JP4659229B2 - 熱可塑性ポリウレタンエラストマ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、熱可塑性ポリウレタンエラストマに関し、更に詳細には、パウダースラッシュ成形の如き粉体成形等に好適に使用され、高い結晶性と、低い溶融温度とを具備することで、耐傷付き性、耐薬品性、成形性および溶融性等を高い水準で達成し得る熱可塑性ポリウレタンエラストマに関するものである。
【0002】
【従来技術】
例えばインスツルメントパネル等の車両内装材は、射出成形により得られる樹脂等の基材表面に表皮材を接合することで形成されている。この表皮材は、美しい外観を有し、容易に傷が付くこともなく、かつ耐光性、耐熱性等および耐久性等に優れたものであることが望ましい。そのような表皮材を作製し得る材質として、ポリ塩化ビニル(以下PVCと云う)等が好適に使用されていた。
【0003】
しかし近年の環境汚染防止の観点から、ダイオキシンおよび酸性雨等の発生源の一つである塩素を多く含有するPVCに代わって、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合樹脂またはポリオレフィン系エラストマ等を材質とし、原料樹脂を脱PVC化させた表皮材が使用されるようになってきた。
【0004】
またこれら各材質を表皮材に加工する成形方法としては、真空成形よりもシボ転写性に優れ、意匠性の高い高級感のある表皮材を形成し得るパウダースラッシュ成形が好適に採用されている。しかし前記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合樹脂を用いてパウダースラッシュ成形により表皮材を作製した場合、成形性に劣り、外観等に優れた表皮材を形成することができない難点が指摘される。なおここで云う成形性とは、所要の形状を有する金型を用いて対応形状の表皮材を得る際に、内含される空気に伴うピンホールが該表皮材表面に与える影響を示すもので、該ピンホールが該表面に多数存在する場合、外観が劣悪となり商品価値がなくなる。以後本明細書中で記される「成形性」は、前述の意味で用いるものとする。
【0005】
これらの点を鑑み、環境汚染の問題が少ないポリオレフィン系エラストマを原料として、前記表皮材等を好適に製造し得る様々な製造方法が考えられている。しかし前記エラストマを材質とした表皮材はPVCを原料とした表皮材に比べて、傷が付き易い、すなわち耐傷付き性が劣る難点がある。この点については、配合組成を最適化することで対応した組成物も検討されているが、コストが高くなり実用的ではない。
【0006】
これらの諸問題を解決する方法として、本願発明者により案出された発明「スラッシュ成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマー、スラッシュ成形用熱可塑性ポリウレタンエラストマー粉末及びそれを用いた表皮材」(特許公開番号2000−313729号公報)が提案されている。この発明は、特定の粘弾性特性、或いは熱的特性を有し、スラッシュ成形に適した熱可塑性ポリウレタンエラストマを提供することを目的とし、図7に示す如く、溶融後、冷却する過程における示差走査熱量(以下DSCと云う)を測定した場合の発熱ピークの面積によって表される発熱量が6mJ/mg以上であり、かつ該発熱ピークの温度が100℃以上である熱可塑性ポリウレタンエラストマを用いることでも、該目的を達成している。
【0007】
なおDSCデータ測定を降温過程のものとしたのは、昇温過程の場合と比べて水素結合の生成および結晶性が明確に示されるためである。また上記「発熱ピークの温度」は、溶融したTPUが降温と共に再結晶化する際の発熱温度のピーク値を表すものであり、このピーク値が100℃未満であるTPUは、分子量が大きい、相当の架橋構造または嵩だかい置換基を有する等の結晶化を阻害する要因により充分な結晶化がなされておらず、その結果成形性に劣る。このピーク温度が100℃以上、より好ましくは105℃以上(通常125℃以下である。)であれば、成形性が向上すると共に、優れた外観等を有する成形物を得ることができる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、「発熱ピークの面積によって表される発熱量が6mJ/mg以上」により達成される高い結晶性を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマの場合、前述した高い耐傷付き性、耐薬品性および成形性が充分に確保できる一方で、該結晶性の向上に伴って融点も高くなってしまい、結果として成形時に必要とされる温度、所謂成形温度が上昇してしまう問題を内在していた。すなわち成形時に使用される金型に過大な温度負荷が掛かることで劣化等が早まり、製造コスト等を上昇させる要因となっていた。
【0009】
【発明の目的】
この発明は、先に本願発明者が案出した特開2000−313729号公報に記載の技術に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマに内在していた問題に鑑み、これを好適に解決するべく提案されたものであって、前出の技術により得られた熱可塑性ポリウレタンエラストマに所定の加熱処理を施すことで、良好の耐傷付き性、耐薬品性および成形性と、より低い温度での溶融性とを併有し、更にパウダースラッシュ成形等を好適に行ない得る熱可塑性ポリウレタンエラストマを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため本発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマは、
溶融させた後の冷却過程において10℃/分の速度で降温する条件下で測定した示差走査熱量(DSC)のグラフから得られる発熱ピークの面積で表される発熱量が6mJ/mg以上で、該発熱ピークの温度が100℃以上である結晶性ポリウレタンエラストマを用い、
前記結晶性ポリウレタンエラストマを加熱処理することで、未加熱処理状態の結晶性ポリウレタンエラストマを加熱過程において10℃/分の速度で昇温する条件下で示差走査熱量(DSC)を測定した場合の発熱ピークの温度に対応する吸熱ピークの温度よりも、得られた熱可塑性ポリウレタンエラストマにおける前記未加熱処理状態の結晶性ポリウレタンエラストマと同条件で測定した吸熱ピークの温度が少なくとも10℃以上低くなっていることを特徴とする。
【0011】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため本願に係る別発明の熱可塑性ポリウレタンエラストマは、
溶融させた後の冷却過程において10℃/分の速度で降温する条件下で測定した示差走査熱量(DSC)のグラフから得られる発熱ピークの面積で表される発熱量が6mJ/mg以上で、該発熱ピークの温度が100℃以上である結晶性ポリウレタンエラストマを用い、
加熱処理を施して得られた熱可塑性ポリウレタンエラストマは、加熱過程において10℃/分の速度で昇温する条件下で示差走査熱量(DSC)を測定した場合の前記発熱ピークの温度に対応する吸熱ピークの温度に対して、これより低い第2の吸熱ピークの温度をもっていることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、本発明に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマにつき、好適な実施例を挙げて、以下説明する。本願の発明者は、一定の結晶性を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマ(以下TPUと云う)に加熱処理を施すことで、環境問題を回避し、良好な成形性、耐傷付き性および耐薬品性等を確保すると共に、より低い温度で溶融して容易に成形し得る特性が獲得されることを見出したものである。
【0013】
前記TPUは、基本的にワンショット法により製造され、ソフトセグメント相を形成するポリオール成分と、ハードセグメント相を形成するイソシアネートとからなる。例えばアジピン酸と1,4一ブタンジオールとが縮合し、両末端にヒドロキシル基を有するアジペート型ポリエステルポリオールと、短鎖ジイソシアネートであるヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)との重付加反応(ウレタン化反応)により生成するTPU等が挙げられる。また前述のワンショット法の他、従来公知のプレポリマー法によっても作製可能である。
【0014】
前記ワンショット法とは、TPUを製造する一般的な方法であり、基本原料であるポリマーポリオール、イソシアネート、鎖延長剤および触媒の4つの成分を一括して混合する製造方法である。
【0015】
これらのTPUのうちで以下の条件を備えるものは結晶性が高く、結果として速やかな溶融による良好な成形性、高い耐傷付き性および耐薬品性を呈することが発明者が先に案出した特開2000−313729号公報に記載されている。
▲1▼その分子構造が直鎖状に配列し易い。
▲2▼1分子当たりのウレタン結合の個数が多く、水素結合による結合力が大きく発現する。
▲3▼過度な架橋構造を構造内に有さない。
【0016】
前述の▲1▼〜▲3▼の各条件を満足するTPUは、主原料であるイソシアネートとポリオールとを反応させて製造されるが、その際、該ポリオールの1〜5倍程度のモル数の短鎖ジオール等の鎖延長剤および主原料全体に対して100〜500ppm程度のウレタン重合触媒が添加される。また使用される前記ポリオールおよびイソシアネートの官能基数としては、2官能ばかりでなく3官能以上のものを使用してもよい。
【0017】
前記イソシアネートが構造内に有するイソシアネート基(NCO基)と、ポリオール成分に含有されるポリオールが有するヒドロキシル基(OH基)との当量比(NCO/OH比)は、0.95〜1.05とすることが好ましい。このNCO/OH比が0.95未満であると、パウダースラッシュ成形時の成形性は向上するが、得られる成形体の耐薬品性等が低下する。一方、この比が1.05を超える場合は、アロファネート結合またはビューレット結合等によるTPUの架橋度が高くなりすぎてしまい成形性が低下する。なおNCO/OH比が大であっても、重合触媒の配合量が多い場合は副反応によってNCO基が消費され、ウレタン化に寄与しないNCO基が多くなり、分子量が大きくならず、成形性の低下が抑えられる場合もある。
【0018】
前記イソシアネートとしては、前記のHDIの他、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水添MDIまたはイソホロンジイソシアネート等も使用可能であり、その種類は限定されない。殊に分子構造に対称性を有するHDI、MDIまたは/および水添MDI等が好適である。また両末端にイソシアネートを有するイソシアネート末端プレポリマーを使用すれば、ハードセグメント相の水素結合力を高めたり、結晶性を高めることが可能である。
【0019】
前記ポリオールとしては、縮合重合型ポリエステルポリオールの他、ε一カプロラクトン等の環状エステルの開環重合により得られるポリエステルポリオール、環状エーテルの開環重合により得られるポリエーテルポリオール、およびこれらの共重合によって得られるポリエーテルエステルポリオール等を使用することができる。また、カーボネート基を有するポリカーボネートポリオール等のポリマーポリオールを用いることもできる。更にこれらの各ポリオールに対して、1,4−ブタンジオール等のモノマーポリオールを併用することもできる。
【0020】
前記ポリオールの数平均分子量としては、500〜10,000程度のものが採用され、殊に1,000〜3,000の範囲内が好適である。この数平均分子量が大きすぎるとソフトセグメント相が相対的に増加して結晶性が低下するため、優れた成形性を維持できなくなる。一方、数平均分子量が小さすぎるとハードセグメント相が多くなって、完成品であるエラストマが硬くなり、表皮材との使用用途に用いる場合、触感等の点で問題が生じることがある。
【0021】
前記モノマーポリオールを併用した場合、分子鎖中に部分的なハードセグメント相の成長が起こり、結晶性が更に高まる。この際、モノマーポリオールの使用量が多いと、結晶化の進行に伴ってエラストマが硬くなるため留意が必要である。一方、特に、ポリエステルポリオールがウレタン結合に水素結合し、ソフトセグメント相が長くなり、相対的にハードセグメント相が短くなって、結晶性が低下することもある。このようにエラストマのハードセグメント相とソフトセグメント相との量比には多くの要因が影響する。
【0022】
更に3官能以上のイソシアネートまたは/およびポリオールを使用することにより、結晶性を低下させたり、成形時の粘度低下を抑制することができるが、該結晶性を本発明の所期の目的を達成する範囲とするためには、その配合量を5モル%以下に抑える必要がある。またこの他の添加物等のついても、所期の特性を備えるTPUを得るために、原料組成等の作用および効果等を検討する必要がある。
【0023】
そして前述されたTPUに対して所定の加熱処理を施した場合、溶融温度の低下および結晶度の増大が起こるものである。従来技術を用いて得られ、溶融後、冷却する過程における示差走査熱量(以下DSCと云う)を測定した際、図7に示すデータが得られるTPUをそのまま未処理(初期状態)で加熱する過程におけるDSCを測定した結果を図1に、温度110℃、24時間の条件で加熱処理を施し得られたTPUについて加熱する過程におけるDSCを測定した結果を図2に、温度110℃、72時間の条件で加熱処理を施して得られたTPUについて加熱する過程におけるDSCを測定した結果を図3に夫々示した。
【0024】
図1を説明すると、基本的に前述の図7に示した温度−発熱量グラフが上下ひっくり返った温度−吸熱量グラフであり、発熱ピークに対応した吸熱ピークが見られ、夫々のピーク温度(発熱ピークの温度Tおよび吸熱ピークの温度T1)および結晶度を示す発熱量は吸熱量に対応している。基本的に降温過程および昇温過程における違いは殆どなく、該降温過程のものは該昇温過程の場合と比べて水素結合の生成および結晶性が明確化されている点、すなわち精密性に差違があるだけである。図2については前述の図1に見られる差違の他に、温度T1を谷とする吸熱ピークが、2つの温度T1およびT2を夫々谷とする2つの吸熱ピークに分離している点で異なっており、更に結晶度を示す吸熱量が大きく増大していることが分かる。図3については、110℃、24時間の加熱処理で現れた2つの吸熱ピークが何れも量的に増え、すなわち結晶度が増大し、DSCデータ上では温度T1(温度的には2つの温度T1およびT2の間)を谷として、2つの吸熱ピークが重複した大きな1つの吸熱ピークを有するようになっている。そしてその吸熱量は、初期状態の約2倍、24時間加熱処理に比べても約1.5倍となっている。すなわち加熱処理により溶融温度の低下と、結晶度の増大とが認められたものであり、該溶融温度の低下および結晶度の増大については以下のように推論される。
【0025】
基本原料であるポリマーポリオール、イソシアネート、鎖延長剤および触媒の4つの成分を一括して混合するワンショット法の場合、その末端にOH基を有するポリマーポリオールおよび鎖延長剤の双方がイソシアネートと反応する。この際の反応速度は、夫々の分子量、すなわち拡散速度に大きく依存し、分子量の小さい鎖延長剤の方が高確率で前記イソシアネートと反応(重合)して、前記ハードセグメント相を形成する。そして前記鎖延長剤に比べて低い確率、すなわち遅れて前記ポリマーポリオールと、イソシアネートとが反応(重合)して前記ソフトセグメント相を形成する。
【0026】
一般的に、前記ハードセグメント相およびソフトセグメント相は完全相溶せず、反応後の冷却固化により該ハードセグメント相およびソフトセグメント相が分離し、該ハードセグメント相の部分が結晶性を発現するものである。このモデルはジカルポン酸およびジオール成分の縮合重合により生成されるエステル基を有するエステル系ポリマーポリオールや、エチレンオキサイド等の環状エーテルの開環重合により生成されるエーテル基を有するエーテル系ポリマーポリオールの場合、ソフトセグメント相が夫々該エステル基またはエーテル基を有するのに対して、該ハードセグメント相は同様の官能基を有しないため、化学的親和性が乏しく相溶し難いことからも明らかである。これらのことから、通常のワンショット法により製造されたTPUで結晶性を示す部分は、前記ハードセグメント相の部分であるといえる。
【0027】
しかし前記ワンショット法が原料の一括混合を行なうことを踏まえると、前記イソシアネートと、鎖延長剤またはポリマーポリオールとが夫々単独状態で重合を完了するとは考え難い。すなわち、優勢的に反応が進行するハードセグメント相の重合中に同時的にポリマーポリオールの一部が関与した場合、鎖延長剤の重合反応と共に該ポリマーポリオールの重合反応が行なわれコポリマーが生成すると考えられる。このようにして合成されるコポリマーは、ハードセグメント相を有するにも関わらず、単独のハードセグメント相ほどの高い結晶性を示すことはない。
【0028】
従って前記ワンショット法により製造され冷却固化されたTPUは、概念として図4に示すような構造モデルを取ると推論される。この構造モデルは互いに相溶性のないものが、外圧を受けることなく分散した状態を示しており、この場合、前記TPUを構成するハードセグメント相またはソフトセグメント相の何れかのセグメント相(図4の場合、ハードセグメント相)が最少界面面積を有する島状として存在する海島構造をとるものと考えられる。すなわち結晶性を示すハードセグメント相12、非結晶性のソフトセグメント相14および比較的結晶性の低いコポリマー16から構成される構造である(図4(a)参照)。ここで前記コポリマー16は、ソフトセグメント相14に混在するコポリマー16aと、島部の周縁に包囲する状態で混在するコポリマー16bとの2種類に分けられる。前記コポリマー16aは、ハードセグメント相12に少量のポリマーポリオールが取り込まれたものであり、一方コポリマー16bは、冷却固化に際し結晶成長に参加できずソフトセグメント相14にとり残されたものである。
【0029】
そしてこのような構造を有するTPUに対して熱を加えると、前記コポリマー16bは、そのハードセグメント相12の凝集エネルギーによってソフトセグメント相14より分離して結晶成長へ向かう挙動を示す。すなわち前記コポリマー16bは、前記コポリマー16aを更に包囲するよう結晶成長して第2のハードセグメント相18を形成する場合と、ソフトセグメント相14内で新たに独立した第2のハードセグメント相18を形成する場合とが考えられ、見かけ上、結晶性を示す前記ハードセグメント相12(島部)が増えたような挙動を示すものと思われる(図4(b)参照)。低い温度T2に現れるピーク(図2参照)は、前記第2のハードセグメント相18が、その低い結晶性故に低い温度で溶融することで発現すると思われる。
【0030】
このように新たな結晶性を示す第2のハードセグメント相18が形成されると、該第2のハードセグメント相18を有するTPUを加熱する過程におけるDSCデータを測定した場合に、該第2のハードセグメント相18に起因する低温側の吸熱ピークが表れる。すると前記DSCデータから得られる吸熱量から分かる通り、結晶性を有する領域、すなわち結晶度は量的に増大し、その結果として該結晶性により発現される耐傷付き性、耐薬品性および成形性は向上する。前記成形性が良好となる理由は、吸熱ピークが示す温度点で急激な粘度変化が起こり、原料内に閉じこめられている気泡が該原料外に追い出されるためであるが、該ピークが低温側にも生成したことにより、良好な該成形性が低温側でも達成されることになる。すなわち結晶性が高くなったにも拘わらず、成形の際に必要とされる成形温度は低下することになる。
【0031】
この際に達成される成形温度の低下の度合いとしては、成形金型等に与える負荷等が明らかに低減されると経験的に分かっている20℃以上が望ましい。この成形温度の低下を許容するために前記吸熱ピークの温度T1は、少なくとも10℃以上低くなることが望まれる。10℃以上の低下が見られない場合、前記成形温度も成形金型に与える負荷が大きく減少するほどの効果が期待できない。
【0032】
前記加熱処理を施す温度としては、加熱処理を施されるTPUの溶融温度より低い温度域で、該加熱処理により生成される第2の吸熱ピークの温度T2を下回り、かつできる限り高い温度がよい。この加熱処理の温度が低いと、第2の吸熱ピークの温度T2を発現する第2のハードセグメント相の形成に時間が掛かってしまう。また前記加熱処理を施す時間としては、加熱処理を施す温度にもよるが、経験的に12時間以上連続して実施することで良好な結果が得られる。
【0033】
その他の加熱処理条件として、処理温度を80℃として、72時間の加熱処理を施した場合のDSCデータを図5に示す。図3に示した110℃、72時間の加熱処理により得られたTPUのDSCデータに比べて、吸熱量が減少しており、結晶度が低いことが確認される。すなわち加熱処理を施す温度が充分でない場合、初期状態に比べて結晶度の増大は確認されるが充分な結果を得るために多大な時間が掛かってしまうと予測される。また図2に示した110℃、24時間の加熱処理により得られたTPUのDSCデータと比べて、新たに現れた低温側の吸熱ピークの温度T2に生じた差違は、該加熱処理の温度によって、新たに形成される第2のハードセグメント相の結晶構造が異なっているためだと考えられる。
【0034】
また加熱処理を施されたTPUの劣化を調べるため、図5で示したTPUを250℃で加熱し完全に溶融・冷却固化させ、その後同様のDSCデータを取得した。その結果を図6に示す。図6に示されるDSCデータは、未処理(初期状態)のTPUのDSCデータを示す図1と比べて殆ど差違がなく、ここから加熱処理により結晶構造が変化しているだけであり、劣化が進行しているわけではないことが確認された。
【0035】
なお前記図1〜図3、図5および図6に記載のDSCデータで示される各吸熱ピークの温度は、単に測定の結果、最も粘度低下が急激である温度域を示すものであり、測定されたTPUの融点が低下したのではない点に留意する必要がある。また前記図1〜図3、図5および図6に記載の吸熱量および吸熱ピークの温度については、室温から開始して、10℃/分の速度(精度±0.5℃/分)で昇温させる条件で得られた各DSCデータから、JIS K 7121、7122および7123(日本規格協会 1997版「JISハンドブック11 446頁〜455頁」)に記載の方法に基づき夫々算出した。
【0036】
【実験例】
以下に本発明に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマの好適な実験例を示すが、本発明に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマはこれらの実験例に限定されるものではない。
【0037】
(実験条件)
様々な条件により加熱処理を施したTPUを原料として使用し、パウダースラッシュ成形と同様の状態を230℃の加熱金型上で再現した。そしてその際の各TPUの成形性を、ピンホールの状態を目視により確認することで評価した。本願に記載の加熱処理を施したものについては、実験1および実験2として、それ以外のものについては比較1〜比較5として記載している。前記各TPUに施した加熱処理条件、ピンポールの状態および成形性を下記の表1に示す。
・使用材料:汎用TPU(商品名 E785QSDH;日本ミラクトラン製)
・熱的特性装置:型式 SSC5200;セイコー電子株式会社製
【0038】
【表1】
【0039】
(結果)
前記ピンホールの状態から確認された成形性は、×:ピンホールが多く不適、△:ピンホールが存在し、商品価値が低い、○:問題なし、で評価した。その結果、110℃の温度条件で24時間の加熱処理が必要であり、本発明に記載の範囲内であれば良好な結果が得られることが確認された。
【0040】
【発明の効果】
以上に説明した如く、本発明に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマによれは、所定の結晶性を有する結晶性ポリウレタンエラストマに対して、所定の加熱処理を施すことで、高い耐傷付き性、耐薬品性および成形性と、より低い溶融温度とを併有する熱可塑性ポリウレタンエラストマを得ることができる。これにより前記熱可塑性ポリウレタンエラストマから所要形状の成形体を得る際に必要とされるエネルギーや、成形金型等にかかる負荷を大きく低減し得る効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適な実施例に係る熱可塑性ポリウレタンの加熱処理前のDSCデータを示すグラフ図である。
【図2】温度110℃、24時間の条件で加熱処理を施された実施例に係る熱可塑性ポリウレタンを昇温させた際のDSCデータを示すグラフ図である。
【図3】温度110℃、72時間の条件で加熱処理を施された実施例に係る熱可塑性ポリウレタンを昇温させた際のDSCデータを示すグラフ図である。
【図4】実施例に係る熱可塑性ポリウレタンの加熱処理前および加熱処理後の夫々の構造モデルを示す概略図である。
【図5】温度80℃、72時間の条件で加熱処理を施された熱可塑性ポリウレタンを昇温させた際のDSCデータを示すグラフ図である。
【図6】温度80℃、72時間の条件で加熱処理を施こした後、完全に溶融させ、冷却固化させた熱可塑性ポリウレタンを昇温させた際のDSCデータを示すグラフ図である。
【図7】従来の技術に係る熱可塑性ポリウレタンエラストマを250℃まで昇温させて完全に溶融させた後、10℃/分の速度で降温させた際のDSCデータを示すグラフ図である。
【符号の説明】
T 発熱ピークの温度
T1 吸熱ピークの温度
T2 第2の吸熱ピークの温度
Claims (9)
- 溶融させた後の冷却過程において10℃/分の速度で降温する条件下で測定した示差走査熱量(DSC)のグラフから得られる発熱ピークの面積で表される発熱量が6mJ/mg以上で、該発熱ピークの温度(T)が100℃以上である結晶性ポリウレタンエラストマを用い、
前記結晶性ポリウレタンエラストマを加熱処理することで、未加熱処理状態の結晶性ポリウレタンエラストマを加熱過程において10℃/分の速度で昇温する条件下で示差走査熱量(DSC)を測定した場合の発熱ピークの温度(T)に対応する吸熱ピークの温度(T1)よりも、得られた熱可塑性ポリウレタンエラストマにおける前記未加熱処理状態の結晶性ポリウレタンエラストマと同条件で測定した吸熱ピークの温度(T1)が少なくとも10℃以上低くなっている
ことを特徴とする熱可塑性ポリウレタンエラストマ。 - 前記加熱処理は、結晶性ポリウレタンエラストマの溶融温度よりマイナス50℃〜マイナス20℃の温度域で実施される請求項1記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマ。
- 前記加熱処理は、少なくとも12時間連続して実施される請求項1または2記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマ。
- 前記熱可塑性ポリウレタンエラストマは、粉体成形に供される請求項1〜3の何れか一項に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマ。
- 溶融させた後の冷却過程において10℃/分の速度で降温する条件下で測定した示差走査熱量(DSC)のグラフから得られる発熱ピークの面積で表される発熱量が6mJ/mg以上で、該発熱ピークの温度(T)が100℃以上である結晶性ポリウレタンエラストマを用い、
加熱処理を施して得られた熱可塑性ポリウレタンエラストマは、加熱過程において10℃/分の速度で昇温する条件下で示差走査熱量(DSC)を測定した場合の前記発熱ピークの温度(T)に対応する吸熱ピークの温度(T1)に対して、これより低い第2の吸熱ピークの温度(T2)をもっている
ことを特徴とする熱可塑性ポリウレタンエラストマ。 - 前記第2の発熱ピークの温度(T2)は、前記吸熱ピークの温度(T1)より少なくとも10℃以上低くなっている請求項5記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマ。
- 前記加熱処理は、結晶性ポリウレタンエラストマの溶融温度よりマイナス50℃〜マイナス20℃の温度域で実施される請求項5または6記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマ。
- 前記加熱処理は、少なくとも12時間連続して実施される請求項5〜7の何れか一項に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマ。
- 前記熱可塑性ポリウレタンエラストマは、粉体成形に供される請求項5〜8の何れか一項に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマ。
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