロック信号(CLK)E2031及び制御バスE1014からの制御信号により、以下に説明するような各ブロックに対するレジスタ読み書き等の制御や、一部ブロックへのクロックの供給、割り込み信号の受け付け等(いずれも図示しない)を行ない、CPU E1001に対して割り込み信号(INT)E2034を出力し、ASIC E1006内部での割り込みの発生を知らせる。
また、E2005はDRAMであり、記録用のデータバッファとして、受信バッファE2010、ワークバッファE2011、プリントバッファE2014、展開用データバッファE2016などの各領域を有すると共に、モータ制御用としてモータ制御バッファE2023を有し、さらにスキャナ動作モード時に使用するバッファとして、上記の各記録用データバッファに代えて使用されるスキャナ取込みバッファE2024、スキャナデータバッファE2026、送出バッファE2028などの領域を有する。
また、このDRAM E2005は、CPU E1001の動作に必要なワーク領域としても使用されている。すなわち、E2004はDRAM制御部であり、制御バスによるCPU E1001からDRAM E2005へのアクセスと、後述するDMA制御部E2003からDRAM E2005へのアクセスとを切り替えて、DRAM E2005への読み書き動作を行なう。
DMA制御部E2003では、各ブロックからのリクエスト(図示せず)を受け付けて、アドレス信号や制御信号(図示せず)、書込み動作の場合には書込みデータE2038、E2041、E2044、E2053、E2055、E2057などをDRAM制御部E2004に出力してDRAMアクセスを行なう。また読み出しの場合には、DRAM制御部E2004からの読み出しデータE2040、E2043、E2045、E2051、E2054、E2056、E2058、E2059を、リクエスト元のブロックに受け渡す。
また、E2006は、IEEE1284I/Fであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、パラレルI/F E0016を通じて、図示しない外部ホスト機器との双方向通信インターフェイスを行なう他、記録時にはパラレルI/F E0016からの受信データ(PIF受信データE2036)をDMA処理によって受信制御部E2008へと受け渡し、スキャナ読み取り時にはDRAM E2005内の送出バッファE2028に格納されたデータ(IEEE1284送信データ(RDPIF)E2059)をDMA処理によりパラレルI/Fに送信する。
E2007は、ユニバーサルシリアルバス(USB)I/Fであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、シリアルI/F E0017を通じて、図示しない外部ホスト機器との双方向通信インターフェイスを行なう他、印刷時にはシリアルI/F E0017からの受信データ(USB受信データE2037)をDMA処理により受信制御部E2008に受け渡し、スキャナ読み取り時にはDRAM E2005内の送出バッファE2028に格納されたデータ(USB送信データ(RDUSB)E2058)をDMA処理によりシリアルI/F E0017に送信する。受信制御部E2008は、1284I/F E2006もしくはUSBI/F E2007のうちの選択されたI/Fからの受信データ(WDIF)E2038)を、受信バッファ制御部E2039の管理する受信バッファ書込みアドレスに、書込む。
E2009は圧縮・伸長DMAコントローラであり、CPUI/F E2001を介したCPUE1001の制御により、受信バッファE2010上に格納された受信データ(ラスタデータ)を、受信バッファ制御部E2039の管理する受信バッファ読み出しアドレスから読み出し、そのデータ(RDWK)E2040を指定されたモードに従って圧縮・伸長し、記録コード列(WDWK)E2041としてワークバッファ領域に書込む。
E2013は記録バッファ転送DMAコントローラで、CPUI/F E2001を介したCPU E1007の制御によってワークバッファE2011上の記録コード(RDWP)E2043を読み出し、各記録コードを、記録ヘッドカートリッジH1000へのデータ転送順序に適するようなプリントバッファE2014上のアドレスに並べ替えて転送(WDWP E2044)する。また、E2012はワーククリアDMAコントローラであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御によって記録バッファ転送DMAコントローラ E2013による転送が完了したワークバッファ上の領域に対し、指定したワークフィルデータ(WDWF)E2042を繰返し書込む。
E2015は記録データ展開DMAコントローラであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、ヘッド制御部E2018からのデータ展開タイミング信号E2050をトリガとして、プリントバッファ上に並べ替えて書込まれた記録コードと展開用データバッファE2016上に書込まれた展開用データとを読み出し、展開記録データ(RDHDG)E2045をカラムバッファ書込みデータ(WDHDG)E2047としてカラムバッファE2017に書込む。ここで、カラムバッファE2017は、記録ヘッドカートリッジH1000への転送データ(展開記録データ)を一時的に格納するSRAMであり、記録データ展開DMAコントローラE2015とヘッド制御部E2018とのハンドシェーク信号(図示せず)によって両ブロックにより共有管理されている。
E2018はヘッド制御部で、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、ヘッド制御信号を介して記録ヘッドカートリッジH1000またはスキャナとのインターフェイスを行なう他、エンコーダ信号処理部E2019からのヘッド駆動タイミング信号E2049に基づき、記録データ展開DMAコントローラに対してデータ展開タイミング信号E2050の出力を行なう。
また、印刷時には、前記ヘッド駆動タイミング信号E2049に従って、カラムバッファから展開記録データ(RDHD)E2048を読み出し、そのデータをヘッド制御信号E1021として記録ヘッドカートリッジH1000に出力する。
また、スキャナ読み取りモードにおいては、ヘッド制御信号E1021として入力された取込みデータ(WDHD)E2053をDRAM E2005上のスキャナ取込みバッファE2024へとDMA転送する。E2025はスキャナデータ処理DMAコントローラであり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、スキャナ取込みバッファE2024に蓄えられた取込みバッファ読み出しデータ(RDAV)E2054を読み出し、平均化等の処理を行なった処理済データ(WDAV)E2055をDRAM E2005上のスキャナデータバッファE2026に書込む。
E2027はスキャナデータ圧縮DMAコントローラで、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、スキャナデータバッファE2026上の処理済データ(RDYC)E2056を読み出してデータ圧縮を行ない、圧縮データ(WDYC)E2057を送出バッファE2028に書込み転送する。
E2019はエンコーダ信号処理部であり、エンコーダ信号(ENC)を受けて、CPU E1001の制御で定められたモードに従ってヘッド駆動タイミング信号E2049を出力する他、エンコーダ信号E1020から得られるキャリッジM4001の位置や速度にかかわる情報をレジスタに格納して、CPU E1001に提供する。CPU E1001はこの情報に基づき、CRモータE0001の制御における各種パラメータを決定する。また、E2020はCRモータ制御部であり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、CRモータ制御信号E1036を出力する。
E2022はセンサ信号処理部で、PGセンサE0010、PEセンサE0007、ASFセンサE0009、及びGAPセンサE0008等から出力される各検出信号E1033,E1025,E1026,E1027を受けて、CPU E1001の制御で定められたモードに従ってこれらのセンサ情報をCPU E1001に伝達する他、LF/PGモータ制御用DMAコントローラ E2021に対してセンサ検出信号E2052を出力する。
LF/PGモータ制御用DMAコントローラE2021は、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、DRAM E2005上のモータ制御バッファE2023からパルスモータ駆動テーブル(RDPM)E2051を読み出してパルスモータ制御信号E1033を出力する他、動作モードによっては前記センサ検出信号を制御のトリガとしてパルスモータ制御信号E1033を出力する。
また、E2030はLED制御部であり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、LED駆動信号E1038を出力する。さらに、E2029はポート制御部であり、CPUI/F E2001を介したCPU E1001の制御により、ヘッド電源ON信号E1022、モータ電源ON信号E1023、及び電源制御信号E1024を出力する。
5.プリンタの動作
次に、上記のように構成された本発明の実施形態におけるインクジェット記録装置の動作を図10のフローチャートに基づき説明する。
AC電源に装置本体1000が接続されると、まず、ステップS1では装置の第1の初期化処理を行なう。この初期化処理では、本装置のROMおよびRAMのチェックなどの電気回路系のチェックを行ない、電気的に本装置が正常に動作可能であるかを確認する。
次にステップS2では、装置本体M1000の上ケースM1002に設けられた電源キーE0018がONされたかどうかの判断を行い、電源キーE0018が押された場合には、次のステップS3へと移行し、ここで第2の初期化処理を行う。
この第2の初期化処理では、本装置の各種駆動機構及び記録ヘッドのチェックを行なう。すなわち、各種モータの初期化やヘッド情報の読み込みを行うに際し、装置が正常に動作可能であるかを確認する。
次にステップS4ではイベント待ちを行なう。すなわち、本装置に対して、外部I/Fからの指令イベント、ユーザ操作によるパネルキーイベントおよび内部的な制御イベントなどを監視し、これらのイベントが発生すると当該イベントに対応した処理を実行する。
例えば、ステップS4で外部I/Fからの印刷指令イベントを受信した場合には、ステップS5へと移行し、同ステップでユーザ操作による電源キーイベントが発生した場合にはステップS10へと移行し、同ステップでその他のイベントが発生した場合にはステップS11へと移行する。
ここで、ステップS5では、外部I/Fからの印刷指令を解析し、指定された紙種別、用紙サイズ、印刷品位、給紙方法などを判断し、その判断結果を表すデータを本装置内のRAM E2005に記憶し、ステップS6へと進む。
次いでステップS6ではステップS5で指定された給紙方法により給紙を開始し、用紙を記録開始位置まで送り、ステップS7に進む。
ステップS7では記録動作を行なう。この記録動作では、外部I/Fから送出されてきた記録データを、一旦記録バッファに格納し、次いでCRモータE0001を駆動してキャリッジM4001の主走査方向への移動を開始すると共に、プリントバッファE2014に格納されている記録データを記録ヘッドH1001へと供給して1行の記録を行ない、1行分の記録データの記録動作が終了するとLFモータE0002を駆動し、LFローラM3001を回転させて用紙を副走査方向へと送る。この後、上記動作を繰り返し実行し、外部I/Fからの1ページ分の記録データの記録が終了すると、ステップ8へと進む。
ステップS8では、LFモータE0002を駆動し、排紙ローラM2003を駆動し、用紙が完全に本装置から送り出されたと判断されるまで紙送りを繰返し、終了した時点で用紙は排紙トレイM1004a上に完全に排紙された状態となる。
次にステップS9では、記録すべき全ページの記録動作が終了したか否かを判定し、記録すべきページが残存する場合には、ステップS5へと復帰し、以下、前述のステップS5〜S9までの動作を繰り返し、記録すべき全てのページの記録動作が終了した時点で記録動作は終了し、その後ステップS4へと移行し、次のイベントを待つ。
一方、ステップS10ではプリンタ終了処理を行ない、本装置の動作を停止させる。つまり、各種モータやヘッドなどの電源を切断するために、電源を切断可能な状態に移行した後、電源を切断しステップS4に進み、次のイベントを待つ。
また、ステップS11では、上記以外の他のイベント処理を行なう。例えば、本装置の各種パネルキーや外部I/Fからの回復指令や内部的に発生する回復イベントなどに対応した処理を行なう。なお、処理終了後にはステップS4に進み、次のイベントを待つ。
6.ヘッドの構成
ここで、本実施形態で用いるヘッドH1001の吐出口群の構成配置について説明する。
図11は本実施形態で用いた高密度記録を実現するためのヘッドの模式的正面図である。この例では1列当たり600dpi(ドット/インチ)のピッチ(約42μmピッチ)で128個の吐出口を配列した吐出口列を1色当たり2列、互いに副走査方向(紙送り方向)に約21μmずらして、主走査方向(キャリッジスキャン方向)に設けてあり、1色当たり合計256個の吐出口にて1200dpiの解像度を実現している。さらに、図示の例ではそのような吐出口列を6色に対応して主走査方向に並置し、6色について合計12列の吐出口列で1200dpiの記録を行う一体構造のヘッド構成としている。但し、製造上は並列する2色分が1チップとして同時に作成され、その後3チップを並列して接着させる構成をとっているので、各チップの隣り合う2色のノズル列(ブラック(Bk)およびライトシアン(LC)の組、ライトマゼンタ(LM)およびシアン(C)の組、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)の組)は他に比べ駆動条件が似通ったものとなっている。この構成であれば、双方の列間の吐出タイミングさえ調整すれば、1200dpiの記録解像度が実現できる。
以上説明した構成の記録装置およびヘッドを用い、本発明所期の目的を達成するための各種処理について以下に説明する。後述するレジストレーションの調整値等の獲得処理は図10の手順中第2の初期化処理(ステップS3)またはその他のイベント処理(ステップS11)等に位置づけることができるものであり、またそれによって得られた調整値等は記録動作(ステップS7)等を行う際に反映させることができるものである。
7.マルチパスプリント
まず、本実施形態では主に写真画像を高精細に記録可能とすることを目的としているので、通常はマルチパスプリントによって記録がなされる。ここでマルチパスプリントについて簡単に説明を加えておく。
モノクロームプリンタとして文字,数字,記号などのキャラクタのみを記録するものと異なり、カラーイメージ画像をプリントするに当たっては、発色性、階調性、一様性など様々な要素が要求される。特に一様性に関しては、多数のノズル(本明細書では、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギを発生する素子を総括して言うものとする)を集積配置してなるマルチノズルヘッドの製作工程時に生じる僅かなノズル単位のばらつきが、プリント動作時において各ノズルのインク吐出量やインク吐出方向の向きに影響を及ぼし、最終的にはプリント画像の濃度むらとして画像品位を低下させる。
図12〜図14を用いてその具体例を説明する。図12(a)において、3001はマルチノズルヘッドであり、ここでは簡単のため8個のノズル3002によって構成されているものとする。3003はノズル3002によって吐出されたインクドロップレットであり、この図のように揃った吐出量で、揃った方向にインクが吐出されるのが理想である。このような吐出が行われれば、図12(b)に示すようにプリント媒体上に揃った大きさのインクドットが着弾し、全体的にも濃度むらの無い一様な濃度分布が得られる(図12(c))。
しかし実際には、ノズル1つ1つにそれぞればらつきがあり、そのまま上記と同じようにプリントを行ってしまうと、図13(a)に示したようにそれぞれのノズルより吐出されるインクドロップの大きさおよび向きにばらつきが生じ、紙面上に於いては図13(b)に示すようになる。この図によれば、ヘッド主走査方向に対し、周期的に白紙の部分が存在したり、また逆に必要以上にドットが重なり合ったり、あるいはこの図の中央部分に見られるような白筋が発生したりしている。この状態で記録されたドットの集まりはノズル並び方向に対し、図13(c)図に示した濃度分布となり、結果的には、通常人間の目で見たときに、これらの現象が濃度むらとして感知されるのである。
そこでこの濃度むら対策として次のような方法が考案されている。
図14によりその方法を説明する。ここでは図12および図13で示したのと同様の領域についてのプリントを完成させるのにヘッド3001を図14の(a)に示すように3回スキャンしているが、図中縦方向8画素の半分である4画素を単位とする領域は2回の記録走査(パス)で完成している。この場合ヘッド3001の8ノズルは、図中上半分の4ノズルと、下半分の4ノズルとのグループに分けられ、1ノズルが1回のスキャンで形成するドットは、画像データをある所定の画像データ配列に従って約半分に間引いたものである。そして2回目のスキャン時に残りの半分の画像データへドットを埋め込み、4画素単位領域の記録を完成させる。以上のような記録法を以下マルチパス記録法と称す。この記録方法を実施すれば、図13で用いた記録ヘッドと等しいものを使用しても、各ノズル固有のプリント画像への影響が半減されるので、プリントされた画像は図14(b)のようになり、図13(b)に見られたような白スジや黒スジが余り目立たなくなる。従って濃度むらも図14(c)に示すように図13(c)の場合と比べかなり緩和される。
以上では同一記録領域に対し、2回の記録走査で画像を完成させる構成を説明したが、マルチパス記録はパス数が多いほど画像品位は向上する。しかし、一方でプリント時間は長くなるといういわばトレードオフの関係がある。そこで本実形態のプリンタでは、マルチパス記録を行わない1パスモードのほかに、2パスから8パスまでのマルチパスモードでの記録を可能としており、記録媒体の種類や用途に応じてプリントモードを適宜切り替えることができるようにしている。
8.ドット形成位置の調整
本実施形態のプリンタで用いるヘッドH1001は図11について説明した構成を有し、これは前述の通り1200dpiの記録が可能である。しかし、実際に入力されるデータの解像度は最高で600dpiであり、記録時には2×2=4画素により1つのデータを記録する。各入力データの階調は5段階であり、予め各階調に対するドット配列を2×2の画素領域内で定めておき、記録時には2×2の画素領域で5段階の階調が表現されるようにする。
本発明の主眼は、ドット形成位置すなわちインクドロップレット着弾位置の調整(以下、プリント位置調整またはレジストレーションとも言う)に関するものであり、本実施形態のプリンタでは往復プリントにおける往走査と復走査とでの着弾位置の調整(以下双方向レジストレーションという)を行う手段と、偶数ラスタの記録に関与する図11中の偶数列の吐出口および奇数ラスタの記録に関与する奇数列の吐出口による着弾位置の調整(以下偶奇レジストレーションという)を行う手段とを備えている。偶奇レジストレーションに関しては、ヘッドの個体差および環境やプリント履歴などによりヘッドの状況に依存するが、双方向レジストレーションについてはむしろプリンタ本体のキャリッジエンコーダE0004や、キャリッジM4001とプリント媒体の被記録面を規制するための部材(プラテン)との距離など、本体特性に依存することが多い。よって、本実施形態では、偶奇レジストレーションの調整値についてはヘッドH1001の適宜の部位に設けられるEEPROM等の不揮発性メモリに、双方向レジストレーションの調整値については本体の適宜の部位に設けられるEEPROM等の不揮発性メモリに、それぞれの出荷時に格納されている。これにより、少なくとも初期の使用開始時において、ユーザーはプリント位置合わせが行われた状態の記録物を得ることができる。
なお、ヘッドH1001のEEPROMには、上記偶奇レジストレーションの調整値以外にも様々なヘッドH1001の固有の情報を格納しておくことができる。本実施形態に用いる記録ヘッドH1001上のEEPROMの構成および効果は、基本的に特許文献3に開示された技術に準ずるものであるが、ここで本実施形態の記録装置における具体的な格納データの内容を説明する。
図15はヘッドのEEPROMに格納したデータの一例であり、ここではEEPROMに次に述べる項目および内容が記憶されているものとする。すなわち、バージョンアップに伴う駆動条件の対応を行うための「ヘッドバージョン情報」、メモリ内容の読み取りエラー防止のための「フレーム数」、個々のヘッドの判別を行うための「ヘッドシリアルナンバー」、記録ヘッドの各チップ(各チップ当たり2色)毎の適切な駆動パルスを選択するための「ヘッド駆動条件」(3チップ分)、往路プリント時と復路プリント時との記録位置ずれ補正値である「双方向レジストレーションデータ」(本実施形態では未使用)、各色のBkに対する記録位置ずれ補正値である「色間レジストレーションデータ」(5色分)、各色の偶数・奇数ノズル列間の記録位置補正値である「偶奇レジストレーションデータ」(6色分)、各列内の不良ノズルの位置情報である「不吐情報」(12列分)、各色の記録吐出量のレベルを表す「吐出量情報」(6色分)、および「エラーチェック情報」である。
さらに、図15に示すように、情報の取得エラーを防止するべく上記内容を同一のEEPROMに2回繰り返して記憶させている。
ユーザーがヘッドH1001を入手し、記録装置本体のキャリッジM4001に搭載して電源を入れたタイミングで、記録装置の本体制御部はヘッドH1001のEEPROMの内容を読み取り、本体内のEEPROMにコピーする。本体内のEEPROMには偶奇レジストレーションおよび双方向レジストレーションのための調整値を記憶する領域が少なくとも2箇所ずつあり、当初はそれぞれに同一の内容を記憶する。
ユーザーは着荷直後あるいは使用頻度に応じて適宜、レジストレーション(以下これをユーザーレジストレーションという)を自ら起動することができる。
図16(a)はユーザーレジストレーションの一連の処理の流れを示す。また、同図(b)は主としてその処理の過程におけるデータの流れを示すためにホスト装置および記録装置からなるシステムを簡略かつ模式的に表した図である。
ユーザーは、例えばパーソナルコンピュータの形態を可とするホスト装置HOSTの所定のオペレーティングシステムOS上で作動するプリンタドライバPDのユーティリティーより、キーやポインティングデバイスおよびディスプレイ等を含む入力・表示手段CNSLを用いてレジストレーションモードを選択する(ステップS2201)。そして記録装置本体M1000に用紙をセットし、プリントをスタートさせる(ステップS2202)。これに応じてプリンタ制御部PRCはヘッドH1001の駆動部HDに所定のデータを送り、レジストレーションのためのパターン(図17)を形成させる(ステップS2203)。そしてこのパターンを目視判断することにより、ユーザーが調整値をホスト装置HOST上のプリンタ設定用の画面の所定エリアに入力する(ステップS2004)。そしてプリンタドライバPDからのコマンドにてプリンタ制御部にレジストレーションデータを転送し(ステップS2205)、これに応じて上記データが記録装置本体内のEEPROM100に記憶される(ステップS2206)。
図17はユーザーレジストレーションで出力するパターンを示す。図中のA列〜E列はヘッドH1001の各色の偶奇レジストレーションのためのパターンであり、A列はブラック、B列はシアン、C列はマゼンタ、D列はライトシアン、E列はライトマゼンタに対応している。イエローについてはパターンの目視による読み取り判別が困難なことと、ドット位置ずれが地色に比べてさほど弊害にならないことからユーザーレジストレーションパターンから除外してある。但し、図11で説明したようにイエローに対応したノズル群はマゼンタに対応したノズル群と同一チップに構成されているため、マゼンタに対応したノズルと類似した駆動条件になる。よって、本実施形態では、図16(a)のステップS2205の段階で、マゼンタについてのレジストレーションデータと同一の値をプリンタ本体に転送するようにしてある。従って、ステップS2206でEEPROM100に記憶されるデータは6色分となる。
図17において左側の数字“+7”〜“−3”はレジストレーションのための調整値を示し、それぞれの調整値に相当するパターンは全て同じものである。但し、それぞれの調整値によって偶数列ノズルと奇数列ノズルとの相対的吐出タイミングを変えて記録している。本実施形態のプリンタでは調整の最小単位は1画素であり、1画素ずつ変化させたパターンとなっている。既に工場出荷時に偶奇レジストレーションの調整値がヘッドのEEPROM200(図16(b))に記憶されているので、“0”位置(デフォルト値)のパターンのはこの工場出荷時の値で記録される。
他の“+7”〜“+1”,“−1”〜−“3”については、偶数ノズル列の吐出タイミングは固定のままで、奇数ノズル列の吐出タイミングをデフォルト値より+7画素から−3画素まで1画素ずつ変えている。ここで+方向とは偶数ノズル列と奇数ノズル列との吐出タイミングの時間差を大きくする方向である。既に述べたように、インクによる膨潤や温度の上昇等に起因して偶数列と奇数列との間でフェイス面に凸状の変形が生じて行くと、双方の列は経時的に開いていく傾向にある。そこで、プラス方向の調整範囲を7画素(約147μm)までと大きくとり、マイナス方向については−3画素(63μm)としている。そしてユーザーは各色毎に“+7”〜“−3”のうちで最も滑らかなパターンを選択すればよい。
全ての偶奇レジストレーション用パターンは2パス片方向プリント(往または復方向の2回の走査)にて記録する。1パスではなく2パスの分割記録とするのは、偶数および奇数列間のドット形成位置ずれ以外の要因、すなわち個々のノズルばらつき等の要因でパターンの滑らかさが損なわれないようにするためである。また片方向プリントを行うのは、双方向プリント間のドット形成位置ずれによる影響を同時に受けないようにするためである。
図18(a)〜(c)は本実施形態で用いた偶奇レジストレーション用パターンの拡大図である。これらのパターンは、1200dpiの各画素に25%のデータを与えて2値化して記録した所定領域を部分的に切りぬいたものである。用いた2値化法はディザ法の一種である誤差拡散法である。既に述べたが、本実施形態のプリンタの入力解像度は最高で600dpiであるので、この場合ここで示す1200dpiの入力解像度による記録は実際には行われない。レジストレーションのためだけのテストパターンである。このパターン自体は、所定の大きさのビットマップとして記録装置本体メモリに格納されており、ユーザーレジストレーションを行うときに読み出され、記録される。発明者らが検討したパターンの中では、ディザ法の中でも誤差拡散法のような条件付き決定法に属する手法で二値化したもの、あるいは空間周波数が主に高周波側によったブルーノイズ特性を持っているパターンが最も良好であった。良好であるとは、ドット形成位置ずれが起こった場合とそうで無い場合とでパターンの差が目視でわかりやすいということである。図18において、(a)は偶数ノズルによるインクドットと奇数ノズルによるインクドットとが正規の位置に記録されている。これに対し、(b)では両者が1画素ずれた場合、(c)では2画素ずれた場合を示している。これらの差は明らかに判別できる。
例えばこの方法をランダムディザ法やマトリクスを用いる組織的ディザ法に適用しても上記効果は得られなかった。ランダムディザ法では、元のパターンの空間周波数が低周波から高周波まで一様に分布しているので、偶数ラスタと奇数ラスタが互いにずれたところで、パターン内の空間周波数分布に変化が現れなかった。マトリクスを用いる組織的ディザでは元の画像が完全に周期的になっているので、ずれた場合はパターン内の空間周波数も変化する。しかし、パターン全体が同様に変化するので、非一様性が感知されると言うよりは規則的な濃淡の繰り返しが感知される等の現象が生じ、図18(b)および(c)のようなザラツキ感としてはっきりと感知されるものではなかった。本実施形態の主な効果は、誤差拡散法等の条件付き手法を用いて2値化した一様パターンやブルーノイズ特性を持ったパターンでは、ドット形成位置ずれに対し空間周波数がかなり敏感であることを利用している。このようなパターンでは、組織ディザ法のように空間周波数が一律ではないが、全体が高周波領域であることを特徴としているので、偶数ラスタのレイヤーと奇数ラスタのレイヤーがわずかにずれるだけで、画像全体の空間周波数が全く変わってしまうのである。なお、以上述べたブルーノイズ特性についてはRobert Ulichney著Digital Halftoningから引用した。
再び図17を参照するに、図中のF列は、双方向レジストレーションのためのパターンである。双方向レジストレーションについては前述したとおり多数の提案および実施がなされているが、本実施形態のF列のパターンは特許文献4に準ずるものである。主流である罫線パターンによる判別よりも目視で判断しやすく、1画素以内のズレも判別可能であるからである。左に添えられた“+3”〜“−3”の数字は双方向レジストレーションのための調整値を示す。双方向レジパターンにおいても偶奇レジストレーションと同様、“0”値(デフォルト値)のパターンは工場で出荷されたときに設定された値で記録する。“+3”から“−3”に対応するそれぞれのパターンは、往路プリント時の吐出タイミングは固定のままで、復路プリント時の吐出タイミングを1画素ずつずらして記録している。全ての双方向レジストレーション用のパターンは4パス双方向プリントにて記録される。4パスの分割記録にしたのは、ノズルばらつき等の要因でパターンの滑らかさを損なわないようにするためである。
図19(a)および(b)は双方向レジストレーション用パターンを拡大して示すとともに記録方法を説明するためのものである。本実施形態の一連の調整では同時に偶奇レジストレーションも行うので、パターンには偶数および奇数列間のドット形成位置ずれの影響が現れないように、偶数ラスタのみにデータが存在する。各偶数ラスタは1ドットおきに記録するが、これは隣接ドットとの重なりが生じない限界の画素ピッチ(距離)であり、このように設定しておくと、僅かなドット形成位置ずれに対して記録画像を敏感に反応させることができる。
本実施形態では1つのラスタについて4回の記録走査で画像を完成させる。このとき1パス目および3パス目は往方向走査、2パス目および4パス目は復方向走査にてプリントする。図のように16画素幅ずつ往路記録領域と復路記録領域とが交互に配置され、それぞれの領域は1パスおよび3パス(あるいは2パスおよび4パス)の2つパスで分割記録されている。
双方向のドット位置ずれが生じた場合、図19(b)のように往路記録領域と復路記録領域との境界部で黒スジあるいは白スジが発生する。実際には各記録領域の幅は336μm程度であるので、目視では縦方向の白スジが横方向へ規則的に配列した濃淡むらとして確認される。ユーザーは、白スジの最も少ない一様なパターンを選択することができる。
以上により、選択されたパターンに対応した調整値をユーザーはホスト装置のプリンタドライバを介して入力する。入力された値は本体内のEEPROM100に記憶される。
図20は、本体EEPROM100内のレジストレーション用調整値書き込み領域を簡単かつ模式的に示す。本体の出荷時に記憶されたレジストレーションの調整値およびヘッドH1001の装着時にそのEEPROM200から読み取られたデータは常にA領域に記録されている。そして、ユーザーレジストレーションを行う場合には常にこのA領域の値をデフォルト(0)にしてパターン(図17)を出力する。一方、ユーザーがプリンタドライバから入力した調整値はB領域に記憶される。2回目以降のユーザーレジストレーションでは常にこのB領域のデータを上書きし、領域Aに記憶されている値は書き換えられることはない。ヘッド交換時あるいはサービスマン対応時に更新されるのみである。通常のプリント時にはA領域の値にB領域の値を加算した調整値によって記録される。
9.モードに対応したレジストレーション用調整値の補正
本実施形態で用いるプリンタは写真画像などを高画質で出力するものであるが、用途に応じて2つのキャリッジスピードの選択を可能としている。高画質出力に対応したキャリッジスピードにて記録走査するモード(HQモード)と、これに比べほぼ倍のキャリッジスピードで記録走査するモード(HSモード)とである。
また本実施形態の記録装置には、厚紙や封筒などの記録媒体にも対応するため、プラテンからのキャリッジM4001までの高さ(以下、紙間という)も2段階に調整できる機構を有し、通常プリントでの標準ポジションと厚紙用の厚紙ポジションの2つの紙間設定が可能である。紙間はユーザーが紙間調整レバーM2015(図1)を動かすことにより調整されるが、現在の紙間が厚紙ポジションであるか、標準ポジションであるかを検知する紙間センサーE0008が装備されており、本体は常に現状のポジションにあった記録制御を行うことができる。
ここでかかる紙間調整機構について簡単に説明すると、キャリッジM4001の摺動軸は、一端が紙間調整レバーM2015を介して、他端がカム等の部材を介して、ばね等の付勢部材により付勢された状態で一対の紙間調整板に装着されている。そしてこれらの紙間調整板は、それぞれ記録ヘッドカートリッジH1000の吐出面とプラテンの記録支持面との距離間隔が適切なものになるように調整可能に記録装置のシャーシに固定されている。
さらに、紙間調整レバーM2015は、ばねの作用により、図1に示す上端位置と不図示の下端位置との2つの停止位置へと選択的に設定することが可能であり、下端位置に移動させた場合には、キャリッジM4001がプラテンから約0.6mm待避する。従って、記録媒体が封筒のように厚い場合には、予め紙間調整レバーM2015を下端位置に移動させさせておくようにすることができる。また、紙間センサーによりその状態を検知するようになし、記録媒体の給紙動作が開始される時に、紙間調整レバーM2015の位置設定が適正であるか否かを判断し、不適切な状態を検知した場合には、メッセージの表示あるいはブザーの作動などによって警告を発し、不適切な状態で記録動作が実行されるのを未然に防止するようになっている。
さて、偶奇レジストレーションにおいても、双方向レジストレーションにおいても、上記のキャリッジスピードや紙間ポジションによってその適切な調整値が変わる。本実施形態では、これらの情報に基づいて自動的にレジストレーションを実施する機構を有する。
図21は双方向レジストレーションのために用いる自動補正テーブルの例を示す。本実施形態のプリンタでは、HSモードでのキャリッジスピードが20.83inch/m,HQモードでのキャリッジスピードが12.5inch/mであり、ヘッドの吐出口からインクが吐出されるスピードは標準で15m/sである。また、フェイス面から紙面までの距離は、標準ポジションでは1.3mmであり、厚紙ポジションでは1.9mmとなっている。上記より計算すると、HQモードでかつ標準ポジションである場合、往路と復路での吐出をまったく同位置で行うと、往路で記録されたドットと復路で記録されたドットの距離が約55μmとなるが、本実施形態のプリンタの調整解像度は1画素(21μm)単位であるので、デフォルトで3画素の調整が必要となる。これに対しHSモードの場合には、両者のずれは92μmとなり、4画素の調整が必要になる。また、キャリッジスピードはそのままに、紙間のみ厚紙ポジションにした場合には、両者のずれは80μmとなり4画素の調整が必要となる。また、HSモードでかつ厚紙ポジションにした場合にはずれ量が134μmとなり、6画素の補正が必要になる。このような結果から図21(a)に示したテーブルが作成される。
本実施形態では図21のテーブルで示す値に対し、工場出荷時のレジストレーションの調整値にユーザーレジストレーションで入力された値を加算して実際の記録がなされる。
なお、上記テーブルは計算のみによって求められるものでなくともよい。例えば、マルチパスで一様な画像を得ようとする双方向プリントと、1パスプリントで良好な罫線を得ようとする双方向プリントとでは調整値が若干異なってくる場合がある。マルチパスプリントではノズル列の全ノズルが分散されて駆動され、昇温も少ないのに対し、1パスプリントでは同時吐出数が多く昇温も大きいなどの理由が考えられる。この場合HSモード、HQモード、標準ポジション、厚紙ポジションのそれぞれがどのような用途で使用されるかによって、その適正値を設定すればよい。例えば、1パスで罫線を記録した場合の調整値がマルチパスで一様なハーフトーンを記録した場合に比べて適正値が“1”だけ大きいとする。この場合、HSモードでモノクロームの1パス記録しか行われない場合には、HSモードでのレジストレーションについては罫線パターンを重視した値とすればよい。すなわち、図21(a)のテーブルに対し、HSモードのみ“1”だけ大きい値をあらかじめ書き込み、図21(b)のようにすればよい。
さらに、双方向レジストレーションの調整値はヘッドの吐出スピードのばらつきによっても若干変わってくる。本実施形態で用いたヘッドの吐出スピードは、中心では15m/sであるが、実際には12〜18m/sの範囲でばらつくとする。
図22はこの場合のそれぞれのスピードにおける適切なレジストレーションテーブルの値の変化を、キャリッジスピード(HSモード,HQモード)/紙間ポジション(標準ポジション,厚紙ポジション)毎に示す。全体的にテーブル値は右下がりになっており、吐出スピードが上がるほど補正量が小さくなっている。どの吐出スピードのヘッドが搭載されても、標準ポジションかつHQモードではユーザーレジストレーションにて調整可能である。
その他のモードについては、通常モードからの差が15m/sの場合と変わらなければ図21(a)の自動補正テーブルにより問題なく自動調整されるが、変化した場合には自動調整がうまく働かないことになる。例えば、標準ポジションのHSモードでは、吐出スピード15m/sの近傍では調整適正値が“4”であり、標準ポジションのHQモードとの差が“1”であるのに対し、少し吐出スピードが15m/m近傍から若干高くなった領域ではその差は“2”になる。これでは、中心値付近の吐出スピードのヘッドに対しては効果があるが、そこから離れたヘッドでは自動補正テーブルの効果が少なくなってしまう。実際に出荷されるほとんどのヘッドが15m/s近傍であれば図21(a)のテーブルを用いるのが適切であるが、吐出スピードの分布によっては図21(c)のようにあらかじめ“5”に設定しておいた方が多数のヘッドに対応できる場合もある。さらに、図21(b)で説明した罫線との違いなども含み、最終的に図21(d)のような値を記憶しておいてもよい。
この場合、既に説明したヘッドH1001のEEPROM200の情報として、吐出スピードに関連した情報を記憶しておき、かつ本体内には数段階のスピードに応じた自動補正テーブルを格納しておくことで問題を解決することができる。すなわち、上記では自動補正テーブルのファクターはキャリッジスピードと紙間ポジションとの2つであったが、さらに吐出スピードを加えるのである。この場合の自動補正テーブルを図22のグラフに添った形態にて図23に示す。
また、個々のヘッドの初期状態にもよるが、連続プリントを重ねてヘッドの温度が上がると、吐出スピードも上昇するという現象が確認されている。従って、記録中にヘッドが昇温すればレジストレーションの適正値も変化する一方、プリントが終了して温度が通常に戻れば再び適正値も元に戻るが、ユーザーレジストレーションのみではこの変化に対応しきれない。この場合、予めヘッド温度と吐出スピードとの相関が取れていれば、初期の吐出スピード、現在のレジストレーションの調整値、およびその時々のヘッド温度によってレジストレーションをリアルタイムに実施していくことができる。
さらに、図23の吐出スピードのテーブルを、測定温度によって切り分けて作成しておけば、本実施形態で説明した複数のキャリッジスピードや、紙間についてもリアルタイムでの補正が有効となる。
これらに対応するためのより具体的な構成および処理については後述する。
以上、本実施形態ではレジストレーション単位を1画素とした場合について述べたが、本発明はこれに限ったものではない。半画素単位或いはそれ以上に高精細な単位での調整も図18および図19の調整パターンを用いることで判別可能であり、調整値が正確であるほど高画質の記録も期待できる。この場合の記録タイミングは、ヘッドのブロック分割駆動のために設定されたタイミングなど、本体の所有している他の用途のタイミングと連動させてもよい。
また、主に双方向レジストレーションの自動補正テーブルについて述べたが、本発明はその実施形態に限定されるものではない。偶奇レジストレーションについても、紙間、キャリッジスピードおよび吐出スピードが変わればその適切な調整値も変わるので、偶奇レジストレーションについても自動補正テーブルを持つことは有効である。
着荷時以降レジストレーションを行うタイミングをユーザー自身が判断するのは難しい。できれば、プリントを繰り返していくうちに画像品位が劣化する前に補正されるようにするのが好ましい。本実施形態では、プリンタドライバユーティリティーのヘッドチェックパターンにて現状の調整確認ができるようになし、画像が劣化する前にレジストレーションの必要性の有無をユーザーが認識できるようにする。
図24はそのヘッドチェックパターンの一例を示す。「パターン1」は全6色の全ノズルを用い、1パスで記録される。ここでは全ノズルが正常に吐出を行っているかが確認できる。「パターン2」では現在設定されているユーザーレジストレーションの調整値を用いて、図18で説明した偶奇レジストレーション用のパターンを2パス片方向で記録する。ここでは現在設定されている偶奇レジストレーションの調整値が適正であるかが判断できる。「パターン3」では現在設定されているユーザーレジストレーションの調整値を用いて、図19で説明した双方向レジストレーションパターンを4パス双方向で記録する。ここでは現在設定されている双方向レジストレーションの調整値が適正であるかが判断できる。
このチェックパターンでは、図17の全パターンよりも短時間で出力でき、かつ操作も簡単なものであるので、ユーザーはヘッドH1001の状況を頻繁にチェックできる。
また上述の実施形態では、パターンが判別し難いとしてイエローのみ除外し、実際のパターン出力はBk,C,M,LC,LMの5色としたが、LC,LMの染料濃度によってはこれらのインク色も判別しにくい場合もある。この場合には、BK,C,Mのみ実際のユーザーレジストレーションを行い、LC,LMはYと同様にそれぞれ同一のチップに乗っている色のものと同じ値を用いればよい。すなわち、LCについてはBK,LMについてはCの値をそれぞれ図16(a)のステップS2205の段階でドライバから本体に入力すればよいのである。
以上説明してきた様に本実施形態によれば、図11で示した各色2列構成の高解像記録ヘッドを用いながら、偶数ノズルと奇数ノズルのレジストレーションおよび双方向レジストレーションの操作を、ユーザーが適宜起動して高精度に調整可能とした機構を設けることにより、着荷時から定常的に高画質な画像を維持することが可能となった。
10.第2の実施形態
次に本発明の第2実施形態を説明する。この実施形態は、従来例で述べたインターレース記録を行って双方向プリントを実施する場合のレジストレーション機構に係るものである。
図29を例として前述したように、インターレースの双方向記録については、往復のスキャン間でドット形成位置がずれていると、第1実施形態の偶数列および奇数列間ノズルのドット位置ずれと同様の弊害が起こる。
よって、本実施形態では双方向レジストレーション用のパターンとして、第1実施形態では偶奇レジストレーション用として示したパターン図18を適用する。しかし双方向レジストレーションであるので、最も判別しやすいブラックのプリントを行えば足りる。
双方向のドット形成位置ずれが生じた場合は、図18(b)および(c)と同様になる。パターン記録方法は実記録時と同様でよいが、1つのラスタを別方向のスキャンに分割する記録は行わない。このようにすれば、実際に記録される実画像の弊害と同様な状況でレジストレーション用パターン記録をできるので、調整後の実記録の信頼性も高いものとなる。
双方向レジストレーション用のパターンとして、インターレース記録に限定されるものではないが正規ディザを用いる方法が既に特開平11−48587号に開示されている。これによると、「正規ディザパターンを用いれば、主走査方向および副走査方向に規則正しくドットが並んでいるため、適正な記録タイミングでは濃淡むらのない一様な状態として目視される。記録タイミングがずれている場合にはドットの間隔がずれ、濃淡ムラが生じる」と明記されている。確かに、正規ディザ(マトリクスを用いる組織的ディザ)では元の画像が完全に周期的になっているので、ずれた場合はパターン内の空間周波数も変化する。しかし、パターン全体が同様に変化するので、非一様性が感知されると言うよりは全体的な濃度低減、あるいは規則的な濃淡の繰り返しが感知される等の現象が生じ、また基本的にディザパターンの周期はかなり高周波であるので、目視判断が困難であることが多い。これに対し、本実施形態で用いる図18のパターンは、誤差拡散法等の条件付き手法を用いて2値化した一様パターンである。ブルーノイズ特性を持っており、ラスタ間のレジズレに対し空間周波数がかなり敏感であるということを特徴としている。よって、組織ディザ法のように空間周波数が一律ではないものの、全体が高周波領域であることを特徴としているので、偶数ラスタのレイヤーと奇数ラスタのレイヤーがわずかにずれるだけで、画像全体の空間周波数分布が全く変わり、ざらついた状態になってしまうのである。
本実施形態によれば、インターレース構成の記録法を双方向で行いながら、各ラスタ間のレジストレーションを、ユーザーが適宜起動して高精度に調整可能とした機構を設けることにより、着荷時から定常的に高画質な画像を維持することが可能となった。
なお本実施形態では、毎回9画素ずつの一定量の紙送りを行うようにすることができるが、本実施形態の効果はこれに限られるものではない。図29に見るように、ノズルの配列ピッチよりも細かいピッチの画像を、複数の記録走査で完成させているインターレース構成であれば本実施形態の適用は有効である。また、本実施形態においても第1実施形態と同様、上記方法で調整した値に対し、紙間、キャリッジスピード、吐出スピードのそれぞれの組み合わせに応じた自動補正テーブルを具備することは有効である。
11.第3の実施形態
次に本発明の第3実施形態を説明する。ここでは第1実施形態と同様、低解像度のノズル列を複数配列した場合について説明する。
図25は本実施形態で用いるマルチノズル構成を示す。ここでは600dpiピッチ(約42μmピッチ)で128個の吐出口を有するノズル列を、互いに約10.5μmずらして4列(計512ノズル)配列し、1色当たり2400dpiの解像度としたものである。更にこれらノズル列群を4色分、図のように並列させ、すべて一体化された計16列のノズル群にて2400dpiの4色記録を実現している。この構成で、4つの列間の吐出タイミングを調整し、2400dpiの記録解像度を実現している。
本実施形態においても第1実施形態と同様に、各ノズル列の着弾ずれによる画像弊害が考えられる。但し、本実施形態では偶数列と奇数列との関係のみでなく、第1列(第1ラスタ〜第4n+1ラスタの記録に関与するノズル列)から第4列(第4ラスタ〜第4n+4ラスタの記録に関与するノズル列)までそれぞれについての調整が必要となる。本実施形態もユーザーレジストレーション用のパターンとして第1実施形態と同様のものを用いるが、記録解像度が2400dpiであるので、これに相当した各画素に対し25%データを与えて得られた画像となる。
図26はドット形成位置がずれた場合のパターン記録状態を示す。同図(a)は4種類のノズル列から吐出されたインクが全て正しい位置に着弾された状態を示している。同図(b)は第2列で記録された第2ラスタのみが他に対して1画素ずれた状態を示している。同図(c)は同じく第2ラスタのみ2画素ずれた状態を示している。さらに同図(d)は第2ラスタが1画素、第3ラスタがこれと反対方向に1画素ずれた場合を示している。図(b)〜(d)から明らかなように、ドット形成位置がずれていない同図(a)に比べ、他のパターンは著しくざらつき感が増している。
本発明で用いた条件付決定法によって2値化されたパターンでは、このように調整するべき条件(ラスタ)が数多く存在する場合でも、多少ずれている場合と全くずれていない場合とを、明確に判別できる所にその特徴がある。複数の条件が入り交じった1つのパターンでありながら、すべての条件がそろったときのみにその本来の滑らかさを発揮できるのである。よって、条件が上記実施形態のように2種類であろうと、本実施形態の如く4種類であろうと、記録するべきパターンエリアは同一である。
本実施形態によれば、図25で示した4列構成の高解像記録ヘッドを用いながら、各ノズル列のレジストレーションの操作を、ユーザーが適宜起動して高精度に調整可能とした機構を設けることにより、着荷時から定常的に高画質な画像を維持することが可能となった。
12.変動要因に対応したレジストレーション
前述のように、偶奇レジストレーションに関しては、記録ヘッドの個体差および環境やプリント履歴などにより記録ヘッドの状況に依存するが、双方向レジストレーションについてはむしろプリンタ本体のキャリッジエンコーダE0004や、キャリッジM4001とプリント媒体の被記録面を規制するための部材(プラテン)との距離など、本体特性に依存することが多い。よって、上述の第1の実施形態では、基本的に、偶奇レジストレーションの調整値については記録ヘッドH1001の適宜の部位に設けられるEEPROM等の不揮発性メモリに、双方向レジストレーションの調整値については本体の適宜の部位に設けられるEEPROM等の不揮発性メモリに、それぞれの出荷時に格納されているものとした。
しかし、上述した構成のプリンタにおいては、写真画像などをも高画質で出力することにも対応するため、モードに応じて2つのキャリッジスピードの選択を可能とした。また、厚紙や封筒などの記録媒体にも対応するため、紙間も2段階に調整できる機構を有するものとした。そのために、偶奇レジストレーションにおいても、双方向レジストレーションにおいても、上記のキャリッジスピードや紙間ポジション、さらには記録ヘッドH1001からのインクの吐出スピードや吐出角度などの条件によってその適切な調整値が変わることから、前述したように、これらの条件に基づいて自動的にレジストレーションを実施する機構を有するものとした。
すなわち、特に双方向記録にあたっては、画像が高解像になればなるほど着弾位置精度が厳しくなり、数μmのずれでさえ画像品位の低下が確認されてしまう。よって、上述したような双方向レジストレーションを行うことは強く好ましく、また一度調整した双方向レジストレーションに対し、記録時の状況に応じて自動的に適宜補正を行うことが好ましいのである。
さて、双方向レジストレーションの適正値には、本体のキャリッジスピードおよび紙間というプリンタ本体の個体差に起因した特性のほか、プリンタが備える上記モードに応じて、インクの吐出スピードおよび吐出角度という記録ヘッドの個体差に起因した特性も関わってくる。
上述では、封筒などの厚紙を通すために紙間ポジションを切り替えた場合や、プリント速度を優先させるモードでキャリッジスピードを上げた場合など、ユーザーが意識的に記録状態を切り替えた場合に対応して、双方向レジストレーションのための調整値を自動で変更する方法が採られている。
しかし、記録解像度を一層高め、これに伴って着弾位置精度がさらに厳しくなると、キャリッジスピードや紙間などについてのプリンタ本体の公差、あるいはインク吐出スピードや吐出角度などについての記録ヘッド個体差による影響も無視できなくなってくる。さらに、吐出スピードや吐出角度は、プリント動作の状態に応じて、また経時的にも変化するものであり、厳密にはこの変化に対応した補正を行うことが強く望ましい。
そこで、以下においては、これらプリンタ本体の公差や記録ヘッドの個体差、さらにはプリント動作の状態に応じた変化や経時変化など、画像品位に悪影響を及ぼし得る変動要因に対応して、正確かつリアルタイムに双方向レジストレーション用調整値を得るための実施形態について説明する。
12.1 公差に対応した双方向レジストレーション用調整値の設定
公差に対応した双方向レジストレーション処理を行うための本実施形態で用いる記録ヘッドは図11と同様の構成を有するものであり、各色のノズル配列方向(副走査方向)には1200dpiの記録を実現するものとする。しかし、本実施形態では、主走査方向へは更にその倍の2400dpiの記録を行うものとする。また、実際に入力されるデータの解像度は最高で600dpiであり、記録時には主走査方向4画素×副走査方向2画素=8画素により1つのデータを記録するものとする。各入力データの階調は9段階であり、記録時には4×2の画素領域で9段階の階調が表現されるように、予め各階調に対するドット配列が4×2の画素領域内で定められている。
本実施形態の主眼は、このような高解像度記録に対応する双方向レジストレーションを行うための調整機構に関するものである。双方向レジストレーションに対しては、上述の通り本体のキャリッジスピードおよび紙間というプリンタ本体の特性に依存する要因のほか、インクの吐出スピードおよび吐出角度という記録ヘッドの特性に依存する要因も影響する。本実施形態では主走査方向には2400dpiの解像度をもつので、双方向レジストレーション処理のための調整も2400dpiの1画素単位で可能としている。
図30はプリンタ本体の紙間公差の最大値、中心値および最小値それぞれに対する吐出スピードとレジストレーション用調整値との関係の一例を示す。ここでの横軸(吐出スピード)とは、吐出口からインクが吐出される際の、紙面に対し垂直な成分速度を示しており、単位はm/秒である。縦軸はレジストレーション用調整値を示している。
ここで、双方向記録を行っている場合、往路と復路とでキャリッジM4001が同位置にあるときに吐出を行うと、キャリッジ走査速度の慣性が働き、紙面上の着弾位置は数画素ずれた位置になる。そこで一般に双方向記録の場合は、予め紙面上で着弾位置が一致するように往路と復路との吐出タイミングを調整している。図30ではその調整値が縦軸に示されている。単位は2400dpiの1画素である。このレジストレーション用調整値はインクの吐出スピードのほか、吐出口からプリント媒体表面までの距離にも影響を受ける。
本実施形態で用いるプリンタ本体の紙間公差を1.4±0.2mm、通常用いる記録媒体の厚みをおよそ100μmとすると、吐出口からプリント媒体表面までの距離は1.3±0.2mmとなる。図では紙間の最小値(1.2mm)、中心値(1.4mm)および最大値(1.6mm)に対応した曲線をそれぞれ示している。
この図から明らかなように、例えば13m/sの均一なインク吐出スピードが得られていても、紙間の公差内ではレジストレーション用調整値が±2画素ずれている。本発明者らの実験によると、本実施形態で用いたプリンタの場合、およそ20μm(2画素)のずれが生じると画像品位の低下が確認された。よって紙間が公差内であっても、実際に高品位の画像形成を行うためにはレジストレーション処理を実施することが強く望ましいのである。
一方、記録ヘッドから吐出されるインクの吐出スピードを本実施形態では13±3mとする。この場合にも、例えば1.4mmの均一な紙間が得られていても、吐出スピードの公差内ではレジストレーション用調整値が±2〜3画素もずれることになる。よって、実際に高品位の画像形成を行うためには、この要因をも考慮してレジストレーション処理を実施することが強く望ましい。
このように定義すると、プリンタ本体と記録ヘッドとの組み合わせによっては、初期の段階でも双方向レジストレーション用調整値が大きく異なり得ることがわかる。例えば、紙間公差が最小値のプリンタに吐出スピード公差が最大値である記録ヘッドが組み合わされた場合と、紙間公差が最大値のプリンタに吐出スピード公差が最小値である記録ヘッドが組み合わされた場合とでは、これらの間の調整値の差は10画素分にもなる。
本実施形態のプリンタのように、記録ヘッドが着脱可能なカートリッジ形態を有しており、記録ヘッドとプリンタ本体とがユーザーによって組み合わせられる構成では、カートリッジ装着時点でユーザーレジストレーション処理を行ってもらうことも一法である。しかし、ユーザーレジストレーション処理は、ユーザーに負担をかけ、またプリンタ入手直後の未習熟の状態では必ずしも正確な調整が行われるとは限らない。
よって、プリンタ本体ないし記録ヘッドの着荷後の初期使用時には既にレジストレーションが行われた状態となっていることが本来的に望ましい。
このために、本実施形態では、双方向レジストレーションに影響する要因を本体側のものと記録ヘッド側のものとに分類し、本体側の要因に関わる紙間などは本体側の記憶手段に、記録ヘッド側の要因に関わる吐出スピードなどは記録ヘッド側の記憶手段にそれぞれ格納しておく。これらは双方に記憶されることで初めて有効となる。もし、記録ヘッド側の記憶手段のみに吐出スピードが記憶されており、本体側には何も記憶されていなかった場合には、例えば吐出スピードについて中心値の13m/sが得られていたとしても、紙間の公差によって6画素ものずれが生じ得るからである(図30)。逆に、本体側の記憶手段のみに紙間が記憶されていた場合にも、吐出スピードの公差によって同程度のずれが生じるからである。
本実施形態では、プリンタ本体および記録ヘッドのそれぞれに記憶手段としてEEPROMなどの不揮発性のメモリを持ち、紙間および吐出スピードに関する情報をそれぞれ予め格納しておき、プリンタ本体ないし記録ヘッドの着荷後の記録ヘッドの装着時にレジストレーション処理を行うようにすることができる。このためには、例えば図16(b)と同様の構成を用いることができる。
すなわち、記録ヘッドの吐出スピードの公差が13±3m/sであるとき、これを1m/sおきに例えば「01」〜「07」として符号化し、個々の記録ヘッドのEEPROM200にその記録ヘッドの固有値として記憶しておく。また紙間の公差が1.4±2mmであるとき、これを例えば3段階に「01」〜「03」として符号化し、個々のプリンタ本体のEEPROM100にそのプリンタの固有値として記憶しておく。
図31はプリンタ本体側および記録ヘッド側の情報に基づくレジストレーション用調整値決定処理手順の一例を示す。この処理は、例えば図10の処理手順中、ステップS3の処理の一部として位置づけることができるものであり、キャリッジM4001に搭載されている記録ヘッドが新たに装着されたものである場合に起動することができる。すなわち、例えばユーザーが記録ヘッドを本体キャリッジM4001に装着し電源を入れたとき、プリンタ本体のCPU(プリンタ制御部PRC)は記録ヘッド側のEEPROM200記憶されたデータを読み取り(ステップS3001)、本体側のEEPROM100に展開されたテーブルを参照して(ステップS3003)、適切なレジストレーション用調整値を得ることができる(ステップS3005)。
図32は本体側のEEPROM100に格納されたレジストレーション用調整値テーブルであり、上記で得た吐出スピードと紙間とのそれぞれの情報より参照され、ここでレジストレーション用調整値が決定される。
例えば、吐出スピードが11m/sの記録ヘッドと、紙間が1.4mmであるプリンタ本体とが組み合わされた場合、記録ヘッドのEEPOROMには「02」が、本体のEEPROMには「02」が記憶されている。電源オン時には双方の組み合わせよりレジストレーション用調整値テーブル(図32)が参照され、調整値である「11画素」が決定される。このようにして、着荷後の初期使用時にも特にユーザーの手を煩わせることなく、適切にレジストレーション処理がなされた画像を得ることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、記録ヘッドのEEPROMにインクドロップの吐出スピードを、本体のEEPROMに紙間の値を記憶させておくことで、ユーザー元着荷時にユーザーの手を煩わせることなく、双方向レジストレーションの調整された高品位な画像を得ることができる。
12.2 記録ヘッド温度変化に対応した双方向レジストレーション用調整値の設定
次に、プリント中の昇温に対応して自動的に双方向レジストレーション処理を行うための実施形態について説明する。
図30について説明したように、レジストレーション用調整値は吐出スピードによって異なる。しかし、この吐出スピードは個々の記録ヘッドのバラツキのみならず、実際にはプリント動作を連続して行った場合の記録ヘッドの昇温によっても変化することが確認されている。
図33はその状態を示す。横軸は記録ヘッド温度(℃)、縦軸は各温度に対する吐出スピード(m/秒)を示す。本発明者らが複数個の記録ヘッドに対して行った実験によると、プリント媒体数ページ分を連続プリントすることによって記録ヘッドが徐々に昇温していくことが確認された。例えばA4サイズのプリント媒体を用いた場合、ある程度デューティーの高い画像(吐出回数の多い画像)では4〜5枚ほどで45℃程度まで記録ヘッド温度が上昇する。このような場合、図33に示すように温度によってそれぞれの吐出スピードが変わって行く。例えば、常温(25℃)で吐出スピードが13m/sであった記録ヘッドについては、45℃まで昇温すると吐出スピードは15m/sになる。これを図30に当てはめれば、レジストレーション用調整値が1〜2画素変化していることになる。よって、上述の実施形態のように記録ヘッドとプリンタ本体とのそれぞれにメモリを設けて着荷後の初期使用時における画像が保証できたとしても、印刷を4〜5枚連続させることで画像品位の低下が確認されてしまうことになりかねない。
そこで、本実施形態では上述の実施形態に対し更にレジストレーションを昇温時においても保証するために、記録ヘッド温度に対応してレジストレーション用調整値のテーブルを参照するための指針となるテーブルをプリンタ本体に有する構成を採用する。
図34はそのテーブルの一例を示し、プリンタ本体のメモリ(EEPROM100)に格納されているものとすることができる。これは、記録ヘッド側のEEPROM200に書かれた常温での吐出スピード(初期吐出スピード)が、気温などの環境温度や連続プリントによってどのように変化するかを記号化して格納したテーブルである。
例えば、初期の吐出スピードが12m/sである記録ヘッドが、紙間が1.4mmのプリンタ本体にユーザーによって装着され、プリント動作が行われるものとする。第1ページのプリント開始前、本体側のCPU(プリンタ制御部PRC)は記録ヘッドの温度を検知する。記録ヘッドの温度が20〜30℃の間であれば、図34のテーブルより吐出スピード「03」(12m/s)を得、これに基づいて図32のテーブルの紙間「02」(中心値)の欄を参照し、レジストレーション用調整値「10」を得る。そしてこの値に従って1ページ分の記録を完成させる。次ページのプリント前にも、再度記録ヘッド温度を検知する。再び20〜30℃であれば、レジストレーション用調整値を「10」のままとし、1ページ分の記録を完成させる。
このような数ページ分のプリントを繰り返した後、ある時点で30〜40℃を検知したとする。このときは図34のテーブルにより吐出スピード「04」(13m/s)を取得する。そこで改めて図32のテーブルを参照し、レジストレーション用調整値「9」を得る。そして次ページはこの調整値に従って画像を完成させる。
このように各ページのプリント開始前に記録ヘッド温度を検知し、ページ毎にレジストレーション用調整値を自動的に確認調整することにより、プリント中の温度変化による画像品位の低下を極力防止することができる。
なお、以上は上記実施形態で説明した着荷時におけるレジストレーション用自動調整に対する補正を毎ページに行うものとして説明したが、本実施形態はこれに限ったものではない。
図17について説明したユーザーの判断によって行うレジストレーション処理(ユーザーレジストレーション)に対して、温度変化に伴う補正を行うようにしてもよい。以下に本実施形態でのユーザーレジストレーションを説明する。
本実施形態でのユーザーレジストレーションも図16(b)と同様の構成を用い、図16(a)について説明したのと同様の処理手順にて行うことができる。
すなわち、ユーザーは、ホスト装置HOST側のプリンタドライバPDのユーティリティーより、入力・表示手段CNSLを用いてレジストレーションモードを選択する(ステップS2201)。そしてプリンタ本体に用紙をセットし、プリントをスタートさせる(ステップS2202)。これに応じてプリンタ制御部PRCは記録ヘッドH1001の駆動部HDに所定のデータを送り、レジストレーションのためのパターン(図17)を形成させる(ステップS2203)。そしてこのパターンを目視判断することにより、ユーザーが調整値をホスト装置HOST上のプリンタ設定用の画面の所定エリアに入力する(ステップS2004)。そしてプリンタドライバPDからのコマンドにてプリンタ制御部にレジストレーションデータを転送し(ステップS2205)、これに応じて上記データが記録装置本体内のEEPROM100に記憶される(ステップS2206)。
図35は本実施形態のユーザーレジストレーションで出力するパターンを示す。図中のA列〜E列は記録ヘッドH1001の各色の偶奇レジストレーションのためのパターンであり、形成態様および種類等については図17において説明したものと同様である。
図35のF列は、本実施形態における双方向レジ調整パターンである。本実施形態のパターンFについても形成態様については図17と同様であるが、本実施形態ではレジストレーション用調整の範囲を、左に添えられた調整値で示すとおり、“+5”〜“−5”の範囲としてある。また、双方向レジストレーション用パターンの“0”(デフォルト)値は図32について説明した実施形態に従って取得した値で記録する。
“+5”から“−5”に対応するそれぞれのパターンは、図17の場合と同様、往路プリント時の吐出タイミングは固定のままで、復路プリント時の吐出タイミングを1画素ずつずらして記録している。そして、全ての双方向レジストレーション用のパターンは4パス双方向プリントにて記録される。4パスの分割記録にしたのは、ノズルばらつき等の要因でパターンの滑らかさを損なわないようにするためである。
双方向レジストレーション用パターンおよび記録方法についても、図19(a)および(b)を参照して説明したのと同様である。すなわち、本実施形態の一連の調整でも同時に偶奇レジストレーションも行うので、偶数ラスタのみにデータが存在するようにして、パターンには偶数および奇数列間のドット形成位置ずれの影響が現れないようにする。また、各偶数ラスタは、隣接ドットとの重なりが生じない限界の画素ピッチ(距離)である1ドットおきに記録し、僅かなドット形成位置ずれに対して記録画像を敏感に反応させるようにする。
さらに、本実施形態でも1つのラスタについて4回の記録走査で画像を完成させる。このとき1パス目および3パス目は往方向走査、2パス目および4パス目は復方向走査にてプリントする。図19(a)のように16画素幅ずつ往路記録領域と復路記録領域とが交互に配置され、それぞれの領域は1パスおよび3パス(あるいは2パスおよび4パス)の2つパスで分割記録される。
そして、双方向のドット位置ずれが生じた場合、図19(b)のように往路記録領域と復路記録領域との境界部で黒スジあるいは白スジが発生する。実際には各記録領域の幅は336μm程度であるので、目視では縦方向の白スジが横方向へ規則的に配列した濃淡むらとして確認される。ユーザーは、白スジの最も少ない一様なパターンを選択することができる。
以上説明したようなユーザーレジストレーションは、ユーザーが適宜調整を必要と判断したときに行うことができる。しかし、連続プリントの昇温によって起こる着弾位置の変化などリアルタイムで刻々と変化してしまうものに対しては調整が追いつかない場合がある。このような場合でも先に説明した図34のテーブルを用い、レジストレーション用調整値をページ毎に変化させれば常に良好な画像を得ることができる。
以上説明した本実施形態によれば、常温でのレジストレーション用調整値に対し、記録ヘッド温度によって変化するインクの吐出スピードを推測し、プリント中のレジストレーション用調整値に随時補正をかけることにより、常に良好な画像を得ることができるようになる。
12.3 駆動周波数の変化に対応した双方向レジストレーション
本実施形態を適用するプリンタは、用途および状況に応じて3つのキャリッジスピードが具備されているものとする。通常の高画質対応のキャリッジスピードモード(HQ1)と、記録ヘッドの昇温状態によって切り替わるHQ1よりもやや遅いキャリッジスピード(HQ2)、更に高速で記録走査するキャリッジスピードモード(HS)とである。通常はキャリッジスピードHQ1でプリントされるが、連続プリントなどで画像に弊害が出るほど記録ヘッドが昇温した場合にキャリッジスピードHQ2が適用される。記録ヘッドが所定の温度以上になるとインクドロップの吐出状態が不安定になるので、画像品位を安定させるために駆動周波数を適切な値まで低減させるのである。本実施形態で用いる記録ヘッドは通常プリント(キャリッジスピードHQ1)時に25Khzの駆動周波数で吐出動作を行い、キャリッジスピードは20.8inch/sとなる。ページ毎に記録ヘッド温度を検知し、45℃以上になると、次ページから駆動周波数を20KHzにして記録する。このとき、キャリッジスピードは16.7inch/sとなる。
HSモードは特に急いでプリントしたい場合に、ユーザーがモードを指定することで適用される。この場合のキャリッジスピードは29.2inch/sとなっている。
また、本実施形態のプリンタは、厚紙や封筒などの記録媒体にも対応するため、紙間も大きく2段階に調整できる機構を有し、通常プリントでの標準ポジションと厚紙用の厚紙ポジションとの2つの設定が可能である。紙間はユーザーが紙間調整レバーM2015を操作することにより調整されるが、現在の紙間が厚紙ポジションであるか、標準ポジションであるかを検知するGAPセンサ(紙間センサ)E0008が装備されており、本体は常に現状のポジションにあった記録制御を行うことができる。
図36は吐出スピードに対するそれぞれの設定による双方向レジストレーション用調整値のカーブを示す。これをテーブル化したものが図37である。本実施形態も上述の実施形態と同様に、初期の吐出スピードと記録ヘッド温度とからその時々の吐出スピードを推測する。さらに、図37のテーブルにてヘッド駆動周波数に応じたレジストレーション用調整値を選択する。
例えば初期の吐出スピードが13m/sの記録ヘッドの場合、記録ヘッドH1001のEEPROM200には「04」と記載されている。当初記録ヘッド温度が25℃程度であれば、図34のテーブルより吐出スピード13m/sを得る。記録ヘッド温度25℃では駆動周波数は25KHzであるので、図37よりレジストレーション用調整値は「9」となり、この値を用いて最初のページを記録する。
連続して記録するうちに、記録ヘッド温度は徐々に上昇していく。3枚目のプリント開始前、記録ヘッド温度が35℃であったとする。このとき、図34のテーブルより吐出スピード「05」(14m/s)を得る。本実施形態の駆動周波数は45℃を境界に20KHzと25KHzとに切り替えられ、35℃では25KHzである。よって図37のテーブルを参照すればレジストレーション用調整値は「9」となり、3枚目はこの値を用いて記録される。
さて、5ページ目のプリントを行おうとする際に記録ヘッド温度47℃を検出したとする。上述と同様にまず図34のテーブルにて吐出スピードを換算し、「06」(15m/s)を得る。45℃以上は20KHzの駆動周波数となるので、図37のテーブルに対し20KHzの欄を参照する。これによりレジストレーション用調整値「6」を得ることになる。
本実施形態ではこのように、各ページ頭で記録ヘッド温度を検知し、初期の吐出データと記録ヘッド温度とのマトリクスから、そのときの吐出スピードを得る。さらに検出した記録ヘッド温度により、そのページでの駆動周波数を決定し、決定された駆動周波数と先に算出した吐出スピードとにより、最終的なレジストレーション用調整値を得るのである。
このようにすれば、初期設定やユーザーレジストレーションでは調整困難な、温度変化に伴うレジストレーションのずれにもリアルタイムで対応できるという上述の実施形態と同様の効果を得られるとともに、連続プリントの温度変化などで記録ヘッドに負担をかけることなく、安定した画像を得ることができる。
なお、本実施形態においては、説明を簡単にするため、上述の実施形態で考慮した紙間公差についてのテーブルを用いた調整については触れなかったが、これを適用してもよいのは勿論である。駆動周波数ごとに紙間の大、中、小を分けてテーブル化しておけば同様の効果が得られる。
以上、この項において3つの実施形態について説明したように、記録装置本体にはその個体差に関わるドット形成位置情報を格納する記憶手段を、また記録ヘッドにもその個体差に関わるドット形成位置情報を格納する記憶手段を設け、記録ヘッドを記録装置本体に装着して画像形成する際に双方の記憶手段の内容を参照してドット形成位置調整を行うための情報を決定するようにしたことにより、紙間や吐出スピードなどの公差に起因したばらつきを適切に補正することが可能になった。
また、双方向レジストレーションに関して、検出された記録ヘッド温度に応じて記録ヘッドから吐出されるインクの吐出スピードを予測し、当該予測された吐出スピードに対応してプリント媒体上のプリント位置調整を行うための情報を決定するようにしたことにより、プリント動作の状態に起因した変化に対しても、リアルタイムに適切な調整値を得ることが可能となった。
13.その他
なお、本発明が有効に用いられるヘッドの一形態は、電気熱変換体が発生する熱エネルギーを利用して液体に膜沸騰を生じさせ気泡を形成する形態である。
また、上述の実施形態ではホストコンピュータHOST側のプリンタドライバPDは作成された画像データをプリント装置に供給するものであるが、図17のようなレジストレーション用パターンのデータは記録装置側が具えるものでも、ホスト装置が供給するものでもよい。
上述実施形態の機能を実現するソフトウェアまたはプリンタドライバのプログラムコードを、プリント装置を含む様々なデバイスが接続された機械またはシステム内のコンピュータに供給し、機械またはシステムのコンピュータに格納されたプログラムコードによって様々なデバイスを作動させることにより上述実施形態の機能を実現するようにしたプリントシステムも、本発明の範囲に含まれる。
この場合、プログラムコード自体が本発明の新規な機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、および通信や記憶媒体などによりプログラムコードをコンピュータに供給する手段も、本発明の範囲に含まれる。
プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フロッピーディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどを用いることができる。
また、コンピュータが読み出したプログラムコードを実行することにより、前述した実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOSなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって本実施形態の機能が実現される場合も含まれる。
さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPUなどが実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって本実施形態の機能が実現される場合も含まれる。