JP4659358B2 - 経口インスリン療法 - Google Patents
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Description
本発明は、血流への、治療的タンパク質の治療有効量の経口送達に関する。本発明は更に、治療様式の一部としての、活性物質としてのタンパク質の経口投与に関する。本発明は更に、糖尿病の治療のための治療有効量のインスリンの経口投与に関する。本発明は更に、糖尿病治療のための血流への治療有効量のインスリン輸送を促進する経口投与のための送達物質及びインスリンの組成物に関する。本発明は更に、経口投与のためのインスリンを含有する組成物の調製法を提供する。
タンパク質、炭水化物及び他の生物学的分子(「生物学的巨大分子」)は、科学及び技術の多種多様な領域における用途が増加していることが認められる。例えばタンパク質は、医薬品、ワクチン及び獣医用製品の分野における活性物質として利用されている。残念なことに、生物学的巨大分子の医薬組成物中の活性物質としての使用は、その活性物質が必要とされる場所への通路の天然障壁の存在により、厳しく制限されることが多い。このような障壁は、皮膚、脂質二重層、粘膜、厳しいpH条件及び消化酵素を含む。
生物学的巨大分子をうまく経口送達するには多くの障害がある。例えば生物学的巨大分子は大きく、及び天然には両親媒性である。より重要なことは、生物学的巨大分子の活性のあるコンホメーションは、温度、酸化剤、pH、凍結、振盪及び剪断応力などの、様々な環境因子に対して感受性があることがある。創薬のための生物学的巨大分子を活性物質として含む経口送達システムを計画する上で、これらの複雑な構造及び安定性の要因が考慮されなければならない。
従って患者が、それ自身、血管疾患のリスク(これは通常、先に考察したような慢性インスリン治療に関連している)を増加し得る、全身性高インスリン血症に曝されないような、インスリンを必要とする患者へのインスリン投与法が必要である。別の表現をすると、血管合併症及び他の有害な作用の発生を減少するために全身性高血糖症の欠点を伴わずに、糖尿病を治療する組成物及び方法を提供することが望ましい。
例えば、その製剤は治療に有効である薬物の胃腸管からの不充分な吸収のために、経口投与可能とみなされない薬物の有用な経口医薬製剤を提供することは、本発明のひとつの目的である。
更に治療に有効である経口投与のためのインスリンの有用な医薬製剤を提供することは、本発明のひとつの目的である。
更に、例えば薬物の胃腸管からの不充分な吸収のために、経口投与可能とみなされない薬物と共に経口投与することができる送達物質を提供し、その結果インスリンのような薬物が、胃腸管から適量吸収され、望ましい治療的作用を提供することは、本発明のひとつの目的である。
糖尿病治療のため、耐糖能障害治療のため、グルコースホメオスタシスを達成する目的のため、初期糖尿病治療のため、後期糖尿病治療のため、及び/又はI型糖尿病患者について代替として利用するために、血流への治療有効量のインスリン輸送を促進する経口投与のための送達物質及びインスリンの組成物を提供することは、本発明の目的である。
経口投与のためのインスリン及び送達物質を含有する組成物を調製する方法を提供し、望ましい治療的作用を提供する経口的に投与可能な単位用量を生じることは、本発明の目的である。
従来のインスリン療法の慢性全身性高インスリン血症に関連した病態のリスクを低下することは、本発明の目的である。
糖尿病における非経口インスリン療法により引き起こされた慢性全身性高インスリン血症に関連した血管疾患の発生を低下する方法を提供することは、別の本発明の目的である。
糖尿病における非経口インスリン療法により引き起こされた慢性全身性高インスリン血症に関連した血管疾患の発症時を遅延することは、別の本発明の目的である。
糖尿病における非経口インスリン療法により引き起こされた慢性全身性高インスリン血症に関連した血管疾患の重症度を低下することは、本発明の別の目的である。
インスリン治療に対する反応を生じる複合した一連の全身プロセスを減弱することも、本発明の別の目的である。
糖尿病の治療に有効な治療を提供すると同時に、全身血液インスリン濃度を低下することができる方法及び医薬製剤を提供することは、本発明の別の目的である。
真性糖尿病に関連した血管合併症及び結果的状態(例えば、網膜症、ニューロパシー、ネフロパシーなど)の事例及び重症度の低下を補助することができる方法及び医薬製剤を提供することは、本発明の更なる目的である。
ニューロパシー、網膜症、末梢血管疾患、心臓合併症及び脳血管合併症につながる、糖尿病におけるインスリン療法に関連した巨大-及び微小-血管合併症の発生及び/又は重症度を低下することは、本発明の更なる目的である。
本発明は更に、ひとつには、ヒト糖尿病患者への経口投与後に血液グルコースの治療に有効な低下を達成し、及び生理的(門脈/末梢)勾配を維持する未修飾インスリンの用量を含有し、並びにある態様においては、約2.5:1〜約6:1、及び好ましくは約4:1〜約5:1の門脈インスリン濃度の末梢血インスリン濃度に対する比を提供する経口固形剤形にも関する。
本発明は更に、ひとつには、治療有効量の未修飾インスリンを含有する経口剤形に関し、該剤形は、ヒト糖尿病患者への食前経口投与時に、該患者における食後の平均血漿グルコース濃度が、該患者における平均ベースライン(絶食時)血漿グルコース濃度(十分なインスリンが不足)と比べ、経口投与後最初の1時間で低下されることを引き起こす。
前述の本発明の経口剤形の好ましい態様において、経口剤形は固形であり、及び好ましくは、ゼラチンカプセル剤内に組込まれて又は錠剤に含まれて提供される。
ある好ましい態様において、剤形に含まれる未修飾インスリンの用量は、一般に認められた変換係数26.11単位/mgを基に、約50単位〜約600単位(約2〜約23mg)、好ましくは約100単位(3.8mg)〜約450単位(15.3mg)インスリンであり、及び最も好ましくは約150単位(5.75mg)〜約300単位(11.5mg)である。
本発明のある好ましい態様において、これらの剤形は、インスリンの門脈循環(胃粘膜を通じた吸収により)への送達を開始し、約30分以内にピークレベルに到達する。
本発明は更に、ひとつには、先に及び更に本願明細書の項として説明された剤形の1種又は複数の単位用量を投与することを含む、ヒトにおける糖尿病治療法に関する。
本発明は更に、ひとつには、慢性ベースでの、先に及び更に本願明細書の項として説明された剤形の1種又は複数の単位用量を投与することを含む、ヒトにおける耐糖能障害、グルコースホメオスタシス達成、糖尿病初期病期、及び糖尿病後期病期の治療法に関する。
皮下インスリンが投与された患者から得たインスリン濃度平均値の決定は、当業者に周知である。
糖尿病患者--糖尿病型に罹患したヒトを意味する。
IGT--耐糖能障害を意味する。
糖尿病--特に別記しない限りは、1型及び2型糖尿病を包含するとみなす。
生物学的巨大分子--タンパク質及びポリペプチドのような生物学的高分子。本出願を目的とし、生物学的巨大分子は巨大分子とも称される。
送達物質--治療的物質の経口送達において有用な担体化合物又は担体分子を意味する。「送達物質」は、「担体」と互換的に使用することができる。
インスリンの治療有効量--投薬期間中、絶食状態又は摂食状態で有効のいずれかで、ヒト糖尿病患者の血液グルコース濃度の臨床的に有意な管理を達成するのに十分な、本発明の経口剤形に含有されたインスリン量。
送達物質の有効量--治療有効量の薬物の胃腸管からの吸収を促進する送達物質の量。
ペプチド--中間の分子量に対する小さいポリペプチド、通常2個又はそれよりも多いアミノ酸残基であり、必ずしもではないがより大きいタンパク質の断片を表わすことが多い。
タンパク質--炭素、水素、酸素、窒素及び通常は硫黄を含み、ペプチド連結により結合されたアミノ酸鎖で構成された、複雑な高度の高分子。本出願におけるタンパク質は、糖タンパク質、抗体、非-酵素タンパク質、酵素、ホルモン及びペプチドを意味する。タンパク質の分子量の範囲は、1000ダルトンのペプチドから、600〜1000キロダルトンの糖タンパク質まで含む。
再構成--組成物の溶解又は適当な緩衝液もしくは医薬組成物中の組成物。
未修飾インスリン--米国特許第6,309,633号に開示されたもののようなオリゴマーと複合しない、及び/又は、米国特許第5,359,030号;第5,438,040号;及び/又は第5,681,811号に開示されたもののように両親媒性の修飾が施されていない、医薬として許容できる方法で又は医薬として許容できる給源から調製された、インスリンを意味する。
本願明細書において使用される用語「AUC」は、完全な投薬期間、例えば24-時間期間にわたり、台形公式により計算された、血漿濃度-時間曲線の下面積を意味する。
本願明細書において使用される用語「Cmax」は、投薬期間内に到達される薬物の最高血漿濃度である。
本願明細書において使用される用語「tmax」は、薬物の血漿濃度が投薬期間内にCmaxに到達する剤形の投与後に経過した期間である。
用語「単回投与量」は、ヒト患者が、薬物組成物の単回投与量を受取り、並びに薬物血漿濃度が安定状態に到達しないことを意味する。
特に「単回投与量」又は「安定状態」と記さない限りは、本願明細書に開示され及び特許請求された薬物動態パラメータは、単回投与量及び安定状態の両方を包含している。
用語「平均」は、薬物動態値(例えば、平均tmax)の前に記された場合は、特記しない限りは、その薬物動態値の相加平均値を意味する。
相対生物学的利用率(%)=(SC投与量/経口投与量)×(AUCINS経口/AUCINS SC)×100
本願明細書において使用される用語「生体効力」は、薬物又は物質が、体の治療部位に対し有効である程度又は比(%)を意味する。これは、下記式により計算される:
相対生体効力(%)=(SC投与量/経口投与量)×(AUCGIR経口/AUCGIR SC)×100
Kelは、対数濃度、対、時間曲線の最終直線部分の線形回帰により計算された最終相消失速度定数である。
本願明細書において使用される用語「AUC(0-x)」は、投与後0時からx時までの線形台形総和を用いる、血漿濃度-時間曲線下面積を意味する。
本願明細書において使用される用語「AUC(0-t)」は、投与後0時からt時までの線形台形総和を用いる、血漿濃度-時間曲線下面積を意味し、ここでtは最終測定可能な濃度(Ct)の時点である。
本願明細書において使用される用語「AUC(0-inf)」は、0時から無限大までの血漿濃度-時間曲線下面積を意味し、AUC(0-inf)=AUC(0-t)+Ct/Kelである。
本願明細書において使用される用語「AUEC(0-x)」は、投与後0時からx時の濃度までの線形台形総和を用いて計算された、作用-時間曲線下面積を意味する。
本願明細書において使用される用語「AUEC(0-t)」は、投与後0時からt時の濃度までの線形台形総和を用いて計算された、作用-時間曲線下面積を意味し、ここでtは、最後の測定可能な作用(E)の時点である。
本願明細書において使用される用語「AURC(0-x)」は、投与後0時からx時の濃度までの線形台形総和を用いて計算された、反応-時間曲線下面積を意味する(ベースライン減算したAUEC)。
本願明細書において使用される用語「AURC(0-t)」は、投与後時間0時からt時の濃度までの線形台形総和を用いて計算された、反応-時間曲線下面積を意味し(ベースライン減算したAUEC)、ここでtは、最後の測定可能な反応(R)の時点である。
本願明細書において使用される用語「CL/F」は、投与量/AUC(0-inf)として計算された、見かけの全身のクリアランスを意味する。
本願明細書において使用される用語「Eb」は、低血糖症の介入前に観察された最大作用(ベースライン減算した)を意味する。
本願明細書において使用される用語「Emax」は、観察された最大作用(ベースライン減算した)を意味する。
本願明細書において使用される用語「Rmax」は、観察された最大反応(総反応)、すなわち、最小グルコース濃度を意味する。
本願明細書において使用される用語「Rb」は、低血糖症介入前に観察された最大反応(総反応)を意味する。
本願明細書において使用される用語「tb」は、低血糖症介入前にインスリン/グルコース血漿濃度に到達する時間を意味する。
本願明細書において使用される用語「tc」は、低血糖症介入前にベースラインからのグルコース濃度変化に達する時間を意味する。
本願明細書において使用される用語「tEmax」は、最大作用の時間(内挿せずに得られた)を意味する。
本願明細書において使用される用語「t1/2」は、ln(2)/Kelとして計算された最終相半減期を意味する。
本願明細書において使用される用語「Vd/F」は、(CL/F)/Kelとして計算された見かけの分布容積を意味する。
高インスリン血症(上昇したインスリンの血液濃度)は、通常の送達の生理的経路と一致しない場所(及び方式)でのインスリンの投与により引き起こされる。正常な健常者において、インスリンは、膵臓から門脈へ放出され、これはインスリンを肝臓へと移動する。肝臓は、門脈循環から受け取るインスリンの大部分を利用する。グルコースは、ヒトにおけるインスリン分泌の主な刺激である。グルコースは、促進輸送によりβ細胞に進入し、次にグルコキナーゼによりリン酸化される。グルコキナーゼの発現は、主にグルコース代謝の調節に関与した細胞及び組織、例えば肝臓及び膵臓のβ細胞に限定されている。糖質がリン酸化及び引き続きの解糖を受ける能力は、それらがインスリン放出を刺激する能力に密に相関している。遊離モノマーとしての血中のインスリン循環、及びその分布容積は、細胞外液の容量に近似している。正常な健常者において、絶食状態下で、門脈血液中のインスリン濃度は、例えば約2〜4ng/mlであるのに対し、インスリンの全身(末梢)濃度は、例えば約0.5ng/mlであり、これは例えば5:1の比に置換えられる。
本発明の経口インスリン製剤は、投与の容易さ、無痛投与、及び改善された患者の服薬遵守の可能性の点で、現在当該技術分野において公式(state)である皮下投与されたインスリンに勝る有利な結果を提供する。本発明の経口インスリン製剤の投与により、膵臓によるインスリン分泌の第一(初期)相時に生じるインスリンの血液レベルを、刺激することができる。インスリン分泌の第一相は、短期間ではあるが、代謝事象(食事)を前向きに肝臓が点火することにおいて重要な役割を有する。皮下投与されたインスリンは門脈循環を受けないので、この結果は、皮下投与されたインスリンでは不可能である。
本発明の医薬組成物及び方法は、簡便性、許容性及び患者の服薬遵守に加え、多くの利点を提供する。胃腸管で吸収されたインスリンは、門脈へ放出され及び肝臓へ直接運ばれるので、膵臓により分泌されたインスリンの生理を模倣している。門脈循環への吸収は、インスリン分泌を調節する末梢-門脈インスリン勾配を維持する。本発明は、高レベルの全身インスリンを有することなく、低い血液グルコースを達成することができる経口インスリン送達のための医薬組成物及び方法を含む。
本発明は、ヒトにおけるインスリン経口投与のための薬物として、組換えヒトインスリン亜鉛及び送達物質の組成物を提供する。
本発明は、活性物質としてインスリン及び送達物質を、午後の期間中正常範囲内の血液グルコース濃度約70〜約120mg/dlを達成するのに有効量で含有する、経口投与のための医薬組成物を提供する。好ましい態様において、本発明は、活性物質としてインスリン又はインスリンアナログ及び送達物質を、午後3時の血液グルコース濃度約80〜約120mg/dlを達成するのに有効量で含有する。
インスリン治療作用が必要な対象の血流へのインスリンの適当な送達に必要な送達物質の量は、下記の1種又は複数に応じて変動し得る:特定の送達物質の化学構造;インスリン及び送達物質の相互作用の性質及び程度;単位用量の性質、すなわち、固形、液体、錠剤、カプセル剤、懸濁剤;胃腸管内の送達物質の濃度、対象の摂食状態、対象の食事療法、対象の健康状態、及び送達物質のインスリンに対する比。
更なる本発明の態様において、本願明細書に説明された経口剤形は、糖尿病、耐糖能障害の治療、又はグルコースホメオスタシスを達成するために、本願明細書に説明されたように追加療法と併用して経口投与され、該追加療法は、例えば、スルホニル尿素、ビグアニド、α-グルコシダーゼ、異なる経路(例えば、非経口インスリン)で送達されるインスリンのような、追加の薬物、及び/又はインスリン増感剤を含む。
インスリンの吸収作用は、経口治療後のC-ペプチド濃度の低下を観察することにより、本発明の医薬組成物で治療されたヒト患者において明示される。例えば本発明のひとつの態様において、医薬組成物は、活性物質としてインスリン、及びインスリンの経口送達を促進するための送達物質として化合物4-CNABを含有し、並びにインスリンが血流に吸収された後、この組成物は、経口投与後約80〜約120分で、治療した患者においてC-ペプチド濃度の最大減少を生じる。より詳細に述べると、この組成物は、例えば、治療した患者におけるC-ペプチド濃度の最大減少は経口投与後約90〜約110分であるような、投与後C-ペプチド濃度減少を生じる。
この送達物質は、カルボン酸又はそれらの塩の形であることができる。適当な塩は、有機及び無機の塩、例えばナトリウム、カリウム及びリチウムなどのアルカリ金属塩;マグネシウム、カルシウム又はバリウムなどのアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;塩基性アミノ酸、例えばリシン又はアルギニン;及び有機アミン、例えばジメチルアミン又はピリジンを含むが、これらに限定されるものではない。好ましい塩は、ナトリウム塩である。これらの塩は、一ナトリウム塩及び二ナトリウム塩のような、一価又は多価の塩であることができる。これらの塩は、エタノール溶媒和物を含む、溶媒和物、及び水和物であっても良い。
本願明細書に説明された化合物は、アミノ酸に由来することができ、並びに本説明及び国際公開公報第96/30036号、第97/36480号、第98/34632号及び第00/07979号、並びに米国特許第5,643,957号及び第5,650,386号に説明されている方法を基に、当業者に公知の方法によりアミノ酸から容易に調製することができ、これらの各開示は、本願明細書に参照として組入れられている。例えば、この化合物は、アミノ酸中に存在する遊離アミノ基と反応しアミドを生成する適当なアシル化剤又はアミン修飾剤の、単独のアミノ酸との反応により調製することができる。当業者に公知であるように、保護基を使用し、望ましくない副反応を避けることができる。
この送達物質は、国際公開公報第00/46182号の方法に従う、適当なサリチルアミドのアルキル化により調製することもでき、その開示は本願明細書に参照として組入れられている。サリチルアミドは、サリチル酸から、硫酸及びアンモニアとの反応によりエステルを介して、調製することができる。
本発明のある好ましい態様において、経口投与後に達成された送達物質のピーク血漿濃度(Cmax)は、好ましくは経口投与後に約10〜約250,000ng/ml、好ましくは約100〜約125,000であり、及び好ましくは送達物質のピーク血漿濃度は、経口投与後約1,000〜約50,000ng/mlである。より好ましくは、本発明の送達物質のピーク血漿濃度は、経口投与後約5,000〜約15,000ng/mlである。
好ましい態様において、送達物質のtmaxは、経口投与後約0.3〜約1.5時間で生じる。ある態様において、送達物質は、経口投与後約2時間以内にtmaxに到達し、最も好ましくは経口投与後約1時間以内に到達する。
ある好ましい本発明の態様において、医薬組成物は、活性物質としてインスリンを含み、及び送達物質が4-CNABの一ナトリウム塩であり、インスリン[単位]の送達物質[mg]に対する比は、10:1[単位/mg]〜1:10[単位/mg]の範囲であり、好ましくはインスリン[単位]の送達物質[mg]に対する比は、5:1[単位/mg]〜0.5:1[単位/mg]の範囲である。
最適なインスリンの送達物質に対する比は、送達物質に応じて変動することができる。インスリンの送達物質に対する比の最適化は、当業者の知識の範囲内である。
医薬組成物が送達物質として化合物4-CNAB及び活性物質としてインスリンを含有する本発明の好ましい態様において、この組成物は、ピーク血漿送達物質濃度を経口投与後約0.1〜約3時間以内に提供する。医薬組成物が送達物質として化合物4-CNAB及び活性物質としてインスリンを含有するある好ましい態様において、送達物質のピーク血漿濃度は、約8,000〜約37,000ng/mlに達する。
本発明の好ましい態様は、インスリン慢性投薬に関連した血管疾患の発生を低下する方法を提供する。好ましい態様の方法は、ヒト糖尿病患者を、慢性ベースで、インスリンの胃腸管からの吸収(すなわち、生物学的利用性)を促進する経口及び送達物質又はそれらの医薬として許容できる塩で治療することを含む。
安定化のための添加剤は、送達物質溶液に混入することができる。一部の薬物により、このような添加剤の存在は、溶液中のこの物質の安定性及び分散性を増進する。安定化のための添加剤は、約0.1〜5%(W/V)の範囲、好ましくは約0.5%(W/V)の濃度で利用することができる。適当な、しかし限定的でない安定化のための添加剤の例は、アカシアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、ポリエチレングリコール、カルボン酸及びそれらの塩、並びにポリリシンを含む。好ましい安定化のための添加剤は、アカシアゴム、ゼラチン及びメチルセルロースである。
本発明の組成物中の送達物質の量は、送達有効量であり、及び当業者に公知の方法により、いずれか特定の送達物質/活性物質の組合せについて決定することができる。
本発明の方法及び経口組成物は、インスリン慢性投薬に関連した心臓血管疾患の発生を減弱及び/又は低下することができる。本発明の組成物によるインスリン経口投与は、正常な生理的レベルよりも高いインスリンへの全身血管系の曝露を低下することにより、血管疾患に関連した合併症を低減するであろうと考えられる。肝臓を通る初回通過により、おおまかに50%のインスリンが、保持され及び代謝され、これにより末梢高インスリン血症の発生が低減する。
一部の態様において、本発明は、糖尿病患者への慢性ベースで投与量のインスリンを胃腸管からの該インスリンの吸収を促進する送達物質と共に含有する経口インスリン治療物を経口投与し、該糖尿病患者の血液グルコースレベルを望ましい量に低下することを含む、糖尿病患者を治療する方法を提供し、その結果該経口インスリン治療の結果として該糖尿病患者の血液中の循環インスリン濃度は、正常な生理的レベルよりも実質的に高くない。
本発明をより良く理解するために、下記の実施例を設定した。これらの実施例は、例証のみを目的とし、いかなる意味においても、本発明の範囲を限定するものとしては構築されていない。
血漿送達物質のデザイン及び効力
送達物質1-3を、それらのGI粘膜を透過する能力について調べた。各送達物質の血漿濃度は、各送達物質の透過効力の測定値として、カプセル剤に負荷した送達物質の経口投与後に、ヒト対象において測定した。表1及び2参照。
2個の18-ゲージIVラインを、投薬前に配置し;一方は血液採取、及び他方は第2及び3群の対象のための20%グルコースの可能性のある注入のため。第1群の対象のみ、カニューレ挿管した。血液試料は、採血の1時間以内に、3000rpmで15分間、温度約2℃〜8℃で遠心した。プラスチックピペットを用い、赤血球層を破壊することなく、採血管から血漿を、血液グルコース、ヒトインスリン、C-ペプチド、送達物質の各分析のためにふたつ組で、予めラベルを付けたポリプロピレン管にピペッティングした。試料は、分析まで-70℃で保存した。
同様の結果は、送達物質1-3が、サルに経口投与された場合に得られ、及び送達物質の血漿濃度を経時的にモニタリングし及びAUCを計算した。表3に提示したように、Xが塩素及びnは3アルキルと等しい送達物質番号3の300mgの経口投与は、nは7アルキルと等しい送達物質1の300mg経口投与よりも、およそ11倍大きいサルにおけるGI粘膜透過を生じた。表3参照。更に、送達物質3の300mgは、nは9アルキルと等しい送達物質2の300mg経口投与よりも、およそ6倍大きいサルにおけるGI粘膜透過を生じた。表3参照。
送達物質1-3の送達効力の比較
次に、送達物質1-3を、送達物質用量、活性物質用量及びグルコース反応の間の関係を決定することにより、生物学的活性型でGI粘膜を超えて活性物質を効果的に輸送する能力について比較した。表4参照。活性物質の治療的用量を送達し及び治療的作用を生じるために必要な送達物質の有効量を測定した。表4参照。送達物質3について、その活性物質はインスリンであり、及びその治療的作用は、投与後1時間以内に血清グルコースを少なくとも10%だけ低下する送達物質/インスリン組合せの能力により決定した。送達物質1及び2について、この活性物質はヘパリンであり、及び治療的作用は、エミスフェア(Emisphere)により決定した。
送達物質4-CNABの調製
下記構造に相当する化合物は、以下に説明したように調製することができる:
ヒト投薬のための4-CNAB(N-(4-クロロサリチロイル)-4-アミノ-酪酸一ナトリウム塩)を、出発材料4-クロロサリチル酸(Ihara Chemical Industry社、東京、日本及びAapin Chemicals社、Oxfordshire、英国から購入した)を使用し、並びにメタノール中0.14当量の硫酸及び次にメタノール中約4当量のアンモニアを使用しメチルエステル経由でアミドへ転換した以外は、国際公開公報第00/46182号の方法に従い、Regis Technologies社(Morton Grove, IL)の「医薬品の製造管理及び品質に関する基準(GMP)」条件に従い製造した。使用したアルキル化剤は、4-ブロモ酪酸エチルであった。
この50℃の溶液を、温めた加圧濾過用フィルター(Whatman #1濾紙、〜5μm、面積18.5平方インチ(119cm2)が取付けられた)を通し、清浄な22L反応器へとポンプ注入し、塩化ナトリウム及び他の不溶物を除去した。濾過の最後に、圧力をフィルターを通して約20psig(6890Pa)へ低下した。透明な黄色濾液を含む反応器を、攪拌及び加熱した。50℃で反応器を熱源から取り外した。
4-CNABを200mg及び150インスリン単位USPを含有する全てのカプセル剤を、下記のように調製した。最初に、送達物質のみのカプセル剤及び送達物質+インスリン組成物のカプセル剤の充填に必要な送達物質材料の総量を、4-CNABの3160gを秤量することにより調製した。次に4-CNABの3160gを、篩番号2A 050 G 037 19 136 (1270μm)を備えたQuadro comil、モデル197Sミル中で粉砕した。次に粉砕した4-CNABの1029gを、#35メッシュ篩を通した。その後、篩を通過した材料を、4クオート(3.8L)のシェルに移し、例えば、Vブレンダーを25rpmで10.2分間用いて配合した。得られた配合された材料を用い、カプセル剤を充填した。この場合、Fast Cap Capsule Fillerを、サイズ3のFast Cap Encapsulationトレイと共に使用した。空のカプセルは各々約48mgと秤量され、4-CNAB単独で205.6mgの平均充填質量で充填した。従って、送達物質のみのカプセル剤の用量は205.6mgであった。
4-CNAB及びインスリン/4-CNABの前臨床非臨床試験
インスリン及び送達物質4-CNABの組成物を含む本発明は、ラット及びサルにおける薬理学的スクリーニング、薬物動態プロファイリング、及び毒性評価を含む非臨床プログラムにおいて安全性及び毒性について評価した。一般に、4-CNAB単独及びインスリン/4-CNABに対する動物の生理的反応は同等であった。マウス、ラット及びサルにおける薬物動態試験は、4-CNABは、経口投与後に迅速に吸収され、引き続き体からクリアランスされることを示した。4-CNABは、受容体結合スクリーニングアッセイにおいて評価された一次分子標的のいずれにおいても、活性の可能性を示さなかった。4種の遺伝子毒性試験を、4-CNABで行い、陽性所見を認めなかった。14-日の経口反復用量毒性試験を基に、NOAEL(無有害作用濃度)は、スプラーグ・ドーリーラットにおいて500mg/kg、及びアカゲザルにおいて400mg/kgと推定した。
前述の非臨床の情報を基に、出発インスリン投与量150インスリン単位USP(これはサルの無作用投与量15U/kgの約7分の1である)を選択した。
4-CNABカプセル剤及びインスリン/4-CNABカプセル剤の漸増単回経口投与量の安全性及び忍容性を評価するために、単施設二重盲検無作為化プラセボ比較試験を、健常なヒト対象において行った。皮下(SC)インスリン治療群は、現存の標準治療に対する本併用治療の比較を可能にするために加え、及び経口インスリン単独治療群も、更に4-CNABの経口インスリン吸収に対する作用を評価するために含んだ。
各試験治療期間の第1日目に、最低8時間の一晩絶食後、被験医薬品(カプセル剤又はSC投与量)が、ほぼ午前8時に投与された。カプセル剤は、直立した姿勢の対象に、水240mLと共に投与した。総投与時間は、2.5分を超えなかった。インスリン溶液又はプラセボ(生理食塩水)のSC投与量は、単回ボーラス投与として、腹壁に注射した。各治療期間は、12〜24時間持続した。
調製した活性及びプラセボ試験治療物の外見(appearance)は同一であり、従って治療物外見の盲検の維持は本試験では問題ではなかった。医薬品の投与は監視され、従って服薬遵守違反は本試験では問題ではなかった。
安全性評価は、理学的検査、既往歴、生命徴候、12-誘導心電図(ECG)モニタリング、臨床検査評価及び有害事象のチェックを含んだ。活性パラメータは、血液グルコース、インスリン、C-ペプチド、及び4-CNABの血漿濃度測定を含んだ。
血漿中の4-CNAB濃度は、液体クロマトグラフィー及びLC-MS/MSとして公知である質量分析アッセイを用いて決定した。この方法は、タンパク質沈殿、それに続くHypersil BDSカラム並びにメタノール及び酢酸緩衝液からなる移動相を用いる液体クロマトグラフィーによる分離に関連している。溶離ピークは、MS/MSにより定量した。血漿中4-CNABの決定に使用した装置は、Micromass Quattro Micro MS/MS検出器を伴う、Agilent 1100モジュラーHPLCシステムで構成される。本試験を通じ、HPLC及びAR等級の化学物質及び試薬を使用した。
血漿グルコースは、グルコースリン酸化を触媒する試薬を正確な割合で混合するBECKMAN Synchron CXシステムを用いる指定時のエンドポイント法を基に測定した。Synchron CXは、固定された時間間隔で、340nmでの吸光スペクトルの変化を測定する。吸光度の変化は、試料中のグルコース濃度に直接比例している。
血漿C-ペプチドは、2種のモノクローナル抗体がC-ペプチド分子上の抗原決定基に対して示される直接サンドイッチ法を使用した、固相、二部位(two-site)蛍光免疫アッセイを基にした、DELFIA C-ペプチドキットを用い測定した。試薬は、標識された抗体からユーロピウムイオンを解離し、これはその試薬と蛍光キレートを形成する。その蛍光は、試料中のC-ペプチド濃度に直接比例している。
前記パラメータは、治療群別に、記述統計(平均、標準偏差(SD)、偏差の係数(CV%)、平均の標準誤差(SE)、最小値(Min)、中央値、最大値(Max)、及び標本の大きさ(N))を用いてまとめた。個々のデータは、投与量別、対象別に報告した。
補正したインスリン濃度=インスリン濃度−(ベースライン比×C-ペプチド)
(式中、ベースライン比=インスリン濃度/C-ペプチド濃度、各時点での)
ベースラインからのグルコース変化の割合(%)={(グルコース濃度−ベースライングルコース濃度)/ベースライングルコース濃度}×100
(式中、ベースラインからのグルコース変化=グルコース濃度−ベースライングルコース濃度)
全ての治療後の4-CNABの個別の血漿-濃度を、表とした。健常男性志願者への4-CNAB単独又はインスリン/4-CNABカプセル剤投与後の4-CNABの平均(+SD)血漿濃度/時間プロファイルは、図1(第1群)及び図2(第2群及び第3群)に示した。
4-CNAB単独の漸増経口投与後の平均4-CNAB濃度-時間プロファイル(図1)は、迅速な吸収を示し、ピーク濃度には中央値時間約0.62時間で到達した。最大濃度到達後、4-CNAB濃度は二相様式で急激に減少した。最大濃度Cmax及び曝露(すなわちAUC)は、投与量増加と共に明らかに増加した。インスリン/4-CNABの併用カプセル剤が投与された場合(図2A及び2B)、4-CNAB最大レベルには、4-CNAB治療単独とほぼ同時点で到達し、及び4-CNABピーク濃度は、インスリンとの併用において4-CNAB量の増加と共に明らかに増加した。4-CNABの最高投与量を含有する100単位インスリン/600mg 4-CNABの併用治療は、最高平均ピーク濃度を生じたのに対し、150単位インスリン/100mg 4-CNABの最低投与量の投与後には、最低平均ピーク濃度が認められた。
4-CNAB単独のカプセル剤の経口投与(第1群)後の4-CNABの薬物動態パラメータは、下記表8に要約し、平均(+SD)血漿濃度/時間プロファイルを図1に示した。
インスリンと併用した4-CNAB投与(第2群及び第3群)後の 4-CNABの薬物動態パラメータは、下記表9に要約し、第2群及び第3群の平均(+SD)血漿濃度/時間プロファイルを図2に示した。
4-CNAB単独投与後の図1の平均濃度-時間プロファイル並びにCmax及びAUC(0-inf)の得られた値に認められるように、4-CNABのレベル(Cmax)及び曝露(AUC)は、一般に4-CNAB投与量と共に増加し、Cmax及びAUCの両値は、400mg及び800mg投与量について投与量-依存型で増加した。4-CNAB単独治療群において、Cmaxは、投与量400mg及び2000mgについて各々、22315±11456ng/mL及び135199±86565の範囲であった。最大4-CNAB濃度の時点は、全ての投与量について一貫しており、中央値は0.50〜0.75時間の範囲であった。4-CNABの平均消失半減期値は、最終消失相の変動性及び消失速度定数の推定が困難であるために、変動可能であり、5.90〜15.3時間の範囲であった。しかし、MRT値はより一貫しており、1.4〜1.8時間の間であった。
表10は、第1群、第2群及び第3群の要約を示し(治療群の全ての対象の平均)、無査定データを基にした、送達物質4-CNABのCmax、tmax及び曲線下面積(AUC)を示した。
全ての治療後のインスリンの個々の血漿-濃度を表とした。治療投与後の非低血糖症対象に関する平均(+SD)血漿インスリン濃度/時間プロファイルは、図3A-C及び4A-Bに示した。
図3A、3B及び3Cは、非低血糖症対象(第2群)における、150単位/200mg(インスリン/4-CNAB)(n=5)、100単位/600mg(n=7)、10単位SCインスリン(n=8)及び経口プラセボ(n=10)治療投与後の平均(+SD)血漿インスリン濃度/時間プロファイルを示した(図3Cは、無査定データを用いるこのプロファイルを示している)。図4A及び4Bは、非低血糖症対象(第3群)における、100単位/300mg(インスリン/4-CNAB)(n=7)、100単位/450mg(n=7)、150単位/100mg(n=8)、150単位USP経口インスリン(n=8)及び経口プラセボ(n=10)治療投与後の平均(+SD)血漿インスリン濃度/時間プロファイルを示した。
各治療に対する全対象、非低血糖症対象及び低血糖症対象に関するインスリンPKパラメータの平均値±SDを、下記表11及び12に示した。
−値は、平均±SDとして示した(中央値(範囲)が示されたtmax以外)。
−a最大6時間の最大濃度及びインスリン濃度の対応時間。
−b低血糖症からの回復直前のインスリン濃度及び対応時間。
−c 経口プラセボ値は、第2群及び第3群について一緒にした。
−NA=入手不可能;2対象又はそれ未満のいずれか。
−値は、平均±SDとして示した(中央値(範囲)が示されたtmax以外)。
−a最大6時間の最大濃度及びインスリン濃度対応時間。
−b低血糖症からの回復直前のインスリン濃度及び対応時間。
−c 経口プラセボ値は、第2群及び第3群について一緒にした。
−NA=入手不可能;2対象又はそれ未満のいずれか。
治療後の個別のC-ペプチド血漿濃度を計算した。第2群の対象への投薬後のC-ペプチド補正したインスリンの薬物動態パラメータは、下記表13にまとめた。
−a最大6時間の最大濃度及びC-ペプチド補正したインスリン濃度対応時間。
−b低血糖症からの回復直前のC-ペプチド補正したインスリン濃度及び対応時間。
−c 経口プラセボ値は、第2群及び第3群について一緒にした。
−NA=入手不可能;2対象又はそれ未満のいずれか。
−a最大6時間の最大濃度及びインスリン濃度の対応時間。
−b経口プラセボ値は、第2群及び第3群について一緒にした。
図7は、第2群の対象に関する、治療投与後の、平均(+SD)ベースラインからのC-ペプチド濃度変化の割合(%)/時間プロファイルを示している。
−4-CNABへの曝露は、4-CNAB単独の漸増投与量により増大する。
−4-CNABへの曝露は、100単位インスリン/300mg 4-CNAB治療を除き、併用インスリン/4-CNAB治療における4-CNABの漸増投与量と共に増大するように見える。
−C-ペプチド補正したインスリンへの曝露は、治療の一部としての4-CNABの割合の増加と共に増加した。
−150単位経口インスリン単独の経口投与後、インスリンの吸収はなかった。
−インスリンの経口吸収は、150単位インスリン/200mg 4-CNAB及び100単位インスリン/600mg 4-CNABを含有する併用治療の投与後に最大であった。
図9A及び9Bは、非低血糖症対象(第2群)における、150単位/200mg(インスリン/4-CNAB)(n=5)、100単位/600mg(n=7)、10単位SCインスリン(n=8)及び経口プラセボ(n=10)治療の投与後の、平均(+SD)グルコース濃度/時間プロファイルを示している。図10A及び10Bは、非低血糖症対象(第3群)における、100単位/300mg(インスリン/4-CNAB)(n=7)、100単位/450mg(n=7)、150単位/100mg(n=8)、150単位USP経口インスリン(n=8)及び経口プラセボ(n=10)治療の投与後の、平均(+SD)グルコース濃度/時間プロファイルを示している。
−a最大6時間の最大濃度及び血中グルコース濃度の対応時間は投与後。
−b低血糖症から回復する直前のグルコース濃度及び対応する時間。
−c経口プラセボ値は、第2群及び第3群について一緒にした。
−NA=入手不可能;2対象又はそれ未満のいずれか。
−a投与後最大6時間の最大濃度及び血漿インスリン濃度の対応時間。
−b経口プラセボ値は、第2群及び第3群について一緒にした。
−c値は、6時間の採血スケジュールに関するAURC(0-t)に対応。
−a投与後最大6時間のベースラインからの最大変化及び対応時間=(グルコース濃度-ベースライン濃度)。
−b最大6時間のベースラインからの最大%変化=(グルコース濃度-ベースライン濃度)/ベースライン濃度*100。
−c低血糖症から回復する直前のベースラインからのグルコース濃度変化及び対応する時間。
−d経口プラセボ値は、第2群及び第3群について一緒にした。
−NA=入手不可能;2対象又はそれ未満のいずれか。
−a投与後最大6時間のベースラインからの最大変化及び対応時間=(グルコース濃度-ベースライン濃度)。
−b最大6時間のベースラインからの最大%変化=(グルコース濃度-ベースライン濃度)/ベースライン濃度。
−c経口プラセボ値は、第2群及び第3群について一緒にした。
−d値は、6時間の試料採取スケジュールについてのAUEC(0-t)に相当。
−インスリンのベースラインからの最大グルコース濃度変化の平均に対する作用(Emax)は、併用治療の一部として4-CNAB投与量が増加するにつれて増加するように見える。
−一般に、ベースラインからのグルコース濃度変化の増加及びベースラインからのグルコース濃度変化の割合(%)は、インスリン/4-CNAB投与量及びC-ペプチド補正したインスリン濃度の増加と共に認められた。
−ベースラインからの最大グルコース濃度変化の平均(Emax)を基に、100単位インスリン/600mg 4-CNAB及び150単位インスリン/200mg 4-CNABは、経口プラセボ及び150単位経口インスリン単独と比べ、より大きいPD反応を示すように見え、このことはインスリン送達におけるこの送達物質の有効性を示している。
−グルコースレベルの低下における経口インスリン/4-CNAB併用のいずれかの作用も、SCインスリンについて認められたものよりも少なかった。
本試験において、死亡例及び重篤な有害作用例はなかった。全ての対象は、スクリーニングを通過し、及び本試験を完了し、治験薬に関連した理由で本試験を脱落したものはなかった。生命徴候、ECG、臨床検査パラメータ(血液グルコース以外)及び理学的検査により評価された臨床的に有意な異常な結果はなかった。治療後に42件の治験薬に関連していると考えられた有害作用(AE)が存在した。
2型糖尿病患者における経口インスリン、対、皮下(Sc)標準インスリンの薬力学特性及び薬物動態特性の比較
経口インスリン処方剤とSC標準インスリンの薬力学(PD)及び薬物動態(PK)の特性をグルコースクランプ技法を用い比較するため、並びに主な標的集団における経口インスリンの代謝作用に関する第一印象を得るために、単施設オープンラベル無作為化活性対照3-期間クロスオーバー試験を、2型糖尿病の患者10名について行った。
グルコースクランプ技法は、SC標準インスリンと比較し、経口適用されたインスリンの時間-作用プロファイルを比較するために利用した。この方法は、頻回の血液グルコース試料値からの負のフィードバックを利用し、指定された一定の血液グルコースレベルを維持するためにグルコース注入を調節する。従って、グルコース注入速度は、投与されたインスリンの薬力学的作用の測定値となる。
来院1回目に、対象は、絶食状態(少なくとも12時間はカロリーを摂取しない)で診療所を訪問した。対象の身長、体重、ボディマス指数(BMI)、生命徴候及び病歴を記録し、理学試験を行った。心電図(ECG)に加えその施設(local)のスクリーニング臨床試験を、全ての対象に行った。
インスリン/4-CNABカプセル剤は、各々40錠のカプセル剤及びポリエステルコイルを含むHDPE瓶に入れ提供した。各瓶は、ヒートインダクションシール及び子供が空けられないキャップを有し、-10℃又はそれ以下で凍結保存した。投薬日に、適当な数のカプセル剤を、冷凍庫から取り出し、室温(15〜30℃)で約1時間放置した。カプセル剤は、分配の4時間以内に使用し、未開封の瓶は、4時間より長くは室温に放置しなかった。
SC注射は、Profil社により提供された1.5-mLカートリッジ-100単位/mLで供給された、U-100ヒト標準インスリン(Eli Lilly社のHumulin(登録商標)R)、投与量15Uであった。このインスリンは、温度範囲5〜8℃で冷蔵庫に保存した。
来院3回目、これらの対象は、それらの無作為化系列に従い、別治療A又はB、すなわち自身が来院2回目に受けなかったものを、グルコースクランプ手法と共に受けた。来院3回目の終了時までに両治療を受けた対象のみが、完了したと見なされた。最終試験(来院4回目)は、来院3回目以降行い、好ましくはグルコースクランプ手法直後に完了したが、来院3回目以降14日を超えることはなかった。
各系列の本治療の割当てを、下記表21に示す:
これら3種の治療は、単回投与量の投与であるので、患者数を低く保ち及びデータの変動を少なくするためには、クロスオーバーデザインが最も適している。15U標準インスリンのSC注射は、一般的標準療法であり、従って対照として使用した。2種の経口インスリン投与量は、PK及びPDパラメータの投与量依存を明らかにし、及び肝グルコース生成に対する抑制作用が、減量された経口投与量150Uでも認められるかどうかを調べるために選択した。
各治療アームにおいて、患者全員が同じSC又は経口インスリン投与量を受け取った。ベースラインインスリン注入が確立される前に測定された患者の絶食時血液グルコース濃度は、このグルコースクランプ実験の目標レベルであった。連続グルコースクランプ実験の間に、絶食時血液グルコース濃度は、この個別化されたクランプレベルから4mmol/L(72mg/dL)を超えて異ならないか、さもなければ来院は少なくとも24時間延期された。
血液試料は、試料採取の1時間以内に、3000rpmで15分間、温度2℃〜8℃で遠心した。血漿インスリン、C-ペプチド、及び血漿グルコースの各分析のために、プラスチック製ピペットを用い、赤血球層を破壊することなく、採血管から血漿を、予めラベルを付けたポリプロピレン製チューブへピペッティングした(各々およそ0.3〜0.5μl)。これらの試料は、分析まで、-20℃で貯蔵した。
試験期間中、治験担当者の評価が、治験結果の解釈と相容れないか、又はインスリン作用、グルコース利用又は低血糖症からの回復と臨床的に関連した干渉を引き起こすことが分かっている、インスリン療法及びあらゆる物質の慢性使用は、禁止した。全ての経口低血糖症性物質(hyperglycemic agent)の摂取は、各試験投薬日前24時間は停止し、クランプ手法の終了時までは再開しなかった。
安全性データ及び薬物動態/薬力学データは、全ての対象について解析した。薬物動態/薬力学データは、第三の試験治療を受けた8名の患者対象についても解析した。薬物動態及び薬力学データは、少なくとも最初の2種の治療(来院1回目〜4回目)を受け取った対象及び3種全ての治療来院(来院1回目〜6回目)を完了した対象について統計解析した。
下記表22に示したように、インスリンの血漿濃度は、医薬品の安全性試験の実施に関する基準(GLP)によりバリデーションされた微粒子酵素イムノアッセイ(MEIA)により測定した。
図13は、300U経口インスリン/400mg 4-CNAB、150U経口インスリン/200mg 4-CNAB及び15SCインスリンを使用する治療に関する、平均血漿インスリン濃度(ベースライン補正した)の時間プロットを示している。
下記表23は、C-ペプチドレベル(nmol/L)のまとめを示している:
本試験において評価したパラメータは、経口投与及びSC注射後のインスリン吸収のPK及びPD特性を比較するために適した標準測定であった。Biostatorと組合せたグルコースクランプの使用は、症候性低血糖症発症の尤度を最小化した。グルコースクランプ手法からの血漿インスリン濃度又はグルコース注入速度を基にした計算は、グルコースクランプ技法に通常使用される標準PK又はPD計算を反映している。
PK及びPDデータは、少なくとも最初の2治療(来院1回目〜4回目)を受け取った対象及び3種全ての治療来院(来院1回目〜6回目)を完了した対象について統計解析した。
分析のための完全なデータを持つ10名の2型糖尿病患者で計画した(2系列の各々に5名の患者に割当てた)。1名の患者は、治療前に離脱し、1プロトコールとして再配置した。その結果、登録した患者数は11名であった。10名の患者が、当初計画された2種の治療で試験を完了した。これら10名の患者中8名は、プロトコール改正による150Uインスリン/200mg 4-CNABの追加の経口治療への参加の提案を受入れ、この追加治療はランダム順には行わなかった。PK/PDデータは、第二の経口試験治療を受け取った8名の患者のサブセットについても解析した。
PK及びPDデータは、試験治療A及びB(経口300Uインスリン/400mg 4-CNAB、SC15U標準インスリン)を受け取り、評価可能なデータを有する10名の患者について解析した。PK及びPDデータは、第二の経口試験治療(治療C:経口150Uインスリン/200mg 4-CNAB)を受け取った8名の患者の改正された群についても解析した。治療された包含された患者は全員、本プロトコールの計画通り少なくとも2種の治療(1種の経口及び1種のSC治療)を受け取った。
下記表24は、異なる治療に関して計算された薬物動態及び薬力学のパラメータをまとめている。
150Uインスリン/200mg 4-CNABの経口投与量も、SC治療と比べた血漿インスリン濃度のより迅速な上昇を示した(AUCINS0-1h経口150U対SC 15U:1100±1221±対542±296μU x mL-1 x min;tINSmax経口300U対SC 15U:23±7対161±83min)のに対し、観察された最大血漿濃度は、両治療について類似していた(CINSmax経口150U対SC 15U:38±3.9対33±11μU/mL)。
これらの知見は、150U経口インスリンのより低い投与量によっても、肝グルコース生成の抑制が達成されうることを示している。
2種の経口インスリン投与量のPK及びPDデータの比較は、PKパラメータAUCINS及びCINSmaxのほぼ直線状の投与量関係を示した。AUCGIR及びGIRmaxにより表わされたPD反応も、投与量で増加するが、様式の明確さが少ない。
この第一のグルコースクランプ試験は、経口的に適用されたインスリンは、明確な代謝作用を発揮することを示している。示されたPD及びPK特性及び経口投与の利点(高い門脈インスリン濃度、投与の簡便さ)の観点において、インスリン/4-CNABは、1型及び2型糖尿病患者の食前(食事前)インスリン療法の非常に魅力的な候補であるように見える。
試験期間に評価された全ての治療は、安全であり及び良く忍容された。インスリン/4-CNABカプセル剤の経口投与又は標準インスリンの皮下注射の後に、有害事象は認められなかった。
経口インスリン及びs.c.間の短期作用する食後血液グルコース可動域の比較
糖尿病治療薬を服用しない2型糖尿病対象における食後血液グルコース可動域に対する経口インスリン処方剤の作用(すなわち、食後薬物動態及び薬力学プロファイル)を、s.c.投与された短期作用性インスリンのそれと比較するために、無作為化3-期間クロスオーバー二重盲検二重ダミー試験を実施した。
この試験の主要目的は、経口インスリン処方剤(2個のカプセル剤中300Uインスリンの400mg 4-CNABとの併用、各カプセル剤は150Uインスリン/200mg 4-CNAB含有)の食後血液グルコース可動域に対する作用の、12U皮下(s.c.)注射された短期作用性インスリン[Eli Lilly社の Humalog(登録商標)注射100U/ml]との比較である。食後血液グルコース可動域は、標準化された朝食摂取後に評価した。
SCインスリン投与量12Uは、2型糖尿病患者にとっての典型的範囲内に収まるように選択した。経口投与量300Uインスリン(400mg 4-CNBAとの併用)は、前記実施例5において有効であることが示されている。経口投与量150Uインスリン(200mg 4-CNBAとの併用)は、肝グルコース生成に対する作用がより低いインスリン投与量によっても達成されるかどうかを調べるために選択した。
患者は、下記の治療系列のひとつに無作為に割当てた:
系列1:
-来院2:食前30分の2個のインスリンカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院3:食前30分の2個のプラセボ、15分の1回のSCインスリン注射。
-来院4:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院7:食前30分の1個のインスリンカプセル剤。
系列2:
-来院2:食前30分の2個のインスリンカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院3:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院4:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCインスリン注射。
-来院7:食前30分の1個のインスリンカプセル剤。
-来院2:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCインスリン注射。
-来院3:食前30分の2個のインスリンカプセル剤、15分の1回のSCインスリン注射。
-来院4:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院7:食前30分の1個のインスリンカプセル剤。
系列4:
-来院2:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCインスリン注射。
-来院3:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院4:食前30分の2個のインスリンカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院7:食前30分の1個のインスリンカプセル剤。
-来院2:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院3:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCインスリン注射。
-来院4:食前30分の2個のインスリンカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院7:食前30分の1個のインスリンカプセル剤。
系列6:
-来院2:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院3:食前30分の2個のインスリンカプセル剤、15分の1回のSCプラセボ注射。
-来院4:食前30分の2個のプラセボカプセル剤、15分の1回のSCインスリン注射。
-来院7:食前30分の1個のインスリンカプセル剤。
試験は、朝に開始した。血液グルコース、並びに血漿インスリン、4-CNAB及びC-ペプチド濃度測定のための血液採取のために、17-ゲージPTFEカテーテルを、腕の静脈に挿入した。このラインは、0.15-mol/L(0.9%)滅菌生理食塩水で開存を維持した。
血漿インスリン濃度、4-CNAB及びC-ペプチドの決定のための血液試料は、前述のように、決められた間隔で採取した。血漿試料は、イムノアッセイによる測定が行われるまで、およそ -20℃(4-CNABは-70℃)で保存した。採血期間の終了後、試験対象は臨床施設から退院した。
食事摂取後に記載された血液グルコース可動域(すなわち、食前と食後血液グルコース濃度間の差異)を用い、2種のインスリン投与経路の薬力学パラメータを評価し、補充インスリンを伴わずに試験日に得た同じデータと比較した。これらの測定値から、0-6時間(及び他の時間間隔)のグルコース注入速度対時間曲線下面積、最大血液グルコース可動域(Cmax)及び最大血液グルコース可動域到達時間(tmax)を分析した。
薬物動態評価に関して、下記のパラメータを計算した:最大血漿インスリン濃度(INSmax)、INSmax到達時間(tINSmax)、規定された時間間隔内のグルコース注入速度下面積(AUCIns0-1h、AUCIns0-2h、AUCIns0-3h、AUCIns0-4h、AUCIns0-6h)及びC-ペプチド濃度の最大低下。
経口インスリン/4-CNABカプセル剤の薬力学的作用の測定として、6時間に渡って測定された血液グルコース可動域を考え、食事摂取開始後最初の2時間の血液グルコース可動域対時間曲線下面積(AUC0-2h)を、主要な薬力学エンドポイントとして決定した。
個々の血液グルコース可動域データを基に、1治療当りの血液グルコース可動域の平均時間プロファイル(標準偏差を伴う)をプロットした。図16は、全ての対象に関する、食後血液グルコース可動域(mg/dL)対時間の相加平均のプロットを示している。図16に示されたように、異なる治療の平均血液グルコース可動域は、食事摂取開始後1〜2時間の間にそれらの最大値に到達し、その後ベースラインへと回復した。最大グルコース可動域(中央値)到達時間は、SC 12U短期作用性インスリンについて1.3時間、プラセボについて1.7時間、経口150Uインスリン/200mg 4-CNABについて1.8時間、経口300Uインスリン/400mg 4-CNABについて2.2時間であった。
これらのプロファイルを基に、パラメータAUC0-1h、AUC0-2h、AUC0-3h、AUC0-4h、AUC0-6h及びCmaxを計算し、下記表30に示した。
主要エンドポイントAUC0-2hを考慮し、標準被験食の30分前に投与された単回経口投与量300Uインスリン/400mg 4-CNABは、無治療(プラセボ)と比べ、食後血液グルコース可動域の統計学的に有意な低下を生じた。しかしこの作用は、12U短期作用性インスリンのSC注射後よりも有意に低かった。150U経口インスリン/200mg 4-CNABの作用は、無治療(プラセボ)とは有意に異ならなかった。
採取された血液試料から、4-CNAB、インスリン及びC-ペプチドの個別の血漿濃度を決定し、要約的濃度対時間プロファイルをプロットした。
図17は、4-CNAB血漿濃度(ng/mL)対時間のプロファイル(相加平均)を示す。図17に示されたように、血漿4-CNAB濃度は、食事摂取開始後最初の2時間以内に急激な下降を示した。2時間後、濃度は、10分後に認められたレベルの10%未満であった。これらの結果は、インスリン/4-CNABカプセル剤の摂取と食事摂取開始後最初の測定10分の間の時間で、顕著に高い濃度に到達し得ることを示している。400mg 4-CNAB摂取後の濃度は、200mg摂取後のおよそ2倍である。
このデータは、平均インスリン血漿濃度対時間プロファイルが、150U経口インスリン後に最高AUCを示し、これにプラセボ、300U経口インスリン、及び12U SC注射が続くことを指摘している。最高の平均Cmaxは、150U経口インスリン投与後に達し、これに300U経口インスリン、プラセボ、及び12U SC注射が続いた。Cmax到達時間(tmax)の中央値は、150U経口インスリン及びプラセボについて最長であり、これに300U経口インスリン及び12U SC注射が続いた。
本試験の主要目的は、標準朝食後の、経口投与された300Uインスリン/400mg 4-CNABの食後血液グルコース可動域に対する作用を、12U皮下注射された短期作用性インスリン(Humalog(登録商標))と比較することであった。薬力学評価の主要パラメータとしてのAUC0-2hに関して、血液グルコース可動域に対する最高の作用は、12U SC短期作用性インスリンについて認められ、これに経口300Uインスリン/400mg 4-CNAB、経口150Uインスリン/200mg 4-CNAB、及びプラセボが続き、並びにふたつの後者の作用は等しいよりもより大きい又はより小さいように見えた。しかしこれらの結果は、全ての計算されたAUCについて一貫していなかった。最初の1時間に、300U経口インスリンは、12U SCよりも勝っており、この順番は、2時間以上についてAUCが比較される場合に変化した:両方の経口治療は、最早無治療(プラセボ)と有意差はなかったが、12U SC注射は依然有意差及び明らかに小さいAUCを示した。
1型真性糖尿病患者において、経口4-CNAB/インスリンの単回投与後のインスリンの吸収及び薬物動態への食物の作用を調べ、並びに4-CNAB/インスリンの単回経口投与後のグルコース及びC-ペプチドの薬力学に対する食物の作用を決定するために、単施設オープンラベル無作為化単回投与3元配置クロスオーバー試験を行った。
糖尿病志願者について、各々米国糖尿病学会(ADA)(1998版Diabetes care、21:S5-S19)により定義された1型真性糖尿病を伴う18〜65歳までの男性又は閉経後の女性対象が試験された。対象は、ボディマス指数18〜30kg/m2を有し、及びスクリーニング時に血糖管理HgA1cの<10%を有した。患者は、スクリーニング時にインスリンに対する抗体に関する陰性試験、スクリーニング時の絶食時血液グルコース<12.0mmol/l、及びスクリーニング時の絶食時C-ペプチド<0.2nmol/mlも有した。健常対象志願者に関して、1年以上にわたり、18〜65歳までの男性対象が選択された。試験に含まれた対象は、18〜30kg/m2であった。
典型的標準ADA朝食は、およそ30%の脂肪、50%の炭水化物、及び20%のタンパク質を含有していた。このような朝食は、例えば、全粒小麦パンの3切れ、低脂肪マーガリン15g、低カロリージュース15g、30%脂肪チーズ20g、肉(ハムなど)15g、2%脂肪分ミルク200ml、及びコーヒ、紅茶又は水(砂糖を含まず)を含んだ。
本試験デザインは、下記表32及び33に示した:
a)400mg 4-CNAB/300IUインスリン、その後絶食;
b)400mg 4-CNAB/300IUインスリン、その後投薬後30分でADA朝食;
c)400mg 4-CNAB/300IUインスリン、その後投薬後20分でADA朝食。
I型糖尿病者は、自身の通常の長期作用性インスリンを、投薬の24時間前に停止したが、-1日目のほぼ午後3:00の診療施設への入院までは、自身の即時作用性インスリンの使用は許可された。彼らは、-1日目のほぼ午後5:30に、皮下標準インスリン4〜6単位を受け取り、皮下インスリン投与後30分で、標準夕食を受け取った。午後8:30から9:00の間に、糖尿病者は、軽食を受取り、その後翌朝まで絶食した。ほぼ午後9:00に、インスリンの静脈内注入を開始した。このインスリン注入は、1日目のほぼ午前9:00の薬物投与前30分には停止した。
健常対照対象は、いなかる医薬品も受け取らなかったが、標準ADA朝食は、一晩絶食後、糖尿病者と同時に受け取った(1日目のほぼ午前9:30)。対照は、血液試料採取した3時間後に、通常の食事を再開した。
各試験期間中に、4-CNAB及びインスリン薬物動態分析のために、連続して血液試料を採取した。用語前-投与は、糖尿病群が、4-CNAB/インスリンを受け取る時期を意味している。健常対照対象は、医薬品を受け取らなかった。
糖尿病患者は、標準インスリン4〜6単位(患者の体重によって決まる)を、1日目のほぼ午後5:30に皮下(s.c.)により受け取った。インスリン注入は、1日目のほぼ午前9:00に開始し、ポンプは、1日目のほぼ午前9:00の4-CNAB/インスリン投薬前30分に停止した。血液試料(1滴)は、インスリン注入時は60分毎、及び前投与前、各薬物投与後30、60、90、120、150、180、及び240分の時点で、実時間グルコースについて分析した(1期間1対象につき8試料)。血液試料は、留置カテーテル(閉塞具を伴う)から1評価につき1滴を採取し、並びにグルコースをGlucocard(登録商標)を用い実時間で分析した。
下記の薬力学パラメータは、非-コンパートメント分析を用い、グルコース及びC-ペプチドの血漿濃度-時間データからコンピュータにより計算した(当初及びベースラインを減算した両データ):Emax、temax、及びAUEClast (ゼロから時点tまでの線形台形公式総和を用いて計算した作用-時間曲線下面積、ここでtは、最後の測定可能な作用(E)の時点である。
このセクションにおいて、食物の、4-CNAB及びインスリンの吸収及び薬物動態に対する並びに4-CNAB/インスリン単回経口投与後のグルコース及びC-ペプチドの薬力学に対する作用を示した。
図20は、全ての3種治療群の 4-CNAB血漿濃度データの平均プロファイルを示している。図20に示されたように、濃度-時間プロファイルは、3種の治療群(絶食時、投与後30又は20分で朝食)についてはほとんど同じであった。
一般に、インスリンピークは、グルコースのわずかな減少又は安定化に伴って起こる。しかし、到達したインスリン濃度の高さは、グルコース低下の程度とは相関していなかった。
4-CNABについて、薬物動態パラメータは、予定されたように計算した。加えて、3種のパラメータ(Cmax、tmax及びAUC)の部分値は、投与後0-20分、投与後0-30分及び投与後0-3時間の期間について計算した。インスリンについて、投与後0-20分、投与後0-30分及び投与後0-3時間の期間についてCmax、tmax及びAUC値のみが計算された。グルコース及びC-ペプチドの薬力学パラメータは計算されなかった。
4-CNABの吸収は迅速であり、及び投薬後30及び20分での食物摂取は、4-CNABの薬物動態に対する作用を示さなかった。3種の治療群全てについて、4-CNAB-プロファイルは、高度の類似性を示した。加えて、4-CNABに由来した薬物動態パラメータCmax、tmax及びAUCに関する治療間の明らかな差異は、認められなかった。朝食を、投与後20又は30分に摂取したとしても、食物は、4-CNABに対して作用を有さないと結論付けることができる。
血漿C-ペプチド濃度は、統計解析を行うには余りにも低かった。4-CNAB/インスリンが、これらの最低レベルを変化するとは予想されない。食物摂取のC-ペプチドに対する作用は、I型糖尿病患者において結論付けられなかった。
自分自身の制御を利用する絶食している2型糖尿病患者における、経口的に投与された4-CNAB/インスリンの安全性、薬物動態、及び薬力学を比較するための、並びに自身の標準医薬品が与えられた2型患者における標準食後の血液グルコース、インスリン及びC-ペプチドレベルを、4-CNAB/インスリンと共に標準食後の血液グルコース、インスリン及びC-ペプチドレベルのそれと比較するための、オープンラベル単回投与クロスオーバー試験を行った。
糖尿病の志願者は、2群に分けた--第1群において、12名の患者を、絶食状態で試験し、及び第2群において、12名の患者を、標準食前及び途中で試験した。患者毎に、患者自身の管理を利用し、及びインスリン/4-CNAB混合物を得ることなく試験した。
第2群に関して、対象は、最低8時間の一晩絶食後に、標準食(350kcal)を得た。食物摂取の20分前に、患者には、300U又は400Uインスリン(6名の患者は300Uインスリンを受取り、及び6名の患者は400Uインスリンを受け取った)及び300mgの4-CNABを含有したカプセル剤が投与された。対照セッションにおいて、これらは同じ患者が、850mgメトホルミン又は100mgアカルボースのいずれかの、患者自身の標準医薬品を服用した。自分の糖尿病を食餌療法のみで管理する対象は、薬物は伴わずに、それらの食事(炭水化物47g(54%)及び総カロリー350kcal)を得た。第2群対象に関する血漿グルコース対時間のプロットは、図23を参照のこと。
送達物質4-CNABは、Emisphere Technologies社(タリータウン、NY)により供給され、及び使用時まで乾燥し室温で保存した。組換えヒトインスリン亜鉛は、Eli Lilly社から直接出荷され、-20℃で保存した。標準カプセル剤は、サイズ00Cのゼラチンで作成した。
結果は変動性が高かったが、ほとんどの対象において、食後に、インスリンの吸収及びその生物学的作用が、低血糖症又は血液グルコースの抑制された上昇のいずれかを引き起こすことを示す明らかな傾向が存在した。食事のセッションにおいて、投与されたインスリンの作用を与えられた糖尿病治療薬の作用と比較した場合、血液グルコース濃度の小さい差異のみが存在し、これは、食事中であっても、経口インスリンは、生物学的に有効であるという事実を明らかにしている。本願明細書に提示された非糖尿病志願者を対象とする先の例におけるように、インスリンレベルの上昇は、カプセル剤の嚥下後、10〜30分で明らかになり、血液グルコースレベルの下落に先行していた(下落が存在する場合)。
本カプセル剤服用後5分で、恐らく本治験混合物とは関連がないと思われる軽度の頭痛を愁訴した対象1名を除き、治験期間又は数週間後に有害事象は検出されなかった。
この経口インスリン調製物は、安全及び有効であることが結論付けられた。しかし、生物学的活性インスリンの吸収には更なる改善の必要がある。
インスリンの慢性投与に関連した1種又は複数の病態の発生及び/又は重症度を低下する方法をより良く理解するために、下記実施例を示す。これらの実施例は、例証する目的のみであり、いかなる意味においても、本発明の範囲を限定するようには構成されていない。
水性インスリン保存溶液は、最終インスリン濃度およそ15mg/mLで調製した(pH7.5)。送達物質は、水中に溶解し、その後水酸化ナトリウム又は塩酸を、両方とも送達物質を溶解し、及び投薬溶液をpH7.5〜8.5に滴定するために添加した。投薬前に、必要量のインスリンを、この送達物質溶液に添加した。
合計60匹の雄のスプラーグ・ドーリーラットを、24時間絶食し、その後ソラジン(1.5mg/kg、im)及びケタミン(44mg/kg、im)により麻酔をかけた。次にこれらは下記の5治療群に分けた:
1. H2O (p.o.、1mL/kg)
2. 担体(p.o.、1mL/kg;200mg/kg)
3. インスリン (p.o.、1mL/kg;0.5mg/kg)
4. インスリン及び担体(p.o.、1mL/kg;0.5mg/kgインスリン及び200mg/kg 1182)
5. インスリン (s.c.、0.05mg/kg)
動物は、施設に馴化した後に、ストレプトゾトシン(65mg/kg、iv)を受け取った。血液グルコースは、注射後24、48及び72時間で測定した。血液グルコースが150mg/dlより大きいこれらの動物は、12時間絶食し、説明した治療を受けた。
総RNAを、トリアゾール試薬(Invitrogen社、カールスバッド、CA)の使用に関するプロトコールに従い、凍結した組織試料から調製した。これらの試料は更に、Qiagen Midi Kit(バレンシカ、CA)を使用し清浄とした。各RNA試料の品質を、アガロースゲル電気泳動並びに260及び280でのUV吸光度を用いて評価した。許容できるRNA試料は、質量ベースで等量でプールした。このプールした試料を用い、Affymetrixにより提供されたプロトコールに従い、cDNAを調製した。次にこの試料は、Enzo BioArray High Yield RNA Transcript Labeling Kit (Affymetrix社、サンタクララ、CA)を使用するin vitro転写標識及び増幅における鋳型として使用した。次に標識した転写産物15μgを断片化し、Affymetrix GeneChip Protocol(Affymetrix社、2000年)に説明されたハイブリダイゼーション溶液を調製するために使用した。
試料は、試験アレイにハイブリダイズし、並びに5'対3'比、検出限界、及び画質を評価し、標識した試料の品質を確認した。次に許容可能な試料を、Affymetrix Rat U34Aアレイにハイブリダイズした。これらのアレイの洗浄及び染色を、標準Affymetrixプロトコールを用い行った。試験アレイと同じ方法で、アレイ品質を評価した。許容できる試料を、群を超えて認められた発現パターンに加え下記の方法で対形成(pair wise)し、両方で評価した:
1. 第2群対第1群
2. 第3群対第1群
3. 第4群対第1群
4. 第5群対第1群
5. 第4群対第5群
6. 第4群対第2群
倍率変化(fold change)は、Affymetrix Microアレイ Suite Softwareパッケージにより決定し、2倍未満の値は意義なしと見なした。このソフトウェアパッケージ分析は、各プローブセットの個々の一員を比較し、Difference Callを決定した。この報告において、全ての計算された倍率変化は、図面において使用したが、これらの結果及び考察においては、Affymetrix softwareにより Increasing又はDecreasing callを受けたこれらの倍率変化のみを使用し、結論を引き出した。これらのデータは、下記表38に含めた。
薬物動態及び薬力学
図24は、皮下及び経口送達による単回投与後の経時的血液グルコース(mg/mL)の図を示す。この図は、担体として4-CNABを使用するインスリンの経口投与が、従来の皮下投薬により認められるグルコース抑制の約95%を生じたことを示している。しかし、図24の投与を使用する経時的血清インスリン(mU/mL)を示す図25に示されたように、しかしこの抑制を達成するために必要とされた血清インスリンCmaxは、経口投与された動物において、皮下注射を受け取るそれらの約30%であった。皮下試料についてtmaxも、約15分遅かった。血液グルコースの抑制は恐らく、血液採取を継続するための、麻酔薬の継続された投与により削除された。
グルコース調節
解糖/糖新生は、解糖/糖新生の両方向で起動することができる3種の主なサイクルを通じて生じる。解糖的見地から、第1のサイクルは、Glu/Glu-6-Paseサイクルであり、これはグルコースをGlc-6-Pに転換する。これに、Fru-6-P/Fru-1,6-P2サイクル、及びピルビン酸/PEPCKサイクルが続く。
筋肉組織において、グルコースは、ヘキソキナーゼによりGlc-6-Pに転換される。Grannerらの論文、J Biol Chem、265:10173-6 (1990)を参照のこと。本試験において、皮下及び経口の両方で投与されたインスリンは、酵素ヘキソキナーゼIIのmRNAレベルの上昇を生じた。図26は、偽投薬と比較したグルコキナーゼ及びG6Pase mRNA発現を示す。図26に示されたように、より低い血清インスリンレベルにも関わらず、経口的に投与された動物は、120分でヘキソキナーゼIIの2-倍高いレベルを示した。経口投与された及び皮下投与された動物からのアレイの直接比較は、30分で、2.8-倍高いmRNAレベルを示している。
二機能性酵素6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース2,6-ビスホスファターゼは、解糖と糖新生の間のスイッチとして利用される。インスリン投与は、この酵素の増加を起動することが示されている。Grannerら、J Biol Chem、265:10173-6 (1990);Lemaigreら、Biochem J、303:1-14 (1994);Dentonら、Adv Enzyme Regul、36:183-98 (1996)。図20は、偽投薬と比較した、Fru-1,6-P及び6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼmRNA発現を示している。本発明者らの試験において及び図27に示されたように、この酵素は、観察された遺伝子発現において有意差を伴わない投与のふたつの経路の発現のほぼ同じパターンを示した。
酵素フルクトース1,6-ビスホスファターゼは、Fru-1,6-P2をFru-6-Pへの転換を触媒し、これはこのサイクルの糖新生側である。このmRNAは、糖尿病及び飢餓により誘導され、並びにインスリン投与により減少される。図27に示され及び6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース2,6-ビスホスファターゼに類似しているように、この酵素の発現パターンは、被験動物の両方のセットでほぼ同じである。
ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)は、オキサロ酢酸をホスホエノールピルビン酸に転換する糖新生経路において重要な酵素である。これは、インスリンにより下方調節されることは分かっている。例えば、Grannerら、J Biol. Chem.、265:10173-6 (1990);Lemaigreら、Biochem J、303:1-14 (1994);Denton, R. M.ら、Adv Enzyme Regul、36:183-98 (1996);Gabbayら、J Biol Chem、271:1890-7 (1996)を参照のこと。図21は、偽投薬と比較してPEPCK mRNA発現を示している。図28に示されたように、このmRNAの発現レベルにおいてほとんど差異は認められない。
インスリンは、グリコーゲンへのグルコース転換率を増加することも知られている。これは、グルコース-1-P分子の分枝鎖への結合により行われる。次にこの鎖は、低血糖症状態で利用されるグルコース貯蔵として利用する。
グリコーゲンシンターゼは、グルコース分子鎖の延長に寄与している。インスリン投与は、この酵素をアップレギュレーションすることが分かっている。Vestergaardら、Dan Med Bull、46:13-34 (1999)。図29は、偽投薬と比較したグリコーゲンシンターゼmRNA発現を示している。図29に示されたように、経口投薬及び皮下投薬は、この酵素のレベルの発現のほぼ同一のパターンを生じ、経口投薬は、120分で、mRNAのほぼ2倍を得た。
酵素グリコーゲンシンターゼキナーゼ3は、グリコーゲンシンターゼのリン酸化によるグリコーゲン合成の阻害に関与している。図29に示されたように、2種の投薬試料においてこの酵素の発現パターンは、非常に類似しており、120及び180分で偽レベルに回復する最初の減少を示している。皮下投薬は、60分でわずかに強力なダウンレギュレーションを達成し;しかし、この差は、2種の遺伝子チップ間の直接比較においては認められなかった。
損傷に対する血管反応
血管疾患は、通常損傷に対する反応として説明されている。血管は、血管壁に対する損傷を修復する反応の進行につながる刺激(損傷)に曝されている。この損傷は、いくつかの形があり、これは酸化的ストレス、力学的ストレス、ウイルス感染症及び剪断応力の変化を含む。損傷それ自身は多様であるが、損傷に対する反応には、多くの共通の局面がある。初期反応遺伝子はアップレギュレーションされ、細胞遊走及び増殖に加え、損傷部位への炎症細胞の動員のための遺伝子転写につながる。この反応は継続するので、マトリックス再構築につながる酵素が発現されるであろう。この結果は一般に、平滑筋増殖及び粥状斑形成を通じて人工壁を肥厚する。臨床結果は、糖尿病が関連した動脈症である。本出願において、血管損傷の様々な形が関連した遺伝子のmRNAレベルを試験する方法が説明されている。
動脈損傷の初期マーカーのひとつは、損傷に対する血管反応を強化することに寄与するタンパク質の引き続きの発現の制御における転写因子の発現である。これらの初期応答遺伝子は、c-myc、c-fos、jun、及びEgr-1を含む。図30A及び30Bは、偽投薬と比較した初期応答遺伝子mRNA発現を示している。本発明者らの試験において、図30A及び30Bに示されたように、Egr-1、c-myc、Jun B及びEts-1のレベルの示差的発現が認められた。
皮下及び経口投薬に関するEts-1 mRNAレベルを、図30Aに示した。
インスリン-様増殖因子ファミリー
インスリン-様増殖因子(IGF)I及びIIは、プロインスリンと相同性を共有する1本鎖ポリペプチドである。これらは、全身のグルコース代謝において重要な役割を果たすが、細胞周期進行、有糸分裂、細胞遊走及びアポトーシスに対する作用も示されている。IGF機能の多くは、IGF-結合タンパク質(IGFBP)により調節されている。一般に、IGFBPはIGFに結合し、そのIGF受容体への結合を妨害する。IGFBP-3は、この観点において最も有力であり、成人血清においてIGFの>90%が結合している。それらの主要機能はIGFの調節であるが、IGFBPは、血管損傷部位に生物学的作用を有することが示されている。IGFBP-1は、IGF-1依存型で血管平滑筋細胞(VSMC)の遊走を刺激する。IGFBP-1から-5は、再発狭窄症組織において発現されることが示されており、このことは、血管損傷に対する動脈の反応における役割を示唆している。
接着分子
動脈症の初期段階のひとつは、炎症細胞の血管壁への接着である。これは、細胞内接着分子-1(ICAM-1)、血管細胞接着分子-1(VCAM-1)、セレクチン及びインテグリンなどの接着分子により媒介される。これらの遺伝子のmRNAの変化を試験し、図32は細胞内接着分子-1のmRNA発現を、偽投薬と比較した。図32に示されたように、ICAM-1の場合を除き、投薬グループのいずれにおいても有意な作用は認められなかった。ICAM-1は、皮下投与された動物において、180分で増加した。ICAM-1の増加した発現は、血管損傷のいくつかの異なる形において認められ、及び損傷部位への炎症細胞の動員に関連している。この差異は、偽投薬との比較及びこれらふたつの投薬群のアレイの直接比較の両方において認められる。
サイトカイン
血管損傷部位は、オートクリン及びパラクリンの両作用を通じて増殖因子、サイトカイン、接着因子、及びマトリックスメタロプロテアーゼの発現を調節する前炎症性サイトカインの発現を介し、それらの炎症状態と連絡している。これらの中で、血管疾患の部位で通常認められるもののひとつは、インターロイキン-6(IL-6)である。VSMCは、両方ともIL-6シグナル伝達をもたらすIL-6受容体又は糖タンパク質130(gp130)のいずれも発現しないので、これは最初はIL-6刺激を受け難い。VSMCは、gp130がアップレギュレーションされることが示されている第一の細胞である。図33A及び33Bは、偽投薬と比較したサイトカインmRNA発現を示している。本発明者らの試験において、図33A及び33Bに示されたように、gp130は、皮下及び経口の両方で投与された動物において、同等に増加することが認められた。しかし、IL-6 mRNAの有意な増加は、図33A及び33において示されたように、皮下投与された群においてのみ認められた。これは損傷に対する反応については両群の大動脈を「プライミング」するが、実際には皮下投薬のみが予想されたシグナルの有意な産生を起動することを示しているので、これは決定的な差異である。図33において、サイトカインデータは、サイトカイン類、エオタキシン、MCP-1、IL-12及びEL-13についても図示されている。
脂質過酸化
脂質代謝及びLDL酸化に関連したいくつかのタンパク質は、アテローム性動脈硬化症の進行に関連している。LDL酸化は、単球を動員し、それらの内皮細胞への接着を促進し、及びマクロファージの遊走を阻害する物質を生成することが示唆されている。これらの工程は、アテローム性動脈硬化症病巣において認められる泡沫細胞及び脂肪線条の形成につながる。12-リポキシゲナーゼ(12-LO)は、アテローム性動脈硬化症病巣の形成を起動することが明らかにされており、及び損傷に対する血管反応が有意にアップレギュレーションされることも記録されている。その結果、これはこの状況において決定的に重要である。
血栓症
動脈壁へのフィブリン付着は、アテローム性動脈硬化症において大きな役割を果たすと考えられる。それらのフィブリン溶解性活性により、プラスミノーゲンアクチベーターは、これが発生することをブロックする。これらの保護的作用は、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター(PAI-1及び-2)によりブロックされる。図35は、偽投薬と比較した、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビターmRNA発現を示している。本発明者らの試験において、図35に示されたように、PAI-1レベルは、皮下試料のみ上昇された。偽投薬を超える2.6-倍の増加及び経口を超える2.8-倍の増加が、120分で認められた。これらのレベルの2.6-倍の減少は、60分で経口試料において認められ、これは120及び180分で、偽レベルに回復した。PAI-2発現は、投薬の両セットに類似していた。60分で、経口投与した試料は、PAI-2の有意に増加した(4.8-倍)レベルを示した。この上昇は、120及び180分では存在しなかった。このmRNAのこれらふたつの投薬経路の間の有意差は存在しなかった。
追加のマーカーは、図36に例示しており、これらはNPY、TGF-β、ICAM-1及び12-LOのmRNA発現に対するインスリンの皮下送達及びインスリンの経口送達の作用を比較するものである。
実施例22
インスリン皮下送達及びインスリン経口送達の間のmRNA発現の比較は、マーカーTHY-1、VEGF-B及びインテグリンaE2について、図37に示されている。経口送達データに関して、ふたつの異なる用量のmRNA発現に対する作用が示されている。
ストレプトゾシン糖尿病モデルにおける薬物動態及び薬力学
図38は、ストレプトゾシン糖尿病モデルに関する、皮下及び経口送達による単回投与後の血液グルコース(mg/mL)のグラフを示している。ふたつの異なるインスリン経口用量が示されている。図39は、図38の投与を用いた経時的血清インスリンレベル(mU/mL)を示す。
対照グループとして、担体及びインスリンは、個別に経口投与された。これらの遺伝子チップの結果を分析し、組成物の個別の成分の可能性のある活性を同定した。担体単独試料は、大動脈におけるmRNAレベルの一貫し及び有意な変化を生じなかった。これは、インスリン単独試料についても当てはまった。
先に考察した例は、インスリン経口組成物の、mRNA調節のレベルでの従来の皮下投薬の血管系に対する望ましくない作用を緩和する能力を明らかにし、並びに投薬経路の変更により引き起こされたグルコース代謝の変化を記録している。薬力学データは、経口投与された組成物の、従来の投薬法のものに類似したグルコース抑制を達成する能力を明らかにしている。薬力学データは類似しているが、薬物動態データは、経口投与された組成物において、従来の投薬法のものと比べて大きく低い血清インスリンレベルを示している。血清インスリンレベルの差は、肝臓へのインスリンの直接投与の結果でなければならない。肝臓は、ふたつの方法でインスリンのボーラス投与に作用する。第一に、高インスリン血症に関連した解糖、グリコーゲン合成及び他の機序を促進する。第二に、初回通過代謝は、全身循環に達するインスリンレベルを減少する。この結果は、血液グルコースの急激な減少及び全身循環が曝されるインスリンレベルの減少である。末梢循環のインスリンへの曝露を低下する間に、皮下投薬に類似したグルコース制御が達成されるために、非-標的組織に対するインスリンの望ましくない作用を防止することができる。
この差異は、例え単にインスリン単回投与後であっても非常に明らかであることは注目すべきことである。大動脈においてmRNAレベルが明確な差に達する前に、反復投薬が必要であろうと最初に考えられた。このデータを鑑み、どのように慢性皮下投薬が、血管疾患及びそれらに随伴した臨床合併症の発生増加につながるのかを調べることは容易である。慢性皮下投薬における血管疾患発生の増加を支持する試験が、現在進行中である。更に、このデータは、循環インスリンレベルの低下にもかかわらず、末梢グルコース代謝は類似していることを示唆している。
本発明者らは、本願明細書において多くの態様を説明しているが、本発明者らの基本的構築は、本発明のプロセス及び組成物を利用する他の態様を提供するために変更することができることは明らかである。従って、本発明の範囲は、実施例として先に提示された具体的態様よりもむしろ、添付された「特許請求の範囲」により限定されることは理解されるであろう。
Claims (31)
- ヒト糖尿病患者における血液グルコース濃度のそれらの患者における皮下インスリン注射と比べ同等の低下を達成する未修飾インスリン用量を含有し、皮下注射により得た末梢血インスリン濃度と比べ、急性、亜急性又は慢性の状態下で、末梢血循環中でのより低いインスリン濃度を提供し、経口投与後の血漿インスリン濃度が少なくとも20%低い、請求項1載の経口固形剤形。
- ヒト糖尿病患者への経口投与後の、血液グルコースの治療に有効な低下を達成する未修飾インスリン用量を含有し、及び門脈インスリン濃度の末梢血に対する比2.5:1から6:1を提供する、請求項1記載の経口固形剤形。
- ヒト糖尿病患者への経口投与後に血液グルコースの治療に有効な低下を達成する未修飾インスリン用量を含有する、経口固形剤形であり、該患者への経口投与後0.25〜1.5時間の時点でインスリンtmaxを提供し、少なくとも80%の血液グルコース濃度の低下が、該剤形の経口投与後約2時間以内に生じる該インスリン用量により引き起こされる、請求項1記載の経口固形剤形。
- 治療有効量の未修飾インスリンを含有する経口剤形であり、該剤形が、ヒト糖尿病患者への食前の経口投与時に、該患者における平均ベースライン(絶食時)血漿グルコース濃度と比べ、経口投与後の最初の1時間に低下される該患者における平均血漿グルコース濃度を生じる、請求項1記載の経口固形剤形。
- 治療有効量の未修飾インスリンを含有する経口剤形であり、食前経口投与時に、患者における平均ベースライン(絶食時)血漿グルコース濃度に対し、経口投与後最初の1時間について、40%を超えて変動しない平均血漿グルコース濃度を提供し、ここで食事は、該剤形の経口投与の30分以内に該患者により摂取される、請求項1記載の経口固形剤形。
- 経口投与後最初の1時間について、30%を超えて変動しない平均血漿グルコース濃度を提供する、請求項6記載の経口固形剤形。
- ヒト糖尿病患者への経口投与後0.25〜1.5時間の時点でインスリンtmaxに到達し、並びに患者におけるベースライン(絶食時)血漿グルコース濃度からの経口投与後最初の1時間について40%を超えて変動しない血漿グルコース濃度を提供することにより明示されるような、患者への食前投与時に、食事に反応した血液グルコース濃度の効果的管理を提供し、及び経口投与後4時間までに患者にベースライン血液インスリンレベルへの回復を提供する、請求項1記載の経口固形剤形。
- インスリンが、ヒトの標準インスリン型である、請求項1〜8のいずれか1項記載の経口固形剤形。
- 経口剤形が、錠剤又はカプセル剤の形状である、請求項1〜9のいずれか1項記載の経口固形剤形。
- 経口投与後0.1〜1.5時間でインスリンのtmaxを提供する、請求項1記載の経口固形剤形。
- 前記剤形が、門脈循環(胃粘膜を通じた吸収)へのインスリン送達を開始し、30分又はそれ未満以内にピークレベルに到達する、請求項1〜11のいずれか1項記載の経口固形剤形。
- ピーク血漿送達物質濃度が、経口投与の2時間以内に生じる、請求項1記載の経口固形剤形。
- 経口投与後0.3〜1.5時間以内に、ピーク血漿送達物質濃度5,000〜15,000ng/mlを提供する、請求項1記載の経口固形剤形。
- 経口投与後20〜60分に、治療された患者において血液グルコースの最大減少を生じる、請求項1記載の経口固形剤形。
- 経口投与後80〜120分に、治療された患者においてCペプチド濃度の最大減少を生じる、請求項1〜15のいずれか1項記載の経口固形剤形。
- ヒト患者において、経口投与後1時間以内に少なくとも10%低下した血清グルコースを生じる、請求項1〜16のいずれか1項記載の経口固形剤形。
- ヒト糖尿病患者の治療のための請求項1記載の経口固形剤形。
- 耐糖能障害の治療、グルコースホメオスタシスの達成、初期糖尿病の治療、又は後期糖尿病の治療のための請求項1記載の経口固形剤形。
- インスリン慢性投与に関連した高インスリン血症の発生及び重症度の低減のための請求項1記載の経口固形剤形。
- インスリンの慢性投与に関連した1種又は複数の病態の発生及び/又は重症度の低減のための請求項1記載の経口固形剤形。
- 経口投与が、インスリン皮下注射により患者集団において達成された血液グルコース濃度の同等の低下から生じる血管疾患に関連した遺伝子発現のレベルと比べて、血管疾患に関連した遺伝子の低下した発現を提供する、請求項1記載の経口固形剤形。
- 血管疾患に関連した遺伝子が、初期応答遺伝子、サイトカイン関連遺伝子、接着分子関連遺伝子、脂質過酸化関連遺伝子、血栓関連遺伝子及びそれらの組合せからなる群より選択される、請求項22記載の経口固形剤形。
- 初期応答遺伝子が、c-myc、jun B、Egr-1、Ets-1及びそれらの組合せからなる群より選択される、請求項23記載の経口固形剤形。
- プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター濃度が、インスリン皮下注射により達成される同等の血液グルコース濃度の治療に有効な低下から生じるプラスミノーゲンアクチベーターインヒビター濃度と比較して、より低い、請求項1記載の経口固形剤形。
- 前炎症性サイトカイン濃度が、インスリン皮下注射により達成される同等の血液グルコース濃度の治療に有効な低下から生じる前炎症性サイトカイン濃度と比較して、より低い、請求項1記載の経口固形剤形。
- 病態が、心臓血管疾患である、請求項21記載の経口固形剤形。
- 病態が、ニューロパシー、ネフロパシー、網膜症、動脈症、アテローム性動脈硬化症及びそれらの組合せからなる群より選択される、請求項21記載の経口固形剤形。
- 病態が、冠動脈疾患、高血圧性心筋症、及びうっ血性心不全からなる群より選択される、請求項21記載の経口固形剤形。
- インスリンが、組換えヒトインスリン、ウシインスリン、ブタインスリン及びそれらの機能的同等物からなる群より選択される、請求項1記載の経口固形剤形。
- 請求項1〜30のいずれか1項記載の経口固形剤形を製造するためのインスリンの使用。
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