JP4668404B2 - 磁性材料とその磁性材料を用いたコイル部品 - Google Patents
磁性材料とその磁性材料を用いたコイル部品 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は磁性材料、特にNiCuZnMg系フェライト材料に係り、また、この磁性材料を用いたコイル部品、特に高周波用コイル部品に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種電子機器の小型化、軽量化に伴い、それらを構成する電子部品についても小型化、軽量化が進んでおり、コイル部品、トランス等も例外ではない。また、電子機器の高周波化も進んでおり、特に移動体通信機器においては、10MHz以上の周波数帯でコイル部品等が使用されており、このため、小型で高周波領域まで動作し、高いQ値をもつコイル部品が望まれている。
【0003】
高周波用コイル部品としては、磁性材料からなるコイル用のコアにワイヤを巻き付けたコイル部品が主に使用される。使用するコアは、磁性材料にバインダーを加えて造粒した後に所定の形状に形成、加工し、これを空気中で850〜1300℃程度で焼成したもの(焼成後に加工する場合もある)であり、これにAu,Ag,Cu,Fe,Pt,Sn,Ni,Pb,Al,Co、または、これらの合金等からなるワイヤを巻き付けてコイル部品が作製される。
【0004】
高周波用コイル部品においては、磁性体層(コア)の比抵抗が高いことが要求される。すなわち、コアにワイヤを用いて巻線を施す際に、比抵抗が低ければボビン等の絶縁物が必要となり、コイル部品の小型化の障害となる。また、めっきによりコアに電極を形成する場合に、コアの比抵抗が低いと、めっきの信頼性が低下し、さらに、コアの素地までめっきされるおそれがあり、コイル部品としての信頼性も著しく低下する。
【0005】
そこで、高周波用コイル部品に用いるコアを構成するための磁性材料として、NiCuZn系フェライトが一般に用いられる。その理由は、このNiCuZn系フェライトが立方晶の結晶構造であり、比抵抗が高く、一般に透磁率を有しており、非磁性体をコアとして用いたコイル部品や空芯コイル部品と同等のインダクタンスを得るのであれば、これらに比べて巻線数を減らすことができるので、素子の小型化に有利であり、また、高周波領域まで高いQ値を得ることができるという特徴を有している。
【0006】
また、インダクタンスについては、一般に磁性材料は温度特性(温度変動によりインダクタンスが変化する)を有する。このことから、磁性材料を用いたコイル部品は、使用環境によりインダクタンスの値が影響されることになり、温度に対するインダクタンスの変化が小さいことがコイル部品として望まれている。
【0007】
また、磁性材料を用いたコイル部品においては、磁性材料に加わる外部からの応力に対し、インダクタンスの変化が少ないことが望ましい。近年、フェライトからなるコアにワイヤにより巻線を施し、耐熱性樹脂によりモールド処理したコイル部品が実用化されている。この耐熱性樹脂は、その硬化時において収縮を生じ、それによって応力がコアに加わる。このようにコアに応力が加わることで、インダクタンスが減少し、コイル部品としての信頼性が低下する。
【0008】
樹脂モールドタイプのコイル部品を構成するフェライトコアが、樹脂からの圧縮応力の影響を受けないことを目的として、特許第2679716号公報には、Fe2O3:46.5〜49.5モル%、CuO:5〜10モル%、ZnO:2〜30モル%、および、残部酸化ニッケルからなるNi−Zn−Cu系フェライト材料に、Co3O4:0.05〜2.0重量%、Bi2O3:3〜5重量%、SiO2:0.1〜2.0重量%添加したフェライトコア焼成用材料が開示されている。また、特開平4−323806号公報には、結晶組織の平均粒径が20〜60μmである耐熱衝撃フェライト材料が開示されている。さらに、特開平9−263443号公報には、Fe2O3:38〜44モル%、NiO:47〜53モル%、CuO:0.1〜2モル%、MgO:5〜9モル%からなる主成分100重量部に、Bi2O3:5〜9重量部、SiO2:5〜9重量部、ZrO2:0.5〜1.5重量部を添加したフェライト材料が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
一般に、磁性材料を用いたコイル部品の品質を量る因子として、品質係数:Q値が挙げられる。コイル部品のリアクタンス成分と交流抵抗成分の位相角をθ(deg)とすると、90(deg)−θ(deg)で表される損失角δ(deg)を用いて表される損失:tanδの逆数であり、Q=1/tanδで表される。したがって、コイル部品としての信頼性および性能の向上には、損失を低下させること、すなわち、Q値の向上が望まれる。
【0010】
しかし、上記の特許第2679716号公報には、10MHz以下のQ値に関する記載と、樹脂モールド前後におけるQの変化率が小さい旨の記載はあるが、10MHzを超える高周波領域におけるQ値に関する記載はなく、10MHzを超える高周波領域でのQ値は小さく、高周波用コイル部材に用いるフェライト材料としては、不充分なものであった。
【0011】
また、特開平4−323806号公報に開示された耐熱衝撃フェライト材料は、結晶組織の平均粒径が20〜60μmと大きいため、温度変動に伴う透磁率変化が大きなものであった。
さらに、特開平9−263443号公報に開示されたフェライト材料は、高周波領域におけるQ値が大きいものの、温度変動に伴う透磁率変化が大きなものであった。
【0012】
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、温度によるインダクタンス変化や物理的強度変化、および、圧縮応力に対するインダクタンス変化が従来の磁性材料に比べて遜色なく、かつ、高周波領域において品質係数であるQ値が充分に高い磁性材料と、高周波用のコイル部品を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明の磁性材料は、主成分が酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、および、酸化ニッケルからなり、該主成分における酸化鉄の含有量がFe2O3換算で45.0〜51.0モル%の範囲、酸化銅の含有量がCuO換算で0.5〜15.0モル%の範囲、酸化亜鉛の含有量がZnO換算で1.0〜31.0モル%の範囲、酸化マグネシウムの含有量がMgO換算で0.1〜5.0モル%の範囲であって、残部が酸化ニッケルであり、副成分が酸化コバルト、酸化ビスマスおよび酸化ケイ素からなり、前記主成分に対して酸化コバルトをCo3O4換算で0.05〜1.0重量%の範囲、酸化ビスマスをBi2O3換算で0.5〜7.0重量%の範囲、酸化ケイ素をSiO2換算で0.2〜3.0重量%の範囲で含有するような構成とした。
また、本発明のコイル部品は、上記の磁性材料からなるコアにワイヤを巻き付けてなるような構成とした。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明は、主成分として磁性材料に含有させる酸化マグネシウムの含有量を検討した結果、所定の範囲の酸化マグネシウム含有量において高周波領域のQ値が高く、かつ、温度によるインダクタンス変化や物理的強度変化、および、圧縮応力に対するインダクタンス変化が従来の磁性材料に比べて遜色ない磁性材料が得られることを見出してなされたものである。
【0015】
すなわち、本発明のフェライト材料は、主成分に占める酸化鉄の含有量がFe2O3換算で45.0〜51.0モル%、好ましくは46.0〜49.5モル%の範囲、酸化銅の含有量がCuO換算で0.5〜15.0モル%、好ましくは1.0〜14.0モル%の範囲、酸化亜鉛の含有量がZnO換算で0〜33.0モル%、好ましくは1.0〜31.0モル%の範囲、酸化マグネシウムの含有量がMgO換算で0.1〜5.0モル%、好ましくは1.0〜4.0モル%の範囲であり、残部は酸化ニッケル(好ましくはNiO換算で10.0〜51.0モル%の範囲)である。さらに、この主成分に対して副成分として酸化コバルトをCo3O4換算で0.05〜1.0重量%、好ましくは0.1〜0.8重量%の範囲、酸化ビスマスをBi2O3換算で0.5〜7.0重量%、好ましくは0.8〜6.0重量%の範囲、酸化ケイ素をSiO2換算で0〜5.0重量%、好ましくは0.2〜3.0重量%の範囲で含有するものである。そして、本発明のコイル部材は、上記の本発明の磁性材料からなるコアを備えるものである。
【0016】
尚、本発明の磁性材料は、透磁率、見かけ密度、Q値、温度によるインダクタンス変化、圧縮応力に対するインダクタンス変化等の特性に影響を及ぼさない程度であれば、不純物として、P,Al,B,Mn,Ba,Sr,Pb,W,V,Mo等を含有してもよい。
【0017】
次に、本発明の磁性材料の組成の各成分範囲の限定理由を説明する。
(酸化鉄の含有量)
Fe2O3が45.0モル%未満であると、見かけ密度に低下がみられる。一方、Fe2O3が化学量論組成を超えた範囲から、空気中の焼成ではFe3O4の析出によって見かけ密度の低下およびコアとしての比抵抗の低下が始まる。このFe3O4の析出が顕著になるのは、分析機器の精度にもよるが、Fe2O3が51モル%を超えた範囲からである。
【0018】
(酸化銅の含有量)
見かけ密度は、コアの物理的強度に大きく影響する。そこで、実用上問題がない値以上の物理的強度を得る必要があるが、一般にMg−Ni−Cu−Zn系のフェライトにおいては、見かけ密度5.0g/cm3以上が物理的強度においても問題がないとされる。この見かけ密度を管理する上で、主成分において最も大きな要因となるのがCuO量である。このCuO量が増加することにより、低温焼成での見かけ密度を向上させることができ、CuOが0.5モル%未満であると、充分な低温焼結性が得られない。また、CuOが15.0モル%を超えると、コアの比抵抗が低くなり好ましくない。
【0019】
(酸化亜鉛)
初透磁率は、使用する周波数により適宜決定すればよいが、初透磁率を管理する上で最も大きな要因となるのがZnO量である。所望の初透磁率が低い場合はZnO量を0とし、より高い初透磁率を得たい場合は漸次ZnO量を増加させることができる。但し、ZnO量が33.0モル%を超えると、10MHzを超える高周波領域においてQ値の低下が起こり、さらに、キュリー点が低くなることから、ZnOの含有量は実用上33.0モル%が上限である。
【0020】
(酸化マグネシウム)
高周波領域でのQ値の制御を行う上で要因となるのがMgO量である。主成分におけるMgO量を0.1モル%以上で増加させることにより、徐々にであるが初透磁率が低下し、高周波領域においてのQ特性が向上する。但し、MgOが0.1モル%未満であると、Q値が向上せず、また、 MgOが5.0モル%を超えると、温度変化による透磁率変化が大きくなり好ましくない。
【0021】
(酸化ニッケル)
本発明の磁性材料では、主成分の残部としてNiOを含有するものとするが、これは諸特性を他の成分により調整し、その結果、残部とするものである。NiOを含有していない場合、コアの比抵抗が低下を来たし好ましくない。
【0022】
(副成分である酸化コバルト)
MgOとともにQ値の向上の要因となるのがCo3O4であるが、主成分に対する含有量が0.05重量%未満であると、Q値が低くなり、1.0重量%を超えると、温度変動によるインダクタンス変化が著しく大きくなり好ましくない。
【0023】
(副成分である酸化ビスマス)
Bi2O3の含有量が増加することにより、低温での焼成において焼結体密度が向上する。これは、主成分として用いるCuOと同様であるが、CuO量の増加により初透磁率やQ値の低下が生じる場合、適宜Bi2O3量を調整することにより、5g/cm3以上の見かけ密度を得ることが可能となる。Bi2O3が0.5重量%未満であると、低温焼結性が悪く、7.0重量%を超えると、仮焼において粒成長が進みすぎ、次工程での粉砕が困難となり、本焼成での緻密化に支障を来たす。
【0024】
(副成分である酸化ケイ素)
物理的強度を向上させ、温度変動によるインダクタンス変化を減少させる大きな要因となるのがSiO2量であり、5.0重量%を超えると、低温焼結性が悪くなり好ましくない。
【0025】
上述のような本発明の磁性材料は、以下のようにして製造することができる。まず、焼成後の組成が上記の範囲となるように秤量した酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化ケイ素を含有した原材料を、ボールミル、サンドミル、振動ミル、湿式メディア攪拌型ミル等を用いて混合粉砕した後、湿式の場合は乾燥し、仮焼きを行う。その後、ボールミル、サンドミル、振動ミル、湿式メディア攪拌型ミル等を用いて粉砕し、湿式の場合は更に乾燥して、磁性材料を得ることができる。
【0026】
また、本発明のコイル部品は、本発明の磁性材料の粉体にバインダーを加え、造粒した後に所望の形状に成形加工し、空気中で焼成(例えば、850〜1300℃)して作製したコアに、Au,Ag,Cu,Pt,Sn,Ni,Pb,Al,Co等の金属、あるいは、これらの合金等からなるワイヤを巻き付けて製造することができる。尚、コアの加工は焼成後に行ってもよい。
【0027】
【実施例】
次に、具体的な実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0028】
[実施例1]
磁性材料の作製
まず、主成分としてFe2O3、CuO、ZnO、MgOおよびNiOを下記の表1に示される量比(モル%)となるように秤量し、この主成分組成に対して、Co3O4、Bi2O3、SiO2を下記の表1に示す量比(重量%)となるように秤量した。尚、MgOは水酸化マグネシウム(MgOH)として添加した。
【0029】
次に、これらの原料をボールミルで5時間湿式混合した。その後、得られた原料混合粉末を空気中750〜900℃で2時間仮焼し、この仮焼成粉をボールミルにて比表面積が3m2/gとなるように混合粉砕し、磁性材料(試料1〜17、比較試料1〜5)を得た。
尚、比表面積は、(株)島津製作所製流動式比表面積自動測定装置 フローソーブ2300型でBET一点法により測定した。
【0030】
試料1〜6については、Mg−Ni−Cu−Zn系のフェライト材料に、副成分としてCo3O4とBi2O3を含有する磁性材料とした。また、試料7〜15については、Mg−Ni−Cu−Zn系のフェライト材料に、副成分としてCo3O4とBi2O3およびSiO2を含有する磁性材料とした。さらに、試料16,17については、特許第2679716号公報に開示されている実施例において、本発明のMgOの含有範囲内となるようにNiOと置換する形でMgOを主成分に含有させた磁性材料とした。
【0031】
一方、比較試料については、Ni−Cu−Zn系のフェライト材料に、副成分としてCo3O4とBi2O3およびSiO2を含有する磁性材料とした。特に、比較試料1については試料7、比較試料2については試料10、比較試料3については試料13のそれぞれから、MgOをNiOで置換して、MgOを主成分に含有しない磁性材料とした。また、比較試料4、5は、特許第2679716号公報に開示されている実施例と同様とした。
【0032】
【表1】
【0033】
評価用試料の作製
得られた各磁性材料(試料1〜17、比較試料1〜5)100重量部に、バインダーとして、鹸化度98.5、重合度2400のポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA124)の3重量%水溶液を10重量部添加して造粒した。こうして得られた顆粒を用いて、後述の測定条件等に合わせて所定の形状に成形し、空気中で860〜1020℃で焼成してコアを作製した。
【0034】
磁性材料の評価
上記の各磁性材料(試料1〜17、比較試料1〜5)のコアについて、下記の測定方法により、見かけ密度、初透磁率、品質係数であるQ値、温度変動によるインダクタンス変化、抗折強度、および、外部応力に対するインダクタンス変化を測定して、下記の表2〜6に示した。
【0035】
(見かけ密度の測定)
空気中で所定の温度(860℃、900℃、940℃、980℃、1000℃、1020℃の6種)で焼成し、得られた焼結体の寸法から体積を求め、その質量を体積で除して見かけ密度を求め、下記の表2に示した。ここで、見かけ密度は、焼結体の焼結性の良し悪しを判断するためのものである。見かけ密度が低いことにより焼結体内部の空孔が多くなり、素子化した場合において、高い温湿度での使用で、上記空孔が原因となりショート不良等を発生して信頼性に影響を及ぼしたり、物理的強度が脆弱となり問題となる。このような問題を生じない程度の見かけ密度は、一般に5g/cm3以上である。
【0036】
(初透磁率の測定)
表2に示した見かけ密度が使用上問題ないと考えられる5g/cm3であるコアを用いて測定を行った。測定は、まず、外径18mm、内径10mm、高さ3.1mmのトロイダル型コアとなるように成形し、空気中で所定温度(各試料において、見かけ密度が5g/cm3となる温度)にて焼成して得たコアに、ワイヤを20回巻線してコイル部品を作製した。このコイル部品について、インピーダンスアナライザー(ヒューレットパッカード社製4291A)により、磁界を0.4A/m印加し、100kHzのインダクタンスを測定し形状から得られた定数から算出した。測定結果は下記の表3に示した。
【0037】
(品質係数であるQ値の測定)
初透磁率を測定するために使用したトロイダル型コアを用い、ワイヤを3回巻線してコイル部品を作製した。次に、このコイル部品について、インピーダンスアナライザー(ヒューレットパッカード社製4291A)により、磁界を0.4A/m印加し、1、2、4、8、10、20、40、60、80、100、150、200、280、330MHzの各周波数において測定した。結果は下記の表4に示した。
【0038】
(温度変動によるインダクタンス変化の測定)
初透磁率を測定するために使用したトロイダル型コアを用い、ワイヤを20回巻線してコイル部品を作製した。次に、このコイル部品について、インピーダンスアナライザー(ヒューレットパッカード社製4291A)により、磁界を0.4A/m印加し、コイル部品を20℃に設定した恒温槽に載置し、100kHzでのインダクタンスを測定して基準値とした。次に、恒温槽内を−20℃、および、80℃の各温度に設定し、それぞれの温度における100kHzでのインダクタンスを測定し、上記の基準値に対する変化率を求めた。インダクタンスの変化はコイル部品の信頼性に大きく影響を及ぼす。一般に、コイル部品として、この変化率が小さいことが望ましく、上記の温度範囲(20℃⇒−20℃、20℃⇒80℃)では、その変化率が±5%以内であることが望ましい。
【0039】
(抗折強度の測定)
JIS規格に定められているファインセラミックスの曲げ強度試験方法(R1601)に準じて求めた。すなわち、JIS規格に定められている寸法(長さ38mm、幅4mm、厚さ3mm程度)に成形し、空気中で見かけ密度が5g/cm3となるように焼成した試料を用いて、荷重(強度)試験器(AIKOH ENGINEERING社製Model 1311,1012)により、クロスヘッドの速度を0.5mm/分として荷重を加え、破壊荷重を測定することで求めた。抗折強度もコイル部品の信頼性に大きく影響し、一般に98MPa以上の抗折強度があれば問題ないとされる。
【0040】
(外部応力に対するインダクタンス変化の測定)
幅と厚さがともに10mm、高さ50mm程度の角棒型となるように成形し、その後、空気中で見かけ密度が5g/cm3となるように焼成し、ワイヤを14回巻線した試料を作製し、これに電流を0.5mA印加して、荷重(強度)試験器(AIKOH ENGINEERING社製Model 1311,1012)により、高さ方向に、幅×厚さの断面積に対し、5段階(9.8、19.6、29.4、39.2、49.0MPa)の強度で加重し、無加重のインダクタンスを基準にインダクタンスの変化率を求めた。この特性は、耐熱性樹脂によりモールド処理したコイル部品の信頼性に大きく影響する。一般に、このインダクタンスの変化率は小さいことが望ましく、使用する耐熱性樹脂にもよるが、上記の5段階で加重した全ての段階で±5%以内となることが望ましい。
【0041】
評価結果
(見かけ密度について)
見かけ密度は、上述したように、焼結体の焼結性の良し悪しを判断するためのものである。見かけ密度が低いことにより焼結体内部の空孔が多くなり、素子化した場合において、高い温湿度での使用により上記空孔が原因となりショート不良等を発生して信頼性に影響を及ぼしたり、物理的強度が脆弱となり問題となる。このような問題を生じない程度の見かけ密度は、一般に5g/cm3以上であるが、この見かけ密度が得られる温度は各試料により異なり、下記の表2に示されるように、試料1〜6においては、MgOの含有量による差はなく、CuOの含有量に依存するものであった。
【0042】
また、試料7〜9の比較、試料10〜12の比較、試料13〜15の比較をすると、Fe2O3の一部、およびNiOの一部をMgOで置換し、さらに、MgO含有量を増加することにより、低温での焼結性が向上した。
【0043】
また、試料1と試料7、試料2と試料10、試料3と試料13とを、それぞれ比較すると、SiO2を含有することにより、5g/cm3以上の見かけ密度が得られる焼成温度が高温側に移行した。
【0044】
さらに、試料7と比較試料1、試料10と比較試料2、試料13と比較試料3とを、それぞれ比較すると、NiOの一部をMgOで置換することにより、低温での焼結性が向上した。
また、特許第2679716号公報に開示されている実施例に相当する比較試料4および比較試料5と、これらのNiOの一部をMgOで置換した試料16および試料17とをそれぞれ比較すると、比較試料4に対して試料16は低温焼結性が向上しており、比較試料5に対して試料17は同等の焼結性を有するものであった。
【0045】
【表2】
【0046】
(初透磁率について)
初透磁率は、使用する周波数に合わせて、適宜組成を設定することにより、変更可能であるが、同等の見かけ密度(5g/cm3)では、下記の表3に示されるように、試料1〜17、比較試料1〜5において有意的な差はない。
【0047】
また、特許第2679716号公報に開示されている実施例に相当する比較試料4および比較試料5と、これらのNiOの一部をMgOで置換した試料16および試料17とをそれぞれ比較すると、比較試料4に対して試料16、および、比較試料5に対して試料17は、同等の初透磁率を有するものであった。
【0048】
【表3】
【0049】
(Q値について)
スピネル型フェライトの透磁率と周波数にはスヌーク(Snoek)の限界線が成り立ち、コイル形状および巻線数とそのパターンを同等とした場合、透磁率の異なる材料をコイルに使用することにより、適用する周波数を変えることが可能となる。上記のスヌークの限界線からも分かる通り、周波数が高周波になることにより透磁率が減少する。この透磁率の減少が生じる周波数は、透磁率の大小により異なるが、一般にはスヌークの周波数限界線に沿って透磁率が減少する。そして、この透磁率の減少が生じる周波数より更に低い周波数でQ値の減少が生じる。すなわち、Q値の大小を比較するうえでは、同等の透磁率において比較する必要がある。そこで、後述するQ値については、上述したように、ほぼ同等の透磁率が得られたサンプルで比較している。
【0050】
下記の表4に示すように、試料7と比較試料1、試料10と比較試料2、試料13と比較試料3とを、それぞれ比較すると、これらは初透磁率には有意的な差は見られなかったが、Q値に関しては、NiOの一部をMgOで置換することによる効果が確認された。すなわち、2MHzまではそれぞれ同等のQ値を有するものの、それ以上の周波数において差が顕著に現われ、100MHzにおいて、各試料7,10,13は、対応する各比較試料1,2,3の3〜5倍程度のQ値を示した。
【0051】
また、試料7〜9の比較、試料10〜12の比較、試料13〜15の比較をすると、Fe2O3の一部、およびNiOの一部をMgOで置換し、さらに、MgO含有量を増加させても、CuO含有量が同一のグループ内では、略同等のQ値が得られることが明らかとなった。上記の3グループのなかで、試料10〜12のグループが、150MHzおよび200MHzの高周波領域でのQ値が最も高いものであった。
【0052】
また、試料1,2と試料7、試料3,4と試料10、試料5,6と試料13とを、それぞれ比較すると、SiO2を含有した試料7,10,13においてQ値がより高いものであった。
【0053】
但し、比較試料1と試料1,2、比較試料2と試料3,4、比較試料3と試料5,6とを、それぞれ比較すると、SiO2を含有せずとも、主成分にMgOを含有することによりQ値が向上することが明らかとなった。
【0054】
さらに、特許第2679716号公報に開示されている実施例に相当する比較試料4および比較試料5と、これらのNiOの一部をMgOで置換した試料16および試料17とを比較すると、20MHzまでは同等のQ値を有するが、40MHzを超える周波数において顕著な差が現れた。すなわち、初透磁率が比較的低い比較試料4と試料16との比較では、100MHzにおいて、試料16は約2倍のQ値を示した。また、比較試料5と試料17との比較では、40〜100MHzにおいて、試料17は2倍以上のQ値を示した。
【0055】
【表4】
【0056】
(温度変動によるインダクタンス変化について)
下記の表5に示されるように、同等の見かけ密度(5g/cm3)において、試料7と比較試料1、試料10と比較試料2、試料13と比較試料3とを、それぞれ比較すると、NiOの一部をMgOで置換しても初透磁率には有意的な差は見られず、温度変動によるインダクタンスの変化率も同等であり、その変化率は±5%以内であった。
【0057】
また、試料7〜9の比較、試料10〜12の比較、試料13〜15の比較をすると、Fe2O3の一部、およびNiOの一部をMgOで置換し、さらに、MgO含有量を増加することにより、インダクタンスの変化率が増加するものの、いずれも±5%以内の変化率であった。
【0058】
また、試料1,2と試料7、試料3,4と試料10、試料5,6と試料13とを、それぞれ比較すると、SiO2を含有した試料7,10,13においてインダクタンスの変化率が小さく良好であった。
【0059】
さらに、特許第2679716号公報に開示されている実施例に相当する比較試料4および比較試料5と、これらのNiOの一部をMgOで置換した試料16および試料17とをそれぞれ比較すると、MgOの含有によって、試料16,17では、ぞれそれ僅かながら変化率が増大するが、いずれも±1%を切る良好な値であった。
【0060】
【表5】
【0061】
(抗折強度について)
下記の表6に示されるように、同等の見かけ密度(5g/cm3)において、試料7と比較試料1、試料10と比較試料2、試料13と比較試料3とを、それぞれ比較すると、NiOの一部をMgOで置換しても初透磁率には有意的な差は見られず、抗折強度も同等であった。
【0062】
また、試料7〜9間の比較、試料10〜12間の比較、試料13〜15間の比較をすると、Fe2O3の一部、およびNiOの一部をMgOで置換し、さらに、MgO含有量を増加することにより、抗折強度が減少するものの、使用上問題ないとされる98MPaを超える抗折強度が得られた。
【0063】
また、試料1,2と試料7、試料3,4と試料10、試料5,6と試料13とを、それぞれ比較すると、SiO2を含有した試料7,10,13においてより良好な抗折強度が得られた。
【0064】
さらに、特許第2679716号公報に開示されている実施例に相当する比較試料4および比較試料5と、これらのNiOの一部をMgOで置換した試料16および試料17とをそれぞれ比較すると、MgOの含有によっても、同等の抗折強度が得られることが明らかとなった。
【0065】
【表6】
【0066】
(外部応力に対するインダクタンス変化について)
下記の表7に示されるように、同等の見かけ密度(5g/cm3)において、試料7と比較試料1、試料10と比較試料2、試料13と比較試料3とを、それぞれ比較すると、NiOの一部をMgOで置換しても初透磁率には有意的な差は見られず、外部応力によるインダクタンスの変化率も同等であり、その変化率は±5%以内であった。
【0067】
また、試料7〜9の比較、試料10〜12の比較、試料13〜15の比較をすると、Fe2O3の一部、およびNiOの一部をMgOで置換し、さらに、MgO含有量を増加することにより、外部応力によるインダクタンスの変化率が増加するものの、いずれも±2%以内の変化率であった。
【0068】
また、試料1,2と試料7、試料3,4と試料10、試料5,6と試料13とを、それぞれ比較すると、SiO2を含有した試料7,10,13は、外部応力によるインダクタンスの変化率が小さく良好であった。
【0069】
さらに、特許第2679716号公報に開示されている実施例に相当する比較試料4および比較試料5と、これらのNiOの一部をMgOで置換した試料16および試料17とを比較すると、外部応力によるインダクタンスの変化率は、MgOの含有によってもほぼ同等のものであった。
【0070】
【表7】
【0071】
[実施例2]
磁性材料の作製
まず、主成分としてFe2O3、CuO、ZnO、MgOおよびNiOを下記の表8に示される量比(モル%)となるように秤量し、この主成分組成に対して、Co3O4、Bi2O3、SiO2を下記の表8に示す量比(重量%)となるように秤量した。尚、MgOは水酸化マグネシウム(MgOH)として添加した。
【0072】
次に、これらの原料をボールミルで5時間湿式混合した。その後、得られた原料混合粉末を空気中750〜900℃で2時間仮焼し、この仮焼成粉をボールミルにて比表面積が3m2/gとなるように混合粉砕し、磁性材料(試料1〜23、比較試料1〜11)を得た。
尚、比表面積は、(株)島津製作所製流動式比表面積自動測定装置 フローソーブ2300型でBET一点法により測定した。
【0073】
【表8】
【0074】
評価用試料の作製
得られた各磁性材料(試料1〜23、比較試料1〜11)100重量部に、バインダーとして、鹸化度98.5、重合度2400のポリビニルアルコール(クラレ(株)製PVA124)の3重量%水溶液を10重量部添加して造粒した。こうして得られた顆粒を用いて、後述の測定条件等に合わせて所定の形状に成形し、空気中で860〜1020℃で焼成してコアを作製した。
【0075】
磁性材料の評価
上記の各磁性材料(試料1〜23、比較試料1〜11)のコアについて、実施例1と同様の測定方法により、見かけ密度、初透磁率、品質係数であるQ値、温度変動によるインダクタンス変化、抗折強度、および、外部応力に対するインダクタンス変化を測定した。
【0076】
評価結果
試料1〜5は、Fe2 O3 含有量を本発明の規定範囲内で変化させ、比較試料1,2はFe2 O3 含有量が本発明から外れるものとした。見かけ密度が5g/cm3である試料1〜5は、初透磁率が15、15、17、18、16であり、10〜150MHzにおいて充分なQ値をもち、また、温度変動によるインダクタンスの変化率が±5%を切り、抗折強度が使用上問題ないとされる98MPaを超え、外部応力に対するインダクタンスの変化率が±5%を切るものであった。一方、比較試料1,2は、低温焼結性が悪く、見かけ密度5g/cm3となる焼成温度として比較試料1は1060℃、比較試料2は1150℃が必要であった。
【0077】
試料6〜8はCuO 含有量を本発明の規定範囲内で変化させ、比較試料3,4はCuO 含有量が本発明から外れるものとした。見かけ密度が5g/cm3である試料6〜8は、初透磁率が15、16、16であり、10〜150MHzにおいて充分なQ値をもち、また、温度変動によるインダクタンスの変化率が±5%を切り、抗折強度として使用上問題ないとされる98MPaを超える値が得られ、外部応力に対するインダクタンスの変化率が±2%を切るものであった。一方、比較試料3は、低温焼結性が悪く、見かけ密度5g/cm3となる焼成温度として1100℃が必要であった。また、比較試料4は、温度変動によるインダクタンスの変化率が6%を超えるものであった。
【0078】
試料9〜12はZnO 含有量を本発明の規定範囲内で変化させ、比較試料5はZnO 含有量が本発明から外れるものとした。見かけ密度が5g/cm3である試料9〜12は、初透磁率が8、10、40、60であり、試料9,10においては10〜150MHzにおいて充分なQ値をもち、試料11,12においては1〜20MHzにおいて充分なQ値が得られた。また、温度変動によるインダクタンスの変化率が±5%を切り、抗折強度が使用上問題ないとされる98MPaを超える値であり、外部応力に対するインダクタンスの変化率が±2%を切るものであった。一方、比較試料5は、20MHz以上の高周波領域においてQ値が10以下となった。
【0079】
また、試料13〜16はMgO 含有量を本発明の規定範囲内で変化させ、比較試料6はMgO 含有量が本発明から外れるものとした。見かけ密度が5g/cm3である試料13〜16は、初透磁率が17、17、17、16であり、10〜150MHzにおいて充分なQ値をもち、また、温度変動によるインダクタンスの変化率が±5%を切り、抗折強度が使用上問題ないとされる98MPaを超える値であり、外部応力に対するインダクタンスの変化率が±5%を切るものであった。一方、比較試料6は、温度変動によるインダクタンスの変化率が7%を超え、さらに、外部応力に対するインダクタンスの変化率も7%を超えるものであった。
【0080】
また、試料17,18は副成分としてのCo3O4 含有量を本発明の規定範囲内で変化させ、比較試料7,8はCo3O4 含有量が本発明から外れるものとした。見かけ密度が5g/cm3である試料17,18は、初透磁率が20、15であり、試料17は10〜100MHzにおいて充分なQ値をもち、試料18は10〜200MHzにおいて充分なQ値が得られた。また、温度変動によるインダクタンスの変化率が±5%を切り、抗折強度として使用上問題ないとされる98MPaを超える値が得られ、外部応力に対するインダクタンスの変化率が±5%を切るものであった。一方、比較試料7は、100MHz以上の高周波領域においてQ値が10以下であり、比較試料8は、温度変動によるインダクタンスの変化率が8%を超えるものであった。さらに、外部応力に対するインダクタンスの変化率も7%を超えるものであった。
【0081】
また、試料19〜21は副成分としてのBi2O3 含有量を本発明の規定範囲内で変化させ、比較試料9,10はBi2O3 含有量が本発明から外れるものとした。見かけ密度が5g/cm3である試料19〜21は、初透磁率が18、17、15であり、10〜150MHzにおいて充分なQ値をもち、また、温度変動によるインダクタンスの変化率が±5%を切り、抗折強度として使用上問題ないとされる98MPaを超える値が得られ、外部応力に対するインダクタンスの変化率が±5%を切るものであった。一方、比較試料9は、低温焼結性が悪く、見かけ密度5g/cm3となる焼成温度として、1060℃が必要であった。また、比較試料10は、仮焼において粒成長が急激に進み、ボールミルの粉砕においては、1cm程度の粗粒が残り、次工程以降の成形が困難であった。
【0082】
さらに、試料22,23は副成分としてのSiO2 含有量を本発明の規定範囲内で変化させ、比較試料11はSiO2 含有量が本発明から外れるものとした。見かけ密度が5g/cm3である試料22,23は、初透磁率が12、9であり、10〜150MHzにおいて充分なQ値をもち、また、温度変動によるインダクタンスの変化率が±5%を切り、抗折強度として使用上問題ないとされる98MPaを超える値が得られ、外部応力に対するインダクタンスの変化率が±5%を切るものであった。一方、比較試料11は、低温焼結性が悪く、見かけ密度5g/cm3となる焼成温度として、1060℃が必要であった。
【0083】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、主成分である酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マグネシウムおよび酸化ニッケルの含有量、ならびに、副成分である酸化コバルト、酸化ビスマスおよび酸化ケイ素の含有量を所定の範囲とすることにより、高周波領域において品質係数であるQ値が充分に高く、かつ、温度変動によるインダクタンス変化や物理的強度変化が少なく、また、圧縮応力に対するインダクタンス変化が少ない磁性材料が得られ、本発明の磁性材料からなるコアは抗折強度が高く、このコアを備えるコイル部品は、高周波領域において高い信頼性と優れた性能を発現する。
Claims (2)
- 主成分が酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、および、酸化ニッケルからなり、該主成分における酸化鉄の含有量がFe2O3換算で45.0〜51.0モル%の範囲、酸化銅の含有量がCuO換算で0.5〜15.0モル%の範囲、酸化亜鉛の含有量がZnO換算で1.0〜31.0モル%の範囲、酸化マグネシウムの含有量がMgO換算で0.1〜5.0モル%の範囲であって、残部が酸化ニッケルであり、副成分が酸化コバルト、酸化ビスマスおよび酸化ケイ素からなり、前記主成分に対して酸化コバルトをCo3O4換算で0.05〜1.0重量%の範囲、酸化ビスマスをBi2O3換算で0.5〜7.0重量%の範囲、酸化ケイ素をSiO2換算で0.2〜3.0重量%の範囲で含有することを特徴とする磁性材料。
- 請求項1に記載の磁性材料からなるコアにワイヤを巻き付けてなることを特徴とするコイル部品。
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