以下、本発明の実施の形態によるスクロール式流体機械として、ツインラップ型のスクロール式空気圧縮機を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図13は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1はスクロール式空気圧縮機の外枠を構成する筒状のケーシングで、該ケーシング1は、図1ないし図3に示す如く軸線O1 −O1 に沿って軸方向に延び、後述の固定スクロール7A,7Bと共に固定側部材を構成するものである。そして、ケーシング1は、軸線O1 −O1 を中心とした略円筒体からなる筒形ケース2と、該筒形ケース2の左,右両側に取付けられた左,右の側部ケース3A,3Bとにより構成されている。
この場合、筒形ケース2の軸方向一側(図1中の左側)に位置する第1の側部ケース3Aは、図2に示す如く、例えばボルト等の締結手段を用いて筒形ケース2の軸方向一側(左側)に着脱可能に固定して取付けられ、内周側に後述の回転軸受20Aが設けられた環状部4Aと、該環状部4Aの外周側から筒状をなして軸方向に延設された筒状部5Aとにより構成されている。
一方、筒形ケース2の軸方向他側(図1中の右側)に位置する第2の側部ケース3Bは、図3に示す如く、例えばボルト等の手段を用いて筒形ケース2の軸方向他側(右側)に着脱可能に固定して取付けられ、内周側に後述の回転軸受20Bが設けられた環状部4Bと、該環状部4Bの外周側から筒状をなして軸方向に延設された筒状部5Bとにより構成されている。
そして、第1,第2の側部ケース3A,3Bには、筒状部5A,5Bの先端側に後述する第1,第2の固定スクロール7A,7Bがボルト等により固定して設けられている。また、側部ケース3A,3Bと固定スクロール7A,7Bとの間には、後述する第1,第2の旋回スクロール29A,29Bと第1,第2の冷却ファン52A,52Bとが収容されるものである。
ここで、ケーシング1の一側(左側)に位置する第1の側部ケース3Aは、第1の固定スクロール7A、第1の旋回スクロール29A等と共に低圧段の圧縮部である低圧スクロール部6Aを構成している。また、ケーシング1の他側(右側)に位置する第2の側部ケース3Bは、第2の固定スクロール7B、第2の旋回スクロール29B等と共に高圧段の圧縮部である高圧スクロール部6Bを構成しているものである。
なお、本実施の形態にあっては、低圧スクロール部6Aと高圧スクロール部6Bとが同一の構成要素を有しているので、以下の説明では、低圧スクロール部6Aの構成要素に符号「A」を付し、高圧スクロール部6Bの構成要素には符号「B」を付して説明する。また、低圧スクロール部6Aと高圧スクロール部6Bとで説明が重複するのを避けるため、主に低圧スクロール部6Aの構成要素について説明し、高圧スクロール部6Bの構成要素については説明を省略するものとする。
7Aはケーシング1の側部ケース3Aの筒状部5Aに設けられた低圧段の固定スクロールで、該固定スクロール7Aは、図1、図2に示す如く、略円板状に形成され、その中心がケーシング1の軸線O1 −O1 と一致するように配設された鏡板8Aと、該鏡板8Aの表面に立設された渦巻状のラップ部9Aと、鏡板8Aの外周側から該ラップ部9Aを取囲むように軸方向に突出した筒部10A等とにより構成されている。
また、固定スクロール7Aには、筒部10Aから径方向外向きに突出するフランジ部11Aが設けられ、該フランジ部11Aの端面は、図2、図6に示すように側部ケース3Aの筒状部5Aにボルト(図示せず)等を用いて着脱可能に取付けられ、これにより固定スクロール7Aは、側部ケース3Aの筒状部5Aに固定されるものである。そして、固定スクロール7Aのフランジ部11Aには、後述する補助クランク機構37用の軸受収容穴38が周方向に離間して、例えば3個設けられている。
ここで、鏡板8Aの外周側には、例えば空気等の流体を吸込む吸込口12Aが図1、図2中に点線で示す如く設けられ、鏡板8Aの中心側には圧縮空気の吐出口13Aが設けられている。また、鏡板8Aの裏面には、複数の冷却フィン14Aが立設され、これらの冷却フィン14Aに沿って後述の冷却風が矢示A2 方向に流通するものである。
なお、図3に示す側部ケース3Bの筒状部5B側に設けられた第2(高圧段)の固定スクロール7Bについても、低圧段の固定スクロール7Aとほぼ同様に、鏡板8B、ラップ部9B、筒部10B、フランジ部11B等により構成され、鏡板8Bには、吸込口12Bと吐出口13Bとが設けられている。また、鏡板8Bの背面側には、冷却風の流れ方向(図1中の矢示B2 方向)に沿って垂直方向に延びる複数の冷却フィン14Bが立設されている。
また、固定スクロール7Bのフランジ部11Bは、その端面が図3、図13に示すように側部ケース3Bの筒状部5Bに後述のシム板50を介して衝合され、この状態でフランジ部11Bは、筒状部5Bの先端側端面にボルト51等を用いて着脱可能に取付けられ、これにより固定スクロール7Bは、側部ケース3Bの筒状部5Bに固定されるものである。
15はケーシング1の筒形ケース2内に設けられた回転源としての電動モータで、該電動モータ15は、図1に示す如く、低圧段の固定スクロール7Aと高圧段の固定スクロール7Bとの間に配置され、筒形ケース2の内周側に固定された筒状のステータ16と、該ステータ16の内周側に回転可能に配設された筒状のロータ17等とにより構成されている。そして、電動モータ15は、外部から給電されることにより、後述の筒状回転体18を軸線O1 −O1 を中心として回転駆動するものである。
18はケーシング1に回転可能に設けられた筒状回転体で、該筒状回転体18は、図1に示す如く後述の回転軸19と左,右の偏心筒体21A,21Bとにより構成されている。そして、これらの偏心筒体21A,21Bは、軸線O1 −O1 を中心として回転軸19と一体に回転駆動されるものである。
19は筒状回転体18の主要部となる回転軸で、該回転軸19は、例えば段付円筒状の中空軸体からなり、軸方向の中間部位が電動モータ15のロータ17内に嵌着されている。そして、回転軸19は、電動モータ15により軸線O1 −O1 を中心としてロータ17と一体に回転駆動されるものである。
20Aは側部ケース3Aの環状部4A内に設けられた左側(第1)の回転軸受で、該回転軸受20Aは、例えば図1、図2に示すように玉軸受等により構成され、側部ケース3Aの環状部4A内で回転軸19を回転可能に支持するものである。そして、回転軸受20Aは、その外輪側が環状部4Aの内周側にやき嵌め(ヤキバメ)等の手段を用いて固定され、内輪側は回転軸19の外周側に圧入等の手段を用いて固定されている。この場合、側部ケース3Bの環状部4B側に設けられる右側(第2)の回転軸受20Bについても、第1の回転軸受20Aと同様の構成を有するものである。
21Aは回転軸19の軸方向一側に設けられた左側(第1)の偏心筒体で、該偏心筒体21Aは、回転軸19の外周側に嵌合して設けられ、回転軸受20Aの内輪側を抜止め状態に保持している。そして、偏心筒体21Aは、ケーシング1の軸線O1 −O1 を中心として回転軸19と一体に回転駆動されるものである。
ここで、偏心筒体21Aの内周側には、後述する旋回軸受23Aの外輪24Aが固定して設けられ、旋回軸受23Aは、回転軸19等の軸線O1 −O1 に対して寸法δだけ偏心した軸線O2 −O2 上に配置されるものである。また、回転軸19の軸方向他側に設けられる右側(第2)の偏心筒体21Bについても、第1の偏心筒体21Aと同様の構成を有するものである。
22は筒状回転体18の内周側に隙間をもって挿通された偏心軸で、該偏心軸22は、例えば捩り剛性等が高い段付円柱状の軸体(強度部材)により大きな重量をもって形成されている。即ち、スクロール式空気圧縮機等に用いる偏心軸22は、圧縮運転時の反力等によって後述の旋回スクロール29A,29Bから捩りモーメントを受け、高い捩り剛性等が要求される。このため、偏心軸22は、強度部材を用いて形成する必要があり、必然的に重量物となってしまうものである。
また、偏心軸22の両端側は、回転軸19から軸方向に突出する小径円柱状のクランク部22A,22Bとなり、これらの間は中間軸部22Cとなっている。そして、これらのクランク部22A,22Bには、後述する旋回スクロール29A,29Bのボス部32A,32Bが固定して設けられる。また、偏心軸22は、中間軸部22Cの外径が、後述する内輪25A,25Bの外径よりも小さく形成されている。
ここで、偏心軸22は、筒状回転体18の偏心筒体21A,21B内に後述の旋回軸受23A,23Bを介して相対回転可能に取付けられ、回転軸19等の軸線O1 −O1 に対して寸法δだけ偏心した軸線O2 −O2 上に配置されている。そして、偏心軸22は、筒状回転体18(回転軸19)が回転するときに、旋回スクロール29A,29Bと一緒に旋回運動するものである。
23Aは筒状回転体18の偏心筒体21A内で偏心軸22を回転可能に支持する左側(第1)の旋回軸受で、該旋回軸受23Aは、例えばローラ軸受、ニードル軸受等のころ軸受を用いて構成され、例えば玉軸受を用いた場合よりも径方向寸法を小さくし、小型化して形成できるものである。
そして、旋回軸受23Aは、偏心筒体21Aの内周側に圧入して設けられ偏心筒体21Aと一体に回転する外輪24Aと、偏心軸22(クランク部22A)の外周側にやき嵌め等の手段で嵌合して設けられ偏心軸22と一体に旋回動作する内輪25Aと、該内輪25Aと外輪24Aとの間に転動可能に設けられる転動体としての複数のローラ26Aとにより構成されている。
ここで、旋回軸受23Aの各ローラ26Aは、例えば保持器(図示せず)等を用いて外輪24Aの内周側に抜止め状態で取付けられ、旋回軸受23Aの内輪25Aは、各ローラ26Aの内側から容易に取外せるものである。即ち、旋回軸受23Aの内輪25Aは、図10に例示するように偏心軸22の軸線O2 −O2 に沿って軸方向に変位(スライド)させることにより、外輪24A、ローラ26Aの内周側から離脱されるものである。
また、偏心軸22の軸方向他側に設けられる右側(第2)の旋回軸受23Bについても、第1の旋回軸受23Aと同様に構成され、外輪24B、内輪25Bおよび複数のローラ26Bを有するものである。そして、第1,第2の旋回軸受23A,23Bは、偏心軸22のクランク部22A,22Bに内輪25A,25Bを予め取付けた状態で、図10に示す如く外輪24A,24B、各ローラ26A,26Bの内側に偏心軸22を挿通することにより、内輪25A,25Bが各ローラ26A,26Bの内側にすきま嵌めで組付けられる。
この場合、偏心軸22の外径のうち、旋回軸受23A,23Bの各ローラ26A,26Bの内側に挿通される箇所の最大径(例えば、中間軸部22Cの外径)、内輪25A,25Bの外径は、旋回軸受23A,23Bの各ローラ26A,26Bの内側の径よりも小さくなるように構成されている。
そして、第1,第2の旋回軸受23A,23Bは、前記外輪24A,24Bを各ローラ26A,26Bと一緒に偏心筒体21A,21Bの内周側に予め組付けた状態で、これらの内周側に偏心軸22を図10に示すように挿通するときに、偏心軸22のクランク部22A,22Bに取付けた内輪25A,25Bを外輪24A,24Bと各ローラ26A,26Bの内側に径方向で対向配置することにより組立てられるものである。
27Aは旋回軸受23Aの外輪24Aと共に偏心筒体21Aの内周側に嵌合して取付けられる第1のシール部材で、該シール部材27Aは、例えば環状のリップシール等により構成され、後述の摺接リング28Aに摺接することにより旋回軸受23Aをシール状態に保持している。即ち、シール部材27Aは、旋回軸受23A内の潤滑油(例えば、グリース等)が後述の旋回スクロール29A側に漏洩するのを防ぐと共に、外部の塵埃等が旋回軸受23A内に侵入するのを防ぐものである。
28Aは旋回軸受23Aの内輪25Aと共に偏心軸22のクランク部22Aの外周側に嵌合して設けられた第1の摺接リングで、該摺接リング28Aは、図2に示す如くシール部材27Aと径方向で対向する位置に配設され、その外周面にシール部材27Aが摺接するものである。そして、摺接リング28Aは、旋回軸受23Aの内輪25Aと同一または僅かに小さい外径をもって形成されている。
また、偏心筒体21Bの内周側に設けられる右側(第2)のシール部材27Bについても、第1のシール部材27Aと同様に構成されるものである。そして、第2のシール部材27Bは、図3に示す如く偏心軸22のクランク部22Bに設けた摺接リング28Bに摺接することにより、旋回軸受23Bをシール状態に保持するものである。
29Aは固定スクロール7Aと対面して側部ケース3A内に旋回可能に設けられた第1(低圧段)の旋回スクロールで、該旋回スクロール29Aは、図1、図2に示す如く略円板状に形成された鏡板30Aと、該鏡板30Aの表面に立設された渦巻状のラップ部31Aと、鏡板30Aの裏面に立設された筒状のボス部32Aとにより大略構成されている。
この場合、旋回スクロール29Aのラップ部31Aは、固定スクロール7Aのラップ部9Aと同一の長さ寸法(ラップ高さ)をもって形成され、相手方となる固定スクロール7Aの鏡板8Aとラップ部31Aの先端(歯先)との間には、例えば圧縮運転時の熱膨脹等を考慮して図4に示す如くスラスト方向ギャップGaが形成されている。また、ラップ部9Aの歯先と鏡板30Aとの間にも、同様にスラスト方向ギャップGaが形成されている。
一方、旋回スクロール29Aの鏡板30Aには、その裏面に複数の冷却フィン33Aが図1、図2に示す如く立設されている。また、鏡板30Aの径方向外側部位には、後述する補助クランク機構37用の軸受収容穴39が周方向に離間して、例えば3個設けられ、これらの軸受収容穴39は、固定スクロール7A側の軸受収容穴38と軸方向でほぼ対向する位置に配設されている。
ここで、固定スクロール7Bと対面して側部ケース3B内に旋回可能に設けられる第2(高圧段)の旋回スクロール29Bについても、第1の旋回スクロール29Aとほぼ同様に構成され、鏡板30B、ラップ部31B、ボス部32Bおよび冷却フィン33B等を有している。
なお、旋回スクロール29Bのラップ部31Bは、固定スクロール7Bのラップ部9Bと同一の長さ寸法(ラップ高さ)をもって形成され、相手方となる固定スクロール7Bの鏡板8Bとラップ部31Bの先端(歯先)との間には、例えば圧縮運転時の熱膨脹等を考慮して図5に示す如くスラスト方向ギャップGbが形成されている。また、ラップ部9Bの歯先と鏡板30Bとの間にも、同様にスラスト方向ギャップGbが形成されている。
そして、第1,第2の旋回スクロール29A,29Bは、そのラップ部31A,31Bが固定スクロール7A,7Bのラップ部9A,9Bと所定の角度(例えば、180度)だけずらして重なり合うように配設される。これにより、低圧スクロール部6A側では、ラップ部9A,31A間に複数の圧縮室34Aが画成される。また、高圧スクロール部6B側では、ラップ部9B,31B間に複数の圧縮室34Bが画成されるものである。
この場合、旋回スクロール29A,29Bのボス部32A,32Bは、偏心軸22のクランク部22A,22Bにそれぞれボルト(図示せず)等を用いて一体に固定されている。そして、旋回スクロール29A,29Bは、電動モータ15により筒状回転体18、偏心軸22および旋回軸受23A,23B等を介して駆動され、偏心量(寸法δ)に対応する一定の旋回半径をもって旋回運動を行う。これにより、各圧縮室34A,34B内では、後述の如く空気を順次圧縮するものである。
35Aは固定スクロール7Aのラップ部9Aに設けられたシール部材としてのチップシールで、該チップシール35Aは、例えば弾性樹脂材料により長尺の紐状に形成されるものである。そして、チップシール35Aは、図2、図4に示すようにラップ部9Aの歯先(先端)側に装着され、該ラップ部9Aの歯先に沿って渦巻状に延びている。
また、固定スクロール7Bのラップ部9Bにも同様のチップシール35Bが図3、図5に示すように設けられている。そして、これらのチップシール35A,35Bは、相手側となる旋回スクロール29A,29Bの鏡板30A,30Bに摺接し、圧縮室34A,34B内の圧縮空気がスラスト方向ギャップGa,Gbを介して漏洩するのを防ぐものである。
36Aは旋回スクロール29Aのラップ部31Aに設けられた他のシール部材としてのチップシールで、該チップシール36Aも、弾性樹脂材料等を用いて長尺の紐状に形成されている。そして、チップシール36Aは、図2、図4に示すようにラップ部31Aの歯先側に装着され、該ラップ部31Aの歯先に沿って渦巻状に延びている。
また、旋回スクロール29Bのラップ部31Bにも同様のチップシール36Bが図3、図5に示すように設けられている。そして、これらのチップシール36A,36Bは、相手側となる固定スクロール7A,7Bの鏡板8A,8Bに摺接し、圧縮室34A,34B内の圧縮空気がスラスト方向ギャップGa,Gbを介して漏洩するのを防ぐものである。
37は低圧段の固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間に各軸受収容穴38,39を介して設けられた補助クランク機構で、該補助クランク機構37は、図2、図6に示す如く固定スクロール7Aの周方向に離間して複数個(例えば3個)設けられ、電動モータ15により旋回スクロール29A,29Bを旋回駆動するときに、これらの旋回スクロール29A,29Bが自転するのを防ぐものである。
また、補助クランク機構37は、固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間でスラスト荷重を受承するスラスト荷重受承部を構成し、前記圧縮室34A,34B内に発生する圧縮空気の圧力差等で高圧スクロール部6Bから低圧スクロール部6Aに向けて偏心軸22、旋回スクロール29A,29Bに発生する軸方向のスラスト荷重を受承するものである。
このため、回転軸19の内側で偏心軸22が軸線O2 −O2 に沿って軸方向に変位することはなく、固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間のスラスト方向ギャップGa(固定スクロール7Bと旋回スクロール29Bとの間のスラスト方向ギャップGb)も、補助クランク機構37によってほぼ一定に保持されるものである。
ここで、各補助クランク機構37は、図2、図6に示すように後述のクランク軸40と、固定スクロール7Aのフランジ部11Aに設けた軸受収容穴38内に収容された後述の固定側玉軸受41と、旋回スクロール29Aの鏡板30A側に設けた軸受収容穴39内に収容された後述の旋回側玉軸受44と、押え板42,45等とにより構成されている。
40は補助クランク機構37のクランク軸で、該クランク軸40は、図6に示す如く軸方向一側に位置する一側軸部40aと、軸方向の他側に位置する他側軸部40bと、これらの軸部40a,40b間にそれぞれ一体形成された一側フランジ部40cおよび他側フランジ部40d等とにより構成されている。そして、クランク軸40の他側軸部40bと他側フランジ部40dとは、一側軸部40a、一側フランジ部40cに対して前述した偏心量(図2に示す寸法δ)分だけ偏心して形成されている。
41は固定スクロール7Aの軸受収容穴38内に設けられた固定側玉軸受で、該固定側玉軸受41は、2個の玉軸受41a,41bを背面合わせすることにより、所謂背面組合せアンギュラ玉軸受として構成されている。そして、これらの玉軸受41a,41bは、外輪側が固定スクロール7Aの軸受収容穴38内に圧入等の手段で取付けられ、内輪側にはクランク軸40の一側軸部40aが図12に示す如くすきま嵌めで取付けられるものである。
42は固定側玉軸受41を固定スクロール7Aの軸受収容穴38内に固定する押え板で、該押え板42は、例えば図6、図12に示す如く固定側玉軸受41を固定スクロール7Aの軸受収容穴38内に嵌合して取付けた後に該固定側玉軸受41を抜止め状態に保持するため、押え板42の外周側が複数のボルト43(1個のみ図示)によって固定スクロール7Aのフランジ部11Aに固定されるものである。
この場合、固定側玉軸受41は、玉軸受41bの外輪側が押え板42に当接され、これにより固定側玉軸受41は、軸受収容穴38内に抜止め状態で固定されるものである。また、押え板42には、図6に示すようにクランク軸40の一側フランジ部40cがシール部材等を介して挿通される挿通穴42aが穿設され、この挿通穴42a内には、後述のシム板49が挿入されるものである。
44は旋回スクロール29Aの軸受収容穴39内に設けられた旋回側玉軸受を示し、該旋回側玉軸受44は、2個の玉軸受44a,44bを正面合わせすることにより、所謂正面組合せアンギュラ玉軸受として構成されている。そして、これらの玉軸受44a,44bは、外輪側が旋回スクロール29Aの軸受収容穴39内にすきま嵌めで取付けられ、内輪側にはクランク軸40の他側軸部40bが圧入等の手段を用いて抜止め状態で取付けられるものである。
45は旋回側玉軸受44を旋回スクロール29Aの軸受収容穴39内に固定する他の押え板で、該押え板45は、例えば図6、図12に示す如く旋回側玉軸受44を旋回スクロール29Aの軸受収容穴39内に挿嵌して抜止め状態に保持するため、押え板45の外周側が複数のボルト46(1個のみ図示)によって旋回スクロール29Aの端面(鏡板30Aの表面側)に固定されるものである。
47はクランク軸40を固定スクロール7Aに対して軸方向に位置決めする固定部材としての締結ボルトで、該締結ボルト47は、図6に示す後述のカバー48を取外した状態で、固定スクロール7A(軸受収容穴38)の外側からクランク軸40の一側軸部40aに螺着される。これにより締結ボルト47は、クランク軸40を固定スクロール7Aの軸方向に位置決めして固定し、クランク軸40全体の軸方向変位を規制するものである。
48は有蓋筒状のカバーで、該カバー48は、前述の如く締結ボルト47をクランク軸40の一側軸部40aに螺着した後に、この締結ボルト47を外側から保護するため図1、図2および図6に示す如く固定スクロール7Aの外側面に着脱可能に取付けられるものである。
49は本実施の形態による第1のギャップ調整手段を構成する隙間調整用のシム板で、該シム板49は、図6、図12に示すように押え板42の挿通穴42a内でクランク軸40の一側フランジ部40cと固定側玉軸受41(玉軸受41b)の内輪との間に介挿され、その厚さTaにより固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間のスラスト方向ギャップGa(図4参照)を調整するものである。
この場合、シム板49を用いた厚さTaの調整作業は、1枚のシム板49の板厚を適宜に選択して変えてもよく、その枚数を適宜に変えてもよいものである。また、このような調整作業の完了後に、前述の締結ボルト47が図6に示す如くクランク軸40の一側軸部40aに螺着され、このときにシム板49は、クランク軸40の一側フランジ部40cと玉軸受41bの内輪との間に強く挟持されるものである。
50,50,…は本実施の形態による第2のギャップ調整手段を構成する隙間調整用のシム板で、該各シム板50は、図1、図3、図13に示す如く固定スクロール7Bのフランジ部11Bの端面と側部ケース3Bの筒状部5Bとの間に、例えば3個周方向に互いに離間して介挿され、それぞれの厚さTbにより固定スクロール7Bと旋回スクロール29Bとの間のスラスト方向ギャップGb(図5参照)を調整するものである。
そして、シム板50を用いた厚さTbの調整作業についても、1枚のシム板50の板厚を適宜に選択して変えてもよく、その枚数を適宜に変えてもよいものである。また、このような調整作業の完了後には、フランジ部11Bの端面と側部ケース3Bの筒状部5Bとの間にシム板50を挟んだ状態でボルト51を螺着することにより、固定スクロール7Bのフランジ部11Bが側部ケース3Bの筒状部5Bに固定されるものである。
52Aは筒状回転体18の軸方向一側に設けられた第1の冷却ファンで、該冷却ファン52Aは、例えば遠心ファン等からなり、図1、図2に示す如く偏心筒体21Aの外周側に嵌合して設けられている。そして、冷却ファン52Aは、軸線O1 −O1 を中心として偏心筒体21Aと一体に回転され、矢示A1 ,A1 方向の冷却風を発生させるものである。
また、筒状回転体18の軸方向他側には、第2の冷却ファン52Bが設けられている。そして、該冷却ファン52Bは、第1の冷却ファン52Aと同様に構成され、偏心筒体21Bと一体に回転することにより、矢示B1 ,B1 方向の冷却風を発生させるものである。この場合、冷却ファン52A,52Bは、ケーシング1内で側部ケース3A,3B内に収容され、電動モータ15と旋回スクロール29A,29Bとの間に配置されている。
53Aは側部ケース3A内に設けられた第1の仕切板で、該仕切板53Aは、例えば環状の金属板、樹脂板等からなり、旋回スクロール29Aと冷却ファン52Aとの間で矢示A1 方向に流れる冷却風の流れを調整するものである。また、側部ケース3B内には、第2の仕切板53Bが設けられている。そして、該仕切板53Bは、第1の仕切板53Aと同様に構成され、旋回スクロール29Bと冷却ファン52Bとの間で矢示B1 方向に流れる冷却風の流れを調整するものである。
54A,54A,…は側部ケース3Aの筒状部5Aにそれぞれ設けられた冷却風の流通穴で、これらの流通穴54Aは、冷却ファン52Aの回転により外気の流入口(図示せず)等から吸込んだ空気を、それぞれ矢示A1 ,A1 方向の冷却風として後述の固定スクロール用ダクト55Aおよび冷却器57等に向け流通させるものである。
また、側部ケース3Bの筒状部5Bには、これと同様に冷却風の流通穴54B,54B,…がそれぞれ複数個設けられ、これらの流通穴54Bは、冷却ファン52Bの回転により外気の流入口(図示せず)等から吸込んだ空気を、それぞれ矢示B1 ,B1 方向の冷却風として後述の固定スクロール用ダクト55Bおよび冷却器57等に向け流通させるものである。
55Aは側部ケース3Aの下部側に設けられた第1(低圧段)の固定スクロール用ダクトで、該固定スクロール用ダクト55Aは、例えば中空のボックス状に形成され、下側の流通穴54Aを覆う位置から固定スクロール7Aの冷却フィン14Aの位置まで延びている。また、側部ケース3Bの下部側には、第2(高圧段)の固定スクロール用ダクト55Bが設けられている。
そして、該固定スクロール用ダクト55Bは、第1の固定スクロール用ダクト55Aとほぼ同様に、下側の流通穴54Bを覆う位置から固定スクロール7Bの冷却フィン14Bの位置まで延びている。この場合、固定スクロール用ダクト55A,55Bは、下側の流通穴54A,54Bから流出される冷却風を固定スクロール7A,7Bの裏面側にそれぞれ導くことにより、図1中の矢示A2 ,B2 方向に流れる冷却風で鏡板8A,8B等を冷却するものである。
56Aは側部ケース3Aの上部側に設けられた第1(低圧段)の冷却器用ダクトで、該冷却器用ダクト56Aは、例えば中空のボックス状に形成され、筒状部5Aの流通穴54Aを上側から覆うと共に、この流通穴54Aと後述の冷却器57との間に接続して設けられるものである。
また、側部ケース3Bの上部側には、第2(高圧段)の冷却器用ダクト56Bが設けられ、該冷却器用ダクト56Bは、低圧段の冷却器用ダクト56Aとほぼ同様に、上側の流通穴54Bと冷却器57との間に接続して設けられている。そして、これら冷却器用ダクト56A,56Bは、冷却ファン52A,52Bが回転するときに、流通穴54A,54Bから流出する冷却風を冷却器57の内部に導くものである。
57はケーシング1(筒形ケース2)の上側に設けられた冷却器で、該冷却器57は、後述の配管58,59等により低圧段の圧縮室34Aから吐出されて高圧段の圧縮室34Bに吸込まれる中間圧の圧縮空気を冷却するインタークーラと、圧縮室34Bから吐出される高圧の圧縮空気を冷却するアフタークーラとを一体化したツインクーラとして構成されるものである。
58,59は低圧スクロール部6Aと高圧スクロール部6Bとの間に設けられた連通路としての配管で、これらの配管58,59のうち一方の配管58は、図1に示すように一端側が固定スクロール7A(低圧段)の吐出口13Aに接続され、他端側が冷却器57に接続されている。また、他方の配管59は、一端側が冷却器57に接続され、他端側が固定スクロール7B(高圧段)の吸込口12Bに接続されている。
そして、固定スクロール7A(低圧段)の吐出口13Aと固定スクロール7B(高圧段)の吸込口12Bとは、配管58,59および冷却器57を用いて互いに連通され、これにより、低圧スクロール部6Aと高圧スクロール部6Bとは、2段式の空気圧縮機を構成する。また、これらの配管58,59の間には、冷却器57を配置することにより、前記中間圧の圧縮空気がインタークーラとしての冷却器57により冷却されるものである。
また、固定スクロール7B(高圧段)の吐出口13Bは、高圧配管を介して外部の空気タンク(いずれも図示せず)等に接続され、この高圧配管も、その途中部位を冷却器57内に配置することにより、高圧の圧縮空気を冷却し除湿作用等を与えるものである。
本実施の形態によるツインラップ型のスクロール式空気圧縮機は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
本実施の形態によるツインラップ型のスクロール式空気圧縮機は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、電動モータ15に外部から給電を行うと、そのロータ17により筒状回転体18(回転軸19)が軸線O1 −O1 を中心として回転駆動される。これにより、筒状回転体18内に取付けられた偏心軸22が左,右の旋回軸受23A,23B、補助クランク機構37等を介して旋回運動を行い、その両端側に連結された旋回スクロール29A,29Bも、固定スクロール7A,7Bに対して寸法δの旋回半径をもった旋回運動を行う。
この結果、低圧スクロール部6A側では、固定スクロール7Aの外周側に設けた吸込口12Aから吸込サイレンサ(図示せず)等を介して空気を吸込みつつ、この空気を各圧縮室34A内で順次圧縮する。そして、低圧段の圧縮室34A内で圧縮された中間圧の圧縮空気は、固定スクロール7Aの吐出口13Aから前述した配管58、冷却器57および配管59等を介して高圧スクロール部6Bへと吐出される。
また、高圧スクロール部6Bは、低圧スクロール部6Aで圧縮された中間圧の圧縮空気が冷却器57側から配管59を介して固定スクロール7Bの吸込口12Bに供給されると、この圧縮空気を各圧縮室34B内でさらに圧縮し、高圧の圧縮空気を吐出口13Bから外部の空気タンク(図示せず)等に向けて吐出するものである。
次に、本実施の形態によるスクロール式空気圧縮機の組立手順について、図7ないし図13を参照して説明する。
まず、回転軸19を図7に示す如く製作、加工し、回転軸19の外周側には、電動モータ15(図1参照)のロータ17を圧入またはやき嵌め等の手段を用いて嵌合させ、ロータ17を回転軸19の外周側に一体的に固定する。
そして、次なる組立工程では、図8に示すように回転軸19の外周側に左,右両側から回転軸受20A,20Bを圧入等の手段で嵌合して設け、さらに、回転軸19の左,右両側には偏心筒体21A,21Bをやき嵌め等の手段を用いて嵌着する。また、偏心筒体21A,21Bの内周側には、旋回軸受23A,23Bの外輪24A,24Bを圧入して設け、この外輪24A,24B内には、各ローラ26A,26Bを保持器等を介して抜止め状態に保持しておくようにする。
また、偏心筒体21A,21Bの内周側には、図8に示すように旋回軸受23A、23Bの外輪24A,24B等を取付けた後に、例えば環状のリップシール等からなるシール部材27A,27Bを、左,右両側から嵌合させるようにして取付ける。
そして、その後は図9に示すように、例えば側部ケース3Aの環状部4Aを回転軸受20Aの外輪側にやき嵌め等の手段を用いて嵌合し、側部ケース3Aにより回転軸受20Aを介して筒状回転体18(回転軸19)を回転可能に支持できるようにする。また、その後は筒形ケース2を電動モータ15のステータ16と一緒にロータ17の外周側に挿通する。
次に、この状態で筒形ケース2の端部を側部ケース3Aに衝合し、この状態で両者をボルト等で締結して筒形ケース2を側部ケース3Aに固定する。そして、筒形ケース2と回転軸19との間に電動モータ15を組込んだ状態で、その後は側部ケース3Bの環状部4Bを回転軸受20Bの外輪側に挿嵌するように組付ける。
次に、側部ケース3Bの環状部4Bを図9に示す如く回転軸受20Bの外輪側にやき嵌め等の手段を用いて嵌合すると共に、側部ケース3Bの環状部4Bを筒形ケース2の端部に衝合し、この状態で両者をボルト等で締結して側部ケース3Bを筒形ケース2に固定する。これにより、筒形ケース2と左,右の側部ケース3A,3Bとからなるケーシング1を組立てると共に、筒状回転体18の両端側を回転軸受20A,20Bにより回転可能に支持する。
次に、図10に示す偏心軸22の組付け工程では、偏心軸22を筒状回転体18(回転軸19)の内周側に図10に示す軸線O2 −O2 に沿って挿通する。この場合、偏心軸22のクランク部22A,22Bには、図10に示すように旋回軸受23A,23Bの内輪25A,25Bを予めやき嵌め等の手段で嵌合して設け、摺接リング28A,28Bも同様にクランク部22A,22Bの外周側に嵌合して取付けておくようにする。
そして、旋回軸受23A,23Bの内輪25A,25Bが図11に示すように各ローラ26A,26Bを挟んで外輪24A,24Bと径方向で対向する位置まで、偏心軸22を筒状回転体18(回転軸19)内へと軸方向に押込み、偏心軸22の組付け作業を行う。かくして、外輪24A,24B、各ローラ26A,26Bの内側に偏心軸22を挿通することにより、旋回軸受23A,23Bの内輪25A,25Bを、各ローラ26A,26Bの内側にすきま嵌めで組付けることができる。
このように、第1,第2の旋回軸受23A,23Bは、前記外輪24A,24Bを各ローラ26A,26Bと一緒に偏心筒体21A,21Bの内周側に予め組付けた状態で、これらの内周側に偏心軸22を図10、図11に示すように挿通するときに、偏心軸22のクランク部22A,22Bに取付けた内輪25A,25Bを外輪24A,24Bと各ローラ26A,26Bの内側に径方向で対向配置することにより組立てられる。
次に、ケーシング1内に回転軸受20A,20B等を介して回転可能に支持された筒状回転体18に対し、図11に示す如く偏心軸22を組込んだ後には、左,右の偏心筒体21A,21Bから軸方向に突出する偏心軸22のクランク部22A,22Bに、図12、図13に示すように旋回スクロール29A,29Bのボス部32A,32Bを固定して設ける。
そして、低圧スクロール部6A側では、固定スクロール7Aを旋回スクロール29Aに対し図12に示す如く対向して配置し、補助クランク機構37のクランク軸40と固定側玉軸受41との間にシム板49を介挿して固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間のスラスト方向ギャップGa(図4参照)を下記のように調整する。そして、その後は固定スクロール7Aのフランジ部11Aを側部ケース3A(筒状部5A)の先端側に、例えばボルト等を用いて着脱可能に取付けるようにする。
即ち、固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間のスラスト方向ギャップGaを図4に示す如く調整する作業は、まず、固定スクロール7Aの軸受収容穴38内に固定側玉軸受41を図12に示すように組付けておき、この状態で玉軸受41bの端面(内輪の端面)と固定スクロール7A(フランジ部11A)の端面との間の寸法Haを測定する。
また、旋回スクロール29Aの軸受収容穴39内には旋回側玉軸受44を組付け、該旋回側玉軸受44の内輪側にクランク軸40の他側軸部40bを嵌合して組付けた状態で、図12に示すように一側フランジ部40cの端面と旋回スクロール29A(鏡板30A)の表面との間の寸法Laを測定する。
そして、固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間のスラスト方向ギャップGa(図4参照)は、これらの寸法Ha,La、シム板49の厚さTaおよび公差寸法αにより、下記の数1式により最適値が決められる。
この場合、前述した寸法Ha,Laは、実測値により決められ、公差寸法αは設計値として予め求められるので、数1式によるスラスト方向ギャップGaは、シム板49の厚さTaにより選択的に調整される。そして、このような調整作業の完了後には、補助クランク機構37の締結ボルト47を図6に示す如くクランク軸40の一側軸部40aに螺着し、シム板49をクランク軸40の一側フランジ部40cと玉軸受41bの内輪との間に挟持させる。
次に、高圧スクロール部6B側では、固定スクロール7Bを旋回スクロール29Bに対し図13に示す如く対向して配置し、固定スクロール7Bのフランジ部11Bと側部ケース3B(筒状部5B)の先端側との間にシム板50を介挿して固定スクロール7Bと旋回スクロール29Bとの間のスラスト方向ギャップGb(図5参照)を調整する。
即ち、高圧スクロール部6Bの固定スクロール7Bと旋回スクロール29Bとの間のスラスト方向ギャップGbを図5に示す如く調整する作業は、まず、側部ケース3B(筒状部5B)の先端側端面と旋回スクロール29B(鏡板30B)の表面との間の寸法Lbを図13に示すように測定しておき、この寸法Lb、シム板50の厚さTbおよび公差寸法βにより、スラスト方向ギャップGbは、下記の数2式により最適値が決められる。
そして、このようにシム板50を用いて固定スクロール7Bと旋回スクロール29Bとの間のスラスト方向ギャップGbを調整した状態で、固定スクロール7Bのフランジ部11Bと側部ケース3B(筒状部5B)の先端側とを、複数箇所(例えば3箇所)でボルト51,51,…を用いて締結するように両者を固定する。
この場合、各シム板50は、図1、図3、図13に示す如く固定スクロール7Bのフランジ部11Bの端面と側部ケース3Bの筒状部5Bとの間に、例えば3個周方向に互いに離間して介挿され、それぞれの厚さTbにより固定スクロール7Bと旋回スクロール29Bとの間のスラスト方向ギャップGb(図5参照)を調整するもので、各シム板50の厚さTbは、個別に独立して調整されるものである。
かくして、本実施の形態によれば、低圧スクロール部6A側の固定スクロール7Aを旋回スクロール29Aに対して対向配置するときに、補助クランク機構37のクランク軸40(一側フランジ部40c)の端面と固定側玉軸受41(玉軸受41b)の内輪側端面との間にシム板49を介挿する構成としているので、シム板49の厚さTaを調整することによって、固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間のスラスト方向ギャップGa(図4参照)を最適に調整することができる。
そして、このように固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間のスラスト方向ギャップGaを最適に調整したときには、これに伴って旋回スクロール29Aが偏心軸22と一緒に軸方向に移動すると共に、高圧スクロール部6Bの旋回スクロール29Bも軸方向に移動し、高圧スクロール部6Bの固定スクロール7Bと旋回スクロール29Bとのスラスト方向ギャップGb(図5参照)が変化してしまう。
しかし、この高圧スクロール部6B側では、ケーシング1の側部ケース3B(筒状部5Bの先端側)と固定スクロール7Bのフランジ部11Bとの間に他のシム板50を介挿して設ける構成としている。そして、シム板50の厚さTbを変えることにより、固定スクロール7Bをケーシング1(側部ケース3B)に対して軸方向に相対移動でき、固定スクロール7Bと旋回スクロール29Bとの間のスラスト方向ギャップGbを最適に調整することができる。
この結果、シム板50を用いた高圧スクロール部6B側でのギャップ調整作業時には、旋回スクロール29A,29Bおよび偏心軸22をケーシング1に対して変位(軸方向に移動)させることなく、スラスト方向ギャップGbの調整を行うことができ、これによって両スクロール部6A,6Bにおけるスラスト方向ギャップGa,Gbをそれぞれ最適に調整することができる。
また、本機械のように低圧段と高圧段とでスラスト方向の荷重(スラスト力)が異なるスクロール式流体機械においては、運転時に図4、図5に示すスラスト方向ギャップGa,Gbが過剰に大きくなったり、過剰に小さくなったりする。しかし、その移動分も考慮してスラスト方向ギャップGa,Gbを設定すれば、圧縮空気の漏れ、ラップ部9A,9B(31A,31B)の歯先が相手方の鏡板30A,30B(8A,8B)に接触、干渉する等の問題を解消でき、スクロール式流体機械としての信頼性を高めることができる。
また、本実施の形態にあっては、第1,第2の旋回スクロール29A,29Bが偏心軸22と一緒にケーシング1内で筒状回転体18に対し軸方向に相対移動するのを許す構成としているので、例えば中空軸体(回転軸)からなる筒状回転体18の外周側に電動モータ15、ケーシング1等を先に組付けた後に、筒状回転体18の内側に偏心軸22を組付けるように組立作業を実施することができ、重量物である偏心軸22の組付け作業を後の工程とすることができる。
即ち、本実施の形態では、図8に示すように回転軸19の左,右両側に偏心筒体21A,21Bをやき嵌め等の手段で嵌合して筒状回転体18を組立てると共に、偏心筒体21A,21Bの内周側には、旋回軸受23A,23Bの外輪24A,24Bを圧入して設け、この外輪24A,24B内には、それぞれのローラ26A,26Bを保持器等を介して抜止め状態に保持する構成としている。
そして、筒状回転体18の両端側を回転軸受20A,20Bにより回転可能に支持するケーシング1を、図9に示す如く筒形ケース2と左,右の側部ケース3A,3Bとにより組立て、筒形ケース2と回転軸19との間には電動モータ15を組込んだ状態で、偏心軸22を筒状回転体18(回転軸19)の内周側に図10に示す如く軸線O2 −O2 に沿って挿通し、偏心軸22の組付け作業を行う構成としている。
これにより、偏心軸22のクランク部22A,22Bに予め嵌合して設けた旋回軸受23A,23Bの内輪25A,25Bを、各ローラ26A,26Bの内側にすきま嵌めで組付けることができ、旋回軸受23A,23Bの外輪24A,24Bと内輪25A,25Bとを、図11に示す如く各ローラ26A,26Bを挟んで径方向で対向させることにより、旋回軸受23A,23Bを最終的に組立てることができる。
このように、スクロール式空気圧縮機の組立作業者は、筒状回転体18の外周側に電動モータ15、ケーシング1等を先に組付けた後に、筒状回転体18の内周側に偏心軸22を組付けることができ、重量物である偏心軸22の組付け作業を、電動モータ15、ケーシング1等の組付け作業よりも後の工程とすることができる。このため、筒状回転体18の外周側に電動モータ15、ケーシング1等を組付ける作業を、比較的軽い状態で行うことができ、その後に重量物である偏心軸22の組付け作業を行うことができる。
従って、重量物である偏心軸22の組付け作業を、電動モータ15、ケーシング1等の組付け作業よりも後の工程とすることにより、組立作業者の負担を確実に軽減でき、スクロール式空気圧縮機を組立てるときの作業性を向上することができる。
また、第1,第2の旋回スクロール29A,29Bのうち一方の旋回スクロールを偏心軸22にやき嵌め等で一体化して設け、他方の旋回スクロールを偏心軸22に取外し可能に設けた場合には、例えばメンテナンス作業時に一方の旋回スクロールを偏心軸22と一緒に簡単に分解して取外すことができ、メンテナンス時の作業性を向上できる。そして、偏心軸22にやき嵌め等で一体化した旋回スクロールについては、がたつき等をなくして、剛性を高めることができる。
また、本実施の形態にあっては、筒状回転体18の偏心筒体21A,21Bと偏心軸22との間に設ける旋回軸受23A,23Bを、ローラ26A,26B等からなるころ軸受により構成しているので、例えば玉軸受に比較してより小さいサイズの軸受を採用することができ、装置の小型化が可能となる上に、旋回軸受23A,23Bの寿命を確実に延ばすことができる。
また、旋回軸受23A,23Bの内輪25A,25Bを、各ローラ26A,26Bの内側にすきま嵌めで組付けるため、例えば偏心軸22の軸方向にスラスト荷重が作用する場合でも、このスラスト荷重が旋回軸受23A,23Bの外輪24A,24Bと内輪25A,25Bとの間に付加されることはなく、旋回軸受23A,23Bとしての耐久性、信頼性等を高めることができる。
そして、低圧スクロール部6Aの圧縮室34Aと高圧スクロール部6Bの圧縮室34Bとに発生する圧縮空気の圧力差等により偏心軸22、旋回スクロール29A,29Bに発生する軸方向のスラスト荷重は、固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間に設けた補助クランク機構37によって受承することができ、例えば回転軸受20A,20B等にスラスト荷重が作用するのを防ぐことができる。
また、回転軸受20A,20Bと旋回軸受23A,23Bとは、図11にも示すように筒状回転体18の軸方向に関して互いに異なる位置に配置されているので、これらの回転軸受20A,20B、旋回軸受23A,23B間で発熱による熱影響が及ぶのを防止でき、これによっても軸受寿命を延ばすことができる。
しかも、回転軸19の左,右両側に偏心筒体21A,21Bをやき嵌め等の手段で嵌合して筒状回転体18を組立てる構成としているので、例えば回転軸19を軸線O1 −O1 を中心とした円筒体として形成でき、回転軸19の製作、加工を容易に行うことができる。また、偏心軸22についても軸線O2 −O2 を中心とした円形の軸体として形成でき、偏心軸22の製作、加工も容易に行うことができる。
次に、図14は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態では前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
しかし、本実施の形態の特徴は、筒状回転体18の偏心筒体21A,21B内で偏心軸22を回転可能に支持する第1,第2の旋回軸受61A,61Bを、それぞれ2個の玉軸受を用いて構成したことにある。この場合、旋回軸受61A,61Bは、例えば2個の玉軸受を正面合わせ、または背面合わせすることにより、所謂正面組合せアンギュラ玉軸受、または背面組合せアンギュラ玉軸受として構成されている。
そして、玉軸受からなる第1,第2の旋回軸受61A,61Bは、偏心軸22が筒状回転体18内で軸方向に相対移動するのを規制し、圧縮室34A,34B内に発生する圧縮空気の圧力差等で偏心軸22、旋回スクロール29A,29Bに発生する軸方向のスラスト荷重(高圧スクロール部6Bから低圧スクロール部6Aに向けたスラスト荷重)等を、第1,第2の旋回軸受61A,61Bによって受承できるものである。
62は本実施の形態で採用した補助クランク機構で、該補助クランク機構62は、第1の実施の形態で述べた補助クランク機構37とほぼ同様に構成され、低圧段の固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間に設けられている。しかし、この場合の補助クランク機構62は、第1の実施の形態で述べたシム板49が設けられていない点で異なるものである。
63,63,…は本実施の形態による第1のギャップ調整手段を構成する隙間調整用のシム板で、該シム板63は、第1の実施の形態で述べたシム板50とほぼ同様に構成されている。しかし、このシム板63は、図14に示す如くケーシング1(側部ケース3Aの端面)と固定スクロール7Aのフランジ部11Aの端面との間に介挿され、固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間のスラスト方向ギャップGa(図4参照)を調整するものである。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができ、低圧スクロール部6A側では、固定スクロール7Aと旋回スクロール29Aとの間のスラスト方向ギャップGa(図4参照)を、固定スクロール7Aのフランジ部11Aの端面と側部ケース3Aの端面との間に設けたシム板63を用いて最適に調整することができる。
また、高圧スクロール部6B側では、固定スクロール7Bと旋回スクロール29Bとの間のスラスト方向ギャップGb(図5参照)についても、ケーシング1の側部ケース3Bと固定スクロール7Bのフランジ部11Bとの間に介挿して設けた他のシム板50を用いて適宜に調整することができる。
そして、本実施の形態にあっては、シム板63を用いた低圧スクロール部6A側でのギャップ調整と、シム板50を用いた高圧スクロール部6B側でのギャップ調整とを互いに独立して行うことが可能となる。
なお、前記各実施の形態では、第1の固定スクロール7Aと第1の旋回スクロール29A等とにより低圧スクロール部6Aを構成し、第2の固定スクロール7Bと第2の旋回スクロール29B等とにより高圧スクロール部6Aを構成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第1の固定スクロールと第1の旋回スクロール等とにより高圧スクロール部を構成し、第2の固定スクロールと第2の旋回スクロール等とにより低圧スクロール部を構成するようにしてもよいものである。
また、前記第1の実施の形態では、旋回軸受23A,23Bの内輪25A,25Bを偏心軸22のクランク部22A,22Bに、例えばやき嵌め等の手段を用いて嵌合する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば偏心軸の両端側にそれぞれ環状凸部を一体に形成し、これらの環状凸部により旋回軸受の内輪を構成してもよいものである。
また、前記各実施の形態では、ケーシング1の上側にツインクーラからなる冷却器57を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば冷却器57を搭載しないスクロール式流体機械に適用してもよく、またインタークーラとアフタークーラのうち何れか一方のみを冷却器として搭載したスクロール式流体機械に適用してもよい。
さらに、前記実施の形態では、スクロール式流体機械を空気圧縮機として用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、冷媒を圧縮する冷媒圧縮機、真空ポンプ等を含めて他のスクロール式流体機械に適用してもよいものである。