以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図面において同一の符号を付したものは、同一の構成又は作用をなすものであり、これらについての重複説明は適宜省略するものとする。
<第1の実施の形態>
図1〜図7に沿って、本発明に係るクラッチ装置の一例として、第1の実施の形態に係るクラッチ装置を説明する。これらの図のうち、図1はクラッチ装置が適用される自動変速機1全体の概略構成を示す縦断面図、図2は自動変速機1のうちの変速機構2の構成の一部を示す拡大縦断面図、図3は自動変速機1を説明するスケルトン図、図4は自動変速機1の作動表、図5は自動変速機1の速度線図、図6は、本実施の形態に係るクラッチ装置の拡大縦断面図、図7は、上半部が図6中のA−A線矢視図(A視)、下半部が図6中のB−B線矢視図(B視)である。
なお、以下の説明では、図1,図2,図3中における上,下,左,右を、この順に、実際の自動変速機1における「上」「下」「前」「後」に対応させて説明する。これに従うと、例えば、図1,図3中における上下方向のほぼ中央には、同一直線上に、左から右にかけて順に自動変速機1の入力軸11、変速機構2の入力軸12、中間軸13、出力軸15が図示されているが、これらは、実際には前から後にかけてこの順に並べられていることになる。ここで、上述の入力軸12と中間軸13とは、入力軸12の後部と中間軸13の前部とがスプライン結合されていて、広い意味では一体となって入力軸を構成している。また、入力軸の長手方向に沿った方向を「軸方向」、この軸方向に直交する方向を「径方向」とし、さらに径方向の位置については、軸に近い側を「内径側(内周側)」、軸から遠い側を「外径側(外周側)」というものとする。
まず、図3のスケルトン図に沿って、本発明を適用し得る自動変速機1の概略構成を説明する。同図示すように、例えばFRタイプ(フロントエンジン、リヤドライブ)の車輌に用いて好適な自動変速機1は、エンジン(不図示)に接続し得る自動変速機1の入力軸11を有しており、この入力軸11の軸心の延長と同軸上に、トルクコンバータ7と、変速機構2とを備えている。
このうちトルクコンバータ7は、自動変速機1の入力軸11に接続されたポンプインペラ7aと、このポンプインペラ7aの回転が作動流体を介して伝達されるタービンランナ7bとを有している。このタービンランナ7bは、入力軸11と同軸上に配設された変速機構2の入力軸12に接続されている。また、トルクコンバータ7には、ロックアップクラッチ10が設けてあり、このロックアップクラッチ10は、油圧制御装置の油圧制御(不図示)によって係合されると、自動変速機1の入力軸11の回転が、作動流体を介することなく変速機構2の入力軸12に直接伝達されるようになっている。
変速機構2は、入力軸12及び中間軸13上に、プラネタリギヤDPと、プラネタリギヤユニットPUとを備えている。このうちプラネタリギヤDPは、サンギヤS1、キャリヤCR1、及びリングギヤR1を有している。キャリヤCR1は、サンギヤS1に噛合するピニオンP1と、リングギヤR1に噛合するピニオンP2とを相互に噛合させた状態で支持している。このプラネタリギヤDPは、いわゆるダブルピニオンプラネタリギヤである。
このプラネタリギヤDPのサンギヤS1は、ミッションケース3に一体的に固定されているボス部3bに接続されて回転不能に固定されている。また、キャリヤCR1は、入力軸12に接続されて、入力軸12の回転と同回転(以下、「入力回転」という。)になっているとともに、第4クラッチC−4に接続されている。さらに、リングギヤR1は、上述のように固定されたサンギヤS1と、入力回転するキャリヤCR1とにより、入力回転が減速された減速回転になるとともに、第1クラッチC−1及び第3クラッチC−3に接続されている。
プラネタリギヤユニットPUは、4つの回転要素としてサンギヤS2、サンギヤS3、キャリヤCR2(CR3)、及びリングギヤR3(R2)を有している。そして、キャリヤCR2は、サンギヤS2及びリングギヤR3に噛合するロングピニオンP4と、サンギヤS3に噛合するショートピニオンP3とを相互に噛合させた状態で支持している。このプラネタリギヤユニットPUは、いわゆるラビニヨ型プラネタリギヤである。
このプラネタリギヤユニットPUのサンギヤS2は、第1ブレーキB−1に接続されてミッションケース3に対して固定自在となっているとともに、第4クラッチC−4及び第3クラッチC−3に接続されて、第4クラッチC−4を介してキャリヤCR1の入力回転が、また第3クラッチC−3を介してリングギヤR1の減速回転が、それぞれ入力自在となっている。また、サンギヤS3は、第1クラッチC−1に接続されており、リングギヤR1の減速回転が入力自在となっている。キャリヤCR2は、中間軸13を介して入力軸12の回転が入力される第2クラッチC−2に接続されて、この第2クラッチC−2を介して入力回転が入力自在となっている。キャリヤCR2は、また、ワンウェイクラッチF−1及び第2ブレーキB−2に接続されて、このワンウェイクラッチF−1を介してミッションケース3に対して一方向の回転が規制されるとともに、第2ブレーキB−2を介して回転が固定自在となっている。そして、リングギヤR3は、駆動車輪(不図示)に回転を出力する出力軸15に接続されている。
以上で、図2のスケルトン図を参照しての、自動変速機1の概略構成についての説明を終える。
つづいて、上述構成に基づく変速機構2の作用について、図3,図4,図5に沿って説明する。
なお、図5に示す速度線図において、左側の速度線図は、プラネタリギヤDPの速度線図を示し、右側の速度線図は、プラネタリギヤユニットPUの速度線図を示している。これら速度線図は、横軸は各回転要素である各ギヤのギヤ比に対応して示してあり、また、縦軸は各回転要素である各ギヤ及び各キャリヤの回転数を示している。縦軸については、左側のプラネタリギヤDPの速度線図において3本のものが図示されているが、これらは左から右に向かって順に、それぞれサンギヤS1、リングギヤR1、キャリヤCR1に対応している。これに対し、右側のプラネタリギヤユニットPUの速度線図においては、4本の縦軸を図示しているが、これらは左から右に向かって順に、サンギヤS2、キャリヤCR2(キャリヤCR3)、リングギヤR3(リングギヤR2)、サンギヤS3に対応している。
上述の変速機構2は、D(ドライブ)レンジは、前進1速段(1st)から前進8速段(8th)まで計8速を有し、R(リバース)レンジは、後進1速段(Rev1),後進2速段(Rev2)の計2速を有している。
前進1速段(1st)では、図4に示すように、第1クラッチC−1及びワンウェイクラッチF−1が係合される。すると、図3及び図5に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、キャリヤCR2の回転が一方向(正転回転方向)に規制されて、つまりキャリヤCR2の逆転回転が防止されて固定された状態になる。すると、サンギヤS3に入力された減速回転が、固定されたキャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、前進1速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
なお、前進1速段において、エンジンブレーキ時(コースト時)には、第2ブレーキB−2を係止してキャリヤCR2を固定し、このキャリヤCR2の正転回転を防止する形で、上記前進1速段の状態を維持する。また、この前進1速段では、ワンウェイクラッチF−1によりキャリヤCR2の逆転回転を防止し、かつ正転回転を可能にするので、例えば非走行レンジから走行レンジに切換えた際の前進1速段の達成を、ワンウェイクラッチF−1の自動係合により滑らかに行うことができる。
前進2速段(2nd)では、図4に示すように、第1クラッチC−1が係合され、第1ブレーキB−1が係止される。すると、図3及び図5に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、第1ブレーキB−1の係止によりサンギヤS2の回転が固定される。すると、キャリヤCR2がサンギヤS3よりも低回転の減速回転となり、このサンギヤS3に入力された減速回転がキャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、前進2速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
前進3速段(3rd)では、図4に示すように、第1クラッチC−1及び第3クラッチC−3が係合される。すると、図3及び図5に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、第3クラッチC−3の係合によりリングギヤR1の減速回転がサンギヤS2に入力される。つまり、サンギヤS2及びサンギヤS3にリングギヤR1の減速回転が入力されるため、プラネタリギヤユニットPUが減速回転の直結状態となり、そのまま減速回転がリングギヤR3に出力され、前進3速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
前進4速段(4th)では、図4に示すように、第1クラッチC−1及び第4クラッチC−4が係合される。すると、図3及び図5に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、第4クラッチC−4の係合によりキャリヤCR1の入力回転がサンギヤS2に入力される。すると、キャリヤCR2がサンギヤS3よりも高回転の減速回転となり、このサンギヤS3に入力された減速回転がキャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、前進4速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
前進5速段(5th)では、図4に示すように、第1クラッチC−1及び第2クラッチC−2が係合される。すると、図3及び図5に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第1クラッチC−1を介してサンギヤS3に入力される。また、第2クラッチC−2の係合によりキャリヤCR2に入力回転が入力される。すると、このサンギヤS3に入力された減速回転とキャリヤCR2に入力された入力回転とにより、上述の前進4速段より高い減速回転となってリングギヤR3に出力され、前進5速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
前進6速段(6th)では、図4に示すように、第2クラッチC−2及び第4クラッチC−4が係合される。すると、図3及び図5に示すように、第4クラッチC−4の係合によりサンギヤS2にキャリヤCR1の入力回転が入力される。また、第2クラッチC−2の係合によりキャリヤCR2に入力回転が入力される。つまり、サンギヤS2及びキャリヤCR2に入力回転が入力されるため、プラネタリギヤユニットPUが入力回転の直結状態となり、そのまま入力回転がリングギヤR3に出力され、前進6速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
前進7速段(7th)では、図4に示すように、第2クラッチC−2及び第3クラッチC−3が係合される。すると、図3及び図5に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第3クラッチC−3を介してサンギヤS2に入力される。また、第2クラッチC−2の係合によりキャリヤCR2に入力回転が入力される。すると、このサンギヤS2に入力された減速回転とキャリヤCR2に入力された入力回転とにより、入力回転より僅かに高い増速回転となってリングギヤR3に出力され、前進7速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
前進8速段(8th)では、図4に示すように、第2クラッチC−2が係合され、第1ブレーキB−1が係止される。すると、図3及び図5に示すように、第2クラッチC−2の係合によりキャリヤCR2に入力回転が入力される。また、第1ブレーキB−1の係止によりサンギヤS2の回転が固定される。すると、固定されたサンギヤS2によりキャリヤCR2の入力回転が上述の前進7速段より高い増速回転となってリングギヤR3に出力され、前進8速段としての正転回転が出力軸15から出力される。
後進1速段(Rev1)では、図4に示すように、第3クラッチC−3が係合され、第2ブレーキB−2が係止される。すると、図3及び図5に示すように、固定されたサンギヤS1と入力回転であるキャリヤCR1によって減速回転するリングギヤR1の回転が、第3クラッチC−3を介してサンギヤS2に入力される。また、第2ブレーキB−2の係止によりキャリヤCR2の回転が固定される。すると、サンギヤS2に入力された減速回転が、固定されたキャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、後進1速段としての逆転回転が出力軸15から出力される。
後進2速段(Rev2)では、図4に示すように、第4クラッチC−4が係合され、第2ブレーキB−2が係止される。すると、図3及び図5に示すように、第4クラッチC−4の係合によりキャリヤCR1の入力回転がサンギヤS2に入力される。また、第2ブレーキB−2の係止によりキャリヤCR2の回転が固定される。すると、サンギヤS2に入力された入力回転が、固定されたキャリヤCR2を介してリングギヤR3に出力され、後進2速段としての逆転回転が出力軸15から出力される。
なお、例えばP(パーキング)レンジ及びN(ニュートラル)レンジでは、第1,第2,第3,第4クラッチC−1,C−2,C−3,C−4が解放される。すると、キャリヤCR1とサンギヤS2との間、リングギヤR1とサンギヤS2及びサンギヤS3との間、すなわちプラネタリギヤDPとプラネタリギヤユニットPUとの間が切断状態となる。また、入力軸12(中間軸13)とキャリヤCR2との間が切断状態となる。これにより、入力軸12とプラネタリギヤユニットPUとの間の動力伝達が切断状態となり、つまり入力軸12と出力軸15との動力伝達が切断状態となる。
以上で、図3,図4,図5を参照しての、変速機構2の作用についての説明を終える。
ここで図1を参照して、自動変速機1全体の概略構成、特に各構成要間の相対的な位置関係について、簡単に説明する。
なお、以下の説明においては、クラッチ(第1〜第4クラッチC−1〜C−4)及びブレーキ(第1ブレーキB−1,第2ブレーキB−2)という言葉は、それぞれ摩擦板(外摩擦板及び内摩擦板)と、これらを接断させる油圧サーボとを含めた意味で使用する。
図1に示すように、自動変速機1のケース4は、全体として、概ね前側(図1中の左側)が大径で、後側ほど小径の筒状に形成されている。ケース4全体は、3つの分割ケース、すなわち前側のハウジングケース6と中間のミッションケース3と後側のエクステンションケース9とをそれぞれ接合面H1,H2で接合させて構成されている。これら接合面H1,H2のうちの、前側の接合面H1の近傍に位置するミッションケース3の前端には、フランジ状の隔壁部材3aが固定されている。なお、この隔壁部材3aの後面内径側には後方に向けてボス部3bが突設されている。一方、後側の接合面H2の近傍に位置するミッションケース3の後端にはフランジ状の隔壁部3cがミッションケース3と一体に設けられている。
上述のケース4の中心には、前から後にかけて順に、自動変速機1の入力軸11、変速機構2の入力軸12、中間軸13、出力軸15が、同一軸心上に配設されている。軸方向の位置については、自動変速機1の入力軸11は、ハウジングケース6の前部に位置し、変速機構2の入力軸12は、入力軸11のすぐ後方から隔壁部材3aの中心を貫通してミッションケース3のほぼ中央まで延びている。中間軸13は、その前部を入力軸12の後部内側にスプライン結合させるとともに、後端は、ほぼ後側の接合面H2まで延設されている。そして、出力軸15は、前部を中間軸13の外周面に被嵌させ、後部をエクステンションケース9の後方に突出させている。なお、前述のように入力軸12と中間軸13とは、一体に構成されて広義の入力軸を構成している。
上述のハウジングケース6の内側には、変速機構2の入力軸12上に前述のトルクコンバータ7が収納されている。ハウジングケース6の内側とミッションケース3の内側とを区画する隔壁部材3aにおける内径側にはオイルポンプ8が配設されている。
ミッションケース3の前半部の内側、すなわちワンウェイクラッチF−1よりも前側の内側における比較的、外径側には、入力軸12上に、前から順に、第1ブレーキB−1の摩擦板61、第4クラッチC−4の摩擦板51、第3クラッチC−3の摩擦板41、第1クラッチC−1の摩擦板21が配設されている。そして、摩擦板61の直前には、第1ブレーキB−1の油圧サーボ60が配設されている。また、摩擦板61の内径側には、摩擦板41まで延びる第3クラッチC−3の油圧サーボ40が配設されている。さらに、摩擦板51の前側から内径側にかけて、第4クラッチC−4の油圧サーボ50が配設されており、摩擦板41の内径側には、プラネタリギヤDPが、そして摩擦板21のほぼ内径側には第1クラッチC−1の油圧サーボ20が配設されている。すなわちミッションケース3の前半部の内側における内径側には、ほぼ前から順に油圧サーボ40、油圧サーボ50、プラネタリギヤDP、油圧サーボ20が配設されている。
ミッションケース3の後半部の内側、すなわちワンウェイクラッチF−1よりも後側の内側には、中間軸13上にプラネタリギヤユニットPUが配設されている。このプラネタリギヤユニットPUの前半部における外周側には、第2のブレーキB−2の摩擦板71が配設され、またプラネタリギヤユニットPUの後方における外径側には第2クラッチC−2の摩擦板31が配設されている。摩擦板31の後方から内径側にかけては、第2クラッチC−2の油圧サーボ30が配設され、この油圧サーボ30の後方にはその一部が後側から摩擦板31の外径側を通って摩擦板71まで延びる第2ブレーキB−2の油圧サーボ70が配設されている。
次に、図2を参照して、ミッションケース3の内側の構成について詳述する。なお、各構成要素を支持するベアリングや、作動油・潤滑油を流すための油路については後にまとめて説明する。
ミッションケース3の内側に配置されたプラネタリギヤDPは、前述のように、サンギヤS1と、キャリヤCR1と、リングギヤR1とを備えている。このうちサンギヤS1は、入力軸12の外周面に被嵌されるとともに前方に延びるスリーブ部材100に固定されている。このスリーブ部材100は、前述のミッションケース3の隔壁部材3aの後面における内径側から後方に延びるボス部3bの内周面に固定されている。つまりこのサンギヤS1は回転不能に固定されている。また、キャリヤCR1は、後キャリヤプレートCR1aと前キャリヤプレートCR1bとを有していて、ピニオンP1,P2を回転自在に支持している。これらピニオンP1,P2は相互に噛合されるとともに、前者のピニオンP1はサンギヤS1に、また後者のピニオンP2はリングギヤR1にそれぞれ噛合している。後キャリヤプレートCR1aは、入力軸12の後部外周面から外径側に向かってフランジ状に延びるように形成されている。一方、前キャリヤプレートCR1bは、環状に形成されるとともに外周から前方に延びるドラム部CR1cが形成されている。このドラム部CR1cの外周面には、後述の第4クラッチC−4の内摩擦板51bがスプライン結合されている。リングギヤR1はその外周面に、後述の第3クラッチC−3の内摩擦板41bがスプライン結合されている。またリングギヤR1の後端には、少し外径側から後方に延びるドラム部R1aが連結されている。このドラム部R1aには、後述の第1クラッチC−1の外摩擦板21aがスプライン結合されている。さらに、リングギヤR1は、その後端からほぼ内側に延びる、後述の油圧サーボ20のクラッチドラム22を介して、入力軸12により回転自在に支持されている。
以上説明したプラネタリギヤDPのすぐ前側には、第4クラッチC−4が配設されている。第4クラッチC−4は、外摩擦板51a及び内摩擦板51bからなる摩擦板51と、この摩擦板51を接断させる油圧サーボ50とを備えている。この油圧サーボ50は、クラッチドラム52、ピストン部材53、リターンプレート54、リターンスプリング55を有しており、これらにより、油室56、キャンセル油室57を構成している。クラッチドラム52は、内径側から外径側に延びるフランジ部52aとこのフランジ部52aの外周から後方に延びるドラム部52bとを有している。フランジ部52aは、内径側の基端部が、後述の第3クラッチC−3の油圧サーボ40のクラッチドラム42の一部であるハブ部42cに嵌合されたスナップリング58によって前後方向前側への移動が阻止されている。ドラム部52bは、上述のプラネタリギヤPDの前キャリヤプレートCR1bのドラム部CR1cの外径側に配置されていて、内周面には外摩擦板51aがスプライン結合されている。ピストン部材53は、クラッチドラム52のフランジ部52aの後方に前後方向移動可能に配置されていて、3本のシールリングa1,a2,a3により、クラッチドラム52との間に、油密状の油室56を構成している。さらにリターンプレート54は、上述のハブ部42cに嵌合されたスナップリング59によって前後方向後側への移動が阻止されている。リターンプレート54は、その前方に配置されたピストン部材53との間に、リターンスプリング55が縮設されるとともに2本のシールリングa2,a4により油密状のキャンセル油室57を構成している。
第3クラッチC−3は、上述の第4クラッチC−4の内周側及び前側及び外周側を囲むように構成されている。第3クラッチC−3は、外摩擦板41a及び内摩擦板41bからなる摩擦板41と、この摩擦板41を接断させる油圧サーボ40とを備えている。この油圧サーボ40は、クラッチドラム42、ピストン部材43、リターンプレート44、リターンスプリング45を有しており、これらにより、油室46、キャンセル油室47を構成している。クラッチドラム42は、隔壁部材3aの後方に配置されたフランジ部42aと、このフランジ部42aの内周から後方に延びるハブ部42cと、フランジ部42aの外周から後方に延びるドラム部42bとを有している。このうちハブ部42cは、上述の隔壁部材3aの後面から後方に延びるボス部3bの外周面にスリーブ状に被嵌合されるとともに、このボス部3bによって回転自在に支持されている。このハブ部42cは、その外周面における前端側が大径で、後端側が小径となる複数の段状に形成されている。ハブ部42cの後端は、前述のサンギヤS1の前端面の直前に位置している。言い換えるとハブ部42cの後端は、第4クラッチC−4よりも後方に位置している。クラッチドラム42のドラム部42bは、第4クラッチC−4の外径側を通って、第1クラッチC−1の外径側まで延設されている。ドラム部42bは、その前側外周面において後述の第1ブレーキB−1の内摩擦板61bがスプライン結合され、また中間の内周面、つまり前述のリングギヤR1に対応する部分において外摩擦板41aがスプライン結合され、さらに後部において連結部材101が連結されている。この連結部材101は、第1クラッチC−1の外径側、後側を通って内径側に延び、図1に示すサンギヤS2に連結されている。
第3クラッチC−3のピストン部材43は、フランジ部(ピストン部)43aとその外周から後方に延びるドラム部43bとを有している。このうち、フランジ部43aは、上述のクラッチドラム42のフランジ部42aの後方に前後方向移動可能に配置されていて、2本のシールリングa5,a6により、クラッチドラム42との間に油密状の油室46を構成している。また、ドラム部43bは、前述の第4クラッチC−4のクラッチドラム52のドラム部52bの外周側で、かつ第3クラッチC−3のクラッチドラム42のドラム部42bの内周側を通って後方に延び、その後端を、摩擦板41に対面させている。なお、上述のドラム部52bの外周面の一部と、ドラム部42bの内周面の一部とは、ドラム部43bの一部に設けた切欠部(不図示)を介して相互にスプライン結合されている。リターンプレート44は、上述のハブ部42cに嵌合されたスナップリング49によって前後方向後側への移動が阻止されている。リターンプレート44は、その前方に配置されたピストン部材43との間に、リターンスプリング45が縮設されるとともに2本のシールリングa5,a7により油密状のキャンセル油室47を構成している。
第1クラッチC−1は、プラネタリギヤDP及び第3クラッチC−3の摩擦板41の後方に配置されており、外摩擦板21a及び内摩擦板21bからなる摩擦板21と、この摩擦板21を接断させる油圧サーボ20とを備えている。外摩擦板21aは、上述のリングギヤR1のドラム部R1aの内周面にスプライン結合されている。また内摩擦板21bは、連結部材102のドラム部102bに連結されている。この連結部材102は、ドラム部102bの後端から内径側に延びるフランジ部102aと、このフランジ部102aの内周から後方に延びるスリーブ状のハブ部102cを介して、前述のサンギヤS3(図1参照)に連結されている。油圧サーボ20は、クラッチドラム22、ピストン部材23、リターンプレート24、リターンスプリング25を有しており、これらにより、油室26、キャンセル油室27を構成している。クラッチドラム22は、内径側から外径側に延びるフランジ部22aとこのフランジ部22aの外周から前方に延びてリングギヤR1の後端に連結されるドラム部22bと、フランジ部22aの内周から後方に延びるハブ部22cとを有している。ハブ部22cは、入力軸12の後部外周面に相対回転自在に取り付けられている。ピストン部材23は、クラッチドラム22の後方に前後方向移動可能に配置されていて、2本のシールリングa8,a9により、クラッチドラム22との間に、油密状の油室26を構成している。ピストン部材23は、外周側の部分を、前方から摩擦板21の前面に対向させている。さらにリターンプレート24は、上述のハブ部22cに嵌合されたスナップリング29によって前後方向後側への移動が阻止されている。リターンプレート24は、その前方に配置されたピストン部材23との間に、リターンスプリング25が縮設されるとともに2本のシールリングa8,a10により油密状のキャンセル油室27を構成している。
第1ブレーキB−1は、隔壁部材3aの外径側近傍に配置されている。第1ブレーキB−1は、外摩擦板61a及び内摩擦板61bからなる摩擦板61と、この摩擦板61を接断する油圧サーボ60とを備えている。外摩擦板61aは、ミッションケース3の前端側内周面にスプライン結合されている。また内摩擦板61bは、前述の第3クラッチC−3のドラム部42bの前部外周面にスプライン結合されている。油圧サーボ60は、クラッチドラム62、ピストン部材63、リターンプレート64、リターンスプリング65を有しており、これらにより、油室66を構成している。クラッチドラム62は、隔壁部材3aの後面外周側に凹部を設けることによって形成している。ピストン部材63をこのクラッチドラム62に対して前後方向移動可能に係合されている。ピストン部材63は、後端部の一部がリターンプレート64を貫通して摩擦板61の前端に対面している。ピストン部材63とクラッチドラム62との間には、2本のシールリングa11,a12によって、油密状の油室66が形成されている。さらにリターンプレート64は、板状かつ環状に形成されていて、その内周側がボルトによって隔壁部材3aの後面に固定されている。リターンプレート64とピストン部材63との間には、リターンスプリング65が縮設されている。
つづいて、各構成要素の支持構造、つまりベアリングについて説明する。
隔壁部材3aのボス部3bと一体のスリーブ部材100の後端内周面と入力軸12の外周面との間に、ベアリングb1が介装されている。入力軸と一体の後キャリヤプレートCR1aの内径側の前面と後面とには、それぞれサンギヤS1の後端面との間、クラッチドラム22との間にベアリングb2,b3が介装されている。これにより、入力軸12は、ミッションケース3に対して回転自在に支持される。隔壁部材3aのボス部3bの外周面とクラッチドラム42のハブ部42cの内周面の間には、ベアリングb4,b5が介装されている。これによりクラッチドラム42は、ボス部3bに対して回転自在に支持されている。第1クラッチC−1のクラッチドラム22のハブ部22cの後端と連結部材102のハブ部102cとの間にはベアリングb6が介装されている。
つづいて、各構成要素の油路構造について説明する。
入力軸12には、軸方向に3本の油路、すなわち前端から後方に向けた油路c1、後端から前方に向けた油路c2,c3が穿設されている。また、油路c1は、径方向の油路c4,c5により、油路c2は、径方向の油路c6,c7により、そして油路c3は、径方向の油路c8〜c11により、それぞれ入力軸12の外周面に連通されている。隔壁部材3aのボス部3bには、前側から順に、7本の油路c12〜c18が径方向に貫通されている。このボス部3bの外周側に位置するクラッチドラム42のハブ部42cには、前側から順に、c19〜c22が径方向に貫通するように穿設されている。また、入力軸12の後方外周側に位置する第1クラッチC−1のクラッチドラム22のハブ部22cには、油路c23が径方向に貫通するように穿設されている。さらに、スリーブ部材100の外周側には、油溝(不図示)が形成されており、ボス部3bとの間に油路を構成しており、すなわち、広義としてのボス部3b内に油路が形成されている(以下、「ボス部3b内の油路」という)。そして、入力軸12の外周側には、ボス部3b(スリーブ部材100)と油路c4,c5,c8,c6とをシールするためのシールリングd1〜d4が設けられており、また、入力軸12の後方外周側には、油路c7と油路c23とをシールするためのシールリングd5,d6が設けられている。さらに、ボス部3bの外周側には、このボス部3bの油路c13,c16とクラッチドラム42のハブ部42cの油路c19,c21とをシールするためのシールリングd7〜d10が設けられている。
なお、図1に示すように、第2クラッチC−2の油圧サーボ30には、ミッションケース3の隔壁部3cに設けられた油路c24、出力軸15に設けられた油路c25、中間軸(入力軸)13に設けられた油路c26を介して油圧制御装置より作動油が供給される。
ついで、潤滑油の供給について説明する。
上述したオイルポンプ8により発生した油圧に基づき潤滑油がボス部3b内の油路に供給されると、この潤滑油はボス部3bの油路c12,c14,c15,c17,c18に供給されて、このボス部3bの外周側に向けて飛散される。また、オイルポンプ8よりボス部3b内の油路に供給された潤滑油は、シールリングd2,d3にシールされる形で入力軸12の油路c8に供給され、油路c3内を介して後方側に供給されるとともに、油路c9,c10,c11より入力軸12の外周側に向けて飛散される。これにより、ミッションケース3内の各部材、すなわち、プラネタリギヤDPの各ギヤ、第1クラッチC−1の各部材、第3クラッチC−3の各部材、第4クラッチC−4の各部材、第1ブレーキB−1の各部材、特に摩擦板21,41,51,61やベアリングb1〜b6などが潤滑される。なお、例えば第3クラッチC−3、第4クラッチC−4のキャンセル油室47,57内の油も、油路c20、c22を介して潤滑油と同様に供給され、また排出された際は、他の潤滑油と合流する形でミッションケース3内の各部材を潤滑する。
次に、作動油の供給について説明する。
例えばオイルポンプ8により発生した油圧に基づき、油圧制御装置(不図示)において、第1クラッチC−1、第2クラッチC−2、第3クラッチC−3、第4クラッチC−4、第1ブレーキB−1、第2ブレーキB−2、及びロックアップクラッチ10の係合油圧が油圧制御されて発生する。そのうち、ロックアップクラッチ10、第1クラッチC−1、第3クラッチC−3、及び第4クラッチC−4の係合油圧に基づき各作動油が、ボス部3b内(スリーブ部材100内)に別々に設けられた各油路に、前方側のボス部3bの付根(基端部)付近より供給される。
ロックアップクラッチ10の係合用の作動油がボス部3b内の油路に供給されると、このボス部3b内の油路からシールリングd1,d2にシールされる形で油路c4,c5に供給される。この油路c4,c5に供給された作動油は、油路c1を介してロックアップクラッチ10の摩擦板まで供給されてこの摩擦板に作用し、入力軸11に設けられたフランジ状部材にこの摩擦板が押圧されて、つまりロックアップクラッチ10が係合する。なお、油圧制御装置の油圧制御に基づきロックアップクラッチを解放する際は、作動油が反対に油路c1、c4、c5を介して排出される。
また、第3クラッチC−3の係合用の作動油がボス部3b内の油路に供給されると、このボス部3b内の軸方向の油路(不図示)から油路c13に供給される。この油路c13に供給された作動油は、シールリングd7,d8にシールされる形で油路c19に、つまり互いに相対回転し得るボス部3bの油路c13からクラッチドラム42の油路c19に供給される。そして、作動油は、油路c19を介して第3クラッチC−3の油圧サーボ40の油室46に供給され、ピストン部材43が後方側に押圧されるとともにドラム部43bにより摩擦板41が押圧され、つまり第3クラッチC−3が係合する。なお、油圧制御装置の油圧制御に基づき第3クラッチC−3を解放する際は、上述のリターンスプリング45の付勢によってピストン部材43が前方側に押圧され、それによって油室46の作動油が、反対に油路c19、c13、ボス部3b内の軸方向の油路を介して排出される。
また、第4クラッチC−4の係合用の作動油がボス部3b内の油路に供給されると、このボス部3b内の軸方向の油路(不図示)から油路c16に供給される。この油路c16に供給された作動油は、シールリングd9,d10にシールされる形で油路c21に、つまり互いに相対回転し得るボス部3bの油路c16からクラッチドラム42の油路c21に供給される。そして、作動油は、油路c21を介して第4クラッチC−4の油圧サーボ50の油室56に供給され、ピストン部材53が後方側に押圧されるとともに摩擦板51が押圧され、つまり第4クラッチC−4が係合する。なお、油圧制御装置の油圧制御に基づき第4クラッチC−4を解放する際は、上述のリターンスプリング55の付勢によってピストン部材53が前方側に押圧され、それによって油室56の作動油が、反対に油路c21、c16、ボス部3b内の軸方向の油路を介して排出される。
また、第1クラッチC−1の係合用の作動油がボス部3b内の油路に供給されると、このボス部3b内の軸方向の油路(不図示)からシールリングd3,d4にシールされる形で油路c6に、つまり互いに相対回転し得るボス部3bの油路から入力軸12の油路c6に供給される。さらにこの油路c6に供給された作動油は、入力軸12内の油路c2を介して後方側に供給され、油路c7に供給される。この油路c7に供給された作動油は、シールリングd5,d6にシールされる形で油路c23に、つまり互いに相対回転し得る入力軸12の油路c7からクラッチドラム22の油路c23に供給される。そして、作動油は、油路c23を介して第1クラッチC−1の油圧サーボ20の油室26に供給され、ピストン部材23が後方側に押圧されるとともに摩擦板21が押圧され、つまり第1クラッチC−1が係合する。なお、油圧制御装置の油圧制御に基づき第1クラッチC−1を解放する際は、上述のリターンスプリング25の付勢によってピストン部材23が前方側に押圧され、それによって油室26の作動油が、反対に油路c23、c7、c2,c6,ボス部3b内の軸方向の油路を介して排出される。
以上説明した本発明に係る自動変速機1によると、プラネタリギヤDPと第1クラッチC−1と第3クラッチC−3と第4クラッチC−4とをプラネタリギヤユニットPUの軸方向一方側に配置し、かつプラネタリギヤDPと第4クラッチC−4とを第3クラッチC−3のクラッチドラム42より内周側に配置したので、第1クラッチC−1及び第3クラッチC−3の摩擦板21,41の面積を大径化することが可能であって、減速回転を伝達するための第1クラッチC−1及び第3クラッチC−3の伝達可能なトルク容量を大きくすることができるものでありながら、入力回転を伝達するために比較的伝達可能なトルク容量が小さくて足りる第4クラッチC−4とプラネタリギヤDPとを、第3クラッチC−3のクラッチドラム42の内周側に配置することができ、例えば前進8速段、及び後進2速段のような多段変速が可能な自動変速機1をコンパクト化することができる。
次に、本発明の特徴である、クラッチ装置について詳述する。本発明に係るクラッチ装置は、図1〜図5に示す2組のクラッチ、すなわち第3クラッチC−3と第4クラッチC−4とを備えている。
図6に、第3クラッチ(他方のクラッチ)C−3、第4クラッチ(一方のクラッチ)C−4の拡大縦断面図を示す。ただし、同図においては、適宜、部材を省略している。例えば、図2に図示しているリターンプレート44,54、リターンスプリング45,55、キャンセル油室47,57、リングギヤ(他方のクラッチハブ)R1、ドラム部(一方のクラッチハブ)CR1c等は省略している。
第3クラッチC−3は、図2に示すように、クラッチドラム(他方のクラッチドラム)42とリングギヤ(他方のクラッチハブ)R1との間に摩擦板(他方の摩擦板)41が介装されている。すなわち、クラッチドラム42のドラム部42bには外摩擦板41aが係合され、リングギヤR1には内摩擦板41bが係合されている。そして、クラッチハブとしてのリングギヤR1は、クラッチドラム22等を介してプラネタリギヤユニットPU(図1参照)のサンギヤ(回転要素)S3に連結されている。
第4クラッチC−4は、図2に示すように、クラッチドラム(一方のクラッチドラム)52とキャリヤCR1のドラム部(一方のクラッチハブ)CR1cとの間に摩擦板(一方の摩擦板)51が介装されている。すなわち、クラッチドラム52のドラム部52bには外摩擦板51aが係合され、ドラム部CR1cには内摩擦板51bが係合されている。そしてクラッチハブとしてのドラム部CR1cは、図1に示すように、中間軸13、第2クラッチC−2を介して、プラネタリギヤユニットPUのキャリヤ(回転要素)CR2、つまり上述のサンギヤ(回転要素)S3とは異なる回転要素に連結されている。
これに対し、第3クラッチC−3のクラッチドラム42と第4クラッチC−4のクラッチドラム52とは、後述のように、相互に相対回転不能に係合されて、図1,図2に示すように、連結部材101を介して、プラネタリギヤユニットPUの同一の回転要素であるサンギヤS2に連結されている。
第3クラッチC−3のピストン部材43は、図6に示すように、クラッチドラム42の基端部に油密状に嵌合するフランジ部(以下「ピストン部」という。)43aとこのピストン部43aの外周から軸方向後側(図6中の右側)に延びるほぼ円筒状のドラム部(以下「作動部」という。)43bを備えている。この作動部43bは、クラッチドラム52とクラッチドラム42との間に配設されている。すなわち、クラッチドラム52のドラム部52bの外周側に、クラッチドラム42のドラム部42bを被嵌し、上述のピストン部材43の作動部43bを、クラッチドラム52のドラム部52bの外周面と、クラッチドラム42のドラム部42bの内周面との間を通している。作動部43bは、その基端部43cがピストン部43aの外周側に連結され、その先端43dを、摩擦板41の前面に対向させている。ピストン部材43全体は、クラッチドラム42に対して、軸方向(前後方向:図6中の左右方向)に移動可能となっている。
図6のA−A線矢視図(A視)を図7の上半部に、またB−B線矢視図(B視)を図7の下半部に示す。図6,図7に示すように、内側から外側にかけて順に、第4クラッチC−4のクラッチドラム52のドラム部52b、第3クラッチC−3のピストン部材43の作動部43b、第3クラッチC−3のクラッチドラム42のドラム部42bが配置されている。
図6の上半部及び図7の上半部に示すように、作動部43bの基端部43c近傍には、その内周面側と外周面側とを連通する貫通部として孔432が穿設されている。この孔432は、作動部43bを径方向の外側から見たときの形状がほぼ長方形となっている。この孔432の軸方向の位置については、図6に示すように、ピストン部43aの外径側近傍、すなわち作動部43bの基端部43c近傍に形成されている段部から先端方向に向けて、作動部43bの軸方向中間部まで延びるように形成されている。一方、周方向の位置については、図7に示すように、作動部43bを周方向に6等分する位置(60°毎)にそれぞれ配置されている。つまり周方向に沿って6個の孔432が穿設されている。さらに、作動部43bは、孔432の周方向の長さと、連結部(孔でない部分)431の周方向の長さとがほぼ同じになるように形成されている。なお、孔432が作動部の基端側に窓状に形成されているので、作動部43bは、その先端43dにおいては、周方向に切り欠かれることはなく、完全な円筒形状となっている。つまり、作動部43bの先端側面は、環状となっている。
作動部43bの内側に位置するドラム部52bと外側に位置するドラム部42bとは、上述の孔432を介して係合されている。外側のドラム部42bのうち、作動部43bの孔432に対応する部分421の内周面には、内スプライン422が形成されている。この内スプライン422の歯先は、作動部43bの内周面よりも内側に入り込むように形成されている。この内スプライン422の軸方向の位置及び長さは、上述の孔432の軸方向の位置及び長さにほぼ対応している。一方、内側のドラム部52bの外周面のうち少なくとも、作動部43bの孔432に対応する部分には、外スプライン521が形成されている。この外スプライン521の歯先は、作動部43bの内周面よりも少し内側に位置するように形成されている。この外スプライン521は、ドラム部52bの外周面の軸方向長さのほぼ全長にわたって形成されている。また、ドラム部52bの内周面には、周方向に沿っての、上述の連結部431に対応する部分に、上述の外摩擦板51aが係合される内スプライン522が形成されている。
上述の作動部43bの孔432を介して、外側のドラム部42bの内スプライン422と、内側のドラム部52bの外スプライン521とが、相互に相対回転不能に係合されて係合部を構成している。図7の下半部(B視)に示すように、作動部43b及びドラム部42bのうち、周方向に沿って上述の孔432に対応する位置で、かつ軸方向に沿って孔432よりも後側に位置する部分は、符号433で示すように、作動部43bの外周面とドラム部42bの内周面とが適宜な遊びをもってスプライン結合されている。これに対し、図7から明らかなように、作動部43bの内周面と、ドラム部52bの外周面とは、直接は係合されていない。
以上説明した、第1の実施の形態に係るクラッチ装置によると、ピストン部材43の作動部43bに孔432を設け、この孔432を介して、第3クラッチC−3のクラッチドラム42と第4クラッチC−4のクラッチドラム52とを相対回転不能に係合させた。これにより、ピストン部材43は、第4クラッチC−4の摩擦板51が接合された状態であっても、このことに起因して不要なトルク伝達を受けることがなく、軸方向に移動して摩擦板41を係脱させることができる。すなわち、第3クラッチC−3のクラッチドラム42の内側に第4クラッチC−4を配設するといったコンパクトな構成でありながら、それぞれ第3クラッチC−3、第4クラッチC−4を相互に影響を受けることなく個別に作動させることができる。
また、ピストン部材43の作動部43bは、その先端、すなわち摩擦板41を押圧する部分が円筒状に形成されているので、摩擦板41を押圧する際に、面圧分布が均等になって、片当たりが発生することがない。
さらに、前述のように、ピストン部材43の作動部43bは、摩擦板51を支持するクラッチドラム52のドラム部52bとは直接は係合されていないので、摩擦板51が接合されたときにドラム部52bに作用するトルクが、直接、ピストン部材43に伝達されることがないので、ピストン部材43の軸方向の動きが阻害されることはない。
<第2の実施の形態>
図8,図9を参照して、本実施の形態に係るクラッチ装置を説明する。
なお、上述の第1の実施の形態と同様な構成、作用の部材等については、同じ符号を付して、その重複説明は省略するものとする。
図8は、第3クラッチ(他方のクラッチ)C−3、第4クラッチ(一方のクラッチ)C−4の拡大縦断面図を示す。ただし、同図においては、適宜、部材を省略している。例えば、図2に図示しているリターンプレート44,54、リターンスプリング45,55、キャンセル油室47,57、リングギヤ(他方のクラッチハブ)R1、ドラム部(一方のクラッチハブ)CR1c等は省略している。図9の上半部は、図8のA−A線矢視図(A視)、また図9の下半部は、図8のB−B線矢視図(B視)である。
これらの図に示すように、内側から外側にかけて順に、第4クラッチC−4のクラッチドラム52のドラム部52b、第3クラッチC−3のピストン部材43の作動部43b、第3クラッチC−3のクラッチドラム42のドラム部42bが配置されている。
図8及び図9の下半部に示すように、ピストン部材43の作動部43bは、その基端側においては、ほぼ円筒状に形成されていて、同じくほぼ円筒状に形成されている内側のドラム部52b及び外側のドラム部42bの間に配置されている。ドラム部52bと作動部43bとは、符号527に示すように、また作動部43bとドラム部42bとは、符号437に示すように、それぞれ適宜な間隙をもってスプライン結合されている。
これに対し、図8及び図9の上半部に示すように、ピストン部材43の作動部43bの先端側においては、ピストン部材43の作動部43bの先端側において、先端側端部が開放されている櫛歯状の切欠部438を周方向に沿って多数設けている。周方向に沿って、切欠部438と、櫛歯部439とが交互に並ぶようにしている。そして、内側のドラム部52bに、切欠部438を内周側から外周側に貫通するように歯部526を設け、この歯部526の先端を、外側のドラム部42bの内周面426に形成した凹部427に係合させている。つまり、歯部526と凹部427とによって係合部を構成している。この係合部により、内側のドラム部52bと外側のドラム部42bとは、相対回転不能に係合される。また、作動部43b全体は、軸方向移動可能となる。なお、内側のドラム部52bの内周面には、外摩擦板51aが係合されるスプライン528が形成されている。
以上説明した、第2の実施の形態に係るクラッチ装置によると、ピストン部材43の作動部43bの先端側に櫛歯状の切欠部438を設け、この切欠部438を介して、第3クラッチC−3のクラッチドラム42と第4クラッチC−4のクラッチドラム52とを相対回転不能に係合させた。これにより、ピストン部材43は、第4クラッチC−4の摩擦板51が接合された状態であっても、このことに起因して不要なトルク伝達を受けることがなく、軸方向に移動して摩擦板41を係脱させることができる。すなわち、第3クラッチC−3のクラッチドラム42の内側に第4クラッチC−4を配設するといったコンパクトな構成でありながら、それぞれ第3クラッチC−3、第4クラッチC−4を相互に影響を受けることなく個別に作動させることができる。