JP4650706B2 - 温熱間加工用工具およびそのガス浸硫窒化処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、温間ないしは熱間で金属同士の摺動を伴う環境にて使用される鍛造用金型、鋳造用スリーブ等の温熱間加工用工具およびそのガス浸硫窒化処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、温熱間加工用工具には、主にJISに規定されるSKD61、SKT4といった熱間金型用鋼が広く用いられており、特に耐久性を要求される用途には、これらよりも高温強度の高いSKD7、SKD8、高速度工具鋼あるいはこれらの改良鋼が使用されている。
【0003】
例えば、温熱間鍛造用金型(以下、金型と記す)においては、近年の、加工効率の向上、被加工製品の高精度化、ニアネットシェイプ化の要求に対し、金型の靭性を保持するとともに、金型作業面の耐摩耗性、耐焼付き性、耐ヒートクラック性を向上させる目的で、イオン法、塩浴法、ガス法等による窒化処理が一般に施されるようになってきた。
【0004】
特開平7−138733号には、金型の耐ヒートクラック性および塑性流動を軽減するために、イオン窒化処理後に950℃まで過熱昇温させ、最表面に存在する脆弱な白層と呼ばれる窒化物の低減と、硬化層である窒素拡散層を3.0mmまで深くする方法が提案されている。また、特開昭57−54551号には、金型芯部の靭性を保持し、同時に作業面での焼付き防止を目的とした、350〜450℃の比較的低温でイオン窒化した熱間加工用金型が提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平7−138733号、特開昭57−54551号の提案による効果は、従来手法の窒化処理工具と比較して、2〜3割程度の寿命向上であり、飛躍的な工具寿命の改善は達成できず、加工効率の向上、被加工製品の高精度化、ニアネットシェイプ化といった要求に対しては十分に満足できるものではなかった。
【0006】
特に被加工製品のニアネットシェイプ化は、製品形状が複雑となるため、加工時には、被加工材の肉流れ速度が速くなるだけではなく、金型作業面への負荷応力も大きくなる。そのため、金型の作業面と被加工材との界面では、早期に焼付き、かじり等が発生することとなる。これは、鍛造条件の過酷さに起因する潤滑剤の途切れも要因の一つと考えられる。
【0007】
このような焼付き、かじり等の発生は、金型作業面と被加工材との界面で、過大な摩擦力を働かせることとなり、著しい摩擦熱が発生する。その結果、金型材表面部では熱による軟化が進行するため、耐摩耗性が極端に低下してしまう。製品形状によっては、上記摩擦熱が、金型材自身の変態点(700〜900℃)を上回るほど高温になる場合があり、金型がさらされる環境は、非常に厳しいものとなる。
【0008】
現在、表面処理の主流であるイオン窒化法、塩浴窒化法、ガス窒化法等では、処理条件の改良により、最表面に薄い多孔質の酸化物層を形成させることはできるものの、基本的にはFe3N、Fe4Nといった窒化物を主体する窒化組織が得られる。このような単一の窒化処理が施された金型を、先述の摩擦熱が著しく発生する環境で使用すると、形成させた窒化物は容易に熱分解してしまい、その効果を十分に発揮する間もなく消失してしまうという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上記のような問題を解消した耐焼付き性、耐かじり性に優れる温熱間鍛造用金型、鋳造用スリーブ等の温熱間加工用工具およびそのガス浸硫窒化処理方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
従来より、FeS2、FeS等の硫化物系物質が、常温における耐焼付き性、耐かじり性の改善に効果的であることは良く知られている。例えば、特開平4−228557号に開示される摺動部材、そのガス浸硫窒化法および装置では、鋼の表面に窒素を含まないFeS2、FeSを生成させ、建設機械の油圧ポンプおよびモーター等に用いられるピストン、シリンダ、バルブ等、油中で使用される冷間摺動部材の摩擦特性を改善することが提案されている。しかしながら、特開平4−228557号で提案される浸硫窒化層を温熱間加工用工具に適用した場合、最表部の硫化物層が早期に剥離してしまい、十分に機能しなかった。
【0011】
そこで発明者等は、温熱間加工用工具における耐焼付き性、耐かじり性に及ぼす、浸硫窒化組織の影響ならびに浸硫窒化条件について詳細な検討を行った結果、浸硫窒化面のX線回折で、回折角(2θ)47.0〜49.0度の範囲に現れるFe3N、Fe4Nが重なる回折ピークと、回折角(2θ)61.0〜63.0度の範囲に現れるFeSの回折ピークとの間で、特定範囲内の強度比を満足し、かつ浸硫窒化層の最表層に形成されたS、NおよびFeを主体に構成される化合物層、言いかえるとNを含むFeS層中において、SとNの質量濃度比を、ある特定範囲内に限定することで、温熱間加工用工具として極めて良好な耐焼付き性、耐かじり性を示すことを見出した。この結果により、例えば熱間鍛造用金型においては、摩擦熱の発生が十分に抑制され、窒化物の分解、工具母材の軟化が防止され、温熱間加工用工具として優れた耐摩耗性を示すということを確認した。
【0012】
すなわち、本発明の第1発明は、作業面に浸硫窒化層を有す熱間ダイス鋼もしくは高速度鋼で構成される温熱間加工用工具であって、Cokα線を線源に用いた前記浸硫窒化面のX線回折で、回折角(2θ)47.0〜49.0度の範囲に現れる最も高い回折ピークの回折強度aと、回折角(2θ)61.0〜63.0度の範囲に現れる最も高い回折ピークの回折強度bとの間で、0.05<b/a<1.50を満足し、かつ前記浸硫窒化層の最表層には、S、NおよびFeを主体に構成される化合物層を形成し、該化合物層中のSとNの質量濃度比が1<S/N<10を満足することを特徴とする温熱間加工用工具である。なお、上記浸硫窒化層の最表層に存在する、S、NおよびFeを主体に構成される化合物層は、0.5〜10μmの厚みであることが好ましい。
【0013】
上記温熱間加工用工具のガス浸硫窒化処理方法である第2発明は、流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気ガスを、熱間ダイス鋼もしくは高速度鋼で構成される温熱間加工用工具を収容した反応炉内に導入し、450〜600℃の処理温度で5〜30時間保持し浸硫窒化させた後、冷却過程においても流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気を200〜450℃の範囲で選択する所定の温度まで維持することを特徴とする温熱間加工用工具のガス浸硫窒化処理方法である。
【0014】
なお、浸硫窒化層の最表層に存在する、S、NおよびFeを主体に構成される化合物層を厚めに形成する場合は、流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気ガスを、熱間ダイス鋼もしくは高速度鋼で構成される温熱間加工用工具を収容した反応炉内に導入し、450〜600℃の処理温度で5〜30時間保持し一次浸硫窒化させた後、流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気を維持したまま、200〜450℃の範囲で選択する所定の温度まで低下させ、該温度で0.5〜5時間保持し二次浸硫窒化する方法が好ましい。
【0015】
【発明実施の形態】
本発明の特徴は、工具作業面に施された浸硫窒化層を、Cokα線を線源に用いた前記浸硫窒化面のX線回折で、回折角(2θ)47.0〜49.0度の範囲に現れる最も高い回折ピークの回折強度aと、回折角(2θ)61.0〜63.0度の範囲に現れる最も高い回折ピークの回折強度bとの間で、0.05<b/a<1.50に限定し、かつ前記浸硫窒化層の最表層には、S、NおよびFeを主体に構成される化合物層を形成し、該化合物層中のSとNの質量濃度比を1<S/N<10に限定した点である。
【0016】
上記回折強度aは、最表層のS、NおよびFeを主体に構成される化合物層(以下、Nを含むFeS層と記す)の工具母材側に形成した、窒化層中の白色層と呼ばれる硬質の窒化物(Fe3N、Fe4N)のものが主であり、これらは、工具の耐摩耗性の向上と、最表層のNを含むFeS層の密着性を確保するのに寄与する。一方、回折強度bは、Nを含むFeS層に対応するものであり、この層は潤滑性の向上に寄与する。
【0017】
回折強度比b/aが0.05以下であると、Nを含むFeS層の形成量が少ないため、本質的に耐焼付き性、耐かじり性が低下し、本用途の温熱間加工用工具としては、全く不十分である。逆に回折強度比b/aが1.50以上では、Nを含むFeS層の形成量が過度である場合と、窒化層中の白色層形成量の少なすぎる場合が該当する。前者のNを含むFeS層の形成量が過度である場合では、潤滑性の向上に付与するNを含むFeS層が容易に剥離してしまい、本用途においては十分に機能しない。また、後者の窒化層中における白色層の形成量が少なすぎる場合では、温熱間加工用工具として耐摩耗性に劣ること、およびNを含むFeS層の密着性が十分でなくなるため、本用途においては、期待する効果が得られない。
【0018】
以上の理由より、本発明の温熱間加工用工具では、その作業面に施された浸硫窒化層の、回折強度aと回折強度bとの回折強度比を、0.05<b/a<1.50に限定する。
【0019】
また、本発明の温熱間加工用工具においては、その作業面に施された浸硫窒化層の最表層に、Nを含むFeSの化合物層を形成し、この化合物層中のSとNの質量濃度比を1<S/N<10と規定する。
【0020】
これは、FeS層中にNが含まれることで、温熱間における密着性が向上するためである。この理由については、未だ不明な点が多いため推測の域を出ないが、FeS層中に含まれるNの一部が、Fe3NもしくはFe4Nとして存在し、その母材側に位置する窒化物層との結合層として働くことで密着性を改善する、もしくはNを含むFeSの化合物層と、その母材側の窒化物層との熱膨張差を緩和することで、密着性を改善するものと推察される。
【0021】
前述の特開平4−228557号で提案される浸硫窒化層は、温熱間加工用工具に適用した場合、最表部の硫化物層が早期に剥離してしまい、十分に機能しなかった。この理由として、特開平4−228557号で提案される浸硫窒化層では、最表部の摺動特性を改善するとされるFeS2、FeS層中に、Nをほとんど含まないためと考えられる。
【0022】
以上の効果を得るには、Nを含むFeS層中のSとNの質量濃度比が1<S/N<10であることが重要である。質量濃度比S/Nが1以下では、本化合物層が、FeSの特性よりFe3NもしくはFe4Nの特性に近くなり、耐焼付き性、耐かじり性の向上に対して、十分な効果を発揮しなくなり、S/Nが10以上では、本化合物層が温熱間に使用において、容易に剥離しやすくなるためである。
【0023】
また、上述したNを含むFeS層の厚みは、その効果を発揮させるために、0.5μm以上必要であり、逆に10μmを越えると剥離の可能性が大きくなるため、0.5〜10μmであることが好ましい。
【0024】
本発明の温熱間加工用工具を構成する工具母材は、JISに規定されるSKD61、SKD7、SKD8、SKT4等の熱間金型用鋼あるいはこれらの改良鋼や、溶製ならびに粉末法にて製造される高速度工具鋼あるいは靭性等が改良された低合金高速度鋼が必要に応じて適用できる。
【0025】
上記構成要件を満足させるガス浸硫窒化処理は、流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気ガスを、被処理物である温熱間加工用工具を収容した反応炉内に導入し、450〜600℃の処理温度で5〜30時間保持し浸硫窒化させた後、冷却過程においても流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気を200〜450℃の範囲で選択する所定の温度まで維持する方法がよい。
【0026】
本発明のガス浸硫窒化処理方法の特徴は、450〜600℃の処理温度で5〜30時間保持し浸硫窒化させた後、冷却過程においても浸硫窒化雰囲気を200〜450℃の範囲で選択する所定の温度まで維持することである。この方法を行うことにより、本発明である温熱間加工用工具の構成要件を安定して満足させることが可能となる。
【0027】
仮に、浸硫窒化処理後の冷却過程において、浸硫窒化雰囲気ガスの供給を停止し、窒素、アルゴン等を供給しながら冷却を行うと、200℃以上で容易に酸化反応を開始する浸硫窒化層の最表層に位置するNを含むFeS層は、炉壁、配管等に吸着した微量の水分と反応し、一部が酸化物へ変化するため好ましくない。
【0028】
また、前記浸硫窒化雰囲気ガス中の窒化ガスもしくは硫化ガスのいずれかを、冷却過程において停止した場合も、浸硫窒化層の最表層に位置するNを含むFeS層中のSとNの質量濃度比が、本発明の温熱間加工用工具の構成要件を満足しなくなる可能性があるので好ましくない。
【0029】
Nを含むFeS層を厚めに形成する場合は、流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気ガスを、被処理物である温熱間加工用工具を収容した反応炉内に導入し、450〜600℃の処理温度で5〜30時間保持し一次浸硫窒化させた後、流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気を維持したまま、200〜450℃の範囲で選択する所定の温度まで低下させ、該温度で0.5〜5時間保持し二次浸硫窒化する手法で可能となる。
【0030】
本発明のガス浸硫窒化処理方法において、浸硫窒化処理中のアンモニアガスの流量比、ガス状硫化物の流量比、加熱保持温度ならびに加熱保持時間については、本発明の温熱間加工用工具の構成要件を満たす範囲で必要に応じて選択できる。また、ガス状の硫化物については、硫化水素ガス、硫化アンモニウム溶液の気化ガス、二硫化炭素溶液の気化ガス等、本発明の温熱間加工用工具の構成要件を満たす範囲で必要に応じて選択でき、特に規定を設けない。さらに、必要に応じ、窒化反応を促進および安定させる目的で、一酸化炭素ガスもしくは二酸化炭素ガス等の適量添加も可能である。
【0031】
【実施例】
以下に実施例に基づき詳細に説明する。
(実施例1)
JISに規定されるSKD61を用意し、1030℃より油焼入れ後、焼戻しにより47HRCに調質した。その後、直径5mm、長さ20mmの形状に加工を行い、それぞれの端面をバフ研磨によって鏡面に仕上げた。
【0032】
次に、表1、表2ならびに表3に示す条件の窒化処理を行い供試部材とし、それらを用いて熱間焼付き試験を行った。なお、表中記載の加熱パターンAを図2に、加熱パターンBを図3に示す。
【0033】
加熱パターンAの場合、工程▲1▼を窒化処理工程、工程▲2▼を冷却工程とし、工程▲2▼における温度T2は、表中記載ガスの停止ならびに窒素ガスへの置換温度を示す。加熱パターンBの場合は、工程▲1▼を一次処理工程、工程▲2▼を二次処理工程とし、工程▲2▼終了と同時に、表中記載ガスの導入を止め、窒素ガスによる置換を行った。
【0034】
なお、処理1〜12はガス浸硫窒化処理であり、硫化源には0.1%硫化水素+99.9%窒素の混合ガスを用い、この混合ガスの流量比から硫化水素の流量比を算出した。また、処理13はガス軟窒化処理、処理14はイオン窒化処理、処理15は塩浴窒化処理である。
【0035】
熱間焼付き試験は、前述の供試部材一端部を、ボール盤のチャックに取り付け、1540rpmで回転させながら、相手材である600℃に加熱したSNCM439製の30mm×30mm、厚み20mmのブロックに、ある所定の面圧で押付け、最高40秒間摩擦摺動させた。この時、供試部材が摩擦発熱により座屈し、相手材に焼付いた面圧を焼付き限界面圧と見なし評価した。
【0036】
また、各供試材の回折強度比(b/a)については、部材表面に対しCokα、40V、200mAの条件でX線回折を行い、回折角(2θ)47.0〜49.0度の範囲に現れる最も高い回折ピークの回折強度をaとし、回折角(2θ)61.0〜63.0度の範囲に現れる最も高い回折ピークの回折強度をbとし、それらの強度比b/aを算出した。最表層の化合物層については、X線マイクロアナライザーを用い、窒化層断面組織よりSならびにNの組成分析を行い、それらの質量濃度比S/Nを算出した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
表4に各供試材の窒化層の詳細と、熱間焼付き試験の結果を示す。
表1に示した処理1〜5、10、11は、本発明の第2発明に相当するガス浸硫窒化方法の代表例であり、これらの処理を適用したものを本発明例とし、処理6〜9、12といった本発明範囲を外れるガス浸硫窒化処理方法を適用したものを比較部材とした。また、表2に記載した処理13のガス軟窒化処理、表3に記載した処理14のイオン窒化処理、処理15の塩浴窒化処理を適用したもの、ならびに窒化処理を施さなかったものを従来例とした。
【0041】
【表4】
【0042】
表4に示すように、本発明のガス浸硫窒化処理方法を適用した本発明例は、最表層にはS、NおよびFeを主体に構成された化合物層が形成され、回折強度比(b/a)ならびに最表層の質量濃度比(S/N)とも本発明の規定範囲を満足している。そのため、熱間焼付き試験において、130MPa以上の焼付き限界面圧を示した。
【0043】
一方、比較例No.8は、窒化処理中のアンモニア濃度が低く、窒化物層の形成が不足したため、比較例No.9は、冷却工程開始時より、アンモニア、硫化水素を停止したことで、Nを含むFeS層が酸化したため、比較例No.10は、冷却工程開始時より、硫化水素を停止したことで、冷却過程においても窒化が優先的に進行したため、さらに比較例No.11およびNo.12は、冷却工程開始時もしくは二次処理工程において、アンモニアを停止したことで硫化が積極的に進行したため、以上のような理由で、それぞれの回折強度比(b/a)、質量濃度比(S/N)が本発明の規定範囲を外れている。そのため、比較例はいずれも本発明例以上の焼付き限界面圧を示さなかった。言うまでもなく、従来例の焼付き限界面圧は、本発明例に比べ大幅に劣る。
【0044】
なお、焼付き限界面圧にいたった後の試験片損傷部を切断し、ミクロ組織を観察したところ、これらはいずれも再焼入れ組織を呈しており、摩擦発熱により、鋼のAc1変態点を越える温度まで昇温していることが認められた。以上より、本発明例は摩擦発熱を著しく抑制することによって、焼付き限界面圧を飛躍的に向上させることが可能である。
【0045】
表5〜7にX線回折結果の代表例を示す。表5に示す本発明例No.4の結果より、本発明では、得られる回折ピークはFeS、Fe3N、Fe4N、Fe3O4と類似の構造を有す物質が主体であることがわかる。ここでFeSとして定性された物質は、本発明最表層に形成されたNを含むFeS層を主体とした物質であることを確認済みである。また、本発明で規定した回折強度aおよび回折強度bは、それぞれ表5中のピークNo.7、No.15に相当し、これらの回折強度の値より回折強度比b/aを算出した。
【0046】
表6の比較例No.9の結果においても、得られる回折ピークは、前述の本発明例No.4とほぼ同様にFeS、Fe3N、Fe4N、Fe3O4と類似の構造を有す物質が主体であるが、全体的にFeSと類似構造のピーク数が少なく且つそれらの強度も小さいことがわかる。また、表7に示す従来例No.15の結果では、FeSのピークは認められず、Fe3N、Fe4N、Fe3O4を主体としており、本発明例とはその構造が大きく異なる。
【0047】
なお、表4中には、従来例No.15のS、N、Feを含む最表層を、5μmと記載したが、これは、表7のX線回折結果より明らかなように、Nを含むFeS層ではなく、S,Nを含むFe3O4層である。
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
図1は、本発明例、比較例における、焼付き限界面圧に及ぼす回折強度比(b/a)ならびにNを含むFeS層中の質量濃度比(S/N)の影響についてまとめたものである。図1中、○で示したものは、Nを含むFeS層中の質量濃度比(S/N)が1<S/N<10を満たしているものであり、逆に塗りつぶし○は、質量濃度比(S/N)を満たしていないものである。この図から明らかなように、温熱間における耐焼付き性は、回折強度比(b/a)および質量濃度比(S/N)の両値が非常に重要なものであり、これらを本発明の規定範囲にすることで、温熱間における耐焼付き性を著しく向上可能であることがわかる。
【0052】
(実施例2)
次に、表4の本発明例No.1、No.4、No.6、従来例No.14、No.15の表層部と同等の構成であるギア成型用熱間鍛造用金型を作成し、実金型における寿命で評価を行った。
【0053】
表8に示す化学成分のJIS SKD61の改良材を、金型近似形状に粗加工し、1030℃の油焼入れを行い,焼戻しにより50HRCに調質した。その後、仕上加工を行い、それそれ実施例1と同様条件で窒化処理を施した。金型は、直径176mm、高さ84mmの寸法で、その一端面にギア成形用の型彫りが施してある。熱間鍛造は、1000tの鍛造プレスを用い、1200℃に加熱したSCM420ワークを10秒おきに鍛造した。表9に各金型の寿命を示す。
【0054】
【表8】
【0055】
【表9】
【0056】
金型はいずれも摩耗による損傷で寿命となったが、本発明例は従来例に比べ、いずれも金型寿命が2倍以上に向上した。つまり、本発明を熱間鍛造用金型に適用した場合には、耐焼付き性、耐かじり性が向上することで、摩擦発熱による型材の軟化が抑制され、結果として耐摩耗性が改善できるため、金型の寿命は飛躍的に向上する。
【0057】
【発明の効果】
以上に述べたように、本発明で規定した浸硫窒化層を適用することにより、温熱間加工用工具の耐焼付き性、耐かじり性は著しく向上し、摩擦熱の発生が十分抑制されることで、窒化物層の分解、工具母材の軟化が発生しにくくなる。その結果、耐摩耗性の改善が達成でき、工具の寿命を飛躍的に向上させることが可能となった。
なお、実施例2においては、熱間鍛造用金型での結果を示したが、鋳造用スリーブのように、その内周部がプランジャーチップ部材と、温熱間で摺動するような用途にも最適である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明例、比較例の焼付き限界面圧に及ぼす回折強度比(b/a)ならびにNを含むFeS層中の質量濃度比(S/N)の影響についてまとめたものである。
【図2】 実施例に用いた加熱パターンAである。
【図3】 実施例に用いた加熱パターンBである。
Claims (4)
- 作業面に浸硫窒化層を有す熱間ダイス鋼もしくは高速度鋼で構成される温熱間加工用工具であって、Cokα線を線源に用いた前記浸硫窒化面のX線回折で、回折角(2θ)47.0〜49.0度の範囲に現れる最も高い回折ピークの回折強度aと、回折角(2θ)61.0〜63.0度の範囲に現れる最も高い回折ピークの回折強度bとの間で、0.05<b/a<1.50を満足し、かつ前記浸硫窒化層の最表層には、S、NおよびFeを主体に構成される化合物層を形成し、該化合物層中のSとNの質量濃度比が1<S/N<10を満足することを特徴とする温熱間加工用工具。
- 浸硫窒化層の最表層に形成されたS、NおよびFeを主体に構成される化合物層が、0.5〜10μmの厚みであることを特徴とする請求項1に記載の温熱間加工用工具。
- 流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気ガスを、熱間ダイス鋼もしくは高速度鋼で構成される温熱間加工用工具を収容した反応炉内に導入し、450〜600℃の処理温度で5〜30時間保持し浸硫窒化させた後、冷却過程においても流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気を200〜450℃の範囲で選択する所定の温度まで維持することを特徴とする温熱間加工用工具のガス浸硫窒化処理方法。
- 流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気ガスを、熱間ダイス鋼もしくは高速度鋼で構成される温熱間加工用工具を収容した反応炉内に導入し、450〜600℃の処理温度で5〜30時間保持し一次浸硫窒化させた後、流量比でアンモニアガス:26〜60%、ガス状の硫化物:0.01〜0.10%を添加した浸硫窒化雰囲気を維持したまま、200〜450℃の範囲で選択する所定の温度まで低下させ、該温度で0.5〜5時間保持し二次浸硫窒化することを特徴とする温熱間加工用工具のガス浸硫窒化処理方法。
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JP2000134402A JP4650706B2 (ja) | 2000-05-08 | 2000-05-08 | 温熱間加工用工具およびそのガス浸硫窒化処理方法 |
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