JP4629995B2 - 溶接金属の靭性に優れたエレクトロスラグ溶接方法。 - Google Patents

溶接金属の靭性に優れたエレクトロスラグ溶接方法。 Download PDF

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本発明は、厚鋼板のエレクトロスラグ溶接により接合されたT字継手、例えば建築鉄骨における四面ボックス柱とダイヤフラムとの接合部に生じる裏当金を用いて溶接されるT字継手のエレクトロスラグ溶接において、靱性の優れた溶接金属を得るためのエレクトロスラグ溶接方法に属する。
一般に、エレクトロスラグ溶接法は、大入熱1パス溶接が可能なため他の溶接法に比べて高能率な溶接が可能であり、建築、橋梁などの溶接構造物における鉄骨のダイヤフラムなどを立向溶接する場合に多く用いられている。しかしながら、エレクトロスラグ溶接法は、その溶接入熱が500kJ/cm程度以上と一般のアーク溶接に比べて大きいために、溶接で形成される溶接金属の冷却速度が小さく、その冷却過程でオーステナイト(以下、略称でγということもある)粒界から粗大な初析フェライト(以下、略称でαということもある)が生成されやすく、溶接金属の靭性を低下させる原因となる。
一方、建築、橋梁などの溶接構造物において、地震時に脆性破壊により倒壊しないためにその溶接部の高靭性化の社会的要請は極めて大きく、従来からエレクトロスラグ溶接時の溶接金属の高靭性化対策がいろいろと提案されてきた。
エレクトロスラグ溶接時に用いる溶接ワイヤの成分組成を規定した技術としては、例えば、特許文献1が挙げられる。しかし、これら方法は何れも、エレクトロスラグ溶接時の溶接金属の結晶粒径、または、粒内及び粒界に生成する組織を積極的にコントロールできないため、溶接金属の靭性を十分に向上することができなかった。また、エレクトロスラグ溶接は超大入熱溶接であるため、鋼材(母材)の溶接金属への溶け込み率(母材希釈率)が大きいため、鋼材の化学組成の影響も受け、溶接金属の組成、組織は溶接ワイヤ、の組成、種類だけでは決まらない問題もあった。
さらに、例えば、建築鉄骨における四面ボックス柱とダイヤフラムとの接合部におけるT字継手のエレクトロスラグ溶接部のように、溶融した溶接金属を保持するための裏当金を設ける必要がある継手では、裏当金からの希釈もあるため、溶接金属の靱性は裏当金の組成の影響も受ける。
裏当金に関しては最近、鉄鋼技術:2003年6月号第45頁〜52頁(高HAZ靭性SA440−HF鋼の溶接部性能)で、P、S、N量を限定することによって溶接金属靱性が向上することが開示されている。しかしながら、裏当金の溶接金属への溶解割合、すなわち裏当金の希釈率は10%程度であり、裏当金の成分を限定するだけでは溶接ワイヤや鋼材によらずに全ての溶接金属の靱性を安定的に向上させることはできない。
以上のように、裏当金を用いて溶接を行うエレクトロスラグ溶接の溶接金属靱性は溶接ワイヤ、鋼材、裏当金、各々単独では、溶接金属の靱性を飛躍的に向上させることは容易ではない。溶接金属靱性に大きな影響を及ぼす粒界フェライトの生成挙動は、主として合金元素量で決定される焼入性と変態前の固溶B量に支配されるが、焼入性、固溶B量とも個々の元素が独立して寄与するものではなく、各々の元素同士が複雑に影響を及ぼしあう。例えば、固溶B量は全B量だけでなく、Bと化合物を形成し得る限度である、N、O量、さらにN、Oと結びつく可能性のあるAl、Tiなどの元素量や存在状態にも影響される。また、溶接金属は凝固まま組織が最終形態であるため、凝固組織の不均一性や凝固偏析の変動が機械的性質に直接影響を及ぼすため、溶接金属全体の靭性を安定的に向上、確保することは容易でない。
この溶接金属の組織、靭性の不均一性に対して、溶接ワイヤ、鋼材、裏当金がどのような寄与を示すのかは不明であり、各々単独には比較的良好な溶接金属靭性を確保できるものでも、その組み合わせ如何によっては溶接金属全体の靭性としては低下する可能性も十分考えられる。従って、溶接ワイヤ、鋼材、裏当金、各々単独に溶接金属靱性に好ましいもので溶接継手を作成したとしても、必ずしも良好な溶接金属靱性が得られるものではなく、現状、裏当金を用いて行うエレクトロスラグ溶接において、溶接ワイヤ、鋼材、裏当金の組み合わせを最適化して、良好な溶接金属靱性を溶接金属全体で安定的に達成できる技術は示されていない。
特開2002−79396号公報
本発明は、厚鋼板のエレクトロスラグ溶接により接合されたT字継手、例えば建築鉄骨における四面ボックス柱(スキンプレート)とダイヤフラムとの接合部に生じる、裏当金を用いて溶接されるT字継手のエレクトロスラグ溶接において、溶接金属の形成と成分、組織決定に預かる溶接ワイヤ、鋼材、裏当金の最適な組み合わせによって、溶接金属の靭性を平均的に向上させるのみならず、該溶接金属中の位置によらず優れた靭性を達成できる、すなわち、溶接金属全体の靭性を安定的に向上できる、裏当金を用いるエレクトロスラグ溶接方法を提供することを課題とする。
鋼材の1パス大入熱溶接における溶接金属の靭性は変態組織の影響を強く受け、特に旧オーステナイト粒界に形成される粒界フェライトの量、サイズと粒内組織の形態の違い、すなわち、微細な針状フェライト(アシキュラーフェライト)か、微細ベイナイトか、あるいは粗大ベイナイトかによって靭性は大きく変動する。粒界フェライトはその割合が多くなり、サイズが粗大となると有効結晶粒径を粗大化して靭性を顕著に劣化させるため、粒内組織がアシキュラーフェライトか微細ベイナイトとなる範囲で溶接金属の焼入性を高めてその抑制を図る必要がある。粒内組織はアシキュラーフェライトか、アシキュラーフェライトと形態が類似の微細ベイナイトが大半を占める場合は有効結晶粒径を顕著に微細化して靭性向上に寄与するが、典型的な上部ベイナイトに代表される粗大ベイナイトが主たる組織となると、有効結晶粒径を粗大化させるとともに硬さを過剰に高めるため、靭性を顕著に劣化させる。
粒界フェライト、粒内組織とも、溶接金属の組成に応じた焼入性の影響を受けるが、特に、粒界フェライトの生成挙動は、溶接金属の化学組成の変化に敏感であり、その割合、サイズの変化が大きいため、溶接金属の靭性向上、確保のためには、粒界フェライトを制御することが最も重要となる。
粒界フェライトは溶接金属の焼入性に依存するが、特に粒界焼入性に大きな影響を及ぼす固溶Bの影響を強く受け、従って変態前のBの存在状態によって粒界フェライトの生成挙動が大きく変化する。Bの粒界焼入性は粒界からフェライトが生成する段階での固溶B量が多いほど高くなるが、該固溶B量は、Bが拡散速度が速く、他の元素と結合して化合物を作りやすい特性を有しているため、固溶B量は全B量だけでは決定されず、Bと化合物を形成する元素、さらに該元素と化合物を形成する元素の量、状態にも大きく依存する。具体的に固溶B量に影響を及ぼす元素としては、C、N、O、Al、Ti等がある。
固溶B量に影響を及ぼす元素はそれぞれ、間接的に粒界フェライトの生成挙動に影響を及ぼすが、この中でも特にNがBとBNを形成しやすいため、粒界フェライト形成に対する影響が大きい。
一方、溶接金属の化学組成は溶接ワイヤ以外に各々の希釈率に応じて、スキンプレート(以降、鋼板1ともいう)、ダイヤフラム(以降、鋼板2ともいう)、裏当金の組成にも依存する。従って、溶接金属の化学組成を靭性に好ましい微細組織、すなわち、粒界フェライトがほぼ抑制され、かつ、粒内も均一微細なアシキュラーフェライトないしは微細ベイナイト主体組織、が得られるように調整するには、溶接ワイヤ、鋼材、裏当金、各々単独に成分を規定するのではなく、これらが溶解・凝固して溶接金属を形成したときに最適な化学組成範囲にする必要がある。
本発明者らは、上記の観点から、靭性を向上するための溶接金属としての最適な化学組成と、そのための溶接ワイヤ、鋼材、裏当金の最適組み合わせを探求した。その結果、溶接金属の平均的な化学組成を適正化するための、溶接ワイヤ、鋼材、裏当金、個々の化学組成の適正範囲を見いだすとともに、個々の化学組成の適正範囲を満たすことは必要また必須ではあるが、さらに、個々の化学組成の適正範囲を満足しただけでは溶接金属の位置によっては靭性が必ずしも十分でない場合が生じることを新たに知見した。
すなわち、溶接金属は溶接ワイヤ、鋼材、裏当金が溶解して一つの溶融金属を形成し、該溶融金属が凝固したものであるが、溶接においてはエレクトロスグラグ溶接のような大入熱溶接の場合でも、溶解、凝固の速度は大きく、非定常で進行するため、完全には均一化せず、ミクロ的には溶接金属の組成は位置によって異なる。特に、Nの成分変動が大きくなる可能性が高い。その結果、最終的な変態組織、特に靭性に最も影響の大きい粒界フェライトの生成挙動が、特に近接する鋼材や裏当金の化学組成、中でもN量の影響を受けることを知見した。
一般的に平均的な溶接金属のN量が高くなれば固溶B量の減少のために焼入性が低下するが、その分はB量を高めるか、他の合金元素量を高めるか、さらにはNを固定できるTi、Al等の元素量を調整することで補完可能である。従って、溶接金属の平均的組織、代表位置での靱性に関しては、溶接ワイヤ、鋼材、裏当金、各々のN量の多寡それ自体だけでは本質的な問題にはならず、溶接金属としての平均的化学組成が適正になるように、溶接ワイヤ、鋼材、裏当金の組成を調整すればよい。例えば、裏当金のN量が過剰であっても、その分、溶接ワイヤや鋼材のN量を低減するか、B、Ti、Al量を高めることで対処可能である。
しかし、様々な溶接ワイヤ、鋼材(スキンプレート、ダイヤフラム)、裏当金の組み合わせでエレクトロスラグ溶接を行い、溶接金属中の靱性分を評価した結果、例えば、溶接金属の平均的な化学組成を調整して、溶接金属中心の靱性がほぼ同程度に良好であっても、溶接ワイヤ、鋼材(スキンプレート、ダイヤフラム)、裏当金の組み合わせによっては、溶接金属中の靱性変動が大きく、特定の位置において大きな靱性劣化が生じる場合があることが判明した。
本発明者らは、溶接ワイヤ、鋼材(スキンプレート、ダイヤフラム)、裏当金の組み合わせと溶接金属の組織分布、靱性分布との関連性を詳細に調査し、該特定位置での靱性劣化を抑制して、溶接金属全体として安定的に高靱性を確保するためには、溶接金属の平均的な化学組成を一定範囲内に適正化するために、溶接ワイヤ、鋼材(スキンプレート、ダイヤフラム)、裏当金各々の化学組成を適正範囲とするとともに、これに加えて、該溶接ワイヤ、鋼板(スキンプレート、ダイヤフラム)、裏当金各々の間のN含有量の差を0.003%以下とすることが必要であることを知見した。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするとことは以下の通りである。
(1) 質量%で、
C :0.02〜0.25%、
Si:0.01〜1.5%、
Mn:0.1〜2.5%、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
N:0.0047〜0.015%
O:0.01%以下
を含有し、必要に応じて、さらに、
Al:0.002〜0.07%、
Ti:0.002〜0.05%、
B:0.0003〜0.015%
Mo:0.01〜1.5%
Cr:0.01〜1.5%
W:0.01〜1.5%
Cu:0.01〜1.5%
Ni:0.01〜6%
Nb:0.002〜0.1%
V:0.002〜0.5%
Ta:0.002〜0.5%、
の1種または2種以上を含有し、
さらに、必要に応じて、
Ca:0.0002〜0.01%
Mg:0.0002〜0.01%
REM:0.0002〜0.01%
の1種または2種以上を含有し、残部が不可避不純物ならびにFeからなる裏当金と、
質量%で、
C :0.02〜0.2%、
Si:0.01〜1%、
Mn:0.1〜2.5%、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.002〜0.1%、
N:0.001〜0.015%
O:0.01%以下
を含有し、さらに、
Ti:0.002〜0.05%
B:0.0003〜0.015%
Mo:0.01〜1.5%
Cr:0.01〜1.5%
W:0.01〜1.5%
Cu:0.01〜1.5%
Ni:0.01〜6%
Nb:0.002〜0.1%
V:0.002〜0.5%
Ta:0.002〜0.5%、
の1種または2種以上を含有し、
さらに、必要に応じて、
Ca:0.0002〜0.01%
Mg:0.0002〜0.01%
REM:0.0002〜0.01%
の1種または2種以上を含有し、残部が不可避不純物ならびにFeからなる鋼板1および鋼板2と、
質量%で、
C :0.02〜0.2%、
Si:0.01〜1%、
Mn:0.1〜2.5%、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.002〜0.1%、
Ti:0.002〜0.3%、
B:0.0003〜0.015%
N:0.001〜0.015%
O:0.01%以下
を含有し、さらに、
Mo:0.01〜2.5%
Cr:0.01〜1.5%
W:0.01〜1.5%
Cu:0.01〜1.5%
Ni:0.01〜6%
Nb:0.002〜0.1%
V:0.002〜0.5%
Ta:0.002〜0.5%、
の1種または2種以上を含有し、
さらに、必要に応じて、
Ca:0.0002〜0.01%
Mg:0.0002〜0.01%
REM:0.0002〜0.01%
の1種または2種以上を含有し、残部が不可避不純物ならびにFeからなる溶接ワイヤを用いて鋼板1と鋼板2を略垂直に接合するエレクトロスラグ溶接において、該裏当金、鋼板1、鋼板2、溶接ワイヤ、各々の間のN含有量の差を0.003%以下とすることを特徴とする溶接金属の靭性に優れたエレクトロスラグ溶接方法。
(2)裏当金、鋼板1、鋼板2、溶接ワイヤ、各々のP、Sの量が、
P:0.008%以下、
S:0.005%以下であることを特徴とする前記(1)に記載の溶接金属の靭性に優れたエレクトロスラグ溶接方法。
本発明のエレクトロスラグ溶接方法によれば、溶接材料、すなわち、裏当金、スキンプレート(鋼板1)、ダイヤフラム(鋼板2)、溶接ワイヤ、各々の化学組成を適正範囲とした上で、溶接材料同士のN量の差がいずれの間でも0.003%以下にすることで、溶接金属中のミクロ組織の変動が位置によらずほぼ一定となり、各溶接材料の個々の化学組成の適正化と相まって溶接金属でほぼ同程度の良好な靱性を達成することが可能となり、溶接金属全体の靭性を安定的に向上できる。
本発明において、溶接金属全体の靭性を均一に向上させるための最も重要な要件は、各溶接材料(スキンプレート、ダイヤフラム、裏当金、溶接ワイヤ)間のN量の差をいずれの溶接材料間においても0.003%以下とすることである。個々の溶接材料のN量は各溶接材料における本発明の範囲内であれば、十分高い靭性(0℃でのシャルピー試験における吸収エネルギー)を確保できるが、最良の溶接金属靭性を得るためには、特に溶接ワイヤのN量は厳密に規定すべきである。すなわち、溶接金属組成への寄与率は溶接ワイヤが50%程度を占めており、溶接ワイヤのN量が溶接金属の平均的なN量への寄与が大きいためであり、靭性に有害な粗大粒界フェライト抑制の観点から、溶接ワイヤのB量の応じて、B量が0.002%以下の場合には、N量は0.005%以下が好ましい。従って、溶接ワイヤのB量が0.002%以下の場合には、その他の溶接材料、すなわち、スキンプレート、ダイヤフラム、裏当金、各々のN量も0.005%以下と、比較的低い方が好ましいこととなる。溶接ワイヤのB量が0.002%超であれば、本発明における各溶接材料におけるNの上限以下であれば、溶接金属の粗大粒界フェライト抑制には十分効果があるため、特に問題はないが、溶接ワイヤのB量が0.002%超〜0.005%以下の場合には溶接ワイヤのN量を0.01%以下とすることがより好ましい。
大入熱1パス溶接における溶接金属は凝固まま組織であるため、溶接方法が一定であれば、靱性を支配するミクロ組織因子はほぼ化学組成のみによって決定づけられる。そして、溶接金属の化学組成は平均的には、溶接材料、すなわち、裏当金、スキンプレート(鋼板1)、ダイヤフラム(鋼板2)、溶接ワイヤ、各々、希釈率に応じてこれらの化学組成の影響を受けるため、溶接材料各々の化学組成は当然限定する必要があるが、個々の化学組成の効果、含有量の限定理由について述べる。
先ず、裏当金に含有させる化学成分の限定理由について説明する。なお、以下に示す%は、特に説明がない限りは質量%を意味するものとする。
Cは、溶接金属の焼入性を高めて組織を微細化し、それにより溶接金属の靭性を向上させる効果を有する。効果を発揮するためには、裏当材中にCを0.02%以上含有する必要がある。しかしながら、Cは溶接金属に過剰に含有すると溶接金属の硬さが過剰となって溶接金属の靭性を劣化させるのでその含有量の上限を0.25%とした。
Siは、脱酸元素として働き、溶接金属の不純物としての酸素量を減少させる成分であり、本発明では、0.01%以上含有させる必要がある。また、Siは固溶強化により溶接金属の強度を高める上で有効である。しかしながら、1.5%を超えて裏当中に含有すると溶接金属の硬さを過剰に高め、また靭性に有害な島状マルテンサイトの増加を促進して溶接金属の靭性を劣化させるため、その含有量の上限を1.5%とした。
Mnは、溶接金属の焼入れ性の向上および脱酸作用を有し、その含有量が0.1%を下回ると溶接金属の酸素量が高くなり、溶接金属の靭性を劣化させる懸念が高まるため、その含有量の下限を0.5%とした。しかしながら、2.5%を超えて裏当中に含有すると溶接金属の硬さを過剰に高め、溶接金属の靭性を劣化させる可能性が高いため、その含有量の上限を2.5%とした。
Pは、溶接金属においてはで不可避的不純物元素であり、粒界に偏析することによって、粒界脆化を生じ、靭性を阻害するため、本発明では0.02%以下に抑える必要がある。なお、Pによる溶接金属の靱性劣化を確実に抑制するためには裏当金におけるP含有量を0.008%以下にすることがより好ましい。
SもPと同様、溶接金属においては不可避的不純物元素であり、粒界脆化や介在物の増加により靭性や延性を阻害するため、本発明では0.01%以下に抑える必要がある。なお、Sによる溶接金属の延性、靱性劣化を確実に抑制するためには裏当金におけるS含有量を0.005%以下にすることがより好ましい。
Nは、他の溶接材料とその含有量をバランスさせることで溶接金属の靭性を確保することが可能であるが、0.001%未満と微量とすることは工業的に困難をともない、一方、0.015%超とすることは裏当金の製造性を劣化させるため、本発明においては、実施例の裏当金10に含有されるN含有量の0.0047%を下限とし、裏当金のN含有量は0.0047〜0.015%に限定する。
Oは、溶接金属中に多量に含まれると粗大な酸化物を形成して溶接金属の靭性を著しく劣化させるので、溶接材料中の含有量は極力低い方が好ましい。裏当金における含有量はその希釈に応じた影響度と裏当金の製造性を考慮して、本発明においてはその含有量の上限を0.01%とした。
以上が裏当金の化学組成における必須要件についての限定理由であるが、溶接金属の組織、特性制御のために、必要に応じて、Al、Ti、B、Mo、Cr、W、Cu、Ni、Nb、V、Taのうち、1種または2種以上を含有させることができる。
すなわち、Alは、溶接金属中で脱酸元素として働き、溶接金属の不純物としての酸素量を減少させる元素であるが、それにより溶接金属の靱性を向上するためには0.002%以上含有させる必要がある。しかしながら、0.07%を超えて裏当中に含有すると溶接金属の硬さを過剰に高め、また、粗大介在物を形成して、靭性を劣化させるので、その含有量の上限を0.07%とした。
Tiは、微量でも溶接金属中で微細なアシキュラーフェライトの生成核となるTi酸化物等を形成する元素であり、強度・靭性向上に有効である。そのためには、裏当金中に0.002%以上含有する必要がある。しかしながら、0.05%を超えて裏当中に含有すると、酸化物が粗大化し、加えて酸化物あるいは窒化物を形成しないフリーなTiがフェライトマトリクス中に固溶し、溶接金属の靭性を劣化させるため、その含有量の上限を0.05%とした。
Bは、溶接金属中のオーステナイト粒界に偏析し、微量でもオーステナイト粒界に生成しやすい靱性に有害な初析フェライトの変態、生成を抑止することにより溶接金属の靭性向上に効果がある元素である。その効果を十分得るためには、裏当材中に0.0003%以上含有する必要がある。しかしながら、0.015%を超えて裏当中に多量に含有されると、過剰なBが粗大な析出物を形成して溶接金属の靭性を劣化させるため、また、裏当金の製造性を阻害するため、その含有量の上限を0.015%とした。
Moは、焼入性を高める元素であり、溶接金属の冷却過程において、オーステナイト粒界からのフェライト変態を抑制するとともに粒内組織も細粒ベイナイトあるいはアシキュラーフェライト化して微細化することができて靭性向上に有効な元素である。これらの効果を得るためには、裏当金中に0.01%以上含有する必要がある。しかしながら、1.5%を超えて過剰に含有されると裏当金の製造コストを上昇させる上に、溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を劣化させるため、本発明においてはその含有量の上限を1.5%とする。
CrもMoと同様の効果を有する元素であり、組織微細化効果を発揮するためには、当金中に0.01%以上含有する必要があり、1.5%を超えて過剰に含有されると裏当金の製造コストを上昇させる上に、溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を劣化させるため、本発明においては、裏当金に含有させる場合はその範囲を0.01〜1.5%とする。
WもCr、Moと同様の効果を有する元素であり、組織微細化効果を発揮するためには、当金中に0.01%以上含有する必要があり、1.5%を超えて過剰に含有されると裏当金の製造コストを上昇させる上に、溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を劣化させるため、本発明においては、裏当金に含有させる場合はその範囲を0.01〜1.5%とする。
Cuは、溶接金属の焼入性を高めて組織を細粒化させる作用を有し、それにより溶接金属の靭性向上を図ることが可能である。該効果を発揮するためには、裏当金中に0.01%以上含有する必要がある。しかしながら、1.5%を超えて含有させると、溶接金属の硬さを過剰に上昇させ、靭性を劣化させるため、上限は1.5%とした。
Niは、固溶靭化作用を有し、靭性向上に極めて有効な元素である。固溶靭化作用を確実に発揮するためには、0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、裏当金に6%を超えて含有させると、溶接金属の高温割れが助長されて好ましくないため、上限は6%とした。
Nbは、焼入性を高めて粒界フェライトを抑制し、粒内アシキュラーフェライトを微細化することにより靭性向上に有効であり、また、変態強化、析出強化により強度調整元素としても有効である。これらの効果を発揮するためには、少なくとも0.002%以上、裏当金に含有させる必要がある。一方、0.1%を超えて過剰に裏当金中に含有させると、溶接金属の硬さが過大となって靭性劣化が著しくなるため、本発明においては、Nbを裏当金に含有させる場合の範囲を0.002〜0.1%に限定する。
VもNbとほぼ同様の効果を有し、溶接金属の組織微細化や高強度化に確実に寄与するためには、裏当金中に0.002%以上含有させる必要がある。一方、過大な含有による溶接金属の靭性劣化を防止するために、本発明においては裏当金中に含有するVの上限を0.5%とする。
TaもNB、Vとほぼ同じ効果を有し、効果を発揮するためには、裏当金中に0.002%以上必要であり、過大な含有による溶接金属の靭性劣化を防止するために、裏当金中に含有するVの上限は0.5%とする必要がある。
以上が裏当金の化学組成における溶接金属の組織、特性制御のために、必要に応じて裏当金に含有させることのできる、Al、Ti、B、Mo、Cr、W、Cu、Ni、Nb、V、Taの限定理由であるが、本発明においては、溶接金属の組織、延性制御のために、さらに必要に応じて、裏当金に、Ca、Mg、REMのうちの1種または2種以上を含有させることができる。
Ca、Mg、REMは各々同様の効果を有し、溶接金属において脱酸元素として働き、不純物としての酸素の量を減少させるため、溶接金属の靭性、延性向上に有効である。溶接金属の靭性、延性向上効果を確実に得るためには、裏当金中に0.0002%以上含有する必要がある。しかしながら、0.01%を超えて裏当金中に含有すると、溶接金属中で粗大な酸化物を形成し、かえって靭性や延性を劣化させる恐れがあるため、本発明においてはCa、Mg、REMいずれも裏当金に含有させる場合にはその範囲を0.0002〜0.01%とした。
以上が本発明における裏当金の成分限定理由である。次に、鋼板1(スキンプレート)と鋼板2(ダイヤフラム)の成分限定理由を説明する。なお、鋼板1と2とは、各々化学組成が本発明を満足していれば、用途に応じて異なった組成の鋼板を用いても同一の鋼板を用いても効果に違いは生じない。
先ずCは、鋼板の強度を確保する上で0.02%以上含有させる必要がある。一方、鋼板中に0.2%超含有させると、鋼板の靱性や溶接熱影響部靱性、さらには耐溶接割れ性の劣化が大きくなって構造用鋼としての安全性が損なわれることと、希釈によって溶接金属のC含有量が過大となって溶接金属の靱性も劣化させる懸念があるため、本発明においては鋼板のC含有量の上限を0.2%とする。
Siは、脱酸元素として、また、鋼板の強度確保に有効な元素である。0.01%未満の含有では脱酸が不十分となり、また強度確保に不利である。逆に1%を超える過剰の含有は粗大な酸化物を形成して鋼板の延性や靭性劣化を招く。また、溶接金属中のSi含有量も過大となって靱性を損ねる恐れがある。そこで、鋼板におけるSi含有量の範囲は0.01〜1%とした。
Mnは、鋼板の焼入性を高めて強度、靭性の確保に必要な元素であり、最低限0.1%以上含有させる必要がある。しかし、2.5%を超える過剰な含有は、過剰なC含有と同様、鋼板の靭性を著しく劣化させ、且つ、溶接熱影響部部の靭性、割れ性なども劣化させる。さらに溶接金属靱性にも悪影響を及ぼすようになるため、上限を2.5%とした。
Pは不純物元素であり、鋼板の特性、溶接金属の特性に対してともに、極力低減することが好ましいが、靭性確保の点から許容できる量として上限を0.02%とした。なお、Pによる鋼板及び溶接金属の靱性劣化を確実に抑制するためには鋼板におけるP含有量を0.008%以下にすることがより好ましい。
Sも不純物元素で、鋼板及び溶接金属の延性、靭性をともに劣化させるため、低減が必要である。延性、靭性の劣化が大きくなく、実用的に許容できる上限として、その含有量を0.01%以下とする。なお、Sによる鋼板及び溶接金属の延性、靱性劣化を確実に抑制するためには鋼板におけるS含有量を0.005%以下にすることがより好ましい。
Alは鋼板の脱酸、加熱オーステナイト粒径の微細化等に有効な元素であり、効果を発揮するためには0.002%以上含有する必要があるが、0.1%を超えて過剰に含有させると、粗大な酸化物を形成して鋼板の靭性、延性を極端に劣化させるため、また、溶接金属中のAl量が過大となって、靱性に有害な上部ベイナイトが形成されて溶接金属の靱性が劣化する恐れがあるため、本発明においては、鋼板のAl量を0.002%〜0.1%の範囲に限定する。
NはAlやTiと結びついてオーステナイト粒微細化に有効に働いて鋼板の靱性向上に寄与するが、その効果が明確になるためには0.001%以上含有させる必要がある一方、過剰に含有させると固溶Nが増加して鋼板の靭性の劣化につながる。また、鋼板のN量が過度に高いと、本発明の第一の要件を満足するためには必然的に溶接ワイヤ、裏当金のN量も高める必要があり、結果、溶接金属のN量が過大となって、組織は微細化されても、固溶Nによる靱性劣化が溶接金属にも生じて溶接金属の靱性が不十分となる可能性があるため、本発明においては、鋼板のN量は上限を0.015%とする。
Oは、不純物元素であり、酸化物による悪影響で鋼板の延性、靱性に悪影響を与え、また、溶接金属のO量を高めて、同様に溶接金属の延性、靱性を劣化させるため、0.01%以下に制限する。
以上が、スキンプレート、ダイヤフラムに用いる鋼板の化学組成における必須要件についての効果及び限定理由であるが、鋼板が必要とされる特性に応じて、さらに、Ti、B、Mo、Cr、W、Cu、Ni、Nb、V、Taの1種または2種以上含有させることができる。該選択可能な元素においても、各々の組成範囲について、下記のように限定する必要がある。
TiはTiNの形成によりオーステナイト粒を微細化して鋼板の靭性向上に有効な元素であるが、効果を発揮できるためには0.002%以上の含有が必要である。一方、0.05%を超えると、粗大な酸化物や窒化物を形成して靭性や延性を劣化させるため、上限を0.05%とする。
Bは極微量で焼入性を高める元素であり、鋼板の高強度化に有効な元素である。また、鋼板にBが適正量含有されていると、希釈によって溶接金属中にも含有されて溶接金属の粒界フェライト抑制に効果がある。これらの効果を明確に発揮するためには、Bは鋼板中に0.0003%以上含有する必要がある。一方、0.015%を超えて鋼板中に含有させると、鋼片製造時や鋼板製造時の加熱段階で粗大な析出物を形成する場合が多いため、焼入性向上効果が不十分となり、かつ、鋼片の割れや析出物に起因した靭性劣化を生じる危険性も増加する。そのため、本発明においては、Bの範囲を0.0003〜0.015%とする。
Moは、焼入性向上と析出強化とによって鋼板の強度向上に有効な元素である。また、鋼板にBが適正量含有されていると、希釈によって溶接金属中にも含有されて溶接金属の焼入性を高めて粒界フェライト抑制、アシキュラーフェライト微細化に効果がある。明瞭な効果を生じるためには0.01%以上必要である。一方、Moが1.5%を超えて過剰に含有されると、強度が過度に高くなって靭性を劣化させるため、本発明においては、鋼板中のMoの含有量を0.01〜1.5%とする。
CrもMoとほぼ同様の効果と作用を有するため、Moと同様の理由により、鋼板中の含有量は0.01〜1.5%に限定する。
WもMo、Crと様の効果と作用を有するため、同様の理由により、鋼板中の含有量は0.01〜1.5%に限定する。
Cuは、主として焼入性向上効果と固溶強化により鋼板の強度向上に有効な元素であるが、効果を発揮するためには、0.01%以上含有させる必要がある。一方、1.5%超含有させると、熱間加工性に問題を生じるため、鋼板中のCu含有量は0.01〜1.5%に限定する。
Niは、本質的にマトリクスの靭性を高めることが可能な元素であり、ミクロ組織に大きく依存せず強度と靭性を同時に向上できるため、鋼板、溶接金属いずれにおいても非常に有効な元素であるが、効果を発揮するためには0.01%以上含有させる必要がある。含有量が多くなると強度、靭性は向上するが、6%を超えて含有させても効果が飽和するため、経済性も考慮して、上限を6%とする。
Nbは析出強化および変態強化により微量で鋼板の高強度化に有効な元素であり、また、加熱オーステナイト粒径微細化によって鋼板の靭性向上にも有効であるが、効果を発揮するためには、0.002%以上は必要である。ただし、0.1%を超えて過剰に含有させると、鋼板の靭性を劣化させ、かつ、希釈によって溶接金属中にも過剰なNbが含有されて溶接金属の靭性を劣化させる懸念も生じるため、本発明においては、鋼板中のNb含有量は0.002〜0.1%の範囲に限定する。
Vは主として析出強化により微量で鋼板の高強度化に有効な元素であり、効果を発揮するためには、0.002%以上は必要である。ただし、0.5%を超えて過剰に含有させると、粗大な析出物を形成して鋼板の靭性を劣化させ、かつ、希釈によって溶接金属中にも過剰なVが含有されて溶接金属の靭性を劣化させる懸念も生じるため、本発明においては、鋼板中のV含有量は0.002〜0.5%の範囲に限定する。
Taも主として析出強化により微量で鋼板の高強度化に有効な元素であり、効果を発揮するためには、0.002%以上は必要である。ただし、0.5%を超えて過剰に含有させると、粗大な析出物を形成して鋼板の靭性を劣化させ、かつ、希釈によって溶接金属中にも過剰なTaが含有されて溶接金属の靭性を劣化させる懸念も生じるため、本発明においては、鋼板中のTa含有量は0.002〜0.5%の範囲に限定する。
本発明においてはさらに、鋼板が必要とされる特性に応じて、特に鋼板の延性を改善する必要がある場合にはさらに、Ca、Mg、REMの1種または2種以上含有させることができる。該選択可能な元素においても、各々の組成範囲について、下記のように限定する必要がある。
Ca、Mg、REMはいずれも硫化物の熱間圧延中の展伸を抑制して延性特性向上に有効である。酸化物を微細化させて溶接継手の熱影響部靭性の向上にも有効に働く。その効果を発揮するための下限の含有量は、いずれも0.002%である。一方、過剰に含有すると、硫化物や酸化物の粗大化を生じ、延性、靭性、さらに疲労特性の劣化を招くため、また、希釈によって溶接金属中に過剰に含有されると、溶接性も阻害する可能性があるため、上限をいずれも0.01%とする。
以上が、スキンプレート、ダイヤフラムに用いる鋼板の化学組成における限定理由である。
次に、溶接ワイヤの化学組成の限定理由を以下に述べる。
先ず、Cは、溶接金属の強度を向上させる成分であり、引張強度780MPa級まで溶接金属の強度を確保しようとすると、溶接ワイヤ中には0.02%以上含有する必要がある。しかしながら、溶接ワイヤ中のCが0.2%を超えて含有されると、溶接金属中のC量も過剰となり、溶接金属の靭性を劣化させるため、好ましくない。従って、本発明においては溶接ワイヤ中のC量は0.02〜0.2%に限定する。
Siは、脱酸元素として働き、溶接金属の不純物としての酸素量を減少させる成分で、溶接金属の欠陥を抑制し、酸素による材質劣化を抑制する。これらの効果を発揮するためには溶接本ワイヤ中に0.01%以上含有させる必要がある。しかしながら、1%を超えてワイヤ中に含有すると、溶接金属の硬さを過剰に高め、靭性を劣化させるので、その含有量の上限を1%とした。
Mnは、溶接金属の強度の向上及び脱酸作用を有し、その溶接ワイヤ中の含有量が0.1%を下回ると、十分な脱酸作用と溶接金属の十分な強度が得られず、また、溶接金属の酸素量が高くなるために、溶接金属の靭性を劣化させる。そのため、ワイヤ中の含有量の下限を0.1%とした。一方ワイヤ中のMn含有量が2.5%を超えると、溶接金属組織が粗大なベイナイト組織となって靭性が劣化する可能性が高くなるため、本発明においては、溶接ワイヤ中のMn含有量の上限を2.5%とする。
Pは不純物元素であり、溶接金属中の含有量を低減するために溶接ワイヤ中の含有量も極力低減することが好ましいが、靭性確保の点から許容できる量として上限を0.02%とした。なお、Pによる溶接金属の靱性劣化を確実に抑制するためには溶接ワイヤにおけるP含有量を0.008%以下にすることがより好ましい。
Sも不純物元素で、溶接金属の延性、靭性をともに劣化させるため、溶接ワイヤ中の含有量も極力低減する必要がある。延性、靭性の劣化が大きくなく、実用的に許容できる上限として、その含有量を0.01%以下とする。なお、Sによる溶接金属の延性、靱性劣化を確実に抑制するためには溶接ワイヤにおけるS含有量を0.005%以下にすることがより好ましい。
Alは、脱酸元素として働き、溶接金属中の酸素量制御に有効である。溶接金属の脱酸に有効に寄与するためには溶接ワイヤ中に0.002%以上含有させる必要がある。一方、溶接金属中にAlが過剰に含有されるとアシキュラーフェライトの生成が抑制されるため、組織が粗大となり、靭性が劣化する。この悪影響が生じないための溶接ワイヤ中のAlの上限は0.1%であるため、本発明においては溶接ワイヤ中のAlの範囲を0.002〜0.1%とする。
Tiは、酸化物を形成して溶接金属におけるアシキュラーフェライト核として組織微細化に寄与するため、その効果が明確に生じる下限として、溶接ワイヤ中に0.002%以上含有させる必要があるが、溶接ワイヤ中のTi量が0.3%を超えると、溶接金属中に脆性破壊の起点となるような粗大な酸化物や窒化物を形成して溶接金属の靭性を劣化させるため、本発明においては、溶接ワイヤ中のTi含有量は0.002〜0.3%とする。
Bは、溶接金属中に適正量含有されると、焼入性を高めて粗大な粒界フェライトを抑制し、靭性向上に顕著な効果を発揮する。溶接金属中に適正量のBを含有させるには、溶接金属組成への寄与の最も大きい溶接ワイヤに含有させることが最も有効である。溶接金属中にBを含有させて組織微細化効果を確実に発揮するためには、溶接ワイヤ中のB含有量は0.0003%以上必要である。一方、溶接ワイヤ中のB含有量が0.015%超になると、溶接金属中のBが過剰となって粗大な上部ベイナイト組織になりやすいため、靱性確保上好ましくない。そこで、本発明においては、溶接ワイヤのB量含有量を0.0003〜0.015%とする。
Nは、溶接金属において不純物元素であり、極力低減することが好ましいが、溶接ワイヤにおいてNの含有量を0.001%未満とすることは工業的に困難がともなうことから、その下限を0.001%とする。溶接ワイヤのN含有量が多くなると、溶接金属におけるN含有量を増加させ、該溶接金属中Nが固溶状態でフェライトマトリックスの靭性を劣化させ、さらにBを窒化物として固定してしまい、Bのオーステナイト粒界での初析フェライト変態の抑止効果を低下させる。そこで、本発明では、その溶接ワイヤ中の含有量を0.001〜0.015%とする。
Oは、溶接ワイヤとしては不純物元素であり、多量に存在すると、溶接ワイヤの製造性を阻害するため、また、溶接金属のO含有量を過剰に増加させて、溶接金属の延性、靱性を劣化させるため、好ましくない。本発明においては、溶接ワイヤの製造性、溶接金属の材質劣化を生じない範囲として、その含有量の上限を0.01%とする。
以上が、溶接ワイヤの化学組成における必須成分の限定理由であるが、溶接金属の材質、特に強度の調整を目的として、さらにMo、Cr、W、Cu、Ni、Nb、V、Taの1種または2種以上を含有させることができる。
Moは、焼入性を高めて溶接金属組織のベイナイトあるいはアシキュラーフェライトの微細化を通して靱性向上に有効な元素であり、かつ、固溶強化、析出強化により強度向上にも有効な元素である。この効果を得るためには、溶接ワイヤ中に0.01%以上含有される必要がある。しかしながら、過剰に含有されると溶接金属を過剰に硬化させ、溶接金属の靭性を著しく劣化させるので、本発明ではその含有量の上限を2.5%とした。
CrもほぼMoと同様の効果を有するため、その下限は0.01%とするが、過剰に含有させたときの靱性劣化がMoよりも顕著であるため、上限は1.5%とする。
WもほぼCrと同様の効果を有するため、溶接ワイヤとしての含有量を0.01〜1.5%とする。
Cuは、オーステナイト安定化元素であり、溶接金属の焼入性を高めることにより、組織微細化を介した強度・靱性向上に有効な元素である。溶接金属の焼入性を確実に高めるためには溶接ワイヤの含有量としては0.01%以上必要である。一方、溶接ワイヤ中の含有量が1.5%超であると、高温割れを生じやすくなるため、溶接ワイヤの製造性が劣化するため、好ましくない。本発明においては溶接ワイヤの製造性を劣化させないための含有量からその上限を1.5%に限定する。
Niは溶接金属中に一定以上含有させると、固溶靱化効果によって靱性を高め、かつ焼入性向上、固溶強化によって同時に強度も高めることが可能な非常に有用な元素である。溶接金属において、このNiの効果を明確に発揮するためには、溶接ワイヤ中のNi含有量は0.01%以上とする必要がある。一方、溶接ワイヤ中のNi含有量が6%超になると溶接金属の降伏応力の低下が著しく、必要な強度の確保が困難になるため、好ましくない。従って、本発明においては、溶接ワイヤ中のNi含有量は0.01〜6%とする。
Nbは、溶接金属中に含有されると、焼入性向上効果、析出強化によって、溶接金属の強度向上に有効である。この効果を確実に発揮するためには、溶接ワイヤ中のNb含有量は0.002%以上とする必要がある。一方、溶接ワイヤ中のNb量が0.1%を超えると、溶接金属の強度が過大となり、また、粗大なNb析出物が形成されるために、溶接金属の靭性劣化が著しくなるため、好ましくない。そのため、本発明においては、溶接ワイヤにおけるNb含有量の範囲を0.002〜0.1%に限定する。
VおよびTaはいずれも、溶接金属中に含有されると、析出強化によって、溶接金属の強度向上に有効である。この効果を確実に発揮するためには、溶接ワイヤ中のVありるいはTa含有量は0.002%以上とする必要がある。一方、溶接ワイヤ中のVあるいはTa含有量が0.5%を超えると、溶接金属の強度が過大となるために、溶接金属の靭性劣化が著しくなるため、好ましくない。そのため、本発明においては、溶接ワイヤにおけるVあるいはTa含有量の範囲を0.002〜0.5%に限定する
本発明においては、さらに溶接金属の延性、靭性を改善する必要がある場合には、必要に応じてさらに、Ca、Mg、REMの1種または2種以上含有させることができる。
Ca、Mg、REMはいずれも硫化物の構造を変化させ、また溶接金属中での硫化物、酸化物のサイズを微細化して延性及び靭性向上に有効である。その効果を発揮するための下限の含有量は、いずれも0.002%である。一方、過剰に含有すると、硫化物や酸化物の粗大化を生じ、延性、靭性の劣化を招くため、また、溶接ビード形状の劣化、溶接性の劣化の可能性も生じるため、上限をいずれも0.01%とする。
次に、本発明の効果を実験結果に基づいて説明する。
表1に示す化学組成を有する溶接ワイヤ、スキンプレート用(鋼板1)及びダイヤフラム用(鋼板2)鋼板、裏当金を準備した。溶接材料各々の組成は溶接金属の平均組成が良好な靱性が得られるに必要な組成範囲となるように選定した。いずれの溶接材料もN量を3水準変化させた。鋼板、裏当金については、N以外の成分は実質的に同一とした。溶接金属のN含有量が平均値として高くなって焼入性が低下する悪影響を除き、靱性レベルを一定以上確保するために、溶接ワイヤについては、N量が高いものについては、B、さらにTi量を高めている。N以外の成分は実質的に同一とした。
溶接ワイヤ、鋼板1、2、裏当金、計12種類の溶接材料の様々な組み合わせにおいて、図1に示すような構成の継手を組立て、エレクトロスラグ溶接に供した。なお、1:スキンプレート(鋼板1)、2:ダイヤフラム(鋼板2)のサイズはいずれも板厚(各々t、t)50mm、板幅500mmとした。また、裏当金の板厚(t)は28mmとした。スキンプレート表面とダイヤフラム端部との間隔(ギャップ:G)は25mmとした。
Figure 0004629995
溶接は、表2に示す溶接条件のエレクトロスラグ溶接により行った。溶接終了後の継手の溶接金属の種々の位置から、図1に示す方向、ノッチ位置で2mmVノッチシャルピー衝撃試験片を採取して、シャルピー衝撃試験を実施した。0℃において2mmVノッチシャルピー衝撃試験を行い、各々の位置で繰返し数3本の平均値を求め、0℃における吸収エネルギーの平均値で靭性を評価した。ノッチ位置は溶接金属の全体の靱性分布を評価できるように、マクロ組織、ミクロ組織から組織変動、成分変動の靱性に及ぼす影響を網羅できる種類として、図1に示すように、ダイヤフラムの板厚中心部の延長上のスキンプレート側の溶融線(フュージョンライン)を原点とし、x軸をスキンプレート方向、y軸をダイヤフラム方向とするx−y座標で表示して、x=−25〜25mm、y=5〜40mmの範囲の8ヶ所とした(図2凡例参照)。
Figure 0004629995
溶接材料の種々組み合わせごとの溶接金属の靱性を図2に示す。継手番号1〜6のうち、継手1〜3では、継手1、2、3の順に溶接材料のN量が多くなっているため、溶接金属のN含有量も高くなっているにもかかわらず、各溶接材料間のN含有量の差が最大でも22、19、21ppmと小さいため、ノッチ位置による変動はごく小さく、かつ全てのノッチ位置で吸収エネルギーが100J以上の極めて良好な靱性が得られている。これは、溶接金属の組織、特に靱性に悪影響を及ぼす粗大な粒界フェライトの生成を助長するNの変動が溶接金属中で小さいために、平均的な溶接金属組成がN量に応じて適切に達成されていれば、溶接金属全体で均一に粒界フェライトが抑制され、結果溶接金属位置によらず靱性は高い値を達成できるためである。
一方、継手4〜6は、溶接金属中の平均的N含有量に応じて成分設計を適切に行っているために、一般的に靱性を評価する溶接金属中央に近い、位置C(x=0、y=20mm)では、吸収エネルギーが約70J以上の良好な靱性を有しているが、継手1〜3と比べて溶接金属中の靱性変動が大きくなっており、位置によっては50Jを下回るような低い靱性も生じ、好ましくない。
靱性変動が大きく、位置によって靱性の劣る場合が生じている継手4〜6の場合、各々の溶接材料については、均一に高靱性が得られている継手1〜3と同じものの中から選択されているが、各溶接材料間のN含有量の差が48〜68ppmと大きい。詳細な組織分布と靱性との関係の解析によれば、継手4〜6ではミクロ組織の位置による変動が大きい。すなわち、継手4においては、溶接金属の平均組成においてN量が少ないことから、溶接ワイヤは比較的B量の少ないものを用いているため、一般的に靱性を評価する代表位置である溶接金属ほぼ中央のノッチ位置Cなどでは良好な靱性が確保されているが、N量の高い裏当金近傍の溶接金属、すなわち、ノッチ位置E、F、Hでは粒界フェライトが多量に生成するため、靱性が大幅に劣化する。継手6も同様で、こちらの場合は、ダイヤフラムに用いた鋼板1のN量が高いために、溶接金属のダイヤフラムに近い側の靱性が大きく劣っている。一方、継手5は、溶接金属組成への寄与の大きい溶接ワイヤのN量がもともと高いことから、固溶Bによる焼入性を担保すべく、溶接ワイヤのB量、Ti量を高めているため、溶接金属中央等、溶接ワイヤの影響の大きい部位の靱性は良好であるが、N量の少ない鋼板や裏当金近傍の溶接金属では逆に焼入性が過剰となり、硬質のベイナイト主体組織となって靱性が劣化している。
以上の、各溶接材料間のN量を適正化による溶接金属靱性の均一向上効果は、粒界フェライトが生成しやすい、引張強度が400〜570MPa級鋼板用のエレクトロスラグ溶接において効果が大であるが、凝固組織の均一化による靱性の均一向上化は変態組織にほぼ依存せずに効果があるため、引張強度が780〜950MPa級鋼板用のエレクトロスラグ溶接においても有効である。
以上の実験結果等から本発明者らは、溶接材料間のN量が大きく変動していると溶接金属全体の靱性を均一に高めることができないことを新たに知見し、上記実験結果とその考察から、裏当金、鋼板1(スキンプレート)、鋼板2(ダイヤフラム)、溶接ワイヤ、各々の成分を適正範囲内とした上で、各々の溶接材料間のN含有量の差をいずれの溶接材料間でも最大30ppm(0.003%)以下にすることにより、溶接金属中どの位置でも良好な靱性を達成できる溶接金属を形成できることが分った。
本発明は、大入熱エレクトロスラグ溶接に用いる溶接材料間のN含有量の差を適正に規定することを第一の特徴としている。すなわち、本発明の効果を発揮して、溶接金属全体が均一に高靱性を有するようにするためには、裏当金、鋼板1(スキンプレート)、鋼板2(ダイヤフラム)、溶接ワイヤ、各々のN含有量の差をいずれの溶接材料間でも最大0.003%以下にすることが必須要件である。ただし、その前提として、裏当金、鋼板1(スキンプレート)、鋼板2(ダイヤフラム)、溶接ワイヤ、個々の化学組成も適正化する必要がある。
以下に、実施例により本発明の効果をさらに説明する。表3〜表5に示す種々の裏当金、鋼板、溶接ワイヤを使用し、図1に概略を示すような形状の継手を作製した。溶接条件は表2の条件で実施した。図1に示す実験と同様、1:スキンプレート(鋼板1)、2:ダイヤフラム(鋼板2)のサイズはいずれも板厚(各々t、t)50mm、板幅500mmとした。また、裏当金の板厚(t)は28mmとした。スキンプレート表面とダイヤフラム端部との間隔(ギャップ:G)は25mmとした。
Figure 0004629995
Figure 0004629995
Figure 0004629995
溶接終了後の継手の溶接金属の種々の位置から、図1に示す方向、ノッチ位置で2mmVノッチシャルピー衝撃試験片を採取して、シャルピー衝撃試験を実施した。0℃において2mmVノッチシャルピー衝撃試験を行い、各々の位置で繰返し数3本の平均値を求め、0℃における吸収エネルギーの平均値で靭性を評価した。ノッチ位置は溶接金属の全体の靱性分布を評価できるように、マクロ組織、ミクロ組織から組織変動、成分変動の靱性に及ぼす影響を網羅できる種類として、図1に示すように、ダイヤフラムの板厚中心部の延長上のスキンプレート側の溶融線(フュージョンライン)を原点とし、x軸をスキンプレート方向、y軸をダイヤフラム方向とするx−y座標で表示して、x=−25〜25mm、y=5〜40mmの範囲の8ヶ所とした。
表3は裏当金の化学組成を示している。裏当金1〜4、6、9および10は裏当金の化学組成が本発明を満足しているものであり、裏当金11〜15は裏当金の化学組成が本発明を満足していない比較例である。
表4はスキンプレートあるいはダイヤフラムとして用いた鋼板の化学組成を示している。鋼板1〜12は鋼板の化学組成が本発明を満足しているものであり、鋼板13〜17は鋼板の化学組成が本発明を満足していない比較例である。
表5は溶接ワイヤの化学組成を示している。ワイヤ1〜9は溶接ワイヤの化学組成が本発明を満足しているものであり、ワイヤ10〜15は溶接ワイヤの化学組成が本発明を満足していない比較例である。
表6に示すように、種々の裏当金、スキンプレート、ダイヤフラム、溶接ワイヤの組み合わせてエレクトロスラグ溶接継手を作製し、種々の溶接金属位置から2mmVノッチシャルピー衝撃試験片を採取し、0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃特性(0℃での平均吸収エネルギー)を調査し、溶接金属の靭性分布を詳細に調査した。靭性調査結果も表6に示している。
Figure 0004629995
表6において、継手A1、A3、A5、A7およびA9〜A11は各々本発明の要件を満足している裏当金、スキンプレート、ダイヤフラム及び溶接ワイヤを用い、かつ、各溶接材料間のN量の差が本発明範囲内になっているため、溶接金属の様々な位置での靭性が全て良好で、0℃における2mmVノッチシャルピー衝撃試験の平均吸収エネルギーで90Jを超えている。一方、後述するように、個々には本発明の範囲を満足する同じ溶接材料を用いても、組み合わせが適正化されておらず、各溶接材料間のN量の差が過大である継手では溶接金属の位置によっては吸収エネルギーが40J以下に低い場合が生じるなど、溶接金属中の靭性変動が大きくなっている。すなわち、本発明によって初めて、溶接金属の靭性を均一かつ安定的に向上でき、各溶接材料を最大限有効に利用できることが明らかである。
継手B1、B2、B5〜B14は本発明を満足していない実施例であり、そのため、溶接金属の靭性が本発明に比べて劣っている。これらのうち、継手B1、B2、B5およびB6は溶接材料個々の化学組成は本発明を満足しているものの、組み合わせが適当でないため、溶接金属の位置による靭性変動が大きく、位置によっては靭性が非常に低くなっている例である。また、継手B7〜B14は裏当金、スキンプレート、ダイヤフラム、溶接ワイヤのうちの一つまたは一つ以上の化学組成が本発明を満足していないため、溶接金属の靭性レベルが本発明に比べて全体的に劣位となっている例である。
すなわち、継手B1は、裏当金のN量が他の溶接材料に比べて過大であるため、各溶接材料間のN量の差が最大で0.0072%と、本発明の要件を逸脱しているため、溶接金属組織の変動が大きく、その結果、溶接金属の靭性が、位置によっては90Jを超えて高い位置もある一方で、29Jと非常に低い位置もあり、靭性変動が大きく、本発明と比較して明らかに靭性は劣っている。
継手B2は、スキンプレートとして使用した鋼板のN量が他の溶接材料に比べて過大であるため、各溶接材料間のN量の差が過大となり、そのため、溶接金属の靭性変動が大きく、位置によっては吸収エネルギーが39Jと低く、好ましくない。
継手B5は、スキンプレート、ダイヤフラム及び裏当金のN量はほぼ同程度に揃っている一方で、溶接ワイヤのN含有量のみが低いために、各溶接材料間のN量のバランスが適正でなく、そのため、溶接金属中の靱性変動が大きく、位置によっては低値となっていて、本発明に比べて溶接金属の靱性が劣る。
継手B6は、スキンプレートとダイヤフラムとの間のN量差、裏当金と溶接ワイヤとの間のN量差は各々小さいが、スキンプレート、ダイヤフラムと裏当金、溶接ワイヤ間のN両差が過大であるため、溶接金属中の靱性変動が大きく、位置によっては低値となっていて、本発明に比べて溶接金属の靱性が劣る。
継手B7は、スキンプレートとダイヤフラムとがともに本発明を逸脱する化学組成を有しているため、各溶接材料間のN量差は小さいものの溶接金属の靱性が位置によらず低値となっている。
継手B8も、継手B7と同様、スキンプレートとダイヤフラムとがともに本発明を逸脱する化学組成を有しているため、各溶接材料間のN量差は小さいものの溶接金属の靱性が位置によらず低値となっている。
継手B9も、継手B7、B8と同様、スキンプレートとダイヤフラムとがともに本発明を逸脱する化学組成を有しており、かつ各溶接材料間のN量差も過大であるため、溶接金属の靱性が位置によらず低値となっており、好ましくない。
継手B10は、裏当金の化学組成が本発明の範囲外であるため、特に裏当金近傍の溶接金属の靱性劣化が顕著であるため、好ましくない。
継手B11は、裏当金が本発明を逸脱する化学組成を有しており、かつ各溶接材料間のN量差も過大であるため、位置によっては溶接金属の靱性が低値となっており、好ましくない。
継手B12も、裏当金の化学組成が本発明の範囲外であるため、溶接金属の位置によっては靱性劣化が顕著であるため、好ましくない。
継手B13も、裏当金が本発明を逸脱する化学組成を有しており、かつ各溶接材料間のN量差も過大であるため、位置によっては溶接金属の靱性が低値となっており、好ましくない。
継手B14は、溶接ワイヤの化学組成自体が本発明の範囲を逸脱しているために、各溶接材料間のN量は適正範囲内にあっても溶接金属の靱性は全般的に劣位である。
以上の実施例からも、本発明によれば、溶接金属の靭性を平均的に向上させるのみならず、該溶接金属中の位置によらず優れた靭性を達成できる、すなわち、溶接金属全体の靭性を安定的に向上できることが明白である。
図2の実験及び実施例の説明に用いた溶接開先形状を示す断面図である。 スキンプレート、ダイヤフラム、裏当金、溶接ワイヤ間のN量差と溶接金属の靱性分布との関係を示す図である。
符号の説明
1 スキンプレート
2 ダイヤフラム
3 裏当金
4 溶接金属
:スキンプレートの板厚
:ダイヤフラムの板厚
:裏当の板厚
G:開先幅
D:溶接金属の最大厚さ
W:溶接金属の最大幅
x、y:シャルピー試験片の採取位置を示す、スキンプレート側に最も入り込んだ溶接金属とスキンプレートとの境界(フュージョンライン)を原点とした座標

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C :0.02〜0.25%、
    Si:0.01〜1.5%、
    Mn:0.1〜2.5%、
    P:0.02%以下、
    S:0.01%以下、
    N:0.0047〜0.015%
    O:0.01%以下
    を含有し、必要に応じて、さらに、
    Al:0.002〜0.07%、
    Ti:0.002〜0.05%、
    B:0.0003〜0.015%
    Mo:0.01〜1.5%
    Cr:0.01〜1.5%
    W:0.01〜1.5%
    Cu:0.01〜1.5%
    Ni:0.01〜6%
    Nb:0.002〜0.1%
    V:0.002〜0.5%
    Ta:0.002〜0.5%、
    の1種または2種以上を含有し、
    さらに、必要に応じて、
    Ca:0.0002〜0.01%
    Mg:0.0002〜0.01%
    REM:0.0002〜0.01%
    の1種または2種以上を含有し、残部が不可避不純物ならびにFeからなる裏当金と、
    質量%で、
    C :0.02〜0.2%、
    Si:0.01〜1%、
    Mn:0.1〜2.5%、
    P:0.02%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.002〜0.1%、
    N:0.001〜0.015%
    O:0.01%以下
    を含有し、さらに、
    Ti:0.002〜0.05%
    B:0.0003〜0.015%
    Mo:0.01〜1.5%
    Cr:0.01〜1.5%
    W:0.01〜1.5%
    Cu:0.01〜1.5%
    Ni:0.01〜6%
    Nb:0.002〜0.1%
    V:0.002〜0.5%
    Ta:0.002〜0.5%、
    の1種または2種以上を含有し、
    さらに、必要に応じて、
    Ca:0.0002〜0.01%
    Mg:0.0002〜0.01%
    REM:0.0002〜0.01%
    の1種または2種以上を含有し、残部が不可避不純物ならびにFeからなる鋼板1および鋼板2と、
    質量%で、
    C :0.02〜0.2%、
    Si:0.01〜1%、
    Mn:0.1〜2.5%、
    P:0.02%以下、
    S:0.01%以下、
    Al:0.002〜0.1%、
    Ti:0.002〜0.3%、
    B:0.0003〜0.015%
    N:0.001〜0.015%
    O:0.01%以下
    を含有し、さらに、
    Mo:0.01〜2.5%
    Cr:0.01〜1.5%
    W:0.01〜1.5%
    Cu:0.01〜1.5%
    Ni:0.01〜6%
    Nb:0.002〜0.1%
    V:0.002〜0.5%
    Ta:0.002〜0.5%、
    の1種または2種以上を含有し、
    さらに、必要に応じて、
    Ca:0.0002〜0.01%
    Mg:0.0002〜0.01%
    REM:0.0002〜0.01%
    の1種または2種以上を含有し、残部が不可避不純物ならびにFeからなる溶接ワイヤを用いて鋼板1と鋼板2を略垂直に接合するエレクトロスラグ溶接において、該裏当金、鋼板1、鋼板2、溶接ワイヤ、各々の間のN含有量の差を0.003%以下とすることを特徴とする溶接金属の靭性に優れたエレクトロスラグ溶接方法。
  2. 裏当金、鋼板1、鋼板2、溶接ワイヤ、各々のP、Sの量が、
    P:0.008%以下、
    S:0.005%以下であることを特徴とする請求項1に記載の溶接金属の靭性に優れたエレクトロスラグ溶接方法。
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