JP4649788B2 - 平面導波路型光デバイス - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は平面導波路型光デバイスに関し、特に熱光学位相シフタを用いた平面導波路型光デバイスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
波長多重(WDM)光通信は、複数の光源から出射された波長1.55μm帯の多波長の信号光を1本の光ファイバ伝送路に一括して伝送させ、波長毎に割り振られた受光器で受信することにより大容量・高速の光通信を行うものである。WDM光通信システムにおいては、複数の光源から出射された信号光を1本の光ファイバに合波させるための光合波器、および1本の光ファイバ内を伝搬する多波長の信号光を複数の受光器に分波させる光分波器が必要とされる。また、受光器で正常に受光するためには、受光器に到達する多波長の信号光それぞれのパワーは互いにほぼ等しいことが要求されるので、多波長の信号光それぞれにおける光パワーを等化にするための光減衰器が必要とされる。
【0003】
光合分波器および光減衰器等の光デバイスにおいては、波長可変選択、透過波長幅可変、光減衰量可変等の機能が付加できれば、その適用範囲が広げられる。例えば、特開平5−323246公報「光合分波器」には、平面導波路から形成されるアレイ導波路型回折格子(Arrayed Waveguide Grating、以下AWG)で、アレイ状光導波路の上部に薄膜ヒーターからなる熱光学位相シフタを取り付けることによって波長可変選択機能を付加する技術が記載されている。また、文献「K. Hattori, et al., "All-PLC-based optical ADM with high isolation and polarization independent level equalizer", in Proc. ECOC'98, 1998, pp.327-328」には、平面導波路から形成されるマッハツェンダ干渉計で、干渉計における光導波路の上部に薄膜ヒーターからなる熱光学位相シフタを取り付けて光路の温度を調整することによって各光結合部の間の光路長差を制御し、光減衰量を可変に制御する技術が記載されている。
【0004】
コアおよびクラッドから構成される光導波路において、クラッド表面に薄膜ヒーターからなる熱光学位相シフタが取り付けられた場合、コアとクラッドとの熱膨張係数の違いに起因して、光導波路には上下方向の熱応力が生じやすい。光導波路に上下方向の熱応力が生じた場合、光導波路の上下方向と横方向とで屈折率に差異(複屈折)が発生する。そのため、熱光学位相シフタを有する平面導波路型光デバイスでは、光学特性の偏波依存性が大きくなりやすい。これに対して、例えば、文献「2001年電子情報通信学会総合大会C−3−64(予稿集P.229)PLC型可変減衰器の低PDL化」には、導波路の両側に熱応力開放用の溝を設けて偏波依存性損失(Polarization Dependent Loss、以下PDL)を低減しようとする技術が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、導波路の両側に熱応力開放用の溝を設けてPDLを低減させようとする技術においては、以下のような問題点を有している。導波路の両側に加工される溝は、熱応力を十分に開放させるためには、クラッド表面からクラッドと基板との境界付近までの深さを持たせる必要がある。一般的な光回路においては、この深さはおおよそ20〜50μmである。通常、溝加工はクラッド形成後のエッチングによって行われるが、上記のような深さの加工は、通常のエッチング速度から考えて5〜10時間程度の多大な時間を要してしまう。また、加工後のクラッド表面には、細長い導波路部が露出してしまうために、その部分で機械的強度が弱くなってしまい、破断しやすい状況が発生する。
【0006】
本発明は、上記問題点を解消するためになされたものであり、光学特性に関して良好な偏波依存性を有していて、製造時間が短く、かつ機械的強度の強い平面導波路型光デバイスを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、基板と、基板に設けられた複数の光導波路と、それぞれが光入出力部を有すると共に複数の光導波路を結合させる2つの光結合部と、光導波路の少なくとも一部に設けられ光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタとを具備する平面導波路型光デバイスであって、光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの近辺には、光伝搬作用を有しない光導波路および光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタとが配置されており、前記光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱温度を上昇させる際に、前記光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタの加熱温度を上昇させることにより、前記光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱により生じる前記光導波路の複屈折の増加分を低減することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る平面導波路型光デバイスにおいて、光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱温度と比例させて、光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタの加熱温度を制御するのが好適である。
【0009】
ここで、光伝搬作用を有しない光導波路とは、光パワーが伝搬している光導波路と実質的に光結合していなく、かつ光パワー伝搬の働きを有しない光導波路を意味する。
【0010】
上記の光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの近辺に、光伝搬作用を有しない光導波路および光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタとを配置することによって、光路長を調整する熱光学位相シフタに起因する熱応力から生じる複屈折を、光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタによる熱応力によって打ち消すことが可能となる。これによって、熱応力に起因するPDLの劣化が抑制される。
【0011】
また、光導波路の両側に溝を設けるようなエッチング加工を行わないので、多大な加工時間を要したり、機械的強度が弱くなったりする問題が生じない。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同じ部分には同じ番号を付して重複する説明を省略する。
【0013】
図1(A)、(B)は、本発明に係る第一の実施形態である平面導波路型光デバイス1の構成図である。図1(A)は、全体平面図である。平面導波路型光デバイス1は、基板100と、基板上に形成されたクラッド70内に埋設された2本の光導波路10、20と、光導波路10、20を両端の位置で結合させる2つの光結合部50、60と、これらの光結合部50、60に結合する光入力部4、光出力部5を有する。クラッド70の表面には、光導波路10に沿って設けられ光導波路の光路長を調整する薄膜ヒーター110が配置されている。この薄膜ヒーター110の近辺には、光導波路10と平行して光伝搬作用を有しない光導波路30がクラッド70内に埋設され、同時にクラッド70の表面に光導波路30を加熱する薄膜ヒーター130が光導波路30に沿って配置されている。図1(B)は、図1(A)の線分AA’における拡大断面図である。
【0014】
ここで、薄膜ヒーター110および130において、それぞれの加熱温度を上げた場合の光導波路10が薄膜ヒーターに起因する熱応力によって被る複屈折をシミュレーション計算で求めた結果を図2に示す。光導波路10は、薄膜ヒーター110の加熱によって負の複屈折、薄膜ヒーター130の加熱によって正の複屈折を受けることがわかる。光導波路10がそれぞれの薄膜ヒーターから受ける複屈折の符号が反対となる定性的な理由は、薄膜ヒーター110の加熱の場合、上下方向の温度分布のために光導波路10には縦方向の熱応力が働くのに対して、薄膜ヒーター130の加熱の場合、光導波路30の熱膨張を通して光導波路10には横方向の熱応力が支配的となるためである。また、薄膜ヒーター110または130の加熱温度と比例して、複屈折の絶対値が大きくなっている。
【0015】
薄膜ヒーター110の加熱温度T1のみ上昇させるだけでは光導波路10の複屈折は正に大きくなってしまい、それに伴いPDLも増大してしまう。薄膜ヒーター110の加熱温度T1と比例して、薄膜ヒーター130の加熱温度T2を上昇させれば、光導波路10の複屈折の増加分を低減させることができる。図1の構成の平面導波路型光デバイス1においては、T2=2.33×T1の関係を保ちながら温度調整を行えば、複屈折を零に維持することができる。これによって、PDLの劣化を抑制することが可能となる。
【0016】
図3(A)、(B)は、本発明に係る第二の実施形態である平面導波路型光デバイス2の構成図である。図3(A)は、全体平面図である。平面導波路型光デバイス2は、基板100と、基板上に形成されたクラッド70内に平行に埋設された2本の光導波路10、20と、これらの光導波路10、20を両端の位置で結合させる2つの光結合部50、60と、これらの光結合部50、60に結合する光入力部4、光出力部5を有する。クラッド70の表面には、光導波路10、20に沿って設けられ光導波路10、20の光路長を調整する薄膜ヒーター110、120が配置されている。これらの薄膜ヒーター110、120の近辺には、光伝搬作用を有しない光導波路30、40がクラッド70内に埋設され、同時にクラッド70の表面に光導波路30、40を加熱する薄膜ヒーター130、140が配置されている。図3(B)は、図3(A)の線分AA’における拡大断面図である。
【0017】
本発明に係る第一の実施形態と同様に、薄膜ヒーター110の加熱温度T1と比例して、薄膜ヒーター130の加熱温度T2を上昇させれば、光導波路10の複屈折の増加分を低減させることができる。また、薄膜ヒーター120の加熱温度T3と比例して、薄膜ヒーター140の加熱温度T4を上昇させれば、光導波路20の複屈折の増加分を低減させることができる。これによって、マッハツェンダ干渉計を有する平面導波路型光デバイス2におけるPDLの劣化を抑制することが可能となる。
【0018】
図4(A)、(B)は、本発明に係る第三の実施形態である平面導波路型光デバイス3の構成図である。図4(A)は、全体平面図である。平面導波路型光デバイス3は、基板100と、基板上に形成されたクラッド70内に埋設された複数のアレイ状光導波路210、211〜220、アレイ状光導波路210、211〜220を両端の位置で結合させる2つのスラブ導波路250、260と、スラブ導波路250、260に結合する光入力部4、光出力部5〜9からなるアレイ導波路型回折格子を有する。なお、図4においては、複数のアレイ状光導波路210、211および220を表示しているが、実際には必要に応じてより多くのアレイ状光導波路が設けられる。また、光入出力部についても同様に、4、5および9以外にも複数の光入出力部が設けられる。クラッド70の表面には、光導波路210、211〜220に沿って設けられ光導波路の光路長を調整する薄膜ヒーター310、311〜320が配置されている。薄膜ヒーター310、311〜320の近辺には、光伝搬作用を有しない光導波路230、231〜240がクラッド70内に埋設され、同時に光導波路230、231〜240を加熱する薄膜ヒーター330、331〜340が配置されている。図4(B)は、図4(A)の線分AA’における拡大断面図である。
【0019】
薄膜ヒーター310、311〜320の加熱温度T1と比例して、薄膜ヒーター330、331〜340の加熱温度T2を上昇させれば、光導波路210、211〜220の複屈折の増加分を低減させることができる。これによって、アレイ導波路型回折格子を有する平面導波路型光デバイス3におけるPDLの劣化を抑制できる。
【0020】
図1、図3においては、光結合部としてY分岐を用いたマッハツェンダ干渉計を有する平面導波路型光デバイスに関して説明したが、本発明の内容はこれに限定されることなく、例えば、方向性結合器を用いたマッハツェンダ干渉計等にも適用可能である。
【0021】
また、図3においてはアレイ状光導波路およびスラブ導波路を有する平面導波路型光デバイスに関して説明したが、本発明の内容はこれに限定されることなく、複数の光導波路と、複数の光導波路をそれぞれ異なる位置で結合させる2つの光結合部を有する平面導波路型光デバイスに適用可能である。
【0022】
本発明の平面導波路型光デバイスの作製は、例えば以下のように実施される。
石英ガラス基板の上に、厚み7μm程度で比屈折率差0.45%程度のGeO2が添加されたコア層を成膜した後、フォトリソグラフィー・反応性イオンエッチングによって、図1或いは図3または図4で示すようなコア形状パターンを加工する。次に、厚み30μm程度のクラッド層を成膜する。その後に、クラッド層の上部全体にクロム薄膜を蒸着した後に、フォトリソグラフィー・反応性イオンエッチングによって、光導波路の上部に薄膜ヒーターを形成する。最後に、基板をチップ形状に切断して平面導波路型光デバイスが得られる。薄膜ヒーターの加熱温度は、薄膜ヒーターに通電させる電流または電圧を調整することによって制御することができる。
【0023】
上記の作製方法のように、光伝搬作用を有しない光導波路およびその光導波路を加熱する薄膜ヒーターは、光伝搬作用を有する主要な光導波路およびその光導波路の光路長を調整する薄膜ヒーターと同時に形成できるために、余分な作製工程を必要としない。
【0024】
使用する導波路基板は、石英ガラス以外にも上層にガラス薄膜が成膜されたシリコン、アルミナ、または多成分ガラス等が適用可能である。また、コアおよびクラッドから構成される光導波路の材質として石英系ガラスの他に、半導体系またはポリマー系でも構わない。また、薄膜ヒーターの材質として、クロム以外にも窒化タンタル等が使用される。
【0025】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。実施形態では熱光学位相シフタとして薄膜ヒーターを用いたが、薄膜ヒーターに替えてペルチェ素子などであっても良い。
【0026】
また、本発明は、光パワーの減衰量または光パワーの波長依存性を変えたりする平面導波路型光デバイスに限定されるものではなく、光パワーの切り替え等の機能を有する平面導波路型光デバイスであっても良い。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、光学特性に関して良好な偏波依存性を有していて、製造時間が短く、かつ機械的強度の強い平面導波路型光デバイスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(A)は、本発明に係る第一の実施形態である平面導波路型光デバイス1の構成を示す全体平面図である。(B)は(A)の線分AA’における拡大断面図である。
【図2】図1において、熱光学位相シフタ110、130の加熱温度と光導波路10における複屈折との関係を示すグラフである。
【図3】(A)は、本発明に係る第二の実施形態である平面導波路型光デバイス2の構成を示す全体平面図である。(B)は(A)の線分AA’における拡大断面図である。
【図4】(A)は、本発明に係る第三の実施形態である平面導波路型光デバイス3の構成を示す全体平面図である。(B)は(A)の線分AA’における拡大断面図である。
【符号の説明】
1、2、3:平面導波路型光デバイス
4:光入力部
5〜9:光出力部
10、20:光導波路
30、40:光伝搬作用を有しない光導波路
50、60:光結合部
70:クラッド部
100:基板
101:マッハツェンダ干渉計
102:アレイ導波路型回折格子
110、120、130、140:薄膜ヒーター(熱光学位相シフタ)
210〜220:アレイ状光導波路
230〜240:光伝搬作用を有しないアレイ状光導波路
250、260:スラブ導波路
310〜320、330〜340:薄膜ヒーター(熱光学位相シフタ)
Claims (4)
- 基板と、該基板に設けられた複数の光導波路と、それぞれが光入出力部を有すると共に該複数の光導波路を結合させる2つの光結合部と、該2つの光結合部の間の前記光導波路の少なくとも一部に設けられ該光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタとを具備する平面導波路型光デバイスであって、前記光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの近辺には、光伝搬作用を有しない光導波路および該光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタとが配置されており、前記光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱温度を上昇させる際に、前記光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタの加熱温度を上昇させることにより、前記光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱により生じる前記光導波路の複屈折の増加分を低減することを特徴とする平面導波路型光デバイス。
- 基板上に2本の光導波路および該2本の光導波路をそれぞれ異なる位置で結合させる2つの光結合部からなるマッハツェンダ干渉計が設けられ、前記2本の光導波路の少なくとも一方に設けられ該光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタとを具備する平面導波路型光デバイスであって、前記マッハツェンダ干渉計の外側には、前記光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタに隣接して、光伝搬作用を有しない光導波路および該光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタとが配置されており、前記光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱温度を上昇させる際に、前記光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタの加熱温度を上昇させることにより、前記光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱により生じる前記光導波路の複屈折の増加分を低減することを特徴とする平面導波路型光デバイス。
- 基板上に複数のアレイ状光導波路および該アレイ状光導波路をそれぞれ異なる位置で結合させる2つのスラブ導波路からなるアレイ導波路型回折格子が設けられ、前記アレイ状光導波路に設けられ該アレイ状光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタとを具備する平面導波路型光デバイスであって、前記アレイ状光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタに隣接して、光伝搬作用を有しないアレイ状光導波路および該光伝搬作用を有しないアレイ状光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタとが配置されており、前記アレイ状光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱温度を上昇させる際に、前記光伝搬作用を有しないアレイ状光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタの加熱温度を上昇させることにより、前記アレイ状光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱により生じる前記アレイ状光導波路の複屈折の増加分を低減することを特徴とする平面導波路型光デバイス。
- 前記光導波路の光路長を調整する熱光学位相シフタの加熱温度と比例させて、前記光伝搬作用を有しない光導波路の少なくとも一部を加熱する熱光学位相シフタの加熱温度を制御することを特徴とする請求項1ないし3記載の平面導波路型光デバイス。
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