JP4618519B2 - スピーカ装置 - Google Patents

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Description

この発明は、磁歪アクチュエータによって音響振動板に振動を加えて音響を再生するスピーカ装置に関する。
スピーカ装置として、磁歪アクチュエータによって音響振動板に振動を加えて音響を再生するものが考えられている。
具体的に、特許文献1(特開2007−166027号公報)には、例えば、図8に示すように、アクリルなどからなる円筒状の音響振動板110を鉛直に支持し、音響振動板110の下端側に磁歪アクチュエータ130を複数配置して、それぞれの磁歪アクチュエータ130の駆動ロッド135を音響振動板110の下端面112に当接させ、音響振動板110にその下端面112に垂直な方向の、すなわち板面方向の振動を加えることが示されている。
この場合、音響振動板110の下端面112は縦波で励起されるが、振動弾性波が音響振動板110の板面方向に伝播することによって縦波と横波が混在した波となって、音響振動板110の板面に垂直な方向に横波によって音波が放射され、広がり感のある音場を得ることができる。
磁歪アクチュエータは、外部磁界を与えると形状が変化する磁歪素子を用いたアクチュエータで、磁歪素子として、最近は形状変化量が従来の1000倍近い超磁歪素子が現れている。しかも、磁歪素子は、形状が変化する際の発生応力が大きいため、小型の磁歪アクチュエータでも、音響振動板を比較的大音量で鳴らすことができるとともに、鉄板などの硬い音響振動板でさえも鳴らすことができる。
さらに、磁歪アクチュエータは応答速度にも優れ、磁歪素子単体の応答速度はナノ秒オーダーである。
上に挙げた先行技術文献は、以下の通りである。
特開2007−166027号公報
図8に示したスピーカ装置の、磁歪アクチュエータ130を支持する構造としては、図9に示すような構造が考えられる。
具体的に、音響振動板110が円筒状の場合、音響振動板110の外径より大きい外径の、ある高さ(厚み)を有する円板状のベース筐体120を設け、このベース筐体120の上面121の、等角間隔の4箇所の位置において、音響振動板110の下端部を、図9では省略したL字アングルなどの取り付け具によってベース筐体120に取り付ける。
ベース筐体120には、上記の取り付け位置の間の、等角間隔の4箇所の位置に、それぞれ上面121から下面122までに渡って上下方向に貫通した穴である収納部123を形成し、それぞれの収納部123内に、それぞれ磁歪アクチュエータ130を、それぞれの駆動ロッド135を上に向けて下側から挿入する。
さらに、ベース筐体120の下面122には、それぞれの収納部123内に挿入された、それぞれの磁歪アクチュエータ130を保持し、それぞれの駆動ロッド135の先端を音響振動板110の下端面112に当接させるように、板バネ151をネジ152および153によって取り付ける。
磁歪アクチュエータ130は、棒状の磁歪素子131の周囲にソレノイドコイル132が配置され、ソレノイドコイル132の周囲にマグネット133およびヨーク134が配置され、磁歪素子131の一端に駆動ロッド135が連結され、磁歪素子131の他端に固定盤136が取り付けられたアクチュエータ本体が、駆動ロッド135の先端部が外筐ケース139の外側に突出するように、外筐ケース139内に装填される。
さらに、駆動ロッド135にはシリコンゴムなどからなるダンピング材137が装填されるとともに、固定盤136の背後にはネジ138が挿入されて、磁歪素子131に予荷重F1が加えられる。
このように磁歪アクチュエータ130で磁歪素子131に予荷重F1を加えることによって、アクチュエータ駆動時の繰り返し応力に起因する磁歪素子131の破壊を防止することができる。
さらに、ソレノイドコイル132に制御電流が供給されて磁歪素子131に制御磁界が印加されたときの制御磁界に対する磁歪値の特性は、磁歪素子131に加えられる荷重によって大きく変化し、ある荷重が加えられたとき、制御磁界の変化に対して磁歪値が直線的に変化する磁界範囲が最も広くなり、かつ、その磁界範囲での制御磁界の変化に対する磁歪値の変化が最も大きくなる。
そのため、このときの荷重を最適値とし、このときの制御磁界に対する磁歪値の特性を最適な磁歪特性とする。
具体的に、例えば、磁歪素子131に加えられる荷重が105kg/cmであると、制御磁界の変化に対して磁歪値が直線的に変化する磁界範囲が最も広くなり、かつ、その磁界範囲での制御磁界の変化に対する磁歪値の変化が最も大きくなる。
そのため、磁歪アクチュエータ130では、予荷重F1が、その最適値の105kg/cmとなるように、すなわち、例えば、磁歪素子131の直径が2mm、断面積が3.14mmであるときには、磁歪素子131に3.30kgの荷重が加えられるように、ネジ138の締め付け具合が調整される。
しかしながら、図9に示す構成では、製造された多数のスピーカ装置の間での、または1つのスピーカ装置の複数の磁歪アクチュエータまたは収納部の間での、寸法上や調整上のばらつきによって、磁歪素子131に加えられる荷重が大きく変化し、磁歪特性が大きく変化する。
例えば、磁歪アクチュエータ130の全長(駆動ロッド135の先端からネジ138の底面までの長さ)が設計値より短い場合、または音響振動板110の下端面112からベース筐体120の下面122までの距離が設計値より長い場合には、駆動ロッド135の音響振動板110への接触圧が減少し、場合によっては駆動ロッド135の先端と音響振動板110の下端面112との間に僅かな隙間を生じる。
そのため、予荷重F1が上記の最適値に設定されていても、磁歪素子131に加えられる荷重が上記の最適値に対して減少し、磁歪特性が上記の最適な磁歪特性に対してずれてしまう。
逆に、磁歪アクチュエータ130の全長が設計値より長い場合、または音響振動板110の下端面112からベース筐体120の下面122までの距離が設計値より短い場合には、板バネ151により磁歪アクチュエータ130が音響振動板110に押し付けられることによって、磁歪素子131には予荷重F1より大きい荷重が加えられる。
そのため、予荷重F1が上記の最適値に設定されていても、磁歪素子131に加えられる荷重が上記の最適値に対して増加し、磁歪特性が上記の最適な磁歪特性に対してずれてしまう。
また、図9の構成では、磁歪アクチュエータ130を1000時間以上というような長時間駆動することによって、音響振動板110の下端面112の駆動ロッド135が当接する部分が磨耗したとき、上記のように音響振動板110の下端面112からベース筐体120の下面122までの距離が設計値より長い場合と同様の結果を来たす。
さらに、図9の構成では、ネジ152がゆるく締め付けられ、ネジ153がきつく締め付けられる、というように、ネジ152の締め付け具合とネジ153の締め付け具合とが異なっていると、磁歪アクチュエータ130の軸方向が鉛直方向に対して傾いて、音響振動板110に加えられる振動の方向および大きさが所期の方向および大きさと異なったものとなり、所期の音質および音量が得られなくなる。
そこで、この発明は、磁歪アクチュエータによって音響振動板に振動を加えて音響を再生するスピーカ装置において、磁歪アクチュエータや支持体などの寸法上または調整上のばらつきや音響振動板の磨耗などにかかわらず、常に好適な磁歪特性が得られ、一定の音質および音量が得られるようにしたものである。
この発明のスピーカ装置は、音響振動板と、この音響振動板と対向する一面に臨む穴状の収納部が形成された支持体と、予荷重が加えられた磁歪素子およびその一端に連結された駆動ロッドを有し、その駆動ロッドが上記音響振動板に当接するように上記収納部内に挿入された、上記音響振動板に振動を加える磁歪アクチュエータと、上記収納部内において上記磁歪アクチュエータの上記駆動ロッド側とは反対側に挿入された、上記磁歪アクチュエータを上記音響振動板側に押して上記磁歪素子に荷重を加えるバネと、を備え、上記バネは、上記磁歪素子に加えられる上記予荷重と上記荷重の和が、上記磁歪素子が好適な磁性特性をとるための範囲内となるよう、上記磁歪素子に上記荷重を加え、上記磁歪素子は、上記駆動ロッド側とは反対側から、上記バネが上記荷重を加える方向と同一方向に一定の大きさの上記予荷重が加えられる
上記の構成の、この発明のスピーカ装置では、磁歪アクチュエータや支持体などの寸法上または調整上のばらつきや音響振動板の磨耗などに応じて、ある場合にはバネの磁歪アクチュエータを音響振動板側に押す力が好適な範囲内で増加し、別の場合にはバネの磁歪アクチュエータを音響振動板側に押す力が好適な範囲内で減少して、磁歪素子に加えられる荷重が好適な範囲内で増加または減少し、磁歪特性が好適な範囲内で変化する。
したがって、磁歪アクチュエータや支持体などの寸法上または調整上のばらつきや音響振動板の磨耗などにかかわらず、常に好適な磁歪特性を得ることができ、一定の音質および音量を得ることができる。
しかも、バネは穴状の収納部内に挿入されていて、磁歪アクチュエータの中心を音響振動板側に押すので、磁歪アクチュエータの軸方向が所期の方向に対して傾いて、音響振動板に加えられる振動の方向および大きさが所期の方向および大きさと異なったものとなってしまうことがない。
以上のように、この発明によれば、磁歪アクチュエータや支持体などの寸法上または調整上のばらつきや音響振動板の磨耗などにかかわらず、常に好適な磁歪特性を得ることができ、一定の音質および音量を得ることができる。
[1.第1の実施形態:図1〜図5]
第1の実施形態として、支持体としてのベース筐体に、収納部として貫通した穴を形成し、その穴内に、磁歪アクチュエータ、バネの一例としてのコイルスプリング、およびそのコイルスプリングを圧縮させる部材を装填する場合を示す。
(1−1.スピーカ装置全体の構成の一例:図1)
図1は、第1の実施形態のスピーカ装置の一例を示し、図1(A)は、上面図(上方から見た図)、図1(B)は、支持体としてのベース筐体については図1(A)のラインB−Bの部分を断面にした側面図である。
音響振動板10は、例えば、アクリルによって、両端を開口とした円筒状に形成し、厚みを2mm、直径を10cm、長さ(高さ)を100cmとする。
ベース筐体20は、例えば、アルミニウムによって、音響振動板10の外径より大きい外径の、ある高さ(厚み)を有する円板状に形成する。
音響振動板10は、一端側の端面を上端面11とし、他端側の端面を下端面12として、その軸方向を鉛直方向とし、その中心軸をベース筐体20の中心軸に合わせるように、ベース筐体20の上面21に取り付ける。
具体的に、ベース筐体20の上面21の等角間隔の4箇所の位置において、それぞれ、L字アングル41の一端を、ベース筐体20との間にシリコンゴムからなるダンピング材42を介在させて、ネジ43によってベース筐体20に取り付けるとともに、音響振動板10の内側および外側に、それぞれシリコンゴムからなるダンピング材44および45を介在させて、L字アングル41の他端を、ネジ46およびナット47によって音響振動板10の下端部に取り付ける。
このようにダンピング材44,45および42を介して音響振動板10をベース筐体20に取り付けることによって、音響振動板10の振動がベース筐体20に伝播してベース筐体20側に音像が定位することを防止することができる。
さらに、ベース筐体20には、L字アングル41の取り付け位置の間の、等角間隔の4箇所の位置に、それぞれ上面21から下面22までに渡って上下方向に貫通した穴である収納部23を形成する。
このベース筐体20のそれぞれの収納部23内に、それぞれ磁歪アクチュエータ30を、それぞれの駆動ロッド35を上に向けて下側から挿入し、さらに、それぞれの収納部23内の磁歪アクチュエータ30の下側に、それぞれコイルスプリング(コイルバネ)51およびネジ52を挿入する。
ネジ52は、駆動ロッド35の先端が音響振動板10の下端面12に当接し、かつコイルスプリング51が所定量圧縮される位置まで、収納部23内に挿入する。
ベース筐体20の下面22には、等角間隔の3箇所の位置に、脚部27を形成する。
また、必要に応じて、音響振動板10とベース筐体20との間の密閉度を高めるために、音響振動板10の下端面12とベース筐体20の上面21との間には、磁歪アクチュエータ30の駆動ロッド35の位置を除く位置に、シリコンゴムなどからなるダンピング材13を介在させる。
以上の構成の図1の例のスピーカ装置で、音声信号によって磁歪アクチュエータ30を駆動すると、その音声信号に応じて、磁歪アクチュエータ30の後述の磁歪素子が、その軸方向に伸縮し、駆動ロッド35が同じ方向に変位して、音響振動板10の下端面12に縦波の振動が加えられる。
この縦波は、音響振動板10の板面に沿って上端面11まで伝播するが、その伝播の過程で縦波と横波が混在した波となって、音響振動板10の板面に垂直な方向に横波が音波として放射される。
したがって、音響振動板10の板面全体に一様に音像が広がり、音響振動板10全体に渡って均一に音像が定位する。
それぞれの磁歪アクチュエータ30を、同一の音声信号で駆動することによって、無指向性を得ることが可能となるが、それぞれの磁歪アクチュエータ30を、異なるチャンネルの音声信号、または同じ音声信号から得られたレベルや遅延時間または周波数特性が異なる音声信号で駆動することによって、より広がり感のある音場を得ることが可能となる。
なお、図1(A)に示すようにベース筐体20の中央部を開口部29として、この開口部29にダイナミックスピーカのスピーカユニットを、例えばスピーカ前面側を下方に向けて取り付け、例えば、音響振動板10および磁歪アクチュエータ30を、可聴周波数帯域の高域側を受け持つツィータとして機能させ、ダイナミックスピーカを、可聴周波数帯域の低域側を受け持つウーファとして機能させることもできる。
(1−2.第1の例:図2〜図4)
第1の実施形態の第1の例として、磁歪アクチュエータとして予荷重を加えたものを用いる場合を示す。
<構成:図2>
図2に、この場合の、図1の例のスピーカ装置のベース筐体20のそれぞれの収納部23内に、磁歪アクチュエータ30、コイルスプリング51およびネジ52が装填された状態を示す。
磁歪アクチュエータ30は、棒状の磁歪素子31の周囲にソレノイドコイル32が配置され、ソレノイドコイル32の周囲にマグネット33およびヨーク34が配置され、磁歪素子31の一端に駆動ロッド35が連結され、磁歪素子31の他端に固定盤36が取り付けられたアクチュエータ本体が、駆動ロッド35の先端部が外筐ケース39の外側に突出するように、例えばアルミニウムからなる外筐ケース39内に装填される。
さらに、駆動ロッド35にはシリコンゴムなどからなるダンピング材37が装填されるとともに、固定盤36の背後にはネジ38が挿入されて、磁歪素子31に予荷重F1が加えられる。
このように予荷重F1が加えられた磁歪アクチュエータ30は、例えば、磁歪アクチュエータ30の製造とスピーカ装置の製造とを別の者(メーカー)が行う場合において、磁歪アクチュエータ30を製造した者が製造後の磁歪アクチュエータ30の試験を行う際などに、磁歪素子31の破壊を防止することができる、という利点がある。
なお、ソレノイドコイル32に音声信号を供給して、磁歪アクチュエータ30を音声信号で駆動したとき、磁歪素子31が細いほど高域が再生されるため、磁歪素子31の直径は、例えば2mmというように小さくする。
図2の例では、上記のように音響振動板10をベース筐体20に支持した状態で、以上の構成の磁歪アクチュエータ30を収納部23内に挿入し、さらにコイルスプリング51を収納部23内に挿入した後、ネジ52を収納部23内に、コイルスプリング51が圧縮されて、駆動ロッド35の先端が音響振動板10の下端面12に当接し、磁歪素子31に上記の予荷重F1に加えてコイルスプリング51によって荷重F2が加えられる位置まで挿入する。
この場合、コイルスプリング51の一端側(上端部)が磁歪アクチュエータ30の底部のネジ38に直接、接触していると、ネジ52を回して収納部23内に挿入したとき、コイルスプリング51がネジ52と一緒に回転するため、磁歪アクチュエータ30の磁歪素子31に捩じれ応力が加わり、磁歪素子31が折れるおそれがある。
そのため、図示するように、磁歪アクチュエータ30とコイルスプリング51との間に、コイルスプリング51が抵抗を受けずに滑らかに回転するような、金属やPET(ポリエチレンテレフタレート)などからなるリング57を挿入することが望ましい。
これによって、ネジ52を回して収納部23内に挿入し、コイルスプリング51がネジ52と一緒に回転したとき、コイルスプリング51が抵抗を受けずに滑らかに回転して、磁歪素子31に捩じれ応力が加わらないため、磁歪素子31が折れるおそれがなくなる。
さらに、この場合、磁歪アクチュエータ30を駆動して音響振動板10に振動を加えたとき、収納部23の内周面で磁歪アクチュエータ30の外筐ケース39がベース筐体20と接触することによって、外筐ケース39またはベース筐体20に傷が付き、または外筐ケース39またはベース筐体20が磨耗することがある。
そのため、図示するように、外筐ケース39の外周面とベース筐体20の収納部23の内周面との間に、両者が直接接触することを防止し、かつ磁歪アクチュエータ30の駆動に影響を及ぼさない、潤滑油などの薄膜59を形成または装填することが望ましい。
<磁歪特性および荷重:図3および図4>
図2の例では、予荷重F1と荷重F2の和のトータル荷重Ft(=F1+F2)を、以下のような最適値に設定する。
ソレノイドコイル32に制御電流が供給されて磁歪素子31に制御磁界が印加されたときの制御磁界に対する磁歪値の特性は、トータル荷重Ftに応じて、例えば、図3で示すように変化する。
図3で、
(a)曲線1は、トータル荷重FtがFα=105kg/cmの場合、
(b)曲線2は、トータル荷重Ftが0.5Fα=52.5kg/cmの場合、
(c)曲線3は、トータル荷重Ftが0.3Fα=31.5kg/cmの場合、
(d)曲線4は、トータル荷重Ftが1.5Fα=157.5kg/cmの場合、
(e)曲線5は、トータル荷重Ftが1.8Fα=189kg/cmの場合、
である。
トータル荷重Ftは、単位面積(1cm)当たりの荷重であるが、磁歪素子31は、例えば、直径を2mm、断面積を3.14mmとする。
したがって、実際に磁歪素子31に加えられるトータル荷重Gtは、
(f)曲線1では、Gα=3.30kg、
(g)曲線2では、0.5Gα=1.65kg、
(h)曲線3では、0.3Gα=0.99kg、
(i)曲線4では、1.5Gα=4.95kg、
(j)曲線5では、1.8Gα=5.94kg、
である。
曲線1のようにトータル荷重FtがFα=105kg/cm(トータル荷重GtがGα=3.30kg)のとき、制御磁界の変化に対して磁歪値が直線的に変化する磁界範囲が最も広くなり、かつ、その磁界範囲での制御磁界の変化に対する磁歪値の変化が最も大きくなる。
そのため、Fα=105kg/cm,Gα=3.30kgを、最適値とする。トータル荷重Ftを最適値Fαとし、バイアス磁界を500Oe程度として、ソレノイドコイル32に音声信号を供給して磁歪素子31に制御磁界を印加すれば、最適な磁歪特性とすることができる。
図3では省略しているが、トータル荷重Ftが、Fα=105kg/cmより小さくても、80kg/cm以上であれば、曲線2や曲線3の場合と比較して、制御磁界の変化に対して磁歪値が直線的に変化する磁界範囲が広く、かつ、その磁界範囲での制御磁界の変化に対する磁歪値の変化が大きい。
逆に、トータル荷重Ftが、Fα=105kg/cmより大きくても、110kg/cm以下であれば、曲線4や曲線5の場合と比較して、制御磁界の変化に対して磁歪値が直線的に変化する磁界範囲が広く、かつ、その磁界範囲での制御磁界の変化に対する磁歪値の変化が大きい。
そのため、トータル荷重Ftが80〜110kg/cmの範囲、トータル荷重Gtに換算して2.51〜3.45kgの範囲は、磁歪アクチュエータ30の駆動上、好適な範囲である。
トータル荷重Ftは、最適値Fαに設定するが、例えば、その1/2の0.5Fα=52.5kg/cmずつを、予荷重F1および荷重F2に分担させる。
すなわち、磁歪アクチュエータ30では、ネジ38によって磁歪素子31に、F1=0.5Fα=52.5kg/cm相当のトルクを加える。実際に磁歪素子31に加えられる予荷重G1に換算すると、G1=0.5Gα=1.65kgである。
一方、荷重F2については、ネジ52によってコイルスプリング51を圧縮することによって磁歪素子31に、F2=0.5Fα=52.5kg/cmの荷重を加える。実際に磁歪素子31に加えられる荷重G2に換算すると、G2=0.5Gα=1.65kgである。
例えば、コイルスプリング51として、自由長が32.3mm、バネ定数が0.2〜0.3kgf/mmのものを用い、図4に示すように、これを自由長32.3mmに対して約5mm圧縮することによって、荷重F2をF2=0.5Fα=52.5kg/cmとする。
そのため、図2の例では、磁歪アクチュエータ30では予荷重F1が0.5Fα=52.5kg/cmとなり、かつ、ネジ52をコイルスプリング51が約5mm圧縮される位置まで収納部23内に挿入することによって、荷重F2が0.5Fα=52.5kg/cmとなり、トータル荷重Ft(=F1+F2)がFα=105kg/cmとなるように、磁歪アクチュエータ30やベース筐体20などの各部品およびコイルスプリング51やネジ52などの各部材を設計製作し、スピーカ装置を組み立てる。
この場合、製造された多数のスピーカ装置の間で、または1つのスピーカ装置の複数の磁歪アクチュエータまたは収納部の間で、寸法上や調整上のばらつきを生じても、コイルスプリング51の縮み量の変化によって、そのばらつきが吸収される。
例えば、磁歪アクチュエータ30の全長(駆動ロッド35の先端からネジ38の底面までの長さ)Lが設計値より短い場合、または音響振動板10の下端面12からネジ52の上面までの距離Dが設計値より長い場合には、コイルスプリング51の縮み量が設定値より減少する。このとき、トータル荷重Ftが最適値Fαより減少するが、その減少量は僅かであって、トータル荷重Ftは上記の80〜110kg/cmの範囲内となる。
逆に、磁歪アクチュエータ30の全長Lが設計値より長い場合、または上記の距離Dが設計値より短い場合には、コイルスプリング51の縮み量が設定値より増加する。このとき、トータル荷重Ftが最適値Fαより増加するが、その増加量は僅かであって、トータル荷重Ftは上記の80〜110kg/cmの範囲内となる。
したがって、図2の例では、寸法上や調整上のばらつきにかかわらず、トータル荷重Ftが好適な範囲内とされ、磁歪アクチュエータ30を常に、制御磁界の変化に対して磁歪値が直線的に変化する磁界範囲が広く、かつ、その磁界範囲での制御磁界の変化に対する磁歪値の変化が大きい、好適な磁歪特性で駆動することができる。
また、磁歪アクチュエータ30を長時間駆動すると、音響振動板10の下端面12の駆動ロッド35が当接する部分が磨耗する。試験によると、音響振動板10をアクリルによって形成し、駆動ロッド35を鉄製にし、ソレノイドコイル32にピーク電圧が6〜7Vrmsの音楽信号を供給して、磁歪アクチュエータ30を1000時間駆動したとき、音響振動板10の下端面12の駆動ロッド35が当接した部分が約10μm磨耗した。
図2の例では、このように長時間の使用によって、音響振動板10の下端面12の駆動ロッド35が当接する部分が磨耗した場合でも、その磨耗量は僅かであるので、上記のように距離Dが設計値より長い場合と同様に、トータル荷重Ftは上記の80〜110kg/cmの範囲内に保持され、磁歪アクチュエータ30を上記の好適な磁歪特性で駆動することができる。
さらに、図2の例では、コイルスプリング51が磁歪アクチュエータ30の中心を音響振動板10側に押すため、磁歪アクチュエータ30の軸方向が鉛直方向に対して傾いてしまうことがなく、音響振動板10に対して常に一定の方向の一定の大きさの振動が加えられる。
(1−3.第2の例:図5)
磁歪アクチュエータとしては、予荷重が加えられていないものを用いることもできる。
図5に、第1の実施形態の第2の例として、この場合の例を示す。音響振動板10や、その支持構造などは、図1の例と同じである。
図5の例の磁歪アクチュエータ60は、図2の例の磁歪アクチュエータ30と同様に、棒状の磁歪素子31の周囲にソレノイドコイル32が配置され、ソレノイドコイル32の周囲にマグネット33およびヨーク34が配置され、磁歪素子31の一端に駆動ロッド35が連結され、磁歪素子31の他端に固定盤36が取り付けられたアクチュエータ本体が、駆動ロッド35の先端部が外筐ケース39の外側に突出するように、例えばアルミニウムからなる外筐ケース39内に装填されるが、図2の例の磁歪アクチュエータ30とは異なり、上記のネジ38およびダンピング材37が設けられず、磁歪素子31に予荷重が加えられていない。
この場合、横応力に強くなるように、例えば、駆動ロッド35の円板部と外筐ケース39との間にオーリング67が取り付けられる。
このように予荷重が加えられない磁歪アクチュエータ60は、上記のネジ38およびダンピング材37のような予荷重を加えるための部品が必要でないため、構造がシンプルとなる利点がある。
この例では、上記のように音響振動板10をベース筐体20に支持した状態で、以上の構成の磁歪アクチュエータ60を収納部23内に、駆動ロッド35を上に向けて下側から挿入し、さらに上記のリング57およびコイルスプリング51を収納部23内に挿入した後、ネジ52を収納部23内に、コイルスプリング51が圧縮されて、駆動ロッド35の先端が音響振動板10の下端面12に当接し、磁歪素子31にコイルスプリング51によって荷重F3が加えられる位置まで挿入する。
この例では、このコイルスプリング51によって加えられる荷重F3が、磁歪素子31に加えられるトータル荷重Ftである。したがって、荷重F3を上記のような最適値Fαに設定する。
これによって、この例でも、図2の例と同様に、磁歪アクチュエータ60やベース筐体20などの寸法上または調整上のばらつきや音響振動板10の磨耗などにかかわらず、磁歪アクチュエータ60を常に、制御磁界の変化に対して磁歪値が直線的に変化する磁界範囲が広く、かつ、その磁界範囲での制御磁界の変化に対する磁歪値の変化が大きい、好適な磁歪特性で駆動することができる。
さらに、この例でも、図2の例と同様に、コイルスプリング51が磁歪アクチュエータ60の中心を音響振動板10側に押すため、磁歪アクチュエータ60の軸方向が鉛直方向に対して傾いてしまうことがなく、音響振動板10に対して常に一定の方向の一定の大きさの振動が加えられる。
(1−4.他の例)
図2の例、および図5の例は、収納部23内に、コイルスプリング51を圧縮させる部材としてネジ52を挿入する場合であるが、ネジ52に代えて栓状の部材を挿入してもよい。
この場合、例えば、収納部23の内周面に当該部材の挿入位置を規制する段差または傾斜を形成し、または当該部材の一端側を径が大きい頭部(底部)とし、当該部材を収納部23内に、上記の段差または傾斜で規制される位置まで、または上記の頭部がベース筐体20の下面22に突き当たる位置まで挿入したとき、コイルスプリング51の縮み量が所定量となり、トータル荷重Ftが最適値Fαとなるように、各部品および各部材を設計製作する。
磁歪アクチュエータ30または60としては、音響振動板10の下端面12の駆動ロッド35が当接する部分の磨耗を低減するために、駆動ロッド35の先端部に緩衝部材を設けてもよい。
緩衝部材は、シート状に形成して、接着剤によって駆動ロッド35の先端面に貼り付けてもよいが、キャップ状に形成して、駆動ロッド35の先端部に装填した(被せた)方が、駆動ロッド35への装着および駆動ロッド35からの取り外しが容易になる点で、より好ましい。
緩衝部材の厚みが大きいと、緩衝部材が音響振動板10の下端面12に当接することによって音質が変化するので、緩衝部材の厚みはコンマ数mm以下とする。
緩衝部材は、基本的には、駆動ロッド35による音響振動板10への衝撃を緩和するものとして、駆動ロッド35および音響振動板10の材質より軟らかい材質の材料によって形成すればよい。
しかし、緩衝部材が軟らかすぎると、圧縮の撓みが大きくなって、音響振動板10への加振の伝達力が低下し、音圧が落ちてしまう。逆に、駆動ロッド35および音響振動板10の材質より軟らかくても、緩衝部材が一定値以上硬いと、密着性が悪くなって、音響振動板10への加振の伝達力が低下し、音圧が落ちてしまう。
そのため、緩衝部材の材料としては、軟らかさ(硬さ)の尺度の1つであるジュロメーターDが30〜75の範囲内の軟らかさ(硬さ)の材料が好適である。そのような材料の1つとして、フッ素樹脂の1つであるETFE(テトラフルオロエチレン・エチレンコポリマー)がある。
[2.第2の実施形態:図6および図7]
上述した第1の実施形態は、支持体としてのベース筐体20に収納部23として貫通した穴を形成する場合であるが、磁歪アクチュエータおよびバネ(コイルスプリング)が挿入される収納部は、貫通していない、底部を有する穴(溝)でもよい。第2の実施形態として、この場合を示す。
(2−1.第1の例:図6)
図6に、第2の実施形態の第1の例を示す。音響振動板10や、その支持構造などは、図1の例と同じである。
図6の例では、ベース筐体20に、収納部23として、ベース筐体20の下面22側に貫通しない穴を形成して、その収納部23内に、コイルスプリング51を、ベース筐体20の上面21側から挿入し、さらに、収納部23内のコイルスプリング51の上側に、図2に示したような、予荷重F1が加えられている磁歪アクチュエータ30を挿入する。
この場合、音響振動板10をベース筐体20に取り付けていない状態で、コイルスプリング51および磁歪アクチュエータ30を収納部23内に挿入し、その後、磁歪アクチュエータ30の駆動ロッド35の先端が音響振動板10の下端面12に当接して、コイルスプリング51が圧縮されるように、図1の例で上述したように音響振動板10をベース筐体20に取り付ける。
このとき、コイルスプリング51の縮み量が所定量となることによって、磁歪アクチュエータ30において磁歪素子31に加えられる予荷重F1と圧縮された状態のコイルスプリング51によって磁歪素子31に加えられる荷重F2との和のトータル荷重Ft(=F1+F2)が上記の最適値Fαとなるように、磁歪アクチュエータ30やベース筐体20などの各部品およびコイルスプリング51などの各部材を設計製作し、スピーカ装置を組み立てる。
したがって、この例でも、製造された多数のスピーカ装置の間での、または1つのスピーカ装置の複数の磁歪アクチュエータまたは収納部の間での、寸法上や調整上のばらつき、および、音響振動板10の下端面12の駆動ロッド35が当接した部分の磨耗による寸法上の変化が、コイルスプリング51の縮み量の変化によって吸収されて、トータル荷重Ft(=F1+F2)が好適な範囲内とされ、磁歪アクチュエータ30を常に、制御磁界の変化に対して磁歪値が直線的に変化する磁界範囲が広く、かつ、その磁界範囲での制御磁界の変化に対する磁歪値の変化が大きい、好適な磁歪特性で駆動することができる。
さらに、この例でも、コイルスプリング51が磁歪アクチュエータ30の中心を音響振動板10側に押すため、磁歪アクチュエータ30の軸方向が鉛直方向に対して傾いてしまうことがなく、音響振動板10に対して常に一定の方向の一定の大きさの振動が加えられる。
なお、この例でも、外筐ケース39の外周面とベース筐体20の収納部23の内周面との間に、両者が直接接触することを防止し、かつ磁歪アクチュエータ30の駆動に影響を及ぼさない、潤滑油などの薄膜59を形成または装填することが望ましい。
(2−2.第2の例:図7)
図7に、第2の実施形態の第2の例を示す。音響振動板10や、その支持構造などは、図1の例と同じである。
図7の例では、ベース筐体20に、収納部23として、ベース筐体20の下面22側に貫通しない穴を形成して、その収納部23内に、コイルスプリング51を、ベース筐体20の上面21側から挿入し、さらに、収納部23内のコイルスプリング51の上側に、図5に示したような、予荷重が加えられていない磁歪アクチュエータ60を挿入する。
この場合、コイルスプリング51の縮み量が所定量となることによって、コイルスプリング51によって磁歪素子31に加えられる荷重F3がトータル荷重Ftとして上記の最適値Fαとなるように、磁歪アクチュエータ60やベース筐体20などの各部品およびコイルスプリング51などの各部材を設計製作し、スピーカ装置を組み立てる。
したがって、この例でも、製造された多数のスピーカ装置の間での、または1つのスピーカ装置の複数の磁歪アクチュエータまたは収納部の間での、寸法上や調整上のばらつき、および、音響振動板10の下端面12の駆動ロッド35が当接した部分の磨耗による寸法上の変化が、コイルスプリング51の縮み量の変化によって吸収されて、トータル荷重Ft(=F3)が好適な範囲内とされ、磁歪アクチュエータ60を常に、制御磁界の変化に対して磁歪値が直線的に変化する磁界範囲が広く、かつ、その磁界範囲での制御磁界の変化に対する磁歪値の変化が大きい、好適な磁歪特性で駆動することができる。
さらに、この例でも、コイルスプリング51が磁歪アクチュエータ60の中心を音響振動板10側に押すため、磁歪アクチュエータ60の軸方向が鉛直方向に対して傾いてしまうことがなく、音響振動板10に対して常に一定の方向の一定の大きさの振動が加えられる。
[3.他の例または実施形態]
上記の各例のように音響振動板を円筒状とする場合、その一端または両端を有底のものとしてもよい。
例えば、図1の例で、音響振動板10の上端側を有底のものとすれば、上端側の底部からも音波が放射され、音像の広がり感をより高めることが可能となる。
また、音響振動板は、円筒状に限らず、半円筒状や楕円筒状、または中心軸方向に垂直な断面が多角形となる角筒状でもよく、筒状に限らず、例えば平板状でもよい。
音響振動板を平板状とする場合も、例えば、図1の例のように円筒状とする場合と同様に、音響振動板の一端側をベース筐体のような支持体に支持すればよい。
さらに、音響振動板は、筒状や平板状に限らず、半球状、球状、円錐状、角錐状、箱型状などでもよい。
音響振動板の材料としては、アクリルに限らず、ガラスなどを用いることもできる。
第1の実施形態のスピーカ装置の全体的な構成の一例を示す図である。 第1の実施形態の第1の例のスピーカ装置の主要部を示す図である。 制御磁界に対する磁歪値の特性の一例を示す図である。 図2の例におけるコイルスプリングの縮み量とコイルスプリングによる荷重との関係の一例を示す図である。 第1の実施形態の第2の例のスピーカ装置の主要部を示す図である。 第2の実施形態の第1の例のスピーカ装置の主要部を示す図である。 第2の実施形態の第2の例のスピーカ装置の主要部を示す図である。 特許文献に示されたスピーカ装置の一例の基本的な構成を示す図である。 図8の例のスピーカ装置の磁歪アクチュエータ支持構造の一例を示す図である。
符号の説明
主要部については図中に記述したので、ここでは省略する。

Claims (6)

  1. 音響振動板と、
    この音響振動板と対向する一面に臨む穴状の収納部が形成された支持体と、
    予荷重が加えられた磁歪素子およびその一端に連結された駆動ロッドを有し、その駆動ロッドが上記音響振動板に当接するように上記収納部内に挿入された、上記音響振動板に振動を加える磁歪アクチュエータと、
    上記収納部内において上記磁歪アクチュエータの上記駆動ロッド側とは反対側に挿入された、上記磁歪アクチュエータを上記音響振動板側に押して上記磁歪素子に荷重を加えるバネと、
    を備え、
    上記バネは、
    上記磁歪素子に加えられる上記予荷重と上記荷重の和が、上記磁歪素子が好適な磁性特性をとるための範囲内となるよう、上記磁歪素子に上記荷重を加え
    上記磁歪素子は、
    上記駆動ロッド側とは反対側から、上記バネが上記荷重を加える方向と同一方向に一定の大きさの上記予荷重が加えられる
    スピーカ装置。
  2. 請求項1のスピーカ装置において、
    上記収納部は、上記支持体の上記一面とは反対側の面に貫通した穴であり、当該収納部内に、上記バネおよびこれを圧縮させる部材が装填されているスピーカ装置。
  3. 請求項2のスピーカ装置において、
    上記部材は、ネジであるスピーカ装置。
  4. 請求項1のスピーカ装置において、
    上記収納部は、上記支持体の上記一面とは反対側の面に貫通していない穴であるスピーカ装置。
  5. 請求項1のスピーカ装置において、
    上記磁歪アクチュエータは、上記音響振動板に少なくともその端面に対して直交する方向の振動成分を加えるスピーカ装置。
  6. 請求項1のスピーカ装置において、
    上記支持体は、上記収納部として複数の穴が形成され、それぞれの穴に上記磁歪アクチュエータおよび上記バネが挿入されているスピーカ装置。
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