本発明は、車両に搭載されるサスペンションシステム、詳しくは、電磁式アクチュエータと流体スプリングとを含んで構成されるサスペンションシステムに関する。
近年では、車高調整を行うために、流体の圧力を利用して車輪の各々についての車体車輪間距離を調整することで車高調整を行うことが可能な流体スプリングを設けたサスペンションシステムが存在する。一方、サスペンションシステムとして、電磁式アクチュエータを備えたいわゆる電磁式サスペンションシステムが検討されており、その電磁式アクチュエータを振動減衰のためのアブソーバとして機能させることが検討されている。下記特許文献1,2に記載されているサスペンションシステムは、上記の流体スプリングと電磁式アクチュエータとの両者を備えるものとされている。
特開2006−117210号公報
特開平2−120113号公報
上述した流体スプリングによる車高調整は、車高を変化させる速度が低いという問題がある。そのため、上記特許文献1に記載されているサスペンションシステムは、流体スプリングと電磁式アクチュエータとの両者を協働させて車高の変更を行うことで、車高調整を迅速に行うことが可能とされている。詳しくは、流体スプリング内の圧力を検出可能な圧力センサを設け、その圧力に基づいて流体スプリングへの流体の流入・流出を制御しつつ、電磁式アクチュエータの駆動力によって車体が目標車高となるように制御し、車体が目標車高に到達した後に、流体スプリング内の圧力の変化に応じて電磁式アクチュエータの駆動力が低減するようにされている。電磁式サスペンションシステムは、未だ開発途上にあるため、例えば、電磁式アクチュエータと流体スプリングとの協働制御の適切化といった問題を始め種々の問題を抱えており、実用性を向上させるための改良の余地を多分に残すものとなっている。本発明は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いサスペンションシステムを提供することを課題とする。
第1の発明のステアリングシステムは、互いに独立して操作可能な1対の操作部材として、左右に並んで配設されて、それぞれが、前後方向、上下方向、あるいは、それらの中間的な傾斜方向に延びる軌道に沿って操作可能な1対のハンドルを備え、右側のハンドルの運転者に近づく方向への操作と左側のハンドルの運転者から離れる方向への操作との各々が、車両が右旋回する方向の車輪の転舵に対応する方向である右旋回対応方向への操作となり、右側のハンドルの運転者から離れる方向への操作と左側のハンドルの運転者に近づく方向への操作との各々が、左旋回する方向の車輪の転舵に対応する方向である左旋回対応方向への操作となるようにされ、かつ、それぞれのハンドルの操作において、運転者に近づく方向の操作が軌道の一方端に向かう方向の操作として、運転者から離れる方向の操作が軌道の他方端に向かう方向の操作として設定される。また、第2の発明のステアリングシステムは、互いに独立して操作可能な1対の操作部材として、左右に並んで配設されて、それぞれが、左右方向に傾倒可能とされることで円弧状の軌道に沿って操作可能な1対のジョイスティックを備え、それぞれの右方向への操作が車両が右旋回する方向の車輪の転舵に対応する右旋回対応方向への操作となり、左方向への操作が左旋回する方向の車輪の転舵に対応する方向である左旋回対応方向への操作となるようにされ、かつ、それぞれのジョイスティックの操作において、他方のジョイスティックから離れる方向の操作が軌道の一方端に向かう方向の操作として、他方のジョイスティックに近づく方向の操作が軌道の他方端に向かう方向の操作として設定される。そして、上記課題を解決するために、それら第1の発明および第2の発明のステアリングシステムは、それら1対の操作部材の各々の操作量に基づいて、車輪の目標転舵量のための転舵量成分と、1対の操作部材の各々を基準位置に復帰させる復帰力とが決定されるステアリングシステムであって、転舵量成分の決定において1対の操作部材の各々に対応して設定される操舵ゲインと、復帰力の決定において1対の操作部材の各々に対応して設定される復帰力ゲインとの少なくとも一方を、1対の操作部材の位置に応じて、1対の操作部材の各々の一方端に向かう操作の目標転舵量の決定における寄与度が他方端に向かう操作の寄与度に比較して低くなるように、1対の操作部材の各々が一方端に近い領域である一方側領域に位置する場合と、他方端に近い領域である他方側領域に位置する場合とで、互いに異なる大きさに変更可能に構成される。また、第3の発明のステアリングシステムは、上記操舵ゲインと復帰力ゲインとの少なくとも一方を、1対の操作部材の他方が操作されている場合と操作されていない場合とで変更可能に構成される。
第1の発明および第2の発明のステアリングシステムにおいては、1対の操作部材のいずれかが他方側領域に位置し、1対の操作部材のもう一方のものが一方側領域に位置する場合に、他方側領域に位置する方の操作部材が操作の主体となる。つまり、第1の発明のステアリングシステムによれば、1対の操作部材の操作位置に応じて、あたかも、メインの操作を行う操作部材が切り換わるような操舵特性を有するシステムとすることができる。また、第3の発明のステアリングシステムによれば、片手で操作する際の操舵特性を適切化することが可能となる。そのような利点を有することで、本発明の車両用ステアリングシステムは、実用性の高いシステムとなる。
発明の態様
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、それらの発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から何某かの構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
なお、以下の各項において、(1)項,(3)項,(4)項,(10)項を合わせるとともに制御装置に対する限定を加えたものが請求項1に相当し、(1)項,(3)項,(4)項,(11)項を合わせるとともに制御装置に対する限定を加えたものが請求項2に相当する。請求項1または請求項2に(5)項の技術的特徴を付加したものが請求項3に、請求項1ないし請求項3のいずれかに(7)項の技術的特徴を付加したものが請求項4に、請求項1ないし請求項4のいずれかに(21)項の技術的特徴を付加したものが請求項5に、請求項1ないし請求項5のいずれかに(31)項の技術的特徴を付加したものが請求項6に、請求項6に(32)項の技術的特徴を付加したものが請求項7に、請求項6または請求項7に(34)項の技術的特徴を付加したものが請求項8に、請求項6または請求項7に(36)項の技術的特徴を付加したものが請求項9に、それぞれ相当する。また、(1)項および(31)項を合わせたものが請求項10に相当する。
(1)流体の圧力によって車体と車輪とを相互に弾性的に支持するとともに、流体を流入・流出可能な流体スプリングと、
その流体スプリングと並列的に設けられ、電動モータを有して上下方向において車体と車輪とを接近・離間させる力であるアクチュエータ力を発揮する電磁式アクチュエータと、
前記流体スプリングに対する流体の流入・流出と前記電磁式アクチュエータの発揮するアクチュエータ力との少なくとも一方を制御することで、上下方向における車体と車輪との距離である車体車輪間距離を変更可能な制御装置と
を備えた車両用サスペンションシステムであって、
前記制御装置が、車体車輪間距離を目標距離に変更する際に、(a)前記流体スプリングに対する流体の流入・流出を禁止した状態において、アクチュエータ力によって車体車輪間距離を目標距離とする第1制御と、(b)車体車輪間距離が目標距離となった後に、その距離を維持しつつ、前記流体スプリングに対して流体を流入あるいは流出させながらアクチュエータ力を減少させる第2制御とを含むアクチュエータ先行協働制御を実行可能とされた車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様によれば、先に、第1制御によって、流体スプリングに比較して車体車輪間距離を変化させる速度の高い電磁式アクチュエータにより車体車輪間距離を目標距離まで到達させるため、その車輪に対応する車高を迅速に変更することが可能となる。ただし、流体スプリングの弾性力に抗して、アクチュエータによって車体車輪間距離を目標距離まで到達させたため、その到達した時点では、流体スプリングの弾性力と分担荷重(1つの車輪が分担する車体の重量であり、ばね上重量と考えることもできる)とのバランスが崩れた分、アクチュエータが比較的大きなアクチュエータ力を発揮しており、その距離を維持するためには、そのアクチュエータ力を発揮し続けなければならないこととなる。ところが、本項の態様のシステムでは、第1制御が終了した後、第2制御によって、流体スプリングに対して流体を流入あるいは流出させて、分担荷重と流体スプリングの弾性力とが釣り合うまで、目標距離を維持するためのアクチュエータ力を減少させるため、目標距離を維持するのに必要な力を、第2制御終了時点では、アクチュエータに依存させなくて済むことになる。したがって、本項の態様によれば、アクチュエータ力を発揮し続けることによる電力消費を抑えることが可能である。さらに、本項の態様によれば、第1制御の実行中において、例えば、アクチュエータが失陥してアクチュエータ力を発揮できなくなった場合であっても、その失陥時点での流体スプリングの弾性力と分担荷重とのアンバランスを利用して、車体車輪間距離を目標距離から遠ざける方向に変化させること、つまり、車体車輪間距離を第1制御を実行する前の距離に復帰させることが簡便に実行可能である。ちなみに、その車体車輪間距離を復帰させる場合の動作は迅速である。
本項の態様における「流体スプリング」には、例えば、流体としての圧縮空気が圧力室に封入されたダイヤフラム式のエアスプリングや、流体としての作動油が充満するシリンダとそのシリンダと連通するアキュムレータとを含んで構成される油圧式スプリング等、種々のスプリングを採用することが可能である。
本項の態様における「電磁式アクチュエータ」は、例えば、アクチュエータ力を車体と車輪との接近・離間に対する抵抗力として作用させることが可能なもの、つまり、振動に対する減衰力を発生させる電磁式アブソーバとして機能するものを採用可能である。また、本態様のシステムは、車体のロール,ピッチ等の抑制を目的として、アクチュエータを制御するようなシステムとすることもできる。また、本項における「電動モータ」は、回転モータであってもよく、リニアモータであってもよい。
(2)前記第2制御が、前記電磁式アクチュエータがアクチュエータ力を発揮しなくなった時点で、前記流体スプリングに対する流体の流入・流出を停止する制御とされた(1)項に記載の車両用サスペンションシステム。
流体スプリングに対する流体の流入・流出の制御は、流体スプリング内の流体の圧力を検出するためのセンサを設け、それによって検出された圧力に基づいて、アクチュエータおよび流体スプリングを制御することも可能であるが、本項に記載の態様では、そのようなセンサを設ける必要がないため、本項の態様のシステムによれば、構成の簡便化を図ることが可能であり、また、コストアップを回避することも可能である。本項の態様は、具体的には、例えば、流体スプリングに対して流体を流入あるいは流出しつつ、アクチュエータによって目標距離を維持するように制御し、アクチュエータ力が0となった時点で、つまり、流体スプリングが発揮している力と分担荷重とのバランスがとれた時点で、流体の流入あるいは流出を停止するような態様とすることが可能である。また、例えば、アクチュエータ力を流体スプリングに対する流体の流入あるいは流出が追従可能な設定速度で減少させつつ、流体の流入あるいは流出を目標距離を維持するように制御し、アクチュエータ力が0となった時点で、流体の流入あるいは流出に関するその制御を終了させるような態様とすることも可能である。
(3)前記制御装置が、前記第1制御の実行中において車体車輪間距離の目標距離への変更に対する阻害要因が発生した場合に、前記電磁式アクチュエータが発揮しているアクチュエータ力を変更することで、車体車輪間距離を目標距離から遠ざける方向に変化させる復帰制御を実行可能とされた(1)項または(2)項に記載の車両用サスペンションシステム。
車体車輪間距離の目標距離への変更に対する阻害要因が発生した場合、例えば、車体の外部に存在する物体等の干渉によって車体を下降あるいは上昇させることができない状態となった場合には、アクチュエータがアクチュエータ力を発揮し続けることになり、無駄に電力を消費してしまうことになる。しかし、本項の態様によれば、復帰制御が実行されることによって、その無駄な電力消費を抑えることが可能である。また、本項の態様によれば、上記阻害要因が発生した場合に、復帰制御によって、車体車輪間距離を第1制御を実行する前の距離に復帰させることが可能である。
(4)前記制御装置が、前記第1制御の実行中において車体車輪間距離の変化が遅い場合に、前記電磁式アクチュエータが発揮しているアクチュエータ力を変更することで、車体車輪間距離を目標距離から遠ざける方向に変化させる復帰制御を実行可能とされた(1)項ないし(3)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項にいう「車体車輪間距離の変化が遅い場合」とは、車体車輪間距離が変化しない場合をも含む概念である。本項に記載の態様は、例えば、車体車輪間距離の変化が閾値以下となった場合に、復帰制御を実行するような態様とすることが可能である。先に述べた車体車輪間距離の目標距離への変更に対する阻害要因が発生した場合には、車体車輪間距離の変化が遅くなる状態、あるいは、変化しなくなる状態となる。したがって、本項に記載の態様は、上記阻害要因が発生した場合に復帰制御を実行可能な態様と密接な関係のある態様と考えることもできる。
(5)前記復帰制御が、アクチュエータ力を発揮させない制御とされた(3)項または(4)項に記載の車両用サスペンションシステム。
(6)前記復帰制御が、アクチュエータ力を逆方向に発揮させる制御とされた(3)項または(4)項に記載の車両用サスペンションシステム。
上記2つの項に記載の態様は、復帰制御におけるアクチュエータ力の制御を限定した態様である。前者の態様によれば、アクチュエータ力を0とすることで、第1制御の実行中において生じた流体スプリングの弾性力と分担荷重とのバランスの崩れを利用して、車体車輪間距離を第1制御を実行する前の距離に、迅速に復帰させることが可能である。また、後者の態様によれば、上記バランスの崩れに加えて、復帰させる方向へのアクチュエータ力を利用するため、より迅速に車体車輪間距離を第1制御を実行する前の距離に復帰させることが可能である。
(7)前記制御装置が、前記電磁式アクチュエータの失陥時において、前記アクチュエータ先行協働制御の実行に代え、前記流体スプリングに対する流体の流入・流出によって車体車輪間距離を目標距離に変更する失陥時制御を実行可能とされた(1)項ないし(6)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様によれば、アクチュエータが失陥してアクチュエータ先行協働制御では車体車輪間距離を変更できない場合であっても、流体スプリングによって車体車輪間距離を変更することが可能である。
(11)複数の車輪に対応して配設され、それぞれが、流体の圧力によって車体と自身に対応する車輪とを相互に弾性的に支持するとともに、流体を流入・流出可能な複数の流体スプリングと、
複数の車輪に対応して配設され、それぞれが、対応する流体スプリングと並列的に設けられ、電動モータを有して上下方向において車体と自身に対応する車輪とを接近・離間させる力であるアクチュエータ力を発揮する複数の電磁式アクチュエータと、
前記複数の流体スプリングの各々に対する流体の流入・流出と前記複数の電磁式アクチュエータの各々の発揮するアクチュエータ力との少なくとも一方を制御することで、複数の車輪の各々についての上下方向における車体と車輪との距離である車体車輪間距離を変更可能な制御装置と
を備えた車両用サスペンションシステムであって、
前記制御装置が、複数の車輪の各々についての車体車輪間距離を目標距離に変更する際に、(a)前記複数の流体スプリングの各々に対する流体の流入・流出を禁止した状態において、前記複数の電磁式アクチュエータの各々のアクチュエータ力によって複数の車輪の各々についての車体車輪間距離を目標距離とする第1制御と、(b)複数の車輪の各々についての車体車輪間距離が目標距離となった後に、その目標距離を維持するように、前記複数の流体スプリングに対して流体を流入あるいは流出させつつ前記複数の電磁式アクチュエータの各々が発揮するアクチュエータ力を減少させる第2制御とを含むアクチュエータ先行協働制御を実行可能とされた車両用サスペンションシステム。
(12)前記第2制御が、前記複数の電磁式アクチュエータの各々がアクチュエータ力を発揮しなくなった時点で、前記複数の流体スプリングのうちのアクチュエータ力を発揮しなくなった電磁式アクチュエータに対応するものに対する流体の流入・流出を停止する制御とされた(11)項に記載の車両用サスペンションシステム。
(13)前記制御装置が、前記第1制御の実行中において、前記複数の車輪の少なくとも1つの車輪について車体車輪間距離の目標距離への変更に対する阻害要因が発生した場合に、前記複数の電磁式アクチュエータの各々が発揮しているアクチュエータ力を変更することで、前記複数の車輪の各々についての車体車輪間距離を目標距離から遠ざける方向に変化させる復帰制御を実行可能とされた(11)項または(12)項に記載の車両用サスペンションシステム。
(14)前記制御装置が、前記第1制御の実行中において、前記複数の車輪の少なくとも1つの車輪について車体車輪間距離の変化が遅い場合に、前記複数の電磁式アクチュエータの各々が発揮しているアクチュエータ力を変更することで、前記複数の車輪の各々についての車体車輪間距離を目標距離から遠ざける方向に変化させる復帰制御を実行可能とされた(11)項ないし(13)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
(15)前記復帰制御が、前記複数の電磁式アクチュエータの各々についてアクチュエータ力を発揮させない制御とされた(13)項または(14)項に記載の車両用サスペンションシステム。
(16)前記復帰制御が、前記複数の電磁式アクチュエータの各々のアクチュエータ力を逆方向に発揮させる制御とされた(13)項または(14)項に記載の車両用サスペンションシステム。
(17)前記制御装置が、前記複数の電磁式アクチュエータのうちのいずれかのものの失陥時において、前記アクチュエータ先行協働制御の実行に代え、前記複数の流体スプリングの各々に対する流体の流入・流出によって、前記複数の車輪の各々についての車体車輪間距離を目標距離に変更する失陥時制御を実行可能とされた(11)項ないし(16)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
上記の(11)項ないし(17)項に記載の態様は、複数の車輪に対応して流体スプリングおよび電磁式アクチュエータが配設された態様であり、それぞれが、前述した(1)項ないし(7)項の態様に対応するものである。これらの態様によれば、複数の車輪の各々に対応する車高を迅速に変更することが可能となるのである。
ただし、復帰制御を実行可能な態様においては、複数の車輪の少なくとも1つの車輪について、車体車輪間距離の目標距離への変更に対する阻害要因が発生した場合、あるいは、車体車輪間距離の変化が遅い場合には、複数の車輪の各々についての車体車輪間距離を目標距離から遠ざける方向に変化させるようにされている。具体的には、例えば、車高を下げるように車体車輪間距離を変更させる場合において、車体の前方側あるいは後方側の部分に車体の下方に存在する何らかの物体が干渉する場合には、前輪側あるいは後輪側の車体車輪間距離を変更できない状態となるため、上記の復帰制御、つまり、複数の車輪のすべてについての復帰制御が実行されるのである。また、例えば、第1制御の実行中において複数のアクチュエータのうちのいずれかのものが失陥した場合には、その失陥したアクチュエータに対応する車体車輪間距離は第1制御を実行する前の距離に戻されて車体車輪間距離が変化しない状態となるため、そのような場合にも上記復帰制御が実行されることとなる。
(21)前記電磁式アクチュエータが、アクチュエータ力を車体と車輪との接近・離間に対する抵抗力として作用させることが可能な電磁式アブソーバである(1)項ないし(17)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、当該システムが、アクチュエータをアブソーバ(「ダンパ」と呼ぶこともできる)として機能させることで、ばね上,ばね下の振動に対する減衰力を適切に制御可能なシステムとして構成された態様である。
(22)前記電磁式アクチュエータが、
(a)ばね上部材とばね下部材との一方に対して相対移動不能とされた雄ねじ部と、(b)前記ばね上部材と前記ばね下部材との他方に対して相対移動不能とされ、前記雄ねじ部と螺合するとともに、車体と車輪との接近・離間に伴って前記雄ねじ部と相対回転する雌ねじ部とを有し、前記電動モータにより前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とに相対回転力を付与することによって、アクチュエータ力を発揮させる構造とされた(1)項ないし(21)項のいずれかに記載の車両用サスペンションシステム。
本項に記載の態様は、電磁式アクチュエータを、いわゆるねじ機構を採用したものに限定した態様である。本項の態様によれば、そのねじ機構を構成する雄ねじ部と雌ねじ部との相対回転に対する抵抗力あるいは推進力を電動モータによって発生させることで、車体と車輪との接近・離間に対する減衰力,駆動力,保持力を効果的に発生させることが可能である。ばね上部材側,ばね下部材側のいずれに雄ねじ部を設け、いずれに雌ねじ部を設けるかは、任意である。さらに、雄ねじ部を回転不能とし、雌ねじ部を回転可能とするような構成としてもよく、逆に、雌ねじ部を回転不能とし、雄ねじ部を回転可能とするような構成としてもよい。
以下、請求可能発明のいくつかの実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、請求可能発明は、下記実施例の他、前記〔発明の態様〕の項に記載された態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
(A)第1実施例
≪サスペンションシステムの構成および機能≫
図1に、第1実施例の車両用サスペンションシステム10を模式的に示す。本サスペンションシステム10は、前後左右の車輪12の各々に対応する独立懸架式の4つのサスペンション装置を備えており、それらサスペンション装置の各々は、サスペンションスプリングとショックアブソーバとが一体化されたスプリング・アブソーバAssy20を有している。車輪12,スプリング・アブソーバAssy20は総称であり、4つの車輪のいずれに対応するものであるかを明確にする必要のある場合には、図に示すように、車輪位置を示す添え字として、左前輪,右前輪,左後輪,右後輪の各々に対応するものにFL,FR,RL,RRを付す場合がある。
スプリング・アブソーバAssy20は、図2に示すように、車輪12を保持するばね下部材としてのサスペンションロアアーム22と、車体に設けられたばね上部材としてのマウント部24との間に、それらを連結するようにして配設された電磁式アブソーバであるアクチュエータ26と、それと並列的に設けられた流体スプリングとしてのエアスプリング28とを備えている。
アクチュエータ26は、アウターチューブ30と、そのアウターチューブ30に嵌入してアウターチューブ30の上端部から上方に突出するインナチューブ32とを含んで構成されている。アウターチューブ30は、それの下端部に設けられた取付部材34を介してロアアーム22に連結され、一方、インナチューブ32は、それの上端部に形成されたフランジ部36においてマウント部24に連結されている。アウターチューブ30には、その内壁面にアクチュエータ26の軸線の延びる方向(以下、「軸線方向」という場合がある)に延びるようにして1対のガイド溝38が設けられるとともに、それらのガイド溝38の各々には、インナチューブ32の下端部に付設された1対のキー40の各々が嵌まるようにされており、それらガイド溝38およびキー40によって、アウターチューブ30とインナチューブ32とが、相対回転不能、軸線方向に相対移動可能とされている。ちなみに、アウターチューブ30の上端部には、シール42が付設されており、後に説明する圧力室44からのエアの漏れが防止されている。
また、アクチュエータ26は、ねじ溝が形成された雄ねじ部としてのねじロッド50と、ベアリングボールを保持してそのねじロッド50と螺合する雌ねじ部としてのナット52とを含んで構成されたボールねじ機構と、電動モータ54(3相のDCブラシレスモータであり、以下、単に「モータ54」という場合がある)とを備えている。モータ54はモータケース56に固定して収容されるとともに、そのモータケース56の鍔部がマウント部24の上面側に固定されており、モータケース56の鍔部にインナチューブ32のフランジ部36が固定されていることで、インナーチューブ32は、モータケース56を介してマウント部24に連結されている。モータ54の回転軸であるモータ軸58は、ねじロッド50の上端部と一体的に接続されている。つまり、ねじロッド50は、モータ軸58を延長する状態でインナチューブ32内に配設され、モータ54によって回転させられる。一方、ナット52は、ねじロッド50と螺合させられた状態で、アウタチューブ30の内底部に付設されたナット支持筒60の上端部に固定支持されている。
エアスプリング28は、マウント部24に固定されたハウジング70と、アクチュエータ26のアウタチューブ30に固定されたエアピストン72と、それらを接続するダイヤフラム74とを備えている。ハウジング70は、概して有蓋円筒状をなし、蓋部76に形成された穴にアクチュエータ26のインナチューブ32を貫通させた状態で、蓋部76の上面側においてマウント部24の下面側に固定されている。エアピストン72は、概して円筒状をなし、アウタチューブ30を嵌入させた状態で、アウタチューブ30の上部に固定されている。それらハウジング70とエアピストン72とは、ダイヤフラム74によって気密性を保ったまま接続されており、それらハウジング70とエアピストン72とダイヤフラム74とによって圧力室44が形成されている。その圧力室44には、流体としての圧縮エアが封入されている。このような構造から、エアスプリング28は、その圧縮エアの圧力によって、ロアアーム22とマウント部24、つまり、車輪12と車体とを相互に弾性的に支持しているのである。
車体と車輪12とが接近・離間する場合、アウターチューブ30とインナチューブ32とは、軸線方向に相対移動する。その相対移動に伴って、ねじロッド50とナット52とが軸線方向に相対移動するとともに、ねじロッド50がナット52に対して回転する。モータ54は、ねじロッド50に回転トルクを付与可能とされ、この回転トルクによって、車体と車輪12との接近・離間に対して、その接近・離間を阻止する方向の抵抗力を発生させることが可能とされている。この抵抗力が車体と車輪12との接近・離間に対する減衰力となることで、アクチュエータ26は、いわゆるアブソーバ(「ダンパ」と呼ぶこともできる)として機能するものとなっている。言い換えれば、アクチュエータ26は、自身が発揮する軸線方向の力であるアクチュエータ力によって、車体と車輪12との相対移動に対して減衰力を付与する機能を有しているのである。また、アクチュエータ26は、アクチュエータ力によって、車体と車輪12とを接近・離間させる機能をも有している。すなわち、アクチュエータ力を、車体と車輪12との相対移動に対する推進力つまり駆動力として作用させることが可能とされているのである。この機能により、ばね上振動に対するスカイフック制御を実行すること、旋回時の車体のロール,加速・減速時の車体のピッチ等を効果的に抑制すること、車両の車高を調整すること等が可能とされているのである。
なお、アウタチューブ30の上端内壁面には環状の緩衝ゴム77が貼着されており、アウタチューブ30の内部底壁面にも緩衝ゴム78が貼着されている。車体と車輪12とが接近・離間する際、それらが離間する方向(以下、「リバウンド方向」という場合がある)にある程度相対移動した場合には、キー40が緩衝ゴム77を介してアウターチューブ30の縁部79に当接し、逆に、車体と車輪12とが接近する方向(以下、「バウンド方向」という場合がある)にある程度相対移動した場合には、ねじロッド50の下端が緩衝ゴム78を介してアウタチューブ30の内部底壁面に当接するようになっている。つまり、スプリング・アブソーバAssy20は、車体と車輪12との接近・離間に対するストッパ(いわゆるバウンドストッパおよびリバウンドストッパ)を有しているのである。
サスペンションシステム10は、各スプリング・アブソーバAssy20が有するエアスプリング28に対して流体としてのエア(空気)を流入・流出させるための流体流入・流出装置、詳しく言えば、エアスプリング28の圧力室44に接続されて、その圧力室44にエアを供給し、圧力室44からエアを排出するエア供給・排出装置80を備えている。図3に、そのエア供給・排出装置80の模式図を示す。エア供給・排出装置80は、圧縮エアを圧力室44に供給するコンプレッサ82を含んで構成される。コンプレッサ82は、ポンプ84と、そのポンプ84を駆動するポンプモータ86とを備え、そのポンプ84によって、フィルタ88,逆止弁90を経て大気からエアを吸入し、そのエアを加圧して逆止弁92を介して吐出するものである。そのコンプレッサ82は、個別制御弁装置100を介して前記4つのエアスプリング28の圧力室44に接続されている。個別制御弁装置100は、各エアスプリング28の圧力室44に対応して設けられてそれぞれが常閉弁である4つの個別制御弁102を備え、各圧力室44に対する流路の開閉を行うものである。なお、それらコンプレッサ82と個別制御弁装置100とは、圧縮エアの水分を除去するドライヤ104と、絞り106と逆止弁108とが互いに並列に設けられた流通制限装置110とを介して、共通通路112によって接続されている。また、その共通通路112は、コンプレッサ82とドライヤ104との間から分岐しており、その分岐する部分に圧力室44からエアを排気するための排気制御弁114が設けられている。
上述の構造から、本サスペンションシステム10は、エア供給・排出装置80によって、各エアスプリング28の圧力室44内のエア量を調整することが可能とされており、エア量の調整によって、上下方向における車体と車輪12との距離(以下、「車体車輪間距離」という場合がある)を変化させることが可能とされている。具体的に言えば、圧力室44のエア量を増加させて車体車輪間距離を増大させ、エア量を減少させて車体車輪間距離を減少させることが可能とされている。
本サスペンションシステム10は、サスペンション電子制御ユニット(ECU)140によって、スプリング・アブソーバAssy20の作動、つまり、アクチュエータ26およびエアスプリング28の作動の制御が行われる。詳しくは、アクチュエータ26のモータ54およびエア供給・排出装置80の制御が行われる。ECU140は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されたコントローラ142と、エア供給・排出装置80の駆動回路としてのドライバ144と、各アクチュエータ26が有するモータ54に対応する駆動回路としてのインバータ146とを有している。そのドライバ144およびインバータ146は、コンバータ148を介して電力供給源としてのバッテリ150に接続されており、エア供給・排出装置80が有する各制御弁102,ポンプモータ86等、および、各アクチュエータ26のモータ54には、そのバッテリ150から電力が供給される。なお、モータ54は定電圧駆動されることから、モータ54への供給電力量は、供給電流量を変更することによって変更され、モータ54の力は、その供給電流量に応じた力となる。ちなみに、供給電流量は、各インバータ146がPWM(Pulse Width Modulation)によるパルスオン時間とパルスオフ時間との比(デューティ比)を変更することによって行われる。
車両には、イグニッションスイッチ[I/G]160,車両走行速度(以下、「車速」と略す場合がある)を検出するための車速センサ[v]162,車体と各車輪12との距離を検出する4つのストロークセンサ[St]164,運転者の操作によって車高を変更するための車高変更スイッチ[HSw]166,ステアリングホイールの操作角を検出するための操作角センサ[δ]170,車体に実際に発生する前後加速度である実前後加速度を検出する前後加速度センサ[Gx]172,車体に実際に発生する横加速度である実横加速度を検出する横加速度センサ[Gy]174,各車輪12に対応する車体の各マウント部24の縦加速度(上下加速度)を検出する4つの縦加速度センサ[GzU]176,各車輪12の縦加速度を検出する4つの縦加速度センサ[GzL]178,アクセルスロットルの開度を検出するスロットルセンサ[Sr]180,ブレーキのマスタシリンダ圧を検出するブレーキ圧センサ[Br]182,モータ54の回転角を検出する回転角センサ[ω]184等が設けられてコントローラ142に接続されており、ECU140は、それらのスイッチ,センサからの信号に基づいて、スプリング・アブソーバAssy20の作動の制御を行うものとされている。ちなみに、[ ]の文字は、上記スイッチ,センサ等を図面において表わす場合に用いる符号である。
コントローラ142のコンピュータが備えるROMには、後に説明するところの車高調整に関するプログラム,アクチュエータ力の制御に関するプログラム,各種のデータ等が記憶されている。なお、本サスペンションシステム10では、運転者の選択可能な設定車高は、設定標準車高(N車高),設定標準車高より高い車高として設定された設定高車高(Hi車高),設定標準車高より低い車高として設定された設定低車高(Low車高)の3つが設定されており、運転者の車高変更スイッチ166の操作によって所望の設定車高に選択的に変更される。この車高変更スイッチ166は、設定車高を段階的に高い側の設定車高あるいは低い側の設定車高にシフトさせるような指令、つまり、車高増加指令あるいは車高減少指令が発令される構造とされている。
≪サスペンションシステムの制御≫
本サスペンションシステム10では、4つのスプリング・アブソーバAssy20をそれぞれ独立して制御することが可能となっている。それらスプリング・アブソーバAssy20の各々において、アクチュエータ26のアクチュエータ力が独立して制御されて、車体および車輪12の振動、つまり、ばね上振動およびばね下振動を減衰するための制御(以下、「振動減衰制御」という場合がある),車体のロールを抑制する制御(以下「ロール抑制制御」という場合がある),車体のピッチを抑制する制御(以下、「ピッチ抑制制御」という場合がある)が実行される。また、アクチュエータ26とエアスプリング28とが協働させられて、あるいは、エアスプリング28のみによって、車体車輪間距離を調整する制御(以下、「車高調整制御」という場合がある)が実行される。上記振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御は、アクチュエータ力を、それぞれ、減衰力,ロール抑制力,ピッチ抑制力として作用させることによって実行される。詳しく言えば、振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の各制御ごとのアクチュエータ力の成分である減衰力成分,ロール抑制力成分,ピッチ抑制力成分を合計して目標アクチュエータ力を決定し、アクチュエータ26が、その目標アクチュエータ力を発揮するように制御されることで一元的に実行される。また、車高調整制御のうち運転者の操作等によって目標車高が変更された場合において車体車輪間距離を変更する制御(以下、「車高変更制御」という場合がある)は、エアスプリング28のエア量を調整するエア供給・排出装置80を制御するとともに、車高を変更させるアクチュエータ力成分である車高変更成分を加えて目標アクチュエータ力を決定し、その目標アクチュエータ力を発揮するようにアクチュエータ26を制御することで実行される。以下に、振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御の各々を、それら各々におけるアクチュエータ力成分の決定方法を中心に説明し、さらに、車高調整制御を、エア供給・排出装置80の作動、および、車高変更成分の決定方法を中心に、詳しく説明する。なお、以下の説明において、アクチュエータ力およびそれの成分は、車体と車輪12とを離間させる方向(リバウンド方向)のものが正の値,車体と車輪12とを接近させる方向(バウンド方向)のものが負の値となるものとして扱うこととする。
i)振動減衰制御
振動減衰制御では、車体および車輪12の振動を減衰するためにその振動の速度に応じた大きさのアクチュエータ力を発揮させるべく、減衰力成分FVが決定される。具体的には、車体のマウント部24に設けられた縦加速度センサ176によって検出され計算される車体のマウント部24の上下方向の動作速度、いわゆる、ばね上速度VUと、ロアアーム22に設けられた縦加速度センサ178によって検出され計算される車輪の上下方向の動作速度、いわゆる、ばね下速度VLとに基づいて、次式に従って、減衰力成分FVが演算される。
FV=CU・VU−CL・VL
ここで、CUは、車体のマウント部24の上下方向の動作速度に応じた減衰力を発揮させるためのゲインであり、CLは、車輪12の上下方向の動作速度に応じた減衰力を発揮させるためのゲインである。つまり、CU,CLは、いわゆる減衰係数である。なお、減衰力成分FVは、他の手法で決定することも可能である。例えば、車体と車輪12との相対速度の指標値として、モータ54に設けられている回転角センサ184の検出値から得られたモータ54の回転速度Vに基づき、次式に従って決定することも可能である。
FV=C・V(C:減衰係数)
ii)ロール抑制制御
ロール抑制制御では、車両の旋回時において、その旋回に起因するロールモーメントに応じて、旋回内輪側のアクチュエータ26にバウンド方向のアクチュエータ力を、旋回外輪側のアクチュエータ26にリバウンド方向のアクチュエータ力を、それぞれ、ロール抑制力として発揮させる。具体的に言えば、まず、車体が受けるロールモーメントを指標する横加速度として、ステアリングホイールの操舵角δと車速vに基づいて推定された推定横加速度Gycと、横加速度センサ174によって実測された実横加速度Gyrとに基づいて、制御に利用される横加速度である制御横加速度Gy*が、次式に従って決定される。
Gy*=K1・Gyc+K2・Gyr (K1,K2:ゲイン)
そのように決定された制御横加速度Gy*に基づいて、ロール抑制力成分FRが、次式に従って決定される。
FR=K3・Gy* (K3:ゲイン)
iii)ピッチ抑制制御
ピッチ抑制制御では、車体の制動時等に発生する車体のノーズダイブに対しては、そのノーズダイブを生じさせるピッチモーメントに応じて、前輪側のアクチュエータ26FL,FRにリバウンド方向のアクチュエータ力を、後輪側のアクチュエータ26RL,RRにバウンド方向のアクチュエータ力をそれぞれピッチ抑制力として発揮させる。また、車体の加速時等に発生する車体のスクワットに対しては、そのスクワットを生じさせるピッチモーメントに応じて、後輪側のアクチュエータ26RL,RRにリバウンド方向のアクチュエータ力を、前輪側のアクチュエータ26FL,FRにバウンド方向のアクチュエータ力をピッチ抑制力として発揮させる。具体的には、車体が受けるピッチモーメントを指標する前後加速度として、前後加速度センサ172によって実測された実前後加速度Gxが採用され、その実前後加速度Gxに基づいて、ピッチ抑制力成分FPが、次式に従って決定される。
FP=K4・Gx (K4:ゲイン)
iv)車高調整制御
本サスペンションシステム10おける車高調整制御では、基本となる制御として、車高を一定に維持する制御(以下、「一定車高維持制御」という場合がある)が行われる。この制御は、いわゆるオートレベリングと呼ばれる制御であり、原則として、例えば、乗員の車両への乗り降り,荷物の積載量の変化等による車高の変動に対処することを目的としている。この一定車高維持制御は、専ら、エアスプリング28が制御されることによって行われ、現時点での目標車高、具体的には、現時点において目標とされている車体車輪間距離h*(以下、「目標距離h*」という場合がある)と、ストロークセンサ156により検出される実車体車輪間距離hとが比較され、エアスプリング28の圧力室44のエア量が調整されることで、車高が調整される。
具体的には、車高を上げる場合のエア供給・排出装置80の作動(以下、「車高増加作動」という場合がある)では、まず、ポンプモータ94が作動させられるとともに、個別制御弁102が開弁されることで、圧縮エアがエアスプリング28の圧力室44に供給される。その状態が継続された後、車体車輪間距離が目標距離h*となった場合に、個別制御弁102が閉弁され、車高を上げる必要があったすべての車輪12についての車体車輪間距離が目標距離h*となった後に、ポンプモータ94の作動が停止させられる。車高を下げる場合のエア供給・排出装置80の作動(以下、「車高減少作動」という場合がある)では、まず、排気制御弁114が開弁されるとともに、個別制御弁102が開弁されることで、エアスプリング28の圧力室44からエアが大気に排気される状態とされる。その後、、車体車輪間距離が目標距離h*となった場合に、個別制御弁102が閉弁され、車高を下げる必要があったすべての車輪12についての車体車輪間距離が目標距離h*となった後に、排気制御弁114が閉弁される。ただし、上記の車高増加作動,車高減少作動は、特定の禁止条件(以下、「車高調整禁止条件」という場合がある)を充足する場合には実行が禁止される。具体的には、車体にロールモーメント,ピッチモーメントが作用していること、車体と車輪12との少なくとも一方に振動が発生していること、4輪の車体車輪間距離がある許容範囲を越えて揃っていないことが、1つでも充足されると、エア供給・排出装置80の作動が禁止される。その場合においては、個別制御弁102が閉弁され、ポンプモータ94の作動の停止あるいは排気制御弁114の閉弁が行われ、エアスプリング28の圧力室44内のエア量が維持される。
本サスペンションシステム10による車高調整制御では、上述した目標車高、つまり、目標距離h*が変更された場合において車高を変更するための制御(以下、「車高変更制御」という場合がある)も実行される。この車高変更制御は、悪路走行等への対処を目的する運転者の意思に基づく車高変更、乗員の車両への乗降の容易性を考慮したイグニッションスイッチ連動型の車高変更、高速走行時の走行安定性の向上を目的とした車速連動型の車高変更等の際に実行され、目標距離h*が変更されたことをトリガとして、あたかも、上述した一定車高維持制御に割り込むようにして行われる。この車高変更制御は、一定車高維持制御と異なり、エアスプリング28とアクチュエータ26とが協働して車高変更を行う制御とされている。
車高変更制御では、まず、エアスプリング28に対する圧縮エアの流入・流出を禁止した状態において、アクチュエータ26に、車体車輪間距離を目標距離h*とするためのアクチュエータ力を発揮させる制御、つまり、アクチュエータ先行制御が実行される。詳しくは、次式に従って、アクチュエータ26に発揮させるアクチュエータ力の車高変更成分FHが決定され、その成分FHを含んだアクチュエータ力が発揮される。
FH=K5・t (車高増加時,K5:ゲイン)
FH=−K5・t (車高減少時)
これらの式に従えば、車高変更成分FHは、図4に示すように変化する。ちなみに、図4は、車高を上げる方向に変更する場合を示している。つまり、車高変更成分FHは、ストロークセンサ164により検出される実車体車輪間距離hが目標距離h*となるまで、増加させられ、そして、実車体車輪間距離hが目標距離h*に到達した時点(t=t1)で増加が止められ、その到達した時点での値FHmax(=K5・t1)とされるのである。このアクチュエータ先行制御では、車体の分担荷重とエアスプリング28の弾性力とが釣り合った状態において実現されている車体車輪間距離を、それらのバランスをアクチュエータ力によって崩すことで、車体車輪間距離、つまり、車高が変更されることになる。
次いで、実車体車輪間距離hが目標距離h*となった後、つまり、アクチュエータ先行制御が終了した後、目標距離h*を維持しつつ、エアスプリング28に対してエアを流入あるいは流出させるとともにアクチュエータ力を変化させる制御、つまり、アクチュエータ26とエアスプリング28とを同時に制御する両デバイス同時制御が実行される。本サスペンションシステムにおいては、エアスプリング28に対するエアの流入あるいは流出が開始させられる。詳しく言えば、その時点でアクチュエータ力がリバウンド方向に発揮されている場合には、上述した車高増加動作の場合と同様の方法によって、エアを圧力室44に流入する状態とされ、バウンド方向に発揮されている場合には、車高減少動作の場合と同様の方法によって、圧力室44からエアを大気に排気する状態とされる。そして、エアの流出あるいは流入と並行して、車高変更成分FHが次式に従って決定され、アクチュエータ26は、その車高変更成分FHに基づくアクチュエータ力を発揮するように制御される。
FH=FH−K6・Δh(K6:ゲイン)
この式に従えば、実車体車輪間距離hの目標距離h*からの偏差である距離偏差Δh(=h*−h)が発生する都度、車高変更成分FHが減少させられることになる。この車高変更成分FHの変化は図4に示すようなものであり、エアスプリング28内のエア量の変化によっても車体車輪間距離の変化が生じないように、アクチュエータ力が変更されることになる。そして、車高変更成分FHが0となった時点で、エアスプリング28に対するエアの流入あるいは流出が停止させられる。この両デバイス同時制御においては、目標距離h*を維持したままで、アクチュエータ力を減少させつつ、エアスプリング28の発揮する弾性力が分担荷重とバランスする大きさとなるように、アクチュエータ26およびエアスプリング28が制御されるのである。
以上のように、本サスペンションシステム10では、車高が変更される際、第1制御としての上述のアクチュエータ先行制御が実行され、その後に、第2制御としての上述の両デバイス同時制御が実行される。つまり、本システム10における上記車高変更制御は、アクチュエータ先行協働制御とされているのである。
例えば、車体の外部に存在する物体等の干渉によって車体を下降あるいは上昇させることができない状態等、車高の変更に対する阻害要因が発生した場合には、車体車輪間距離の変化が遅くなる、あるいは、変化しなくなる。そこで、本サスペンションシステム10においては、上記アクチュエータ先行制御の実行中において、4つの車輪12のうち少なくとも1つの車輪について車体車輪間距離の変化速度Vhが閾速度Vh0以下である場合には、アクチュエータ力を逆方向に発揮させて、車体車輪間距離を目標距離h*から遠ざける方向に変化させる復帰制御が実行されるようになっている。詳しくは、車高変更成分FHが、アクチュエータ先行制御を実行する前の実車体車輪間距離hである初期距離h0からの偏差(=h0−h)に基づき、次式に従って決定され、
FH=−K7・(h0−h) (K7:ゲイン)
その決定された車高変更成分FHに基づくアクチュエータ力が、実車体車輪間距離hが初期距離h0となるまで発揮される。
アクチュエータ先行制御では、先に述べたようにエアスプリング28に対するエアの流入・流出を禁止した状態でアクチュエータ力を発揮させているため、アクチュエータ先行制御が進行した時点では、先に述べたように、エアスプリング28の弾性力と分担荷重とのバランスが崩れた状態となっている。したがって、アクチュエータ力を0とした場合には、つまり、アクチュエータ力を解除した場合には、上記バランスの崩れを是正すべく、自然に、実車体車輪間距離hが初期距離h0にまで復帰する。この復帰動作は、比較的高速ではあるが、本サスペンションシステム10における復帰制御では、さらに、アクチュエータ力が復帰動作を助長する方向に発揮されるため、さらに高速な復帰動作となる。
復帰制御は、4つの車輪12すべてについての車体車輪間距離が初期距離h0に戻された時点で終了する。復帰制御が実行された後には、再び、自動的に車高変更が開始されることを禁止すべく、本システム10では、運転者による所定の解除操作が実行されるまで、車高調整制御が停止させられる。
また、本サスペンションシステム10では、各車輪12に対応する4つのアクチュエータ26のうちのいずれかのものが失陥した場合には、4つのアクチュエータに関する制御が禁止される。したがって、その場合には、上述した車高変更制御は実行することができない。そのため、本システム10では、エアスプリング28のみによって車体車輪間距離を変更する制御(以下、「失陥時車高変更制御」あるいは単位に「失陥時制御」という場合がある)が実行されるようになっている。実際には、失陥時車高変更制御は、先に述べた一定車高維持制御を利用して行われ、目標距離h*と実車体車輪間距離hとが比較されて、エアスプリング28の圧力室44へのエアの流入あるいは流出が制御されることで、車高が変更される。なお、アクチュエータ先行制御において、いずれかのアクチュエータ26が失陥したような場合においては、すべてのアクチュエータ26に関する制御が禁止されてすべてのアクチュエータ26のアクチュエータ力が0とされるため、4つの車輪12すべてについての車体車輪間距離が、上記初期距離h0に復帰する。したがって、本システム10では、アクチュエータ26の失陥時には、アクチュエータ力を発揮させない態様での復帰制御が実行されることになる。
なお、上記車高変更制御および失陥時車高変更制御についても、前述の一定車高維持制御と同様、先に述べた車高調整禁止条件を充足する場合にはそれらの制御の実行が禁止される。なお、車高変更中に特定の禁止条件を充足する状態となった場合には、その禁止された時点でのアクチュエータ26およびエアスプリング28の状態が維持されるようになっている。詳しく言えば、車高変更制御では、その禁止された時点での車高変更成分FHが維持されるとともに、エアの流入あるいは流出が禁止され、また、失陥時制御においては、エアの流入あるいは流出が禁止されるようになっている。
v)アクチュエータ力とモータの作動制御
アクチュエータ26の制御は、それが発揮すべきアクチュエータ力である目標アクチュエータ力に基づいて行われる。詳しく言えば、上述のようにして、減衰力成分FV,ロール抑制力成分FR,ピッチ抑制力成分FPおよび車高変更成分FHが決定されると、それらに基づき、次式に従って目標アクチュエータ力Fが決定され、
F=FV+FR+FP+FH
その決定された目標アクチュエータ力Fを発揮するように、アクチュエータ26が制御される。つまり、本サスペンションシステム10では、上記振動減衰制御,ロール抑制制御,ピッチ抑制制御、および、車高調整制御におけるアクチュエータ26の制御は、その目標アクチュエータ力Fを発揮するように制御されることで一元的に実行されるのである。ちなみに、上述した車高調整制御に関する車高調整禁止条件からすれば、実際には、車高変更成分FHが生じている場合には、減衰力成分FV,ロール抑制力成分FR,ピッチ抑制力成分FPは殆ど生じず、また、逆に、減衰力成分FV,ロール抑制力成分FR,ピッチ抑制力成分FPのいずれかが生じる場合には、車高変更成分FHは殆ど生じないことになる。
上記目標アクチュエータ力Fを発揮させるためのモータ54の作動制御は、インバータ146によって行われる。詳しく言えば、決定された目標アクチュエータ力Fに基づくモータ力の発生方向およびデューティ比についての指令がインバータ146に発令され、そして、インバータ146の備えるスイッチング素子の切換えが上記指令に従った態様にて行なわれることで、電動モータ54の作動が制御される。このような電動モータ54の作動制御によって、アクチュエータ26は、上記目標アクチュエータ力を発揮するように制御されるのである。
≪制御プログラム≫
上述のようなアクチュエータ力の制御、および、車高調整制御におけるエアスプリング28の制御は、それぞれ、図6にフローチャートを示すアクチュエータ制御プログラム,図10にフローチャートを示すエアスプリング制御プログラムが、イグニッションスイッチ160がON状態とされてから、OFF状態とされた後に一定時間(例えば、60sec)が経過するまでの間、短い時間間隔δt(例えば、数msec〜数十msec)をおいてコントローラ142により繰り返し実行されることによって行われる。なお、それら2つの制御プログラムに従う処理のうち車高を調整する処理は、目標車高に基づいて行われるのであり、その目標車高の決定、つまり、目標となる車体車輪間距離の決定が、図5にフローチャートを示す目標車高決定プログラムが、先の2つの制御プログラムと同じ期間実行されることによって行われる。なお、それら2つの制御プログラムおよび目標車高決定プログラムは、互いに並行して実行される。以下に、それぞれの制御のフローを、図に示すフローチャートを参照しつつ、簡単に説明する。
i)目標車高決定プログラム
目標車高決定プログラムでは、目標となる車高を示すフラグである目標車高フラグfHが用いられ、そのフラグfHに基づいて目標となる車体車輪間距離h*が決定される。本サスペンションシステム10では、基本となる車高として、「標準車高」(以下、「N車高」という場合がある)と、N車高より低い「Low車高」、N車高より高い「Hi車高」との3つの車高が設定されており、目標車高フラグfHのフラグ値[1],[2],[3]は、それぞれ、Low車高,N車高,Hi車高に対応するものとされている。基本的には、車高変更スイッチ166の操作に基づく指令が車高増加指令あるいは車高減少指令であるかに応じて、高車高側あるいは低車高側のいずれかに目標車高フラグfHのフラグ値が変更される。
また、本サスペンションシステム10では、車速感応車高調整を実行するものとされており、Hi車高(fH=3)において車速vが閾速度v0(例えば、50km/h)以上となった場合には、車両の走行安定性に鑑み、N車高に戻すようにフラグ値が[2]に変更される。また、N車高(fH=2)において車速vが閾速度v1(例えば、80km/h)以上となった場合には、車両のさらなる走行安定性に鑑み、N車高よりδhだけ低い車高(Low車高より高い車高)である「高速時車高」に対応するフラグ値である[2’]とされるようになっている。なお、一旦車速が閾速度v1以上になった後に、閾速度v1未満となった場合には、N車高に戻るようにされている。
さらに、本サスペンションシステム10では、運転者の乗降や荷物の積み降ろしを容易にするための制御として乗降時車高調整を実行するようにされている。乗降時の車高として、Low車高よりさらに低い車高である「乗降時車高」が設定されており、乗降時車高調整では、イグニッションスイッチ160がOFFとされた場合に、目標車高フラグfHが乗降時車高に対応するフラグ値である[0]とされるようになっている。ちなみに、イグニッションスイッチ160がONとされた場合には、目標車高フラグfHのフラグ値が[2]とされる。
本目標車高決定プログラムでは、上述したフラグfHの値である[0],[1],[2],[2’],[3]の各々に対応して、ステップ16(以下、「S16」と略す、他のステップも同様である)において、目標距離がh0 *,h1 *,h2 *,h2’*(=h2 *−δh),h3 *とされる。また、車高調整制御に関する各プログラムでは、車高制御フラグfCを採用する。この車高制御フラグfCは、車高調整制御におけるいずれの制御を行うかを示すフラグであり、それのフラグ値<0>(初期値である)は、前述した一定車高維持制御に対応し、フラグ値<1>,<2>,<3>は、車高変更制御に関するものとされている。詳しくは、フラグ値<1>,<2>が、それぞれ前述のアクチュエータ先行制御,両デバイス同時制御に、フラグ値<3>が前述の復帰制御に対応するものとされている。ちなみに、目標車高が変更された場合には、本プログラムのS15において、車高制御フラグfCが<1>とされ、前述した車高変更制御、詳しく言えば、アクチュエータ先行制御が開始されることになるのである。
ii)アクチュエータ制御プログラム
アクチュエータ制御プログラムは、4つの車輪12にそれぞれ設けられたスプリング・アブソーバAssy20のアクチュエータ26の各々に対して実行される。以降の説明においては、説明の簡略化に配慮して、1つのアクチュエータ26に対しての本プログラムによる処理について説明する。この処理では、S22〜S24において、先に説明したように、減衰力成分FV,ロール抑制力成分FR,ピッチ抑制力成分FPがそれぞれ決定される。次いで、S25において、図7に示す車高変更成分決定サブルーチンが実行され、車高変更成分FHが決定される。
車高変更成分決定サブルーチンでは、まず、S31において、前述した車高調整禁止条件を充足しているか否かが判定され、充足していないと判定された場合には、S32において、車高制御フラグfCが<0>であるか否かが判定される。フラグfCが<0>である場合には、一定車高維持制御が行われているのであり、車高を変更するためのアクチュエータ力を必要としないことから、車高変更成分FHは0とされる。フラグfCが、それ以外の場合には、S34以下において、前述の車高変更制御、つまり、アクチュエータ先行制御が実行される。フラグfCが<2>以外である場合、つまり、フラグfCが<1>若しくは<3>である場合には、アクチュエータ26によって車高を変更している状態であり、S37において、アクチュエータ先行制御時決定サブルーチンが実行されて、車高変更成分FHが決定される。また、フラグfCが<2>である場合には、S38において、両デバイス同時制御時決定サブルーチンが実行されて、車高変更成分FHが決定される。ただし、フラグfCが<2>でない場合であっても、S35において、車体車輪間距離が、その時点において決定されている目標距離h*に到達したと判定された場合には、車高制御フラグfCが<2>とされて、両デバイス同時制御時決定サブルーチンが実行される。なお、S31において、車高調整禁止条件を充足している場合には、車高調整中に禁止された場合を考慮して、その時点での車高を維持するように、車高変更成分FHが1回前のプログラム実行時における車高変更成分FHとされるようになっている。
アクチュエータ先行制御時決定サブルーチンは、図8にフローチャートを示す制御を行うルーチンである。このルーチンでは、まず、S51において、現在実行されている制御が、アクチュエータ先行制御であるか、復帰制御であるかが判定される。アクチュエータ先行制御である場合には、S55以下において、アクチュエータ力を発揮させる方向に応じて、車高変更成分FHの大きさがδF1ずつ大きくされるようになっている。なお、S52,53においては、前述した車高の変更に対する阻害要因等が発生したか否かが、車体車輪間距離の変化速度、詳しくは、1回前のプログラム実行時の車体車輪間距離と今回の車体車輪間距離との差が閾値以下であるか否かによって判定される。阻害要因等が発生したと判定された場合には、S58以下において、前述した復帰制御が実行されるのであり、前述した式、
FH=−K7・(h0−h)
に基づいて車高変更成分FHが決定される。
両デバイス同時制御時決定サブルーチンは、図9にフローチャートを示すルーチンである。このルーチンでは、車高変更成分FHが、前述したようにエアスプリング28内のエア量の変化によっても目標距離h*の変化が生じないようにように決定される。詳しくは、S72において、車高変更成分FHは、実車体車輪間距離hの目標距離h*に対する偏差である距離偏差Δh(=h*−h)に基づいて、次式に従って決定される。
FH=FH−K6・Δh
これにより、車高変更成分FHは徐々に小さくされるのである。そして、S73において、車高変更成分FHが0になったと判定された場合には、第2制御、つまり、アクチュエータ先行協働制御を終了させるのである。具体的には、車高制御フラグfCが<0>とされ、後述するエアスプリング制御プログラムにおいて、エアの流入あるいは流出が停止させられることになる。また、次に車高を変更する制御が実行されるまでは、現時点での車体車輪間距離h*が維持されるため、その目標距離h*が、次の車高変更制御のための初期距離h0とされるようになっている。
以上のように、アクチュエータ力の4つの成分がすべて決定された後には、メインプログラムのS26において、アクチュエータ26に発揮させる目標アクチュエータ力Fが決定される。次いで、決定された目標アクチュエータ力Fに対応する制御信号が、インバータ146を介してモータ54に送信され、アクチュエータ制御プログラムの1回の実行が終了する。なお、S21において、4つの車輪12に対応する4つのアクチュエータ26のうち少なくと1つのものが失陥していると判定された場合には、正常なアクチュエータ26についても、S22以下の処理がスキップされてアクチュエータ力を発揮させないようになっている。例えば、車高変更制御の途中でアクチュエータ26が失陥した場合には、4つのアクチュエータ26のアクチュエータ力Fが0とされ、エアスプリング28の弾性力と分担荷重とが釣り合う位置まで復帰させられることになる。
iii)エアスプリング制御プログラム
エアスプリング制御プログラムは、各車輪12に対して個別に実行される。この制御プログラムでは、まず、S81において、前述した車高調整禁止条件を充足しているか否かが判断され、充足していないと判断された場合には、S82において、車高制御フラグfCが<0>であるか否かが判定される。フラグfCが<0>である場合には、一定車高維持制御が行われている。つまり、S89,S90において、各車輪に対応する現時点での実車体車輪間距離hと、目標車高フラグfHのフラグ値に応じた目標離間距離h*とがそれぞれ比較判定される。車体車輪間距離を増加させる必要があると判定された場合には、S91において、エアスプリング28内にエアが流入させられ、逆に、車体車輪間距離を減少させる必要があると判定された場合には、S92において、エアスプリング28内からエアを流出させる。また、車高調整禁止条件を充足している場合、若しくは、車体車輪間距離を変化させる必要がないと判定された場合には、S93において、上述したようにエア量が維持される。ちなみに、上述したアクチュエータ制御プログラムにおいて、両デバイス同時制御が終了して車高制御フラグfCが<0>とされた場合、S89において車体車輪間距離を変化させる必要がないと判定されるため、S93においてエアの流入あるいは流出が停止させられることになる。
また、フラグfCが<0>以外の場合には、S84以下において、車高変更制御が実行される。フラグfCが<2>である場合には、車高の変更方向に応じて、エアが流入あるいは流出させられる。また、フラグfCが<2>以外である場合、つまり、フラグfCが<1>、若しくは、<3>である場合には、エア量が維持される。なお、4つの車輪12のうちいずれかが失陥して上述した車高変更制御が実行できない場合には、S89以下が実行されることによって、エアスプリング28のみによって車高を変更する失陥時車高変更制御が実行される。以上の一連の処理の後、本プログラムの1回の実行が終了する。
≪車高変更制御時におけるアクチュエータ力,スプリング力の発生の様子≫
図4は、先に説明したように、車高を変更する制御における車体車輪間距離の変化、エアスプリング28内のエア変化量、および、アクチュエータ26の車高変更成分FHの発生の様子を示すものとなっている。この図は、車高を上げる方向に変更する場合のものであり、車高の変更を途中で禁止することがなかった場合のものである。本システム10によれば、先に、アクチュエータ先行制御によって、アクチュエータ26により目標車高まで到達させるため、迅速な車高の変更が可能である。その到達させた時点では、アクチュエータ26は、ある程度のアクチュエータ力を発揮しているが、両デバイス同時制御によって、エアスプリング28に対してエアを流入あるいは流出させつつ、目標距離を維持するためのアクチュエータ力を徐々に減少させるため、両デバイス同時制御終了時点では、目標距離を維持するのに必要な力をアクチュエータ26に依存させなくて済むことになる。したがって、本システム10によれば、車高維持のためにアクチュエータ力を発揮させ続けなくてもよく、アクチュエータ26による電力消費を抑えることが可能である。
(B)第2実施例
第2実施例の車両用サスペンションシステムは、そのハード構成が第1実施例のシステムと同様の構成であるため、本実施例の説明においては、第1実施例のシステムと同じ機能の構成要素については、同じ符号を用いて対応するものであることを示し、それらの説明は省略するものとする。本実施例のシステムは、第1実施例のシステムとはECUによる制御が異なるものであるため、本実施例のECUによる制御ついて、以下に説明する。
本実施例は、サスペンションECU140による車高変更制御が、第1実施例における制御とは相違する。詳しくは、両デバイス同時制御および復帰制御が相違する。本実施例における両デバイス同時制御では、実車体車輪間距離hが目標距離h*となった後、エアスプリング28に対するエアの流入あるいは流出が追従可能な設定速度で、車高変更成分FHが減少させられる。その制御における車高変更成分FHは、図9の両デバイス同時制御時決定サブルーチンに代わって実行されるところの図11にフローチャートを示す両デバイス同時制御時決定サブルーチンにおいて決定される。具体的には、S101において車高の増減を判定し、車高を増加させる制御である場合には、S102において、車高変更成分FHは、δF2Iずつ小さくされ、車高を減少させる制御である場合には、S103において、δF2Dずつ小さくされる(車高を増加させる制御の場合とは向きが逆であるため、フローチャートのS102に示す式とS103に示す式の表現が異なる)。
一方で、本実施例の両デバイス同時制御では、車高変更成分FHの減少あるいは増加と並行して、エアスプリング28が、目標距離h*を維持するように制御される。そのエアスプリング28の制御は、先に説明した図10のエアスプリング制御プログラムの代わりに、図12にフローチャートを示すエアスプリング制御プログラムが実行されることによって行われる。簡単に言えば、一定車高維持制御と同様の制御が行われることによって、目標距離h*が維持されるのである。そして、車高変更成分FHが0になった場合に、アクチュエータ力の減少を停止させることで、エアスプリング28に対するエアの流入あるいは流出も停止させられ、両デバイス同時制御が終了する。
また、本実施例における復帰制御は、先に説明した図8のアクチュエータ先行制御時決定サブルーチンの代わりに、図13にフローチャートを示すアクチュエータ先行制御時決定サブルーチンが実行されることによって行われる。詳しくは、アクチュエータ先行制御の実行中において、4つの車輪12のうち少なくとも1つの車輪について車体車輪間距離の変化速度Vhが閾速度Vh0以下である場合(S122)には、4つの車輪12のすべてについてアクチュエータ力を発揮させないようにし、車体車輪間距離を目標距離h*から遠ざける方向に変化させる復帰制御が実行されるようになっている(S126)。つまり、本実施例においては、エアスプリング28の弾性力と分担荷重とのアンバランスを利用して、実車体車輪間距離hが、アクチュエータ先行制御が実行される前の距離h0に戻されるようになっている。なお、本実施例のシステムにおいて復帰制御が実行された場合には、第1実施例のシステムにおける場合と同様に、再び、自動的に車高変更が開始されることを禁止すべく、運転者による所定の解除操作が実行されるまで、車高調整制御が停止させられる。
本実施例のサスペンションシステムにおいても、第1実施例のシステムと同様に、先ずアクチュエータ先行制御が実行されることで、アクチュエータ力により目標車高まで到達させるため、迅速な車高の変更が可能であり、また、その到達の後に、両デバイス同時制御が実行されることによって、アクチュエータ26の電力消費を抑えることが可能とされているのである。
第1実施例の車両用サスペンションシステムの全体構成を示す模式図である。
図1に示すスプリング・アブソーバAssyを示す正面断面図である。
図1に示すスプリング・アブソーバAssyとエア供給・排出装置とを示す模式図である。
車高変更制御における車体車輪間距離の変化、および、エアスプリング内のエアの変化量,アクチュエータ力の車高変更成分の発生の様子を示す概略図である。
図1に示すサスペンション電子制御ユニットによって実行される目標車高決定プログラムを表すフローチャートである。
図1に示すサスペンション電子制御ユニットによって実行されるアクチュエータ制御プログラムを表すフローチャートである。
アクチュエータ制御プログラムにおいて実行される車高変更成分決定サブルーチンを示すフローチャートである。
車高変更成分決定サブルーチンにおいて実行されるアクチュエータ先行制御時決定サブルーチンを示すフローチャートである。
車高変更成分決定サブルーチンにおいて実行される両デバイス同時制御時決定サブルーチンを示すフローチャートである。
図1に示すサスペンション電子制御ユニットによって実行されるエアスプリング制御プログラムを表すフローチャートである。
第2実施例の車両用サスペンションシステムにおけるアクチュエータ制御プログラムにおいて実行される両デバイス同時御時決定サブルーチンを示すフローチャートである。
第2実施例の車両用サスペンションシステムにおいて実行されるエアスプリング制御プログラムを示すフローチャートである。
第2実施例の車両用サスペンションシステムにおけるアクチュエータ制御プログラムにおいて実行されるアクチュエータ先行制御時決定サブルーチンを示すフローチャートである。
符号の説明
10:車両用サスペンションシステム 20:スプリング・アブソーバAssy 22:ロアアーム(ばね下部材) 24:マウント部(ばね上部材) 26:電磁式アクチュエータ 28:エアスプリング(流体スプリング) 50:ねじロッド(雄ねじ部) 52:ナット(雌ねじ部) 54:電動モータ 140:サスペンション電子制御ユニット(制御装置)