JP4633293B2 - N−ビニルアミド系共重合体を含有する界面活性剤 - Google Patents

N−ビニルアミド系共重合体を含有する界面活性剤 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、N−ビニルアミド系共重合体、その製造方法および用途に関する。さらに詳しくは、耐イオン性,耐アルコール性に優れた高分子界面活性剤として有用なN−ビニルアミド系共重合体と該共重合体の製造方法、該製造方法により製造されたN−ビニルアミド系共重合体、および該共重合体を用いた界面活性剤、樹脂添加剤、コーティング剤、ガスハイドレート形成抑制剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ビニルエステル類とN−ビニルアミドの共重合体としては、Ind.Eng.Chem.Prod.Res.Dev. 1985, 24, 245-246 にR.W.Stackman, R.H.Summervill による重合性研究の記載があり、米国特許5,730,760号公報に繊維洗浄用組成物として、特開平6−173168号公報に糊料組成物として、特開平10−17622号公報に感熱性親水−疎水可逆性ポリマーとして、特開平10−298038号公報にヘアケア組成物および毛髪処理方法としての記載があり、共重合体自体は公知である。
【0003】
しかし、これらの中には、ビニルエステル類とN−ビニルアミドの共重合体水溶液が表面張力低下効果を有するとの記載は一切見られず、界面活性剤、樹脂添加剤、コーティング剤としての応用の記載もされていない。
【0004】
また、日本国特許第2729226号公報、第3021839号公報、第3066130号公報、第3066136号公報、第3053231号公報、特開平5−59320号公報、特開2000−219706号公報には、ビニルエステル類とN−ビニルアミドの共重合体の加水分解物の記載があり、それぞれ、再生紙の特性改良、コーティング剤、成形物、フィルム、繊維、分散剤、インクジェット用記録シート、経糸糊剤、繊維の染料定着剤として使用している。これらは、共重合体を加水分解することにより生じる加水分解物の物性を利用しており、加水分解前の共重合体の物性と利用については言及されていない。
【0005】
さらには、日本国特許第3021839号公報、第3066130号公報、第3066136号公報、特開平5−59320号公報に記載のあるビニルエステル類とN−ビニルアミドの共重合体中のN−ビニルアミド含有量は20モル%以下である。
【0006】
従来、高分子界面活性剤としていくつかのものが知られているが、良好な乳化特性を有し、しかも同時に塩化ナトリウムなどの無機塩が相当量存在する水溶液に溶解したときにも表面張力を低下させるような高い耐イオン性を有し、さらに高濃度のアルコール水溶液またはアルコール単独溶液中においても優れた溶解性を示すような高い耐アルコール性を有する、実用性の高い製品の開発は、未だ十分に進んでいるとはいい難いのが現状である。
【0007】
例えば、特開昭53−18490号公報には、アルキル基が10乃至30個の炭素原子を含むアクリルエステルモノマーを約20乃至60質量%、および分子量が約10,000以下であるオレフィン系不飽和カルボン酸を80乃至40質量%含んでなるポリマー界面活性剤が開示され、また、特開2000−17025号公報には、アクリルエステル類とN−ビニルアミドとの共重合体の高分子型界面活性剤が開示されている。
【0008】
さらに、特開平7−2952号公報には、N−ビニルアミドおよびこれと共重合可能な単量体を共重合して得られる共重合体をポリオレフィンと他の樹脂を用いてポリマーアロイやポリマーブレンドする際、両樹脂の相溶性を向上させるための樹脂添加剤として使用する技術が開示されているが、実質的には、スチレンとの共重合体である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来知られている界面活性剤は、乳化性を有し水に溶解したときに表面張力の低下を示すものの、耐イオン性、アルコール溶解安定性の面で十分ではなく、耐イオン性、耐アルコール性を有し、種々の分野で利用可能な高分子型界面活性剤の開発が要望されていた。
【0010】
本明細書において、「耐イオン性」とは、「塩化ナトリウムなどの塩が相当量存在する水溶液に溶解したときにも表面張力を低下させる機能を失わないこと。」をいい、「耐アルコール性」とは、「高濃度のアルコール水溶液またはアルコール単独溶液中においても優れた溶解性を示し、安定であること。」をいう。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記状況に鑑みて鋭意研究した結果、特定のビニルエステル類10〜79モル%とN−ビニルアミド21〜90モル%とから重合され、かつこの共重合体の1質量%水溶液の表面張力が65dyn/cm以下であるN−ビニルアミド系共重合体が、耐イオン性、耐アルコール性に優れていることを見出し、さらに検討した結果、本発明の有用性の高い高分子型界面活性剤の開発に成功したものである。
【0012】
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
(1)下記一般式(I)
【0013】
【化4】
Figure 0004633293
【0014】
(式中、R1は水素または炭素数1〜4のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20のアルキル基を示す。)で表されるビニルエステル類10〜79モル%と、N−ビニルアミド21〜90モル%との共重合体であって、共重合体の1質量%水溶液の表面張力が65dyn/cm以下であることを特徴とするN−ビニルアミド系共重合体。
(2)質量平均分子量が1,000〜300,000であることを特徴とする上記(1)に記載のN−ビニルアミド系共重合体。
(3)前記一般式(I)におけるRlが水素またはメチル基であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のN−ビニルアミド系共重合体。
【0015】
(4)ビニルエステル類が酢酸ビニルである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のN−ビニルアミド系共重合体。
(5)N−ビニルアミドが下記一般式(II)
【0016】
【化5】
Figure 0004633293
【0017】
(式中、R3およびR4は互いに独立して水素またはメチル基を示す。)で表されることを特徴とする上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のN−ビニルアミド系共重合体。
(6)N−ビニルアミドがN−ビニルアセトアミドである上記(5)に記載のN−ビニルアミド系共重合体。
【0018】
(7)4質量%塩化ナトリウム水溶液に共重合体を1質量%溶解した水溶液の表面張力が65dyn/cm以下であることを特徴とする(1)ないし(6)のいずれかに記載のN−ビニルアミド系共重合体。
(8)20℃において、イソプロピルアルコールに1質量%以上溶解することを特徴とする(1)ないし(7)のいずれかに記載のN−ビニルアミド系共重合体。
(9)上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のN−ビニルアミド系共重合体を含有することを特徴とする界面活性剤。
【0019】
(10)上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のN−ビニルアミド系共重合体を含有することを特徴とする樹脂添加剤。
(11)上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のN−ビニルアミド系共重合体を含有することを特徴とするコーティング剤。
(12)上記(1)ないし(8)のいずれかに記載のN−ビニルアミド系共重合体を含有することを特徴とするガスハイドレート形成抑制剤。
【0020】
(13)下記一般式(I)
【0021】
【化6】
Figure 0004633293
【0022】
(式中、R1は水素または炭素数1〜4のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20のアルキル基を示す。)で表されるビニルエステル類10〜79モル%、N−ビニルアミド21〜90モル%とを、水および/または有機溶媒中で重合することを特徴とするN−ビニルアミド系共重合体の製造法。
(14)重合開始剤を溶解した水および/または有機溶媒を単量体と同時に滴下しながら重合することを特徴とする上記(13)に記載のN−ビニルアミド系共重合体の製造法。
(15)上記(13)または(14)に記載の製造方法により製造されたN−ビニルアミド系共重合体。
【0023】
【発明の実施の形態】
本発明のN−ビニルアミド系共重合体は,上述のとおり、少なくとも二種の基本的単量体をそれぞれ特定の割合で含み、その一方は前記一般式(I)で表されるように脂肪族炭化水素基を有するビニルエステル類であり、他方はN−ビニルアミドであることを特徴とする。
【0024】
ビニルエステル類としては、前記一般式(I)で表されるものが使用できるが、その中でも特にR1が水素またはメチル基であり、R2は炭素数1〜20のアルキル基であるものが好ましい。これらのアルキル基は、直鎖状でもよく、分岐状でもよい。ビニルエステル類は通常1種使用されるが、2種以上使用してもよい。
【0025】
その代表例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、デカン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、パルミチン酸ビニル等が拳げられる。
【0026】
一方、N−ビニルアミドとしては、とりわけ前記一般式(II)で表されるものが好ましく、N−ビニルホルムアミド、N−メチル−N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−メチル−N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が例示できるが、その中でもとくにN−ビニルアセトアミドが好ましい。その理由は、親水性、水溶性が高く、かつイオンによる影響を受けにくく、ポリマーでの耐加水分解性も良好であるためである。本発明において、N−ビニルアミドは通常1種使用されるが、2種以上使用しても構わない。
【0027】
本発明のN−ビニルアミド系共重合体を構成するビニルエステル類とN−ビニルアミドとの各単量体の比率(モル)は、ビニルエステル類10〜79%、N−ビニルアミド21〜90%である。
N−ビニルアミドが90モル%を超えると、得られる共重合体が親水性に偏りすぎ、一方、N−ビニルアミドが21モル%未満であるときは逆に疎水性に偏りすぎるために、いずれも良好な界面活性機能を果たせなくなるため好ましくない。N−ビニルアミドのより好ましい比率は、40〜80モル%である。
【0028】
本発明における界面活性機能の尺度としては、共重合体をイオン交換水中に溶解し、その液の表面張力をデュヌイ表面張力計を用い、JIS K 3362に準拠する方法で、液温20℃にて測定したものを用いる。
表面張力が65dyn/cm以下、好ましくは62dyn/cm以下、より好ましくは60dyn/cm以下で良好な界面活性機能が発現する。
【0029】
本発明のN−ビニルアミド系共重合体の質量平均分子量は1,000〜300,000であるが、好ましくは8,000〜100,000である。
質量平均分子量が1,000未満のときは界面活性剤としての機能である水−油系エマルジョンの安定化効果、顔料等の分散効果が低下するため好ましくなく、質量平均分子量が300,000を超えると界面活性剤の機能を果たさなくなり、逆に顔料等を凝集させる凝集剤としての効果が発現してしまうため好ましくない。本明細書において、「質量平均分子量」は、光散乱法により測定した質量平均分子量の値を意味する。
【0030】
また、式(I)で表されるビニルエステル類およびN−ビニルアミドに加え、目的物である共重合体がその界面活性剤としての機能を阻害されない限りにおいて、さらにその他の重合性単量体を構成単量体として含んでいても構わない。
【0031】
その他の重合性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸(イソ)プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ビニルベンジルエーテル等のビニルエーテル系単量体;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、m−クロロスチレン等のスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸およびその塩、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩、マレイン酸またはその塩、フマル酸またはその塩等のアニオン性単量体;ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のカチオン性単量体;マレイン酸ジメチルエステル、フマル酸ジエチルエステル等のジカルボン酸エステル系単量体;アリルアルコール、アリルフェニルーテル、アリルアセテート等のアリル系単量体;(メタ)アクリロニトリル、無水マレイン酸、アクロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、塩化ビニル、エチレン、プロピレン等の単量体を拳げることができる。
【0032】
本発明におけるN−ビニルアミド系共重合体は、実質的に架橋結合を有していないものである。これは架橋結合によってゲル状物を呈するようになれば、界面活性作用が失われるからである。
【0033】
本発明のN−ビニルアミド系共重合体は、以下のような方法により製造することができる。
前記一般式(I)のビニルエステル類およびN−ビニルアミドを単量体として、重合開始剤の存在下において重合反応を行う。重合反応は、生成する共重合体を実質的に溶解しないかもしくは生成する共重合体を溶解する有機溶媒中、有機溶媒含有水溶液中、または水溶液中で行うことができる。
【0034】
使用する有機溶媒の例としては、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール等が挙げられるがこの限りではない。
【0035】
用いる重合開始剤としては、例えばナトリウム、カリウムおよびアンモニウム等の過硫酸塩;過酸化ラウロイル、過酸化カプロイル、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、過酸化ペラルゴニル、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルパーフタレート、t−ブチルパーベンゾエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ナトリウムパーアセテート、ナトリウムパーカーボネート等の過酸素化合物;アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2′−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2′−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド] 、2,2’−アゾビス{2−[N−(2−カルボキシエチル)アミジノ]プロパン}、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレイン酸)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)等のアゾ化合物など、重合反応で一般に使用されるものを限定なく使用することができる。
【0036】
上記重合開始剤のうちでも、有機溶媒に溶解可能なアゾビスイソブチロニトリル、水に溶解可能な2,2′−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩等を使用するのが最も好ましい実施態様である。
重合開始剤の使用量は、その種類や重合方法によって異なるものの、重合反応が速やかに進行し、適切な質量平均分子量が得られるように適宜決定すればよく、例えば、総単量体全量の0.1〜3質量%程度用いる。
【0037】
本発明において重合反応は、通常、不活性雰囲気下で行うことが好ましい。重合温度は、生成する共重合体の質量平均分子量の大きさに影響を及ぼすため一概に規定できないが、本発明で目的とする質量平均分子量の共重合体を得ようとする場合においては、約0〜100℃の間で反応させるのが好ましい。
【0038】
本発明において、目的物であるN−ビニルアミド系共重合体の質量平均分子量を上記の範囲に調整するために、分子量調整剤を使用することも有効である。
【0039】
本発明において用いられる分子量調整剤としては、例えばメルカプタン化合物等が挙げられ、具体的には、ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、チオ酢酸またはその塩、チオエタノール、チオグリセロールやその他のアルキルメルカプタン等を使用することができる。その他用いることができる分子量調整剤としては、ハロゲン化物質;二硫化ジアルキルキサントーゲン,二硫化ジアリル等の硫化物;置換ホスフィン等のリン化合物;アルキルアミン等が拳げられる。
【0040】
分子量調整剤の使用量は、目的物である共重合体の質量平均分子量が上記の範囲となるように適宜選択されるが、一般的に原料単量体をベースとして0〜10質量%用いることが好ましい。分子量調整剤を10質量%よりも多く加えるときには重合反応が充分に進行せずに残留単量体が多くなり、質量平均分子量が1,000に達しないものが生成され易くなる傾向がある。
具体例として、分子量調整剤としてアルキルメルカプタンを使用する場合には、添加量は原料単量体をベースとして0.5〜5質量%であることが好ましい。
【0041】
本発明において用いる重合方法としては、溶液静置重合、溶液攪拌重合、滴下重合、逆相懸濁重合、乳化重合、沈殿重合等の一般的重合法が使用可能であるが、特に本発明のN−ビニルアミド系共重合体を得る方法としては滴下重合が好適であり、水溶液またはアルコール溶液での単量体滴下沸点重合がさらに好適である。
【0042】
本発明において、全単量体中のビニルエステル類の比率が高い場合にはアルコール溶液、N−ビニルアミドの比率が高い場合には水溶液とするのが好ましい。具体的には、全単量体中のビニルエステル類の比率が30モル%を超える場合には、水溶液中での重合では、得られる共重合体溶液がエマルジョン様となり易く、この場合にはアルコール溶液での重合の方が均一な透明溶液となり、より幅広い用途に使用が可能である。当然、エマルジョン様でも使用可能な用途に用いる場合には、全単量体中のビニルエステル類の比率が30モル%を超える場合であっても水溶液での重合が可能である。
【0043】
本発明においては、得られるN−ビニルアミド系共重合体自身が界面活性機能を有するため、得られるエマルジョンは安定化され、特に界面活性剤やその他の乳化安定剤等の添加を必要としない。
【0044】
本発明において用いるビニルエステル類とN−ビニルアミドの単量体は、前もって混合したものを滴下しても、別々に同時に滴下してもよい。また、単量体単独で滴下しても、単量体を水および/または有機溶媒に溶解したものを滴下してもよい。さらには、単量体の片方または両方の一部を仕込んだ反応容器中に残りの単量体を滴下していく方法も本発明において使用可能であるが、より好ましくは、全単量体を反応容器中に仕込んだ水および/または有機溶媒中に同時に滴下する方法が用いられる。
【0045】
滴下重合以外の重合方法を用いた場合には、ビニルエステル類単量体とN−ビニルアミド単量体が「高温」で「長時間」接触することになり、ビニルエステル類が分解した有機酸が遊離し、酸性条件下で加溶媒分解し易いN−ビニルアミドを不安定化する。それを避ける為に液性をアルカリにするか、アミン類等を添加すると、今度はアルカリ性条件下では不安定なビニルエステル類が分解してしまうため好ましくない。
【0046】
これら単量体の分解を避け、収率よく純度の高いN−ビニルアミド系共重合体を得るには、単量体同士が「高温」で「長時間」接触することのない滴下重合が最も好適である。
【0047】
重合の際、重合開始剤は、単量体と同時に滴下されることが好ましく、これにより、得られるN−ビニルアミド系共重合体の分子量分布を容易に調整することが可能である。重合開始剤全量を前もって反応容器に仕込む方法では、単量体の滴下開始時と滴下終了時に得られる共重合体の分子量が大きく異なる場合が多く、分子量分布もかなり幅の広いものとなる場合が多いので好ましくない。
【0048】
本重合反応の反応時間は通常1〜30時間程度である。反応終了後、共重合体が析出している場合は濾過等により溶媒を除去し、必要により乾燥させることにより、粒子、粉体状のN−ビニルアミド系共重合体を得ることができる。
また、溶液に溶解している場合には、使用状況に応じてそのまま用いることも可能である。さらには、必要に応じて、スプレードライヤー、ベルトドライヤー、ドラムドライヤー等を用いて溶媒を除去し粉体状にすることも可能である。
【0049】
重合後に重合溶液全体がゲル状に固まる条件では、ゲルを取り出して解砕してから乾燥し、水もしくは溶媒を除去し、さらに粉砕して粒状、粉末状の共重合体を得ることができる。
本発明のN−ビニルアミド系共重合体は、高分子型界面活性剤として有用であり、その優れた特徴として、耐イオン性、耐アルコール性を有するものである。
【0050】
本発明における「耐イオン性」とは、先に定義した通り「塩化ナトリウム等の塩が相当量存在する水溶液に溶解したときにも表面張力を低下させる機能を失わないこと。」を指し、その定量的な指標としては「4質量%塩化ナトリウム水溶液に共重合体を1質量%溶解した水溶液の表面張力が65dyn/cm以下であること。」と言う定義を用いるものとする。この条件での表面張力が65dyn/cm以下、好ましくは62dyn/cm以下、より好ましくは60dyn/cm以下で良好な界面活性機能が発現する。
【0051】
本発明のN−ビニルアミド系共重合体が耐イオン性をしめす塩水溶液としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、ストロンチウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属;チタニウム、ジルコニウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム等の金属カチオンを含む塩水溶液、あるいは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、炭酸イオン等のアニオンを含む塩水溶液が挙げられる。
【0052】
また、「耐アルコール性」とは、先に定義した通り、「高濃度のアルコール水溶液またはアルコール単独溶液中においても優れた溶解性を示し、安定であること。」を指し、その定量的な指標としては「20℃において、イソプロピルアルコールに1質量%以上溶解すること。」とする。この条件での溶解度は、1質量%以上、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。本発明のN−ビニルアミド系共重合体が溶解できるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、(イソ)プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0053】
本発明のN−ビニルアミド系共重合体の具体的な用途としては、土木建築においては土壌安定剤、セメントの湿潤・分散剤に、また樹脂製造においては乳化重合用乳化剤、懸濁重合用分散剤、ポリマーアロイやポリマーブレンドなどの樹脂混合物に添加して樹脂混合物を構成する異種樹脂間の相溶性を改善するための樹脂添加剤として、さらにコーティングにおける表面処理剤や塗料に添加して顔料や添料の分散安定剤、塗布時の濡れ性や浸透性改良剤等として用いることができ、金属、樹脂、紙、繊維等の素材のコーティング等に好適に用いることができる。
【0054】
さらに、本発明のN−ビニルアミド系共重合体は、ガスハイドレート形成抑制剤として、石油および/またはガスを含むパイプラインにおけるガスハイドレートの形成、集塊、閉塞を抑制、阻害、防止するために系中に添加するポリマー添加剤としても好適に用いることができる。
ガスハイドレートとは、水分子の結晶格子中に、窒素、二酸化炭素、硫化水素、塩素、臭素、メタン、エタン、プロパン、イソブタン、n−ブタン、ネオペンタン、エチレン、シクロペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン等の小分子が取り込まれるクラスレート(包接化合物)であり、これらのガスハイドレート形成分子が高圧低温下で水と共存していると、混合物はガスハイドレート結晶を形成する傾向を持つ。天然ガスおよび/または石油の輸送に用いられるパイプライン中でガスハイドレートが形成されると、それによりポンプの詰まり、ラインの閉塞等の深刻なトラブルが発生する。
【0055】
従来、ガスハイドレート形成抑制には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドンとN−ビニルカプロラクタムまたは/およびN−イソプロピルメタクリルアミドまたは/およびアクロイルピロリジンまたは/およびアクロイルピペリジンまたは/およびアクロイルモルフォリン等の共重合体が用いられてきたが、これらの重合体に用いられるモノマーは高価であり、それらに比べると、本発明の共重合体は、工業的に一般に使用されている安価なモノマーを使用しているので、コストパフォーマンスの面からも有用性が高い。
【0056】
例えば、第1の実施態様としては、以下に記載のタイプの抑制剤1種以上の濃縮溶液または混合物を、水性相を有する石油流体流中に導入する。本発明の抑制剤溶液または混合物が、実質的に水性相中に溶解されまたは流体流中に分散されると、それにより、クラスレート水和物が形成される割合が低減され、それにより、流動性が制限される程度が低減される。
【0057】
さらに、好ましい実施態様としては、本発明のN−ビニルアミド系共重合体を、最初に、適切なキャリアー溶剤または液体中に溶解して、濃縮溶液または混合物を製造する。キャリアー溶剤としては、水、ブライン、海水、精製水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリコール、またはそのような溶剤の混合物があるが、それらに限定される訳ではない。当業者に知られている他の溶剤を使用してもよい。
【0058】
石油流体等の水性相中において所望の最終濃度が得られる限り、キャリアー溶剤中における抑制剤の濃度は、いかなるものであってもよい。特定の用途において使用する実際の濃度は、選択するキャリアー溶剤、抑制剤の化学的組成、システムの温度、適用条件でのキャリアー溶剤中における抑制剤の溶解性に依存して変動する。抑制混合物は、機械装置(化学的注入ポンプ、Tパイプ、注入部品等)、および他のデバイスを用いて、石油流体の水性相中に導入することができるが、そのような装置は、必須のものではない。
【0059】
抑制剤混合物を用いて石油流体等を十分有効に処理することを確実なものにするためには、まず、好ましくは抑制剤溶液が流体中に導入される位置に水性相を存在させて、さらには、抑制剤はクラスレート水和物の形成を元に戻すというよりは、主にその形成を抑制する作用をするので、クラスレート水和物の実質的な形成の前にその流体を処理することが重要である。湿潤石油流体が冷却されると、最終的に、水和物平衡解離温度、即ちTeqとして知られる温度(それ以下の温度では、水和物の形成が、熱力学的に支持される温度)まで達する。好ましくは、流体は、そのTeqよりも高い温度にある時に、抑制剤を用いて処理する。本発明のガスハイドレート抑制剤は、オイルまたはガス流中に存在する水の約0.01〜5質量%(好ましくは0.5〜3重量%)の濃度範囲で使用可能なガス水和物抑制剤として、水相を有する石油流体等を効果的に処理することができる。
【0060】
本発明において、N−ビニルアミド系共重合体の使用量は、具体的な用途によって異なるものの、一般的には対象とする系全体に対して、約0.01〜50質量%用いるのが好ましく、0.05〜30質量%がより好ましい。
【0061】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに実施例によりなんら限定されるものではない。
【0062】
なお、本発明における各種試験方法を以下に示す。
(評価試験方法)
1.表面張力の測定
共重合体をイオン交換水中に溶解し、表面張力をデュヌイ表面張力計を用い、JIS K 3362に準拠する方法で、液温20℃にて測定した。
2.乳化安定性試験
目盛付き試験管に、共重合体の0.02質量%水溶液4ml、酢酸ビニルモノマー1mlを入れ、タッチミキサーにて1分間激しく攪拌を行った後、静置して、上層1mlのところに酢酸ビニルモノマー層が形成されるまでの時間を測定した。
【0063】
3.質量平均分子量の測定
光散乱法 GPC−MALLSにより絶対分子量を測定した。
検出器:多角度光散乱検出器 DAWN−F
溶離液:0.1M リン酸二水素ナトリウム+0.1M リン酸水素二ナトリウム水溶液 または 5mM 臭化リチウム DMF溶液
カラム:Shodex(昭和電工株式会社登録商標)KB-G + SB-806HQ またはShodex(昭和電工株式会社登録商標)KD-80M 2本
カラム温度:40℃
流量:0.6ml/min または 0.93ml/min
【0064】
4.浸透性試験
クロマトグラフィー用濾紙No.50(アドバンテック東洋株式会社製)(20×400mm、0.25mm厚、140g/m2)を用い、ペーパークロマトグラフィー類似の方法で、各種共重合体水溶液のt秒後の浸透高さhを読んで浸透速度を測定した。tとhとの関係は、h2=α×t+C で表されるので、測定値から縦軸にh2、横軸にtをとったグラフの傾きより各種共重合体の各種濃度のαを求め、これを浸透性の尺度とした。
【0065】
5.溶解性試験
擦り栓付きガラス製三角フラスコに99.00gのイソプロピルアルコールを入れ、それを恒温水槽中で液温を20℃に調製した。そこに各共重合体の乾燥粉末1.00gを攪拌下に投入して10時間攪拌を行い、粉末が完全に溶解したかを目視により確認した。
【0066】
(実施例1〜4、比較例1〜3)
表1および表2に示した内容で重合を行った。
【0067】
【表1】
Figure 0004633293
【0068】
【表2】
Figure 0004633293
【0069】
窒素導入管、攪拌機、単量体定量滴下装置、温度計および還流冷却管を取り付けた4つ口セパラブルフラスコに、イオン交換水またはイソプロピルアルコールを入れて所定の重合開始温度まで昇温した。ビニルエステル類とN−ビニルアミドを、イオン交換水またはイソプロピルアルコールに溶解して、そこに分子量調整剤および重合開始剤を溶解した後10℃以下に冷却した。昇温したセパラブルフラスコ中に、単量体溶液を一定速度で滴下し、滴下終了後、所定温度、所定時間で熟成を行い反応を終了した。
【0070】
ここで得られた共重合体の質量平均分子量および1質量%水溶液の表面張力の値を表3に示した。
【0071】
【表3】
Figure 0004633293
【0072】
(表面張力測定)
実施例1〜4および比較例1〜3で得られた共重合体について表面張力を測定した。水溶液の場合はイオン交換水で所定濃度に希釈し、イソプロピルアルコール溶液の場合は一度真空乾燥で溶剤を除去してからイオン交換水で所定濃度に希釈したものを用いた。結果をグラフ1〜2に示す。
【0073】
また、実施例2、3で得られた共重合体を用い、4質量%塩化ナトリウム水溶液中での表面張力を測定した結果をグラフ3に示す。
本発明のN−ビニルアミド系共重合体は耐イオン性に優れていることがわかる。
【0074】
比較例1のN−ビニルアセトアミド単独重合体、比較例2のN−ビニルピロリドン/N−ビニルアセトアミド共重合体、比較例3のアクロイルモルホリン/N−ビニルアセトアミド共重合体では、表面張力低下作用が無いことがわかる。(表1中、他単量体(C)に記載のN−ビニルピロリドンはN−ビニルアミドの1種である。)
【0075】
(乳化安定性)
実施例3、4および比較例1で得られた共重合体を用いて乳化安定性試験を行った。結果を表4に示す。
【0076】
【表4】
Figure 0004633293
【0077】
ポリマーが無い場合には、10秒で酢酸ビニル単量体層が形成されるのに対し、共重合体を添加した場合には、単量体層形成が遅くなり、乳化安定化作用が発現していることがわかる。
さらに、共重合体の濃度を0.001質量%とした場合には、実施例3、4のみ乳化安定化が見られ、比較例1のN−ビニルアセトアミド単独重合体では作用が見られない。
【0078】
(紙への浸透性)
実施例3、4および比較例1で得られた共重合体を用いて浸透性試験を行った結果をグラフ4に示す。実施例4の共重合体で特に浸透性が良好であり、本発明の共重合体は、一般的な紙用途コーティング用ポリマーであるPVAに比較して特に高濃度での浸透性に優れることがわかる。
【0079】
(溶解性)
実施例1〜4で得られた共重合体およびPVAについて20℃におけるイソプロピルアルコールに対しての溶解性を測定した。水溶液の場合は一度真空乾燥で水を除去した物を、イソプロピルアルコール溶液の場合は一度真空乾燥で溶剤を除去した物を用いた。結果を表5に示す。
【0080】
【表5】
Figure 0004633293
【0081】
【発明の効果】
本発明のN−ビニルアミド系共重合体は、耐イオン性、高いアルコール溶解性と安定性を有し、高分子型界面活性剤として有用であり、土木建築、樹脂製造、コーティング、石油化学等の幅広い分野において有用である。
【0082】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1〜4および比較例1のポリマー水溶液の表面張力を示すグラフである。
【図2】本発明の比較例1〜3のポリマー水溶液の表面張力を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例2〜3のポリマー水溶液および塩溶液の表面張力を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例3〜4および比較例1のポリマー水溶液の紙への浸透性を示すグラフである。

Claims (1)

  1. 下記一般式(I)
    Figure 0004633293
    (式中、R1は水素または炭素数1〜4のアルキル基であり、R2は炭素数1〜20のアルキル基を示す。)で表されるビニルエステル類10〜79モル%と、N−ビニルアミド21〜90モル%との共重合体であって、共重合体の1質量%水溶液の表面張力が65dyn/cm以下であるN−ビニルアミド系共重合体を含有することを特徴とする界面活性剤。
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