JP4651802B2 - 安定性に優れた脂肪族ポリエステルの製造方法 - Google Patents

安定性に優れた脂肪族ポリエステルの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、医療用材料や汎用樹脂の代替として有用な生分解性ポリマーである脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニットを50%以上含有する安定性に優れた脂肪族ポリエステルの製造方法に関する。
更に詳しくは、揮発性触媒を用い、流通ガス下、固相重合することにより、重量平均分子量が50,000〜1,000,000の範囲で所望の重量平均分子量に到達した脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上を含む脂肪族ポリエステルを、該脂肪族ポリエステルを固体状態に維持したまま、流通ガス下、固相重合の温度以上で加熱処理することを特徴とする、安定性に優れた脂肪族ポリエステルの製造方法、に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、廃棄物処理が環境保護と関連して問題となっている。特に、一般的な汎用の高分子材料の成形品や加工品は、廃棄物として埋め立てた場合、微生物等による分解性・崩壊性がないため、異物として半永久的に残存すること、さらに、可塑剤等の添加剤が溶出して環境を汚染すること等が問題となっている。
また、廃棄物として焼却する場合には、燃焼により発生する高い熱量により、炉を損傷すること、燃焼により発生する排煙・排ガスが、大気汚染、オゾン層破壊、地球温暖化、酸性雨等の原因となり得ること等がクローズアップされてきた。
このような背景から、強靱でありながら使用後、廃棄物として埋め立てた場合に分解したり、焼却しなければならない場合でも、燃焼熱が低く炉を損傷しない高分子材料への需要が高まってきたにもかかわらず、必ずしも、このような需要に応え得る高分子材料が供給されているとはいえない。
【0003】
脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸の一種であるポリ乳酸は、透明性が高く、強靱で、水の存在下では容易に加水分解する特性を有する。従って、それを汎用樹脂として使用する場合には、廃棄後に環境を汚染することなく分解するので環境にやさしく、また医療用材料として生体内に留置された場合には、医療用材料としての目的達成後に生体に毒性を及ぼすことなく生体内で分解・吸収されるので生体にやさしいという優れた性質が、本出願前に既に注目されていた。従来、ポリ乳酸や乳酸とグリコール酸の共重合体に代表されるの生分解性ポリマーの改質方法として、以下の技術が開示されている。
【0004】
WO90/15629には、乳酸重合体医療用材料を、100℃以上であって、乳酸重合体の融点以下の温度で系内の気体を系外に連続的に導出しつつ、少なくとも10分以上加熱処理する技術が開示されている。この発明で加熱処理を行なう乳酸重合体医療用材料は、フィラメント、糸条、編物、不織布、織布、成形体等の各種成形形態であり、この加熱処理を行なうことにより、生体内での安定性が向上し、長期に亘って十分な強度を保持できる乳酸重合体医療用材料を得ることができる。しかしながら、この発明では、成形体の生体内の安定性が向上するものの、成形前のポリマーの安定性を向上させる技術については開示されておらず、実施例を見ると、紡糸前後においてポリマーの分子量は著しく低下している。
【0005】
また、特開平8−231688号公報には、ラクチドを主原料とし、溶融重合によりポリ乳酸を得る第一工程と、第一工程で重合し成形したポリ乳酸をペレット状に成形する第二工程と、第二工程で得たポリ乳酸ペレットをその融点より低い温度で固相重合する第三工程と、第三工程の重合で未反応のモノマーを昇華する第四工程とからなるポリ乳酸の製造法が開示されている。
この発明には、「ラクチドや分解物は、ポリマーのガラス転移温度、及び溶融粘度を著しく低下させ、成形加工性、熱安定性を著しく低下させていた」、及び「未反応モノマー(ラクチド、乳酸オリゴマー)を昇華除去させることによりガラス転移温度が55℃以上のポリ乳酸が得られる」いう旨の記載があることから、この発明における熱安定性の向上とは、ポリ乳酸のガラス転移温度を向上させることを意味しており、このことはラクチド、乳酸オリゴマーを昇華除去することにより達成される。また、実施例には第四工程を行うことによりラクチド含有量が最大5000ppmまで低減されたポリ乳酸が開示されている。
【0006】
しかしながら、本願の脂肪族ポリエステルは加熱処理前の時点でラクチド含有量が1000ppm以下であるので、本願の加熱処理による熱安定性の向上はラクチドを除去することにより達成されるものではない。
更に、ラクチドを多く(5000ppm以上)含むポリ乳酸を使用して押出フィルムを製造すると、押出機のリップから大量の気化したラクチドが発生し、フィルムロールを汚染する。このことはフィルムを連続的に製造する際、定期的にロールを清掃しなければならないことを意味しており、連続製造時間を短くし、効率的ではない。これに対し、本発明の加熱処理を施す前の、及び加熱処理を施したポリ乳酸はラクチド含有量が1000ppm以下であるため、殆どロールを汚染することが無い。
【0007】
一方、本発明者らによるEP−953589A2には、重量平均分子量2,000〜100,000の結晶化した脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上を含む、脂肪族ポリエステルプレポリマーを触媒の存在下で固相重合することからなる、重量平均分子量50,000〜1,000,000の脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上を含む脂肪族ポリエステルの製造方法が開示されており、触媒として揮発性触媒を使用することが記載されている。
揮発性触媒を使用した固相重合法により所望の重量平均分子量を有する脂肪族ポリエステルを得るためには、流通ガスの流量を抑制する等の方法で触媒の揮発を制御することが重要である。しかしながら、揮発性触媒として有機スルホン酸を使用した場合、有機スルホン酸含有量が硫黄換算で50〜300ppmである得られた脂肪族ポリエステルは、固相重合により重量平均分子量は上がらないものの、安定性が悪い。
【0008】
また、EP−953589A2には温度を2段階に変化させて(温度を上げて)固相重合する方法も開示されている。有機スルホン酸を触媒に使用して得られたポリ乳酸は、触媒を含んだ状態で温度を上げると、分解反応が起こり、乳酸由来の分解物(一酸化炭素やアセトアルデヒドなど)が生成する。重合が進行する程度に大量の有機スルホン酸を含んだポリ乳酸を、温度を上げて固相重合すると、分解反応も促進されポリ乳酸の収率低下も考えられる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の課題は、揮発性触媒を用いた固相重合法により得られるポリ乳酸などの脂肪族ポリエステルの成形時の安定性及び保存安定性を改良する方法及び該方法により得られた安定性に優れた脂肪族ポリエステルを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、固相重合終了後のポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルを、流通ガス下、特定の加熱温度で処理することにより、安定性に優れた脂肪族ポリエステルを得ることができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[10]に記載した事項により特定される。
【0011】
[1]揮発性触媒を用い、流通ガス下、固相重合することにより、重量平均分子量が50,000〜1,000,000の範囲で所望の重量平均分子量に到達した脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上を含む脂肪族ポリエステルを、該脂肪族ポリエステルを固体状態に維持したまま、流通ガス下、固相重合の反応温度以上で加熱処理することを特徴とする、安定性に優れた脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0012】
[2]揮発性触媒が有機スルホン酸であることを特徴とする、[1]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
[3]加熱温度が、140℃以上、170℃未満であることを特徴とする、[2]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0013】
[4]ガスの流量が、[1]記載の脂肪族ポリエステル1g当たり、0.5〜200(ml/分)であることを特徴とする、[1]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
[5]ガスの露点が−20℃以下であることを特徴とする、[4]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0014】
[6]加熱処理前の脂肪族ポリエステルに含まれる有機スルホン酸含有量が硫黄分で50〜300ppmであり、加熱処理後の有機スルホン酸含有量が硫黄分で50ppm未満であることを特徴とする、[2]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
[7]加熱処理前の脂肪族ポリエステルに含まれるラクチド含有量が1000ppm以下であることを特徴とする、[1]又は[6]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
[8]脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上を含む脂肪族ポリエステルがポリ乳酸であることを特徴とする、[1]又は[7]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
【0015】
[9]脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上を含む脂肪族ポリエステルが、L−乳酸とペンタエリスリトールとこはく酸を含むものからなるスターポリマー、又はL−乳酸とトリメチロールプロパンとコハク酸を含むものからなるスターポリマーであることを特徴とする、[1]又は[7]記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
[10][1]又は[7]記載の方法により製造された脂肪族ポリエステルのプレス分子量保持率及び/又は耐湿熱分子量保持率が80%以上である、安定性に優れた脂肪族ポリエステル。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の製造方法は、揮発性触媒を用い、流通ガス下、固相重合することにより、重量平均分子量が50,000〜1,000,000の範囲で所望の重量平均分子量に到達した脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上を含む脂肪族ポリエステルを、該脂肪族ポリエステルを固体状態に維持したまま、流通ガス下、固相重合の反応温度以上で加熱処理することを特徴とする。
【0017】
本発明で加熱処理を施す脂肪族ポリエステルは、揮発性触媒を用いて、脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上を含む、重量平均分子量が2,000以上、100,000以下の脂肪族ポリエステルプレポリマーを流通ガス下、固相重合することにより得られる。詳細は、以下に記す揮発性触媒、及び脂肪族ポリエステルプレポリマーを用いて、EP−953589A2の記載の方法に準じて製造される。
【0018】
[揮発性触媒]
本発明の加熱処理を施す脂肪族ポリエステルを製造するために行う固相重合において使用する揮発性触媒は、EP−953589A2に記載されている揮発性触媒の定義に該当するものであれば特に制限されない。具体的には、以下に示す有機スルホン酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1−ペンタンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、1−ヘプタンスルホン、1−オクタンスルホン酸、1−ノナンスルホン酸、1ーデカンスルホン酸等の炭素数1〜10のアルカンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、3−ヒドロキシプロパンスルホン酸、エタンジスルホン酸、スルホ酢酸、タウリン、アミノメタンスルホン酸等の置換アルカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、p−キシレン−2−スルホン酸、m−キシレン−4−スルホン酸、メシチレンスルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸、o−ニトロベンゼンスルホン酸、m−ニトロベンゼンスルホン酸、p−ニトロベンゼンスルホン酸、p−アミノベンゼンスルホン酸、o−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸、o−スルホ安息香酸等のベンゼンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸誘導体、ナフタレン−1−スルホン酸、ナフタレン−2−スルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,5−ナフタレンジスルホン酸等のナフタレンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸誘導体、カンファースルホン酸等が挙げられる。又、これら有機スルホン酸の酸無水物も使用することができる。これらの中では、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、m−キシレン−4−スルホン酸、p−クロロベンゼンスルホン酸、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸が特に好ましい。これらは、単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0019】
また、揮発性触媒の使用量は、触媒の揮発性や酸強度等の触媒自身の性質、反応条件を考慮して、実質的に、反応を促進させることができれば特に制限されないが、一般的には、得られる脂肪族ポリエステルの0.05〜10重量%の範囲が好ましく、経済性を考慮すると、0.1〜5重量%の範囲がより好ましい。
【0020】
[脂肪族ポリエステルプレポリマー]
固相重合を行って、本発明の加熱処理を施す脂肪族ポリエステルを製造するために用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸ユニット50%以上含有する脂肪族ポリエステルプレポリマーには以下の種類のものがある。
(1)脂肪族ヒドロキシカルボン酸から得られる脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸のホモポリマー又はコポリマー又はそれらの混合物。
(2)脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸と脂肪族二価アルコールと脂肪族二塩基酸からなる脂肪族ポリエステルとのコポリマー又はその混合物。
【0021】
(3)脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸と多糖類のコポリマー又は混合物。
(4)脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸と多糖類と脂肪族二価アルコールと脂肪族二塩基酸からなる脂肪族ポリエステルとのコポリマー又はそれらの混合物。
【0022】
(5)脂肪族ヒドロキシカルボン酸と3個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールと2個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸及び/又はその無水物からなるスターポリマー。
(6)脂肪族ヒドロキシカルボン酸と3個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸及び/又はその無水物と2個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールからなるスターポリマー。
【0023】
(1)〜(6)のプレポリマーを製造するための脂肪族ヒドロキシカルボン酸については特に制限はない。好適な具体例としては、乳酸の他に例えばグリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等が挙げられる。また、これらのヒドロキシカルボン酸は単独で、または2種類以上組み合わせて使用してもよい。また、乳酸のように分子内に不斉炭素原子を有する場合には、D体、L体、及びそれらの等量混合物(ラセミ体)が存在するが、得られるプレポリマー重合体が結晶性を有していれば、それらの何れも使用することができる。なかでも光学純度が95%以上、好ましくは98%以上の発酵法で製造されるL−乳酸が特に好ましい。
【0024】
(2)及び(4)のプレポリマーを製造するための脂肪族二価アルコールは、特に制限されない。好適な具体例は、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらは、単独、又は、2種類以上を組み合わせて使用できる。また、分子内に不斉炭素を有する場合には、D体、L体及びそれらの等量混合物(ラセミ体)が存在するが、それらの何れも使用することができる。
【0025】
(2)及び(4)のプレポリマーを製造するための脂肪族二塩基酸は、特に制限されない。脂肪族二塩基酸の具体例としては、例えば、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、3,3−ジメチルペンタン二酸等の脂肪族ジカルボン酸や、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。これらは、単独で、又は、2種類以上組み合わせて使用することができる。また、分子内に不斉炭素原子を有する場合には、D体、L体及びそれらの等量混合物(ラセミ体)が存在するが、それらの何れも使用することができる。
【0026】
(3)のプレポリマーを製造するための多糖類は、特に制限されない。多糖類の具体例は、例えば、セルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)、ニトロセルロース、セロハン、ビスコースレーヨン、キュプラ等の再生セルロース、ヘミセルロース、デンプン、アミロペクチン、デキストリン、デキストラン、グリコーゲン、ペクチン、キチン、キトサン等及びこれらの混合物及びこれらの誘導体が挙げられる。これらの内で特にエステル化セルロースである酢酸セルロース、エーテル化セルロースであるエチルセルロースが好ましい。
多糖類の重量平均分子量は、3,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましい。エステル化セルロース及びエーテル化セルロースの置換度は0.3〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.8であることが好ましい。
【0027】
(5)及び(6)のプレポリマーを製造するための2個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールについては特に制限されない。2個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールの具体例としては、上記の脂肪族二価アルコールのほか、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、イノシトール等が挙げられる。これらは、単独で、又は、2種類以上組み合わせて使用することができる。また、分子内に不斉炭素原子を有する場合には、D体、L体及びそれらの等量混合物(ラセミ体)が存在するが、それらの何れも使用することができる。
【0028】
(5)及び(6)のプレポリマーを製造するための2個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸は、特に制限されない。2個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸の具体例としては、上記の脂肪族二塩基酸のほか、例えば、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフラン2R,3T,4T,5C−テトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、4−カルボキシ−1,1−シクロヘキサンジ酢酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、(1α,3α,5β)−1,3,5−トリメチル−1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、2,3,4,5−フランテトラカルボン酸等の環状化合物及びその無水物、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、meso−ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、1,3,5−ペンタントリカルボン酸、2−メチルプロパントリカルボン酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、1,1,2−エタントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸等の線状化合物及びその無水物がが挙げられる。これらは、単独で、又は、2種類以上組み合わせて使用することができる。また、分子内に不斉炭素原子を有する場合には、D体、L体及びそれらの等量混合物(ラセミ体)が存在するが、それらの何れも使用することができる。
【0029】
(1)、(5)及び(6)のプレポリマーは、脂肪族ヒドロキシカルボン酸、又は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸と3個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールと2個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸、又は脂肪族ヒドロキシカルボン酸と3個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸と2個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールを脱水重縮合反応して得られる。
【0030】
また、(1)、(2)、(3)及び(4)のプレポリマーは、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を脱水重縮合反応して脂肪族ポリヒドロキシカルボン酸を製造する過程で、他の脂肪族ヒドロキシカルボン酸、又は、脂肪族多価アルコールと脂肪族多塩基酸からなる脂肪族ポリエステル、又は多糖類を混合又は共重合することにより得られる。
【0031】
本発明の固相重合に用いるプレポリマーとして、(1)、(5)及び(6)のプレポリマーが好ましい。(1)のプレポリマーとして、乳酸を原料としたポリ乳酸がより好ましく、ポリL−乳酸が特に好ましい。(5)のプレポリマーとして、L−乳酸とペンタエリスリトールとコハク酸からなるスターポリマー又はL−乳酸とトリメチロールプロパンからなるスターポリマーが特に好ましい。
【0032】
(5)及び(6)のプレポリマーにおいて、3個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールと2個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸及び/又はその酸無水物、及び3個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸及び/又はその酸無水物と2個以上の水酸基を有する多価アルコールの組成は次のとおりである。すなわち、3個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコール、及び3個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸及び/又はその酸無水物の重量は、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が単独で完全に重合したと仮定した場合の重合物の重量を基準として、0.005〜10%、好ましくは0.01〜5%に相当するものであり、かつ、3個以上の水酸基を有する脂肪族多価アルコールの水酸基と2個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸及び/又はその酸無水物のカルボキシル基の当量比、及び3個以上のカルボキシル基を有する脂肪族多塩基酸及び/又はその酸無水物のカルボキシル基と2個以上の水酸基を有する多価アルコールの水酸基の当量比が、100:50〜200、好ましくは100:80〜120、より好ましくは100:90〜110に相当するものである。
【0033】
[加熱処理に供する脂肪族ポリエステル]
本発明において、加熱処理を施す脂肪族ポリエステルは、上記脂肪族ポリエステルプレポリマーを揮発性触媒の存在下固相重合することにより製造される。
加熱処理を施す脂肪族ポリエステルの重量平均分子量については、上述のプレポリマー(1)、(2)を固相重合したものについては、50,000〜1,000,000が好ましく、100,000〜500,000がより好ましい。また、プレポリマー(3)〜(6)を固相重合したものについては、50,000〜1,000,000が好ましく、100,000〜500,000がより好ましく、200,000〜500,000が更に好ましい。
【0034】
また、加熱処理を施す脂肪族ポリエステルは、固相重合時の粒子形状をそのまま維持した形が好ましく、本発明の加熱処理は、固相重合後新たに加熱し成形したものには適用しない。
更に、本発明の加熱処理前の脂肪族ポリエステルに含まれるラクチド含有量は1000ppm以下であり、好ましくは500ppm以下である。
【0035】
また、本発明の加熱処理では、その処理前後で脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が実質的に変化しない。ここで重量平均分子量が実質的に変化しないとは、分子量の変動幅が±5%以内であることを意味する。本発明の加熱処理と固相重合において両者の操作は、加熱するという意味において同じであるが、重量平均分子量が、一方は実質的に変化せず、他方が増加するという点において、加熱処理と固相重合とは異なる。揮発性触媒として有機スルホン酸を使用した場合、加熱処理により重量平均分子量が上がらない時の脂肪族ポリエステルに含まれる有機スルホン酸触媒の含有量は、加熱温度、流通ガスの流量、使用する触媒の種類などで異なることもあるが、硫黄換算で約300ppm以下である。しかし、硫黄換算で50〜300ppm程度有機スルホン酸触媒が残存している状態では、脂肪族ポリエステルの安定性は悪く、それゆえ本発明の加熱処理を施すことを必要とする。
【0036】
[加熱処理]
本発明において、加熱処理とは、揮発性触媒を用いて固相重合することにより所望の重量平均分子量に到達した脂肪族ポリエステルを脂肪族ポリエステルを固体状態を維持したまま、流通ガス下、固相重合の反応温度以上で加熱することにより効率的に安定性を向上させることを意味する。固相重合では、所望の重量平均分子量の脂肪族ポリエステルを得るために、触媒の揮発を制御するのに対し、加熱処理では、安定性を積極的に向上させるために、触媒を揮発乃至不活化させる点で目的を異にする。
【0037】
[安定性]
本発明の安定性には熱安定性、保存安定性がある。熱安定性は加熱処理後の脂肪族ポリエステルからプレスフィルムを作成したときの重量平均分子量の変化(以下、プレス分子量保持率という)で評価し、保存安定性は、作成したプレスフィルムを50℃、湿度80%の環境下で6日間放置し、試験前後の重量平均分子量の変化(以下、耐湿熱分子量保持率という)で評価する。
安定性が高い脂肪族ポリエステルを得るためには、脂肪族ポリエステル中の触媒含有量が少ないことが必要である。具体的には、揮発性触媒として有機スルホン酸を使用した場合、脂肪族ポリエステルに含まれる有機スルホン酸触媒の含有量が硫黄換算で50ppm以下であることが必要である。
【0038】
この知見は、後述(実施例や脂肪族ポリエステル中の有機スルホン酸濃度の測定法の項を参照)の有機スルホン酸の定量分析法を確立したことにより初めて得られた。すなわち、本発明者らにより出願されたEP−953589A2においては、触媒含有量は、脂肪族ポリエステルを灰化し、発生したガスを水に吸収させ、その硫黄濃度をイオンクロマトグラフィーにより定量し、得られた硫黄濃度から触媒濃度Cを算出していたにすぎず、実際に触媒として有効な有機スルホン酸を定量していたわけではなかった。
【0039】
本願の加熱処理を施すことにより、プレス分子量保持率、耐湿熱分子量保持率の何れも80%以上になることが好ましく、90%以上になることがより好ましい。脂肪族ポリエステルがポリ乳酸の場合、重量平均分子量が10万以下になると引張強度や引張弾性率、曲げ強度といった機械強度が著しく低下する。プレス分子量保持率、耐湿熱分子量保持率の何れも80%以下であるとポリ乳酸の重量平均分子量が15.6万以上でないと、またプレス分子量保持率、耐湿熱分子量保持率の何れも70%以下であるとポリ乳酸の重量平均分子量が20.4万以上ないと成形物に成型後、あるいは保存中に著しく強度が劣化することがあり得る。言い換えれば、プレス分子量保持率、耐湿熱分子量保持率で表される安定性が高いと脂肪族ポリエステルの分子量を必要以上に高くする必要が無く、固相重合時間が短縮できるなどの長所を有する。
【0040】
[加熱処理温度]
本発明において、加熱処理温度は、脂肪族ポリエステルが実質的に固体状態を維持しており、脂肪族ポリエステルプレポリマーの固相重合反応温度以上であれば特に制限されない。一般的に、加熱処理温度が高くなると触媒を効率よく揮発乃至不活化させることができるので好ましい。加熱処理温度は、140℃以上170℃未満であることが好ましく、150℃以上160℃以下であることがより好ましい。脂肪族ポリエステルがポリ乳酸の場合、加熱処理温度が170℃以上になると、分子量が低下するのに加え、着色してくるので好ましくない。
【0041】
[流通ガス]
本発明の加熱処理で使用する流通ガス、すなわち、反応系に流通させるガスの具体例としては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、キセノンガス、クリプトンガス等の不活性ガスや、乾燥空気等が挙げられる。中でも窒素ガス等の不活性ガスが好ましい。
流通ガスの含水量については、できるだけ低く、実質的に無水状態のガスであることが好ましい。含水量が多いと加熱処理中に脂肪族ポリエステルの重量平均分子量が低下する場合があるので好ましくない。この場合、ガスをモレキュラーシーブ類やイオン交換樹脂類等を充填した層に通すことにより脱水して使用することができる。流通ガスの含水量を、露点で示すと、ガスの露点が、−20℃以下であることが好ましく、−50℃以下であることがより好ましい。
【0042】
また加熱処理において流すガスの流量は、加熱温度との兼ね合いで、効率よく触媒が揮発すれば特に制限されないが、分子量を上昇させる必要が無いので、固相重合のときよりも流通ガスの流量を高く設定することが好ましい。一般的には、流通ガスの流量が大きくなると効率よく安定性を向上させることができる。実際的には、脂肪族ポリエステル1g当たりの流通ガスの流量は、0.5〜200[ml/分]が好ましく、1.0〜100[ml/分]がより好ましく、1.67〜50[ml/分]がさらに好ましい。線速で表すと、0.01〜500[cm/秒]であることが好ましい。
【0043】
[本発明に係る脂肪族ポリエステルの成形加工法と用途]
このようにして得られる本発明の脂肪族ポリエステルは、射出成形、押出成形、インフレーション成形、押出中空成形、発泡成形、カレンダー成形、ブロー成形、バルーン成形、真空成形、紡糸等の成型加工法に好適に用いられる。
本発明に係る脂肪族ポリエステルは、本出願前に公知・公用であった医療用途、食料品包装用途や汎用に使用されている樹脂の代替物として好適に使用することができる。
【0044】
また、本発明に係る脂肪族ポリエステルは、適当な成形加工法により、例えば、ボールペン・シャープペン・鉛筆等の筆記用具の部材、ステーショナリーの部材、ゴルフ用ティー、始球式用発煙ゴルフボール用部材、経口医薬品用カプセル、肛門・膣用座薬用担体、皮膚・粘膜用張付剤用担体、農薬用カプセル、肥料用カプセル、種苗用カプセル、コンポスト、釣り糸用糸巻き、釣り用浮き、漁業用擬餌、ルアー、漁業用ブイ、狩猟用デコイ、狩猟用散弾カプセル、食器等のキャンプ用品、釘、杭、結束材、ぬかるみ・雪道用滑り止め材、ブロック、弁当箱、食器、コンビニエンスストアで販売されるような弁当や惣菜の容器、箸、割り箸、フォーク、スプーン、串、つまようじ、カップラーメンのカップ、飲料の自動販売機で使用されるようなカップ、鮮魚、精肉、青果、豆腐、惣菜等の食料品用の容器やトレイ、鮮魚市場で使用されるようなトロバコ、牛乳・ヨーグルト・乳酸菌飲料等の乳製品用のボトル、炭酸飲料・清涼飲料等のソフトドリンク用のボトル、ビール・ウイスキー等の酒類ドリンク用のボトル、シャンプーや液状石鹸用のポンプ付き、又は、ポンプなしのボトル、歯磨き粉用チューブ、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、保冷箱、植木鉢、浄水器カートリッジのケーシング、人工腎臓や人工肝臓等のケーシング、注射筒の部材、テレビやステレオ等の家庭電化製品の輸送時に使用するための緩衝材、コンピューター・プリンター・時計等の精密機械の輸送時に使用するための緩衝材、ガラス・陶磁器等の窯業製品の輸送時に使用するための緩衝材等に使用することができる。
【0045】
【実施例】
以下に実施例をあげて本発明を詳述する。なお、本出願の明細書における実施例の記載は、本発明の内容の理解を支援するための説明であって、その記載は本発明の技術的範囲を狭く解釈する根拠となる性格のものではない。
この実施例で用いた評価方法は、以下の通りである。
1)重量平均分子量
得られた脂肪族ポリエステル重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(カラム温度40℃、クロロホルム溶媒)により、ポリスチレン標準サンプルとの比較で求めた。
【0046】
2)脂肪族ポリエステル中の触媒濃度(硫黄濃度)
脂肪族ポリエステル中の触媒濃度(硫黄濃度)は、イオンクロマトグラフィーにより定量した。すなわち、試料を密閉系の中、900℃に加熱し(Ar/O)灰化した際に発生するガスを、定容した吸収液(1%−H溶液)に吸収させ、イオンクロマトグラフィーにより定量した。イオンクロマトグラフィーの測定には、ダイオネクス社製イオンクロマトDX−300型を使用した。
触媒濃度CAは本測定により得られた硫黄濃度から換算した計算値である。
【0047】
3)脂肪族ポリエステル中の有機スルホン酸濃度
脂肪族ポリエステル中の有機スルホン酸濃度は、電気伝導度計検出器に接続された高速液体クロマトグラフィーにより定量した。すなわち、試料をクロロホルムに溶解した後、アセトニトリル/水の混合液で有機スルホン酸を抽出し、電気伝導度計検出器に接続された高速液体クロマトグラフィーにより定量した。
【0048】
4)熱安定性
熱安定性は、プレス時重量平均分子量保持率で評価した。プレス時重量分子量保持率は、190℃で加熱プレスフィルムを作成する前の重量平均分子量と熱プレスフィルムを作成した後の重量平均分子量の比より算出した。
プレスフィルムは脂肪族ポリエステルを60℃で5時間真空乾燥処理を行った後、プレス温度190℃で、保持時間3分、プレス圧力10MPaで1分の計4分間加熱して、厚さ100μmのフィルムを作製した。
【0049】
5)保存安定性
保存安定性は耐湿熱重量平均分子量保持率で評価した。
4)で作成したプレスフィルムを50℃、湿度80%の環境下で6日間放置し、試験前の重量平均分子量と試験後の重量平均分子量の比より算出した。
【0050】
[加熱処理を行なう脂肪族ポリエステルの製造例]
製造例1
88%L−乳酸102.3g、メタンスルホン酸0.72gを500mlの丸底フラスコに装入し、常圧、窒素雰囲気下で、室温から160℃まで1時間かけて昇温し、160℃で1時間保持した後、160℃を維持しながら、2時間かけて常圧から10mmHgまで徐々に減圧し、最終的に、160℃/10mmHgで8時間反応を行った。この時の分子量は13,000であった。
この後、反応液をホーローバットに排出し、30℃まで冷却してから、プレポリマー67.0g(収率93.1%)を得た。このプレポリマーを乳鉢で粉砕し、篩にかけて粒子径が0.5〜2(mm)の粒状プレポリマーを得た。この粒状プレポリマー30gを50℃の水120gに装入し、60分間放置して結晶化させた。プレポリマーを乾燥後、25.00g秤量し、SUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、
1)120℃、窒素ガス流通下(窒素流量25ml/min)、10時間、
2)140℃、窒素ガス流通下(窒素流量25ml/min)、60時間、
の反応条件で固相重合を行い、ポリ乳酸23.75g(収率:95.0%)を得た。
使用した窒素ガスの露点は−60℃であった。
固相重合により得られた脂肪族ポリエステルの特性は、以下のとおりである。
重量平均分子量(Mw):130,000
触媒濃度CA:360[ppm](硫黄分析値:120[ppm])
有機スルホン酸濃度:180[ppm](硫黄換算値:60[ppm])
プレス時分子量保持率:72[%]
耐湿熱分子量保持率:65[%]
【0051】
製造例2
88%L−乳酸102.3g、p−トルエンスルホン酸一水和物0.80gを500mlの丸底フラスコに装入し、常圧、窒素雰囲気下で、室温から160℃まで1時間かけて昇温し、160℃で1時間保持した後、160℃を維持しながら、2時間かけて常圧から10mmHgまで徐々に減圧し、最終的に、160℃/10mmHgで8時間反応を行った。この時の分子量は13,300であった。
この後、反応液をホーローバットに排出し、30℃まで冷却してから、プレポリマー67.7g(収率94.0%)を得た。このプレポリマーを乳鉢で粉砕し、篩にかけて粒子径が0.5〜2(mm)の粒状プレポリマーを得た。この粒状プレポリマー30gを50℃の水120gに装入し、60分間放置して結晶化させた。プレポリマーを乾燥後、25.00g秤量し、SUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、
1)120℃、窒素ガス流通下(窒素流量2000ml/min)、10時間、2)140℃、窒素ガス流通下(窒素流量2000ml/min)、60時間、の反応条件で固相重合を行い、ポリ乳酸23.80g(収率:95.2%)を得た。
使用した窒素ガスの露点は−60℃であった。
固相重合により得られた脂肪族ポリエステルの特性は、以下のとおりである。
重量平均分子量(Mw):136,000
触媒濃度CA:914[ppm](硫黄分析値:170[ppm])
有機スルホン酸濃度:320[ppm](硫黄換算値:60[ppm])
プレス時分子量保持率:72[%]
耐湿熱分子量保持率:63[%]
【0052】
製造例3
88%L−乳酸102.3g、メタンスルホン酸0.72gを500mlの丸底フラスコに装入し、常圧、窒素雰囲気下で、室温から160℃まで1時間かけて昇温し、160℃で1時間保持した後、160℃を維持しながら、2時間かけて常圧から10mmHgまで徐々に減圧し、最終的に、160℃/10mmHgで8時間反応を行った。この時の分子量は13,000であった。
この後、反応液をホーローバットに排出し、30℃まで冷却してから、プレポリマー67.0g(収率93.1%)を得た。このプレポリマーを乳鉢で粉砕し、篩にかけて粒子径が0.5〜2(mm)の粒状プレポリマーを得た。この粒状プレポリマー30gを50℃の水120gに装入し、60分間放置して結晶化させた。プレポリマーを乾燥後、25.00g秤量し、SUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、
1)120℃、窒素ガス流通下(窒素流量15ml/min)、10時間、
2)140℃、窒素ガス流通下(窒素流量15ml/min)、60時間、
の反応条件で固相重合を行い、ポリ乳酸23.83g(収率:95.3%)を得た。
使用した窒素ガスの露点は−60℃であった。
固相重合により得られた脂肪族ポリエステルの特性は、以下のとおりである。
重量平均分子量(Mw):166,000
触媒濃度CA:960[ppm](硫黄分析値:320[ppm])
有機スルホン酸濃度:600[ppm](硫黄換算値:200[ppm])
プレス時分子量保持率:59[%]
耐湿熱分子量保持率:45[%]
【0053】
製造例4
88%L−乳酸102.3g、メタンスルホン酸0.51gを500mlの丸底フラスコに装入し、常圧、窒素雰囲気下で、室温から160℃まで1時間かけて昇温し、160℃で1時間保持した後、160℃を維持しながら、2時間かけて常圧から10mmHgまで徐々に減圧し、最終的に、160℃/10mmHgで8時間反応を行った。この時の分子量は11,000であった。
この後、反応液をホーローバットに排出し、30℃まで冷却してから、プレポリマー66.3g(収率92.1%)を得た。このプレポリマーを乳鉢で粉砕し、篩にかけて粒子径が0.5〜2(mm)の粒状プレポリマーを得た。この粒状プレポリマー30gを50℃の水120gに装入し、60分間放置して結晶化させた。プレポリマーを乾燥後、24.00g秤量し、SUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、
1)120℃、窒素ガス流通下(窒素流量20ml/min)、10時間、
2)140℃、窒素ガス流通下(窒素流量20ml/min)、60時間、
の反応条件で固相重合を行い、ポリ乳酸22.85g(収率:95.2%)を得た。
使用した窒素ガスの露点は−60℃であった。
固相重合により得られた脂肪族ポリエステルの特性は、以下のとおりである。
重量平均分子量(Mw):155,000
触媒濃度CA:810[ppm](硫黄分析値:270[ppm])
有機スルホン酸濃度:400[ppm](硫黄換算値:133[ppm])
プレス時分子量保持率:65[%]
【0054】
実施例1
【0055】
製造例1の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)6.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、150℃、窒素ガス流通下(窒素流量10ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):130,000
触媒濃度CA:330[ppm](硫黄分析値:110[ppm])
有機スルホン酸濃度:90[ppm](硫黄換算値:30[ppm])
プレス時分子量保持率:93[%]
耐湿熱分子量保持率:91[%]
【0056】
実施例2
製造例1の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)6.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、155℃、窒素ガス流通下(窒素流量10ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):130,000
触媒濃度CA:330[ppm](硫黄分析値:110[ppm])
有機スルホン酸濃度:90[ppm](硫黄換算値:30[ppm])
プレス時分子量保持率:93[%]
耐湿熱分子量保持率:91[%]
【0057】
実施例3
製造例1の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)6.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、160℃、窒素ガス流通下(窒素流量10ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):130,000
触媒濃度CA:300[ppm](硫黄分析値:100[ppm])
有機スルホン酸濃度:60[ppm](硫黄換算値:20[ppm])
プレス時分子量保持率:94[%]
耐湿熱分子量保持率:92[%]
【0058】
実施例4
製造例2の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)5.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、150℃、窒素ガス流通下(窒素流量200ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):136,000
触媒濃度CA:914[ppm](硫黄分析値:170[ppm])
有機スルホン酸濃度:160[ppm](硫黄換算値:30[ppm])
プレス時分子量保持率:93[%]
耐湿熱分子量保持率:90[%]
【0059】
実施例5
製造例2の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)5.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、155℃、窒素ガス流通下(窒素流量200ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):136,000
触媒濃度CA:860[ppm](硫黄分析値:160[ppm])
有機スルホン酸濃度:160[ppm](硫黄換算値:30[ppm])
プレス時分子量保持率:93[%]
耐湿熱分子量保持率:90[%]
【0060】
実施例6
製造例2の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)5.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、160℃、窒素ガス流通下(窒素流量200ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):136,000
触媒濃度CA:860[ppm](硫黄分析値:160[ppm])
有機スルホン酸濃度:160[ppm](硫黄換算値:30[ppm])
プレス時分子量保持率:94[%]
耐湿熱分子量保持率:90[%]
【0061】
実施例7
製造例3の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)6.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、150℃、窒素ガス流通下(窒素流量50ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):130,000
触媒濃度CA:330[ppm](硫黄分析値:110[ppm])
有機スルホン酸濃度:90[ppm](硫黄換算値:30[ppm])
プレス時分子量保持率:93[%]
耐湿熱分子量保持率:91[%]
【0062】
実施例8
製造例3の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)6.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、155℃、窒素ガス流通下(窒素流量50ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):130,000
触媒濃度CA:330[ppm](硫黄分析値:110[ppm])
有機スルホン酸濃度:90[ppm](硫黄換算値:30[ppm])
プレス時分子量保持率:93[%]
耐湿熱分子量保持率:91[%]
【0063】
実施例9
製造例3の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)6.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、160℃、窒素ガス流通下(窒素流量50ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):130,000
触媒濃度CA:300[ppm](硫黄分析値:100[ppm])
有機スルホン酸濃度:60[ppm](硫黄換算値:20[ppm])
プレス時分子量保持率:94[%]
耐湿熱分子量保持率:92[%]
【0064】
実施例10
製造例4の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)6.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、140℃、窒素ガス流通下(窒素流量40ml/min)で、24時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):155,000
触媒濃度CA:330[ppm](硫黄分析値:110[ppm])
有機スルホン酸濃度:100[ppm](硫黄換算値:33[ppm])
プレス時分子量保持率:92[%]
【0065】
実施例11
製造例4の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)6.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、160℃、窒素ガス流通下(窒素流量40ml/min)で、10時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):155,000
触媒濃度CA:330[ppm](硫黄分析値:110[ppm])
有機スルホン酸濃度:100[ppm](硫黄換算値:33[ppm])
プレス時分子量保持率:93[%]
【0066】
比較例1
加熱処理行わない製造例1の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)の、プレス時分子量保持率は72[%]であった。
【0067】
比較例2
加熱処理行わない製造例2の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)の、プレス時分子量保持率は72[%]であった。
【0068】
比較例3
加熱処理行わない製造例3の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)の、プレス時分子量保持率は59[%]であった。
【0069】
比較例4
加熱処理行わない製造例4の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)の、プレス時分子量保持率は65[%]であった。
【0070】
比較例5
製造例1の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)6.00gをSUS製縦型反応器に装入して、送風乾燥機中、170℃、窒素ガス流通下(窒素流量10ml/min)で、40時間加熱処理を行なった。
重量平均分子量(Mw):118,000
この比較例は、脂肪族ポリエステルがポリ乳酸の場合、170℃で加熱処理を行うと、揮発性触媒の存在により、加熱処理中にポリ乳酸が分解し、重量平均分子量が低下することを示す。
【0071】
比較例6
錫末0.28g(乳酸に対して0.08重量%)を触媒として使用した重量平均分子量12,000のプレポリマーを、SUS製縦型反応器に装入し、結晶化に引き続き、反応温度140℃、流通ガス(窒素ガス)流量200[ml/分]、反応時間60時間で固相重合して、重量平均分子量132,000の脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)4.46g(収率89.2%)を得た。
次いで、ここで得られた脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)4.00gを、再度SUS製縦型反応器に装入し、温度150℃、流通ガス(窒素ガス)流量200[ml/分]で、40時間加熱処理して、脂肪族ポリエステル(ポリ乳酸)3.19g(収率79.8%)を得た。
使用した窒素ガスの露点は−60℃であった。
加熱処理により得られた脂肪族ポリエステルの特性は、以下のとおりである。
なお、触媒濃度(錫濃度)は蛍光X線分析法により定量した。
重量平均分子量(Mw)=208,000
触媒濃度(錫濃度)CA=1200[ppm]
触媒残留率R=100[%]
プレス時分子量保持率=38%
加熱処理により触媒量が低下せず、重合が進行したが、ラクチドの発生もあり、収率が低下した。
【0072】
比較例7
p−トルエンスルホン酸一水和物3.11g(乳酸に対して0.8重量%)を触媒として使用して得られた、重量平均分子量13,000のプレポリマー5.00gを、SUS製縦型反応器に装入し、結晶化に引き続き、つぎの二段階の固相重合を行った。
第1段階;反応圧力760[mmHg]、反応温度140℃、流通ガス(窒素ガス)流量5[ml/分]、反応時間40時間
第2段階;反応圧力760[mmHg]、反応温度160℃、流通ガス(窒素ガス)流量200[ml/分]、反応時間60時間
所定時間後のポリ乳酸の重量平均分子量は以下のとおりである。
固相重合開始時のプレポリマーの重量平均分子量=13,000
固相重合開始40時間後のポリ乳酸の重量平均分子量=92,000
固相重合開始100時間後のポリ乳酸の重量平均分子量=146,000
以上の結果より、第1段階では重量平均分子量が79000増加し、第2段階では重量平均分子量が54000増加しているので、第1段階、第2段階の過程はEP−953589A2で定義されている通り、固相重合であり、第2段階は本発明の加熱処理ではない。

Claims (6)

  1. 原料として乳酸を用いて製造される脂肪族ポリエステルプレポリマーを、有機スルホン酸からなる揮発性触媒を用い、流通ガス下、固相重合することにより製造された、重量平均分子量が50,000〜1,000,000の範囲で所望の重量平均分子量に到達したポリ乳酸を、該ポリ乳酸を固体状態に維持したまま、流通ガス下、固相重合の反応温度以上で、かつ、170℃未満の温度で加熱処理することを特徴とする、安定性に優れたポリ乳酸である脂肪族ポリエステルの製造方法。
  2. 加熱温度が、140℃以上、170℃未満であることを特徴とする、請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  3. ガスの流量が、請求項1記載のポリ乳酸1g当たり、0.5〜200(ml/分)であることを特徴とする、請求項1記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  4. ガスの露点が−20℃以下であることを特徴とする、請求項記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  5. 加熱処理前のポリ乳酸に含まれる有機スルホン酸含有量が硫黄分で50〜300ppmであり、加熱処理後の有機スルホン酸含有量が硫黄分で50ppm未満であることを特徴とする、請求項記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
  6. 加熱処理前のポリ乳酸に含まれるラクチド含有量が1000ppm以下であることを特徴とする、請求項1又はに記載の脂肪族ポリエステルの製造方法。
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