以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るクラッチ構造が適用された自動変速機1を一例として示す。この自動変速機1は、FR式の車両に搭載される縦置き式の自動変速機である。
自動変速機1は、変速機ケース11と、該変速機ケース11内に挿入されかつ上記車両の駆動源(エンジン、モータ等)からの動力が入力される入力軸12と、変速機ケース11内に収容されかつ入力軸12を介して上記駆動源からの動力が伝達される変速機構14と、変速機ケース11内に挿入されかつ変速機構14からの動力をプロペラシャフトに出力する出力軸13とを有している。
入力軸12と出力軸13とは、車両前後方向に沿って同軸に配置されており、自動変速機1が上記車両に搭載された状態で、入力軸12が車両前側に位置しかつ出力軸13が車両後側に位置している。以下の説明では、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)における上記駆動源側(図1の左側)を前側といい、入力軸12の軸方向における上記駆動源とは反対側(図1の右側)を後側という。また、入力軸12の軸方向(出力軸13の軸方向)は、自動変速機1の軸方向とも呼ばれ、以下、自動変速機1の軸方向を、単に軸方向といい。軸方向に垂直な方向である自動変速機1の径方向を、単に径方向という。
変速機構14は、軸方向に並ぶ、第1プラネタリギヤセットPG1(以下、第1ギヤセットPG1という)、第2プラネタリギヤセットPG2(以下、第2ギヤセットPG2という)、第3プラネタリギヤセットPG3(以下、第3ギヤセットPG3という)、及び、第4プラネタリギヤセットPG4(以下、第4ギヤセットPG4という)を有している。これら第1ギヤセットPG1、第2ギヤセットPG2、第3ギヤセットPG3及び第4ギヤセットPG4は、前側からこの順に並んでいて、入力軸12から出力軸13への複数の動力伝達経路を形成する。第1~第4ギヤセットPG1~PG4は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。
第1ギヤセットPG1は、回転要素として、第1サンギヤS1、第1リングギヤR1及び第1キャリヤC1を有する。第1ギヤセットPG1は、シングルピニオン型であって、第1キャリヤC1に支持されかつ第1ギヤセットPG1の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP1が第1サンギヤS1及び第1リングギヤR1の両方に噛み合わされている。
第2ギヤセットPG2は、回転要素として、第2サンギヤS2、第2リングギヤR2及び第2キャリヤC2を有する。第2ギヤセットPG2も、シングルピニオン型であって、第2キャリヤC2に支持されかつ第2ギヤセットPG2の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP2が第2サンギヤS2及び第2リングギヤR2の両方に噛み合わされている。
第3ギヤセットPG3は、回転要素として、第3サンギヤS3、第3リングギヤR3及び第3キャリヤC3を有する。第3ギヤセットPG3も、シングルピニオン型であって、第3キャリヤC3に支持されかつ第3ギヤセットPG3の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP3が第3サンギヤS3及び第3リングギヤR3の両方に噛み合わされている。
第4ギヤセットPG4は、回転要素として、第4サンギヤS4、第4リングギヤR4及び第4キャリヤC4を有する。第4ギヤセットPG4も、シングルピニオン型であって、第4キャリヤC4に支持されかつ第4ギヤセットPG4の周方向に互いに間隔をあけて配置された複数のピニオンP4が第4サンギヤS4及び第4リングギヤR4の両方に噛み合わされている。
第1ギヤセットPG1の第1サンギヤS1は、入力軸12の軸方向に2分割されており、相対的に前側に配置された前側第1サンギヤS1aと相対的に後側に配置された後側第1サンギヤS1bとを有している。つまり、第1ギヤセットPG1は、ダブルサンギヤ型のギヤセットである。前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、同じ歯数の歯を有して、第1キャリヤC1に支持されたピニオンP1に噛合しているため、これら前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの回転数は常に等しくなる。すなわち、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bは、常に同じ回転速度で回転し、一方のギヤの回転が停止しているときには他方のギヤの回転も停止する。
第1サンギヤS1(厳密には、後側第1サンギヤS1b)と第4サンギヤS4とが常時連結され、第1リングギヤR1と第2サンギヤS2とが常時連結され、第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とが常時転結され、第3キャリヤC3と第4リングギヤR4とが常時連結されている。また、入力軸12は第1キャリヤC1に常時連結され、出力軸13は第4キャリヤC4に常時連結されている。具体的には、入力軸12は、前側及び後側第1サンギヤS1a,S1bの間を通る動力伝達部材18を介して第1キャリヤC1と連結されている。後側第1サンギヤS1bと第4サンギヤS4とは、動力伝達軸15を介して連結されている。第2キャリヤC2と第4キャリヤC4とは、動力伝達部材16を介して連結されている。
変速機構14は、第1~第4ギヤセットPG1~PG4により形成される上記複数の動力伝達経路の中から1つを選択して動力伝達経路を切り換えるための5つの摩擦締結要素(3つのクラッチ20,30,40及び2つのブレーキ50,60)を有している。
3つのクラッチ20,30,40は、第1ギヤセットPG1よりも前側に配置されているとともに、軸方向に並設されている。これら3つのクラッチ20,30,40は、後側(第1ギヤセットPG1に近い側)から、クラッチ20、クラッチ30及びクラッチ40の順に配置されている。以下、クラッチ20を後側クラッチ20といい、クラッチ30を中間クラッチ30といい、クラッチ40を前側クラッチ40という。
軸方向において、ブレーキ50は、前側クラッチ40よりも前側に配置され、ブレーキ60は、ブレーキ50よりも後側であって、第3ギヤセットPG3の近傍に配置されている。以下、ブレーキ50を前側ブレーキ50といい、ブレーキ60を後側ブレーキ60という。
後側クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。後側クラッチ20は、第1ギヤセットPG1の直ぐ前側に配設されている。
中間クラッチ30は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。中間クラッチ30は、後側クラッチ20の直ぐ前側に配設されている。
前側クラッチ40は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接するように構成されている。前側クラッチ40は、中間クラッチ30の直ぐ前側に配設されている。
前側ブレーキ50は、第1サンギヤS1(厳密には前側第1サンギヤS1a)と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。前側ブレーキ50の締結時には、第1サンギヤS1が変速機ケース11に固定される。前側ブレーキ50と前側第1サンギヤS1aとは、連結部材8によって互いに連結されている。
後側ブレーキ60は、第3リングギヤR3と変速機ケース11との間を断接するように構成されている。後側ブレーキ60の締結時には、第3リングギヤR3が変速機ケース11に固定される。
上記各摩擦締結要素は、該各摩擦締結要素の締結油圧室への作動油の供給により締結される。図2の締結表に示すように、5つの摩擦締結要素から3つの摩擦締結要素を選択的に締結することにより、前進の1速~8速及び後退速が形成される。尚、図2の締結表では、○印が、摩擦締結要素が締結していることを示し、空欄が、摩擦締結要素が締結を解除(解放)していることを示す。
具体的には、後側クラッチ20、前側ブレーキ50及び後側ブレーキ60の締結により、1速が形成される。中間クラッチ30、前側ブレーキ50及び後側ブレーキ60の締結により、2速が形成される。後側クラッチ20、中間クラッチ30及び後側ブレーキ60の締結により、3速が形成される。中間クラッチ30、前側クラッチ40及び後側ブレーキ60の締結により、4速が形成される。後側クラッチ20、前側クラッチ40及び後側ブレーキ60の締結により、5速が形成される。後側クラッチ20、中間クラッチ30及び前側クラッチ40の締結により、6速が形成される。後側クラッチ20、前側クラッチ40及び前側ブレーキ50の締結により、7速が形成される。中間クラッチ30、前側クラッチ40及び前側ブレーキ50の締結により、8速が形成される。前側クラッチ40、前側ブレーキ50及び後側ブレーキ60の締結により、後退速が形成される。6速では、入力軸12の回転速度と出力軸13の回転速度が同じになる。
次に、後側クラッチ20、中間クラッチ30及び前側クラッチ40の構成について図3により詳細に説明する。前側クラッチ40は、本発明の第1クラッチに相当し、中間クラッチ30は、本発明の第2クラッチに相当し、後側クラッチ20は、本発明の第3クラッチに相当する。尚、図3中、Cは、入力軸12の中心軸(出力軸13の中心軸)である。
図3に示すように、前側クラッチ40は、第1クラッチドラム部材6と、該第1クラッチドラム部材6の内周側に、軸方向に並ぶ複数の摩擦板41を介して設けられた第1ハブ部材35とを有している。第1クラッチドラム部材6及び第1ハブ部材35は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。第1クラッチドラム部材6は、前側に開口する有底筒状をなしている。第1クラッチドラム部材6の後側端部(底部)は、第2リングギヤR2に連結される。第1ハブ部材35は、前側クラッチ40の中間クラッチ30とは反対側(つまり前側クラッチ40の前側)に設けられかつ入力軸12の周りに回転可能な環状の動力伝達部材45と一体形成されたものであって、動力伝達部材45から後側に突出形成されたものである。動力伝達部材45は、動力伝達用ドラム部材5を介して、第3サンギヤS3に連結される。このような連結により、前側クラッチ40は、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3との間を断接することが可能になる。
動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。動力伝達用ドラム部材5は、前側に開口する有底筒状をなしているとともに、第1クラッチドラム部材6の外周側に設けられている。動力伝達用ドラム部材5の前側端部(開放側の端部)が、動力伝達部材45の外周側端部と連結される。動力伝達用ドラム部材5の後側端部(底部)が第3サンギヤS3に連結される。
動力伝達部材45は、その内周側端部において後側に突出する筒状のボス部45aを有していて、該ボス部45aにおいて、ボス部45aの内周側で軸方向に沿って延びる軸方向延設部材51とスプライン嵌合されている。軸方向延設部材51には、動力伝達部材45の軸方向延設部材51に対する軸方向の移動を規制するスナップリング71が設けられている。
前側クラッチ40の複数の摩擦板41は、第1クラッチドラム部材6の前側端部(開口側の端部)の内側に、軸方向に移動可能に取り付けられたドラム側摩擦板41aと、第1ハブ部材35の外周部に、軸方向に移動可能にかつドラム側摩擦板41aと交互に並ぶように取り付けられたハブ側摩擦板41bとを含む。
前側クラッチ40は、複数の摩擦板41(ドラム側摩擦板41a及びハブ側摩擦板41b)同士を係合させるように軸方向(本実施形態では、前側)に進出する第1締結ピストン42と、第1締結ピストン42を軸方向(前側)に進出させるための作動油が供給される第1締結油圧室43とを更に有する。
第1締結油圧室43は、第1ハブ部材35の径方向内側に配置されていて、第1締結ピストン42と第1締結油圧室形成部材52とによって形成されている。第1締結油圧室形成部材52は、軸方向延設部材51とスプライン嵌合されている。軸方向延設部材51には、第1締結油圧室形成部材52の軸方向延設部材51に対する軸方向の移動を規制するスナップリング72が設けられている。
第1締結油圧室形成部材52には、第1締結油圧室43にその径方向内側から作動油を供給するための第1油路52aが径方向に延びるように設けられている。また、軸方向延設部材51には、第1油路52aを介して第1締結油圧室43に作動油を供給するための第1締結油圧室用油路51aが径方向に延びるように設けられている。
第1締結ピストン42は、第1締結油圧室43に供給された作動油の圧力を受ける受圧部42aを有している。受圧部42aは、第1締結油圧室43の前側に位置していて、該作動油の圧力を受けて前側に移動する。受圧部42aは、受圧部42aに対して第1締結油圧室43とは反対側(前側)に位置する第1遠心バランス室48において周方向に並んで設けられた複数の第1リターンスプリング47(図3では、1つしか示していない)の付勢力によって、後側に付勢されている。本実施形態では、各第1リターンスプリング47は、圧縮コイルスプリングで構成されている。尚、第1リターンスプリング47を板バネで構成することも可能である(後述の第2リターンスプリング37及び第3リターンスプリング27も同様)。
第1締結ピストン42は、後側に開口する有底筒状に形成されていて、前側に位置する底部が受圧部42aに相当する。第1締結ピストン42の開口側の端部(後側の端部)は径方向外側に拡がっており、その拡がった部分の径方向外側の端部には、摩擦板41の後側に位置して該摩擦板41を前側に押圧する押圧部42bが設けられている。
ここで、入力軸12と軸方向延設部材51との径方向の間には、前側ブレーキ50と前側第1サンギヤS1aとを連結する連結部材8と、軸方向延設部材51を回転可能に支持する回転支持部材9とが設けられている。回転支持部材9は、回転支持部材9の内周側に位置する連結部材8の回転支持も行う。
入力軸12には、入力軸12の中心に沿って延びる油路12aと、油路12aから径方向外側に延びる複数の油路12bとが設けられている。連結部材8の各油路12bに対応する部分には、径方向に延びる油路8aが設けられている。油路12a,12b,8aにより作動油が回転支持部材9に供給される。この回転支持部材9に供給された作動油は、回転支持部材9における第1締結油圧室用油路51aに対応する部分に設けられた油路9aから、第1締結油圧室用油路51a及び第1油路52aを介して第1締結油圧室43に供給される。この第1締結油圧室43に供給された作動油によって、第1締結ピストン42の受圧部42aが第1リターンスプリング47の付勢力に抗して前側に移動して、押圧部42bが摩擦板41を前側に押圧し、これにより、ドラム側摩擦板41aとハブ側摩擦板41bとが互いに係合して、前側クラッチ40が締結状態となる。尚、摩擦板41の前側には、押圧部42bによる押圧力を受け止める、動力伝達部材45で構成されたリテーニング部45bが設けられている。
第1締結ピストン42と動力伝達部材45との間には、第1遠心バランス室48の壁部の一部を構成する第1遠心バランス室形成部材49が設けられている。第1遠心バランス室48の壁部は、第1締結油圧室形成部材52、軸方向延設部材51、第1締結ピストン42、及び第1遠心バランス室形成部材49で構成される。
第1遠心バランス室形成部材49は、第1リターンスプリング47の、受圧部42aを後側に付勢する付勢力の反力によって前側に押圧されて、第1遠心バランス室形成部材49の前側端が動力伝達部材45に当接されている。第1遠心バランス室形成部材49の内周側端の後側端部は、動力伝達部材45のボス部45aの外周面に当接している。
尚、第1遠心バランス室形成部材49は、第1リターンスプリング47が当接する部分以外の部分が該当接する部分よりも後側に突出するように形成されている。これは、第1リターンスプリング47の長さを確保しながら、第1遠心バランス室48の容積を適切な値にするためである。
軸方向延設部材51には、第1締結油圧室用油路51aと同様に径方向に延びる第1遠心バランス室用油路51bが設けられている。第1遠心バランス室用油路51bは、軸方向延設部材51において第1締結油圧室用油路51aとは周方向で異なる部分に設けられている。第1遠心バランス室48には、油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油が、第1遠心バランス室用油路51bを介して供給される。
動力伝達部材45と第1遠心バランス室形成部材49との間には、第1遠心バランス室48の作動油を、潤滑油として前側クラッチ40の摩擦板41へ導くためのオイル通路が設けらている。具体的に、第1遠心バランス室形成部材49における動力伝達部材45と当接する部分(内周側端及び前側端)の周方向の一部には、第1遠心バランス室48の作動油が、動力伝達部材45の表面に沿って流れるようにするための溝部49aが形成されている。第1遠心バランス室形成部材49の内周側端及び前側端に形成された溝部49aを順に通過した作動油は、遠心力によって、動力伝達部材45の表面(後側の面)に沿って第1ハブ部材35まで流れた後、第1ハブ部材35に径方向に延びるように設けた不図示の貫通孔を通って摩擦板41に達する。
このようなオイル通路(溝部49a)を設けることによって、第1遠心バランス室48からの作動油を摩擦板41へ潤滑油として容易に導くことができるようになる。また、入力軸12の内部に設けられる油路12aから、潤滑油を動力伝達部材45の内部を通して摩擦板41へ供給する場合に比べて、動力伝達部材45の軸方向の長さを短くすることができる。
中間クラッチ30は、第1クラッチドラム部材6の内周側に設けられた第2クラッチドラム部材7と、第2クラッチドラム部材7の内周側に、軸方向に並ぶ複数の摩擦板31を介して設けられた第2ハブ部材34とを有している。第2クラッチドラム部材7及び第2ハブ部材34は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。第2クラッチドラム部材7は、前側に開口する有底筒状をなしている。第2クラッチドラム部材7の後側端部(底部)は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2に連結される。第2ハブ部材34は、後側クラッチ20における後述の第3クラッチドラム部材4(後述の如く、軸方向延設部材51と一体形成されたものである)に固定されていて、該第3クラッチドラム部材4、軸方向延設部材51、動力伝達部材45及び動力伝達用ドラム部材5を介して、第3サンギヤS3に連結される。このような連結により、中間クラッチ30は、第1リングギヤR1及び第2サンギヤS2と第3サンギヤS3との間を断接することが可能になる。
中間クラッチ30の複数の摩擦板31は、第2クラッチドラム部材7の前側端部(開口側の端部)の内側に、軸方向に移動可能に取り付けられたドラム側摩擦板31aと、第2ハブ部材34の外周部(後述の摩擦板取付部34b)に、軸方向に移動可能にかつドラム側摩擦板31aと交互に並ぶように取り付けられたハブ側摩擦板31bとを含む。
中間クラッチ30は、複数の摩擦板31(ドラム側摩擦板31a及びハブ側摩擦板31b)同士を係合させるように軸方向(本実施形態では、後側)に進出する第2締結ピストン32と、第2締結ピストン32を軸方向(後側)に進出させるための作動油が供給される第2締結油圧室33とを更に有する。
第2締結油圧室33は、第1ハブ部材35の径方向内側でかつ第1締結油圧室43の後側に配置されていて、第2締結ピストン32と第2締結油圧室形成部材53とによって形成されている。第2締結油圧室形成部材53は、第1締結油圧室形成部材52と同様に、軸方向延設部材51とスプライン嵌合されている。軸方向延設部材51には、第2締結油圧室形成部材53の軸方向延設部材51に対する軸方向の移動を規制するスナップリング73が設けられている。
第2締結油圧室形成部材53には、第2締結油圧室33にその径方向内側から作動油を供給するための第2油路53aが径方向に延びるように設けられている。また、軸方向延設部材51には、第2油路53aを介して第2締結油圧室33に作動油を供給するための第2締結油圧室用油路51cが径方向に延びるように設けられている。
第2締結ピストン32は、第2締結油圧室33に供給された作動油の圧力を受ける受圧部32aを有している。受圧部32aは、第2締結油圧室33の後側に位置していて、該作動油の圧力を受けて後側に移動する。受圧部32aは、受圧部32aに対して第2締結油圧室33とは反対側(後側)に位置する第2遠心バランス室38において周方向に並んで設けられた複数の第2リターンスプリング37(図3では、1つしか示していない)の付勢力によって、前側に付勢されている。本実施形態では、各第2リターンスプリング37は、圧縮コイルスプリングで構成されている。
第2締結ピストン32は、後側に開口する有底筒状に形成されており、前側に位置する底部が受圧部32aに相当する。第2締結ピストン32の開口側の端部(後側の端部)は径方向外側に拡がっており、その拡がった部分の径方向外側の端部には、摩擦板31の前側に位置して該摩擦板31を後側に押圧する押圧部32bが設けられている。押圧部32bは、第1締結ピストン42の押圧部32bの直ぐ後側に位置する。
上記のように油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油は、回転支持部材9における第2締結油圧室用油路51cに対応する部分に設けられた油路9bから、第2締結油圧室用油路51c及び第2油路53aを介して第2締結油圧室33に供給される。この第2締結油圧室33に供給された作動油によって、第2締結ピストン32の受圧部32aが第2リターンスプリング37の付勢力に抗して後側に移動して、押圧部32bが摩擦板31を後側に押圧し、これにより、ドラム側摩擦板31aとハブ側摩擦板31bとが互いに係合して、中間クラッチ30が締結状態となる。尚、摩擦板31の後側には、押圧部32bによる押圧力を受け止める、第2ハブ部材34で構成されたリテーニング部34aが設けられている。
後側クラッチ20は、第2クラッチドラム部材7の内周側に設けられた第3クラッチドラム部材4と、第3クラッチドラム部材4の内周側に、軸方向に並ぶ複数の摩擦板21を介して設けられた第3ハブ部材24とを有している。第3クラッチドラム部材4及び第3ハブ部材24は、入力軸12及び出力軸13と同軸に配置されている。第3クラッチドラム部材4は、例えばアルミニウム合金で軸方向延設部材51と一体形成されたものである。第3クラッチドラム部材4は、後側に開口する有底筒状をなし、第3クラッチドラム部材4の底部4aが軸方向延設部材51に繋がる。これにより、第3クラッチドラム部材4は、第1ハブ部材35及び第2ハブ部材34と同様に、第3サンギヤS3に連結されることになる。第3ハブ部材24は、第2ハブ部材34の第1ハブ部材35とは反対側(第2ハブ部材34の後側)に配設されていて、第1キャリヤC1の回転軸81の前側端部に結合された円板状部材82に連結される。上記の如く、第1キャリヤC1(回転軸81)は、動力伝達部材18を介して入力軸12と連結されている。このような連結により、後側クラッチ20は、入力軸12及び第1キャリヤC1と第3サンギヤS3との間を断接することが可能になる。
中間クラッチ30の第2ハブ部材34は、ハブ側摩擦板31bが取り付けられる摩擦板取付部34bと、摩擦板取付部34bから径方向内側に延びる径方向延設部34cとを有する。摩擦板取付部34bの後側端部に、上述のリテーニング部34aが設けられている。第2ハブ部材34は、径方向延設部34cにおいて、リベット80を介して、第3クラッチドラム部材4の底部4aに一体的に回転するように固定されている。尚、第2ハブ部材34に設けたリテーニング部34aに代えて、第3クラッチドラム部材4の底部4aに、押圧部32bによる押圧力を受け止めるリテーニング部を設けることも可能である。
第2締結ピストン32と第3クラッチドラム部材4の底部4aとの間には、第2遠心バランス室38の壁部の一部を構成する第2遠心バランス室形成部材39が設けられている。第2遠心バランス室38の壁部は、第2締結油圧室形成部材53、軸方向延設部材51、第2締結ピストン32、及び第2遠心バランス室形成部材39で構成される。
第2遠心バランス室形成部材39は、第2リターンスプリング37の、受圧部32aを前側に付勢する付勢力の反力によって後側に押圧されて、第2遠心バランス室形成部材39の後側端が第3クラッチドラム部材4の底部4aに当接されている。第2遠心バランス室形成部材39の内周側端の前側端部は、軸方向延設部材51の外周面に当接している。
尚、第2遠心バランス室形成部材39は、第2リターンスプリング37が当接する部分以外の部分が該当接する部分よりも前側に突出するように形成されている。これは、第2リターンスプリング37の長さを確保しながら、第2遠心バランス室38の容積を適切な値にするためである。
軸方向延設部材51には、径方向に延びる第2遠心バランス室用油路51dが設けられている。第2遠心バランス室用油路51dは、軸方向延設部材51において第2締結油圧室用油路51cとは周方向で異なる部分に設けられている。第2遠心バランス室38には、油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油が、第2遠心バランス室用油路51dを介して供給される。
第2遠心バランス室形成部材39と第3クラッチドラム部材4の底部4aとの間には、第2遠心バランス室38の作動油を、潤滑油として中間クラッチ30の摩擦板31へ導くオイル通路が設けられている。具体的に、第2遠心バランス室形成部材39における第3クラッチドラム部材4と当接する部分(内周側端及び後側端)の周方向の一部には、第2遠心バランス室38の作動油が、第3クラッチドラム部材4の表面に沿って流れるようにするための溝部39aが形成されている。第2遠心バランス室形成部材39の内周側端及び後側端に形成された溝部39aを順に通過した作動油は、遠心力によって、第3クラッチドラム部材4の底部4a及び第2ハブ部材34の径方向延設部34cの表面に沿って摩擦板取付部34bまで流れた後、摩擦板取付部34bに径方向に延びるように設けた不図示の貫通孔を通って摩擦板31に達する。
このようなオイル通路(溝部39a)を設けることによって、第2遠心バランス室38からの作動油を摩擦板31へ潤滑油として容易に導くことができるようになる。また、入力軸12の内部に設けられる油路12aから、潤滑油を第3クラッチドラム部材4及び第2ハブ部材34の内部を通して摩擦板31へ供給する場合に比べて、第3クラッチドラム部材4及び第2ハブ部材34の特に径方向延設部34cの上記軸方向の長さを短くすることができる。
後側クラッチ20の複数の摩擦板21は、第3クラッチドラム部材4の内側に、軸方向に移動可能に取り付けられたドラム側摩擦板21aと、第3ハブ部材24の外周部に、軸方向に移動可能にかつドラム側摩擦板21aと交互に並ぶように取り付けられたハブ側摩擦板21bとを含む。
後側クラッチ20は、複数の摩擦板21(ドラム側摩擦板21a及びハブ側摩擦板21b)同士を係合させるように軸方向(本実施形態では、後側)に進出する第3締結ピストン22と、第3締結ピストン22を軸方向(後側)に進出させるための作動油が供給される第3締結油圧室23とを更に有する。
第3締結油圧室23は、第3クラッチドラム部材4の底部4aの後側に配置されていて、第3クラッチドラム部材4の底部4a、軸方向延設部材51及び第3締結ピストン22によって形成されている。軸方向延設部材51には、第3締結油圧室43にその径方向内側から作動油を供給するための第3締結油圧室用油路51eが径方向に延びるように設けられている。
第3クラッチドラム部材4の底部4aの後側に、第3締結ピストン22の受圧部22aが配置されている。受圧部22aは、受圧部22aに対して第3締結油圧室23とは反対側に位置する第3遠心バランス室28において周方向に並んで設けられた複数の第3リターンスプリング27(図3では、1つしか示していない)の付勢力によって、前側に付勢されている。本実施形態では、各第3リターンスプリング27は、圧縮コイルスプリングで構成されている。
第3締結ピストン22は、後側に開口する有底筒状に形成されており、前側に位置する底部4aが受圧部22aに相当する。第3締結ピストン22の開口側の端部(後側の端部)は径方向外側に拡がっており、その拡がった部分の径方向外側の端部には、摩擦板21の前側に位置して該摩擦板21を後側に押圧する押圧部22bが設けられている。
回転支持部材9に供給された作動油は、回転支持部材9における第3締結油圧室用油路51eに対応する部分に設けられた油路9cから、第3締結油圧室用油路51eを介して第3締結油圧室23に供給される。この第3締結油圧室23に供給された作動油によって、第3締結ピストン22の受圧部22aが第3リターンスプリング27の付勢力に抗して後側に移動して、押圧部22bが摩擦板21を後側に押圧し、これにより、ドラム側摩擦板21aとハブ側摩擦板21bとが互いに係合して、後側クラッチ20が締結状態となる。尚、摩擦板21の後側には、押圧部22bによる押圧力を受け止めるリテーニング部材76(後述のスナップリング77と同様のスナップリングで構成される)が設けられている。
第3遠心バランス室28は、軸方向延設部材51、第3締結ピストン22、及び第3遠心バランス室形成部材29で構成される。第3遠心バランス室形成部材29は、軸方向延設部材51に嵌合されている。該軸方向延設部材51における第3遠心バランス室形成部材29の後側部分(溝部)には、周方向の一部が切り離されたC形状のスナップリング77が嵌められており、該スナップリング77によって、第3遠心バランス室形成部材29の後側への移動が規制されている。これにより、第3遠心バランス室形成部材29は、第3リターンスプリング27の、受圧部22aを前側に付勢する付勢力の反力を受け止めることができる。
軸方向延設部材51には、径方向に延びる第3遠心バランス室用油路51fが設けられている。第3遠心バランス室用油路51fは、軸方向延設部材51において第3締結油圧室用油路51eとは周方向で異なる部分に設けられている。第3遠心バランス室28には、油路12a,12b,8aにより回転支持部材9に供給された作動油が、第3遠心バランス室用油路51fを介して供給される。
ここで、例えば、前側クラッチ40の第1ハブ部材35が軸方向延設部材51まで径方向内側に延びて、動力伝達部材45と同様に、軸方向延設部材51とスプライン嵌合されていたとする。この場合、動力伝達部材45と第1ハブ部材35との間には、2つのスプライン嵌合が介在するので、該間の周方向のガタがかなり大きくなるという問題がある。
これに対し、本実施形態では、第1ハブ部材35が動力伝達部材45と一体形成されているので、第1ハブ部材35と動力伝達部材45との間の周方向のガタはない。また、第2ハブ部材34は、軸方向延設部材51と一体形成された第3クラッチドラム部材4の底部4aに固定されているので、第2ハブ部材34と動力伝達部材45との間には、1つのスプライン嵌合が介在するだけであるので、第2ハブ部材34と動力伝達部材45との間の周方向のガタは小さく抑えることができる。同様に、第3クラッチドラム部材4と動力伝達部材45との間の周方向のガタも小さく抑えることができる。
さらに、第1ハブ部材35は軸方向に延びているだけであり、内周側に延びる必要がないので、第1ハブ部材35の径方向内側に第1締結油圧室43及び第2締結油圧室33をコンパクトに配置することができる。また、第2ハブ部材34が第3クラッチドラム部材4の底部4aに固定されていることで、第2ハブ部材34及び第3クラッチドラム部材4の底部4aの両方を、軸方向延設部材51まで径方向内側に延ばす必要がない。よって、動力伝達部材45、前側クラッチ40、中間クラッチ30及び後側クラッチ20全体の軸方向の長さを出来る限り短くすることができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上記実施形態では、第2ハブ部材34が、軸方向延設部材51と一体形成された第3クラッチドラム部材4の底部4aに固定されていたが、例えば図4に示すように(図4では、図3と同じ部分については同じ符号を付して、その詳細な説明は省略する)、第2ハブ部材34が、例えばアルミニウム合金で軸方向延設部材51と一体形成され、第3クラッチドラム部材4の底部4aが、リベット80を介して、第2ハブ部材34(径方向延設部34c)に一体的に回転するように固定されていてもよい。この場合、第3クラッチドラム部材4を、例えば鋼の板材をプレス成形して作製することができ、このようにすれば、第3クラッチドラム部材4を、上記実施形態のものよりも精度良く作製することができるようになる。
図4の例では、第2ハブ部材34の径方向延設部34cが摩擦板取付部34bから径方向内側に延びて軸方向延設部材51に繋がることになる。これにより、第2遠心バランス室形成部材39の後側端は、第2ハブ部材34の径方向延設部34cに当接することになる。また、第2遠心バランス室形成部材39と第2ハブ部材34の径方向延設部34cとの間に、第2遠心バランス室38の作動油を、潤滑油として中間クラッチ30の摩擦板31へ導くオイル通路(溝部39a)が設けられる。溝部39aを通過した作動油は、遠心力によって、第2ハブ部材34の径方向延設部34cの表面に沿って摩擦板取付部34bまで流れた後、摩擦板取付部34bに径方向に延びるように設けた貫通孔を通って摩擦板31に達する。
また、図4の例では、第3締結油圧室23は、第2ハブ部材34の径方向延設部34cの後側に配置されていて、径方向延設部34c、軸方向延設部材51及び第3締結ピストン22によって形成されることになる。
さらに、図4の例では、第3締結ピストン22と第3クラッチドラム部材4とは、軸方向にオーバーラップする部分を有している。このため、第3締結ピストン22の周方向の複数箇所に、第3クラッチドラム部材4との干渉を避けるための貫通孔22cがそれぞれ形成され、第3クラッチドラム部材4において複数の貫通孔22a間に対応する複数箇所に、第3締結ピストン22との干渉を避けるための貫通孔(図示省略)がそれぞれ形成されている。
また、第2ハブ部材34、第3クラッチドラム部材4及び軸方向延設部材51の全てを、例えばアルミニウム合金で一体形成することも可能である。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。