JP4645932B2 - 拡散境界層較正および定量収着に基づく分析装置 - Google Patents
拡散境界層較正および定量収着に基づく分析装置 Download PDFInfo
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Description
発明の背景
発明の分野
本発明は、関心分析物の濃度を該分析物の拡散係数より決定することができる抽出装置を使用して、試料中の分析物の濃度を決定する方法および装置に関する。より特に本発明は、液体および気体状態の試料中の有機および無機化合物の濃度を決定する方法および装置に関する。
【0002】
従来技術の説明
環境試料中の揮発性有機化合物(VOC)を抽出するために、固相マイクロ抽出(SPME)およびポリジメチルシロキサン(PDMS)被覆された繊維を使用することが知られている。PDMSは、多くの極性分析物と同様、非極性揮発性分析物を抽出するために最も広く使用されているコーティングである。しかしながら、PDMS/DVBおよびカルボキセン/PDMSのような混相SPMEコーティングの感度は、VOCの抽出について、PDMSと比較して遥かに高いことが報告されている(マニ等、Applications of Solid Phase Microextraction, RSC, Cornwall, U.K., 1999, Chapter 5参照)。混相コーティングはPDMSと比較して幾つかの補足的な特性を有し、そして非常に揮発性の化学種を試料採取するためにより適している(ポウリス、Solid-Phase Microextraction: Theory and Practice, Wiley-VCH, Inc., New York, 1997, Chapter 4参照)。混相SPME繊維は、屋内空気中に存在する目標VOCをppb水準で、またppt水準でさえ試料採取および定量するために使用されている。
【0003】
屋内空気資質およびそのヒトの健康への潜在的影響への関心が、公共および政府の環境機関にとって増大しているる。ホルムアルデヒド、芳香族化合物、およびハロゲン化炭化水素のような多くのVOCは、ヒトに非常に毒性であることが見出されている。慣用の空気試料採取法により大規模空気資質試験を行うことはしばしば、時間の浪費かつ高価であるときもある。ガスクロマトグラフィーと組み合わせた固相マイクロ抽出は、様々な空気試料を分析するために以前より首尾良く利用されている。チャイ等、Analyst, 1993, 118, 1501は、SPMEによる空気中の揮発性塩素化炭化水素の存在の決定を1993年に報告した。マートス等は、試料採取温度の変動について、および(PDMS)繊維での総VOCの空気分析についてSPME装置を較正するための直線温度プログラム化保持指数法を使用した新規方法を開発した(マートス等、Analytical Chemistry, 1997, 69, 206および402参照)。グローテ等は、Analytical Chemistry, 1997, 69, 587において、SPME繊維でのヒトの息中のアセトン、イソプレンおよびエタノールの高速定量分析のためにSPMEを使用した。シリンジ状のSPME装置は携帯可能で、そして野外分析のために容易に使用できることが知られている。屋外携帯可能気体クロマトグラフィーと組み合わせたとき、SMPE試料採取および機器分析の双方は、試料保存の必要無しに試験箇所で行うことができる(コジール等、Analytical Chemistry, Acta, 1999, 400(1-3),153参照)。
【0004】
混相コーティング中で、多孔質ポリマー粒子上の大部分の相互作用は吸着プロセスにより決定される。混相コーティングで、分子はヴァン・デア・ワールス、双極子−双極子、および他の弱い分子間力を介して固体表面に誘引されることができる(ゴーリキ等、Application of Solid Phase Microextraction, RSC, Cornwall, UK, 1999, Chapter 7参照)。疎水性相互作用および静電相互作用もまた、分析物を水から抽出するとき、およびイオン化可能な分析物を水相から抽出するときにそれぞれ生じる。PDMSまたはPAの液体コーティング中での拡散係数と比較して、ジビニルベンゼンおよびカルボキセン中でのVOCの拡散係数は小さく、そのためSPME分析の枠内では、本質的に全ての分子がコーティング表面上に残存する。従って、吸着と吸収との間の基本的な差異は、吸着において分子が固相の表面に直接に結合するのに対し、吸収においてそれらは液相バルク中に溶解していることである。
【0005】
ラングミュア吸着等温式は最も重要な吸着理論の一つである。ラングミュアモデルは、分析物分子が占拠することができる限定された数の表面部位があり、全ての部位が等価であり、そして隣接する部位上での吸着物質分子との間に相互作用がないと仮定する。ラングミュア吸着等温式は、PDMS/DVBおよびカルボワックス/DVBのコーティング上の吸着平衡を説明するために使用された。コーティングへの分析物の親和性が低いか、または試料中のその濃度が非常に低い場合のみ、一次関数の存在が見出される。実際の試料マトリクス、例えば空気中では、通常、二つ以上の成分がある。異なる成分は活性部位への異なる親和性を有するので、多成分の存在は一方の吸着に影響するにちがいない。液体コーティング中での非競合吸着プロセスと異なり、多成分系中での多孔質ポリマーコーティング上への吸着プロセスは競合プロセスであり、そして従って置換効果が予期される。試料採取条件、試料マトリクス組成および濃度は、混相繊維により抽出される分析物の量に大きく影響することができる。実用上の観点から、このことは多孔質ポリマーSPMEコーティングを使用する定量分析をより困難にしている。
【0006】
大部分の吸着モデルは平衡理論に基づいている。しかしながらSPMEにおいて、平衡時間は、分析物の性質および試料採取条件に依存して、数分ないし1、2時間の範囲にわたる(アイ等、Application of Solid Phase Microextraction, RSC, Cornwall, UK, 1999, Chapter 2参照)。多孔質固体コーティングについて、同じ分析物の平衡時間は通常、液体コーティング中でのものより遥かに長い。ある程度の分析物の平衡時間が長すぎる場合、マトリクス中の全分析物の分配平衡を待つことは実用的ではない。
【0007】
空気中または水中での試料採取のような直接SPME系において、分析物の移動は二段階で進行する。第一段階は、バルク試料マトリクスからSPMEポリマーコーティングの表面への分析物の物質移動からなり、該コーティング内での分析物の拡散が続く。拡散のフィックの第一法則(等式1)は、コーティング中の試料マトリクス中の物質拡散の速度を以下のように記載できる:
【式1】
[式中、Fは試料マトリクスバルクからSPME繊維表面への方向χにおける分析物の流れを表す。
(i)Dsは試料マトリクス中での分析物の拡散係数を表し、
(ii)Csは試料バルク中での分析物の濃度を表す。]。
【0008】
静的気体系において、物質移動は分子間衝突による分子拡散のみから生じる。実際には、分子拡散およびバルク流動の双方を考慮しなければならない。流動(攪拌)の程度は分析物の表面への接近を反映し、そしてしばしば境界層と呼ばれる理論的パラメータとして記載される(クーパー等、Air Pollution Control: A Design Approach, Waveland Press Inc., Prospect Heights, 1994, Chapter 13参照)。
【0009】
境界層理論によると、液が固定された物体を通過するとき、層状のサブレイヤーまたは試料マトリクスフィルムが形成される。分析物が空気バルク相からコーティングの表面へ通過することができる唯一方法は、境界層を横切る分子拡散を介することである。固液境界において、境界層の厚さは攪拌条件および流体の粘度により決定される(ポウリス、Solid Phase Microextraction: Theory and Practice, Wiley/VCH, Inc., New York, 1997参照)。
【0010】
気体系において、空気風速は物質移動プロセスにおいて非常に重要な因子である。風速の値はバルク空気運動の度合いを表すので、風速は流体のバルク中における全体の物質移動に影響する。物質移動理論に基づくと、分析物の物質移動速度は物質拡散率に比例し、そして界面での気体フィルムの厚さに反比例する。
【0011】
温度、圧力、分子構造および分子量のような多くの因子が、VOCの分子拡散係数に直接影響することができる(ルッグ,G.A.、Analytical Chemistry, 1968, 40(7), 1072参照)。拡散係数の正確な実験測定は困難であるので、気体系における有機化合物について比較的僅かな値が文献から入手可能である。数多くの方法が、気体系におけるVOCの拡散係数の概算のために提案されている。ヒュラー、シェトラーおよびギディングスによる方法(FSG法)は、低ないし中温での非極性有機気体について最も正確であると報告されている(ライマン等、Handbook of Chemical Property Estimation Method, ACS, McGraw-Hill, Inc., New York, 1982, Chapter 17参照)。最小の誤差が脂肪族化合物および芳香族化合物と関連している。FSGモデルは、分析物の分子拡散係数が温度に直接比例し、そして気圧に反比例すると記載する。空気の相対湿度は、水分子が吸着プロセスに関与するので、SPME繊維上でのVOC抽出に影響することができる他の因子である。
【0012】
本発明の要約
抽出コーティングを含む表面を有する固相マイクロ抽出装置を使用して、試料中の関心分析物の濃度を決定する方法であって、前記試料を制御した条件下で十分に攪拌して実質的に一定の境界層を前記試料と前記コーティングとの間に維持しつつ、前記試料を前記コーティングと接触させることからなる。該方法はさらに、前記境界層を通過する全分析物を前記コーティングにより吸着するように、前記試料と前記コーティングとの間の接触時間を制限し、そして前記コーティングを寸法決めすることを含む。該方法はさらに、前記接触を終了させ、前記コーティング中の各関心分析物の量を決定し、そしてその分析物についての拡散係数を使用することにより、前記試料中の各関心分析物の濃度を計算することを含む。
【0013】
試料中の関心分析物の濃度を決定する方法は、膜を有する抽出装置を使用する。該方法は、前記試料をマイクロ抽出を生じさせるに十分な時間の間に前記膜と接触させることを含む。該方法はさらに、大きな表面積を有する膜を選び、そして前記膜と接触する全分析物を前記膜により吸着するように、接触時間を制限することを含む。該方法はさらに、前記膜を前記試料から分離し、前記膜中の各関心分析物の量を決定し、そしてその分析物についての拡散係数を使用して、前記試料中の各関心分析物の濃度を計算することを含む。
【0014】
試料中の関心分析物の濃度を決定する装置であって、前記装置は、前記コーティングと接触する全分析物を抽出するための大きな表面積により特徴付けられる抽出コーティングを含む表面を有する固相マイクロ抽出装置と、マイクロ抽出の間に前記試料を制御した条件下で十分に攪拌する攪拌手段を含む。
【0015】
さらなる態様において、試料中の関心分析物の濃度を決定する装置は、抽出が許された時間内に前記膜の表面と接触する全分析物を吸着するために大きな表面積を有する膜を使用する。前記膜は、分析機器の注入口に合うように寸法決めおよび形状決めされている。
【0016】
図面の簡単な説明
図1は、空気試料採取系の流れ図であり、
図2は、様々な湿度を有する試料のための空気試料採取系のさらなる態様であり、
図3は、吸着についての風速の効果を図示するグラフであり、
図4は、異なる風速下でのトルエンの抽出時間プロファイルを図示するグラフであり、
図5は、トルエン抽出時間プロファイルおよび風速の勾配のグラフであり、
図6は、高い風速でのベンゼンの異なる濃度についての抽出時間プロファイルを図示し、
図7は、1分の試料採取時間後の吸着されたベンゼンの量および濃度のグラフであり、
図8は、温度での吸着量のグラフであり、
図9は、5秒の暴露時間で吸着された量と増大した温度との間の関係を図示するグラフであり、
図10は、10秒の試料採取時間で、図9について使用したものと異なる繊維で温度と共に吸着の量を図示するグラフであり、
図11は、異なる湿度で、時間と共に吸着されたベンゼンの量を図示するグラフであり、
図12は、異なる湿度で、時間と共に吸着されたトルエンの量を図示するグラフであり、
図13は、異なる湿度で、時間と共に吸着されたp−キシレンの量を図示するグラフであり、
図14は、一定の空気攪拌を与えるために電気式送風機を有する抽出装置を図示し、
図15Aは、その上に抽出コーティングを有する繊維を有する抽出装置の模式側面図であり、
図15Bは、その内面に抽出コーティングを有する流れチューブの模式側面図であり、
図15Cは、容器の内面に抽出コーティングを有する容器の模式側面図であり、
図15Dは、その上に抽出コーティングを有する粒子を含む容器の模式側面図であり、
図15Eは、攪拌機上に抽出コーティングを有する容器の模式側面図であり、
図15Fは、攪拌棒を有し、該棒の上に抽出コーティングを有する容器の模式側面図であり、
図16は、その上に抽出コーティングを有するシリカロッドを取り巻く境界層の模式透視図、および濃度プロファイルのグラフであり、
図17は、ハンドルに取付けられ拡張した膜の透視図であり、
図18は、ハンドル周りに巻かれた図17の膜の斜視図であり、
図19は、三つの繊維を有するホルダーの模式側面図であり、そして
図20は、液体中で分析物の濃度を決定する装置の模式側面図である。
【0017】
好ましい態様の説明
PDMSまたはPA中での液体コーティングの拡散係数と比較して、ジビニルベンゼンおよびカルボキセン中でのVOCの拡散係数は小さく、そのためSPME分析の枠組で、本質的に全分子がコーティングの表面上に残存する。試料採取条件、試料マトリクス組成および濃度は、混相繊維により抽出される分析物の量に大きく影響する。実用上の観点から、このことは多孔質ポリマーSPMEコーティングを使用する定量分析をより困難にしている。
【0018】
非常に短い暴露時間(例えば、1分)で、高速試料採取および屋内空気中のVOCの分析のためにPDMS/DVBコーティング繊維でのSPMEを使用するとき、吸着と濃度との間に線形関係がある。1分間の試料採取期間内で、PDMS/DVB繊維上に抽出される空中浮遊ベンゼン、トルエン、エチルベンゼンおよびp−キシレン(BTEX)は、試料採取時間と共に線形的に増加する。吸着速度が分析物の分配定数よりもむしろその拡散係数により支配されるという事実のために、平衡前の短い暴露時間が利点を生じる。VOCの拡散係数の間の差異は分配定数の間の差異と比較して遥かに小さいので、類似した分子量を有する全目標VOCは、短い試料採取時間を使用したとき、類似した抽出速度を生じる。
【0019】
境界層を通した物質移動パラメータは、分子量拡散およびバルク流体移動の双方を含むべきである。空気試料採取のために多孔質ポリマーSPMEコーティングを使用するとき、入手可能な全分析物分子が非常に短い暴露期間内に移動可能となっていると合理的に仮定することができる。言い換えると、コーティング表面上の分析物の濃度が飽和点よりかけ離れているとき、全目標分子は、それらが多孔質固体抽出コーティングの表面と接触するやいなや直ちに吸着される。マトリクス組成および試料採取条件を均一に保つ場合、分析物の物質拡散の速度はこの短時間の期間内で試料バルク中のその物質拡散係数に比例するであろうことが見出された。また、平衡の遥かに前に起こる非常に短い暴露時間を使用するとき、分析物の拡散係数に依存して吸着された分析物の量と濃度との間に量的な関係が存在することも見出された。
【0020】
気固界面において、気体フィルムの厚さは空気運動または風速および空気の性質により大きく影響される。気体系において、空気風速は物質移動プロセスにおける非常に重要な因子である。風速の値はバルク空気運動の度合いを表すので、風速は流体のバルク中での全体の物質移動速度に影響する。物質移動理論に基づくと、分析物の物質移動速度は物質拡散率に比例し、そして界面での気体フィルムの厚さに反比例する。従って、多孔質SPME繊維での空気試料採取を考慮したとき、空気風速は吸着プロセスに関して、特に平衡前抽出について非常に重要な因子である。
【0021】
本発明で、空気/風速、試料採取温度および空気相対湿度を含む幾つかの最重要な因子を、非平衡条件下での多孔質ポリマーSPMEコーティング上へのVOCの吸着プロセスに関係して調査した。
【0022】
抽出モデル開発
固体SPME繊維コーティングは、長さL、並びに外径bおよび内径aをそれぞれ有する長い円筒としてモデル化することができる(図1)。該コーティングを運動する空気に暴露するとき、厚さδを有する界面(または境界層)が空気のバルクと繊維の理想化された表面との間に発達する。分析物は該バルク空気から該コーティング表面へと境界層を横切る分子拡散を介して移動する。殆どの場合において、界面を横切る分析物の分子拡散が全体の吸着プロセスにおける律速段階である。
【0023】
バルク空気中の分析物濃度(Cg)は、短い試料採取時間を使用するときに一定であると考慮することができ、そして対流を介した分析物の均一な供給がある。これらの仮定は、空気の体積が界面の体積より遥かに大きく、そして抽出プロセスがバルク空気濃度に影響しないSPME空気試料採取の多くの場合について真実である。加えて、SPME固相コーティングは完全な吸い込みとして扱うことができる。吸着結合は瞬間的であり、またコーティング表面上の分析物濃度(C0)は飽和からかけ離れており、そして短い試料採取時間および典型的な空気中での比較的低い分析物濃度については無視できると仮定できる。これらの濃度は、殆どの関心VOCおよび典型的な産業衛生学、屋内および環境空気濃度について、ppt(体積による)ないしppm(体積による)の範囲にわたる。分析物濃度プロファイルは、CgからC0まで直線であると仮定できる。加えて、コーティング表面上の初期分析物濃度(C0)は、抽出開始時に0に等しいと仮定できる。固体コーティングの細孔内での拡散は、bからaへの物質移動を支配する。
【0024】
試料採取時間で抽出された分析物の質量は、それぞれ内径bおよび外径δを有し、熱の均一な軸方向の供給を有する円筒中の熱移動の類似を使用して導くことができる。熱移動に対する定常状態解式は、温度を濃度で、熱を物質の流れで、そして熱移動係数を気相分子拡散係数で置き換えることにより、物質移動解式へと移すことができる。結果として、抽出された分析物の質量は以下の等式から概算することができる:
【式2】
[式中、nは試料採取時間(t)にわたり抽出された分析物の質量をngで表し、Dgは気相分子拡散係数(cm2/秒)を表し、bは繊維コーティングの外径(cm)を表し、Lは被覆されたロッドの長さ(cm)を表し、δは繊維コーティングを取り巻く境界層の厚さ(cm)を表し、そしてCgはバルク空気中の分析物濃度(ng/mL)を表す。]。分析物濃度は非常に短い試料採取時間の間に一定であると仮定でき、そして従って等式1はさらに下式に格下げすることができる:
【式3】
[式中、tは試料採取時間(秒)を表す。]。繊維の長さおよび繊維コーティングの外径は、各種の繊維について一定である。65μmPDMS/DVBコーティングおよび75μmカルボキセンTM/PDMSコーティングの基準長さはL=1cm、そして外径はそれぞれ2b=0.0240cm(±10%)および2b=0.0260cm(±10%)である。
【0025】
抽出された物質の量が試料採取時間、各分析物のDg、バルク空気濃度に比例し、そしてδに反比例することを見出すことができる。これは次に定量空気分析を可能にする。等式2は、固体SPMEコーティングでの急速試料採取について空気中の分析物濃度をng/mLで概算するために変形できる:
【式4】
抽出された分析物の量(n)は、検出器応答から概算できる。
【0026】
境界層の厚さが繊維の外径より遥かに小さい特別な場合(δ<<b)について、一般解式は平板問題に格下げできる。そのような条件について、ln(1+δ/b)≒δ/b、2πbL=Aとなり、そして等式2は以下のように簡略化する:
【式5】
[式中、Aは吸着剤の表面積を表す。]。等式4は、針開口と繊維との間の距離(Z)をδ.11、12で置き換えた格納されたSPME繊維でのTWA試料採取についての物質取り込みモデルに類似する。
【0027】
同一な条件下で、抽出された物質の量は、より大きな気相拡散係数(Dg)を有する分析物についてより多くなるであろう。このことは、より大きなDgを有する分析物がより速く界面を横切り、そして繊維コーティングの表面に達するという事実と合致する。各分析物についてのDgの値は文献中に見出すことができるか、または物理化学的特性から概算できる。数多くの方法が空気系におけるVOCの拡散係数の概算のために提案されている。ヒューラー、シェトラーおよびギディングスによる方法(FSG)は、低ないし中温での非極性有機気体について最も正確であることが報告されている:
【式6】
[式中、Dgはcm2/sで表され、Tは絶対温度(K)を表し、Mair、Mvocは空気および関心のあるVOCの分子量(g/mol)を表し、pは絶対圧力(atm)を表し、Vair、Vvocは空気および関心のあるVOCのモル体積(cm3/mol)を表す。]。FSGモデルによると、Dgは温度に直接比例し、そして気圧に反比例する。大気圧変化は比較的低いので、空気試料採取を考慮するとき、気温は圧力より重要な因子である。にも関わらず、大気圧および気温の双方は、慣用の空気試料採取の間に慣例的に観測される。
【0028】
境界層の厚さ(δ)は試料採取条件の関数である。δに影響する最重要の因子は、SPMEコーティング半径、気流速度、気温および各分析物のDgである。境界層の有効厚は対流および拡散の双方の比率により決定される。分析物が吸着剤表面に近づくと、全体の流れは対流よりも拡散により増して依存する。バルク試料中の分析物の流れは対流により支配されると推測されるが、一方、境界層領域内の分析物の流れは拡散により支配されると推測される。境界層の有効厚は、この移行が起こる位置、即ちδに向けた流れ(対流により支配される)がSPMEコーティングの表面に向けた流れ(拡散により支配される)と等しくなる位置として説明することができる。ネルンストモデルにおいて、境界層内のマトリクスは静的である。実験研究は、対流が境界層内にも存在することを示した。しかしながら、その効果は固体表面への距離と共に減少した。境界層の有効厚は、直交流中のSPME繊維についての熱移動理論から適用された等式6を使用して概算することができる:
【式7】
[式中、Reはレイノルズ数=2ub/νを表し、uは線気流速度(cm/秒)を表し、νは空気の動粘度(cm2/秒)を表し、Scはシュミット数=ν/Dgを表す。]。等式6における境界層の有効厚は代理(または平均)概算値であり、そして流れが分かれたりおよび/または伴流が形成されるときに起こり得る厚さの変化を考慮していない。等式6は、境界層の厚さが線気流速度の増加と共に減少することを示す。同様に、気温(Tg)が増加するとき、動粘度もまた増加する。動粘度項はReの分子に、またScの分母に存在するので、δについての全体の効果は小さい。
【0029】
各分析物の気相分子拡散係数(Dg)もまたδを支配する重要なパラメーターである。等式6において説明されるように、境界層の有効厚はより低いDgを有する分析物について減少するだろう。このことは、等しい条件下で低い分子量を有する分析物が低い揮発性の分析物よりもより速くコーティング表面に達し、そして従って、拡散がコーティングへの分析物輸送の主要な方式である点が該表面からさらに離れて位置することを考慮して説明することができる。境界層の縮小および分析物の物質移動速度の増大は、少なくとも二つの方法、即ち気流速度を増大することおよび気温を増大することにより達成することができる。しかしながら、該温度の増大は固体吸着剤の効率を減じるだろう。結果として、吸着剤コーティングは、全分析物についてゼロ吸い込みとして振舞わないこともある。
【0030】
化学物質および供給材料
研究に用いた揮発性有機化合物、即ちベンゼン、トルエンおよびp−キシレンは、シグマ−アルドリッチ社(ミシソウガ、オンタリオ)から購入した。全てのVOC標準物質は純度≧98.0%を有し、そしてGC/FID応答因子を較正するために使用した。連邦標準・技術局(NIST)により公証されたベンゼン、トルエンおよびp−キシレンの透過チューブをキン−テック社(ラ・マルキ、テキサス)から購入し、そして標準気体混合物の生成のために使用した。超高純度水素、窒素、空気をプラックスエアー社(ウォータールー、オンタリオ)から購入した。65μmPDMS/DVB、75μmカルボキセン/PDMSを有するSPME繊維およびSPMEホルダーをスペルコ社(オークビル、オンタリオ)から購入した。
【0031】
標準気体
通気試料採取チャンバーを有する標準気体生成装置を組み立て、一定温度で広範囲の目標VOC濃度を与えた。超高純度空気(ゼロ気体)をホワットマン空気生成機(ハーバーヒル、マサチューセッツ)から供給し、そして50psi頭部圧力で維持した。ベンゼン、トルエンおよびp−キシレンの透過チューブをガラス透過チューブアダプター(キン−テック社、ラ・マルキ、テキサス)内で保持し、そして一定流の希釈空気流で掃引した。該アダプターを円筒状アルミニウムオーブン内に置き、二つの加熱要素(100W)により加熱し、そしてその温度をK型熱電対(オメガTM、スタンフォード、コネチカット)および電気加熱制御装置(サイエンス・ショップス、ウォーターロー大学、オンタリオ)により制御した。空気流量を、系内の主ループおよび希釈ループの双方に設置した二つのサイドトラックTM物質流制御装置(シェラ・インストルメンツ、モントレー、カリフォルニア)により制御した。目標VOCについての広範囲の濃度を、空気流量および透過チューブ温置温度の双方を調節することにより得た。
【0032】
空気風速研究のための設計
図1に図示するように、空気試料採取システム2は、主円筒ガラスチャンバー4および四つのさらなる円筒ガラスチャンバー6、8、10、12からなる。全ガラスチャンバー4、6、8、10、12は異なる直径を有し、チャンバー4が最大である。チャンバー6は最小の直径を有し、チャンバー8、10、12は数字順に直径が各々増大する。主チャンバー4はSPME装置14を含むが、以下により詳細に説明する。1.0Lガラス試料採取球16(スペルコ社、オークビル、オンタリオ)を組み立て、そして標準気体発生器から下流に取付けられている。空気流量は、広範囲の空気風速を発生させるために1,000の1分当り標準立方センチメートル(sccm)から4,000sccmまで変化する。この新しい試料採取システムは、異なる風速を有する動気流および静止気体混合物の双方を与えることができる。典型的な屋内環境における気流速度の範囲の概算のための実験を、OMEGATMHHF51テンプレチャー・アンド・エア・ベロシティー・メーター(OMEGA社、スタンフォード、コネチカット)を使用して、機械により換気した建築物内で行った。屋内気流速度が測定部位と通気口との間の距離と共に変化することを見出し、表1に図示した。平均屋内気流速度は0から10cm/秒まで変化し、そして換気ゾーン(通気口近傍)での平均風速は15から40cm/秒まで変化した。表1に列挙したデータは、正確な三次元超音波風向風速計を使用することにより、平均屋内風速(作業室内の19個所で)が1.4から9.7cm/秒まで変化し、そして呼吸ゾーン高さでの平均風速が9.9から35.5cm/秒まで変化することを見出したワジオレク等、(1999) Indoor Air-International Journal Indoor Air Quality and Climate, 9(2)125により報告された値と合致する。ガラスチャンバー4、6、8、10、12は、動的流れ条件下での試料採取を可能にし、そしてチャンバー16は、止め栓18および20を閉じたときに静的試料採取を可能にする。止め栓22は排気管24を開閉する。平均風速は、気流を気体試料採取チャンバーの断面積で除すことにより計算される。空気流量を1,000sccmで設定したとき、気流速度は0.2から20.8cm/秒までの範囲にわたる。空気流量を4,000sccmに増加したとき、気流速度は0.8から83.2cm/秒までの範囲にわたる。全チャンバーにおいてレイノルズ数は1,200より小さいので、試料採取チャンバー中の気流は層流条件にある。65μmPDMS/DVB繊維を使用して、異なる平均気流速度下の各試料採取口におけるVOC気体混合物を試料採取する。20秒の短い暴露時間を使用して、PDMS/DVB繊維上へのVOC吸着プロセスについての風速の効果を調査した。空気浮遊BTEXの抽出時間プロファイルもまた様々な風速下で作製した。
【0033】
温度研究のための設計
空気流量を1,000sccmで維持し、そして透過チューブを60℃で温置した。図1における主試料採取チャンバー4を使用して異なる温度でのVOCの定常状態物質流れを与えた。SPME繊維の近傍における気温を室温の範囲で±0.3℃以内に維持した。65μmPDMS/DVB繊維および75μmカルボキセン/PDMS繊維を使用して、チャンバー中のVOC気体混合物を試料採取した。チャンバー中の気流の温度は22から40℃まで変化した。SPME繊維暴露時間はそれぞれ5秒および10秒であった。
【0034】
空気湿度研究のための設計
図2に図示するように、異なる湿度下で動的気流を生じさせるために、直列インピンジャートラップ26(スペルコ社、オークビル、オンタリオ)および湿度計28(ラジオ・シャック社、ウォーターロー、オンタリオ)を空気試料採取システムに取付けた。図1の構成部品と同一である図2の構成部品は、さらなる説明無しに図1において使用したものと同じ参照番号を使用して記載した。47%および75%の相対湿度を、インピンジャートラップ中の水位をそれぞれ1.0cmおよび8.0cmの高さで維持することにより得た。65μmPDMS/DVB繊維を使用して、異なる湿度下で気体混合物中のVOCを試料採取した。
【0035】
ガスクロマトグラフィー
FIDおよび二酸化炭素冷却隔壁プログラム可能注入器を備えたバリアン3400ガスクロマトグラフィー(バリアン・アソシエーツ社、サニーベール、カリフォルニア)を使用して、SPME繊維により抽出した空気試料および標準化合物の液体試料を分析した。SPB−5キャピラリーカラム(30m×0.25mm、内径、1.0μmフィルム厚)をGC中に取付け、そしてUHPヘリウムを担体気体として2.0mL/分の流量、26psi頭部圧力で使用した。オーブン温度プログラムは1分間50℃、15℃/分で240℃まで、そして2分間保持であった。SPME繊維脱着のために、注入器温度をカルボキセン/PDMS繊維について300℃で、またPDMS/DVB繊維について250℃で恒温に設定した。液体注入のために、注入器を45℃から225℃まで300℃/分の傾斜でプログラムした。標準気体中の目標VOCの定量は、試験範囲におけるVOC標準物質の液体注入によるFID信号から得た応答因子に基づいた。
【0036】
気流速度の効果
図3は、空気浮遊BETEXの5秒試料採取について75μmカルボキセン/PDMSコーティング上のベンゼン、トルエン、p−キシレンおよびエチルベンゼンの吸着についての風速の効果を図示する。各データ点は基準質量、即ち吸着した質量と空気中の分析物濃度との比率を表し、そして三つの試料についての一つの標準偏差を±で図示する。図3は物質移動の二つの別個の型:抽出量が気流速度に依存する型(1)および気流速度が抽出物質の量に殆ど顕著な影響を与えない型(2)(“半プラトー”領域)が存在することを明らかに示す。
【0037】
二つのゾーン現象は、空気と多孔質固体吸着剤との間の界面を考慮することにより説明できる。図3における第一の領域は、SPMEコーティングを取り巻く静的で明確に発達した境界層を通した分析物の拡散を説明する。この領域では、気流速度の増加は境界層厚の減少を引き起こし、そしてより多くの各分析物を単位時間当りに抽出できる。この発見は、等式2により要約された理論と合致する。第二の領域において、ある臨界速度以上では、境界層の厚さはさらに減じられるが、しかし物質移動がSPMEコーティングの細孔内の拡散により支配されるのに十分小さい。従って、気流速度の増加は抽出された分析物の量に小さな影響しか有さない。
【0038】
境界層厚の効果が無視できる臨界速度は、この研究における分析についてほぼ10cm/秒である。この範囲は環境空気における平均気流速度より低いけれども、臨界速度は典型的な屋内空気において測定される気流速度の範囲に近い。報告されている呼吸ゾーン高さでの平均屋内気流速度は9.9から35.5cm/秒まで変化し、作業室内の19箇所の平均は1.4から9.7cm/秒まで変化する。野外試料採取における多孔質SPME繊維での抽出条件の再現性を確保することに特別な注意を払わなければならない。このことは、固体SPME繊維の近傍における気流速度の小さな変化が吸着される分析物の量に、特に第一物質移動領域において顕著な影響を有し得るからである(図3)。
【0039】
試料採取をより大きい気流速度で、即ち“半プラトー”領域(図3)において行ったとき、固体SPME繊維について抽出された物質の量を増大できるという事実を考慮すると、外部ファンまたは空気試料採取ポンプへの取付けを使用して、より大きな速度の物質移動を与えることができる。そのような装置は、抽出条件を平等化し、そして各試料について再現可能な境界層の有効厚を与えようと考える空気試料採取専門家により使用されるかもしれない。固体SPMEコーティングの試料採取のためにより高い気流速度を使用することは、感度の増大を導く。予備的な結果は、固体PDMS/DVB65μm繊維コーティング、30秒試料採取、および1m/秒の平均気流速度の使用は10ppt(体積による)範囲でのBTEXの検出を可能にすることを示す。
【0040】
最も大量な物質がベンゼンについて吸着され、続いてトルエン、p−キシレンおよびエチルベンゼンである。この発見は等式2において表される理論、即ち、急速試料採取を使用して吸着した分析物の質量は、全ての他の試料採取条件が等しいとき各分析物のDgに比例することと合致する。75μmカルボキセンTM/PDMSコーティングは短い試料採取時間の間にゼロ吸い込みとして作用した。ベンゼンおよびトルエンについての図3における基準質量の比率は、FSG法により概算されたそれらのDgの比率に近かった。エチルベンゼンおよびp−キシレンについての基準質量は予期されたものより小さかった。この矛盾は恐らく実験誤差と関連している。
【0041】
図4は、0.8ないし83.2cm/秒の範囲にわたる異なる風速下で65μmPDMS/DVB繊維を使用したトルエンの抽出時間プロファイルを図示する。これらの曲線は、屋内空気風速の全範囲内でのトルエン取り込みの変化を説明する。PDMS/DVB繊維上へのトルエン物質負荷が、短時間(1分)内の試料採取時間で直線的に増加する。さらに、この短い試料採取時間内で、トルエン取り込みは風速の増大と共に上昇する。しかしながら、トルエンの平衡物質負荷は一般に風速の増加と共に減少する。このことは、他のより強く結合する化合物が同様に速く抽出し、その結果、より速く発生する置換効果を生じる事実によって引き起こされる。
【0042】
風速効果のさらなる調査は、異なる風速で試料採取したとき、PDMS/DVB繊維上へのトルエン吸着について異なる影響があることを示す。一般に、トルエン抽出時間プロファイルの勾配は風速の増大と共に増大する。トルエン抽出時間プロファイルの勾配を適用した平均風速に対してプロットした場合、図5が得られる。この図は、風速が0.8から8.7cm/秒まで増大するとき、勾配がほぼ直線的に増大することを説明する。このことは、PDMS/DVB繊維上へのトルエン物質負荷が平均屋内風速範囲(0〜10cm/s)内での変化により顕著に影響され、そして物質負荷のほぼ直線的な増加がこの風範囲内で予期されることを意味する。トルエン抽出のほんの少しの増加のみが、風速が8.7から83.2cm/秒まで増加したときに観察される。この範囲の風速は通常屋内空気換気ゾーンで見出される。このことは、トルエンの物質負荷は屋内空気換気ゾーン内での風速の変化(>10cm/秒)によって僅かにのみ影響されることを示す。
【0043】
臨界風速同等またはそれ以上の風速下での空気試料採取
図4および5は、PDMS/DVB繊維での空気試料採取を物質移動および分析物取り込みが風速変化により影響されないある臨界風速より上で行うべきであることを示唆する。図6は、65μmPDMS/DVB繊維を使用して10.2cm/秒以上の風速で標準VOC気体混合物を試料採取したベンゼンについての抽出時間プロファイルを図示する。三つのVOC濃度を、VOC透過チューブについての異なる温置温度(35、40および60℃)および2,000sccmでの一定気流を設定することにより得た。他のVOC濃度は温置温度を60℃で維持し、そして空気流量を4,000sccmに増大することにより生成した。これらの曲線は、ベンゼン取り込みがその平衡水準に達する前は試料採取時間と共に増大することを説明する。濃度が高くなればなる程、PDMS/DVB繊維について平衡に達するために必要とされる時間がより短くなる。しかしながら、非常に短い試料採取時間(1分)内でのみ、ベンゼン物質負荷は試料採取時間とほぼ線形であった。図7は、1分の試料採取時間を10.2cm/秒以上の気流速度下で使用したとき、ベンゼン取り込みまたは応答が濃度と直線的に増加したことを図示する。他の目標VOC、即ちトルエンおよびp−キシレンについて、同様な結果がまた観察された(データは図示せず)。
【0044】
多孔質SPME繊維上へのVOC吸着についての温度効果
図8は、5秒間にPDMS/DVB上に吸着されたトルエンおよびp−キシレンの量が、温度が22から26℃に上昇すると直線的に増加するが、ベンゼン取り込みはこの温度範囲内で殆ど一定のままであることを図示する。温度が継続的に上昇すると、吸着されるトルエンおよびp−キシレンの量が僅かに増加するが、一方、ベンゼンの吸着量は減少する。このことは、ベンゼンよりPDMS/DVBコーティングに高い親和性を有するp−キシレン分子またはトルエン分子によるベンゼン分子の置換を示す。該結果は、特にコーティングに高い親和性を有する分析物について、ある範囲内で増大した温度がPDMS/DVBコーティング上のVOCの吸着を増大することを示す。図8と同様、図9は、10秒の暴露時間の間にPDMS/DVB繊維上に吸着されたトルエンおよびp−キシレンの質量が、22から25℃への温度の増大と共に増加することを図示する。吸着されたベンゼンは22から25℃まで殆ど一定のままであるが、しかし温度がさらに25から40℃まで増大すると減少する。実際、この状況は、コーティング上の吸着が進行すると活性表面部位が飽和し、そして幾つかのベンゼン分子がトルエン分子またはp−キシレン分子により置換されるかもしれないので予期されるべきである。
【0045】
図10において、カルボキセン/PDMS繊維上に吸着された全3種の分析物の量は、10秒の試料採取時間を使用したとき、温度が22から25℃に上昇すると直線的に増加する。温度が継続的に増大すると、吸着する分析物の質量は僅かのみ増加する。一般に、PDMS/DVBとカルボキセン/PDMSとの間で同様な吸着挙動が観察される。しかしながら、カルボキセン/PDMS繊維は、分析物の中で最小の分子であるベンゼンの抽出についてPDMS/DVBより高い吸着能を有する。主にメソ細孔並びにより少量のマクロ細孔およびミクロ細孔からなるDVB粒子と異なり、カルボキセンポリマー粒子はミクロ、メソおよびマクロ細孔の均一な分布を有する。従って、カルボキセン粒子は、PDMS/DVB繊維と比較して、より小さい分子(炭素原子数2ないし12)を試料採取するためにより良好である。不幸にも、カルボキセン/PDMSの弱点は分析物脱着の困難さである。ピーク裾引きがしばしば300℃のGC注入器温度ですら観察される。
【0046】
SPME試料採取における最重要の実験パラメータの一つとして、抽出温度がSPME空気試料採取に関連した幾つかの以前の報告書において議論されている。純相液体SPME繊維を使用するとき、抽出温度の増加は通常、抽出速度の増大を生じるが、しかし同時に分配定数の減少を生じる。SPMEコーティングによる抽出は発熱プロセスなので、平衡での物質負荷の減少は通常、抽出温度が増加するときに予期される。しかしながら、液体繊維とは対照的に、混相多孔質SPME繊維を使用したとき、温度効果の反対の傾向がこの研究において見出された。非常に短い試料採取時間内(平衡からかけ離れている)で、多孔質SPME繊維上のVOC分析物は、抽出温度が狭い範囲内で増大すると直線的に増加することができる。多孔質SPME繊維上のVOC吸着は抽出平衡または分配定数よりむしろ拡散プロセスまたは拡散係数により支配されるので、高温での拡散係数の増大は固体SPMEコーティング上へのVOC取り込みを増加するべきである。
【0047】
PDMS/DVB繊維上へのVOC吸着についての湿度の効果
図11〜13は、異なる湿度で標準VOC気体混合物を抽出するために65μmPDMS/DVB繊維を使用したベンゼン、トルエンおよびp−キシレンの抽出時間プロファイルである。これらの図は、特により小さい分子、例えばベンゼンについて、75%の湿度水準が平衡でのPDMS/DVBコーティング上へのVOC取り込みにおける顕著な減少を生じたことを示す。PDMS/DVB多孔質ポリマーコーティングへの高い親和性により、水分子は他のVOC分子と競合し、そしてコーティング表面上の活性表面部位の一部を占拠する。したがって、より少ない活性表面部位がVOC分子、特にコーティングへのより低い親和性を有するより小さい分子について利用可能となる。しかしながら、非常に短い試料採取時間、例えば1分内では、異なる湿度を有する条件内で顕著な差異は観察されない。このことは、活性表面部位が非常に短い抽出時間内に飽和しておらず、そしてまだVOC分子に対して利用可能であることを示す。それ故、短い試料採取時間(平衡からかけ離れている)が、PDMS/DVBコーティング上でのVOCの吸着についての湿度の効果を最小にする。表4は、PDMS/DVBコーティング上へのVOC取り込みを減ずることについての相対湿度の効果を図示する。低湿度(<50%)での非常に短時間の空気試料採取についてPDMS/DVB繊維を使用する場合、湿度効果を無視できる。しかしながら該結果は、相対湿度が50%を超える場合、PDMS/DVB上へのVOCの物質負荷の減少が予期されることを示唆する。
【0048】
空気風速および温度は、特に非平衡条件での多孔質SPME繊維についての拡散プロセスに関する重要なパラメータである。風速またはバルク空気運動は、ある範囲内において、バルク空気から繊維へのVOC物質移動プロセスに顕著に影響する。このことは、繊維と空気との間の気相境界層の厚さが風速が増加すると減少し、物質移動速度は0と5cm/秒との間で加速されることを示す。この風速範囲は屋内空気の平均気流速度について典型的である。従って、多孔質ポリマー被覆されたSPME繊維での空気試料採取は、物質移動および分析物取り込みが影響されずそして抽出が再現性よくできる、ある臨界気流速度より上で行うべきである。
【0049】
液体SPME繊維を使用するとき、抽出が発熱プロセスであるので、平衡での物質負荷の減少が通常、抽出温度が増大すると予期される。温度効果の反対の傾向が、混相多孔質SPME繊維を短い試料採取時間で使用したとき、この研究において見出された。平衡からかけ離れた非常に短い試料採取時間内で、多孔質ポリマー被覆されたSPME繊維上に抽出された分析物は、抽出温度が22から25℃までの狭い範囲内で増大すると直線的に増加した。この場合、吸着プロセスは、分析物の分配定数の代わりに拡散係数により支配される。非平衡条件下で多孔質ポリマー被覆されたSPME繊維による吸着についての風および温度の効果は、過去の研究者は注目していなかった。分析データは、物質移動速度と分析物の拡散係数との間に直接関係があることを示す。従って、文献から得られるか、計算されるか、または実験により決定されるいずれかの標準の拡散係数を、抽出された分析物の量と与えられた抽出時間についての濃度との間の関係を較正するために使用することができる。実験の間、一定の攪拌条件が必要であるか、または異なる攪拌条件を使用する場合、適当な調節係数を計算することが必要である。図14は、円筒ヘッド40上の取入口38に空気を吸い込みそして排出口42を通して空気を排気するファン(図示しない)を有する電気式送風機36に基づく簡単な装置34の例を図示する。送風機36は一定の空気攪拌を与えることができる。SPME装置14はSPME挿入口46に設置されたホルダー44を有する。Oリング48がホルダー44と挿入口46との間にある。スリーブ49がヘッド40を通し延びて、ヘッド40内に繊維50に置く。送風機36はハンドル52を有する。報告されたデータは、液体試料分析にまで拡張することができる。この場合、液体マトリクス中での分析物の拡散が応答を較正するために使用することができる。空気分析のために図14に図示したものと同様な装置を設計して、試料マトリクスの一定の攪拌を与えることができる。固体試料については、間接ヘッドスペースまたは液体抽出を使用できる。
【0050】
空気分析について、高湿度はPDMS/DVBコーティング上へのVOC取り込みを減ずることが見出された。しかしながら、湿度の効果は、活性表面部位が飽和されない非常に短い暴露時間を使用することにより最小にすることができる。非常に短時間の空気試料採取のために低湿度でPDMS/DVB繊維を使用したとき湿度効果は無視できるが、しかし較正が必要であるかもしれないとき、空気試料が高湿度環境から採取された場合、PDMS/DVB上のVOCの物質負荷減少が予想される。温度および湿度の双方を野外測定の間に観測し、そして必要ならば応答を調節する適当な補正係数を計算することが期待される。
【0051】
提案された拡散に基づく抽出および較正の手法は、野外および研究室における最速の可能な試料採取/試料調製手法となることが期待される。抽出相の様々な異なる配置がこの技術の実際の器具に使用することができる(図15Aないし15E参照)。
【0052】
図15Aにおいて、試料62を含む容器60は、チューブ状部材64上に抽出相コーティング63を有する。図15Bにおいて、チューブ66はその内面上に抽出相コーティング63を有する。試料62は、チューブ66を通して流れると抽出相コーティングと接触する。
【0053】
図15Cにおいて、容器60はその内面にライニングされた抽出相コーティング63を有する。試料62は、容器中に含まれたときにコーティング63に接触する。
【0054】
図15Dにおいて、容器60は試料62を含む。粒子72は試料内にあり、そして各粒子は抽出相コーティング63により取り巻かれている。図15Eにおいて、容器60は試料62を有し、攪拌機74が該試料中に延びている。該攪拌機は水掻き76を有し、該パドル上に抽出相コーティング63を有する。図15Fにおいて、試料62を含み、該試料内にある攪拌棒78を有する容器60を図示する。攪拌棒78は抽出相コーティング63を含む。
【0055】
図16において、多孔質でかつ細孔86を含む固体抽出相コーティング82により取り巻かれたシリカロッド60の透視図を図示する。円筒形状の境界層84が円筒形状のコーティング82を取り巻き、そしてDgにより示される分析物が境界層を通過し、そしてコーティング86により吸着される。図16の下部のグラフは、境界層が厚さデルタを有し、ロッド80が半径aを有し、そして半径bがロッド80の中心からコーティング86の外面までの距離と等しいことを図示する。C0での濃度は境界層とコーティングとの間の界面での濃度であり、そしてCgでの濃度は気体の濃度である。
【0056】
図17において、膜90はハンドル92に支持され、そして該膜は未折畳み位置にある。図18において、膜90はハンドル92周りに巻かれている。図17は、ハンドルおよび膜が試料(図示せず)と接触させられている収集状態を図示する。素早い抽出が生じた後、該膜は試料と接触しないように移動され、そして膜90がハンドル92周りに巻かれてよりコンパクトになる。膜およびハンドルはその後、気密性である円筒外装に挿入される。該膜はその後、試料が採取された野外にあることができる分析機器へ、または試験場から離れている機器に移すことができる。該外装は膜が輸送の間に汚染されることを防ぐ。
【0057】
図19において、ブラシ100がそこから延びるブリストル102を有し、そして各ブリストルがその上に抽出層コーティング104を有する、本発明のさらなる態様を図示する。図20において、装置107はコーティング110を有する繊維109を支持するSPMEシリンジ108を有する。モーター112はブラケット116中の攪拌機114に動力を供給する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、空気試料採取系の流れ図である。
【図2】 図2は、様々な湿度を有する試料のための空気試料採取系のさらなる態様である。
【図3】 図3は、吸着についての風速の効果を図示するグラフである。
【図4】 図4は、異なる風速の下でのトルエンの抽出時間プロファイルを図示するグラフである。
【図5】 図5は、トルエン抽出時間プロファイルおよび風速の勾配のグラフである。
【図6】 図6は、高い風速でのベンゼンの異なる濃度についての抽出時間プロファイルを図示する。
【図7】 図7は、1分の試料採取時間後の吸着されたベンゼンの量および濃度のグラフである。
【図8】 図8は、温度での吸着量のグラフである。
【図9】 図9は、5秒の暴露時間で吸着された量と増大した温度との間の関係を図示するグラフである。
【図10】 図10は、10秒の試料採取時間で、図9について使用したものと異なる繊維で温度と共に吸着の量を図示するグラフである。
【図11】 図11は、異なる湿度で、時間と共に吸着されたベンゼンの量を図示するグラフである。
【図12】 図12は、異なる湿度で、時間と共に吸着されたトルエンの量を図示するグラフである。
【図13】 図13は、異なる湿度で、時間と共に吸着されたp−キシレンの量を図示するグラフである。
【図14】 図14は、一定の空気攪拌を与えるために電気式送風機を有する抽出装置を図示する。
【図15A】 図15Aは、その上に抽出コーティングを有する繊維を有する抽出装置の模式側面図である。
【図15B】 図15Bは、その内面に抽出コーティングを有する流れチューブの模式側面図である。
【図15C】 図15Cは、容器の内面に抽出コーティングを有する容器の模式側面図である。
【図15D】 図15Dは、その上に抽出コーティングを有する粒子を含む容器の模式側面図である。
【図15E】 図15Eは、攪拌機上に抽出コーティングを有する容器の模式側面図である。
【図15F】 図15Fは、攪拌棒を有し、該棒の上に抽出コーティングを有する容器の模式側面図である。
【図16】 図16は、その上に抽出コーティングを有するシリカロッドを取り巻く境界層の模式透視図、および濃度プロファイルのグラフである。
【図17】 図17は、ハンドルに取付けられ拡張した膜の透視図である。
【図18】 図18は、ハンドル周りに巻かれた図17の膜の斜視図である。
【図19】 図19は、三つの繊維を有するホルダーの模式側面図である。
【図20】 図20は、液体中で分析物の濃度を決定する装置の模式側面図である。
Claims (5)
- 抽出コーティングを含む表面を有する固相マイクロ抽出装置を使用して、試料中の関心分析物の濃度を決定する方法であって、
前記試料と前記コーティングとの間に実質的に一定の境界層を維持するために、制御した条件下で前記試料を十分に攪拌しながら、前記試料を前記コーティングと直接接触させること、
前記境界層を通過する全分析物が吸着されるように、前記試料と前記コーティングとの接触時間を制限すること、
前記接触を終了させ、そして前記コーティング中の各関心分析物の量を決定すること、そして
前記分析物についての拡散係数および前記コーティング中の前記量を使用することにより、前記試料中の関心分析物の濃度を計算すること
からなる方法。 - 前記表面を、繊維、チューブ、容器の内面、懸濁した粒子、攪拌機および攪拌棒並びにディスクの群より選択する工程を含む、請求項1記載の方法。
- 攪拌の度合いを変化させるために攪拌条件を制御する工程と、攪拌の度合いを抽出の量と相関させる工程と、攪拌の度合いを調節することにより関心分析物の濃度を決定する工程を含む、請求項1記載の方法。
- 前記抽出コーティングを含む前記表面を覆うポリマー性膜を使用することにより、明確な人工境界層を生じさせる工程を含む、請求項1記載の方法。
- 前記コーティングを分析機器の注入口に置くことにより、前記コーティングから分析物を脱着する工程と、脱着および分析を行う工程を含む、請求項1記載の方法。
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