JP4663154B2 - 純チタンのベーキング処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、プラズマ浸炭処理を施した純チタンの水素脆性による疲労強度の低下を防止するために、水素含有量を低減させるベーキング処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
チタン金属は耐食性に優れ、軽くて強いという特徴を有している。中でも、純チタンの特徴の最たるものは耐食性であり、耐食材料として汎用されるステンレス鋼と工業用純チタンとを比強度(耐力/密度比)で比較すれば、400℃よりも低温側では、工業用純チタンの方がはるかに優れ、主に耐食性を必要とする部材には、純チタンがそのまま使用される。例えば、海水の淡水化装置などの熱交換器用伝熱管、医療用材料、メガネフレーム、カメラボディなどの民生品のほかに、化学プラントの反応容器や配管、バルブ類およびボルト、ナット類など、化学工業においても多用されている。
【0003】
純チタンを用いたボルト、ナットなどのねじ部品では、所要の耐摩耗性及び設計上必要な締め付け力を確保するための良好な摺動性などの特性が要求される。しかし、純チタンをはじめチタン金属は、無潤滑の状態では摩擦係数が大きく、ねじ部品や摺動部材などに使用する場合には、焼付きの問題が生じる。一般に、潤滑油、黒鉛、二硫化モリブデンなどの潤滑剤を使用することにより、摩擦係数をさげることができるが、長時間の使用に耐えることができず、耐久性のある焼付き防止のためには、チタン金属に表面処理をすることが必要である。
【0004】
前記の表面処理として、プラズマ浸炭処理が知られている。このプラズマ浸炭処理は、真空雰囲気中で、例えば、処理室内の上部断熱材が直流電源の陽極に接続され、被処理物の載置台が前記直流電源の陰極に接続され、両極間に直流電圧を加えてグロー放電を生じさせ、処理室の要所に設けたマニホールドから導入したメタンガスやプロパンガスなどの浸炭用ガスをイオン化して、活性炭素イオンを発生させ、この活性炭素イオンがチタン金属などの金属被処理物の表面に衝突して付着し内部に拡散する、または加速された活性炭素イオンが金属処理物の表面に衝突した際に、直接、内部に打ち込まれるなどして、Tiなどの金属原子と結合して、表層部にTiCなどの金属炭化物の硬化層を形成する処理である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記プラズマ浸炭処理においては、活性炭素イオンとともに、浸炭用ガスの組成である水素もイオン化して、雰囲気内に存在するために、前記浸炭処理を施さない場合に比べて、水素が被処理物内に侵入しやすくなる。そのため、前記浸炭処理物は、靱性の低下や引張り強度よりも低い荷重で破壊するなど、所謂水素脆性を引起しやすくなり、このことは、極めて信頼性の高い耐食性を有する純チタンを前述のねじ部品などに用いる場合には、致命的な欠点となる。
【0006】
そこで、この発明の課題は、プラズマ浸炭処理を施した純チタンの水素脆性による疲労強度の低下を防止するために、水素含有量を低減させるベーキング処理方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記の課題を解決するために、この発明においては、プラズマ浸炭処理を施した純チタンを、真空下で200℃以上前記浸炭処理の下限温度の範囲に所要時間保持してその内部の水素含有量を低減させるようにしたのである。ここで、真空下とは、大気圧よりも低い圧力の状態を意味する。
【0008】
このようにすれば、プラズマ浸炭時に、活性炭素イオンとともに雰囲気中に存在するために、純チタンの処理物の内部に侵入した水素が、真空下で前記被処理物の表面に拡散して真空雰囲気中に放出されるのである。
【0009】
ここで、保持温度範囲が200℃以下であると、水素原子の拡散速度が遅くなって処理時間が長くなりすぎ、また、プラズマ浸炭処理の下限温度域以上になって浸炭処理温度域に入ると、前述のように、被処理物の表面に侵入した活性炭素イオンがTiと安定結合する前に、真空雰囲気中に放出され、表面に所望の硬化層を形成できなくなるためである。
【0010】
前記プラズマ浸炭処理の温度が低くなると、スーティング(sooting )が発生しやすくなり、スーティングにより被処理物の表面に炭素が析出すると、TiCの硬化層の成長が著しく阻害される。このため、スーティングの発生防止の点からプラズマ浸炭温度の下限が設定され、この下限温度は、浸炭用ガスの組成などによって異なるが、およそ700℃〜800℃の温度域にある。
【0011】
前記所要時間が30分以上10時間以下であることが望ましい。
【0012】
前記200℃からプラズマ浸炭処理の下限温度までの温度範囲では、保持時間が30分よりも短いと侵入した水素が純チタンの被処理物の表面にまで充分拡散しなく、真空雰囲気中への放出が不充分となり、また、保持時間が10時間以上としても、それ以上は、真空雰囲気中への水素の放出は殆ど期待できないからである。
【0013】
前記真空の程度が、15Pa以下であることが望ましい。
【0014】
プラズマ浸炭処理後の純チタン被処理物中の水素は、単純に侵入しているだけなので、真空雰囲気の圧力を低くすればするほど、効果的に脱水素することができる。前記温度範囲に保持中の真空度が15Paを超えると、侵入した水素が真空雰囲気中に放出されにくくなる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、この発明の実施形態の純チタンのベーキング処理方法を添付の図1を参照して説明する。
【0016】
被処理物の純チタンは、プラズマ浸炭処理の前に、その表面を有機溶剤または超音波により洗浄処理をしておくことが望ましい。
【0017】
前記プラズマ浸炭処理に用いる装置(日本電子工業社製)は、加熱炉の炉殻の内周面に取り付けられた断熱材等によって囲まれて処理室が形成され、この処理室がその内部に設けたグラファイトロッドからなる発熱体により加熱される。処理室内の上部断熱材が直流電源の陽極に接続され、被処理物の載置台が直流電源の陰極に接続され、両極間に直流電圧を加えてグロー放電を生じさせ、処理室の要所に設けたマニホールドから導入した浸炭用ガスをイオン化して活性炭素イオンを発生させ、この活性炭素イオンを被処理物の表面に衝突させて浸炭処理を行うにようになっている。また、処理室には、その内部を真空状態にするために、真空ポンプが接続されている。
【0018】
そして、前記処理室の載置台上に置かれた被処理物の純チタンは、前記発熱体により、700℃〜1100℃、スーティングの発生をより厳密に防止するため、望ましくは800℃〜1100℃の温度範囲に加熱され、処理室内に浸炭用ガスとして、プロパンガス20vol.%、被処理物表面のクリーニング作用を有する希釈用の水素ガス80vol.%の混合ガスが、処理室内の圧力が13Pa〜2000Paの真空雰囲気になるように流量調節されて導入される。そして、前記グロー放電によりプロパンガス中の炭素がイオン化されて、活性炭素イオンが発生し、前述のように、この活性炭素イオンが純チタンに衝突し、拡散してTiと結合し、その表層部に浸炭層、即ちTiCの硬化層が形成される。
【0019】
前記浸炭処理の終了後、処理室内の浸炭用ガスが排気され、窒素ガスが処理室内に導入されて、チタン金属の温度を、処理室の開閉扉を開けて浸炭処理に伴って発生した煤などの異物を除去できる温度にまで降下させる。そして、処理室内を再度、前記真空ポンプで排気しておよそ15Pa以下の真空状態として、200℃から前記浸炭処理の下限温度の範囲に、即ち200℃からおよそ800℃までの温度範囲に30分〜10時間の範囲の所要時間保持して、ベーキング処理を行い、保持終了後、処理室内に窒素ガスを導入し、チタン金属を常温まで冷却して処理室から取り出す。
【0020】
ここで、保持温度範囲を200℃〜プラズマ浸炭処理の下限温度の範囲としたのは、前述のように、保持温度が200℃以下であると、水素原子の拡散速度が遅くなって処理時間が長くなりすぎ、また、プラズマ浸炭処理の下限温度域のおよそ800℃以上になると、プラズマ浸炭処理の温度域に入って、前述のようにして純チタンの表面に侵入した活性炭素イオンがTiと安定結合する前に、真空雰囲気中に放出され、表面に所望の硬化層を形成できなくなるためである。
【0021】
また、前記200℃からプラズマ浸炭処理の下限温度の範囲、即ち200℃からおよそ800℃までの範囲では、保持時間が30分よりも短いと侵入した水素がチタン金属の表面にまで充分拡散せず、真空雰囲気中への放出が不充分となり、また、保持時間が10時間以上としても、この保持時間以降の真空雰囲気中への水素の放出は殆ど期待できず、処理時間が長くなるだけだからである。
【0022】
前記保持時間は、雰囲気ガスの組成、ねじ部品などの被処理物の寸法、目標硬化層深さおよび目標処理時間などによって選択されるプラズマ浸炭処理温度に応じて適宜設定する前記の温度範囲内のベーキング処理温度によって、前記の時間範囲内で適切に決定することができる。
【0023】
前記真空の程度が、15Pa以下とするのは、プラズマ処理後のチタン金属中の水素は、単純に侵入しているだけなので、真空雰囲気の圧力を低くすればするほど、効果的に脱水素することができるためであり、前記温度範囲に保持中の真空度が15Paを超えると、侵入した水素が真空雰囲気中に放出されにくくなる。
【0024】
【実施例】
直径20mmの工業用純チタンの丸棒から図1(a)、(b)に示した疲労試験片(切欠き平行部長さL1 =7.6mm、切欠き平行部直径D1 =6.6mm、切欠き平行部の肩部の半径R1 =1.5mm、平行部長さL2 =45mm、平行部直径D2 =10.5mm、平行部の肩部の半径R2 =0.8mm、全長L3 =152mm)を切り出し、まず、1000番のエメリー紙で研磨後、アセトン中で超音波洗浄した。
【0025】
そして、浸炭用ガスとして、プロパンガス20vol.%、水素ガス80vol.%の混合ガスを用い、ガス圧力100Pa、処理温度760℃、処理時間2時間の条件で、プラズマ浸炭処理を行った。浸炭処理終了後、迅速に浸炭ガスを排気し、処理室に窒素ガスを導入して被処理物の前記試験片を強制冷却し、その温度を150℃まで下げ、処理室内の煤などの異物を除去した後、窒素ガスを排気し、10Paにまで減圧し、真空状態とした。そして、前記試験片を300℃まで再加熱して、この温度で5時間保持してベーキング処理を行い、保持終了後、再度、処理室内に窒素ガスを導入して、常温まで冷却した。
【0026】
このような処理を実施した前記疲労試験片を用いて引張り疲労試験を行った。この引張り疲労試験は、電磁共振型疲労試験機(島津製作所製)を用い、実部品に要求される疲労強度に基づいて応力条件を設定し、最大応力180MPa、最小応力18MPa、応力比0.1、応力振幅81MPa、繰返し速度20Hzで実施した。試験結果を表1に示すように、プラズマ浸炭処理のみを施した場合には、繰返し数2.4×105 で破断したが、プラズマ浸炭処理後に前記ベーキング処理を実施した場合には、繰返し数3.1×105 までは破断には至らなかった。
【0027】
【表1】
Figure 0004663154
【0028】
これらの結果から、プラズマ浸炭処理を施した場合には、前述のように、浸炭処理の過程で水素がチタン金属中に侵入し、この水素が侵入型水素化物を生成するなどして水素脆性を引き起こし、疲労強度が低下したと考えられる。一方、プラズマ浸炭後にベーキング処理を実施した場合には、ベーキング処理によって侵入した水素がチタン金属表面に拡散して、真空雰囲気中へ放出されるため、プラズマ浸炭のみの場合よりも、疲労強度が回復したと考えられる。
【0029】
このように、前記ねじ部品の耐摩耗性及び摺動性などの向上を目的として、表面を硬化させるために、プラズマ浸炭処理を施しても、その後に前述のベーキング処理を実施すれば、水素脆性による疲労強度の低下の防止に有効であることが確認された。また、ねじ部品の表層部のTiCの硬化層による耐摩耗性および摺動性の向上により、ねじ面に圧力が作用した状態で繰り返し応力を受ける場合の疲労特性、即ちフレッティング疲労特性の向上も期待される。
【0030】
なお、前述のベーキング処理は、純チタンのみならず、焼なまし処理を施すなどした、溶体化処理および時効処理を行わないチタン合金のプラズマ浸炭後の水素除去にも適用することができる。
【0031】
【発明の効果】
以上のように、この発明によれば、純チタンのねじ部品などにプラズマ浸炭処理を施した後に、浸炭処理条件に応じて適正な熱処理条件を選択して実施するベーキング処理は、浸炭処理過程で侵入した水素を除去し、水素脆性による疲労強度の低下の防止に有効である。このベーキング処理により、ねじ部品などの被処理物に形成されたTiCの硬化層の本来の特性が発揮でき、前述の耐摩耗性及び摺動性が向上し、化学プラントなど各種の産業装置に使用されるねじ部品や摺動部材などの純チタン部品への要求特性を満足することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)この発明の実施例のベーキング処理を施した疲労試験片の正面図
(b)同上の要部の拡大正面図

Claims (3)

  1. プラズマ浸炭処理を施した純チタンを、真空下で200℃以上前記浸炭処理の下限温度の範囲に所要時間保持してその内部の水素含有量を低減させる純チタンのベーキング処理方法。
  2. 前記所要時間が30分以上10時間以下である請求項1に記載の純チタンのベーキング処理方法。
  3. 前記真空の程度が、15Pa以下である請求項1または2に記載の純チタンのベーキング処理方法。
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